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少女「水溜まりの校庭でつかまえて」
- 58 名前:VIPがお送りします []
投稿日:2010/12/23(木) 16:33:12.02 ID:fJ2jl6pYO
翌日の放課後。
僕「ねえ女ちゃん」
女「ん、どうしたの〜?」
僕「今日は七不思議の調査しないの?」
女「……あんまり新しい噂がなくてさ〜。体育館だって授業の時調べたけど、別に何もなかったし」
僕「へへっ、じゃあ僕が一つ教えてあげるよ」
女「え?」
僕「一つ、不思議が見える場所を知ってるんだ!」
- 61 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 16:38:27.20 ID:fJ2jl6pYO
女「……ここ?」
僕は彼女を、昨日の水溜まりがあった辺りまで連れてきていた。
今朝は晴天だったせいか、水溜まりは無く地面が少し湿っている……くらいの印象だ。
女「……本当に、ここでその子と話せるの?」
僕「うん。昨日話したもの」
女「で、肝心のその子はどこにいるの?」
僕「ん……えっと」
僕は水溜まりのあった場所を指差した。
僕「昨日はここにいたよ」
- 62 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/23(木) 16:43:27.74 ID:y3ZdiGQZ0
つかまえての人か
今回も楽しみにしてる
- 63 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 16:43:51.07 ID:fJ2jl6pYO
女「ここにいたって……地面から出てきたの?」
僕「違うよ、水溜まりの中にいるの。本当は三年生のベランダにいるんだけど……」
女「えっ、私たちの教室の所?」
彼女は、二階のベランダをパッと見つめた。
僕もその動きに釣られて同じ場所を見た。
でも、そこは昨日と同じで何も見えなかった。
女「……いないじゃん」
僕「だから、昨日は水溜まりの中で……あれ?」
一晩あけて頭の整理が出来ていないのか……うまく、説明が出来ない。
僕(他の人にわかるように説明するのって、難しい……)
- 64 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 16:48:06.73 ID:fJ2jl6pYO
僕「あ、そ、そうだ」
思い出したように、僕は水溜まりのあった場所に話しかけてみた。
僕「ね、ねえ。来たよ、こんにちは」
……。
昨日聞こえた声は返ってこない。
僕「あ、あれ?」
女「もう、協力してくれるのは嬉しいけどさ。あんまり変な噂は流しちゃダメだよ〜」
あはは〜と、彼女は軽く笑っている。
僕「べ、別にそういうつもりじゃないよ」
しかし、声が聞こえない以上はただのイタズラになってしまう。
- 65 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 16:57:24.60 ID:fJ2jl6pYO
女「ふふっ、優しいね僕ちゃんは。そんなに気にしないでいいのに」
僕「でも……」
本当に彼女はいるんだ。
女「大丈夫だよ、不思議が見つからなくても新聞は作れるんだからさ」
僕「……」
結局、その後も声をかけてみたけれど反応はなかった。
あの女の子は、ずっと同じ場所にいると言ったのに。
たまたま、あの場所から離れていたんだろうか。
それとも今日は話したくない気分だったのだろうか。
僕たちが帰路についたのは、ちょうど夕空に一番星が光った頃の時間だった。
- 66 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 16:57:58.93 ID:fJ2jl6pYO
すいません、少し休憩挟みます
- 71 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 18:57:11.78 ID:q798NYZ90
>>1をまっていた!
これでクリスマスもかつる!
