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侍「言葉が通じなくとも」
- 327 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage saga]
投稿日:2011/04/08(金) 01:05:31.06 ID:6ponQgBAO
……
ザッ
ザッザッ
少女『……この丘を下れば、いよいよ東の人達の国だね』
侍『……』ザッ
少女『私が住んでた所とは、何もかもが違う……新しい世界』
侍『……』
ポンッ
少女『んっ』
侍『――――』ナデリ
少女『…………そうだったね』
少女『よっし! 麓まで競走!』タタタッ
侍『―!』
侍『……――』タタッ
- 328 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage saga] 投稿日:2011/04/08(金) 01:50:35.52 ID:6ponQgBAO
―未知という恐怖から逃れる為に、人間は情報という鎧を身に付いた
それが今では、新たなる一歩を妨げる足枷となっている
大多数の人間は、誰が作ったかも知れぬ地図で世界を知り、
誰が発したかも知れぬ報道に一喜一憂する
「それらに、果たしてどれだけの価値があるのだろうか……」
- 329 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage saga] 投稿日:2011/04/08(金) 02:01:24.19 ID:6ponQgBAO
ある旅人が答えた
「事物の価値は、己が手に取って初めて生まれる」
「地図は私の後ろに生まれ、報せは私の口から生まれる」
「では、歴史は……歴史も、貴方により作られるのですか?」
旅人は、また答えた
「それは違う。何故なら、私は孤独ではないから」
「私もまた、心を受け継いだ……歴史の一部なのだから」―
- 335 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/25(月) 23:12:07.58 ID:zR/xBadAO
……
青年「これで4人目か……」
おばさん「こんな幼い子供に……」
母親「うううううう……っ!」ポロポロ
自警団「すまねぇ……俺達が無力なばかりに」
老人「うなだれてる時間はないぞ。またいつ犯行が行われるかわからない」
自警団「……そうだな、見回りに行ってくる」
ガチャ……バタン
老人「………」
- 337 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/25(月) 23:49:57.35 ID:zR/xBadAO
=小天村=
豊かな自然に囲まれた小さな小さな村である小天村
周辺町村が少なく、流通網から外れている為、村人は自給自足の生活を続けていた
決して豊かとは言えない無いが、村人達は満足していた
そんなある日、小天村を震撼させる事件が起きた
連続殺人
ある時は白昼の犯行、ある時は深夜の殺人
ある時は無垢な子供を、またある時は働き盛りの男性をズタズタに切り裂いた
毎日出る犠牲者
村人達は恐怖に震えた
いつまでこの悪夢は続くのか……
- 338 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 00:14:27.90 ID:zfjXvOmAO
自警団「みんな、聞いてくれ」
集会所に集まった男達が振り向く
自警団「事件発生から3日目、未だに犯人は捕まっておらず、今日も犠牲が出た。……まだ子供だというのに」ギュウッ
自警団は少しの間顔を伏せたが、再び前を向き話始める
自警団「昨日、皆で集会所に集まった時に見張り役二人が殺された事は覚えているだろう」
自警団「あの時は皆集会所の中に居た。誰も犯行が不可能な状況だった訳だ」
団長「疑いたくはなかったが、この村は辺境、外部から人が来る事は滅多に無い。内部犯をまず疑わざるを得なかった」
親父「それはわかった。いいから次の手を考えようぜ、団長」
- 339 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 00:30:26.37 ID:zfjXvOmAO
中年男性「で、外部犯と考えると、どんな作戦に出るんだ?」
自警団「山狩りに出ます」
青年「山狩り……?」
男達がざわつく
親父「おいおい、そりゃあ少し危険じゃないか?」
小天村のような小村では、山狩りのように多くの男手が必要になる事は難しい
男性二人を殺す凶悪犯を探すとなれば尚更だ
青年「それに、村の子供達や女衆は誰が守るんだ?」
初老の男「そうだ、男達の留守に殺人犯が村を襲ったら……えらい事になるぞ!」
- 340 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 00:44:35.64 ID:zfjXvOmAO
男達が口々に反対を訴える
犠牲者を出さない事を考えれば、危険の伴う行動は避けるべきである
人手という資源は有限で、人間にできる事も有限である
皆を守る、それが最優先事項である
団長「…だが、これは嵐ではない……! 嵐の様に耐えるだけでは終わらんのだ……!」
- 342 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 01:01:44.30 ID:zfjXvOmAO
男達が山狩りに消極的なのには理由があった
まず、村人全員がこの3日間、ろくに休養を取っていない事
特に男達は、交代で仮眠を取るだけで、昼夜を問わず警戒に当たっている
加えて、いつ襲ってくるかわからない殺人犯への恐怖、常に集団行動を強いられる心労
更に、収穫や狩り、仕事ができない事による生活への不安
そして、それらによる村人同時の衝突
肉体的にも精神的にも、村人達は疲弊していた
団長「だからこそ、早急に事件を解決しなければならない」
自警団「これ以上消耗すれば、俺達に隙が生まれ、殺人犯につけ込まれる」
親父「……」
団長「……今が勝負所だ」
青年「…わかった」
- 343 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 01:24:41.97 ID:zfjXvOmAO
…
中年女性「あなた、無事に帰ってきてね」
中年男性「心配するな。おまえこそ、留守を頼むぞ」
山狩り部隊の男達が家族の見送りをうける
夕方には帰ると言えど、殺人犯の捜査である
皆、名残を惜しみながら、隊列へとついていった
団長「皆、準備は良いか?」
「オーッッ」
団長「留守中、頼んだぞ」
自警団「はい!」
団長「よーし、出……」
ガサガサッ
少女『いっちばーん!』スタッ
麓まで一気に駆け降り、茂みから飛び出した少女の目の前に並ぶ、物々しい装備の男達
男達は皆、険しい表情で少女を見ている
団長『……―』ギロッ
少女『……もしかして、怒ってます?』
侍『――…』ガサッ
- 347 名前:NIPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/04/26(火) 15:23:24.16 ID:S9cjI3R10
いーね!
