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侍「言葉が通じなくとも」
262 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 22:02:00.74 ID:7sBtpMkAO
地下広場は暗闇に包まれていた

司令の召喚した存在に、花嵐の魂が根こそぎ狩り取られたからである


一蹴毎に青い炎を掻き上げる漆黒の馬

それに跨る甲冑だけの騎士

「魂狩り」と呼ばれる魔の騎士は、現世に漂う魂の残滓を冥界に運ぶ、死の遣い

その手から逃れるには、鳥となるしかないと言われている


女旅人『…まさか、神話の住人に会えるなんてね』

司令『良かったじゃないか。こんな機会は二度と無いだろうね』


263 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 22:18:48.36 ID:7sBtpMkAO
少女『お兄さん! ねえ! 目を覚ましてよ!』ユサユサ

侍は湿り気を帯びた地面に倒れていた


魂狩りは召喚と同時に侍達に襲いかかった
対する侍は、迷う事無く刀を抜いた

一閃

必殺の太刀は空を斬り、魂狩りは眼前に迫った


少女『ねえ! お願いだから息をしてよ! お願いだからっ!』ユサユサ

侍『』ユサユサ

魂狩りの突撃槍は、大地や身体から魂を引き剥がす

思念の強弱は問わない

侍には、少女を突き飛ばす事しか出来なかった


264 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 22:32:19.36 ID:7sBtpMkAO
司令『……しかし、驚きだね』

女旅人『…何がよ』

司令『魂狩りの疾走が、二つも魂を取りこぼした事さ』

地面に突っ伏す鍛冶屋と侍

狩り取られた地下広場の魂達

残った女旅人と少女

司令『そっちの子供は男に突き飛ばされたおかげで攻撃をかわしたけど、君はまともに食らった筈だ』

女旅人『花嵐の魂が……守ってくれたんじゃないかしら』

司令『……』

司令は何か言いたげだったが、言葉を飲み込む

魂狩り『……』チャキッ

司令『まあいい、どっちにせよ次で終わりだ』


265 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 22:51:27.31 ID:7sBtpMkAO
女旅人(魂狩りはまだ冥界に魂を運んでいない)

短刀を持つ手に力を込める

女旅人(あいつを倒せば、花嵐の……みんなの魂を取り戻せる!)

漆黒の騎士を見据え、構える

司令『こんな状況で、まだ抵抗する気かい?』

女旅人(取り戻さなきゃ、大切なモノを)

力一杯地面を蹴る

女旅人(守らなきゃ、死を賭してでも……!)


266 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 22:58:04.94 ID:7sBtpMkAO
女旅人が魂狩りに向かって突進する

それを受け、魂狩りが馬を走らせる

魂狩りは一瞬で黒い風となり、女旅人に詰め寄る

女旅人『っ!?』

気付けば、心臓に突撃槍を突き付けられていた

魂狩り『オワリダ』



グサッッ


267 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 23:10:01.33 ID:7sBtpMkAO
少女『お姉さん!?』

女旅人『ァ……あ』

突撃槍に貫かれた女旅人の体

女旅人は視界の暗転……魂が剥がれるのを感じた


女旅人『まもる、ん、だ……! たましいが……消えるとしても!!』バッ

女旅人の最期の抵抗

魂狩りへ投げつけた短刀は、その首元を捉え突き刺さった


268 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 23:27:29.28 ID:7sBtpMkAO
司令『…無駄な事を』

動かなくなった女旅人を見下ろし、司令は冷たく言い放つ

司令『さて、お嬢ちゃん。間も無くここは爆破される。早急に避難したまえ』

少女を問題視していない司令は、少女を追い払おうとする

少女『…断ります』

しかし、少女は司令を睨んだまま動こうとしない

司令『………君も死にたいのか』

少女『死にたくはありません。でも…』

少女は、小さな手のひらをぎゅっと握り、


少女『今逃げる事は、私の「誇り」が死ぬ事と同じ。私は、私の誇りの為に、そして生きる為に戦います!』


司令と、魂狩りに対して構えた


269 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 23:38:09.17 ID:7sBtpMkAO
年端もいかぬ少女に反抗され、司令は苛立った

