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侍「言葉が通じなくとも」
596 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/23(火) 01:49:33.03 ID:OBKTsQhAO
…………

少女『あつ……』

照りつける太陽に目を細める少女

吹き出る汗に釣られ、無意識の内に弱音を零していた

少女『緑一つない……本当これ、全部砂なんだ……』

侍『……』


見渡す限りの砂、砂、砂……

植物の類は一切見られず、眼前には焼き増しの景色が広がっている


601 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/24(水) 04:51:41.39 ID:zUlP7eyAO
少女『お兄さん』

侍『―』

少女の呼びかけに、手綱を握る侍が顔を僅かに向ける

少女『私達、この砂の海を渡るんだよね』

侍『……』

少女の語調は少し弱かった


はじめ、侍達は砂漠を越える北東の経路を避け、南下するつもりだった

といっても、その時点では砂漠の存在を知らず、単に地図で見た経路上で、人里と人里の距離が長かった為に回避しようとしたのだ


602 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/24(水) 05:02:56.58 ID:zUlP7eyAO
少女『そうだよね……これじゃあ誰も住めないよ』

少女は今、地図上の空白の意味を知った

人がいないのではなく、いられない場所

人里がないのではなく、作れない土地

草も木も水も……僅かな希望すらない、砂の海

ただ、通り過ぎる事しかできない世界

少女『…………』


ペシッ

少女『! な、何を』

侍『――』

少女『ん、これ……地図?』ガサ


603 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/24(水) 05:32:28.98 ID:zUlP7eyAO
少女『でもこれ、昨日まで使ってたのと違……あ!』

侍の差し出した一枚の紙

それは砂漠の地図だった

緑色の島を中心に砂の海が広がり、ぽつぽつと目標物が点々と存在するのが窺えた


だが、地図には幾度も幾度も修正が加えられた跡があった

それは、この地図が未だ不完全なもので、今も手探りの調査の最中である事を示していた

地図上に走る、幾重にも重ねられった経路図が砂漠という土地を旅する事の難しさを物語っている


少女『でも……すごい……こんな何もない所に希望を見出すなんて……』

少女は、完成には程遠い地図を手に、震えていた

擦り切れ穴が空き、すっかり色褪せた一枚の紙に、諦めという終着点は無い

それはまさしく、希望の地図だった


604 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/24(水) 05:34:17.87 ID:zUlP7eyAO
連休とって続き書こうかと思う今日この頃
おやすみなさい


610 名前: [sage] 投稿日:2011/08/24(水) 22:28:36.64 ID:zUlP7eyAO
こんばんは、1です
「言葉が通じなくても」の進行について、皆様にご相談があります

以前から公言している通り、当スレは長編を予定しております
となると、途中から読む人がいる事も考えて、「あらすじ・コピペ」等があった方がいいのではと思い至りました

どこから読んでもいいように、オムニバス形式といいますか、短編集のようなスタイルで書いていたつもりなのですが、いかがでしょうか?
ご意見願います


611 名前:NIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage] 投稿日:2011/08/24(水) 22:36:59.90 ID:hxesPfVAO
個人的には不要かと思います

あらすじがあると序盤の話を読む意義が薄れるのと、話毎で読むにはかえって読みづらくなるんじゃないかなぁと
工夫次第かもしれませんが。


612 名前:NIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage] 投稿日:2011/08/24(水) 22:44:59.00 ID:YmTo3pkEo
自分も不要かと…
基本的に必要な情報は「侍と少女はしゃべれない」ぐらいなものですが
それもスレタイで補っているため大丈夫だと思います


613 名前: [sage] 投稿日:2011/08/25(木) 08:03:00.62 ID:dA5ar6TAO
なるほど、参考になります
次スレまでまだ400弱あるのでじっくり検討したいと思います
引き続きご助言よろしくお願いします
>>611>>612のお二方、ありがとうございました


本編は明日が休みなので沢山書けそうです
御期待下さい


615 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/26(金) 23:13:20.16 ID:4gq4JzmAO
パチパチ……

地平線に太陽が沈み、宵闇が砂漠を包んだ
一行は薪に火をつけ、夜営をする事にした

商人頭「ング……ぷはぁ! アンタも一杯やるかい? 芯から温まるぜ」

侍「いや、遠慮しておこう」

商人頭「そうか? んじゃあ代わりに俺が……」

若い商人「飲みすぎないで下さいよ。いっつも見張りの交代の時間に起きないんだから」

商人頭「わかってるって」トクトク

砂漠は夜行性の動物が多い為、旅人は交代で見張りを立てる

夕食を終えると、一行は見張りを残して束の間の休息につくのだった


616 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/26(金) 23:44:57.08 ID:4gq4JzmAO
パチ…パチ……

