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少女『言葉が通じなくても』
384 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/25(水) 22:13:26.81 ID:T7OftAAO
ザバーン

ザバーンッ

卸『ここ最近荒れっ放しだな』

漁師『ったく、これじゃあ家族全員飢え死にしちまう!』

卸『しかも日に日に酷くなってんだよな』

漁師『風ぁねぇのに…一体何なんだよッ』

ザバーンッ


漁師『どっかの馬鹿が海神様を怒らせたのか…』

卸『…津波でも来なきゃいいが…』


386 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/25(水) 22:22:27.79 ID:T7OftAAO


ダバーッン

漁師『ただ事じゃねぇ…波が高すぎる…!』

船乗り『それくれぇわかってらぁ! もう半月もこの港で立ち往生だ!!』

卸『海神様…どうか許して下せぇッ』

漁師『馬鹿! 俺たちゃ悪いことは何もしてねぇ! …何にもな!』

卸『でもよ…』

漁師『俺たちが…何したってんだよッ』


ダッバーンッ


387 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/25(水) 22:26:45.63 ID:T7OftAAO
………


ザザザザ…

婆ちゃん『アタシらの港が…』

ザザザザ…

子供『お母さん…』

母『…』ギュッ

ザザザザ…

卸『畜生…ぅ』


ダダァアアアアアアアッッッッ


漁師『港が…沈む……』

ドドドドドドドド


388 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/25(水) 22:31:00.62 ID:T7OftAAO
赤ん坊『アーッ! アーッ!』

主婦『うううううううっ…!!』

爺さん『儂らの故郷が…』

船乗り『どうやって国に帰ればいいんだ……』


漁師『ぐうっ…!!』ジワッ




ズン


漁師『…えっ』

ズンッ

漁師『や、丘が揺れて…!?』

ズシンッ

漁師『な、何だありゃ!?』


389 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/25(水) 22:43:19.47 ID:T7OftAAO


役人『何? 港が津波に!?』

部下『はい、ここ半月ほど海が荒れていたとは聞いていましたが』

役人『被害の規模は』

部下『死傷者は奇跡的に出ませんでしたが、あの港はもう…』

役人『そうか…』



役人『急いで被害者の受け入れ先を確保しよう』

部下『はい』


390 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/25(水) 22:56:10.67 ID:T7OftAAO
……

部下『なんとか全員の住居が決まりましたね』

役人『ああ、君の頑張りのお陰だよ』

部下『いえ、快く受け入れてくれた方々のお陰です』

役人『はは、確かに』

部下『まだまだ支援しなければならない事が山積みですね』

役人『ああ、とりあえず一段落ついたことだ。茶の一杯だけ飲ませてくれ』

カタカタ

役人『ん? 地震か?』



部下『まだ僅かに揺れてますね』

役人『地均しでもしているのだろ』ズズッ


391 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/26(木) 17:24:01.00 ID:J79E7AAO
……

ズズンッ

ズズンッッ


盾を持った軍人『止まれ! 止まるんだ!』

手ぶらの軍人『無駄だろ! あいつに知性があるようには見えない!』

盾を持った軍人『だが、なんとかしてあいつを止めないと街が…!』

伍長『どうします、隊長』

隊長『…大砲6門を一度に食らわせる。全部同時だ、わかったな!』

伍長『砲撃用意!』



砲撃手『点火準備ヨシ!』

伍長『狙え!』

砲撃手『照準ヨシ!』

隊長『ッてぇ!』


ドドンッッ

  ズガガガァアンッッ


392 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/26(木) 17:29:10.17 ID:J79E7AAO
モクモク…

隊長『…』

伍長『やった…?』



ズゥンッ


伍長『バカな!?』

盾を持った軍人『目標!健在!!』


ズゥンッ


隊長『本国に早馬を出せ! このままでは国中が踏み荒らされる…!』

伍長『隊長! 我々の街は…』

隊長『………住民を避難させるッ グズグズするな!』

伍長『! …ハッ』ビッ


393 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/26(木) 17:36:16.84 ID:J79E7AAO
………

ズンッ

役人『皮肉なものだな』

ズズンッ

役人『難民の受け入れ先を探した後に、自分の受け入れ先を探す事になるとは』

ズゥンッ

部下『…街が』


ズガァアッッ

ガラガラガラッ

役人『積み木でも崩すかのようだ…躊躇なく突っ込んで行く』

部下『私達の街など眼中にないのでしょうか』

役人『街どころか、この世すら眼中にないのかもしれん』


ズドォォォォォオッッ


394 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2010/08/26(木) 17:55:56.31 ID:J79E7AAO
……

