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少年「そうだ!天使を見つけに行こう!」僧侶「私もお伴します」
- 92 名前:深夜にお送りします []
投稿日:2013/07/16(火) 20:01:57 ID:M9rjISXg
【 討伐クエスト 近隣の村に出没する魔物を退治してほしい
これはギルドからの正式な依頼である 難易度――中 】
これはつまり、緊急を要するという意味を持っていた
ギルドは、国が軍隊を軽々しく動員出来ない事案を請け負うこともある
被害を最小限に抑え、かつ放っておけば大惨事になる可能性のあるもの…
そういったものをギルドは緊急クエストとして発注するのである
ギルド内がにわかにざわつき始めた
内装に圧倒されていた冒険者達の顔に、いつものギラついた光が戻ってきていた
「珍しい、緊急クエストだ」
「よほどの事なのだろう…」
「だが報酬はスゲェぞ……それに名もあげられる」
- 93 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 20:11:03 ID:M9rjISXg
「…俺は遠慮するぜ、命が惜しいんでな」
「お、俺もだ…どんだけ危険か知らんが、命あっての物種だ…」
何人かが尻込みした発言をすると、それは波紋のように他へ広がっていった
冷静になったのか、臆病風に吹かれたのか、あちこちでかつての緊急クエストの危険性について語っていた
戦士(チッ……あんま言いたくねぇが、この臆病者共め)
それら有象無象を脇に、戦士はクエストを受注していった
その時
「あの、僕らもそのクエスト…受けます」
- 94 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 20:32:58 ID:M9rjISXg
戦士が驚いて横に目をやると、少年とその後ろに佇む長身痩躯のハゲ男がいた
戦士(驚いたな。こんな子供が緊急クエストを受けるのか…なんとも勇ましい)
(それに比べて…アイツラは見かけだけ立派だな)
戦士「なあ、あんた。このクエスト受けるのかい?」
少年「えっ?」
少年は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた
突然声をかけられたことに戸惑っているようだ
少年「え、ええ。そうですよ。えっと……あなたも?」
戦士「ああそうだぜ。若いのに立派なもんだな」
「あそこでたむろしている奴らが躊躇するようなクエストを受けるんだからな」
少年「その、僕は怖かったんですけど、仲間の僧侶さんが…」
僧侶「人助けは良いことです。我らはそれを行える資格と力があります」
「それに、修行にもなります。積極的に行なって行きましょう。善行を行えば、何より清々しくなりますよ」
少年「僕も賛成して、未熟だけど人の役に立ちたいなって思いまして…」
- 95 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 20:44:56 ID:M9rjISXg
戦士(なんと見上げた心意気…。このような若者がまだいたとは…)
(しかし、確かに未熟そうだ。ここで彼を失わせるようなことになってはいかん…)
戦士(ちと唐突だが…)
戦士「ちょっといいだろうか、提案があるんだ…」
少年「はい?なんでしょう」
戦士「実は俺も一人連れがいてな、そっちも二人…」
「どうだろう、このクエストの間だけでも即席パーティーを組まないか?」
少年「即席パーティーですか?」
「うーん…僧侶さん、どうします?」
僧侶「…………」
僧侶は真意を計りかねていた
悪い人間には見えなかったが、前回のクエストの件もあり、慎重になっていた
戦士(こいつの目…ただもんじゃあねぇな…)
(見慣れない服装だが、まさか「あの国」のモンか?)
