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少女『言葉が通じなくても』
209 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 21:19:32.26 ID:YNgRUQAO
=日沈む処=

遮光の国と隣国「銀鈴」の間に在る峠を言う

かつては、越える前に日が暮れることから「夕暮れ峠」や、秋になると落ち葉で埋め尽くされることから「落葉峠」と呼ばれていた


「日沈む処」と呼ばれるようになったのは大戦後である


遮光と銀鈴の主力がぶつかり合ったこの峠は多くの血が流れ、今も弔われていない屍が見つかる

そして、報わない死者達が今も獲物を求め彷徨っているという…


210 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:24:01.74 ID:YNgRUQAO
一方


少女『墓荒らし?』

定食屋の大将『ああ、夜な夜な墓を掘り起こす音がするんだ。翌朝見ると、跡が残ってる』

少女と侍は国境付近の都市に居た

激戦区だったにも関わらず復興が早かったのは、国側のせめてもの配慮か、はたまた隣国を牽制しての事なのか…

定食屋の大将『単なる泥棒ならいいが、魔物って噂も流れてる』

少女『魔物…』ビクッ


211 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:31:29.90 ID:YNgRUQAO
定食屋の大将『この街の近くに大戦ん時の最前線がある。ろくに埋葬もされなかった死人達が、夜な夜な墓を荒らしに来ているって話だ』

少女『…』ゾーッ

定食屋の大将『…』



定食屋の大将『わっ!!』

少女『わーっ!?』ビクーッ

定食屋の大将『あっはっは! そんなに怖かったかい』

少女『し、死ぬかと思った…』ズルッ


212 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:37:27.47 ID:YNgRUQAO
定食屋の大将『ま、つまんねーコソドロはそのうち衛兵に捕まるさ』ヒラヒラ

少女『それって、解決したらお金出るんだよね?』

定食屋の大将『ああ、住民を怯えさせてるのは確かだからな』

定食屋の大将『しかし…お嬢ちゃんじゃ無理だな』

少女『大丈夫』ガタッ

定食屋の大将『へ?』


カランカラーン

少女『私一人じゃないから』

侍『―』ペコ

バタン

定食屋の大将『異国人…?』


213 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:44:32.07 ID:YNgRUQAO


ホーッ ホーッ

少女『さっさと来てよ…』ガクガク

その夜

頃合を見て張り込みを始めた少女達であったが、未だ墓荒らしは現れない

少女『よく…こんなところで寝れるわね…』ブルブル

侍『―…』スピー

事情の飲み込めない侍は、上着を丸めて枕にし、早々に眠ってしまった

少女『ここは…公園じゃないのよ…ッ』ビクビク


214 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:48:57.31 ID:YNgRUQAO
少女『うう…お兄さん……起きて』ユサユサ

侍『…』フガッ

すっかり熟睡している侍

起きる様子はないが、侍にちょっかい出していないと恐怖が募りそうだった

少女『うう…怖』


ボーンッ ボーンッ


少女『きゃああああああ!?』


少女『な、なんだ2時か……あはは』


ザリ…ッ ザリ…ッ


少女『…えっ』


215 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:52:33.17 ID:YNgRUQAO
それは何かを引きずる音

石畳に硬い物体が擦れ、削れる音だった

少女『――!』ユサユサッ

声にならない声で侍を起こす少女

侍『―…』ゴロンッ

押せど引けど侍は起きない

少女『お、お、おに』


ザクッ


少女『…』サーッ


216 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:58:44.46 ID:YNgRUQAO
墓荒らしが始まった

土を掘り起こす音が月夜に響く

少女『…』ブルッ

見るだけ…

…危なくなったら声を上げて逃げよう

そう自分に約束し、少女は立ち上がる


ザクッ

ザクッ


好奇心猫をも殺すという、いつか聞いた諺が過ぎった

猫の命は九つらしいが、少女の命はこれっきりだった


217 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:06:30.78 ID:YNgRUQAO
【我が国の英霊、ここに眠る】

