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少年「悪魔の娘?」 少女「人殺しの化物?」
33 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:28:59 ID:5K6cN7w.
<一本の蝋燭が仄かに照らす部屋>

コン コン

少女「……はい」


ギィッ...バタン...

少年「おはよう」

少女「……おはよう」


少年「…………」

少女「…………」

少年「…………」

少女「…………」


34 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:29:35 ID:5K6cN7w.
少年「……昨日は、ごめんなさい」ペコ

少女「…………」


少年「…………」ジッ

少女「…………」

少年「…………」ジー

少女「…………」


35 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:30:06 ID:5K6cN7w.
少年「…………」ジ--

少女「…………」

少年「…………」ジ-...

少女「…………」


少年「……えぇと、その」

少女「貴方」

少年「ぁうんっ!?」


少女「教えて」

少年「う、うん……」


36 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:30:41 ID:5K6cN7w.
少女「……外って、良い所?」

少年「…………」


少年「うん」ニコッ

少女「……そう」

少年「とても、良い所だよ」

少女「お話してくれる? 貴方のこと」

少年「うん! ぁ……っ」

少女「……?」


少年「これって、仲直り?」

少女「…………」ジト

少年「ぇ?」


少女「……そう。貴方は、単にデリカシーがないんだね」

少年「……?」キョトン

少女「独り言だよ」ハァ


37 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:35:30 ID:5K6cN7w.
少女「貴方は、何をしている人なの? 傭兵にしては、随分と弱そうだけど」

少年「んぅ、失礼なっ」ムッ

少女「私と変わらない体格で、女の子みたいな顔してるくせに」ニヤ

少年「それ、Aにも言われた……」

少女「でしょうね」クスクス


少年「僕、戦ったら強いよ」フンス

少女「はいはい」

少年「むぅ」


少年「僕は、元々傭兵じゃないよ。今、旅費が尽きちゃって、それで仕方なく」

少女「旅費? 貴方、旅でもしてるの?」

少年「そうだよ。そろそろ、三年目に入るかな」

少女「三年っ!? ……貴方、よく今まで野犬に食べられなかったね」

少年「それ、どうゆう意味っ」ムッスー

少女「そのままの意味」クスクス


38 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:36:05 ID:5K6cN7w.
少女「三年も……。貴方は、どうして旅をしているの?」

少年「……探しもの、かな」

少女「探しもの?」

少年「うん」


少年「探してる。ずっと、ずっと……」

少女「……貴方の探しものって、何?」

少年「秘密」ニコッ

少女「むぅ」


39 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:36:51 ID:5K6cN7w.
少女「そんな理由で三年も旅なんて……。家族は? どうして親は、そんな無茶を許したの?」

少年「……家族は、居ないよ」

少女「えっ……?」

少年「生みの親は、もう死んだ。だから、旅に出たんだ」

少女「……ごめん、なさい…………」

少年「ううん、良いんだ」ニコッ

少女「……むぅ」


40 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:37:28 ID:5K6cN7w.
少年「君は?」

少女「私?」キョトン

少年「君は、どうして、その……」

少女「…………」

少年「えぇと、その、教会に……」

少女「……良いよ」クスッ

少年「えっ?」

少女「教えてあげるから、そんなにびくびくしないで」クスクス

少年「むぅ」


少女「私は、物心付いたときから、もうここに居たの」

少年「ずっと、ずっと?」

少女「そう、ずっと。生まれは、丘の下の町なんだけどね」

少年「どうして、それで教会に……」


少女「私が、『悪魔の娘』だから……」


41 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:38:08 ID:5K6cN7w.
少年「ぁ……」

少女「両親は、私を生むなり教会に預けた。それから、一度も会ったことがない」

少年「…………」

少女「私、親の顔知らないんだ」

少年「……そう、なんだ」


少女「私たち、何だか似ているね」ニコッ

少年「僕たちが……?」

少女「お互い、早くに親を失った同士」

少年「…………」


 その言葉に、何も言えなくなった
 僕は思ったんだ。僕たちは、とてもよく似ている。だけど、似ている所は"そこ"ではない。

 そして、僕たちには一つ、どうしようもない違いがあった。

 君は……。
 そして、僕は……。


42 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:38:48 ID:5K6cN7w.
<白き主に見守られた聖堂>