地の文うまいなマジで。分かりやすい。参考にする。
- 348 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 21:18:02.16 ID:zfjXvOmAO
……
侍「……だから先から何度も知らぬと言っている」
親父「嘘をつけ! この人殺し!」
侍「……」
侍は留守を任された男達に囲まれていた
その手足は縄できつく縛られており、刀は押収されている
新米自警団「そうは言っても、剣を所持していた貴方を疑うなというのは無理な話です」
侍「護身用だ。丸腰で旅ができる程、世は平穏でないからな」
青年「そんな事言って、アンタこそ野盗なんじゃないか!?」
自警団「……こら、憶測で物を言うな」
青年「……」
侍「……」
- 349 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 21:35:45.81 ID:zfjXvOmAO
侍は取り押さえられた訳ではない
侍と少女が茂みから出て暫くは、村人達との睨み合いが続いた
その睨み合いの中、侍は男達が『背後を気に掛けている』事を感じ取った
この男達は、守る為に戦おうとしている
そう見抜いた侍は、刀を地面に置き、少女を捕縛しない事を条件に投降したのだった
- 350 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/04/26(火) 22:12:28.96 ID:zfjXvOmAO
不思議な事に、男達は侍に家族が襲われなかった事で不幸な気持ちになっていた
……もし、この男が犯人だったら……
家族と仲間を守らなければならないという重圧を、事件解決への期待が一瞬上回た
だが、蓋を開ければどうやら男は白らしい
皆、一様に落胆し、振り出しに戻った事に焦りを感じる
親父「おい……あんまり人を舐めるんじゃねぇぞ」グイッ
自警団「お、おい!」
そして焦りは理性を焦がし、人を暴力に駆り立てる
侍「………」
親父「ンだぁ!? その目は!」バキッ
侍「……っ」
- 354 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/05(木) 02:07:19.42 ID:ATLwZrJAO
少女「―――!」タタッ
少女が侍と親父の間に割って入り、両手を一杯に広げる
身を挺して守る姿勢を見せる事が、言葉の通じない少女にとってできる精一杯の抵抗だった
自警団「止せ! まだ彼が犯人と決まった訳じゃないだろ!」ガシッ
親父「うるせぇ! 村の連中が犯人じゃねぇなら、余所者を追い出しときゃいい話だろうが!」バシッ
自警団の静止を振り切る親父
仲間を殺された怒り、姿の見えぬ犯人への恐怖
様々な感情が彼の理性を焼き尽くす
親父「どけ、ガキ! 痛ぇ目にあいてぇのか!?」ドンッ
少女「―ッ」ザッ
大人の男に突き飛ばされた少女の小さな身体
だが、その身体はよろめく事無く親父の前に立ちはだかり、少女は一層大きく手を広げる
親父「―っ こんの……っ 余所者がぁ!!」グァッ
少女「!」
「その腕……余程不要と見える」
- 355 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/05(木) 02:21:53.97 ID:ATLwZrJAO
親父「うっ!?」ビクッ
振り上げた警棒が親父の頭上でピタリと止まる
親父(な……なんだ!? 腕がっ 動かねえ……!)
