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召喚士「行けっ!コカトリス!!」 その33
930 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:21:40.39 ID:Hp4LxFrKo


夜になると、日中までの気温とは打って変わり、冷たい風が北と西より吹き付ける事となった。

西方副司令「準備は全て、整いました」

青年兵「それではこれより全軍、出陣致します」

西方司令「おうっ!! さっさとしやがれやこのタコ!!」

青年兵「我らの最終目標は、魔王イブリースの討伐。それに揺るぎはありません」

隊長「そりゃあそうだ」

青年兵「ですが、イブリースを倒すには西国陛下の力が絶対に必要。そうですよね司令?」

天才「ああ。だからだ、俺様達のすべき事は、王子到着までにイブリースを弱体化させる事」

格闘家「……」

天才「どんな手段でもいい。とにかく攻撃を加えてイブちゃんの力を削げ」

戦士「シンプルでいい作戦じゃねぇか」

男隊員「シンプルすぎて逆に難しいけどなぁ……ヒャハハ」

天才「さぁ行くぜ。無謀と勇敢を履き違えるなよ、死んだらそれまで。生きて帰るぞ!」

一同「おぉーっ!!」


931 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:22:14.65 ID:Hp4LxFrKo


進軍開始は22時を過ぎた頃、西の砦より一斉に出発した。

天才「さぁ、見せて貰うぜ……西国の船ってのをよ!」

親衛隊「はっ。西国召喚隊、前へ!」

ザザッ

女隊員「召喚隊……ッスか?」

召喚隊「一同っ、召喚開始!!」

1人の士官らしき男の号令により、西国召喚隊が一斉に召喚を開始する。

召喚隊「我に力を貸したまえっ! スフィンクス!」

シュイイィィィン…ドドドドドド…

サモナー「こ、これは……っ!」

魔道士「凄いっ! スフィンクスが沢山……っ」

召喚隊「さぁ皆様、スフィンクスの背にお乗り下さいませっ!」

盗賊「そうか、スフィンクスが船代わりで……砂漠を駆け抜けるわけだな」

戦士「これが船って事か! だったら召喚士、俺達の船も……」


932 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:23:01.95 ID:Hp4LxFrKo
召喚士「うん、。そうだね! 行けっ、スフィンクス!」

シュイイィィィン

スフィンクス「じゃじゃ――あれ!? わぁ、仲間がいっぱいいる〜っ!」

召喚士「スフィンクス、俺達も一緒に行くんだ」

スフィンクス「やったー!! 遠足だ、遠足ーっ!!」

魔道士「失礼しますね、スフィンクスさん! えへへ!」

ザザッ

西方参謀「全員乗ったな? そんじゃ、出発してくれ」

召喚隊「……西国召喚隊っ、前進!!」

グアッ!!…ドッズウウゥゥン

天才「ハーッハッハッハ! こいつぁ絶景! 粋な船じゃねぇか!」

サモナー「皆々がスフィンクスを……西国の召喚隊は凄いな……っ」

召喚隊「この日の為に、こんな時の為に、神官様の教えを守り日々、努力を重ねてきましたから」

隊長「一朝一夕で身に付くもんじゃないわな。大したもんだよ」

砂上の船スフィンクスが進路を西へ取り、西の砦を出発した。


933 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:23:56.60 ID:Hp4LxFrKo
〜西国の城、神官の部屋〜

神官「……」

カチャッ

王子「……」

神官「お待ちしておりましたよ王子。それでは、始めましょうか」

王子「……ああ」

神官「それではそちらにある魔方陣の上へ寝て頂けますか?」

王子「……っ」

テクテクテク

神官「……どうされました?」

王子「ここで、いいんだな?」

神官「はい」

スッ

神官「リラックスして、目を瞑って下さい。ゆっくりと深呼吸をして……そうです」

王子「…………」


934 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:25:00.25 ID:Hp4LxFrKo
〜王宮〜

