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少年「……」 男「何だこいつ」
279 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/31(金) 23:45:21.70 ID:lk1a/rJ+0
――――――――――――――――

――――――――――――――

――――――――――――

男「んー……今晩は仕事の夜か」

少年「うん、街外れの橋の辺りかな」

男「うーん、いかにもな場所だな」

少年「だね、またコッテコッテのが来るのかなぁ」

男「どうだか。まぁ厄介事を起こす奴って大方そうだし」

少年「ね。……うん、準備できた」

男「よし。じゃ、行くか」


280 名前:さるさんと年越しそばってました。謹賀新年 [] 投稿日:2011/01/01(土) 00:16:20.65 ID:rjH6rTii0
男「やっぱ冷えるな」

少年「ま、夜中だしね」

男「だがしかし、このコートってのは良いもんだな。だいぶ違う」

少年「それはどうも……でもやっぱり洋服には替えないわけ」

男「だってアレ釦多すぎだろ、面倒だし窮屈だ」

少年「……まぁ、らしいのかな」

男「へへ」

男「でも、お前から貰ったのは有り難く使わせて貰うよ」

少年「…………」プイッ


281 名前: ◆B/w5IU75jTqz [] 投稿日:2011/01/01(土) 00:23:35.16 ID:rjH6rTii0
男「煙管煙管ー」

少年「コート焦がしたりしないでよ」

男「する訳ないだろー」

少年「どうだか」

男「信用無いのか……まだか?」

少年「んー……何かやけに遠く感じるね」

男「ま、そんな気分なだけか?」

少年「かもね」


282 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 00:30:09.80 ID:rjH6rTii0
男「…………」スパー

少年「……」

男「…………」

少年「……」

男「おい」

少年「?」

男「ぷはっ」

少年「けほっ……何するの!?」

男「はは、悪い悪い」

男「……なんだかいやに静かじゃないか?」

少年「うん……じっとりする感じ」

男「……来るか?」

少年「……多分」


283 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 00:36:21.12 ID:7rRC5g4VP
あけましておめでとう!
自分が勝手に描いたコートの下に着物着てる設定を活かしていただけた〜
もしかしたら最初から決まってたのかもしれないけど・・・なんにせよ嬉しい



284 名前:>>283使わせていただきました [] 投稿日:2011/01/01(土) 00:42:25.63 ID:rjH6rTii0
男「……ここで正しいはずだよな」

少年「うん……」

男「……暗いな、わざとらしいくらいに」

少年「見える?」

男「……良好では無いな」

少年「……視る?」

男「頼む」

少年「……わかった」


285 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 00:50:38.81 ID:rjH6rTii0
ふたりが歩いていた夜空は、月が輝いていた筈だった。
しかし今はどうだろう、月はすっかりどこかへいってしまった。全ての星たちも連れ去って。
曇り空だろうか? それにしては暗い。
男の言葉を使うなら、わざとらしいくらいに。

少年「…………」

少年が静かに目を閉じる。沈黙の中、小さく息を吸う音だけがした。

少年「…………っ」

小さな身体を少しこわばらせると――――

ぎょろり

少年の手の甲に、一つの目玉が現れた。それは、腕に足に大小異なり身体中に。
現れれば直ぐに、一つ一つが何もかも見落とすまいとぎょろぎょろと動き始める。


287 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 00:57:25.43 ID:rjH6rTii0
少年「……これで、いいよね?」

男「おう、悪いな……流石、俺の両眼」

少年「わかってる、でも冗談言ってる場合じゃないよ」

少年「月が出てない……解るよね?」

男「ああ、影が出せなくても俺が居る」

少年「それに、今日はこっちに集中しなくちゃいけないって気がする」

男「……だな」


288 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:01:57.37 ID:rjH6rTii0
少年「ここまでするってことは、そうとう雰囲気重視の奴か」

男「……本気の奴かってところだな」

少年「うん…………右斜め後ろ」

男「了解」

瞬時、少年が男に言った方から何かが男に襲い掛かる。
ソレは男の右肩を喰らわんとする。

男「…………」

が、次には上と下が分かれている事となった。


289 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:11:20.58 ID:rjH6rTii0
少年「左斜め後ろ」

少年「上」

少年「真後ろ」

少年「右、前、左斜め前、もう一度上」

少年が告げていく方向から、次々と先ほどと同族のモノが男に襲い掛かる。
襲い掛かっては崩れてゆく。

少年「真後ろ」

男は少年の言葉の通り、振り向きざまに襲い掛かるモノを薙いだ。

男「これで一区切り……かな?」

少年「正解」

男は指先で煙管をくるりと回し、煙管についた汚れを払った。
やれやれとこぼし、再び火をつけ煙を吸う。


290 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:16:55.46 ID:rjH6rTii0
少年「……」