腕だけではない
足、首、腰の関節から視線、呼吸器……心の臓に至るまで、あたかも「石になってしまったかのように」動かない
動かせない
否、本能が停止を命じたのだ
侍「言った筈だ。その娘に手を出すな……と」
- 356 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 02:35:52.97 ID:ZmEDiVM0o
腕ぐらい持っていっとくべき
- 357 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/05(木) 02:38:17.85 ID:ATLwZrJAO
―「蛙は蛇に鉢合わせると、何故固まるんだろう?」
「ああ、あれは蛇が満腹である事を祈ってるのさ」―
自警団の脳裏を何時か本で読んだ台詞が過ぎった
もし自分が蛙で、拘束された男が蛇なら、その時は満腹を祈ればいいだろう
……では、子供を傷つけられた虎が相手ならば
父親「う……うあああああああっ!!」ダダッ
自警団「あっ!?」
その時は、何を祈ればいいのだろう……
- 358 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/05(木) 02:50:15.39 ID:ATLwZrJAO
父親「うああああああああああああああッッ!!」
侍から応酬した刀を抜き、真っ直ぐに突進する男がいた
彼は今日、愛する我が子を失った
無念に打ちひしがれる妻を慰める間もなく、村の仲間を守る為……我が子の仇を討つ為に家を出た
殺人犯を探しに出ようとした矢先、怪しい男が捕まった
皆、刃物を持っていた事を理由にその男を疑ったが、父親は腑に落ちなかった
- 359 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/05(木) 03:02:05.95 ID:ATLwZrJAO
彼は子供を殺すような人間だろうか……
初対面……それも、一言も交えていない人間の本質を見抜く事はまず不可能だ
でも、あんなに真っ直ぐな瞳の人が、子供を殺すとは……どうしても思えなかった
バキッ
場の雰囲気に流され、俯いていた父親が顔を上げると、血の気の多い親父が男を殴ったところだった
すぐに自警団が止めに入ったが、親父は静止を振りほどいて男に詰め寄る
- 360 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/05(木) 03:10:30.84 ID:ATLwZrJAO
切りが悪いですがここまでです
登場人物の区別が難しくてすみません
親父→殴ったやつ
父親→犠牲になった子供の父
です
以後気をつけます
VIPで書き殴った二次SSです
暇つぶしにでもどうぞ↓
http://blog.m.livedoor.jp/minnanohimatubushi/c.cgi?id=1675577
- 364 名前:NIPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/05/05(木) 05:39:47.01 ID:BycKmUNk0
>>362
ネタばれ:イカ娘かわいい
- 366 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 10:09:07.56 ID:fOneMx5SO
毎回思うんだが、このSSと他の落差の激しさがwwwwww
- 370 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/08(日) 21:53:58.31 ID:NDlGohuAO
捕らわれの男が犯人とは思わない
だが、見ず知らずの男を助ける為、激昂している人間を止める気力もなかった
結局、彼は成り行きを見守る事にした
と、二人の間に割って入る小さな影が視界に映った
目を凝らすと、男と共に現れた異国の少女が親父の前に立ちはだかっていた
男は言っていた
「この娘には手を出さないでくれ」、と
その少女も又、あの男を守ろうとしている
……父親の胸が少し痛んだ
- 371 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/08(日) 22:08:52.03 ID:NDlGohuAO
ズキズキと
ズキズキと胸が痛む
キュウキュウと心臓を締め上げる音がする
父親の脳裏には四半時間前の映像が蘇っていた
目に浮かぶは、山狩り班の見送り
愛する家族に囲まれた男達
守るべき幸せ
自分には、もう無いモノ
- 372 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/08(日) 22:48:45.00 ID:NDlGohuAO
視界の端では親父が警棒を振り上げていた
だが、余所者達の処遇も、殺人事件すらも、父親にとっては最早どうでもよい事となっていた
急速に肥大する喪失感の中に願うは、速やかなる終わり
もしくは、痛みを紛らわせる麻酔
そう、甘美なる他人の悲劇…
- 383 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/11(水) 22:41:59.37 ID:9EZDa7CAO
……下ろせ
父親は願った
人間を畜生へと堕落させる願いを
…振り下ろせ
口元が緩んだ
あの異国の少女の頭が真っ赤に染まる事を想像すると、愉しくて仕方なかった
振り下ろせ!
この苦しみを、あの男にも与えるのだ!
さぁ、思い切り振り下ろせッ!!
