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少女「それは儚く消える雪のように」 2
329 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 19:56:44.72 ID:6Wpsnxgd0


結論から言うと、駈と話した時から
五日間、圭は一睡もしていない。

絆と渚が後退で見るようにしていたが、
徐々に圭から、元々なかった
元気が更になくなってきていた。

目の周りにはクマが浮き、心なしか
ロールアウトされてきた日よりも
やつれているような気がする。

最近目が乾くという訴えがあったので、
絆がかなり高級品の目薬を買ってやったところ、
圭は初めて少しだけ嬉しそうな顔をした。

ずっと、それを左手で握っている。


330 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 19:57:26.71 ID:6Wpsnxgd0
彼女の疲労は、当然のことだった。

睡眠は動物が体と精神を休めるのに必要なことだ。

いわば『必須』の昨日だといえる。

圭は、絆が眠っている時は彼の隣のベッドで
横になるように習慣づけをしたが、
それで体の疲労は取れても、
蓄積された精神の疲労までは取れない。

疲れたようにため息をついた圭に、
熱心にモノポリーのルール説明をしていた
霧が口を止め、彼女を見た。

「どうかしましたか? 疲れましたか?」

伺うように問いかけられ、圭は物憂げに
息を吐いてから言った。

「いえ……特には……」


331 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 19:58:06.13 ID:6Wpsnxgd0
「そ、そうですか……じゃあ、ご飯にしますか?
 圭ちゃんの好きなものを作ります!」
 
霧がそう言って立ち上がる。

雪が

「私も……」

と言って傍らの点滴台に掴まって立ち上がった。

「お姉様はお休みになっていてください。私が作ります」

「でも……最近霧ちゃんにばっかり
家事をやらせてるから……」

雪が口ごもる。

霧は軽く笑って、無理矢理に雪を元の位置に座らせた。

「じゃあ圭ちゃんとゲームしててください。
それがお姉様のお仕事です」


332 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 19:58:34.20 ID:6Wpsnxgd0
「…………」

雪が戸惑ったように圭の方を向く。

当の圭は、興味がないのか左手で
モノポリーの駒を弄んでいた。

絆が口を開きかけ、そこで寝巻き姿で
降りてきた渚と目が合った。

「おはようございます、絆特務官」

「おはよう」

渚は、ここ数日殆ど寝ていない。

最近圭の様子が安定してきたので、
十分に休んでもらった。

心なしか気が抜けているように思えるのはそのせいだ。


333 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 19:59:07.05 ID:6Wpsnxgd0
ボサボサの髪の毛で、渚はキッチンに入っていった霧に

「私も手伝うわ、霧ちゃん」

と言って後を追っていった。

バーリェの管理が、睡眠時間のサイクルが
乱れるだけでこんなに大変な仕事になるとは、
絆自身も思っていなかった。

もはや渚が手伝ってくれなければ、管理が追いつかない。

――トリプルコア。

数日前に駈が言っていたことを思い出す。

その後に兵器の仕様書が送られてきたのだが、
絆はそれを見て背筋が寒くなっていた。

バーリェを操縦、管制、エネルギーラインで
三分割し、更にエネルギー効率を上げている。


334 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 19:59:42.65 ID:6Wpsnxgd0
それだけならいいのだが、その兵器が「通常」ラインで
運用されるためには、普通のバーリェの命が、
三十分間で二十五体必要になる。

雪、霧、そして圭の三人がいて初めて動作が許される。

そんな「存在してはならない」禁断の
領域に踏み込んでいる兵器だった。

そして同時に、絆はその仕様書を見て、
雪を管制担当にして、エネルギー抽出ラインを
少しでも安定させよう、
と考えてしまっている自分自身に戦慄してもいた。

考えてはいけないことを、自分は考えている。

適応してしまっている。

おかしい。

手の中のコピー用紙に力を入れて握りつぶす。


335 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 20:00:20.96 ID:6Wpsnxgd0
それをゴミ箱に叩きつけ、
絆は立ち上がろうと松葉杖に手をかけた。

そこで、突然ニュース番組が切り替わった。

電波ジャック。

その言葉が頭をよぎる前に、
絃の重苦しい言葉が耳に飛び込んできた。

『新世界連合の総括者である立場から、
愚かなる人間諸君に対して、三度目の警告を行う』

その場の空気が、圭以外一瞬で緊張した。

絃は顔の前で指を組んで、テーブルに肘を乗せた姿勢で続けた。

やはり、白と赤の軍服を着ている。

こころなしか周囲の、白い三角帽を被った人間達が
増えているような気がした。


336 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 20:01:01.62 ID:6Wpsnxgd0
『我々はいかなる賛同者も、協力者も求めない。
この度の沈黙は、死星獣の技術解明のためであり、
決して人類諸君に対して情を施したわけではないことを、
事前に釈明させていただく』

「絃さん……!」

渚が駆け寄ってきて、絆の隣にしゃがみこむ。

絃は数秒置いてから言った。

『新世界連合に協賛するスラム街の人間達も出ていると聞く。
まことに遺憾だ。この場を借りてしっかりと
宣言させていただこう。
スラム街の人間であれ、上層市民の人間であれ、
人間は人間であることに代わりはない。
全ての人類は、我らの敵である。
速やかに、同一に均等に、
無情に死んでいただくことになる。そして……』

