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少女『言葉が通じなくても』
- 98 名前:GEPPERがお送りします [sage]
投稿日:2010/06/21(月) 01:20:24.36 ID:rkpHtIAO
…
侍『―』
少女『扉! 出口かな!』
長い長い階段を登りきると、今度は比較的綺麗な造りの扉が現れた
恐怖から解放され、思わず少女は駆け寄ろうとしたが
侍『―』スッ
侍に制止される
少女『…どうしたの?』
侍は、少女を庇うような構えで扉を開けた
- 99 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:25:08.22 ID:rkpHtIAO
ギィィ
侍『…』
魔術師『ん? ああ、君達が例の不法侵入者か』
魔術師『ここまで上がって来るなんて、信じられない戦闘力だね』
魔術師『丁度いい、こいつの力を試すのに打って付けの相手だ』
かつて看守だった天使『アアアアアアアアアアッ』
- 100 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:29:32.42 ID:rkpHtIAO
侍「こやつ! 罪無き人間を物の怪にッ」チャキッ
魔術師「――」
天使「アアアアアッ」
侍「んむッッ!?」
天使が戦慄くと侍の体に異変が起こった
内臓を一つ一つ手で握り締められてるような気持ち悪さ、痛みが駆け巡る
侍「ぐぁぁッッ」ガクッ
- 101 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:34:35.22 ID:rkpHtIAO
魔術師『あはははは! 凄いね! 鳴き声だけであの剣士は戦闘不能だよ!』
魔術師『私ですら防御円無しでは気が触れてしまうだろうね!』
魔術師『もういいよ、止まりなさい』
天使『…』
侍『』
魔術師『君の国には魔術は無かったみたいだね』
魔術師『さて…星が動く前にもう一人天使になってもらおうかな』
- 102 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:39:29.52 ID:rkpHtIAO
魔術師『やあ、かくれんぼかい?』
少女『ひっ!?』
魔術師『ほら、こっちにおいでッ』グイッ
少女『やめッ …お兄さん!?』
侍『』
少女『嫌…嘘…』
魔術師『君を守るつもりだったのかも知れないけど、天使相手には無力だったね』
少女『嫌ぁぁ! お兄さぁぁぁん!!』
- 103 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:42:34.21 ID:rkpHtIAO
少女『は、離してッ』バタバタ
魔術師『あっ、暴れるな! オイ、祭壇に連れてけ』
天使『…』
魔術師『どうした、早くしろ』
天使『…』
天使『キミ…』
少女『…え』
天使『ワタシ…ダ、ロウノ…ミハリ』
少女『…お姉さん?』
- 104 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:47:53.09 ID:rkpHtIAO
魔術師『くッ まだ自我があったか!』バッ
天使『アアアアッ』ブンッ
バキッ
魔術師『ぐはァ!?』ズザッ
天使『ハヤク…ワタシト……ソイツヲ』
少女『で、でも』
天使『ワタシガ…マモノニ…ナリキル…マエ…ニ……コロセ』
少女『お、お姉さん…』
- 105 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:52:17.60 ID:rkpHtIAO
天使「ガ…アガガ……」
ザクッ
侍「心頭滅却…」ダラダラ
少女「――!」
侍「…お主の手を汚させはせん」
魔術師「―…」ググッ
侍「…」ザッ
魔術師「―!?」
- 106 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 01:59:58.28 ID:rkpHtIAO
侍「覚悟は出来ているな」チャキッ
魔術師「―――!!」バッ
ズバッ
魔術師「―」ブシュッ
侍「成仏出来ると思うなよ」
ズバッ ザンッ ザンッザンッザンッ
スパッッ
侍「滅魂」チャキンッ
魔術師「」
ドサッ
- 107 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 02:03:41.72 ID:rkpHtIAO
天使『ァア…アアアッ!!』
少女『お姉さん…』
ザッ
侍「お待たせ申した」
天使「ゥウッ」ブンッ
ズガァァッ
侍「僭越ながら、介錯仕る」ザッ
天使「ァ…アアッアアッ」グラッグラッ
侍「……ッ」ドクドク
- 108 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 02:18:08.67 ID:rkpHtIAO
