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少女『言葉が通じなくても』
- 907 名前:GEPPERがお送りします [sage saga]
投稿日:2011/01/07(金) 13:10:09.49 ID:CVdJhQAO
…
塔に入ると螺旋階段があった
他には何も無く、ただただ登る以外になかった
少女『どこまで続くんだろう…』カツーン カツーン
外から見上げた時もえらく高いと思ったが、実際に登ると、塔が途方も無く大きいように感じた
少女は、侍と旅を始めたばかりの事を思い出した
地下牢から脱出する時に登った螺旋階段
僅かな灯りを頼りに地上を目指した時のこと
ただ怖くて侍の手を握っていたこと……
- 908 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 13:14:48.29 ID:CVdJhQAO
少女『…』カツーン カツーン
侍『…』カツーン カツーン
二人の足音だけが響く
入口から差す星明かりがとどかなくなり、闇の中壁伝いに歩を進める
少女の手はじっとり汗ばんでいた
カツーン
カツーン
少女は思った
今、自分はどうして前を歩けるのだろう……と
- 909 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 13:22:34.49 ID:CVdJhQAO
私は……決して強くなった訳じゃない
今だって、前が見えない事に不安を感じている
でも―
不安や恐怖以上に身体の底から湧いてくるあたたかさ
それが私の背中を押してくれる
だから……不安も、恐怖も、苦痛も、乗り越えられるんだ
カツーン
少女『お兄さん』
いつしか二人は螺旋階段の終点に着いた
錆び付いた扉の前で、少女が侍に向き直り
少女『……手、繋いでもいい?』
控え目に手を差し出した
- 910 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 17:21:21.29 ID:CVdJhQAO
侍「…」
侍は少女と旅を始めたばかりの頃を思い出した
地下牢から脱出する時に共に登った螺旋階段
侍の手をぎゅっと握っていた少女と、汗ばんだ自分の手…
人間、誰しも恐怖を持っている
それは時に自制の為の、時に失う事への、或いは死に対するものかもしれない
しかし、出会った頃の少女の恐怖心は、もっと別なものだった
- 911 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 17:29:52.79 ID:CVdJhQAO
形なき恐怖
自分の住む世界と愛する人達を一度に失い、悲しみでひび割れてしまった心
癒やし難い傷は事ある毎に少女を苦しめ、少女の心を臆病にしてしまった
いや、
侍「私もまた、臆病だったのだ……」
国を逐われた時から
村を失った時から
父の足が不自由になった時から―
私の心はずっと孤独で、臆病だった
- 912 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 17:33:05.81 ID:CVdJhQAO
侍「…娘よ」スッ
差し出された手を、侍はそっと包んだ
少女の手は小さく、柔らかで、少し汗ばんでいた
侍「ありがとう。私は……私も、もう孤独じゃない」
柔らかく微笑む侍の手を、少女は優しく包み返した
- 913 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 17:42:23.67 ID:CVdJhQAO
……
ギッ… ギギィィ……
扉を開けると―――丘の上だった
少女『…あれ? なんで地上に―』
『なッ!? なんという事だ!』
突然の大声
暗くて気付かなかったが、少女達の正面には若い男女がいた
男『厄星の塔の封印が解けるとは…ッ!』
- 914 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 23:13:47.26 ID:CVdJhQAO
『ホ!ホ! 運命を変えるなど、人間には到底無理な事だったのだ!!』
不快な、しかし聞き覚えのある声に振り返ると、老商人が塔から出てくるところだった
男『彼らを騙して封印を解かせたな…!』ギリッ
老商人『とんでもない! ワシはここに案内しただけじゃ!』ニィ
ドカァッ ガラガラガラガラッ
老商人が歪んだ笑みを浮かべた途端、塔は音を立てて崩れ去り、跡形もなく消えてしまった
女『塔が!?』
老商人『さあ! 悲劇の続きを演じなさい!』グニャァァ
- 915 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 23:19:46.50 ID:CVdJhQAO
