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少女『言葉が通じなくても』
- 836 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga]
投稿日:2010/12/28(火) 23:26:03.72 ID:n9Q/ecAO
=旅路4=
―道とは
永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である
旅路とは
旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―
少女『…ん』ムク
肌寒さで目が覚めた
朝の空気が冷えているからなのか
それとも隣で寝ていた人がいなくなったからなのか
多分、後者だと思う
少女『まだやってるかな』
- 837 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/28(火) 23:36:48.73 ID:n9Q/ecAO
…
少女『うう…』ブルッ
お兄さんが掛けてくれた上着を羽織り、まだ朝日が登りきってない山道を行く
うっすらと掛かった霧
虫も鳥もまだ寝ている
少女『はぁーっ』
かじかむ手のひらを温める
寒さで耳と頬が痛くなり、その痛みで覚醒が早くなっていく
少女『今日はどこでやってるんだろ』
上着を羽織りなおし、持ち主のもとへと駆け出した
- 839 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/28(火) 23:49:21.68 ID:n9Q/ecAO
少女『…あ』ピタ
空気が変わった気がして、自然と足が止まる
空気には色があると思う
森の空気が緑色なら、海の空気は白
雨の日は青、パン屋さんは橙色
朝の澄んだ空気はうすい水色が頭の中に広がる
少女『よいしょ』ガサッ
そして…ここは透明
侍『……』
無色じゃなく、透明が在る
- 840 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/28(火) 23:56:34.40 ID:n9Q/ecAO
座ったまま、お兄さんは動かない
背筋を伸ばし、目を瞑ったまま……心を消している
波の無い水面
影の無い月
雲の無い空
空気の色は溶け、まっさらに、まっさらに透き通っていく
お兄さんの心も、空気に、山に、世界に溶けていく
- 841 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 00:00:42.61 ID:CNsw9UAO
――チンッ
少女『―――あ』
侍『―』スッ
立ち上がり、歩み寄ってくるお兄さん
少女『…おはよう!』ニコ
侍『…』フ
とびきりの笑顔を見せると、お兄さんも優しく微笑んでくれた
- 842 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 00:11:05.21 ID:CNsw9UAO
ほんの一瞬だった
一瞬だったけど、それはとてもゆっくりだった
幾重にも、幾重にも空を斬るお兄さん
煌めくカタナの軌道が、光の線を描く
丁寧に…丁寧に…
その動きはとても綺麗で……まるで踊りのようだった
いつカタナを抜いて、いつ収めたのかはわからない
でも、それは確かに一瞬の出来事
長い長い一瞬の出来事
- 843 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/29(水) 00:19:28.67 ID:pDp4mjYo
魅惑的な文だ
- 844 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 00:41:16.29 ID:CNsw9UAO
……
少女『ねぇ…お兄さん』
二人並んで歩く帰り道
侍『…』
少女の呼びかけに、侍は目を瞑る
少女は剣術を習いたかった
だが、侍は応じない
少女(私が守られる側だから…?)
もしそうだとしたら、不本意だった
少女にとって侍は一心同体、唯一対等である人
これからも数々の運命、未来を共にする存在
故に、守り守られるという概念は無いと思っていた
- 845 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/29(水) 01:01:41.65 ID:JOF1dT2o
相変わらず素晴らしい
- 846 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:03:10.49 ID:CNsw9UAO
年齢差、力の差はあるが、侍と対等でいる事を、少女はおこがましいと思ってなかった
二人の対等はそういった「上辺」の事ではなく、一人の「人間」としての事である
各々知られたくない部分、私情、譲れない部分は少なからずある
だが、いくら隠している物があろうと、どんな過去があろうと、芯の部分だけは通じていよう
それが、言葉は通じなくても、出逢い惹かれあった二人の願い
- 847 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:18:35.10 ID:CNsw9UAO
侍も同じく対等である事を願った
侍は少女を尊敬していた
歳の割りにしっかりしている、とかそういった事ではなく、一人の人間として心から尊敬していた
少女は清く正しく、かつ人を慈しめる心がある
侍は敵を倒す、もしくは死による魂の解放でしか人を救えない
しかし、この少女は……自分にできない形で人々を救う
人の心を救う
そんな奇跡めいた事をこの子はやってのける
侍もまた、少女に心を救われているのだ
- 848 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:31:56.38 ID:CNsw9UAO
侍はわかっていた
少女が、剣術を教えないことに不満を持っている事
それに、「侍は守る側、少女は守られる側、と決め付けている」と勘違いしている事も…
剣の強さは心の強さである
刀を手に取り、日々振り続ける事も大切だが、心の成熟無くして剣術は大成しない
心の迷いは太刀筋に現れ、心の濁りは刃を曇らせる
- 849 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 01:42:54.88 ID:CNsw9UAO
しかし、剣術が上達しても心が成熟するとは限らない
力に溺れ、殺しに魅入られる者もいる
才能ある者程、力に取り込まれ易い
かつて、自分がそうであったように
少女『――さん、お兄さん!』
侍『…』ハッ
少女『どうしたの急に?』
少女が不思議そうに顔を覗く
少女『…、それよりもほら! 日の出だよ!』
少女の指差す先には地平から昇る太陽
故郷では見れなかった絶景が広がっていた
- 850 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 02:08:51.80 ID:CNsw9UAO
少女『…』
侍『…』
静かに朝日を見ていた
言葉はない。ただただ魅入っていた
少女『…朝ご飯にしよっか』
やがて少女の方から侍に切り出した
侍『…』
侍は応えず、じっと東の空を見つめ続け
侍「私は……昇る朝日に雲を掛けているのかも知れない」
と、零した
- 852 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 02:46:15.51 ID:CNsw9UAO
侍「…娘」
振り返らず侍は言う
侍「一度しか見せぬ故、しっかと見ておれ」スラッ
刀を抜き、平突きの構えを取る侍
侍「道照らす事―」
ビ――ッ
侍「―日輪の如し」
侍は太陽に向かって刀を突き出した
神速…という訳ではないが、その太刀筋に迷いは無く、真っ直ぐだった
侍『…』チャキッ
少女『…』
侍は刀を仕舞い、その場を後にした
少女は侍に目をやる事無く、ただ切先のその先を見ていた
と、
――ドンッ
― ド ォ ン ッ
ド ォ ォ ン ッ ッ
切先の先を中心に、大気に穴が空いた
- 853 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/29(水) 03:18:15.67 ID:8sGd0zko
相変わらずのチートっぷりに安心した
- 854 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/29(水) 08:27:54.77 ID:eb6s.ESO
侍がかっこよすぎてもうね
鼻血出そう
- 855 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 11:36:28.59 ID:CNsw9UAO
侍の放った平突きは大気を駆け抜けた
音よりも速く、光ほど近く
突きの威力は大気に穴を空け、衝撃波を生んだ
ややあって
バチバチッ
少女『光…!?』
カァァァ――ッ
真空状態になった大気中で放電現象が起こる
虚空から光が生まれ、衝撃波で生まれた円形の水蒸気に反射する
それは空中に生まれたもう一つの太陽みたいで
少女は、その光が消えるまでただただ見守るのだった――
- 856 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 11:41:00.36 ID:CNsw9UAO
旅路4終わり
言葉が足らないせいで、表現が追いついてないような気がします…
いつもご支援ご愛読ありがとうございます
ネタ帳の消化が全然追いつかない…
- 857 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/29(水) 12:14:49.91 ID:rIETUyEo
乙
侍半端なさすぎワロタ
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