- 73 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 19:38:07.57 ID:fJ2jl6pYO
僕「ね、ねえどこいくの?」
女「いいからついてきて〜」
学校を後にした僕たちは、もう夜になりそうな帰り道を歩いていた。
僕が、付き合わせたお詫びに近くの駄菓子屋で何か奢るよ、と言ったら……。
女「……あ、それだったらついてきてよ」
僕(言われるままについてきたけれども)
- 75 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 19:43:27.24 ID:fJ2jl6pYO
僕はいつもと違う道を通って、家に向かって歩いている。
狭い路地や、竹林に囲まれた敷地の横を抜けて……彼女の後ろにくっついていた。
僕(方角は合ってるけど、ちょっと回り道だよ……)
女「あ、ほらついたよ、ここ」
狭い道を抜けると、車が走る大通りに出た。
僕「ここって、コンビニ?」
女「そうだよ。私、ここで食べたい物があるんだ」
- 77 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 19:49:03.49 ID:fJ2jl6pYO
お店に入ると……真っ白な電気とヒーターの匂いが僕たちを包んだ。
僕「あったかい」
女「あ、僕ちゃんお金いくら持ってる?」
僕「んと、50円」
もともとは駄菓子屋で使う予定だったお金だ、コンビニで買い物をするには少し頼りない。
女「ふふっ、よかったちょうど、それくらいで」
彼女的には都合がいいらしい。
女「すいません、肉まん一つ下さい〜」
レジの前で、彼女は中華まんの入っているケースを指差して言った。
僕「……食べたいのって肉まんだったんだ」
- 78 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 19:54:50.21 ID:fJ2jl6pYO
お金を半分づつ払った僕たちは、コンビニの外でさっき買った肉まんを分けあった。
女「はい、半分あげる」
僕「あ、ありがとう……」
美味しそうな湯気が出ている。
冷めないうちに口に運んでしまおうと、僕は肉まんにかぶり付いた。
僕「ぱく……美味し」
女「ふふっ、温かくて美味しいね〜」
僕「これが食べたい物?」
女「そうだよ、冬はこういう食べ物の方が幸せになれる気がする」
二口、三口で半分の肉まんはどんどん小さくなっていく。
温かいけれど、男の子の僕には少し足りない量だった。
- 79 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 19:58:41.13 ID:fJ2jl6pYO
女「ごちそうさま」
僕「……ごちそうさま」
ゴミを捨てて、僕と彼女は向き合う形になった。
そろそろお別れの時間だ。
僕「肉まん、ありがとうね」
なぜかお礼を言ってしまう。
女「うん、美味しかったよ!」
お腹がふくれたせいか、彼女は元気に返事をした。
僕は、少しだけ水溜まりの中の少女の事を考えた。
僕(あの子も温かい物は好きなのかな……)
次にあったら聞いてみよう。
女「じゃあ、またね」
僕「うん、バイバイ」
- 80 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:04:34.83 ID:fJ2jl6pYO
『えっ、好きな食べ物?』
次に彼女に会えたのは、12月に入ってすぐの辺りだった。
校庭を歩いていると、久しぶりな声が聞こえてきて……。
この日も雨が降っていた。
水溜まりの中には、変わらない様子の彼女が見えた。
僕「うん、何が好きかなって思って」
『……あんまり覚えてないや。最近ご飯だって食べないし』
僕「そう、なんだ」
『うん……』
帰りのコンビニ思い付いた、この話題はあまり良くなかったらしい。
水の中の彼女が、ちょっとふて腐れた様子で手すりにもたれ掛かっている。
- 81 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:09:43.38 ID:fJ2jl6pYO
僕「あ、あのさ」
雰囲気を変えるために、僕はまた話を始めた。
『ん〜?』
僕「最初に会った次の日に……会いにきたのわかった?」
『……知らないもん』
ぷいっ、とそっぽを向いてしまう。
僕「ほら、話しかけたじゃん。覚えてない?」
『覚えてないよ。校庭で女ちゃんと二人で歩いてる所は見たけど……声なんて聞こえなかったもん』