戦士「ああいや、別にあんたらをどうこうするって分けじゃないんだ」
「仮にでも組んでおけば、いざという時助けるのに迷う必要がなくなるってだけだ」
それに、と続けた
戦士「さっき言ったように俺達も二人だからな。人数が多いほうが心強いんだ」
- 96 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 21:00:33 ID:M9rjISXg
僧侶「見たところ、そちらに手助けが必要なようには見えませんが……」
「……いえ、いらぬことを言いましたね。少し前に酷い目に会いまして…」
僧侶「少年殿、私はいいと思いますよ。危険は…少ない方が良いですし」
少年「うん。それじゃあよろしくお願いしますね!」
戦士「ああ、こちらこそ。…無理を言ってすまないね」
「おい、聞いてたんだろ?こっちきて挨拶しな!」
戦士が声を掛けた方に目を向けると、しなやかな身体つきをした髪の短い女性がいた
何故だが凄く顔をしかめている
戦士「おいおい…なんだよその顔」
女盗賊「…別にー。クエストを受けるのはいいんだけどさあ…」
「なんでガキとハゲとパーティー組まなきゃいけないわけ?」
僧侶「ハゲ…」(これは剃髪しているだけなんだが…)
少年「が、がき……」
戦士「お前…」
女盗賊「事実でしょ!こんなお守りが必要な奴と組んでたら、命がいくつあっても足りないよ」
「あんた正気なの?なに?アタシの言ってること間違ってる?」
- 97 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 21:15:06 ID:M9rjISXg
少年「が、ガキだし未熟だけども!これでも冒険者なんだ!」
「自分のお守りなら自分で出来るよ!」
女盗賊「はーん?小便臭いお子様がなにナマ言ってんだよ」
少年「臭くないっ!」
戦士「お、おい女盗賊、やめろ!」
僧侶「少年殿、落ち着いて下さい」
熱くなっている少年を押しとどめ、引き離す
僧侶「そちらの方も、軽々しく他者をおとしめるような事は慎むべきです」
「口は災いの元と言いますよ」
僧侶「それに、少年殿はもう立派な冒険者です。先ほどの言葉…取り消していただきたい」
丁寧な言い方だったが、断固とした意思を感じさせる語調だった
さしもの女盗賊も、その意気に押され口をつぐむ
女盗賊「フ、フンッ!」
女盗賊(なんだこのハゲ…怖…)
- 98 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 21:25:37 ID:M9rjISXg
戦士が顔を近づけ、小声で喋りだす
戦士(お前なぁ…なんでそう喧嘩を売るんだ?)
女盗賊(あたしは思ったことを言っただけよ)
戦士(お前、次こういう事したら技術の件は…ナシだからな!)
女盗賊(うっ、わ、分かったよ………分かったからクセー顔近づけんなって)
戦士(この… ク ソ ア マ ! )
ますます危機感を強めた戦士だった
- 99 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 21:34:25 ID:M9rjISXg
多々問題はあるが、こうして即席パーティーは誕生した
その後、彼ら以外にクエストを受けたのは八名
三、三、ニのパーティーだった
ギルド側は一応満足いったのか、募集を締め切り、受注者を用意した馬車に誘導した
女盗賊「へぇ〜、ギルドって金持ちなのね。随分立派じゃない」
戦士「そりゃな。貴族連中がスポンサーだし」
普段使用する馬車よりも格段に豪華でしっかりした造りをしていた
恐らく戦車の技術が使われているのだろう、と戦士が話した
少年「緊急って言う割には人が集まりませんでしたね」
戦士「嘆かわしいことだが、今やそういう輩のほうが多いんだ」
「冒険者に求めるものが変わっちまったらしい」
僧侶「そうなのですか?」
戦士「ああそうさ。昔は誰もがあの『赤髪』に憧れたもんさ…」
- 100 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 21:41:28 ID:M9rjISXg
少年「『赤髪』?」
戦士「知らねーのか?伝説の『天凱の塔』を発見した人だよ」
少年「ああ!あの!?知らなかった…」
戦士「俺が子供の頃の話さ。あの人は様々な困難に立ち向かい、その都度生還した…」
「幾度も悪人を懲らしめ、多くの人を救い、そして前人未到の地を発見した……」
戦士「まさに冒険者の中の冒険者。冒険者の鑑だよ…」
少年「へぇぇ!」
興味を持ったのか、目を輝かせている
僧侶「伝説の『天凱の塔』とは?」
戦士「勇者の伝説で出てくる塔の事だよ。魔王を倒した後、その塔で勝どきを上げ、神に勝利を捧げたってやつだ」
「騎士の間じゃ、そこで勝利を報告することが第一級の名誉なんだと」
少年「それは何処にあるんですか?行ってみたいなぁ…」
戦士「さあなぁ…。見つけたことは事実なんだが、帝国神秘部隊ってのが秘匿しているんだ」
「なにより伝説だからなぁ…それも仕方ないってことで、何となくみんな納得してるのが現状だ」
女盗賊「それじゃあ本当に見つけたかどうかなんて分かんないじゃない。崇拝しすぎて脳みそ腐ったんじゃないの?」
- 101 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 21:48:41 ID:M9rjISXg
ジロリと女盗賊を見る僧侶
その視線にはたしなめるような含みが持たれていた
慌てて口を抑える女盗賊
戦士「そりゃ、誰だってそう思うよな。だが、証拠があったんだ」
