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少女「私が……魔王?」
1 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:36:07.65 ID:Y4tf1Tbwo
以前立てていて、投下の時間が取れなくなった為にHTML化申請させていただきました同名SSの再投下となります。
完結済ですので、粛々と投下させていただきます。

前回ご覧下さっていた皆様も、今回が初の皆様も時間潰しの一つとしてお楽しみいただければと思います。

長さはWord文章にして約85ページ。本日中に全てを投下できないと思われますので、2〜3回にわけて投下いたします。
厨2病成分山盛り、構成ぐちゃぐちゃなヘタレの作品ですが、どうぞお納め下さい。(土下座)


2 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [sage] 投稿日:2011/03/28(月) 23:38:45.25 ID:Y4tf1Tbwo

― 20XX年 冬 ―

少女「おはよー」

少女友「はよー。今日も遅刻ギリギリだねぇ」

少女「あははー、目覚まし時計さんが何かご機嫌ナナメでさ」

少女友「それ、昨日も言ってたよね」

少女「えー、そうだっけ?」

少年「おう、おはよう」

少女「あ、少年君。おはよう」

少年「ほら、これ。おばさんから預かってきたぞ」

少女「お弁当箱……って私の!?」ゴソゴソ

少女「ホントだ、入れてなかった」

少女友「ドジっ娘スキル発動だね」ニシシ

少年「ったくよ、週に2回はお前の弁当配達要員にされてるんだぞ」ペチ

少女「ごめーん」エヘ

少年友「なんだなんだ、我がクラスの夫婦は今日も朝から夫婦漫才か?」

少年「んなっ、そ、そんなんじゃねぇよ!!」

少女「あはは」



 これが、私の日常でした。


 これが、平和な日常でした。


 これが……私が持っている、最後の……



 日 常 で し た 。


3 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [sage] 投稿日:2011/03/28(月) 23:39:52.42 ID:Y4tf1Tbwo

レポーター『私は今、富士山麓に突如として現れた謎の巨大洞穴に来ています』


 事の始まりはあの日の夜。いつも通りに学校が終わって、いつも通りにバトン部に行って、いつも通りに来年の受験に備えて塾に行って、いつも通りに帰宅してご飯を食べている時に見たニュース番組でした。


レポーター『一昨日起こった地震の後に発見されたというこの洞穴。当初は世界大戦時に作られた秘密の研究所跡という説もありましたが、どうやら自然に出来た物らしいと本日政府より発表がありました。我々取材陣にも許可が下り、今、こうして洞穴前に来ております』

少女母「怖いわねぇ」

少女父「そうか? 僕なんかは大昔にやってた○口ヒロシ探検隊を思い出すよ」

レポーター『穴内部はまだ調査が進んでいない為入り口のみの取材という事ですが』

少女「あれ?」

少女母「どうしたの?」

少女「ん……何かヘンなのが見えたような」

少女父「洞穴から湧き出てきた地底人かもしれないぞぉ?」

少女「もう、そんなの信じるようなコドモじゃないもん!」プクー

少女父「はっはっは。それで、何が見えたんだい?」

少女「うーん……よくわかんない。ただ、なんとなく何かが『視えた』気がしただけだから」

少女母「『お勉強』のしすぎかしらねぇ? この前のテストの結果、聞いたわよ」

少女「はぅ……」

少女父「五教科平均が79点、か。もう少しだけがんばろうな」

少女「はぁーい」

少女母「今日は宿題はないの?」

少女「塾で片付けちゃった。あとは予習と復習だけ」

少女父「おぉ、偉いぞ。ご褒美に次の日曜日は好きな所に連れて行ってやろう」

少女「ホント!? あのね、あのねっ、私、春物のお洋服が欲しいなーって」

少女母「この子には本当に甘いんだから……」


 父との約束は結局果たされませんでした。

 私が『視た』のは気のせいなんかじゃなくて、なんだろうって思ったのは私が知らない得体の知れない『ナニカ』で、その『ナニカ』と私はその翌日に、出会う事になっていました。


