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少女「嗤うは骸か人類か」
120 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/22(月) 20:15:46 ID:MO41QlxU
2日開けてしまってすみません
再開します


121 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 20:20:04 ID:MO41QlxU
……

また、いやな夢を見た。

真っ暗で、よく見えなくて、でも赤い光だけがチラチラと近づいてきた。

骸骨だ。

目の奥で赤く光っている。

二つの赤い光がチラチラと揺れている。

後ろに下がりたいのに、足が動かない。

お願い、動いて!!

カッ!!

突然、あたりが明るく照らされた。

目の前にいたのは、赤い目をした骸骨と、そして、

白目を剥いた、たくさんの人間たちだった。

……


122 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 20:24:39 ID:MO41QlxU
「っは!!」

身体がびくんと跳ねる。

「……はぁ……はぁ……」

心臓がびくんびくんと、恐ろしいスピードで回っている。

「……はぁ……」

朝だ。
今のは、夢だ。
目の前に、彼の胸があった。

もう、どんな夢を見たのか思い出せなかった。


123 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 20:30:06 ID:MO41QlxU
朝、私たちは毛布の中でたくさん話をした。

私は父と母に勉強漬けにされてきたこと。
自分の思うように生きさせてもらえなかったこと。
それなのに、私を置いて二人とも死んでしまったこと。

「それで、墓の前で、笑ったのか」

「そう」

「嬉しかったのか?」

「……ううん」

嬉しくて、楽しくて、笑ったんじゃない。
嘲り。
それが一番近いのかもしれない。


124 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 20:37:44 ID:MO41QlxU
本当は、こんなことがしたかった。
本当は、こんな風に生きたかった。

そんな話をした。

「親が子に期待を寄せるのは、どこも同じさ」

そう言って、彼は少し寂しそうに笑った。

「でも、子どもはペットじゃねえよな」

彼は私のために、少し怒ってくれた。
私の話を聞いて、頷いて、励ましてくれた。
ただ……

「親の死を笑うってのは、よくないと思うけどな」

「それは……うん……わかってる」

後悔している。
それを優しく促してくれる彼は、すごいな、と思った。


125 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 20:51:20 ID:MO41QlxU
……

「おれ、今日はちょっと遠くまで行ってくるから」

ある日、突然そう言われた。
彼なりに見回る場所があるらしい。

「うん、行ってらっしゃい」

「自分の身は自分でちゃんと守れるか?」

「大丈夫、もう慣れたよ」

本当は少し心配だったけど、でも、いつまでも甘えてはいられない。
彼はずっと私の「お守り」で大変だろうから。
今日は羽を伸ばしてほしい。

「私のことは、心配いらないから」


126 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 20:56:43 ID:MO41QlxU
彼はバイクで、通りを走って行った。
その背中が見えなくなるまで、私はずっとそこに立っていた。

「ちゃんと、帰ってきてね」

ほんの少しだけ不安がよぎったけれど、彼は大丈夫。
きっと何ごとも起こらない。
そう自分を励まして、ビルに戻った。


127 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:04:30 ID:MO41QlxU
「そういえば、このビル、上はどうなっているんだろう」

彼に連れてこられたとき、住まいにしている1階と、雑多な2階だけは見た。
でも、それ以上の階には上がったことがなかった。

そもそも、ぼろぼろで今にも崩れそうなビルなのだ。
あまり上の方には上がりたくない気持ちが大きい。
でも、今なら……

「……行ってみよう、かな」

私はほんの一滴の恐怖心と、鍋いっぱいの好奇心で、階段を上がる決心をつけた。

「どうせ、ヒマだし」

忘れずに、いつもの棒を握りしめて。


128 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:11:33 ID:MO41QlxU
2階は、すでに見たことのある場所だ。
棚と机とがたくさん積んである部屋、ほこりだらけの倉庫、それだけだ。

