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侍「言葉が通じなくとも」
701 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/12(土) 01:55:46.16 ID:seaDWpEAO
……

侍達とはぐれて丸一日が経過した

大王土竜、砂蚯蚓、奪冠鷲と、外敵に見舞われた昨日と打って変わって、今日の砂漠は静かだった

少女『あつ……』

相変わらず商人隊の影は見えず、砂の海は遥か彼方まで続いている

その途方もない景色に、少女は軽く目眩した

少女『……もう、ちょっとだけ』

いけないとわかっていても、水筒に手が伸びてしまう

少女の給水は、昼前にして昨日の倍近い回数になっていた

それもその筈

奪冠鷲にボロボロにされた外套は、断熱性を失い、熱気に晒された少女の身体は激しく消耗していく


702 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/12(土) 02:10:26.89 ID:seaDWpEAO
少女(これ飲んだらちょっと休もう。危険かもしれないけど、やっぱり夜の方が)

ビュオゥッ

少女『!? ケホッ!?』

突風

砂を巻き上げ、一陣の風が吹き抜けた

その突然の出来事に、少女は大切な水筒を落としてしまう

少女『ああっ!? ちょっと待って!』ザッ

慌てて駱駝から飛び降りるが、無情にも水は重力に従って流れ出てゆく

少女『ああぁ…………』

殆ど空になった容器を手にうなだれる少女

まだ水筒はあるが、一日分はあるであろう水を失ったのは痛い

少女『横着しないで降りて飲めばよかった……』ガクッ



……ニュ

少女『……ん?』


703 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/12(土) 02:19:44.51 ID:seaDWpEAO
水筒の中身を吸った地面にある変化が起きた

少女『砂の海に……草が』

ごく狭い範囲ではあるが、草の芽が次々に顔を出し始めた

否、発芽に止まらず、見る見る背を伸ばし葉を広げ、とうとう花を咲かせてしまった

その様子は、まるで



少女『雨を待ちわびていたみたい……』





706 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/14(月) 22:34:34.67 ID:KvGghKUAO
少女『すごい……たったあれだけの水で、こんなに大きな花を咲かせるなんて』

青々とした葉を広げ、天を仰ぐ黄色の花に、少女は暑さを忘れてしばらく見惚れていた

少女『そっか、こんな場所にも花は咲く………………?』


ふと、少女の中に違和感が生まれる

まだ疑問とも言えない、心にできた小さなしこり

それが何を意味するのか、現時点では掴めない

だが、この違和感の正体……答えが、運命を左右すると、少女は予感した


少女『こんな時、お兄さんなら……』

無意識の内に侍の名前を零すと、少女は花を調べ始めた


707 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/14(月) 22:45:19.25 ID:KvGghKUAO
……

若い商人「なんで砂漠を渡るか……ですか?」

隣を走る侍に話し掛けられ、若い商人は目を丸くした

侍「話し辛いなら、無理に喋らなくてよい」

若い商人「い、いえ! 全然大丈夫です!」

もともと口数が少ない上、悪党や猛獣でも躊躇なく斬り伏せる侍は、どこか人を寄せ付けない雰囲気を持っていた

加えて、少女とはぐれてからの侍は表情も暗く、事務的なやり取り以外の会話は皆無になっていた

そんな状態の侍に話し掛けられたのだ

この青年が狼狽えるのも、仕方のない事である


708 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/14(月) 23:04:44.20 ID:KvGghKUAO
彼等が砂漠を渡る理由――

若い商人の話によると、彼の曾々祖父の時代は、砂漠の各地に湧き水があったらしい

年中酷暑の厳しい土地ながら、人々はその水源を頼りに街を作り暮らしていた


だが、曾々祖父が成人した頃を境に、井戸の水位が日に日に下がっていった

稀に降っていた雨もぴたりと降らなくなり、とうとう湧き水は枯れてしまっという


新たな水源も掘り当てられず、人々は移住を余儀なくされた

現在では侍達が出発した街と、砂漠を挟んで真反対の街だけが残っている


709 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/14(月) 23:19:36.99 ID:KvGghKUAO
若い商人の話は続く

水源がなくなり、雨が降らなくなって数十年

砂漠の民は枯れた水源の謎を解くべく、幾度となく調査を繰り返していた

が、成果らしい成果は上がらず、それを嘲笑うかのように次の問題が浮上した

彼の父親が結婚した頃を境に、見たこともない生物が出現するようになった

大王土竜や砂蚯蚓といった、肉食獣である

砂漠はその土地柄、肉食獣……それも大型であるほど自生が難しい

難しい、考えにくいのだが、砂漠で遭遇するのが現実だ


711 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/16(水) 01:41:02.86 ID:wxoBUBIAO
頑健な商人「相次ぐ犠牲者で調査は打ち切り。砂漠は棄てられちまったって訳さ」

