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召喚士「行けっ!コカトリス!!」 その22
- 157 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga]
投稿日:2010/11/30(火) 15:45:59.86 ID:eGMGTcko
――……
兄様「…大丈夫。お前なら出来るさ」
雷忍「……若…っ」
兄様「頼んだぞ、雷」
雷忍「本当に…行かれるのですか、若?」
兄様「お前も分かっているだろう?」
雷忍「……し、しかし…っ」
兄様「お前だからこそ、任せられるのだ」
兄様「何度も言わせるな。お前なら出来る。自分を信じろ」
雷忍「……」
兄様「済まぬな」
雷忍「い、いえ…っ、私は……」
兄様「俺はお前を誇りに思う。そして…弟のように。勝手すぎるか…ははっ」
雷忍「わ……若…っ!」
兄様「んー?」
- 158 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:46:33.93 ID:eGMGTcko
雷忍「某は……孤児に御座いまする……」
兄様「…そうだな。それで藤蔵に来たわけだ」
雷忍「御館様に拾って頂きました」
兄様「うん。そうだ」
雷忍「で、ですから某は……」
兄様「父上は申しておったぞ?」
雷忍「……?」
兄様「お前を息子のように思うておる、と……」
雷忍「――!?」
兄様「だから俺とお前は兄弟。違うか?」
雷忍「わ……若っ」
兄様「だからお前に託すんだ」
雷忍「……み、身勝手すぎまする」
兄様「はははっ!……妹を、盗賊を守ってやってくれ。兄として」
雷忍「若……」
- 159 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:47:23.34 ID:eGMGTcko
兄様「それと、もう一つ」
雷忍「……?」
兄様「帝をお守りしてくれ」
雷忍「…み、帝を…でございますか!?」
兄様「お前にだけ話す。……帝は女子だ」
雷忍「――!!」
兄様「これがもし外に漏れるような事があらば、この国は戦乱と化す……」
雷忍「帝が……お、女子…っ」
兄様「信じ難いであろうが事実だ」
雷忍「……っ」
兄様「まだ赤子であらせられる上様が女子と分かればどうなる?」
雷忍「先の帝は没し……お世継ぎも他になく……」
兄様「そう。即ちお家が断絶と相成る。それに…他家の大名が黙ってはおらぬ」
雷忍「……成程」
兄様「この国を戦火に染めぬ為にも…上様を男子として守り立てねばならぬのだ」
- 160 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:48:01.41 ID:eGMGTcko
雷忍「……過酷な…道ですね」
兄様「…ああ、上様にはこの先辛い人生が待っておるかもしれぬ」
雷忍「……」
兄様「だからお前が、傍で身を守り……笑ってやれ」
雷忍「……笑うのは…苦手です」
兄様「笑ろうて暮らさねば、福は来ぬぞ?」
雷忍「……っ」
兄様「ほれ、笑ってみぃ?……わははははっ!!」
雷忍「…カ、カカッ…カカカッ」
兄様「面白い笑い方をするのう?わはははは!!」
雷忍「若……っ!」
兄様「ははっ、すまぬすまぬ」
雷忍「帝が女子と存じておるのは…?」
兄様「我らに父上……そして、老中の四名だ」
雷忍「……」
- 161 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:49:03.77 ID:eGMGTcko
兄様「但し、老中には十分気を付けよ」
雷忍「……?」
兄様「彼の者、上様を利用し将軍家を牛耳ろうと目論んでおるやもしれぬ」
雷忍「な、なんと…っ」
兄様「心してかかれ」
雷忍「何故、若様は私に託して…行かれてしまうのです!?」
兄様「表面ばかり綺麗に繕っても、土台がしっかりしておらねばすぐに崩れる」
雷忍「で、では……まさか影を……!?」
兄様「元は一つのお家。本家と分家の壁など必要ない。取り払ってくれる」
雷忍「……若」
兄様「既に父上へ依頼して、内通者として処遇して貰う手筈も済んだ」
雷忍「何故そこまで!?堂々と為されば宜しいでは……」
