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少女「私が……魔王?」
14 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:54:10.29 ID:Y4tf1Tbwo

― 魔王城 バルコニー ―


魔族「魔王様!」

魔族「魔王様が復活なさったらしいぞ!!」

魔族「見ろ! バルコニーに誰か出て来たぞ!」

魔族「年端もいかない少女の姿だが……」

魔族「あの波動、魔王様に違いない!!」

魔族「魔王様!」

魔族「魔王様ご復活ばんざーい!!」

魔族「ばんざーい!!」


少女「ふぇぇ……」ビクビク

メイド長「魔王様、背筋を伸ばして下さい。皆に手を振って挨拶をお願いいたします」

少女「え……っと、こう?」ヒラヒラ


魔族「魔王様が手を!」

魔族「何て高貴なお姿だ!」


少女「ってあれ? なんで私ドレス着てるの!? さっきまで部屋着だったはずなのに」

メイド長「失礼かとは思いましたが、お召し替えをさせていただきました」

少女「一瞬で!?」スゴイ

メイド長「メイドたる者、この程度嗜みでございます」

少女「うぅー、もう色々ワケわかんないよ……」ヒラヒラ


魔族「魔王様の為に人間共に鉄槌を!」

魔族「人間界を我等の手に!」


15 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/28(月) 23:54:56.53 ID:Y4tf1Tbwo

― 魔王城 魔王の部屋 ―


獣王「では、魔王様は人間界への侵攻には反対だ、と」

少女「はい」

海王「ですが、人間界を破壊し、蹂躙し、征服する事こそが我々の悲願」

少女「じゃあお聞きしますけど、どうして私達を殺そうとするんですか?」

メイド長「『私達』というのは人間の事をおっしゃっておられるのでしょうか?」

少女「もちろんです。私は人間です」

竜王「魔王様は魔王様でございます。人間のような下等種ではございません」

獣王「まだ記憶が戻っておられないからご自覚がないんだ。しばらく時間を置くべきだと思う」

海王「仕方ありませんね……一度人間界からは手を引き、魔王様の記憶が戻られるのを待ちましょう。勇者とて急激に成長するような事はないでしょう」

メイド長「魔王様、紅茶を淹れ直しました」

少女「あ、ありがとうございます……みなさん、ご迷惑掛けちゃってごめんなさい……」シュン

獣王「な、何をおっしゃるんですか!」

海王「そうです。魔王様が謝られるような事は何一つとして!」

竜王「我々が先走ってしまった結果です。魔王様の記憶が無いのを失念しておりました。申し訳ございません」

メイド長「夜には吸血鬼も戻るはずです。お話はまたその時にいたしましょう」

少女「はい……」

獣王「今日のところはゆっくりお休み下さい」


16 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:01:05.56 ID:D6BnVlAAo

― 魔王城 中庭 ―


少女「ここどこ……?」キョロキョロ

少女「ぁぅー、お手洗い行きたいだけなのに迷っちゃった……」

少女「わぁ、綺麗な花壇! チューリップにカーネーション、薔薇にガーベラ。こっちはマーガレットも!」

?「お気に召されましたでしょうか?」

少女「ひゃっ」ビックリ

?「申し訳ございません。魔王様を驚かせるつもりはございませんでした。平にご容赦ください」

少女「い、いえ。私こそ勝手に入っちゃってごめんなさい」

?「私は獣王様の配下、獣人族の花守りと申します」

少女「よ、よろしくお願いします……」

少女(猫さんみたいな人間みたいな?)

