■戻る■ 下へ
召喚士「行けっ!コカトリス!!」 その36
- 671 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga]
投稿日:2012/02/07(火) 18:16:22.45 ID:BxrQWjFvo
〜北の森、入り口〜
盗賊「はあぁーっ!!」
スケル「フンッ!」バチィッ!!
召喚士「それで、このまま投げ込めばいいんですか?」
天才「こっから真っ直ぐな。位置はさっきと同じ程度」
召喚士「さっきってどの辺ですか?」
天才「しっかり見とけよ!」
召喚士「そんな事言われても……盗賊さんの蹴りも一瞬でしたしこっちも交戦中で……」
天才「じゃあテキトーでいい! とにかくさっさとしやがれ!」
召喚士「……」
魔道士「ス、スフィンクスくんっ! それじゃ投げて!」
スフィンクス「はーい!」ブオンッ!!
召喚士「あ……」
天才「まーいいよ。角度的にあんなもんだろ。つーか、アイツらまだ仕留めてねーのかよ」
召喚士「こっちも援護に回りましょう」
- 672 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:17:19.43 ID:BxrQWjFvo
〜北の森〜
ォォォォオオオオ……ガサガサガサッ!!
皇太子「来たかっ」
ドシャアアアアァァァァ!!
ゴルリン「…………」
占い師「石像!?」
皇太子「これは……」
バフォメット「……ファファファ」
ズズッ シュウウゥゥゥゥ……
皇太子「反応したか。どうやら外で石化させられた魔物のようだな」
バフォメット「……排除する。ファファファ!」
皇太子「今だっ!!」グアッ
占い師「大丈夫ですっ! こっちには仕掛けてこないっ!」
皇太子「はああぁぁぁぁーっ!!」
ズガシュウウゥゥゥゥ!!
- 673 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:17:52.73 ID:BxrQWjFvo
皇太子「……」スタッ
占い師「……」
バフォメット「……ファファファ」
皇太子「駄目か……っ」
占い師「いやっ、でも……!!」
バフォメット「……ファファ……ファ」
ブシュウウゥゥゥゥ……
占い師「魔物から霧のようなものが漏れていますよ!」
皇太子「仕留めてはいないが、攻撃は効いたという事か」
バフォメット「……ファ……ファ……ファ」
ズズウウウウゥゥゥゥ
皇太子「ぬっ?」
占い師「あぁっ!!」
皇太子「木々が腐り果ててゆく。これは……」
ジュッ!!
- 674 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:18:24.28 ID:BxrQWjFvo
皇太子「まずいっ! 退がれ!」ババッ
占い師「!?」
ゴロゴロゴロッ……ジュウウゥゥ
占い師「マントがっ!」
皇太子「どうやらあの霧は、触れるものを腐敗させる力があるようだな」
バフォメット「……ファ……ファ」
ズズッ……シュウウウウゥゥゥゥ
占い師「も、戻った……っ」
皇太子「……」
占い師「でもっ、霧は出続けている……っ」
皇太子「君はもっと後ろに退がっていたほうが良さそうだな」
占い師「……っ」
皇太子「案ずるな。次で……決める!」ジャキッ
バフォメット「……ファファ……ファ!」
皇太子「さぁ、来るがいい。バフォメット!」
- 675 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:18:59.96 ID:BxrQWjFvo
〜北の森、入り口〜
スケル「ゴルリンまでもが……うおのれええぇぇーッ!!」
ズバババババッ!!
スケル「ならばっ、これならどうかぁ!!」
ガシャガシャガシャガシャッ!!
帝「腕が八本に!?」
スケル「そらそらそらそらアアァァ!!」
戦士「ぬぐっ、これは流石に……シンドイか……っ」
盗賊「手を貸す!」シュバッ
ズガガガガガガガガッ!! キィンキィンッ ガキイイィィン!!
スケル「どうしましたぁ!? 2人がかりで……防ぐのに手一杯ですかぁ!?」
帝「もう一人居る事を忘れては困るぞっ!」バッ
スケル「――ッ!?」
ズガシュウウゥゥゥゥ!! ガッシャアアァァ!!