兄様「そう簡単にいかぬものなのだ、本家と分家の隔たりというものはな……」
雷忍「過酷…過ぎまする……」
兄様「上様の人生に比べれば…容易いものさ」
- 162 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:49:40.32 ID:eGMGTcko
雷忍「…せ、せめて姫には」
兄様「無駄な心配はかけたくない」
雷忍「若……」
兄様「盗賊はああ見えて、血気盛んなところがある…」
雷忍「……」
兄様「もし本当の事を申せば、必ず己も付いて行くと駄々をこねる」
雷忍「……」
兄様「そして振り切って往けば必ず一人で飛び出すに違いない」
雷忍「……否定は…出来ませぬ」
兄様「で、あろう?だから良いのだ」
雷忍「……っ」
兄様「いつかはきっと忘れるさ。それまでは兄代わりとして守ってくれ」
雷忍「…重い…ですね」
兄様「すまんな」
雷忍「……」
- 163 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:50:15.46 ID:eGMGTcko
兄様「さて、そろそろ冷えてきたな……おっ!」
雷忍「……」
兄様「見よ、二つ星だ。もう冬を迎えるのだなぁ……」
雷忍「道理で冷えるわけですね」
兄様「二つ星が…いつまでも輝くと良いなぁ」
雷忍「…私は雷忍に御座いまする」
兄様「……」
雷忍「空が曇ろうとも、その稲光でいつまでも輝かせてみせまする」
兄様「……」
雷忍「あの……二つ星のように」
兄様「…ああ。俺は影となり、その輝きを更に引き立てて見せるさ」
雷忍「…若、どうか……ご無事で!!」
兄様「お前もな。戻ったら…一献付き合え」
雷忍「…恐悦至極!」
兄様「はははっ!楽しみにいておるぞ!」
- 164 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:51:33.39 ID:eGMGTcko
……――
雷忍「……?」
帝「……ぃ!雷ぃ!!」
雷忍(……こ…こは……?)
風忍「雷っ!?気付いたかっ、しっかりせよ!」
雷忍(……ああ、そうか。そういえば…そうだったな)
召喚士「ど、どいて下さい…っ!」
名代「……」
召喚士「行けっ!シービショップ!!」
シュイイィィン…パアアァァ
召喚士「――!?」
シービショップ「…ダメじゃ。もはや手遅れよ」
魔道士「そんな……っ!」
召喚士「何言ってんだよ!?手遅れって…そんな事……」
ガシッ
- 165 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:53:06.13 ID:eGMGTcko
召喚士「……!?」
雷忍「いい……んだ……」
盗賊「か、雷……!」
雷忍「も、もう…良いのだ。良いのだよ……カカ…ッ」
火忍「いいって何だよおい!!ふざけんなよ!!」
土忍「……火」
火忍「いいわけねーだろがよぉ!!しっかり……」
土「火!!」
ビクッ
土忍「……黙るんだ」
火忍「……っ」
水忍「下半身は…風による切り傷と雷による火傷で…もう……」
風忍「両腕も…炭化が進んでいる…。こ、これでは……」
雷忍「……皆…無事な…ようだな……っ」
帝「雷…っ!雷ぃ!!」
- 166 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:53:42.39 ID:eGMGTcko
ガバッ
雷忍「…上様…か?」
帝「雷!しっかりせい!!」
雷忍「お顔が…拝見出来ず……まこと残念……」
女剣士「まさか…光を失って……っ」
雷忍「し、しかし…不思議なものよ。痛みは…無くなった……っ」
戦士「召喚士の治療で…痛みは消えたか…」
雷忍「…カカッ、ありがとうよ」
召喚士「……っ」
雷忍「……鬼丸…い、いるか…?」
鬼丸「…おう」
ザッザッザッ…ドスン
鬼丸「何だ、介錯か?」
雷忍「カカッ、気の早い…奴だ」
名代「鬼丸!!」
- 167 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:54:39.99 ID:eGMGTcko
鬼丸「…冗談だよ!」
名代「空気を読まぬか…馬鹿者…っ」
鬼丸「んで、何だ?」
