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少女「それは儚く消える雪のように」
- 596 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/03/05(月) 18:39:26.72 ID:i0SfLBiK0
こんばんは。
沢山の温かいメッセージ、ありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
第三話を書き始めましたので、書けた分を投稿させていただきたいと思います。
- 597 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:40:37.44 ID:i0SfLBiK0
3.私の命、あなたの命
灰色の空。灰色の雲。灰色の町並み。
光化学スモッグに覆われた空は、青空を映すことはない。
作り物の緑、作り物の町並み。
作られて整備された道路。
そこを歩く人々の波。
何一つとして、整備されていないものは存在していない。
それが自然だと考えれば、きっとそうなのだろう。
それが当たり前だと考えれば、
何もかもが当たり前になるのだろう。
- 598 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:41:22.17 ID:i0SfLBiK0
作られた命。
作られた存在。
絆は、息をついてモニターから目を離した。
彼の隣には、パサついた白髪を垂らした少女、
盲目のバーリェ、雪が座っていた。
長時間待機させているせいか、集中力が途切れて、
コクリコクリと頭を揺らしている。
しかし自分たちの乗っている、
人型AAD、陽月王のエネルギーラインは安定したままだ。
異常な性能。
生体電池として、規格外の性能を雪は誇っている。
- 599 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:42:05.48 ID:i0SfLBiK0
この子もまた、作られた命だ。
自分たちと同じような――と考えれば、
そこで、同一視するなという声が出てくるのかもしれない。
しかし、絆にとっては、大切な家族であり、
そして、一個の同じ「人間」だった。
『絆様、その区域にはもう反応はありません。帰還してください』
オペレーターの声を聞いて、雪が飛び起きた。
不穏げな顔をした彼女の頭を撫でて、絆は口を開いた。
「了解。帰還します」
- 600 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:42:47.90 ID:i0SfLBiK0
正直ホッとした。
戦闘になれば、AADはバーリェの生体エネルギーを、
それこそジューサーのように搾り取る。
雪がまだ生きていることが規格外とはいえ、
半死半生ともいえるこの子のエネルギーを使うのは、
最近になって、更に顕著に
……人道的におかしいのではないか、と絆は思い始めていた。
今回は市街地で死星獣の反応が出たため、
陽月王と咲熱王で出撃したが、
その肝心の反応が途絶えたため、半日以上も待機していたのだ。
既にこの町の住人の避難は完了している。
このように、死星獣の反応がいきなり消えることは
往々にしてあることであり、別段珍しいことではなかった。
- 601 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:43:23.98 ID:i0SfLBiK0
雪の脳波操作により、
脚部キャタピラを回転させて方向転換した陽月王の操縦桿を握る。
雪は目が見えない。
補助的に操作する必要がある。
『絆執行官。他バーリェの機動戦車の回収をお願いします』
そこでオペレーターから通信が入り、絆は頷いた。
「了解。雪、速度を緩めろ」
「分かった」
雪が頷くと、キャタピラの回転が緩まった。
そのまま滑るように、待機していた戦車の一機に近づき、
マニュピレーターを操作して、
戦車に接続されているコード類を抜いていく。
- 602 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:44:09.00 ID:i0SfLBiK0
配置されていた機動戦車は二十六機。
多い。
それだけ今回の死星獣の反応は強力なものだったのだが、
肝心の本体がどこにあるのか、分からなかった。
視認できないケースかとも思われ、
さまざまな検証がなされたが、
結果、サーチエンジンの誤作動という結論になった。
そして今。
黙々と帰る準備をしている。
咲熱王も同じように戦車のコードを引っこ抜いていた。
戦車一つ一つにも、同じようにバーリェが乗っている。
- 603 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:44:54.86 ID:i0SfLBiK0
現場に出てきているトレーナーは、絆一人……ではなかった。
咲熱王から通信が入り、絆はオフラインにしてからそれを受けた。
「どうした?」
低い声で問いかける。
最近は桜の調子が悪いせいか、
同僚の絃も同じように、副座型にコクピットを改造させて、
現場に出てきていた。