一瞬にして天は赤黒く染まり、血生臭い空気が四人を包んだ
少女『これは…!?』
男『あいつは災厄を司る星神! 君達を利用して封印を解かせたんだ!』
少女『そんな!? 私達はただ塔を登っただけで…』
女『最後の扉を開ける、それだけで星神には十分だったんです!』
災厄の星神『ホ!ホ!ホ! 望み通り星を見せてやろう!!』ズズズッ
霧とも陽炎ともつかぬ朧気な、それでいてはっきりどす黒い存在が、少女達に立ちはだかった
- 916 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 23:33:24.12 ID:CVdJhQAO
男『姫! もう一度封印を!』チャキッ
女『はい!』スッ
男『はぁぁッ!』ダッ
災厄の星神『愚かな!』グッ
グキュッ
災厄の星神が手のひらを握る仕草をすると、何か―肉の潰れる様な―嫌な音がした
男『――ッ!?』ゴポァ
ビチャビチャッ
音の直後、災厄の星神に突進していた男は突然崩れ落ち、血の塊を吐き出した
女『王子!?』
災厄の星神『ホ!ホ! 星々に愛されていようと、運命をここまでねじ曲げれば、必然力は弱まる!』
- 917 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 23:46:11.06 ID:CVdJhQAO
女『王子! しっかりして!』
男『姫…! 私はいいから……ガハッ フウイン…!』
災厄の星神『おお、可哀想な王子様。すぐに姫にもお揃いの不運を差し上げますよ』ニィィ
顔の無い黒煙が口を裂いて笑う
女『くっ!』スッスッ
災厄の星神『ホ!ホ! 姫様、急いで急いで!』ググッ
黒い手のひらが少しずつ閉じゆき、
災厄の星神『まずは姫様の御退場だ!!』グッッ
男『やめろォォォオッッ!!』
「瞬く事―」
- 918 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 00:11:04.79 ID:RdCkC.AO
禍き夜に、一瞬星が煌めいた
彗星よりも速く、明星よりも強く、天狼よりも静かに
侍「―星の如し」カチンッ
災厄の星神の片腕は霧散し、虚空に消えた
災厄の星神『……』
ザッ
少女『あなたの好きにはさせない…!』
少女は侍の前に、災厄の星神に対峙する
その「不運」に顔は無かったが、瞳は侮蔑に燃え、少女と侍を睨んでいるように見えた
- 919 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 00:38:48.68 ID:RdCkC.AO
災厄の星神『ホ!ホ! お嬢ちゃんには恩があるからね、手を出すなんて真似はせんよ』
黒煙から下卑た声が上がる
斬り飛ばされた片腕は事無げに再生し、顎を撫でる真似をした
災厄の星神『見たところ、放っておいても災厄に見舞われる星回りじゃし』
災厄の星神『そうだ! ワシがあいつらをなぶり殺す邪魔さえしなければ、お嬢ちゃん達の不運を帳消しにしよう! どうじゃ、いい取引じゃろ?』
災厄の星神は心底楽しそうに語りかける
その声色は、少女が聞いてきた何よりも邪悪という表現が似合っていた
- 920 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 01:19:52.40 ID:RdCkC.AO
少女『不運を帳消し……?』
災厄の星神『そうじゃ。お嬢ちゃん達はこのままいくと、この世のあらゆる不幸、七難八苦を受け惨たらしい死に方をする運命にある』
災厄の星神『そんな事にならないよう、この厄星が常に見守ってあげるから安心しなさい』
少女『……そう、ありがとう』
災厄の星神『いやいや、これは正当な取引―』ニィィ
少女『困難な道が待っているって、教えてくれてありがとう』
災厄の星神『…なに』
少女『七難八苦を越えて行くんだから、先ずはこの試練を越えなきゃね!』
- 921 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 01:46:57.83 ID:RdCkC.AO
災厄の星神『愚かな! 自ら不幸を望むとは余程の……!!』ハッ
少女と侍に出会った場所
そこは「余程の変わり者」でなければ通らない場所
標も道も無く、確かな事など何一つ無い場所に、二人は現れた
災厄の星神『そうか……死運が巡ってきたのはワシの方だったのか』
黒煙から火の手が上がり、土留色の炎が爆ぜる
腐臭が渦巻き、肌や目を襲った
災厄の星神『ならばワシも運命をねじ曲げよう!! 全ては滅びより始まるのじゃ!!』
- 922 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 02:08:08.63 ID:RdCkC.AO
