■戻る■ 下へ
少女「ねえ、またいつか」
112 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 16:42:04.90 ID:VTLCmndzO
草原


僕「……ふぅ。ついたよ」

女「お疲れ様ーありがと。よっと」

僕「どう? 足痛くない?」

女「とりあえず立ってるだけならねー。あ、ちょっと肩貸しててね。倒れちゃいそうになるから」

僕「う、うん……」

女「……」

僕「……」

僕(心臓、すごい鳴ってる)

僕(隣に聞かれないかな、大丈夫……かな?)


113 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 16:48:11.85 ID:tSQVz1JC0
僕「ね、ねえ。どうしてここに寄り道したの?」

女「んー……なんでかな」

僕「なんとなく?」

女「多分、多分ね」

女「君と一緒に出かけた後は、絶対にここを最後にして帰るんだって」

女「そう意識があったからなのかなあ、って思ったの」

僕「……ここから?」

女「そうだよ」

女「ここから帰らないと、なんか落ち着いてくれない気がして……ね」

僕(……なんとなくわかる)

でも僕は、それを彼女に言わなかった。

僕(ただ暗い草原の向こうを見ているだけの彼女を隣に……)


114 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 16:52:17.33 ID:tSQVz1JC0
女「……あ」

僕「?」

女「ね、ほら見て。あれあれ」

僕「あれって……?」

女「見えないかなあ、ほら。あの真ん中辺りの草の……先っぽ」

僕「真ん中?」

僕「……」

僕「あっ」

女「ふふっ、見えた?」

僕「う、うん」

女「よかったー。もしかしたらって思ってたんだよね」

女「一緒にこの場所で……一匹だけでも」

女「蛍が見れたらいいな、って思ってたから」

僕「ん……」


115 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 16:57:09.04 ID:tSQVz1JC0
女「あ、でも。来週また川まで行く約束は消えてないからね」

女「今度はもっとたくさんの蛍見るんだー」

女「一匹だけでももちろん満足だけど……やっぱり」

僕「?」

女「君とは一緒に、たくさんお出かけしたいから」

僕「……女ちゃん」

女「えへへ」

女「……ね。もしこの先さー、私たちが大人になってさ」

女「いつか、この場所に来られない状態になっても」

女「私たちがここで見た事や一緒に遊んだ思い出は、消えない……よね?」


116 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:01:49.40 ID:tSQVz1JC0
女「もう少ししたらさ、中学校に入って高校生になって……きっとこの場所にも来なくなっちゃうってのがわかるんだ」

女「……みんなと遊ぶ場所も、電気や光に囲まれた場所ばっかになると思う」

僕「……」

女「ねえ、いつまでもここでさ」

女「二人で走り続けていたいって……そう思うのは、きっといけない事なんだよね」

女「こんな楽しい時間が毎日ずっと、これからも続いたらって……」

女「君に鬼ごっこでつかまらなければ、ずっと走っていられると思ってた」


117 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:05:02.68 ID:tSQVz1JC0
僕「……」

女「ずっと子供でいられるんだと思ってた」

女「だから私は一人でふらふらしながら、友達とも遊ばずに。ぼーっとこんな場所に来ちゃったんだと思う」

女「私に似た、寂しい背中を見つけちゃったから……」

僕「……」

女「って、なに言ってるんだろうね私」

女「君と話すと変にロマンチックな事ばかりになっちゃいそうで恥ずかしいよ」

女「あははっ」

僕「……」


118 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:08:54.49 ID:tSQVz1JC0
僕「恥ずかしい事なんて無い、よ」

女「えっ?」

僕「女ちゃんは大人になろうとして……僕にそういう話をしてくれた」

僕「だから、全然恥ずかしい事なんて」

女「……うん」

僕「僕には大人になるとか、子供でいたいとか。そう言った細かい事はわからないけど」

僕「でも」

僕「一つだけ、女ちゃんにはっきりと伝えたい事があるのはわかるよ」

女「……なーに?」


119 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:13:26.76 ID:tSQVz1JC0
僕「女、ちゃん」

女「ん……」

僕「一緒に遊んでいくうちに、僕は」

女「……」

僕「僕は君の事が……」

僕「好きになってしまったんだ」

女「……」

僕「……ダメ、かな?」

女「くすっ」


120 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:14:34.86 ID:tSQVz1JC0
僕「!」

女「ダメなんかじゃ、ないよ」

女「好きって言ってくれて嬉しいもん」

僕「それじゃあ……!」

女「うん。私も」

女「私も……君の事が……」

女「これからも、ずっと…………」

……。


121 名前: 忍法帖【Lv=4,xxxP】 [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:22:32.75 ID:YMtTUHga0
wktk


