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少年「悪魔の娘?」 少女「人殺しの化物?」
63 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:38:59 ID:5K6cN7w.
<二つの月光が交差する廊下>

傭兵B「……っ? ……気のせいか」

.
.
.


<闇が纏わり付く地下の一本道>

傭兵C「…………」

.
.
.


.
.
.

<欲望と絶望に塗れた部屋>


65 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:50:10 ID:5K6cN7w.
 酷く、簡素な部屋だ。

 天井、壁、床。その全てが白い石、石、石。
 荘厳な聖堂とは正反対、そこは、まるで牢獄のような部屋だった。

 いや。事実、そこは牢獄だった。
 今晩もまた、一人の少女をそこに幽しているのだから。

 それは、毎晩行われる儀式。
 欲望を糧に、絶望だけを産み出し続ける儀式。


66 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:50:42 ID:5K6cN7w.
「っ……! く……!? はぁ……っ!」

 牢獄の隅に置かれているのは、まさにこの部屋にふさわしい、古く不潔極まりないベッド。
 その中心で、一人の少女が苦悶の声を上げ続けていた。

 彼女の赤い瞳が、涙で滲む。小さな口から熱い吐息が漏れ、白い肌に朱色が浮かぶのは、紛れもなく絶えず送られ続ける快楽によるもの。
 それでも、彼女の表情は快楽に蕩けることはない。彼女は、ただ儚く虚しい抵抗として、表情をくしゃりと歪め続けるのだった。


「やぁ……っ!? ぁ、あぁぁぁ……っ」
「ふふふふっ。貴女も、最近は一層敏感になりましたね……」

 少女の上に、一人の男が覆い被さっている。
 膨らんだ脂肪は、彼の年齢を記す皺を隠し切ることなど出来ない。太く、皺だらけで、ぬるぬるとした指が、少女の身体を這い姦り続けていた。

――気持ち悪い――
 彼の指が動く度に、得も言われぬ嫌悪感が少女の胸を満たす。どす黒い感情が、今にも喉を伝って吐き出されてしまいそうな程。


67 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:51:19 ID:5K6cN7w.
「ひゃうぅぅっ!?」

 しかし、小さな胸の頂を指先で弾かれてしまえば、彼女は抵抗すら出来なくなってしまう。彼女は、背筋を仰け反らせて甲高い悲鳴を上げた。
 胸に溜まった感情も、快楽の海に溶けて消えていってしまうのだった。

「明日はまた、聖水を一つ強い物にしましょうか」
「んくぅ……! 嫌、止め……」
「儀式は、止められません。貴女は、『悪魔の娘』なのですから」
「ひぁあぁぁぁっ!!? ぁ、あ、ぁあぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「おやおや。また、軽く達してしまいましたか」

 少女の言葉が、乳首を強く摘まれることで強制的に中断させられる。びりびりと電流を流したかのような強い快楽に、少女の口端からは涎がたらりと零れた。


68 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:51:51 ID:5K6cN7w.
 儀式。
 毎晩毎晩、聖水という名の媚薬を全身に塗り付けられる。
 そう。これが、儀式だった。

 幼い頃から快楽に漬け込まれ、今では胸を摘まれただけで何度も達してしまう程開発され。

――これが、儀式なものか。こんな、馬鹿げた話があるものか――
 幼くして檻に投げ込まれた少女には、そんな疑問も抱くことは出来ない。

 これは、欲望を糧に、絶望だけを産み出し続ける儀式。
 とうの昔から、希望などなかったのだから。


69 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:52:46 ID:5K6cN7w.
「そう言えば」

 男の声音が変わる。
 何か思い出し笑いをするような、それでいて、どこか苛ついているような。酷く不安定で、泥水のように汚い声だった。

「先日、あの子供にこう訊かれましてね。『どうして、少女は外に出られないのかな』と……」
「っ……」

 少女の脳裏に、彼の姿が思い浮かぶ。
 小さくて、可愛らしくて、無神経で、優しくて。
 今彼を思い出すのは、少女にとって酷く辛かった。快楽が溶け込んだ涙に、ほんの少しだけ、別のものが混じり込んだ。


