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侍「言葉が通じなくとも」
- 552 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga]
投稿日:2011/08/07(日) 22:30:28.51 ID:aemYEj+AO
=旅路7=
―道とは
永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である
旅路とは
旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―
ザァァァ…
少女『雨、止まないね』
侍『―』コクリ
少女と侍は雨宿りをしていた
峠越えの最中、突然大雨に見舞われたので、途中で見つけた横穴に避難したのだ
少女『……』
侍『……』
ザァァァ…
一向に雨は弱まらない
それどころか強風に煽られ、入り口から雨が侵入してくる始末だった
少女『今日はここで野宿だね』
侍『―』
- 553 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 22:38:33.37 ID:aemYEj+AO
二人は、今晩の灯りに使える木材がないか探し始めた
横穴はそれほど深くなかったが薄暗いので、手探りで薪になるものを探した
少女『うーん……暗くてよくわかんないなぁ』ペタペタ
四つん這いで地べたを探る少女と侍
……と
少女『! あ、何かあっ』
――――カッ
- 554 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 22:42:53.72 ID:aemYEj+AO
……聞こえる
話し声が聞こえる
「この峠を越えれば、いよいよ都だな!」
「ああ! この反物を元手に商売を成功させて、大金持ちになるんだ!」
「じゃあ、俺達の明るい未来に」
「乾杯!」
カチンッ
少女『――――はっ!?』
- 555 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 23:01:15.80 ID:aemYEj+AO
少女『今のは……』
ほんの僅かな時間だったが、少女ははっきりと二人の男が会話しているのが見えた
男達が杯を交わしていた場所には、空になった古い酒瓶が転がっていた
「……」ペタペタ…
侍「……」
「……うん、なかなかいい色になった。あと少しで夕焼けの朱が出そうだ」
- 556 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 23:13:49.10 ID:aemYEj+AO
侍「これは……筆の記憶なのか?」
侍の手には、毛が疎らになった筆が握られていた
侍が筆をそっと置くと、絵描きの姿は暗がりに消えていった
侍「では、この匙は……」スッ
「この辺に熱病に効く薬草があるって聞いたんだがなー」
地面に転がっている古ぼけた匙を手に取ると、今度は薬師の姿が浮かんできた
侍「面妖な……物の記憶を見る事ができるとは」
- 557 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/08/08(月) 00:10:17.72 ID:av9OkLUSO
サイコメトラー思い出した
- 558 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/08(月) 12:54:29.03 ID:O+NPMSHAO
物と記憶は密接な関係を持っている
人は、長年愛用した物に触れると、当時の事を鮮明に思い出す
人は、物を忘れる時に、一緒に記憶をその場所に置いてくる
…………
少女『……ん、できた!』
侍『―、――!』ナデナデ
少女『えへ、ちょっといびつだけど……』
二人は焚き火をつけると、火の点きにくい木を使って木彫り人形を作り出した
少女は侍の指導を受けながら、手傷を作りつつもようやく完成させた
少女『……あ』
気付けば、雨は上がっていた
少女『…………行こうか』
侍『―』コク
旅人達の記憶が残る不思議な横穴を、少女と侍も後にする
そこには新たに、二つの木彫り人形が並んでいた
- 559 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/08(月) 13:38:09.22 ID:O+NPMSHAO
旅路7終わり
オチだけ投下する前に寝落ちとは…
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