机の陰から骸骨が出てこないか注意しながら、机の群の中を進んでみた。

「元会社」の「空き店舗」といった印象だった。
色々なバインダーや紙の山があるけれど、どれも古くて崩れている。
紙を持ち上げてみた。

「……読めない」

日本語のようだが、古くてかすれていて、文字の判読は不可能だった。
そもそも明るくないのだ。目が悪くなってしまいそうだ。


129 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:19:47 ID:MO41QlxU
倉庫には軍手があった。

「ん……ぴったり」

これでちょっとは安心だ。
あらためて棒をぎゅっと握り直す。

「さて、次は3階に行ってみよう♪」

自然と声が出る。
自分を奮い立たせようとしている。
一人でも、誰かと話がしたくなる。
ああ、彼がいたら、もっといいのに。
二人でなら、探検も怖くないのに。


130 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:24:47 ID:MO41QlxU
3階は、がらんとしていて、床がところどころ剥がれていた。

「なにもない……」

柱があって、広い空間があって、ただそれだけだった。
窓はほとんど割れている。

「なーんだ」

私は、4階へと続く階段を上った。

「次はなんだろう」

私はさしずめ、塔を冒険する勇者だ。
装備品は棒と軍手。
次の階にはボスがいるかな?
宝箱があるかな?

まあ、そんなゲームやったことないけど。


131 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:32:36 ID:MO41QlxU
4階はまた、雑多な階だった。
というか、壊れている階、といった印象だった。
天井から電線がぶら下がっているし、鉄骨が何本も床に落ちているし。

……この鉄骨、どこの?

もしかして、この階上から落ちてきたのでは……
となると、5階には上がらない方がいいかもしれない。
というか、ビルの4階に鉄骨が転がっている状況は、少なくとも現代日本では普通じゃない。

私は奇妙な恐怖心にかられながら、4階のフロアを歩いた。

相変わらず、窓はほとんど割れている。


132 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:38:03 ID:MO41QlxU
ふと、窓の外の景色が気になって、近付いてみた。

「……黒い」

外は、ただただ黒い、陰気な空だった。

「……なにもないなあ」

空をドラゴンが飛んでいるでもなく、遠くに噴火する山があるでもなく。
おどろおどろしい城も、妖怪が住んでいそうな森も、雷雲さえない。
普通の町並み。
ただし、人気はなく、ぼろぼろだが。
こういうのをゴーストタウンって呼ぶのだろうか。

ここは一体、なんなのだろう。


133 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:44:12 ID:MO41QlxU
空想しながら気を抜いたのがいけなかった。

「いたっ」

なにも考えず、左手を窓枠にかけてしまった。
割れたガラスが手を切る。

「ああ、最悪……」

軍手が赤くにじむ。
幸い傷は深くはないが、ピリピリとした痛みが左手に広がる。

「最悪……」

手を切るくらいで最悪、と口から出るのもおかしな話だ。
もっと最悪な環境が広がっているじゃないか。


134 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:50:34 ID:MO41QlxU
「……ふっ」

痛いのに、笑ってしまった。
こんな傷さえ、今まで作ってこなかった。
こんな異常な状況に放り出されて、骸骨に襲われても、私はけがをしなかった。

彼のおかげだ。

「……戻ろう」

下に降りたら、手当をしなくちゃ。
包帯があったはず。
消毒薬は……あるのかな?

左手をぎゅっと握りしめ、私は階段を下りていった。


135 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 21:55:51 ID:MO41QlxU
彼はまだまだ帰ってくる様子がない。
ビルに上がってみたものの、ほとんど時間はつぶせなかった。

「なに、しよっかなあ」

カラン、と棒を置く。
軍手を外そうとして、手のケガのことを思い出した。

「あ、そうだ、手当てしなきゃ」

するっ、と軍手を脱ぐ。
不思議と痛みはなかった。


136 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 22:01:39 ID:MO41QlxU
「……傷口、が、ない?」

私の手は、綺麗だった。

「え? え?」

軍手の血を見る。
確かに付いている。
これは、私の手から流れた血のはずだ。

「……なんで?」

軍手に血は付いているのに、手には傷がない。

「……なんで?」

私は問うのに、誰も答えてくれない。


137 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 22:11:13 ID:MO41QlxU
手を見つめたまま、何分経っただろうか。

