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勇者「この世に、私の存在意味はあるのだろうか……?」
- 1 名前:VIPがお送りします []
投稿日:2011/01/30(日) 13:10:36.20 ID:cvzRHrj70
糞ったれの人生め。
安い賃金で血反吐が出るまで働かされ、
フケの溜ったベットで寝た後はまたいつもの繰り返し。
身体が休まる日なんてない。
いつもどこかに傷を負いながら、それでも必死に働き続ける。
安い対価であろうと無いよりはマシだ。
生きるためには仕方ない。
けれど、そんな自分をいつも惨めに思っていた。
英雄とは何だ?
その剣を振るい、魔物と互角に闘う者。
民の平和を誓う、我らの選ばれし代弁者。
二年前。
悪の根源である魔王は勇者の鉄槌を受け、
それ以降、秩序を破壊していた魔物はその姿を消した。
けれど、それから一年。
民から感謝と祝福を盛大に受けたはずの勇者も……
同様にして、その姿を消した──
- 2 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:11:37.22 ID:qWidg45K0
勇者「自己解決した」
- 3 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:12:02.60 ID:ZoVcqrBF0
スペクトラルフォースってゲームにそんな勇者いたな
名前忘れたが
- 4 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:12:07.82 ID:O7+aCctA0
感動した
- 5 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:13:23.96 ID:dI1HDHyD0
おれが勇者だ
- 6 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:18:56.11 ID:cvzRHrj70
男「はぁ、今日も疲れた……」
男「いつになったら、楽な生活になるんだろう……」
男「分からん……いや、俺みたいなやつに分かるはずもない、か」
男「…………」
“とことことこ”
男「……ん?」
男「なんだあれ……人が倒れてる?」
男「お、おい」
“ゆさゆさ”
女「…………」
男「大丈夫かっ? 一体どうしたって……えっ……?」
男「…………」
男「……金色の刀剣?」
- 7 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:21:45.01 ID:EDRG3eccO
女勇者ってなんか良いよな
- 8 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:26:10.39 ID:ZoVcqrBF0
思い出した
シフォンって名前だ
- 9 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:27:21.03 ID:cvzRHrj70
狭い路地に倒れ伏していた一人の女。
至るところに傷を負い、
けれど身に纏うのは見慣ぬ豪勢な服装。
中でも目を見張るのは、腰にさした一本の刀剣。
暗い路地でも分かる、光り輝く黄金色のそれ。
きっと間違いなのだろう。
けれども自分の直感を疑うだけの根拠がなかった。
ある冬の日のこと。
俺は……世界を救った勇者と出会った。
- 10 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:28:37.15 ID:Yp9WkDs/0
VIPの勇者や魔王スレはクオリティ高いから期待支援
- 11 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:38:58.23 ID:cvzRHrj70
女「……うっ」
“ばさっ”
女「くっ……あ、ここは……」
男「起きたか?」
女「え……」
男「路上に倒れてたから、見過ごす訳にもいかなくてな」
男「悪いが勝手に俺の部屋に連れ込んだ」
男「汚いベットだったが、まぁ、なんとか綺麗にしたつもりだ」
女「そうか、助けてもらったんだな……」
女「……ん? そういえば、私の剣は……」
男「あっ、これか?」
“ひょい”
女「なっ……!?」
男「しかしホントに凄いな。どういう原理で光ってんだ?」
- 12 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:46:47.73 ID:cvzRHrj70
女「危ないっ! 早く離せっ!」
男「は? 危ない?」
女「それを私以外の人間が持つと……って」
男「ん?」
女「お前、何ともないのか……?」
男「何の話だ?」
女「……もしや、役目を終え、力が弱まっているのか……?」
男「よく分からんが、問題があるなら返すぞ」
女「……あ、ああ」
男「で、とりあえず確認しておきたいんだが」
女「……ん?」
男「お前、勇者だよな?」
女「…………」
男「魔王を倒し世界を救った、英雄なんだろ?」
- 13 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/30(日) 13:48:00.00 ID:O7+aCctA0
支援
- 14 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:48:41.67 ID:zspgmMph0
大作の予感.......
