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少女『言葉が通じなくても』
727 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 23:51:48.91 ID:JgnXpoAO
=旅路3=

―道とは

永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である

旅路とは

旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―



侍「んん〜ん〜」バシャバシャ

侍は鼻歌を歌いながら食器を洗っていた

何故食器を洗っているのかというと、路銀が尽きたからである

何故鼻歌を歌っているのかというと、上機嫌だからである

普段なら顔色一つ変えずに仕事に専心する彼が、鼻歌混じりである

そう、侍はかつて無い程上機嫌なのだった


728 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 23:59:11.92 ID:JgnXpoAO


少女『はぁー! 今日もよく働いたなぁー!』ググッ

侍『―』モミモミ

少女『あ…えへへ、ありがとお兄さん』

少女『次は私が』


子供『おーい!』


少女『あ!』

女の子『また会ったね!』

少年『一緒に遊ぼうよ!』

少女『…』

侍『…』

トンっ

少女『あっ』トッ

侍『―』コク

少女『…うん! 遊ぼう!』


729 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 00:03:12.89 ID:9/f7zYAO


少女『さて、今日も一日…』

ポンっ

少女『ん?』

侍『―』クイッ


女の子『おーい!』

子供『こっちおいでよー!』


少女『…お兄さん』

侍『――』

少女『うん、今日だけ…甘えさせてもらうね!』





732 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 00:25:32.13 ID:9/f7zYAO
侍は嬉しかった

少女が年相応に遊び、笑っている姿を見ると心が温かくなった



あの…少女に救われた日から今日まで、侍は少なからず罪悪感を感じていた

大人であり、男である自分が、力でしか少女を守れないという現実


時に少女だけが働き、太公望になる毎日もあった

そんな状況になるのは、決まって人々が自分を奇異の目で見る時だ

自分の髪が黒い事

自分の目が黒い事

自分が異国人だという事


一人なら気にも留めない事達が、二人になって侍を苦しめた


733 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 00:37:23.98 ID:9/f7zYAO
少女の幸せが侍の願いだった


稀に二人を快く受け入れてくれる人達がいる

仕事を貰い、雨風を凌げる場所を提供してくれて、少女に優しくしてくれる

そんな町村に滞在する度、侍は思った


「ここなら、幸せに暮らせるだろう…」




しかし少女は旅立つ

旅が続く事が不安で……同時に嬉しくもあった


734 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 00:59:54.22 ID:9/f7zYAO


男の子『くぁー!また捕まったー!』

女の子『足早いねー!』

少女『そ、そうかな?』

少年『釣りも虫取りも上手いし、凄いよねー』

少女『フフ…ありがとう』


少女はすっかり街の子供達に溶け込んでいた

元来の賢さと器用さ、そして旅で鍛えた身体能力は、同年代の子供達の中でも一線を画していた


子供『コツとか教えてよー』

少女『コツかぁ…』


ふと、侍の顔が過ぎった

自分の代わりに働いているであろう人の顔が


チクっと胸が痛んだ


735 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 01:13:05.81 ID:9/f7zYAO


侍「…んまい!」モグモグ

侍は上機嫌だった

機嫌の良さを全面に出していた

でないと隣に誰もいない寂しさに気付いてしまいそうで

侍「あむ…んぐんぐ」モグモグ

出来る限りの笑顔で、別段美味くもないパンをがっついた


こんなに不味い食事はいつ以来だろう

侍「…はぁ」

侍は何年振りかに背中を丸めた


736 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 01:24:03.47 ID:9/f7zYAO
侍「さて、午後も仕事を………」

厨房に戻った侍が見たのは食器を洗う少女の姿だった

少女「―! ―――!」ニコ

笑顔で自分を迎える少女

その笑顔を見た時、侍は自分の間違いに気付いた




―ああ、なんだ
       私達は番いなんだ―





737 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/14(火) 01:37:43.36 ID:ciSvutgo
ば、番い・・・?


738 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 01:42:25.60 ID:9/f7zYAO
流しに並んだ二人が言葉を交わす事はなかった

しかし、確かに通じていた


あなたの幸せがわたしの幸せ

それは好意に見せた独り善がり

幸福の押し付け


何故侍が自分を遊びに出したのか

何故少女が自分に尽くすのか


鑑みれば簡単な事

二人は対、裏表だったのだ


739 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 02:02:08.62 ID:9/f7zYAO
少女もまた、罪悪感を感じていた

常に自分の為に盾となり剣となる侍に、後ろめたさがあった

だから一生懸命働いた

少しでも侍に近付こうと思った

早く大人になれたら…とも思った



でも、それは独り善がり

好意の堂々巡り

裏と表





結局、お互いに好意から逃げていただけ

手を取るのが怖い

一つになるのが怖いのだ


740 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 02:14:13.55 ID:9/f7zYAO
近付きすぎないよう前に出る

前に出るように見せかけて背中を向ける

ぐるぐる、ぐるぐる



いい加減終わりにしよう


私達は二人で幸せになる―







気が付けば洗い物はすっかり終わっていた

少女『あはは…』クスッ

侍『―』フフッ

お互い、顔見合わせ笑った


741 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 02:22:26.51 ID:9/f7zYAO


少女『あーん』モグッ

侍『―』モグモグ

仕事が終わり、二人寄り添いパンを食べる

少女『美味しいね!』ニコ

侍『――』モグモグ


今度のパンは格別に美味しくて

また――心が温かくなるのを感じた


742 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/14(火) 02:26:51.86 ID:9/f7zYAO
旅路3終わり
今日はここまでかも

ご愛読、支援ありがとうございました


>>737
番い(つがい)です
小難しくて申し訳ありません


744 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/14(火) 02:45:21.72 ID:OZ4rlWA0
番いってネタでしょwwww
作者乙

このスレも結構盛り上がってきたね
是非完結さしてほしいです


745 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/14(火) 09:40:04.99 ID:hZpxIsSO
言葉遊びっていうのか、そういうのが上手いな



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