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少女「それは儚く消える雪のように」
- 336 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/02/24(金) 20:03:42.77 ID:o2andqOr0
*
今日はエフェッサーの本部で、
先日配属された新型人型戦車、AAD七〇一号、
陽月王に関する説明を受ける会議がある。
雪を使って本格的に量産、実戦投入が検討されている、
これからの対死星獣戦闘を一変させる可能性を秘めた兵器。
今までの応用性のない戦闘機、戦車砲台と違って、
七〇一号以降のAADは人型、かつバーリェの想像するとおりに脳波を感知して動く。
本質的には関節のある戦車なのだが、漫画の世界のロボットと似たようなものだ。
前回の戦闘で使用されたのは動くかどうかを確認するための試作品。
それで雪は、あまつさえ死星獣を撃退するという離れ技をやってしまった。
- 337 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:04:17.38 ID:o2andqOr0
最も、それをさせたのは絆だった。
あそこで退くわけにはいかなかったのだ。
離脱したらまた実験で雪が駆り出される。
そうすれば彼女はたちどころに死んでしまうかもしれない。
つまり、あそこで死星獣を撃退しなければ、
雪の生存確率は急降下してしまう状況だったのだ。
いわば撃破せざるを得ない状況。
- 338 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:05:01.74 ID:o2andqOr0
初めて乗った機体で、初めての実戦。
さらに雪は目が見えない。
そんな状況で、絆が同乗しているとはいえ死星獣を完全に撃滅したのだ。
期待以上の成果を確認した本部が、
更に兵器の強化を検討しても不思議ではない。
陽月王には新たな追加装甲と、更にまだ説明は受けていないが
……何らかのシステムが組み込まれるらしい。
また、絆のバーリェは優秀が故の実験台にさせられるというわけだ。
- 339 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:05:35.13 ID:o2andqOr0
大きくため息をついて、
小奇麗に整備された休憩室のソファーにだらしなく寝転がる。
隣には愛が座り、暇そうに足をプラプラさせていた。
今日は彼女の定期健診の日だ。
会議のついでに連れてきたのだ。
少し早く来すぎてしまったために、ここで時間をつぶしているというわけだ。
全面ガラス張りの、休憩室の壁を見つめる。
もう雪は降らなくなったが、まだ二月。肌寒いと言えば肌寒い。
- 340 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:06:12.34 ID:o2andqOr0
「絆ー、遊ぼうー」
ついに検診までの待ち時間に耐え切れなくなったのか、
寝転がっている絆に、愛がラボでしているように抱きついてきた。
猫のように胸に顔をこすり付けてくる彼女を、ため息をついて引き離す。
「おいおい。ここはラボじゃないんだから。おとなしくしてなさい」
「やだ。遊ぼう。じゃなきゃ帰ろう」
反抗された。
普通バーリェはトレーナーの言葉には逆らわないものだが、愛は違った。
知能の発達が遅れているせいだからなのかはよく分からないが、
他の子たちが押し殺そうとする感情をそのまま口に出す。
- 341 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:06:50.70 ID:o2andqOr0
困ったように息をついて彼女の頭をなでる。
寝転がっている絆に馬乗りになっているバーリェという、
誤解されそうな状況。
明らかに不機嫌そうな彼女は、
ちゃんと対応しなければ癇癪を起こしそうな雰囲気だった。
無理もない。
今日は休日で、
優たちとゲームをやって遊んでいたところを無理やり連れてきたのだ。
「……何やってんだお前ら」
そこで頭の後ろから呆れたような声を投げかけられ、絆はそちらに目を向けた。
