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少女「海と、瓶に詰まった手紙」
132 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:01:25.88 ID:gg+EtQm+O
翌日海に向かうと、いつもの場所に瓶は流れ着いていなかった。

僕は自分の瓶を海に投げ、帰って来ただけだった。

引っ越しの支度や、最後の片付け。

やる事はたくさんだった。

あれから、女に連絡をしてみても返事が来ない。

そして、浜辺に様子を見に行った所でもう手紙が流れ着いている事はなかった。

僕「別れる時には、これくらいの方がいいのかもしれない……よな」

乾いた気持ちのまま、僕は……地元に帰る日を迎えた。


133 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:05:52.01 ID:gg+EtQm+O
僕「手荷物持って……よし」

大きな荷物が運び出され、空っぽになった部屋を見つめて。

僕は最後の荷物を持って部屋から出る。

小さく部屋にさよならを言って……僕はゆっくり歩き出した。

まずは近くのバス停から、駅に向かわなければ。

海の見える、海岸沿いの道路を……僕は歩く。

いい天気だ。


134 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:15:54.70 ID:gg+EtQm+O
多分これが、最後の手紙になると思う。
鈴と会えて、僕は変わった。
僕の話を何でも聞いてくれて……いつも励ましてくれた。
とても優しい鈴の事が、僕は大好きだった。

でも、僕は今日ある人から告白されてしまいました。
その人とはよく一緒にいたけど、喧嘩や言い合いをしたりと。
居心地のいい関係ではなかった。
でも、鈴と話しているうちに……そういう関係も含めて、とても大事な人なんだという事に気付いたよ。

僕は多分、朝一番のバスで駅に向かうよ。
そしたら鈴とも、その子ともお別れ。

僕は素直に彼女の事は受け止められなかったけど……。
ここに来て本当によかったと思っているよ。

長くなったけど、鈴にお別れの挨拶。
じゃあ、バイバイ。
海が見たくなったら、また来るよ。


135 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:24:20.78 ID:gg+EtQm+O
僕「……お、来た来た」

向こうの方から、バスが一台。
僕が乗り込むバスに間違いなかった。

ゆっくり、ゆっくりと、それが僕の目の前で止まる。

プシューという音がして、目の前の扉が開いた。

僕(……)

僕「さよなら」

もう、これで僕が海を見る事もない。

そう思いながら、バスの入り口に一歩踏み込んだ……。瞬間。

チリン、と。

僕の右手が何かを握るように掴み……その中から、小さな鈴の音が響いたのを僕は聞いた。

そして、僕が握っていた物は……見ないでもわかる。

あの、手紙を入れていたいつものガラス瓶だ。


136 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:29:32.22 ID:gg+EtQm+O
僕は後ろを見ないまま、バスの中に入った。

二人分の乗車券を取って、僕はやや前方の席に座った。

僕たちが乗り込んだのを運転手が確認した後、バスの扉が閉められた。

ゆっくりと、またバスは走り出す。

駅に向けて、僕の帰る場所に向かって。

僕はずっと、窓の外だけを見ている。


137 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:37:01.61 ID:gg+EtQm+O
振動が伝わる度に、瓶の中の鈴がチリン、チリンと音を出す。

流れる風景と一緒に、一定のリズムを刻んで。

ニ十回程鳴っただろう……間もなく駅が見えてくる。

僕たちは、静かにバスを降りた。

朝一番のためか、まだ駅にはそこまで人の姿が無い。

僕が落ち着いた気分で切符を買い……。

チャリン、と後ろにいた彼女もまた、僕と同じように切符を購入していた。

一緒の電車に乗ったので、入場券では無いみたいだ。

僕たちはまた黙って、電車に揺られ始めた……。


139 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:42:24.86 ID:gg+EtQm+O
僕「……ねえ」

女「んっ」

僕「どこまで見送ってくれるの?」

女「次の乗り換え駅まで。ほら、あそこって……」

僕「……ああ、そっか」

女「うん。海が無い県になっちゃうから、そこまで……」

僕「……」

僕「鈴」

女「んっ、どっちの?」

僕「こっちの」


140 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:46:40.51 ID:gg+EtQm+O
チリン。

女「ああ、それね……可愛いでしょ。お守りだよ」

僕「手紙も入ってる」

女「当たり前だよ。それはそういう物なんだから」

女「少なくとも私たちは……こうしてきたでしょ?」

僕「そう、だったな」

女「うん……」

僕「ねえ女。全部、そうだったのか? その……鈴って」

女「ふふっ、最初のお手紙だけはね、私じゃないんだよ」

僕「最初の……?」

女「うん、僕ちゃんに話を聞いて……素敵だなって思って。つい書いちゃった」

僕「でも、毎回投げた瓶がいつもの場所に届くなんて……」

女「ああ、あれはね」


141 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:54:15.19 ID:gg+EtQm+O
女の話によると、僕が投げた瓶は潮の流れに乗り……ちょうど数日すると、あのいつもの場所に戻って来るのだと言う。