司祭「おぉ、おぉ。これはこれは、少年様」

少年「司祭さん」

司祭「少女の身を護るだけではなく、話し相手にまでなってくださり、誠にありがとうございます。天におわす主も、貴方のご厚意にお喜びのことでしょう。正面に見えますこの彫像はご存知でしょうか? この彫像こそ、我らが主であり……」ペコペコ

少年「ぇっと、あ、うん……」


少年「ねぇ、司祭さん」

司祭「何でしょうか?」

少年「どうして、少女は外に出られないのかな」

司祭「と、言いますと?」

少年「外に出られないのは、可哀想……」

司祭「……成程」


43 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:39:19 ID:5K6cN7w.
司祭「少年様は、とても優しい方なのですね」

少年「僕が、優しい……?」

司祭「えぇ、とても。自分以外の身を案じることが出来るというのは、優しさ以外の何物でもございません」


司祭「ですが、彼女を外に出すことは出来ません」

少年「……どうして?」

司祭「彼女が、『悪魔の娘』だからです」

少年「…………」


44 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:40:20 ID:5K6cN7w.
司祭「本来、『悪魔の娘』はこの世に生きて居て良い存在ではありません。外に出れば必ず悪さをする。彼女は、早急に滅するべき存在なのです」

少年「滅す……? なっ、そんな……!?」

司祭「嫌でしょう? 私だって、嫌なのですよ。だって、彼女は見ての通り、小さな女の子でもあるのですから」


司祭「だから、私は彼女を救うことにしたのです。毎晩儀式を行い、悪魔の力を封じる。そうしたからこそ彼女は、今日までこの世界で生きてゆけたのです」

少年「…………」

司祭「彼女は、外に出ることは出来ません。もしそうなったら、我々は彼女を滅さなければなりません……」


司祭「……少女は、『人間』ではないのですから」

少年「…………」


少年「……僕、部屋に戻るね」

司祭「えぇ。これからも、どうぞよろしくお願い致します」

コツ コツ コツ...


45 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:40:51 ID:5K6cN7w.
司祭「……さて。私も部屋に」

パチパチパチパチッ

司祭「……誰ですか?」

傭兵B「いやぁ〜。良いお話だったぜ。悲劇的過ぎて涙が出らぁ」

司祭「これはこれは、B様。……何か、ご用でしょうか?」

傭兵B「いんやぁ? ただ、世のエロジジイはこうやって餓鬼を丸め込むんだなぁって関心してた所さ。お決まりのパターンって凄ぇなぁ」

司祭「私には、貴方が何を仰っているのかさっぱり……」

傭兵B「あぁ、良い良い。そうゆうのは要らねぇ。あんたらみてぇな奴、こんな仕事してたらいくらでも会うんだわ、これが」ハッ

司祭「…………」


46 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:41:23 ID:5K6cN7w.
司祭「B様。よろしければ、今晩……」

傭兵B「ジジイのお下がりなんているかよ。じゃあな」ザッ

司祭「お待ちを!」

傭兵B「安心しろ。金さえ貰えりゃ、ちゃんと仕事はするさ」

スタスタスタ...


司祭「…………」

司祭「……ッ……!!」


47 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:41:56 ID:5K6cN7w.
<二つの月光が交差する廊下>

傭兵A「ふぁーぁ……。夜の番は暇で仕方がねぇ」

少年「…………」

傭兵A「どうした、ボウズ? ずーっとだんまり決め込んじまって。また、嬢ちゃんと喧嘩したか?」

少年「……ねぇ、A」

傭兵A「ぉ、どうした? 恋の悩みか、おじさんに何でも相談し――」


少年「『人間』って、何?」

傭兵A「……おう、哲学的ぃ…………」


48 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:42:28 ID:5K6cN7w.
傭兵A「ん゛ー、ぁ゛ー……。そう来たかぁー……」ウーム