帝「……ふーっ」スタッ
- 676 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:19:50.95 ID:BxrQWjFvo
盗賊「お見事っ」
戦士「今のうちにトドメだ!」
召喚士「了解っ!」
コカトリス「食らえい!」
ババッ!!
スケル「……カアアアアァァァァ!!」
召喚士「!?」
帝「しゃれこうべが飛んだっ!?」
ボフウウウウゥゥゥゥン
盗賊「しまったっ、毒だ!」
召喚士(上様だけは……っ!!)
ドンッ!!
帝「ごほごほ……っ!?」
天才「何をやってんだこのボケ!!」
召喚士「……っ」ドシャッ
- 677 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:20:27.17 ID:BxrQWjFvo
スケル「アーッハッハッハッハァ! 馬鹿馬鹿ッ、ほんと馬鹿ッ!」
天才「そのドクロの言う通りだ。油断しやがって……」
帝「違う……っ、私の責だ。召喚士は私を庇って……」
戦士「何でもいいから奴の動きを止めろぉ!!」
魔道士「よくも……召喚士さんを!!」
ドッドオオオオォォォォン!! ギッキイイイイィィィィン!!
スケル「ガ……ガカ……ッ」ピキイィ
魔道士「召喚士さんっ!」タタッ
コカトリス「やれやれ」
戦士「どうするんだ?」
コカトリス「こうするのだ」
ドスッ!!
魔道士「!?」
盗賊「なるほど。毒を以て毒を制す……か」
天才「ハーッハッハ! まさに文字通りそうなってりゃ世話ねーわな」
- 678 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:21:11.17 ID:BxrQWjFvo
召喚士「……う……ぐっ」ヨロッ
コカトリス「大丈夫か?」
召喚士「コカトリスの解毒か。ありがとう……あっ、魔物は!?」
戦士「後ろで氷漬けにされてる」
召喚士「……す、凄い氷壁……っ」
天才「おら、さっさと今のうちに石化しろ」
召喚士「は、はいっ」
ゴゴオオオオォォォォ……
帝「すまぬ……召喚士」
召喚士「いやっ、こちらこそすみません。突き飛ばしてしまって……」
天才「反省は後回しだ。ほれ、サッサトコイツを始末しろい」
召喚士「さっきと同じように、森に放り込めばいいんですよね?」
天才「ああ。これでしくじるとどっかから魔物を攫って来るハメに遭う。万全を期すとすっか」
盗賊「……?」
天才「先にもいっちょ信号を送る。そしたら10秒後に放り込め。いいなっ!」
- 679 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:22:01.28 ID:BxrQWjFvo
〜北の森〜
ブシュウウウウゥゥゥゥ……
占い師「陛下っ、もう少し退がられた方が……」
皇太子「外部からはまた、ここに着地点を合わせているだろう。下手に動けぬ」
占い師「でも……っ」
皇太子「……」
ジュウウゥゥゥゥ
皇太子「甲冑まで腐敗させるのか。恐ろしいものだな」
バフォメット「……ファ……ファファ」
チカチカッ チカチカチカッ
皇太子「……?」
占い師「また……暗号がっ!」
皇太子「……『これでラスト。これの10秒後に放る。しくじんじゃねーぞ!健闘を祈る!』、か」
占い師「10秒……っ」
皇太子「いよいよこれが正念場。しくじるわけにはいかぬな」カチャッ
- 680 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:22:59.31 ID:BxrQWjFvo
バフォメット「……ファファファ」
皇太子「……6……5、4、3」
占い師「……っ」
皇太子「……今だっ!!」ズザッ
ォォォォオオオオ……ドッシャアアアアァァァァ!!