そんなの知らないぞ、と言ったら……。

女「あははっ、地元の人は大体知っているよ。私のお返事は、いつもの場所に置いておくだけだから……紛失する可能性も無いしね」

僕「鈴って名前は……」

女「ふふっ、私の本名忘れたの?」

僕「本名って鈴じゃな……あ!」

女「そういう事だよっ。まあ、マイナーチェンジした感じだよ〜」

それを聞いて、僕は一気に体が沸騰したように熱くなる。

うすうすは気付いていた、でもいざその本人が目の前にいるとなると……。

僕「……今まですごい恥ずかしい事ばっか書いてた気がするよ……」


142 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 20:59:16.39 ID:gg+EtQm+O
女「ううん……そんな事ないよ」

彼女は笑わずに、僕を見つめ返してくれた。

女「素直で正直な気持ち聞けて、私はすごい嬉しかった。こんな辛い気持ちさせちゃってるんだって……思ってた」

女「でもそれと同時にね、どうして私に話してくれないんだろうって……」

僕「……」

女「お父さんの事聞いた時だって、何を言っていいかわからなかったよ。ただ、僕ちゃんが地元に帰っちゃうのが寂しくて……」

女「そういう大事な時に、助けてあげられないからダメなんだよね」

僕(それは、違うよ)

言葉を出そうとした瞬間、電車のアナウンスが邪魔をした。

もう、お別れの駅についてしまったらしい。


143 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:04:30.19 ID:gg+EtQm+O
女「……えへへっ、行こう」

僕は彼女に言われるまま、乗り換える電車のホームに向かった。

長い階段を昇り降りした先には……特急列車が待機している。

女「……あんまり時間ないね。あと10分だってさ」

僕「……」

女「もう乗らないと。じゃあ、元気でね、落ち着いたら連絡……」

僕「女、必ず戻ってくるから」

もう、お別れの言葉を聞くのが嫌だった。

僕は彼女に、今思っている事を伝えた。

女「戻る、って……」


144 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:10:41.24 ID:gg+EtQm+O
僕「僕だって、離れるのは嫌だ」

僕「手紙に書いた通り……僕は女の事が好きだ!」

女「……!」

僕「好きだから、弱音も見せたくないし、自分をよく見せるための嘘だってついたさ」

僕「でも鈴が……それじゃあダメだって僕に教えてくれた」

僕「どこかで嘘を言っても意地になっても、やっぱり最後には素直になって……相手に伝えないといけないって」

僕「言わなきゃお互いにわからないから……」

女「僕ちゃん……」

僕「だから、僕は女と一緒にいたい。もう一度、海を二人で見ようよ」

僕「もう瓶に詰めた手紙の中だけじゃなくて……女の前では、ずっと素直でいたいんだ」

女「……」

女「私、も」


146 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:23:16.82 ID:gg+EtQm+O
女「私も、待ってるから」

女「海の見えるこの街で……まあ二人で会おうよ」

僕「女……!」

女「約束、ね」

ピリリリリリリ。

女「……時間だよ」

僕「そうだね」

女「じゃあ……」

僕「ん」

女「またね」

僕「うん……」

女「あ、最後に……!」


147 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:25:47.07 ID:gg+EtQm+O
僕「え……っ!」

女「ん……」


彼女が、僕に口づけをしたその音は。

唇が重なった瞬間に、鈴の音がリンと僕たちの間に響き……かき消されたように聞こえた。

その時の僕たちの頭の中には……鈴と最愛の人しか、残っていなかったんだと思う。

それくらい、僕にとっては幻想的な出来事だった。


148 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:29:33.54 ID:gg+EtQm+O
……。

「間もなく、終点。次は〜……」

最後の思い出から二年。

僕は、同じ特急列車に乗って……もう一度。

もう一度、女と離ればなれになった駅に向かっていた。

彼女はもう着いたと連絡をくれた。

あとは僕が……。

「終点……です。お忘れ物のないように……」


149 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:33:18.44 ID:gg+EtQm+O
女「……」

僕「あっ」

女「わ、いたっ! 久しぶり〜! 元気だった!?」

僕「うん、連絡してた通りだよ」

女「うわ〜、本当懐かしい! 変わってないね〜」

僕「そりゃあこの歳ならね。女も、なんだかその……」

女「ん?」

僕「美人になった、気がする……」

女「離れてから、ちょっとお化粧に力入れてみたりさ。えへへっ、でも誉めてもらえて嬉しいなあ」

僕「……ふんだ」

女「ふふっ、素直になったと思ったらこれだよ〜」


150 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:37:10.15 ID:gg+EtQm+O
女「でも、僕ちゃんはそれくらいの方がいい……のかな?」