しかし直接的なコンタクトを求めてきたのは、初めてのことだ。
少し緊張しながら答えを待つと、
絃が押し殺した声で通信を送って寄越した。
『桜の容態が急変した。俺達はここで即刻帰還する』
「……分かった」
- 604 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:45:37.50 ID:i0SfLBiK0
ブツリと音を立てて通信が途切れる。
そして視界の端で、咲熱王がトレーラーに膝をつき、
収納されていくのを見る。
――桜も寿命なのだ。
雪ほどではないにせよ、優秀なバーリェだ。
しかし、そろそろ使用期限が来る頃だとは思っていたが……。
残念だ、とは思ったが、
不思議と悲しいという気持ちにはならなかった。
どこか頭の端で分かっていたことだし、
絆にとっては、バーリェの死は慣れたことだった。
慣れたことの、筈だった。
通信が聞こえていなかった筈の雪が、
不思議そうな顔で絆に顔を向けた。
- 605 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:46:14.90 ID:i0SfLBiK0
絆の手は、震えていた。
「絆、どうしたの? 動きが止まってるよ」
呼びかけられてハッとする。
慌てて絆は、取り繕うように引きつった笑みを彼女に向け、
そして言った。
「何でもない。帰ったら一緒にアイス食べような」
「今回は何もしてないけど……」
「それでも……いいんだ」
言いよどんで口をつぐむ。
この会話は全て本部に録音されている。
そのほうが良かったなどと説明したら、懲罰は免れない。
- 606 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:46:48.75 ID:i0SfLBiK0
エフェッサーは、雪を使いたい。
その性能を余すところなく発揮させ、そして使い潰したい。
今の不安定な雪を使うより、
絆に新しいバーリェを与え、
そして「調整」させた方が効率がいいからだ。
実際、絆もその方が効率はいいと思う。
心のどこかでそんな考えに頷いてしまう自分に戦慄しながら、
肯定せざるをえないのだ。
自分たちは人の命を守っている。
それがたとえ他人の命であろうとも、それが仕事なのだ。
いくら不条理でも仕事だ。
やらざるをえない。
――全力で。
- 607 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:47:23.03 ID:i0SfLBiK0
そのために、今の不安定な雪の使用は、
やはりためらわれるところがあった。
かといって他の子で雪ほどの出力が見込めるかというと、
疑問が残るのも事実だった。
雪が、異常なほどの規格外だから。
だから、悪いとすればその事実ひとつだ。
憎むとしたら、その事実を憎むしかない。
この子はあと、どれだけ生きられるのかも分からない。
死ぬ前に使ってデータを取りたい、
と思うのは、あながち間違ってもいないように思える。
- 608 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:48:10.68 ID:i0SfLBiK0
一般的な観点から見れば、の話だ。
だから上層部からの最近の出撃命令の多さにも
反抗は出来なかったし、
絆自身も妙に達観してしまっているところはあった。
それが、悪かったのかもしれない。
躊躇やためらいは、時にして往々と悲劇を招く。
それが、たとえ仕組まれたものだったとしても。
俺はそれゆえに自分を責めることを、
止める事が出来ない。
- 609 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:48:53.30 ID:i0SfLBiK0
*
「これが、その新型のデータだ」
本部局長、駈(かる)が紙資料を指先で叩きながら口を開いた。
絆と、憔悴した顔の絃。
そして三十人近い数の本部エフェッサーの
上級トレーナーが召集されていた。
手元の資料に視線を落とす。
そこには、空虚な目をしたバーリェのいくつもの写真と、
詳細な生体データが載っていた。
有体に言えば、生体実験のデータだった。
それは。
- 610 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:49:22.96 ID:i0SfLBiK0
不快感が胸をつく。
人間だからって。
トレーナーだからって、何でも許されるとは限らない。
しかし「許されてしまっている」のが事実だ。
例えばこのように。
実験的に創られた人造生命体を解剖したり。
生きたまま脳を開いたり。
いくつもの投薬実験を行ったり。
廃人になるまで、エネルギーを抽出し続けたり。
そんなことをしても許されてしまう。
それが、この世界。
この社会だ。
- 611 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:49:53.87 ID:i0SfLBiK0
特に感慨も沸かなそうな顔で、駈は、
流石に顔をしかめているトレーナー達を見回した。
上級トレーナーだ。
各々管理するバーリェがいる。
感情移入している人も、絆や絃だけではない。