少年「証拠?それってなんですか」
戦士「『聖杯』、だよ。勇者が神に勝利を捧げるときに使ったとされる、聖なる杯」
「それを赤髪が持ち帰ったんだ」
戦士「伝承通りの色、形で、その杯に聖酒を注ぐと、黄金色に輝いたという」
「それは多くのものが見ていて、俺もこの目で見たんだ」
女盗賊「…マジ?」
戦士「マジだよ。今は帝都の博物館で厳重な警備のもと、飾られているぜ」
「一昨年見に行ったし」
戦士「ちなみにその博物館の五分の一が赤髪寄贈なんだぜ」
少年「すっっごいなあ! あの、今赤髪さんはどうしてるんですか?」
戦士「数々の功績を認められ、その博物館の館長やってる」
「だけど、すぐ殺されっちまった」
少年「えっ!」
僧侶「なんと…」
- 102 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 21:57:17 ID:M9rjISXg
戦士「まあ、恨みは随分かってたみたいだぜ」
「いろんな奴が悪事を暴かれて、切歯扼腕してたようだし」
戦士「しかし、稀代の大英雄の最期が、あんなんだとはなぁ…」
「俺はショックで一週間メシが食えなかった」
女盗賊(真性のバカか)
戦士「お前、今俺のことバカにしただろ」
女盗賊「し、してにあよ!失敬な」
少年(噛んだ…)
僧侶(噛みましたな…)
女盗賊「なんだ!?やんのか!そんな目で見んな!!」
- 103 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 22:05:10 ID:M9rjISXg
「お客さん方、着きましたぜ」
その言葉を聞き、確かに揺れが収まっていることに気付いた
表に飛び出る女盗賊
戦士「なんか、久々に語ったから喋り疲れちまった」
馬車を降りると、既に他の連中は村長の元へ集まっていてた
村長「冒険者に皆さん、此度はありがとうございます…」
「まずは拙宅にておくつろぎ下さい」
村長に案内され、もてなしを受けた
肉や魚、地酒を振舞われ、気分は高揚していた
ひと通り飲み食いし、腹を満たしていく
村長「皆さん、満足いただけたでしょうか?」
「早速で申し訳ないのですが、此度のことについて、説明させて頂きます」
- 104 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 22:13:50 ID:M9rjISXg
この村に面している森、ひと月程前に魔物が現れ、狩猟を行なっていた村人を襲った
それから徐々に被害は拡大し、ついに森以外にも現れるようになってしまった
そして、今から一週間前。村で飼っている羊が十数匹と、その管理者食い殺されているのを発見した
協議した結果ギルドへ報告し、現在に至るという
村長「それから徐々に村の奥へ入ってきているようなのです…」
「見張りを立てれば、尽く殺されてしまって…もう既に六人やられています…」
羽兜「魔物の姿や数はわかってるのか?」
村長「目です…三つの目……最初に襲われて、生き延びた者のいうことには」
「三つ目の魔物、だそうです」
結局、目撃者は殆ど死に、恐怖のせいで姿すら確認できていない状況だった
深夜に現れる三つ目の魔物。情報はそれだけだった
- 105 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 22:20:53 ID:M9rjISXg
少年「三つ目の魔物かぁ…」
戦士「三つ目ねぇ…まさか邪眼持ちか?」
「いやいやいや…そんなんだったらもっと被害が拡大しているはずか」
僧侶「邪眼持ちとは?」
戦士「最悪の魔物だよ。邪眼、邪視とも言うが、とにかくひと睨みで敵をぶっ殺しちまうのさ」
「防ぐ手立てが殆ど無い。だが、邪眼は不浄を嫌うらしい。性器とか糞尿とか…」
戦士「そいつで気を引いて居る内に逃げるのが出来る戦法か」
少年「ま、まさか…その邪眼持ちが?」
戦士「んーやっぱ無いと思うぜ。死因はだいたい喰われてるって話だ」
「邪眼持ちは血肉を喰らうことはしない」
自殺行為だからな、と付け加えた
女盗賊「じゃあ、何のための三つ目なのよ」
戦士「それが分からん。魔物なんて千差万別だし、有名なものしか情報はないんだから」
女盗賊「ちぇーっ、いざという時役に立たんなー」
戦士「それについては面目ない。が、お前が言うな」
- 106 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 22:41:55 ID:M9rjISXg
既に真夜中を過ぎている
冒険者は散らばり、森に面している場所を各自見張っている
現れれば花火をあげて知らせる手はずになっていた
少年「フアァ〜……」
起き慣れていないのか、大きなあくびをする少年
女盗賊「お?なんだガキンチョ、おねむの時間か?」
少年「ム! 別に、全然平気です!」
女盗賊「おいおいおいおい、目がしょぼしょぼしてんじゃん。嘘言うなよ〜」
少年「本当です!眠くなんか無いですっ!」
女盗賊「ファファファファ!ガキンチョが一人前に怒った〜!」
少年「むぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」
戦士「二人共落ち着け。特に女盗賊!僧侶さんがお前を睨んでるぞ」
女盗賊「えっ」
表情からは何も読み取れなかったが、まっすぐ女盗賊を見ていた
女盗賊(こいつ、苦手だ…)
- 107 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 22:51:07 ID:M9rjISXg
ヒュゥッ……
……パァンッ!
