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侍「言葉が通じなくとも」
200 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/23(水) 19:47:00.85 ID:lFIbH8UAO
……

女旅人『…なっがいなぁ』

少女『岬と花嵐は結構離れてますし、仕方ないですよ』

侍『……』

ひたすら歩き続け、どれぐらい経っただろう

外の様子も分からない状況で、灯りを頼りに前へ前へ

段々時間感覚が無くなり、今が昼か夜か分からなくなった頃

侍『…―!』

女旅人『光!』

少女『出口かな!』


201 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/23(水) 21:04:24.26 ID:lFIbH8UAO
ガコ……ッ

女旅人『重い……ッ』ググッ

少女『ぬぬ……ッ』ググッ

バタンッ

女旅人『開いたぁ!』

光の漏れる辺りを押し上げ、太陽の下に出ると


帽子売り『さあさあ帽子はいかが? 明日は日差しが強くなるらしいよ!』

魚屋『そろそろ店仕舞いだ! 安くしとくよ!』


少女『商店街……?』

女旅人『…みたいね』

花嵐の街中に出た


203 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/23(水) 21:47:21.05 ID:lFIbH8UAO
地面から顔を出したまま、二人が唖然としてると

町人『おいアンタら! 何故抜け道を使っている!』

女旅人『!』

あれよあれよと言う間に、街の人々に囲まれてしまった

自警団『…お前達、城から来たのか』ザッ

少女『…いいえ、岬から来ました』

青年『大方、隠し財宝のデマを真に受けた盗人ってとこだろ』

女性『宝なんて無いよ。みんな憶新の連中が持ってっちゃった』


204 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/23(水) 22:03:26.20 ID:lFIbH8UAO
―花嵐国民は王も臣も兵も、そして民一人ひとりも誇り高く義理堅い人間である

大戦が始まると、兵達は戦火に焼かれる戦線の人々を守る為、勇敢に戦った

王や重臣達も混乱状態に乗じる事は無く、領土拡大ばかりを目論む他国を痛烈に批判した


義と情に生きる花嵐が有力国の中で孤立するのに、佐程時間はかからなかった


有力国は見せ付けるかのように花嵐周辺の小国を攻撃し、花嵐の軍隊を誘き出した

明らかな陽動、見え見えの罠

だが、花嵐は逃げない

我が身可愛さで見ぬふりをする程、屈辱的な事はなかったからだ


205 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/23(水) 22:15:52.54 ID:lFIbH8UAO
大国花嵐も兵力に限りはある

四つの国を相手に戦っている内に、花嵐の兵は出払ってしまった

こうなれば、隣国・憶新が攻めてくるのは目に見えている


直ぐに兵を撤退させねば滅亡は必至


小国の王達は花嵐の兵達に帰国するように言った

しかし


『花嵐を想って下さるならば、強く誇り高く生きて下さい。それが皆の願いです』


皆、頑として譲りません

とうとう花嵐の兵達が帰国する事はありませんでした


206 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/02/23(水) 22:19:47.46 ID:lFIbH8UAO
文の最後に『―』をつけるの忘れた


207 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/02/23(水) 23:06:21.38 ID:lFIbH8UAO
今日はここまでです
妄想が止まらない、ヤバい
いつになったら書き終えれるんだろう


おやすみなさい


217 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/03/13(日) 22:03:11.18 ID:N4L3AJXAO
町娘『城にある物はみんな兵隊が持ってっちゃったよ』

農夫『金庫や食糧庫の中身は勿論、壷や絨毯も、全部』

学士『そういう訳だから、君達の想像しているようなお宝は、花嵐には残ってないよ』

花嵐の町人達は、そう言って踵を返す

大工『大人しく帰んな。今なら見逃してやっからよ』

少女『……』



女旅人『…あのっ』

去り行く町人達に向かって、女旅人が声を絞り出す

おばさん『…なんだい、アタシぁ忙しいんだよ』

女旅人『花嵐の義勇は聞き及んでいます。とても高潔で、それでいてとても人間らしい』

おじさん『はぁ…、どうも』

女旅人『そんな誇り高い人達の宝物が金銀財宝の類とは、私は思えないんです』

郵便屋『……』

再び、女旅人に注目が集まる

女旅人『教えて下さい。皆さんの「想いの帰る場所」を』


218 名前:NIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2011/03/13(日) 22:37:30.97 ID:N4L3AJXAO
鍛冶屋『……そいつを聞いて、一体どうするって言うんでい』