- 15 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 13:58:18.72 ID:EDRG3eccO
こういうエロゲないかなぁ
- 16 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:00:41.16 ID:cvzRHrj70
女「私は……そんな大層なものじゃない……」
男「嘘つけ。その剣が勇者であることの証明だ」
女「……っ」
男「公言されるのが嫌なら、他には誰にも言わない」
男「だから答えてくれ。あんた、勇者なんだろ?」
女「…………」
男「よし、沈黙は肯定と取るからな」
女「……強引な奴だ」
男「ははっ、よく言われるよ」
女「……ふぅ」
男「どうした?」
女「お前の何も考えてないような間抜けの顔を見てると」
女「いつのまにか、肩の荷が降りた気がする」
男「おい、命の恩人にする言葉とは思えんぞ?」
- 17 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:09:52.70 ID:cvzRHrj70
女「お前こそ、世界を救った恩人にする態度だとは思えんな」
男「え……ってことは……」
女「そうだ。私が彼の魔王を殺した勇者だ」
男「……ま、マジか……」
女「何だ、分かっていたのだろう? 今更、驚くのは理解できんな」
男「そりゃそうだが……いざ断言されるとびっくりするよ」
女「ふんっ、他にも質問があるなら何でも聞け」
女「この際だ。幾らでも答えてやろう」
男「そうだなぁ……」
女「早くしろ、私は待つのが嫌いなんだ」
男「まあ落ち着けよ。そう急かしたって出るもんじゃない」
女「失礼な奴だな。勇者を目の前にしてなんて様だ」
男「ああもう、とりあえず飯にしようぜっ」
女「は……? めし?」
- 18 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:19:22.99 ID:cvzRHrj70
“もぐもぐ”
男「そんなしかめっ面して食べるなよ……」
女「……こんな質素な食事を振る舞われたのは」
女「魔王討伐のために国を出て始めての村に行った時以来だ」
男「でもさぁ、これでもいい方のパンなんだぜ?」
女「カビてなければなっ!」
男「し、仕方ないだろ……食事はいつも外で済ますんだからっ」
女「そんな事情知らん、自炊ぐらいすればいいんだ」
男「はぁ……めんどくせぇな」
女「!」
男「あー申し訳ありません、失言でした。勇者様」
女「分かればいいんだ、分かれば」
男「……それで、身体の方はどうなんだ?」
女「まだ多少痺れるが、動けないという訳じゃない」
- 19 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/30(日) 14:22:33.59 ID:ohveOD80P
あんまりレスできないけど読んでる
- 20 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/30(日) 14:23:12.47 ID:K91lidG00
女勇者…
なんと良い響きかー!!
- 21 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:24:22.19 ID:cvzRHrj70
男「傷は消毒して包帯しといたから大丈夫だと思う」
女「すまんな、手間をかけさせた」
男「いいよ、気にするな」
女「礼といっては、なんだが……」
男「ん?」
女「これを代わりに渡す。好きなように使ってくれ」
男「……なんだこれ、宝石?」
女「王からの恩賞の一つだ。他にもたくさんもらったんだが」
女「今はこれしか残っていない……小さいもので済まんな」
男「いやいやいやっ、こんなに貰えないぞっ?」
女「何を遠慮することがある。気にせず、受け取れ」
男「俺達庶民からすれば、これ一つで数年は安泰の代物だぞ?」
女「ん? そんなにするのか?」
男「当たり前だっ、どんな金銭感覚してんだよっ」
- 22 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:26:27.32 ID:Yp9WkDs/0
確かに魔王討伐できるようになる頃には金銭感覚完全に麻痺してそうだな支援
- 24 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:31:18.12 ID:cvzRHrj70
女「待て……もし、それが正しい認識なら」
男「あっ! まさか、俺の他にもこうやって渡してたんじゃないだろうな?」
女「…………」
男「おいっ! なにやってんだっ!」
女「……今まで魔王討伐のみに人生を科してきた故」
