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少女『言葉が通じなくても』
- 273 名前:GEPPERがお送りします [sage saga]
投稿日:2010/07/26(月) 03:27:14.19 ID:zZZW.gAO
―ある国の王がどんな軍でも落とせぬ城を建てた
100万の兵に深く幅広いの堀
堅牢な城門と城下街全体を覆う外壁
難攻不落のこの城を落とそうと考える者は現れなかった
地割れの奴以外は、ね―
牡鹿「ブォォォ!!」ザッザッ
鹿は怒り狂っていた
勇壮な角を振り回し、後ろ脚で大地を抉った
侍「…」ザッ
それもこれも、この難敵が現れたからだ
- 274 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/26(月) 03:33:58.60 ID:zZZW.gAO
牡鹿「ブルル…ッ」ザッ
侍「…来い、命懸けで…だ」ジリッ
牡鹿も又、歴戦の勇者だった
多くの肉食獣から群を守り、死線を潜ってきた
だから解る
戦えば無事では済まない
牡鹿「ブォォォオッ!」ダダッ
だが、背中を見せれば死ぬ…と
- 275 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/26(月) 09:08:38.01 ID:zZZW.gAO
ドッッ
牡鹿「ブァッ!」グォッ
牡鹿の角が侍を捉え…しゃくりあげる
角は侍の体を穿ち、ボロ布のように空へ舞った
かのように見えた
侍「見事な一撃…! 相手にとって不足はなかった」
牡鹿「ブォッ!?」
侍は角の先端を掴み、牡鹿の頭上で逆立ちしていた
- 276 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/26(月) 11:05:28.42 ID:zZZW.gAO
侍「渦巻く事―」クンッ
ゴキリッ
牡鹿「オゴァッ」
侍「―旋の如し」スタッ
ズシンッッ
侍「南無…」スッ
侍「…さて、3日ぶりの食事だ」
- 277 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/26(月) 11:10:17.44 ID:zZZW.gAO
…
少女『お兄さん遅いなぁ…』
ガサッ
少女『!』
侍『―』ヒョコ
少女『なんだ…お兄さんか』ホッ
侍『――』ズルッ
牡鹿『』
少女『ひっ!? お…おっきな鹿……』
- 278 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/26(月) 11:16:48.54 ID:zZZW.gAO
パチッパチパチッ
侍『―』スッ
少女『…』スッ
侍『―』パクッ
少女『あーんむ』ハグッ
3日ぶりの食事に舌鼓を打つ二人
味付けも彩りもない鹿の丸焼きだが、そんな事は些細な問題だった
少女『はぁー、生き返るね』モグモグ
侍『―』モグモグ
兵隊『動くな、お前達は包囲されている』ガサッ
少女『…え?』
- 279 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/26(月) 11:47:55.35 ID:zZZW.gAO
=自然調和国家 緑謳=
大戦以前は辺境地の小国家だったが、大戦終期に急速に発展した国である
緑謳は自然との共生を憲法に謳い、都市開発の傍ら自然保護運動を盛んに行っている
都市内部は緑に溢れ、小鳥がさえずり、国外から療養に訪れる人も少なくない
又、作物の育ちも良く、家畜は健康で良質な為、面積に対する食料輸出量は世界一である
兵隊『食事を止めろ密猟者。お前達を連行する』
少女『密猟…!?』
兵隊『絶滅危惧種を食すなど言語道断。極刑が処されるだろう』
少女『極刑!?』
- 281 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/27(火) 23:49:01.00 ID:EUPIWoAO
兵隊『やっと12頭まで増えたのに長を失うとは…可哀想に』
兵隊『お前達のような無法者がいるから動物が住処を追われ、滅びていくんだ』
兵隊『さぞかし旨いだろうな。その肉を食えるのはお前達が最後だろう』
少女『うう…っ』ズキッ
兵隊達の容赦ない言葉
生きるため…知らなかったとはいえ、消え行く動物達に追い打ちをかけた事実
少女の心は自責の念に捕らわれ、押し潰されそうになった
兵隊『おい! 貴様…何の真似だ!』
少女『…あ!?』
- 282 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/27(火) 23:59:50.92 ID:EUPIWoAO
侍『――』ガツガツ
少女『お兄さん!』
兵隊『食うのを止めろ! 我々を侮辱する気か!』チャキッ
少女『あ、あの人はこの国の言葉が…!』