- 342 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:07:27.94 ID:o2andqOr0
同僚の絃がポカンとした顔で休憩室に入ってくるところだった。
彼も、絆と同じく人型AADを任された上級のトレーナーだ。
ひげを蓄えたガッシリとした体つきは微妙な威圧感をかもし出しているが、
実際は面倒見がいい変わった人間。
後ろには長い髪を背中で一つに結んだ彼のバーリェ、桜がついてきていた。
「あー、さくらー」
彼女を確認すると、絆の腹を踏みつけるのも構わず、
愛はソファーを飛び降りると桜に駆け寄った。
「あらあら。おはよう、愛ちゃん」
「さくらまた大きくなった」
「愛ちゃんも背、伸びたねぇ」
- 343 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:13:05.59 ID:o2andqOr0
嬉しそうに話し始める彼女たちを横目で見ながら起き上がる。
バーリェは何故か同種を見ると過剰に仲良くしたがる傾向がある。
DNA管理され、人間間の関係なんて希薄なこの世界、
絆の目にはやはりどこかその光景は異質に映る。
ひとまず文句から解放されて息をついた絆の隣に、
絃が無造作に腰を下ろした。
「よう。検診か?」
「ああ。つっても愛のだから、薬もらって終わりだけどな。
会議中は遊戯室にでもおいとこうかと思ってる」
「そうか。一人で桜をラボに置いておくのも不安でな。
連れてきたんだが、じゃあ愛ちゃんと一緒に遊ばせといていいか?」
- 344 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:13:57.06 ID:o2andqOr0
聞かれて絆は軽く笑ってみせた。
「願ったりだよ。最近妙に我侭になってきてな。
どうしようかと思ってたところだ」
それに肩をすくめ、絃は返した。
「いい傾向じゃないか。一度知覚が全て初期化の結果、
退行化してもあそこまで回復することが実証できたんだ。
俺はそれだけでも毎回驚いてるよ」
「……人事だと思って気楽に言ってくれるよ。
まぁ、所詮俺のエゴイズムで引き取った子だ。
実証とか、そういうことは関係ないさ……」
ぼんやりと呟いて天井を見上げる。
- 345 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:15:12.53 ID:o2andqOr0
しばらく窓の外に目をやっていると、
不意に絃が持っていたファイルケースから一枚の資料を出した。
それを無造作に絆の前に差し出す。
「……何だ?」
首をかしげ、受け取る。
絃は愛と桜の方をちらりとみてそれきり口をつぐんだ。
何か聞かせたくない内容なのかと察して、
無言で資料に視線を落とす。
そこで絆は顔をしかめた。
- 346 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:15:58.16 ID:o2andqOr0
それは、失踪したバーリェが
また発見されたということを示す報告書だった。
絃が捜査を担当したらしく、まだ上には提出していないようだ。
今回のケースで、四件目。
愛が見つかってから途絶えたと思っていたが、
それは単に表に発覚していなかっただけらしい。
まだにバーリェを誘拐し続けている組織の実情も、
目的も、そして誘拐対象に施されていると思しき実験内容も
定かになっていない。
相手の方が何枚か上手なのは認めるしかない事実だった。
- 347 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:16:51.80 ID:o2andqOr0
今度はここから相当離れたリェンクロンという街の外れで
放置されていた廃工場での発見だった。
死亡していたバーリェの総数は、五十二。
例によって実験器具などは全て運び出された後で、
何も確認できていない。
生存していた個体はなし。
最悪だ。
資料を絃に返し、絆は息を吸って額を抑えた。
愛が監禁されていたあの惨状が脳裏にフラッシュバックする。
- 348 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:17:50.71 ID:o2andqOr0
