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少女「それは儚く消える雪のように」 2
- 442 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/04/07(土) 19:58:09.84 ID:sVh0F2PK0
「システムブレクション。
四千七百三十九ノエラーヲ検出シマシタ。
緊急規定事項第三条二十二項ニヨリ、
自己修復プログラムヲ起動シマス」
「何だ……何が行われてる……?」
呆然と呟いた絆の手を、慌てて駆け下りてきた
渚が掴んで、無理矢理にシートに引っ張り上げた。
「特務官、座ってください!」
ハッとして、急いでシートベルトを固定する。
「雪、そのままでいい。ベルトを締めろ!」
渚も、Gに耐えながらシートに座り込んだ。
「成層圏に突入します!」
渚の声と共に、周囲の視界が真っ白な空間から、
雲ひとつない青空へと映り変わった。
- 443 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 19:59:36.52 ID:sVh0F2PK0
雪が、霧を抱いて自分を
何とかシートベルトで固定する。
「システムヲ再開シマス。全テノ設定ヲニュートラルヘ。
エネルギー循環経路、許容量ヲ三百十五倍デオーバー。
ハイコアの接続ヲ感知。
拘束規定事項をエマージェンシーコールレッドガ上回リマシタ。
殲滅(ジェノサイド)システムヲ起動シマス」
圭が、口の端を吊り上げて笑った。
その顔は、異常なほどに生気を感じさせないものだった。
機械的に左手を動かす圭。
大恒王のカメラアイが、フラッシュのように一瞬光った。
そして、エネルギーを切らせて力を失っている筈の
機械兵器は、いきなり勢い良く両腕を振り上げた。
「全装甲ヲ、『パージ』シマス」
- 444 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:00:21.63 ID:sVh0F2PK0
AIの声と共に、大恒王の装甲に亀裂が入り、
凄まじい勢いで、
散弾のように周囲にそれが飛び散った。
戦劫王がその直撃を受けて、大恒王から手を離し、
空中でよろめく。
腕の装甲。
足の装甲。
全てが弾け飛び、大恒王は一瞬後、
駆動系やエンジンがむき出しの状態で、空中を飛んだ。
「活動臨界マデ、残リ百五十秒デス。
カウントダウンヲ開始シマス」
機械人形の全体から、灰色のエネルギーが噴出した。
四方八方からエネルギーを噴き出しながら、
大恒王は先ほどとは比べ物にならないほどの
機動性で背部ブースターを点火すると、
一瞬で、空中の戦劫王に肉薄した。
- 445 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:00:59.72 ID:sVh0F2PK0
「ベルベットバンカーヲ使用シマス」
AIのナビが、Gに悲鳴を上げた
雪達の声を掻き消すように響く。
目も開けられない速度だった。
ガタガタと機体が揺れ、所々のパーツから
爆発の煙を上げながら、
大恒王は振り上げた両手を、戦劫王に叩き付けた。
凄まじい衝撃がコクピットを襲う。
圭はその中で、表情一つ変えずに
トリガーを手前に引き込んだ。
そしてコクピット前部から競りあがってきた
銃のような発射装置にかじりつき、
歯で撃鉄を起こし、コッキングする。
両腕を叩き付けたインパクトの瞬間の出来事だった。
- 446 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:01:42.98 ID:sVh0F2PK0
戦劫王の腕から、音を立てて
円柱のような物体がいくつも飛び出した。
それが、圭が操縦桿から手を離し、
銃座型発射装置の引き金を引いた瞬間、
一斉に内側に対して押し込まれた。
押し込まれた圧縮空気が、
手の平から一斉に噴出される。
その勢いは、先ほどのエンドゥラハン砲を
更に凌ぐものであり。
戦劫王はその攻撃により、
抵抗も出来ずに弾丸のように下に向かって噴き飛んだ。
絆の目には、流星のような速度で一直線の光が、
一面広がる砂漠に
突き刺さったようにしか見えなかった。
圭が腕を動かし、大恒王を急旋回させた。
- 447 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:02:31.75 ID:sVh0F2PK0
戦劫王が突き刺さり、池に全力で
石を投げつけたかのように、砂が噴き上がる。
右足が砕け散った戦劫王に対して、
大恒王も一筋の光となると、
急速落下をしながら戦劫王に接近した。
時間にしてゼロコンマ五秒程の瞬く間、
戦劫王が胸部から発射した微細なブラックホール粒子の
弾丸群を、ひらりひらりと圭の操縦で大恒王が避けた。
それはもはや人間でも、バーリェでも、
生き物が到達できる操縦技術を大きく上回っており。
圭は、まるで「機械」のような無表情で、
操縦桿を小さく動かした。
「脚部損壊率六十五パーセント。
腕部損壊率五十三パーセント。
活動臨界マデ、後百二十秒デス」
大恒王のむき出しになった足が、
両方とも機体の飛行速度についていくことが出来ずに、
千切れて空中で爆散する。
- 448 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:03:13.83 ID:sVh0F2PK0
右腕も同様だった。
まるで現実世界の圭のように、
左腕だけが残った機体が、
その残った腕を振りかぶってから開く。
「マイクロホワイトホール粒子ノ生成ヲ開始シマス」
――マイクロホワイトホールだって……?
