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召喚士「行けっ!コカトリス!!」 その23
452 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:47:09.54 ID:B4y/2f.o
やがて日没が訪れ、南方司令部には松明による明かりが灯り始める。

パチッ…パチパチッ…

戦士「いよいよだな」

魔道士「ええ…っ」

南方司令部正門前へは、おおよそほとんどの南方兵が集まっていた。

それは間もなく行われようとしている演説への参加。ただその一つの為である。

ザワザワザワ…

南方副司令「どいつもこいつもやる気ねぇ顔しやがって……」

南方魔道長「形式的ナモンだってのは、誰もが分かってる事だしな」

南方弓長「だからって、あまり良い風習とは思えません」

南方副司令「そこが問題なんだよ。こんな事を黙認し続けていたら……」

南方魔道長「左翼に付け込まれても、文句言えねぇわな」

南方弓長「そうですね」

南方魔道長「何か変わった事でもあれば良いんだがな」

南方副司令「その為の青年兵だったんだろうがなぁ。何か…変わった事…ねぇ」


453 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:47:43.37 ID:B4y/2f.o
テクテクテク

右秘書官「参りましょうか」

右文官「うむ。演説は右秘書官に任せるぞ」

右秘書官「はい。とりあえずは資料をベースにプレゼン形式で進めたいと思います」

右文官「……ま、妥当ところだろうな」

右秘書官「こういう時、己の性格を憎みますよ」

右文官「……?」

右秘書官「ユーモアの一つでも述べられれば……ってね」

右文官「それが出来ぬから今の勤めをしておるのだ。自分の出来る事をやれば良い」

右秘書官「仰る通りですね」

右文官「どうせ結果は分かっている演説だ。肩の力を抜いていこうではないか」

右秘書官「……時間です。参りましょうか」

右文官「うむ」

過労にて倒れた青年兵抜きでの演説が、今幕を開けた。


454 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:48:09.61 ID:B4y/2f.o
ザワザワ…ガヤガヤッ

南方副司令「ではこれより、右翼陣営による議会演説を行う」

南方兵「いよっ!待ってましたぁ!!」

衛兵「さぁさぁ、盛り上げてチョーダイ!」

右秘書官「……このノリ、これがどうにも苦手だ」

右文官「と、とにかく演説さえ終わらせれば良いのだ」

ザッザッザ…

右秘書官「南方の皆様、此度は演説へのご参加、誠に有難う御座います」

ザワザワザワ…

右秘書官「……で、あるからして今の我々の戦力においては――」

ザワザワザワ…

南方弓長「聞いちゃいないわね……」

南方魔道長「仕方ねぇ。司令と参謀にでも相談してみっか……」

南方弓長「何かあるの…?」

南方魔道長「それを聞きに行くんだよ」


455 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:48:39.99 ID:B4y/2f.o
ワイワイ…ガヤガヤッ

魔道士「……何だか、皆さんあまり聞いてませんね」

戦士「あれじゃねーのか、元々右翼寄りだって話しだし」

魔道士「そっかぁ…。何だか寂しいですね……」

戦士「いいんじゃねーの?興味なけりゃ聞かないわけだしさ」

魔道士「そうですけどぉ……」

戦士「聞いて欲しけりゃ興味ある事を言やいいだけの話だろ」

魔道士「うーん……」

右秘書官「……そこで、屯田の効果によりもたらされるものは――」

南方兵「なんか堅っ苦しい話ばっか何だよな〜」

衛兵「そうそう。もっとこう…パーっと盛り上がる話はないのかねぇ?」

南方兵「左翼よりはマシだろ。でもよぉ…俺、てっきり殿下が拝めると思ってたんだよなぁ」

衛兵「俺も俺も」

魔道士「……う〜ん」


456 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:49:18.63 ID:B4y/2f.o
〜医務室〜

コンコン

南方参謀「どうぞ」

カチャッ

南方魔道長「…失礼しますぜ」

南方司令「おう、どうした?」

南方魔道長「演説、始まってますぜ」

南方司令「知ってるよ」

南方参謀「私はこの子の看病」

青年兵「……え、演説は……どうなのです…っ?」

南方魔道長「別に。順調だよ。淡々とな…」

南方司令「……」

南方魔道長「なぁ、司令」

南方司令「んー?」

南方魔道長「あれでいいのかい?」


457 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:50:19.52 ID:B4y/2f.o
南方司令「……」

