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少女「海と、瓶に詰まった手紙」
- 96 名前:VIPがお送りします []
投稿日:2011/02/04(金) 16:38:37.38 ID:gg+EtQm+O
女「ねえ、どこで封筒買うの?」
僕「ん。デパート……かな?」
女「そういう場所よりは、若い子向けの雑貨屋さんの方が可愛いお手紙セットあると思うよ?」
僕「男の僕が可愛い物買ってもな……」
女「シンプルなやつもきっとあるよっ! ねえ、そこにしようよ、ね?」
僕「……もしかして女が寄りたいだけ?」
女「あははっ、ほんの少しだけねっ。でもオススメする気持ちは本当だよ?」
僕「じゃあ……そこにしようか」
女「うんっ! お店はね、向こうの通りだよ」
- 97 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 16:48:47.22 ID:gg+EtQm+O
ファンシーショップ。
僕「なんか……眩しいよこの店」
女「あははっ、慣れてないとそうかもね」
僕「こりゃあ、本当に女の子向けなんだな」
女「そういうわけでもないよ。男の人だってよくいるよ、売ってるのはアクセサリーばっかじゃなくて……ほら」
僕「香水に……ジッポライターか」
女「値段もそんな高くないからさ。背伸びしたい学生さんとか、色んな人が、ね」
僕「さすが、地元だけあって詳しいね」
女「あははっ、この辺は帰り道だったから。大抵のお店の事はわかるよ」
女「じゃあ、買い物終わったら声かけてね。私向こうのコーナーにいるから」
僕(ぬいぐるみの方……か)
僕(意外と乙女チックなんだ)
- 98 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:03:53.21 ID:gg+EtQm+O
僕「と、僕も目当ての物を探さないと」
僕「えっと……紙袋、包装用紙……お、この辺かな」
僕「あ、あったあった」
僕「本当だ。いくつも種類があって……」
僕「無地の封筒じゃあさすがに素っ気なさすぎたもんな」
僕「どれにしようか……って、あれ?」
棚を物色していると、ある封筒が僕の目に止まった。
そのお店には六種類のレターセットが置いてあったんだが……その内の二つは、どこかで見た事があるような封筒だった。
僕はその二つを手にとってみた。
紫色をした封筒、これは単色のシンプルなレターセットなんだろう。
そして隣には、ラメが貼られたキラキラの封筒が、それぞれ僕の目に入った。
僕「これは……鈴の封筒?」
- 100 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:11:14.37 ID:gg+EtQm+O
何度見直してみても、それは確かに鈴がくれた封筒と同じだった。
僕は奇妙な感覚に追われた。
女「やっ、決まった?」
僕「ん……ああ」
女「あらかた見終わったから来ちゃったよ。ん、その二種類にするのっ?」
僕「いや……えっと、こっち」
僕はその二つのレターセットを戻し、一番右下の四つ葉のクローバーがデザインされたセットを買う事にした。
女「あ、いいじゃん。可愛らしいけど女の子過ぎない感じがするよ」
僕「……ん。買ってくるよ」
僕は少し動揺しながらもレジに向かった。
- 101 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:17:46.77 ID:gg+EtQm+O
僕(480円、か……)
お店を出てからも、僕はあの封筒の事がずっと気になっていた。
女「えっ、あのお店? うん、確か全国チェーンのはずだから……色んな場所にあるはずだよ」
女に尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
なるほど、他のお店もあるのか。
女「並んでいる商品? 全く同じって事はないと思うけど〜……ある程度は統一されてるんじゃないかな」
女「どうしたの、急に?」
僕「いや、実はさ……」
僕は歩きながら、二つの封筒について話をした。
彼女はとても真剣な眼差しで、僕の話を聞いてくれいたんだ。
- 102 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:23:28.80 ID:gg+EtQm+O
女「そっか、すごい偶然だねっ!」
偶然……話を聞き終わって、彼女はそういう結論を出した。
