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侍「言葉が通じなくとも」
104 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/04(金) 05:31:33.95 ID:AhEjyfKAO
〜〜

ゼェ……ゼェ……

「お兄ちゃん、しっかりして!」

ゼェ……大丈ぶ…ッ ゲホッ! ゲホッ!

「お医者様! お兄ちゃんが血を!」

「……今夜が山ですね」

「そんな…」

……ごめんな

「…お兄ちゃん?」

祭には一緒に行けそうもないや…

「……」


105 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/04(金) 05:38:04.75 ID:AhEjyfKAO
迷惑ばっかりかけ……本当にごめ

「お兄ちゃんの馬鹿!」



「私は一度も迷惑だなんて思ったことなかった!」

「お兄ちゃんと一緒にいられて、本当に幸せだった!」

「それなのに…」

……


「……もし、お兄ちゃんが迷惑かけたって思うんだったら」

「ちゃんと元気になって……ね?」




「……お――ちゃん?」

「――ちゃ―――


106 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/04(金) 05:46:31.37 ID:AhEjyfKAO


……


……っ

眩しい……

僕は……死んだのか?

『否、汝生かされたり』

あなたは……誰?

『我、汝らにオンカミと祀られし者』

神……さま?

『我、無垢なる娘の願い、聴きとどけたり』

無垢なる娘―――?


〜〜


107 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/04(金) 06:12:02.17 ID:AhEjyfKAO


少女『……夢?』

いつの間にか目が覚めていた

眠りについている時に見る夢というより、現に漂う白昼夢

いや、誰かの記憶というのが一番しっくりくる

少女『……』

寝起きだというのに、やけに頭が冴える

少女は、見えざる力に導かれるように部屋を出ようとして

侍『―』ペシッ

少女『…った!?』

相棒に見つかった


111 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 13:53:58.96 ID:d+yJAVhAO


私は、生まれつき身体が弱く、5つの時に不治の病にかかった

身体が確実に弱っていくのを感じながらも、私が絶望しなかったのは、私を励ましてくれた妹のおかげだろう

妹は毎日外での出来事を話してくれた

寂しい時にはずっと傍にいてくれた


私は、十分幸せだった

だから、妹には幸せになって欲しかった



皇王『だが、それも最早叶わない』

少女『貴方の病を治す代わりに、大神に全てを捧げたんですね』


112 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 14:10:23.82 ID:d+yJAVhAO
皇王『妹は優しかった。いや、優しすぎた』

神殿内の礼拝堂に、皇王の声が悲しく響く

皇王『大神は人の願いを聴き届ける代わりに代価を求める』

少女『…待って下さい。代価を払わなきゃいけないなら、聖者さん達は何を払ってるんですか?』

壇上の皇王が振り返って少女に言う

皇王『…代価は私の妹が払い続けている』

少女『妹さんが…?』


114 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 14:24:00.01 ID:h33QYlrDO
侍の出番はまだかしら


115 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 14:30:08.60 ID:d+yJAVhAO
皇王『大神の求める代価は、金や地位なんて生易しい物じゃない』

皇王『真に身を切る気持ちがないと払えない……願いを叶えても苦しみが残るようなものだ』

皇王『故に、自力で悲しみや苦しみを乗り越え願いを叶える、というのが我々に与えられた戒め』

少女『…!』

それは、昼間皇王が否定した少女の言葉

皇王『しかし、妹は願った。自らの命と引き換えに、死に往く私の救済を……』


116 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 14:42:26.02 ID:d+yJAVhAO
皇王『…妹の命と引き換えに、私は生き延びた』

少女『…だから、苦しんでるんですね』

皇王『…ああ』

皇王の願いは妹の幸せだった

だが、その願いは自分が生き延びる事で断たれてしまった

妹の願いが皇王の幸せだとしたら、その願いも叶わない


それは、戒律を破った者への呪いのよう


117 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 15:03:09.88 ID:d+yJAVhAO
皇王『私を苦しめる為、大神は様々な手を使ってきた』

皇王『私を皇王に仕立て上げ、救いをばらまくよう命じた。私だけが救われないのを見せつけるかのように…!』

声から滲み出る深い哀しみ

誰も悪い者などいないのに、羨み恨んでしまう自分

他人を許せず、自分を許せず、どれだけの苦痛を味わって生きてきたのか

少女『皇王様…』ツー

少女は泣いた

誰かの幸せを願える人が幸せにならない事程、不幸な事はないから


118 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 15:24:55.65 ID:d+yJAVhAO
少女『皇王様、妹さんの事、今でも愛していますか?』

皇王『…愚問だ』

少女の問いに、やや不機嫌な声で答える

少女『だったら諦めてないで、もう一度幸せな物語を始めましょう!』

少女『きっと、私達は―』



ユラッ

ボッ ボッ ボッ


青白い炎が空中に灯り、

大神『我、願いを叶えし者』

光を纏った女の子が現れた



少女『―その為にここへ来たんだから』


119 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 15:39:06.73 ID:d+yJAVhAO
皇王『大神様! 私はどうなってもいい! 妹を返してくれ!』

