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少女『言葉が通じなくても』
171 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/09(金) 23:18:20.61 ID:SmT146AO
―ある学者は言った

「太陽の石が何故光るのかより、何故それ以外の石が光らないのか調べた方が早いのではないか?」

研究者達は呆れ、或いはせせら笑った

自分達が魔術師達の笑い話になっているとも知らずに―




少女『え―!?』

見張り番『ひ、光が!?』


留置場を出るとそこは闇だった

まだ日の入りには早い時間にも関わらず、太陽は忽然と姿を消した


172 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/09(金) 23:35:27.45 ID:SmT146AO
少女『い、一体どういうこと…』

突然の事に思わず後退る少女

本能からか、光を求めて留置場に戻ろうとするが

少女『あ、あれ!? 扉はどこ!?』

すぐ背後にあった筈の扉を開けようとするが、伸ばした手が空を切る

少女『あ!?』

気付けば隣にいる筈の見張り番の気配もない

少女は一瞬で孤独になってしまった


173 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 19:13:29.39 ID:iCQdZ.AO
少女『はぁ…はぁ…』

嫌な汗が吹き出る

呼吸を整え、気持ちを落ち着かせていないとおかしくなりそうだった

これは暗いなんて次元の話ではない

全くの闇なのである

人は光がなければものの数分で前後左右を見失い、自分以外の物を求めて終いには地面に這い蹲る

それが普通なのである



少女『フーッ…フーッ』ザッ

少女は歩き始めた

その大きく見開いた瞳は闇の輪郭を見ようとしていた


174 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 19:23:38.49 ID:iCQdZ.AO
グニッ

少女『…ッ』

時折、地面以外の何かを踏む感触がする

ギュッ

少女『…くッ』

稀に、その何かが「足を掴む」事がある


しかしそれが何か確かめる術はない

自分さえ見えないこの空間で、何を頼りにできようか

少女の頭に「闇雲」という言葉が過ぎった


175 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 19:32:28.05 ID:iCQdZ.AO
何かにぶつかり、何かに足をとられながら少女は歩いた

どこを目指し、何を成すべきかさえわからない状況で我武者羅に動いた

あれからどれだけの時間が過ぎたのか…

今が昼なのか夜なのかも最早分からなくなった頃


カッッ

少女『う…ッ!』


眩い光が一筋、中空から伸びていた

少女は、僅かに見える希望に向かって走り出した


176 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 22:54:31.32 ID:iCQdZ.AO
近づいてみるとどうやら建物の二階の窓から漏れているようだった

少女『…んく』ギィィ

意を決して扉を開ける

少女『あ…』

扉の内側には燭台の明かりに照らされた空間が一瞬見えた

が、扉から侵入した闇にあっという間に飲まれてしまう

少女『ま、待って!!』

元の世界を求め思わず駆け出す、と

バタンッ

少女『はっ!?』

扉が閉まると、また灯りが徐々に浸透してくる

少女は、自分が知っている「光」は、ほんの一面に過ぎない事を知った

それに、落ち着いているつもりだったが、光ある空間に戻れて涙が止まらない程安心している自分がいることも


177 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 23:13:13.26 ID:iCQdZ.AO
一度萎えた心が再び奮い立つのには暫く時間がかかった

この建物の中は水の様に流れ込む闇は無い
そう自分に言い聞かせ、少女は再び立ち上がる

燭台を片手に赤絨毯の敷かれた階段を上がった




ガチャッ



カツーン

カツーン

痩せた男「また会ったな」

侍「!」


178 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 23:20:32.25 ID:iCQdZ.AO
痩せた男「やっぱり、蛇島の人間か」

侍「蛇島…?」

痩せた男「八つ首の蛇を信仰し、草で出来た床の家に住み、鯨を喰らう民族だろ」

侍「情報に偏りがあるが…概ねそうだ」

痩せた男「出してやる、ついて来い」

侍「待て、何故お主が私と同じ言葉を喋る?」

痩せた男「ん? 気になるか?」

侍「ああ」

侍(先の偏見模様で同郷で無い事はわかったがな)


