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少女「水溜まりの校庭でつかまえて」
1 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 11:48:15.28 ID:fJ2jl6pYO
小学校のチャイムが鳴る。

放課後の掃除と帰りの会が終わり、あとは家に向かうだけ。

僕(雨が降りそう……)

窓の向こうには、灰色の雲。

早く帰ろうと、ランドセルを背負って教室を出ようとしたその時……背中から声をかけられた。

女「ねえ僕ちゃん」

僕「ひ……っ!」

女「そんなにビックリしないでよ。声が裏返っちゃって、あははっ」

僕「い、いきなり声をかけるから……」


5 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 11:56:05.08 ID:fJ2jl6pYO
女「ふふっ、そんなに怖がりなら誘わない方がよかったかな〜?」

僕「……何のこと?」

女「今から学校の中を探検しようって、友達と話していたの」

僕「探検って?」

女「あ、ただの探検じゃないよ。学校で噂されてる、七不思議を調べるんだよ!」

僕「七不思議……」

いくつか話は聞いた事がある。

が、僕はオカルトや怖い話が特別好きというわけではなかったので、話の内容までは覚えていない。

僕「ええっと、七不思議ってどんなのだっけ?」

女「んん〜と……私が聞いたのは」


6 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:04:39.91 ID:fJ2jl6pYO
女「校庭にある二宮金次郎像の薪の数が変わるとか……」

「え〜、私は薪の数を数えると呪われるって聞いたよ?」

「首の向きが変わるって聞いたけど……」

後ろで待機していたクラスメイトが、話に割って入ってきた。

「いや! 俺は金次郎の像が夜中に走り出すって聞いたぞ!」

大きな声が教室に響く。

クラスで一番やんちゃなガキ大将……イメージ的にはピッタリだ。

僕(……こういう話が好きだったんだ)

体も声も大きい彼が、こういう話を楽しそうに語っている姿は意外だった。

女「ね……もう四つくらい不思議が出ちゃってるんだよ」


8 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:13:32.35 ID:fJ2jl6pYO
僕「四つって、金次郎さんだけで?」

女「不思議でしょ?」

僕「う〜ん……」

女「他にもね、美術室の床に人の血が滴り落ちてるとか」

「誰もいない図書室で、勝手に本棚が動くとか」

「そうそう、家庭科室で包丁が無くなる事件とか……」

「お、俺も校庭で変な声を聞いたぞ!」

大将は、いちいち声がでかい。

女「ね、七不思議を一緒に調べない? 事件を解決して、学級新聞に書きたいんだよ〜」

僕「そう言えば女たちの班が係りだっけか?」

女「うん!」


9 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:19:01.61 ID:fJ2jl6pYO
女「だから一緒に調べようよ〜、ね? ね?」

僕「僕は班が違うけどいいの?」

女「……だって班のみんな帰っちゃうんだもん。怖い話や〜、って」

僕「……その新聞、本当に作れるの?」

女「みんな書くスペースは決まってるから、その点は大丈夫だよ」

僕「女一人で七不思議を調べたりはしないの?」

女「ひ、一人で学校歩くのはち、ちょっと……」

僕「怖いんだ?」

女「怖くなんかないですよ〜だ!」


10 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:24:07.28 ID:fJ2jl6pYO
僕「ふう〜ん」

女「あ、あんまりニヤニヤするならもう誘ってあげない……!」

「そうだな! 俺たちだけで十分だよ!」

「ええ〜、それもつまんないよ〜」

「いいじゃんいいじゃん」

女「い、いいの? 本当にもう僕ちゃん誘ってあげないよ!」

女の顔が、キッとこちらを向いた。

半分は泣きそうで……もう半分は、ただ友達と遊びたい、そんな顔をしてるように見えた。


12 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:30:18.15 ID:fJ2jl6pYO
僕も、女の事は嫌いなわけじゃない。

本当に誘われなくなっても困る。

僕は、内心焦りながらも返事をした。

僕「で、でもさ学校を探検するのも面白いかもね〜」

声が上ずっている。

女「ぼ、僕ちゃんも……来る?」

僕「え、えっと、まずは何から調べるの。雨が降りそうだから、早く終わらせて帰ろうよ」

女「……えへへっ、じゃあまずはね……」

僕は、あえて「行く」という返事をしなかった。


13 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:36:31.30 ID:fJ2jl6pYO
女「順番はね、私たち三年生の教室から近い順に見ていこうかなって思ってるの」

「そうだな! じゃあ最初は美術室だな!」

女「僕ちゃんもカバンなんて置いてさ、一緒に行こうよ」

僕「う、うん……」

その一言だけで、僕の顔は恥ずかしさで真っ赤になってしまった。


14 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:40:33.34 ID:fJ2jl6pYO
僕(……女と、一緒に学校を歩いてるんだ)

女「ほ、本当に血があったらどうしようね〜」

「大丈夫だよ! 俺がみんなを守るから!」

女「僕ちゃんは、血とか大丈夫?」

僕(なにが、大丈夫なんだろう……?)

