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侍「言葉が通じなくとも」
451 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/29(日) 22:33:49.20 ID:TukzhWTAO
―それは、小さくか弱い存在で、喩えば……いつも冷たい水底から水面の光を見上げている

森羅万象、あらゆるものに隣り合って、私達を草葉の陰から見守っている

それは知っている

自分達は陰である事を―


452 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/29(日) 22:55:08.35 ID:TukzhWTAO
……

サワ……

中年男性「……っ」ビクッ

風が木々をすり抜ける音が響く

村を出発して半刻、山狩り班は異様な空気に包まれていた

団長「は……ッ! はぁ……ッ!」ビクッ

壮年男性「ひっ……!?」ビクッ

男達は皆背を向け合い、円を描くように集まっていた

山狩り……捜索に出るのならば、隙間ができないよう等間隔に広がり、足並みを揃えて進むのが基本である

だが、今の山狩り班は逆

一箇所に固まり、身を寄せ合っている


何かに包囲されたかのように


453 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/29(日) 23:05:03.24 ID:TukzhWTAO
最初に違和感に気付いたのは、入山すべく獣道を歩いていた時だった

壮年男性「……なぁ、何か聞こえないか?」ヒソ

中年男性「何がだ?」

壮年男性は班の最後尾を歩いていた

その彼曰わく、班の後を付いて来る足音が聞こえたらしい

壮年男性「きっと犯人だ。俺達が散り散りになるのを待ってるに違いない」

団長「ふむ……」


454 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/30(月) 00:06:43.77 ID:i170PkHAO
……犯人が自分達をつけてきている

もしそれが本当だとしてら、どうやって犯人を確保するか……団長は考えていた


今、反転して犯人を追いかけたとした場合、犯人は当然逃げるだろう

その時確保の成否を決めるのは犯人と我々の身体能力の差であり、折角の数の優を生かせない

では、人数を割いて待ち伏せるというのはどうか

……これも難しい

恐らく、犯人は村を出た時から尾行をしてきている

という事は、こちらの人数を把握している可能性が高い

徒に班を割れば、犯人は警戒するだろう


457 名前: [sage] 投稿日:2011/05/31(火) 11:55:53.29 ID:BXYnZQxAO
風邪こじらせてしまいました
今日から復帰します


458 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/05/31(火) 21:29:26.36 ID:aJuC5EGDO
とか言ってVIPにスレ立てちゃう>>1


459 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/31(火) 23:27:03.65 ID:BXYnZQxAO
逆に考えてみよう

犯人が自分達をつけて来ているとすれば、犯人は殺人の機会を窺っているだろう

ならば、隙を見せれば食いつく可能性が高い

団長(囮を使うのが、犯人を誘き出すには最善だが……)

問題が二つある

囮は襲われやすい状況に置かれる為、相当な危険が伴う事

それに、犯人が目星をつけている人物を囮に選ぶ事

この二点を満たさなければ、作戦は失敗となってしまうが……

髭の男「団長……」ヒソ

団長「ん、何だ?」ヒソ

髭の男「何者かの気配がします」ヒソ

団長「ああ……我々を尾行している者だろ」ヒソ


髭の男「いえ……後ろではなく右手です」

団長「……なに!?」


460 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/05/31(火) 23:43:23.39 ID:BXYnZQxAO
団長は横目で茂みを窺った

……姿は見えないが、確かに視線を感じる

短髪の男「団長、左手にも……」

団長「……っ」

……木々の間を併行する気配がある


複数犯


考えなかった訳ではない

だが、その手口……人目を忍んでの犯行から団長達は単独犯だと推測していた


462 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/06/01(水) 00:14:30.43 ID:5qWwTCPAO
ザッザッザッ

山狩り班一行は、開けた場所で歩みを止めた

奥に進む程、数を増やす敵の気配に囲まれ、最早後戻りのできない状況

団長達は、この場で迎撃する事にしたのだ

団長(6……いや、8人か? くッ、村が無事だといいが……)