森の木々を突き破り、投石器より放たれた岩石のように墜落したスケルトンの王。
バフォメットは対峙する皇太子と占い師に背を向けて、スケルの石像へと近づく。
既に走り出していた皇太子は、霧散に触れぬよう掻い潜り、討つべく魔物を目の前に捉える。
バフォメットがしゃがみこみ食事を始めると、再び山羊の姿へとその頭部が変わった。
皇太子は王家に代々伝わる長剣を身体の右方へと振り構え、突進する。
黒い霧が兜や鎧を錆びさせ、解かし、腐らせる。それでもその歩みは止まらない。
距離が近づけば霧は増す。濃霧と化した邪悪なるものがガントレットや甲冑の装飾を腐らせる。
それでも皇太子は無言のまま止まらず、魔道士フォメッとめがけ剣を水平に振りぬいた。
山羊の頭部が宙をくるくると舞う。月夜に照らせれては影に消え、そして繰り返す。
最後の月明かりを受けた山羊のそれは、闇の中に落ち、転がり消えていった。
- 681 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/07(火) 18:23:44.64 ID:BxrQWjFvo
ザシャアアアアァァァァ!! ズザザァ!!
皇太子「……ぐ……くぅ!」ズザッ
占い師「陛下っ!!」
皇太子「まだ来るなっ! まだ……終わったわけではない」
占い師「……っ」
ブシュウウウウゥゥゥゥ
首のないバフォメットはしゃがんだまま微動だにせず、霧状に蒸発を始めている。
立ち上る濃霧は木を蝕み、葉は枯れ、草はその面影をなくしていた。
皇太子は傷付いた手首を押さえながら後ずさりし、占い師の前へと立つ。
皇太子「どうやら……終わりのようだ」
占い師「はい……っ。でも陛下が……」
皇太子「この程度で怪我などとのたまっていては前線で戦う兵に笑われてしまう」
占い師「……っ」ギュッ
皇太子「……?」
占い師「何も出来ない自分が……不甲斐ない……っ」ポロポロポロッ
皇太子「泣く事はない。君の手から伝わる暖かさが、痛みを和らいでくれている」
気付くとバフォメットは完全に姿を消し、周囲を腐敗させた霧もまた、晴れていた。
- 687 名前:NIPPERがお送りします(東京都) [sage] 投稿日:2012/02/07(火) 21:00:17.25 ID:VNqNRJyl0
>>1 おつ
魔道士フォメットのおまけ楽しみ^^
- 698 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/02/08(水) 07:27:33.92 ID:FlQlWF6IO
魔道士フォメッとのサイドストーリーまだー?
- 701 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:41:19.89 ID:VBt3F8Syo
サアアアアァァァァ……
皇太子「さて、外で待つ皆の下へ戻るとしようか」
占い師「……はい」
ザッザッザッ ドサッ
皇太子「……?」クルッ
占い師「…………」
皇太子「占い師!!」ザザッ
占い師「…………」
皇太子「息はある。外傷は恐らくないはずだ。……予言の反動による疲労か」
気を失い倒れた占い師を背負い、皇太子は再び足を進める。
皇太子「……」ザッザッザッ
やがて皇太子の目の前は真っ黒となり、全身の痛みが徐々に大きくなり始めていた。
皇太子「う……むぅ……っ」
ヨロヨロッ……ドシャッ
2人は覆いかぶさるように、草の上に意識のないままうつ伏せに倒れた。
- 702 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:41:47.09 ID:VBt3F8Syo
〜北の森、入り口〜
天才「遅っせぇ」
魔道士「確かに遅いですね……。大丈夫でしょうか?」
帝「まさか、何かあったのでは……」
天才「仕方ねぇ。行ってみるしかねぇか……」ザッ
戦士「おいおい、バフォメットが健在だったらどうすんだよ? 俺が行く」
盗賊「私の速さならば振りきれるやもしれん。私が行く」ズイッ
帝「お主らはまだこの後も大きな役割を担うのであろう? ならば私が行こう」
魔道士「そうはいきませんよっ! それだったら私が……」
召喚士「じゃあ俺が行きます」
天才「どうぞどうぞ。朱雀先生が行ってくれるそうだから、お前らは安心して待機!」
召喚士「――!?」
天才「ほれ行くんだろ? 早く行けよ」
召喚士「……」
天才「……何だよ」
- 703 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:42:16.70 ID:VBt3F8Syo
召喚士「いえ、別に……」
ザッザッザッ……ザッ
召喚士「……ふーっ」
天才「あれじゃねーの? バフォちゃん出た瞬間、上空に逃げたら?」
召喚士「出来たらやってますよ……」
コカトリス「この森は特殊だ。上空を飛行する事は困難極まりない」
天才「そうか……それは残念だ……」
召喚士「……」
スタスタスタ……
召喚士「……よし。行きます!」
ドンッ!!
