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少女「治療完了、目を覚ますよ」 セカンド −オリジナル小説
- 1 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/10/27(土) 19:24:52.43 ID:bldT30xD0
オリジナル小説の続きを、思い出したかのように淡々と貼っていきます。
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1350376372/
2クール目、13話からの投稿になります。
サイコ系、ホラー要素が入った夢物語です。
「僕は逃げない。立ち向かう。僕達がこれからも人間であるために!」
――少年の叫びが張り詰めた宙を切った。
▽
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1351333492
- 2 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 19:36:16.03 ID:bldT30xD0
☆
燃える家の中に、理緒は座っていた。
その瞳は見開かれてはいたが、光を失い、焦点が合っていない。
彼女は崩れ、倒壊してくる家の中、
壁に背中をつけて小さくなっていた。
しばらくして、ドルンというエンジンの音が聞こえた。
うつろな瞳のまま顔を上げた彼女の目に、ドクロのマスクと、
ボロボロのシャツにジーンズ、
そして巨大なチェーンソーを持った男の姿が映った。
しばらく、男と理緒はただ見詰め合っていた。
「…………殺して」
理緒はそう呟いた。
- 3 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 19:36:57.16 ID:bldT30xD0
「早く私を殺して……」
光を失った瞳のまま、彼女は押し殺した声で叫んだ。
「どうしたの? どうしていつも、近づいてこないの?
どうしてそこでじっとしてるの?
殺してよ、早く私を殺してよ!」
男は動かなかった。
ただチェーンソーを回転させて、
こちらをマスクの奥の黒光りする瞳で見つめている。
理緒は頭を膝を抱き、そこにうずめてすすり泣いた。
「死にたいよ……死にたいよぉ……」
絶望しきったその声が、倒壊する家屋に響く。
顔を上げた時、そこには男の姿はもうなかった。
- 4 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 19:53:41.39 ID:bldT30xD0
理緒はぼんやりとした表情のまま立ち上がり、
燃える家の洗面所まで歩いていった。
そして、カミソリを手に取り、左手首に当てる。
そこには、沢山のためらい傷や、一文字の切り傷があった。
縫った痕もある。
彼女は腕に力を込めて、刃を細い肉に力いっぱい押し込んだ。
ブツリという嫌な音がして、皮、肉、血管、筋が断裂する。
何度も、何度も行ってきた行為。
もう慣れてしまった熱い感触。
血がたちまちあふれ出す。
意識が段々と薄れていく。
- 5 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 19:54:20.59 ID:bldT30xD0
「やだ……やだよ……」
彼女はカミソリを取り落としながら、
火が落ち着き始めた周囲を見て狼狽した。
そして腕から血を流しつつ、頭を抑える。
「やだ……もう起きたくない……起きたくない!」
火が段々と消えていく。
まるで、テープを逆再生するかのように。
理緒はその場にうずくまり、そして絶叫した。
- 6 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 19:54:57.03 ID:bldT30xD0
▽
★Karte.13 涙★
△
理緒は目を開いた。
そこは、いつもの変わり映えがしない病室の中だった。
明るい照明。
そして自分を囲んでいる機器と点滴台。
点滴を刺され過ぎて、肘の内側が真紫になっている。
「もう駄目かもしれない」
カーテンの奥から、圭介の声が聞こえた。
- 7 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 19:55:44.00 ID:bldT30xD0
ああ、私のことを言っているんだなと理緒は、
ぼんやりとした思考の奥でそう思った。
「マインドスイーパーの適正がなかったと考えるしかない。
スカイフィッシュに打ち克つ力が、彼女にはない」
「だが、見捨てるにはまだ早すぎる」
大河内の声も聞こえた。
圭介はそれを鼻で笑い、押し殺した声で言った。
「使い物にならない道具に興味はない。
お前が欲しいんなら、やるよ」
「大概にしろよ、高畑!」
椅子を蹴立てて大河内が立ち上がる。
- 8 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:07:03.42 ID:bldT30xD0
「今の言葉は聞かなかったことにする。
最後まで責任を持て! お前が原因なんだぞ!」
「声を荒げると、また起きるぞ」
「……ッ!」
歯噛みした大河内が、落ち着きなく部屋の中を歩き回る。
そこで、聞き知らない女性の、ゆったりとした声が聞こえた。
「喧嘩をしている場合? お二人とも、少し休んだ方がいいわ」
「ジュリアさん……」
大河内がそう言って深くため息をつく。
「……その通りだ。お見苦しいところを見せてしまった」
- 9 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:07:42.19 ID:bldT30xD0
「あなた達がここでいくら喧嘩をしても、
患者が良くなるわけではないわ」
ゆったりとした声だった。
患者?
