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少女「海と、瓶に詰まった手紙」
49 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 04:02:18.17 ID:gg+EtQm+O
二日後。

女「あ、おはよう〜。ちゃんと学校来たんだ偉いねっ!」

僕「昨日はバイトもお休みだったからさ。一日中寝てて体調がいいんだよ」

女「もうっ……そこはちゃんとどんな時でも起きないとダメだよ?」

僕「はいはい」

女の言葉を受け流しながら、席につく。

今日はそのまま、すぐに講師が教室に入ってきた。

僕と彼女は話す暇もなく、ノートをとる作業を始める事にした。


50 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 04:09:34.60 ID:gg+EtQm+O
僕(う〜ん……)

お昼が近くなるにつれて、僕の胸と胃がまたジクジクとしてきた。

いつものアレだ。

女「ふ〜、やっとお昼休みだ……って、何でカバン背負ってんのさ!」

僕「今日は帰るよ。お疲れ」

女「午後の授業はっ!」

僕「自主休講」

女「そんな事ばっか言って……またサボるの?」

僕(一人で考え事したいんだよ)

僕は何も言わず、教室を出てきてしまった。

後ろで女が何か言っていたが……僕の足は、また海に向かっていた。


51 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 04:19:53.62 ID:gg+EtQm+O
僕「あれ……」

いつもの海、人があまり通らないような浜辺の隅。

僕「これって」

そこに、見覚えのあった瓶が流れ着いていた。

僕「僕が投げた瓶……なのか?」

いや違う、僕が中に入れた封筒の色は……確か緑だったはずだ。

でも砂浜に転がっていたその瓶の中に入っていたのは、薄い青をしていて……封の部分に何かシールのような物が貼ってあるように見えた。

僕は思わず、その瓶を砂浜から拾い上げた。


52 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 04:31:01.17 ID:gg+EtQm+O
いつもの場所に座り、コルクの蓋を取る。

中からは……この前の匂いとは違うけれど、やはり甘い匂いがする。

僕(なんだろう、ミルクティーみたいな匂い?)

それも気になったけれど、僕は何よりも、中の手紙を取り出した。

僕「シール……あ、ティーカップの絵だ」

僕「これのせいで、こんな匂いがしたのかな。なんて、ね」

シールを剥がして封を開けると、中から手紙が現れた。


53 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 04:44:57.96 ID:gg+EtQm+O
おはようございます、お返事ありがとうございます。
眠る前にお手紙を書いて頂いたと言う事で……私は朝一番でこれを書いてみました。
夢を見た後のお手紙になります。

そうですね、お話出来れば私も嬉しいです。
雑談や日常会話はもちろん、悩みや相談など……何でも話して下さいね。
このお手紙は、きっとそういう場所だと思いますので。
では、海を見ながらお待ちしてます。


僕「これは……僕の手紙への返事、なのか?」


54 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 04:51:58.09 ID:gg+EtQm+O
もう一度文章を見直しても、確かにそれは僕が書いた内容への返事だった。

海に投げた瓶が、彼女の元へ流れて行き……そして彼女もまた、海に瓶を流したのか?

僕(この広い海でそんなこと……あり得るのか?)

僕(しかも、最初にこれを拾った場所。それが、そこから僕がいつもいるこの場所に……ズレ、た?)

僕(いや、そんなバカみたいな話)

あるわけ無い。

あるわけ無いけども……手紙の中の彼女は、僕に優しかった。

小さく可愛らしい字を見つめながら、僕の昼間は過ぎていった。


55 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 04:59:34.36 ID:gg+EtQm+O
夜、僕は早速机で手紙の返事を書き始めていた。

僕「えっと、こちらこそお返事ありがとうごさいます、と……」

僕「僕はまた、眠る前にこれを……って、これじゃああまり話進まないよな」

僕「何でも話して、とは言ったけど……どうしよう」

僕「……あ、字間違った。消しゴム消しゴム」

僕「にしても、シャーペン書きじゃあ失礼かな? 来た手紙は綺麗に色ペンとか使ってて……」

僕「……敬語すぎるのも硬いかな? ああ〜、どうしよう」


56 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:08:48.11 ID:gg+EtQm+O
手紙を書きながら、あれこれと悩み続けて一時間程。