179 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/10(土) 23:41:17.30 ID:iCQdZ.AO
痩せた男「これは魔術だ。どの国のどの言語でも関係なく会話が出来る」

侍(やはり島は関係ないか…)

痩せた男「俺は仕事柄世界を飛び回るんでね、この魔術は必須なのさ」

侍「世界を飛び回るのか、よく今まで無事だったな」

痩せた男「ああ、難破の心配は皆無だ。俺は転移魔術が使えるからな、大陸間移動も一瞬だ」

侍「! 島にも…なのか?」

痩せた男「ああ、もちろん」


180 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/11(日) 15:01:33.90 ID:nEzGIwAO
痩せた男「俺に協力すればお前を故郷に戻してやるぞ」

侍「…」


侍「私の故郷には桜という花が咲く。それを一輪持ってきてくれれば信用しよう」

痩せた男「サクラだな、簡単な事だ」


痩せた男『――、――、―――』

ビュウンッ


侍「…」


181 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/11(日) 15:10:11.25 ID:nEzGIwAO
キィ…

少女が扉を僅かに開くと力強い光が漏れてきた

それまで頼りなく照らされていた館の中がぼんやり明るくなったような気がした

少女『あれは…!』

光源はやはり太陽の石

それは初めて見た時と変わらず、木製の台座に敷かれたクッションの上に鎮座し、爛々と光っていた

少女が太陽の石に近付こうと足を踏み出す、と

『誰だ!』

少女『!』


182 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 19:18:34.01 ID:nEzGIwAO
声の主は村長だった

だが、その目は血走り、人の理性を感じさせない荒々しいものだった

村長『これは渡さん…闇を……』

ゆらゆらと近付いてくる村長

捕まれば少女はひとたまりもないだろう

少女『どうすれば…』ジリッ

一歩、また一歩と追い詰められ、扉に背を合わせる

村長『観念せい!』バッ


183 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 19:39:26.55 ID:nEzGIwAO
少女『くッ!』ダッ

少女は掴み掛かられる瞬間、村長の懐を潜り抜け、さらに

少女『やあッ!』グイッ

村長『うおッ!?』ズッ

ドスンッ

少女の引っ張った絨毯に足を取られ、村長は勢いよく転んでしまう

村長『こ、腰がぁぁ…』

少女『ごめんなさい…』

痛みにもがく村長を余所に、少女は太陽の石を手に取った


184 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 19:43:24.99 ID:nEzGIwAO


カツーン

カツーン

痩せた男「お待たせ」

侍「転移出来るのに何故目の前に飛ばない?」

痩せた男「大まかな場所にしか飛べないんだよ、結構難しくて」

侍「左様か」

痩せた男「それより、ほら」

痩せた男は侍に一輪の花を差し出す

桃色が艶やかな桜の花である

侍「…」


185 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 19:56:31.99 ID:nEzGIwAO
侍「そうか…もう島は無いのだな…」

痩せた男「!?」

侍「これは大陸に自生している種類の桜だな、私の国の桜はもっと白が強い」

痩せた男「た、大陸渡来の桜が蛇島では流行していてな」

侍「大陸種は島の土に合わない。葉は散り、幹は割れ、花は咲かない」

痩せた男「ぐぐ…ッ」

侍「これで決心がついた。礼を言おう」

痩せた男「何が礼だ! 人をおちょくりやがって!」

侍「私を騙そうとした者に言われたくないな」


186 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 20:04:35.07 ID:nEzGIwAO
痩せた男「こうなれば力づくで連れて行くぞ」

侍「何故私に固執する」

痩せた男「蛇島の戦闘民族『サムライ』は白兵戦最強と聞く。なんとしても手に入れたい」

侍「戦闘民族…か」

痩せた男「大人しく従えば良し、でなければ少々痛い目にあうぞ」

侍「断る。お主が手を出すというのなら、私も自己防衛させてもらう」

痩せた男「剣を持たぬ『サムライ』など恐るるに足らん。しかも檻の中なら尚更…」
ボゴッ

痩せた男「…えっ」


187 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 20:13:01.40 ID:nEzGIwAO
侍「長閑な村故仕方ない事かもしれぬが、牢の造りが雑だな」