それを聞いて、理緒は少し疑問に思ってから、
すぐに合点がいった。
そうだ。
私は今、患者なんだ。
「自殺未遂十一回。夢の中でも何度も死んでいるようね。
自殺病の発症を確認。
もうこの子の精神はボロボロよ。早々に手を打たなきゃ」
- 10 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:08:14.36 ID:bldT30xD0
「ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこのことだな」
圭介の声に、大河内の影が圭介の影の胸倉を掴み上げたのが、
理緒の目に見えた。
「お前があの時に、あんなことを教えなければ……」
「お二人とも、出て行ってくださる?」
ゆったりと、ジュリアと呼ばれた女性がそう言う。
「もう起きているみたい。少し二人でお話をさせて?」
背の低い女性の影が、こちらに近づいてくる。
カーテンが開き、その隙間から、
長い金髪を腰まで垂らした女の人が中を覗き込んだ。
- 11 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:09:50.28 ID:bldT30xD0
二十代前半だろうか。
理緒と同じくらいの背丈だが、
妙に落ち着いた雰囲気をかもしだしている。
白衣だ。
青い瞳。日本人ではないらしい。
目が大きく、人形のような女性だった。
彼女――ジュリアは落ち窪んだ目をした理緒と視線が合うと、
ニッコリと微笑んで見せた。
大河内と圭介が黙って病室を出て行くのが見える。
ジュリアはカーテンの中に入ってくると、
理緒の隣の椅子に腰を下ろした。
体を起こそうとした理緒にそのままでいいと
ジェスチャーで言ってから、彼女は口を開いた。
- 12 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:10:24.10 ID:bldT30xD0
「私はジュリア・エドシニア。
あなたを助けるために来た、マインドスイーパー治療班の一人よ」
「治療班……?」
理緒はかすれた声でそう言った。
「私、もう治療なんていい……いいです……」
泣き出しそうな顔でそう言って、理緒は血のにじむ左腕の包帯を見た。
ぐるぐる巻きにされている。
全て、ここ数日で切ったものだ。
ガラスを割って刺したこともある。
鏡を割って切り裂いたこともある。
鎮痛剤を投与されているので、あまり痛みは感じなかったが、
所狭しと縫われている腕は、ジクジクと異様な感触を与えた。
- 13 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:10:52.26 ID:bldT30xD0
衝動的に。
いや、そう言ってはおかしいかもしれない。
実に自然に。
理緒は、生きることがとてもつらくなった。
理由という理由はないのかもしれない。
ただ、つらかった。
その原因を考えるまでの余裕は、彼女にはなかった。
大河内をはじめ、周囲は自殺病の発症だといった。
どこから感染したのか、何が病因なのかは分からない。
心当たりが多すぎて、どうしようもなかったのだ。
- 14 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:11:42.94 ID:bldT30xD0
汀が意識を失ってから、僅か三日で、
理緒の心と体は、既に衰弱してボロボロになっていた。
ジュリアは理緒の手を握り、優しく語りかけた。
「死にたいの?」
「はい……」
頷いて、理緒は薄く目に涙を溜めながら続けた。
「夢の中に……あの人が出てくるんです。
でも何もしない……私が死ぬのを待ってるんです……
私もう疲れました。もう駄目……殺してください……
お願いします……もう私を、これ以上苦しめないでください……」
「それはただの夢よ。現実ではないわ」
「現実か夢かなんて……誰も分からないじゃないですか。
私、今ここにいることが現実かどうかも……
分からなくなってきました」
- 15 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:12:15.14 ID:bldT30xD0
理緒の目から涙が流れる。
「分からない……分からないんです……」
両手で顔を覆い、涙を流す理緒の頭を撫で、ジュリアは続けた。
「よく聞いて。あなたは自殺病にかかっているわ。
無理なダイブを繰り返したせいで、
スカイフィッシュ症候群に感染したの。
即急に治療をしなければ、命が危ない」
「治療なんて……いいです……」
「生きる気力を、患者が持たないといけないわ。しっかりして」
「本当にいいんです……もう許してください……」
ひく、ひくと泣いて、理緒は体を脱力させた。
「薬なんて効かない……私もう眠れない……」
- 16 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:12:42.22 ID:bldT30xD0
「あなたを絶対に助ける。
そのためには、あなたの協力が必要なの」
ジュリアはそう言って、ベッドの上に腰を移すと、
理緒の頭を抱いて引き寄せた。
久しぶりの人間の感触に、理緒が小さく息を吐く。
「…………」
「落ち着いた? あなたはまだ戻れる。
戻れるうちに、帰って来なさい。私達が待ってるから……」
「私……帰れる……? 戻れる……?」
「ええ。あなたは帰れる。お家に、帰れるわ」
「あなたに……何が分かるんですか……」
落胆した声で、理緒は小さく呟いた。
- 17 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:14:03.36 ID:bldT30xD0
言葉を飲み込んだジュリアに、彼女はかすれた声で続けた。
「私のお家は、赤十字病院です……
お父さんもお母さんも死にました。
親戚もいません……私は、一人ぼっちなんです……」
「そうだったの……」
ジュリアは強く理緒の顔を抱きしめると、ささやくように言った。
「でも、絶対に助ける。諦めないで。
あなたも、あなたの友達も、私達が助けるから」
「私の……友達……」
光がなかった理緒の目に、少しだけ活力が戻った。
「私……友達がいる……」
- 18 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:14:44.02 ID:bldT30xD0
「そう、あなたには友達がいるでしょう?
