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少女『言葉が通じなくても』
- 747 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga]
投稿日:2010/12/14(火) 23:21:33.88 ID:9/f7zYAO
侍「……っはぁ…!」ズリッ
侍は刀を杖代わりに一歩、また一歩と歩みを進めた
侍「頼むから持ってくれよ…!」ザリッ
刀を持つ手は震え、足は身体を支えきれず今にも倒れそうだ
侍「まだ…死ぬ訳には……」グラリ
疲労、空腹、渇き…様々な絶望感で心の灯は風が吹けば消えそうだった
侍「! 見ろ…! 里だ! はは…っ! 人里だぞ!」
少女「……」ゼェゼェ
しかし、背中から感じる少女の…命の重さを確かめる度、侍の灯は何度でも熱く燃え上がった
侍「あと少しだ…どうかこの娘を……」ザッ
侍は大切な人を優しく、かつしっかりと背負い直すと、再び力強く歩き始めた
- 748 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 23:32:40.70 ID:9/f7zYAO
ガシャンッ
侍「これは…」
思わず刀を落とした
何日も荒野を彷徨い、たどり着いたのは「人里だった」場所
人一人いない廃墟…幽霊街だった
侍「あ―」
ぐらり
視界が暗転
落下
落ちる
落ちる
深く
冷たく
どこまでも―――
- 749 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 23:42:12.47 ID:9/f7zYAO
―――――
――さ――
お―さん―
お兄さん―
侍「はっ!?」バッ
少女「――!」
目を覚ますと少女の顔があった
何日も食事が取れず、少し痩せてしまったが、とりあえず体調は良さそうだ
侍「良かった…」ナデ
少女「――」ニコ
侍「ここは…」キョロ
見回すと月明かりに蒼く照らされた都があった
夜というのに店は軒並み営業中、大人から子供まで出歩いている
見上げれば銀色の月
その銀と蒼の美しさに、二人は微かな違和感を覚えた
- 750 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 23:50:36.72 ID:9/f7zYAO
―人は、死んだらどこへ逝くんだろう
天国? 地獄?
どこに在るんだい、そんな場所
誰か知ってる人がいたら教えてくれ
「死んだら月の都に行くんだよ」
え? 何、月の都に逝くって?
「そう、逝くじゃなく行く、ね」―
- 751 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/15(水) 00:26:48.52 ID:Yczl4.AO
…
少女『ふー! 生き返ったぁ』
侍『…』フッ
数日ぶりの食事に満面の笑みを浮かべる少女
満足げに腹をさする様子に、侍も暫し違和感を忘れていた
少女『お兄さん…大丈夫?』
実のところ、体調に関しては少女の方が衰弱度合いは軽い
それは食料が残り僅かになった時から、侍は水だけ…それも口を湿らす程度取る以外は、少女に与えていたからだ
- 752 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/15(水) 00:33:43.94 ID:Yczl4.AO
体力と精神力が格段に違うので、結果的に少女が先に倒れたが、そうでもしなければ荒野で共倒れになっていただろう
少女『…ごめ』
侍『――!!』ゲホッ
少女『お兄さん!』
嚥下と嗚咽を繰り返す侍
それは初めてパンを半分こした時みたいで―
少女『…お兄さん、ごめんねは言わないよ』
でも、確かに違った
- 753 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/15(水) 00:43:27.48 ID:Yczl4.AO
少女は食事の度に食事を半分こしようと思った
「二人の幸せ」
二人で幸せになるなら、侍が食事を抜き、少女に与えるのはお門違いではないか
そう、食事の度に思った
…だが、侍の顔を見る度に、又思ったのだ
―自分の足でお兄さんと歩いていく
それが私の今「為すべき事」―
- 754 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/15(水) 08:11:18.15 ID:CKuLOESO
流石の侍も飢えには勝てないか
- 758 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/16(木) 12:39:57.05 ID:LlZ86MAO
いつもご支援ありがとうございます
私情により、18日〜27日まで更新が滞るかもしれません
又、年末は例の北斗スレを書きたいと思ってるのでもしかしたら通常進行は年始からになるかもです
ご理解とご協力の程、よろしくお願いします
