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少女「水溜まりの校庭でつかまえて」
- 195 名前:VIPがお送りします []
投稿日:2010/12/24(金) 05:25:40.51 ID:FpeXKyf/O
そして僕はというと、めでたく地元の小学校に教員として就職する事が出来た。
故郷に戻り、一番にお祝いに駆けつけてくれたのは女と大将だった。
女も大将も、地元の大学に通い就職活動をしていたようで……。
正直、小学校時代に僕をいじめていた大将がお祝いしてくれたのは少し意外だったが……まあ、みんな大人になったという事だろう。
- 197 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 05:29:07.97 ID:FpeXKyf/O
女も女で、僕が地元に帰ると連絡した時とても喜んでくれていた。
女「こっちに来たら、駄菓子屋に付き合ってあげてもいいわよ?」
僕「……甘いのは苦手じゃなかったの」
女「ふふっ、甘くない駄菓子を買えばいい事に気付いたのよ。あ、あとは中華まんも忘れないでね。新発売のフカヒレまんがね……」
地元に帰ってからも、僕と彼女の付き合いは続きそうだ。
空いた時間を埋めるように、周りの人間と付き合っていけたらいいな、と僕は思った。
そしてなにより……。
もう一度、彼女がいた小学校へ。
- 198 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 05:36:34.67 ID:FpeXKyf/O
僕「え〜、皆さん初めまして。今日から三年生のクラスを担当する事になりました……」
始めての請け負いが、あの教室になった。
最初はちょっと戸惑ったが、元気な子供たちに囲まれて仕事をしていると……少しだけ色んな物が紛れる気がした。
僕は、このクラスをいいクラスにしようと必死で努力をした。
生活や授業態度はもちろん、提出物やイジメ問題まで。
もちろん、ただ口うるさく言うのではなく、子供たちに理解してもらおうと……色んな方法を試していた。
初めは失敗も多かったが、徐々にクラスのみんなも僕を信頼してくれるようになり……。
僕は問題の一つ一つを順調に片付けていった……のだが。
- 201 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 05:42:46.10 ID:FpeXKyf/O
ある時、クラスの輪から外れている女の子がいる、というのを生徒から教えてもらった。
ずっと大人しく、あまり目立たないタイプの子だっただけに……僕も生徒に言われるまで、その問題に気付かなかった。
彼女は、時間があればいつもベランダに出ては……遠くばかりを見つめていた。
クラスの活動には参加しているものの、休み時間までずっとあれじゃなあ、さすがに寂しいんじゃないかと僕は感じた。
ある日、放課後の会議を終えて教室に戻ると……例の女の子がまたベランダに出て外を見ていた。
いい機会だ、僕は彼女と話をしてみる事にした。
- 202 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 05:42:47.93 ID:wgtYzC/o0
どうなるの?
- 203 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 05:48:35.95 ID:FpeXKyf/O
「……」
僕「やっ。えっと、何を見てるのかな」
「……お外」
僕「そっか、何か面白い物見える?」
「うん、楽しいよ。こうやって、先生と一緒にお外を見られるんだもん」
なんだ結構、素直な子じゃないか。
クラスの輪に入れないなんて言うからどんな子かと思えば……。
「くすっ」
髪の毛の横を、ヘアピンでシンプルにまとめている。
顔立ちも可愛くて……間違いなくモテるタイプだ。
僕はもう少し話を聞いてみる事にした。
- 204 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 05:55:04.86 ID:FpeXKyf/O
僕「はははっ、先生の事が好きかな」
「うんっ、好きだよ。大好きっ」
僕「あはは、ありがとうね」
子供にはありがちな、憧れの心理というものだろう。
僕はそこから更に話を広げてみた。
僕「ねえ、お外を見る以外に、何か好きな事はあるかな? 本を読んだりなわとびしたり……」
「私、七不思議のお話をするのが好き」
僕「七不思議、か。珍しいね、クラスのみんなはゲームとかサッカーとか……そういう話はもうあまり流行してないと思ったけど」
「私は好きよ、例えばね……美術室には床が血だらけになってる場所があるの」
僕「ああ、あれはただのペンキか絵の具が固まっただけだよ。血でもなんでもなかったよ」
- 205 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 06:00:23.13 ID:FpeXKyf/O
「あ、調べたんだ?」
僕「昔、僕も子供だった時にね。懐かしいなあ、放課後の学校を走り回ったもんさ」
「ふ〜ん……じゃあ、家庭科室の消える包丁は?」
僕「家庭科の先生に聞いたら、最初から一本だけケースに入ってなかったって。業者のミスみたいだったよ」
「……まあ、小学校の噂なんてそんな物だよね」
僕「あ、でも僕はこんな話を知っているよ。実はね、水溜まりに映る少女の事なんだけど……」
会話が弾んだのが嬉しくて、僕はつい彼女の事を話し出してしまった。
これは僕が知っている不思議の中でも、一番大切な思い出だ。
- 206 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 06:06:08.05 ID:FpeXKyf/O
「……へえ」
僕「不思議だろ。とっておきで、一番のお話さ」
「……本当に、不思議だね。じゃあ私もとっておきのお話してあげる」
「あのね、ある教室に青い筆箱を忘れた男がいたの。その子の名前は……仮に先生って事にするね」
僕「う、うん?」
「さっきまで遊んでいたお友達に置いてかれたので、その子はとてもビクビクしながら、校の中を歩いていたのでした……おしまい」
僕「え? え?」
「ぷっ、く……ふふっ、まだ気付かないの……」
僕「え? あ……」
「このヘアピン見せた時なんて、大ヒントだったのに〜。もう……相変わらず鈍いんだ」
- 207 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 06:11:18.31 ID:FpeXKyf/O
僕「いや、だって……まさか」
「そっか〜、私とのお話が一番の思い出なんだ、ふ〜ん」
