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少年「……」 男「何だこいつ」
193 名前: ◆B/w5IU75jTqz [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:17:24.42 ID:ndx68IWO0
男「さて、お仕事です」

少年「真夜中が基本だよね」

男「まぁ夜行性だからね、奴らは基本」

少年「うん」

男「防寒したか?」

少年「うん……ねぇ」

男「んー?」

少年「……お小遣い」

男「あいあい、忘れるわけありませんよっと」

少年「……!」

男「ぬはは、口元にやついてんぞ」

男「では……今日もいいかな? 俺の両眼よォ」

少年「当然」


194 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:23:01.31 ID:ndx68IWO0
いくらガス灯やらが普及したといってもこの時間帯は真っ暗なんだよね。
何打かんだいって僕らも奴らもこの時間帯のが楽だったりする。

少年「ていうかさ、別に僕無くても大丈夫だよね」

男「いんやー、備えあれば憂いなしというか、ね?」

少年「ふーん」

男「いつ勘が鈍るかわかりませんからなぁ」

少年「年寄りの冷や水?」

男「そんなこと言うとお小遣い無しですよ〜」

少年「なんかイラっときた」

男「めんごめんご〜……で、こっちであってるか?」

少年「聞かなくても解るくせに」


195 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:31:38.17 ID:ndx68IWO0
少年「見ーつけた」

居ました居ました。悪さをする困ったのが。
何をしているのかと思いきや…………せこい盗みです。まぁ近頃では仕方ないのかもしれないけど。

■■「!?」

少年「駄目じゃない、アンタそこそこの怪でしょ?」

少年「かっこ悪くない? 今までボロクソにしてた人間にこそこそ乞食みたいでさぁ……」

■■「ア……ググゥ……ナゼ……」

男「何故見えるんだって言いたげだよね、それはまぁこっちもそういうことだから」

男「あと、お前は少し言葉を選べ。内弁慶の癖に……」

少年「…………」プイッ


196 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:45:52.18 ID:ndx68IWO0
男「単刀直入に言ってしまうとですね、こんなことやめませんかーってとこよ」

男「もうこんなご時勢だしさ、やっぱり線引きは必要だと思うわけよ」

男「明るみは人間へ、そちらさんは暗闇へ……元々そっちのが楽でショ?」

男「それにねぇ、盗みなんてちゃっちいことー……」

■■「ダマレ!」

失敗です。ややこしいなぁ、もう。
聊か僕のせいな気がしなくも無いけどさ。

■■「明ルミ……ダァ? 元々我ラガ根城ニシテイタトコロニ、汚ラシイニンゲンドモガ沸イテキタノダ!」

■■「即チ我ラガ人間ニ住マウ事ヲ許シテイタマデ……ソレガ今ハ、ニンゲンガデカイ面デ我ラノ地ヲ食イツブシ、変エテイクデハナイカ!」


197 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:46:56.15 ID:ndx68IWO0
■■「コレガ黙ッテイラレヨウカ!」

あー、でました、ありがちな語り。この仕事をしてから耳タコです。

■■「ヨッテ、マズハ人間ノ糧ヲ奪イ……!」

少年「お兄さん」

男「うん。……残念だが」

少年「じゃ、がんばって」

男「いやいや。俺はおじいさんだから無理ですゥ」ニヤニヤ

少年「……根に持つって事は認めてるってことかな」

男「あー腰が痛い痛い」


198 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:50:43.48 ID:ax18JSPh0
君本当に>>1
なんかずいぶん書き方変わったな


199 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:53:29.38 ID:ax18JSPh0
あー探したらコテ付いてたな、すまん、俺の勘違い



200 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:55:05.86 ID:ndx68IWO0
■■「ソシテ果テハ人間ヲ植民化シ……」

少年「あの」

■■「我ラニヨル我ラノ為ノ国ヲ……」

少年「ねえってば」

少年「もう一度聞くよ、やめる気ある?」

■■「ヌ……小僧、我ノ話ヲ聞イテイナカッタノカ?」

■■「ヤメルワケガナカロウ!? 何故人間ニ諂ウ必要ガアル!?」

■■「加エテ、ダ……半端デハアルガ、オマエモ我ラト同族デアロウ? 何故止メル?」

少年「…………」

■■「ソコノ男ハ知ラナイガ」

男「……」


201 名前:>>198気分で変わります [] 投稿日:2010/12/30(木) 19:59:52.55 ID:ndx68IWO0
■■「フム……コレ以上我ニタテツコウトシナケレバ、小間使イ程度ニハシテヤランデモナイ」