- 762 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/21(火) 00:03:08.03 ID:EgwnxEAO
…
少女『よい…っしょ』ギシッ
侍『……―』
衰弱した侍を寝床に横たえる
食事をした事で消化活動に力を取られているのか、侍は起きていられないようだった
少女『今夜は大丈夫。何も起きない、何も心配することはないよ』
侍の額をそっと撫で、少女は優しく囁く
それは、母が子をあやすようで…
侍『――……―』ググッ
少女『おやすみ』
トサッ
侍は深い眠りに落ちた
- 763 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/21(火) 00:17:19.24 ID:EgwnxEAO
少女『さて』
月明かりの差す窓から街を見渡す
蒼く照らされた街では人が行き交い、昼間と何ら変わらない賑わいだ
少女『みんないつ寝てるんだろ…』
子供もが駆け回る街の様子を見て、少女はため息を一つ吐いた
少女『……』
振り返ると侍が寝息を立てている
少女が、安らかに眠る彼の姿を見るのはだいぶ久しぶりの事だった
これは、侍が野営にしろ宿泊にしろ眠る時は周囲を警戒しつつの仮眠に留めている事に起因する
…寝顔をずっと見ていたい気もあった
が、少女は侍の布団をかけ直すと、音を立てないように部屋を後にした
- 766 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/21(火) 00:31:01.47 ID:EgwnxEAO
…
蒼い光に包まれた街を歩く
街は賑わっているというのに、妙な静けさがあるから不思議だ
少女『夜の世界って黒じゃないんだ…』
少女はこの街に来るまで、夜は黒、闇の世界だと思っていた
いつか体験した闇…漆黒の海こそ夜だ、と
しかし、街は淡く蒼く彩られていた
神秘的に、幻想的に
少女は、それが夢の話のように思えて……少し裾で手の平を拭った
- 767 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/21(火) 00:42:44.10 ID:EgwnxEAO
おじさん『へぇ! 旅の子か! 小さいのに凄いねぇ!』
ふとっちょ『何にもない街だけどゆっくりしてってよ!』
街の人と話をしてみたが、いたって普通
ちょっとした我が街自慢をする者もいれば、旅路の話を求める者もいる
さっきみたいに少女に興味を抱く人、褒める人もままいる
普通、何の変哲もない普通の街、人…
少女はそれがひっかかった
ひっかかった…が、その違和感の尻尾を掴めずにいた
見上げれば銀色の月
少女を嘲笑うかのように欠けた三日月だった
- 768 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/21(火) 00:52:11.13 ID:EgwnxEAO
ちょっと書けないストレスが爆発しそうだったのでガス抜きですw
別の事してる時の方がアイディアが湧くんで
おやすみなさい
- 771 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/21(火) 23:49:28.41 ID:EgwnxEAO
…
少女『―は?』
目覚めると雲一つ無い快晴だった
昨晩の蒼い街並みも幻想的だったが、今日の青空もなかなかに壮観だ
ところで、少女が何故疑問符を使ったかというと、
少女『え、屋根は? 宿屋は? …街はどこへいったの?』
そう、ベッドと今にも崩れそうな建屋を残し、街が消えたからだ
- 772 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:06:44.79 ID:gbAWyIAO
少女『一体どうなってるの…』
廃墟となった建物の並ぶ街並みを歩く
壁に残された傷跡は、人が離れて廃れたというより、天災やそれに準ずるものの被害によるものに見えた
少女『まるで私の故郷みたい…』
焼け跡の残る煉瓦に手を滑らせる
手が炭で黒くなった
今度は煉瓦をしっかり掴み、一杯の力を込める
と、煉瓦はボロッと砕けた
少女『……』
- 773 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:15:36.27 ID:gbAWyIAO
少女『あれは…』
幽霊街に一際目立つ建物があった
何故目立つかというと、宿屋を除くと唯一形を留めた建物だったからだ
少女『…すいませーん……』ギシッ
埃だらけで人気の無い建物に踏み入る
ギシ…ッ ギシ…ッ
一歩毎に床が軋む
その音が、人が居なくなって長い事を少女に告げた
- 774 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:25:38.28 ID:gbAWyIAO
…
少女『二階も何もない…』
朽ちた家具はちらほら見られるが、人が住んでいる形跡、食料、それに使えそうな物は何もなかった
少女『でも不思議だな…、ここだけ建物として残ってる』
崩れた壁や基礎だけになった建物が並ぶ幽霊街で、健在はむしろ異様だった