少年「A?」

傭兵A「そうだなぁ……」


傭兵A「手と脚が二本ずつあって、二本脚で立って歩く。肌は薄橙色で濃かったり薄かったり、体毛の濃さもまちまちだ」

少年「え、え……?」

傭兵A「目は二つ、耳も二つ、鼻の穴も二つだが、口は一つ。子供の頃はお菓子が好きで、大人になれば酒を飲むようになる。お菓子と酒が沢山出る祭りが大好きな生き物。それが、人間だ」

少年「…………」キョトン

傭兵A「そうでなけりゃ人間じゃない」キッパリ


49 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:43:08 ID:5K6cN7w.
傭兵A「要するに、そんな格好してりゃ皆人間だ。だからぱっと見、あの嬢ちゃんも人間って訳だ」

少年「ぁー、ぅ、うん……?」

傭兵A「……だが、ボウズが訊いている『人間』ってのは、そうゆう意味じゃねぇんだろ? 現に、嬢ちゃんは『人間』じゃない。どんなにその形をしようとも、どんなに心を持とうとも、『人間』になれない奴が居る」

少年「た、多分……」

傭兵A「多分、ねぇ」フゥ


50 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 18:43:42 ID:5K6cN7w.
傭兵A「ボウズの言う『人間』ってのは、何だ?」

少年「僕の言う、『人間』……」


少年「……分からない」

傭兵A「だろうなぁ」ワシワシ

少年「っんぅ、分からないけど……止めて」

傭兵A「ホント、難しいもんだよなぁ。『人間』ってのは」

少年「…………」


52 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:32:49 ID:5K6cN7w.
<一本の蝋燭が仄かに照らす部屋>

ギィッ ガチャ...

少女「……おはよう」

少年「おはよ――ど、どうしたの!? そのほっぺの傷!?」


少女「……ちょっと、廊下で転んじゃって。大丈夫、腫れているだけだから……」

少年「そんな、大丈夫って……! ちょっと待ってて、救急箱を……っ」ダッ

少女「あ、ちょっと……っ」

少年「どこかに、ないかな……」ガサガサッ

少女「ちょっ、貴方! 人の部屋を勝手に……」

少女(本当にデリカシーのない人!?)

ガサガサッ ゴソゴソゴソッ

少年「君はそこで座っててっ。今見つけるからっ」

少女「…………」


少女「……何だって言うの」


53 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:33:35 ID:5K6cN7w.
少女「ぃつっ……」

少年「少しだけだから、我慢して」ポンポン

少女「うん……」

少女(あぁ、痛い。早く終わって……)ハァ


少女(この部屋、救急箱あったんだ。知らなかった……)

少女(自分の部屋なのに)

少女(まぁ、そもそもあまり怪我なんてしないもんね)

少女(外、歩けないし)

少女(それに、怪我したって、誰も……)

少女(誰、も……?)


54 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:34:05 ID:5K6cN7w.
少年「大丈夫? 痛くない?」

少女「ぇ……?」

少年「あ、痛い? 大丈夫?」

少女「ぁ、うん……。大丈夫……」

少年「そっか、良かった」ニコッ

少女「…………」

少女(……あぁ、そっか。知らない訳だ)

少女(怪我の手当てなんて、私、生まれて初めて……)


55 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:34:36 ID:5K6cN7w.
ポタッ...

少年「ぇ……?」

少女「……ぐすっ…………」

少年「ぇ、ぇえ……?」

少女「っく……、ぅ……っぐす……」


少年「ど、どどどどうしたの!? 消毒、しみた!? 傷痛む!!?」

少女「ぅくっ……。……ふふ、違うよ……」

少年「じゃ、じゃあどうして……っ!!?」


少女「嬉しくって」ニコッ

少年「っ……」

少女「こんなに優しくして貰ったの、初めてで。だから」

少年「…………」


56 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:35:08 ID:5K6cN7w.
少年「……少女」

