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召喚士「行けっ!コカトリス!!」 その26
136 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:08:42.18 ID:9dT107R1o
ゴゴンッ…ギギイイィィィィ

魔道士「門が…っ!?」

戦士「お出迎え頂けるのかねぇ」

開門と同時に、その向こうより剃髪した男性が近づいてくる。

ザッザッザッザ…

僧兵「このような所に何用か」

盗賊「初めてお目にかかる。私は藤蔵の者だ」

僧兵「藤蔵の…!?というより……女か…っ」

盗賊「まずはこの書状を拝見して頂きたい」

僧兵「……私は、一回の僧にすぎませぬ」

ザッ

僧兵「中にお入り下さいませ」

召喚士「い、いいんですか?」

僧兵「拒む理由は御座いませぬ。何人も……ね」

召喚士「……」


137 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:09:36.89 ID:9dT107R1o
僧兵「どうぞ、ご案内致しましょう」

戦士父「失礼」

テクテクテクテク…

召喚士「…あれは?」

門を潜る直前、召喚士が足を止め、右方の景色を見つめて呟いた。

盗賊「……影不死だな」

魔道士「影不死…?」

盗賊「…不死山の隣に位置する…言わば双子山だ」

戦士「ふぅん」

盗賊「…不死山と違い…影不死は登山も困難と言われている」

戦士「こっちですらあれだったのに…更に困難なのかよ…っ」

盗賊「…妖は住まう地と聞く。何かあるのかもな」

召喚士「……」

戦士「触らぬ神にってやつか」

先へ進む僧兵を追うように、一同は小走りに屋内へと入って行った。


138 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:10:06.60 ID:9dT107R1o
ザッザッザッザ…

僧兵「おい……女だ」

坊主「……っ」

テクテクテク…

盗賊「……」

魔道士「な、何だか…凄い見られてませんか…っ?」

戦士「異国人が珍しいんだろ。今更だよ」

魔道士「……うぅ」

僧兵「匂いが――」

坊主「ああ…っ、服の上からでも分かる――」

戦士「…確かになんか…ぶつくさ言ってるな……」

戦士父「経というやつだ。古来からの教えを復唱しているのさ」

戦士「…ほぉ、物知りだな」

戦士父「…以前、話で聞いた事があってな」

召喚士「ふーん」


139 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:10:32.33 ID:9dT107R1o


魔道士「……おぉーっ!」

召喚士「質素かと思いましたが、意外と煌びやかですね」

戦士「金やら朱やら…むしろ派手なもんだ」

堂内に広がる絢爛な作り構え。朱に染まった柱や天井。金で塗られた像。

その様は登頂した者にしか得られない、まさに極楽といったところか。

僧兵「…こちらです」

戦士父「……」

そんな景色を余所目に、僧兵は脇の廊下を奥へと歩んで行く。

五人はただ無言で、その後を付き従うしかなかった。

スタスタスタスタ…

僧兵「……僧兵長」

廊下の途中、一つの襖の前で僧兵は立ち止まり、声を発した。

すると、中から低い男の声で、返答が帰ってくる。

僧兵長「……何かな?」


140 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:11:00.06 ID:9dT107R1o
僧兵「お客人です。何でも…藤蔵の者と」

僧兵長「藤蔵の…?ふむ、通しなさい」

僧兵「はっ。……では、どうぞ」

ススッ

盗賊「失礼致します」

襖の奥は畳十畳程度であろうか。その端にぽつりと置かれた平机。

その前にて書き物を記す、これまた剃髪した大男がこちらを振り向いた。

僧兵長「遥々このような所へ、如何なるご用かな?」

盗賊「藤蔵のお館様より書状を持参して参りました」

僧兵長「…何、藤蔵の?」

盗賊「まずはこちらをご一読頂きたく」

僧兵長「……ふむ」

盗賊の差し出す書状を受け取り、僧兵長はゆっくりとそれに目を通す。

僧兵長「……成程。槍の為にわざわざ本国から参られたのか」

戦士父「…ええ。何か手掛かりを、と思いまして」


141 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:11:35.81 ID:9dT107R1o
僧兵長「確かにここ、総本山は槍術に長けておる」