そんな意味の言葉が刻まれた慰霊碑の裏に少女は隠れていた

反対側では墓荒らしがせっせと穴掘りに精を出しているだろう

少女『…』ジリッ

慰霊碑の影から覗き見る、と

墓堀『ロベルト、もうすぐ君の棺が出るよ』

老人がスコップで穴を掘っていた

そしてその傍らに


少女『え……ほ、骨…ッ!?』


218 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:24:07.78 ID:YNgRUQAO
少女は凍り付いた

あの老人は墓荒らしではなく…殺人―



トンッ


少女『――――――――!!』ビクーッ

侍『―…』

墓堀『ム? 誰かおるのか?』

少女『逃げ…! 逃げ!』アタフタ

侍『…』ガシッ


219 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:28:12.59 ID:YNgRUQAO
少女『は、離してよ』ジタバタ

侍『…』ズルズル

墓堀『お主ら…こんな夜更けに何用じゃ?』

少女『あ、あなたこそ! 夜な夜な墓場に来て―』

侍『…』スタスタ

少女『え!?』

墓堀『あ!? こら!』


老人の脇をすり抜けると、侍は亡骸の前に正座し

侍『…』スッ

そっと、両手を合わせた


220 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:34:26.53 ID:YNgRUQAO
墓堀『………そうかい、お前さんも見送ってくれるんかい』

少女『え…』

墓堀『わからんか? あの男は、一つの命の安らかな眠りと、新しい旅の無事を祈ってるんじゃ』

少女『…!』


いつも

お兄さんは食事の時に手を合わせていた

怪物を斬った時も手を合わせていた


少女『……』


221 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:38:54.20 ID:YNgRUQAO
墓堀『さあ、お別れだ。勇敢なる戦士ロベルト・カーロンに安らかな眠りを…』

侍『…』

少女『…』スッ



ありがとう…



少女『あ…!』

墓堀『聞こえたかい?』

少女『ありがとう…って』

墓堀『ようやく、彼は解き放たれたんだよ』


222 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:44:02.07 ID:YNgRUQAO


侍『…』ザッザッ


少女『じゃあ共同墓地は、ほとんど空なの?』

墓堀『ああ、形ばかり取り繕って…宿主は不在じゃ』

少女『ひどい…』

墓堀『仕方あるまいて、何万人も死んでおるんじゃ』

少女『おじいさんは…ずっと?』

墓堀『ああ、死者の声に耳を傾けてやる者が、他におらんでな』


223 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:48:48.05 ID:YNgRUQAO


少女『はぁ…』

定食屋の大将『どうだったい、肝試しは』
少女『…』

定食屋の大将『まぁ、おっちゃんのハンバーグでも食って元気出しなって!』コトッ



少女『なんだかなぁ…』

侍『…』スッ

少女『あむ』パクッ


224 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/12(月) 23:56:41.83 ID:YNgRUQAO
その日、死者を弔う老人の姿が少女の頭から離れなかった

どこかで信じていた魂の存在

どこかで否定していた魂の存在

心臓が止まるまでが生命なのか

天に還るまでが生命なのか…


少女『…お兄さん』

侍『―?』

少女『…ううん、なんでもない』

ぐるぐるぐるぐる

答えを求め、堂々巡りは続いた


225 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/13(火) 00:03:36.70 ID:7MQuwIAO
翌日

少女は街のざわめきで目を覚ました


少女『何の騒ぎです?』ゴシゴシ

昨夜も、老人は一人で死者を送り出していただろうか

そう考えるとなかなか寝付けず、寝不足気味な少女

従業員『なんでも、墓荒らしが捕まったとか』


少女『えっ!?』

眠気が一気に吹き飛んだ


226 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/13(火) 00:17:37.72 ID:7MQuwIAO
侍を叩き起こすと、身振り手振りで事情を説明する

スコップ、老人、合掌、手枷の仕草で察しがついたのか、少女を背負い宿を飛び出した

騒ぎの方へ向かい走っていると、大きなざわめきが起きた

少女『ま、まさか…!?』

侍『―…!!』ダッ

風の如き疾走が更に加速する

少女も侍も、汗が滲み出ていた


227 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/18(日) 05:52:27.63 ID:AQnmEgAO
少女『な!?』

