■戻る■ 下へ
少女「それは儚く消える雪のように」 2
- 416 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/04/06(金) 19:31:13.82 ID:tCTVvjTx0
しかしエネルギーの奔流は、
戦劫王に当たる直前で何かのエネルギーに
歪められたかのように割れ、二つに分かれた。
そのまま海を割る人のように、
戦劫王もこちらに手を伸ばして広げる。
「ナビをするんだ!」
渚に向かって声を張り上げる。
そこで渚がハッと我に返り、モニター類の操作を始めた。
「局所的な重力子フィールドです!
中和できない空間位相により、
エネルギーの流れが歪められています!」
「中和できない……?」
バーリェの生体エネルギーは、
死星獣の持つブラックホール粒子を中和して打ち消すはずだ。
- 417 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:33:18.23 ID:tCTVvjTx0
こちら側の攻撃がおかしいのか。
もしくは、相手の持つ技術がそれを克服したのか。
一瞬分からなくなったが、
絆は操縦桿を握って霧に言った。
「砲撃を止めろ! 無駄にエネルギーを使うな!」
「は、はい!」
頷いて慌てて霧が意識を集中する。
「エンドゥラハン砲ノ射撃ヲ中止シテイマス」
「早くしろ!」
悠長に中断プロセスを言ったAIに怒鳴る。
そして絆は渚に言った。
「武装は? 他には何が?」
- 418 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:34:01.79 ID:tCTVvjTx0
「ロックが解除されている武装の数は、十五です。
現在は、続けてエネルギーミサイルの使用が可能です!」
ヒュゥゥ……とエネルギーの渦が回転して掻き消える。
威力は高いが、隙が大きすぎる。
それにエネルギー攻撃は相手に歪められて
受け流される可能性が高い。
なら、肉弾戦でいくしかない。
……しかしその前に、他の死星獣を
どうにかする必要があった。
エンドゥラハン砲を一発撃っただけで、
二十四体の死星獣が破裂した。
――駆逐できる。
この機体パワーなら、それが可能だ。
- 419 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:36:36.84 ID:tCTVvjTx0
そう思った絆の耳に、
霧が悲鳴のような声を上げたのが聞こえた。
「マスター! 囲まれます!」
翼を持つ死星獣達が、金色に発色しながら
両手を広げゆっくりとこちらを包囲してくる。
その体が真っ赤に発熱を始めた。
囲まれている大恒王を中心とした空間が、
球形に真っ赤に輝く。
「外部温度急速に四千度を突破、
水蒸気爆発を起こします!
衝撃に備えてください!」
「熱波攻撃ヲ感知。
スティグマスフィールドヲ展開シマス」
上ずった声を上げた渚とは対照的に、淡々とAIが言う。
- 420 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:37:16.37 ID:tCTVvjTx0
何だそれは、と言おうとした瞬間、
周囲を全方位から揺るがす大地震が起こった。
高熱が空気中の水分を一気に膨張させ、
巨大な水蒸気爆発を起こしたのだ。
耳を塞いで悲鳴を上げた雪を、慌てて霧が支える。
グラグラと大恒王が揺れた。
絆自身も訳が分からなくなり、
操縦桿を必死に握り締める。
雪の管制を離れ、大恒王の背部ブースターが
いきなり全開に展開し、
鈍重な機体は空中に高速で飛び上がった。
「雪、しっかりしろ! 霧、操縦桿から手を離すな!」
「は……はい!」
震えている雪をシートに座らせ、慌てて霧が操縦桿を握る。
- 421 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:38:06.39 ID:tCTVvjTx0
絆の後ろで渚が唾を飲んで口を開いた。
「大恒王……展開されたエネルギー防御膜により、
熱波を遮断、相殺しました。
損害率ゼロパーセント、無傷です!」
雪と霧の操縦が元に戻り、大恒王が雲の上で静止する。
そして重力に引かれ、物凄い勢いで落下を始めた。
「全てのミサイルをロックします!」
霧が叫ぶ。
大恒王の背部ブースターの側面が開き、
一発一発が巨大なミサイルが、
数十個一気に競り上がった。
「エネルギー注入完了。
八十六体ノ敵熱源ヲ全テロックシマシタ」
「撃て!」
- 422 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:38:59.23 ID:tCTVvjTx0
絆の声に合わせて、霧が操縦桿のトリガーを引く。
機体がグラグラと揺れる程の勢いで、
全てのミサイルがエンジンを点火させ、
高速で射出された。
落下しながら発射されたミサイルは、
一度放物線を描いて空中に飛び上がると、
一気にそれぞれ一体ずつ、死星獣に向かって落下した。
次の瞬間、視界が灰色に染まった。
ミサイルが着弾した場所が、
高さ三百メートル近い爆発煙を噴き上げたのだった。
それが至るところで吹き上がり、砂漠の砂を舞い上げる。
「雪、機体のバランサーを安定させろ!」
絆の声を受けて、雪が急いで操縦桿を握る。
- 423 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:40:03.49 ID:tCTVvjTx0