女旅人『!』

奥さん『ちょっと! あんた…』

鍛冶屋『いいから』

奥さん『……』

女旅人の一言で、花嵐の町人達の見る目が変わった

想いの帰る場所

それは故郷かも知れないし、見惚れた景色かも知れない

其処は心の起源

鍛冶屋『アンタ……興味本位じゃないんだろ?』

自分達の深い所に入り込もうとする者を拒絶する気持ちと、歩み寄ろうという気持ち

相反する気持ちの間で、人々は揺れていた


女旅人『……』

女旅人は目を瞑ったまま言葉を紡ぐ


女旅人『目を閉じると見えるんです。闇に咲く光の花が』


222 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/15(火) 23:40:57.34 ID:cwtYlujAO
少女『光の花……』

鍛冶屋『アンタ……どこまで知ってるんだ?』

女旅人の雰囲気に飲まれるように、鍛冶屋が「光の花」の話に乗る


女旅人は言う

女旅人『光の花が何なのか、私は何も知りません。ただ…』

長く、閉じていた目を開き


女旅人『私の旅が花嵐で終わる、そんな予感がしてならないんです』




223 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/16(水) 09:13:10.03 ID:vy4yQ5bAO
女旅人の言を受け、花嵐の町人達は頷き合う

鍛冶屋『じっちゃん』

町長『うむ。お嬢さんが何者かは知らんが、悪巧みしてるようには見えん。話してもよい……と禿は思うぞ』

鍛冶屋は町長に会釈をすると、女旅人に向き直った

鍛冶屋『アンタの見ている「光の花」は、俺達の想いの帰る場所……花嵐の地下広場に咲いている』

少女『地下広場?』

女旅人『花嵐にそんな場所が…』


224 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/16(水) 09:25:46.33 ID:vy4yQ5bAO
奥さん『私等にとって大切な場所だからね、誰彼に教えたりしないのさ』

女旅人『私が聞くのも変ですが、そんな大切な場所を……余所者の私に教えてもいいんですか?』

自警団『いいのです。我々は貴女を信用した』

学士『貴女にも「光の花」が見えるのは、何か花嵐に縁があるからではないでしょうか』

魚屋『神サマ、ってやつのお導きかもな』

女旅人『……ありがとう』


226 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/17(木) 23:13:25.37 ID:yeaG1tXAO
鍛冶屋『さて、俺はこいつらを地下広場まで案内してくるとすっかな』

女旅人『よろしくお願いします』

奥さん『気ぃつけてね、あんた』

鍛冶屋『ほら、みんな散れ散れ! 憶新の占領軍に見つかると面倒だ!』




ゴトンッ

花嵐の鍛冶屋を加え、再び真っ暗な抜け道に潜る少女達

土地勘のある人間の案内を得た安心感からか、女旅人と少女は小さく溜め息を洩らした

鍛冶屋『俺が先頭に立つからよ、松明をくれや』

女旅人『どうぞ』

女旅人から松明を受け取り、鍛冶屋が辺りを照らす

鍛冶屋『しっかし、女子供の二人旅たぁ関心しねぇな』

女旅人『……?』

少女『二人じゃないですよ?』

鍛冶屋『え?』


侍『―――』ヌッ


鍛冶屋『うぉぉぉ!?』ビクッ

背後の闇から現れた侍に、鍛冶屋は思わず悲鳴を上げた


227 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/17(木) 23:25:51.69 ID:yeaG1tXAO


女旅人『び、びっくりしたぁ』

少女『お兄さんは髪も瞳も黒だから、暗い所にいると溶け込んじゃうんだよね』

侍『―…』

鍛冶屋『び、ビビらせんなよ……』


抜け道に木霊した絶叫が消える頃、鍛冶屋の息はようやく整った

松明を持つ鍛冶屋を先頭に、一行は奥へ奥へと歩き続ける


少女『宝探しじゃなかったんですね』ペタペタ

女旅人『……』ヒタヒタ

足音ばかりが消えてゆく抜け道に、ようやく声が響いたのは、空に月が登ったころだった


228 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/17(木) 23:36:16.00 ID:yeaG1tXAO
ペタペタ

ヒタヒタ

女旅人『いつからかは分からない』

女旅人が少女に応える

女旅人『それこそ、ずーっと昔から旅してきたような気がする』

女旅人『私の願いは一つ、あの場所に帰りたい……あの場所で眠りたい』

その声は母に甘える子供のように純粋で

少女『お姉さん……』

風を失った鳥のように哀しげだった


229 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/17(木) 23:50:08.41 ID:yeaG1tXAO
ドンッ

女旅人『わぷっ!?』

鍛冶屋『おいおい、折角とっておきの場所に案内すんのに、湿っぽい雰囲気にすんなよな』

二人の雰囲気が気に入らないのか、鍛冶屋が足を止める

少女『す、すいません』

鍛冶屋『…………ま、いいけどよ』ザッ

鼻を撫でる女旅人を一瞥すると、鍛冶屋は再び歩き出す

それに倣い歩き出す女旅人

少女も後に続いたが、女旅人との距離がさっきよりも遠く感じた


244 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/21(月) 01:04:29.87 ID:t0YNT5QAO