異様な光景だった

墓堀の老人を兵士達が取り押さえ、それを多数の戦士達が囲んでいるのだ

何が異様かと言うと、戦士達は例外なく紫色に淡く光り、姿が透けているのである

いわゆる、幽霊という物だろう


背の高い兵士『た、助けてくれ…!』

戦士の魂『ハナセ…ソノモノヲハナセ…』ジリッ

背の低い兵士『ひいっ!?』


230 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/18(日) 21:51:02.50 ID:AQnmEgAO
戦士の魂『ツグナイヲセヨ…』

背の高い兵士『わかった! こいつは解放するから!』

兵士達は老人を解放すると亡霊の間を駆け抜けて行った

一人残された老人を囲む輪が、じりじりと狭められていく


戦士の魂『ニクイ…オマエガニクイ……』

墓堀『ああ…好きなだけ憎んでくれ……お前達にはその権利がある』

戦士の魂『コロス…ナブリ、ヒメイ……クルシミモガケ…!』ジャキッ

亡霊の…憎しみ波が老人を飲み込む

老人はそっと、静かに瞳を閉じた


231 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/18(日) 21:58:26.11 ID:AQnmEgAO
ドドドドドドッ

墓堀(まさか霊になって現れるとは思わなんだが…)

墓堀(これで…お主らが眠れるなら……)


チャキンッ

ピィンッ ギィンッ パキッ キンッ


戦士の魂「グゥ…!?」

侍「勇敢なる戦士御仁ら、待たれよ」ピッ


墓堀「――!?」


232 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/18(日) 22:08:33.08 ID:AQnmEgAO
戦士の魂「ジャマヲ…スルナ!」ギラッ

亡霊の一人が戦斧を構え、距離を詰める

異国人の霊だが、直接頭の中に語りかけてくるので言葉の意味が分かる

侍「…」ガリガリ…

侍は逃げる兵士から奪った剣で円を描く

自分を中心に移動する事なく、半径2メートル足らずの円を書き終え

侍「ここまでが私の間合いだ。入ってきた者は迷わず斬る…、そのまま聞いてくれ」
戦士の魂「グ…ッ」

憎しみに歪んだ顔に、別の感情…「焦り」が一瞬見えた


233 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/19(月) 01:52:12.57 ID:IIv4qYAO
侍「こちらの御仁は戦死したあなた方の為に、夜な夜な弔っているのではないのか」

戦士の魂「チガウ…! ソイツハオノレノザイアクカンヲヘラスタメニ…ワレワレヲトムラッテイルニスギヌ!」

侍「罪悪感?」

戦士の魂「タシカニ…センシシタモノモスクナクナイ……ダガ…ワレラハ……ソイツニイキウメニサレタノダ…!!」

侍「生き埋め…?」

少女「―!?」


亡霊の声が聞こえたのか、少女は生き埋めという言葉に驚きを隠せない


235 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/19(月) 02:06:39.30 ID:IIv4qYAO
遮光と銀鈴の戦が熾烈を極め、互いに戦闘継続の限界が迫った頃

銀鈴の将軍は、ある一つの決断をした


敵国に送り込んだ草(スパイ)が、魔強化装備で武装した部隊が迫っているとの情報を掴む

魔術では一日の長がある遮光に対抗するには、時間も戦力も足りなかった


翌日、両軍の戦力が落葉峠でぶつかる

中間点である落葉峠は、長くどちらも制圧することなく押しつ押されつの攻防が繰り広げられていた

が、遂に遮光軍が銀鈴の主力を破り、銀鈴は撤退戦を強いられる


そこで将軍は、禁忌である「味方殺し」を実行するのだった…


236 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/19(月) 02:17:47.53 ID:IIv4qYAO
撤退戦は、追撃軍の迎撃と撤退を繰り返し行う

追撃側の遮光は、長く煮え湯を飲まされていただけに、多くの戦力を追撃に送り出した


撤退戦の第一戦、高台から雪崩れ込んでくる追撃軍に、迎撃隊は蹂躙されていく

追撃軍が勝利を確信した、その時


ドォォオオオオンッッッ


銀鈴軍は、なんと峠を爆破し始めたのだ

遮光軍を峠に集め、一網打尽にする為である

何も知らない迎撃隊は遮光軍と共に瓦礫に、爆発に巻き込まれ、誰一人として助からなかった


237 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/19(月) 02:24:37.21 ID:IIv4qYAO
戦士の魂「オカゲデセンキョクハギャクテン…ギンリンハ……タイショウヲオサメタ」