遠くの方で花火が上がる音が聞こえた
ついに出たのだ
フザケていた空気が一瞬にして張り詰める
戦士「来たか」
僧侶「大丈夫でしょうか」
女盗賊「あっちのグループには贅沢にも魔術師がいたし、大丈夫でしょ」
ヒュッ……
……パァンッ!
もう一方を見回っている方からも花火が上がった
戦士「こりゃ、思ったよりも数が多いぜ……。真逆二方向からとは…」
女盗賊「いいえ、方向なんて関係ないわ……」
「全部よ…。山全部から魔物が来る…ッ!」
- 108 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:06:10 ID:M9rjISXg
最初に動いたのは少年だった
暗がりへ一発矢をお見舞いする
――ギャンッ!
命中したのか悲鳴が聴こえた
悲鳴に続くようにわらわらと、気持ちの悪いくらいの数が突撃してきた
そのどれもが三つ目で、赤く光っていた
戦士「こりゃやべぇ…クエストどころじゃない!」
「俺が前に出る!みんなは互いの背後を護れ!」
背中に背負った巨大な剣を解き放ち、大上段に構える
背後からでもわかる威風堂々たる姿、圧倒的威圧感を放っていた
暗がりから出てきたのは、赤い三つ目の虎だった
尻尾は二股に分かれ、顔が醜悪に歪んでいる
ディヤアァァッッ!!
気合とともに目の前の虎を一刀両断にした
続いて横薙ぎに剣を振り、もう一体を仕留める
- 109 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:13:45 ID:M9rjISXg
その剣勢に圧倒されたのか進軍は止まり、ジリジリと彼らを囲っていった
この場での最大の脅威と理解したのだ
開始早々の膠着状態
緊張がピリピリと肌を刺した
戦士(ここまではいい。だが次の手はどうする?)
(『生き延びなければならない』、『背後の村を守らねばならない』。この数相手に出来るか…?)
僧侶「戦士殿、私がこの場をかき回しましょう。少年殿と女盗賊殿を頼みましたぞ!」
戦士「なにィ!?あんた正…!」
ヒョイッ、と驚異的な跳躍力で只中へ飛び込んでいく
突然動き出した人間に、反射的に魔物は反応してしまった
魔物のほとんどが僧侶の動きに釘付けとなった
戦士「どぉっせいっ!!」
大剣を二振り。魔物に当たり、肉塊となって飛び散った
- 110 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:25:55 ID:M9rjISXg
女盗賊「くっそーッ!こいつらなにガンたれてんだよ!」
手にした短弓を鮮やかに操り、次々と射かけていく
少年も、それに遅れてはいるが、手早く矢を放っていく
戦士「頭だ!なるべく頭を狙え!下手に傷つければ手が付けられなくなってしまうぞ!」
女盗賊「わかっ……てるよ!!」
少年「は、はいッ!!」
戦士(だが、あの僧侶さんが撹乱しているから、まだ余裕がある…)
少年「うあああッ!」
避けきれなくて、左肩を爪でエグられてしまった
怪我を負ったことで、思わず足が止まる
そこをすかさず魔物が大口を開けて襲いかかった
女盗賊「ボヤッとしてんじゃないよッ!!」
魔物の口に矢を射掛け、閉じたところで下顎を突き刺した
- 111 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:30:10 ID:M9rjISXg
魔物の間を飛び回っていた僧侶は、少年の悲鳴を聞きつけ助けに行こうと思ったが、
今行けば更に危険に晒すと踏みとどまった
僧侶は敵を撹乱しながらも、必殺の拳脚を存分に振るっていた
体躯が大きいため、流石に頭部を打ち付けなければ一撃とは行かなかったが、
骨を折り、内臓を傷つけることには成功していた
僧侶(カニの時のように、強力な外殻を持っていなければ通じるか…)
少年と女盗賊は離れたところに移っていた
少年の傷が思ったよりも深く、出血が多かったからだ
今は戦士一人が剣戟の暴風と化し、二人から守っている
- 112 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:37:00 ID:M9rjISXg
女盗賊「おい、しっかりしろ!男だろ、泣くんじゃない!」
彼女なりに鼓舞しながら消毒と、気休め程度の軟膏を塗っていく
少年「……う、ぐっ…。な…泣いて、なんか…ないで、す」
女盗賊「…そうかい…それでこそ、男だよ」
傷に布を当て、その上から包帯を巻いていく
女盗賊(これで、一応手当は済んだけど…もう弓は持てそうにないね…)
(いくらあの二人が魔物よりも怪物じみてるって言ったって、限度がある…)
女盗賊(アイツらを生き残らせなきゃ、アタシも死んでしまう…それだけは避けなくちゃ…)
(……付け焼刃なんて………ええいっ!四の五の言ってられないだろ!この状況!)
