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少女「それは儚く消える雪のように」 2
494 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:20:02.53 ID:MxHNRHcq0
6.天に空にあの場所に

雪のように、灰が舞っていた。

空から幾万もの粒子が舞い落ちてくる。

もう動かない亡骸を抱いて、俺はその灰の中、
ただ呆然と空を見上げた。

帰る場所なんて、どこにもない。

戻る場所なんて、もうどこにもない。

ここから基地に帰還できるかどうかも分からない。

俺は、軽く自嘲気味に笑って、
ボロボロの体で彼女にそっと呟いた。

「帰ろう……」


495 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:20:48.75 ID:MxHNRHcq0
動かない彼女。

鼓動を止めた彼女に、俺は静かに言った。

「帰ったら……みんながいるんだ。みんな、
帰りを待っててくれるんだ。
だから……一緒に帰ろう。家に」

「…………」

「目を開けろ……一緒に帰るんだろう? 
一緒に帰れるんじゃ、なかったのか?」

その問いに答える声はなかった。

いくら待っても、帰ってくるのは
漠然とした沈黙だけだった。


496 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:21:24.07 ID:MxHNRHcq0
この子が、何であろうと構わない。

たとえそれが、存在することが許されないもので
あったとしても、俺はそんなことを問題にはしない。

これからも、きっと気にはしないだろう。

それを、ただ伝えてやりたかっただけなのに。

もう、彼女は動かない。

亡骸をそっと地面に置いたところで、
体中の力が抜けた。

泥水の中にうつぶせに倒れこむ。

もう、体を動かすことが出来なかった。

……ごめんな。

お前達を、十分に愛してやることができなくて、
ごめんな。


497 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:21:54.57 ID:MxHNRHcq0
ただ、守りたかっただけなんだ。

ただ、お前達と一緒に暮らしたかっただけなんだ。

でも、それは。

何よりも難しいことで。

何よりもつらいことだったんだよ。

襲ってくるのは自責の念。

狂気の感情。

そこに飛び込むことも出来た。

出来たが、それは適わないことだった。

俺はここで死ぬ。

何もかもが終わったここで、
俺はもう役目を終えるんだ。


498 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:22:35.07 ID:MxHNRHcq0
だからもう、苦しい思いはしなくていいんだよ。

もうお前達のように、
つらい思いをする子はいないんだ。

だから帰ろうよ。

一緒に、戻ろう。

……手を握られた気がした。

無理矢理に顔を上げたその先に、
みんなが笑っているのが見えた。

俺は彼女達に手を引かれ――。


499 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:23:16.76 ID:MxHNRHcq0


車椅子に乗せられた絆が、
渚に押してもらいながら病室に入る。

ベッドの上には、光沢がかった白銀の
髪の毛をした女の子が座っていた。

長い髪の毛は綺麗に三つ編みにされている。

視力が悪いのか、眼鏡をかけていた。

「型番、T325だ。現存しているバーリェの
どれをも凌ぐ、『ハイ・バーリェ』の
中の最終形態といえる」

表情を変えない絆に、
先に部屋に入っていた駈が
椅子から立ち上がって口を開く。

絆は駈を一瞥してから、
丸い目でこちらを見ている少女に対して声をかけた。


500 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:23:59.51 ID:MxHNRHcq0
「言葉は分かるか? 
ここはどこだか、理解できているか?」

「勿論です、絆特務官様。私はT325番です。
以前の記憶は、S678番より継承しております。
姉が大変お世話になりました」

深々と頭を下げた彼女に、戸惑ったように絆は返した。

「記憶の継承に成功したのか……? 
じゃあ、圭のことを知ってるのか?」

「はい。私は前個体の全ての能力を引き継いでおります。
それはすなわち、
記憶の共有も成されているということであり、
私は、それらの算出したマイナス要素を全て克服しております。
必ずやあなた様のご満足いただける活躍をすることを、
お約束いたします」

眼鏡の位置を小さな手で直した彼女に、
絆は小さく笑いかけて、そして言った。


501 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:24:32.50 ID:MxHNRHcq0
「圭は、何も間違ったことはしていない。
お前も自然体でいい……これからお前のことを、
『純(じゅん)』と呼ぼう。問題はないな?」

