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少女「それは儚く消える雪のように」 2
667 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:52:22.21 ID:2BLGZ8KQ0


フォロントンに着いたのは、
しかしそれから二十時間以上も
経ってからのことだった。

艦が受けた損害で、思うように
スピードが上がらなかったのだ。

絆は職員達の手で、機械的に大恒王の
コクピットに詰め込まれながら息を吐いた。

体の各部への局部麻酔が効いているため、
感覚もないが痛みはない。

しかし……両腕を看護師に、
包帯で操縦桿にぐるぐる巻きにされている絆を、
雪と霧が心配そうな目で見ていた。

「絆……来ない方がいいよ……」

雪が、絆の様子を霧から聞いて口を開く。


668 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:53:09.84 ID:2BLGZ8KQ0
霧も頷いてそれに続いた。

「マスター、艦の中でお休みになって
いてください。私達が戦ってきます」

「俺の心配をする前に、集中しろ。
大恒王は起動に時間が掛かるんだ」

絆はかすれた声でそう言った。

純がため息をついて操縦桿を握る。

「全テノ設定ヲパーンクテンション。
システム、起動シマス。
大恒王ノ全システム起動マデ、後十七分デス」

サポートAIの声が聞こえる。

十七分。

驚異的なスピードだ。

やはり純の性能は凄まじい。


669 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:53:50.20 ID:2BLGZ8KQ0
諦めたように息をつき、
純は操縦桿を握りしめながら言った。

「特務官様はあまり動かないでください。
傷が開きます。お姉様達、速やかに
敵拠点を殲滅し、艦に帰還しましょう」

「純ちゃん……」

雪が、しかし戸惑ったように続けた。

「絆は戦える状態じゃないんでしょう? 
一緒に行くなんて、無茶だよ」

「無茶かどうかは俺が決める。
お前達は何も心配することはない」

絆がそう言うと、モニター下側に
各トレーナー達の顔と駈の顔、
そして椿の顔が映しだされた。

『絆特務官……出撃されるのですか?』


670 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:54:26.21 ID:2BLGZ8KQ0
椿が素っ頓狂な声を上げる。

『それに……八百番台の機体……? 
それは凍結されている筈じゃ……』

他のトレーナー達も怪訝そうな顔をしている。

絆は頷いて、そして言った。

「俺の独断で動かす。全員死んだら、
それこそ笑いものだ。この機体の力が必要だ」

『作戦概要をもう一度説明する』

絆の言葉を引き継いだ形で、駈が口を開いた。


671 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:55:14.15 ID:2BLGZ8KQ0
『この艦を基地拠点とし、
自然の壁内部の新世界連合拠点を叩く。
こちら側の戦力は、大恒王一機に、
七百番台のAAD四機。
戦闘機型トップファイブAAD十二機だ。
これらを最後の作戦とし、
オペレーションフォロントンと呼ぶことにする。
尚、自然の壁の内部ではバーリェ諸君は、
絆特務官と椿執行官の指示で動くこととする。
内部では外側からの通信が使えない。
忘れないようにしてほしい』

「…………」

『活動開始マデ、後十二分デス』

AIの声が響く。

『君達は、ここから自然の壁内部の中央部、
五十二キロ地点まで移動。
その際に出現した敵勢力は、全て排除するように。
そして、敵拠点を目視したら、この兵器を使用しろ』


672 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:55:58.49 ID:2BLGZ8KQ0
駈が壁にプロジェクターで映像を投影する。

そこには、ミサイル弾のようなものが映っていた。

それが何なのかを知っている絆達は、
沈黙して彼を睨みつけた。

『この合成ガスは、炸裂した地点から
半径五キロ以内の、全ての動植物の活動を
停止させる。いわゆる有毒ガスだ。
すべての機体に、一発ずつこの特殊弾が搭載されている』

『やはりこれは……非人道的すぎるのでは……』

椿がそう漏らすと、
駈は手元の資料に視線を落として答えた。

『何を言う。先に手を出してきたのは新世界連合だ。
彼らを駆逐しなければ戦いは終わらない』

遠まわしに、特攻しろと言っているのに近い。

現場に出向く椿が青くなったのも分からなくはない。


673 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:56:49.09 ID:2BLGZ8KQ0
コクピット内は密閉状態のためガスには強いが、
それでも、毒ガスがばらまかれることになるのだ。

いわば、戦略兵器を抱えて突き進めと
言われていることに近い。

『活動開始マデ、後十分デス』

AIの声と共に、絆は言った。

「どの道、戦いは終わらせなきゃいけないんだ
……使える戦力はありったけ使う。
俺達は戦いに行くんだ。遊びに行くわけじゃない」

『…………』

椿が下を向いて黙りこむ。


674 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:57:18.62 ID:2BLGZ8KQ0
駈は資料をめくって続けた。