女「……ふふっ」

僕(やっぱり、こう見ると女って……可愛い)

ちょっと気になっていた、クラスの可愛い子と……放課後の学校を歩く。

薄暗い廊下は、しんとしていて……僕たち以外は誰もいないような錯覚をする。

静かだ。


16 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:44:55.33 ID:fJ2jl6pYO
女「じゃあ、行くよ」

美術室の扉が音を立てて開く。

中に入った瞬間、絵の具や画板などの木や塗料の匂いが僕たちに強く襲いかかる。

僕(う……)

僕はこの匂いが苦手だった。

女「じゃあ、早速調べよう。手分けして、何かあったら教えてね」

「お〜」

他のみんなは平気なようだった。

僕だけが頭を痛くしながら、適当に教室内の床を見て歩いていた。

床には……変わった所は何もない。


17 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:51:29.54 ID:fJ2jl6pYO
「う、うわああああっ!」

突然、教室の後ろの方で叫び声がした。

男友達が悲鳴をあげて、床を指差していた。

女「ど、どうしたの!」

「こ、こ、これ……ち、血……」

教室内に散っていたメンバーが、一斉に集る。

「うわあっ!」

「いやあっ!」

床を見ると、確かにそこには染みが出来ている。

赤々とした、大きな染みだ。

……しかしそれは不自然なくらいに赤い。

女「あれ、これって……」


18 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 12:57:17.56 ID:fJ2jl6pYO
女が、その赤を爪で剥がそうと床に手をついた。

「お、女ちゃん……だ、大丈夫?」

女「うん。だってこれ血じゃないもの」

「……え」

女「血だったらこんなにテカテカしてないよ。固まってる感じからして……絵の具じゃないかな?」

「絵の具〜?」

大将が、胡散臭げにその染みを見ている。

女「そうだよ。ほら、ここの棚に絵の具缶もあるしさ。きっと中身がこぼれて固まっちゃったんだよ」

「な、なんだ驚いて損しちゃった」

「女ちゃんすごい〜」

女「えへへっ」

僕(心の中じゃあ、僕のが先に気付いていたのに……)


19 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:05:57.65 ID:fJ2jl6pYO
女「あれが美術室の噂かなあ」

廊下は静かで、女の声だけが響き渡る。

僕「七不思議なんて、あんなもんだよ」

女「まだ調べる場所はたくさんあるよ! 図書室に音楽室……あ、体育館の噂もあってね……」

クラスメイトと放課後の学校を歩く……昼とはまた違って見える教室の景色。

誰もいない廊下、普段にもまして余計に寂しく見える理科室や音楽室。

そんな光景も、友達と一緒にいれば何も怖くなかった。

ただ学校の中を歩き回っているだけなのに、僕は今とてもワクワクしている。



20 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:17:22.85 ID:fJ2jl6pYO
女「……結局、他の教室でも何もなかったね」

放課後の探検を終え、僕たちは教室に戻ってきていた。

みんながカバンを背負って帰る支度をしている。

僕も先ほど放り出したままのカバンを持ち、教室を出た。

「今日は何も発見がなかったね」

「あ〜、でも結構ドキドキしたよね」

女「次は体育館の鍵とか借りて、中を調べないとね」

僕「えっ、まだ調べるの?」

女「当たり前でしょ? 七不思議の噂をちゃんと調べて新聞にするんだから」



21 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:24:41.28 ID:fJ2jl6pYO
僕「はあ……まあみんなが行くなら僕も行くよ」

女「もう、またそんな天の邪鬼な事言う!」

僕「だ、だって七不思議なんて……本当にあるわけ……」

女「そんな事言うなら誘ってあげない! ふんっ!」

階段を勢いよく降りる彼女……踊り場を抜けてあっという間に一階まで行ってしまう。

「あ、待って待って〜」

「俺もいく〜」

女に続くように、友人たちも階段を駆け降りてしまう。

僕「ち、ちょっと! ま、待ってよ!」

暗い階段に、僕の声だけが響いた。

僕も急いでみんなを追いかける。


22 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:32:14.38 ID:fJ2jl6pYO
僕「はあ、はあ……」