70 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:53:18 ID:5K6cN7w.
「くくくっ。傑作ですよねぇ……?」
「っひぃぃッ!!?」

 しかし、少女は身体をびくりと跳ねさせて、その涙を振り払ってしまう。
 まるで、横殴りされるかのような快楽。胸を摘まれるよりも、ずっと強く、無情な快楽。

 男が乱暴に握りこんだ、それは……。


71 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:53:51 ID:5K6cN7w.
「こんな物を生やしておいて、『人間』の顔をして外を歩けますか……?」

 それは、男性器だった。


 若い少女には酷く不釣り合いな、大人のものとほぼ同じ大きさであろうそれは、決して張り型などではなかった。紛れもなく、少女の脚の付け根から生えていて。紛れもなく、それは血の通った男性器で。

「そろそろ、ここにも聖水を塗りましょうか」
「お願……、止め……――ふぁ、あぁぁぁぁっ!!?」

 少女の男性器が、ぬるぬるとした媚薬に包まれる。
 まるで神経を直接犯されるような快楽。少女の指が、シーツに強く喰い込んだ。

「まったく、毎晩こうされなければ満足出来ないようになってしまって。本当に淫らだ」
「ひゃめ……っ!!? さきっぽ、にぎら……ぁひッ!? あぁあぁぁぁぁぁッ!!?」

 男は、彼女の耳元で囁きながら、少女の男性器を乱暴に扱き続ける。
 陰茎を潰してしまう程に強く握り、かり首に爪を立て、亀頭を削れる程に何度も擦り姦す。
 彼の手は余りに乱暴、それでも、彼女はそれに快楽を感じてしまう。

 それが、酷く屈辱だった。


72 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:54:21 ID:5K6cN7w.
「『悪魔の娘』よ。貴女は、そんな身体で、外を歩きたいでしょうか……?」
「――っ」

 それは、彼が少女に何度も問うた言葉。既に聞き飽きた言葉だった。
 それが、今の彼女には、酷く心に響いた。

『……外に、出ない?』

 再び、少年の姿が浮かび上がる。
 出会ってたった数日。たったそれだけの間に交わした沢山の言葉が、彼女の中で何度も、何度も反響する。

 希望なんて、とうに捨てたはずだった。
 さらわれるか、殺されるか。それとも、こうして犯され続けるか。
 それだけだと思っていた。

 だけど、彼が教えてくれた。
 暗い部屋の中で、外の眩しさを、教えてくれてしまった。

『外を歩きたいでしょうか……?』

――そんなの、決まっているじゃない……――


73 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:54:51 ID:5K6cN7w.
「……ぐすっ……」

 少女の目から、一筋の涙が零れた。
 流れる涙は、感情の呼び水に。そして、沸き上がる感情は、また涙を生み出す。
 ぽろりぽろりと、涙が溢れ出す。

「ぅえ……ぇぇえぇ……っ。ぁ……ぅあぁぁ……っ!」

 いつしか、彼女は嗚咽を上げて泣き出していた。


「……出たい……」

 そして、少女の口から、初めて明確な意志が紡がれる。

「出たいよ……っ! 私だって……外を、歩きたい……っ!! あの人みたいに、外を――ぁがッ!!?」

 しかし、男はその言葉を無理やり中断させた。
 拳を以って。頬を殴り飛ばすことで。

「――ッ!!? 〜〜〜〜ッ!!」
「……あぁ、済みません。昨日、叩いた所でしたね。そこは」

 腫れが引いていた頬が、また熱を帯び出す。
 まるで刺されたかのような痛みに、少女の目からまた涙が溢れた。


74 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:55:27 ID:5K6cN7w.
「貴女には、念入りに調教をしておく必要がありそうですね」
「ひ……ッ!!? ぁ……! 嫌……ッ!!?」