頑健な商人「……っと!? へへ……すまねぇ、ちょっと寝てたわ」

侍「疲れているなら無理をせず寝るといい。時間まで私が見張りをする」

頑健な商人「いやいや! アンタに任せて自分だけ寝るなんて、居心地悪くて体に悪いぜ」

最初の見張り番になった侍は、筋肉隆々の頑健な商人と焚き火を囲んでいた

見張りは基本的に二人で、砂時計が四回落ちきったら交代の約束になっている

頑健な商人「お、砂が空っぽだ。もしかして、結構熟睡してた?」

侍「うむ、砂時計一回分は寝ていた」

頑健な商人「へへ、悪いな。アンタは眠くないのかい?」

侍「ん……」

商人の問いに、侍は焚き火に目を落とし

侍「慣れている」

と、短く答えた


617 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 00:00:41.18 ID:rOA3sysAO
頑健な商人「慣れてるって、やっぱり普段から用心棒をやってるって事か?」

侍「……」

頑健な商人「いや、言いたくないなら無理に答えなくていいんだ……あ、そうだ!」

侍「いや、嫌という事は」

トクトク……

頑健な商人「ほら、居眠りした借りだ。飲んでくれ」


618 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 00:08:14.45 ID:rOA3sysAO
酒の注がれた木製の器が差し出される

侍「む……では一杯だけ」

頑健な商人「俺の奢りだ、ささグッと!」

勘が鈍るので控えている酒だったが、お詫びにと出されて断る程、侍は野暮でなかった

器に口を付け、グッとあおると


侍「……ッ!? ゲホッ! ゲホッ!?」

頑健な商人「お、おい!? 大丈夫か!」

思い切りむせた


619 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/08/27(土) 00:29:26.05 ID:ac7VYNtSO
かわいいなwwwwwwwwwwww


620 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 02:29:04.64 ID:rOA3sysAO
――ビュォォォォゥ
        ォォォゴゥッ――


駱駝から降りて全身を外套に包み、一行は嵐が過ぎ去るのを待っていた

少女「―――……ッ」ギュッ

侍「く……ッ、大丈夫、大丈夫だ」グッ


突如現れる自然の脅威、砂嵐

砂漠で吹き荒れる強風に巻き上げられた砂は、皮膚を切り裂き、目を潰し、呼吸器へ侵入せんと旅人に襲い掛かる

砂嵐の前に旅人は抗う術を持たず、ただただ脅威が過ぎ去るのを待つしかない

バサッ バサバサッ

侍「そう長くは続かぬと商人達が言っていた。もうじき過ぎ去るだろう」グッ

少女を庇い、自らの外套で少女を覆う侍

少女「―」ギュ

外套を叩く風の音がやけに大きく聞こえた


621 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 02:36:22.90 ID:rOA3sysAO
……

若い商人「大丈夫でしたか?」

侍「ああ、少し擦り切れはしたが」

小柄な商人「お嬢ちゃんも、無事で何より」

少女「――」ペコ


商人頭「おーい! 無事が確認できたなら出発するぞー!」

若い商人「はーい! さ、先を急ぎま」


――――ヒュンッ




622 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 03:03:34.71 ID:rOA3sysAO
若い商人「え……っ!?」

若い商人の鼻先を侍の刀が掠め


ブシャァッ――


鮮血が砂を赤く染める

小柄な商人「う、うわぁぁぁ!?」ドテッ

初老の商人「こ、この人殺」

若い商人「ぶへっ!? っぺッ! なんだこれ!」

初老の商人「っえ!? 生きてる……」


ボゴォォッッ

「ギィィィイイ!!!!」


初老の商人「!? うわぁっ!?」



――――ズル
       ブシャァァ……――


侍「拙者が援護する! 早く馬に乗れ!」


623 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 03:16:53.55 ID:rOA3sysAO
肌黒商人「大王土竜だ!! ここはモグラの縄張りだ!!」

商人頭「早くしろ! 砂に引きずり込まれたら終わりだぞ!」

若い商人「わかってるよッ!」


ボゴォッ

駱駝「ングェェー!?」ズルッ


小柄な商人「荷馬が!?」

初老の商人「見捨てろォ!! 死んだら元も子もねぇ!!」


侍「ふ――ッ」ヒュッ

大王土竜「ギィィィィイ!?」ブシャッ


小柄な商人「く……! はッ!」ピシッ


ドダドダドダドダドダドダドダ――


624 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 03:34:08.07 ID:rOA3sysAO
若い商人「隊長! あの人置いてきちゃいましたよ!?」

商人頭「一端離れるだけだ! 守る物が多すぎちゃ兄さんも戦いに集中できん!」

商人頭「それに、俺達の鉄砲じゃモグラ相手には不利」


――――ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――


商人頭「な、なんだ!?」

駱駝「ンゲェェェェッ!!!!」

頑健な商人「こ、こら!? 落ち着け!」

若い商人「駱駝が怯えている……隊長! 」

商人頭「わかってる! ここを離れるぞ!」ピシッ


625 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 03:42:11.45 ID:rOA3sysAO
大王土竜「ギィィィィィ……!!」ザザザザ

ザザザザザ……

侍「何だ? かなわぬと見て逃げ出したか……」


――――ゴゴゴゴゴゴゴ――――


侍「!? 地震!? 違う! 地中を何か巨大な物が移動している!!」


―――――ドバァァァアンッ


侍「!! あれは!?」


626 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 03:52:33.29 ID:rOA3sysAO