将軍『堰を解放して鉄砲水で攻撃する作戦、失敗に終わりました』

大臣『召集した魔術師達による大魔術も成果を上げれませんでした』

国王『魔術も効かぬのか』

大臣『はい、どのような原理かは分かりませぬが、魔術干渉ができないようです』

将軍『兵器も一通り試しましたが、どれも芳しくありませんでした。一体何を素材にしているのか…』

国王『…あとどれほどで都に到達する』

大臣『あと7日ほどかと』

国王『…………民の避難だけはできるようにしておけ』

大臣・将軍『ハッ』


395 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2010/08/28(土) 23:14:30.52 ID:Hqu3UcAO
ズズンッ

ズズゥンッ


遮光の国より南、朔風と呼ばれる縦長の半島を襲った脅威

脅威は津波と共に現れ、陸を踏み荒らし、真っ直ぐ王都目掛けて北上しつつあった


ズゥンッ


とうとう王宮から避難勧告が下され、国民は移住を言い渡される

中には玉砕覚悟で戦いを挑もうと言う者や、王都と運命を共にしたがる年寄りもいた

が、着実に近付いてくる地響きとその巨大さに恐怖し、抵抗を訴える者は減っていった


396 名前:GEPPERがお送りします [sage saga忘れてた] 投稿日:2010/08/28(土) 23:30:40.36 ID:Hqu3UcAO


店長『12代続いた店も、私で最後か…』

奥さん『どうかしたんですか?』

店長『避難勧告が出た…近日中に王都が怪物に襲われるらしいから、荷物をまとめて逃げないと』

奥さん『とうとうこの日が来てしまいましたか…』

店長『すまない…折角商売が軌道に乗ったのに、また苦労をかけるね』

奥さん『あなたが謝ることはありません。…少しついてなかっただけです』



少女『諦めるには早いです!』バンッ

店長・奥さん『お嬢ちゃん!?』


397 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/28(土) 23:37:05.57 ID:Hqu3UcAO
少女『配達、終わりました』バタン

店長『ああ、ご苦労様』

少女『折角仕事を見つけたのに、邪魔されてなるもんですかっ』

奥さん『でもねお嬢ちゃん、軍隊があらゆる手を使っても駄目だったんだよ?』

店長『お嬢ちゃんが御伽噺の魔法使いでもない限り、怪物を倒すのは無理じゃないかな』

少女『ご心配なく、魔法使いは私じゃなくあっちですから』

奥さん『あっちって…』

侍『―』クルリンチョン

店長『えー…』


398 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/28(土) 23:47:11.46 ID:Hqu3UcAO
店長『お嬢ちゃん、お兄さんがどれだけ腕利きかは知らないけど、多分無理じゃないかな』

店長は、傷つけないよう言葉を選びながら少女を諭した

だが、少女は大人達の心配などどこ吹く風といった具合に

少女『大丈夫、店長さん達はいつものように美味しいパンを焼いてて下さい』

人懐っこく笑った


店長達は、怪物を倒すなどという少女の夢物語に何故か何も言えなくなってしまうのだった


399 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/28(土) 23:51:48.09 ID:Hqu3UcAO
少女『じゃあ、ちょっと行ってきます』

まるで配達に行くかのように言う少女

奥さん『ちょっと、本気かい!?』

少女『はい』キッ

奥さん『…!』

一転、人懐っこい笑みから凛とした表情になる

店長『…』



店長『…これ、売れ残りで申し訳ないけど』

奥さん『あなた!』

少女『こんなにいっぱい、ありがとうございます!』


400 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/28(土) 23:58:36.05 ID:Hqu3UcAO
店長は次の配達予定のパンを籠ごと渡した

売れ残りではない。正真正銘焼きたてだ

店長『私も馬鹿なことをしてると思う。でも、どこかお嬢ちゃん達に賭けてみたいと思う心があるんだ』

奥さん『あなた…』


少女『じゃあ、ちょっと倒してきます』ガチャッ

侍『…』ペコ


店長『いってらっしゃい』

奥さん『気をつけてね』


バタン


店長『私は、無事帰ってきてくれ…なんて言っていいのかな』

奥さん『言いたいと思う心があるなら、いいんじゃないですか』


401 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/29(日) 00:13:59.22 ID:HNBTqkAO
……