戦士父「そのようですね」

僧兵長「……しかしながら、名槍の話は存じ上げないですな」

戦士父「……」

召喚士「こちらには、ないのですか?」

僧兵長「歴史上、そのような槍も存在しなかったわけではございません」

盗賊「……」

僧兵長「しかし、近年は特にそのような事も聞きませぬな」

戦士「…まいったな。外れか」

戦士父「本国より伝わった槍です。そのような話は?」

僧兵長「本国から…ですか。やはり聞いた事はありませんな」

戦士「ちょいと失礼」

僧兵長「…?」

戦士は立ち上がり、長い布をその場で解き、中より戟を取り出す。

戦士「…この柄の部分。こういう紋章の付いているやつなんだが……」


142 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:12:21.41 ID:9dT107R1o
僧兵長「…見た事はあるか?」

僧兵「…いえっ、私はありませぬ」

僧兵長「……やはり見覚え御座いませぬ」

戦士「そっかぁ……」

魔道士「残念ですね…」

戦士父「まぁ仕方ない。他の手掛かりを探そう」

僧兵長「一応、大僧正にお話を伺いますか?」

召喚士「大僧正…?何者ですか?」

僧兵長「ここの長、法主であられるお方です」

戦士父「その方が何かご存知で?」

僧兵長「総本山を司るお方ゆえ、何か存じておるかもしれません」

戦士「なるほどな。まぁ、聞くだけ聞いてみようぜ。金がかかるわけでもないし」

召喚士「うん。そうだね」

戦士父「では、お願い出来ますかな?」

僧兵長「はい。ご案内致しましょう」


143 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:13:23.70 ID:9dT107R1o
再び場を変え、僧兵長の後に続き本堂へと戻る一同。

木作りの巨大な象の背後へ回ると、そこから奥へと伸びる一本の通路がある。

僧兵長「こちらです」

狭い通路を真っ直ぐに進んで行くと、やがて開けた小さな部屋へと辿り着いた。

僧兵長「……大僧正様」

小さな部屋の中、中央に座禅を組み瞑想する一人の老人。

大僧正「……お客人か。成程、異国の方に藤蔵の者……か」

召喚士「!?」

魔道士「な、何で……っ」

大僧正「心じゃよ。無の心を用いれば、相手の心も分かるというものよ」

ゆっくりと目を開き、大僧正と呼ばれた老人は白髭を撫でながら微笑んだ。

戦士父「初めてお目にかかります。戦士父、と申します」

召喚士「同じく召喚士です。こちらは戦士、魔道士、盗賊……」

戦士「みんな本国の冒険者だ。宜しく」

大僧正「……ふむ。どうやら帰依、などというわけではなさそうじゃの」


144 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:13:51.97 ID:9dT107R1o


大僧正「……書状は確かに、拝見させて貰ろうたぞ」

盗賊「はい」

大僧正「それで、お主は藤蔵の……」

盗賊「当主、お館様の娘にあたりまする」

大僧正「そうかそうか。あやつももう、父であったか……」

盗賊「父を…ご存知なので?」

大僧正「勿論存じておるよ。直接、関係を持ってはおらんがのう」

盗賊「そうでしたか…」

大僧正「さて、本題じゃが……お主らが探しておるような槍は、ここにはない」

召喚士「やっぱり…そうですか」

大僧正「この総本山はの、俗世とはかけ離れた場所なのじゃよ」

戦士父「……」

大僧正「そのような場に、異国の文化なぞ入ってくるわけもない」

召喚士「確かに……」


145 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:14:27.17 ID:9dT107R1o
大僧正「それに槍術と言えど、過大評価されとるだけの事よ」