僕「そ、そんなにニコニコした顔、今まで見たことないぞ」
「ふふっ、私って今は小学三年生だもん。嬉しいから笑えるんだもん」
僕「……」
「それに、この前大好きって言われちゃったし……さっきだって、私の事……」
僕「……まったく」
「ふふっ、大人になっても変わらないね。私を助けてくれた時と」
- 208 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 06:15:23.93 ID:FpeXKyf/O
ああ、僕はようやく気が付いた。
彼女はまた、小学三年生になったのだ。
幽霊なんかじゃない、今度はちゃんとした……自分の体で。
「……あ、雨降りそうだよ」
僕「……帰るなら送ってくよ」
「本当に? ありがとう、先生大好き〜」
僕「こ、こら。変にベタベタしないの」
「本気でそう思ってる? あ、水溜まりで覗けば、先生の本音わかっちゃうかも……」
僕「僕はいつでも正直だから、そんな必要ないよ」
「……ふふっ、意地っ張り」
僕「か、帰るなら早くしなよ! 置いてくよ!」
- 209 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 06:21:38.95 ID:FpeXKyf/O
「置いてくつもりなんて、ないくせに」
……ああ、彼女にはやっぱり全部お見通しらしい。
「私も、ちょっとからかい過ぎちゃったかも。謝るから……一緒に帰ろう?」
僕「……うん」
彼女の前では、僕は子供のまま……当時の小学三年生に戻ってしまう。
「ふふっ、一緒に行こうね」
僕はこれから、心の何処かが彼女と同じペースで成長していく……そんな気がした。
優しく握った、彼女の小さな左手からは確かに血の流れる音と暖かさを感じた。
「あ……ねえ。やっぱり先生じゃなくてさ」
僕「?」
- 210 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 06:27:43.91 ID:FpeXKyf/O
「昔みたいに……呼んでもいいかな?」
僕「……」
「ダメ?」
僕「他の人がいるときは、絶対ダメ」
「うん、わかった。じゃあ……」
僕「うん……」
雨が降りだした。
僕たちは一つの傘に身を寄せて、水溜まりのできた校庭を歩いている。
もう、その水面に誰かが映る事はない。
僕らは手を繋いで、外の向こうだけを見つめ……歩いていた。
「ふふっ」
「ただいま、僕ちゃん」
雨はまだ、僕たちの足元に水溜まりを作っている。
終
- 211 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 06:28:33.63 ID:FpeXKyf/O
終わりです、ありがとうございました。
- 216 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 07:19:00.22 ID:N8yL8bAnO
乙〜
面白かったよ
- 217 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 07:29:33.09 ID:75jMEKEK0
乙。
駄菓子好きだなw懐かしいわ。
- 218 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/24(金) 09:18:15.10 ID:JEO7CIvt0
乙
面白かったー
- 219 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 09:27:56.86 ID:1hz9JQbT0
激しく乙
幽霊たんかわいすぎわろた
これでクリスマスとか気にせず眠れるわ
- 220 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:02:39.12 ID:wU7q4eMw0
乙
心があたたまりました
- 221 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 10:09:58.19 ID:NwT4bdCm0
お疲れ様
良い話だった
- 222 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 10:21:41.58 ID:CWsybKwH0
おつ。
楽しかった
- 223 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/24(金) 10:51:48.37 ID:KcEKf1HlO
つかまえてシリーズは全部読んでるはずだけど、これが一番よかった
乙
- 224 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 11:27:48.97 ID:+HTzHRHB0
おつ
今回もよかったよ
- 230 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/24(金) 12:53:34.35 ID:mrFWUzH+O
読んでたらクリスマスなんか忘れてた
乙 !
- 232 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 13:44:35.70 ID:DKdq96lS0
初めて見たけどよかった。
楽しかったよ
- 233 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 14:06:25.07 ID:wcMlgUQEi
すごく…良かったです…
しかし空気読まずに聞いてみたいのだが
僕ちゃんは将来どうするんだろうか?
女ともフラグ立ってそうだけど生まれ変わった子ともフラグ立ってるじゃないか
現役合格留年無しと考えて新任23歳教師と9〜10歳の小学3年生か…胸熱
- 234 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 14:07:29.69 ID:wcMlgUQEi
三年生は8〜9歳か…
- 237 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/24(金) 15:18:27.59 ID:FiCnIODCO
>>233
女と結婚して元幽霊ちゃんを養子に迎えればおk
- 238 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/24(金) 15:33:24.48 ID:m89htAIh0
全俺が泣いた
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