南方魔道長「形だけの演説で、本当にいいのかい…?」

南方司令「……」

南方参謀「言いたい事は分かるけど…何か手があるのかしら…?」

ノソッ

南方参謀「ちょっと…っ!?」

青年兵「…ぼ、僕が……演説に…っ」

ヨロッ…ガッシャアァン

南方参謀「無理よっ!まともに立つ事も出来ないじゃないっ!」

青年兵「……っ」

南方司令「誰か、変わりに演説すればいいってわけだな?」

南方魔道長「まぁそりゃ…。まさか、司令…あんたが!?」

南方司令「出来るわけなかろう。そうなると……」

南方参謀「…な、何よっ?」

南方司令「確か……議決権はなくとも、応援演説は出来たよなぁ…?」


458 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:51:16.77 ID:B4y/2f.o


青年兵「……」

南方参謀「貴方の悔しい気持ちは分かるわ……」

青年兵「……」

南方参謀「でも、今はここから見る事しか出来ないの……」

青年兵「……」

南方参謀「貴方はよく頑張った。誰も責めないわよ」

青年兵「この大事な時に僕は…っ」

南方参謀「今は信じましょう。貴方の仲間を」

青年兵「仲間……」

南方参謀「そう。共に行動していなくとも、志同じくとする仲間」

青年兵「……」

南方参謀「仲間って言うのは、どこにいたってそういうものよ?」

青年兵「……っ」

南方参謀「……さ、横になって。窓からでも見えるでしょう?……ふふっ」


459 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:52:09.53 ID:B4y/2f.o


右秘書官「……で、あるからしてうんたら――」

ザッザッザ

戦士「…おう、どうしたんですかい?」

南方司令「ちょっといいか?」

魔道士「私ですか…!?」

南方司令「頼みがある。どうか聞いて貰えないだろうか」

戦士「い、いつになく…真面目だな…っ」

南方魔道長「君に、演説をして貰いたい」

戦士「はぁ!?」

魔道士「わっ、私が…演説ですか!?」

南方魔道長「いいんだな?司令…?」

南方司令「うむ。彼女の言葉は何かこう…心に響くものがある」

魔道士「……!?」

南方司令「議会にてあれだけの票が獲得出来たのも、君の言葉が少なからずある」


460 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:52:39.29 ID:B4y/2f.o
戦士「そ、そうなのか…っ!?」

魔道士「で、でも…何をお話していいものやら…っ」

南方司令「何でもいいさ。思った事を皆に聞かせてやって欲しい」

南方魔道長「票は決している。君達が世界各地を見聞した事でも聞かせてやってくれ」

魔道士「……」

南方司令「……頼む。無理を承知でお願いしたい」

魔道士「…で、でもぉ……本当に出来ますかね…?」

南方魔道長「無責任な言い方かもしれないが、君次第だ」

魔道士「私…次第……」

南方魔道長「だが、出来ぬものに頼むような愚かな行為をするつもりはない」

南方司令「その通りだ。君なら出来ると信じているからこそ、頼む」

戦士「……いいんじゃないの?」

魔道士「戦士さんまで…っ」

戦士「人助けだと思ってさ。何事も経験だろ…?」

魔道士「……うぅ〜」


461 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:53:32.46 ID:B4y/2f.o


右秘書官「……以上にて、終わりと致します。ご清聴有難う御座いました」

ザワザワ…ガヤガヤ

右秘書官「……」

テクテクテク…

右文官「ご苦労。素晴らしい演説であった」

右秘書官「……」

右文官「気にする事はない。右翼が勝てば良い話だ」

右秘書官「……そうですね」

カツカツカツ

右文官「おぉ、これは司令。どうなされた?」

南方司令「頼みを聞いて頂けんかな?」

右秘書官「何でしょうか。まずは先に投票を済ませ……」

南方司令「演説はまだ、終わりではない」

右文官「……!?」


462 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:54:06.78 ID:B4y/2f.o


南方士官「お前らは先に戻ってていいぞ、俺は投票を済ませて帰るっから」

南方兵「へーい。メシ食ってからにすっか」

衛兵「そうだな」

ザッザッザ…ピタッ

南方兵「…な、何だぁ!?」

右文官「え、えー。ここで最後に、応援演説を行いたいと思う」

衛兵「応援演説?」

右文官「……宜しいな?」

コクンッ……テクテクテク

南方士官「……誰…あれ」

衛兵「カワイイ……」

南方兵「カワイイ……」

ザッ

魔道士「あ、あの…始めましてっ。魔道士と申しますっ!」


463 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:54:33.59 ID:B4y/2f.o
ザワザワザワッ

南方兵「何だ何だぁ!?」

衛兵「ちっきしょー右翼の奴ら勿体ぶりやがって!あやうく帰るところだったぜ!」

南方魔道長「……」

魔道士「あ、あのぉ…演説する事になってしまって…えぇと……」

南方兵「ヒューヒュー!いいぞーっ!」

右文官「……結果、変わらんのではないか?」

南方司令「まぁ大人しくみてようではないか。お手並み拝見」

右秘書官「ええ……」

魔道士「私は今、国軍付ワーカーとして働いておりますっ」

南方兵「あの娘がワーカー!?捨てたモンじゃねぇな…っ」

魔道士「ここ、南方だけでなく…色んな地域や国を見てきました」

戦士「……」

魔道士「どの場所にも人と魔物がいて…戦ってました……」


464 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:55:05.22 ID:B4y/2f.o
ザワザワ…ザワ…

魔道士「小さな子供が親を失ったり…大切なお友達が…死んでしまったり…」

衛兵「……」

魔道士「中にはとってもいい魔物さんもいます。でも…ほとんどは悪い魔物です」

南方士官「……」

魔道士「私は、戦いとか…嫌いですけど、大切な友人が亡くなるのはもっと嫌です」

ザワ……ザワ……

魔道士「だから、自分が頑張れば…他の人が救えるのなら戦います!」

南方司令「……」

魔道士「その為に、殿下や右翼の皆さんに力を貸して下さいっ!」

南方参謀「……見える?」

青年兵「魔道士さん……っ」

魔道士「この方達は心から世界を変えようと頑張ってます!だから……」

右秘書官「……」

魔道士「だからその…っ、私達と共に、一緒に頑張りましょうっ!!」


465 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:55:32.03 ID:B4y/2f.o
右文官「……」

魔道士「魔王を倒して、みんなが笑顔で暮らせる世界を…作りましょう!!」

ワアアァァッ!!

