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侍「言葉が通じなくとも」
69 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/01/31(月) 00:06:35.40 ID:q6Q8R8gAO
皇王『連れて行きなさい』

少女『皇王様!』

女聖者『…お帰り願います』

少女『…っ』

女聖者に止められ、少女は唇を噛んだ


世界には理不尽が溢れている

抗い難い不幸に満ちている

それらは人の心に深い闇を落とす


少女『皇王様、一つお答え下さい』

先程と打って変わって、少女は静かに語りかける

少女『不幸の逆は、本当に幸せですか……?』


71 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/01/31(月) 00:27:23.20 ID:q6Q8R8gAO
皇王『……どういう事だ』

少女『私は、先の大戦で両親、友達、生活……全てを失いました』

少女の言葉に、女聖者が眉を潜める

皇王も背を向けたままだが、少女の言葉に傾けている

少女『飢えと孤独、朝起きると隣の人が死んでいる世界』

少女『靴磨きで日銭を稼ぐと、兵隊さんが場所代だと取り上げに来る始末…』

それは、この世の地獄

この世に溢れている地獄

少女『この地獄から、皇王様はどうやって救ってくれますか?』


72 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/01/31(月) 00:37:33.69 ID:q6Q8R8gAO
皇王『……』

少女『お金をくれますか? 飢えぬよう養ってくれますか?』


少女『家族を……返してくれますか?』


少女は泣いていた

目尻を濡らす雫はなかったが、彼女の心が、魂が涙を流していた


少女『…人は理不尽や不幸を嘆き悲しみます』

少女『それらはとても強大で、抗い難い力を持っています』



少女『…でも、それは自分の力で乗り越えなきゃいけないんです』


74 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/01/31(月) 00:55:32.58 ID:q6Q8R8gAO
皇王『では、君は人々を救うなと言うのか?』

ついに皇王は少女に向き直った

その目には色濃い怒りと、僅かの迷いが宿っていた

少女『いえ、皇王様はこれからも多くの人を導いて下さい』

皇王『解せぬな、何が言いたい』

痺れを切らし、皇王の口調が荒くなる


『手を』


少女が皇王に歩み寄り、硬く大きい手をそっと包む

少女『手を…取りましょう』


75 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/01/31(月) 01:15:15.28 ID:q6Q8R8gAO
少ないですが今日はここまでです
長らくお待たせして申し訳ありませんでした
それではまた明日


77 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/31(月) 09:23:30.82 ID:rLvXuosSO
幸せは犠牲無しに得られないのか、時代は不幸なしに超えられないのか

このセリフ思い出した


79 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 02:41:55.26 ID:egw5FLRAO
皇王『なッ!?』

予想外の少女の行動に、一瞬固まる皇王

少女『身体の不自由や難病、それらは耐え難い不幸です。その不幸を取り除けるなら、それ以上に素晴らしい事はありません』

少女『でも…』

皇王の手を包む少女の手に少し力が入る


少女『それでも、人は受け入れなきゃいけないんです』




80 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 02:52:46.94 ID:egw5FLRAO
皇王『不幸を受け入れる……だと?』

少女『不幸を許し、受け入れ、乗り越える。私達は……そうやって強く生きなきゃいけないんです』

皇王『それは理想だ。私達人間はそんなに強くない』

ギュッ

皇王『!』

少女『だから、手を取り合うんです』

少女『一人じゃ押し潰されてしまう不幸も、みんなで手を取り支え合えば乗り越えれます』


81 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 03:29:23.77 ID:egw5FLRAO
皇王は重なった二人の手に目を落とした


少女が言っているのは理想、綺麗事だ

不幸や理不尽を受け入れられる程、人間は強くない

ましてや突然降りかかった不幸や、生まれながらの不遇など、どうして許せる


皇王『……許せる訳がないだろう。許せる訳が!』バッ

少女『あっ!?』

皇王『連れて行きなさい』

少女の手を払いのけ、皇王が冷たく言い放つ

女聖者『はい。お二人共、どうか外へ』

少女『皇王様…』

少女は少し後悔していた

あれだけ熱弁しておきながら、自分の中に答えを持っていなかったからだ


人を救うのに間違いも正確も無い

万人から賞賛される方法も、絶対では無い

それが分かっていながら、溢れる想いを止められなかった

何故なら、皇王もまた、後悔しているようだったから……


女聖者『失礼します』

女聖者に促され、退室する二人

去り際に見た皇王の背中は、どこか哀しそうに映った


83 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 14:40:28.17 ID:egw5FLRAO
バタン

