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少女「治療完了、目を覚ますよ」−オリジナル小説
- 426 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/10/19(金) 19:33:20.28 ID:v+tkSpTq0
★
「元老院の要請で参りました、高畑と申します」
圭介がそう言って、薄暗い部屋の中、
円卓状になっている会議スペースの一角で、
椅子に座っている状態で頭を下げる。
「随分と遅かったではないか。
予定を一週間も繰り越して、どういうつもりだ?」
赤十字の医師の一人にそう言われ、
圭介は柔和な表情のまま、それに返した。
「別に、あなた方の道理に私が合わせるといった道理もないまででして」
「何を……!」
他の医師たちも眉をひそめる。
- 427 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:34:09.07 ID:v+tkSpTq0
そこで、圭介と対角側に座っていた大河内が口を開いた。
「……時間が惜しい。打ち合わせを続けましょう。
今回のダイブには、英国のメディアもかなり注目しています。
一刻も早く結果が欲しい」
「それは、そうだが……」
医師の一人が口ごもる。
大河内はそれを打ち消すように続けた。
「今回の患者について、説明します。資料をご覧ください」
圭介が、興味なさそうに目の前に置かれた厚い資料をめくる。
「患者の名前は、エドワード・フレン・チャールズ。三十五歳。
英国の王位第十五継承権を持つ、皇族の人間です」
- 428 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:34:56.97 ID:v+tkSpTq0
医師達が、口をつぐんで大河内を見る。
「現在自壊型自殺病の第二段階を発症。
それに加え、防衛型自殺病の第一段階を併発しています。
英国の医療機関では治療が困難と判断され、一週間前、
赤十字病院に搬送されてきました」
大河内は、周りを見回して続けた。
「二つの自殺病の併発に加え、
英国では、自殺病の『完治』が望まれています。
元老院は以上の点を鑑みて、今
回、高畑医師との共同ダイブを要請されました」
「現在の患者の状況は?」
圭介がそう聞くと、周囲から鋭い視線が飛んだ。
それを無視して資料に視線を落とした圭介に、大河内は事務的に答えた。
- 429 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:35:36.51 ID:v+tkSpTq0
「防衛型自殺病、第二段階症状前期兆候の確認がなされています」
「防衛型と自壊型の併発……か」
そう呟いて、圭介は口の端を小さくゆがめた。
「……DID(解離性同一性障害=多重人格のこと)か」
「……ええ。古い言い回しになりますが、
分析によると二重人格の症状が見受けられているようです」
大河内がそう言って、資料を見る。
「今回の施術には、赤十字のマインドスイーパー、
片平理緒を同席させることにしました。
個人的にも、高畑医師と親交が深く、連携が取れると判断してのことです」
そして大河内は資料をめくった。
「それでは、詳細なダイブの予定についてご説明します。
十五ページをご覧ください」
- 430 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:36:31.37 ID:v+tkSpTq0
★
施術室に汀と理緒が入ったのは、それから二時間程してのことだった。
汀は眠そうに、コクリコクリと頭を揺らしている。
その車椅子を押しながら部屋に入ってきて、
理緒は困った顔で圭介を見上げた。
「駄目です……私が呼びかけても、返事をしてくれなくなりました」
圭介は理緒から車椅子を受け取り、汀の隣にしゃがんで、額に手を当てた。
その様子を、大河内と医師たちが心配そうな顔で見ている。
圭介はしばらく汀を触診していたが、やがて立ち上がって言った。
「ダイブ可能です。施術を開始しましょう」
汀の膝の上の小白がニャーと鳴く。
- 431 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:37:00.51 ID:v+tkSpTq0
大河内が眉をひそめて近づいて囁く。
「どう見ても意識混濁状態のように見えるが」
「やれるさ。これ以上は待てない」
圭介は断固とした口調でそう言うと、汀の車椅子を、
ベッドに縛り付けられている患者の脇に持っていって固定した。
理緒も、隣のベッドに横になる。
「今回の施術では、俺が二人のナビゲートを同時に行う。
理緒ちゃんは、それでいいな?」
- 432 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:37:30.49 ID:v+tkSpTq0
