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少女「それは儚く消える雪のように」
- 632 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/03/06(火) 21:14:37.23 ID:MzfytjE+0
渚が巻いたハンカチを引き剥がして
ラボの洗濯機に放り込んだ時には、
もうじきバーリェ達を寝かせなければならない時間帯になっていた。
絆は、乱暴に椅子を蹴立てて腰掛けると、
頭を両手で抱えて深く息をついた。
渚が止めに入らなければ、絃を殴っていた。
しかし。
果たして、自分は。
絃の伝えようとしたことを、全て理解できていたのだろうか。
彼は、まだ何かを言おうとしていたのではないか。
- 633 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:15:35.08 ID:MzfytjE+0
感情の赴くままに、絃を殴ろうとした自分。
その、自分の持つ本能的な悪意に愕然としたのだった。
――桜の安楽死。
既に、絆と、絆のラボのバーリェにとって、
桜は他人ではない。家族同然だ。
その彼女が安楽死させられる。
唐突に絃が呟いた言葉だったが、
感情的になって話をするべき問題ではなかった。
もし自分が冷静で、静かに絃の話を聞いてやれていたら。
桜は、死なずに済むのかもしれなかったのだ。
- 634 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:16:25.20 ID:MzfytjE+0
荒く息をつき、絆は歯を強く噛み締めた。
そして手を振り上げ、自分の太ももに振り下ろす。
鈍い衝撃と共に、痛みが手首と足に広がった。
それでも足りず、また腕を振り上げた時。
絆は、自分がいる洗濯場の自動ドアが、
他者の接近を感知して開くのを見た。
腕を振り上げたまま停止する。
洗濯物を抱えて入ってきた命(みこと)が、
ポカンとした顔で絆を見た。
「ど……どうしたんですか?」
どもりながら問いかけられ、
絆は一瞬それに答えを返すことが出来ず、口をつぐんだ。
- 635 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:16:55.82 ID:MzfytjE+0
まさかこの子達に、「桜はもうじき殺されるんだ」
と相談するわけにはいかない。
「帰ってらっしゃったんですか?
もう私たち、ご飯食べちゃいましたよ?」
命がニコニコしながら近づいてくる。
絆は息を深く吐いて立ち上がった。
そして「トレーナー」の顔をして、
命に微笑みかけ、彼女の頭を撫でる。
「いや……顔を洗いたくてな。今帰ってきた。全員いるか?」
「え? ええ、いますけど……」
絆のその問いに、不思議そうに命が返す。
- 636 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:17:36.73 ID:MzfytjE+0
一つ頷いて息をつく。
誰の容態にも変化はなかったらしい。
「変な絆さん」
クスクスと笑って、命は洗濯機にバーリェ達の衣服を投げ入れた。
そして洗剤を手にとって、絆の手を見る。
「絆さん……血が出てます!」
素っ頓狂な声を上げられて、絆は軽く笑って手を振った。
「どうってことはない。バンドエイドを持ってきてもらえるか?」
「どうしたんですか? 誰かにやられたんですか?」
心配そうに命が傷を覗き込む。
- 637 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:18:11.37 ID:MzfytjE+0
この子は必要以上に詮索するのが好きだ。
詳しく説明することはないと判断して、
絆はシャツで傷を隠した。
「いや……格闘の訓練で相手につけられたんだ」
嘘をついた。
しかし命はそれをあっさり信じ、呆れた顔で絆を見た。
「絆さん、格闘技なんてやっていたんですか? 初耳ですよ」
「気晴らしにな。何、すぐ治る」
「ちょっと待っててください。私バンドエイドなら持ってます」
命はそう言って、着ていたエプロンのポケットから、
花柄のバンドエイドを取り出し、
慣れた手つきで絆の傷に貼り付け始めた。
- 638 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:19:17.95 ID:MzfytjE+0
彼女は見た目ややっていることに反して、
よく転ぶし、よく怪我をする。
そそっかしいのだ。
自分が怪我をした時のために持っていたのだろう。
普通、バーリェは滅多なことでは自分で
自分にバンドエイドを貼り付けたりはしない。
何故かと言うと、彼女たちクローンは、
異常なほどに雑菌に弱いからだ。
少しの傷でもたちまち化膿し、
周辺の皮膚を全て移植、というのも珍しい話ではない。
だから、命のように怪我をして、
自分でバンドエイドを貼り付けてハイ終わりというわけには
いかないのが常だった。
- 639 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:20:02.87 ID:MzfytjE+0
まぁ、それ以前にバーリェは人格調整をされる際、
滅多なことでは怪我をしないように創られている。
命は、その点では異常、と言えるバーリェだった。
何と言うか……人間に近いのだ。
体も、心も。
既に二年近く生きているのに、
全く寿命による老化の兆しが見られないのも、
やはり異常だった。
それゆえ、少し傷をしたくらいでは、