女聖者『…良かったのですか? 彼の腕はまだ…』

少女『良くはないです。でも…』

侍『……』


侍は始終を見守っていた

先程の男―恐らくこの国の有力者だろう―何故、少女と口論になっていたのだろうか

…いや、大方の見当はついている

あの病や障害を取り除く力

少女はあれに反応したのだろう


84 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 14:57:22.85 ID:egw5FLRAO
当初は、あの力で私の腕を治すつもりだったのだろう

だが、力は少女の想像を超えていた

何せ、失った四肢が元通りになり、生きているかどうかも判らぬ死人が再び息を吹き返すのだ

あれは『過ぎた力』だ


確かに、あらゆる苦悩から解放されれば、それ以上に楽な事は無い

しかし、楽になる事が必ずしも幸せになる事だろうか



人には死中で希望を見出す力がある

手を取り合い、共に立ち上がって苦境を乗り越える強さがある

そう、困難を乗り越える度、人は強くなる


85 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 15:07:52.04 ID:egw5FLRAO
もし、願えば救われる世界なら

もし、困難がこの世からなくなれば

もし、世の中が幸福で満ち満ちていたら……


それは、なんと不幸な世界だろう


苦難があるから努力をする

哀しみがあるから慈しむ

生があるから死がある


「生きる」とは、これらと折り合いをつける事だ

故に、不幸を受け入れず拒絶すれば、人は必ず堕落する


少女はそれを敏感に感じ取ったのだろう


86 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 15:12:19.83 ID:egw5FLRAO


―不幸とは「幸せでない事」を言う


事故で腕を失うのも不幸

毎日が退屈なのも不幸

では、

死は不幸なのか……?―




87 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/01(火) 15:26:08.72 ID:egw5FLRAO
クイッ

侍「……ん」

袖を引っ張られ、思考から引き戻される

横を見ると、少女が浮かない顔で侍を見上げていた

少女「――――」

どうやら難しい顔をしていたので心配をかけたらしい

侍「いや、すまぬ。少し考え事を……、」

まで言って気が付いた


救いを求める人々を見て以来、少女は笑っていない

ずっと、瞳に哀しみを浮かべてたままだった


侍「これ」ペシッ

少女「―!?」

無理矢理に少女の頭を小突く

加減が出来ない為、やや乱暴だったが何とか手は動いてくれた

少女「――…」

侍「お主も随分とひどい顔だぞ」ナデナデ

今度は精一杯優しく、少女の頭を撫でる

結局笑ってはくれなかったが、少女の頬は朱に染まっていた


90 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/02(水) 12:50:20.30 ID:LaVc+ARAO
〜〜

ケホッ、ケホッ。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

うん。むしろ今日は調子がいいんだ。

それより、今日は一年に一度のお祭だろ

友達が待ってるんじゃないか?

「ううん、いいの」

「私は、お兄ちゃんと一緒がいいから」

……

…ありがとう

「来年」


「来年は一緒にお祭に行こうね」


〜〜


91 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/02(水) 13:11:10.63 ID:LaVc+ARAO


少女『あの……すみませんでした』

女聖者『何がですか?』

神殿の出口で見送りをする女聖者に、少女は頭を下げた

少女『皇王様も聖者様達も、苦しんでいる人達を助けようと頑張っているのに、それを否定するような事を言って…』

少女『私、すごく失礼な事を…』

聖者から目線を外し俯いたまま、少女は尻すぼみに言う

スッ

女聖者『いいのです』ナデ

少女『…あ』

頭を撫でる優しい感触に顔を上げると、女聖者が微笑んでいた

女聖者『実は私も大神様に頼りきりではいけないと思っていたの』


94 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/03(木) 01:00:19.00 ID:PagBef7AO
少女は女聖者の険しい表情を思い出した