 余りに冷たい声に、少女の背筋がぞくりと冷えた。

 少女の両脚が掴まれ、無理やり持ち上げられる。
 脚を開かれ、性器が露出する。
 
 痛みに喘いだ少女の男性器は、少しばかり萎えてしまっている。それでも、一度濡れた部分は早々乾きはしない。少女は、自らの膣に何かが押し当てられる感触に悲鳴を上げた。

 それは、毎晩行われて来たこと。
 それでも、今回は、今回だけは、酷く、嫌だった。


「嫌……ッ!!! お願い、もう止めて!! 嫌だ!! もう、嫌だ!!!」
「えぇい……ッ!! 大人しくしろ!!!」
「ぐぅうぅッ!!? 嫌だッ!!! 助けてッ!!!?」
「黙れッ!!!」

 少女の抵抗も虚しく、彼女は男に無理やり押え付けられる。
 もう失ったはずのもの。それなのに感じる得体の知れない喪失感に、少女は目をぎゅっと瞑った。


 まぶたの裏に浮かんだのは、やはり彼。
 こんな時でも、彼は、小さくて、可愛らしくて、無神経で、優しくて。


75 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:56:04 ID:5K6cN7w.
 部屋の扉が突然勢い良く開かれたのは、その時だった。


77 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:56:55 ID:5K6cN7w.
司祭「なッ!!?」

少女「――ッ!!?」

ギッ...ガチャンッ


少年「……こんばんは」ザッ

司祭「……きさっ、何故……ッ!?」

少女「ぇ、ぁ……ぁ……?」

少年「司祭さん。報酬は、もう要らない」ザッ


78 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:57:41 ID:5K6cN7w.
ザッザッ...

ザッ

少年「少女」

少女「えっ……?」

少年「ここに来る間に、考えてたんだ」

少年「……そしたら、僕、間違ってた」


少年「『どうして、外に出ないの?』、『……外に、出ない?』。違うよね。そんなこと言われても、君は困っちゃうよね」

少女「…………」

少年「僕が、教えてあげるよ」

少女「っ……」

少年「僕が、外の世界を教えてあげる。町のこと、村のこと。綺麗なガラス細工を売ってるお店や、面白いお話をしてくれる吟遊詩人さんが居る広場。皆皆、教えてあげる。……だから……」


79 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:58:21 ID:5K6cN7w.
少年「――一緒に、外に出ようよ。君は、『人間』なんだから」

少女「……っ!」


司祭「……はは」

少年「司祭さん。少女から、離れて」

司祭「ははは……! ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハッ!!」

少年「どいて、司祭さん」


司祭「小僧が……!! ふざけたことばかり抜かしおって……!!」グイッ

少女「ぁっ……!!?」


80 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:58:55 ID:5K6cN7w.
司祭「見ろ、小僧!! この娘の、この身体を!!!」

少女「ひ……ッ!!? 嫌……!! 止めて!!」

少年「……その、身体は」

司祭「はは、ははは!! 貴様はこの娘を『人間』と呼ぶのか!? この二形の!! 異形の者を!! 『人間』と呼ぶ!!?」

少女「止めて!!? 放して!!! 嫌ぁぁぁッ!!!?」

少年「…………」


司祭「この娘は『悪魔の娘』だ……ッ!! 『人間』ではない……!! 小僧が、ふざけたことばかり――」


81 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 19:59:32 ID:5K6cN7w.
少年「先天的マナ性性分化疾患」

司祭「――ッ」

少女「えっ……? 何を……」


少年「母体が汚染されたマナに晒された時に、出産時稀に起きる病気だよ。稀だけど、決して起きない訳ではない。調べれば、すぐに分かるはず」

司祭「〜〜〜〜ッ!!?」

少年「司祭さんは、そうやって、少女を騙して来たんだね……ッ!」ギリッ


司祭「……この、糞餓鬼が――」

少年「――――ッ!!!」

司祭「――おがッ!!?」ズドォッ

ドサッ


82 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 20:00:03 ID:5K6cN7w.
少年「少女」

