250 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:33:46.32 ID:mBz8BlVAo
 引き返すという選択肢を実行に移した事は大軍師の洞察力と精神力の賜物。

 結界という僅かな希望に区切られた領域を手さぐりで探すには、

 暗闇の中という恐怖心と、誰かが一緒だという安心感が冗長して、

 来た道を戻るという選択を引き出す事はなかなか容易ではないものだ。

 だが、4人にとって折角引き出したその選択も、無駄なものであった。

戦士父「……?」

 ズウウゥゥゥゥン

南方司令「何……だっ!? 足が重い――」

ボス「――――っ」

大軍師(これは敵の攻撃かっ? 動きを封じられた挙句、声が発せられない……っ!)

戦士父(いつだ、いつ攻撃を浴びせてきた? そんな素振りはなかったはずだ)

 スローモーションのように流れるその光景。全員が誰かを助ける事はおろか、

 自分自身がその攻撃らしきものから逃れる事すら困難であった。

大軍師(何とか風で……押し出すっ)

 もがく大軍師の耳元に幻聴か、はたまた何かブツブツと声が聞こえ始めた。


251 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:34:19.48 ID:mBz8BlVAo
――「やめておきなさい。そんな事をすれば死にますよ?」

大軍師「!?」

戦士父(敵か!? いやこれは……)

 他の3人を見てようやく、自分も身体が宙に浮いているという事に、各々は気付いた。

ボス(くっそぉ……っ!!)

――「諦めろよ。俺はお前だ。お前は俺に従えばいいんだ」

 声の主は自分であった。これも不思議な表現であるが、まさしく自分の声であった。

南方司令(……憑依か)

 この時、ボスを除く3人はその声の正体を憑依と判断。

 憑依には2通りのパターンがある。1つは生者に対するもの。もう1つは死者に対するもの。

 今回の場合は前者だ。生きているものに憑りつきその心身を乗っ取るのだ。

 つまり憑依は心の中に隙を作り、そこへ入り込む事で対象を意のままに操る。

 かつて天才が魔道士の夢魔を救ったように、精神に依存するところが大きい。

 一同は同時に、憑依を防ぐべく威圧を放ち、精神を統一すべく心構えた。

 が、それは既に布石にすぎず、4人は次なる攻撃へと晒される事となる。


252 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:34:49.48 ID:mBz8BlVAo
戦士父(……!?)

 グググッ

 身体に違和感を生じる。宙に浮いた段階で自分の意思とはかけ離れているが、

 更に四肢が自分の思うように動かない。動いていないわけではない。勝手に動くのだ。

ボス(――っ!!)

 無論、混乱をきたす。しかし声を出せない今、叫びすら発せられない。

大軍師(幻術……? いや違う、これは全て実際に起きている出来事か……っ)

 こうなるともう、どうする事も出来ない。ただ為すがままに攻撃を受けるのみだ。

 やがて4人は、憑依していた影に取り込まれるかのように、宙へと浮いたまま、

 黒い球体となって、ゆらりゆらりと上空を彷徨った。

 タッタッタッタッタッ

召喚士「今こっちで何か感じたっ!」

盗賊「間違いない。一瞬だが、人の気配を感じたぞ」ズザッ

ジュニア「……誰もいねぇぞ」

召喚士「……」


253 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:35:19.10 ID:mBz8BlVAo
白虎長「ねぇっ、あれ……何かしら?」

 指差す先に浮かぶ黒い球体。一同が一斉に、その怪しげな光景を目にする。

魔法剣士「魔物? いや、何か変な感じだな」

名代「ん? なんだろう……身体が重い……」

 ズウウウウゥゥゥゥン

戦士「んなっ――」

 周りの全てがスローになる。平常なのは頭の中だけだ。

 青龍士官が何か叫んでいる。しかしそれは誰の耳にも届かない。

 召喚士は咄嗟に感じた。これは敵の攻撃であり、似たような経験をした事があったからだ。

 シュイイィィィィン

 音もなく召喚獣ノームが呼び出されていた。音を消したわけではなかった。

 召喚士は確かにいつも通り、召喚の声を叫んでいたのだが、叫べなかった。

 ノームの効力により身体が軽くなると同時に、召喚士は次なる召喚を行う。

 召喚獣シルフ。シルフのその力により、声を瞬時に取り戻した。

召喚士「ぷはぁーっ!!」


254 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:35:52.23 ID:mBz8BlVAo
 災難の手は止まらない。召喚士の耳元で召喚士の声が囁く。

 だがその声はほんの一瞬で消失する事となる。召喚獣サラマンダーの存在だ。

 サラマンダーの能力として、憑依状態の解除がある。

 既にサラマンダーを召喚していた事は幸いであった。憑依攻撃を無効としたのだ。

 召喚士は初めて災難の後手より切り抜けた。同軸に並んだ。

 そして更に召喚士は、災難の先手をいくという行為を成し遂げて見せたのだ。

召喚士「行けっ! ウンディーネ!」

 確証はなかった。だが可能性はあった。ノーム、シルフ、サラマンダー。

 3体の基本精霊が打ち破る事の出来る攻撃が自身に加えられている。

 だからこそウンディーネの能力で破る事が出来る、変化攻撃があるのではないかと。

 考えたわけではない。身体が自然とそう、動いていた。そして予感は的中する。

 災難が降り注ぐ前に、変化の攻撃はウンディーネにより打ち消された。

 黒い4つの球体が人の姿へと戻り、その場に落ちたのだ。

召喚士「!?」

 同時に闇の空間は、青白い光に照らされて、1つの世界を示し始めた。


255 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:36:39.67 ID:mBz8BlVAo
 ゴ……ゴ……ゴ……ゴ……ゴ……ゴ……ゴ……ゴ……

男隊員「う……っげぇ」

 押しつぶされそうな重圧が一同を襲う。身構える事すらやっとである。

青年兵「……っ」

 今まで何体もの魔王と、何度も戦ってきたからこそ分かる事もある。

王子「次元が違う……こんな事……が……っ」

 力や威圧だけで言えば恐らく、魔王イブリースが最も強かったであろうか。

 だがそれこそを遥かに凌駕する存在感。それが魔王サタンであった。

魔道士「う……あぁ……ぁ……っ」

サモナー「これがサタン……か」

 死を覚悟した。誰しもが。到底、勝ち目が見出せない。勝つ術が思い浮かばないのだ。

 だが男は1人、果敢にも前へと足を進めた。恐怖はあるが、死は乗り越えた。

召喚士「……魔王サタン。貴様を倒しに来た!!」

サタン「……ほぉ」

 長い1日が今、始まった。


256 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:38:00.95 ID:mBz8BlVAo


 召喚士「行けっ!コカトリス!!」

      〜第六十三部〜



257 名前:NIPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2012/07/10(火) 18:39:31.66 ID:mBz8BlVAo
きょうはここまで。ご支援ありがとうございました!
それではまた!失礼いたしまする〜!ノシ