「……どうしたものかな、俺にもよく分からん」
しばらくしてポツリと絃が呟く。
絆は小さく首を振って答えた。
「さぁな。これから先は俺たちの管轄じゃないだろ。
お前は首を突っ込みすぎなんだよ。
捜査は、捜索部に任せておけよ」
「……そうだな、ああ……そうだ」
曖昧に頷き、絃はため息をついた。
「だが誰か生きてたらな。俺かお前がいないと駄目だろう」
- 349 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:18:27.01 ID:o2andqOr0
その言葉を聴いて、絆は背中を鞭で打たれたような気分になった。
言葉を返せずに、にこやかに談笑している二人の少女に目をやる。
「確かに……それも、そうだな」
肯定。
そうするしかない。
それが現実だから。
それが、当たり前のことだから。
「とりあえず、バーリェ出荷工場の管理体制の強化を進言するしかないな。
それが現段階で俺にできることか……」
- 350 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:19:11.81 ID:o2andqOr0
呟く絃の肩を叩く。
「気負いすぎんな。次からは俺も行くよ」
そこで彼はバーリェ達が駆け寄ってくるのを感じて顔を上げた。
愛が困った顔の桜の手を引っ張っている、彼女は絆の前に立つと、
満面の笑顔で言った。
「絆、アイス食べよう。桜のも」
一瞬言われた意味をすぐ飲み込むことができずにきょとんとする。
「ま、愛ちゃん。私は……あの……」
いくらなんでもバーリェがトレーナーに
金を要求するのはあまりにもありえないことだ。
- 351 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:19:52.78 ID:o2andqOr0
戸惑って目を白黒させている桜を見て、
絆は絃の方を見て呆れた息を吐いてみせた。
「この寒いのにアイスか? 腹壊すぞ」
「大丈夫だもん。あー、げんも食べよう」
唐突に呼び捨てにされる彼。
しかし慣れているのか、絃は豪快に笑って立ち上がった。
「ははは。絆は疲れてるからな。
今日は俺が買ってやろう。桜もそれならいいだろう」
「え……あ、はい。絃様がそう仰るのなら」
丁寧に頭を下げる桜。
几帳面な性格のバーリェ故の特徴が本当に出ている個体だ。
- 352 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:20:31.83 ID:o2andqOr0
絆は苦笑して口を開いた。
「いいのか?」
「これくらい気にするな。よし、二人とも売店に行こうか」
「いこー!」
嬉しいのか、先頭に立って歩き出す愛。
階下の売店に歩いていく彼らを見送って、
絆はまたソファーに横になった。
絃は冗談で言ったんだろうが、
疲れているというのはあながち嘘でもなかった。
加えて先ほど、
あんな事件を見せられては沈んだ気分も倍加するというものだ。
- 353 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:22:00.29 ID:o2andqOr0
これで四件。
何か異常なことが起こっているというのは確かなことだった。
エフェッサーや元老院にとってはバーリェはただの備品だ。
人権などが存在しないクローンたちの重要性はさほどない。
重要なのは、トレーナーが成育させて生体エネルギーが熟成した
……つまりは成長した個体であり、
成長していない初期状態のバーリェがどんなにいなくなろうとも、
また生産すればいいという常識的な認識が存在している。
上が問題にしているのは、
無断で機密備品であるバーリェを窃盗している組織があるという事実。
それももちろん問題だが、
絆や絃の感じている不安感情とは全く別のものだ。
- 354 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:22:47.13 ID:o2andqOr0
しばらくぼんやりとしていると、
小さな足音が駆け寄ってくるのが耳に届いた。
閉じていた目を開ける。
すると、両手に巨大なソフトクリームを持った愛が
危なっかしい足取りで走ってくるのが見えた。
