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少女「治療完了、目を覚ますよ」−オリジナル小説
928 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 17:57:39.09 ID:CgQnpWSV0
圭介が息をついて、立ち上がった。

「そろそろいいかい? 俺も大分疲れた。休ませてもらいたい」

「高畑先生が操っていた、
マインドスイーパーの子達はどうなったんですか……?」

恐る恐る理緒がそう聞く。

圭介は、ゾッとするほどの無表情で理緒を見下ろし、そして言った。

「全員、さっき息を引き取ったよ」

「……!」

言葉にならない悲鳴を何とか飲み込んだ理緒に、圭介は続けた。

「スカイフィッシュにやられた傷は治りにくい。
それは、トラウマを直接マインドスイーパーの精神中核に
注入されるからだ。毒のようなものだな。
だから、スカイフィッシュに殺された人間は、もう元には戻れない」


929 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 17:58:30.78 ID:CgQnpWSV0
「じゃあ……汀ちゃんは……」

「汀は、君の話によるとスカイフィッシュの変異亜種の攻撃で
やられたわけじゃないんだろう?
連れていた女の子が撃ち殺したらしいな。
なら大丈夫だ。あいつは『痛み』に対して頑丈だ。
もうじき目を覚ますだろう」

「高畑先生! それでいいんですか!」

理緒が叫ぶ。

圭介は不思議そうに首を傾げた。

「何がだい?」

「沢山死にました! 汀ちゃんも酷い目に遭いました! 私もです!
患者さんも殺されてしまいました!
先生はそれでいいんですか? それでいいんですか!」


930 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 17:59:00.93 ID:CgQnpWSV0
「いいわけがないだろう」

淡々と、圭介は無表情でそう返した。

「君はそれでいいのかい?」

逆に問いかけられ、理緒は肩を抱いて小さく震えた。

「私は……」

「…………」

「もう、やだ……」

「…………所詮子供か」

「馬鹿にしないでください!
高畑先生に、私の気持ちなんて分からないです!」

噛み付いた理緒を、ポケットに手を入れて見下ろし、
圭介はメガネの奥の冷たい瞳で言った。


931 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 17:59:36.28 ID:CgQnpWSV0
「ああ分からないな。道具に感情なんてないからな」

「道具……?」

理緒は顔を青くして立ち上がった。

「私は道具じゃない!」

「じゃあ何だ?」

「私は……私は人間です! 汀ちゃんも……人間です!
私達は、あなたと同じ人間です!」

「違うな。道具だ」

鼻でそれを笑い、圭介は続けた。

「俺達の庇護がなければ何も出来ない餓鬼の分際でよく吼える。
世間も、常識も、何も分からないくせによく言う。
俺達がいなければ何も出来ない存在のくせに、言うことだけは一丁前。
要求することだけは一丁前」


932 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:00:18.97 ID:CgQnpWSV0
「そんな……酷い……」

「酷くなんてないさ。ただ、そんな赤ん坊同然の君達が、
出来ることはダイブだ。
だがそれさえも、俺達の補助がなければ出来ない。
汀に至っては、俺の介護がなければ生きていくことさえも出来ない。
君達は人間になる前、それ以前に、道具なんだよ。
まだ君達は、人間にはなっていない」

圭介の暴論を、理緒は足を震わせながら唇を強く噛んで聞いていた。

大河内がそこで歯軋りして立ち上がる。

「いい加減にしろよ……子供になんてことを……」

「だがそれが真実だ。『真実だった』だろ?」

肩をすくめた圭介から視線を離し、
理緒はすがるように大河内に聞いた。


933 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:00:51.94 ID:CgQnpWSV0
「大河内先生、何とか言ってください!
この人……この人おかしいです!」

「…………」

「大河内先生!」

「……理緒ちゃん、今日はもう休むんだ。
高畑と議論するのは時間の無駄だ」

「先生まで……そんな……」

「高畑、お前の気持ちは分かるが、
理緒ちゃんに聞かせるべき話じゃない。
子供を追い詰めるな! 同じ徹を踏みたいのか!」

「その徹を踏んだ俺から言わせてもらえれば、
擬似愛情ごっこ程あくびが出るものはないね」

また鼻で笑い、圭介はよろよろしながら病室を出て行った。


934 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:01:51.46 ID:CgQnpWSV0
黙り込んだ大河内に、すがるように理緒は言った。