操縦桿を握って大恒王を止めようとしたが、
Gが強すぎて握っていられない。
左肩のキューブ体が高速回転を始める。
大恒王の振りかぶった左手の上に、
キュル、と音を立てて全長五メートルほどの
灰色の球状物質が出現した。
それはパチパチと、
周囲の空間に当たると音を立てて帯電した。
- 449 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:03:55.21 ID:sVh0F2PK0
AIの声が淡々と響いた。
「生成完了シマシタ。広範囲極破壊兵器、
『メルレダンデ』、撃テマス。最終認証ヲ願イマス」
ひく、と鼻を引きつらせて急速落下している大恒王の中、
圭は目を見開いて笑った。
「ははははははははは!」
人が変わったように嬌声を上げ、圭は操縦桿を捻りこんだ。
「撃つ! 撃つよ!
全力で撃ちなさいよ! 殺せ……殺せええ!」
「了解。最終認証ト判断シマス」
「殺せえええええええええ!」
圭が絶叫した。
大恒王が落下のスピードに合わせて体を回転させ、
球状の物体を、眼下の戦劫王に向かって投げつける。
- 450 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:04:33.68 ID:sVh0F2PK0
眼下が、真っ白に光った。
大恒王が翼を翻して、今度は上に急上昇する。
絆の喉に、胃の中身が逆流した。
鼻から、どこかの毛細血管が切れたのか、
凄まじい勢いで鼻血が流れ出す。
止めなければ。
背後の渚も咳き込んでいる。
止めなければと思うが、体全体を襲うGに、
口を開くことも出来ない。
上昇した大恒王を追いかけるように、
戦劫王を中心とした空間が球状の物体に覆われ、
そして急速に広がった。
何度か光が瞬き、一瞬後、キュル、と
中心部に全てが吸い込まれる。
- 451 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:05:18.16 ID:sVh0F2PK0
砂も、空気も、空間も。
全てが半径十キロ四方ほどの空間が、
中心部に向けて圧縮される。
住宅街も。
建物も、車も。
逃げ遅れていた人も。
エフェッサーの本部があった場所も。
何もかもが全て中心部に向かって凄まじい勢いで
吸い込まれ、そして数秒後、
気の抜けるような音を立てて消えた。
「二撃目ノ発射準備ニ入リマス」
空中で動きを止めた大恒王の左手に、
更に白い球体が浮かび上がる。
- 452 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:05:57.80 ID:sVh0F2PK0
絆は鼻血で真っ赤になった手でベルトを外すと、
骨が浮くほどの力で操縦桿を
握り締めている圭に飛びついた。
「やめろ! 圭、やめるんだ!」
無理矢理に操縦桿から彼女の手をむしりとり、
掴み上げる。
「離せ! 離せええええ!」
と喚きながら圭が、両足右腕がない体とは
思えないほどの力で、絆の手を引く。
「認証を取り消してください! 早く!」
渚が、絆と同様に鼻から血を垂らしながら
AIに向けて叫ぶ。
「了解。『メルレダンデ』ノ
発射プロセスヲ停止シテイマス」
- 453 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:06:31.52 ID:sVh0F2PK0
「うう……ううう!」
そこで圭が、いきなり苦しそうな顔になり体を丸めた。
彼女の操縦を離れた大恒王が、急速に落下を始める。
「くそ……駄目だ! また、またあの役立たずに……」
悔しそうに呟いた圭の目から徐々に光がなくなっていき、
彼女はガクリと首を垂れた。
「エネルギーノラインガ切断サレマシタ。
大恒王ハ、全システムを停止イタシマス」
「霧、雪! 補助システムを起動させろ、不時着するぞ!」
絆が震えている霧と雪に怒鳴る。
二人は一緒の操縦桿を握り、
大恒王のバランサーを安定させた。
- 454 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:07:06.36 ID:sVh0F2PK0
彼女達のエネルギーにより補助電源が働き、
大恒王が補助ブースターを点火させながら、
凄まじい勢いで、腰から砂地に着地した。
その左手に浮かび上がっていた灰色の球体が、
ボヒュン、と音を立てて消える。
絆は、気絶したらしい圭の体を抱きかかえながら、
赤い補助ランプが点灯している大恒王の中で、
ハッチを開く緊急ボタンを押した。
砂臭い煙が、鼻に飛び込んできた。
ハッチが競り上がり、
コクピットの防護壁がゆっくりと開く。
どこまでも広がる砂漠だった。
すり鉢型に抉れていて、徐々に炸裂の
中心部に向かって砂が移動している。
- 455 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:07:47.60 ID:sVh0F2PK0
その惨状に唖然とした絆から、
数百メートル離れた空間が揺らめいた。
体中各部から火を吹き上げて、