犯人達の撹乱なのか、それとも本当に囲まれたのか、確かめる術はない

それに、相手が何者であろうと逃げる訳にはいかなかった


463 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/06/01(水) 00:15:08.51 ID:5qWwTCPAO
今日はここまでです
一気に書ききるのは諦めてチマチマ書いていくことにしました
今暫くお付き合い下さい


>>458
そ、そんな事……ナイデスヨ


>姉スレ
あっちにも書いた通り、最初はテーマを設定して書いてたんですよ
でも、加えてエロゲや同人誌を作る人の気持ちというか、楽しさがわかった気がします
今度は悲劇を書いてみたいと……あ、また停滞フラグが


466 名前: [sage] 投稿日:2011/06/03(金) 03:21:07.56 ID:xiwA7paAO
……すいません
FFTのSS完結させてから再開します


470 名前: [sage] 投稿日:2011/06/05(日) 20:32:17.01 ID:GeEUg1NAO
ファイナルファンタジータクティクス×北斗の拳

ミルウーダ「七つの傷……?」
http://speedo.ula.cc/test/r.so/hibari.2ch.net/news4vip/1306937451/l10?guid=ON
↑携帯用

VIPで書いてます


474 名前:NIPPERがお送りします(長野県) [sage] 投稿日:2011/06/17(金) 10:52:38.66 ID:Ux+LbI2ao
FFTの続きはまだか


475 名前:おしらせ [] 投稿日:2011/06/17(金) 13:33:29.53 ID:E3aOwZ5g0
>>474
スレ立てました
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1308285104/


490 名前: [sage] 投稿日:2011/08/02(火) 09:52:17.85 ID:psSCtnsAO
お陰様で、ミルウーダ「七つの傷……?」が完結しました
今日か明日あたりにこっちを再開したいと思います

どこまで書いたか読み返さなきゃ……


脱線集↓

ケンシロウ「世紀末まであと89年か」

幼精「うう……おなかいっぱいでうごけないよぅ」
幼精「うう……あっついよぅ……」


493 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 00:29:17.70 ID:zybZD67AO
ザザ……

ザザァ……

団長「……っ」ゴクッ


浮かんでは消えてゆく敵意

包囲を狭め、にじり寄る殺意

山狩り班の面々は皆、額から首筋から全身から……冷や汗を流していた

……と



――――



一瞬の静寂、


     そして



『グガァァアアアッッ!!!』



団長「う、うおおぉぉぉッッ!?」


495 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 00:42:17.41 ID:zybZD67AO
山狩り班を襲った脅威


中年男性「うわっ!? うわああああッ」


それは『熊のように凶暴で、虎のように血に飢えた獣』


短髪男「ひッ!? く、来るなぁぁぁ!」


それは『大鎌を引きずる青白い狂人』


壮年男性「うッ!? オェッ……!」


それは『蛆の巣くう巨大な肉塊』




それは、人の心に棲む恐怖の象徴――――





496 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 00:54:36.24 ID:zybZD67AO
恐怖とは生物が持つ本能である

生物は、恐怖故に天敵から身を隠し、群れを無し、脅威を避ける

吊り橋を渡る時に感じる『冷たさ』も、生物の生存本能の訴えである




「だが、膨れ上がった恐怖は時に生を食らう物の怪を生む」




団長「――――あ、あんたは!」


ブシャァァァ――ッ


恐怖「ギェアアアアアアッッ!!」


侍「刮目せよ、これがお主らの恐怖の姿だ!」チャキッ


497 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 01:04:14.41 ID:zybZD67AO
ある者には血飛沫に、ある者には黒煙を上げる炎に

剣撃を受けた恐怖は、傷痕から絶叫を垂れ流す


中年男性「ひぃぃ!? も、もう駄目だァ!!」ガタガタ

短髪男「化け物が怒ってる!! 助けてくれぇぇ!」


五感を通して全身に染み渡る寒気

震えを呼び起こす恐怖に、山狩り班の男達は精神を蝕まれる



オオオォォォオ――ンッッ!!