戦士「そうなのか…?」

僧兵長「我らは下界に降りる事など、そうはありません」

盗賊「……」

大僧正「その通りじゃ。噂が一人歩きしている…という事じゃ」

戦士「でもよ、それだけでそんな評判になるかね?」

魔道士「そうですよっ」

僧兵長「それは、例えば帝の前にて披露したり……」

大僧正「あとは、ここより出て行った不届き者の仕業よ」

召喚士「…?」

大僧正「最初は清らかな心をして、此処を訪ねてもじゃ……」

盗賊「……」

大僧正「槍術を身に付け、己の腕を試したいと、邪な心が芽生える」

戦士父「……」

大僧正「中には下山し、その槍術を以って腕を試す者もおるのじゃよ」


146 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:14:54.14 ID:9dT107R1o
召喚士「なるほど。それが風評となって世間に……」

大僧正「悲しき事じゃ。心身を鍛える為の武術が、そのような事にのう」

魔道士「……っ」

僧兵長「我らが総本山流槍術は、命を奪う為のものではない」

大僧正「……そう。命を助ける為のものじゃ。それが古くからの教えよ」

戦士「それを破ってる奴らが、結果的にここの名を上げてるってわけか」

大僧正「皮肉なものじゃよ。悪名じゃ」

戦士父「……」

僧兵長「とにかく、お分かり頂けましたかな?」

召喚士「ええ。ここにゾディアックは存在しないと……」

戦士「結局白紙だな。本当にあるんだよな?」

戦士父「……まぁ、そういう話だがな」

戦士「……っ」

召喚士「仕方ありませんよ。次の手掛かりを探してみましょう」

盗賊「…ああ、そうしよう」


147 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:15:59.96 ID:9dT107R1o
テクテクテクテク

魔道士「色々とありがとうございましたっ」

大僧正「遥々来て下さったのに、力になれずすまんなぁ」

召喚士「いえいえ。こちらが勝手に訪ねただけですから」

戦士「……あの」

大僧正「…?」

戦士父「もし宜しければ、槍術をご披露頂けませぬかな?」

盗賊「!?」

戦士「親父…?」

戦士父「いえ、無理であらば結構。ただの興味本位ですので」

僧兵長「……い、如何なさいますか?」

大僧正「ふぅむ。しかしお主、相当の腕前とみるが。相手できる者がおるかどうか」

僧兵長「…あやつならば或いは」

大僧正「…むうぅ、しかしのう……っ」

召喚士「…?」


148 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:16:45.70 ID:9dT107R1o


僧兵長「こちらが稽古場です」

戦士父「……」

正面の鉄門を潜る事なく、砂利道を左手に曲がると、その一画は顔を出す。

正方形に囲まれた壁の中。複数の者達が長棒を手に振り回している。

召喚士「…おぉーっ」

僧兵「はぁっ!!」

坊主「ぬんっ」

ガキィ!!…ガンガンガンッ!!…ゴガッ!!

戦士「なるほどな。噂になるわけだ」

戦士父「ああ。皆、良い動きをしている」

僧兵長「……槍侶!」

名を呼ばれた一人の若い男が、駆け寄り近づいて来る。

ザッザッザッザッザ

槍侶「はいはいっ!」


149 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:17:28.13 ID:9dT107R1o
僧兵長「異国より来られし客人が、腕をみたいと申しておる」

槍侶「なんと…っ!」

僧兵長「お主、手合わせしては貰えぬか?」

槍侶「願ったりです。こちらこそ是非に!!」

僧兵長「……では、宜しいですかな?」

戦士父「ありがとうございます」

ザッザッザ

槍侶「宜しくお願い致しますっ!」

戦士父「こちらこそ」

棒を脇に挟み、胸の前で左手の拳を右手包み、一礼する槍侶。

それに応じるかのように一礼し、戦士父は足元に転がる棒を拾い上げる。

僧兵長「それでは……始めぃ!」

ザザッ

槍侶「……」

戦士父「……」


150 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:23:42.33 ID:9dT107R1o
間髪入れず唐突に始まった試合。いや、試合とはそういうものなのだろうか。