「同じ徹って……何ですか?
高畑先生はおかしいです!
大河内先生、何とか言ってください!」

「…………」

「愛情ごっこって……そんな、嘘ですよね?
そんなのあんまりです……酷すぎます!」

「いいか、よく聞くんだ理緒ちゃん」

大河内はそう言うと、理緒に向き直った。

そして低い声で言う。

「君は、これ以上汀ちゃんと高畑に関わらない方がいい。
赤十字に、私から申請しておこう。戻っておいで」


935 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:02:25.14 ID:CgQnpWSV0
「質問に答えてください!」

「興奮しないほうがいい。お互い体力もかなり低下している」

理緒をなだめてから、大河内は続けた。

「今は元老院の方が力が強いが、君の意思が重要だ。
赤十字も、人の意思を曲げることは出来ない。
もとはといえば、この二人と君は他人なんだ。
入れ込む必要はない」

「先生まで……そんな……」

愕然として理緒は、両手で顔を覆った。

「今更、汀ちゃんを見捨てることはできません……
私、一人で逃げるなんてことできません……」

「君は優しいからな。だが、それとこれとは別の問題だ」

大河内はか細い理緒の声を打ち消し、続けた。


936 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:03:12.19 ID:CgQnpWSV0
「逃げではない。自分の身を守るんだ。
ソフィーも、高畑の計画で手痛くやられてしまっている。
沢山の命も失った。安全な場所に避難するんだ。
自分から、最も危ない場所に飛び込んでいくことはない」

大河内は息をついて立ち上がり、壁に寄りかかった。

「よく考えて決めてくれ。このままだと、君まで高畑に殺される」

ソフィーと同じ台詞を口にして、
大河内は病室の出入り口に手をかけた。

「とにかく、私が来たからには高畑の好きにはさせない。
今のところは落ち着いて、ゆっくり休みなさい」

「先生……」

理緒は顔を上げ、そして両目から段々と涙をこぼし始めた。

そして汀の手を握り、呟くように聞く。


937 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:03:56.72 ID:CgQnpWSV0
「汀ちゃんは……
ソフィーさんは、目を覚ますんですか……?」

「ソフィーは先ほど目を覚ましたと聞いたよ。
面会できるほど回復はしていないが……
汀ちゃんは、しばらくの間無理だろう」

「無理……?」

「精神が殺されると、肉体も一時的に仮死状態になる。
それを投薬で無理やり生きながらえさせたのが、
今の汀ちゃんの状態だ。頭の中でトラウマの整理がついて、
ちゃんと現実が現実だと認識できるようになるまで、
いくら頑丈だといっても相応の時間がかかる」

それを聞いて、理緒はあることに気がついて青くなった。

「あの……」

「何だい?」


938 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:04:27.19 ID:CgQnpWSV0
「あのテロリストの子……ナンバーXさんは、
汀ちゃんのことを狙ってました。
でも、言ってたんです。私の夢座標も欲しいって……」

それを聞いて大河内は顔色を変えた。

「何だって……?」

「私も……狙われているんですか?
私の夢の中に、あの人たち、
侵入してくる可能性もあるってことですか?」

「…………」

「先生!」

「……君は私達が全力をもって守る。
安心して、ゆっくり休みなさ……」


939 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:05:00.36 ID:CgQnpWSV0
「休めないです! 私の夢の中にもスカイフィッシュが出てきたら、
私どうすればいいんですか?
汀ちゃんも……マインドスイーパーの子達もいない……
小白ちゃんも私の夢には入ってこない……
私、一人ぼっちじゃ……」

そこで理緒は、圭介がソフィーのことを

『眠れないだろう』

とせせら笑ったことを思い出した。

大河内は少し考えた後

「少し強いが……夢を見なくする薬ならある。
汀ちゃんにも投与している薬だ。
服用しすぎなければ副作用はない。それを急いで処方しよう」

と言った。


940 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:05:30.94 ID:CgQnpWSV0
「怖い……怖いです……」

