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少女『言葉が通じなくても』
257 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 01:59:20.52 ID:OU7lJwAO
=旅路1=


―道とは

永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である

旅路とは

旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―




少女『釣れないなぁ…』

少女と侍は河原で釣りをしていた

もっとも、侍は既に三匹程釣り上げており、昼寝の真っ最中である


258 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:06:16.33 ID:OU7lJwAO
少女『なんでお兄さんはあんな簡単に釣れるの?』ムムッ

釣り始めたのは少女の方が先だった

侍は少女にこしらえた竿を渡し、自分の分を作りにかかったので、少女の方が大分長く釣っている

侍は何の気無しに三匹釣り上げたが、それが間違い

普段は聡明な少女も、元来の負けず嫌いが角を出し、魚を焼いて食べるのに待ったをかけたのだ

少女『絶対にお兄さんより沢山釣るんだから!』

ピクッ

少女『きた!』グイッッ

ザパッ


259 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:15:21.84 ID:OU7lJwAO
少女『やっ……た?』

釣り上げたのは金の輪に白い宝石を装飾した指輪

ただ、リングのサイズは少女の足がスポリと入る程大きく、絵本で見た雪男の物ではないかと思う程であった

少女『重…何これ』

金目の物には間違いなさそうなので、万年金欠の二人には嬉しい誤算ではある

が、魚ではない

少女『今私が欲しいのは魚なのに…』

『では世界中の魚を集めよう』

少女『え!?』


261 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:21:26.61 ID:OU7lJwAO
バシュウッッ

光が弾けた

釣り上げた指輪から発せられた光が収まると、どこが頭かもわからない程大きな人が立っていた

少女『あ…ぁぁ』ボスッ

侍『―…』スピ


腰を抜かす少女、起きない侍

屈んで少女を覗き込む魔神


白宝石の魔神『願いを叶えよう―世界中の魚を手に入れたいのだな―?』

少女『―』フルフルフルフル


262 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:26:04.37 ID:OU7lJwAO
白宝石の魔神『では何だ―富か――世界中の金銀財宝を集めよう―』

少女『い、いえ、いいです』フルフル


突然の出来事に戸惑い、魔神の迫力に気圧されながらも返答する少女


白宝石の魔神『では兵か――従順で屈強な兵を全て集結させよう―』

少女『いいです、いりません』フルフル



白宝石の魔神『―――では何が望みだ―』ズイッ

少女『ちょっと、離れて下さい』ビクビク


263 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:31:50.56 ID:OU7lJwAO
白宝石の魔神『何故願いを言わない――願えば全て手に入るというのに――』

少女『き、気持ちは有り難いんです…けど』


少女『ありとあらゆる…とか、世界中全ての…とか、そんなに必要ないんです』

白宝石の魔神『必要ない―?』

少女『必要以上に手に入れた人は、「足る」事を忘れてしまいます』

少女『私達は…生きていくのに必要な程度、それだけあれば「十分」なんです』


白宝石の魔神『―ムウ』


264 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:36:06.52 ID:OU7lJwAO
白宝石の魔神『娘―』ズズイ

少女『ひゃいっ!?』ビクッ

白宝石の魔神『面白い――要らぬと答えたのは二人目だ―』

少女『あ、以前もいたんで…』

白宝石の魔神『我は消えよう――さらばだ―』

少女『あ、でも当面の路銀…』


バシュウウッッ

少女『…ッ』


265 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:38:37.88 ID:OU7lJwAO
少女『…いっちゃった』

夢でも見ていたかのような、ぼんやりとした意識の中


クッ


少女『あ…』クイッ

パシャッ

少女『…釣れた』


少女は魚を釣り上げた


266 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:42:24.14 ID:OU7lJwAO


侍『―』パクパク

少女『おいしいね』パクッ

侍と少女は「三匹」の焼き魚を食べていた

少女は、釣り上げた魚を川へ返したのだ

少女『これで…十分だもんね!』

侍『―?』

少女『何でもなーいぁむ』パクッ


267 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 02:51:03.22 ID:OU7lJwAO
―男は答えた

「僕は何もいらない」

魔神は尋ねた

「何故―欲さぬ――」

男は再び答えた

「僕が手に入れるということは、誰かが失うということではないか?」

「僕は、そんなのは嫌だ」



魔神は男の願いを叶えた

男の「全て」を世界中の人々に分け与えた

男は言葉を誤ったのだ―




侍『…』グー

少女『ちょっと足りなかったね』グー


268 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 03:05:55.51 ID:OU7lJwAO
どうですかね…
こんな感じで延々続けますが、ご意見ご感想ご要望あれば
今後の参考にさせていただきます

スレ自体はスクラップノートみたいな感じなのでクオリティもスピードも上がらないですが…


270 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/22(木) 08:55:18.34 ID:c.gZ/a.o
すごく良い


271 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/23(金) 22:12:15.84 ID:okxfhzIo
こういうの凄く好きだから、これからもこの調子で頑張ってほしい
乙です!



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