問いかけられて、理緒は頷いた。
「はい……でも、汀ちゃんが……」
「夢の中での運動性が落ちているかもしれないが、
君がサポートしてやってくれ。
トラウマが現れたら、こいつらに任せて、
君は中枢の治療に専念しろ」
「……わかりました」
理緒の頭を撫で、圭介は反応がなく、
よだれをたらしている汀の耳にヘッドセットをつけ、
無理やりにマスク型ヘッドホンを被せた。
- 433 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:38:10.53 ID:v+tkSpTq0
★
汀が目を覚ました時、そこは沢山のスーツ姿の人が歩いている、
巨大な交差点の真ん中だった。
スーツ姿の人々の顔には、モザイクのような紋様が浮いており、
顔は見えなくなっている。
彼女は熱に浮かされた顔をしながら、それをぼんやりと見回した。
足元でニャーと鳴いた小白を抱き上げて肩に乗せ、
汀はヘッドセットのスイッチを入れようとしてふらついた。
そしてゆっくりとその場にしりもちをつく。
「あれ……」
『ダイブ完了。汀、聞こえるか?』
「…………」
- 434 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:38:59.77 ID:v+tkSpTq0
マイクの向こうからの圭介の声に答えず、
汀は苦い顔で周囲を見回した。
交差点のど真ん中でしゃがみこんでいる少女を気にかける人など、
誰もいない。
皆、背筋をピンと伸ばし、話もせずにどこかへ歩き去っていく。
その光景が、ビル群を縫って、どこまでも続いていた。
「……やりたくないって言ったのに」
小さく毒づいた彼女に、圭介は淡々と答えた。
『贅沢を言うな。
マインドスイーパーの資格があるんなら、仕事をしろ』
「現実の私の体調、最悪みたいだね。体が殆ど動かないよ」
- 435 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:39:34.95 ID:v+tkSpTq0
『…………何とかしろ』
「それでどうにかなるなら、お医者はいらないんじゃない?」
冷たくそう返し、汀はゆっくりと立ち上がった。
体が、まるで水の中にいるかのようにもったりとしか動かない。
その様子を心配そうに小白が見ていた。
そこで汀は、人々を掻き分けてこちらに近づいてきた理緒を見た。
「汀ちゃん! 大丈夫?」
息を切らしている理緒がそう問いかける。
汀は息をついて彼女の手を握ると、頷いた。
「うん。現実の私の体が、あんまり良くないから、
頭が働かないみたい。
体が良く動かないから、サポートしてくれない?」
- 436 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:40:08.49 ID:v+tkSpTq0
「はい! 分かりました!」
元気に理緒が頷く。
『その患者はDIDだ。二重人格だと推定される。
つまり、精神世界の分裂が考えられる』
圭介が淡々と口を挟んだ。
『そして今回のダイブは、患者の「完治」が最大の目的だ。
そのために理緒ちゃんを一緒にダイブさせた。
精神中核をみつけて、ウイルスを除去してくれ』
「はい!」
「DID……こんな時に最悪」
汀がため息をつく。
「後日にすることは出来ないの?」
- 437 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:40:42.00 ID:v+tkSpTq0
『無理だ。患者の精神分裂が進んでいる。
これ以上放置すると、治療が不可能になる。
中核が一つのうちに、何とかするんだ。そこはどこだ?』
汀が周囲を見回して、やはり苦そうに答える。
「無限回廊の中の一箇所だと思う。
煉獄に繋がる道が見えないから、表層心理壁だね」
「汀ちゃん、見ただけで分かるの?」
驚愕の表情で理緒が聞く。
汀は頷いて、答えた。
「私、普通とちょっと違うから」
『…………』
圭介は少し沈黙してから言った。
- 438 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:41:15.91 ID:v+tkSpTq0
「お前の体調が思わしくないから、時間は十分に設定する」
「無理だよ」
『それでもやるんだ。お前の使命を思い出せ』
汀は少し押し黙った後、足を引きずって歩き出した。
「……分かった」
「トラウマは……見られませんね」
理緒がそう呟く。
「だってここは、防衛型心理壁だもん」
「防衛型?」
きょとんとした理緒に、彼女に支えられながら歩きつつ、
汀は息を切らしながら言った。
- 439 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:41:50.37 ID:v+tkSpTq0
「いろいろ自殺病にはタイプがあるの。
その中でも、防衛型は、意地でも精神中核に続く道を隠そうとするわ」
