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少女「それは儚く消える雪のように」 2
- 375 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/04/04(水) 19:30:20.61 ID:jX4+wWw10
十五○三十を示すアラームが鳴る。
その音にポカンとした三人のバーリェを
見回した絆の耳に、渚の叫ぶような声が飛び込んできた。
「死星獣の反応です!
このエリアに次々にワープしてきます!
十……二十……す、凄い数です!」
「落ち着いてモニターを見るんだ。
雪、霧、圭。騒がず、静かに集中しろ。大丈夫だ」
絆が落ち着いた声で渚達に指示をする。
渚が上ずった声で
「す……すみません」
と言って、戸惑った風に続けた。
- 376 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:31:11.46 ID:jX4+wWw10
「タイプγではありません……!
先日フォロンクロンに現れた金色の個体です!
数値確認完了しました。
エフェッサーの本部が……
に、二百五十三体の死星獣に囲まれています!」
絆は歯を噛んで、発しかけた疑問符を無理矢理飲み込んだ。
……二百五十三体?
しかも、タイプγではない。
あっさりと人型AADを破壊する、あの金色の個体だ。
息を吸ってからモニターをエフェッサーの
本部からの外部カメラに切り替える。
そして絆は、思わず息を呑んだ。
ゴキブリの群れのように、綺麗に整列した
金色の死星獣が放射状に広がっていた。
- 377 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:31:48.44 ID:jX4+wWw10
どれもが頭を垂らして、背中を曲げている。
見ただけでは数え切れない数だ。
本部を囲むように配置されていた
エフェッサーのAAD各機は、
その現状にただ驚くだけで動こうとしない。
「攻撃しろ!」
絆は一拍置いて我に返り、
マイクを全回線ONにして怒鳴り声を上げた。
そこで、また本部前の空中が歪み、
陽月王を一回り大きくしたような金色の機体が出現した。
それはフワリと地面に降りると、
何の力を使っているのか、ゆっくりと空中を漂い始めた。
機械人形が。
腕組みをして見下すようにこっちを見ている。
- 378 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:32:22.11 ID:jX4+wWw10
その視線に射抜かれたように、絆はハッとした。
「……絃か……?」
弾かれたように雪と渚が絆を見る。
金色のAAD型死星獣は、
地上三メートルほどのところを漂った
……と思った瞬間に消えた。
次の瞬間、近くにいた砲台型AADが
凄まじい爆炎を上げて大爆発を起こした。
一瞬で移動した金色のAAD型死星獣が、
少し前に優と文が使ったような
……いや、それよりも十数メートルは長い、
長大な迫撃戦用ブレードを構えている。
反応しようとした人型AADに対し、
それは、右手を伸ばした。
- 379 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:32:56.78 ID:jX4+wWw10
右手の装甲がバクン、と音を立てて開き、
金色のエネルギーを噴出させる。
それに胸部コクピットを握りつぶされ、
七百番台の人型AADは力なくその場に崩れ落ちた。
一瞬で味方の重要戦力の一部がやられたのを受け、
駈が全回線をオープンにして怒鳴った。
『全軍展開! 敵を駆逐しろ!』
次の瞬間。
全ての死星獣がわらわらと動き出した。
空中を浮遊して、自由自在に飛び回り始める。
まるで蝿の群れのように、他の人型AADに
金色の個体が群れて大爆発を起こす。
「活動開始マデ、後十七分デス」
「くそっ!」
- 380 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:33:29.38 ID:jX4+wWw10
絆は折れている手を操縦桿に叩き付けた。
体中に痛みが走るが、気にしている時間はない。
このままでは、本部の戦力は十七分ももたない。
そこで、モニターの一つ、
衛星チャンネルが切り替わった。
どこから映しているのか、
攻撃されているエフェッサー本部の様子が中継されている。
全世界に流されているというのか。
この殲滅戦が。
操縦桿を握り、絆はサポートAIに向かって声を張り上げた。
「エネルギー抽出を寸断する!