4 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:41:04.10 ID:Y4tf1Tbwo

レポーター『はここで、○○大学教授の説明を……きゃああああああっ!!??』

少女「ふぇ?」

少女母「?」

少女父「ん?」

レポーター『な、何、何なの!?』

クルー「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

クルー「なんだこいつは!?」

少女父「何が起こってるんだ?」

少女母「少女、見ちゃ駄目っ!」ガバッ

少女「っ!?」


 ほんの一瞬、テレビに映し出されたのは見たこともない異形の怪物としか言いようのない『ナニカ』で……


ニュースキャスター『中継が途切れてしまったようです。ここで一旦CMです』

少女父「何だ、今のは……」

少女母「暴漢なのかしら」

少女父「わからん。血が噴き出していたように見えたが」

少女母「あなた、少女の前ですよ!」

少女父「いや、すまない。大丈夫か?」

少女「……」


 両親は見逃していたのでしょうか。それとも『視え』なかったのでしょうか。私には、私には『視え』てしまったのです。

 『ナニカ』が、テレビ局の人を頭から……


5 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:42:06.32 ID:Y4tf1Tbwo

少女母「きっと何かのイタズラよ。少女、大丈夫?」

少女「う、うん……ご馳走様」カタン

少女父「真っ青だぞ。本当に大丈夫か?」

少女「……」

少女母「今日はお母さんと一緒に寝ましょう。一人だと怖いんじゃない?」

少女「ううん、本当に大丈夫。少しびっくりしちゃっただけだから……」

少女父「無理するなよ。眠れなかったらすぐにお父さん達の部屋に来るんだぞ」

少女「うん。宿題、してくるね」

少女母「お風呂すぐに入れるわよ」

少女「あとでいいっ」タタタタ

少女母「あ、ちょっと、少女っ」

少女「何アレ、何なのアレ!?」バタン

少女(レポーターさんが頭から食べられてた!? 血がすごくて、血が、血がっ)