兵隊『だとしてもだ、あれが銃口を向けられている人間の態度か…!』
侍『―』ガツガツ
侍は食べるのを止めない
軟骨から筋、皮に至るまで全て食らってゆく
- 283 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/28(水) 01:11:53.39 ID:yLl7UIAO
侍『―』ムシャムシャ
兵隊『こいつ…!!』ジャキッ
少女『待って! あなた達は絶滅寸前の生き物は保護するのに、同じ人間は殺すの!?』バッ
兵隊『同じ人…間?』
兵隊『フッ…』
少女『な、何よ…』
兵隊『いや…お前達みたいな害悪と同等扱いされたのが、堪らなくおかしくてな』
少女『害悪…!!』
- 284 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/28(水) 01:26:57.17 ID:yLl7UIAO
兵隊『社会に貢献しないばかりか、生態系をも崩す害悪だ。駆除せねば』
少女は兵隊達の瞳を見た
その目に理性の輝きはなく、知性の光も差していなかった
少女『…狂ってる』
狂信者
どんなに素晴らしい教えだろうと、どんなに画期的な考えだろうと、盲目的では全く別の結果を生んでしまう
そして一番厄介なのは、そうして生まれた結果を省みず、「教え通りにやったから合っている」などと勘違いする事だ
兵隊『死んで詫び、そして神木に還るがいい』グッ
- 285 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/28(水) 01:46:29.94 ID:yLl7UIAO
少女『…』
少女は黙っていた
先程の様に叫んだりせず、ただ見守っていた
兵隊が侍の頭を狙い撃ちする様子を
兵隊『…自然へと還れ』
ダーンッッ
チッ
バズッ
兵隊「―!? ― ――――!?」バタッ
侍「食事中だ、静かになされよ」
- 287 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/29(木) 00:21:10.23 ID:KJ5XBcAO
侍の頭部目掛けて放たれた金属の塊が目標を貫くことはなかった
侍は手に持っていた骨で眼前まで迫った弾丸の側面を小突き、軌道を変えたのだ
兵隊「―!!!――――――!!!!」バタバタ
軌道を大きく違えた弾丸は、撃ち手の反対側にいた兵隊の肩を貫通した
侍「種子島なんぞで私は仕留めれんぞ」
侍は武装した兵隊に囲まれて尚、身構えることは愚か、立ち上がりすらしていない
侍「何故お主らが怒っているのか分からぬが―」
兵隊「――!!」バッ
ガンッガガガッダンダンッガーンッッ
侍「―もし食すのを止めろと言っているなら、それは命への冒涜だ」
- 289 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/29(木) 00:53:52.08 ID:KJ5XBcAO
兵隊『う、嘘だろ…!?』
兵隊『威嚇射撃じゃないんだ!ちゃんと狙え!』
侍『…』
集中砲火の中、侍は正座したまま立ち上がる事はなかった
四方八方から飛んでくる弾丸を右腕一本と、その手に持った鹿の骨で凌ぎきったのだ
少女『…っぷは』
少女は呼吸をも忘れて顛末を見ていた
侍の動きは速すぎて見えなかったが、やはり「どうやら凄い事をしたらしい」事だけは分かった
- 290 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/07/29(木) 00:56:23.37 ID:KJ5XBcAO
>>288
ネタはいっぱいあるし、脳内では物語大分進んでるんだけど、いかんせん時間が…
私事だけど、会社で誕生日が終わってしまう始末です
- 296 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/02(月) 23:49:11.69 ID:ZDNG5wAO
兵隊『一時撤退だ! Aクラスの武装に切り替える!』
兵隊『しかし、人間一人に承認が下りるか…』
兵隊『ならいい手があるのか! 弾丸を弾くなど、人間技じゃない…!』
兵隊『…あの子供を人質にするのは?』
兵隊『…止めておけ、親熊に殺されたくなかったらな』
兵隊達は去った
この一戦が、新たな戦いの幕開けである事を侍は感じていた
少女は、また一つ何かの幕が降りる予感がしてならなかった
- 297 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/03(火) 00:28:00.55 ID:xN6DxsAO
…
少女『よっ ほっ』トンットンッ
侍と少女は森の中を歩いていた
兵隊達の足跡を追えば人里には出れるだろうが、二人はその手を使わなかった
侍『…』ズッ
大きめの石を持ち上げる侍
森を探索し始めてから何度か繰り返した行動だ