僕「え……」
- 82 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:13:46.55 ID:fJ2jl6pYO
『放課後女ちゃんを誘ってさ、一緒に外に出たのは見てたよ』
僕「まあ、ベランダからなら見えるだろうな」
『でも、外に二人の姿が見えても……何も聞こえなかった。だから覚えてないんだもん』
僕「ふうん?」
『私ね、きっと雨が降らないとお話出来ないんだよ』
- 83 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:18:07.56 ID:fJ2jl6pYO
『誰かに話しかけて聞いてもらえるのも、声が届くのも……雨の日だけ』
僕「……ねえ、みんなに話しかけて声が届いたのは、どの場所?」
『そこの僕ちゃんが立ってる辺りだよ〜……ベランダから教室に話しかけても、誰もこっちを見てくれないんだもん』
『雨の日にその辺りに人が来るとね、あ、お話できるって感じるの』
僕「それはどうして?」
『わかんないもん……』
僕「わかんない、ね」
- 84 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:22:17.27 ID:fJ2jl6pYO
僕「……まあ理由はなんでもいいのかもね」
『……』
僕「こうやってお話出来てるんだからさ、ね?」
『……』
『考えるのが、面倒になったんでしょ?』
僕「あ、バレた?」
『……くすっ』
落ち込んでいた彼女が、少しだけ笑ってくれた。
『もう、すごい適当な人なんだね僕ちゃんて』
僕「そうかな? あまり細かい事は気にしないだけだよ」
『……確かに、見てるとすごい適当な人間だもんね』
僕「え? 見てるとって、何を?」
- 85 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:26:10.36 ID:fJ2jl6pYO
『授業の様子とか、友達付き合いとか見てると……ああ、ゆるゆるな人間だな〜って』
僕「……見てるの?」
『うん。暇な時間はずっと教室見てるよ。クラスみんなの名前だって知ってるし、誰がどんな性格かだって……わかるもん』
僕「それはそれで何か怖いよ」
『くすっ、だって楽しそうなんだもん。いいよね、小学校ってさ』
- 86 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:26:26.17 ID:LbvLBbftO
このスレタイ見覚えがある
僕「小学校で」女「つかまえて」
みたいな
- 87 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:30:57.52 ID:fJ2jl6pYO
『お友達がたくさんいて、まだ勉強も楽しい時期で……毎日新しい刺激ばっかり』
『女ちゃんみたいに探検したり、放課後の学校でかくれんぼしたりとかさ……』
小学校の事を語る彼女の口調は、とてもサッパリとしている様子だった。
見た目的には、僕たちと同じ年齢に見えるくらい幼いのに……言葉の一つ一つが重苦しく感じた。
僕「……」
『楽しそうだよね、本当にうらやましいよ』
そう言えば、僕は彼女の事を何も知らない。
- 88 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:41:24.03 ID:fJ2jl6pYO
僕「ねえ」
『……な〜に』
手すりに腕をのせて、それを枕にしている。
遠い表情をしながら返事をする彼女に……僕は思いきって尋ねてみた。
僕「あのさ、君は一体誰なの?」
『私?』
僕「……」
考えてみれば当然だった。
水溜まりにだけ映る少女、動かずずっと同じ場所にいる。
僕「僕は先入観から、七不思議の一つの……ただの噂の女の子だと思っていた」
『……うん、そんなお話もしてたね』
僕「本当に君がそうなの?」
- 89 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:47:22.74 ID:fJ2jl6pYO
『噂や七不思議なんて、どこの学校にもあるでしょ。学校のどこかに女の子が出るなんて話……』
僕「じゃあ、君は噂によって生まれた……」
『多分、違うもん』
言い終わる前に、彼女の言葉が重ねられた。
『噂なんて知らないよ。気付いたらここにいて、ずっと一人』
『最初は泣きっぱなしだったよ。誰も私に気付いてくれないんだもん』
僕「……」