Prrrrrr

少女「きゃぅっ!?」

Prrrrrr

少女「携帯電話……びっくりしたぁ。少年君? はい、もしもし」ピッ

少年『テレビ見たか!?』

少女「う、うん……」

少年『最後まで?』

少女「見た……と、思うんだけど」

少年『何か怪物みたいなの、居た……よ、な?』

少女「っ」

少年『うん、わかった。思い出すな。変な事聞いてゴメン』

少女「でも、お父さんもお母さんも見てなかったみたいで……」

少年『俺んトコもだ。親父も母さんも一緒に見てたはずなのに怪物みたいなのは見えてなかったみたいなんだよ』

少女「レポーターさんが、血がぶしゅーって、頭からっ、ひっく……」グスグス

少年『今から、そっち行っていいか?』

少女「う、うん」

少年『すぐ行く』プツッ


6 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:43:32.56 ID:Y4tf1Tbwo

コンコン

少年『俺だ』

少女「あ、うん。窓開けるね」ガラガラ

少年「大丈夫か?」

少女「ふぇっ、ふぇぇぇぇぇ」ギュー

少年「なっ、ちょっ、おまっ」

少女「何なの? 何なのアレ!?」

少年「声っ、声おっきいよ。中2にもなってこんな事してるってバレたら大目玉だぞ」

少女「ふぅぅぅぅ」グスグス

少年「……」ナデナデ

少女「……失礼いたしました」

少年「まぁ、いいよ。柔らかかったし」ボソッ

少女「ふぇ?」

少年「なんでもないなんでもない。落ち着いたか?」

少女「うん、なんとか。でも、アレって一体何なんだろ?」

少年「わっかんね。でも、ゲームとかに出てくるモンスターみたいな雰囲気だったよな」

少女「言われてみればそうだね。ド○クエとか?」

少年「どっちかーってーともうちょっとリアルな女○転○みたいな感じか?」

少女「それ、わかんないよ」

少年「お前、怖いからヤダってプレイしなかったもんな」

少女「だって貸してくれる前に散々怖いお話してたじゃんっ! プログラミングする時にどーのこーのとかっ」

少年「あんなの冗談だよ。ネットで拾っただけなんだからさ」

少女「私が怖いの苦手って知ってるでしょー」プンスカ

少年「あはははは」

少女「だいじょうぶ……だよね?」

少年「だと思うよ。もし仮にモンスターみたいな未知の動物とかだったとしても、警察だって自衛隊だっているんだからさ。モンスターに戦車砲ぶちかませば勝てるって」ニカッ

少女「うん……」


7 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:44:19.06 ID:Y4tf1Tbwo

少年「クラスの奴等にもメールしてるんだけど、みんな見てないとか見えなかったとかばっかりなんだよなぁ」

少女「ってそれって、私と……」

少年「俺にしか見えてない、ってコトっぽいな。今のところ。ワンセグでニュースの続きチェックしてるけど、何もなかったかのように次のニュース流してる」

少女「どういう……」

少年「単なる放送事故か、」

少女「……」キュッ

少年「……なんでもないよ。きっと幻だったんだよ」

少女「私たちだけ?」

少年「そういう偶然があるかもしれないだろ」

少女「うーん……あるのかな?」

少年「千分の一、万分の一の確率でしか起こらないコトは最初の一回目で起こったりするモンらしいぜ」

少女「ほぇー」

少年「それはそうと、頼みがあるんだけど」ズィッ

少女「へ?」ドキッ

少年「あ、あの、さ……」

少女「ふぇっ? ふぇぇぇっ!?」ドキドキドキ

少年「宿題見せて下さい!」コノトーリ

少女「……バカ」

少年「バカって言ったか!?」

少女「バーカバーカ!」

少年「なんだとぉっ!?」

少女「あはははは」

少女母「あんた達ねぇ……」

少年少女「……」チーン


8 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:45:29.31 ID:Y4tf1Tbwo

― 深夜 ―


少女「くぅ……くぅ」Zzzz

少女「ん……んぅ」

ヒソ ヒソ

少女「くぅー……」

ヒソヒソヒソ

少女「んー」ゴロリ

ピタッ

少女「くぅ……」Zzzz

ヒソヒソ

少女「んー、うるさぁぃ」

ピタッ

少女「ラジオつけっぱなしだったのかな……」ムクリ

少女「えっと、ラジオラジオ……」ムニャ

?「こんばんは、お嬢様」

少女「ふぁ、こ、こんばんは……?」

?「お迎えに上がりました」

少女「おむかえ……?」

?「はい」

少女「誰を?」ボケー

?「貴女様でございます」

少女「なんで?」

?「我々の主となっていただく為に」

少女「あるじ? ある……じ……!? 誰っ!?」

?「申し遅れました。私、貴女様の忠実なる下僕が一人、吸血鬼と申します。以後、お見知りおきを」スッ

少女「あ、わざわざありがとうございま……って誰!?」

吸血鬼「貴女様の下僕でございます」

少女「わ、私の……?」

吸血鬼「はい」

少女「すみません、ワケがわかりません」

吸血鬼「混乱なさっておられるのですね。不思議な事ではございません。貴女様からすれば唐突な出来事なのですから。しかし、我々魔族にとっては待ちに待った日なのでございます」