雷忍「お主とも…不思議な縁よ」
鬼丸「だな」
雷忍「庄屋の一件じゃ……世話に…なったな」
鬼丸「なぁに、大した事ぁしとらんよ」
雷忍「同じ雷行の使い手として……う、上様を…頼むぞ」
鬼丸「…使い手ったって、使う得物もありゃしねぇよ」
雷忍「藤蔵の者に…指南を受けよ……」
鬼丸「……だとよ」
風忍「相分かった」
雷忍「……ひ、姫…っ」
盗賊「雷……っ」
タタッ…ガバッ
- 168 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:56:03.72 ID:eGMGTcko
盗賊「雷ぃ!何故、無茶をしたのだ!こ、この…たわけ…ぇ!!」
雷忍「カカッ……申し訳…ありませぬ……」
盗賊「…っく…っく……んっ」
雷忍「姫様……お泣きなさりまするな……」
盗賊「ひくっ……ひん…ひん……っ」
雷忍「……こ、これを……っ」
ゴソッ…グッ…ググッ…
盗賊「こ…っれ……」
雷忍「雷遁の……奥義書です……」
盗賊「……ひぐっ、すんすん…っ」
雷忍「今の姫…なら…ば、使いこなせまする……」
ブスブスブスッ…ボロッ
盗賊「――!!」
水忍「炭化が進んで……っ」
崩れゆく雷忍の右手よりこぼれ落ちた雷遁の奥義書。
それを盗賊は、決して地面へ落とさぬよう懸命に両手で受け取る。
- 169 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:57:13.93 ID:eGMGTcko
雷忍「…ご、ごふっ!……がは…っ」
盗賊「雷…っ、雷…!!」
雷忍「…上……様」
帝「…ここに…おるぞ」
雷忍「よか……った……」
魔道士「ひぐ…っ!う…っ、うぅっ」
帝「雷ぃ!傍に…私の傍におると申したではないかぁ!」
雷忍「…カ…カカッ、某…嘘つきに御座います故……」
帝「ば…馬鹿者ぉ!…ひぐっ!」
雷忍「姫……上様……」
盗賊「…うっ、うぐうぅ…っ」
雷忍「某……お二人を…ごほっ!い、妹のように思うておりました……」
盗賊「わ、私だって…雷を兄のように……っ」
帝「そ、そうだぞ…っ!」
雷忍「勝手ながら……妹のように……」
- 170 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:57:58.30 ID:eGMGTcko
風忍「もう良い!喋るな……!」
ガシッ
風忍「……?」
名代「言わせてやりましょう……もう…助かりませぬ」
火忍「馬鹿…やろ…っ」
水忍「……っ」
雷忍「なぁ……二つ星は……輝いておるか……?」
土忍「……」
雷忍「がはっ!!ごほごほ…っ……ごふっ」
召喚士「雷忍さんっ!!」
雷忍「二つ星は…………」
火忍「……ぐ…うぅっ!」
ザッ
火忍「風ぇ!!」
風忍「……何だ」
- 171 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 15:58:57.27 ID:eGMGTcko
火忍「お前との合体奥義なんぞ…役に立たねぇってさっき言った!!」
風忍「……火?」
火忍「訂正する!!今からやんぞ!!」
風忍「お前……」
雷忍「ごほっ!がふ……っ」
盗賊「雷っ!!しっかりせい!!」
帝「雷…ぃ、雷ぃ!!」
ザッ
戦士「……?」
火忍「火遁……秘奥義いぃ!!」
風忍「風遁…秘奥義……」
火忍「花鳥……」
風忍「……風月!!」
火忍と風忍による合体奥義『花鳥風月』。物理攻撃は一切なく、
ただ、風景と相手の脳裏に幻覚を浮かび上がらせる術である。
- 172 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 16:00:10.73 ID:eGMGTcko
名代「こ……れは…っ」
召喚士「け、景色が……!?」
魔道士「ひぐ…っ、き…綺麗ですぅ……ひぐっ」
浮かび上がる夜空の下には、木々が生い茂り、色とりどりの花々が咲き乱れる。
戦士「す…げ……」
土忍「……水」
水忍「…ああ。やるか」
ザッ
土忍「…土遁……秘奥義」
水忍「水遁、秘奥義」
ババッ
土忍「高山……」
水忍「……流水」
土忍と水忍による合体奥義『高山流水』。物理攻撃は一切なく、
ただ、周囲の者を幻聴にて惑わす術である。