絃は手元のプロジェクターを操作し、映像を壁に投影した。


337 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 20:01:49.90 ID:6Wpsnxgd0
『我らの防衛拠点が完成した。
この度の沈黙を破り、ここを拠点に、
我々はもう逃げも隠れもせず、
諸君らを攻撃することになる』

壁には、どこまでも広がる緑色の自然が映し出されていた。

その所々に、ドーム状の建築物が見て取れる。

「まさか……」

呟いた絆の声に被せるように、弦は言った。

『我らが、この星最期の希望として選んだ防衛拠点は、
最後の自然が眠る場所、フォロントンである。
軍諸君、エフェッサー諸君。
どうぞ大挙して押し寄せるがいい。
無論、我々は君達の攻撃を待つことなく、
新たに得た知識と技術により、更に進化した死星獣、
および「兵器」の攻撃を、ここを拠点に行わせていただく』


338 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 20:02:43.11 ID:6Wpsnxgd0
絃はプロジェクターの電気を消し、
暗い笑みを発した。

『ついては、本日十五○三十に、
エフェッサーの本部拠点に一斉攻撃をかけ、
壊滅させようという議案が先ほど可決された。
我々はエフェッサー諸君に対し、フォロントンを拠点に、
以前とは違い逃げも隠れもせず、全面戦争を宣言する。
この放送を聞いている者は、
我らの圧倒的兵力の前に崩れ落ちるエフェッサーの姿を
目の当たりにすることだろう』

「…………」

言葉をなくした絆を前に、モニター前の絃は
右手を天に向かって突き出した。

『亡き魂と、これから亡くなるであろう魂達の
鎮魂を祈り、放送を以上とする。我らの新世界のために』

ブツリ、と放送が消えた。


339 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 20:03:30.37 ID:6Wpsnxgd0
――エフェッサー本部に対して、
フォロントンを拠点に一斉攻撃?

今絆達がいるラボも、攻撃対象の
区画に入るってことか……?

その「宣言された」事柄に、
絆は分かっていたことながら心の底から震え上がった。

この沈黙を破り、彼らが更に兵力を上げて攻撃を
宣言してくることは、予想されていたことだった。

そうだったのだが、改めて聞かされると、
それは怖気以外の何をも発することはなかった。

自然地域フォロントンに基地までつくりあげて。

自分達の守りを死星獣で鉄壁にして。

それで、エフェッサーの本部をまず壊滅させるつもりなのか。


340 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 20:03:58.93 ID:6Wpsnxgd0
「……くそっ!」

ギプスを嵌められた腕で、太ももを強く叩く。

「何が新世界のためだ……!」

「絆……」

絃が裏切ったことは既に聴かされている雪が、
しかし不安そうな声を発する。

「ここも、なくなっちゃうの……?」

絆は強く歯を噛んだ。

命が死んだ時に折った奥歯から、血が滲む。

「そんなことはさせるか……」

小さく呟いて、絆は渚に支えられながら立ち上がった。

「全員準備をしろ。戦闘だ!」


341 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/02(月) 20:05:21.25 ID:6Wpsnxgd0
お疲れ様でした。

次回の更新に続かせていただきます。

引き続き、ご意見やご感想、ご質問などがございましたら、
お気軽に書き込みをいただけますと嬉しいです。

皆様も体調には十二分にお気をつけください。

それでは、今回は失礼させていただきます。


342 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/02(月) 20:31:45.18 ID:n/d6y4VK0

全て狂っててワロタ


343 名前:NIPPERがお送りします(東京都) [sage] 投稿日:2012/04/02(月) 20:57:18.21 ID:U5duv4Umo
雪霧圭の3人でとかどんだけだよ・・・・
どんどん追い詰められてきて、その代わりに人間らしくなってきたな
つか、鯖の調子が悪かったな
書き込めてないようで書きこめてるからややこしいな
「書込みに失敗した模様
HTTP/1.1 500 Internal Server Error」
とか出るけどな

ともかく、今日も乙!


344 名前:NIPPERがお送りします(長屋) [sage saga] 投稿日:2012/04/02(月) 22:16:28.62 ID:2RMA6qEw0
乙です。

最初の方から読ませて頂いておりますが、
この作品はやっぱり好みです。

でも少々展開が早すぎて、命とか愛とかのキャラにあまり感情輸入できなかったところだけが少し残念ですね。
もう少し登場人物の数を減らして、他キャラの描写に割いた方がいいかなと思いました。

続き期待しています。
とりあえず乙です。


346 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/02(月) 23:11:31.15 ID:0U8AWrtCo
霧ちゃんは良い子になったなぁ
頑張れるのは自分だけだからしっかりしないと的な感じなのかな
お疲れ様


347 名前:NIPPERがお送りします(神奈川県) [sage] 投稿日:2012/04/03(火) 01:12:41.48 ID:0/yR/L9Uo
最初はちょっとアレだった霧ちゃんが凄く輝いて見える


349 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/03(火) 17:44:04.35 ID:QhpzOyn50
こんばんは。

昨日はサーバーが不安定でしたね。
私も少々戸惑いました。

全ての要素が着実に人類を狂気に導いています。
そんな中で、霧はだいぶいい子になりましたね。
姉になったということも起因しているのでしょう。

描写をもっと深くということは、心がけていこうと
切に思います。
皆様によりお楽しみいただけるように、常に変えて
行きたいと考えています。

気になった点などは、どんどんご意見をいただけますと
嬉しいです。

それでは、続きが書けましたので投稿させていただきます。



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