答えが見つからない。

この手に感じた痛みは本物だったはずだ。

なぜ、傷が消えたのか。

答えが見つからない。

不思議だ。

傷が消えたこと自体は、喜ばしいことのはずなのに、不気味な不安が私を包む。


138 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/22(月) 22:17:45 ID:MO41QlxU
私は答えを見つけられないまま、立ちあがっていた。

ビルを出る。

どこに行くか、考える前から、あそこに行こう、と決めていた。

そう、あの喋る骸骨のいる店だ。

彼がいない今、次に頼れるのはあの骸骨のおじさんしかいない。

私は見当をつけて歩きだした。


139 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/22(月) 22:21:03 ID:MO41QlxU
ではまた明日


144 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/23(火) 19:04:53 ID:QDeSn0kA
一人で出歩くな糞!
といいたい。。。


145 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 20:19:46 ID:1PWvBqnI
「あ? 傷が消えた?」

あの店で、前と同じように待ってくれていた骸骨のおじさんは、気さくに私を迎え入れてくれた。

「……」

私はどう説明したらいいかわからず、ぼそぼそと単語をつなげ、ようやく言いたいことが伝わったが……

それっきり、黙ってしまった。
私も、口を開けなくなってしまった。


146 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 20:27:06 ID:1PWvBqnI
店の中には、激しいロック調の音楽がかかっていた。

プツン

おじさんは、気を利かせてか、音楽を止めた。
確かに、こんな話をするには向かない音楽だった。

「傷がねえ、ううん」

おじさんは、私の話を聞いてから、ときどき唸るだけだった。
話が聞きたい。
できれば説明がほしい。

「嬢ちゃん……」

私は彼の目があったであろう穴を、見つめた。


147 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 20:34:39 ID:1PWvBqnI
「おれからはな、あんまりこの話は出来ねえんだ」

「……そう、ですか」

胸がギュッと苦しくなる感覚。
迷路の行き止まり。
知りたいことが秘密にされるよう。

「この世界のことはな、タブーっつうか、人間に教えちゃならねえっつうか」

人間と骸骨は、やはり相容れないのか。
喋って、襲ってこない骸骨でも、人間の味方はしてくれないというのか。

「ただ、その、嬢ちゃんの身体は今はないってことだ」

「え?」


148 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 20:41:19 ID:1PWvBqnI
「魂以外は、この世界に来ていない、っつうか」

「……はあ」

「んん、うまく言えねえな」

「魂だけだから、ケガしてもすぐに治るの?」

「ああ、まあ、そういう感じだと考えたらいいと思うぜ」

「……そっか」


149 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 20:49:55 ID:1PWvBqnI
「あとな、この世界は、人間を身体的に痛めつけるための世界じゃねえってことだ」

「え?」

「……」

「どういうこと?」

「あとは自分で考えな」

「……」


150 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 20:56:29 ID:1PWvBqnI
「しっかし、よく一人で来れたもんだ、武器も持たずによ」

「それは……」

「おれが仲間集めて待ち構えてたら、どうするつもりだったんだい」

「ふふ、そんなことする人じゃないって、思ってましたから」

「人じゃねえよう」

「ふふふ」

答えはもらえなくても、ここに来てよかった。
少し、話すと落ち着いた気がする。


151 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 21:05:42 ID:1PWvBqnI
「いや、しかしよう、嬢ちゃん一人で骸骨に囲まれたら、どうすんだい」

「……それならそれで、もう諦めちゃおうかなあ」

「喰われてもいいってのか」

「……ぐちゃぐちゃ喰われるわけじゃないって分かったから、まあ、それもいいかなって」

「……ふっ」

おじさんは笑ってた。
うんうんと頷いて。

てっきり、「最後まで諦めるな」なんて言われると思ったのに。


152 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 21:13:22 ID:1PWvBqnI
「ま、でも私一人が勝手に死んじゃったら、悲しんじゃうかもね」