少女「―…」

肩を抱き締める少女

これだけ犠牲者が集まっていると、どれだけ悲惨な状況だったのか想像するに難くない

戦士の魂「オカゲデソコクハ…ハズカシメヲウケズニスンダヨ……タイショウドノ…!」

墓堀「…」

老人は黙して語らなかった

それが全て事実なのだと証言するかのように


238 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/19(月) 02:29:05.52 ID:IIv4qYAO
侍「ふむ…大体の話は理解した」

戦士の魂「ナラバドケ…ソイツニハ……シスラナマヌルイ…!」

侍「待て、一つ訊かせろ」




侍「―お主ら、何が不満なのだ?」




戦士の魂「ナ…ッ」


239 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/19(月) 02:43:21.91 ID:IIv4qYAO
戦士の魂「コイツハ…! オレタチヲタテニ…ミナゴロシニシタンダゾ…!」

侍「わかっておる」


侍「しかし、殿(しんがり)を務めるとは味方の盾になるという事…」

侍「お主らがしくじれば味方は皆殺し、国は滅ぶ。女子供まで殺される地獄絵図になるやも知れんかったのだぞ」

侍「お主らは勇猛に戦い、犬死したかったのか? それとも、勝算があったのか?」

戦士の魂「ダマレヨソモノ! オマエハイキテイルカラナントデモイエル!」



ザクッ

戦士の魂「…!?」

侍「ならば、死して語り合おうぞ…」ツー


240 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/19(月) 02:52:55.05 ID:IIv4qYAO
侍「とくとご覧あれ…ッ 見事切腹果たして見せようぞッ」グッ

少女「―!?」バッ

墓堀「―――!?」バシッ

侍「かはッ」バタッ

戦士の魂「ナニヲカンガエテオル! ジサツヲハカルナド…! グノコッチョウダ!」

侍「ああ……だがようやっとこちらの話に耳を傾けてくれたな」ダラダラ

戦士の魂「バカモノ…! コンナトキニナニヲ」

侍「お主らの魂を救う為…だ……ご老人と…話……を」ガクッ

少女「――!! ―――!!」


241 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 06:53:46.95 ID:wj4re9Qo
SAMURAIだ…


243 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 22:24:59.08 ID:x1hqysAO


少女『うう…ッ うううううぅぅ……ッ』
侍『』


墓堀『…』

戦士の魂『…』



墓堀『…迷ったんじゃ』

墓堀『あの…爆破作戦を実行するか』

戦士の魂『…』


244 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 22:42:16.95 ID:x1hqysAO
墓堀『じゃが…玉砕覚悟でぶつかっても、勝算は無い……降伏か、惨敗か…外道に墜ちるか』

墓堀『儂が悩んでいると伝令が来た…国王から爆破せよ、と』

墓堀『当初儂は陣頭に立つつもりじゃった…爆破は副長にしてもらい、儂はお主らと散るつもりじゃった』

墓堀『じゃが、国王の伝令の内容を聞き、残る事にした』



墓堀『爆破作戦の総大将は作戦後、戦犯として処刑する…と』



戦士の魂『!!』


245 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 22:51:43.30 ID:x1hqysAO
墓堀『戦犯となれば一族郎党、富、名声は愚か、最悪巻き添えになりかねない…』

墓堀『儂は…お主らを殺す事にした』



墓堀『しかし…儂を処刑すると王宮のイメージが悪くなると上が騒ぎ出し、儂は今日まで生かされた』

墓堀『除名処分され、家族を無くし、国を追われたが…こうしてお主らを弔えた』

墓堀『まだ…死んではいかんと思ったんじゃ』


戦士の魂『…』


246 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 22:56:53.18 ID:x1hqysAO
戦士の魂『…大将』