女「物の価値など分からんのだ……」
男「そんなこと言ったって、その時の飯代や宿代はどうしてんだよ」
女「基本的に私達が村を訪れれば、皆に歓迎させるのだ」
男「つまり、ただ飯食ってたってことだな?」
女「…………」
男「はぁ……そりゃ、膨大にあった恩賞もなくなるはずだ……」
- 25 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:38:14.49 ID:cvzRHrj70
女「それでも、昔は良かったんだ」
女「対価の代わりは幾らでもあった」
女「人々を脅かせる魔物を倒してやれば、報酬は無尽蔵に貰えたからな」
男「それが魔王を倒して敵もいなくなって……」
男「気が付けば、もうすぐ無一文なんだな」
女「……そのようだ」
男「とにかく、今日、俺がこの宝石を紙幣に替えてきてやる」
男「今のままじゃ、余りに価値が大きすぎて融通が効かないからな」
女「何だ……そんなことも出来るのか?」
男「当たり前だよ……世間知らずなんだな、勇者って」
女「…………」
男「……さっきから思ってたんだが、一ついいか?」
女「何だ」
男「あんたって、都合が悪い話になると無言になるよな」
女「…………」
- 27 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:40:48.27 ID:DXTGl99c0
いいじゃないか
- 28 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:43:11.66 ID:cvzRHrj70
>>25
『紙幣』じゃなくて『貨幣』だった。すまん。
- 29 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:47:03.57 ID:EDRG3eccO
絞兎死してなんとやらか
- 30 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:49:31.26 ID:cvzRHrj70
男「あー、話し込んでたら結構、時間経っちまったな」
男「よし……んじゃ、そろそろ行ってくるわ」
女「待て、どこに行く」
男「だから、この宝石を替えてくるんだって」
女「つまり、すぐに戻ってくるんだな?」
男「いや、その後、仕事に行くから帰りは遅いと思う」
女「何故だ、お前の話だとそれは大層な価値があるのでないのか?」
男「そうだけど、俺の金じゃねぇから」
女「違う、お前にやると私は言った」
男「何言ってんだ、これ無くなったら本当にあんた無一文になるんだぞ?」
女「言われずとも、そんなことは分かってるっ」
- 31 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/30(日) 14:51:03.95 ID:/o7rsIr10
C
ペース上げてくれぇ
- 32 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:53:34.13 ID:cvzRHrj70
女「だが、一度言ったことを異にするするほど私は落ちぶれていないぞ」
男「はいはい……とにかく、行ってくるから」
女「お、おいっ、待て……くっ」
男「まだ痛むんだから、じっとしてろよ」
女「…………」
男「それにな、あんたの言い分じゃないけどさ」
男「俺だって、他人の金に頼るほど落ちぶれたくはない」
女「……お前」
男「辛い毎日だけど、これでも精一杯生きてんだ」
男「あんたに比べれば、何の取り柄もない平凡な庶民だから」
男「それだけ苦労しないといけないんだよ」
女「…………」
男「んじゃ、またな」
“ガチャ……”
- 33 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 14:56:20.33 ID:/o7rsIr10
間違えてsageちゃったからあげときます
- 34 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/30(日) 14:57:06.85 ID:K91lidG00
支援なんだからageでもsageでもいいじゃない
- 35 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/30(日) 15:19:08.04 ID:iEMNBmgy0
おもしろい
支援
- 36 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 15:23:18.35 ID:cvzRHrj70
幾人もの強者が地から抜く事の出来なかった剣を
一瞬で抜き去り、溢れ出す眩い光が辺りを照らし、
その黄金色の剣を振るい、数多の魔物を一網打尽にし、
