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少女『言葉が通じなくても』
310 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/07(土) 10:13:16.85 ID:JVHiGYAO


少女『なんだか景色が変わったね』

別段、地形が変わったり植物の種類が変わりした訳ではない

見渡しても、相も変わらず木々が生えて森という形を保っているだけである

何が変わったのか


侍「…この花」サス

侍「…………花粉が飛び切っている……………まるで生きるのを止めたような―」


花だけではない

木は新芽を出すのを止め、草は太陽に向かって伸びるのを止めた


いつからかは分からないが、此処はまるで時間が止まっているようだった


311 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 11:30:08.20 ID:7k6XF2AO
侍『…』スッ

少女『え、どうしたの?』



兵隊『ここから先は進入禁止だよ』ザッ

少女『あ、すみません』

林から現れた兵隊は特に警戒する風もなく、注意だけ告げた

先程一戦交えた小隊とは別の者らしい

少女『あの、どうしてこの先に入れないんですか?』


兵隊『知らないの? この先には神樹があるんだよ』


312 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 11:37:52.63 ID:7k6XF2AO
少女『…神樹?』

兵隊『そう、緑謳の自然が美しく保たれているのは、全て神樹のお陰なんだよ』

兵隊『ほら、ここからでも見えるだろ? あの一際大きな木が…』


ターンッ


少女『えっ!?』

兵隊『敵襲!?』ダダッ

静かな森に銃声が響き渡った

兵隊は血相を変えて音の方向へ走り去った

少女『…もしかして、チャンスかも』


313 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 11:54:26.98 ID:7k6XF2AO
ダーンッ

ターンッ ターンッ

一際大きな木を目指し、少女と侍は進む

近付けば近付く程、銃声も近くなる

少女『あ…!』

林を抜けると、一本の巨木が聳えていた

白樺の様な白色、樫の様に力強く、桐の様に神々しい―


少女『これが神樹…』

たった一本、木が生えているだけ

それなのに目を奪われる光景だった


314 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:05:52.08 ID:7k6XF2AO
ダーンッ

少女『!』

銃声で一気に現実に引き戻された

少女『この木がこの森を維持する鍵なのね…』

では、…もしこの木がなくなったら?

支えられてきた命達はどうなる

少女『…』


ガサッッ

侍『!』

色白娘『はぁ…はぁ…!』ダダッ

兵隊『追え! 神樹に近付かせるな!』


315 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:15:53.23 ID:7k6XF2AO
林から色白な娘、それに続き兵隊達が次々と飛び出してくる

色白娘『ここまでくれば…ッ!』チャッ

娘が武器を構える

ただの棒に見えなくもないが、細やかな装飾が施されているあたり魔装武具のようだ

兵隊『撃て! 撃てッ!』ダーンッ

色白娘『やああああああッ!』バッ

淡い光を纏い、神樹に向かって跳び―


バチッッ


316 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:29:16.88 ID:7k6XF2AO
色白娘『きゃあッッ』ドサッ

空中で跳ね返された

いや、娘の体が跳ねたのだ

色白娘『ぐぅ…!?』ジーンッ


兵長『やっと捕まえたよ』ザッ

色白娘『く…ッ』キッ

兵長『そう睨むな』

全て脚本通りだったのだ

兵隊達が追いかけ、娘がそれを撒きながら神樹へと辿り着く

神樹へ攻撃しようとすると、防御円に弾き飛ばされるという寸法だ


317 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:34:43.15 ID:7k6XF2AO
兵長『雷の防御円だ。暫くは痺れて動けまい』

色白娘『く…っ…あ……』ガクッ

痺れて立ち上がれず、舌も回らない

兵長『散々手こずらせてくれたな…神樹を傷つけようなど愚かな』

兵長『連れていけ』

兵隊『ハッ』

色白娘『や……ッ』


バチバチィッッ

兵長『ムッ!?』


318 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:40:54.88 ID:7k6XF2AO
兵隊『なんの音だ!?』

兵隊『防御円が発動したんだ!』

兵長『まさかこちらが陽動だったのか!?』

兵隊『な!? 防御円の内側に人が…!!』




侍『…』ビリッ

兵隊『お、オマエ! 今すぐ出てこい!』
兵隊『一体どうやって入った! 魔術師か!?』


319 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:44:37.95 ID:7k6XF2AO
侍「ふむ、余程この木が大事と見える」

兵隊「――!!」

兵隊「―――!?」

侍「何を言うてるか分からん。 ―せいッ」


ドゴォッッ


兵隊「―!?」

侍「いつつ… なんと頑丈な木だ…、拳が割れるかと思ったぞ」


320 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:49:53.05 ID:7k6XF2AO
ピシッ

侍『―』

兵隊『馬鹿な!? 神樹にヒビが!』

兵長『防御円を解除だ!! あの者を包囲しろ!』

兵隊『兵長殿! 奴です! 例の異邦人です!』

兵長『何…!』




少女『今の内に逃げるよ!』

色白娘『! あなたは』

少女『いいから!』


321 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 12:57:10.43 ID:7k6XF2AO