憐憫な陰を映す巨大な土留色の炎
禍々しいそれに対峙して尚、少女は強く在った
災厄の星神『ナゼだ! ワシを目の前にしてナゼそんな目がデキる!?』
たった一人の少女に、災厄の星神は身動きが取れずにいた
少女『いくよ。幸せも不幸も全部連れて私達は生きていく!』ザッ
一歩
また一歩
少女は炎に向かって歩いて行く
炎はじりじりと後退し、とうとう崖淵に追い詰められた
災厄の星神『あり得ん! ワシが小娘ひとりに負けるなとあり得んのじゃ!!』ゴウッッ
- 925 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 21:32:58.34 ID:RdCkC.AO
少女を飲み込まんと邪悪な炎が黒煙を上げ、死の灰を降らせる
その凄まじい熱で大気が爆ぜ、上天が焦げた
ゴウッッ
災厄の星神『滅びよッッ! 星が運命だと告げている!!』
災厄の星神の両腕が四人を襲う
少女『私は運命を何かに委ねたりしない!!』
少女が両腕を広げ災厄の星神に立ちはだかる
その姿は災厄を跳ね退ける盾というよりも、未来に向かって飛び立つ翼に見えた
- 926 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 21:58:23.45 ID:RdCkC.AO
男『お嬢ちゃん!』
女『逃げてぇぇぇ!!』
少女『運命は私に依って開ける――!』
ゴウッ―――――
――――――ジュゥゥゥウウ……ッ
悲運の炎は少女の眼前で光となり、風に乗って散った
災厄の星神『ばっ、馬鹿な!? 何故運命を打ち破れる!!』
キラッ
星々の光が強く地上に降り注ぎ、災厄の星神を貫いた
災厄の宿命『ぐぅうっ!? ワシがおらずとも人間は互いに災いし合う愚かな種族ぞ! 何故それほど肩入れするッ!』
災厄の星神『小娘! お前も同じ人間に家族を殺されただろ!! 自らの命を賭してまで何故守る! 答えろォ!!』
禍々しい慟哭が夜を貫く
少女『…私が怨み憎んでも、お父さんお母さんは帰ってこない』
少女『私は――失った悲しみも引き連れて未来に進んでいく!』
- 927 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 22:03:45.14 ID:RdCkC.AO
災厄の星神『……』
ザッ
女『…星神様』
災厄の星神『……なんだ』
男『今度こそお別れだ』
災厄の星神『……どうかな?』
女『……』
災厄の星神『何度封印しようが、ワシは蘇る。災いも又摂理なのじゃ』
男『…違いない』
- 928 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 22:15:10.40 ID:RdCkC.AO
ザッ
侍「僭越ながら、拙者が介錯仕る」スラッ
侍が刀を抜き、上段に構える
災厄の星神『……封印ではなく、天に帰すか…。ワシの負けじゃな…』
チャキッ
災厄の星神『…神殺しか。恐ろしい男よ――』
―――ズドンッッ
- 930 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 23:32:31.04 ID:RdCkC.AO
―二人が星々に語りかけていると、ある晩夜空から声が届きました
厄星が巡ってきた
滅びの日が近い
厄星の暴虐を阻止すべく、二人は立ち向かう事を決意しました
しかし、突如現れた赤い虫の大群が世界を襲った為、軍隊はおろかひとっこ一人集める事ができません
厄星の力は強大で、たった二人の力では太刀打ちできるものじゃありません
抗い難い運命
それでも、男と女は敢然と立ち向かうのでした
- 931 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/08(土) 23:47:59.74 ID:RdCkC.AO
滅びの日
地上に災いを司る星が降り立ち、世界には死と絶望が溢れました
男と女は何度も、何度も挑みました
しかし力の差は歴然、厄星を止める事はできません
「滅びよ。星が運命だと告げている」
厄星が、世界を破滅の炎で焼き尽くさんとした、その時です
夜空の星々から光の矢が放たれ、矢は厄星の体を貫いたのです
- 932 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/09(日) 00:05:38.42 ID:ZjMMskAO
二人の強い思いは天に届き、星達を動かしました
そして、天は一対の剣と盾を二人に授けます
射抜かれた厄星は痛みに叫び声を上げ、激しく暴れました
怒りを燃やし、二人に襲い掛かる厄星
しかし、その拳は女の授かった「星の盾」を砕けません
その堅さに拳は潰れ、厄星は怯み膝を折ります
「運命は私達が開く」
男の授かった「星の剣」は厄星を切り裂きついに討ち果たしたのです