時に咎ある者を懲らしめ、正義の代弁者として世界に平和をもたらした。
そんな彼の有名な勇者が、
あの華奢な身体の彼女であるとは未だに思えない。
一見世間知らずの少女のように見えて、
けれど、傲慢そうな口調の割に
自らの意志を貫き通そうとする誠実さも持ち合わせている。
しかし、その純粋すぎる心は、
数多の思惑が渦巻く世界の中では欠点にしかならない。
強固な殻を身に纏っているようで、
その反面、硝子のように脆い一面も持っている。
受け取った宝石を金貨と銀貨に替え、
午後からは重労働に勤しみ、いつの間にか夜になった。
そして俺は……
彼女が待つ、自らの部屋へと戻った。
- 45 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 19:09:43.47 ID:cvzRHrj70
“ガチャ”
男「戻ったぞ」
女「やっとか……いつもこんな夜遅くまで働いているのか」
男「まーでも、今日は割と早いほうだ」
女「……ふむ」
男「腹減ったんじゃないか? 退屈だったろ?」
女「腹も空いてるし、退屈で死にそうだった」
男「ははっ、少し元気が出てきたって感じだな」
男「そうだ、今日はあんたの金を使わせて貰って」
男「ちょっと豪勢な飯を買ってきたんだ。良かったよな?」
女「それは別に構わないが……」
男「後は残りだ、ほれ」
女「何度も同じこと言わせるな。やると言った」
男「いや、対価の分はこの飯を買ったので帳消しだ」
女「しかしっ」
- 46 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 19:20:57.84 ID:cvzRHrj70
男「いいから収めとけよ。後になって俺に感謝するからさ」
女「……なぜだ?」
男「ん?」
女「お前にとっては、これは相当な金銭なんだろう?」
男「もちろん」
女「……失礼な話だとは思うが言わせて貰う」
女「私から見るに、お前の生活は満足のいくものではない」
女「部屋にはベットが一つだけで、他の家具は見当たらない」
女「到底、人が住んでいるような環境には思えないのだ」
男「…………」
女「夜遅くに帰り寝て起きて働く」
女「その繰り返しなんだろう? 違うか?」
男「……ああ、そうだよ」
- 47 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 19:31:49.70 ID:cvzRHrj70
女「これから、お前には二つ選択肢がある」
女「唐突に転がり込んできた幸運を享受し、より良い道を行くこと」
女「……或いは」
女「ちっぽけな自尊心を守るために、険しく苦難な道を歩むことだ」
女「だが、その道は想像以上に辛く厳しい」
女「今はまだ耐え忍ぶことが出来ても」
女「何時の日か、崩れ落ちてしまう時が来る」
男「……なぁ」
女「だが、気付いた時には遅いのだ。もう立ち戻ることは出来ない」
男「その話、本当に俺のことなのか?」
女「……どういう意味だ」
男「俺には、お前自身の体験談のように聞こえるがな」
女「ち、違う……」
男「まあどちらにせよ、俺は後者の道を選ぶよ」
- 48 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 19:38:07.14 ID:cvzRHrj70
男「確かに後になって後悔するかもしれない」
男「ああしてればって悔やみ続けるかもしれない」
女「だったら……」
男「でも、自分の本質はそう簡単には変えられないんだ」
男「どうだ、違うか?」
女「…………」
男「なら、この話はこれで終わりだ」
女「……ん」
男「よし、飯の時間にするか」
男「急がないと、折角の出来立て料理が冷めちまう」
- 49 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 19:39:09.75 ID:EDRG3eccO
イケメンだなぁC
- 50 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 19:44:43.81 ID:BJTS/iE2O
落ちぶれた勇者か
- 51 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 19:51:49.81 ID:cvzRHrj70
男「……ふぅー、久しぶりにこんなに食ったわ」
女「そんなものか?」
男「お前はよく食うなぁ……胃袋幾つ付いてるんだ?」
女「私を魑魅魍魎の如く言うな。これでも乙女なのだぞ?」
男「それは知らないけど、まーこの調子なら安心だな」
女「どういうことだ?」
男「明日ぐらいには普通に歩けるようになるんじゃないか?」
女「あー、そういうことか」
男「傷も化膿してなかったし、そもそも外傷は少なかったんだ」