僕「偶然、なのかな」
女「だって……ねえ。あの封筒だってよくある商品て事だし、それでお手紙書いてても不思議じゃないよ?」
女「それに、話聞いてると年齢も遠くはないみたいだしさ。ああいうお店に行く可能性は高いと思うよっ!」
女「それがたまたま、形になって出ちゃっただけだよ〜」
僕「……」
僕「そう、だよね」
- 103 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:27:57.97 ID:gg+EtQm+O
女「そうだよ。気になったならまた聞いてみればいいじゃん。書く内容も増えて、一石二鳥だよ」
僕「そうだな〜、考え過ぎても仕方ないしね」
女「……」
僕「んっ、どうしたの。急に黙っちゃって」
女「ううん、なんかさっ」
女「本当に僕ちゃん変わってきたなあって」
僕「?」
女「前は、石みたいにカチカチな頭してたのにさ。今は……物腰が柔らかくなった気がする」
僕「そう……かな」
女「見ててわかるもん。他人に言われるくらいなら、それだけ変わってるんだよ」
女「手紙の彼女の……お陰、なのかなっ……?」
- 105 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:34:47.59 ID:gg+EtQm+O
もう、空は暗い。
女の表情は見えないけれど……元気で無いのはわかる。
沈黙の中で、僕は一人考えていた。
僕(前はこんな風になっても、気にしなかったな……)
気まずくなったら逃げ出して、あの浜辺に逃げて。
そんな負の感情が消えてきたのは、本当に鈴のお陰なのかもしれない。
女「……」
僕(でもそれで……)
僕(なんで女が落ち込んでいるんだろう)
今の僕には、わからない。
また手紙を書いて、次に鈴から返事が来た時に……僕の気持ちはまた少し変わっているんだろう。
鈴なら、そんな事を僕に言ってくれる。
- 106 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:44:50.08 ID:gg+EtQm+O
女「あ、私ここだから」
僕「う、うん。じゃあ……」
女「風邪、ひかないでね。もう立春過ぎたけど……冷えるからね」
女「学校ちゃんと来るんだよ、バイバイっ」
そのまま、彼女は後ろも向かずに去ってしまう。
僕「なんだよ……不機嫌丸わかりで」
僕「今まであんな顔、しなかったのに」
僕「今まで……」
鈴と手紙を交換してから、僕の気持ちの中がどんどん変わっていった。
見えなかった女の表情や、感情の起伏。
無難にやり過ごして生きていた日常とは……間違いなく違う。
- 107 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:51:07.48 ID:gg+EtQm+O
僕は今日の手紙に、そんな変化の日々の事を書いた。
友達の女の事、喧嘩をした事。
今まで自分に、逃げ癖があった事。
色んな気持ちが僕の中にあるという事。
僕だって何かを考えて……生きているんだという事。
僕(ほとんど愚痴と弱音ばっかだな)
手紙は二日かけて、四枚という大作に仕上がった。
- 108 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 17:58:32.78 ID:gg+EtQm+O
海にそれを流して、鈴から返事が来るまでに……女にちゃんと謝っておこう。
手紙に気持ちを書いて……こうやって素直になる。
気持ちを書くのに夢中で、封筒の事を聞くのを忘れてしまったけれど。
僕(まあいいや。時間はまだあるんだから)
僕(返事が来たら、ゆっくりと手紙を書いて海に流して)
僕(今までに来た手紙を読み直しながら、数日過ごせば……僕はまた鈴に会えるんだから)
僕(だから素直で穏やかな気持ちで、いられる)
僕(女にもこうやって……謝る事が出来るんだ)
次の日、僕と彼女は仲直りをした。
- 110 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:09:00.61 ID:gg+EtQm+O
女「はい僕ちゃん。いつものノートだよっ」
僕「ああ、悪いねありがとう」
女「いいっていいって〜。私たちの仲じゃないかっ」
僕たちはあれから、何度も喧嘩と仲直りを繰り返した。
その度、いやな気分になったものの……もう一度仲良くなってしまえば、それはもう気にならないくらいでいて。