大事な友達。あなたが、命がけで守った友達がいる。
見捨てて逃げることは出来ないんじゃなかったの?
聞いたわ。あなたは優しい子なのね……」
「ジュリアさん、私……」
理緒はジュリアの胸にしがみついて、涙を流した。
「汀ちゃんに会いたい……」
- 19 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:15:15.62 ID:bldT30xD0
☆
「……以上が今回のプランです。
S級のスカイフィッシュに対抗するために、
私もダイブに同席します」
ジュリアがそう言って、息をつく。
元老院と赤十字病院の医師達が集まっている、
薄暗い会議室の中を、彼女は見回した。
後ろの方の席に圭介はいた。
興味がなさそうに足を組んで、
ボールペンをカチカチと鳴らしている。
前の席に座っていた大河内が、咳をしてから、かすれた声で言った。
「……テロリストの進入も考えられる。安易なダイブは危険を招く」
- 20 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:15:48.56 ID:bldT30xD0
「しかし即急に救わないと……
少なくとも片平理緒さんの命は、長く見積もっても、
あと三日もつかもたないかです」
それを聞いて、医師達がざわめく。
「……沢山のマインドスイーパーがここで命を落としている。
病院の見解としては、マインドスイープに対して
かなり慎重にならざるをえないことは理解してもらいたい」
赤十字病院の医師の一人がそう言うと、同調するざわめきが広がった。
ジュリアは頭を抑え、軽く髪を手で梳いてから圭介を見た。
圭介は一瞬彼女と視線を合わせたが、
すぐに視線をそらして横を向いた。
彼を睨んでから、ジュリアは元老院の方を向いた。
「ご老人方はどうお考えですか?」
- 21 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:16:24.39 ID:bldT30xD0
問いかけられた元老院の老人の一人が、
少し考えてから重苦しく口を開いた。
「……高畑汀と、片平理緒を失うのは、
今の日本の医療業界にとって、重大な損失だ。
できることなら……いや、確実に二人は治療しなければいけない」
「ありがとうございます」
ジュリアが頭を下げる。
「そのために私は、日本に来ました」
「しかし……テロリストの件が表立ち、
今の日本ではマインドスイープを行える医師が、
治療を自粛する流れになってきている。
聞けば、テロリストの狙いは、
高畑汀だそうではないか、なぁ高畑医師」
部屋の隅に立って、タバコを吸っていた初老の男性が口を挟んだ。
- 22 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:16:58.41 ID:bldT30xD0
深く掘りが入った顔に、くぼんだ目をしている。
表情が読めない男性だった。
圭介は彼をちらりと見ると、
資料をテーブルの上に投げてから口を開いた。
「その件に関しては、お話しする義理がございません」
「高畑医師! それはあまりにも粗暴がすぎないか!」
赤十字病院の医師の一人が、
顔を真っ赤にして立ち上がり、怒鳴った。
「あなたの……いや、お前のせいで、
何人のマインドスイーパーが死んだと思っている!