少女「まぞく? ど、どうして……ですか?」

吸血鬼「私のような下僕に敬語などお止め下さい。おっと、ご説明が先でしたね。貴女様は我々魔族を統べる王となるお方。魔王様なのです」

少女「……私が……魔王!?」


 こうして、本当に軽いノリで、何の事でも無さそうに私の日常は破壊されてしまいました。


9 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:46:28.93 ID:Y4tf1Tbwo

― ? ―

?「とりあえず運んでみたものの……獣王、どう思う」

?「吸血鬼よ、この方が本当に魔王様なのか?」

?「それは間違いありませんよ。この魔力波動、間違えようがありません。竜王も海王も、そして獣王、貴方もそれはわかっているのでしょう?」

?「むむ、それは確かにそうだが」

?「となると、魔王様の対となる勇者も復活している、という事だな」

?「既に目星は付いてあります。現在斥候達に魔力波動を確認させていますから数時間以内にはわかるでしょう」

少女「ん……」モゾ

?「お目覚めになるぞ」

少女「あ、あれ、ここは……?」ムクリ

吸血鬼「お目覚めでしょうか、魔王様」フカブカ

獣王「ご復活おめでとうございます」

海王「魔王様のお帰りをお待ちしておりました」

竜王「これほどまでに喜ばしい事はございません」

少女「……」

一同「?」

少女「ば」

吸血鬼「む、これはいけません」

竜王「どうした?」

少女「ばけ……もの」パタンキュー

獣王「おい、また気絶したぞ」

吸血鬼「まだ魔王様としての記憶が戻っておられないのです。ショックが大きかったのでしょうね」

海王「人間から見れば化物、だものな」シュン

竜王「そうショゲるな」ポンポン

吸血鬼「止むを得ないですね。メイド長、居ますか?」

メイド長「こちらに」シズシズ

吸血鬼「魔王様の介抱をお願いしても良いですか?」

メイド長「魔王様のお世話をする事こそ私の仕事。そして喜びです」

竜王「まだ記憶が戻っておられずに混乱しておられる。その辺に注意してくれ」

メイド長「承知いたしました」

獣王「俺達はしばらく席を外したほうが良さそうだな」

海王「また気絶されたらこっちがショック死しそうだ」

竜王「はっはっは。それもそうだな」

吸血鬼「幸いにもメイド長は元人間ですから問題ないでしょう」

メイド「お任せください」ニコッ


10 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:47:55.45 ID:Y4tf1Tbwo

― 寝室 ―


少女「うーん……ばけものこわいよぅ」ムニャムニャ

メイド長「うなされておいでですね」ナデナデ

少女「ん、えへへへ」ニコッ

メイド長「あらあらこれは可愛らしい。それにしても、このような年端もいかない少女が魔王様とは、因果なものですね」

少女「んぅ……あれ、夢?」パチクリ

メイド長「お目覚めですか?」ニコッ

少女「えっと、どちら様でしょうか?」

メイド長「私はメイドを統括するメイド長と申します。魔王様の身辺をお世話する命を仰せつかっております」

少女「夢じゃなかった……」ズーン

メイド長「混乱なさるのは無理もありません。お飲み物をご用意いたしましょう。紅茶でよろしいですか?」

少女「あ、はい。お願いします」

メイド長「お砂糖とミルクたっぷりですよね?」

少女「ふぇ? なんで……?」

メイド長「ふふふ。魔王様の事は何でも知っておりますから」ニコッ

少女(綺麗な人だなぁ……)

少女「じゃなくてっ! ここ、どこなんですか?」

メイド長「魔界と呼ばれる世界の中心、魔王城でございます」

少女「まかい? まおうじょう?」

メイド長「我々魔族が棲む世界ですわ。魔王城はその中心に聳え立つ難攻不落の魔王様の居城でございます」

少女「すみませんぜんぜんわかりません」

メイド長「時間をかけてゆっくりと理解して下されば良いかと思われます。ご記憶も次第に戻られるでしょうし。はい、紅茶が入りました」カチャ

少女「わ、良い香り……」

メイド長「人型魔族が魔王様の為に栽培した極上の茶葉でございます」

少女「ほぇー。まおうって偉いんですね」

メイド長「魔王様は魔族の頂点に君臨する絶対的支配者様ですからね」

少女「王様なんですねぇ。それで、その魔王様っていうのはどちらに?」

メイド長「貴女様でございます」

少女「そう言えば吸血鬼さんがそんな事を言ってたような」

メイド長「はい。魔王様に付き従う4つの王が一人ですね」

少女「他の王様っていうと、さっきの……えっと」

メイド長「はい。魔王様が化け物とおっしゃった者達ですね」

少女「びっくりして思わずあんな事言っちゃった……あとで謝らなきゃ」

メイド長「吸血鬼が人型魔族と呼ばれる人間に近い姿をした魔族を統べる王。獣王が動物型魔族を統べる王。海王が海棲生物の王。竜王が竜型魔族を統べる王となっております」

少女「その四王さんのさらに上司さんが」

メイド長「魔王様、貴女でございます」

少女「ぁぅ……」


11 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:50:10.83 ID:Y4tf1Tbwo

メイド長「魔王様は記憶を失ってしまっておられますので、私がサポートさせていただきます。もちろん、四王が貴女様の下僕なのは変わりません」

少女「なんで……なんで私が魔王なんですか?」

メイド長「先代魔王様は勇者との戦いに敗れ、人間世界征服の志半ばで倒れました。しかし、その魂は不滅でございます。魔王様の魂は器となる者を探して両世界を彷徨い、今、貴女様の裡に在るのです」