カラーンッ

鉄格子を石畳からもぎ取り、侍は男の前に「出てきた」

侍「さて、何の話だったかな?」

痩せた男「で、出鱈目だ…!」

侍「白兵戦最強故、許せ」

痩せた男「このッ」バッ

ベキャッ

男の翳した手の先、石の壁や鉄格子が粘土の様にへこみひしゃげた

侍「大した威力だが、その魔術とやらは遅すぎるな」ザッ


188 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 20:19:45.00 ID:nEzGIwAO
痩せた男「…ッ」

男は恐怖した

声は後ろから聞こえるのだが、気配が全くしない

今までに殺し合いをした相手は殺意を剥き出しにしている殺し屋か、或いは息を殺し心音を抑えた暗殺者だ

しかし、この男は「居ない」のだ

雲の様に掴めず、霧の様に消える

侍「どうされた? さっさと撃たれよ」

痩せた男「…見逃してくれ」

侍「これはおかしな…さっきまでの意気込みはいかがした」


189 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 23:23:22.29 ID:nEzGIwAO


少女『はっ…はっ…!』タタタッ

ヒカリダ…

少女『ンくっ…はっ…はっ…!』タタタッ

ヒカリヲクレ…!


少女は走った

漆黒の闇の中を

太陽の石に照らされた視界を頼りに

闇から現れるモノを避け、広場を目指した


『ヒカリヲ!!』バッ

少女『きゃあ!?』


190 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 23:37:13.41 ID:nEzGIwAO
少女『は、離してッ』グイッ

宿屋の女将『クライ…クライヨォォ…!』

少女『女将さん…!?』

光に照らし出された女将の顔は恐怖に歪み、優しい笑顔の面影は無かった

少女では抗い難い力でしがみつき、太陽の石を奪わんと迫ってくる

少女『くッ…えい!』バッ

ゴッ コロコロ…

宿屋の女将『ヒ…ヒカリガ!』ザッ

投げ捨てた太陽の石に向かって走り出す女将

少女『ごめんなさい!』バッ

宿屋の女将『ギャッ!?』バタッ

少女は女将に足払いを仕掛け、太陽の石を拾い走り去った


191 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 23:44:18.07 ID:nEzGIwAO


痩せた男「思い上がっていた…まさかこれほどとは…」

侍「…何故あの光る石を盗んだ」

痩せた男「太陽の石は…我らの世界が太陽の恩恵を受ける為の鍵。自然が生み出しし奇跡の一つ」

痩せた男「太陽の恩恵を得るには、この村のあの台座の上に石を置かねばならない」

侍「置かねばどうなる?」

痩せた男「世界は闇に飲まれる」

侍「何…?」


192 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 23:49:38.47 ID:nEzGIwAO
痩せた男「闇とは光の対ではない…影とは別の物だ」

痩せた男「空気の様に漂い、水の様に流れる。そして光を避ける」

侍「して、何故石を盗んだ」

痩せた男「至極簡単な話だ…私が、闇魔術師だからだ!!」


ドォォォンッッ


侍「ぐッ」


193 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/11(日) 23:58:43.65 ID:nEzGIwAO
男の周りが淡く光ったと思うと、留置場が吹き飛んだ

途端、侍は闇に包まれ五感は用を成さなくなった

侍(これは…まさか!?)

「そうだよ…もう太陽の石は俺の手中なんだよ」

「お前が捕まったお陰で、石を誰にも怪しまれず持ち出す事ができた」

「さて…闇に紛れてお前をなぶり[ピーーー]としよう。俺を恐怖させた罰だ」

侍(…)


194 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/12(月) 00:33:15.11 ID:YNgRUQAO
ヒュッ  ザッ