タッタッタッタッタ

西国兵「見当たりません!」

女王「……一体、どこへ行かれたのかしら……っ」

カツカツカツ…

王女「どうなさったのですか?」

女王「王女……っ」

西国兵「じ、実は……踊り子達が行方知れずでして」

王女「えっ?」

西国兵「城内や街の中も捜索しているのですが、一向に見当たらず……」

王子「何か、あったのでしょうか……?」

女王「困りましたわね……」

西国兵「陛下と神官様は取りこんでいらっしゃるし、くそ……どうしたら……」

王女「全員ですから、きっと大事ではないと思いますけれど……心配ですわね」

女王「とにかく、このまま捜査を続けて下さいませ」


935 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:25:58.04 ID:Hp4LxFrKo


ドドッドドッドドッ…

踊り子「もっともっと! 飛ばして頂戴っ!」

男「馬車にも定員ってのがあるんだ! 勘弁してくれっ、壊れちまうよ!」

踊り子「もうすぐ戦いが始まっちゃうの! それじゃ間に合わないんだからっ!」

男「た、戦い!? おいおい聞いてねぇぞ! 勘弁してくれよ……っ」

踊り子「いける所まででいいわよっ。とにかく急いでっ!」

ダンサー「陛下や皆さんに言わなくて良かったのかしら?」

踊り子「言ったら危ないって止められちゃうもの。仕方ないわよ」

ダンサー「心配してないかしら……」

踊り子「すぐに戻るんだし大丈夫! とにかくっ、アタイ達の踊りでみんなを元気にするのよ!」

ダンサー「そ、そうね。恩返ししなくっちゃね!」

踊り子「みんなだって言ってくれた。アタイ達の踊りには力があるのよっ!」

ダンサー「うんっ、頑張ろう!」

踊り子「さぁーっ、そうと決まれば早くしてよね〜っ!」


936 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:26:31.58 ID:Hp4LxFrKo
〜西国の城、神官の部屋〜

神官「……さて」

カツカツカツ

神官はゆっくりと部屋を見渡すと、感慨深い表情で大きく息を吐いた。

天窓から差し込む月明かりは煌々と輝き、神官と王子の頬を照らしている。

自身が長らく世話になった部屋に別れを告げるようじっと目を閉じ、しばし無言で立ち止まる。

既に不必要な物は片付けられ、机上には必要な書類と、今後に向けた各自に対する

遺書が綺麗に整頓されて並んでいた。如何にも神官らしい最後である。

やがて目を開けると、神官は魔方陣の中央にて眠る王子の脇にしゃがみ込み、

その顔を覗き込むと、すやすやと眠る王子の頬をそっと撫でた。

神官「王子、ありがとうございました」

先代より教育係として託され、その全てを見てきた神官。王子との付き合いは兄弟も同然である。

喜怒哀楽を共にし、主従として揺るぎない絆で結ばれた2人の関係は今日終わりを告げる。

神官は笑った、最後まで決して、涙を見せる事はなかった。

そして覆いかぶさるように、神官はそのまま目を閉じると、魔方陣の中へと倒れこんだ。


937 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:27:11.12 ID:Hp4LxFrKo
……――

王子「……ん」

モゾッ…キョロキョロ

王子「こ……こは……?」

辺り一面に広がる草原。心地良い風。王子はその景色に慌てて飛び起きる。

王子「……!?」

先程まで居た神官の部屋とは全くの別世界。驚くのも当然の事である。

王子「な、何――」

神官「此処は白虎界。白虎召喚獣の住む世界ですよ」

王子「神官っ!!」

神官「おめでとうございます王子」

王子「どういう事?」

神官「此処へ来られたと言う事は、王子にはやはり白虎召喚士としての資質があると言う事です」

王子「そう……か」

神官「だから言ったでしょう? 私は信じておりましたよ」


938 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:27:47.28 ID:Hp4LxFrKo
王子「……あんまり、実感ないや」

神官「今まで会得しなかっただけで、内に秘めたる潜在能力はあったのです」

王子「そっか……」

神官「きんしゅまでして精神を研ぎ澄ませましたしね」

王子「禁酒はその為に……っ!」

神官「そういう事です。よく頑張りましたね」

王子「……それで、どうすればいい?」

神官「この先に、召喚獣アヌビスが居るはずです。アヌビスの元へ参りましょう」

王子「アヌビス……」

神官「さて、あまり時間は掛けていられません。急ぎましょう」

王子「うん。でも、場所は分かるの?」

神官「既に我が命は託しております。自ずと導かれる事でしょう」

王子「分かった、行こう。……神官、手を繋いでもいいか?」

神官「勿論です」

王子「……ありがとう」


939 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:28:17.14 ID:Hp4LxFrKo
〜西方、最西端〜

ドドドドドド…

女隊員「サンドワームが見えてきたッスよぉ!」

召喚隊「進めぇ!!」

隊長「足止めくう前に、強行突破しちまえ!」

サンドワーム「グオアアァァァ!!」

スフィンクス「邪魔邪魔〜っ!!」

バッゴオオォォォォン!!

