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少女「治療完了、目を覚ますよ」−オリジナル小説
- 673 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/10/22(月) 19:47:45.56 ID:NmcSo/nB0
「そう思いたいんなら、それでいいわ。
時間がないから、話を進めるわよ。
で、今回は、最低でも五種類の役割が必要になるの」
「五種類……?」
「まずは、トラウマ等の攻撃から、私達スイーパーの身を守る、
アタッカーとディフェンサー。
一番力のある、つまり脳細胞の働きが活発なスイーパーが
役割に当てられることが多いわ」
眠っている汀を見て、ソフィーは続けた。
「この子みたいなね。言ってしまえば、一番重要な役割よ」
「他には……?」
「次は、トラップを解除する役割のリムーバー。
この場合、私ね。
そして治療を行う、キーパーソンが一人絶対に必要。
この場合はあなた」
- 674 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:48:33.27 ID:NmcSo/nB0
理緒を手で指して、ソフィーは続けた。
「最後はキーパーソンを守る、ファランクス(盾)が必要。
それで、最低五人。
通常は二人ずつ各ポジションに配置して、
一つのチームとして運営するの。
『危険地帯』へのダイブの場合はね」
「二人も足りませんけれど……」
「足りないのは七人よ。二チーム使うこともあるから、
そう考えると二十七人の手数が足りないわ。
圧倒的に、これは『私』をハメるためとしか思えないわ」
歯噛みして、ソフィーは言った。
「……最初に頭に血が昇ったのがまずかったわ。
気づけばよかった……」
- 675 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:49:11.61 ID:NmcSo/nB0
「…………」
彼女の勢いに圧倒されながら、理緒はおどおどと口を開いた。
「じゃ、じゃあどうすれば……」
「この猫は戦力に入れないとして、この子……
高畑汀が、アタッカー、ディフェンサー、ファランクスの
三つの役割を兼任するしかないわ」
「そんな……汀ちゃんは一人なんですよ?」
「でも、そのための『特A級』でしょ?」
せせら笑って、ソフィーは続けた。
「私達が仕事を完遂するためには、どうしても
『守ってくれる人』が必要になる。
だから、こうして馬鹿なあなたに説明をしに来たの」
- 676 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:49:54.07 ID:NmcSo/nB0
「汀ちゃんが自分を犠牲にしてでも、
私達を守らなきゃいけないって、そう言うんですか?
この子は、私のせいで左腕が……」
「どうせ現実世界でも動かないんだから、関係ないじゃない」
「…………」
理緒が眉をひそめる。
「かたわは、かたわのままがお似合いよ」
ソフィーが鼻を鳴らしてそう言う。
そこで、理緒の手が飛んだ。
パンッ、と頬を叩かれ、ソフィーが唖然として目を見開く。
病室の入り口に立っていたSP二人が、
急ぎ部屋の中に入ってきて、理緒とソフィーを引き離した。
- 677 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:50:34.97 ID:NmcSo/nB0
「何するのよ!」
ソフィーが我に返って大声を上げる。
理緒は目に涙をためながら、押し殺すように言った。
「……協力は、お断りします。
人の気持ちが分からない人とは、一緒に仕事はできません」
「何言ってるの? 説明したじゃない!
あなた達に、あのパズルが解けるの?
トラップを解除できるの? 二人じゃとても無理よ。
私の力を使うしかないじゃない!」
色をなしてソフィーが怒鳴る。
しかし理緒は、SPの手を振り払って、ソフィーを睨んだ。
「あなたには出来ないかもしれない。
でも、『私達』には出来ます」
- 678 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:51:11.63 ID:NmcSo/nB0
理緒はそう言って、病室の入り口を手で指した。
「出て行ってください。
汀ちゃんは、次のダイブまでゆっくり休まなきゃいけないんです。
あなたも、休んだ方がいいと思います」
「ちょっと待ってよ。何いきなり怒って……」
「出て行ってください」
理緒は堅くなにそう言うと、汀の脇に腰を下ろした。
「手を出したことは謝ります。
でも、お互いお仕事の仲間なのですから、
これ以上お話しするのはやめましょう?