女「でもお礼に〜、チョコパフェ食べたいな〜?」
僕「ああ、わかってるよ。いつもの時間でいいか?」
女「うん、いいよっ! じゃあ……」
僕「また後でな」
- 111 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:12:31.47 ID:gg+EtQm+O
心地よい、落ち着いた日常が続いていた。
予備校で友人と会い、数日に一回は何でも話せる……鈴と手紙のやりとりをして。
嫌な事があっても、鈴に話せば何でも大丈夫だった。
鈴もまた、心の中の溜まった感情を僕に吐き出してくれていて。
お互いの事はほとんど知らないけれども、気持ちの中を誰よりも知り合っていて……僕はいつしか、鈴に憧れの気持ちを抱くようになった。
- 112 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:17:01.74 ID:gg+EtQm+O
僕(好きとは、多分違うんだと思う)
僕(でも、鈴の字を見るだけで……僕はとても安心してしまう)
僕(ああ、早く次の返事が来ないかな)
淡い気持ちを抱きながら、僕はずっとこんな日々が続いていくんだと思っていた。
でもそれは、もう二月も終わろうとしていた辺りに、突然崩れ出した。
「実家で父親が倒れて……」
いきなりの電話に、僕はただ固まるしかなかった。
- 113 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:22:07.64 ID:gg+EtQm+O
女「……そっか、お父さんがね」
パフェを食べる手を止め、彼女は僕を心配し出してくれた。
僕「過労だって。症状は重くないみたいだけど、回復が遅くて……心配なんだ」
女「……帰らないで大丈夫なの?」
僕「……」
僕「うん、帰ろうかなって考えてるんだ。今日はそれを、女に相談したくて」
- 114 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:28:53.76 ID:gg+EtQm+O
そうなんだ、と小さく言った後、何かを思いきったかのように顔を上げて僕を見てきた。
女「帰ろうって思ってるなら、その方がいいよ。お別れは寂しいけど……家庭の事情じゃ仕方ないもんねっ」
僕「女……」
女「あ、ねえ。まだこっちにいるよね? 送別会しようよ。そのままバイバイは寂しいよね? ね?」
僕「……」
女との距離が縮まり、僕には。
いつしか彼女が考えている事がある程度わかるようになってしまった。
だからこうして、無理をしながら僕に話しかけてくれる姿を見て……僕は胸が痛んだ。
僕(ああ、こういう感情が嫌で……)
僕(僕は誰かと仲良くなるのを、否定し続けたのかもしれない)
- 115 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:33:30.19 ID:gg+EtQm+O
ファミレスの帰り道、いつもの道。
僕たちは何も喋らずに……終始無言でお別れの場所まで来ていた。
じゃあ、また。
うん。
短い言葉を交わして僕たちは別れた。
何かを言いたそうな彼女の……切ない表情を見ているのが、正直辛かった。
僕は、それを見ていたくなかった。
逃げ出した。
逃げるように僕は家に帰ってきた。
- 116 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:38:26.91 ID:gg+EtQm+O
部屋に戻ると、その瞬間。
優しい甘い匂いが僕を出迎えてくれる。
鈴からの手紙の匂い……。
僕(手紙、次はいつ来るのかな)
僕が海に流したのは昨日の事だ。
早ければ明日、遅ければ……最悪明後日くらいか。
僕(その間に、帰る準備も始めないとな……)
今から考えると、帰る日にちはちょうど二週間後くらいになるだろうか。
僕(鈴とは、あと何回手紙を……)
頭でそんな事を考えながら、僕はまた香りの中で眠っていった。
- 117 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:45:05.40 ID:gg+EtQm+O
おはよう、お手紙読んだよ。
お父さん……倒れちゃったんだね。
私には元気になってくれるように祈るしか出来ないけど……ごめんね。
帰るか悩んでるってあったけど、やっぱり親御さんは息子に帰って来て欲しいと思うよ。
(私は帰って欲しくない、けど。ワガママ言わないよ!)