一度目は皇王に伺いを立てる事になった時

二度目は神託を賜ると言われた時

女聖者『私は、どんな苦労をしても、自分の力で人を救いたいんです。…尤も、そんな事を言っていながら大神様の力をお借りしているのですが』

力無く笑う女聖者

少女の頭から手を放して両手を組み、祈りの姿勢をとる

女聖者『…大神様の力はあらゆる障害から我々を解放して下さいます』

女聖者『しかし…』

目を瞑り、二呼吸置いて


女聖者『その力は、私達の心まで救ってくれているのでしょうか……』


無垢な疑問を投げかけた


95 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/03(木) 01:17:58.58 ID:PagBef7AO
心を救う

それは他ならぬ自分自身にしか出来ない

他人にできる事があるとすれば、それはキッカケを与える事だけだ

少女『…』

少女の心の中には一つの答えがあった

しかし、それを口に出す事は、どうしても憚られた


……もし、私が足を失ったら

もし、足が元通りになる望みがあったら

私は、救いを求めずにいられるだろうか……


女聖者『…ごめんなさい、意地悪な事を言ってしまいました』

また、女聖者が力無く笑う

少女は、女聖者が「少女の中の答え」を聞きたくて疑問を投げかけたのではない事を知っていた

同時に、誰かに答えを教えてもらいたい内心も知っていた

…だって、彼女は私自身だから

胸の内の葛藤に、少女は唇をきゅっと噛んだ


97 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/03(木) 01:33:52.20 ID:PagBef7AO


少女『はぁぁぁーっ』ギシッ

背もたれに身体を目一杯預け、少女は深い溜め息をついた

答えを出しては否定、答えを出しては否定を繰り返し、脳味噌は疲労困憊

発作のように悶える少女を見て、流石に侍も心配そうだった

給仕『あら、また来てくれたんだ』

お品書きを持ってきた給仕の声が少し弾む

少女『…どもー』ズルズル

反対に少女は下がり調子

気のない声と共に、身体が飯台の下に飲まれていく

給仕『なんだい、やたらにダレてるね』ハァ

少女『うー』

給仕『ダレるのはいいけど、注文はさっさと………えっ』

給仕の目が丸くなる

給仕『…腕、治らなかったのかい?』


98 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/03(木) 01:51:47.97 ID:PagBef7AO
少女『ええ、いろいろありまして』

給仕『いろいろって、三訓を守らぬ極悪人でも問答無用で救う大神に、救われ損ねるなんて…』

給仕『あんた達、何者だい?』ズイッ

少女『えっ、えっと…』

詰め寄る給仕に、思わず言葉を詰まらせる


自分は兎も角、侍はただ者ではない

多くの精霊や魔物、機械巨兵、果ては神格まで倒してきた侍

人間離れで片付けきれぬ実力

そもそも、侍は自出が明らかでない

海の向こう、遥か東にある「蛇島」の「サムライ」という戦士らしい事は知っている

だが、それだけ

考えてみた事もなかったが、一体彼は何者なのだろう…


99 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/03(木) 02:00:07.52 ID:PagBef7AO
ペシッ

少女『―っえ』

給仕『はい時間切れー。2番さん日替わり2つ』


給仕『なーに固まってるのさ』

少女『え、あの、』

呆れ顔の給仕

妙な空気が漂い、迷走を続けた少女の頭は

少女『私達は旅人です』

給仕『……知ってるよ』

てんで的外れな答えを出した


100 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/03(木) 02:10:58.21 ID:PagBef7AO
今日はここまでです
迷走気味だった添命編も明日明後日あたり終わりかと思います


最近話題に上がっているwikiに関してなのですが
細かい事までまとめると情報量が多くなるし、ざっくりやるとほとんど載せる物がないように思えます
想像力任せのこの物語のコンセプト上、あまり細かい事を書くのはうまくないかと思うのですが、いかがでしょうか
もしくは、>>1の頭にある設定資料集的な意味合いで使ったらいいですかね

ご意見よろしくお願いします


>>92
ありがとうございます!
読み返すと脱字が多くて恥ずかしいです



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