現在の稼動レベルで大恒王の全システムを起動させろ!」
- 381 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:34:05.32 ID:jX4+wWw10
「拒否イタシマス。
エマージェンシーコールレッドノ事由ニヨリ、
アナタノ発言ハ元老院ノ指示ヲ上回ルコトハアリマセン」
「ここに乗っているのは俺だ、やれ!」
「拒否イタシマス。エネルギー抽出ヲ続行。
残リ時間ハ、後十六分デス」
無常なAIの声があたりに響く。
歯噛みした絆の目に、陽月王によく似た味方の機体が、
凄まじい運動性で近くの金色の死星獣に近づくのが見えた。
迫撃戦用のブレードと、遠距離戦用のランチャーを積んでいる。
死星獣を薙ぎ倒し、飛び退りながらそれは、
砲口から黒いエネルギーを発した。
……霧のものと同じ、ブラックホール粒子を含むものだ。
数体の死星獣がそれに巻き込まれて綺麗に消滅する。
- 382 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:34:44.26 ID:jX4+wWw10
通信のコール音がして、
そこで薄ら笑いを浮かべた椿の顔が表示された。
『女の子のように焦って、格好悪いですよ。特務官様』
本部のオペレーティングルームで操縦しているらしい。
手元の操縦桿を動かしながら、彼女は言った。
『あなたが出てくる前に、全てを消滅させてみせるわ!
私にはそれが出来る!』
「早まるな! 相手の戦力も分からない状態で……」
慌てて絆が言う。
しかし椿のAADは、およそバーリェが乗っているとは
思えないほど無茶な中転を何度か繰り返し、
華麗に舞いながら周囲の死星獣を駆逐し始めた。
中のバーリェが、あれでは「壊れて」しまう。
- 383 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:35:28.63 ID:jX4+wWw10
当然ながら、現場で動いているバーリェ達には
無茶なGや落下の衝撃がかかる。
――何て向こう見ずな戦い方をするトレーナーだ……!
思わず唇を噛んだ絆の目に、椿のAADを
取り囲んだ金色の死星獣が、一斉に背中を丸めて、
力を込めるかのような動作をしたのが見えた。
そこからそれぞれ、全長とほぼ同じに近い
大きさの金色の羽が競り出して、
まるで天使のように周囲に伸びる。
背中から伸びた羽をはためかせ、死星獣達が宙を舞った。
『くっ……飛行形態に進化するなんて……!』
椿の狼狽したような声が聞こえる。
最初に現れた、陽月王と同じ外見の
金色の死星獣も、背中を丸めた。
- 384 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:36:05.90 ID:jX4+wWw10
そこから、他の死星獣とは違い六つ、
三対の羽が競りあがる。
まるで大天使のように手を広げながら、
それが空中に浮かび上がる。
周囲を金色の光が包んだ。
よく見ると、浮かび上がった死星獣達も、
同じような手を前に広げた姿勢をとっている。
「罠だ、下がれ!」
絆は青くなって怒鳴った。
『空が飛べるくらいで……!』
椿が押し殺した声を張り上げ、操縦桿を捻る。
彼女のAADが地面を蹴って、
実に十数メートルも宙に跳んだ。
- 385 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:36:41.98 ID:jX4+wWw10
黒いエネルギーを刃にまとわりつかせながら
ブレードを振り上げた
……と思った次の瞬間だった。
翼を持ち、浮かび上がった
死星獣達の手の平がそれぞれ光った。
まず、飛びかかっていた椿のAAD、
そのブレードが複数の銃撃を浴びたかのように
跳ね、爆発した。
次いで二十体ほどの翼を翻した死星獣達が、
空中で姿勢を歪めた人型AADを包囲するように移動した。
それらの体が強い金色に光り、太陽のように輝く。
包囲されている円形の空間が、真っ赤に染まった。
次いで、水蒸気爆発でも起きたかのように、
辺りに凄まじい爆炎が上がった。
- 386 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:37:17.76 ID:jX4+wWw10
円形にエネルギーが収束し、
天に向かって吹き上がる。
グラグラと地面が揺れ、
雪が悲鳴を上げて操縦桿にしがみついた。
唖然とした絆の目に、黒い消し炭のようになって
ガシャン……と地面に落下したAADの破片が映る。
包囲していた死星獣達は、しばらくの間真っ赤に
発熱していたが、やがて金色に戻って、
悠々と動き始めた。
『そ、そんな……』
椿が唖然として呟く。
「活動開始マデ、後十二分デス」
椿の、霧レベルのバーリェを使っても
四分間の足止めにしかならなかった。
- 387 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:37:56.13 ID:jX4+wWw10
――万事休すか……!