召喚士達四人はおろか、稽古の途中であった僧兵らも無言で息を飲む。

戦士父は右手で低く棒を構え、それに対し槍侶は両手で棒を握り締め、

頭上よりやや高く、己の右……眉間の辺りにそれを静かに構える。

戦士父「……」

間合いを少しずつ詰め、そして離す二人。そこで戦士父は一つ気付いた。

戦士父(……動きが…全く読めぬ…っ)

槍侶は時に身体をゆらゆらと揺らし、目線は戦士父を見ているようで見ていない。

その得体の知れぬ戦法に、戦士父は迂闊に踏み込めない。

戦士「おいおい、どうなってやがんだ……?」

召喚士「互いに……動けないようだね」

戦士父「……」

槍侶「……」

ピクッ

戦士父「!?」


151 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:24:18.00 ID:9dT107R1o
ザッ

槍侶「……」

戦士父(……フェイント。いや、一歩間合いを詰めただけか)

盗賊「…全く隙がない。いや…隙だらけなのか?」

戦士「それすらも分からねぇ…。何なんだこの感じは……っ」

僧兵長「あれこそが総本山流槍術です」

召喚士「……っ」

僧兵長「言うなれば枝より落ちる枯葉の舞う如く」

魔道士「……」

僧兵長「流れる川に浮かぶ花弁の如く」

槍侶「……」

僧兵長「その動き、読む事は困難極まりけり」

戦士「確かに…。あれはちょっとやそっとじゃ攻略出来ねーぜ」

僧兵長「中でもあの槍侶は、心技体全てにおいて秀でておる」

盗賊「……」


152 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:25:20.04 ID:9dT107R1o
戦士父「……」

槍侶「…………」

戦士父(無駄だとは思うが……)

ドンッ!!

戦士「うお……っ」

召喚士「凄い……威圧っ!」

ビリビリビリッ…ゴゴゴゴゴゴ

槍侶「……」

僧兵長「暖簾に腕押し、というやつです」

戦士「何だそりゃ?」

盗賊「…暖簾をいくら押しても…手ごたえがないって事」

戦士「なるほどな。そりゃ言えてるわ」

戦士父(やはり無駄か。押して駄目なら引くところだが……)

ズザッ

戦士父(引いたところで相手が仕掛けぬのでは…意味もないっ!)


153 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:26:34.26 ID:9dT107R1o
長らくの睨み合いから、ようやく風景に動きが加わった。

戦士父「……っ!!」

険しい表情の戦士父が右手で繰り出す突きの一撃。

槍侶はそれを表情一つ変えず、軽やかにかわす。

戦士父「……」

ビュオッ!!…シュババババッ!!

戦士父の手は止まる事なく、突きの連撃が繰り出される。

槍侶「……」

戦士「……全部…受ける事なくかわしてやがる…っ」

魔道士「す、すご…っ」

戦士父(カウンターを仕掛けてくる気配もなし。あくまで見切るつもりか)

槍侶「……」

戦士父(……ならば)

乱れ突きの動きが流動的に移り変わる。

槍侶「……っ」


154 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:27:50.57 ID:9dT107R1o
突ききった瞬間から棒を即座に打ち下ろし、その軌道を変える。

更にそれを振り上げ、今度は薙ぎ、その途中で突きへと動く。

僧兵長「……凄いものだな。棒が生き物のように動いておる…っ」

戦士父(相手の動きを読むというならば、読ませなければ良い)

言うは簡単な事だが、それを実戦するは難しいものであろう。

しかしそれを為し得るには、戦士父の技量、ただその一言に尽きる。

槍侶「……っ」

カツッ

戦士「防御に回った!?」

槍侶は初めて、戦士父の棒を己の棒で弾き防いだ。

戦士父(ここだっ!)

相手が防御に出れば、そこからは経験則がものを言う。

防御をすれば後手に回る。そこには必ず防ぎきれぬ隙が生じる。

その一点を戦士父は、数多の戦いの中から、自然に身に付け知っていた。

戦士父「はぁっ!」


155 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:28:17.74 ID:9dT107R1o
ビュオッ!!