男「まだ身体は痺れるか?」
女「いや、大分落ち着いた。心配をかけさせて済まない」
男「気にすんなって。ん、でも改善しているなら良かったよ」
女「……そのだな」
男「あーあと、ここには気が済むまでいてくれていいからな」
女「ほ、本当か?」
- 52 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 20:00:37.77 ID:cvzRHrj70
男「俺は、病人の背中を蹴ってまで追い出すほど鬼畜じゃない」
男「完治するまではここで安静にしててくれ」
男「その方が俺も安心だからな」
女「すまん、恩に着る……」
男「……二年か」
女「…………」
男「あんたが魔王を倒して、もう二年も経つんだな」
女「……あぁ」
男「俺には想像することしか出来ないけど」
男「それはそれは、辛くて苦しい苦難の日々だったんだろうな」
男「それに、今も……」
女「…………」
男「いや、これ以上はやめとくよ」
男「明日も早いから、俺はおとなしく床で寝るとするか」
- 56 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 20:55:09.64 ID:cvzRHrj70
それから何事もなく数日の時が経った。
俺は毎日仕事へ向かい、帰りに夕飯を買って、
部屋で談笑しながら二人で食事を共にする。
だが、日を重ねるごとに、
俺の胸の中ではある確信が確かなものになっていた。
勇者である彼女は何かを隠している。
そしてそれは、彼女の二年の空白を意味していて……
痺れが取れた後は外に出る事もしばしばあったようだが、
自らが勇者であるということは、
どこの誰にも告げていないようだった。
分からない。
何が彼女をそうさせるのか。
一見、完治しているように見える勇者。
けれど、部屋から出て行こうという意志はなく、
むしろ、その話が出ることを恐れているような……そんな気すらした。
- 57 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:08:46.46 ID:cvzRHrj70
饒舌に語るのは、かつての魔王征伐途中での話。
あの街ではこんなことや、あんなことがあって、
僧侶の奴が偶然出会った男に恋をしたんだ……など。
選び抜かれた戦友との下らない会話や出来事などを、
楽しそうに無邪気に笑って語った。
その反面、魔王と直接相対した時の話はしたがらなかった。
そして、それからのことも……口にしようとはしない。
後になって仕事の同僚に聞いた話だが、
共に連れた仲間たちとは、最後の戦闘で死別したらしい。
魔王を滅ぼすための代償を彼女は払ったのだ。
その傍からは見えない闇が、
彼女の今の精神状態を意味しているのか。
しかし、それだけでは説明しきれない部分が存在する。
何故、彼女は怪我を負っていたのか。
痺れで身体を動けないほど弱らせていたのか。
恐らく、そこには誰かの裏切りの陰謀が渦巻いているに違いない。
- 59 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:22:42.86 ID:cvzRHrj70
けれど、俺はそんなことすらどうだって良かった。
今の生活に彼女が幸せを感じているのなら、それでいい。
辛く苦しい毎日も、彼女が現れてから紛れるようになっていた。
いつの間にか……
俺にとっても彼女の存在は大きくなっていた。
さて、こんな話はどうだろうか。
勇者は聖なる剣を振るい、悪なる魔王を打ち破った。
けれど彼女の背負った代償は余りにも大きかった。
共に勝利を誓った戦友たちとは死別。
彼らとの別れを嘆いていた傍ら、信頼する者には裏切られ、
半ば心折れて路上へ倒れ伏していた。
そこに現れるは一人の平凡な男性。
彼の家へ連れられ、勇者は一時の平和に心安らぐ日々が続く。
いつしか、二人は共に恋に落ち、
天から子供を授かって、生涯、あり触れた光景ではあったものの、
幸せな日々を過ごした、と。
それでいい。
誰もが喜ぶ、最高のハッピーエンドだ。
勇者という重荷を背負った一人の少女は、
一瞬地獄を味わったものの、結局は幸せになったのだ!
そう、物語はここで完結する……
- 60 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:24:41.15 ID:R3hhjNw00
はずだった!
- 61 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:37:35.56 ID:cvzRHrj70
…………はずがあるか?
英雄とはなんだ?
その剣を振るい、魔物と互角に闘う者。
民の平和を誓う、我らの選ばれし代弁者。
いや……本当にそうか?
この世に魔物が消えたなら平和が訪れると?