少女「……何?」


少年「……外に、出ない?」

少女「無理だよ。私は、『人間』じゃないもの」

少年「そんな……! だって……!」

少女「私は、『人間』じゃない。"皆、そう言ってるよ"」

少年「――っ!」


少女「ふふっ……。私、貴方と居ると、凄く辛い」

少年「…………」

少女「貴方と居ると、自分のこと、忘れちゃう」

少年「…………」

少女「ごめんなさい。部屋から出て行って。もう、入って来ないで」


少年「……うん」


57 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:35:40 ID:5K6cN7w.
<燭台が整列する石造りの廊下>

少年「…………」

『俺が、『これは剣です』って言ったら?』 『……少女は、『人間』ではないのですから』 『私は、『人間』じゃない。"皆、そう言ってるよ"』


少年「……少女は」


『知ってます。私、あの場に居たでしょう』  『――ふざけないでッッ!!!』  『傭兵にしては、随分と弱そうだけど』 『……貴方、よく今まで野犬に食べられなかったね』
  『私たち、何だか似ているね』『嬉しくって』  『こんなに優しくして貰ったの、初めてで』


   『私は、『人間』じゃない。"皆、そう言ってるよ"』


少年「少女は……っ」


58 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:36:17 ID:5K6cN7w.
<町を見下ろす窓付きの部屋>

傭兵A「くぁ゛ーったく、疲れたぜぇー……。ボウズも、毎晩最後まで起きていて偉いな」ワシワシ

少年「……うん」

傭兵A「うーっし! 残りは二人に任せて、俺らはとっとと夢の中でバカンスだ!」バサッ

少年「…………」ゴソゴソッ

傭兵A「おーやすみぃ」

少年「おやすみ」


――――
――


少年(寝たかな……)ゴソッ

傭兵A「ぐぉー……、ぐがぁ……」Zzz...

少年(……ごめんなさい、A)

ギシッ...スタ...スタ...


59 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:36:49 ID:5K6cN7w.
傭兵A「――よう、ボウズ。便所か」

少年「ッ!?」バッ

ギシッ

傭兵A「ボウズ。今日はまた、一段と様子がおかしかったじゃねーか」

少年「…………」


傭兵A「俺らの仕事、何だか分かるか」

少年「……少女の、護衛」

傭兵A「おぉ、そうだ。俺ぁ、嬢ちゃんの安全を護らなくちゃいけねぇ」


傭兵A「……それが、誰が相手だとしてもなぁ……ッ」ギロッ

少年「っ……」


60 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:37:20 ID:5K6cN7w.
少年「……この前、お話してくれたよね」

傭兵A「…………」

少年「僕は、やっぱりおかしいと思うんだ」

傭兵A「…………」


少年「僕は、言うよ。『違う。これはペンだよ』って」キッ

傭兵A「そんなこと言っても、誰も認めちゃくれねーぞ」

少年「それでも、皆がどんなに反対しても、僕は絶対に諦めない。『これはペンだよ』って言い続ける」

傭兵A「やがて、自身も異端と扱われ、淘汰されるとしてもか」

少年「絶対に、諦めない……!」


少年「皆が危険だと言うのなら、僕が証明してみせる……! ペンが危険じゃないって、証明してみせる! だって、それは剣じゃないんだから! 僕がそれを認める!! 僕が、最初の一人になってみせる!!!」

傭兵A「…………」


傭兵A「……そうか」


61 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:37:52 ID:5K6cN7w.
傭兵A「……俺たちの仕事は、嬢ちゃんの護衛だ」

傭兵A「だが……」

ゴロン...


傭兵A「この通り眠ってちゃ、それも出来ねぇわなぁ……」

少年「A……」

傭兵A「ふん。ただの寝言だ」

少年「……ありがとう」

傭兵A「うっせ。起きんぞ」


ガチャ...パタン...


傭兵A「……ったく。眩しくて仕方がねぇ」ギシッ

傭兵A「…………」

『『人間』って、何?』


傭兵A「……あの嬢ちゃんは、『人間』になれるのかねぇ」ゴロン


62 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:38:27 ID:5K6cN7w.
少年「……待ってて、少女」

 そう。僕が最初の一人になる。
 君は、『人間』だよ。
 僕が、それを認める、最初の一人になってみせる。

 だから、だから……。


少年「…………」スッ



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