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少女『言葉が通じなくても』
132 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:30:23.15 ID:7rGFcsAO
=太陽村=

この村には眩く光り輝く「太陽の石」という物がある

触れても火傷をする心配もなく、ちょっとした観光スポットとして有名だ

遥か昔から村を照らすこの石を調べる為、多くの学者がやってきたが、原理は未だ不明である

又、太陽の石の近くには珍しい植物が生える為、それを求めて来る人も少なくない



少女『本当に輝いてるね』

侍『―――』

少女『不思議ー』ペタペタ


133 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:35:49.40 ID:7rGFcsAO
少女『太陽の石がある以外は普通の村なんだね』

おばさん『今に始まった話じゃないからね、ただ光ってる石なんかより温泉とかの方がいいでしょ』

少女『そうかな』

おじさん『宿屋さんは多少儲かってるみたいだね、人手が欲しいとか言ってたよ』

少女『本当ですか? お兄さん、早速行ってみよう』

侍『―』ペタペタ

少女『ほーらっ』グイグイ


134 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:41:21.74 ID:7rGFcsAO


少女『鍵はこちらになります、どうぞごゆっくりおくつろぎ下さい』ペコ

宿屋の女将『うん、なかなか筋がいいよ』

少女『ありがとうございます』

宿屋の女将『兄さんの方も、言葉は通じないけど薪割りに掃除、力仕事はソツなくこなしてくれるし助かるよ』

宿屋の女将『文句なしに採用だよ、暫くよろしくね』

少女『頑張ります!』


135 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:47:16.17 ID:7rGFcsAO
宿屋の女将『しかし、なかなか制服似合ってるよ』

少女『本当ですか?』

宿屋の女将『ああ、ボロで来た時は正直不安だったけど、なかなかかわいいじゃないか』

少女『あは、ありがとうございます』

宿屋の女将『そうだ、確か娘の服が小さくなったって雑貨屋の奥さんが言ってたね。ちょっともらってくるよ』

少女『いいんですか?』

宿屋の女将『いいのよ、どうせ捨てるか誰かにあげるんだから。ちょっと店番よろしくね』

少女『はい』


パタン

少女『服か…嬉しいな』


136 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:56:09.23 ID:7rGFcsAO


スカーン スカーン

侍「ふっ」

スカーン

侍「ふーっ こんな物か」

侍は宿屋の裏で薪割りに勤しんでいた

言葉が通じない為、接客も厨房も難しいと判断され、単純作業の担当となったのだ

掃除、洗濯、食材の搬入、ゴミ出し…中でも薪割りは得意中の得意である

侍「ふふ、先生にご指導戴いていた頃を思い出すな」


140 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/01(木) 21:41:59.75 ID:l4EACQAO
少女「―!」パタパタ

一人懐かしい記憶に浸っていると少女が駆けてきた

少女「―、―?」クル

侍の目の前で止まると一回転する

どうやらボロ以外の服を着れたのが嬉しいらしい

侍「おお、かわいいじゃないか」ナデナデ

少女「―」ニコー

人懐っこい笑みを見せる少女

褒め言葉が無くても満足してもらえたらしい


141 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/01(木) 21:49:37.30 ID:l4EACQAO
少女「―」ゴソゴソ

少女「―!」スッ

手に持っているバスケットから何やら取り出し侍に差し出す

侍「昼飯か」





少女『美味しいね!』

侍『―』

青空の下、二人並んで食事をする

少女『あーんっ』パク

足をパタパタ動かす少女は相当ご機嫌な様子だ


142 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/01(木) 22:11:31.93 ID:l4EACQAO
侍『―』パン

少女『…』パン

食べ終わると、侍は決まって空になった皿に手を合わせて何か呟く

少女はその真意はわからないながらも、侍に倣って手を合わせる

侍『―、――』ナデナデ

よくわからないが褒められた

よくわからないが嬉しい

少女『…えへ』


143 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/01(木) 22:18:28.21 ID:l4EACQAO
スカーン スカーン

少女(そういえば、お兄さんは怪物を斬った時も手を合わせてた)

少女(ご飯と何の関係が…)


ご主人『少女ちゃーん、そろそろ休憩終わりだよー』

少女『はーい』

少女『お兄さん、午後も頑張ろうね』

侍『―』スカーン

ご主人『午後は簡単なメニューを教えるから…』スタスタ

ご主人『って! そんなに割らなくていいよ!?』

少女『え!? お兄さんストップ!』

侍『―?』


145 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/02(金) 00:08:47.22 ID:x/LzuoAO