……なんてね。
でも大丈夫だよ、帰ってからも私と文通は出来るもの。
海があれば、私とあなたは繋がっていられるから……。
あははっ、ちょっと自分でしんみりしちゃった。
とにかく、何か決まったら詳細教えてね。心配もしちゃうからさ?
- 118 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:50:32.47 ID:gg+EtQm+O
薔薇のコーデがされた封筒に、彼女の手紙が五枚入っていた。
一枚目は帰省についての真面目な話。
二枚目以降はいつもの雑談と……良い意味で変わらない鈴の姿があった。
僕(帰る事、伝えないとな)
僕(えっと、あと二週間ないから……送って返して送って)
僕(お互いあと二通が限界、かな)
僕(そのやりとりが終わったら、もう鈴には……)
僕「だって、僕の街には海が無いんだもの」
- 119 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 18:58:49.87 ID:gg+EtQm+O
地元に帰る、もう手紙のやりとりが出来なくなる。
海が無いので、近く事も出来なくなる。
僕(今回はお別れの事ばっかりだな……)
鈴が書いてくれた、雑談の内容に対する返事はほとんど書けてなかった気がする。
僕(もう話しても……)
僕(そうだよ、な)
内容を簡潔にまとめた二枚の手紙を、僕は封筒に入れて瓶に詰めた。
封筒の色が褪せているようで、なんだか野暮ったく見えたのを今でも覚えている。
部屋の片付けをしながら、僕は彼女から遠ざかる準備を始めていたんだと思う。
- 120 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:00:29.47 ID:dy4OafvS0
女=鈴だと予想
- 121 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:05:12.05 ID:gg+EtQm+O
女「じゃあ、僕ちゃんを送り出すために……乾杯」
瓶を海に投げてから三日後。
僕は予備校のメンバーと一緒に駅前の居酒屋にいた。
女が人を集めて、送別会を開いてくれたのだ。
女「忙しくなるより、早い方がいいでしょ」
僕「そりゃあ、ね」
女「はい。じゃあ今日くらいは飲んで忘れようよ。ね!」
何を忘れる、と聞こうとしたけども。
お酒の席でそれは野暮なんだろう。
僕はグラスに入ったビールをグイッと飲み干し、騒がしい雰囲気に酔っていった。
- 122 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:13:21.05 ID:gg+EtQm+O
友人たちと語らい、騒ぐ。
こういう飲み会は正直バカにしていたけれど……いざ自分がやってみると気持ちがいいもんだ。
酔いも手伝い、僕たちはそのまま二次会へ。
既に何人かは足取りもフラついていて……それは幹事の女もそうだった。
女「じゃあ、次はカラオケ〜っ!」
僕「女、大丈夫? ちょっとフラフラしてるよ」
女「平気だよ〜っ。私酔っぱらってなんかないよ〜っ」
僕「はぁ……ほらしっかりして。行くよ」
グッと手首を掴んで、一緒に歩こうとした。
女「あっ、ま、待った〜。甘いもの食べたい〜っ」
僕「……こんな時に何を言うんだよ」
女「クレープ、クレープ食べる〜」
- 123 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:18:01.90 ID:gg+EtQm+O
僕「はいはい。カラオケで注文しような」
そのまま引っ張る手に力を入れるが、逆に彼女が僕の手を握ってきた。
女「買ってく〜。お店あるんだよ、まだやってるんだよ〜」
僕「え、そうなの?」
女「うん。お持ち帰り出来るし、安くて大きいんだよっ!」
ほら、と彼女が指差した先に、小さな出窓があるのが見えた。
何かフラッグが立っていて、お店ではあるようだけど……。
女「あれが、クレープ屋さんっ」
- 124 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:22:16.47 ID:gg+EtQm+O
近くまで行ってみると……本当だ、クレープ屋って書いてある。
女「おばさ〜ん。イチゴバナナ生クリームアーモンドチョコでっ」
僕「お、おい。大丈夫かよそんなに贅沢して」
女「これで550円だから大丈夫だよ。居酒屋であまり甘いもの無かったし……エネルギー切れだよ」
女「あ、僕ちゃんも何か食べる?」