ザッ

少女『あれが怪物…』

朔風の王都から2日と半日歩いた場所で、二人は脅威に遭遇した


遠くから見た時は山が歩いていると見間違えた程大きな躯体

一歩踏み出す度に大地が揺れ、足跡はさながら地盤沈下の跡である

表面は干からびた海藻、苔、泥や瓦礫に覆われている

耳、鼻、口は無く、顔と思しき場所に目が二つ

体のそこかしこからガラガラガラという駆動音が聞こえ、まるで―


侍「カラクリのようだな」


403 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/09/04(土) 21:25:22.83 ID:9cI70oAO
>>1
早く…早く!続きを、読ませてくりorz

しかし 怪物がデカすぎる…!
どうやったら勝てるんだ?


406 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/09/06(月) 18:42:44.43 ID:4/DR6oAO
夏風邪ひいてたのと思い付きでVIPに立てたスレ消化するのに時間食ってしまいました

今日明日にでも再開しますんでしばしお待ちを…


407 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/09/07(火) 23:08:24.40 ID:39xvRYAO
ズゥゥン

少女『うわっと!?』ガクッ

怪物がただ歩くだけで地震が起き、転んでしまう

少女『これは…大見得切ったかな?』チラッ


侍『…』

侍は動かない、動じない

迫りくる怪物をしげしげと観察し、値踏みでもしているかのようだ

少女『…お兄さん? うわっ!?』

ズゥンッ

侍『…』ビリビリッ


408 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2010/09/07(火) 23:22:15.29 ID:39xvRYAO
少女『怪物からすれば私達も風景の一部なんでしょうね』グラグラ

四つん這いで堪える少女が怪物を見上げて言う

その大きさたるや、御伽噺に出てくる愚者の塔ほどではないか…と思ったぐらいだ

少女『もしくは、世界中が散歩道なのかも…』

皮肉を込めて言う


412 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/09/08(水) 23:09:31.84 ID:4Jis26AO
侍「ふむふむ」スッ

少女「―!?」ズズンッ

少女の制止などどこ吹く風

揺れる大地の中を、侍は軽やかに歩いていく

その目には珍しく好奇が宿っており、少しだけ子供っぽく見えた


侍「二本足でちゃんと歩くとは、関節はかなり丁寧に作ってあるのだな…」マジマジ


413 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/09/08(水) 23:18:58.56 ID:4Jis26AO
少女『もしもーし! お兄さーん!』

侍が怪物を止める様子は全くない

さっきから怪物の周りをチョロチョロ動き回っているだけである

少女『もう…! 一国の平和がかかってるのよ!』

怪物の詳細に興味のない少女の胸中は穏やかではない

もし侍があの街潰しの怪物を、単なる巨大カラクリだと思ってたら…


少女『…お兄さんになんとかして伝えないとっ』


414 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2010/09/08(水) 23:32:03.52 ID:4Jis26AO
少女『ちょっとお兄さー…ん…』

小考を終え、侍を呼ぼうと目を向けるとそこに姿はなかった

あれ、と少し目線を上げると何か小さい生き物が怪物の体を駆け上がっているのが見えた

少女『ちょっ、ちょっと!? 何やって…』

ザッ ダンッ ズザザッッ

侍「ふっ はっ」タンッ

山肌とも岸壁とも言い難い斜面を駆け登る
カモシカより、山犬よりも早く上り詰める速さは、山火事が一番近かった


415 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2010/09/08(水) 23:46:59.75 ID:4Jis26AO
怪物はこの小動物の疾走に気付かない

気付く必要がない

この怪物にとっては、大凡全てが些末な事なのである

侍「ふっ はっ」ズボッ

故に

侍「ハァッ!」ターンッ


侍「降り注ぐ事―」ヒラッ


ィィィイイインッッ

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッ


侍「―雨の如し」ズシャァッ


417 名前:GEPPERがお送りします [] 投稿日:2010/09/08(水) 23:57:19.35 ID:4Jis26AO
怪物の頂上から跳躍、侍は地面に到達するまで無数の突きを浴びせた

バラッ


ガラガラガラガラッッ

少女『えっ!? 倒したの?』

崩れ落ちる怪物の背中…

侍「ふむ、やはり傷一つ付かぬか」

表面の瓦礫が剥がれ落ち、金属の輝きが現れる

侍「…さて、私からの挑戦、受けてくれますかな」




怪物「―――――――」ギギッ

侍「小さき故に相手にされぬかと思ったが、なかなか話のわかる方よ」ザッ



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