少女に言いようのない不安が生まれ始めていた
何か――助けを求められているようで
少女『…あっ』
ふと天井を見上げると引っ掛けのような物が出ていた
少女『…屋根裏、かな』
- 775 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 00:51:13.75 ID:gbAWyIAO
ギィィ…
少女『………』ソーッ
そっと覗いた屋根裏部屋はガランとしていて、下の階と大差なかった
なんだ、と改めて屋根裏に登った少女は静止した
生命を象徴する黄
成長を象徴する橙
未来を象徴する藍
熱情を象徴する朱
終わり、そして始まりの黒…
様々な色を擁した一枚の絵画
そこには鮮やかな朝焼けが描かれていた
- 778 名前:三日目東R59Aがお送りします [] 投稿日:2010/12/22(水) 20:16:13.01 ID:gbAWyIAO
息を飲んだ
少女は芸術に通じてなかったが、素人目に見てもこの「太陽」は傑作、…それ以上だった
世の中には希望を太陽に喩える言い回しが幾つもある
そして、幽霊街にそっと飾られた「太陽」は正に「希望」で―
少女『熱ッ』
じっと見ていたら瞳を焼かれた
- 779 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/22(水) 20:44:51.27 ID:uOzaiVco
少女「目がぁ!目がぁーー!」
- 781 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 21:55:04.25 ID:gbAWyIAO
少女『熱い…! 痛い!痛い!』
痛みで目が開かない、開けない
強く強く瞑った目の奥には、まだ太陽が燃えていた
少女『熱い!熱いよ!痛い!あああああッ!!』
瞳から視神経、脳へと火傷は広がる
少女『誰か…ッ! ああッ! 見えない! 熱いいぃ!!』
助けを求めて歩き出そうとしたが、少女の視界は太陽の眩しさで掻き消されていた
- 782 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/22(水) 22:01:29.53 ID:uOzaiVco
不謹慎だった
本当にすまないと思っている
侍はいずこへ?
- 783 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 22:03:37.21 ID:gbAWyIAO
少女『熱い! 痛い痛い痛い痛い!! あああああああ!!』
いよいよ火傷は酷くなり、ぐりぐりと、少女は自らの眼球を抉り始めてた
少女『誰か…』
殺して―
そう言いかけて、少女は空の声を吐いた
それだけは言えない
死んでも言えない
少女『う…ううう…ッ』ズリッ
少女は真っ白で何も見えないまま、手探りで道を戻り始めた
- 784 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 22:05:46.79 ID:gbAWyIAO
>>782
全然おっけーです
本編はコメディ描写しない方向でいくんで、皆様がパロったりしてくれると私自身楽しいです
- 785 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 22:15:48.49 ID:gbAWyIAO
少女『ぁあ……あづいよぉぉ』ペタッ
目端に熱い物が溢れた
そうして、瞳が焼けても涙は分かるんだな―と妙に冷静な自分がいるのも感じた
はぁ… はぁ… ドクン ドクン
自分の吐息と、血が流れる音
そしてキーンという耳なり
少女は、「狂って楽になろう」という弱い自分を必死に押し込め、少しずつ前へ進む
脳裏は煉獄、焦げ臭さが漂っている
少女の火傷は既に舌先まで麻痺させていた
- 786 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 22:22:39.45 ID:gbAWyIAO
少女『…………ぁ?』
少女は最後の理性で思った
階段はどこ、と
屋根裏部屋はこんなに広かったっけ、と
そもそも、起きたら突然廃墟になるような街に常識が通用するか、と
少女『―ッ』
喉元まで狂気が出掛かった
発していたら、二度と心の傷は消えなかっただろう
だが、間に合った
ヒタッ
少女『……あ』
- 787 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/22(水) 22:35:09.92 ID:gbAWyIAO
少女の瞼を冷たい物が覆った
少女はその冷たい物が離れぬよう、手でぎゅっと押し付けた
熱が奪われる
火傷が癒える
少女は闇の恐ろしさを知っていた
恐ろしさを知っていただけに、光の、太陽の素晴らしさを色眼鏡で見ていた部分があったかも知れない
光も又、過ぎれば全てを奪うのだ
やっと少女に視力が戻った頃、辺りはすっかり夜になっていた
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