若い商人「おおっ!? 危ないじゃないですか!」

頑健な商人「おお、悪い悪い」

小柄な商人「でも、僕らみたいに諦めの悪いやつらは、今もこうして砂漠を渡るのさ」

頑健な商人「ま、砂漠の向こうの街まで塩とか届けるついでだけどな」

小柄な商人「違う、逆だよ! 輸送は調査の口実!」

若い商人「……とまぁ、こんな感じです」


割って入って早々、話を脱線させる二人

若い商人は苦笑いを浮かべながら、事の経緯について締める


侍「なる程。お主らはそのような使命を帯びていたのか」

若い商人「使命だなんて、そんな……」


「お喋りもいいけどよー! 早くしねーと日が暮れんぞ!」




715 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/18(金) 01:19:22.90 ID:KrJUnFmAO
……

傾いた太陽が砂漠の凹凸を浮き彫りにする

間もなく、地平線に日が沈む

だというのに、少女は未だに花の前に腰を下ろしていた

限られた水と食料……ひいては限られた時間しか残されていない


停滞、是即ち死

だが、同時に誤った選択も許さない


少女は、一刻の猶予もないこの状況で、この花を調べる事を選択した

今、少女にとって前進するという事は、この巡り合わせを大切にする事であったのだ


716 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/18(金) 02:27:38.67 ID:KrJUnFmAO
駱駝『ブルル……』

少女『いい子だから、大人しくしてて』

花を食べようとする駱駝を制止させながら、じっと……時が過ぎるのを待つ


『もしかしたら、徒労に終わるかもしれない』

『花なんかに構ってないで、先に進んだ方がいい』


弱い心のあげる悲鳴が響く

諦めという名の難敵は、少女の首筋に刃をあてがい、後退するのを今か今かと待っていた


719 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/22(火) 02:23:20.19 ID:oNlH9hOAO
……夜

隙間風の吹き抜ける穴あきの外套にくるまった少女は、乾飯を食べながら、砂漠の花を見守っていた

太陽が沈み、気温が一気に下がると、花は首を垂れて金色の実を結んだ

少女『わぁ……』

月明かりに照らされ、艶やかに光る果実は、まるで日の光を凝縮したように美しく……




――――バサッ


少女『!』

奪冠鷲『ガチャガチャガチャガチャ!!』バサッ


夜の住人に雲をかけられて尚、輝いていた


720 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/22(火) 02:37:09.93 ID:oNlH9hOAO
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

駱駝『グェー!! グェー!!』

無数、本当に無限にいるのではないだろうかと思える程の腐乱した鷲に囲まれる

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

か弱く、小さな存在を嘲笑うかのように、鷲達はけたたましく鳴き喚く

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

少女『ッ……』


逃げるか――


選択が迫られる

砂漠の花、果実を…………自ら進むと決めた道から引き返すか?

それとも、行き着いた先――崖から踏み出すか?


721 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/22(火) 02:40:52.70 ID:oNlH9hOAO
ビュオ――――――――ッ






少女『あ』





後退する気なんて、ちっともなかった

迷いなんて、微塵も……

本当に、本当……本当だってば

信じてよ、


神さま







722 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/22(火) 02:48:09.33 ID:oNlH9hOAO
風を、感じた


その次の瞬間には、少女の背後で奪冠鷲達が果実を嚥下していた

少女『――――イヤ』



少女『返して! 返してよ!!』

自分より幾回りも大きい化け物に、少女は飛びかかった

が、



バサァ――――



少女『ッぶ!?』ズザーッ


ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

奪冠鷲達は天高く舞い上がり、また少女を嘲笑うかのように喚き、地平へと飛び去った……


723 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/22(火) 03:01:10.39 ID:oNlH9hOAO
―夜の砂漠を、駱駝が走る

背中には、遠い遠い国の少女

月の光を湛えた、金の髪

それを彩る、銀花の飾り

眼には涙

伝い落ちる雫が、砂漠を濡らす―


724 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/11/22(火) 03:08:48.51 ID:oNlH9hOAO
直ぐに立ち上がり、駱駝を走らせた

どんどん離れていく黒い翼を追いかけて、前へ、前へ


少女『……えぐッ、……グスッ』


胸に広がる絶望感に、目頭が熱くなる

止め処なく溢れる涙が、風で後ろへと飛んでいく



……それでも

それでも見開いた瞳は行き先を見つめていた


730 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/12/05(月) 09:04:53.86 ID:R/vA9wyAO
……

翼の群は朝日に消えた

辺りが明るくなり、涙がようやく止まった頃、少女は滅びた集落に辿り着いた


少女『……ッ』


鍬振るう骸骨『…………』ザク…ザク…

瓶持つ骸骨『…………』

駱駝の骸骨『……』


集落には骸骨が暮らしていた

滅んだ事実を否定するかのように


731 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/12/05(月) 09:17:47.87 ID:R/vA9wyAO
崩れ落ちた石造りの住居