■■「オマエノヨウナ半端モノニハ、充分スギル扱イダロウ」ニタァ

少年「…………った」

■■「ヌ?」

少年「むかついたって言ってんの」

■■「ナ……!?」


202 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:07:46.86 ID:ndx68IWO0
少年「さっきからありがちなお話をありがとう」

先ほどまで押し黙っていた冬の空気が一度、ざわりと声を上げた。
雲が動くと月が顔を出す。冬の夜空は澄んだ空気のおかげで綺麗だ。
その光は色と無とをくっきりと分ける。

少年「半端モノ半端モノってさぁ……うざったいんだよね」

月明かりが作り出すコントラスト。それは持ち主と共に動く影である。
だが、この少年の持つそれは、普通の物とは違う――――少年の動きと連動していない。
少年の影は意思を持った別の生き物のように。


203 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:20:23.50 ID:ndx68IWO0
少年「僕からしたらアンタが半端モノ」

■■「ク……オマエ!?」

怪は少年からひしひしと伝わる気配を察知し、身構えようとする。
が、時既に遅し。彼の両足は少年の影によってつかまれている。

■■「グッ、ヤメロ、ハナセ!」

少年「人間をどうしたこうした〜……って言っておきながら、結局盗みなんて事しなきゃやっていけないんじゃん」

少年が二、三自らの髪の毛を抜く。
月光の下艶やかに光るそれらをつぅと指で扱いてやると、それらはたちまち硬度を持ち、針と化す。

少年「どうしよっか」

コツン、コツン。わざとらしいほど足音を鳴らす。靴を新調してもらい、はしゃぎ飛び跳ねる子どもが立てるような。
じたばたともがき回る怪にゆっくりと近づく。

■■「マ、マテ……!」

少年「何?」

■■「何故人間ノ肩ヲ持ツ!? 半端モノトハイエ、オマエモ我ラノ……」

少年「まだ言うか」

少年が針を振り下ろす。
澄んだ夜空に似つかわしくない異形の悲鳴は、果たして誰が聞いただろうか。
彼ら以外に。


204 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:23:59.80 ID:ndx68IWO0
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――――――――――――――

――――――――――――

終わった。
最後に少年は怪――だったもの――の耳元に、何か呟いた。



205 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:29:04.68 ID:ndx68IWO0
男「お疲れさん」

少年「…………」

男「おーい」

少年「……っ」

男「まぁ怖い顔」

少年「うるさいボケジジィ」

男「あらやだ俺はまだまだお肌が水弾くっつの」

男「…………泣いてんのか」

少年「……そんな訳ないでしょ」

男「目、赤いじゃん」

少年「元から」

男「ふぅん……お疲れ様」

少年「……うん」


206 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:33:19.29 ID:ndx68IWO0
少年「…………」

男「いやーにしてもホントよくやったと言いますか?」

男「多少やりすぎ感はありますけど? あーホント楽さしてもらいましたわー」ヘラッ

少年「……っ、ま、全くだよ! 本当に何もしないとか何の為に来たのさ!」

男「夜道をお子様一人にしたらイカんでしょ?」

少年「抜かせ」



207 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:40:29.63 ID:ndx68IWO0
男「それじゃ、帰るか」

少年「ん……」

男「うーん、月が綺麗さね」

少年「……」

男「普段はよく見える星も幾分かき消してるくらい……月見酒といきたくなるね、これは」

少年「…………」

男「……おーい」

少年「……」


208 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:42:20.14 ID:ndx68IWO0
男「おいったら」

少年「…………」

男「聞いてんのか?」

少年「…………」

男「おい!」ガッ

少年「!?」

男「……報酬貰ったらちゃんと小遣いやるからな」

少年「……うん」

男「だからもう少し良い顔しろや」

少年「そしたら増額してくれる?」

男「簡便」

やっと見上げた月は、コイツの言うとおり確かに綺麗でした。


209 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:52:08.62 ID:ndx68IWO0
――――――――――――――――