魔道士「あ…え……っ!?」

南方兵「…よーし!お嬢ちゃんの為にこの命、右翼に預けようじゃねーか!!」

衛兵「俺ら議決権はねーけどよ、そのぶん前線で見せてやっからよ!!」

南方士官「……アホ。議決権があったって前線で命張ってやるっての!」

魔道士「み、皆さん…っ。ありがとうございますっ!えへへ!!」

ワアアァァッ!!

右秘書官「……これで宜しいのですね」

南方司令「目論見通りで良かったよ。……ブラバー!!」

南方魔道長「確かに言った通りだな。言葉が突き刺さる…そんな感じだ」

右文官「本当に…不思議な娘だ!はははっ!」

戦士「いよっ!いいぞー魔道士〜!!」

魔道士「へ、へへっ……えへへ!!」


466 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:56:09.28 ID:B4y/2f.o


南方弓長「投票集計、終わりました」

南方副司令「それでは、発表する」

カサカサッ

南方副司令「「総数100.有効票100、無効票0」

南方魔道長「結果なんぞ、言わなくても分かるけどな」

南方副司令「右翼……97票、左翼3票」

戦士「うぉ〜っ!圧倒的じゃねぇか!!」

右秘書官「……正直、ここまで偏るとは予想外でした…っ」

南方司令「これも彼女の手柄だ。はっはっは!」

右文官「そうかもしれんな…」

魔道士「やったぁー!戦士さんっ!やりましたよぉ〜!」

戦士「おう!大勝利〜!!」

南方魔道長「…ふっ。不思議な連中だよ…全く」

南方副司令「そうだな。何か特別なものを感じざるを得ないわな」


467 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:56:36.41 ID:B4y/2f.o


タッタッタッタッタ…カチャッ

魔道士「青年兵さんっ!大勝利ですよ〜!」

青年兵「ええ…。伺いました」

戦士「具合はどうだい?」

青年兵「皆さんのお陰で…だいぶ楽になりましたよ…」

右秘書官「これでかなり優位に進められる」

青年兵「北の動きは…どうですか?」

右文官「結果を真っ先に伝令で送ってやったわ。明朝には真っ青であろうなぁ」

右秘書官「北の勝利問題はないはず。残るは……」

南方参謀「西…ね」

戦士「西もあっさり勝利なんじゃねーの?」

南方参謀「そう思いたいけど、ここや北ほど右翼寄りってわけでもないからねぇ…」

魔道士「そうなんですかぁ……」

南方司令「とにかくだ、まずは右翼の勝利を皆で祝おうではないか!」


468 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:57:03.29 ID:B4y/2f.o


南方副司令「では……」

一同「カンパーイ!!」

チィンッ!!

戦士「……かぁ〜!うめぇ!!」

南方副司令「さぁ、ドンドン飲むがいい!」

戦士「あとーんす!!」

南方弓長「貴女もお疲れ様」

魔道士「ありがとうございますっ!」

右文官「いやはやそれにしても、先日といい今日といい…まこと見事であった!」

魔道士「そんな事ないですよぉ〜」

南方魔道長「何か才能があるのかもな。習って身に付くものでもあるまい」

魔道士「家の影響でしょうかねぇ……」

戦士「家…?あぁ、そういや魔道士んとこは商人だったけか」

南方副司令「成程、口が巧いというのは共通点があるな」


469 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/01/01(正月) 22:57:36.11 ID:B4y/2f.o
南方司令「……」

南方副司令「どうした?険しい顔して」

南方司令「伝令はもう飛ばしたのか?」

南方弓長「集計直後にさっさと済ませましたけど」

南方副司令「さっき言ったじゃねぇか……」

南方司令「おぉ、そうだったか…。はっはっは」

魔道士「私達の手紙も無事、届くといいですねっ」

戦士「ああ。アイツらにも喜びを分かち合って貰わねーとな」

魔道士「そうですよねっ!」

南方魔道長「遅くとも明日の昼には着くだろう」

魔道士「召喚士さんと盗賊さんもきっと頑張ってますよね」

戦士「まぁな。あの二人なら心配はいらんだろ」

魔道士「確かに…。魔物と戦っても問題なさそうですしね」

戦士「負けて窮地に陥るなんて事はそうそうないだろうしな」

魔道士「わ、私達の方こそ頑張らないとですね…っ」



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