少女「――、――」スタスタ

手持ち無沙汰になった侍は、バックヤードから少女の仕事ぶりを眺めていた

忙(せわ)しく動き回る姿からは、少々の疲れと大きな充実感が見て取れた


侍「…むう」

一方こちらは急に暇になりいかにも不満気である

宿屋のご主人には「これで遊んできなさい」とでも言わんばかりに小銭まで渡されている

侍「少々気が引けるが…、働き者の娘に何か買ってくるか」

小一時間温めた椅子から腰を上げ、侍は当て所もなく買い物へと向かうことにした


146 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/02(金) 00:19:19.27 ID:x/LzuoAO


侍「むー」

侍が露天商の前に立ちかれこれ30分、未だに小物を吟味していた

ご主人にもらった駄賃は「100」と書いた硬貨が4つ

これはどうやらこの店の小物の値段と一致するらしく、昼頃お洒落して喜んでいた少女にはおよそぴったりだった

侍「しかし…」

何かこのまま売っている物を買って渡すのは芸がない

何か一手間加えた贈り物はできないものか…


侍の思案はまだまだ続くのだった


149 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/03(土) 22:30:07.74 ID:CKTSigAO
侍「身振り手振りでも何とかなるものだ」

侍は四苦八苦の末、ようやく買い物を終えた

少女の笑顔を思い浮かべては柄にもなく笑みが零れた


侍「さて、大変なのはこれから」

ドンッ

痩せた男「いてッ」

ドサッ


150 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/03(土) 22:34:07.97 ID:CKTSigAO
侍「す、すまない…大丈夫か?」

痩せた男「どけッ」バッ

乱暴に落とした紙袋を拾い上げると、痩せた男は走り去った

侍「むう…変わった男だ」

自分の紙袋を拾い上げ首を傾げる侍






侍「あやつ、私と同じ言葉をしゃべっておった!?」


151 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/03(土) 22:41:59.94 ID:CKTSigAO


侍「ただいま帰った…」

結局痩せた男は見つからず、侍は宿屋へと戻ってきた

少女「――!」パタパタ

少女を喜ばせようと買い物に出掛けたのだが、駆け寄ってきた少女の表情は笑顔には程遠いものだった

どうやら寄り道が過ぎたらしい

侍「す、すまぬ…そうだ! お主に果物を買っているのだ」ガサガサ

少女「…?」

侍「ほれ、土産だ」

ピカーッ

少女「―!?――!」

侍「うお!?」


152 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/03(土) 22:45:26.16 ID:CKTSigAO
侍「何故光る石がここに…?」

宿屋の主人「―!?――」

少女「―――!」

侍「…そうか、ぶつかった時に入れ替わって…」


侍「待ってくれ、これは誤解だ」

ガチャッ

自警団「――、――――」

ガシッ

侍「む」

少女「―!」


153 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/03(土) 22:51:52.70 ID:CKTSigAO


侍「あっという間に獄中か…」

侍「なんという事だ…やはり言葉の壁は厚いな」



侍「しかし…何故あの男は私と言葉が通じたのだ?」

侍「もしかしたら…帰る術が見つかるやもしれぬな」

侍「よし、行く先々で言葉の通じる者を探してみよう」

侍「怪我の功名…といったところか、後は誤解が解ければ最高なのだが」


154 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/03(土) 22:59:56.36 ID:CKTSigAO
少女は混乱していた

何故、侍は太陽の石を盗んできたのか

私を喜ばせる為?

いや、彼は私が盗品では喜ばない事を知っている

少女『何か事件に巻き込まれたんだ…』

女将『少女ちゃん、元気出しな』

少女『女将さん…』

女将『あの男前が悪事を働いたなんて、私は思ってないからね』

女将『それとも、少女ちゃんは信じれないのかい?』

少女『…女将さん、明日休んでもいいですか? 私、お兄さんを助けなきゃ』

女将『ああ、いくらでも休みな!』


156 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/07(水) 01:24:09.38 ID:qxs9HAAO
見張り番『面会?』

少女『うん』

見張り番『まあ、構わないよ。付いて来て』


カツーン

カツーン


気付けば此処は地の獄

輪廻転生より間引かれし咎人の末路

嗚呼…願わくば

我が業を悔やませ給え、悔やませ給え



少女『何か聞こえる…』

見張り番『お宅のあんちゃんだよ。何かブツブツ呟いてんだ』


157 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/07(水) 01:27:37.81 ID:qxs9HAAO
見張り番『さ、ここだ』

侍『――、―』カツーン

少女『何してるんだろ、…お兄さーん!』

侍『―…』ピタ

スタスタ

侍『―』

少女『心配しないで、直ぐ助けてあげるから』

少女『お兄さんの無実は私が証明するから!』


158 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/07(水) 01:32:57.11 ID:qxs9HAAO
侍『――』ヒラヒラ

