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少女「嗤うは骸か人類か」
166 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:02:55 ID:LGfdYV8.
聞いたことのある声だ。

誰の声か気付いた途端、心臓がわしづかみにされたような感覚に陥る。

彼だ。

彼が……骸骨に……喰われている……

ぐちゃっ

ぐちゃっ

……


167 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:07:58 ID:LGfdYV8.
眠りが浅い。

体調が悪い。

しかもそろそろ生理が来るころだ、と思った。

頭が重い。

腕がだるい。

しかし、このだるさは生理とは関係がなさそうだ。


168 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:13:23 ID:LGfdYV8.
この世界に魂だけが来ているとしたら、生理は来ないかもしれない。

「生理が来ない」だって。

恐ろしい台詞だ。

勉強漬けの私にだって、それくらいの性知識はある、ということを認知して、少し恥ずかしくなった。

もちろんそんな私を、誰も見ていない。誰も認知していない。


169 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:18:31 ID:LGfdYV8.
「おはよう」

彼と一緒に寝たのは、あの日だけだ。
あの日は特別。
そう、自分に言い聞かせた。

それに、実際に兄がいたとしても、中学生にもなって一緒に寝るのは、少し幼いと思う。
これでいい。
この距離間で、いいんだ。

「おはよう」

私は微笑んで見せた。


170 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:25:06 ID:LGfdYV8.
……

何日かが過ぎた。
あれからずっと、骸骨のおじさんから聞いた話を頭の中で考えている。
彼と一緒にあの店へも訪れたが、やはり新しく得られることはなかった。

彼と一緒に何度か、ビルの外へ出かけた。
ビルの中にいてもきっと現状はよくならない。
それはよくわかっている。
でも、骸骨が現れる可能性があるところへ、何度も足を向けるのは気が向かなかった。

「大丈夫、今日もおれが守るから」

彼はそう言ってくれるが、骸骨を叩きつぶす瞬間の、背筋に走る電気信号は嫌いだった。

「さ、行こうぜ」

彼の大きな手をきゅっと握り、私は彼に従った。


171 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:32:33 ID:LGfdYV8.
……

「なんもねえなあ」

彼が溜息交じりに呟く。
どれだけビルから離れても、あまり得られるものはなかった。

今私たちは、バイクを停めて、がれきの山を歩いている。

「あっ」

彼がふと、手を離して走っていく。

「どうしたの?」

そう問うても、彼は走り続ける。
なにか見つけたのだろうか。
私はゆっくりと、彼を追って歩いた。


172 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:38:49 ID:LGfdYV8.
「今……なにかが……」

彼が言った。
骸骨がいるの?
それとも、他に誰か人がいるの?

「なにかが……動いた気がする」

彼はずっと先を見つめている。
私も彼と同じものを見ようと、足を進めたとき……

ガラッ

背後のがれきが崩れた音がした。


173 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:43:13 ID:LGfdYV8.
「っ」

背筋が伸びる。

ガラッ

またもがれきの音。
後ろにいる。
確実にいる。
すぐに振り返らなければ。
頭の中だけが高速で回転し、私の目は焦点を合わすのに苦労していた。


174 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:51:29 ID:LGfdYV8.
ぐちゃっ

夢の中で聞いたような、あのいやな音が聞こえる。

ぐちゃっ

ぐちゃっ

いや、違う、彼は私の目と鼻の先に立っている。

彼が喰われているわけではない。

こんな音はしないはずだ。

意識すると、音はやんだ。

これはただの気のせいだ。

早く……早く振り返らなければ。


175 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 22:58:31 ID:LGfdYV8.
私の理想とは裏腹に、身体はゆっくりとしか振り向けなかった。

「……」

いた。
骸骨だ。
しかし……

「……」

あまり近づいてこない。

こちらには棒がある。
ぎゅっと手に力を込めて、相手を見据える。
大丈夫、恐くない。怖くない。


176 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:02:57 ID:LGfdYV8.
しかし、私は相手と対峙しながら、なにか違和感を感じていた。

骸骨の目は少し赤く光り、こちらを窺っている。
手はふわふわと、虚空を彷徨い、私を捕らえようとしている。
口は……

口は、だらしなく開いている。

なにかが違う。

なにかが?

いや、そうだ。

この骸骨は、嗤っていない。

そうだ、嗤っていないのだ。


177 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:08:15 ID:LGfdYV8.
私は間合いを取りながら、さらに考えを深めようとする。

嗤っていた骸骨に出会ったのは、いつだっただろうか。

そうだ、まず、最初にここに来たときだ。

「ケタケタケタ……」

そう、あのいやな声で、嗤っていたのだ。

「ケタケタケタ……」

私は腰を抜かして、骸骨に喰われそうになって、そして……

バキィン!!

彼に助けられたのだ。


178 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:13:16 ID:LGfdYV8.
次にあの声を聞いたのは……

男の人が喰われているのを見たときだ。

「ケタケタケタケタ」

嗤いながら、人を食う骸骨。

『骸骨は、人間の敵じゃねえから』

骸骨のおじさんの言葉を思い出す。


179 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:18:42 ID:LGfdYV8.
「おい!!」

彼の声が、私の思考を止める。

「おい、なに固まってんだ」

いつのまにか、彼がすぐそばまで来ていた。

「大丈夫か?」

私は彼の目を見つめる。
彼の目は私を見返してくれる。
でも、このときは、彼を見て安心したという感じではなかった。

私は今、骸骨に恐怖を感じていない?