少女「私の……中に?」キュッ

メイド長「私達はその魂を探し、ついに貴女様を見つけ出したのでございます。しかし、人間界との接続点は先代勇者により閉ざされてしまっておりましたので、その封印を解く事から始まりました」

少女「それが、富士山に開いた洞穴?」

メイド長「フジサン……あぁ、人間界ではそう呼ばれているのでしたね。そうなります」

少女「じゃあ、あのレポーターさんが襲われたのってやっぱり現実?」

メイド長「接続点が開いた時に斥候を放ちましたので、その際に血気に逸った者が暴走したようです」

少女「魔族は人間の敵、なの?」

メイド長「天敵と言ったほうが正しいかと思われます。人間は魔族の家畜のようなもの。魔族こそ世界を統べるに相応しいのでございます」

少女「……」

メイド長「今の魔王様には少し辛いお話でしたね。申し訳ございません」

少女「……人間界に出た魔族を、呼び戻す事は可能ですか?」

メイド長「できますが……?」

少女「全員戻してください」

メイド長「申し訳ございませんが、理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか? 斥候を呼び戻すということは、勇者を含め人間共を殲滅させるのが遅れてしまう事になりかねません」

少女「魔族は人間を殺しちゃうんでしょ? 私の家族やお友達、みんないなくなっちゃうなんてダメ!」

メイド長「……お気持ちはわかなくはありません。ですが、魔王様は魔王様でございます。我々魔族を率いて人間共を絶望の底に叩き込み、世界を統べなくてはなりません」

少女「そんなのいらないよ……私は、いつも通りの平和な日常が良いよ……」グスグス

メイド長「急な環境の変化にお気持ちがついていかないのですね」ナデナデ

少女「帰りたいよぅ……お家に帰してよ……」

メイド長「勇者も目覚めたであろう今、急がねばならないのですが」

少女「ゆう、しゃ?」

メイド長「はい。我々魔族の仇敵。人間の身でありながら魔族と戦う力を持つ者でございます」

少女「ほぇ……」

メイド長「ついでに申し上げますと、魔王様の幼馴染である少年が勇者です」

少女「へ? 少年君が?」

メイド長「先程ですが、勇者の魂を持つ者と確認されたとの報告がございました。現在吸血鬼が向かっております」

少女「ま、待って。向かってって、何かするの?」

メイド長「当然の事ながら、覚醒し、成長する前に抹殺いたします」

少女「だ、だめーっ!!」

獣王「なんだなんだ」

海王「魔王様に何かあったのか!?」

竜王「メイド長、どうした!?」

少女「ひゃぅっ」ギュッ

メイド長「そんなに怖がらなくてもよろしいのですよ。貴女様の下僕達でございます」ナデナデ

獣王「メイド長、何があったんだ?」

メイド長「それが、勇者討伐について魔王様が反対なさって……」


12 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:51:50.56 ID:Y4tf1Tbwo

少女「そ、そうだっ。少年君に手を出しちゃだめっ!」

竜王「ですが魔王様、あ奴は我等の仇敵。成長する前に殺しておきませんと、必ずや我々、いや、魔王様にまで害を及ぼします」

少女「でも、少年君はダメっ!」アセアセ

メイド長「魔王様は勇者に対して恋心を抱いておられるのですね」

少女「そそそそそそそそそんなのじゃなくてっ」アワワワ

海王「わかりやすいな、おい」

獣王「前勇者の野郎、ここまで計画してやがったな」

竜王「その可能性は高いだろう。狡猾な男だったからな」

メイド長「ですが、吸血鬼が既に向かっておりますので、呼び戻す事は……」

少女「うぅぅぅぅ……でも、ダメなのっ!!」ビリビリビリ

獣王「うぉっ!」

竜王「ぐっ」

海王「なんて強い波動……」

メイド長「っ」ドサッ

少女「メイド長さん!?」

獣王「魔王様の波動をモロに浴びて失神しちまったんでさ」

少女「そんな……」

海王「魔王様としてのお力が少しずつお戻りになっているのですね。喜ばしい事です」

少女「ヤだ……」

竜王「記憶が戻るのもそう遠くなさそうですね」

少女「ヤだよぅ。お家に帰りたいよぅ……」