他のバーリェと違い命は化膿したりもしない。
手間がかからないバーリェ、
と言った具合なのだが、現実はそう甘くもなかった。
- 640 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:20:36.53 ID:MzfytjE+0
絆は、狙って彼女のような個体を引き当てたのではなかった。
偶然だった。
偶然、調整されてもらってきたバーリェが
そのような番外品(失敗作)だったというだけの話だ。
普通はすぐに殺処分してリサイクルに回すのが常なのだが、
絆の場合、そうでなくても命の体の異常に気付いたのは、
彼女を調整し始めてから一年経ってからのことだった。
突然変異とでもいうのだろうか。
成長するごとに、徐々に体が強くなっていくのだ。
その点で非常に人間に近い。
それだけ見ればメリットが大きいように思えるが、
命は、残念なことに「バーリェ」だった。
- 641 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:21:11.21 ID:MzfytjE+0
人間に近いということは、
同時にバーリェとしての性能を十二分に
発揮できないということに繋がる。
AADで使用できる生体エネルギーの
含有量が極端に少ないのだった。
バーリェとしては、致命的だ。
彼女たちは、自分を戦闘で使ってもらい、
そして死ぬことこそが喜びだと、
意識野の基本概念に刷り込まれて生まれてくる。
それゆえに、命は自分が戦闘で活躍できないということに
対して、強烈なコンプレックスを抱いていた。
絆は無論、それを知っていた。
知っていて、彼女には何も教えていなかった。
- 642 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:22:01.16 ID:MzfytjE+0
つまり、命は、自分がバーリェとしての失敗作である
突然変異種だということを知らない。
だから無邪気にバンドエイドを持ち歩いたり出来るのだ。
他のトレーナーが育てているバーリェにそのことを
話しでもしたら、たちどころに変な顔をされるだろう。
絆のラボではそういったことはないように気をつけてはいたが、
それが、絆が絃以外の他のトレーナーと交流を絶っている
要因の一つでもあった。
それでも、絆は命を殺したいとは考えたこともなかった。
ましてや安楽死なんて――。
想像したこともない。
――想像したことも、なかった。
- 643 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:22:35.48 ID:MzfytjE+0
一瞬絆の動きが止まったのを感じたのか、命が顔を上げた。
「どうかしましたか?」
問いかけられて、絆は僅かに憔悴した顔を彼女に向けた。
「いや……俺の分の飯はあるか?」
「はい! 作っておきました。今日のは美味しいですよー」
にこやかに命がバンドエイドを貼り付けて、絆の手を引く。
- 644 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:23:09.77 ID:MzfytjE+0
温かかった。
生きている、感触。
ふと思う。
絃も、桜の手を良く握っていた。
生きている感触が分かると言っていた。
彼も、今もうじき死のうとしている桜の手を握っているのだろうか。
何を、思っているのだろうか。
いくら考えても、絆には良く分からないことだった。
- 645 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:23:51.98 ID:MzfytjE+0
*
雪を連れて、エフェッサー本部に指定された
軍病院に到着して、
絆は重い足を引きずるようにして歩き出した。
絃とは話しづらかった。
いつもだったら、他のバーリェ
……特に薬の管理が必要になる雪の世話を彼に頼んで、
外出をしていたのだが
……今回は頼む気にはなれなかった。
優と文の世話を命に任せ、
昼をまたぐので、絆は雪を連れてきていた。
やはり自分の手で薬を飲ませないと、安心できない。
- 646 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:24:38.75 ID:MzfytjE+0
それに、雪は目が見えないがために、
一人で遊戯室などに置いておかれると
パニックになってしまう節があった。
そうでなくとも、
絆はエフェッサーという組織自体が
信用できなくなっていた。
だから雪を連れて、
本来ならば一人で来なければならないところを、
彼女と一緒に来てしまったのだ。
車を降りて職員に預け、雪の手を引いて建物に入る。
ここはバーリェ専用の軍病院だ。
他の施設と違い、軍人に警戒しなくても済む。
雪はしかし、緊張したようにピタリと絆の脇にくっついていた。
- 647 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:25:19.84 ID:MzfytjE+0
彼女の手を引いて、受付に行く。
そこで絆は、うんざりした顔を受付に向けた。
渚がにこやかな顔をして立っていたのだ。
「またあんたか……」
本来であれば、人は他人のことをあまり気にしない。
それゆえに人と人との対立というのは滅多なことでは
表面化しないし、だからこそ、
先日絆が絃に殴りかかろうとした時、渚は青くなっていたのだ。
彼女はしかし、絆の態度に気付いていないのか、
笑顔で近づいてきた。
「お待ちしていました。絆執行官。時間ピッタリですね」
「俺に恨みでもあるのか?