大神『できぬ。汝の命運は既に尽きしもの、代価にはなり得ぬ』

大神が妖艶な笑みを浮かべる

人を見下した冷たくも、どこか熱っぽい瞳

真っ白な柔肌は老いとは無縁な、生を超越した存在である事を感じさせた

少女『あの女の子が大神?』

皇王『…ああ、私の妹の身体を依り代にしている』


120 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 16:09:20.78 ID:d+yJAVhAO
大神『皇王、この娘の事は忘れよ。さすれば楽に生きられよう』

大神が甘い声で囁く

それは人が過ちを犯す時に聞こえる声、まるで悪魔の囁きのようだった

大神「苦しみを過去のものとせよ。苦しみ悲しみを乗り越えるよう、我は教えたぞ」

フワッ


侍「―ならばその教えは欠陥だらけだな」

大神「!」

キィンッ

侍「乗り越えるとは、苦しみや悲しみと共に生きるという事。それらを忘れ去れる程……人間は強くない」スタッ

大神「人間は弱い、と申すか」ニィッ

侍「左様」チャキッ


121 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 16:23:24.86 ID:d+yJAVhAO
大神『そうだ! 人間は弱い! 己の無力さを知れば直ぐに他力にすがりつく!』

心底楽しそうに大神が言う

大神『まして代価も無しに救いを得られるのだ。言えばお前の妹は聖女として崇められるぞ?』

神とは思えぬ下品な笑み

いや、神とは総じてそういうものなのかも知れない

皇王『ふざけるな! 妹を貶めるような真似ができるか!』

聖女として崇められる

それは「代価になってくれてありがとう」という犠牲になった者への感謝

人は犠牲になる者にいくらでも感謝できるのだ


122 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 16:32:43.82 ID:d+yJAVhAO
侍「外道が…!」ダッ

ギィンッ

大神「我に剣を当てるとは、恐るべき腕前」ギギッ

侍「褒めるにはまだ早い。次の太刀でその首貰い受ける故」ギギッ

カシィンッ

大神『よいのか皇王よ! 妹君が殺されるやも知れぬぞ!』


皇王『ハァッ』ブンッ


ガシッ

大神『……なんの真似だ』ベキベキッ

皇王『ようやく目が覚めたのだ……!』

強い意志を宿した瞳で、皇王が大神を睨む

皇王『我が妹を貶める大神こそ、憎むべき敵であると!!』


123 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 16:42:45.15 ID:d+yJAVhAO
大神『敵……か。「オンカミ」である我を敵呼ばわりとは、無礼者共がッッ』バッ

空中に漂う6つの青白い炎が、大神の掲げた手の上で交わる

熱が渦巻き、炎が爆ぜ、大神の怒りが燃えた

礼拝堂の天井は怒りに焼かれ、石造りにもかかわらず焼け落ちた

大神『滅びるがいい! 愚かで弱き人間共よッッ』

ゴウッ


ドカァァァアアアンッッ


124 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 16:59:34.95 ID:d+yJAVhAO
爆発は神殿を半分以上吹き飛ばし、辺りには黒煙が漂った

大神「人の弱き事、なんと哀れな」


「確かに、人は弱い」


大神「!」


侍「だが、弱さを卑下する事も強さを傲る事もない」ピッ


少女と皇王を背に、侍は大神の炎を受けきった

大神「……化け物が!」ギリッ

大神は初めて驚愕に顔を歪めた


125 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 17:19:18.56 ID:d+yJAVhAO
大神「くッ!」バッ

大神が侍に手を翳す

バチッ

大神「なに!?」

侍「御首級頂戴仕る…!」ダッ

大神「止まれ! 小娘の心の臓、捻り潰すぞ!」バッ

今度は少女に手を翳す、が

バチッ

大神『何故だ! 何故力が効かぬ!?』グアッ

大神が青白い光を放ち、皇王の妹から離れる

やがて光の中から「神」が現れる

大神『我、は「オンカミ」。汝らの願いを聴き届けし者』


126 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 17:28:09.32 ID:d+yJAVhAO
少女『大神が妹さんから離れた!』ダッ

少女が皇王の妹に駆け寄る

大神「滅せよ」バッ

ギィンッ

侍「お主の相手は私だ」ギッ

大神「愚かな」

カ――ッ

侍「!」バッ


ドォォォォンッッ


侍「ぐぅッ!?」ドサッ


127 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 17:37:30.61 ID:d+yJAVhAO
少女『大丈夫、妹さんは生きてます! お兄さんが時間を稼いでくれてる内に逃げましょう!』

皇王『ああ!』バッ

ドォォォォォンッ

皇王『ぐっ!?』

少女『なっ 何が…』

大地を揺らす爆発に、逃げ足が止まる

尤も、

大神『持たざる者よ、彼の者の命と引き換えに、汝の願いを叶えよう』

大神に立ちはだかれ、逃げ道などなくなってしまったのだが


128 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 17:50:01.85 ID:d+yJAVhAO
休憩とります
風邪をひいてしまって予定より遅くなってしまいました


129 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 17:51:06.19 ID:UkZKAzAfo
構わん
寝ろ