鍛冶屋『ついたぜ』

狭い道を歩き続けると、拓けた場所に出た

ただ広いだけで、目を引くような物は何もない

中央あたりに湧き水が湧いていて、その周りに幾ばくかの苔が生えているだけだった

少女『ここが「想いの帰る場所」…?』

鍛冶屋『そうさ。まぁ見てなって』


245 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/21(月) 01:15:16.03 ID:t0YNT5QAO
鍛冶屋が松明の火を消す

すると

侍『!』

少女『わぁー…』


蒼く煌めく水面

翠に輝く光苔

壁、天井、地面の亀裂から溢れる山吹の光

そして

少女『あれは……!』

女旅人『光の……花』

地下広場いっぱいに、光の花が一斉に咲き乱れる

一瞬にして、地下広場は淡い光に包まれた


246 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/21(月) 01:58:44.06 ID:t0YNT5QAO
鍛冶屋『凄いだろ。此処が俺達の心の拠り所、俺達の想いの帰る場所さ』

視界に広がる輝く枝

それに咲いた光の花

枝は蒼と翠が交わる幹から伸び、全ての光を繋いでいる

鍛冶屋『あの花は、花嵐の人間の魂。俺達は、いつかここへ帰る』

女旅人『……』

女旅人の頬を涙が伝う

体が疼く

胸がふるえる

体験したことの無い感情の高まりに、頭も体もついてこれず、女旅人はただただ涙を流した


250 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/22(火) 06:36:57.18 ID:mdA6GoMAO
『―ほう、ここが花嵐の精神的支柱か』


前から、後ろから、左右から聞こえる嘲りの声

少女『!』

鍛冶屋『誰だ!』


『誰だ、とは挨拶だな。私の声を忘れたか』


少女達が辺りを見回していると、気配が広場の中央に集まり、一つの影が浮かんだ

司令『自分達の主も覚えられぬとは、つくづく愚かな種族だな』


251 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/22(火) 06:56:17.92 ID:mdA6GoMAO
少女『あの人は…』

鍛冶屋『占領軍の司令だ。ヤツは俺達の尊厳を奪う事に躍起になってる』

強く拳を握り、怒りに体を震わせながら声を絞り出す鍛冶屋

司令『それが私の使命だからな。支配とは、敗者の心を折る事で成される』

司令『ましてや「義と誇りの国」とまで言われた花嵐とあっては、念入りに踏みにじる必要があるだろう』パァッ

司令は冷酷に言い切ると、おもむろに壁へ手を翳す

その手に青白い光が集まり、

鍛冶屋『! やめろォォ!!』


ピッ

ドォォォォォンッッ


252 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/22(火) 07:19:52.44 ID:mdA6GoMAO
司令の手から光の矢が放たれ、辺りに土埃が舞う

司令『……今宵、花嵐が歴史から消滅する!』カッ


ドォォォォオオンッ


鍛冶屋『やめろ!! クソッタレ!!』ダッ

鍛冶屋が司令に突進する

司令『…死にたがり屋が』パァッ


それは、死中への突入


少女『危ないッ』

鍛冶屋『あっ』


ドォオオォォォンッッ


253 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/22(火) 07:36:46.42 ID:mdA6GoMAO
司令『抵抗しなければ死なずに済んだものを…』




『―わからないかな』


司令『むッ』


女旅人『死を賭してでも守らなきゃいけないものがあるってことがさァッ!』


砂塵の中から現れたのは、破壊された地下広場ではなく、立ちはだかる女旅人の姿だった

その勇敢な立ち姿は、無数の光……先人達の魂に包まれていた


256 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/22(火) 22:27:22.07 ID:mdA6GoMAO
女旅人『怪我はありませんか?』

鍛冶屋『お、おう!』

司令と対峙したまま気を使う女旅人に、鍛冶屋はどもりつつも張りのある返事をする
それを聞いた女旅人は、僅かだが顔を綻ばせた


司令『花嵐の亡霊か…』

反対に、苛立ちを微かに浮かべた司令

司令はしばらく女旅人と睨み合っていたが、ふと、声を上げた

司令『そうだ、良いことを思い付いた』


257 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/03/22(火) 23:02:15.04 ID:mdA6GoMAO
司令『亡国を支配下に置く時、何に一番気を付けなければならないか、知っているかね?』

不意に司令が女旅人達に問い掛ける

女旅人『……何を急に』

司令『私は様々な国へ侵略と占領政策を取り仕切ってきたが、戦死者の怨念はなかなか消えぬものでね』


フッ、と視界が暗転し

ドサッ、と耳元で鈍い音


司令『そういう粘着質な連中は、まとめて専門家に頼む事にしたよ』

魂狩り『ォオオオオォォオオオッッ』



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