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少女『言葉が通じなくても』
858 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 12:47:21.57 ID:CNsw9UAO
……

少女『うーん、次はどっちに行こうかな』カチャカチャ
テーブルに地図を広げ、少女は考える

左手にはこの街の食料等の価格表、右手は金貨を手慰みにしている

侍『…』チクチク

一方、対面に座る侍は自分の羽織物の修繕に勤しんでいる

もう相当のボロで、充て布の方が多く見える

少女は何度も新しい服を買おうと言ったが、侍は首を横に振る

嬉しそうに縫い物をする姿を見ている少女は、あまり強くは言えなかった


859 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 13:01:02.02 ID:CNsw9UAO
西の大陸には着物が無い

洋服に抵抗があるのかも、と出来るだけ侍の着ている物に似ているのを見繕ったが、侍は静かに首を振った

倹約でも、好みの問題でも無い

侍『…』プツッ

侍の着物に対する入れ込み具合には、並々ならぬものがあるように感じた

侍『―?』

少女『…っと、いけない』

縫い物を終えて顔を上げた侍と目が合い、少女は自分の作業に戻る

じーっと見ていた事が、なんだか気恥ずかしくて、暫く考えがまとまらなかった


860 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 13:11:30.86 ID:CNsw9UAO
少女『こっちの経路だと途中に村があるけど、収穫時期前は食料が高くなるから…』カチャカチャ

少女は進路を決めかねていた

東に行く経路は途中に人里が無いが、目的地である都はそこまで遠くなく、山や渓谷も無い

北上する経路は距離が最短ではあるものの、山あり谷ありの険しい道で人里も無い

南下する経路は一番距離が長いが、途中人里がいくつかあり、進路変更が利く


少女『うーん…南に行くのが無難かなぁ』

カチャッ

少女『あっ』

少女の右手から零れた金貨が地図の上を転がって行き

侍『―』ハシ

侍に捕まった

少女『ほ…』


861 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 13:15:12.11 ID:CNsw9UAO
少女『ありがとう、お兄さん』

少女は右手を差し出した

が、侍は金貨を返さず、じっとそれを見つめていた

少女『…どうしたの?』

侍『――』

やがて、侍は金貨から地図へと視線を移し

侍『―』コトッ

金貨を地図の上に置いた

少女『んー?』


862 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 13:51:00.87 ID:CNsw9UAO
少女は思った

侍は何か「面白い事」に気付き、私にも自力で気付いて欲しいと考えている…と

侍は時折こういう事をする


侍は少女に先立って行動を起こし、模範を示すが、その挙動の意味「答え」までは与えない

人が成長するには考える事、失敗して反省する事、それらを忘れぬ事が不可欠である

故に、侍はきっかけを与え少女を導く

その中で少女は自分の答えを見つけるのだった


863 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 14:02:46.22 ID:CNsw9UAO
もう一つ、侍は少女に期待していた

それは少女に新しい何かを見せて欲しい、という事だった

少女が見つけるものは「答え」かも知れないし、「手段」かも知れない

時折、思ってもみない行動をとる少女に、侍は沢山の可能性を感じていた




少女『金貨と地図…』

少女はじっとそれらを眺めていた

一見無造作に置かれた金貨だが、もしかしたら…何か意味があるのかも知れない

それに、侍は凝視していた面が表になるよう置いたように見えた

単なる偶然ではない

少女は、侍が残した真意の輪郭をじっと見詰めた


864 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/29(水) 14:06:11.43 ID:CNsw9UAO
長めの休憩に入ります
再開未定です


865 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/29(水) 14:30:50.88 ID:rIETUyEo

>>1さんの作品が読めるのはGEPだけ!


870 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/30(木) 00:44:18.51 ID:rEmoMUAO
時間をみつけてちょろちょろ書きたいと思ってますが、予告通り31日と1月1日はVIPで北斗スレを書きたいと思います


それにしても、こんなに読者の方がいるとは…感激です


871 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/30(木) 03:56:53.74 ID:I6.DCgAo
ジャギが哀れなスレか
期待してるよ


879 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga] 投稿日:2011/01/04(火) 22:18:39.57 ID:o3cTUcAO
まず、少女は金貨に注目した

金貨は表に七つ星の絵柄、裏に貨幣価値が示されている

今、金貨は表向きなので、少女には七つ星が見えている


次に、地図に目を移した

金貨が置かれたのは、少女達のいる地点よりやや西南西の位置

金貨の下の地図には何も明記されていない

少女(七つ星……七つ星と地図に何か繋がりがあるんだ)