「それがご命令ならば、そういたしましょう。
私はあなた様のご命令に従い、
全ての要素をクリアできます。
通常のバーリェ、約二千体分の戦力とお考えくださいませ」

「…………」

また頭を下げた純から視線を離し、
絆は機械のような彼女の調子に呆気にとられている渚を見た。

「この子のロールアウト時の資料をくれ」

「…………」

「どうした? 資料をくれ」

「は……はい!」


502 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:25:12.35 ID:MxHNRHcq0
繰り返した絆に、ハッとして渚は
懐に挟んでいた資料を渡した。

それに目を通している彼を見て、駈が口を開く。

「大恒王の凍結を解除する手続きをとっている。
エフェッサーは全面的に世界連盟と争う意向だ。
全く……こうしている間にも、どこが新世界連合の
攻撃にさらされるか分からないというのに
……悠長なものだよ」

「…………」

「君達には、本日づけでフォロントンに
移動してもらうことになる。
自然の壁の内部に突入して、
新世界連合の拠点を叩く作戦に参加して欲しい」

弾かれたように顔を上げ、渚が引きつった声を発した。

「そんな……大恒王を使えないのに、
どうやって戦えって言うんですか!」


503 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:26:05.73 ID:MxHNRHcq0
「七○一型AAD、つまり陽月王と
同じタイプには凍結はかかっていない。
全ての武装を積み込み、フルチューニングした
君達専用の機体をロールアウトした。
大恒王からしてみればスペックは落ちるが、
通常戦闘を行うのには差し支えない性能の筈だ」

「……殲滅(ジェノサイド)システムとは何だ?」

そこで絆が押し殺した声を発した。

黙り込んだ駈を見上げて、絆は低い声で続けた。

「おそらくS678は……圭は、
過剰な人格調整をうけたがために、
戦闘システムを有する人格とそれ以外の人格とで
精神分裂を起こしていた。
バーリェの精神エネルギーは『心』の力だ。
だから、片方の人格のエネルギー指数がゼロになっても、
大恒王は再起動したんだ
……戦闘システムを有している人格が発現させた、
『殲滅(ジェノサイド)システム』の詳細を教えろ。
今度の機体にも、それが積んであるのか?」


504 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:26:43.34 ID:MxHNRHcq0
「…………」

「答えろ」

鉄のような声を発した絆に、
駈は肩をすくめて返した。

「……頭が良すぎるというのも考えものだな。
君は兵士には向いていない」

「茶化すな。真面目な話をしている」

「私は大真面目だよ。いつでも、
君を茶化したことはない」

紙コップを手に取り、
傍らのウォーターサーバーから水を汲んで
口に運び、駈は息をついた。

「……殲滅(ジェノサイド)システムは、
全ての機体に搭載されているものだ。
単に、それを起動できるバーリェが
今迄いなかっただけの話だよ」


505 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:27:20.74 ID:MxHNRHcq0
「どういうことだ?」

「元々AADは、『多数』の死星獣を
駆逐するために開発された代物だ
……私の口からはそれ以上のことは言えない」

「『多数』……?」

大規模戦闘を想定して作られていたとでも
言いたいのだろうか。

話を打ち切ろうとした駈に、
しかし絆は強い口調で続けた。

「仕様書には一切そんなことは書いていなかった。
それに、マイクロホワイトホール粒子って何なんだ。
どうしてバーリェが、死星獣と同じ力を持つことが出来る。
知っているのなら、全てを話してもらうぞ!」

「…………」

駈は紙コップをクシャリと潰すと、
無言でダストシュートに投げ入れた。


506 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:27:54.61 ID:MxHNRHcq0
そして息をついてから絆を見る。

「一度にそんなに多量に質問をされても
答えられんな。整理して話すことはできないのか?」

「人をおちょくるのも大概にしろよ……!」

「……一つ重要なことを教えよう。とは言っても、
誓って言うが私達も『それ以上』は知らない。
全ては元老院が情報を握っている」

「…………」

「バーリェと死星獣は、元々は一つのものだ。
同じ『物質』から作り出された、人造生命体だよ」

「何だって……?」

絆は、その言葉の意味をすぐには
推し量ることが出来ずに、思わず掠れた声を返した。


507 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:28:30.84 ID:MxHNRHcq0
「死星獣が、『人造』の生命体だって……?」

「私も詳しいことは知らん。
ただ言えることは、あれは新世界連合が
『ロストテクノロジー』と呼ぶ、
二百年以上前に存在していた技術を応用して
創り出された生命体だということだ。
だから、同種のバーリェで
エネルギーを相殺することが出来る」

