■戻る■ 下へ
少女『言葉が通じなくても』
672 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/05(日) 00:49:44.11 ID:UixtiEAO
少女『村を目の前にして金貨一枚に銀貨二枚。フフ、今回は余裕だったね!』

旅を続ける内に、少女は知恵を付けた

保存の利く物を買い溜めても、栄養に偏りが出てかえって力が出ないこと

水はあまり買わず、水場を進路に組み込むこと

そして方位磁針という便利な物があるということ

少女『完璧だわ! 順調すぎて怖いくらい!』

侍『…』フッ

少々興奮気味の少女を見守る侍も、彼女と同じく喜びを感じていた

それは少女の成長

見聞き感じ、試行錯誤し、計画、行動…そして反省するの繰り返しから確実に経験を積んでいる事だった


673 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/05(日) 00:57:12.82 ID:UixtiEAO


少女『ごめんください』



少女『あのー、すみませーん』



少女『留守かな?』


宿屋に到着し、早速手続きをしようと人を呼ぶが出てこない

次で駄目なら出直そうと決め、一番大きな声を出す

少女『すいま』

店主『すいません! お待たせしました』
少女『っ どうも』


674 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/05(日) 01:39:57.89 ID:UixtiEAO
店主『ご宿泊ですか?』

少女『はい、二名で』

店主『畏まりました。ではお部屋に…』

少女『あ、お昼食べてないから、できれば早めに晩ごはん取りたいんですけど』

店主『わかりました。準備致します』




店主『こんな物しか出せなくて申し訳ありません…』

少女『いえ』

少女達の目の前には小さなパンと煮豆のスープが並んでいる

侍と少女は手を合わせると、質素な夕飯に手をつけた


675 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/05(日) 01:48:34.37 ID:UixtiEAO
少女達は薄々感づいていた

この宿屋には調度品の類が見られない

それだけでなく、客室にはベッドの他は燭台しか無く、絨毯も無い

清掃は行き届いているものの、これでは旅客は寄り付かない

それは店主も重々承知だろう

承知の上で切り捨てたのだ

何らかの理由で金が必要になり、順番に処分していったが足りず、遂に食事代にまで影響したのだろう


676 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/05(日) 01:58:33.40 ID:UixtiEAO
少女『…スッ』

塩味が豆の味を引き立てている旨いスープだ

店主が何とか客をもてなそうと、精一杯努力したのが感じられた

少女『…』

店主『…宜しければこれもどうぞ』

少女『あ、はい』

そう言って山菜の炒め物を勧める店主

少女『…! これ、ご主人の分じゃ!』

店主『いえ! 私にはちゃんと別に…』

店主『…』

少女『…何があったんですか?』


677 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/05(日) 02:07:30.36 ID:UixtiEAO
=御下の村=

村には神が居た

あらゆる災厄から人々を守る、いわゆる守護神だった

人々は感謝し、心から崇め奉った

神もまた人々を愛でよく働いた



そんな村にも戦争の火が回ってきた


678 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/05(日) 02:14:33.39 ID:UixtiEAO
神に護られた村に、軍隊は攻めて来れなかった

しかし、徴兵令から村人を護る事はできなかった

戦争は長引き、男達は次々戦場へと発っていった

ふと、残された者の一人が言った

「神が敵を滅ぼしてくれればいいのに」

もう止まらなかった

堰を切ったように神への的外れな不満が溢れ、村中渦巻いた


679 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 02:58:26.01 ID:C/hld.AO
神は嘆いた

なんと身勝手な奴らなのかと嘆いた

今までこんな奴らを護ってきたのかと嘆いた

そして、失望しても村人を護るしかない己を嘆いた


神の嘆きが昼夜を問わず響き渡り、村人達はようやく間違いに気付いた

しかし気付くのが少し遅かった

神の心は村人から離れ、それまで要求した事もなかった供物を求めた


村人は要求に応えた

村の安全の為ではなく、本当に申し訳ないと思っていたから―


680 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 03:16:43.62 ID:C/hld.AO


少女『はぁ…』

村の貧しい理由を聞いた少女は、ため息をついた

予想の斜め上を行く理由に、少女は案を練っては破棄しを繰り返していた

今度の問題は倒した何だの問題じゃない

神と村人を仲直りさせるのが目的だ

少女『どうしたらいいんだろ…』


681 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 03:37:28.61 ID:C/hld.AO
侍『…』