メイド長「う……」

獣王「おう、気づいたか。大丈夫か?」

メイド長「油断していました」

少女「メイド長さん大丈夫ですか? ごめんなさい」

メイド長「お気になさらないでください。魔王様にお力が戻っているのは良い兆候ですから」ニコッ

少女「うー、と、とりあえず、吸血鬼さんに連絡を取ってください」

海王「とはいえ、その方法がありません」

少女「携帯とかは?」

獣王「ケータイって何だ?」

竜王「魔法の一種なのか?」

少女「えっと、メールとか?」

海皇「メールというと、手紙でしょうか?」

少女「うわぁ、色々違うんだ……えっと、すぐに連絡を取る方法は本当にないんですか?」

メイド長「前魔王様は念話を使っておられましたが」

少女「念話?」

竜王「魔力波動を利用して遠く離れた者と連絡を取る手段なのですが、離れれば離れる程消費する魔力が多くなるので、魔王様にしか使えない術とも言われております」

少女「どうやるんですか?」

獣王「どうやる、ってなぁ」ポリポリ


13 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:53:16.72 ID:Y4tf1Tbwo

メイド長「魔王様しか使っておられませんでしたので、私達には……」

少女「そんなぁ……」

海王「とりあえず頭の中で呼びかけてみてはいかがでしょう?」

少女「呼びかける……」

少女(吸血鬼さん、聞こえますか?)

吸血鬼『ま、魔王様! もう念話までお使いに……これ程嬉しい事はございません』

少女「通じたっ」スゴーイ

メイド長「おめでとうございます」ニコニコ

吸血鬼『私めに何か御用でしょうか? 間もなく勇者が住む場所に到着いたしますので、半日以内には彼奴の首を魔王様に献上出来るかと』

少女(ダメっ!)

吸血鬼『はて、これは奇な事をおっしゃる。勇者は我々の敵。成長していない今の内に倒すのが得策かと思われますが』

少女(少年君に手を出しちゃダメッ!)

吸血鬼『……なるほど。承知いたしました。全て理解いたしました。魔王様と勇者の関係を失念しておりました。ですが、これに関しては魔王様のご命とはいえ訊くわけには参りません』

少女(どうしてっ!?)

吸血鬼『メイド長や他の王達からも説明があったと思いますが、勇者は我々を倒す事のできる人間。成長してしまえば危険な存在になります。ですから、成長していない今の間に倒すべきなのです』

少女(そんなのわかんないよ! 少年君を殺すなんて絶対ダメッ)

吸血鬼『魔王様……貴女様は魔族を、魔界を、ひいては全世界をも統べる王なのです。そこを理解して……』

少女(絶対ダメっ!)ゴゥッ

メイド長「これは……」

海王「なんて魔力だ」

獣王「前魔王様と比べても遜色ねぇ。いや、それ以上だ」

竜王「束縛呪と見える」

吸血鬼『ぐっ!? ま、魔王様、何を!?』

少女(ダメったらダメっ! 少年君を殺すなんて絶対に許さない!!)

吸血鬼『ぐぁぁぁぁぁっ』

獣王「この魔力、やべぇ。メイド長」

メイド長「魔王様、落ち着いて下さい。このままですと吸血鬼の身体が引きちぎられてしまいます!」

少女「ふぇっ?」シュゥゥ

吸血鬼『ぐふっ……承知いたしました。今日のところは引き返します』

竜王「束縛呪で吸血鬼の身体を縛ったのですよ。あれだけの魔力から考えると、人間界に居たとはいえ、吸血鬼の四肢は引きちぎられる寸前だったでしょう」

少女「そう……なの?」

海王「あれ程の魔力、吸血鬼でなければ耐える事もできなかったかと」

少女(吸血鬼さん、大丈夫ですか!? ごめんなさい。私、カっとなっちゃって……)フォンッ

吸血鬼『これは……癒しの光。ありがとうございます。私のような下僕にお心遣いいただけるとは』

メイド長「癒しの光ですね。魔王様のお心優しさが我々にも伝わってまいります」

獣王「光を見てるだけでも心が癒されるな」

竜王「見てください。魔界の民が声を挙げています」

海王「魔王様の再来を喜んでおりますよ」

少女「?」

メイド長「こちらのバルコニーに」スッ



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