『作戦所要時間は、四十分とする。
各AADには補助システムを組み込んである。
ガス散布後、離脱する程度の
エネルギーは既に注入してある。安心したまえ』

駈は資料を閉じて、そして言った。

『敵陣をかいくぐり、本拠地にガスを
叩きこむだけだ。成功を祈っている』


675 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:58:09.36 ID:2BLGZ8KQ0


十分があっという間に経ち、
大恒王は脚部キャタピラを回転させながら、
着陸している艦の外に出た。

『エネルギーラインノ確率ヲ確認。
ハイコアノ接続ヲ感知。
システム、殲滅(ジェノサイド)モードヲ起動シマス』

「大恒王、テイクオフします!」

渚の声と共に大恒王が背部ブースターを
点火して、凄まじい勢いで空中に浮かび上がった。

他のAADも飛び上がりはじめる。

大恒王の背後に、ぴったりと椿のAADがついた。

『後ろは任せてください!』

椿の声が聞こえ、絆は軽く笑ってそれに返した。


676 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 21:58:55.81 ID:2BLGZ8KQ0
「了解した。全機、危ないと思ったら
こちらに任せてすぐに帰還しろ。これは『命令』だ」

絆は他のバーリェ達に向かってそう言った。

目の前に、壁の内側にどこまでも
広がる緑色の空間が映る。

「綺麗……」

霧がそう呟いた。

「活動臨界マデ、後四十五分デス」

AIの声が、活動臨界時間を告げる。

四十五分、通常運用すれば作戦時間内に
戻ってこれる時間だ。

しかし。

果たして、それだけの時間で、
絃と決着をつけることができるのか。


677 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:00:36.94 ID:2BLGZ8KQ0
考えてもそれは分からないことだった。

「全機大恒王に続け! 作戦を開始する!」

考慮している時間はない。

絆がそう言うと、純が

「了解しました。衝撃に備えてください」

と言って、アクセルを踏み込むように操縦桿を握った

大恒王が、比較的ソフトな動きで少しずつ
ブースターを加速させる。

Gに耐えながら、渚が引きつった声を発した。

「目標地点まで十二分で到着いたします
……待ってください、重力子指数急激に増大、
死星獣の反応です!」

「迎撃します!」


678 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:01:21.90 ID:2BLGZ8KQ0
純がそう叫ぶように言って、
大恒王の肩部ブレードを抜き放つ。

『「ハイ・シィンケルハンドブレード」ヲ展開。
続ケテ「スティグマスフィール」ドヲ
全方位ニ展開イタシマス』

大恒王が灰色に光り、
エネルギーのフィールドを周囲に展開する。

「認識させない!」

純がそう怒鳴ると、彼女は高速で操縦桿を動かした。

空中から現れた数十体の死星獣の一角を、
流星のように飛んだ大恒王が駆け抜ける。

遅れて背後でブラックホール粒子を炸裂させて
死星獣達が大爆発を起こした。

「凄まじい転移量です! 感知限界を超えました! 
五百……六百……嘘……!」


679 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:02:09.57 ID:2BLGZ8KQ0
言葉を失った渚に続き、
絆もモニターを見て息を呑んだ。

まるでハチの大群のように、金色の、羽が
生えた死星獣が数百も群れになって
空中を浮遊していたのだった。

それらは両手を広げると、
ひとつの大きな板のようになってこちらに向き直った。

それらの体が真っ赤に発熱する。

「大丈夫です、うろたえないでください!」

純がそう言って、突っ込んでいる大恒王の動きを
止めないまま、機械兵器の背部ブースターから
巨大な砲身をせり上がらせた。

「スティグマスフィールドを射出します! ナビを!」

純の声にハッとして、絆はモニターを
睨みつけてくぐもった声を発した。


680 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:02:56.58 ID:2BLGZ8KQ0
「水蒸気爆発が来る……今だ!」

今までとは比較にならない規模の球形の爆発が、
周囲に広がった。

「全開に展開します!」

『了解。スティグマスフィールド、
生成臨界点ヲ突破。
スティグマスキャノン、発射シマス』

砲身が灰色に輝き、直径百メートルを
超える巨大な光の柱が吹き出した。

それに押される形で後退した大恒王の中で、
絆は向かってきた熱波を、
エネルギーが掻き消して突き抜けたのを見た。

天に向かって飛んだ光の柱は、
軽い音を立ててゆっくりと掻き消えた。

次いで、光が通過した場所の死星獣が、
一気に膨張して炸裂した。


681 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:03:41.31 ID:2BLGZ8KQ0
それは次々と連鎖爆発を引き起こすと、
たちまちのうちに数百の死星獣を爆裂させた。