村の様子を見た侍は心でため息をついた

その原因は少女の事であった

先程からため息ばかりついている彼女は、また何か壁に直面しているのだろう

その壁が何なのか、言葉が通じないが為にわからない

力になりたくとも叶わない歯がゆさ故にため息をついた


侍『…』

侍はまた心でため息をついた

その原因は村人の事であった

老若男女、身分問わず、最低限の生活をしている人々

災害でも起きれば一飲みにされてしまうであろう、儚い存在

侍は彼らに昔の自分を、戦時中の祖国を、あるいは出会った頃の少女を重ねていた

そしてフツフツと、哀しみと怒りが湧いてくるのを感じていた


683 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 11:19:45.96 ID:C/hld.AO
やがて村の出口に男が数名集まった

それぞれ籠を背負い、手には杖を持っている

少女『山登りですか?』

男『ああ、守り神様に月のお供えを…ね』

男はそう言って籠の中を見せた

村の貧困具合に不釣り合いな織物が3本程入っていた

他の男達の籠にも祝いの席にしか出ないような食材、酒等が入っていた

少女『これを毎月ですか!?』

男『ああ、これは我々の償いだからね…』


684 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 11:29:24.50 ID:C/hld.AO
少女『…償い?』

少女はその言葉を耳にした瞬間、体中の血液が燃えるのを感じた

そして感じるより先に男達に食って掛かっていた

少女『償いって何よ! 本当に許して欲しいんなら一生懸命謝るのよ! こんな物で機嫌を取ろうなんて、馬鹿にしてるの!?』

怒った

怒りで体が震えた

怒りで涙が出てきた

怒りに身を任せた悔しさで拳を握り締めた


685 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 11:36:02.86 ID:C/hld.AO
少女の怒りに気圧された男は、胸倉を掴まれているにも関わらず身動きが取れなかった

他の男達も少女の言葉が胸に渦巻き、ただただうなだれるだけだった

少女『…っ』グシッ

少女『…乱暴してごめんなさい』

男『いや…』



侍『…』

侍は始終を見守った

無論、言葉の不自由から見に回った部分もある

が、それでも事の善し悪しは判別できるつもりである

侍は始終を見守った

少女が何に対して怒り、涙したのか知っているからだ


687 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 11:49:09.08 ID:C/hld.AO
男『俺、謝りに行くよ…!』

少女『!』

沈黙を破り、一人の男が言った

男『お、俺も!』

少女『みんな…!』

少女は沈黙が破られるまで内心後悔していた

怒りにまかせた物言いでは、事態は好転しないと思ったからだ

しかし心は通じた

侍『…』ポン

少女『お兄さん…』

侍『…―』コク


688 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 11:57:32.81 ID:C/hld.AO
少女『待って』

男『え?』

少女『仲直りするには、まだ足りないことがあるわ』

男『足りないこと?』

少女『謝罪を受け入れる側の態度よ』

男『いや、それは…』

少女『神さまだって本当は仲直りしたい筈。だったらお互い素直にならなきゃ』

男『でも…』

少女『大丈夫! 私達がちゃんと神さま連れて来ますから!』

少し目元が赤くなった少女は、男達に笑いかけた

その笑顔を見た男達は、不思議と少女を信じたくなった


689 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 12:02:55.78 ID:C/hld.AO
女『何を騒いでたんだい?』

少女と侍が山に向かって暫く、少女とのやり取りを遠目に見ていた村人が集まってきた

老人『そろそろ供物を持って行く時間じゃろ』

男『…』



男『なぁ、お供えは止めようや…』

女『は!?』

老人『馬鹿言うでない! これは我々の謝罪の徴…』

男『こんなの持って行っても失礼なだけだろ』

婆『どういうことじゃ…?』


690 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/06(月) 12:08:30.40 ID:C/hld.AO
男『神さまが何にお怒りなのか、もう一度ちゃんと考えてみたんだ』

男『神さまは…きっと俺達にちゃんと謝ってほしかったんだ』

男『それをお供えなんかでごまかして…』

女『…』

老人『…』

婆『…なる程』


男『…あの旅の方々が神さまと話をつけて、連れてきてくれるらしい』

女『はぁ!?』

男『気持ちは分かる、でもあの方々は…俺達に出来ない事をしてくれる気がするんだ』


691 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/07(火) 19:52:04.22 ID:iL.w.360
挿絵が欲しいな
漫画なら最高


692 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/07(火) 19:57:40.32 ID:cCfrDgso
いや、切り絵か影絵だろ


693 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/07(火) 20:04:17.94 ID:5C6j4Voo
そこまで高尚なものでもねーよww
漫画絵が合ってる


694 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/07(火) 20:39:52.19 ID:iL.w.360
>>692>>693
たまーに入る御伽噺的描写は影絵もいいと思った
でも書き方が漫画のカット事っぽいから漫画になると面白いかな


695 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/07(火) 20:47:58.56 ID:N4Hl1VYo
なんだろうキノ思い出した


696 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 07:42:28.01 ID:Es/70sAO