不快感を示して、当然だ。
それを分かっていてこの男は、資料を提示している。
好きには、なれない。
絆は資料をテーブルに放り、コーヒーに口をつけた。
- 612 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:50:34.64 ID:i0SfLBiK0
「絆執行官の管理しているD77(雪のこと)の
脳細胞を培養して、養殖、
そして先日人格が安定した個体が唯一、一体だけ生成された」
絆はこみ上げてくる不快感を、
無理やりにコーヒーと共に飲み込んだ。
意味が分からない、と言いたい所だったが、
それは事前に彼に知らされていたことであり、
意味は、他のどのトレーナーよりも良く分かっている。
雪を使用するのは、不安定な要素が残る。
ではどうするか。
他ならぬ番外個体である雪の細胞を使い、
「雪の」クローンを創る。
- 613 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:51:05.74 ID:i0SfLBiK0
逆転の発想だ。
人間の複製体であるバーリェの、
更に複製体を創る。
不可能ではないが、誰も考えなかったことだ。
複製体の複製体だ。
バーリェの生成でさえ数多くの
犠牲を払っているというのに、
それが成功するとは、正直な話絆は思っていなかった。
――成功した。
そう聞かされて、召集されて今。
説明を受けている。
- 614 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:51:37.64 ID:i0SfLBiK0
それだけのことなのに、吐きそうなほど気持ちが悪い。
いい気分は、しなかった。
何か自分たちは、
取り返しのつかないことをしているのではないか。
そんな気がしたのだ。
絆のその気持ちを知ってか知らずか、
駈は資料をめくって静かに続けた。
「特例的にこの個体をS97と名づける。
今後はこちらの本部で管理することになる」
「バーリェのクローン……ですか?」
そこでやっと頭が追いついたのか、
若いトレーナーが口を挟んだ。
- 615 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:52:15.52 ID:i0SfLBiK0
駈がかけていたサングラスを指で上げて、彼の方を見る。
「そうだ」
「性能は?」
別のトレーナーが言うと、
駈は資料を閉じてからそれに答えた。
「人型AAD一機ほどなら、
おそらく単独で動かすことは可能だ。
今はまだ調整段階のため、それ以上のことは分からない」
――悪魔だ。
そうも思う。
使い潰すためにサンプルを創り出し、
そして文字通り使い潰そうとしている。
しかしその組織にいるのが自分。
やっていることは、させられていることは、
何らこの人たちと変わらない。
- 616 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:52:50.85 ID:i0SfLBiK0
「それだけのデータでは分かりません
……量産は可能なのですか?」
女性のトレーナーが困惑気味に口を挟むと、駈は静かに言った。
「今はまだ何とも言えんが、量産体制は大至急整えるつもりだ。
そうでなければ、『開発』した意味がない」
――ああそうか。
絆は心の中でため息をついた。
――勝手にやってくれ。
と、心の中で自嘲気味に思う。
そこで駈が、絆の方を見て口を開いた。
- 617 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:53:27.41 ID:i0SfLBiK0
「時に絆執行官。君に、このS97の試験モニターを頼みたい」
「……私に?」
予想外の要請に、絆は一瞬腰を浮かせた。
それをすんでのところで思いとどまり、椅子に体を落ち着かせる。
そして絆は、駈を見て口を開いた。
「何故ですか? 私は他に四体のバーリェを管理しています。
今の段階で白調整のバーリェを追加するのは、利点がありませんが」
「元老院の決定だ。それに、S97の源個体となったものは、
君のD77だ。君の理論から言うと、
『同居』させた方がいいのではないかと、こちらは推察するが」
絆は気付かれないように歯を噛んだ。
そう言われてしまえば、返す言葉もない。
- 618 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:53:59.83 ID:i0SfLBiK0
正直、二ヶ月前に死亡した自分のバーリェ、
愛との戦闘によるトラウマを、絆は今も引きずっていた。
自分は何のために戦ったのか。
何のために。
何をしたのか。
その自問自答を繰り返す毎日に、
いい加減嫌気が差していたのだ。
言いよどんでいる絆を見て、絃が口を開いた。
「私のラボで受け入れることも出来ますが」
「君のG67の複製体も、現在製造中だ。
君には、それが完成したら、
そちらの管理をしてもらうことになる」
- 619 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:54:32.14 ID:i0SfLBiK0
(何だと……?)