130 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 17:58:54.23 ID:XNvkDDo/o
構わん
休め


131 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 19:11:01.22 ID:d+yJAVhAO
大神『願いを叶えよう。汝、肉親が恋しいか』

少女『…』

大神『汝が願うのなら、彼の大戦(おおいくさ)を昔日より消し去ろう』

少女『!』

あの忌まわしき大戦が起きなければ…

世界中に飢えや傷病に苦しむ人が溢れる事もなかった

沢山の人が死なずに済んだ

何より、家族を失う事がなかった

少女『…』

少女『……でも、私はそれを選べない』

大神『……何故に』

少女『私は……その悲しみを引き連れて行く事にしたの』


132 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 19:28:41.09 ID:d+yJAVhAO
侍「…勝負あったな」ザッ

少女『お兄さん!』

大神『人間よ、何故苦難の道を選ぶ』

大神が静かに二人に問いかける


侍「それが、信じた道故」少女『それが、信じた道だから』

大神『!』

大神『……強き事よ』


侍「僭越ながら、介錯仕る」カタカタ

少女『お兄さん! もう腕限界なんでしょ!』

侍の震える腕を少女が支える

少女『大丈夫、私も手伝う』

侍「…忝ない」


133 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 19:34:34.05 ID:d+yJAVhAO
侍と少女は平突きの構えを取る

それは少女の瞳に焼き付いた、侍の奥義

「道照らす事―」


大神「嗚呼、漸く合点がいった」

大神「『道を拓く者達』の妨げはできぬという事か…」


「―日輪の如し」


ドォォォォォオンッッ


134 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 19:39:28.34 ID:XNvkDDo/o
なんだろう、なんでかわかんないけど目頭が熱い


135 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 19:51:25.43 ID:d+yJAVhAO
―ある日を境に、添命では奇跡が起きなくなった

それでも苦しむ人々は後を断たず、添命が悲しみに包まれる日も近いと思われていた


だが、それは杞憂に終わった


添命には世界各地から医者や看護職、介護を志す人々が集まった

「皇王様と妹君の御尽力に心打たれて」

奇跡が起きなくとも、人々は救える

強い信念の下に、皇王は医者、学者、魔術師……あらゆる方面の専門家を集めた

特に医療に力を入れ、「不治の病」と諦める事を禁止した


136 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 20:00:52.02 ID:QMU8sT11o
いい話過ぎて死にそう


137 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 20:07:12.98 ID:d+yJAVhAO
皇王の妹は徳の高い人だった

医学を学ぶ傍ら、療養所を訪ねては患者達とよく話した

その柔らかな声と慈愛の心は、皆の心を少し優しくする

「五体満足だからそんな事言えるんだ」

そう言われる事もある

そんな時、彼女は決まって患者の手を握る

手から伝わる深い哀しみと労りの気持ち

彼女の心に触れて、患者は、いつしか自分心を蝕んでいた病に気付く

「心は、救われましたか」


138 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/06(日) 20:23:11.21 ID:d+yJAVhAO
添命の人間は死に際に「ありがとう」と言う

それは、自分を産んでくれた両親へ

今まで出会った全ての人へ

そして、看取ってくれた心優しい人達への感謝の言葉…


皇王達の努力虚しく、消えゆく命がある

だが、死に往く友を救う為、添命は今日も苦難の道を歩んでゆく


一つ、自らを貶めるべからず

一つ、隣人を信じるべし

一つ、全て謙虚に受け入れるべし―




給仕『ちょっと待ってって!』グイグイ

女聖者『貴女の力が必要なのよ! 苦しんでる人を見捨てるなんて貴女らしくない!』ギュウギュウ

給仕『アタシはもう引退した身なの!』ギューッ

女聖者『貴女が戻ってくれたら、皇王様も喜ぶだろうなぁ』

給仕『え…』

女聖者『それっ』グイッ

給仕『うわっ ちょっとっ』タタッ



少女『はい、あーん』

侍『―』パクッ


139 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 20:25:31.91 ID:d+yJAVhAO
添命編終わり
いかがだったでしょうか…
風呂敷広げすぎた感がありましたね


ご飯食べて次の冒頭まで書きます


140 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 20:33:10.65 ID:k3IMZPCfo
結局腕治らずか
一先ず乙


141 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 20:51:56.15 ID:h33QYlrDO
短い時間とはいえ刀が持てる位には回復したのか…?



142 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 21:13:51.37 ID:WrQ5pcDBo
モンハンやりすぎて親指の付け根が痛い状態
つらいが一戦ぐらいなら出来る


143 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/06(日) 21:38:29.90 ID:d+yJAVhAO
ちょこっとレス

>>102
言葉が通じなくてもwiki
http://ss.vip2ch.com/ss/%E5%B0%91%E5%A5%B3%E3%80%8E%E8%A8%80%E8%91%89%E3%81%8C%E9%80%9A%E3%81%98%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%A6%E3%82%82%E3%80%8F

>>109
ありがとうございます
これからもご愛読いただけるよう努力します

>>129>>130
寝過ぎて頭痛いです


では本編に戻ります



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