槍侶「…………」

戦士父「……」

ズザッ

戦士父「……!?」

絶対に回避出来ない一点。そのはずであった。

戦士父(避けた……だと!?)

槍侶が防いだ棒は左膝付近への薙ぎ払い。その時、確かに動きは静止した。

そこから防いだ棒を右上部へ持ち上げる事は、常識的に考えれば困難。

戦士「マジ…かよっ」

盗賊「……っ」

左下から右上、若しくは右下への動きというものはそこまで困難ではない。

しかし左下から左上への動きというのは、身体の可動域からして

他の部分に比べると、これは容易にいくものではないはずなのだ。

しかし、棒を携えたこの若い、剃髪した男はそれをやってのけた。


156 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:29:24.33 ID:9dT107R1o
戦士父「…はぁ!」

ブオォッ!!

一瞬、戸惑いを見せた戦士父であったが、再び攻撃を再開する。

戦士父(手を休めればこちらの敗北は必死)

槍侶「……」

繰り出す攻撃を一つ一つ、まるで楽器を演奏するかのように打ち鳴らす。

甲高い棒のぶつかり合う音が稽古場全体に鳴り響く。

戦士父「……っ」

槍侶「……」

決して命のやり取りではない。しかし二人の眼差しは真剣そのものであった。

それに気圧されるかのように、周囲で見守る僧兵達は、一言も発する事はない。

ただ、固唾を飲み込み、瞬きも忘れるほど、両者の試合にのめり込んでいる。

戦士父「……はぁっ!!」

槍侶「……っ」

何十合とその攻防は繰り広げられ、ただ木が打ち合う音と風だけが耳に残る。


157 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:30:35.12 ID:9dT107R1o
ガンッ…ガンッ…ガツッ!!

槍侶「……」

目の前の猛者が振るう棒を打ち払い、槍侶は若干の焦りを覚えていた。

槍侶(……この者、どこまで無尽蔵なのだ!?)

先程から延々と繰り出される棒による猛攻。

槍侶は一撃……いや、かすりもしてはいないが額に汗を感じていた。

戦士父「はあぁ!!」

ズバババババッ!!…ブオンッ…ヒュンッ!!

槍侶「……っ」

そして足元の影に気付き、また改めて一つ気付いた。

槍侶(押されている……!?知らぬ間に……後退していた!?)

別段、このような攻撃が初めてというわけではない。

何度となく繰り返された鍛錬の中、このようなやりとりも多々あった。

しかし一つ違うのは、その攻撃が休む事無く、長時間であるという事。

槍侶(……どれだけ無尽蔵な…体力をもっているのだ…っ!)


158 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:31:15.60 ID:9dT107R1o
下界ならなんら不思議な事ではない。だが、ここは高所。それもかなりのだ。

その境遇においてこれ程までに攻撃を繰り返せば、呼吸は乱れ、

下手をすれば倒れる事すらあるだろう。それが目の前の男には微塵も感じない。

むしろ攻撃の手は徐々に速度を増しているようにすら思える。

槍侶(……いい加減に仕掛けねば、此方がまずいか…っ)

戦士父「……っりゃあ!」

攻撃が増しているように思えるのは、戦士父が速度を上げているわけではない。

槍侶が防御しつつも、徐々にその体力を失っているのである。

戦士父はその時を待っていた。槍侶が攻撃に転じるその時を。

ススッ

槍侶「……はっ!!」

一瞬、戦士父の両腕が上がり、腹部に隙が出来る。

それを逃す事なく、槍侶は棒で鋭く突きを放った。

戦士父「……」

槍侶(……何かが…おかしい)


159 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:31:51.14 ID:9dT107R1o
突きの途中、槍侶はそんな事をふと思っていた。