少女は注視する為近付けていた顔を一旦離した


行き詰まるのは一点に囚われ、全体を見渡す事ができないからである


少女はその事を知っていた

考えを一旦白紙に戻す為、少女は謎解きから頭を放し、注文したきり手をつけていなかった紅茶に舌鼓を打つのだった


880 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga] 投稿日:2011/01/04(火) 22:34:06.65 ID:o3cTUcAO
紅茶は冷めていたが美味しかった

旅を続ける少女にとって、街に滞在している期間の食事は大変貴重な娯楽である

今日も、本当はただ侍とお茶を飲むだけのつもりだったのだが

少女「貧乏性、…って言うのかな」クスッ

ゆっくりお茶を飲む筈が、いつの間にか一生懸命地図を睨み付けてる自分がいる事に、少し笑ってしまう

少女「私ってこんなに頑張り屋だったっけ」

自分の変化を改めて感じながら、少女は再び地図に目を落とした


881 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga] 投稿日:2011/01/04(火) 22:57:47.76 ID:o3cTUcAO
少女「ん…?」

パッと見て二つの映像が重なる感覚を覚えた

少女「地図の上に七つ星が浮かんだ…!」ガタッ

身を乗り出して地図を覗き込むと、南北の経路が丁度七つ星の形と重なる

少女「この金貨が無いと、星が一つ足りなくて気づかないんだ!」

人里が星となり、地図上に七つ星を描くが、そのままだと一星足りない

少女「…でも、これってこじつけ………!!」

少女は慌てて他の貨幣を一枚ずつ取り出す


882 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:17:06.95 ID:o3cTUcAO
西の大陸で流通している金属貨幣は、それぞれ星座が印されている

金貨は七つ星

銀貨は六つ星と五星

銅貨は四つ星と三つ星

星の数が多い程価値が高い、という具合になっているが


侍『―!』

少女『これって……偶然じゃないよね』


侍が金貨を置いた地点に他の貨幣を置き換えてみる

すると、六つ星と五星は星座の一星に、四つ星と三つ星は丁度中心になる


少女『決まり……かな?』ニッ

侍『―』ニッ

二人は子供のように無邪気な笑みを浮かべた


883 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga] 投稿日:2011/01/04(火) 23:22:41.76 ID:o3cTUcAO
鉤括弧が間違ってました…
すいません


886 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/05(水) 22:48:39.60 ID:fMDcTkAO
―昔むかし、あるところに、男と女がおりました

男女はそれぞれ大きな大きな……世界を分かった二国の跡取りでした

二人は毎夜毎夜、国境に会いに行き、時の許す限り星を眺めていました

二人は愛し合っていました

仁徳のある男と慈愛に満ちた女

二人の婚約を二人の国王が、世界中の民が祝福しました

星々も二人を祝福するかのように夜空いっぱいに集まり、二人を優しく照らすのでした―


887 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/05(水) 22:55:58.81 ID:fMDcTkAO
……

少女『…あれ!?』

出発から3日

西南西を目指し歩みを進める二人に、予期せぬ事態が降りかかった

少女『方位磁針が……』クルクル

針はくるくる回るばかりで一向に北を指さない

そこいらを歩き回ってみるが、収まる気配はない

少女『うー、高かったのに…』ペシペシ


『お困りかな?』


889 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:04:11.20 ID:fMDcTkAO
少女『ええ…』

老商人『どれ、見せてごらんなさい』

通りがかりの老商人に方位磁針を渡す

老商人『ふむ』ゴソッ

老商人は鞄から小さな棒を取り出すと、少女の方位磁針の針を数回撫でる

老商人『ほれ、元通りじゃ』

ピッと一点を指す針

老商人の方位磁針と比べてみても、しっかり同じ方角を指している

少女『わぁ! ありがとう!』

老商人『ホホ、四つ星一枚じゃ』

少女『……え』

老商人『冗談じゃ』


890 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/05(水) 23:19:35.56 ID:fMDcTkAO


少女『もう! 冗談キツいなぁ』

老商人『すまんすまん。つい商人魂がな』

悪びれもせず笑う老商人

いかにも場数を踏んだ商人という具合、人の良さにどこか裏がありそうであり、

老商人『まぁ、裏がありそうなのは職業病とでも思っておくれ』

そう思われるのもなれっこだった



老商人『お嬢ちゃん達はなんでこんな所に? 都ならあっちの方角じゃよ』

少女『うーん…』

西南西の経路には人里が無く、途中で北か南東に折れなければ、いつか大山脈にぶつかってしまう

狩場も湖も無く、「余程の変わり者」でなければ通らない場所だ


少女『星を見に……かな』


892 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/06(木) 00:13:18.22 ID:cSlLmgAO
老商人『!  ホッホッホ! そうかい! 星を見にかい!』