僕「そ、そんな事よりさ。電車乗らないと間に合わないよ」

女「あ、そうだそうだ。急がないと……席埋まっちゃう」

僕「ほら、早く行こう。あの……」

女「うん、懐かしい海が僕ちゃんを待ってるよ!」

女「そして……私もずっと待ってたよ……」

僕「えっ……」

女「えへへっ、素直」

僕「女……」

女「じゃあ、早く移動しよっ! 走らないと間に合わないよ〜!」

僕「バ、バカ。あんまり走ると……」


151 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:46:31.47 ID:gg+EtQm+O
女「大丈夫だよ、ほら」

ギュッ。

女「転びそうになったら、つかまえててね?」

僕「……ん」

女「えへへっ。じゃあ……帰ろっか

僕「うん」

女「私たちが一緒にいた……海が見える街にさ」


彼女の暖かい右手に引っ張られながら、僕は駅のホームを走った。

走りながら風を感じると……その中に、遠くから潮の混じり匂いがしてきた。

僕の嗅覚を刺激する、懐かしい匂いだ。

(ああ、もう海が近くにあるんだ)


153 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 21:56:16.04 ID:gg+EtQm+O
女「ねえ僕ちゃん」

僕「んっ?」

僕のカバンの中で……瓶に入れた手紙と鈴が小さく揺れる。

少しだけ騒がしいこのホームで、これを聞いているのは……やっぱり僕と彼女だけだろう。

電車に乗る前に、彼女は僕の方に向き直ってこう言った。

「これからは、ずっと一緒だよ」

瓶の中の鈴が、大きくチリンと鳴った。

これはきっと、僕にだけ聞こえた……特別で大切な音。

彼女に聞こえなかったのは、おそらくこの一回だけなんだろう。


鈴は電車に乗ったその後も、街に着いて一緒に海を見つめていた時も……そして二人が結ばれた後も。

ただ嬉しそうに、チリン、チリンと二人の側で、ずっと音をたてていた。




155 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/04(金) 22:01:00.22 ID:FPYSOP170
あと最後につかまえてては意図的に持ってきたんだよね?


158 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/04(金) 22:08:13.94 ID:6+KHndqn0
1乙
いいものを読めた

どっかのサービスで内容書いてそのサイト宛メールに出したら
どっかの誰かに届くなんてサービスあったなー


160 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 22:18:55.26 ID:OKhAm2n70
結局本名なんだった訳よ


161 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 22:21:09.38 ID:gg+EtQm+O
>>155
はい

>>158
それはそれで、おそれ多い気も

今回は淡々と、二人だけで。
三人出すとどうしても別れるシーンが出てきてしまうので……。

書くのは苦手ですけど、もっと幸せ幸せなお話を作れたら、とも途中思いました。

読んでいただきありがとうございます。


162 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 22:29:50.05 ID:gg+EtQm+O
>>160
リンとか、名字に鈴とか、その辺りで。
明確に名前は決めてないです。


163 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/04(金) 22:43:02.43 ID:Yj1m8YcwO
超乙
多分毎回読んでるよ
好きだからまた書いてくれ


164 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/04(金) 22:45:23.82 ID:d0BX/3yg0
これって続き物なの?


165 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 23:09:04.19 ID:gg+EtQm+O
>>164
単発です。


166 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 23:46:56.47 ID:PUwcT5vu0
1乙!良かった!
しかし、すこし疑問なんだが女から結構ノート借りてるのに、何故手紙の字と一緒だと気づかなかったの?


167 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 00:21:41.71 ID:CwI7nZzy0
おつおつ。

雰囲気大好きだな


171 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/05(土) 02:29:32.24 ID:u6mQHpUd0
毎度引き込まれる作品をありがとう


172 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 02:40:03.52 ID:sAEBvwGx0
他の作品kwsk


173 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 03:41:06.32 ID:DkKs7bxhO
眠れなくてこのスレ見つけて…
いい気分にさせてもらった。
乙!


174 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 04:35:40.13 ID:ME3ICRqvO
>>172
小学校でつかまえて

星の海でつかまえて

夢の中でつかまえて(未完)

メールをするから、つかまえて

いつか前、手に結んだ赤い糸を

水溜まりの校庭でつかまえて

ねえ、雨って好き?

余ったお金でガチャガチャやっていい?


おそらく、これで全部のはず。


175 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/05(土) 05:15:49.21 ID:8kzFkUjhO
>>1
乙です
とてもいい話だったと思う
素直になれない感じとか…
だんだんとお互いがわかっていく感じとか…
次回作も期待してます

>>174
それってどこかで読めたりしますか?


176 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 05:22:17.84 ID:t3BIqdaVO
なんだか幸せな気持ちになったよ

乙!


177 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 05:42:37.34 ID:t2J0GP2b0
「小学校でつかまえて」は好きだったなぁ
子供になって、親が優しくしてくることに涙するシーンとか・・・なんかグッときたよ。


180 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 08:52:44.97 ID:ZOgA5w0BO
爽やか乙


181 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/05(土) 10:39:45.04 ID:ME3ICRqvO
>>175
ググれば大体出てくるから、それでおk



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