男「たいした奴では無かったな」

少年「……」

男「俺を喰らう以外の意志も感じなかった、おそらく使いか何かだろう」

男「となると……?」

少年「……来るよ」

少年「正面から三十歩、二十、十……」

男「…………うむ」

煙管を咥える口が、ニィと釣りあがる。


292 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:24:31.14 ID:rjH6rTii0
またしても少年の告げた方向から正確に、先ほどのモノと同族の――それ以上のモノが向かい来る。
獣のような怪だ。深すぎるこの暗闇の中でもその牙と瞳は鈍く光る。

男「はっはぁ……お手とか、覚えんのかなコイツは」

一直線に向かってくるその怪を、男はひらりとかわす。
何も慌てている様子は無い。

男「どう思う? 覚えるかね」

少年「馬鹿なこと聞かないで」

少年を庇うように立ち、怪と対峙する。
かたや牙を剥き、目の前の男に唸り声をあげる。
かたや口元にへらりと笑いを浮かべ――ついに、くくっと笑い声をあげる。


293 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:37:04.30 ID:rjH6rTii0
獣怪「……グルァァァアアァアァァアアァオォォォォン!」

男の笑いを合図としたように、怪が咆哮。
鼓膜をつんくようなそれは、びりびりと大気を震わせる。
その中、風のように速く男に飛び掛る。

獣怪「グォォオオ!!」

鋭く巨大な爪が、男の喉元から胸を大きく振り下ろされる。
次の瞬間、男の鮮血が噴き出した―――――ように思われたが。

男「…………お手ーェ」

噴き出していたのは、怪の血。
獣の躯は宙に浮いている。

獣怪「……ゥゥ?」

男「ありゃ、物わかり悪いのかァ?」

男の左手、煙管を持っていない方の手は――――
――怪の背から突き出していた。


295 名前:>>294修正 [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:48:35.76 ID:rjH6rTii0
男「……って、これじゃお手もできねぇな、悪い」

男はいつものようにへらりと笑う。
ひょろりとした身体から伸びる腕、怪の血に塗れた腕を戯れ程度に揺らす。
その動きに合わせて、大型犬くらいの大きさはあろうか、怪の躯がゆらゆらと揺れる。

獣怪「グゥオ……」

なんとか男に一撃浴びせんと、怪が腕を動かす。
その腕は、一度、二度と虚しく宙を切った。

男「はは、お手のつもりかねェ?」

男「そろそろいいかな、腕が疲れた」

どさり。怪の躯は地に墜ちる。
怪は、喉からひゅうひゅうと木枯らしのような音を鳴らしている。
よいしょ、と男が足を振り下ろせば、ぐしゃりと鳴った。
もう木枯らしの音は聞こえない。

男「やれやれ」

少年「……こっちの台詞」


296 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2011/01/01(土) 01:50:45.51 ID:GyEJdcVC0
きゅんきゅんくるな


297 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:54:24.39 ID:rjH6rTii0
少年「……」

男「あー……っと、何か拭うものあるか?」

少年「……はい」

男「どうも。うへー腕が真っ赤だ」

男はへらへらと笑うと怪の血がべったりとついた腕を拭う。
もういいかなという頃に、いつ脱ぎ捨てたのか、少年から渡されたコートを着込む。
コートには血の一つもついていない。

男「さて…………?」

少年「……終わり、かな?」

少年の無数の目玉が閉じて身体にかえってゆく。
男は紫煙をぷかぁと吐いた。


298 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 01:59:45.66 ID:7rRC5g4VP
http://viploader.net/ippan/src/vlippan177076.jpg
やっとでけた〜、戦闘乙www


299 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:01:14.62 ID:rjH6rTii0
男「…………」

少年「…………」

男「…………」

少年「…………」

男「……妙だな」

少年「うん……聞いてた話と違う」

男「橋に出るのはなんだったっけ?」

少年「お兄さんから聞いた話からすると……袖引きとかの類じゃなかったかな」

男「俺というか、依頼主な」

少年「僕はお兄さんづてに聞いたからね」

男「まあな。……お前、袖引かれたか?」

少年「ううん」

男「俺もだ」

少年「…………」

男「…………」


300 名前:>>298 ありがとうございますおいしいです凄く嬉しいです [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:12:57.78 ID:rjH6rTii0
男「……月が出たな」

少年「……うん」

男「…………」

少年「…………」

少年「……ねぇ」

男「戻れ」

少年「!」


301 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:13:48.59 ID:rjH6rTii0
男「……お子様は先に帰るんだなィ」

少年「でも……」

男「早く帰らないとハーモニカ取り上げちゃいますよー?」

少年「でも、でもお兄さんが、」

男「もう一度言う、戻れ」

少年「……っ」

男「用は俺だけらしい」

少年「…………」

男「なーに、大人の会話さ」

男「年寄りの話なんざ、若者には退屈なだけだろう」

男「久々に一人で朝帰りさせてくれたって良いだろ?」

少年「…………」

少年「…………」コクリ

男「良い子だ」

踵を返し走り出す少年。
男は振り向かず、気をつけて帰れよ、とだけ呟いた。


302 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:17:20.54 ID:rjH6rTii0
男「……」

