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騎士「そうだ。俺は、勇者になりたかったんだ……」
86 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 20:02:11 ID:qX8mnSAw

終幕



エピローグ


そしてプロローグ


87 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 20:09:10 ID:qX8mnSAw

…………

……




騎士「……ここは…。りゅ、竜は…?
   そうだ。私は毒を……」

身体を起こし、異常がないか探す


騎士「なんとも、ない…?」

ゆっくりと立ち上がる
身につけていたのは記憶にある鎧ではなく、白い簡易着だった


部屋は派手ではないが上質な調度品で整っており、気品が漂っていた

ドアに手をかけ、開けようとする
が、鍵がかかっているのか開かなかった


88 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 20:19:23 ID:qX8mnSAw

騎士「一体ここは何処なんだ?
   あの鎧達は何者だったんだ……
   いや、一人だけわかる…あの銀髪白ひげ、やつは…」


「銀髪白ひげとは私のことかな?」

突然声をかけられて、身構えながらドアの方に振り返る


騎士「て、帝都の魔人……!」

戸口に立っていたのは銀髪白ひげの老人だった

「世間ではそう呼ばれているようだ
 まあ、悪い気はせんがな
 ……起きていたなら話が早い。私についてくるのだ」

アダ名に反して意外と気さくな雰囲気を持っていたが、指示する内容は有無を言わせぬ力を持っていた


89 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 20:28:42 ID:qX8mnSAw

魔人に案内されたのは、一言で言うなら食堂だった
テーブルには出来立ての料理が湯気を立てており、美味しそうな香りがした

「話しは食事の後でたっぷりしよう。まずは腹ごしらえだ」

そう言って騎士の対面に座り、食事を始めた
いまいち状況が掴めなかったが、空腹もあって食事をとった


食後の紅茶を飲み干すと、魔人が口を開いた


「まず貴様が何処に居るのか話そう
 ここは帝都の中心、その地下だ
 私のような地位と権限を持った、一部の人間しか知らない秘密の場所だ」

「次に、何故そんな所に居るのかを話そう
 貴様は竜の血を浴びたのだ。竜の血は劇毒で、通常の解毒では治癒することが出来ない。
 そこで貴様に『選択』させるために、ここに連れてきたのだ」

騎士「選択?」


90 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 20:43:17 ID:qX8mnSAw

「そう。選択だ。貴様には今二つの道がある
 一つはこのまま体内に潜む毒に、ジワジワ内部から侵され、死ぬか
 一つは運命を知り受け入れ、人のために生きる傀儡となるか…」

騎士「何!?」

「選択だ。貴様が選び取れる道は二つに一つだ」

騎士「い、意味がわからない。何を言っているんだ!」

「我らの治療を受ければ毒を消すことが出来る。が、かわりにもう人間ではなくなってしまう。
 貴様は運命の奴隷として、その肉体が滅びるまで人間のために戦わなければならなくなる」

騎士「……」

「だがそれは死ぬよりも辛いことかも知れん
 だから我らは選択させる。このまま毒で死ぬか、生きて永久を戦い続けるか」


91 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 20:49:30 ID:qX8mnSAw

騎士「なぜ、そんなことを」

「貴様が行く末を決定するように、運命が貴様を選んだのだ。
 竜の血を浴び、第一段階を生き残ったこと。その場に我らがいた事。
 記憶の海から蘇り、いま私の眼の前に居ること。
 それが故に、貴様は選択しなければならない」

騎士「すまない。まだ状況が飲み込めない
   貴方が言っていることを半分も理解できない……」

「これは失礼。急ぎすぎていたようだ。
 では、竜の血の毒についてお教えしよう」

「竜の血は劇毒というのは先に話した通り。これには二段階あるのだ。
 一段階は血を浴びた時に直ぐに効果が現れる。肉が腐り、骨が溶ける。そのような効果だ。
 それでも死ななかったものはどうなる?体内に毒が潜み、内側から徐々に腐らせ、殺す。これが第二段階目だ」

騎士「それで私はその、二段階目にいるということか…」

「そうだ。貴様は今、生きているわけでも死んでいるわけでもないのだ」

騎士「……」


92 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 20:57:45 ID:qX8mnSAw

「そして竜の血にはもう一つ力がある。第一段階を生き残ったものへの祝福なのだろう。
 血は竜の、いや龍の歴史の記憶を見せる。
 かつて大陸を支配していた記憶。人とともにあった記憶。長く激しい戦いの記憶。
 貴様は見たはずだ。血を浴び生き残ったものは必ず見るのだから」

騎士「……私は、見ていないようだ。そんなもの…」

「いや、覚えていないだけだ。必ず見ている
 それは心に直接刻まれるのだ。集中しろ。心を平静に保て。意識で確かめるのだ


93 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 21:11:21 ID:qX8mnSAw


混乱した頭ではそう簡単に集中をすることができなかった
それでも徐々に、言われるがままに意識を集中させていく

目を閉じ、頭の中を空にする様に務める





何分経ったのか、あるいは何時間経ったのか

やがて、初めての体験だが、どこかに深く深く沈んでいくような感覚に陥った


そして――


94 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 21:25:50 ID:qX8mnSAw
それは断片だけだったが、とてつもない情報の量だった
この世のありとあらゆる真理が詰まっていた
龍のこと、人のこと、大地のこと、天のこと
神のこと、魔のこと、そして……


バシッ!