122 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:23:42.70 ID:tSQVz1JC0
あれから、ずっと。

僕たちは小学校を卒業して、同じ中学校、そして高校へと進学していった。

子供の頃に考えていた通り、僕らがあの草原へ足を運ぶ事はめっきり無くなってしまっていた。


たまに。


今日のように、本当にたまに草原の側を二人で一緒に歩いたりしてみても、そこはいつも人がいたんだ。

小学校から近いこの場所を遊び場にして走り回る、子供たちが。

夕焼けの中、いつまでも鬼ごっこをしていたのを……僕たちは。

昔、一匹の蛍を見つけた場所で立ち尽くしながらそれを見つめている。


123 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:28:36.50 ID:tSQVz1JC0
「えへへ、タッチー!」

「きゃ! もう、ちょっとは手加減してよー!」

「ダメだよ。鬼ごっこなんだから、お互い全力で逃げたり追いかけたりしないと!」

「……むぅー、そうじゃなくてさー」

「?」

「そうじゃなくて、うまく言えないけど」

「……もっと長く走っていたいなーって思ったんだよ」

「……変なの」


124 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:32:54.00 ID:tSQVz1JC0
「変でいいもん! 今度は私が鬼だからねっ!」

「あはは、女子につかまるほど遅くないですよーだ」

「……むぅ。あ、さっき君に踏まれてさ、ちょっと靴がぬげそうなんだ。肩貸してくれない? 履き直すから」

「ちっ、しょうがないなー。ほらよ」

「……くすくっ」

「?」

「ターッチ!」

「あっ! こら!」

「わははー、女子の作戦勝ちー!」

「ま、待ってよ! ずるいぞそんなの!」

「……くやしかったらここまでおいでー!」

「よーし……待て待てー!」

「あはははっ、あはは」


125 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:38:05.43 ID:tSQVz1JC0
女「……元気ね、みんな」

僕「小学生だもん。そりゃあ元気さ」

女「私たちだってまだ若いよー?」

僕「でもあそこに混じって、はしゃいだりは出来ないでしょ?」

女「……体力なら自信あるんだけどねー」

僕「でも鬼ごっこしたらさ、きっとすぐに終わっちゃうよ」

女「むぅー……まだ私が遅いっていうの?」

僕「あはは、女の足はわからないけど。どっちにしろすぐに終わっちゃうよ」

僕「二人だけの鬼ごっこなんてさ」

女「……」


126 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 17:42:17.95 ID:tSQVz1JC0
女「いいよー、それでも」

女「すぐに終わっても、またすぐに始めればいいんだよ。そうすれば、ずっと走ってられるもの」

僕「……それ本気?」

女「本気」

女「って、子供の頃なら言ってたけどー……今は一応大人だもん。年齢上は、だけどね」

僕「中身はどうかな?」

女「えへへ、もちろん大人さ」

僕「……そう、だね」

女「んっ。私も僕ちゃんも、もう大人」

女「だからいつまでもこの場所で走り続ける事は出来ないけれど……」

女「私は……」


127 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/06/13(月) 17:45:43.31 ID:5iz6MmfV0
ごくり


129 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:03:50.30 ID:tSQVz1JC0
女「私の気持ちはこの場所から。ずっと僕ちゃんに預けたままだから……」

僕「女……」

僕はそっと、彼女の手を握りしめた。

柔らかくて暖かい感触が僕たちに共通して流れた。

女「ひゃ……し、小学生に見たれたらからかわれちゃうよ!?」

僕「……大丈夫。ほら」

女「え?」

「……」

「……」

僕「みんな鬼ごっこも止めて、空の飛行機探してるみたいだから」

女「飛行機……」


130 名前:VIPがお送りします [sage ] 投稿日:2011/06/13(月) 18:10:20.19 ID:lXiqIY890
切ない


131 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:13:43.88 ID:VTLCmndzO


夕焼け空がごうごうと鳴っている。

手を繋いでその音を探していた私たち。

ついさっきまで草の上を元気に走り回り、笑っていた子供たちも。

今は同じ音を聞きながら、夕焼け雲に浮かび上がる見えない飛行機を探している……。

女(いつか見た景色に似ている)

首を空に向けながら、私はそんな事を思い出した。

雲があって、音がして。

私たちは必死に見えない飛行機を探していた昔。


132 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:21:24.40 ID:tSQVz1JC0
懐かしいその音色を、私は目をきゅっと瞑りながら、いつまでも聞いていた。

飛行機は大人には見つけられない、なんて言ってた……。

もちろんあんなのは嘘。

ただちょっと、同じクラスの男の子をからかっただけ。

女(でも)

女(今となっては、なんだかそれが。本当に起こるみたいに思えて)