召喚士「わああぁぁー!! おっ、押さないで下さいよっ!!」
天才「行くっつったろーが!」
召喚士「だからって、心の準備ってものが――」
天才「うるせーなぁ。はよ行け」ドンッ!!
- 704 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:42:48.13 ID:VBt3F8Syo
召喚士「!?」
ガサガサガサッ……ゴロゴロッ
召喚士「……はっ!!」ババッ
コカトリス「身構えるな。大丈夫のようだ」
召喚士「……ふーっ」
天才「おーい! 生きてっかぁ〜?」
召喚士「生きてますよっ!!」
天才「生きてるみてーだぞ?」
戦士「当たり前だ!」
天才「んじゃ俺様も行ってくっから、お前らここで待ってろ」
帝「任せて良いのか?」
天才「様子を見に行くだけだ。それに、もうじき来んだろ」
ザッザッザッ
魔道士「行っちゃった……」
盗賊「ここで待つとしよう」
- 705 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:43:23.43 ID:VBt3F8Syo
ガサッ
召喚士「!?」ビクッ
天才「どうだ?」
召喚士「……見てください……これっ」
天才「森が腐ってやがるな。何があったんだ?」
召喚士「分かりません。来た時には既に……」
天才「……」
腐敗した森の中。天才はしゃがみ込み、無言で枯れ果てた草を拾い上げ、見つめる。
召喚士「この奥に続いてますね」
天才「バフォメットの能力か何かか。気をつけろ、万が一もあるかもしんねーぞ」
召喚士「ええ……っ」
天才「にしちゃ、何の気配も威圧もねーけどな」
召喚士「そこなんですよね。それが気になって……」
天才「止まれぇ!!」
召喚士「!?」ピタッ
- 706 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:43:51.25 ID:VBt3F8Syo
ザッザッザッ
天才「……バフォメットじゃなさそうだな」
召喚士「何か倒れて……あぁっ!!」
天才「2人して何やってんだか……」ザッザッ
召喚士「ぶ、無事ですよね!?」
天才「皇太子は多少怪我しちゃいるが、命に別状はねぇだろうな」
召喚士「占い師さんは……?」
天才「気ぃ失ってるだけだ。心配ねぇ、連れて戻るぞ」
召喚士「は、はいっ。先に治癒しますか?」
天才「傷口だけ塞いどけ。あとは召喚獣にでも乗せてさっさと引き上げだ」
召喚士「了解です。行けっ、シービショップ! ユニコーン!」
シュイイィィィィン
シービショップ「……何じゃ、辛気臭い場所じゃのぉ」
ユニコーン「ほんとだぁ……っ。なんだか嫌なカンジー」
召喚されたシービショップが皇太子の傷口を塞ぎ、ユニコーンが2人を背に乗せ、森を後にした。
- 707 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:44:24.90 ID:VBt3F8Syo
…
ザッザッザッザッ
魔道士「帰ってきましたっ!!」
盗賊「!?」
天才「そっちはどうだ?」
盗賊「いや、まだだ」
戦士「おいおいっ、2人は大丈夫なのか!?」
召喚士「うん。大丈夫だよ。心配ない」
帝「ん? おぉ、丁度良いところで来たようだぞ」
天才「ハーッハッハ! ナイスタイミング」
ドドッドドッドドッ……ドドォ
東方司令「お師匠、首尾は?」
天才「バッチリ……とは言い難いか。まぁ作戦は成功だ」
名代「上様もご無事で何より」
帝「ああ。正直なところ、多少不安ではあったが、皆のお陰で何事もなく終える事が出来た」
- 708 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/08(水) 14:44:56.76 ID:VBt3F8Syo
パッカパッカパッカ……
将軍「これは天才様に朱雀先生一行! ご無沙汰している」
魔道士「将軍さん!」
東方参謀「陛下はご無事なのか?」