右足と両腕がなくなり、
コクピットがむき出しになっている状態の
戦劫王が姿を現した。
翼も、六枚のうち五枚がボロボロに
こげてなくなっている。
浮遊することも困難な状態のようで、
それはゆらゆらと空中を漂った。
数百メートルの距離を隔てて、絆と絃が睨みあった。
そこで絆はハッとした。
戦劫王に乗っているのは一人ではない。
他にも二人、乗っている。
- 456 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:08:31.24 ID:sVh0F2PK0
バーリェだ。
絃自身が否定し、
「存在してはならないロストテクノロジー」だと
言ったバーリェが乗っている。
その意味を推し量ることが出来ずに、
絆はその場に硬直した。
やがて絃は、絆が向かってこないことを確認すると、
戦劫王を操縦して彼に背を向けた。
その姿が蜃気楼のように歪んで消える。
ベルトを外し、ドッ、と膝をついて、
絆はその場に崩れ落ちた。
- 457 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:09:03.46 ID:sVh0F2PK0
背後でブツリと通信が回復する音がして、
そこから駈の声が流れ出した。
『絆特務官、応答せよ。
こちら地下の第二避難室だ。
そちらの状況を教えてもらいたい。応答せよ』
渚も意識を失ったのか、力なくシートに崩れ落ちている。
薄れゆく意識の中で、絆は視界の端で、
雪が必死に通信マイクを、手探りで持ち上げるのを見た。
- 458 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:09:49.54 ID:sVh0F2PK0
*
気がついた時、絆は薄暗い病室の中にいた。
「……半径十二キロ圏内は、地下百メートル地点まで
全て量子分解された。これが、現在の本部周辺の状態だ」
目を覚ましてから数分後、
彼は待機していた駈に現状を聞かされていた。
今絆達がいるのは、三十キロ離れた別の街の軍施設だった。
エフェッサーの本部は、結論から言うと「壊滅」だった。
戦闘中は、地下二百メートル地点にある
避難室に全員逃れていたらしい。
無論、絆の有しているバーリェの他の戦力は、
一切残っていない。
- 459 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:10:24.29 ID:sVh0F2PK0
出撃していないバーリェが残っていることには
残っていたが、とても戦えるような
状況ではないことは明白だった。
戦闘後、意識を失ってしまった絆達を、
雪のナビで他のトレーナーが発見、保護したらしい。
プロジェクターで壁に投影された衛星写真を見て、
絆は掠れた声で呟いた。
「これを……俺達がやったと言うのか?」
巨大なクレーターが出来ていた。
まるで、本当に小型水爆が落下したかのように、
直径二十四キロの範囲が円形に「消滅」していた。
駈は頷いてプロジェクターの電源を切り、絆に言った。
「君達の戦闘によるものだ。それは間違いない」
- 460 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/07(土) 20:11:54.88 ID:sVh0F2PK0
お疲れ様でした。
次回の更新に続かせていただきます。
ツイッターやスレを通して、沢山のご感想ありがとうございます!
引き続きご意見やご感想、ご質問などございましたら、
お気軽にいただけますと嬉しいです。
それでは今回は失礼させていただきます。
- 461 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/07(土) 21:01:53.85 ID:upPF5Zf6o
大恒王があまりに強すぎて本部のトレーナーはポカーンとしてそうだ
お疲れ様
- 462 名前:NIPPERがお送りします(愛知県) [sage] 投稿日:2012/04/07(土) 21:18:36.86 ID:oaBjE2dVo
椿はどうなる
- 463 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/04/07(土) 23:13:00.76 ID:2fBiSyLco
元老院はどうなってるんだろか?
- 467 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/04/09(月) 17:05:46.70 ID:KsGx2YfE0
こんばんは。
大恒王の強さは図抜けたものがありますが、
それを世間は許すわけがなく……。
椿をはじめ、他のトレーナー達は、
地下シェルターに逃げ込んでいたため大半が無事です。
元老院については、今回の更新で書かせていただきました。
続きが書けましたので、投稿をさせていただきます。
お楽しみいただけますと幸いです。
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