「そうなんですか……じゃあ、どうすれば……」
「こうするの」
汀は理緒から手を離すと、
手近な男性と思われるスーツ姿の男の顔面を、思い切り殴りつけた。
もんどりうって倒れ、地面に叩きつけられてゴロゴロと転がる男。
唖然としている理緒の前で、汀は倒れた男に近づくと、
無造作にその頭を踏み潰した。
「ギャ」
小さな叫び声が聞こえて、辺りに脳漿と、
血液と、わけの分からない液体が飛び散る。
- 440 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:42:45.03 ID:v+tkSpTq0
「汀ちゃん! それ、この人の記憶片だよ!」
「いいんだよ。ほら」
はぁはぁと息をつきながら、
返り血で血まみれになった汀は周りを見回した。
おびただしい数の、顔の見えない人々の動きが止まっていた。
そして、それぞれがぐるりと、汀と理緒に向き直る。
「ひっ……」
体を硬くした理緒の前で、人々は懐から、
全て同じタイプの拳銃を取り出すと、コッキングして弾を充填した。
そしてザッ、と同じ動作で二人に拳銃を向ける。
「トラウマが出てこないんなら、
トラウマの発生を誘発すればいいだけの話」
- 441 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:43:21.22 ID:v+tkSpTq0
「そんな……ど、どうすればいいんですか!」
「こうする」
汀は手近な一人に一瞬で肉薄すると、
腕を叩いてその拳銃を奪い取った。
そして、自分を狙っている近くの男女の頭部に、
立て続けに発射する。
正確に銃弾は頭を抜けると、血液脳漿を飛び散らせながら、
明後日の方向に飛んでいく。
汀に向けて、そこで大勢の人々が拳銃を発砲した。
小白が風船のように膨らみ、汀と理緒を覆い隠す。
実に二十秒ほども続いた銃撃が止み、
硝煙の煙と、反響する銃声が止んだ頃、小白が体を振った。
- 442 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:44:02.78 ID:v+tkSpTq0
バラバラと銃弾が地面に落ちる。
小白の体には傷一つついていない。
「あ……ああ……あ……」
ガクガクと震えて小さくなっている理緒を尻目に、
小白の体の下から這い出ると、汀は言った。
「防衛型は、こういうときにすぐ逃げようとするから、
見つけるのが簡単ね」
同じ動作で銃の弾倉を交換し、コッキングした人々の右後方、
そこに、同じような顔が隠れている男が、
人々の波を掻き分けながら逃げようとしているのが、遠目に見えた。
「欧米社会は銃を持ってるから嫌い」
そう言って、汀は逃げる男の頭めがけて拳銃の引き金を引いた。
パンッ! と血液が飛び散る。
- 443 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:44:32.35 ID:v+tkSpTq0
ゆっくりと男が倒れる。
そこで、空間それ自体がぐんにゃりと歪んだ。
顔がない男女の姿が、徐々に消えていく。
空がいきなり夜になり、ビル群も消えていく。
「ここから転調みたいだね」
汀が息を切らしながら、しかし楽しそうに言う。
小白からプシューッ、と音を立てて空気が抜ける。
小さな猫に戻った小白を抱き上げる汀。
そこで、彼女達の意識はホワイトアウトした。
- 444 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:45:11.38 ID:v+tkSpTq0
★
彼女達が次に目を覚ましたのは、肉と獣の臭いと、
血の据えた臭いが交じり合った、不快な空気の滞った場所だった。
「何……ここ……」
平気そうな汀とは対照的に、理緒が鼻をつまんで顔をしかめる。
そこは、沢山のテントが並んでいる場所だった。
丸太のテーブルに、丸太の椅子。
そして、テントそれぞれには、血まみれのエプロンを羽織った、
顔がモザイクで隠れた男性達がそれぞれ肉切り包丁を持って、
『作業』をしていた。
少し離れた場所に、サーカスのテントのような場所が見える。
先ほどと同じように、スーツ姿の男が入り混じって歩き回っている。
- 445 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:45:46.51 ID:v+tkSpTq0
しかし先ほどと違ったのは、幾人かがテント前のテーブルに座り、
何かを、犬のようにがっついて食べていることだった。
「何かしら……」
理緒が鼻をつまみながら、近くのテントを覗き込み――。
「ひっ」
と小さな悲鳴を上げて、危うく卒倒しそうになった。
それを支えて、汀が笑顔で彼女のことを覗き込み、手を握る。
「どしたの?」
聞かれて、理緒は震える手でテントの中を指した。
「だ……だって……だって、あれ……」