少女『すみませーん』


少女『…あれ? 居ないのかな』

村を出て半日、二人は守り神の居るという祠に着いた

少女は勢いをそのままに、勇み足で祠に入った

が、神は出てこない


少女『留守…って事はあるのかな』


697 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 07:50:39.62 ID:Es/70sAO
少女『待つしかないのかな…って、お兄さん?』

侍『…』

少女が祠から出ると侍が正座をしていた

背筋を伸ばし、顎を引いた姿は何か神々しい雰囲気を纏っていた

少女『…』

少女は一瞬見とれた

ただ座っているだけだというのに、人を惹きつけるその姿は、清浄な白とも鮮やかな虹ともつかない魅力……透き通る「無」であった



698 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 08:00:01.49 ID:Es/70sAO
侍の意図はわからない

わからないが、少女は侍に倣い正座をした

それは「お兄さんがやる事だから正しい」という短絡的な考えではなく、心から「そうするべきだ」と思った、感じたから起こした行動だった



二人並んで祠の前に座る

目は閉じ、心を静める


少女は不思議な感覚を覚えた

目を閉じているにも関わらず、周囲の…揺れ動く草木の様子や、山頂から見下ろしたような鮮明な麓の景色が浮かんできた


699 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 08:07:04.04 ID:Es/70sAO
しかし、少女はそれに驚いたりはしなかった

自分に流れ込む感覚を自然に受け入れ、手放す

少女もまた無となっていた


無の中で少女は感じた

侍の呼吸と心音…「そこに在る」侍という人を

侍「…」

少女「…」



二人の二拝二拍が寸分違わず重なった


700 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 08:24:10.40 ID:Es/70sAO
ザワ…

少女『!』

空気が変わった

祠の敷地だけが世界か切り取られたような感覚

それは―かつて神樹を目の前にした時に感じたものに似ていた


少女『…神さま、そこに居るんですか?』

返事はない


少女『話があります。聞いて下さい』


702 名前:三日目東R59Aがお送りします [] 投稿日:2010/12/10(金) 08:51:13.47 ID:Es/70sAO
期間が開きがちですみません、1です

長々となってしまった武闘大会編も無事終えれてほっとしてます
謎掛けみたいなのやってみたかったんで挑戦したんですが…微妙ですかね?

やっと侍に刀を持たせれたので、とりあえず目標クリアです


スレもようやっと700まで来たので、この調子で1000、次スレへいけるよう頑張ります


703 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/10(金) 09:23:57.40 ID:bRXvFm.o
超がんばれ、終わりまでずっと見るよ!


704 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 16:32:55.46 ID:Es/70sAO
>>703
かなり長々続けるつもりですがご愛読頂ければ幸いです
マンネリ化しないよう奮励努力しますので是非ともお付き合い下さい


又、物語の品質向上の為、皆様の忌憚ない意見、ダメ出しを大歓迎しております
言い回し等についても指摘があれば、都度ご指摘下さい


705 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 16:44:30.66 ID:Es/70sAO
少女『村のみんなが神さまに謝りたいって言ってます。一緒に来てくれませんか?』
返事はない

枝葉がサワサワと揺れただけ―

少女『神さまだって同じ気持ちの筈です。仲直りしたいんですよね?』

返事はない

祠の屋根に止まっていた鳥が飛び立っただけ―

少女『村のみんなも臆病になってただけなんです。嫌われたくない…面と向かうのが怖い…それだけなんです』

返事はない

向かい風が少し勢いを増しただけ―


706 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 17:01:15.58 ID:Es/70sAO
少女『…』

返事はない

周辺の木々の葉が一気に散っただけ―

少女『…いつまでいじけているんですか』

少女『傷付いたからって、他人に迷惑かけていいとでも思ってるんですか』

返事はない

ない…が、一陣の風が少女を襲った


―チャキン


突風が少女を吹き飛ばす事はなかった

侍「…この娘には指一本触れさせぬ」ザッ

風を斬る刃に阻まれたからだ


相変わらず返事はない

代わりに天は荒れ、地が揺れた―


707 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 17:50:48.96 ID:Es/70sAO
一瞬にして景色が変わった

祠は風が吹き荒れ、雷が轟き、大地が揺れ動く魔境と化した


雨が ―侍だけの― 体を打った

少女は一滴たりとも雨を浴びていない


侍は少女を庇うように、少女の前に立ち構えた

そしてそこから一歩も動いていない


侍は神を説得しない

事情を完璧に把握してないという事もあるが、「自分の為すべき事」がそれでない
というのが一番の理由であった

雨に打たれる侍

少女の進む道を開く事が彼の為すべき事だった


708 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 19:25:08.15 ID:Es/70sAO
少女『お兄さん…』