少女『脱獄しちゃ駄目だよー』ヒラヒラ


見張り番『物騒な事言わないでくれよ』

少女『ごめんなさい、お兄さんたまに無茶するから』

見張り番『見れば何かせっせとこしらえてるけど、脱獄用の道具じゃないよね?』

少女『あはは、大丈夫ですよ。…多分』

見張り番『市場で買った紙袋を、後生大事そうに持ってたから持ち込みを許可したんだけど』

少女『大事そうに…か』


159 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/07(水) 01:55:33.67 ID:qxs9HAAO
少女『常に見張りの人が張り付いてる訳じゃないんですか?』

見張り番『ああ、別に人殺しじゃないしね』

少女『…太陽の石を持ち出したのに?』

見張り番『うーん…俺達にとっては「光る珍しい石」って程度だしなぁ』

少女『…?』


少女(考えてみれば見張りがいる訳じゃないし、盗もうと思えば簡単に盗めるんだよね…)


160 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/08(木) 00:49:56.36 ID:r9kOHcAO
少女『さて、何から手をつけたものだろう…』

少女『ん?』



少女『あのー』

道行く人『僕? 何用かな?』

少女『太陽の石が無いんですけどー』

道行く人『ああ、何でも盗人が現れたとかでしばらく保管するらしいよ』

少女『そうなんですか』



少女『流石にみすみす盗まれるような真似はしない…か』


161 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/08(木) 01:00:48.48 ID:r9kOHcAO
少女『お兄さんの足取りを辿ってみよう』
少女『今は少しでも情報を集めなきゃ』



宿屋のご主人『暇そうにしてたからおやつでもと思ってお駄賃をあげたよ。うーん、15時ぐらいだったかな』

主婦『変わった格好の人がいたわね。物珍しそうにキョロキョロしてたわ。16時前ぐらいだったわね』

露天商『いやぁ参ったよ。凄い形相で品を睨んで動かないもんだから、思わず半額にしちまったよ。ありゃあ17時から18時ぐらいかなぁ』



少女『ふむふむ…普通に買い物してたみたいね』


162 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/08(木) 01:11:19.60 ID:r9kOHcAO
青果店『ああ、髪の黒い男性がリンゴを買っていったよ』

少女『お兄さんは私にリンゴを渡すつもりだったんだ…!』

少女『となると、一体どこで間違いが…』


少女『今度は太陽の石の飾ってあった広場に行ってみよう』

青果店『あ、お嬢ちゃん』

少女『私?』

青果店『昨日の男性の知り合いなんでしょ? 彼、昨日会計余計に置いてったから』

少女『梨ですか』

青果店『ああ、みんなで食べてよ』

少女(…一旦差し入れに戻ろうかな)


164 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/08(木) 22:07:42.27 ID:r9kOHcAO
一つ斬っては国の為

二つ斬っては友の為

独り問答哀れかし

天下泰平大義を翳し

数多の命殺りし罪

仲間に捨てられ異国に流れど

その大罪は流れるか

罪を背負えやお子の為

例え袂を分かつとも

それでも斬れやお子の為

道を開いて果て往けや


165 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/08(木) 22:21:25.69 ID:r9kOHcAO
見張り番『君んとこのお兄さん、なんかブツブツ言ってて怖いんだけど』

カツーン カツーン

少女『ずっとあんな調子なの?』

見張り番『うん…』


虎に鬼になれるなら

この胸痛まず済むだろが

それはならぬと陰が言う

それはならぬと陰が言う


少女『なんだか泣いてるみたい…』


166 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/09(金) 01:08:10.39 ID:SmT146AO
少女『お兄さん』

侍『―…』ピタ

スタスタ

侍『―』

少女『梨、一緒に食べよう?』スッ

侍『…―』ナデ

少女『えへへ』



少女『あ、一つどうぞ』

見張り番『おお、じゃあ有り難く』


167 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/09(金) 01:18:46.45 ID:SmT146AO


侍『―』シャク

少女『太陽の石がなくなったのは昨日の何時なんです?』

見張り番『通報があったのが16時半頃だから…16時ぐらいかなーぁーん』シャク

少女『…16時? 16時ってお兄さんが市場で買い物してた時間です!』

見張り番『そうなの?』

少女『ええ、…多分、犯人ば別にいます』


168 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/09(金) 01:20:26.69 ID:SmT146AO
犯人ば

犯人は


169 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/09(金) 01:27:12.43 ID:SmT146AO
見張り番『僕らも捜索の手助けするよ』

少女『いいんですか?』

見張り番『もし冤罪だったら彼がかわいそうだからね。それに梨もご馳走になっちゃったし』

少女『ありがとうございます!』



少女『お兄さん、もう少し我慢しててね』

侍『―』

ナデナデ

少女『えへへ…』



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