それとも俺のことを尾けてでもいるのか?」
- 648 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:26:03.17 ID:MzfytjE+0
絆のぼやき声を聞いて、
雪が表情を硬くして、彼の後ろに隠れてしまった。
それを見て少し残念そうに、渚は息をついた。
「こんにちは。エフェッサー本部職員の渚といいます。
あなたは……雪ちゃんね」
流石クランベだ。
差別や、罵詈雑言には慣れきっているという感じだ。
さらりと受け流されて、しかし絆も雪も、
言葉を発さずに沈黙した。
渚はしばらく前かがみになって雪を見ていたが諦めたのか、
先導するように歩き出した。
「こちらです。私の立会いの元、新しいバーリェちゃんの
引渡しを行うようにとのことでした」
- 649 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:26:48.79 ID:MzfytjE+0
「新しい……バーリェ?」
雪がそこで、絆に向けて蚊の鳴くような声を発した。
絆は苛立ったように息をついて、横目で渚を睨んだ。
雪には、敢えて言わないようにしていたことだった。
そうでなくても、「雪の」クローンなのだ。
本人が面白く思う筈はない。
詳しい説明を避けたかったがゆえに、
引渡しの際、「新しい仲間だ」と、
勢いでサラッと流すつもりだったのだ。
「逸脱行為が過ぎる」
ボソリと呟かれた絆の言葉に、慌てて渚は口をつぐんだ。
流石に気付いたらしい。
- 650 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:27:28.74 ID:MzfytjE+0
「新しい子を迎えに行くの? 絆、どういうこと?」
狼狽した声で雪が言う。
彼女が足をもつれさせ転びそうになったのを見て、
絆は足を止めて、雪の前にしゃがんだ。
雪が狼狽するのも無理はない。
彼女自身、自分があとどれだけ生きられるか分からないのだ。
自分の代わりを、絆がもらいにいくと勘違いしたらしい。
その場合自分はどうなってしまうのか。
そこまで、おそらく考えたのだろう。
「何ていうことはないよ。ただ、お偉いさんがたが、
新しい子作ったからモニター頼むってさ」
仕方無しに、完結的に言う。
- 651 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:28:01.30 ID:MzfytjE+0
雪はまだ狼狽した顔をしていたが、
やがて俯いて小さく言った。
「私は、まだやれるよ……」
その言葉に一番ショックを受けたのは、渚だった。
息を呑んだ彼女をまた横目で睨んでから、
絆は雪に言った。
「ああ、そうだな。知ってるよ」
「嘘。知ってるのに、どうして新しい子をもらいに行くの?」
「命令だから仕方ない。俺じゃなきゃ出来ないんだってさ」
「…………そうなんだ」
「ああ」
- 652 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:28:34.06 ID:MzfytjE+0
無理やり雪を黙らせるように話を打ち切り、
立ち上がって彼女の手を引く。
「どこですか? 病室は」
ぶっきらぼうに渚にそう聞く。
渚はしばらくの間雪を見ていたが、
やがて何か気の利いたことを言うのを諦めたのか、
エレベーターを手で指した。
「十二階の三号室で待機しています。
先ほど覚醒して、状況確認などをしていました。
既に言語機能などに問題は発生していないことを確認しています」
「分かりました」
足早にエレベーターの方に歩き出す。
このままトロトロとしていたら、
この女は何を言い出すか分かったものではない。
- 653 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:29:52.17 ID:MzfytjE+0
*
「こんにちは! マスター!」
病室に入った途端、絆を迎えたのは元気な嬌声だった。
嬉しそうにベッドの上で、
体を揺らしている女の子……バーリェがいた。
ニコニコと嬉しそうな顔を顔面中に貼り付けて、
とても可愛らしい子だった。
雪のクローンだからといって、
雪と全く同じ外見、同じ障害、
性格などを持っているわけではない。
根本的な部分では同一人物なのだが、
細かい個性はそれぞれ異なる。