花守り「猫と人間のハーフと思ってくださって結構ですよ」ニコッ

少女「にゃーん?」

花守り「にゃーん」ニコニコ

少女「あははっ」ニコッ

花守り「素敵な笑顔でございます。ここは魔王様の為の庭園。いつでも魔王様の為に花を咲かせております」

少女「ほぇー。お手入れ大変そう……」

花守り「そのようなお言葉をいただけるだけでも過分でございます」

少女「そんな、畏まらないでください。私、魔王なんて言われても全然わかんないですから」アセアセ

花守り「ご記憶がないと伺っております。前魔王様は花には興味を示されませんでしたが、今回は私の腕をご覧頂けると心から嬉しく思っております」

少女「あははは……」

少女(何て言えば良いのか全然わかんないよぅ。でも、悪い人じゃなさそう)

少女「あれ……?」ソッ

花守り「どうかなさいましたか?」

少女「あ、いえ、スズランが一本だけここに生えてたから」

花守り「これは失礼いたしました。種が紛れ込んでいたのでしょう。すぐに抜きますゆえ……」

少女「ううん。スズランとライラックってすごく綺麗で大好きなんです」

花守り「このスペースは確かにライラックを植えておりますが……なるほど。言われてみるとお互いが引き立てあって調和が取れておりますね」

少女「スズランは幸運のお花って言われてるんですよ?」

花守り「人間界では花に色々な意味を持たせていると聞いた事がございます」

少女「うん。薔薇には『愛』、チューリップは『思いやり』、カーネーションは『純粋な愛情』。他にもたくさんあるんですよ」イッパイ

花守り「なるほどなるほど。もしよろしければ他にも教えていただけないでしょうか」

少女「もちろんっ。って、ごめんなさい。今はちょっと……」

少女(お手洗い行きたかったの忘れてた……)モジモジ

花守り「お時間を取ってしまい申し訳ございませんでした。またお時間のございます時にお願いいたします」ペコリ

少女「は、はいっ。また来ますね。ぜったい!」タタタタタ


17 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:02:52.64 ID:D6BnVlAAo

― 魔王城 キッチン ―


少女「うなー、お手洗いどこ……」モジモジ

少女「明らかにキッチンだよね、ここ。どう間違えてもお手洗いじゃないや」キョロキョロ

少女「おっきなお鍋がたくさんある……こっちは中華鍋、かな? これだけおっきのだったら作り甲斐あるだろうなぁ」

少女「誰もいないのかな? お手洗いの場所聞きたかったのに……」

?「誰だ!?」

少女「ひゃぅっ!?」ビクッ

?「こんな時間に来るとは、昼飯が足りなかったからって盗み食いしに来たんだね!?」

少女「あわあわあわ」アタフタ

?「って……魔王様!? し、失礼いたしましたっ!!」ペコペコ

?「まさか魔王様とは露知らず、暴言の数々申し訳ございません」ドゲザ

少女「わ、私こそごめんなさいっ。迷っちゃって……」

少女(ちょっとだけ漏れちゃったかも……)

?「お腹が空いたのですか? でしたらすぐにでも軽食のご用意をいたしますが」

少女「あ、いえいえっ。お腹が空いたんじゃなくてですね、その……」

少女(人間……なのかな? でも耳が尖ってて……あ、少年君が貸してくれた本に載ってた)