- 446 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:46:25.87 ID:v+tkSpTq0
「ん」
小さく相槌を打って、汀は軽く笑った。
「あれが、どうかした?」
理緒が震えながら指差した先。
そこには、天井から伸びた大きな鈎針で吊るし切りをされている、
生物だったモノがあった。
否。
女性の、体だった。
頭部は舌を伸ばし、鼻や口から血を流し、
目玉をひん剥いた状態で脇に投げ捨ててある。
首にあたる部分に鈎針が刺さっていて、
時折肉切り包丁を持った男が、女の体を切り裂いて、
『肉』を取り出しているのが見える。
- 447 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:47:00.16 ID:v+tkSpTq0
良く見ると、テーブルに座って『肉』を貪り食っているのは、
男の外見をした人だけだった。
女性はいない。
歩いている人の中にも、女性は見受けられなかった。
「汀ちゃん……!」
引きつった声を上げて、理緒が汀にしがみつく。
汀はそれを怪訝そうに見ると、息を切らし、
熱で顔を赤くしながら、その場に手を広げてくるくると回って見せた。
「どうしたの? 面白いじゃない。
こんなに狂ってなきゃ、楽しめないよ」
「楽しむ? 何を楽しむっていうんですか!」
- 448 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:47:33.14 ID:v+tkSpTq0
ヒステリックに問い返した理緒に、
汀は近くのテントを覗き込んで、面白そうに笑い、答えた。
「全部だよ。ほら、しっかりして。行こ」
手を引かれて理緒が、ふらつきながら狂宴の中を歩き出す。
まだ生きている女性もいるらしく、
所々で、絞め殺す断末魔の声が聞こえる。
その度に耳を塞ごうとする理緒を、汀は不思議そうに見ていた。
「折角だから入ってみよ」
サーカステントの前について、汀は、係員と思われる男性を見上げた。
『汀、状況を説明しろ』
そこで圭介の声に邪魔され、彼女は頬を膨らませた。
- 449 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:48:06.10 ID:v+tkSpTq0
「今、いいところなの」
『端的でいい』
「中核に近い心理壁の中に入り込んだよ。
おそらく、この人の主人格だね。
自壊型の特徴が見れる。
前後左右トラウマだらけだよ! 以上報告終わり!」
『……残り七分だ。慎重に行け』
「主人格……これが……?」
理緒が、そこで震える声を発した。
「高畑先生、こんなのおかしいです!
どうしてレベル2の人の心の中が、こんなに濁ってるんですか!」
悲鳴のような声を発した理緒に、汀は息をついて答えた。
- 450 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:48:46.85 ID:v+tkSpTq0
「そっか。理緒ちゃんはDIDの人の心の中にダイブするのは、
初めてのことなんだ」
「そうですけれど……」
『……DID患者は、既に何らかの強い心的外傷を受けて、
精神分裂を起こしている。
つまり、冒された主人格の方は、「もう既に崩壊している」状態なんだ。
人の心は不思議なもので、そんな状態になったら、正常な人格をつくり、
「自己」を保とうとする』
圭介はそう説明し、何でもないことのように言った。
『一般的なDID患者の主人格、
その崩壊レベルを自殺病に換算すると、レベル7に相当する』
「な……っ!」
- 451 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:49:32.29 ID:v+tkSpTq0
唖然と硬直した理緒の手を引いて、汀は受付の男に言った。
「Two Children and a cat, please!」
汀の肩の上で、小白がニャーと鳴いた。
顔にモザイクがかかった、ピエロ風の男は、
チン、チン、チンと切符を切ると、それを汀に手渡した。
インクではなく、血液で「999」とプリントされている。
「これは……」
「持ってた方が良さそうだよ。悪魔の数字、
欧米では『666』って言われてるけど、
夢の世界では、それが反転して逆になるの」
- 452 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/19(金) 19:50:03.86 ID:v+tkSpTq0
「私、そんなこと知らない……
マインドスイーパーの学校では、そんなこと教えてもらわなかったです。
汀ちゃん、どうして……」
「早く。始まっちゃうよ」
「始まるって、何が……」
「ショーだよ」
目をキラキラさせながら、汀はそう言った。
「この人の心の中で、
一番狂ってて、一番面白いショーが始まるんだよ!」
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