侍『― ――!!』

ズゥンッッ

ビキッ

兵隊『止めろ!! 何考えてるんだ!!』

兵隊『防御円が解除されればお前は蜂の巣だ!!』


ブゥゥンッ


兵隊『解除しました!』

兵長『撃てぇぇ!!』

ダダダダダダダダダダダダッッッ

兵長『…ッ 逃したか』


322 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 13:10:51.20 ID:7k6XF2AO
色白娘『う…ッ』ビリッ

少女『まだ痛むの?』

色白娘『え、ええ…』

色白娘『それより、何で助けてくれたの?』

少女『…あなたが、この森の秘密を知ってそうだったから』

色白娘『!』

少女『どうしてこの森には蜘蛛や蛇…沢山の生き物がいないの?』


色白娘『…』


323 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 13:18:59.35 ID:7k6XF2AO
色白娘『人間に害成す生き物はいらない…』

色白娘『それが緑謳の考えよ』

少女『でも! 緑謳は自然との共存を…』

色白娘『自然学者でもない限りそうそう気付かないわよ。…害虫害獣がいなくて困る人なんていないもの』

少女『…』

少女は黙った

自分だって、蛞蝓や蜘蛛を気持ち悪いと思うし、出来ればいなくなって欲しいと思っていた

それが現実になっただけ…

少女『でも…やっぱり間違ってるよ』


324 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 13:24:18.27 ID:7k6XF2AO
色白娘『うん、間違ってる』

少女『どうしたら消えた生き物達は戻ってくるの?』

色白娘『神樹を破壊しよう。そうすれば全て元通りよ』

少女『でも、あれはこの森の支えじゃ…』

色白娘『大丈夫、自然は…命はそんなにヤワじゃないわ』

ガサガサッ

少女『!』

侍『―』ヒョコ

色白娘『あなたの相棒も来たところで、再戦といきましょう』


325 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 13:32:04.23 ID:7k6XF2AO


ザワ…

少女『なんだか…森の様子が…』

神樹の周りの木々草花

時間が止まっていた植物達に変化が現れた

少女『だんだん…枯れて…!?』

色白娘『急ぎましょ…! 手遅れに…なる前に!』ヨロッ

侍『…』ハシッ

色白娘『あ、ごめんなさい…』

娘の顔色は白を通り越して青くなっていた

疲れなのか、とても動ける様子じゃない


327 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 13:37:24.82 ID:7k6XF2AO
少女『少し休んだ方が…』

色白娘『駄目…間に合わなくなっちゃう』

少女『一体何に…?』

色白娘『神樹がこの森の生命を支えているのは知ってるでしょ?』

少女『うん…』

色白娘『その逆も…可能なの』

少女『!』


色白娘『きっと…森中の生命力を集めて…魔導砲を撃つ積もりなの』


328 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 13:48:33.03 ID:7k6XF2AO
少女『そんな事したら森は…、ううん、森だけじゃない…魔導砲の先が全て消し飛ぶでしょ!』

色白娘『元々、自然との共存なんて建て前だったのよ』

色白娘『奴らは自分たちの愛でる自然が美しければそれでいい』

色白娘『最悪、神樹が無事ならまた元通りになるもの…』


少女『元通りになんてならない!』


色白娘『…!』

少女『形は戻っても…消えた命は戻らないよ…』


329 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 14:01:47.85 ID:7k6XF2AO
色白娘『その通りよ』

少女『…』

色白娘『だから止めないと、思い上がった自然主義者達をね…!』


ザッ


兵長『諦めるつもりはないかね? 我々もできればコイツを使いたくないんでね…』
色白娘『あなた達こそ、自然を矯正するなんて思い上がった行為は止めたらどうなのよ』

兵長『矯正ではない。人間界と自然界が融合した結果だ』


色白娘『…節穴の様な目ね』


330 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 14:29:35.75 ID:7k6XF2AO
少女『これのどこが共存なんですか! 自分たちに不都合な生き物を追放して』

兵長『何がおかしい? 不都合を取り除くのは当然の事だろう』

少女『私達は自然に生かされているんです! 何で分からないんですか!!』

兵長『それは遅れた考えだ。文明は進み、魔術と科学によって自然さえ創り出せる世になったのだ!』

色白娘『それが勘違いだと言ってるんだ!』


兵長『もういい…消えてくれ』

少女『だめ―』

ドォォォオオオオオオンッッッ


331 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 14:35:04.69 ID:7k6XF2AO



少女『…え』

色白娘『ぐ…ぁ…あがッ』ググッ

少女達は守られていた

娘のかざした手の先に光の壁が張られ、魔導砲を遮っている

色白娘『すまない……こんな事に巻き込んで…』

少女『そんな! そんな事言わないで!』

色白娘『いや…私一人で決着をつけるべきだったのに…二人につい甘えてしまったッ』グッ



侍「ならば…最後まで甘えてくれ」スッ

色白娘「!?」


332 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 14:53:08.65 ID:7k6XF2AO
色白の娘が落とした棒を構える