少女「エルフさん、なんですか?」

?「はい。人型魔族のエルフ族に属します、調理師長と申します。厨房の責任者を仰せつかっております。この度は魔王様のご帰還、心よりお喜び申し上げます」

少女「あ、あははは……」

調理師長「今宵の宴には調理師一同腕をふるって魔王様のご帰還をお祝いする料理を作りますので、どうぞお楽しみになさってください」

少女「お料理って人間のお料理とは違うんですか?」

調理師長「人間界の料理とあまり変わりませんよ。ただ、種族が多様ですので使う食材がかなり広がります」

少女「ほぇー」

調理師長「例えば、獣族の一部は肉や魚ではなく、昆虫などを好んで食べますので、それに合わせた調理方法や味付けをします」

少女「田舎のお婆ちゃんがイナゴの佃煮作ってたけど、そんな感じなのかな……」

調理師長「ツクダニとは何でしょうか?」

少女「あ、えっと、お砂糖とお醤油とかで甘辛く味付けするんです」

調理師長「醤油……?」

少女「ありゃ、お醤油がわかんないのか……えっとえっと、お醤油っていうのは大豆に色々と手を加えて発酵させた調味料なんです」

調理師長「ふむふむ。味は甘辛になるんですか?」

少女「はい。佃煮はそんな味になります。お醤油そのものはしょっぱいですね」

調理師長「甘辛い、ですか……ふむ、ショーユとかいうのを手に入れてみたいですね」


18 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:03:20.44 ID:D6BnVlAAo

少女「調理師長さんの得意料理って何なんですか?」

調理師長「得意なのはやはり肉料理ですね。塊肉を焼いてオリジナルソースを掛けるんですけど、そのソースに秘訣があるんですよ」

少女「ローストビーフみたいな感じなのかな……でも、あれはお肉にも手を加えるから違うのかな」

調理師長「ローストビーフというのは?」

少女「んっと、牛肉の塊に塩コショウをしてから大蒜とかを添えてタコ糸で縛って、オーブンで焼くんです。お肉の中心がレアなので肉汁が出て美味しいんですよ」

調理師長「それは美味しそうですね。早速取り入れてみましょう。魔王様はお料理が得意なのですね」

少女「誰かに喜んでもらえるのって嬉しいじゃないですか。あ、そうだ。簡単でよかったらレシピ書きましょうか?」

調理師長「魔王様にここまでしていただけるとは、光栄の極みでございます」

少女「そ、そんな事は……えっと、よく考えたら魔族の字ってわかんないや。っていうか私、今日本語喋ってるよね?」

調理師長「いえ、れっきとした公用魔族語ですが?」

少女「ふぇ!?」

調理師長「魔王様のご記憶の中で言語部分が一番早く戻ったのかもしれませんね」

少女「ぁぅー……私人間なのにぃ」

調理師長「あははは。魔王様は何だか可愛いですね」

少女「そ、そんなことないですよぅ」

調理師長「ま、レシピは私のほうで色々と試してみます。夜の晩餐にはご期待くださいね」ニコッ

少女「はいっ」ニコッ

少女「あ、そうだ!」

調理師長「なんでございましょう?」

少女「あの、調理師長さんは女性だと私は確信してるのでお伺いしたいのですけど」

調理師長「もちろん女性でございますが?」

少女「お手洗い、どこですか?」ゲンカイ


19 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:04:06.03 ID:D6BnVlAAo

― 魔王城 屋上 ―


少女「うぅ……お手洗いですっきりしたのは良いんだけど、帰り道わかんないよぅ」

少女「ここは屋上みたいだけど……うわぁ、綺麗な眺め」

少女「あれは……太陽、じゃないよね。何なんだろう? 輝いてる何かが山の向こうに沈んでいくけど」

吸血鬼「あれはこの世界の太陽でございます」スタッ

少女「吸血鬼さん」

吸血鬼「ただ今帰還いたしました。この度は勝手な行動をしてしまい、申し訳ございませんでした」

少女「い、いえ。私こそわかんない内に吸血鬼さんに酷い事してたみたいで、ごめんなさい」ペコリ

吸血鬼「魔王様は何一つとして悪くはございません。魔王様のご意思は絶対なのですから」

少女「お身体は大丈夫ですか?」

吸血鬼「仮にも不老不死と呼ばれる私です。それに、魔王様の癒しの光ですぐに痛みなど飛んでいってしまいました」ニコッ