そう思った絆の目に、
そこで信じられない光景が飛び込んできた。
今まで出撃していなかった、
トップファイブの戦闘機型AADが、
次々とテイクオフを始めたのだ。
それに戦慄したのではない。
それぞれが積んでいた、
機体の大きさに相当する「爆弾」に戦慄したのだ。
あれは特攻兵装。
一度搭載すれば取り外しは不可能な、
バーリェの生体エネルギーを使った、
超高威力の、小型エネルギー爆弾だった。
バーリェを。
吶喊させるつもりだ。
- 388 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:38:24.65 ID:jX4+wWw10
「やめろ……!」
唸るように呟き、モニターを睨みつける。
駈が歪んだ暗い笑みを浮かべ、静かに言った。
『やれ』
バーリェ達が、次々と死星獣に向かって落下していく。
合計十八機の特攻隊が、放物線を描いて落下していく。
爆弾の重さに、機体が耐え切れないのだ。
――やめろ。
やめろよ。
こんなことのために育てたんじゃないだろう。
こんな風に命を散らせるために、育てたんじゃないだろう!
怒鳴ろうとして、すんでのところで自制する。
- 389 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/04(水) 19:39:36.55 ID:jX4+wWw10
お疲れ様でした。
次回の更新に続かせていただきます。
引き続きご意見やご感想、ご質問などございましたら、
お気軽に書き込みをいただけますと嬉しいです。
皆様もお体など壊されませんよう。
それでは、今回は失礼させていただきます。
- 391 名前:NIPPERがお送りします(東京都) [sage] 投稿日:2012/04/04(水) 23:43:11.28 ID:KgZdp0ZSo
まあ、それしかないよなぁ……
しかし絶望的だな……
今日も乙
- 394 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:22:37.25 ID:XF4r8r6f0
一瞬後、何拍か置いて凄まじい爆発が
周囲を揺るがした。
バーリェ三人が悲鳴を上げてシートにしがみつく。
――くそっ!
心の中で叫ぶ。
玉砕した。
敵と同じことを、しやがった!
もうもうと上がる煙の中、爆発に巻き込まれた
死星獣達が、ボロボロと塵になって消えていく。
エフェッサー本部の周囲は、完全に
数時間前の様相とは変わってしまっていた。
一面広がる、灰色の砂漠の山だった。
- 395 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:23:16.02 ID:XF4r8r6f0
ガレキが更に死星獣のブラックホール粒子で
塵になり、それがどこまでも広がる砂原を作り上げている。
「て……敵の戦力がおよそ半減!
包囲網が引いていきます!」
渚が叫ぶように言う。
半減……?
あれだけの数のバーリェが吶喊して
散って、それでやっと半分?
つまり百体以上の死星獣がまだ
現存しているということになる。
モニターを見ると、翼が生えた個体は
殆どが上空に浮かんで、爆発を逃れていた。
その中心に、腕組みをしてのけぞった
姿勢の、AAD型死星獣がいる。
- 396 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:24:15.94 ID:XF4r8r6f0
カメラアイを光らせながら、
それは六枚の翼を翻して下がり始めた。
……間違いない。
直感で絃と思ったが、あの死星獣の中には、
人間かバーリェが乗り込んでいる。
おそらく、バーリェの吶喊と味方の被害を見て、
第二陣があることを警戒したのだろう。
本部を取り囲んでいる飛行型死星獣達が、
数歩後ろに下がる。
「システムノ全起動マデ、後三百秒デス。
カウントダウンヲ開始シマス」
遂に、五分を切った。
これは……。
もしかしたら、間に合うかもしれない。
- 397 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:25:00.48 ID:XF4r8r6f0
しかし、間に合ってどうするというのだろう。
飛行している新型の死星獣百数体を相手に、
これだけの戦力で戦えるのだろうか。
本当に、大恒王一機がそこまでの力を
持っているのだろうか。
絆は歯を噛んで、カウントダウンが
開始されているコクピットの中、渚に言った。
「衛星電波を、三十五タイプの回線全てジャックしてくれ。
新世界連合と同じことをする……! 出来るはずだ!」
「特務官……? で、ですがどうして……」