魔道士「流石スフィンクスさんっ!」

スフィンクス「えっへん!」

西方参謀「5番艦が捕まったぞ!」

召喚隊「自力で突破します! 先に進んで下さいっ!」

傭兵「俺らがサポートに回る。行くぞっ!」

親衛隊「おうっ。それでは皆さんもご無事で!」

包囲されたスフィンクスを助ける為、西国軍が一斉に飛び降り、サンドワームへと向かった。


940 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:28:50.05 ID:Hp4LxFrKo
ドドドドドド…

西方司令「うらうらうらうらああぁぁ!! 進め進めぇ!! 突っ切れええぇぇ!!」

戦士「スフィンクスならばちょっとやそっとの風でも、ビクともしねーな!」

召喚士「うん! スフィンクスほどの巨体ならギリギリまで粘れると思うよ!」

スフィンクス「みんなーっ! 行っくよ〜!」

ザザッザザッザザッ

スフィンクス「何だあのガキは。落ち着きのない奴だな」

格闘家「……」

スフィンクス「同種族としての恥だな。あんな奴いたか?」

青年兵「やっぱり性格もそれぞれなんですね……」

天才「朱雀のはどいつもこいつも、ひねくれてやがるからな。ハーッハッハ!」

ゴウッ!!…ビュオオオオォォォォ!!

盗賊「……風が……強くなってきたな……っ」

西方参謀「ここいらが限界かぁ!?」

天才「おーし、それじゃあ出番だぞ、朱雀!!」


941 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:29:26.78 ID:Hp4LxFrKo
召喚士「はいっ」

ヒュッ…スタッ

召喚士「うっ」

ゴッゴオオオオォォォォ!!

スフィンクス「お兄ちゃんっ、僕の後ろに隠れてっ!」

召喚士「地上なのに凄いな……っ、油断すると飛ばされてしまいそうだ」

男隊員「んで、どうするつもりなんだ?」

天才「まー見てろって!」

召喚士「それじゃいきますっ!」

ザッ

召喚士「行けっ、クジャタ!!」

シュイイィィィィン

戦士「おぉっ!! そうかっ、クジャタなら気候を変えられる!!」

召喚士「そういう事! さぁクジャタ、この突風を切り拓くんだ!」

クジャタ「……オオォォォォ!!」


942 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:30:05.23 ID:Hp4LxFrKo
ゴワッ!!…ドッゴオオオオォォォォ!!

魔道士「か、風が……っ!!」

傭兵「真っ二つに割れた……!?」

召喚士によるクジャタの召喚。そしてその能力によって、とてつもない突風は2つに割れ、

その中央に無風の通り道が出来上がった。

男隊員「すっげ……ぇ」

青年兵「さぁ、このまま突入しますよ!」

西方副司令「全員、飛び降りてっ!!」

ザザッ…ドササッ

召喚士「奥まで行けば風の切れ目があるようです」

青年兵「そこまで一気に駆け抜けましょう」

西国兵「それでは我ら、ここでサンドワームを食い止めます!」

召喚隊「この先へは1匹たりとも入れません!」

天才「頼んだぜ。こっちも頑張るからよ」

西国兵「どうぞご無事で!」


943 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:30:38.16 ID:Hp4LxFrKo
戦士「さーて、そんじゃ一気に行くぞ!」

盗賊「ああ」

魔道士「とにかく真っ直ぐ、駆け抜けましょう!」

召喚士「ええ。それでは……行きますよ!」

青年兵「全軍、突撃ーっ!!」

ザザッ…ザザザザッ

西方司令「西方軍はこっちだああぁぁ! 付いて来いやっぱ来るなこの足手纏い共がああぁぁ!」

隊長「特遊は正面きって行くぞ。しっかり付いて来いよ」

シュバッ!!

青年兵「さぁ司令、いよいよです。行きましょう」

天才「おうよ」

サモナー「ようやく、イブリースとの対峙ですね」

天才「王子が来るまで最長半日くらいはみとかねぇとな。長丁場だぞ、踏ん張れよ!」

青年兵「了解っ!」

魔獣が不在となった山間の谷。一同が魔王イブリースめがけ、一斉に突入した。


944 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga] 投稿日:2011/11/22(火) 15:36:27.16 ID:Hp4LxFrKo
今日はちょっと早いですがひとまずここまでにて
沢山のご支援、本当にありがとうです!

>>900
そんなお世辞言ったって、何も出ませんからねっ///

2chMate…あとで調べてみます!便乗!

気付いたら残りあと50…今回はどうしよう

それでは!ノシ


945 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage] 投稿日:2011/11/22(火) 15:55:25.20 ID:rCsUoNWAo
いちおつ
天国勢の様子とかもみたいな…


947 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です) [sage] 投稿日:2011/11/22(火) 18:28:44.93 ID:mG/qtdJSO
1おつ!