やっと書く内容もまとまり、シャーペンで下書き。

そしてボールペンで清書をし、二度目の手紙が出来上がった。

僕「封は、シールなんてないからノリ付け、と」

僕「うん、出来た!」

手紙として、完成した封筒を見つめては、僕の胸は達成感でいっぱいだった。

僕はそれを瓶に入れ、きつく蓋を閉めた。

黄色い封筒が、中で斜めになりながらアンバランスなひし形を作っている。

清書等で力を注いだせいか、以前の手紙より綺麗に仕上がったように見えた。


57 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:14:23.42 ID:gg+EtQm+O
僕(明日はこれを海に流してから学校に行こうかな)

僕(バイトもないし、朝に流したら夕方には返事があるのかな?)

僕(……そもそも何日で彼女の元に届いているんだろう。これも手紙に書けばよかったかな?)

僕(いいや、また次に返事が来たら。来た、ら……)

意識の最後に、花のような匂いを感じ僕は、ベッドの中に沈んだ。


58 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:17:01.71 ID:GMDn++8g0
つかまえての人かな?
しえんた


59 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:22:32.32 ID:gg+EtQm+O
こちらこそお返事ありがとうございます。
早起きなんですね、うらやましいです。

それと敬語についてなんですが。
僕は、普通に話してもらって構わないですよ。それで全然気にしません。
むしろそっちの方が距離が縮まると言うか……友達らしく話せる、と思いした。

これからもお手紙、楽しみにしています。


60 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:31:38.82 ID:gg+EtQm+O
次の日。

僕「おはよう」

女「おはよっ! ちゃんと学校来たね、偉い偉いっ」

僕「まあ……今日はな」

女「?」

女との話もそこそこに。

僕はその日の授業を片付け海に向かった。

夕方、瓶を投げたいつもの浜辺に向かう。

が、そこに手紙は流れ着いていなかった。

僕「やっぱり、半日くらいじゃあ短いのか……」

手紙が来ていなかったガッカリ感から。

僕はその場から立ち去ろうとしたが……その時。

女「お〜いっ、僕ちゃ〜ん!」

浜辺の向こうから、よく知っている声が聞こえてきた。


61 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:36:11.06 ID:gg+EtQm+O
女「こんな所で、何してるのっ?」

僕「……別に」

女「ここにはよく来るの?」

僕(来る、けどさ。はっきり言って……)

ここに一人でいる事を、僕は誰にも邪魔されたくなかった。

一人になりたいから、他人と話したくないからここに来る。

僕(なのに)

僕「どうして女がここに?」

女「散歩してたらさ、見慣れた自転車があったから。そしたら姿が見えて……ね」


62 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:41:37.87 ID:gg+EtQm+O
僕「そうなんだ。僕も散歩しているだけだからさ」

女「そうなんだ〜」

僕「うん。それに、もう帰る所だったしね」

ああ、嘘ばっかりだ。

素直に話せないとでも言うんだろうか、僕の悪い癖の一つだ。

ちなみにもう一つは、後ろ向きな性格だ。

女「そうっ、じゃあ私も帰るよ。家でご飯つくらないと行けないからさ!」

女「あ、あとね。私もバイトしようかなって考えてるんだ、まだ親には話してないけど……」


63 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:46:33.55 ID:gg+EtQm+O
彼女は僕と対照的で、まるで太陽みたいな女の子だ。

僕はその強すぎる光から逃げ出すために、彼女とは距離を置くようにしている。

友達だけど、お節介過ぎるのが僕は苦手だった。

今だって、嘘をついて僕は彼女と笑顔でお別れの挨拶をするくらいなんだ。

僕(帰ろう……)

僕はこうして、誰もいない部屋にただいまを言って落ちた気持ちになるんだ。


64 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 05:53:44.98 ID:gg+EtQm+O
翌日、夕方まで睡眠をとっては、そのままアルバイトへ。

海に行く時間がなかったので、その日は手紙を確認する事が出来なかった。

僕が次に瓶を見つけたのは、その次の日。

予備校をサボってお昼にいつもの場所に来てみると、それはそこにちゃんとあったんだ。

瓶からは、ピンクの封筒が覗いている。

ラメのような加工がされているんだろうか、昼の太陽と水面に反射した光で、手紙が揺れる度に小さいキラキラが瞬いていた。

蓋を開け、僕は封筒の中から手紙を取り出した。

今回は二枚、紙が入っている。


65 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 06:04:11.24 ID:gg+EtQm+O
おはようございます。
朝の空気が好きで、今回もこの時間……7時過ぎにこれを書いています。
ちょっと肌寒いですけど、この雰囲気がたまらなく好きです。