大恒王は地面に衝突する寸前、
体の各部から補助ブースターを点火させて体勢を安定させ、
また空中に飛び上がった。
遊園地のアトラクションとは
比べ物にならない程のGが体にかかる。
舌を噛んだのか、渚が口元を手で抑えた。
絆も飛び出しそうな目と心臓を無理矢理押しとどめ、
モニターを見る。
「エネルギーミサイル、全弾命中ヲ確認シマシタ」
AIの声が聞こえる。
しかしそこで、渚がくぐもった声を発した。
「まだです! 重力子指数、急激に増大しました、
死星獣の反応は消えていません!」
- 424 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:40:56.71 ID:tCTVvjTx0
ミサイルの一斉射撃を受けて、
死星獣の体がバラバラに飛び散っていた。
コアもだ。
それらが強い金色に輝き、アメーバのように蠢きながら、
ゲル状とは思えないほどの俊敏な動きで集まっていく。
上空には、ブレードを構えた戦劫王の姿があった。
ミサイルを切り飛ばしたらしい。
ブレードの刃が、爆発の衝撃を受けたのか
ボロボロになっている。
蠢きながら一つに集まった八十六体の死星獣は、
小山のように盛り上がった。
そしてニュル、と形を変えて立ち上がる。
……全長百メートルを超える、巨人だった。
- 425 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:42:09.47 ID:tCTVvjTx0
金色ののっぺらぼうの巨人が、
手の平に戦劫王を乗せて体を奮わせる。
周囲にブラックホール粒子が、
見て分かるほど大量に吹き荒れた。
先ほどの攻撃では、エフェッサー本部を避けるように
ミサイルをロック操作したつもりだったのだが、
本部はいまや半壊状態に陥っていた。
しかし、基地があるのは地下だ。
まだ全員生きている筈だ。
百メートルを超える巨人は、唖然としている
霧と雪の目の前で、真っ赤に発熱を始めた。
「飛べないのは自重に耐え切れないからか……!
全員本部を守るぞ! あの化け物を倒す!」
絆の声に反応し、雪と霧が頷く。
- 426 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:42:55.00 ID:tCTVvjTx0
圭は、しかし反応がなかった。
苦しそうに胸を押さえて、荒く息をついている。
「圭、大丈夫か!」
絆が言葉を投げかけると、圭は彼の方を向いて首を振った。
「大丈夫じゃ……ありません。苦しい、息が出来ない……!」
その言葉に、絆はハッとした。
大恒王を今動かしているメイン動力は圭だ。
彼女に負担をかけすぎている。
しかし絆は操縦桿を握り締め、
真っ直ぐに巨大な死星獣を睨みつけた。
……こいつを。
こいつをどうにかしなければ、どの道自分たちはお仕舞いだ。
- 427 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:43:39.33 ID:tCTVvjTx0
倒すしかない。
この化け物と、絃を。
「フィールドを全開で展開しろ! 爆発から本部を守る!」
考える間もなく叫んだ絆の目に、巨大死星獣の体が白く、
フラッシュのように光るのが見えた。
「熱波攻撃ヲ感知。スティグマスフィールドヲ再展開シマス」
「展開状態を維持! 迫撃戦に移行する!」
大恒王を揺るがす勢いで、また水蒸気爆発が起こった。
僅かに残っていたエフェッサーの
地上基地が衝撃で吹き飛んだ。
「了解。ハイ・シィンケルハンドブレードヲ展開シマス」
AIが絆の声に反応し、大恒王の肩部装甲を開く。
- 428 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:44:37.48 ID:tCTVvjTx0
エネルギーフィールドで、二回、三回と続けて起こる
大規模な爆発を耐えながら、
大恒王は背部ブースターを点火させた。
肩部装甲から、何段階かに分かれて長大な、
刀のようなブレードが競りあがる。
それを抜き放ち、二刀を両手で構えて
大恒王は爆発の中を飛んだ。
二刀のブレードに、灰色のエネルギー粒子がまとわりつく。
霧が、訳の分からない声を上げて操縦桿を握りこんだ。
その目の色が変わる。
比喩ではなく、
本当にワインレッドのような色に瞳が染まった。
「うわああああ!」
悲鳴のような絶叫を上げながら、霧が高速で操縦桿を動かす。
- 429 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:45:22.20 ID:tCTVvjTx0
大恒王は、また爆発を引き起こそうと発光した
巨大死星獣の首を、
突撃の勢いそのままに二刀のブレードで凪いだ。
……衝突の瞬間、ブレードが三倍ほどの長さに伸びた。
圭がビクンと体を痙攣させる。
切り離された死星獣の首が、大爆発を起こす。
次いで、胴体だけになった死星獣がクルリとこちらを向いた。
通り過ぎた大恒王に向かって、胸の皮がベロリとめくれ……。
そこに敷き詰められるように積み重なっていた
四角形のキューブ体、八十六個のコアが、
一斉にハリネズミの針のように形を変化させた。
「他に武装はないのか!」
絆の声に、渚が一拍押し黙った後言った。
「あります! 局地的極威力破壊兵器が使えます!」
- 430 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:46:07.15 ID:tCTVvjTx0
――局地的極威力破壊兵器?