僕「他の人たち待たせまくりじゃないか?」
女「いいんだよ〜。カラオケの場所はわかってるし、主役は僕ちゃんなんだからさ」
- 125 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:28:08.29 ID:gg+EtQm+O
僕「なんだよその理屈。女ってそんなに、ワガママだったっけ?」
僕は思わず、店先で笑いだしてしまった。
酔いながら笑う、いい気分だった。
女「あはは〜、僕ちゃんに影響されたんだよ。あ、来た来た〜」
僕「デカっ。でもそれでその値段は……お得だな」
女「でしょ。学生さんにも人気あって、昼間は行列なんだよ」
僕「ふ〜ん……」
女「あ、食べたい食べたい?」
僕「うん」
女「えへへっ、素直。じゃあ、はい。あーん」
僕「ん……」
- 126 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:33:57.23 ID:gg+EtQm+O
……。
女「お待たせっ!」
カラオケ部屋に飛び込むと、すでにみんなは先に始めていたようで、ドアを開けた瞬間に歌声が響いてきた。
気を遣ってくれてか、特に何も言わず僕と女を迎えてくれた。
女「じゃあ次私歌うねっ。曲は……」
- 127 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:37:11.65 ID:gg+EtQm+O
彼女が選んだ曲は……お別れするけど、寂しくないよ。
確か一番はそんな歌詞だったはずだ。
でも二番は一転して、やっぱり離れたくない、帰ってきて欲しい。
そんな歌詞だった……気がする。
気がする、というのは、僕が確認する前に彼女が勝手に曲を終わらせてしまったからだ。
女「さあさ、次は僕ちゃんだよ! 何歌うか期待してるよっ!」
……。
酔ったせいか、時間の感覚がおかしいままに。
僕たちの飲み会を夜更けまで続いていったんだ。
- 128 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:40:46.77 ID:gg+EtQm+O
女「ふう」
僕「お疲れ様」
二人になった帰り道、僕と彼女。
女「楽しんでもらえたかな?」
僕「お陰さまで。本当にありがとう」
女「えへへっ。なんのなんの〜」
僕「ねえ、カラオケのさ……あれってわざと?」
女「んっ、何が?」
僕「わかるよ、女の事だもん」
女「……えへへっ、バレてたか」
- 129 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:46:35.86 ID:gg+EtQm+O
女「だってさ、帰ってきて欲しいなんて、逆に寂しいじゃん。笑顔で大丈夫って言わないと」
僕「……本当に?」
女「ううん……嘘言っちゃった。ごめんね」
僕「……」
女「……」
僕(いつもの別れ道)
僕は彼女に挨拶して、そこから……逃げ出したかった。
女「ねえ、僕ちゃん」
でも、彼女は逃げ出さなかった。
女「ごめんね、私もう。素直になるね」
女「今まで口喧嘩とかたくさんしたけど……最初は嘘つきな僕ちゃんの事苦手だったけど」
女「でも私、やっぱり……君と離れたくないよ」
僕「女……」
女「寂しいの、当たり前だよ。好きな人と離れるんだから……」
- 130 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:49:22.82 ID:gg+EtQm+O
女「でも、これ言ったら絶対僕ちゃん困らせちゃうから……」
僕「……」
女「だから、笑顔でバイバイしたいんだよ」
女「大切な友達のまま、この街から離れて欲しいんだよ」
女「普通のお別れのまま、私と……」
だから僕は。
彼女と近く、親しくなるのが怖かったんだ。
- 131 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/02/04(金) 19:56:09.61 ID:gg+EtQm+O
僕「……ただいま」
帰るなり、僕は机に向かっていた。
明日になれば、多分鈴からの手紙が届いているだろう。
それでも僕は今、この気持ちを手紙に残したかった。
あと一回、鈴から手紙が来るか来ないか……微妙な所だ。
もしかしたら、瓶が流れ着く前に僕は帰ってしまうかもしれない。
それでも、鈴には全部話しておきたかった。
素直な気持ちを全部紙に書いて……そのまま送った。
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