司令『…よろしい、ならば好きなだけ相手をしてやろう』スタスタ

少女『…っ』グッ

司令は早足で少女に歩み寄り

バシッ

少女『あぐっ!』クラッ

平手打ちを食らわせる

司令『ほら、誇りとやらの為に戦いたまえ』

バキッ ドカッ ガスッ

少女『ぐっ!? っぁはッ』

二発目の平手打ちで少女は倒れ込んだ

続けざまに司令は、うずくまる少女を容赦なく踏みつける

司令『さっきまでの威勢はどうした! 誇りとやらを見せてみろ!!』ガスッ


270 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 23:45:05.38 ID:7sBtpMkAO
ガスッ ガスッ

少女『―ッ ――』ビクッ

司令『どうだ! 誇りを捨て、命乞いをする気になったか!』ギュウッ

司令は少女の頭を踏みつけ、降伏するよう言う

少女『……誇りは…しなない……!』

司令『――ッ!!』カッ


司令『ならばッ 誇りと共に死ねッッ!!』グアッ


271 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/23(水) 23:56:37.78 ID:7sBtpMkAO



―波は、私が投げ込む小石から生まれる


風は、君の一挙手一投足から生まれる


未来は、夢を見る心から生まれる―





272 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/24(木) 00:04:01.69 ID:w+VkkojAO
少女『ッ』




ドサッ

司令『―え』

少女『……、え?』

少女の頭を踏み潰す筈の司令は、少女の脇に倒れ込んだ

司令『な、何が――――ッッ!! 痛ぇぇぇ!?』


273 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/24(木) 00:12:38.97 ID:w+VkkojAO
突然痛みを訴え叫び出す司令

無理もない


侍『娘を足蹴にするとは、余程その足、要らぬようだな』


斬り落とされてしまったのだから

少女『お兄さん!!』

司令『ぃぎぎぎッ! きさまッ 死んだ筈じゃ!?』

侍『死んではおらん。魂を身体から引き剥がされただけだ』


274 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/24(木) 00:20:10.07 ID:w+VkkojAO
侍『こんなに傷だらけになって……遅れてすまぬ』

魂だけ……霊体になった侍が、少女の前に降り立つ

少女『私はいいの。それより、お兄さん……』

少女は、元に戻れるのか聞こうとした

だが、今それを聞くのは正しくない、と感じて思いとどまった

少女『ちゃんと話すの、初めてだね』

侍『……そうだな』フッ


277 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/24(木) 00:41:05.83 ID:PsK6btYZo
そういや腕まだ治って無かった気がするが霊体だから?気合?


278 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/26(土) 08:30:21.65 ID:U9OeaHaAO
少女の頭を優しく撫でると、侍は司令に向き直った

侍『さて、死出の旅支度は出来たか』

司令『死に損ないのクセに随分と強気な!!』

侍『……』

侍は女旅人を一瞥し

侍『彼女が……命懸けで教えてくれた』ザッ

居合いの構えを取る

侍『何故、我が剣が空を斬ったのかを』チャキッ

司令『! 魂狩り!!』

魂狩り『オオオオォォオオオォオオッッ』


280 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 00:21:00.64 ID:pCRMJa2AO
迫り来る魂狩りを前に、侍が言う

侍『彼女が教えてくれた。こやつを相手にするには、魂を乗せるだけでは足らぬと』
侍の刀が空を斬り、女旅人の短刀が刺さった理由

侍『身体を棄て、魂の器を棄てて差し違えなければならぬと!』

ズグッ

少女『お兄さん!!』

突撃槍が侍の魂を貫く

魂の器が破れるのを感じつつ、侍は渾身の力で吼えた


侍『武士道とはッ 死ぬ事と見つけたりッ!!』


キィンッッ


281 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 00:31:16.23 ID:pCRMJa2AO
侍『がはァ……ッ』パラッ

侍の魂が砕け、光の粒となる

その光の粒は魂狩りの甲冑へと吸い込まれてゆく

少女『お兄さん!! 消えちゃ駄目!』

侍『――……』パラパラ

少女『駄目! 駄目だったらぁ!!』バッバッ

少女は、散り行く侍の粒を必死にかき集める

だが、それは指の隙間からすり抜け、飛んでゆく

司令『ハッハッ! ざまぁ見ろ! 二度も殺されるとは馬鹿な奴!!』


282 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 00:37:30.42 ID:pCRMJa2AO
司令『さて、最後はお嬢ちゃんの番だ! お兄さんの所へ直ぐに送ってあげよう!』