天使「アァァアァァァアッ」キィィィィン
侍「ぬんッッッ」ビリビリビリッ
天使「アアアアアアアアアッッ」
侍「揺らぎ無き事―」
チャキンッ
天使「ァ…」プシャーッ
侍「―大樹の如し」
ズウウウウンッッ
- 109 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 02:22:40.08 ID:rkpHtIAO
天使『ゥ……ウ』
少女『お姉さん…』
天使『そこに…いるの?』
少女『お姉さん! ここにいるよ!』ガシッ
天使『何も見えない…けど…いるのよね…』
少女『うん!うんッ!』ポロポロ
天使『無事なのね…良かった……』
天使『もう…逝くわね』
少女『お姉さーん!!』
- 110 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 02:40:11.93 ID:rkpHtIAO
侍「ケホッ…逝かれたか」
少女「―、―」グスッ
侍「出来る事なら救いたかった…」
―ありがとう
少女『お姉さん!?』
―あなた達の未来に祝福を
少女『お姉さんにも! 祝福を!!』
- 116 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 19:44:29.36 ID:XTiY6YAO
侍『―』フラッ
ドサッ
少女『お兄さん!?』
侍『…』
少女『ど、どうしよう』
ガチャ
領主『ム…これは』
少女『!』
- 117 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 19:48:41.16 ID:XTiY6YAO
領主『天使が敗れた…のか』
少女『…』ジッ
領主『そちらの男性がやったのかね』
少女『…ええ』
領主『…』
領主『誰か』
警備『ハッ』
領主『手当てをしなさい。後、彼女を応接間へ』
警備『ハッ』
- 118 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 19:53:39.94 ID:XTiY6YAO
…
領主『君達が件の侵入者だったのか』
少女『…』
給仕『お茶でございます』コト
領主『うむ』
少女『私達をどうするつもりですか』
領主『ああ、脱獄だとかそういう話をするつもりはないんだ』
領主『まあ、まず飲みたまえ』ズズ
少女『…いただきます』
- 119 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 19:57:59.67 ID:XTiY6YAO
領主『…さて、何から話したものか』
少女『…儀式』
領主『む』
少女『人間を怪物にする儀式…何のためにあんな惨い事を』
領主『…』ズズ
領主『魔術狩りだよ』
少女『魔術狩り…?』
- 120 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 20:10:00.15 ID:XTiY6YAO
領主『君達にとって魔術とは何かね?』
領主『油を使わず明かりを灯す物か、それとも季節の節目に身に着ける厄除けの札か』
領主『違うだろ、大切な物を奪っていった戦争の元凶だ』
領主『我々が魔術を隠し続ければ、…魔術が無ければ君達のような孤児も生まれなかった』
領主『魔術は陰徳されるべきだったのだ…』
- 121 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 20:35:38.82 ID:XTiY6YAO
領主『…』ズズ
少女『それと天使と、何の関係が…』
領主『…天使には「純粋でない力」が効かないんだよ』
領主『人の手の入った「科学」や「魔術兵器」の類は通用しない』
領主『その力を利用して、世界から魔術を葬るつもりだった』
少女『…私達の生活からも?』
領主『そのつもりだった』
- 122 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 20:46:59.83 ID:XTiY6YAO
領主『しかし…敗れた』
領主『魔術兵器も科学兵器も効かない天使に、力押しで勝ったとでも言うのかね』
少女『…』
少女『確かに、お兄さんの剣術は凄いです』
少女『でも、天使になったお姉さんは人殺しを嫌がってた』
少女『私が天使にされそうになった時も守ってくれました』
少女『お姉さんは負けてなんていません。自分の意志を貫き、ちゃんと勝利したんです』
- 123 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 21:00:51.21 ID:XTiY6YAO
領主『…』ギシ
少女『…まだ、魔術狩りをするつもりですか?』
領主『…』
少女『私は、領主さん達が気に病む必要はないと思います』