少女「……ぁ」ポカン

少年「……君は、元から人間だった。だけど、『人間』じゃなかった」

少年「僕には、それが赦せない。だから、僕が最初の一人になる」



少年「君は、『人間』だよ」



少女「…………」

少年「…………」

少女「……っ……」

少年「…………」

少女「……ぐすっ、ぅぇ……っ、ぇえぇぇ……っ!」

少年「君は、結構泣き虫だね」クスッ

少女「うるさぃ……っ! だって、だってぇ、ぅあ、ぁあぁぁぁ……っ!」


83 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 20:00:33 ID:5K6cN7w.
少年「……落ち着いた?」

少女「うん。ありがとう……」


少女「貴方は、さっきのその、病気。どうして知っていたの?」

少年「家の本に書いてあった。人体に関する本は、結構あったんだ」

少女「……貴方の家って、お医者さん?」

少年「……ううん、違うよ。だけど、あったんだ」

少女「ふぅん……」


84 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 20:01:05 ID:5K6cN7w.
少女「それと、その……」

少年「ん、どうしたの?」

少女「そろそろ、こっち見ないでくれると、嬉しいんだけど……」モジモジ

少年「えっ?」

少女「…………」ジト


少年「……あっ。そうか、君、今裸――」

少女「言わないっ!!」カァッ

少年「大丈夫だよ、僕、そうゆうの慣れて――」

少女「関係ないっ!!!」マッカッカ


少女(やっぱり、デリカシーがない……)ハァ

少女(……慣れて…………?)


85 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 20:01:43 ID:5K6cN7w.
少年「ぇと……。もう、良い?」

少女「えぇ、お陰様で」プンプン

少年「えぇと、怒ってる?」

少女「少しだけねっ」

少年「……その、少女っ」

少女「何」


少年「ごめんなさいっ」ペコ

少女「えっ?」

少年「…………」ジッ

少女「ぇ、ちょっと……」

少年「…………」ジー

少女「そ、そんな見られても」

少年「…………」ジーー

少女「…………」


86 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/22(日) 20:02:14 ID:5K6cN7w.
少女「……もう、分かったから」フイッ

少年「ぁ、えぇと、仲直り?」パァッ

少女「はいはい。仲直り仲直り」カァ


少女「それで、これからどうするの? もたもたしてたら、司祭様起きちゃうよ」

少年「あぁ、そっか。外に出たら、BとCが見張りを……。……っ」

少女「そう言えば、貴方どうやって見張りが居る所を――」


少年「――静かに」

少女「えっ……?」


少年「……戦ってる…………」


89 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 05:57:43 ID:VMc9kz0.
処女厨には辛いのう……


90 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:33:02 ID:13AzIdiA
<白き主が紅く装飾された聖堂>

傭兵A「ッ!! くっそがぁッ!!」グォッ

ギィイィィィンッ!

頬傷の男「っ」ザザッ

隻腕の男「っ」バッ

傭兵A「ぉおぉぉぉぉッ!!」

キィイィィンッ ギキキキキィイィィィンッ!!

隻腕の男「っ」ザッ

傭兵A「ハッ、……ハァ……!!」


91 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:33:41 ID:13AzIdiA
傭兵A「畜生……ッ!! おいB!! C!! 寝てる場合じゃねーぞォッ!! 起きろォッ!!!」

傭兵C「…………」

傭兵B「……ぁ゛ー……、っそぉ……。割に合わねぇ仕事だ――」

頬傷の男「っ」ヒュッ

傭兵B「が……ッ!!」ドスッ

傭兵A「っ!! てめぇ……ッ!!!」

傭兵B「…………」


傭兵A(楽な仕事だと思ったら、最悪のタイミングでご登場とはな……っ)


92 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:34:22 ID:13AzIdiA
覆面の男「とっとと死んでくれねぇかなぁ。おっさん」ハァ

傭兵A「ご生憎、そうは行かねーなぁ」ハッ

覆面の男「解せねぇな。勝てねぇ相手に楯突いて何になる? ただの死にたがりか?」

傭兵A「っへ、別に死にたかねーよ、俺だって……」

覆面の男「仕事熱心な奴だ」フン

傭兵A「……さて、どうかね」

覆面の男「は?」


ザッ

傭兵A「死なせたくない奴が二人程居る。仕事じゃなくても、命張るにゃ十分だ」ギッ

覆面の男「……あぁ、成程。テメェが馬鹿だって話か」

傭兵A「違いねぇ」ハッ


93 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:34:54 ID:13AzIdiA
頬傷の男「…………」