多くの犠牲を出した戦いは、ようやく終わりを迎えました―
- 933 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/09(日) 00:22:07.76 ID:ZjMMskAO
=ふたつ星=
―西の大陸に生きる者で、知らぬ者はいないであろう、世界を救った男と女の話
地域により若干の差はあるものの、概ね3つの点が共通している
「男と女、王子と姫が主人公」という事
「敵は災いを司る星、厄星」という事
そして「男と女は天に登り、ふたつ星になった」という事
ふたつ星は寄り添うように夜空に輝く星で、厄星を監視していると言われている
- 934 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/09(日) 00:51:58.43 ID:ZjMMskAO
諸説があるが、この物語には元となった国があると言われている
歴史を紐解くと、「ふたつ星」の中にあったように大国の世継ぎ同士が結婚した事例があり、丁度その時期に、虫の大量発生や疫病、天災が重なっている
だが、その説には重大な問題がある
その国の当時の資料には、男と女の他に「剣士と少女」が登場している事
加えて、男と女は厄星を「星の塔」に封印するが失敗している事
更に、解き放たれた厄星と共に現れた「剣士と少女」が厄星を倒している事
追求するときりがないが、大きく3つの点で一般的な物語と差違があり、この説は噂の域を出ない
しかし、そうなると「ふたつ星」は一体いつから語り継がれるようになったのだろう―
- 935 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/09(日) 01:01:00.08 ID:ZjMMskAO
……
男『行くのか』
少女『はい』
女『本当に……ありがとうございました』
少女『いえ、もとはと言えば私が余計な事を…』
男『いや、君が封印を解かなくとも、何がきっかけで厄星が復活していたかわからない』
女『あなた方のお陰で、厄星を夜空に帰す事ができました』
女『…それに』チラッ
男『これでようやく結婚式を開けるしね』ニコッ
少女『! おめでとうございます!』
- 936 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/09(日) 01:12:45.67 ID:ZjMMskAO
男『もし封印がうまくいってたら、私達は永遠に結ばれなかっただろう』
女『お嬢ちゃん、ありがとうね』
東の空が白み始め、間も無く夜が明けようとしている
男『お別れだ』
少女『お二人とも、お幸せに』
女『お嬢ちゃんも、』チラッ
侍『…―?』
女『頑張ってね!』グッ
少女『! いやっ、ちが―――
スウウゥ
女『いっちゃった』
男『姫、最後の最後に…』
女『フフ、王子はお似合いだって思わなかった?』
男『確かにそうだが…』
キラッ
男『おや、あんな星……あったかな』
女『あんなに寄り添って、お嬢ちゃん達みたいね』
男『ハハ、本当だ!』
- 937 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2011/01/09(日) 01:18:17.57 ID:ZjMMskAO
星の塔編終わり
思ったより長くなっちゃいました
切りもいいので、今日はここまでです
感想や指摘とかあれば、どうぞ遠慮なくお願いします
そろそろ次スレ立てた方がいいのでしょうかね?
- 938 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2011/01/09(日) 01:33:53.29 ID:eAPcTGco
乙
好きにしろ
- 939 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2011/01/09(日) 01:45:42.17 ID:ZjMMskAO
冷静に考えたら進行スピード全然早くないので1000近くまで行ってから立てます
お付き合いいただきありがとうございました
おやすみなさい
- 943 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/09(日) 03:58:24.50 ID:LKm9vMSO
この二人、行く先々で伝説や伝承を作ってやがる…
乙
- 946 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/09(日) 15:25:43.95 ID:7SdMVgDO
サークルオブマジック
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