少女『…』ジー
二人で石の下にあった地面を見る
…虫一匹いない
- 298 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/03(火) 00:37:32.84 ID:xN6DxsAO
違和感は最初からあった
この森には朽ち木がないのだ
自然には木を中心とした世界がある
木の実、葉、幹を食料とする動植物や昆虫が居て、木に取り付き成長する蔦、苔、菌糸類が在る
落ち葉は微生物の食料となり、草花の、そして木自らの栄養となる
この森では、どこででも見られる木の世界が無いのだ
- 300 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/03(火) 08:34:08.63 ID:xN6DxsAO
この森では虫の類を見ない
見ないと言っても全くではなく、華々しい蝶々や輝く甲虫、美しく鳴く虫達はそこそこ見かける
それだけである
それだけで自然は成り立たない
侍「おかしい…どうやってこの森は生きているんだ?」
- 301 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/03(火) 08:38:28.77 ID:M72jaSAo
なんという里山博士 明らかに高等教育を受けている
- 302 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/03(火) 23:34:57.05 ID:xN6DxsAO
少女も又、違和感を感じていた
この森には何かが足りない
一見、何の変哲もない森なのに…何故
それが分からない
経験が浅い故に気付かない
少女『…うーん』ズッ
だから真似をする
経験者の真似をする事で答えを体感し、擬似的な経験を積む
そういう意味では、少女は他の誰より早く経験を積みつつあった
- 303 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/03(火) 23:42:35.05 ID:xN6DxsAO
…
侍『―』パン
少女『いただきます』パン
歩き回ること半日、二人は少し遅い昼食をとることにした
献立は残りの鹿肉と瑞々しい「だけ」の果実である
半日もあると疑惑は確信に変わり、新たに疑問が生まれる
どうやってこの森は循環しているのか
侍『…』シャクッ
少女『わっ!?』ビクッ
侍『―?』
- 304 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/03(火) 23:56:28.57 ID:xN6DxsAO
少女は果実を落としてしまった
かじり付いた果実に芋虫がくっ付いているように見えてびっくりしたようだ
勿論、この森には芋虫などいない
果実のヘタがそう見えただけなのだが
少女『…あ』
そう、いないのだ
彼女の苦手な芋虫も、蜘蛛も、足の一杯生えた虫も…一匹もいない
気付けば沢山いない
蛇、蛙、蛞蝓、烏、蛭、鼠、蠅、蚊、虻、蜥蜴………
少女『…おかしい、緑謳は自然を守ってるんじゃないの…?』
- 305 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/06(金) 23:29:00.51 ID:IRBp8kAO
…
兵隊『ただいま戻りました』ザッ
兵長『…』
兵長『負傷者が出た…らしいな。あの娘と遭遇したのか?』
兵隊『いえ……、森で妙な男と戦闘になりました』
兵長『妙な男?』
兵隊『黒い瞳と髪を持った、異国語を喋る男です』
- 306 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/06(金) 23:34:40.08 ID:IRBp8kAO
兵長『異邦人か、何故戦闘になったんだ』
兵隊『絶滅危惧種の鹿を捕食していたからです』
兵長『密猟…ではないのか』
兵隊『我々に囲まれても一心不乱に食べていました。恐らく腹が減っていたのかと』
兵長『…して、捕まえたのか?』
兵隊『それが…』
兵長『…』
兵長『厄介事が増えたな』
- 308 名前:GEPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2010/08/06(金) 23:43:09.72 ID:IRBp8kAO
兵隊『例の娘ですか』
兵長『ああ、奴に比べたら密猟者なんかかわいいもんだ』
兵隊『奴の狙いは我々ですからね』
兵長『馬鹿者、全ては陽動だ』
兵隊『陽動…?』
兵長『森の見取り図だ。このピンがここ最近の奴と遭遇した場所で、色が濃い程新しい情報だ』
兵隊『これは…「神樹」から徐々に遠ざかっている…?』
兵長『奴の目的は神樹だ』
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