「あの兄ちゃんがか?」

「そ」

「……そう、だな」

「私のこと、心配してくれるの、優しいでしょう?」

「ああ」

「……ほんとの、きょうだいみたいでしょう?」

「……ああ」


153 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 21:19:58 ID:1PWvBqnI
「ありがと、元気出た」

「ああ、すまねえな、たいしたこと言えなくってよ」

「ううん、いいの」

腰を上げる。
また来たいな、と思う。
今度はまた、彼と一緒に。

「さて、早く帰らなきゃ」

「おれのバイクを使っていいぜ」

「え? いいの?」

「ここまで歩いて来たんだろ?」

「でも……」

「また今度、返しに来てくれたらいいから」

「……ありがとう」


154 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 21:28:20 ID:1PWvBqnI
バイクに自分で乗ることになるとは思っていなかった。
重い。

「気いつけろよ」

「うん」

「スピード出すなよ」

「うん」

彼のようにうまく乗れるだろうか。
帰り道にケガしたらどうしよう。

「あ、そうだ、最後に一つだけ」

「え?」

おじさんが神妙な顔で、言った。

「骸骨は、人間の『敵』じゃねえから」


155 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 21:37:39 ID:1PWvBqnI
襲ってくるのに?
人間を食べるのに?

「じゃ、またな」

おじさんに手を振って別れる。
帰り道はずっと、おじさんの最後の言葉を思い出していた。

『敵じゃない』

どういうことだろう?
でも、仲間でもない、と思う。

どういうことだろう?


156 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 21:45:34 ID:1PWvBqnI
……

「馬鹿!! 心配かけんな!!」

帰って早々、彼に叱られた。

「血の付いた軍手とほったらかしの棒!!」

「なにがあったのかってびっくりしたじゃねえか!!」

「……ごめんなさい」

叱られた。そりゃそうだよね。

「……まあ、無事でよかったけどさ」

「……ごめんなさい」


157 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 21:55:13 ID:1PWvBqnI
「いいよ、それよりどっかケガしたのか? 見せてみ」

「あ……それは……」

私は、手のことを彼に伝えた。
窓ガラスで切ってしまったと思ったのに、軍手を脱いだら傷が消えていたこと。

骸骨のおじさんの『魂以外はこの世界に来ていない』という言葉。
『人間を身体的に痛めつけるための世界じゃない』という言葉。

そして……
『骸骨は人間の敵じゃない』という言葉も。


158 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 22:04:08 ID:1PWvBqnI
「ねえ、この世界に来てから、ケガをした?」

「ケガ……ね」

「些細なことでもいいけど」

「転んだりは何度もあったけどさ、いちいち確かめたりしなかったからなあ」

「そっか」

もしかしたら、この世界ではケガをしないかもしれない。
でも、それを確かめる勇気は、ない。


159 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/23(火) 22:11:10 ID:1PWvBqnI
「骸骨は、敵じゃない?」

「そう、そう言ってた」

「敵意はないってことか? 襲ってくるのに?」

「私にも、よくわからなかった」

「あのおっさんは確かに敵じゃなさそうだけどさ、他の骸骨もってのはちょっと……」

「でも、言えないながらもなにか伝えようとしてくれたんだと思う」

「……そっか」

正直、全然わからない。
でも、おじさんの言葉は、きっと何か意味があるんだと思う。
そう、信じたい。


160 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/23(火) 22:13:28 ID:1PWvBqnI
明日、完結予定です
ではまた明日


161 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/23(火) 22:34:42 ID:wns/Vk5E
乙です!
楽しみにしてます!


162 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/23(火) 22:36:31 ID:ztJeRybk
おおもう完結か


163 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/23(火) 23:41:11 ID:ltrd7ci.
おつおつん
名残惜しい…


164 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/04/24(水) 08:24:10 ID:/A/p6TzA
今日完結か
どうやって着地させるんだろうwktk


165 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/04/24(水) 21:53:54 ID:LGfdYV8.
……

また、あのいやな夢だ。

周りに、誰かがいる。

暗いけれど、見なくてもわかる。

骸骨だ。

ぐちゃっ

いやな音がした。

「……ぅ……ぁ……」

かすかに声が聞こえる。



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