女盗賊「あんた、意識はしっかりしてるね?……よし。右手は動く?……よし!」
「これからあんたに投擲術を教えてやる。生き残りたかったら、死ぬ気で覚えな!」
- 113 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:42:43 ID:M9rjISXg
女盗賊(ひと通り…いや、必要なところだけの口伝とコツは叩き込んだが…使い物になるか?)
(下手すれば、変に気を引いて二人ともどもムシャリ!なんてことに…)
女盗賊「構うか!一、ニの、三で投げるぞ、……一…ニの…」
―――三ッッ!!
――ドガッ!
投げたナイフは見事に一体の魔物に命中した
女盗賊「へぇぇー……才能あるじゃん」
少年「ハァ…ハァ…ど、どうも……」
女盗賊「酷なこと言うけどさっさと場所移すよ。オラ、ヘタってないで足動かせ!」
戦士(……自称するだけあって、確かに多芸だな。助かったぜ)
――ゥゴァァァッ!!
戦士「おおっと、そっちにゃ行かせねーぜ」
- 114 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:49:40 ID:M9rjISXg
魔物は思いの外のことに戸惑っていた
目の前にいるこの人間は、圧倒的暴力で近付くことも出来ないし、
後ろを飛び回っている変態は、追えば追いつけない、無視すれば強力な攻撃を受ける
そして新たに登場したのか、何処からともなく攻撃が飛んでくる事だった
八方塞がりに、徐々に恐慌に陥っていった
戦士(ん?勢いが落ちた?)
剣で感じる感覚が明らかに減っていることに気付いた
目を上げてみれば、逃げ腰になっているのが見えた
戦士「僧侶さん!今がチャンスです!逃げられないうちに一気に押し込みましょう!」
返事の代わりか、魔物が宙に吹っ飛んでいった
戦士「お見事!」
- 115 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:56:48 ID:M9rjISXg
尻込みしている魔物に剣を突き立てると、既に片付けたのか、他の冒険者達が加勢にやってきた
羽兜「どうやらあんたんとこが大当たりで、一番多かったみたいだな」
髭面「女とガキ連れて、よくここまで蹴散らしたなぁ。感心するぜ」
話しながら残った魔物を全滅させていく
戦士「そりゃどうも。……誰か治療術の心得持ってる奴居ないか?」
「仲間が怪我したんだ」
狩人「簡単な治療魔法なら。俺がやろう」
戦士「すまん、頼んだ。他のみんなは俺についてきてくれ!今から山狩りを行う!」
デブ「山狩り?もう魔物はやっつけただろ」
戦士「おかしいと思わないのか?いくらなんでも魔物が多すぎる。山で何かが起こっているんだ」
「ついでに残りの魔物を狩り尽くす。ここまで来たんだ、徹底しようぜ」
魔術師「賛成だ。これだけの規模、もうこの村だけの問題じゃあない」
「敵に被害を与え、手練が集まっている今が殲滅の好機だ」
傷顔「だがその間にこの村が襲われたらどうする?何人かは残るべきだ」
「けが人も居るんだろ?」
- 116 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:57:51 ID:M9rjISXg
全員合わせて十二名
一人は怪我、それを治療するために一人
村の防備に三人の、五人が残ることになった
戦士、僧侶、女盗賊、魔術師、髭面、羽兜、傷顔
の七名が山へ突入することになった
- 117 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 23:58:58 ID:M9rjISXg
今回はここまで
残りの半分は明日の18時以降に投下します
ここまで読んでくださってありがとうございます
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