隻腕の男「…………」

傭兵A「まーったく、愛想のねぇ気持ち悪い奴だ」

傭兵A(おまけに、気持ちが悪い程に強ぇ)

覆面の男「仕事熱心だろ?」ニヤ

傭兵A「給料安そうだな。傭兵やるかい? 紹介してやるぜ」ハッ


覆面の男「まぁ、もう良いよ。おっさんとの会話は」

傭兵A「チッ、つれねぇな。こっちは朝まで付き合ってやるってのによ」

傭兵A(はぁ……。本格的に、終わりかなぁ……)

傭兵A(ボウズと嬢ちゃんは、どうなったかねぇ……)


覆面の男「よし、殺――待て」

傭兵A「ぁ? 何――」


94 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:35:43 ID:13AzIdiA
ザッザッザッザッ

少年「…………」

少女「…………」


覆面の男「へぇ」ニヤ

傭兵A「馬鹿……!! お前ら、どうして逃げ……ッ!!?」


少女「…………」ブルブル...


『僕の服の裾を握って。ぎゅっと、強く』

『こ、こう……?』

『そう。良い? 聞いて』

『う、うん……』

『これから、君が想像しているよりもずっと、ずっと恐いことが起きる』

『外に居るの、私を狙って来た人たちだよね? それよりも?』

『うん。それよりも、ずっと』

『…………』


95 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:36:16 ID:13AzIdiA
『一つは、どんなに恐くても絶対に、この手を放さないで欲しい』

『この手を……』

『護れなく、なっちゃうから』

『貴方が何を……っ!? ……信じて、良いの…………?』

『お願い。信じて』

『……うん。分かった』

『それと、もう一つ』

『もう一つ?』

『……僕の手には、絶対に触らないで…………』


少女「…………」ブルブル...

少女「っ」ギュッ...


96 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:36:53 ID:13AzIdiA
覆面の男「『悪魔の娘』だな?」

少年「……二つだけ、言わせて」

覆面の男「聞いてやろう」


少年「少女は、『悪魔の娘』なんかじゃない。『人間』だ」

覆面の男「どっちでも良い。どのみち死ぬ」

少年「っ……」ギリッ

覆面の男「もう一つは」


少年「……少女を狙うなら…………」


少年「殺すよ」


覆面の男「…………」


覆面の男「――殺せ――」


97 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:37:56 ID:13AzIdiA
 覆面の男がそう呟く。
 彼の傍に居た二人の男が、霞へと消える。

 その疾さは、傭兵すらもその姿を捉えることが出来ない程。彼が再びその姿を確認した時には、二人は既に少年のすぐ前に。
 月夜に照らされた二つの刃が不気味に煌めいた。
 そして、刃は真っ直ぐに伸びて行く。一つは少年の首筋に、一つは少年の胸元に。

 刃が彼にめり込む。最悪の光景に傭兵が叫び声を上げようとした、その時だった。


「――――ッ」

 誰がその光景を予想出来ただろう。
 少女も、傭兵も、覆面の男も。刃を突き立てようとした暗殺者共すら、きっと出来はしなかった。

 少年以外は。


 小さな両手が真っ赤に染まる。
 右手で首を捻じり切る。左手で頭蓋骨ごと握り潰す。
 ブヂリという気持ちの悪い音が、聖堂を響かせた。
 
 少年が、二人の暗殺者を何とも呆気なく殺してしまったのだから。


98 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:39:08 ID:13AzIdiA
「……はっ」