少女『確かに、私は戦争で家族を失ったけど…でも、領主さん達も「遺された人達」じゃないですか』
少女『「遺された人達」は死んだ人達の分も生きないといけないんです』
少女『悲しみに暮れる事はあっても、いつまでも立ち止まってたり、別の悲しみを生んではいけない…と思うんです』
- 124 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 21:30:11.51 ID:XTiY6YAO
領主『…遺された人達、か』
領主『しかし、私達は戦争の当事者であり、君達は被害者だろう』
領主『当事者である私達はその尻拭いをせねばならん』
領主『それに、口では何と言っても、戦争など無ければ今頃平穏に暮らしていたと考えた事が無い筈が―』
パシンッ
領主『―ッ』ジン
少女『甘ったれた事言わないで』
- 126 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 21:39:49.92 ID:XTiY6YAO
少女『人を人外にしといて尻拭い? 何の冗談よ』
少女『罪を犯したとか社会に貢献してるとか、そんな下らない事で奪われていい物じゃないのよ、命は』
少女『…それに魔術を無くせば戦争も無くなるみたいな事を言ってるけど、勘違い甚だしいわ』
少女『魔術なんて無くても、人は争うし時にコロし合う。みんな現実に目を向けないだけ』
少女『ただ、それ自体は悪い事じゃないし、知らない方が幸せな事なのかも知れない…ってだけ』
- 127 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:18:22.69 ID:XTiY6YAO
少女『責任が負えなくなったから無くすなんて子供のやり方よ』
少女『本当に責任を感じてるなら、どんなに困難でも惨めでも…媚び諂っても成し遂げようとするわ』
領主『…』
ガチャッ
侍『―』
少女『お兄さん!』
医師『傷は深かったけど魔術で塞げたよ。便利なもんだね、もう大丈夫だよ』
- 128 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:31:46.43 ID:XTiY6YAO
少女『…じゃあ、私達はこれで』
領主『ああ…』
少女『あ、言い忘れてましたけど』
少女『戦争が無かったら、…私は平穏に甘えて生きてたかも知れません。今の生活は決して楽だとは言えないけど、もし甘えて生きた私なら、飢えや貧困に苦しむ人の事なんて考えもしないでしょう』
少女『それに…』
キュッ
少女『こうして旅する事もなかっただろうし』
侍『?』
領主『…君は強いな』
少女『いいえ、二人だから強くいられるんです』
- 129 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:58:52.88 ID:XTiY6YAO
大戦の終結より続いていた都市の閉鎖が、ある日解かれる事となった
市民は喜び戸惑ながら、領主の開放声明を聞いた
―魔術は隠匿されるべきだった
そう、前領主殿は仰った
確かに、魔術の開発は世界大戦の一因となり、多くの犠牲を出した
しかし、同時に多くの恩恵も与えてくれている
医術では治らない病気の治療、或いは日照りの年の雨乞い…数々の成果を上げている
私は、長く魔術など無ければと思っていた
魔術は人間には過ぎた力だと、そう考えていた
しかし、それは甘え、責任を取れぬ者の言い訳だ…そう諫められた
思い返せば…私は責任から逃れたかっただけだったのだ
- 130 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 23:19:42.02 ID:XTiY6YAO
この閉鎖策も、外を拒む事で厄介払いしていただけなのだ
そんな事では事態が進展する筈もないのに
この場を借りて、今日まで窮屈な思いをさせてすまなかった、と謝らせて欲しい
そして、恥を忍んでもう一つお願いしたい
私は、これからこの「火と魔術の都市」に、魔術の管理機関を発足しようと思う
そうなれば遮光の国どころか、世界中から弾圧されるだろう
だが、私は絶対に諦めない。必ず成し遂げる
それが私の負った責任へのけじめだと自負しているからだ
どうか、この馬鹿に付いて来てくれるという者は拍手で承認して欲しい―
- 131 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 23:28:09.99 ID:XTiY6YAO
広場は拍手鳴り止まぬに包まれた
拍手喝采を聞いた領主は深々と頭を下げ、暫くそのままの姿勢でいた
ようやく頭を上げると目尻を拭い、降壇した
数年後、世界魔術機関が発足されるのだが、それはまだ暫く先の話である
侍「その羽……御守り代わりか」
少女「―!」ニコッ
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