墓堀『…』

戦士の魂『やはり…死んで下さい』

墓堀『…待ってくれ、あの娘の面倒を見なけりゃならん。まだ死ねぬ』

戦士の魂『待てません』


墓堀『どうしても…か』



戦士の魂『あなた様の力が必要です』

墓堀『…何?』


247 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 23:04:48.67 ID:x1hqysAO


……


侍「…ここは」

侍「……ああ、私は自害して」

侍「と言うことは、ここは彼岸か?」



侍「皆、話はできただろうか…」



墓堀「ああ、もちろんじゃて」

侍「ご老人!?」


248 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 23:17:17.06 ID:x1hqysAO
戦士の魂「おかげさまで我らの『無念』は晴れました」

戦士の魂「結局、私達は魂の弱さ故に亡者と化してしまったのです」

戦士の魂「まぁ…そのおかげで大将とまた話もできたのですが」

侍「いや…私もつい自分の信義を突っ張ってしまって…」

戦士の魂「あなた様が命を張ってくれなければ我々はただの怨霊と化していたでしょう」

戦士の魂「ありがとうございます」

侍「…うむ」



墓堀「では…我ら今一度、命を張ろうぞッ!」バッ

侍「む!?」


249 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 23:30:22.71 ID:x1hqysAO
墓堀の老人…総大将が手を翳すと、戦士団が腰の剣を顔前に立てる

墓堀「勇敢なる青年の旅路に、戦女神の祝福を!」


バババババッ


戦士団「祝福を!」バッ


天に向かって戦士達の剣が突き挙がる


侍「お主らにも…! 幸あれ!」


それは、彼らの墓標の様であり、軍旗の様でもあった


250 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 23:39:50.96 ID:x1hqysAO
……



少女『うう…グスッ……』



野次馬『…あ! 幽霊が消えた!』

見物人『…あの墓荒らし…ともう一人、倒れてるな』

背の高い兵士『か、確保だ!』

背の低い兵士『銀鈴の総大将だ!絶対逃がすな!』


251 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 23:46:41.42 ID:x1hqysAO
ザザッ

少女『ヒック…え!? 何!?』

太った兵士『ちょっとどいててね』

長髪の兵士『その爺さんは悪い人だからね』

少女『嘘! おじいさんは悪くない!』バッ

背の高い兵士『ええい! 小娘に構うな! かかれ!』

少女『ひっ!?』グッ



チャキンッ


少女「…―!?」チラッ

侍「ただいま帰った」ザッ


252 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/21(水) 23:55:30.95 ID:x1hqysAO
背の低い兵士「―!?」ジーンッ
少女「―――!!!!」

侍「心配を掛けてすまなんだ…」


侍「折れてはおらんだろうが、手が痺れが抜けないだろう」


侍「…道を開けよ。ご老人のお帰りだ」キッ

兵士達「――!?」ビクッ

スッ

侍「さあ、行きましょう」

墓堀「」


253 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 00:11:53.02 ID:OU7lJwAO
―大戦集結から二年が過ぎ、また命が芽吹く季節が来た

それは多くの命が散った「日沈む処」も例外ではない

戦争の影響で変化した地形は、植物達に大きな変化をもたらした

戦前は、崖下に光が差さず背の高い木しか生えなかった

だが、爆発で遮蔽物の背が低くなった為、様々な種類の草花が生息するようになったのだ

奇しくも、戦士達の消えていった谷底は花々が咲き乱れ、運河の如き儚くも美しい景色を誇っている


254 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/22(木) 00:12:28.38 ID:ljaIKUAO
侍KAKKEEEEEE


256 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/22(木) 00:25:08.43 ID:OU7lJwAO
この季節になると、日沈む処に近い遮光・銀鈴の都市では両国合同の祭を行うことになった

日沈む処に種を蒔き、互いの都市の燭台に火を灯しに行くのである

この祭のおかげで、大戦で最も激しく争った二国は最も長く手を取り合うのだった


もっとも、それはまだまだ後の話―


侍「これでよし」パンパン

【銀鈴の英霊 ここに眠る】


少女「…」ムスッ

侍「…そろそろ機嫌を直してくれぬか?」

少女「―」プイッ

侍「ああっ」



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