「誰が創り出してるって言うんだ、
あんな害しか及ぼさない異形を!」

怒鳴った絆に、駈はサングラスの奥の瞳を
淡々と光らせながら、静かに返した。


508 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/11(水) 18:29:02.92 ID:MxHNRHcq0
「……分からん。『誰か』であることは確かだが、
それが分かっていれば苦労はしない。
しかし、我々はこれだけは確信を持って考えている」

「…………」

「新世界連合は、死星獣を創り出す技術を持っている。
何らかの装置か機構を入手したと考えて
妥当ではないかと思うのだ。
もしそうだとしたら、
断じてその存在を許すわけにはいかない。
破壊しなければならない」


511 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/12(木) 00:23:47.18 ID:/WhxSvAoo
一気に確信に近づいた気がするね
お疲れ様


512 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/12(木) 17:13:06.04 ID:rGBjc5YIO
従来の死星獣を送り込んでいた者
新世界連合
二つの敵がいるのか元老院は


513 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:17:48.47 ID:Y7PtevAY0
こんばんは。

元老院は敵と戦っていますが、その彼らでさえ何なのかが
分からない状態になっています。
これから明らかになっていきます。

続きが書けましたので、投稿させていただきます。

お楽しみいただければ幸いです。


514 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:21:40.89 ID:Y7PtevAY0
「……絃が裏切ることを知ってたな。
お前達は、それを知りたくて
彼を泳がせようとして失敗した。違うか?」

問いかけられて、駈は一拍押し黙った後口を開いた。

「その通りだ。我々の捜査は失敗した。
絃元執行官のことを泳がせ、
今では新世界連合と名乗っている
組織の実情を掴むつもりだった」

「どうして逃げられた? 
それくらいなら答えられるだろう」

「…………」

駈は息をついてサングラスの位置を直し、言った。

「生体エネルギー感知機器に頼りすぎていた
……『天使一号』のせいだ。
あれはあらゆる電磁波を吸収してしまう」


515 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:22:16.11 ID:Y7PtevAY0
「は……?」

「絃執行官はそれをエフェッサーの本部から盗み出した」

「天使一号……?」

聞いたことのない単語に、絆は目を見開いて駈を見た。

「何だそれは……?」

「我々もそれが『何』なのかは分からない。
分からないが、その物質はバーリェと
死星獣の組成体の元となる物質だ。
我々はそれを『天使』と呼んでいた」

「何なのか分からないものを使って、
ここまでのことをしてきたのか……!」

「ああ。だが、そのおかげで君達は死なずに
済んでいる。結果が全てだ。
学校でそう習わなかったかね?」


516 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:22:51.23 ID:Y7PtevAY0
「だからって、許されることと
許されないことというのがあるだろう」

押し殺した声でそう言い、
絆は横目で純を見て言葉を止めた。

「……またの機会に、詳しい話を
聞かせてもらう。あんたも、
フォロントンに来るんだろうな?」

「無論だ。私が前線の指揮を執る」

駈はそう言って暗く笑った。

「十分な設備は用意しよう。
出撃まで十二分に体を休ませたまえ。
問答は、生きて帰ってこれたら続けよう」

「…………」

絆は吐き捨てるように呟いた。

「ああ、そうだな」


517 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:23:28.44 ID:Y7PtevAY0


「……そうでしたか。それでは、特務官様は
お姉様達に、圭お姉様がお亡くなりになったと
いうことをお伝えになっていないのですね」

「ああ」

絆は頷いて、駈が出て行った病室の中、
純を真正面から見た。

「酷なことをしたとは思っている。
しかし、真実を伝えるだけの言葉が、
俺にはどうしても思いつかないんだ」

「…………」

首を傾げて純は不思議そうに言った。

「どうしてですか? 隠さずに仰れば良いのでは?」

「…………」


518 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:24:01.67 ID:Y7PtevAY0
「圭お姉様は、無駄死にではございません。
私という成功作を作り出す礎(いしずえ)となれたのです。
名誉の死だと、私は思います。
隠すのは、圭お姉様に対する冒涜のような気もします」