女「ふんだ、置いてっちゃうからね〜だ」

玄関に着いた彼女たちは、すでに靴をはきかえて外に出られる状態だった。

その姿を見るだけで、僕は焦った。

僕「ま、待ってよ。置いてっちゃ嫌だよ」

玄関と廊下の境界線が、とても遠くに感じる。

口では強がっていてもやはり恐怖心はある。

急いで靴をはこうと、走り出した。

その瞬間……。

「……なあ」

今まで静かだった大将が、僕の方を見つめて話しかけてきた。

「七不思議の事だけどさ、俺一度だけ体験をした事があるんだ」

いきなり……何を言い出すんだ。


23 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:38:57.92 ID:fJ2jl6pYO
女「え、体験したの?」

女は興奮した様子で話に食いついた。

大将は淡々とした様子で語り出した。

「うん。三年生になって……夏休みに入る前かな、雨が降った日があってさ」

「俺、宿題のプリントを学校に忘れちゃってさ。気付いたのが一度家に帰ってからだったんだ」

「ちょうど今くらいの時間かな。まだ夏だから暗くはなかったけど、それでも一人で学校を歩くのは不気味でさ」


24 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:47:27.29 ID:fJ2jl6pYO
女「ま、まさか教室に幽霊が出たとか?」

「……プリントを持って、学校から出たんだ。ここまでは何もなかったよ」

女「学校から出たって事は……もしかして金次郎さんが動いたりとか!?」

「違うよ。普通に玄関前の階段を降りて、校庭を歩いていたよ」

僕「……それから?」

「雨でグシャグシャの校庭を歩いていると……いきなり女の子の声がしたんだ」

女「声?」


『……こんにちは、今から帰るの?』


25 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:54:31.23 ID:fJ2jl6pYO
僕「女の子の……声?」

女「誰かに声をかけられたの?」

「うん。でも、周りを見渡しても誰もいないんだよ……広い校庭には俺だけ、他に誰もいない」

僕「だ、誰か玄関で話していたとかでしょ?」

「玄関からは離れた場所だよ、校庭の……どの辺かは忘れたけど、真ん中あたり」

女「それ……本当?」

「嘘じゃないよ。怖くて調べてはないけど……声は聞いたよ」


26 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 13:59:03.53 ID:fJ2jl6pYO
僕「そ、そうなんだ……」

その話を聞いて、僕はなんだか怖くなってしまった。

噂だけならともかく、実際にそんな体験をした人が周りにいるとなると……

「ん? どうした、怖いのか?」

僕「ち、ちょっとだけ……」

正直に僕は答えた。

足がプルプルと震えている。

「……っ、ぷ……」

僕「?」

「ふ、あはははっ、そんなに怖がるなよ! 嘘に決まってるだろ、こんな話!」

僕「な……」

さっきとは変わって、玄関中に響く声で笑い出した大将。

「あ、足なんか震わせちゃって、ふ、ふふふっ……」

これ以上ないくらいに、笑っている。


27 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 14:05:09.18 ID:fJ2jl6pYO
僕「ま、まあ嘘なら嘘でもいいんだけどさ……」

「……ところでさ、机に筆箱を置きっぱなしじゃないかい、僕くん」

僕「え?」

「ほら、お気に入りのあの青い筆箱だよ。みんなに自慢してただろう?」

カバンを漁ってみると、確かに筆箱だけが入っていなかった。

ゴタゴタの中でしまい忘れたのか。

僕(う、うう、あれが無いとなんか不安……)

僕「と、取ってくる!」

「あっそ。じゃあ俺たちは帰るから。一人で頑張れよ!」

僕「……え? 誰もついてきてくれないの?」


28 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 14:10:26.19 ID:fJ2jl6pYO
女「教室くらいすぐだよ〜。僕ちゃんなら一人で大丈夫だよね?」

僕「う……」

女にそう言われたら、カッコつけないわけにはいかない。

僕「じ、じゃあちょっと行ってくるよ……」

「おう。じゃあまた明日な〜」

僕「せ、せめてここで待っててよ!」

「え、僕くんだけ帰る方向違うじゃん。だからここでバイバイするんだよ」

僕「そ、そんな……」

チラッと女の方を見てみる。

女「……あ、もうアニメが始まっちゃう」

一人玄関を出ていく彼女。

女「じゃあ、バイバイ〜」



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