骸骨が鍬入れする、かつて畑だった砂地

布が敷かれただけの露店


生気を失った村は、生気を失った住人と今も変わらぬ生活を続けていた

いや、生活と言うよりは時間の浪費というのが適切か……


少女『あの……』

少女は、恐る恐るひとりの骸骨に話しかけた

骸骨『…………』

しかし、骸骨は反応しない

少女の言葉が通じなかったからかもしれない

或いは、耳がなかったからかもしれない


732 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です) [sage] 投稿日:2011/12/05(月) 09:26:02.74 ID:wEpHMSsSO
偶然ドラクエ7のサントラのこれ聞いてて文との相乗効果がヤバい

http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&client=mv-google&v=IqxYlHFJtwU


733 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/12/05(月) 09:31:29.41 ID:R/vA9wyAO
―見る目がない癖に、こちらの忠告を聞く耳も持たず

時間を浪費し、骨折り損ばかりしている奴がいる

全く、馬鹿は死んでも治らない―



集落の中心に大きな穴を見つけた

周りに落ちている採掘道具から、この穴は骸骨達が掘ったものだという事がわかる

少女『井戸、掘ってるんですか……?』

縄を垂らす骸骨『…………』

穴を見下ろす骸骨から返事はなかった

だが、少しだけ骸骨が頷いたように見えた


735 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/12/06(火) 00:24:53.68 ID:FGXAMY2AO
骸骨『……』クックッ

少女『縄が動いてる?』

骸骨は、垂らしている縄が二度引っ張られると、両手に持ち替え、一度だけ強く引いた

骸骨『……』グッ


縄をピンと張っり、両の足を砂地に突き立てる骸骨

何かを引き上げる仕草だが、骸骨は踏ん張った姿勢を取ると、微動だにしなくなった


736 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/12/06(火) 01:01:20.87 ID:FGXAMY2AO
……

少女『あの、もしもし?』

骸骨『……』

太陽が空の頂点を過ぎる頃になっても、相変わらず骸骨は縄を張っていて

大きな縦穴に下ろされた縄も、相変わらずそのままだった

水も食料も限られている現状、少女にはこの「時間の浪費」に付き合う余裕はないのだが……

少女『…………きた!』

…ガシャ……

ガシャ…ガシャ……

物がぶつかり合う無機質な音が縦穴に響く

覗き込むと、土にまみれた骸骨が縄を登っているところだった


737 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage] 投稿日:2011/12/06(火) 01:06:08.17 ID:FGXAMY2AO
縄垂らすが抜けてました
脳内補完お願いします


740 名前: [sage] 投稿日:2011/12/07(水) 07:30:52.61 ID:6YqbLnPAO
やっぱり北斗スレは書いてて楽しいです

ジャギ「今日が何の日か言ってみろ!」ケンシロウ「あ、俺の誕生日!」


あと最近書いた旬物

小鷹「普通にしてればかわいいのに」小鳩「ふぇ!?」ドキッ


743 名前:SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga] 投稿日:2011/12/12(月) 23:12:25.81 ID:xVfIVZpAO
土まみれの骸骨『……』ガシャッ

地中から這い上がった骸骨は、背負っていたつるはしを下ろすと、うなだれたまま動かなくなった

縄を張っていた骸骨も、俯き加減の姿勢をとると、再び動かなくなった

土まみれの骸骨『…………』


身体を休める木陰も、永久の眠りにつく墓もない廃墟


少女『……よし』

少女は、せめて、この勤勉な死者達に手向ける花を咲かせようと心に決めた


744 名前:SS速報でコミケ本が出るよ [saga] 投稿日:2011/12/12(月) 23:21:59.48 ID:xVfIVZpAO
少女『あの、降りてもいいですか?』

縄を垂らす骸骨『……』

少女『大丈夫かな……さっきみたいにしっかり持ってて欲しいけど……』

縄を垂らす骸骨『……』

正面から話しかけても、相変わらず骸骨は無反応だった

骸骨同士にも会話はなく、ただ同じ行動を繰り返しているように思える

少女『ひょっとして……』クックッ

二回引っ張るのが縄を張る合図と見て、少女も真似をする

縄を垂らす骸骨『……』

が、骸骨はうなだれたまま


745 名前:SS速報でコミケ本が出るよ [saga] 投稿日:2011/12/12(月) 23:29:40.43 ID:xVfIVZpAO
少女『駄目かぁ』

トントン

少女『え? わぁ!?』

土まみれの骸骨『……』スッ

少女『……ひょっとして、これを持ってけと?』

土まみれの骸骨『…………』

骸骨は少女につるはしを差し出した

穴に入るなら続きを掘れと言っているのか……

何にせよ、この廃村に来て初めて骸骨達が少女に対して起こした行動だった



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