そうなのか?

そういうことなのか?


180 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:24:40 ID:LGfdYV8.
「すぐ砕いてきてやるから」

そう言って前進する彼を、私の手は無意識に引きとめていた。

「え?」

彼の袖口を引っ張り、なにかを言おうとする。

「なんだよ、大丈夫だって、一発で仕留めてくるから」

私はふるふると、首を振った。

「逃げようってのか?」

私はまた、ふるふると首を振った。


181 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:30:18 ID:LGfdYV8.
「あのおじさんが言ってたの、骸骨は敵じゃないって」

「だから、倒さなくていいの」

私は彼に、そう言った。

「でも、あいつらは人間を喰おうと……」

違う。違うの。彼らはきっと……

「骸骨はきっと、人間を救ってくれるの」

「はあ?」


182 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:35:40 ID:LGfdYV8.
この世界に来たのは、きっと、私たち人間が死者を笑ったから。

ならば、私たちが骸骨に嗤われるのは、仕方のないことなのだ。

あの不快な声。いびつな嗤い声。



父と母も、私の笑い声にそう感じたに違いない。



「ねえ、嗤って?」

私は骸骨に喋りかける。

「嗤って、私を許して?」

私はそう言って、一歩前へ進む。


183 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:40:50 ID:LGfdYV8.
「お、おい、危ねえって」

私は彼の制止を無視し、さらに骸骨に近づく。

カラン

もう、棒は手放した。

私は、骸骨を倒さない。

赤い光は、消さない。

「嗤って、私を許して?」

そして、罰を受けよう。


184 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:46:47 ID:LGfdYV8.
「ケタケタケタケタ」

骸骨が小刻みに震えながら、私を嗤う。

不快な声。いびつな嗤い声。

でも、これが、この不快感が、私が受け止めるべき罰なんだと思う。

手を差し伸べる。

ゆっくりと。


185 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:50:51 ID:LGfdYV8.
最後に彼に振り向き、私はこう言った。

「今まで、ありがとう」

「現世で、待ってるから」

そう言って、骸骨の抱擁を待つ。

骨だけの手が、私を包む。

不思議と怖くない。

私はこうべを垂れ、断罪のときを待った。

「ケタケタケタケタ……」



そして、意識を失った。


186 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 23:55:46 ID:LGfdYV8.
……

ここは、どこだろう。

瞬きをする。

世界が白い。

少しずつ、視界がはっきりとしてくる。

ぼやけた白いカーテンが取り払われ、クリアになっていった。


187 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/25(木) 00:01:26 ID:4UPLbhY6
目の前に墓石がある。

石の中央に、私の苗字がある。

「……帰って来た」

やはり、現世だ。

私の知っている世界だ。

黒くない。

明るい世界。

帰って来たのだ。


188 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/25(木) 00:05:25 ID:4UPLbhY6
空を見上げた。
何日も見ていない、青い青い空。
懐かしい。

ふと、涙がこぼれた。

「お父さん、お母さん、ごめんね」

今になってようやく、悲しさが押し寄せてきたみたいだ。
私は突っ立って、墓石の前で泣いた。


189 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/25(木) 00:09:36 ID:4UPLbhY6
死ぬということ。
生きるということ。

学校では学べなかったことが、この数日間で私の身体と心に染み込んだんだ。

それが今、こぼれおちた。

ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙となってこぼれおちた。


190 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/25(木) 00:14:12 ID:4UPLbhY6
「……よし」

ひとしきり泣いて、私は前を向く。

家に帰って、家族に謝らなくては。
心配かけたこと、それから、いろいろと。

でも、私はもう前を向いて歩いていける気がする。
一生懸命、生きていける気がする。

まずは、家に帰って、謝って、それから。
それから、彼の家を探そう。
きっと、彼も帰って来る。
もう一度会えたら、そのときは、なにを言おうか。

「……ふふっ」

私はゆっくりと、家へと向かった。


★おしまい★


191 名前:HAM ◆HAM/FeZ/c2 [sage] 投稿日:2013/04/25(木) 00:16:44 ID:4UPLbhY6
    ∧__∧
    ( ・ω・)   ありがとうございました
    ハ∨/^ヽ   またどこかで
   ノ::[三ノ :.、   http://hamham278.blog76.fc2.com/
   i)、_;|*く;  ノ
     |!: ::.".T~
     ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"


192 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/25(木) 00:19:10 ID:mo4vWNUs
あんただったのか楽しく読ませてもたってますぜ
乙!


194 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/25(木) 01:03:08 ID:HrDaV1/Y
お前か


196 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/25(木) 05:19:02 ID:6ygWV14A
乙です!すっごく面白かったっす!


197 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/25(木) 19:10:16 ID:C/QZCp76
好きなSSを見つけるといつもあんただ
大層乙


198 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/05/03(金) 09:52:00 ID:cnoQCRtU
興味深く見させてもらった。乙。


199 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/05/09(木) 15:52:22 ID:ilo8ArIk
>>魔王「……ふ、やはりお前は魔王城に残らせて正解だった」ドン!
太鼓の達人はじまったかと



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