『泣いて、泣いて、泣いて。十年くらいは泣きっぱなしだった、ずっとうずくまって泣いていたんだもん……』
- 90 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 20:55:56.88 ID:fJ2jl6pYO
僕「じ、十年?」
『うん、それだけ泣いたら慣れちゃって。今度はボーッと外や教室を見ていたの』
僕「そ、それで?」
『……それから七年くらい後かな。いつもみたいに教室を覗いているとね』
「……あ」
『教室の中の女の子と目が合ったの。私に気付いてくれたの』
「……ちょっと、ごめんね。暑いから」
『そう言って、友達のいた教室から出てきて……私の隣に立って言ってくれたんだ』
「こんにちは、今日も寒いわね」
- 91 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:02:50.28 ID:fJ2jl6pYO
僕「……その子は?」
『私に気付いてくれた……たった一人のお友達。放課後とか、よくこのベランダでお話したんだよ』
『楽しかったな……』
僕「水溜まりから話しかけたんじゃないの?」
『その子は違うよ、何もしないで本当に私に気付いてくれたの。お話も普通にしてたもん』
僕「そう、なんだ」
『……でも、その子も何年か前にいなくなっちゃった。お別れする前、すごく泣いてた』
- 92 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:09:45.18 ID:fJ2jl6pYO
『私はもう泣く事に飽きちゃってたから、ただ寂しいなって思いながら彼女を見てたの』
『それでね、何度も何度も私に言ってた』
「助けてあげられなくてごめんなさい、雪が降るまで一緒にいてあげられなくて、ごめんなさい」
『……』
僕「雪? 助けるって?」
『わかんない、ただ謝ってだけだったもん』
僕「いなくなったって事は……卒業かな?」
『ううん、お引っ越し。とても遠い所に引っ越すんだって言ってた』
僕「そう、なんだ……」
- 93 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:15:13.13 ID:fJ2jl6pYO
『お別れの日も雨が降っていてね……ちょうど僕ちゃんが立っている辺りかな、その女の子が何か落とし物したみたいだった』
僕「落とし物?」
『あまりよくは見えなかったけど……でも、次の日からね、私の声が聞こえるようになったんだよ』
僕「この……水溜まりの辺り?」
『うん。逃げちゃう人ばかりだったけど……嬉しかったよ。私の声が聞こえてるんだ、って思うと』
- 94 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:20:10.86 ID:fJ2jl6pYO
『えへへっ、実はね、こういう風に話せるようになってからまだ一年くらいしか経ってないんだよ』
僕「えっ?」
『一年で色んな人に逃げられちゃったけど……でも誰とも話せなかった十七年に比べたら……』
『こんなに早く、お話できる人に会えると思ってなかった。あの子のおかげ……だから私今、とても幸せだよ』
僕「……」
情報が多すぎて、何を聞き返せばいいのかわからない。
水溜まりの中には、ニコニコと年相応の笑顔を見せた女の子がいる。
その笑顔は、本当に幸せそうだった。
- 95 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:26:56.03 ID:fJ2jl6pYO
彼女の話を聞き終わった後、学校で最後のチャイムが鳴った。
こんなに遅くまで話していたんだ……。
『あ、じゃあまたね……水溜まりができたらお話しよう』
僕「……」
僕は小さく、バイバイとだけ言うと学校を後にした。
雨はもうすっかり弱くなっていて、帰る途中では雲の向こうにうっすらと月が見えるくらいにまでなっていた。
……帰りながら、僕は今日の彼女の話をずっと思い返していた。
- 96 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:32:33.74 ID:fJ2jl6pYO
まず、彼女は十八年も前からあの場所にいる。
理由は不明だが、嘘を言っていた様子はない。
そして十七年目のある日、彼女を見る事ができる女の子に出会って……。
引っ越しでお別れする日、助けられなくてごめんなさい、と言われる。
僕(水溜まりに、彼女は何か残していったのだろうか?)