では、敬語ではなく普通にお話……は、次のお手紙からしましょうか。
ふふっ、お友達なんて何だか嬉しいです。

でも、よく考えたら私たち、お互いの事をあまり知りません。
と言うわけで……自己紹介の紙を同封しますね。

あなたの事も教えて下さい。
では、また海を見ながらお話しましょう。


66 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 06:14:17.09 ID:gg+EtQm+O
名前、鈴と言います。

年齢や体重はちょっと秘密です、女の子ですから。

好きな食べ物は、お寿司とお菓子全般です!

嫌いな食べ物は、辛いのと苦い物です……。

あとはお花とか植物が好きです。

特にラベンダーやシナモン等、いい匂いのする植物が好きです。

他にも海とか山とか神社とか……静かな場所や落ち着ける場所が好きです。

あははっ、なんだか好きです、ばかりになっちゃいましたね。

よければあなたの好き、も教えて下さいね。


67 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 06:19:39.10 ID:gg+EtQm+O
手紙の中の彼女は、明るくて素直で。

まるで、女みたいな活発さを感じさせるような子だった。

僕(でも……女と感じる印象とは違う)

僕(どうしてだろう?)

僕(手紙の中だから? 直接会って顔を見てないから?)

僕(……多分そんな所かな)

不快感や、言い方は悪いがうっとおしさ等、僕は彼女にマイナスの感情は抱かなかった。

手紙、すぐに返事をしなくてもいい。

そんな余裕が、僕の気持ちにゆとりを与えていたのかもしれない。


68 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 06:27:40.55 ID:gg+EtQm+O
昼下がりの海で、僕は手紙を片手に。

空を見ながら返事の内容を考えていた。

自分も自己紹介を書こう、今日の出来事や昔あった面白い事なんかも書いてみようか。

おとなしそうな子だな、どんな話が好みなんだろう。

とか……自分でもおかしいと思うくらいに、手紙の事を考えていた。

僕はこの頃から、姿の見えない彼女に……魅せられていたのかもしれない。

そろそろ夕暮れだ、瓶に手紙をしまい浜辺を戻っていく。

僕(帰ったらご飯を食べて、返事を書こう)

僕と彼女の、海とガラスを使った不思議な文通が始まった。


69 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 06:44:24.50 ID:gg+EtQm+O
一週間後。

僕「おはよっ」

女「あ、おはよ……最近ちゃんと学校来るね?」

僕「ああ、うん。なんかね」

女「心なしか、笑顔も増えたみたいだし。なにかいい事でもあった〜?」

鈴……ちゃんと、手紙のやり取り。

それ以外は、何も変わっていない僕の生活。

僕「うん。普通だよ普通」

女「何それ〜。絶対いい事あったでしょ? あ、もしかして彼女が出来たとか?」

僕「違うよ、彼女というより……いい友達だよ。まあ何にしても、最近調子いいんだよ」

女「ふ〜ん、そう……なんだっ」

女「なんか、変な気持ち」


70 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 06:50:13.20 ID:gg+EtQm+O
僕「ん、何か言った?」

女「別にっ! 良かったね、いい友人に恵まれてさっ!」

僕「な、なんだよ。怒って……」

女「怒ってないよ。うん、怒ってなんか……」

見てわかる不機嫌、落ち込み。

いつも朗らかだった彼女の、こんな態度を見たのは初めてだけど……。

僕もそれを見ただけで、何だか胸に威圧感な感覚が生まれた気がした。

その瞬間、ああ、やっぱりいいやと思い始めてしまう。

僕「ふう……帰るよ僕」

女「え……っ」


71 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 06:55:14.52 ID:gg+EtQm+O
僕「なんか、怒らせたみたいだからさ。授業邪魔したら悪いし」

女「そ、そんな事じゃないよ。ちが……」

そのまま、教室を飛び出してしまった。

なんだ、いつもと同じ光景じゃないか。

この一週間はたまたま調子がよかっただけで、やっぱりこうやってサボる日もあるんだ、と僕は思った。

僕(暇になったな……手紙はさっき出して来たから当分先だし)