魔王戦に参加していないランカーでもないワーカーは今何してるんだろう。


954 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です) [sage] 投稿日:2011/11/23(水) 01:37:44.64 ID:eWBgbEUKo
それぞれ性格が異なるってことは強さも変わってくるのかな?
完全に魔翌力依存?


960 名前:NIPPERがお送りします(新鯖です) [sage] 投稿日:2011/11/23(水) 22:02:43.03 ID:TCzZcpp6o
でも今回の件で、幻獣界に居たスフィンクスと、召還士についたスフィンクスのキャラが違ったことも説明出来るな


961 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:16:32.46 ID:FF/c0WE3o
〜白虎界〜

王子「もう何時間歩いたんだろ……」

神官「召喚獣の世界は不思議なもので、時間の概念が失われています」

王子「どういう事?」

神官「何日も経っているようで、実際は数分であったり、数秒程度が実は何日も経っていたり」

王子「時間が曖昧って事か」

神官「ですが、急ぐ意識を持つ事は大切です」

王子「そうなの?」

神官「何事に於いても、まずは心に誓う事です。思いはきっと力になるものです」

王子「そっか、そうだよな」

神官「おや、そうおこう申しているうちに、何か見えてきましたよ」

王子「何だあれ……? 宮殿みたいなのがある……」

2人の目の前に現れた真っ白な宮殿のような建物。一面には色とりどりの花が咲いている。

神官「どうやら目的の場所に到着したようですね」

王子「ここに……アヌビスがいるのか」


962 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:17:39.75 ID:FF/c0WE3o
ザッザッザ…コツコツコツ

神官「……」

王子「誰か、いる」

神官「あちらに居るのが、召喚獣アヌビスです」

王子「――っ!?」

犬か狼か、そのような頭部を持った色黒の肉体をした完全なる人型の召喚獣アヌビス。

そのアヌビスは宮殿の中央深部に座して、じっと外を見つめていた。

コツコツコツコツ…

神官「失礼致します。召喚獣、アヌビス殿と御見受け致しますが」

アヌビス「如何にも」

王子「やっぱり……っ」

アヌビス「其の方、先日この私と契約を結んだ者よな?」

神官「はい。その通りでございます」

アヌビス「ふむ。此度はあれか、契約条件を差し出しに来たか?」

神官「それもありますが、召喚主と是非、顔を合わせて頂きたく」


963 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:18:35.81 ID:FF/c0WE3o
アヌビス「召喚主。ほぅ、その少年がつまりはそうか」

神官「はい。人間界での我が主でございます」

アヌビス「どれ、近こう寄れ」

王子「……」

コツコツコツ…コツ

アヌビス「……ふぅむ」

王子「な、何……?」

神官「どうです? 大したものでしょう?」

アヌビス「……不思議な眼をしているな」

王子「……?」

アヌビス「寛大であり、勇敢でもあり……しかし臆病でもあり、不安でもある」

王子「あ、あの……っ」

アヌビス「幾多の感情を持ちながらも表に出す事はなく、その信念は真っ直ぐ1つ」

神官「歴代の西国王に勝るとも劣らぬ方でございましょう?」

アヌビス「そうか、この者も王家の人間であるか」


964 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:19:24.60 ID:FF/c0WE3o
ザッ

アヌビス「良かろう。契約を結ぶとしよう。其の方が今より、我が主である」

王子「――っ!!」

神官「おめでとうございます、王子」

王子「主……僕が……っ」

アヌビス「予め1つ注意しておこう」

王子「……?」

アヌビス「我が召喚に必要なるは、膨大な魔力と、代償となる命である」

王子「……」

アヌビス「これは1度限りのものではない。都度のものである」

王子「……えっ?」

アヌビス「聞こえなかったか? 今回、私が力を貸す代償は……この者である」

神官「……」

アヌビス「しかし我が力を再び使う事があるならば、新たな代償を用意せよ、と申したのだ」

王子「――!!」


965 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:22:13.36 ID:FF/c0WE3o
ダッ

王子「ふざけんなよっ! あんたの力を使う為には……誰かを犠牲にしろってのかよ!?」

アヌビス「そういう事になるな」

王子「……っ!」

アヌビス「悪いがこの私は、そこらの白虎召喚獣とは勝手が違うのだ」

神官「……」

アヌビス「私は冥界への案内人。どのような者をもってしても裁き、冥界へと葬る」

王子「だからって――」

アヌビス「それが例え、魔王であったとしてもだ」

王子「!?」

アヌビス「ああ、そう言えばかつての西国王には、肉親の全てを我に捧げた者もおったな」

神官「何と……っ」

アヌビス「だが勘違いするな。これは強制ではない。使いたくなくば使わずとも良いのだ」

王子「……っ」

アヌビス「まぁ尤も、この神官なる男は、既に私へその身を捧げておるがな」


966 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:23:02.14 ID:FF/c0WE3o
神官「王子、王子は揺るぎない意志を持っていらっしゃいます」