彼女がいなくなった次の日から、水溜まりを通して誰かと話す事ができるようになった。
そして、一年間話し続けた結果……僕とこうして話すようになった。
- 97 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:38:51.59 ID:fJ2jl6pYO
僕「……」
一通り考えてみた後、僕にはもう、一つの事実しか浮かんでこない。
僕「あの子は……地縛霊、なのか」
本で読んだ事がある。
自分が死んだ事に気付かず、ずっと成仏できずに同じ場所にとどまっている……。
うろ覚えだが、そんな感じの霊だったはずだ。
彼女は自分が死んだ事に気付いているのだろうか。
そして、何より地縛霊は危険な存在だと書いてあった気もする……。
僕「でも……」
- 98 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/12/23(木) 21:43:45.57 ID:fJ2jl6pYO
『くすっ、水溜まりじゃないとお話してもムダだもん〜』
『給食美味しそうだったね〜……ピーマンなんて残して、こっども〜』
『……お話できて、嬉しかったんだよ』
まだ数える程しか話してないけれど、僕には彼女の表情が嘘だとは思えなかった。
ただ友達と遊びたい、それだけの女の子……。
今の彼女からは、それ以外の感情は伝わって来ていない。
僕「……」
そんな調子だから僕は、彼女を悪い霊だと考える事をすぐに止めた。
- 99 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:48:28.79 ID:fJ2jl6pYO
僕(そうだよ、お話していて楽しいんだもの)
僕(……霊なら、今度何かお供え物でも持っていこうかな。気持ちが伝わればいいって話も聞くし)
僕(うん、そうしよう!)
僕は、誰もいない道の真ん中で一人納得したかのように走り出した。
彼女と一緒に話していると、何故だか自然と元気になり、また不思議な気持ちにもなった。
白いワンピースを着た彼女の姿が、僕の頭の中に居座り始めた。
僕は、これからの冬を楽しく過ごせる気がしていた。
空はこんなに真っ暗なのに。
- 101 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:55:44.94 ID:fJ2jl6pYO
僕「おやすみなさい……」
布団に入り眠る前に、微睡んだ頭で僕はもう一度彼女を思い出す。
『……またね』
「もう一緒に遊べないの、ごめんなさい」
思い出した姿は、なぜか別れの場面だった。
彼女は寂しそうだけど淡々と、一方の女の子はわんわんと泣きながら涙を流している。
「……雪が降るまで、一緒にいないと……」
いないと?
『大丈夫だよ、私そんなのへっちゃらだもん』
言葉ではそう言いながらも、彼女はよくわからない、と言った表情で泣いている女の子をただ見ていた。
- 102 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 21:59:38.67 ID:fJ2jl6pYO
「うっ……ぐすっ、ぐすっ……うわあああん……」
友達と別れるのは、そんなに悲しい事なのか。
僕はぼんやりとしながらそれを見ていた、まるで自分もその場に居合わせているかのように。
『大丈夫だよ、私はずっとここにいるんだから。会いたくなったらまた会いに来てよ』
「……」
泣いている女の子は、もう何も言わなかった。
- 103 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:07:03.14 ID:fJ2jl6pYO
「……」
場面が変わって、ベランダから校庭を見下ろすような視点に今は変わっている。
ああ、これは夢なんだと途中で気付いた。
校庭の真ん中では、さっきまで泣いていた彼女が……傘で水溜まりの中を何かなぞっている。
雨は容赦なく彼女に降り注いでいる。
それでも、彼女は傘をさそうとせずに、ずっと水の中をいじっている。
僕(ああ、そういえば校庭の七不思議があったっけ)
僕(好きな人の名前を土に書いて、一晩経つと両思いになれるとか)
僕(休みの日に、校庭の真ん中で名前を呼ぶとその人も学校に遊びに来て仲良くなれるとか……)
- 104 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:13:29.98 ID:fJ2jl6pYO
いわゆる、おまじない的な不思議を僕は覚えていた。
「……」
でも、彼女がしている動きはそれとは全く違っていて。
僕(……あ、目が覚めそうだ)
なんとなく、意識がその場から遠のく気がした。
彼女は頭に付けていたピンクのヘアピンを外して……それを水溜まりの中に落とした、ように見えた。
……それを落とした瞬間、僕の意識は朝の七時半に飛んだ。
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