「押し通ります! 各機、私達に続いてください!」

純が怒鳴って操縦桿を握りこむ。

「雪お姉様は管制を、霧お姉様は砲座攻撃と
エネルギー循環経路の制御をお願いします! 
私はこのまま突き抜けます!」

そう叫んで、純はブレードを構えながら、
大恒王を猛スピードで、
残った死星獣の群れに突入させた。

まるで洞窟で、コウモリの群れに飛び込んだかのように、
死星獣達が大恒王に取り付こうとわらわらと寄ってくる。

手近な数体を切り飛ばした純の動きに合わせるように、
霧が上ずった声を発した。

「全方位射撃砲、ブルフェンを使用します! 
エネルギーラインを三十五パーセントで固定、
スタンバイ!」


682 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:04:20.52 ID:2BLGZ8KQ0
『了解。「ブルフェン」ヲチャージシマス。
二十秒間オ待チ下サイ』

AIの声が苛立ちを募らせる。

ブレードを振り回しながら、
針の穴を通すような正確さで、
大恒王が死星獣の合間を縫って飛ぶ。

椿のAADがやっとついてきていた。

他のAADは、追いついてきていなかった。

慌てて絆が声を張り上げる。

「純、後ろを気にしろ! 
仲間の戦力を無駄にするな!」

「まずは周辺の敵を一掃します!」

『チャージ完了。撃テマス』


683 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:05:04.89 ID:2BLGZ8KQ0
端的なAIの声と共に、霧が叫ぶ。

「衝撃に備えてください、発射します!」

大恒王の肩部と脚部の装甲が開き、
中の四つのキューブ体が高速回転する。

一拍後、大恒王は背後についていた椿の
AADと背中を合わせるように空中にホバリングし、
周囲にリング状の衝撃波を放った。

それがゆっくりと広がっていき、
群がっていた死星獣達を飲み込む。

次の瞬間、ぐんにゃりと空間が歪んで、
死星獣達が掻き消えた。

『エネルギーライン八十九パーセントに低下。
ブルーデ安定シマス』

一瞬純が苦しそうな表情をする。


684 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:05:50.74 ID:2BLGZ8KQ0
しかし彼女は、背後に他のAAD達が
ついてきているのを確認すると、また声を張り上げた。

「攻撃して! 六百番台、
ケルミカルミサイルを使いなさい!」

――ケルミカルミサイル。

今回、各機体に積まれている有毒ガスを
詰め込まれたミサイルだ。

絆が待て、と言う前に、背後から近づいてきていた
戦闘機型AADが、一斉に毒ガスミサイルを発射した。

純の言葉を、絆の命令だと誤認したのだ。

ミサイルはそれぞれ放物線を描いて打ち上げられると、
手近な死星獣に向かって突進を始めた。

純がそこで、大恒王のブースターを全開に吹かした。

「ごめんなさい! 耐えてください!」

凄まじいGが絆達を襲う。


685 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:06:32.21 ID:2BLGZ8KQ0
歯を食いしばった絆の目に、
流星のような軌道で移動した大恒王が、
ブレードで十二発の毒ガスミサイルを
次々に斬り飛ばすのが見えた。

遅れて大恒王の背後でミサイルが大爆発を起こし、
周囲に真っ白い粉のような毒ガスを散布する。

周囲を囲むように、毒ガスはヒラヒラと舞い降ちた。

それに当たった死星獣が、奇妙な動きをした。

ビクンッ、と痙攣したように動くと、
それらは空中で体を震わせ、頭をかきむしった。

次いで死星獣達の頭部が膨れ上がり、
膨張して爆発する。

胸からはキューブ体、核が浮かび上がったが、
白い毒ガスに当たると塵になって消え始めた。

これは……毒ガス、ではない。


686 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:07:13.20 ID:2BLGZ8KQ0
「ホワイトホール粒子……
ブラックホール粒子の反物質か!」

絆は操縦桿を握りながら押し殺した声を発した。

ブラックホールと対極の位置にあるもの。

それがおそらく、ホワイトホール粒子。

それはブラックホール粒子を相殺して
打ち消すだけではなく、死星獣の動きを止め、
干渉することができるらしい。

白いホワイトホール粒子に当たった森が、
綺麗に消滅していく。

まるで破壊の雪のような光景が広がっていた。

「ミサイルを発射した機体は後退しろ! 
邪魔になる!」

絆が怒鳴る。


687 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:07:56.77 ID:2BLGZ8KQ0
純は、白い狂気の雪が荒れ狂う中、
大恒王を更に前に突き進ませた。