少女『そんなに笑わなくても…』

老商人『いやスマンスマン。お前さん達みたいなのには久しく会ってなかったでな』

さすがにやや反省の色を見せる老商人

老商人『お詫びに道案内をしてやろう』

少女『道案内?』

老商人『そうじゃ。お前さん達、ここに行くつもりなんじゃろ?』

老商人は鞄から地図を取り出すと、星の印を指差した

少女『そこは……?』

老商人『…星の塔じゃよ』


893 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/06(木) 01:12:43.86 ID:cSlLmgAO
少女『星の塔……』

老商人『そう。世界が一つだった頃、王と王女が星々に愛を誓った場所だそうな』

老商人『そして、その塔からはあらゆる星が見渡す事ができる』

少女『星……運命ですか?』

老商人『ホホ! お嬢ちゃんは賢いのう!』

老商人『時の王と王女は星占いで未来を見通した。あらゆる災厄から民を守り、あらゆる恩恵を民にもたらした』

少女『…』


894 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/06(木) 01:15:28.00 ID:cSlLmgAO
今日はここまでです
オチまでは考えてるので、近日中には星の塔編を終えれそうです

おやすみなさい


897 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/06(木) 23:45:30.55 ID:cSlLmgAO
老商人は適当な石に腰掛け、煙管をふかし始める

ふぅ、と紫煙を吐き出し、老商人は本を読み聞かせるように、淀み無く続けた

老商人『しかし、星々の力を使いすぎた二人は天の怒りを買い、人々は罰を下される』

少女『罰…』

老商人『虫の大群じゃ』

虫という言葉に、少女は身を強ばらせる

老商人『西風と共に赤い虫の群がやって来て、手当たり次第食い荒らして行きおった』

僅かに声を震わせながら、老商人は続ける

老商人『まるで赤い嵐のようじゃった。石以外はみんなかじられて、皮膚や髪を食われた奴もおった……』

少女『……』


少女『まるで、その場にいたみたいに言うんですね』

座り込んだ老商人に少女の影が差す


老商人『ふうーっ……、そうじゃな――』
老商人は宙に消える紫煙を虚ろな目で眺めながら、また話を始めた


898 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/06(木) 23:58:22.44 ID:cSlLmgAO
老商人『村が、街が、国が……世界が虫に飲まれた頃、王と王女は神に呼び出された。―罰が決まった、と』トンッ

老商人が煙管の火を落とす

老商人『男、お前は世界を彷徨え。永遠に、だ』

老商人『女、お前はこの塔からそれを見ているがいい。永遠に、だ』

老商人『二人は会う事を禁じられ、永遠に生き続けるという罰を与えられた』

少女『その女の人がいるのが…』

老商人『……星の塔じゃ』


900 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 00:18:58.71 ID:CVdJhQAO
少女『……』

疑問は沢山あった

老商人に訊くのは簡単だが、少女はそれをしなかった


求める答えは、きっとこの先にあるから―



老商人『よし、ここいらで食事にしよう』

老商人の後を追い、辿り着いた丘の上

三人は食事を取る事にした

少女『ねぇ、あとどれぐらいで星の塔に着くの?』

老商人『そうじゃな、日が暮れる頃かの』

老商人が鍋をかき回しながら答える

少女『って、もう西に太陽が沈み切りそうなんだけど…』


901 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 00:31:03.47 ID:CVdJhQAO
鍋が煮立つか、日が沈むか

未だ塔の影も見えぬ状況で、老商人は夜には着くと言う

空には宵の明星

間もなく夜の帳が降りるだろう

少女『あのー、こんだけ見晴らしが良くても、それらしい建物は一つも……』

侍『……』ピクッ

老商人『…到着じゃ』

少女『出来上がり、じゃなくて?』

老商人『後ろを見てみい』

少女『…後ろ?』

くるりと振り返る少女



少女『……なるほど』

そこには古い塔が静かに佇んでいた


902 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 00:43:57.75 ID:CVdJhQAO
老商人『塔は夜しか入れんぞ。早よう行きなさい』

少女『…おじいさんは?』

老商人『ワシは入れんのじゃよ』

少女『……』

どうして?

そう訊くのは簡単だ

しかし、その問いに何の意味があるのだろう


ギィィ…

侍『……』

少女『……』

導かれるように、少女と侍は塔の中へと入っていった


903 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/01/07(金) 01:08:46.52 ID:CVdJhQAO
本当は今日書ききりたいんですが、明日早いのでここまでにさせて下さい
本日もお付き合いいただきありがとうございました

やっと900かぁ…


906 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/07(金) 11:09:02.45 ID:EnY0va.o
流麗な文章を乙



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