■戻る■ 下へ
少女『言葉が通じなくても』
- 343 名前:GEPPERがお送りします [sage saga]
投稿日:2010/08/08(日) 17:11:22.09 ID:7k6XF2AO
=旅路2=
―道とは
永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である
旅路とは
旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―
侍「むぅぅ…」
侍は焦っていた
例え10万の兵に囲まれようが眉一つ動かさないであろう彼だが、頭を抱える事がある
少女「―、―…」ゼェゼェ
共に旅をしている少女の事だ
- 344 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 17:22:04.42 ID:7k6XF2AO
侍にとって命の恩人である天涯孤独の少女
よく懐いてくれているので旅に連れ出すのに吝かではないのだが…
少女「―!―!」ゲホッゲホッ
少女が飢えるのが怖かった
少女が怪我するのが怖かった
少女が…病気になるのが怖かった
侍は医者でもなければ陰陽師でもない
ましてや魔術など微塵も分からない
だから、少女の身に降りかかる災厄が怖かった
- 345 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 22:05:55.09 ID:7k6XF2AO
侍「…」ギュッ
着物を破いて作った手拭いを絞る
ヒタ
少女「――…」スースー
少し落ち着いてきたのか、寝息に苦しさはない
侍「私の力など…何の意味があるのだ」
人殺しは随分上手くなった
一時は英雄扱いされた事もあった
…だが、病に苦しむ子供一人救う事ができない
剣など手に取らなければ…
そう、幾度も後悔した
- 346 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/08(日) 22:08:27.72 ID:L3iXdfIo
こんなときに言うべきことではないかもしらん病に伏せっている女性は酷く愛おしく感じることがよくある
- 347 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/08(日) 22:10:07.22 ID:qGgm.Hso
>>346
オレも昔妹の看病したときにそう思ったことがあったな
- 348 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/08(日) 22:10:44.87 ID:3d6Tb9Mo
病弱萌え
- 349 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 22:32:30.60 ID:7k6XF2AO
学問を志した事もあった
百姓だった両親を手伝う傍ら、手当たり次第に本を読んだ
学者になればお偉方から声がかかるかもしれない…
少年心に両親に楽をさせようと決めて、実行に移した一年後
戦火が村を襲った
すぐに「お侍様達」が駆けつけたが、その頃には敵軍は引き上げていた
挑発のつもりだったのだろう、村に火をつけ暴れまわって帰っていった
不幸中の幸か、死人は出なかった
父上が歩けなくなっただけで済んだのだから…
- 350 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 22:39:26.88 ID:7k6XF2AO
父上は正義感の強い方だった
皆を林に避難させる間、敢然と敵兵に立ち向かった
時間稼ぎのつもりだったのだろう
お陰で、皆無事に逃げ仰せた
父上以外
少女「―、―、」ハァハァ
侍「す、すまない、今冷やしなおす」ジャバッ
- 351 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 22:43:57.44 ID:7k6XF2AO
父上は足に矢を受けてしまった
当たり所が悪かったのか、片足が使えなくなってしまった
動けなくなっている父上の周りを嬉しそうに騎馬隊が走り回った
それを見て、「俺」は―
侍「ほれ」パサッ
少女「―…、―…」フゥ
侍「…ふーっ」
- 352 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/08(日) 22:45:21.35 ID:L3iXdfIo
そうか、これは萌えだったのか…
- 353 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 22:55:05.38 ID:7k6XF2AO
援軍が来た頃には敵軍は去った後だった
焼け落ちた民間に荒らされた畑
それと、手に持った草刈り鎌と騎馬隊の死体が幾つか
許せなかった
一生懸命生きているだけの私達の生活を壊して面白がっているのが
勇敢に立ち向かった父上を侮辱したのが
それに、隠れて見ているだけの臆病な自分が
- 354 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 23:01:47.20 ID:7k6XF2AO
少女「――…」ガタガタッ
侍「…!? い、いかん!? 寒いのか!?」
着物は既に掛け布団代わりにしているので、もう布の類は無い
侍「しっかりせい!」ギュッ
抱きかかえて体をこする
嫌な汗が額を伝い、心臓が早鐘を打つ
侍「神様…仏様……」ギュッ
何時振りに神仏に祈っただろう
ああ、父上の足を診てもらった時と、初めて里帰りした時だ
- 355 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/09(月) 00:09:46.36 ID:ssPqxQAO
仕官して数年、戦に明け暮れ武功を上げ、食うに困らぬ程度の役職に就いたある日、私は里帰りをした
国を守る為に人を殺しているという複雑な気持ちで、今一つ胸を張って帰っていいのか分からない
だが、久しぶりに村の皆、そして両親に会えると思うと嬉しくなる
元気でやっているか?