侍『―』

雨を斬り、風を斬る侍は、その手を休める事なく小さく―しかし確かに呟いた

何と言ったのか、少女には分からない

分からないが、少女に心配するな、と

自分を信じて進め、と言っている気がした


少女『…うん』


709 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/10(金) 22:03:27.15 ID:V97/Tuso
>>702
前作群もなかなかだが侍は更に一味も二味も素敵だ。この空気を纏った作品に出会えたことが素晴らしく、待つのはつらくない。
だからしっかり悩んで試行錯誤してほしい。マイペースで長々続けてくれ。いや、ください。


710 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/10(金) 22:07:59.33 ID:Es/70sAO
>>709
ありがとうございます!
誠心誠意頑張ります


711 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/11(土) 02:28:09.39 ID:nmrAxOAo
まってたよ!
モヤモヤが残る完結は嫌だしじっくり続けてくれ


712 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/11(土) 11:40:08.18 ID:RfCDa.AO
>>711
そう言っていただけると助かります
まだ終わりが浮かばないんで、暫く二人には旅を続けてもらおうと思ってます


713 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/11(土) 19:24:04.61 ID:kG42d7k0
ダメだしが出ないってのもすげぇなwwww


716 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 21:23:43.28 ID:JgnXpoAO
少女は訴えた

少女『神さま! 私の声が聞こえますか!』

姿無き「救われるべき人」に向かって

少女『聞こえたなら村のみんなの声を聞いて下さい!』

自分の声すら聞こえなかったが

少女『貴方にはそれができる耳がある筈です!』

その声は暴風と雷雨を切り裂いた

少女『絶対に仲直りできます!』

その人は―或いは未来の自分だったのかもしれない

少女『だって』

ピカッ――――


――――――ドォォオオンッッ


718 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 21:42:08.81 ID:JgnXpoAO
大気を貫き、雷が少女達を襲った


それは光―

それは瞬き―

―或いは死


雷の舐めた跡には例外なく死の臭いしか残らず



侍「…包む事―繭の如し」シュウウウ


万物の理が覆るのはこれが初めてであった


719 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 21:54:49.88 ID:JgnXpoAO
雷を受け止めた侍は刀を収めた

相変わらずの雨に二人ともずぶ濡れになった

やがて


―私は、独りではないのか


と、「聞こえた」


雷に掻き消される事無く、少女の声は届いた


『だって貴方は独りじゃないんだから』


雨が上がった


720 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 22:13:14.06 ID:JgnXpoAO
―そんなある日、村に旅人が訪れた


一人は羽根の首飾りに、白い髪飾りの少女

もう一人は黒髪黒眼の異国の剣士


二人は村の宿に泊まったが、村が貧窮している為、禄に食事も出せなかった


少女の旅人は事情を聞くと、顔を真っ赤にし、涙を流しながら村人を叱った

「本当に許して欲しいのなら一生懸命謝れ」

村人は己の行いが恥ずかしくなった

そして少女の言う通りに、身を粉にして謝ろうと思った


721 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 22:23:38.56 ID:JgnXpoAO
また少女は言った

「神さまを連れてくる」

村人は狼狽した

姿形の無い神を、少女は連れてくると言う

なんと罰当たりな事か

なんと怖いもの知らずな事か

なんと…強き事か


太陽の様に笑う少女を、村人は信じる事にした


722 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 22:45:56.79 ID:JgnXpoAO
旅人が山に入ると大地が揺れ、嵐になった

その凄まじさたるや、世界の終わりを思わせるものであった

しかし、村人は耐えた

皆身を寄せ合い、神が来るのを…そして旅人の帰りを待った


永遠とも思える長い時間が過ぎ、嵐が止んだ

大地の揺れも収まり、空には青が広がった
皆、山に向かい深々と頭を下げた


723 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 22:52:20.24 ID:JgnXpoAO
やっと皆が頭を上げると、優しい風が吹いた

「神さまだ!」

若者の一人が言った

神に姿形は無い

だが確かに神は居た

何故なら、その時皆が神の声を聞いていたから





少女『フフ…、良かったね』

侍『―』コク

少女『…っくち!』

侍『―!』クシュンッ


724 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 23:01:27.43 ID:JgnXpoAO
村には二つ言い伝えがある

一つは、この村には神がいる事

もう一つは、「あの旅人」が帰ってきたら「ありがとう。そしてお帰りなさい」と出迎える事



「店長、なんでこの部屋はいつも予約が入ってるんですか?」

「ああ、それはね……」


725 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/12/13(月) 23:21:15.80 ID:JgnXpoAO
神さま編終わりです
風呂入ったら次書きます


726 名前:三日目東R59Aがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/13(月) 23:35:43.04 ID:Ub8UMC6o

この2人の旅はいつまで続くのか
終わりがあるとするならその時まで見届けなければなるまい



次へ 戻る 上へ