少女『…くッ』グシッ

次から次へと溢れる涙を一度だけ拭い、少女は侍の刀を抜く

その幼い身体に不釣り合いな得物を構え、魂狩りを睨む

司令『また無駄な事を……、魂狩り!』

魂狩り『……』

司令『おい、そこのガキを殺せ!』

魂狩り『……ァ』

司令『……あ?』


バキャァァンッッ




283 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 00:47:32.04 ID:pCRMJa2AO
砕け散った魂狩りの甲冑

その中から、光の粒が溢れる出し、暗闇が明るさを取り戻す

司令『ばッ 馬鹿な!?』

鍛冶屋『……んッ』ビクッ

少女『おじさん!』

光の粒……魂が身体に戻り、鍛冶屋が意識を取り戻す

苔も水源も地面も、花嵐の先人達も解き放たれ、俄に輝き出す


ザッ

司令『ひィ!?』ビクッ

侍『……』


284 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 00:57:19.50 ID:pCRMJa2AO
司令『こ、殺すのか……?』

侍『…――』

司令『……そうか、言葉が通じないのか』

少女『お兄さんは…』

司令『…』

少女『お兄さんは、きっとこう言ってます』


「最期の場所を決めているなら、そこへ帰るがいい」


司令『……ぐぅッ』ジワッ

司令は悔しかった

死を覚悟した途端に故郷の景色が、家族の笑顔が、脳裏を駆け巡った

それは紛れもなく、司令の生きた証、「誇り」だったのだ

そんなにも単純で、大切な事に気付かなかったのが、堪らなく悔しかった


285 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 01:18:02.29 ID:pCRMJa2AO
……

少女『大丈夫ですか?』

鍛冶屋『イチチ……ちょいと腰を打っただけさ、問題ねぇ』

鍛冶屋『しかし、あの嬢ちゃん……あのまま逝っちまうなんてな…』

侍『……』

侍の手の中に在る、木彫りの睡蓮

それは、花嵐の姫が憶新に囚われ、処刑されるまでに彫った故郷への想い

少女『お姫様の想いは、ここに帰ったんですね』

睡蓮は花嵐の国花

清く、強く、誇り高い人達の花

侍『……』スッ

侍の手を離れ、木彫りの睡蓮が水面に浮かぶ

その花弁は淡い光を帯びていた


286 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 01:52:05.32 ID:pCRMJa2AO
=花学=

―道徳と一口に言っても、その基準には土地の風土や宗教など、様々な要因が関わってくる

同じ国家でも、その時の時勢によって道徳基準が反転する事も珍しくはない

そんな中、「花学」と呼ばれる教えが全世界から注目を浴びている

「花学」とは、西の大陸のとある国で生まれた道徳観で、東西を隔てる大河流域を中心に、世界に広まったと言われている

その価値観は「誇り」に収束し、自分可愛さに見て見ぬ振りをする等、卑怯な行いを憎む、というものである

しかし、死しを賭しても誇りを守るという徹底ぶりに、ごく一部から「花学者」が「狂信者」と呼ばれる事もある

その一方、花学は平民を中心に急速に広まった。義を重んじ、人情に厚い花学者達の周りに人々が集まり、それを真似るからである



ところで、何故この道徳観を「花学」と呼ぶかと言うのかだが、実ははっきりしていない

最も有力な説は、花学の書物全てに施されている「睡蓮の花」から由来している、というもの

中には「歴史から消えた国の名前」を由来とする説もあるが、確かめる術は無い


ただ一つ確かな事がある

それは、誇り高き生き方が今も私達に受け継がれている、という事である―


287 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 01:54:31.11 ID:pCRMJa2AO
花嵐編終わり
すごくまとめ方に悩んだ末こうなりました
あと戦闘描写


様々疑問があるかも知れませんが、答えは皆様の解釈にお任せします
他力本願な作者でごめんなさい


293 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/28(月) 23:14:22.65 ID:7ev4dftXo

女旅人死んじゃったか…



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