その意味を一瞬推し量ることが出来ずに、
思わず渚を見る。
しかし絆は、次の瞬間、
命を塵に変えた針が無数に
発射されたのを見て叫んでいた。
「やれ!」
「了解。『ブルフェン』ヲ使用シマス」
AIがそう言った途端、大恒王が空中で動きを止めた。
そして死星獣の針に向き直る。
「全テノシステムヲパーンクテンション。
視界確保、レディ。残存エネルギー指数、レディ。
武装チェック、レディ。全エネルギーヲ解放シマス」
腕を交差させ、大恒王が空中で仁王立ちになる。
- 431 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:46:54.85 ID:tCTVvjTx0
その肩と足の装甲が開き、
中のキューブ状の物体が四つ、高速で回転を始めた。
「いや……いやああああ!」
しかしそこで、飛来する針の山を見て霧が突然叫んだ。
命の死に様が脳裏に蘇ったのだろう、
恐慌を起こした彼女が操縦桿から手を離す。
途端に落下を始めた大恒王の
四つのキューブ体が真っ白に輝き……。
次の瞬間。
大恒王を中心とした、
半径千メートルほどの空間に、
リング状の衝撃波が広がった。
それは死星獣のコアを巻き込むと、
ジュッ、と音を立てて消滅させ、なお吹き荒れた。
- 432 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:47:37.73 ID:tCTVvjTx0
一拍後、リング状の衝撃波が走った空間が、
次々に「歪ん」だ。
そして半径一キロほどの空間が
ぐんにゃりとゼリーのように揺れ。
掻き消えた。
音もなく。
爆発もなく。
雪がバランサーを起動させて、地面に大恒王が膝をつく。
そして雪は、体からケーブルが抜けるのも構わず、
頭を抑えて首を振っている霧に抱きついた。
「霧ちゃん、しっかりして! 霧ちゃん!
お姉ちゃんがここにいるよ、大丈夫だよ!」
霧が雪にしがみついて大声で泣き声を上げる。
- 433 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:48:13.69 ID:tCTVvjTx0
大恒王が及ぼした静かな大破壊に、
絆と渚は唖然としていた。
ただ、唖然とするしかなかった。
何が起きたのか分からなかったのだ。
「全エネルギーヲ放出シマシタ。
大恒王ハ活動ヲ停止イタシマス」
ブゥン、と音がして大恒王のコクピット内の明かりが消える。
非常用の赤いランプが点滅し、圭が力なく首を垂れた。
「圭!」
意識を失った彼女を、死んだと勘違いした絆が、
青くなってシートを駆け下りた。
そして圭の脈拍を確認し、泣きじゃくっている霧と、
圭の頭を抱き寄せる。
- 434 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:49:02.36 ID:tCTVvjTx0
「分かった。よく頑張ったな
……帰ろう。俺達のラボに帰ろう」
雪がそれに対して口を開きかけた途端だった。
大恒王がすさまじい衝撃とともに、
空中に持ち上げられた。
そのまま鈍重な機体が引きずられるように
前から押され、カチ上げられる。
空中に逃げていたらしい戦劫王が急降下して、
大恒王の首を掴んで引き上げたのだった。
そのまま両手でコクピットを掴み、
ギリギリと戦劫王が締め上げ始める。
明らかに危ない音がして、
コクピットハッチに無数のヒビが走った。
「くそ……っ! 逃げてたのか……!」
- 435 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:50:38.02 ID:tCTVvjTx0
Gに耐えながら絆が吐き捨てる。
「脱出システム、ホールドされています!
脱出できません!」
渚の悲鳴を受けて、絆は歯を強く噛み締めた。
……ここまでか。
そう、思った時だった。
不意に絆が抱きかかえていた圭が、
ゆっくりと目を開いた。
彼女は絆の手を振り解いて、
何かに取り付かれたかのように、
左手だけで操縦桿を握った。
途端に大恒王のコクピット内電源が点灯する。
「不明ナデバイスガ接続サレマシタ。
大恒王ハ全テノシステムヲ再起動イタシマス」
AIの淡々とした声が響いた。
- 436 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/06(金) 19:52:15.38 ID:tCTVvjTx0
お疲れ様でした。
次回の更新に続かせていただきます。
ご意見やご感想、ご質問などがございましたら、
お気軽に書き込みをいただけますと幸いです。
花粉が辛い季節になってまいりました。
皆様も十分ご対策ください。
それでは、今回は失礼させていただきます。
- 438 名前:NIPPERがお送りします(東京都) [sage] 投稿日:2012/04/06(金) 20:48:54.93 ID:u86CDZrFo
圭覚醒か・・・・ついにか・・・
- 439 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/06(金) 22:21:14.30 ID:JidxRjyi0
>>438
サード・インパクトですねわかります
何はともあれ乙
- 440 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/07(土) 05:59:03.08 ID:FGXvlTJEo
やっと追いついた乙
すっごい引き込まれる、面白い
- 441 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 19:54:36.05 ID:sVh0F2PK0
こんばんは。
楽しんで頂けてとても嬉しいです!
大恒王の真の力が明らかになっていきます。
続きが書けましたので、投稿をさせていただきます。
次へ 戻る 上へ