- 173 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 16:00:59.24 ID:eGMGTcko
鬼丸「こりゃあ……」
女剣士「…川の…せせらぎ!?」
召喚士「野鳥や…虫の声も……っ」
名代「なんという……なんという美しい光景か…っ」
雷忍「……おぉ…あ…れは……」
水忍「見えるか雷、二つ星はしっかり輝いておるぞ」
帝「ひぐっ…ひっく…ひっく……」
盗賊「…う……うぐっ…ぐ…っ!」
ブスブスブス…
土忍「……かなり…炭化が進んでおります」
名代「…雷忍殿」
雷忍「……」
名代「……辞世の句を」
魔道士「――っ!!」
雷忍「そ…某は……忍。辞世の…句…など……」
- 174 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 16:02:15.54 ID:eGMGTcko
帝「そんな事はないっ!お主は…お主は立派な武士<もののふ>ぞ!」
雷忍「うえ……さま…ぁ…」
ボロッ…ブスブスッ…
盗賊「か、雷…っ!!」
雷忍「こ、心得も……ない……」
名代「そんなものは無用だ。お主の生きた証を述べれば良いのだ!」
雷忍「い…きた……証……」
帝「…う…うっ、ひっく…ひ……っく……」
雷忍「……ボソッ」
名代「……仕った」
雷忍「……若…ぁ」
ボフンッ…パラパラパラッ
女剣士「か、身体が…っ!?」
盗賊「雷!?雷いぃーっ!!」
雷忍「二つ星……守り…ましたぞ」
- 175 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 16:03:24.57 ID:eGMGTcko
パラパラパラッ…
火忍「馬っ鹿やろおおぉぉ!!」
パラパラッ…
召喚士「く…うぅ…っ!!」
パラッ…
盗賊「嫌だっ!嫌だよ!雷…っ!雷いぃーっ!!」」
雷忍「……カカ…ッ――」
帝「雷いいぃぃーっ!!」
…
鬼丸「灰に…なっちまったなぁ…」
魔道士「ひぐぅ…!うっ!うぅーっ!!」
フワッ
召喚士「……?」
戦士「灰が……舞い上がって……」
水忍「……光っている…っ!」
- 176 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 16:05:20.13 ID:eGMGTcko
灰と化した雷忍の身体。それは体内に蓄積した雷と風により発光と浮遊を繰り返す。
土忍「…まるで…蛍のような」
名代「…蛍ですね」
盗賊「う…あぁ…!ひぐっ、う……うぅ…!!」
名代「雷忍殿は、蛍なのですよ……」
帝「雷ぃ…っ、私は……私は…ぁ……!」
名代「二つ星の下でひっそりと輝く、儚い蛍だったのですよ」
風忍「……任務、ご苦労であった」
火忍「……う…ああぁぁー!!」
名代「……」
名代は筆と髪を手に取り、句を記す。
ススッ
名代「…雷忍殿の…辞世の句です」
盗賊「雷は…っ、私の……藤蔵の誇りだ…!!」
帝「あぐ…っ、あ…りがとっ……雷ぃ……っ」
- 177 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 16:06:19.30 ID:eGMGTcko
…
雷忍「……ん…っ」
――「おー、やっと起きたか」
雷忍「……わ、若!?」
兄様「全く、お前はいつまで寝ておるのだ」
雷忍「あ…っ、す…すみませぬ」
兄様「全うしたな」
雷忍「…ええ、全う致しました」
兄様「お前には、色々と苦労かけたな……」
雷忍「…カカッ、何を仰いますか!」
兄様「さぁ、約束どおり…一献傾けようではないか」
雷忍「…ははっ。有難き幸せ!」
兄様「二つ星を眺めながら、夜空の下での晩酌も乙なものよ。はははっ!」
雷忍「全くで御座いまするな!カカカカカッ!」
…
- 178 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2010/11/30(火) 16:07:17.50 ID:eGMGTcko
――雪空に 雷鳴止みて 輝くは 東の空の 二つ星かな
東方、最北の洞窟最深部にて……雷忍逝く。
享年二十九――
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