いくら元老院所属とはいっても、
これ以上の協力は我々としても……」
- 23 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:17:24.27 ID:bldT30xD0
「静粛に」
大河内が低い声を発する。
彼が手を叩いたのを聞いて、医師達は圭介を睨みつつ、
歯軋りしながら口をつぐんだ。
元老院に頭を下げ、大河内は続けた。
「お見苦しいところをお見せしました。
ご老人方、どうか気分を悪くされないでいただきたい」
「良い。この度の一件に関しては、こちらにも非がある」
元老院の老人がそう言う。
圭介は興味がなさそうに、軽くあくびをして、椅子に肘をついた。
「……議題を戻してもよろしいでしょうか?」
ジュリアが周りを見回し、おっとりとした声で続けた。
- 24 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:18:01.12 ID:bldT30xD0
「高畑汀さんの精神中核を持っているのが、
片平理緒さんである以上、汀さんを助けるためには、
理緒さんをまず救わなければいけません」
「何……?」
そこで初めて、圭介が狼狽したような声を発した。
彼はジュリアを見て、噛み砕くように言った。
「理緒ちゃんが、汀の精神中核を持っているのか……?」
「先ほど本人から聞きました。ある程度落ち着かせて、
断片的に聞いた内容ですが、間違いないと思われます」
「そんな重要なことを、何故今まで黙っていた……?」
押し殺した声で呟くように言った圭介を冷めた目で見て、
ジュリアは続けた。
「目の色が変わりましたね、ドクター高畑」
- 25 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:18:39.06 ID:bldT30xD0
「質問に答えて欲しい」
「聞かれなかったから答えなかったまでです。
あなたは、あの子達に信用されていないのでは?」
公の場で嘲笑にも等しい侮辱を受け、圭介は軽く歯を噛んだ。
そして背もたれに体を預け、足を組みなおしてから口を開く。
「それは、そちらのご想像にお任せしましょう。
議論の余地はありません」
「……そうですね。軽率な発言でした。
とにかく、汀さんの精神中核を、理緒さんの精神内から抜き取って、
元に戻さなければいけません。
その施術を行いつつ、スカイフィッシュの相手をしなければいけません。
私のチームが力を当てますが、
卓越した技量を持つマインドスイーパーの力が必要です」
彼女がそう言うと、医師達の間にざわめきが広がった。
- 26 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:19:14.66 ID:bldT30xD0
一人の医師が声を荒げた。
「私は協力を辞退させていただきます。
これ以上、ラボから人員を消すわけにはいかない」
それに同調する人々の声を聞いて、
ジュリアは手を上げて声を制止した。
「ドクター高畑、協力していただけますね?」
含みをこめて聞かれ、圭介は一瞬視線を揺らがせたが、
狼狽したように彼女に言った。
「……私が?」
「はい。元特A級能力者、
対スカイフィッシュ戦闘用マインドスイーパーの、
あなたの力が必要です」
医師達が目を見開く。
- 27 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:19:56.73 ID:bldT30xD0
元老院の老人達は目をつぶり、息をついた。
くっくと笑うタバコの男を横目に、圭介は苦々しげに言った。
「…………どこからその情報を入手したのかは分からないが、
私はもうマインドスイープを止めました。ダイブは無理です」
「あの子達を、助けたくはないんですか?」
ジュリアに問いかけられ、圭介は発しかけていた言葉を飲み込んだ。
そして、しばらくして頭を抑え、目を隠す。
まるで、殺気を込めた視線を隠すように。
圭介はメガネをテーブルの上に置き、深呼吸してからジュリアに言った。
「……分かりました。
ただし、ダイブの時間は五分とさせていただきます」
- 28 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:20:26.55 ID:bldT30xD0
「ご協力感謝いたします。
それでは今回のダイブの説明を始めさせていただきます」
ジュリアが頭を下げ、ホワイトボードを手で示した。
大河内が横目で圭介を見る。
圭介は爪を噛みながら、
瞳孔が半ば開いた目でジュリアを睨んでいた。
- 29 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:21:30.96 ID:bldT30xD0
★
薬で眠らせている理緒を囲むようにして、
ヘッドセットに機器を接続したマインドスイーパー達が
椅子に腰掛けていた。
ジュリアと圭介の頭にも接続がしてある。
暗い表情をしている圭介をちらりと見てから、
計器を操作している大河内が口を開いた。
「第一段階のダイブは、時間を十分に設定します。
いいですね、ジュリア女史」
問いかけられ、ジュリアが頷いた。
「時間が300秒を突破しましたら、
何が起こっても強制的に回線を遮断してください。
たとえ、この中の誰が帰還不能になってもです」
- 30 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:22:18.00 ID:bldT30xD0
機器が接続されているマインドスイーパーは、
黒人や西洋の人間など、いろいろな人種が混ざっているが、
一様に二十代前半から後半の者達だった。
「目的はスカイフィッシュの排除。精神分裂を防ぐことです。
また、外部からのハッキングが考えられます。
防御手段を持たないので、スカイフィッシュ共々、
この機会に駆逐します」
「分かりました。幸運を祈ります」
ガラス張りの部屋の向こう側には、
沢山の医師達が腕組みをしながらこちらを見ている。
タバコを吸っている男も、無機質な目で圭介を見ていた。
「高畑、いけるのか?」
大河内に小声で問いかけられ、圭介は鼻を鳴らして、
自嘲気味に笑った。
- 31 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 20:34:35.21 ID:bldT30xD0
「さてな」
「さてな……って……お前、遊びではないんだぞ」
「また俺をあそこに送り込むのか。鬼畜共め」
くっくと笑い、圭介は大声を上げた。
「ダイブを開始してください!」
その右手が、かすかに震えている。
圭介は左腕でそれを押さえ込むと、大河内を見てニヤリとした。
「やるよ、俺は。お前みたいな役立たずとは違うからな」
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