侍「大樹の神よ…お送り致します」グッ

色白娘「い…から……逃げ」ビキッ

バリィンッッ


侍「突き抜ける事―」タッ


ドォォオオオオオオッッ

少女「―」 色白娘「―」


――――ッッッズバァンッッ


侍「―光の如し」シュウウ…


333 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 15:04:15.78 ID:7k6XF2AO
魔導砲を突き破り、侍の突きは神樹に突き刺さった

樫の様な丈夫な幹は半壊し、白樺の様な白い樹皮は吹き飛んだ

桐の様に神々しい光を散らし、楓の様に葉を散らした

侍『―…』バタッ

枯れ往く神樹にもたれ倒れる侍

正に渾身の一撃だったのだろう



タタッ

少女『お兄さん!?』バッ

色白娘『大丈夫、直に目が覚めるわ』


334 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 15:09:29.57 ID:7k6XF2AO
色白娘『ごめんね、あなたのお兄さんに無理させちゃって』

謝る娘に、少女は首を横に振る

少女『無茶して心配かけるお兄さんが悪いの』

ちょっといじけた風に言う少女

侍の寝息が落ち着いてきて、少し余裕が出来たからだろう


少女『でも、これで元の森に戻るの?』

色白娘『うん、任せて』

少女『…任せる?』


335 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 15:20:44.53 ID:7k6XF2AO
色白娘『さあ! 生命を謳歌しなさい!』バッ

神樹が激しく輝き、光が森に、緑謳中に降り注ぐ

大地から芽が出て蔦が伸び、緑が広がって行く

動物が駆け回り、鳥が飛び交い、魚が川を登る

長く見なかった虫も何処彼処からか顔を出し、緑謳はその名に相応しい姿になった



少女『…すご』


336 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 15:28:29.39 ID:7k6XF2AO
色白娘『これで…終わりね』

少女『あなたは…』

色白娘改め神樹の精霊『私ね、本当は神樹の精霊だったの』

少女『じゃあ! 神樹が枯れたら…!』

神樹の精霊『うん、消えるね』

少女『どうして!? 自分を犠牲になんて…』

神樹の精霊『この森はね、私の子供みたいなものなの』

神樹の精霊『子供達の未来を切り開くのは…親として当然じゃない?』


337 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 15:44:48.64 ID:7k6XF2AO
少女『…』

神樹の精霊『そんな顔しないで、私は「みんな」のいる森が大好きなの』

神樹の精霊『命は巡り、芽吹き、咲き誇る』

少女『でも…あなたは』


神樹の精霊『だから…夢は、ここでおしまい』フッ


少女『あ…!』


『また…巡り逢いましょう』


少女『うん…うん…!』ジワッ


338 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 15:52:13.92 ID:7k6XF2AO


兵隊『…うっ』

兵隊『気が付いたか』

兵隊『俺は…』

兵隊『気を失ってたんだよ、俺もさっきまでのびてた』

兵隊『…! 神樹は!?』

スッ

兵隊は指を指した

その先には神樹が立っていた

少し傾いた神樹からは光が溢れ、緑謳中に降り注いでいた

まるで、命を燃やし、命を振り撒いているかのようで―

兵隊『綺麗だな』

兵隊『…ああ』


339 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 16:06:12.84 ID:7k6XF2AO
―ある日突然緑謳は自然に飲まれた

馬車が走りやすいように整備された石畳は草茫々

あちこちに鳥や虫が巣を作り、見張り台には猿が住み着く始末

元々蔦で覆われていた外壁も、我先にと蔦が競っているかのような伸び振りに、何処が入り口か分からない程である

森では熊を見たとの噂、夜は狼の遠吠え


国民は悲しんだ

自然に怯えて生きなければならないのか、と


340 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 16:14:53.84 ID:7k6XF2AO
ある日、緑謳に新しい仲間が加わった

『大自然の中で暮らすのが夢だった』

都会から引っ越してきた家族はそう言う

緑謳の国民は皆首を傾げた

以前の方が暮らしやすくて良かったのに…

またある日、仲間が加わった

『緑謳は素晴らしい、心が豊かになるよ』

雑草を刈りながら、引っ越してきた男は笑顔で言った

神樹が健在の頃はこんな苦労しなかったのに…

国民は皆溜め息をついた


341 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 16:25:05.13 ID:7k6XF2AO
雑草が伸びたら皆で刈り取らねばならない

家畜の体調に頭を悩ませなければならない

森は危険が伴うから皆で注意しながら歩かねばならない

作物の豊作を天気に委ねなければならない…



悩みは絶えず、快適とは程遠い生活

しかし、国民は去らなかった


342 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/08(日) 16:33:53.10 ID:7k6XF2AO
問題を解決する為に、皆知恵を出し合い力を合わせた

収穫が終われば誰からともなく宴を開き、喜びを分かち合った

苦労して作った食料に舌鼓を打ち、年々大きくなる子供達の自慢話をする


それだけで幸せだった


緑謳の発展は止まったが、廃れる事もなかったという

今も移住者は増えつつあり、収穫祭は世界一賑やかだとか


『森と大地の国 緑謳へようこそ!』



少女『いっぱい虫に刺されちゃったよ…』ポリポリ

侍『―…』ポリポリ



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