誰もが安心して日々を送れる、そんな世界になるのだと?
- 62 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:41:58.31 ID:cvzRHrj70
男「じゃあ、今日も行ってくる」
女「早く帰ってこい。こっちはいつも退屈なんだ」
男「はは、文句だけは一丁前だな」
女「うるさい、それ以上いったら剣術をお見舞いするぞ」
男「それは勘弁」
男「……ぷ」
女「……く」
男・女「「ははははっ」」
男「よし、んじゃ本当に行ってくる」
女「身体に気をつけるんだぞ。待ってるからな」
男「おうっ」
“ガチャ……”
女「…………」
- 63 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:48:18.70 ID:cvzRHrj70
“とことことこ”
男「ふぅ……」
男「なんだかんだ言って」
男「今の生活に一番充実を感じているのは……」
男「……俺なのかもしれないな」
男「ははっ」
男「んっ」
男「今日も頑張ろうっ」
“……ざわざわ”
男「……なんだ?」
男「人だまりが出来てるけど……」
男「……まあ、いいか」
男「仕事に遅れちゃまずい、急ごう」
“たったったっ……”
- 65 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:54:43.92 ID:cvzRHrj70
男「ちぃーすっ」
“ざわざわ……”
男「……何だ、ここもか?」
男「しかし、一体……」
同僚「おいっ!」
男「おっす」
同僚「お前聞いたか、あの話!?」
男「あの話って……?」
同僚「何だよっ! お前、まだ何も知らないのかっ?」
男「知るも知らないも……で、この騒ぎと何か関係してるのか?」
- 66 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:55:44.11 ID:cvzRHrj70
同僚「そうだっ、朝から皆その話で持ち切りなんだって!」
男「はぁ……下らない話じゃないだろうな?」
同僚「ちげぇっ!」
同僚「いいかっ、耳の穴かっ穿じってよく聞けよっ!」
同僚「──■■が殺されたんだっ!」
男「え……?」
男「ちょっと待て……」
男「……お前、何言ってんだ……?」
- 68 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:58:39.26 ID:cl2jW6OV0
アレか、書籍化された勇者SSの後釜でも狙うつもりか
- 69 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 21:58:48.48 ID:cvzRHrj70
聞きたくない。
耳を閉じて世界から遮断されたい。
けれど、そんな俺の意志を無視するように、
目の前の同僚は大きな声で捲し立てる。
死んだのが誰だって?
殺されたのが誰だって?
それが、俺に何の関係がある。
それが、勇者である彼女と何の関係があるっていうんだ。
ふざけるな。
馬鹿にするんじゃない。
- 70 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 22:03:23.60 ID:cvzRHrj70
糞ったれの人生め。
安い賃金で血反吐が出るまで働かされ、
フケの溜ったベットで寝た後はまたいつもの繰り返し。
身体が休まる日なんてない。
いつもどこかに傷を負いながら、それでも必死に働き続ける。
安い対価であろうと無いよりはマシだ。
生きるためには仕方ない。
けれど、そんな自分をいつも惨めに思っていた。
だからこそ──
自らに重荷を背負って、苦難の道を突き進んで、
他人からの期待と自らの不安に常に苦しんで、
それでも必死に前のみを見据え、悪に打ち勝った勇者に
俺は……
俺は心底、惚れ込んでいたんだ……。
- 71 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 22:06:16.63 ID:cvzRHrj70
同僚「いいかっ! もう一度だけしか言わないからなっ」
同僚「今度こそは聞き逃すなよっ!?」
同僚「数日前、首都の城壁の中で国王が惨殺されたっ!」
男「…………」
男「……あ、ああ」
同僚「犯人は……」
同僚「──彼の有名な、勇者様だっ!」
男「…………」
男「…………」
男「……う、」
男「……嘘…だろ……?」
- 72 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 22:10:59.59 ID:QRqN/xCTO
ナッナンダッテー
- 75 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/30(日) 22:57:50.65 ID:72mbQ+g50
ナンダッテー
- 97 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/31(月) 16:30:56.29 ID:OnsPqmRfQ
保守
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