少女「よかったぁ」ニコッ

吸血鬼「魔王城を散策なさっておられたのですか?」

少女「あ、えっと、それが……」


吸血鬼「……魔王様、申し訳ございません。笑います」ハッハッハッハッハ

少女「もーっ! 笑わないでよぅ」

吸血鬼「い、いやしかしですね、居城たる魔王城で迷われるとかっ」アハハハハハ

少女「むー、だってだって、初めての場所なんだから迷うのはあたりまえでしょー!」

吸血鬼「くっ、苦しっ、笑いすぎて横っ腹がっ!」ヒャッヒャッヒャッ

少女「もー、吸血鬼さんってば!」ポカポカ

吸血鬼「も、申し訳ございませんっ、しかしっ」アヒャヒャヒャヒャ

少女「ふーんだ。もういいもん!」ベーッ タタタタ

吸血鬼「ま、魔王様っ、お一人ではまた迷ってしまい、まっ、あっはっはっはっは」ゲラゲラ


20 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:05:15.25 ID:D6BnVlAAo

― 魔王城 池 ―


少女「ほんっとにもう、吸血鬼さんはっ!」プンスカ

少女「って、また迷ったのね、私……」ズーン

少女「しかもお城から出ちゃうとか頭に血が上ってたのかなぁ」

少女「池、だよね。うわぁ、水が綺麗。しかもおっきい。池っていうより湖なのかな」

少女「うーん、こういうトコで水浴びとかしたら気持ち良いだろうなぁ」パシャパシャ

ゴボゴボゴボ

少女「ひゃぅ?」

ザバァァァァッ

?「なーにーをーしーとーるー!!」ウネウネ

少女「きーゃーっ!!」ジタバタ

?「魔王様ではございませんか! てっきり獣族の者が泳ぎに来たのかと思いまして……申し訳ございませんでした」

少女「イカー!?」デカッ

?「私は海王様に仕える海族が一人、巨烏賊と申します」

少女「魔族って本当に色んな人(?)がいるんですね……」スゴイ

巨烏賊「人間は単一種族ですからね。我々からすればそちらのほうが異色です」

少女「うーん、なるほど……?」

巨烏賊「それはそうと、魔王様も水浴びでしょうか? 魔王様でしたら大歓迎でございます」

少女「ううん。綺麗な池だなーって思っただけです」

巨烏賊「ここは我々海族の本拠地と地下水脈で繋がっておりますゆえ、絶えず綺麗な水を湛えるようにしております」

少女「でもここのお水、海水じゃないですよね?」

巨烏賊「魔界の海は淡水なのですよ」

少女「海はない……ということなんですか?」

巨烏賊「ない、とは申しませんが、どちらかというと巨大な湖が点在していると思ってくださったほうがわかりやすいかと。あのしょっぱい海はごく一部にしかございません」

少女「人間界とは全然違うんだなぁ……」

巨烏賊「あちらの世界は海水が主と聞いた事がございますが」

少女「うん。海が6割? 7割だったかな? あれ、この前習ったはずなんだけど……」ウーン

巨烏賊「淡水はほとんどない、と?」

少女「湖や川は淡水ですよ。海に比べたら少ないですけど。イカさんも海に住んでますよ」

巨烏賊「なんと! それは興味深い……」

少女「他にも鯨さんとかマグロさんとか……」

巨烏賊「鯨でしたら南の大湖に群れで生息しております」

少女「わ♪ じゃあイルカさんも?」

巨烏賊「おりますよ。陽気な奴らです。いつも歌を唄ったりしています」

少女「……やっぱり喋るの?」

巨烏賊「大型種はほぼ全種が喋りますよ。人間界の奴らは喋らないんですか?」

少女「えっと、喋らない、というかイルカさん同士、鯨さん同士では喋ってるのかもだけど、私達にはわかんないです」

巨烏賊「不便そうですね」

少女「あはは……」


21 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:06:14.59 ID:D6BnVlAAo

巨烏賊「ご記憶がまだ戻っておられないと伺いましたが」

少女「記憶っていっても、私は私だから魔王の記憶とか言われても……わかんないよ」シュン

巨烏賊「……失礼いたしました」

少女「魔王って、どんな人なの?」

巨烏賊「私が知る部分というのはほとんどございません。私のような者が魔王様にご拝顔願えるなど本来ないことですので。しかしながら、前魔王様の事で知っております事といえば、厳しいお方とお伺いしたことはございます」