今、私が飛行機を探して空を見たら……きっと、それをすぐに見つけてしまうから。

女(いつかのお話のまま、私はずっと)

女(子供のままでいられるわけなんてないから……)

私は、ただきゅっと目を瞑り。

彼の手を握っていた。


133 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:24:40.04 ID:tSQVz1JC0
女「……ね」

僕「ん?」

女「飛行機、見つかった?」

僕「んー、見つからないや。聞こえるのは音だけ」

女「……やっぱり大人だね」

僕「あははっ、昔そんな話もしてたっけ。もうすっかり忘れてたけど」

女「……」

僕「女は? 飛行機、見つかった?」

女「……見ればわかるでしょ。見つけてないよ」

僕「そっかー、じゃあ女も大人だね」

女(……あれ?)


134 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:27:51.30 ID:e/HspjoI0
せつない…


135 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:28:04.42 ID:tSQVz1JC0
私は言葉の途中、ちょっとだけ目を開けて。

彼の方を見つめてみます。

すると……。

女(あ……)

僕「……」

彼も私と同じように目を瞑りながら、真っ赤な夕焼け空を見ているのがわかってしまう。

女「そっ……か」

僕「んっ?」

女「ううん、なんでもないっ」

僕「? 変な女」

女「……ふふっ」


136 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:35:48.48 ID:tSQVz1JC0
きっと彼も私と一緒で、あの日見つけられなかった飛行機を……そのままに。

私は勝手にそう思う事にしました。

女(こればかりは、お互い聞くわけにはいかないよね?)

女(だって私たちは大人なんだもの……もう)

女(二人で無邪気になって、この草原を走り回る事も……)

僕「……」

今空に浮かぶ飛行機を見つける事も、出来ないのだから。


「……あっ!」

その時少女の声がした。


138 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:41:44.97 ID:tSQVz1JC0
「ねえ、見つけたよ飛行機。お空を飛んでる……!」

「やったー、見つけたの私だけだよー」

夕焼けの草原で飛行機を見つけた少女は、いつまでも楽しそうにそれを自慢していた。

そして、仲間とはしゃいでいる間にごうごうとした音はどんどん遠さがり……。

音が止む頃には、子供たちはまた鬼ごっこを再開している。


139 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:51:40.76 ID:oKGKKKjp0
おいおいどうなってるんだよハッピーエンドで頼むよおお


140 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 18:55:47.08 ID:tSQVz1JC0
女(いつかは終わる鬼ごっこが……きっと、また)

女(私たちの思い出の場所で、今日も明日も、明後日も)

女(ああ、これが)

女「大人になるって事なのかなあ……?」


……。


141 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:00:40.38 ID:tSQVz1JC0
「……きゃっ、きゃ」

遠くで、子供たちの無邪気な声がする。

鬼ごっこが終わるまでに、空を見上げていた子供二人は、同じ場所にはもういなかった。

眩しいくらいの夕焼けと、思い出に光る草原を見ないようにして……二人は違う場所へと帰っていった。

その二人がどんな気持ちでそこにいたのかなんて。

夕日の中を元気に走り回る子供たちには、何の関係も無い事だから。


「……あ」

走り回る足を止め、女の子はもう一度空を見上げた。

「また飛行機の音がする……」

少女は、ただ無邪気に。

いつまでも夕焼け空を見つめているんだ。

見つからない飛行機を必死に探しながら、いつまでもいつまでも。

少女が大人になる、その日まで……。





142 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:02:36.13 ID:tSQVz1JC0
終わりです。

スレ立て代行、読んでくれた方ありがとうございました。


143 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:07:22.79 ID:Gnf+0YwwO

おもしろかった


144 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:07:24.79 ID:dfvNDM3K0
乙!
こういうSS好きだわ


146 名前: 忍法帖【Lv=6,xxxP】 [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:15:24.87 ID:8NnMv4ne0

最高でした


147 名前: 忍法帖【Lv=4,xxxP】 [sage] 投稿日:2011/06/13(月) 19:24:28.44 ID:X00qfJ0J0

心が軋んだ


148 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:32:44.86 ID:WPkWyg8c0

心の奥がむずむずするな


149 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:35:28.51 ID:ncdeyZm30

すばらしい


150 名前:VIPがお送りします [sage ] 投稿日:2011/06/13(月) 19:35:29.72 ID:lXiqIY890
乙。
たまにはこういうのもいいな


151 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:42:19.97 ID:8Q93tSeMO
ぐっと来るものがあった。



152 名前: 忍法帖【Lv=4,xxxP】 [] 投稿日:2011/06/13(月) 19:56:41.59 ID:YMtTUHga0

前に書いた作品を教えてくれ



戻る 上へ