 グロテスクな光景に、辛うじて動けたのは覆面の男。
 二つの死骸が未だ宙を舞う最中、彼は目にも映らぬ疾さで左手を振るった。

 指先から放たれたのは一本の短剣。
 石の扉ですら貫いてしまう程に、その銀刃は疾く鋭い。

「――――」

 しかし、少年は軽く左手を振るう。
 空を一直線に描いていた軌跡が、彼の小さな指に掻き消されてしまう。
 いつの間にだろうか、短剣は少年の手のひらの中にすっぽりと収まってしまっていた。

(だろうな)

 覆面の男の動きは止まらない。
 とうに予測はしてあった。短剣は、ただの布石に過ぎない。
 彼の居る場所は、既に少年の懐。

「おらァッッ!!!!」

 そして、彼は右手に携えていた剣を諸手に構え、その幼い顔に全力で叩き込んだ。

 全身全霊を込めた、必殺の一撃。
 その脚は、少女はおろか、傭兵の目にすら映らぬ程に疾く。
 またその腕は、少年の足元が、ひび入り吹き飛ぶ程に強く。


 その一撃の後、覆面の男は思わず目を見開いた。


99 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:40:36 ID:13AzIdiA
 その一撃の後、覆面の男は思わず目を見開いた。

「……マジかよ」
「…………」

 果たして、叩き込まれた刃を文字通り"握り潰す"ものなど、どう相手をすれば良いのだろうか。
 ぽつりと言葉が溢れる程、覆面の男は困惑していた。

「っ、――ッ!!?」

 しかし、彼の全身にぞわりと悪寒が走る。
 覆面の男は、両手に握った武器を躊躇いなく手放し、その場を全力で飛び退いた。

 空中で彼は、半瞬前に自分の首があった場所を垣間見ることが出来た。
 そこにあるのは、肌と紅の不気味なコントラスト。
 少年の小さく細い指が、今の彼には死神の鎌のように見えたのだった。

 少年はその場から動かず、静かな瞳で彼を見つめ続ける。
 その背後には、己のターゲット。震え続ける少女の姿。
 少年は、彼女を護る為に戦っていた。動かないのではない、動けなかった。

 もしも、少年が殺す為に戦っていたら、どうなっただろうか。
 余りに絶望的な相手。規格外が過ぎる相手。


 そんな少年に、覆面の男は。

「……ハハ」

 口を裂いて笑った。


100 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:41:28 ID:13AzIdiA
覆面の男「ハハ、ハハハ……」

少年「…………」

覆面の男「アハハハハハ、アッハッハハハハハハハハハハハ!!!」

傭兵A「気でも狂ったか、この野郎……ッ!」

傭兵A(もっとも、俺が狂っちまいそうだが。……どうゆうこった、こいつぁ……)


覆面の男「うっせぇよ、外野」クククッ

少女「っ……!? ッ……!」ガタガタガタッ


覆面の男「あぁー……、分かった。分かったわ……ッ」

傭兵A「てめぇは、へらへら笑いやがって、一体何だと……」


覆面の男「"こんな所に居やがったのか、『化物』"」


101 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:42:02 ID:13AzIdiA
少年「っ」ピクッ

覆面の男「成程、成程ねぇ? くくっ……! 『少女は、『悪魔の娘』なんかじゃない。『人間』だ』……あぁ、確かにそうだな、そうだよなぁ?」ニヤニヤ


傭兵A「てめぇッッ!! いい加減にしやがれッ!!!」

覆面の男「ぁ゛ーもう! うっせぇなぁ! こっちは面白ぇことになってんのによぉ」

傭兵A「どうゆうことだ……ッ!!」

覆面の男「ん゛ー、仕方ねぇなぁ」ハァ


覆面の男「教えてやろうじゃねーの。後ろでぶるぶる震えちまってる『人間』ちゃんも一緒になぁ?」

少女「ッ……!」ビクッ


102 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 15:42:38 ID:13AzIdiA
覆面の男「事のあらましはこうだ。むかーしむかし」


 そして、男は語り始める。
 両手を振って、仰々しい口調で、その場に居る全員を見下しながら。

 昔々。そんなものは、ただの決まり文句に過ぎない。
 それが起きたのは、ほんの数年前。
 そして、それが終わったのは、ほんの三年前のことだった。



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