「あの敵の死星獣、一体だけ動きが違う。
司令塔の人間が乗っている可能性が高い」
それを聞いて渚が息を呑む。
- 398 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:25:46.98 ID:XF4r8r6f0
『構わない。時間を少しでも稼ぎたい。やりたまえ』
絆の通信を聞いていた駈が口を挟んだ。
渚は少しの間迷っていたが、
「分かりました……!」
と言って計器を操作し始めた。
少しして衛星電波の映像に、絆の顔が映し出された。
コクピット内から出力された映像を、
電波をジャックして割り込ませている。
絆は息を吸ってから、押し殺した声で言った。
「……愚かなる新世界連合の人間達に告ぐ。
こちらはエフェッサー、本部トレーナーだ」
浮かんでいるAAD型死星獣が、動きを止めた。
- 399 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:26:21.49 ID:XF4r8r6f0
聞こえている。
その事実に唾を飲んで、絆は鉄のような声で言った。
「諸君らの行動で、沢山の命が亡くなった。
そしてこれからも、亡くなろうとしている。
諸君らは大事なことを忘れていると、私は思う」
『…………』
ザザ……と映像にノイズが混じり、
別の衛星回線に、一人の男の顔が映し出された。
白と赤を基調とした軍服を着ている、壮年の男性。
絃だった。
彼は操縦桿を握りながら、
全世界にオープンになっている回線で、口を開いた。
『こちら新世界連合の統括だ。
エフェッサー本部からの交信に対して応答を行う』
- 400 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:27:12.01 ID:XF4r8r6f0
……やはり絃は出てきている。
まず間違いなく、あれに乗っているのが、彼だ。
直感でそう感じたが、彼が操縦桿を
握っていることでその確信を深める。
総括者が自ら出てきていることが
疑問に思えたが、絆は続けた。
「……応答に感謝する。
即刻戦闘行動を中断し、話し合いの場を設けたい」
絃は口の端を吊り上げて、
小さく喉を鳴らしてそれを笑った。
『これだけやっておいて……今更話し合いとは笑わせる。
もはや我々は話し合う段階を通り越して余りある状況にいる。
あるのはどちらかの全滅か、共倒れかだ。
我々は諸君らと分かりあうつもりはない。
諸君らと話し合うつもりもない。
あえて要求を伝えるとすれば
「速やかに死んでいただきたい」ということだけだ』
- 401 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:27:48.27 ID:XF4r8r6f0
「……どうしてだ! 何があんたをそこまで変えた!」
絆が声を張り上げる。
絃は一瞬押し黙ったが、やがて静かな声でそれに返した。
『バーリェは存在してはいけないロストテクノロジーだ。
諸君らはそれを使って、ここまでの抵抗を行っている。
バーリェはこの星を駄目にする決定的な要素だ。
全てを駆逐する必要がある』
彼の言葉を聴いて、雪、霧、圭が息を呑む。
絆は唇を噛んでから言った。
「ロストテクノロジー……?」
『考えたことはないのか? バーリェが「何」から作られ、
どうやって培養されて、そしてロールアウトされるのか。
元老院だけがその事実を知っている。
この世界を腐らせている原因の元老院がな!』
絃は突然怒鳴ると、腕を操縦桿に叩き付けた。
- 402 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:30:21.73 ID:XF4r8r6f0
『既に犀は投げられている!
生き残るか、もしくは「死」か、目は二つしかない。
覚悟を決めよ! 立ち向かって来い!
最後の抵抗はどうした? 命乞いはどうした?
泣きながら乞う惨めな姿を映せ、愚者共よ!』
――狂っている。
激情に任せてか、AAD型死星獣が
金色に強く発色し始める。
『このAADエンジンを取り込んだ死星獣、
「戦劫王(せんごうおう)」と、新たな死星獣との兵力で、
我らは諸君らを壊滅せし、新たなる新世界への狼煙とする!』
発色しているAAD型死星獣
――戦劫王の胸の前に、黒い玉のようなものが浮かび上がった。
それを両手で抱えるようにした戦劫王の前で、
玉は徐々に大きさを増すと、
凄まじい速度で周囲の「空間」を吸い込み始めた。
- 403 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:31:04.97 ID:XF4r8r6f0
「強力な重力子指数です!