月が出て、あたりの様子がよく解るようになる。
月の光は男の吐き出す紫煙も照らす。

男は、ただ一点を見つめている。
月明かりが作り出したのか、元からそこに“ある”ような影を――――

男「……これはこれは」


303 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:25:24.17 ID:rjH6rTii0
男はゆったりとした笑みを浮かべる。
その笑みは、男が見つめていた先からやってくる者に向けられる。
のそり、のそり。

男「まさか……依頼主様自らやってきてくれるとは」

男「報酬を渡しに……ですよね?」

影からのそりと姿を現したのはこの一件の依頼主。
男と、もうこの場には居ないが少年をここへ来るよう命じた者だ。

依頼「いや〜ありがたい……お陰でもう悩まずに済みそうですわい」

男「それなら、よかったです」

男は変わらずゆったりと微笑みかける。
ぷかりと紫煙を浮かべ。


305 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:34:57.67 ID:rjH6rTii0
ぷかり。

男「ああ、すみません。今消します」

依頼「いえ、気にしませんので……」

男「いやいや、依頼主様の前でそんな……はい、消しました」

依頼「気にせずとも……。いやしかし、まさかこれほど早く片付けていただけるとは」

男「すぐやるのがうちの信条……というよりは俺の性分上、溜めるとやらんので」

依頼「ほっほ……皆、そんなものです……」

男「ありがとうございます」

依頼「いやね……貴方の働きを見ていたら、思わず居てもたっても居られなくなりましてね」

男「はは……それはどうも」


306 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:45:00.94 ID:rjH6rTii0
依頼「……昔と変わりません」

男「…………」

依頼「いえ、なんでもございません……では、さっそくお礼を……」

男「ひとつ、良いですか?」

依頼「……なんでしょう?」

男「こちらの記憶違いでなければ、この件の内容は……」

依頼「…………」

男「……ああもういいや、何のつもりだ?」

男が、再び煙管に火を点ける。


307 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 02:59:51.21 ID:rjH6rTii0
依頼「はて……?」

男「だいぶ前から何となく勘付いてた」

男「月が出てから確信した」

男「まさか、わざわざお呼び出しとはね」

依頼「…………くくっ」

男「で……もう一度」

男「何のつもりだ……鼬」

鼬「……きひっ」

男「……」


309 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 03:04:45.06 ID:rjH6rTii0
鼬「くはははは! 『何のつもりだ?』ときたかァ!」

鼬「挙句、ガキに『帰れ』とか!? 笑えるぜははァ!!」

男「…………」

鼬「まさか聞いた通りとは……ひひっ、あんま笑わせんなよォ、……“隕鉄”ゥ」

男「……その名は捨てた」

鼬「ひひっ、らしいな」


310 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 03:12:40.65 ID:rjH6rTii0
鼬「お前と居た……何世紀前だっけ? まぁいいや、俺よォ、けっこう気に入ってたんだ」

男「……」

鼬「人間もなにも潰しまくってよォ……で、ついたあだ名が隕鉄ってねェ」

鼬「紅衣の鼬と緋衣の隕鉄……きひっ、あんまり良いセンスじゃ無ェが俺は気に入ってんだぜェ?」

鼬「それが今は何だィ、ガキなんて連れてよう……」

男「…………」

鼬「家族気取りってかァ?」


312 名前:再起動してました [] 投稿日:2011/01/01(土) 03:37:55.95 ID:jye3OV+w0
鼬「全くよォ、俺は情けないぜェ……」

鼬「昔が懐かしい、なんて年寄りの常套句で嫌だけどなァ」

男「……俺にそんな文句をつけるだけに呼び出したのか?」

鼬「ひひっ……悪ィ悪ィ、旧友との出会いに感動しちまってよ」

男「…………ちっ」


313 名前: ◆B/w5IU75jTqz [] 投稿日:2011/01/01(土) 03:44:30.38 ID:jye3OV+w0
鼬「何、早い話さ」

鼬「もう一度俺と組まねェかって話」

男「…………」

鼬「最近は何でもかんでも変わりすぎて……その割りに、退屈すぎてかなわねェ」

鼬「何だかんだ、外とおっぱじめる動きがあるみてぇだが……人間共の話だ、俺たちが暴れられないんなら意味が無ェ」

鼬「で、だ。俺とお前でまた世の中を引っ掻き回さねぇかって所だ」

男「……っは、くだらねぇ」

男「お前も随分年取ったみてぇじゃねぇか」

鼬「…………きひっ」


314 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/01/01(土) 03:49:12.92 ID:jye3OV+w0
男「……何がおかしい?」

鼬「いーやァ? ただ、よく言ったもんだ、とね」

鼬「さっきのお前のやり方……『飢えてます』ってモロに言ってるように見えたけどォ?」

男「っ……!」

鼬「図星かァ?」

男「何を……」

鼬「嘘をつくと親指で顎を軽く撫でる」

男「!」

鼬「ひひ、変わんねぇなァ……『潰したい』欲求もなァ」



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