戦士「ああ、軽傷だ。今は気を失っているだけみてぇだが」
天才「とりあえず寝たままで構わねーから、エリートか青年兵んとこまで連れてってくれ」
東方司令「……了解」
天才「俺様とコイツらと占い師は、このまま森の中に行く。そっちは頼んだぞ」
東方参謀「任せておけい。このまま敵を殲滅しながら、川中島を目指す」
帝「東方軍も負けてはおられぬ。我らの強さ、存分にみせてやろうぞ!」
槍侶「おぉーっ!!」
天才「おーし。んじゃ行くぞ! ある意味こっからが本番だからな」
召喚士「名代さん、青年兵くんに座敷を預けてあります。いざという時は……」
名代「承知致しました。……お気を付けて」
召喚士「はいっ。皆さんも!」
- 713 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/02/08(水) 17:03:08.55 ID:m+W4U3cIO
乙フォメット。
これは流行らない
- 730 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/09(木) 18:02:41.20 ID:RlrsU4Qho
……――
皇太子「……どこだ……ここは」
ザッザッザッ
皇太子「……!?」
ザッザッザッ
皇太子『君は誰だ?』
皇太子「私は私だ。貴様こそ何なのだっ、私の姿を真似て、動揺でも誘うつもりか?」
皇太子『違う。私は君だ。そして君は私でもある』
皇太子「意味が分からないな。理解に苦しむ」
皇太子『自分自身から目を逸らすつもりか?』
皇太子「そうではない。そのような惑わしには騙されぬと言う事だ」
皇太子『それが逃れではなく何だと言うのだ? 君はいつもそうだな』
皇太子「何が分かる」
皇太子『分かるさ。言ったであろう? 私は君なのだ』
皇太子「黙れ! いい加減にせぬか!」
- 731 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/09(木) 18:03:21.06 ID:RlrsU4Qho
皇太子『何故、怒りを示す? それは己への怒りだぞ?』
皇太子「降らぬ茶番に付き合っている暇はないのだ」
皇太子『茶番?』
皇太子「私にはまだ、やらねばならぬ事があるのだ」
皇太子『魔王討伐か? 君のような者に何が出来るのだ?』
皇太子「私が未熟である事は百も承知。それでも役に立てる事とてあるだろう」
皇太子『本当にか? 君に何の力がある? ただ、他者と違う身分が保証されているだけだろう?』
皇太子「もしそうだとしてもだっ、私は――」
皇太子『剣も未熟。魔力も無し。そのような身でどう貢献するのだ?』
皇太子「無能だから何もしなくて良いなどと、そんな道理はない」
皇太子『自ら無能と認めるか』
皇太子「ああ無能さ。だからどうした? それでも私は私だ」
皇太子『力が欲しいか?』
皇太子「当たり前であろう。誰しもがそう望み、努力し、開花させるのだからな」
皇太子『君は私だ。私を欲すれば、力を与えよう』
- 732 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/09(木) 18:03:55.45 ID:RlrsU4Qho
皇太子「何……?」
皇太子『力が欲しくないのか?』
皇太子「……」
皇太子『さぁ、手を差し伸べよ』
皇太子「……君は先程、逃げるなと申していたな?」
皇太子『ああそうだ。逃げずに私を欲するのだ』
皇太子「何度も言うが、私は逃げてなどおらぬ。常に自分自身と戦っているさ」
皇太子『そうか。ならば自分自身を取り込むが良い』
皇太子「違う。君は君だ。私ではない。私は私の中に居るのだ」
皇太子『何を申している。この姿、見えぬのか?』
皇太子「私は本国国王、皇太子だ。仮に君が私であろうと、私は私以外の力は借りぬ!」
皇太子『……』
皇太子「これ以上私を惑わすつもりならば……問答無用で斬り捨てる!」ジャキッ
皇太子『……貴様』
――「よう言った。見事見事かな」