仕送りは届いているか?
今年は豊作になりそうか?
何から話そうか考えながら峠を越えた
そこに村はなかった
- 356 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/09(月) 00:17:54.67 ID:ssPqxQAO
隣村で宿を借りた時に聞いた話だと、敵軍が焼き払ったらしい
他の村には目もくれず私の村だけ襲ったらしい
私が仕官した翌年に起きた、小さな惨劇
人殺しなんてするから―
侍「ハァ―ハァ―ッ」ガタガタ
無心で少女の体をさすった
力加減をする余裕は無く、ただただ治れと念じた
少女「―、―、」ゼェゼェ
少女の顔色も優れないが、私の顔色も相当悪かっただろう
- 357 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/09(月) 00:28:23.91 ID:ssPqxQAO
…
少女「―…」スゥスゥ
ようやっと容態が安定し、顔色が良くなった頃
日はすっかり暮れ、二人は同じ場所で二日目を終えようとしていた
侍「…」
侍は、自分の臆病さ加減に参っていた
普段は、失う事への恐怖を自己犠牲によって麻痺させているのだが、そのメッキが剥がれ露呈してしまったのだ
侍「…はぁ」
森で採ってきた「食べれるであろう果実」を口にする気にもなれず、侍は幾度目かの溜め息をついた
- 358 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/09(月) 00:34:16.80 ID:ssPqxQAO
……
少女『…ん』
少女『……朝…か』ムク
グッ
少女『…?』グッ
ググッ
少女『抜けない…?』
布団から起きれないのは温かくて気持ちいいからじゃない
単に、布団が私をしっかり掴んで離さないからで…
少女『ん…? 布団?』
侍『―…』ウツラウツラ
布団じゃなくお兄さんでした
少女『………え?』
- 359 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/09(月) 00:40:46.85 ID:ssPqxQAO
少女『え、え、ええええええッ!?』
思わず声を上げた
だって、起きたらこんな至近距離にお兄さんの顔があるんだもん
侍『―…』
少女『しまっ 起こしちゃった!』アタフタ
侍『…』
少女『あの、えと…おはようございま』
ガバッ
侍『――!』ダキッ
少女『え!? あの…?』
お兄さんは私の顔を見るや否や私を強く抱き締めた
目尻に僅かに浮かべた涙を、私は見てしまった
イマイチ何が起こったのか分からないけど…
少女『お兄さん…く、苦しいよぅ』ポンポン
侍『―…――…』ギュウッ
- 360 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/09(月) 00:45:09.50 ID:ssPqxQAO
…
少女『私が風邪ひいて、お兄さんが一生懸命看病してくれたのはなんとなく思い出した』
少女『でもお兄さんが風邪ひいちゃ意味ないでしょ』
侍『―、―』ゴホゴホ
少女『仕方ないなぁ、もう』
朦朧とした意識の中感じた額に触れる手の感触
昔、母上が看病してくれた時の感触だった
侍『…』
少女『果物、食べる?』
侍『…』コクリ
- 361 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/09(月) 00:47:38.42 ID:ssPqxQAO
今日はここまでです
私事ですが、12日〜15日は帰省するので書き込みできない可能性大です
ご静聴ありがとうございました
- 362 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/09(月) 08:37:38.05 ID:BzrlINoo
やっぱこの二人いいなぁ、>>1乙
次へ 戻る 上へ