「純、止まれ!」

Gに耐えながら絆が声を張り上げる。

しかし純はそれを無視し、
更に機体を別の死星獣の群れに突っ込ませた。

「霧お姉様!」

「ブルフェンの二撃目を発射します!」

頷いて霧が操縦桿を握りこむ。

大恒王は、片手で椿の機体を掴んで引き寄せると、
射角を調整してもう一度ブルフェンを放った。

前方の死星獣が綺麗に消える。


688 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:08:45.27 ID:2BLGZ8KQ0
遅れて他の三機のAADが
追いついたのを見て、純は

「全機攻撃スタンバ……」

と言いかけて、こみ上げてきた嘔吐感に負け、
口の中に沸き上がってきた血を吐き出した。

「純!」

絆が叫ぶ。

無理な、急激なエネルギー搾取による副作用だ。

純は、しかし口元を手で拭って、ニィと笑ってみせた。

「的が多いと楽です! 
だって、撃てば当たるんですもの!」

「死ぬぞ! 霧、純を止めろ!」

しかし霧は、首を振って慌てて操縦桿を握りこんだ。


689 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:09:27.84 ID:2BLGZ8KQ0
「スティグマスシールドヲ展開シマス」

霧の操縦で大恒王が左腕を振り上げる。

その腕に、半球状の巨大なエネルギー膜が浮かび上がった。

そこに、突然空中に出現した機体が振り下ろした
長大なブレードが打ちあたって受け止められ、
凄まじい勢いで火花を上げた。

――戦劫王だった。

六枚の翼を生やして完全に回復した、
そのAAD型死星獣が、弾かれたブレードを振り上げて、
二度、三度と視認もできない速度で振り下ろす。

純と霧の操縦で、ブレードとエネルギーシールドで
何度もそれを受け止めながら、大恒王は背後に飛んだ。

ブレードを空振りした戦劫王が、
そのまま空中をくるりと回り、掻き消える。

「重力子指数増大、背後です!」


690 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:10:15.22 ID:2BLGZ8KQ0
渚が上ずった声で叫ぶ。

背後から出現した戦劫王は、
大恒王のブースターに向かって
ブレードを振り下ろした。

そこで、間に椿の機体が割って入った。

「椿さん!」

絆が慌てて怒鳴る。

椿の機体は、しかし返事をする間もなく
肩口から袈裟斬りに両断されると、
空中を錐揉みに回転しながら落下し始めた。

その瞬間、大恒王を突き飛ばして
ブレードを避けさせる。

やがて煙を上げた椿の機体が森に落下し、
遅れて爆炎を上げた。


691 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:11:06.03 ID:2BLGZ8KQ0
モニターに、彼女の機体がロストしたことを
表す文字が表示される。

「そ、そんな……」

硬直した絆の前で息も継げずに、
戦劫王の高速の斬撃を、霧と純が
受け止めながら後退していた。

「七百番台、前に出なさい! 進んで!」

祈るように純が叫ぶ。

そこで戦劫王の姿が掻き消え、
前に出ようとしていたAADの一機の前に
出現し、肉薄した。

戦劫王の腹部が蠢いて開き、
中の真っ黒な空間が姿を現す。

一瞬後、先程大恒王が発射したスティグマスキャノンに
似た黒い光が、数百メートルもの直径に
ふくれあがってそこから射出された。


692 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:11:52.44 ID:2BLGZ8KQ0
越えて行こうとしていた三機のAADが
一瞬で巻き込まれ、
ひしゃげて段々と小さな塊に圧縮されていく。

そして、しまいにはビー玉のような粒に
なって消滅してしまった。

爆発も何も起こらなかった。

一瞬で味方が全てやられてしまったのを見て、
絆はたまらず操縦桿を握りこんだ。

そして訳の分からない声を上げながら、
全ての砲座のロックを解除し、
機械を制御して戦劫王に照準をロックオンさせる。

「ベルクトラルパルスレーザー、
フルバースト。射出シマス」

AIの声と共に体中の砲座から灰色の
レーザー光が発射され、それらは空中で
歪んで乱反射し向きを変えると、
戦劫王に全方位から襲いかかった。


693 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/24(火) 22:13:24.09 ID:2BLGZ8KQ0
純がまた嘔吐感に負けて血を吐く。

今度は、霧も激しく咳き込んで同様に吐血した。

「霧ちゃん! 純ちゃん!」

泣きそうな声で雪が絶叫する。

操縦桿から手を離して、
霧がボタボタと血液を吐き散らす。

「エネルギーライン、六十七パーセントニ低下。
グリーンデ安定サセマス」

AIの淡々とした声が五月蝿い。

戦劫王は、前方向から乱反射しながら
襲い掛かるレーザー光に抵抗することも出来ずに、
全て被弾して、次いで大爆発を上げた。

「直撃を確認! 
で、ですがまだ重力子指数が下がりません!」

渚が悲鳴のような声を上げる。



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