団長「は……はぁ……!」ガタガタ

侍「……」グッ


498 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 01:10:09.75 ID:zybZD67AO
恐怖「ゴォォォォオ……!」ズシィィンッ

団長「はッ……! はぁぁ……!」ガタガタ

侍「……恐ろしいか?」

団長は「恐ろしい」と答えようとした

だが、喉がはりついて声が出ない

必死に言葉を紡ごうとしたが、唇すら痺れだして利かなかった

侍「そうか、恐ろしいか……」




侍「ならば恐怖を認めよ! その上で覚悟を決めいッ」チャキッ

ターンッ――


      ――バシュッッ




499 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 01:50:10.22 ID:zybZD67AO
侍の剣を受けて尚、恐怖は倒れない

恐怖は外傷に苦痛の声を上げ、足とも手ともつかぬ肢体で大地を打つ


団長「き、きいてない!?」

中年男性「にげなきゃ! はやくこ」



――――逃げるな――――



壮年男性「……えっ」

侍「あのものから逃げる、是即ち己が心に殺される事と思え」ザッザッ

団長「お、おいあんた……」


侍「恐怖を認め受け入れよ。心を強く持て。さすれば」

恐怖「ゴァァァアアァッッ!!!!」ブウンッ


――――グシャァァァッッ




500 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 06:55:36.31 ID:zybZD67AO
中年男性「うわッ!? うわああああああ!!!!」

短髪男「潰された! 潰れちまったあ!?」

団長「……いや、あれを見ろ」

中年男性「え……?」


恐怖の肢体は大地を穿ち、深々と突き刺さった

だが、



侍「恐怖とは心、己の一部。自分を強く持てば、決して喰われぬ」



侍は健在だった

強い意志を持つ者の前に、恐怖に為す術は無く、肢体は身体をすり抜けていた


501 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/08/03(水) 08:51:21.22 ID:fBosV74SO
久々の侍無双に濡れた


502 名前:NIPPERがお送りします(東京都) [sage] 投稿日:2011/08/03(水) 12:22:20.80 ID:hlKWbMUD0
……俺、今から大ファンになります


503 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 22:07:58.66 ID:zybZD67AO



――――   起  て  ッ  !   ――――



団長「!」ビリビリビリッ


侍の放った短い叫びは、空を走り宙を駆ける

強く、力強く……響く度に力強く

風となり、波となり、押し寄せてくる鼓舞の言葉


短髪男「だ、団長……!」

壮年男性「やりましょう……!」


それは消えかかった心の灯火……勇気を燃え上がらせた


団長「ああ……! 共に最期まで戦おう!」


504 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 22:25:02.19 ID:zybZD67AO
……タッタッタッ

悪鬼「はッ、はッ!」タタタッ

父親は村の中を走った

体中の痛みも忘れ、遮二無二に走り回った

鼻から流れ落ちる血も、胸の奥からこみ上げる熱さの前では些細な事だった


ザザ――ッ


悪鬼「ッはぁ……はぁ!」

父親は立ち止まった



母親「……あなた」

尋ね人を見つけたからだ


505 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 22:33:43.87 ID:zybZD67AO
悪鬼「……」ゴクッ

汗水漬くになりながら探していた筈なのに、いざ目前にすると言葉が出なかった

悪鬼と化した自分を真っ直ぐ見つめる妻に、夫はようやく

悪鬼「こんな姿になっても……あなたと呼んでくれるのか?」

と、言葉をかけた


母親「……何を言ってるんですか」

妻は答える


母親「あなたがどんな姿になっても、私にはたった一人の夫です」

悪鬼「……ありがとう」

二人は、ぎゅっと抱き合い

母親「私を独りにしないで……ずっと傍にいて下さい」

悪鬼「大丈夫……もう、見失わない」



光につつまれた



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