「ヒューッ! よく避けれるね、人間技じゃないな」

侍「…」

「それが『心眼』って奴かい? 蛇島は滅んで正解だったな!」

侍「!」

チッ

「お、当たった。心が乱れたかな?」


ザッ

侍「穿つ事―」ツー


「ん?」

メゴッッ

「あごぁ!?」ズザーッ


侍「―羆の如し」ザッ


196 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/12(月) 00:40:18.16 ID:Ujr7NK6o
お兄ちゃんかっこええね


197 名前:GEPPERがお送りします [sage sage] 投稿日:2010/07/12(月) 00:43:27.62 ID:YNgRUQAO
『――!? ――…!』

異国語で呻く男の声がくぐもり響く

侍「しまった、倒しきれなんだ」

「ゆ…許さん!今すぐ[ピーーー]![ピーーー]! [ピーーー]ッッッ!」

『――!! ―――――…』

侍「…ッ」

至近距離なら気配を察知出来たが、どうやら男は遠方から魔術で攻撃する気らしい

侍「一か八か…避けれるか」


199 名前:GEPPERがお送りします [saga saga] 投稿日:2010/07/12(月) 00:49:49.72 ID:YNgRUQAO
「フフ… じゃあな、最後のサムライさんよッ!」

侍「くっ」ザッ

『――…』



カッ―



侍「う…ッ!?」


痩せた男「ま…眩しいッッ!?」



パァァァァッ


少女『光を…!』


200 名前:GEPPERがお送りします [saga saga] 投稿日:2010/07/12(月) 01:00:04.78 ID:YNgRUQAO
少女が太陽の石を台座に返還すると、闇の潮は引き、陽光が降り注いだ

闇に憑かれた人々の嘆きの声も次第に消え、村の長い夜は去った

再び、日は登ったのだ


痩せた男「な、何故光が…!?」

侍「人々の心には…強大な闇ですら覆いきれぬ強い光がある」

バキッ

痩せた男「がはッ」ドサッ


侍「…闇も又然り」


201 名前:GEPPERがお送りします [saga saga] 投稿日:2010/07/12(月) 01:10:48.67 ID:YNgRUQAO
世界が闇に包まれた日

学者の間では大騒ぎになっていたが、魔術に携わる者は、何が起きたのか直ぐに察しがついたという


人々が架空の神を崇拝する前、更に言葉という物が生まれる前…

人は太陽の下に生きていた

太陽の石は、人々の拠り所、絆そのものであった


しかし、人が言葉を生み法が敷かれると、権利者は太陽の石を疎ましく思った


202 名前:GEPPERがお送りします [saga saga] 投稿日:2010/07/12(月) 01:22:14.11 ID:YNgRUQAO
人々の抵抗を押し切り、太陽の石を台座から取り上げると、世界は闇に飲まれた

人々は恐怖し、権利者は狂った

ようやく「勇気ある者」が台座に石を戻すと、再び世界に光が溢れた

「太陽の石は世界の法則の一つである」

と、時の王は言ったが、世代を経る事にその重要性は薄れるもの

二度の災厄を経験し、人々が今後どうするのか…太陽は見守っている




203 名前:GEPPERがお送りします [saga saga] 投稿日:2010/07/12(月) 01:32:03.97 ID:YNgRUQAO
少女『どうかな? 女将さんが知り合いの人から貰ってきてくれたの』

少女『似合うかな?』

侍『――』ナデナデ

少女『えへへ…ありがと』


カチャカチャ


少女『え…何?』

侍『―…』

少女『あ…これ、私に?』

少女『…嬉しい! ありがとう!』ギュッ



金色の髪に銀の簪

不慣れながらも少女にと、手に傷を作りながらこしらえた侍の贈り物

淡い白の桜が輝いていた


204 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/12(月) 03:09:53.48 ID:8xw0Z1Ao
今回もよかった


205 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/12(月) 06:27:49.20 ID:Tn2wNC60
乙!
おもしろいなぁ


206 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/12(月) 14:31:47.77 ID:3JHifeEo
sage saga なら文字も規制されないしsageながら投下出来るぞ
まぁ、このスレはage進行でもいいと思うけど、一応


207 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/07/12(月) 15:26:37.40 ID:FMY4fcAO
初めて来たよ
詩的で良いね



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