僕(はぁ……鈴)

僕(あの手紙、速達とか出来ないのかな……)


72 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 07:05:15.19 ID:gg+EtQm+O
僕は、何かあるとすぐに鈴の事を思い出すようになっていた。

手紙を書いている時の僕は、とても素直だった。

さらに、彼女は聞き上手で、返ってくる内容は慈愛や母性に溢れたような言葉ばかりだ……と僕は感じている。

僕(どうして、鈴はあんなに優しいんだろう)

僕(多分、彼女も僕と同じで……手紙の中では素直になれるんだろうか)

僕(だからこそ瓶に手紙を入れてさ、海に流したり)

僕(……早く返事来ないかな)

最終的には、これだ。

これが僕をいつもの浜辺に連れていく理由。

次に瓶を見つけたのは、女と喧嘩をしてから三日後の事だった。


75 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/04(金) 10:27:36.91 ID:Yj1m8YcwO
いいね


82 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 14:44:39.77 ID:gg+EtQm+O
こんにちは、元気?
私はちょっと風邪気味になっちゃって……少し暖かくなったお昼にこの手紙を書いているよ。

では、お悩みの事について私なりの回答を!
嘘をついたり、人を避けるのなんて……誰にでもある事だよ。
その女友達の人と、どれだけ仲がいいのかはわからないけどさ。
よく話す相手だったら謝って……仲直りするのがいいと、私は思うな〜。

人間だもん、マイナスの感情が出るのは当たり前!
僕君は、それを気にしすぎ、てるのかな?
お手紙に書いている見てるとそう感じます、違ったらごめんなさいね。


83 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 14:54:57.17 ID:gg+EtQm+O
で……悩みのお話は終わり♪
今日はね、ホームセンターでペットを見た後クレープ屋さんに行ったよ〜。
僕君は犬が好き? それとも猫が好き?
私は両方大好きなので、もう何時間見ていても飽きないくらいなのです!

クレープ屋さんは、駅の近くにあるんだけど……安くて大きなクレープなんですよ。
それで、これは愚痴になっちゃうんだけどね。
そのお店には、学校帰りの制服カップルがよく来ていてね……ちょっとだけ、いいなぁって思っちゃうんです。

私は制服デートというモノをした事がないから……ちょっとだけ、ね。
僕君には何か素敵な制服デートの思い出ありますか?

よければ聞かせて下さいね、お返事待ってます。

鈴より


85 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 15:02:59.59 ID:gg+EtQm+O
僕(やっぱり可愛らしいなあ)

僕(文章の量や、手紙の枚数が増えるのが……なんか嬉しいな)

僕(よし、早速家に帰って……)

女「僕……ちゃん」

僕「んっ? な、なんだよ女か」

いつもの場所で手紙を読んでいる途中で、僕は不意に声をかけられた。

振り向くと、後ろで手を組ながら少しだけ俯いた……彼女が立っていた。

僕(朝の喧嘩以来、あんま話してなかったから……)

女「……」

僕(気まずい)


86 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 15:16:18.40 ID:gg+EtQm+O
それでも罪悪感が少しだけ残っていたの、事実だ。

僕は彼女につかまりそうになる度に、避けていたけれども……。

僕「……」

女「……」

波の音が、二人の沈黙の間に流れている。

僕(こんな状況じゃあ逃げれないよ)

でも、僕の頭には……ちょっとだけ謝る事も考えていた。

あの後、何度か鈴にそんな事を相談して。

僕(大事にしたい友達なら、謝って仲直りを……)

僕「あのさ、女」

勇気を出して僕は、女に話しかける。


87 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 15:26:35.02 ID:gg+EtQm+O
女「ごめんねっ! 本当にごめんなさい!」

僕「……え」

女「あのっ、喧嘩……私、感情的になりすぎたなって反省して……どうしても謝りたくて」

女「でも、僕ちゃん学校にもあまり来ないし、ここに来るのもちょっとためらったけど……」

僕「……」

彼女の困ったような顔を見ると、僕も自然に……。

僕「えっと、その」

僕「僕もごめん」

女「!」


88 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 15:41:50.53 ID:gg+EtQm+O
僕「自分も、悪いなって思っていたから……その、謝りたくて」