王子「……」

神官「召喚は今回のみで良いのです。そうでしょう?」

王子「……っ」

神官「その後は使わなければ良いのですよ。誰かを犠牲にしてまで使う必要はありません」

王子「そう……かもしれない。だけどさっ」

神官「王子ならば強い意志を持っております。揺らぐ事は決してないでしょう」

王子「……神官」

アヌビス「さて、そろそろ良いか? 神官、君の代償を貰い受けるとしよう」

神官「ええ、そうですね」

王子「神官っ、僕は……」

神官「王子、これで正真正銘……最後のお別れです」

王子「……くっ」

神官「お顔を、もっと近くでお顔を見せては頂けませんか?」

王子「……っ!!」


967 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:23:36.94 ID:FF/c0WE3o
ギュッ

王子「神官……っ、僕は……」

神官「王子、本当に強くなりましたね。私も心から喜ばしい限りです」

王子「……ひっ、ひっぐ……!」

神官「召喚の方法はご存知ですよね?」

王子「うっ、うぐ……っ。うっ」

神官「さぁ、皆が待っています。王子の帰りを待っております」

王子「神……官っ、僕は……情けない僕でごめんね……っ!」

神官「王子は立派に成し遂げました。亡き先代の……いえ、西国の意志を継いでね」

王子「うぐっ、うぅ……うああぁぁ!!」

ギュウウゥゥ

神官「これでさようならですが、私は常に王子のお傍に居りますからね」

王子「神官……あっ、ありがとう。本当に今まで……ありが……とっ」

神官「……さようなら……王子」

王子「さっ、よなら……っ! 神官……神官っ!」


968 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:24:10.52 ID:FF/c0WE3o
シュウウゥゥゥゥ

王子「神―――――」

アヌビス「戻る手間もあろう。下界へ強制的に戻しておいてやったぞ」

神官「痛み入ります」

アヌビス「さて、それでは其の方の命、貰い受けると致そうか」

神官「ご自由に」

アヌビス「其の方の持ちうる技術はあの者に全て受け継がれる。安心致せ」

神官「そうですか。それは有り難い」

アヌビス「其の方が得た召喚獣は無駄にはならぬ。きっと助けになるであろう」

神官「心残りではありました。しかし今回の方法以外、王子の覚醒は

アヌビス「ではこちらへ。我と1つとなり、主を護ってやるが良い」

神官「ええ。是非にでもそうさせて頂きます」

アヌビス「……では、頂くぞ」

神官「はい」

目を瞑りにっこりと微笑んだ神官の顔が、徐々に徐々に透き通り、やがて消えた。


969 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:24:42.63 ID:FF/c0WE3o
――……

王子「…………」

パチツ…ムクッ

そして王子が眼を開けると、そこは神官の部屋。魔法陣の中であった。

王子「……っ」

静寂な部屋の中に神官の姿はなく、ただ月明かりがきらきらと輝いていた。

王子「神官……僕は、いや……私はもう泣かぬ。それが王の務めであったな」

スクッ…カツカツカツ…

王子「……ふーっ」

カチャ…パタンッ

王子「誰かっ、誰か居らぬか!」

西国兵「は、ははっ!」

王子「急ぎ、身支度を整える。手伝え」

カツカツカツカツ

西国兵「へ、陛下……だよな……?」


970 名前: ◆1otsuV0WFc [sage saga] 投稿日:2011/11/23(水) 23:25:34.46 ID:FF/c0WE3o
カツカツカツカツ

王子「武具を持てい。それに馬の用意もだ!」

衛兵「えっ? へ……陛下……!?」

王子「何をモタモタしておるかっ、一刻を争う事態だという事を忘れるな!」

衛兵「ししっ、失礼致しましたっ!」

カツカツカツ…コツ

女王「……王子っ、戻ったのですか!?」

王子「母上か。如何なさいました、慌てた顔をなさって」

女王「実は、踊り子らが見当たらぬのです」

王子「何ですと……?」

女王「揃いも揃って……街にも居らぬようですし、大事なければ良いのですがねぇ」

王子「――っ」

ダッ!!…タッタッタッタッ…

女王「おっ、王子!?」

王子「くそっ、嫌な予感がする……っ!」



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