少女「厳しい人、ですか」

巨烏賊「はい。冷徹なまでに厳しいと。場合によっては魔族の犠牲も厭わないお方だと伺っております。ですが、魔族の事を絶えず思ってくださっていたとも」

少女「ほぇー」

巨烏賊「貴女様はお心のお優しい方だとお見受けいたします。ぜひともその暖かい光で我々を導いてくださいませ」

少女「うー、よくわかんないけどがんばる……?」

メイド長「魔王様、こちらにおられましたか」

少女「メイド長さん」

メイド長「皆で探しておりました」

少女「ごめんなさい。道に迷っちゃって……」

巨烏賊「それでは、私はこれにて失礼いたします。魔王様に栄光を」ブクブクブク

メイド長「色々な場所に行っておられたようですね」

少女「はい。花守りさんや調理師長さんにもお会いしました」ニコッ

メイド長「皆魔王様とお話ができたと喜んでいましたよ」

少女「魔族の人たちってみんな怖い人ばかりだと思ってたんですけど、違うんですね」

メイド長「もちろんです。互いに諍い合い、戦った記録は確かにございますが、今は魔王様の下、一致団結しております」

少女「人間とは、仲良くできないの?」キュッ

メイド長「……」

少女「ごめんなさい。私……」

メイド長「いえ、魔王様が悪いわけではございません。魔王様はお優しい方ですからそう思われるのですね。素晴らしい事だと思います」ニコッ

少女「……」

メイド長「やはり、人間界にお戻りになりたいですか?」

少女「うん……」

メイド長「そう、ですか」

少女「ごめんなさい」

メイド長「謝らないで下さいませ。魔王様はまだこの世界に慣れておられないのです。私共も色々考えておりますので、あまり気落ちなさらないで下さい」

少女「はい」

メイド長「さぁ、晩餐の為のお召し替えの時間です。湯浴みをしましょう」

少女「うんっ」ニコッ

メイド長「そういえば」

少女「ふぇ?」

メイド長「吸血鬼が屋上で抱腹絶倒状態だったのですが、魔王様は何かご存知ありませんか?」

少女「……知りませんっ!」プクー

メイド長「?」


22 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:07:29.20 ID:D6BnVlAAo

― 魔王城 大広間 ―


吸血鬼「皆も知ってのように魔王様が我等の前に戻って来られた! 今宵はその宴だ。無礼講とする。多いに楽しめ!」

魔族士官「魔王様ばんざーい!!」

魔族士官「魔王様に栄光あれ!!」

少女「ぁぅー、ちょっと怖いかも……」ガクブル

メイド長「ご安心下さいませ。ここに居る全員は魔王様に心から忠誠を誓う者ばかりでございます。仮に魔王様がここで死ねと言えば喜んで自らの命を断つでしょう」

少女「そ、そんな事言わないよぅ」

獣王「魔王様、こちらが我ら獣族からの献上品でございます」

少女「わぁ、綺麗な宝石」

獣王「北の鉱山で採れた物です。来るべき魔王様のご復活の為、一族の秘宝としておりました」

少女「でも、こんなに高価そうなもの、貰えないですよ……」

獣王「この地の物は全て魔王様の物。一級品ともなれば尚更です」

少女「……」チラ

メイド長「受け取りませんと話が進みませんので」コソッ

少女「じゃ、じゃあ、いただきます。獣族の皆さん、ありがとうございます」ニコッ

獣族士官「魔王様が微笑んでくださったぞ!」

獣族士官「なんと可愛らしい……」ポケー

少女「あ、あはは……」ドウスレバイイノ

海王「魔王様、本日の料理は我ら海の一族からの献上物となっております」

少女「だからお魚とかが多いんですね。すっごく美味しいです」モギュモギュ

海族士官「ほっぺたをいっぱいに膨らませて食べておられる……」

海族士官「なんだこの感情は。これが……萌えなのか!?」ズガーン

少女「なんでそこだけ人間臭いんだろう」

竜王「我ら竜の一族からはこちらを」

少女「ペンダント……ですか? 綺麗なトップがついてる」

竜王「竜の一族に伝わる始祖たる者、黄金竜の鱗と言われております。あらゆる障害を跳ね除け、身に付ける者を守るとも」

少女「うぅ、皆さんすごい物ばかり……」