絆はそれを聞いて押し黙った。

純の言うとおりだった。

予想以上に素直で頭がいい個体のようだ。

見透かされたかのような言葉に、
一瞬返す単語が思いつかなかったのだった。

「純ちゃん、絆特務官はいろいろと
お考えなのよ……察してあげて」

渚にそう言われ、しかし純は
納得がいかないという風に続けた。


519 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:24:40.13 ID:Y7PtevAY0
「それとこれとは無関係だと思います。
私は事実を客観的に述べているに過ぎません。
特務官様は、私達を一体何だとお考えなのでしょうか?」

責めるような純の口調に、絆は顔を上げて彼女の目を見た。

「何だって……お前たちをか?」

「はい。お答えください」

「…………」

一拍押し黙って、絆は言った。

「俺達と何ら変わらない『生き物』だと思うよ」

「それが大きな間違いです」

純は即座に絆の言葉を否定した。

これほど真っ直ぐにバーリェに反抗されたのは
初めてのことだったので、絆は思わず口をつぐんだ。


520 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:25:26.80 ID:Y7PtevAY0
「私達は、人間ではありません。
人間になろうとしても、人間にはなれません。
特務官様がいくら頑張っても、私達は私達以上の
ものになることはできないのです。
あなたが仰っていることは、
私達にとってとても酷なことです」

「…………」

「圭お姉様が浮かばれません。
どうか、私のことは『バーリェ』としてお扱いください。
生体弾丸として、単なるシステムの一部として
お扱いくださいまし。
それが、今迄に亡くなった全ての
バーリェ達への供養となります」

衝撃を受けていた、という表現が一番正しいかもしれない。

純が言っていることは、分かっていた。

全て知っていて、その上での発言だ。


521 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:26:24.58 ID:Y7PtevAY0
だから今更それを繰り返されたところで、
何を感じるでもなかった。

しかし絆は、「誰かに怒られる」という経験を、
産まれてこの方、殆どしたことがなかった。

考えてみれば、小さい頃から優秀であろうとしていた
自分は、親にも、教師にも褒められはしたが
怒られたことはなかった。

純が絆に向けていたのは、
純然たる憤まん、怒りだった。

叩けば死にそうな外見をしているのに、
その怒りは絆の心を強く抉った。

――バーリェはバーリェであり、人間ではない。

分かっていたことだ。

そんなのは言われなくても分かっていて。

トレーナーを始めた頃から、自覚していることだ。


522 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:26:59.00 ID:Y7PtevAY0
しかしそれを改めてはっきりと、
他ならぬバーリェの口から言われると、
また違う威圧感があった。

「…………お前は、死にたいのか?」

そう問いかけると、純は何の迷いもなく頷いた。

「はい。私は、それこそがバーリェの本質だと考えます」

絆は息をついて純から視線を外し、窓の外を見た。

桜の花も、そろそろ終わる時期だ。

……そういえば、バーリェ達の墓は、
なくなってしまったな。

どこかに別の墓を作ってやらなきゃな、
と頭の片隅で何となく思う。

「そう考えているうちは、お前は性能以上
力を出すことは出来ないよ」


523 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:27:41.35 ID:Y7PtevAY0
しかし、だいぶ考えた末に絆が出した言葉は、
純の言葉を否定するものだった。

純は眉をひそめて絆を見た。

「どうしてですか?
私は、通常のバーリェ二千体分の……」

「バーリェの生体エネルギーは、心の力だ。
心っていうのは、理論では測れないものなんだ。
お前がいくら頭が良くても、
何もかもが計算どおりにいくっていうわけじゃない。
その考えは、改めた方がいいな」

絆はそう言って、純に向かって軽く微笑んだ。

「まぁ、おいおい話していこう。
お前の姉さん達を紹介する。ついてこい」


524 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/12(木) 18:28:18.91 ID:Y7PtevAY0
純はまだしばらく、釈然としなさそうに
俯いていたが、やがて小さく頷くと立ち上がった。

圭のように四肢のどこかが
欠損しているというわけではない。

仕様書を読む限りでは、眠らない不具合も
継承しているようだが、
まさにパーフェクトなバーリェであると言えた。

言えたが、絆は同時に純を見て、
猛烈な不安を感じてもいた。

圭の時には感じなかった不安だ。

この子の存在は、確実に「あってはならない」ものだ。

人間が到達していい水準を遥かに超えている。

それが果たして、自分達にプラスになるのか、
マイナスになるのか分からなかったのだった。



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