磁場拡大! 通信が遮断されます!」
渚が叫ぶ。
ブラックホールの玉……。
おそらくは、死星獣が発散している
ブラックホール粒子を集めて空間に固着させている。
凄まじい重量のはずだ。
衛星電波が乱れている中、絆は小さく呟いた。
「……変わったな。俺も、あんたも……」
『…………』
「変わっちまったよ……」
絆は操縦桿を握り締め、搾り出すように言った。
- 404 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:31:46.29 ID:XF4r8r6f0
「みんな死んでいくよ。
大切だと思っていたものが全部なくなっていくよ。
目の前で……! 俺の、この目の前で!
何もかもが全部崩れていく!
それは他でもない、あんたの、あんた達のせいだ!」
絆は声を張り上げた。
「だから俺は! あんた達を認めない、
許さない! あんたは、俺の敵だ!」
「エネルギー抽出完了。全テノ設定ヲニュートラルヘ。
メインシステム、戦闘モードヲ起動シマス。
バーリェ認証完了、全武装ノロックヲ解除。
視界確保、レディ。大恒王、全テノプログラムヲ起動シマス」
「霧、飛べ!」
機械音声が流れるとほぼ同時に、絆は叫んでいた。
反射的に意識を集中した霧の操縦で、
大恒王の背部ブースターが点火した。
- 405 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:32:21.65 ID:XF4r8r6f0
スペースシャトルの発射を思わせる動きで、
鈍重な機械人形が宙に浮く。
次の瞬間、格納庫の屋根を突き破って、
大恒王の巨大な姿が空を舞った。
「大恒王の戦闘システムが起動しました!
攻撃を開始できます! 策敵回路確保、行けます!」
ブツリと音を立てて衛星電波が消える。
「全員、迎撃しろ!」
絆が怒鳴る。
三人のバーリェが同時に目を見開いた。
空中にウィングを展開して浮遊している大恒王に向けて、
戦劫王が、まるでボールのようになった
ブラックホールの塊を振りかぶって投げつける。
- 406 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:33:01.83 ID:XF4r8r6f0
霧の操縦で、大恒王が右腕を突き出した。
腕の装甲が何段階かに分かれて次々に開き、
灰色のエネルギーを噴出させ始める。
「武装、『エンドゥラハン砲』ヲ使用シマス」
AIの声が流れた次の瞬間。
腕から滝のように噴出していたエネルギーが、
腕の周りで渦を作り、
吹き飛んでくるブラックホールの
塊に向けて「発射」された。
凄まじい発射衝撃がコクピットを襲う。
- 407 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:33:43.32 ID:XF4r8r6f0
渚が悲鳴を上げてシートにしがみつく。
そうでなくても不気味な浮遊感が
体を襲っているのだ。
しかし絆は、ガチガチと揺れる操縦桿を
強く握り締め、そのエネルギーの奔流を、
無理矢理調整して戦劫王に向けた。
薙ぎ払われたブラックホールの塊が、
ドッパァンッ! と水風船が破裂したかの
ような音を立てて砕け散る。
周囲に雨あられとブラックホールの破片が降り注ぐ。
そして、全長二百メートルほどに伸びた
エネルギー波は、数十体の死星獣を巻き込んで
紙風船のように炸裂させ、戦劫王に突き刺さった。
- 408 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/05(木) 19:35:05.77 ID:XF4r8r6f0
お疲れ様でした。
次回の更新に続かせていただきます。
ご意見やご感想、ご質問などございましたら、
お気軽に書き込みをいただけますと嬉しいです。
それでは、今回は失礼させていただきます。
- 412 名前:NIPPERがお送りします(愛知県) [sage] 投稿日:2012/04/06(金) 00:30:11.60 ID:gaN+BZ8co
今更だが、絆がかなり感情的になってきたな
- 413 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/06(金) 04:30:32.51 ID:AmEHquN8o
愛だ何だと馬鹿にしていた面影はほとんど消えたね
お疲れ様
- 415 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:30:14.16 ID:tCTVvjTx0
こんばんは。
これから大恒王の力が発揮されていきます。
絆はだいぶ人間らしくなりましたね。
共感できる人柄になってきましたが、相乗して状況が悪化していきます。
続きが書けましたので投稿させていただきます。
引き続き、お楽しみいただけますと幸いです。
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