竜族士官「見ろ、あの魔王様のお顔を」

竜族士官「可憐だ……」

少女「あぅあぅ」オロオロ

メイド「落ち着いてください」

吸血鬼「では、最後に私から」

少女「吸血鬼さんからも?」
吸血鬼「もちろんでございます。我らから、というより我々一同から魔王様へのプレゼントとなります」

少女「ほぇ……?」ナンダロウ


23 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:09:08.15 ID:D6BnVlAAo

吸血鬼「人間界へお戻り下さって結構でございます」

少女「……へ?」

獣王「魔王様は魔王様ですが、まだご記憶も戻っておられないご様子」

少女「うん……」

竜王「人間界にお戻りになりたいとおっしゃっておられましたでしょう?」

少女「それはそうですけど」

海王「斥候には引き上げ命令を出しました。魔王様のご決断があるまで我々はお待ちいたします」

少女「あ……」

吸血鬼「明日には人間界のご自宅にお送りいたします。ですから、今宵はどうぞこの世界をお楽しみいただけますでしょうか?」

少女「ありがとうございますっ」ペコリ ニコッ

人型魔族士官「謙虚な魔王様だ」

人型魔族士官「素敵すぎる」

少女「それと、ごめんなさい。皆さんが思ってるような魔王じゃなくて……」

吸血鬼「何をおっしゃいます。魔王様は魔王様。我々は貴女様の命にのみ従うのです」

竜王「ただ、一つだけ条件がございます」

少女「条件?」

海王「メイド長を同伴させていただきます」

少女「メイド長さんを?」

メイド長「はい」ペコリ

獣王「人間界は平和だとおっしゃいますが、勇者を含め、いつ魔王様に仇なす者が出現するやわかりません。ですから、護衛としてメイド長を」

少女「え、えっと……」

メイド長「ご心配なさらずに。私は元々人間界の住人でした。あちらでの常識やマナーは一通り覚えております」

少女「そうなんですか?」

メイド長「はい」ニコッ

少女「ほぇー……」

吸血鬼「ご納得いただけますでしょうか?」

少女「私は大丈夫ですけど……お父さんとお母さんに何て言えば良いんだろ」

メイド長「その辺りは問題ございません。魔王様のお傍に付くとはいえ、魔王様と共に暮らすわけではございませんから」

少女「そうなんですか?」

メイド長「魔王様のご自宅の屋根の上で寝ます」

少女「さらっととんでもない事言ってます!」


24 名前:NIPPERがお送りします(兵庫県) [saga] 投稿日:2011/03/29(火) 00:09:46.18 ID:D6BnVlAAo

獣王「そんなモンじゃないですか?」

竜王「魔王城ならいざ知らず、人間界の一軒家で魔王様と共に暮らすなんて畏れ多い事この上ないですからね」

少女「何か色々ツッコミどころ多すぎるよぅ。お父さんとお母さんは私が説得するから、メイド長さんもちゃんと一緒に住みましょう!」

メイド長「なんてお優しいお言葉。そのお言葉だけで十分でございます。下水管の中でも土の中でもどこでも耐える事ができそうです」ニコニコ

少女「ダメダメダメ! いいからちゃんと一緒に住むコトっ!」

メイド長「……魔王様のご命令とあれば」スッ

海王「和やかだなぁ」

吸血鬼「まだ今はこれくらいで良いのですよ」ニコニコ

獣王「話も済んだところで魔王様」

少女「はい」

獣王「お飲み物でございます」

少女「ありがとうございます」コクコク

少女「……」

獣王「お、お気に召されなかったですか?」

少女「……ヒック」

吸血鬼「アルコールを渡したんですか?」

獣王「つっても子供用のやつだぜ?」

竜王「人間の子供は酒を飲まないそうですよ」

少女「……うーん」バタンキュー

海王「魔王様!?」

吸血鬼「言わんこっちゃない……」アチャー

メイド長「酔い潰れてしまったようですね。私が寝室までお運びいたしますので皆さまはこのまま宴を」

竜王「すみませんね。お願いします」

獣王「す、すまねぇ……」



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