女「……」

右手に持った手紙、これが僕を素直な気持ちに変えてくれた。

女「……なんか、驚いちゃったよ」

僕「?」

女「また、突っぱねられるかと思っていたから」

僕「突っぱねって……」

女「だって僕ちゃんへそ曲がりだから、謝っても許してもらえないような気がして」

女「それも……ごめんね」

僕(俺、女にそんな風に思われて)

僕(女、シュンとして。さっきからごめんばかり……)

女「本当、ごめん」

僕(こう見ると、なんかガキみたいだな俺)


89 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 15:51:46.21 ID:gg+EtQm+O
女「はぁ〜、謝れたから何だか気が抜けたよ」

僕(ああ、そうか)

女「ねえ、お腹すかない?」

女「仲直りもした事だしさ……一緒にご飯でも行かない?」

僕(自分は意地になってひねくれて……本当に子供だったんだ)

僕(いつもの自分だったら、家に逃げ帰っていただろう)

僕「でも、今日は……」

女「あ、ごめん。忙しかった……かな?」

僕「……いや、行こうよ」

女「えっ」

僕「行こうよ、ご飯食べに。一緒にさ」


90 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 16:01:47.30 ID:gg+EtQm+O
女「うんっ!」

僕「じゃあ、行こ」

手紙を瓶にしまい、僕たちはいつもの場所を後にする。

女「……それってさ」

僕「うん?」

女「少し前に言ってた……手紙のアレ?」

僕「うん」

女「わ、本当に文通してるんだ! ねね、どんな事書いてるの?」

僕「……」

女「あ、ごめん……プライバシー侵害だよね」

僕「別にそう何回も謝らなくたっていいよ」

謝る、腰の低い女を見るのは……なんだか違和感があった。

それが気になりつつも、僕らは砂浜をただ歩いていた。


92 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 16:08:15.68 ID:gg+EtQm+O
僕「……相談とか、雑談だよ」

女「んっ、何が?」

僕「手紙の内容。あまり大した事は書いてないけどさ」

ファミレスに着いて、注文を終えてから。

ぽっかりと開いてしまった時間の時に、僕はこの話を持ち出した。

僕(女なら……別に話したって害があるわけじゃないし)

女「へえ、本当にやり取りしてたんだっ! 男の人? 女の人?」

僕「女の子」

女「へぇ〜……年齢は?」

僕「そこは秘密だってさ、知らないよ」


93 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 16:19:01.67 ID:gg+EtQm+O
女「そうかそうか〜、女の子と文通かあ。いいなあそういうのってさ」

女「あ、アドレスとか交換した?」

僕「……なんで?」

女「なんでって……その方が便利じゃない?」

僕「便利、便利ね。なんか……ピンと来ないや」

手紙を書くのは、確かに手間がかかる。

疲れて帰宅した時なんかは特に、とてもじゃないが書こうという気は起こらない。

女「あ、じゃあそのメンドクサイ感じがいいとか?」

僕(……そうなのかもしれない)

僕(手紙を書いて、海に瓶を投げ入れて)

僕(そこから三日くらいしたら返事が来て、またお返事書いて……)


94 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 16:26:34.52 ID:gg+EtQm+O
……。

女「ふう、ごちそうさま」

お店を出て、僕と彼女は反対の道に向かおうとした。

女「あれ、そっち方向違わない?」

僕「封筒買ってくるから。コンビニじゃなくて、ちょっと駅の近くまで行こうと思って」

女「そうなんだっ」

僕「うん。じゃあそういうわけだから……」

女「……ついてったら、迷惑?」

僕(そんなモジモジしないの……)

仲直りしてから、たまに女はこういう表情を見せるようになった。

やはり彼女も女の子なんだと、それを見る度に思ってしまう。


95 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 16:33:03.49 ID:gg+EtQm+O
僕「いいよ、ついてくるならどうぞ」

女「本当に! ありがとうっ!」

そして、沈んだ顔からまた底抜けの明るさに変わって……ちょっと感情の行方がわからなくなってしまう。

僕「い、いいから。ほら行くよ」

女「うんっ!」

まるで妹みたいに、小さく僕のあとをくっついてくる彼女。

気持ち、彼女と僕との距離が近かったような気がしたが……久しぶりに一緒に歩いたからだ、というせいにしておこう。

僕たちは二人で、駅の方に向かった。



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