慌てて飛び起き、駆け寄る。
彼女はかなりの内股気味で意識せずともよく転ぶ。
絆が愛を支えるのと、彼女が足をもつれさせて倒れたのは
奇跡的に同時だった。
何とか両手のソフトクリームは落とさなかったらしく、
今しがた転びかけたことも忘れて愛は片方を差し出した。
笑顔だ。
- 355 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:23:24.99 ID:o2andqOr0
「はい!」
それだけの言葉。
絆は一瞬ポカンとして、
そしてそれが自分のものであることに気がついた。
遠目に、苦笑しながら階段を上ってくる絃と桜が見える。
絆はソフトクリームを受け取り、愛の頭に静かに手を置いた。
「良かったな。ありがとう」
「うん。食べようー」
満面の笑顔。
青年はそれを受け、軽く息を吐いた後優しく笑った。
- 356 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:24:13.06 ID:o2andqOr0
*
「これが先日撃滅した死星獣の破片です」
説明を受け、巨大な長テーブルの上に乗った、
コンクリートのような断片を見る。
午後の指定の時間になり、
エフェッサー本部役員との会議が始まって数時間。
決まりきった予算やバーリェの体調についての報告を終え、
本題に入ったところだ。
数人の職員に運ばれてきた、
銀色の台に乗った白い牙のような物体は、
天井の蛍光灯の光を受け微妙に青白く光っていた。
- 357 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:25:02.99 ID:o2andqOr0
上座に座っている、
この支部のエフェッサー本部長が表情を変えないまま口を開く。
「先日、Dインパルスキャノンの斉射、
そして絆執行官の搭乗したAAD七〇一型の伝導ナイフにより
駆除された死星獣のコア、
つまるところこれは奴ら化け物の心臓に当たる部分だ」
「……これが……」
一人の幹部が呟いて手を伸ばす。
すると本部長の隣に立っていた若い女性職員が、
無言で手に持っていた万年筆を白い破片に向かって放り投げる。
- 358 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:25:40.62 ID:o2andqOr0
次の瞬間、会議室全体に戦慄が走った。
万年筆が当たるか、当たらないかのうちに
それは強烈な水圧に押しつぶされたかのように、
くしゃりとサイコロ大に圧縮された。
それも、空中で。
そして死星獣の破片に当たるころには
更にビーズ玉ほどに小さくなり、
ついには黒い点となり、視界から消えた。
- 359 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:26:52.63 ID:o2andqOr0
「な……っ」
声が出ず、あまりのことに席から腰を浮かせる。
手を伸ばしかけていた幹部も呆然とした後、
慌ててそれを引っ込めた。
凍りついてテーブル上の死星獣の破片から体を離した一同を見回し、
本部長は冷静な声で続けた。
「見ての通りだ。過去五十年間、
我々は死星獣と戦ってきたわけだが、
このように奴らのサンプルが採取できたのはこれが初めてのことだ。
死星獣は機能を停止させると、普通は溶けてなくなるからな。
その点では絆執行官の働きはとても大きい。感謝している」
- 360 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:27:39.25 ID:o2andqOr0
「しかし、これは一体……」
呆然とした顔で幹部の一人が呟くと、
本部長の脇の女性職員が口を開いた。
「先ほどの通り、いまだにこの死骸の一部からは、
極端な重力力場が発生し続けています。
密閉した空間におくと、
空気それ自体の圧縮を始めるので外気にさらし続けていますが、
私たちはコレをマイクロブラックホール粒子、
つまるところ極小の圧縮空間を発生させる一種の装置のようなものと考えています。
危険ですので、二十センチ以内には近づかないようにしてください。
固定台は三分ごとに交換しています」
(マイクロブラックホール……?)