- 733 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/09(木) 18:04:41.28 ID:RlrsU4Qho
皇太子「……?」
――「お前は弱くなどない。寧ろ強者かな」フッ
皇太子「!?」
己の身に覆いかぶさるように、突如、現れた白髪の老人。
皇太子が皇太子に突きつけて握る剣の柄を、手を添えるように被せる老人。
しかしその手や顔、姿は透けており、幻覚かこの世のものとは思えない様相であった。
皇太子「な、何が起きているのだ……っ」
――「こりゃあ何度も何度も直しては使って繰り返しておるかな」
皇太子「……?」
――「ワシが使っていた頃の面影など、王家の紋章くらいなもんかな」
皇太子「!?」
――「魔力が無いなど恥じる事ではない。寧ろ、誇らしく思えるかな」
皇太子『私を誑かすのはやめよ。貴様は何者だ』
――「お前こそ誑かすのはやめぬかな。彼はもう全て、分かっているかな」
皇太子「貴方が何者かは、私は知らない。しかし、貴方には何か、不思議と……」
- 734 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/09(木) 18:05:34.84 ID:RlrsU4Qho
――「多くは語らずかな。君は君の思う道を信じて行くだけかな」
皇太子『忌々しい奴だな。斬り捨ててくれようぞ』チャキッ
――「お前の剣からは何も感じない。即ち、それは紛い物かな」
皇太子『……何?』
――「我が聖剣の魂を感じぬかな。故に、紛い物だと言っているかな」
皇太子「我が聖剣……? あ、貴方は……」
――「言ったであろう、多くは語らないかな。さぁ、自分を断ち切るかな」
皇太子『おのれ……無礼者め!』
皇太子「自分を……断ち切る」
皇太子『私は君だぞっ、自分を斬るなどと――』
ザッシュウウウウゥゥゥゥ!!
皇太子『……バカメガ……ッ。チカラヲエラレタトイウノニ……ファファ……ファ――』
ズシュウウウウゥゥゥゥ……
皇太子「……私は私だ。力など、自分の手で手に入れてみせるさ」カシャン
――「見事かな見事かな」
- 735 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/09(木) 18:07:07.87 ID:RlrsU4Qho
スウウゥゥゥゥ……
皇太子「ご老人、貴方は何者……」
――「自分に自身を持つ事かな。魔力が無い事はお前の武器かな」
皇太子「武器……」
――「魔力が無かったからこそ出来た事もあるかな。世界に1人だけの、唯一無二の武器かな」
皇太子「……成程。そういう発想もある、か」
――「そして、王に生まれた事こそ、最大の武器かな」
皇太子「……」
――「王には王の、平民には分からぬ苦しみがるかな」
皇太子「……」
――「しかし、王もまた唯一無二の存在かな。お前の所業で国が、世界が変わるかな」
皇太子「まさにその通り」
――「今は王である事を誇りに思うかな。王はまだ、世界に必要かな」スウウゥゥ
皇太子「ご老人っ! 貴方はまさか……聖――」
――「良きかな良きかな」
- 736 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/02/09(木) 18:08:04.15 ID:RlrsU4Qho
――……
皇太子「……」パチッ
帝「気が付いたか?」
皇太子「……ここは」
帝「馬車の中だ。馬車は既に戦地へと向かっておる」
ドドッドドッドドッ
将軍「陛下っ! お身体などはご無事で!?」
皇太子「ああ、世話をかけたな」ググッ
帝「あまり無理をなさるな。今しばし横になっておると良い」
皇太子「天才らは、森へ残ったのか?」
帝「うむ。陛下に感謝を述べておられたぞ」
皇太子「感謝か、たまには黙って、感謝されておくとするか」
帝「……?」
皇太子「さて、次の戦場ではゆっくりなどしておる暇はなさそうだな」
将軍「ええ。小覇王のお手並み拝見ですぞ!」
次へ 戻る 戻る 携 上へ