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―――-――――――――

冬の夜は明けるのが遅い。
しかし男はそれが好きだった。月を眺め、ちびりちびりと酒を嗜む時間が増えるのだから。

男「…………」

ちらり、横たわる少年を見る。
小さな身体をさらに小さくさせるよう、薄っぺらい布団の中で丸くなっている。
普段男が酒を呑んでいれば、寄越せ飲ませろと催促するのだが、今日はさっさと眠ってしまった。
無理も無いな、と思った。


210 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 20:56:23.21 ID:ndx68IWO0
男「……」

今宵の怪に少年が囁いた言葉をなぞる。

『人間の肩を持つ? 笑わせないで』

『僕はね、どちらかについた覚えも無い』

『どちらにつく気も無い……どちらかにつくこともできない』

『それが僕だから、生まれた瞬間からそうだから』

『居場所なんて、無いんだよ』

男「……はーっ」

杯を置き、癖の強い髪をもしゃもしゃと掻き毟る。
全く、マセたもんだと思った。


211 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 21:06:28.28 ID:ndx68IWO0
のそり、とうずくまる少年に歩み寄る。
布団を被ったままでは息苦しかったのか、布団の間から少しだけ顔を覗かせている。

お前の気持ちは解るけど、一つだけ解ってやれないところがあるぜ。
男は少年の額をそっと撫でる。いつもの大雑把さを忘れさせるような手で。

男「……うちの子だって、言っただろ」

やれやれといった具合で、ひとりごちたのか眠る少年に語りかけたのか。
涙の筋が見て取れる、幼い寝顔がほんの少し微笑んだように見えたのは、男の思い込みか。

男「……寝るか」

ふわ、と大きなあくびをすると、呑みっぱなしのものもそのままに、少年とは離れた場所に横になった。
眩しくすら思えた月の光も、さぁ眠れと言わんばかりに穏やかだった。


212 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 21:16:10.78 ID:ndx68IWO0
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――――――――――――――

――――――――――――

少年「……あれ」

少年「あー……そうだ、寝たんだ僕」

少年「まだお昼は回ってない……ね」

少年「今日、昨日の依頼人のところへ行くのかな」

少年「また適当にトチ狂った人間の仕業ってことにするんだろうなぁ」

少年「とりあえず、顔洗おうかな。……つっぱる」



213 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 21:20:00.39 ID:ndx68IWO0
少年「さっぱり」

少年「そういえば、お兄さんは……」

男「ぐおー」

少年「…………」ゲシッ

男「ぁんがっ!?」

少年「おはよう」

男「いてー……はよ」

少年「今日、報酬貰いに行くの?」

男「あー……あぁ、うん」

少年「じゃあ何か入れたら行こう。それと顔洗ってきて、酷い顔」

男「おー……だるい」

少年「そこのお酒の瓶とかも片付けといてよね」

男「うぇーい」


215 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 21:26:17.73 ID:ndx68IWO0
男「ありがとうございましたー。今後ともごひいきに」

少年「……」ペコリ

男「やっぱり内弁慶」

少年「ほっといて」


216 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 21:32:14.57 ID:ndx68IWO0
男「さてさてお待ちかね!」

男「ひーふーみー……」

少年「……」

男「……うむ」

少年「…………」ゴクリ

男「よし……お前にはこれだけやろう!」

少年「……! って……え、こんなに?」

男「くく……俺が嘘ついたこt」

少年「ある」

男「はい……」

少年「……ほんとに良いの?」

男「もちろん」

少年「……ありがと」


217 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/30(木) 21:38:37.33 ID:ndx68IWO0
少年「……♪」

男「うむうむ」

男「何か欲しいモンあんのか?」

少年「ん…………」

少年「……秘密」ニッ

男「えー」


男(……なんてな!)

男(実は俺は知っているのだよ、貴様が物欲しげに楽器店のショーケースを眺めていたことを!)
                ハーモニカ
男(推測するに目的はそう…………口琴!)

男(あのじいさんが噴いていたのを気に入っていたことからも確実といってよい!)

男(所詮はまだまだお子様、ちょろいモンだ)

少年「何か凄く嫌な感じがするんだけど」

男「気のせい気のせい」




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