思わず絆は顔を上げた。
雪だけではなく桜のクローンも創っているらしい。
流石に顔色が変わった絆と絃を一瞥もせずに、
駈は資料を手に椅子を立ち上がった。
「決定事項だ。絆執行官は、
明日の一○三○時に第七トープに来るように。
そこでバーリェの引渡しを行う。以上だ」
- 620 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:55:10.94 ID:i0SfLBiK0
*
他のトレーナー達が帰った後も、
絆と絃は重い表情でその場に残っていた。
しばらくして、唐突に絃が口を開いた。
「……桜はもう駄目だ。
いっそ安楽死をさせてやろうかと思ってる」
彼の口から出た意外すぎる言葉に、
絆は弾かれたように顔を上げた。
「……何?」
良く聞こえなかった、と言いたかった。
しかし絃は絆の方を見ずに、もう一度繰り返した。
- 621 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:55:44.11 ID:i0SfLBiK0
「桜を安楽死させる。これ以上あいつを苦しめたくない」
「お前……自分が何を言ってるのか分かってるのか?」
絆は声を低くして、絃に掴みかからんばかりの勢いで言った。
「これだけ使っておいて、
使えなくなったら電池を切るのか?
お前、よくそれで自分がトレーナーだって……」
「分かってる。分かってるよ……」
目尻を手で抑え、絃は深く息を吐いた。
「俺だってそんなことは重々分かってる。
単に、俺自身が耐えられなくなっただけだ。この環境に」
- 622 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:56:21.04 ID:i0SfLBiK0
「だからって桜ちゃんを殺すのか!」
「殺すんじゃない、救ってやろうと思ってる」
「命を奪うことは救うことじゃない!
お前、お前がそれを俺に教えてくれたんじゃないか!
絃、どうしちまったんだ!」
殆ど叫ぶように言う。
絃は、しかし絆の方を見ようとはしなかった。
「お前……!」
その襟首を掴んで無理やり立たせたところで、
絆と絃は、入り口の方で人の気配を感じ、口をつぐんだ。
赤い瞳のクランベ
(遺伝子操作ではなく、男女間の交わりによって生まれた劣等種)
が立っていた。
- 623 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:56:55.53 ID:i0SfLBiK0
本部でオペレーティングをしている、
渚という女性職員だった。
渚は、今にも殴りかかろうとしていた絆を見て
一瞬硬直したが、すぐに駆け寄ってきて、
絆の腕に抱きついた。
そして強く引く。
「何をされているんですか!
ここはエフェッサーの本部ですよ!」
押し殺した声で言われ、絆は我に返った。
渚が青くなったのは当然のことだった。
ここは、軍上層部エリア。
暴力沙汰なんて起こしたら、即懲罰房にブチ込まれてしまう。
- 624 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:57:23.21 ID:i0SfLBiK0
「離せ……!」
渚を振り払い、しかし絆は吐き捨てるように呟いた。
「そうか。お前もそうだったのか」
「…………」
沈黙している絃に、絆は呟いた。
「偽善者が」
言い捨てて、その場にきびすを返す。
足音荒く部屋を出て行った絆と絃を交互に見て、
渚は慌てて絆の方についてきた。
「待ってください、絆執行官!」
大声で名前を呼ばれ、絆はため息をついて振り返った。
- 625 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:57:55.89 ID:i0SfLBiK0
このクランベは、煩わしい。
愛が死んだ時といい、今といい、
絆の神経を逆なですることに関しては、図抜けている。
「何だよ」
足を止めてぶっきらぼうに返すと、
渚はポケットからハンカチを出して、絆の手をとった。
「血が……出ています」
そう言って、絆の手首にハンカチを巻きつける。
頭に血が昇っていて気付かなかった。
絃に掴みかかった時に、彼が握った部分の手から、
血が出ていた。
- 626 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 18:58:42.54 ID:i0SfLBiK0
絃が握り締めた時に、彼の爪が刺さったらしい。
「あ……ああ」
思わず動揺して視線をそらす。
「医務室にご案内します」
ハンカチを巻き終えてそう言った渚に軽く手を振って、
絆は言った。
「いい。これくらい自分でどうにかできる」
「でも……」
「君には関係ないことだ。放っておいてくれ」
話は終わりだと言わんばかりに打ち切って、
絆は足早に歩き出した。
その後姿を、渚は消えるまで見つめていた。
- 627 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/05(月) 19:00:09.47 ID:i0SfLBiK0
お疲れ様でした。
次回の更新に続かせていただきます。
ご意見やご感想、ご質問などがありましたら、どんどんいただけますと嬉しいです。
それでは、今回は失礼します。
- 631 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/06(火) 21:11:12.94 ID:MzfytjE+0
こんばんは。
続きが書けましたので、投稿させていただきます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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