- 654 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:30:29.03 ID:MzfytjE+0
第一、元はといえば、
バーリェは全て一つの胚から培養される。
突飛な言い方をすれば
――厳密に言うと違うのだが
――彼女たちは高確立で同一人物だと考えている学者もいる。
ロングの白髪を腰まで流している子。
雪と違ってしっかりした体つきと、
パッチリ開いた目に、
快活そうな顔つきを見たときは、さして驚きはしなかった。
それよりも絆を驚かせたのは、彼女の認識能力の早さだった。
まるでここがどこで、
自分が誰なのかを前もって完全に把握しているような……。
- 655 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:31:17.10 ID:MzfytjE+0
普通、バーリェは覚醒後一種の混乱状態に陥る。
生まれる前に学習させられた事柄と、
自分が五感で体感していることの差についていけなくなるのだ。
しかしその症状が全く見られない。
「あ、ああ。こんにちは」
「あなたが私のマスターですね!
これから宜しくお願いします!」
元気に言って、少女が頭を下げる。
どういうことだ……と、
絆はそれに返すことが出来ずに硬直してしまった。
前後の学習もなくこう、とは考えがたかったのだ。
- 656 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:31:56.08 ID:MzfytjE+0
「この子が覚醒したのは今から何分前ですか?」
小声で渚に聞く。
渚は手元のボードを確認してから言った。
「十五分前です」
「え……?」
不可能だ。
十五分の時間で、ここまでの状況認識能力は、
正直常軌を逸している。
赤子が突然ジェットコースターに乗せられ、
そのスピードに即座に慣れて笑っているような状況に近い。
これが新型なのか……
と、どう言葉をかけたらいいのか分からず迷っていると、
少女は不思議そうに首を傾げて絆を見た。
- 657 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:32:30.68 ID:MzfytjE+0
「どうしたんですか、マスター。
今日からお世話になります。
こちらにいらっしゃらないんですか?」
「その……マスターというのは何なんだ?」
純粋に疑問に思ったことを、つい口に出してしまった。
しかし少女は、それに対して元気に、ハキハキと答えてきた。
「私のことを使ってくださるんですから、
マスターとお呼びしようと、ずっと考えていました。
これから沢山私を使ってください!」
「…………」
絆は一拍おいてから、引きつった笑みを少女に返した。
「うん……取り敢えず話でもしようか」
まるで、絆のことを生まれる前から
知っているかのような受け答えだ。
- 658 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:33:04.89 ID:MzfytjE+0
本能的に空恐ろしいものを感じて、
絆は少女から視線を離した。
そして部屋の中にいる医師達に目配せをする。
医師達は頭を下げて計器を片付けながら、部屋を出て行った。
「あんたもだ」
渚にそう言うと、彼女も頭を下げて後ろに下がった。
そこで、絆の背後に隠れていた雪が体を覗かせる。
彼女は唖然と口を開けて、絆の手を強く握り締めていた。
「どうした?」
小声で問いかける。
そんな絆の様子を察していないのか、
少女は首を伸ばして雪を見ると、
病院服の胸の前でポン、と嬉しそうに手を叩いた。
- 659 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:33:49.49 ID:MzfytjE+0
「……お姉様! お会いできる日を、心待ちにしていました!」
「は……?」
彼女が言った言葉を即座に理解することが出来ずに停止する。
今何と言った?
お姉さま?
――雪のことを?
しかし停止している絆を見上げ、
雪は怯えたように彼に体を押し付けた。
そして、雪は消え入るような声で囁いた。
「絆……」
「…………」
「どうして、『私』がいるの……?」
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