騎士「ハッア!ハァー、ハァー……い、今のが…」

「この大地そのものの記憶。龍の記憶だ。
 そして見ただろう。真実を」

騎士「み、見た!
   そんな、まさか……あり得ない。今のが、真実だと…?」

「今の貴様なら分かるはずだ。嘘偽りのない事実と」

騎士「信じられない……」

騎士は茫然自失となってしまった
あまりの事に考えることを拒否してしまったのだ


95 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 21:34:59 ID:qX8mnSAw

「記憶の海。それがそうだ
 あまりの情報量に心が耐え切れなくなり、崩壊する。そしてそのまま目覚めることはない
 後は徐々に毒に蝕まれて死ぬだけだ
 だがそれも突破して、貴様は私の前に居る
 ……それが運命に選ばれたということなのだよ」

混乱している騎士に、紅茶のおかわりを飲むように促した
紅茶を飲み、幾分か落ち着きを取り戻した

騎士「……状況は、理解した。ようやく、だが。
   だから、私は選ばなければならないのか」

「安らかな死を選ぶか、滅びるまで人のために戦う地獄へ往くか
 二つに一つ」


魔人も紅茶をすする

「まだ幾ばくか時間はある。今から二十四時間やろう
 二十四時間たったら答えを聞く。それまでじっくり考えるといい……」


魔人の話は終わった
魔人は再び騎士を促し、最初の部屋へ案内した

「この階ならば自由に行動していい
 なにか必要ならば、あの男に言うといい。それでは二十四時間後に」

そう言って去って行った


96 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:12:07 ID:qX8mnSAw
騎士(とんでもない……とんでもないことになってしまった…)

現実感が無かった。まだ、夢のなかにさえいると思った
だがこの満腹感はたしかな現実だった


先ほど見た記憶を考える
それは、彼にとって自身を揺るがす事実を伝えていたのだ



騎士「勇者なんて、いない……
   ただのマヤカシ……ただの…怪物……」

彼の心の指標。追い求めた伝説
今まで様々な困難が襲いかかってきたが、常に勇者たらんとして居たからこそ、ここまで生きてきたのだ
その心の支えを、たった今、自らの手で破壊してしまった


母が死んだ時。父を殺した時
それ以上の絶望が、彼を包んだ


97 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:23:26 ID:qX8mnSAw


結局言い渡された二十四時間を、部屋から一歩も出ずに過ごすことになった
そもそも外を散歩する気持ちになんてなれなかった


…………

前と同じように戸口に魔人が立っていた

「この場ですまないが、答えを聞かせてもらおう
 修羅道を往くか、安らかに逝くか」



騎士「私は…………」








98 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:25:57 ID:qX8mnSAw






「我らは君を歓迎しよう」



「ようこそ、人類最後の切り札。聖槍騎士団へ……」








99 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:30:09 ID:qX8mnSAw



彼は生きることを選択した。それは超人として、人の理を外れた存在としての道だった
もう普通の人間としての生活は送れない。個人の意志と自由はなかった
だが、それでもいいと思った


例え運命に囚われようと、最早どうでもよかった
彼が信じた神も、彼が憧れ目標だった勇者も、いないと知ったのだから




100 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:32:51 ID:qX8mnSAw


二十数年の時が流れる
帝国の切り札。人類の影の守護者。聖騎士として彼はいた


彼は最後の聖騎士として、黒鉄の鎧と聖槍と呼ばれる槍を賜った
それらを身にまとい、長い間聖騎士として帝国の影として任務を遂行した


彼は、隠密として行動してきた
聖騎士団内でも存在は秘匿され、魔人や一部の者しか知ることはなかった
何故なら、彼は帝国の闇を背負う任務を主に扱っていたからだ

不穏分子の抹殺に始まり、秘密裏に帝国に牙向く者たちを処理していった



そして……


101 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:36:07 ID:qX8mnSAw

彼は今、洗脳処理を施された配下を従えて東の地へ急いでいた

任務はある村に住む男との接触
そして男以外の村と村人を焼き払うことだった

奇妙な任務だった。そんな辺鄙な所に国を脅かすような者が居るのだろうか?
賢者共の計画のためとはいえ、無辜の民を犠牲にすることにドス黒い気持ちになる



しかし彼は道を進む

いつもの様に疑問も不信も、感情も押し殺して
何も思わぬ影にように……




黒衣共が闇を往く







102 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:42:22 ID:qX8mnSAw
ここまで読んでいただきありがとうございました

短いですがこれで終わりです
もし描写不足の所があればお答えします

お疲れ様でした


103 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/08/26(月) 22:51:29 ID:M0eLIE/E


分岐ルートは無し?


104 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/08/26(月) 22:57:12 ID:qX8mnSAw
乙ありです
分岐は残念ながら…
どのみち受けなければ安らかに逝ってしまうので
このまま殺されるまで、父殺しの罪と、目標の喪失という絶望を抱えて、来るべき時まで生き続けます


あと心苦しいのですが当ssは世界観を共有している、以下のシリーズの一つになっています

少年「そうだ!天使を見つけに行こう!」僧侶「私もお伴します」
男「そうだ!東へ行こう!」少女「行きましょう!」

これらを読まなくても楽しめるようになっているので、別に読まなくても大丈夫です


105 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/08/26(月) 22:59:58 ID:M0eLIE/E
下のやつは読んだっけなぁ…

上の方も読んでみるか


106 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/08/27(火) 04:20:24 ID:.cc0c34c
乙、シリアスなファンタジーで久し振りに面白かった


107 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/08/27(火) 14:54:46 ID:/jeol6Kc
乙乙
この騎士があの鎧の男なのか


109 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/08/28(水) 11:16:18 ID:YbHdi0HE

こういうのもいいな



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