肩を抱いて震えだした理緒の頭を撫で、大河内は息をついた。

「君がちゃんと眠れるまで、私がそばについていてあげよう。
大丈夫だ。マインドスイーパーは誰もが経験する。
少し待っていなさい。すぐに戻ってくるから」

そう言って大河内は、足を引きずりながら部屋を出て行った。

理緒が、椅子の上で足を抱いて小さくなる。

しばらくして、彼女の泣き声が静かな部屋の中に響いた。


941 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/25(木) 18:07:34.92 ID:CgQnpWSV0


お疲れ様でした。

次回の更新に続かせていただきます。

ご意見やご感想などがございましたら、
お気軽に書き込みをいただけますと嬉しいです。

残りレス数が60を切りましたので、
次回から別スレで進行させていただきます。

立てましたらここで告知させていただきます。
このスレは、折を見てHTML化申請をいたします。

それでは、今回は失礼させていただきます。


943 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/10/25(木) 18:11:30.82 ID:jEd8nskDO
とうとうここまで来たか…
やっぱりこのあたりはキツイな


944 名前:NIPPERがお送りします(長屋) [sage] 投稿日:2012/10/25(木) 18:33:48.71 ID:G5VJ+sM+0

いつものイベントのお時間が来たか


945 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/10/25(木) 18:35:02.17 ID:2cB6mrqIO
安定のクオリティ

訂正の訂正
ハイドロプレーキング×
ハイドロプレーニング○


946 名前:NIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage] 投稿日:2012/10/25(木) 18:43:12.84 ID:B1EcGVFl0

だんだん追い詰められていく感じが上手い


948 名前:NIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage] 投稿日:2012/10/26(金) 04:24:48.62 ID:O7YOdepto
乙!毎度ものすごく面白い!


949 名前:NIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage] 投稿日:2012/10/26(金) 05:27:06.47 ID:UHP6KYlAO
1クール終了!乙でした。完結までずっと注目していきます。


高畑医師の何が異常なのか、ずっと引っかかってた。絶対おかしいのに、読み返すと不合理な事は一つも言ったりやったりしていない。

此処まで読んでやっと(多分)解った。すでに種明かしされたような展開ではあるけど。


高畑の人生ひょっとして、地獄ですか?



>>1はどんなテンションでこんな話を書いてるんだろう。


950 名前:NIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage] 投稿日:2012/10/27(土) 17:42:57.41 ID:2wj5zsWAO
>>933
×徹を踏む
○轍を踏む


もしもこのSSを映像化したら、高畑や大河内のキャストは色々妄想が湧くんだけど、汀達子役が浮かばないな。

音楽もあれこれ妄想が止まらない。


いっそハリウッド映画化したら、監督は………もう、脳が止まりませんww


951 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/27(土) 19:33:47.20 ID:bldT30xD0
こんばんは。



誤字修正ありがとうございます。

ハイドロプレーキングなのかブレーキングなのか
イマイチはっきりしませんが、「プレーキング」の説が有力なようです。
(hydroplaning)

轍を踏むは気づきませんでした。
ご指摘感謝いたします。



圭介は欠落した人間の一人ですので、異常というよりは
「人間として大切なものをなくしてしまっているがゆえの異様さ」を
持っているのかもしれません。

彼の言うことは全て正論で、間違った判断はありません。
しかしそれが異様に映ってしまうのは、
彼に感情の起伏があまり感じられないせいではないかと思います。



これといったイメージはございませんので、
お好きな配役や声を当てはめてお楽しみいただけましたら嬉しいです。



次スレに移動します。
このスレはHTML化申請を出させていただきます。
HTML化する間、ご自由にお使いください。

少女「治療完了、目を覚ますよ」 セカンド - オリジナル小説
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お付き合いいただけますと幸いです。
今後共、よろしくお願い致します。


953 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/10/29(月) 16:40:01.07 ID:dNa0BIwDO
いやただの勘違い誤字なんだろうけど、どっかで恥かくといけないから一応‥

hydroplaing
「ハイドロ」水・液体

「ブレーキング」制動する

じゃなくて

「プレーニング」滑る

です。




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