その単語を聞いて、絆は改めて背鈴が寒くなるのを感じていた。
- 361 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:28:25.64 ID:o2andqOr0
今まで散々聞かされてきたこと。
死星獣は、体表からその圧縮粒子を発散させながら侵攻してくる。
しかし現物として触れる距離にそれがある、というのは初めての経験だった。
こんなものと、自分や雪は戦っていたのだ。
無言で先ほど女性職員がやったように、
テーブルに置いてあったコーヒーの入った紙コップを、
中身ごと死星獣の破片に放り投げてみる。
コーヒーは空中で外に飛び出したが、
破片にぶちまけられる……と思った瞬間、
空中でビー玉のような球形になった。
全方向から同一の力がかかったときに起こる現象。
米粒ほどに潰れた紙コップと同じように、
コーヒーの球体は段々と小さくなり、そして消滅した。
- 362 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:29:10.27 ID:o2andqOr0
つばを飲み込んで腰を落ち着ける。
絆の一連の行動を黙って見ていた本部長は、
それを確認してまた喋り始めた。
「この圧縮空間の干渉は、
今まで通りにバーリェの発する生体エネルギーにより
中和することが可能だ。
ゆえに、先日絆執行官が使用したエネルギーコーティングされた
AAD用伝導ナイフなどで切り裂くことが可能になる。
原理は今、まだ研究中だ……下げてくれたまえ」
「はい。了解いたしました」
頭を下げ、隣の女性職員がインターホン越しに
死星獣の破片回収を要請する。
- 363 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:29:46.76 ID:o2andqOr0
数分もたたずに、先ほどと同じ、
運んできた職員たちがそれを持って部屋を退室した。
「逆にこの技術を応用し、
更なる兵器群の強化システムを構築している。
トレーナー各員には、
今までよりもよりハイレベルなバーリェの育成を期待している。
私からの話は以上だ」
- 364 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:30:33.41 ID:o2andqOr0
*
会議が終わり、
すぐ近くに設置されている廊下脇のソファーに腰を下ろし、
大きく息をつく。
背伸びをして首の骨を鳴らすと、
絃が表情を落として近づいてきた。
そして絆の隣に座る。
「……何だアレは?」
意外なことに最初に口を開いたのは彼だった。
背伸びを止め、絆は黙って天井を見上げた。
蛍光灯の白すぎる光が目に刺さる。
「化け物だろ」
一言、簡潔に答える。
- 365 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:31:15.71 ID:o2andqOr0
正直絆にもそれは分からなかった。
生まれたときから既に、この世界には死星獣がいたし、
実際のところどうしてそんな化け物が存在しているのかなんて
考えたこともなかった。
死星獣も、バーリェも。
自分がこの世に存在したころには当たり前に在った。
だから、考えても仕方のないことだ。
それが存在しているという事実を受け入れなければ、
自分が此処で生きていくことができない。
絃は大きく息をつくと、珍しく苛立った様子で片手で額を押さえた。
「分かってる。だが……何なんだ、アレは」
- 366 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:31:56.09 ID:o2andqOr0
「……さぁな。お前、間近で見るのは初めてだったか?
そういえば、ここのトレーナーでは俺以外、
肉眼で死星獣を見たことがある奴はいなかったな……」
ぼんやりと呟いて大きく息を吐く。
「バーリェはいつも、あんなのと戦ってるんだ。
それが何なのかは俺も分からない」
「お前さんは雪ちゃんが乗るときだけは同乗するからな
……悔しいが、その通りだ。
実際この目で見るのと、想像するのとじゃやはり全く違う」
「だろうな。でも、事実だ」
そう答えて立ち上がる。そして彼は絃の肩を軽く叩いた。
- 367 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:32:23.59 ID:o2andqOr0
「ほら、小さいのが待ってるぞ」
「……だな」
軽く笑い、絃はゆっくりと立ち上がった。
日常。
非現実のようだが、何もかもが本当のこと。
自分達はそこに生き、彼女達もそこに生きている。
その日も、普通に過ごし、何事もなく終わり。
- 368 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:33:02.23 ID:o2andqOr0
その次も、そのまた次も、
灰色の日常が続くとばかり思っていた。
頭のどこかで拒絶して、現実から目をそむける自分。
数年に一度、必ず訪れるその『平穏』と名前がついた
異常な世界が崩れる時間。
それは唐突に、何の予兆もなく訪れる。
今日がその唐突な日の始まりであったことに、
いつものように俺は、全く気がつかない。
気がついていればよかったと、いつも後悔して。
でも、気がつかないから、俺は俺でいられるんだとも思う。
- 369 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/02/24(金) 20:35:13.15 ID:o2andqOr0
お疲れ様でした。次回の更新に続かせていただきます。
ご意見やご質問などがございましたら、どんどんくださいね。
それでは、今回は失礼いたします。
- 370 名前:NIPPERがお送りします(埼玉県) [sage] 投稿日:2012/02/24(金) 20:38:48.35 ID:ZcYg6gjLo
乙です。楽しく読ませてもらってますありがとう!
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