既に止まる事のない一撃ではあるが、どうにも不自然な状況なのだ。

何故攻撃してしまったのか。一つ言えばそれは『焦り』である。

作られた焦りの環境に、防御から攻撃へ転じてしまった。

先程まで繰り広げられていた両者の攻防は逆転している。

そんな状況こそが不自然そのものの原因であった。

槍侶「……っ」

突き切る前に、槍侶は敗北を確信した。

この攻撃は、作られた隙に焦りを見せ、打ち込んでしまった、

言わばこの試合において、最も愚策なる一手としか言い様もない。

戦士父「……ふんっ!」

そんな事を思いながら槍侶は、手にした棒が舞い上げられる光景を

ただ呆然と見上げる事しか出来なかった……。

槍侶「……参り……ました」

空を見上げる槍侶の顔は、敗北してなお、嬉しそうな笑顔そのものであった。


160 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:33:05.61 ID:9dT107R1o
カランッ…カラカラカラッ

僧兵長「……そ、そこまで…っ」

ドヨドヨドヨッ

僧兵「ま、まさか……あの槍侶を…っ」

坊主「何という……っ」

僧兵長「一応訪ねるが、他に一手交えたい者はおるか?」

その一言に返答する者は一人も居なかった。

戦士父「……いい試合であった」

槍侶「……お見それ致しました。上には上がいる者ですなぁ!」

二人は固く握手を結ぶと、ニッコリと笑顔で一礼を交わした。

ザッザッザッザ

僧兵長「……お見事でした」

戦士父「いや、勝敗はありません。どちらが勝ってもおかしくはない」

僧兵長「槍侶を負かした者は初めてですよ。それだけでも素晴らしい……」

戦士父「……どうも」


161 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:33:50.38 ID:9dT107R1o
ザッザッザ

戦士「……」

盗賊「…戦士?」

戦士「ん、あぁ…何だ?」

盗賊「……いや」

魔道士「これから、どうしましょうかね…?」

召喚士「ひとまず下山して、どうするか考えましょうか」

盗賊「…そうしようか」

ザッザッザ

大僧正「では、気を付けて帰りなされ」

僧兵長「もし何か、情報があらば藤蔵へお伝え致します」

召喚士「助かります。ありがとうございました!」

戦士父「…では」

槍侶「……また、会いましょう」

戦士父「ああ」


162 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/02/28(月) 18:34:42.58 ID:9dT107R1o
ザッザッザッザッザ

槍侶「……井の中の蛙とはまさにこの事ですね」

僧兵長「彼は戦いに身を置く者。我らのそれとは勝手が違う」

槍侶「しかし、人を助ける為の戦いです。それは正しい事では…?」

大僧正「人であれ妖であれ、命を奪うは罪な事よ」

僧兵長「その善悪、そして責を背負う心が出来たら、お主も為すが良い」

槍侶「……心」

大僧正「お主は座禅や瞑想が大嫌いじゃからの」

槍侶「ぐむ…っ」

僧兵長「一人前になりたくば、心技体を鍛錬するが良い」

大僧正「そうじゃ。戦いのみでなく、平常の心技体をじゃぞ?」

槍侶「…今日から頑張るかぁ。あの人に…勝ちたいもんなぁ」

僧兵長「…全く。お前が真面目なのは、得物を手にしている時だけだな」

槍侶「……へへっ。これからは身を改めまっす!」

開いた鉄の門は、再び下界と隔離するように閉じていった。


167 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/01(火) 08:47:50.75 ID:huHaoDPu0
質問というかチラ裏だから答えてくれなくていいんだが
世界中に存在する魔物が召喚獣として存在していたり或いは召喚獣になることはあるのかな?
これ過去スレにあるかな?


168 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/01(火) 11:39:13.21 ID:irY9Uzuno
>>167
ない
召喚獣と召喚師の住んでる世界はそもそも
別の次元だって言ってた気がするし

クジャタみたいに召喚されっぱなしの召喚獣がいたら
魔物って呼ばれることはあるかもしれんが


169 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/01(火) 12:40:41.66 ID:iS0SHFhto
一歩ごとにマグネタイトを消費する



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