――――ドバァァァァアンッッ――――



姿の海から飛沫を上げ、巨大な生物が姿を表す

小柄な商人「あ……ああ……」ガタガタ

その頭には口と思しき物しかなく、体には首も、肩も、手足も無い


いかにも、獲物を喰う事しか考えていない風貌である


年配の商人「す……スナミミズだ……!!」


砂蚯蚓「キシャァァァアアアッッ!!!!」





627 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/27(土) 03:54:15.70 ID:rOA3sysAO
休みだというのに全然書く時間がなかったです
申し訳ありません

おやすみなさい


628 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [sage] 投稿日:2011/08/27(土) 06:42:52.99 ID:+rVkng4uo
ドラクエとかの砂漠越えイベントだなぁ とりあえず大ボス倒したらある程度落ち着くか


629 名前: [sage] 投稿日:2011/08/27(土) 10:20:47.99 ID:rOA3sysAO
>>626
訂正
姿→砂です

読み直すと誤字多いなぁ


630 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/08/28(日) 15:44:02.05 ID:zPwnv+9b0
砂漠四天王「砂蚯蚓がやられたか…」
砂漠四天王「だが奴は我らの中でも最弱…っ!」


633 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/09/02(金) 13:24:52.72 ID:BeMo/uGAO
若い商人「うわ……うわあああぁぁぁ!?」

駱駝「グェーッッ」

商人頭「声を出すな! 奴らは音で俺らを狙って……っ!」


ドバァァァアアンッッ


砂蚯蚓「キシャァァァァァ……ッ!!」

ムシャ……ムシャ……

商人頭「……ッ」ザッ

捉えた駱駝を咀嚼し終えると、砂蚯蚓は歓喜の声を上げた

小柄な商人「……ッ、……ッ」ガタガタ

誰もが息を殺した

砂蚯蚓は口しか無い頭で辺りを見回し、恐怖の声が上がるのを、今か今かと待っている
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


634 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/09/02(金) 13:38:27.34 ID:BeMo/uGAO
砂蚯蚓「シャー……!」

肌黒商人「……」ゴクッ

年配の商人「……」ブルッ

砂蚯蚓との静かな戦いは続いた

どれだけ太陽が肌を焼こうと、どれだけ渇き水を欲しても、商人達は身じろぎ一つできない

若い商人「はぁ……はぁ……!」

ジリジリと、砂漠は旅人の体力を奪ってゆく

商人頭(諦めてくれ……頼む! 大人しく帰ってくれぇ!!)

皆、一心に祈った

涙も出ないほど渇いた身体で、ひたすらに願い続けた
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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636 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/09/02(金) 15:09:09.45 ID:BeMo/uGAO
砂蚯蚓「…………」

商人頭「……」

ズズ……

若い商人「!」


ズズズズ……


砂蚯蚓の巨躯が砂中に消えてゆく

小柄な商人(……やった!)

後ろ髪を引かれる様子もなく

年配の商人(やった!)

地響きを立てて、砂蚯蚓は姿を消した
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


642 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/09/13(火) 22:59:38.39 ID:RD+i9uvAO
ジリジリ

ジリジリと、太陽が肌を焼く音が聞こえる

頑健な商人「は……」

流れる汗の不快感

小柄な商人「……はは」

瞳に映る青空

商人頭「た……すかった」

そこに、砂漠の主はいない

若い商人「助かったんだ……!」ギュウッ

自身の身体を強く抱き締める

砂蚯蚓の立てる地響きが遠退き、一行はようやく脅威が去った事を実感した


643 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/09/14(水) 00:20:46.94 ID:XnbC1oUAO
商人頭「……そうだ! 嬢ちゃんは!?」

肌黒商人「! そういや、一人で駱駝に乗れないんだっけ!?」

ふと我に返り、辺りを見回すと、少女の姿が見当たらない


少女は、侍に抱えられるようにしながら駱駝に乗っていた

何度か一人で乗る練習はしてみたものの、一朝一夕で駱駝の乗馬を体得できる筈もなく、そのまま出発に至った


頑健な商人「もし落馬して砂漠に取り残されでもしたら……」

年配の商人「マズいぞ! 日が暮れる前に探さねぇと!」


644 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/09/14(水) 00:27:32.79 ID:XnbC1oUAO
少女『はぁ……っ、はぁ……っ!』

手綱を握り締めていた

縄のあとが掌につく程、強く握り締めた

振り落とされぬよう、必死に身体を使いながら

ひたすら遠くへ遠くへ、駱駝を走らせた


少女『ンク…………はっ!? うわぁ!』


ドサッ


気がつけば砂漠に一人

駱駝「グエー」

駱駝と二人ぼっちになっていた


645 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage] 投稿日:2011/09/14(水) 00:30:02.18 ID:XnbC1oUAO
今日はここまで
ようやく展開の構想が固まりました
書きたいように書いているせいか、一人でリレーSSやってる気分です

>>641
ありがとうございます



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