- 385 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/11(水) 23:04:28.75 ID:9EZDa7CAO
親父「うっ!?」ビクッ
だが、悪しき願いは叶わなかった
侍の発する強大な威圧感に気圧され、男達は身動きが取れなくなった
ただ一人、父親を除いて
父親(割れろ割れろ割れろ割れろ割れろ割れろ割れろ割れろ割れろ……ッ)
全てを圧倒する侍の重圧に気付かぬ程、父親は麻痺していた
悲しみに支配され、狂った心の為すがまま父親は刀を抜き
父親「なんで割れねぇんだよーッッ!?」ダッ
疾走した
- 386 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/11(水) 23:27:37.99 ID:9EZDa7CAO
父親「ああああああああああッッ」ダダッ
侍「!」
侍達に接近する影があった
それは、赤々とした髪を靡かせ、発達した犬歯の間から熱い息を吐き出し、駆け抜ける
目には憎しみだけを宿し、どす黒い影を引き連れ、不浄な刃を翳す
人はそれを、悪鬼と呼ぶ
悪鬼「オオオオオオオォォォッ!!」
- 387 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/11(水) 23:52:43.26 ID:9EZDa7CAO
悪鬼「シャッ!!」ビッ
少女「―!」
ドンッ
侍「……ッ」プシッ
悪鬼「シャッ シャァッ!」ビッ ビッ
侍「くッ!?」バッ
少女を悪鬼が斬りつける刹那、侍は少女を突き飛ばした
掠めた刀が侍の肉を切り裂き、鮮血が迸る
上手く動けない侍に休む暇を与えず、悪鬼は二度三度、と立て続けに斬撃を繰り出す
- 388 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/12(木) 00:43:34.24 ID:Xhuf49bAO
悪鬼「シャッ! シャッ!」ビッ
侍(速い……!)バッ
悪鬼の攻撃は憎しみを増す毎に、より鋭くなってゆく
一の太刀よりも二の太刀、二の太刀よりも三の太刀
より、速く
より、力強く
より、憎しみを込めて憎悪の太刀は加速し、やがて
―――ズバッ
侍「速い……が、愚直だな」パラッ
侍を拘束していた縄を捉えた
- 392 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/12(木) 15:16:35.79 ID:Xhuf49bAO
親父「ひっ 化け物……!」ドサッ
青年「クソッ、村人に化けていたのか!」
新米自警団「あの化け物が私達の仲間を……!」ギリッ
男達が悪鬼に対し弓を構える
自警団「待て! 射ってはならん!」バッ
新米自警団「! 何故です!」
自警団「あの旅人を巻き込む気か! それに、私は悪鬼が村人になりすましていたとはどうしても思えない」
新米自警団「先輩どう思おうと自由ですが、思い込みで皆を危険に晒さないで下さい!」
自警団は言葉に詰まった
悪鬼を取り逃がすという事態が招く危険を、自警団も重々承知していた
故に、危険分子を速やかに取り除く事は、自警団にとって「やらなければならない事」であった
…だが
自警団「悪鬼の顔をよく見てみろ!」
自警団「我々の使命はなんだ!」
新米自警団「! …仲間を守る事です!」
自警団「であれば、彼が何かに憑かれているならば、我々救わねばならない!」
新米自警団「……!」
安易な平穏を、自警団は求めなかった
独り善がりであると分かっていても、皆を守る事で妥協したくなかったのだ
自警団「彼が悪鬼と化したのには理由がある筈だ! それを突き止めるまで、殺す事はならん!」
- 393 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/12(木) 15:34:36.82 ID:Xhuf49bAO
…
侍「……さて」
縄の跡のついた手首をさすりつつ、侍が悪鬼に向き直る
侍「その刀、返してもらおう」ザッ
悪鬼「…………シャァァッ!」ダッ
少女『あの人、泣いてる……』
悪鬼の目からは涙が零れていた
恐ろしいその姿に不釣り合いな涙を目の当たりにし、新米自警団達も不承不承弓を下ろす
涙の意味は何なのか
それは悪鬼自身忘れてしまっていた
- 394 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/12(木) 15:52:08.35 ID:Xhuf49bAO
…
―ヒュンッ
パシンッ―
悪鬼「クカッ……!」ポタポタ
侍「……五つ」ザッ
悪鬼の鼻から血が滴る
斬撃の度に侍に殴られ、悪鬼の赤黒い肌は一層赤く腫れていた
悪鬼「ク……!」チャキッ
侍「お主は何と戦っている。何故それ程苦しんで―」
ビュンッッ パシンッッ
悪鬼「……クッ」ポタポタ
侍「……刀を返すのだ、お主の意志で」ザッ
- 397 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/12(木) 22:52:12.47 ID:Xhuf49bAO
新米自警団「す……凄い」
悪鬼を翻弄する侍を前に、男達はただ見守る他なかった
侍は的確に攻撃を避け、その度に悪鬼の顔面に拳を叩き込む
悪鬼の斬撃は徐々に失速し、斬りかかるのを躊躇う素振りを見せるようになった
親父「あの男、あんなに強ぇのになんで倒しちまわねぇんだ……?」
自警団「わからないのか?」
親父「えっ」
自警団「あの旅人もまた、彼を助けたいと思っているのだ」
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