お互いのためにならないと思います……
協力は出来ませんが、応援はしています。
お互い頑張りましょう」
目を合わせずに理緒がそう言う。
- 679 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:51:40.17 ID:NmcSo/nB0
ソフィーはしばらく鼻息荒く彼女を睨んでいたが
「ふんっ!」
と言ってきびすを返した。
SP二人が慌ててその後を追う。
理緒は、ソフィーが出て行った後、
彼女を叩いた手の平をぼんやりと見ていた。
「汀ちゃん、私、初めて人のこと叩いちゃった……」
眠っている汀に、理緒はそう呟いた。
「誰でも、叩くと嫌な気分だね……」
彼女の呟きは、空調の音にまぎれ、やがて消えた。
- 680 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:52:16.54 ID:NmcSo/nB0
★
三時間後、理緒は暗い表情で、うとうとと半分睡眠状態に
入っている汀を乗せた車椅子を押して、施術室に入ってきた。
話しかけても汀の反応はない。
しかし、圭介が「ダイブは可能だ」と言っていたのを
信じて連れてきたはいいが、理緒は心の中で葛藤していた。
近づいてきた大河内に、彼女は言った。
「先生、私一人でダイブします」
それを聞いた大河内は、
身をかがめて彼女を見て、静かに言った。
「……無茶はやめるんだ。君一人でどうにかなる案件じゃない」
- 681 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:52:50.81 ID:NmcSo/nB0
「でも先生……これじゃ、汀ちゃんが可哀想です。
汀ちゃんは、道具じゃないんですよ」
その声を、部屋の隅で腕組みをして、
壁に寄りかかっていたソフィーが聞いていた。
彼女は馬鹿にするように鼻を鳴らして、視線をそらした。
大河内はしばらく沈黙していたが、
黙って車椅子を受け取ると、
汀のダイブのセッティングを始めた。
「先生!」
すがるように言う理緒に、大河内は続けた。
「このダイブに移行する前、
チームを組んで赤十字のマインドスイーパーが、
二十人ダイブしたんだ」
- 682 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:53:28.92 ID:NmcSo/nB0
「え……」
「全員、帰還できなかった」
そう言って、大河内は汀の頭に
マスク型ヘッドセットを被せて、立ち上がった。
「是が非にでも、汀ちゃんと、君と、ソフィーの力が欲しい。
そうじゃなきゃ、赤十字の子供達が、
それこそ単なる『犬死に』で終わってしまう」
大河内の目は、いつもと違ってどこか冷たかった。
「それだけは避けてあげたい」
「そんな……私達は三人なんですよ!」
「分かっている。分かっていてのダイブなんだ」
そこで、圭介がポケットに手を突っ込んだまま、
白衣を翻して部屋の中に入ってきた。
- 683 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:54:04.82 ID:NmcSo/nB0
そして汀の意識がないことを確認して、
ソフィーを歪んだ視線で見る。
慌てて視線をそらした彼女から理緒に目線をうつし、
彼は首を傾げて言った。
「……どうした?」
「高畑先生。汀ちゃんをダイブさせるのは無理だと思います」
理緒がそう言う。しかし圭介は肩をすくめて、汀を手で示した。
「こいつがそう言ったのかい?」
「それは……でも……」
「大丈夫。汀はちゃんとやるよ。そういう奴なんだ。
伊達に特A級は名乗っていない」
ソフィーにも聞こえるように、大声で彼は言うと、
席について、理緒にも準備をするように促した。
- 684 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:54:34.13 ID:NmcSo/nB0
「さぁ、二回目のダイブだ。今回は十分に設定する」
「十……?」
ソフィーがそこで声を荒げた。
「十分で中枢を見つけるのなんて無理よ!」
「天才じゃなかったのか?」
冷たくそう返され、ソフィーは悔しそうに口をつぐんだ。
その握った手がわなわなと震えている。
大河内が、彼らの間に割って入った。
- 685 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:55:04.98 ID:NmcSo/nB0
「口論をしている時間はない。
ソフィーも準備をしてくれ。
無理だと判断したら、今回も回線を強制遮断する。
その点では安心してくれていい」
「ふん……安心ね」
ソフィーが吐き捨てるように言った。
「よく分かったわ。
私には安心できる場所なんて、どこにもないってことがね」
- 686 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:55:46.33 ID:NmcSo/nB0
★
ザッパァァァァンッ! と、凄まじい音を立てて、
三人は頭から海に落下した。
一瞬何が起こったのか分からず、鼻から、喉から
しこたま水を飲み、理緒は必死にもがいて水面に顔を出した。
「……ゲホッ! ゲホッ!」
もったりとした水の感触の中、飲み込んだ水を必死に吐き出す。
小白が風船のように長く膨らんで水面に浮いているのを見て、
理緒はそこまで泳いでいって、尻尾に掴まった。
「た……助け! ゲホッ! 私、泳げな……!」
切れ切れに、少し離れた場所でソフィーが叫んでいた。
- 687 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:56:23.57 ID:NmcSo/nB0
バシャバシャと水を撒き散らしながら、
浮いたり沈んだりしている。
本当に泳げないらしい。
正確には、精神世界で出来ないことはないのだが、
彼女の中によほど水に対する苦手意識があるのか、
体が上手く動かないらしかった。
「……! 汀ちゃん!」
そこで理緒は汀の姿が見当たらないことに気がついた。
慌てて見回すと、澄んだコバルトブルーの水、
底が見えない中、汀の体がゆっくりと下に沈んでいくのが見えた。
彼女は溺れているソフィーと、
沈んでいく汀を見て、一瞬躊躇した。
- 688 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:56:58.52 ID:NmcSo/nB0
しかし、すぐに膨らんでいる小白をソフィーの方に投げて叫ぶ。
「この子に掴まって! すぐ助けるから、頑張って!」
そう言い残して、理緒は水を蹴って海の中に潜った。
病院服が不快に体に絡みつく。
しかし何とか汀にたどり着き、
彼女は背後から汀の体を羽交い絞めにし、
力の限り水面に向かって足を動かした。
実に十数秒もかけて水面に顔を出す。
汀はぐったりとして反応がなかった。
「汀ちゃん! しっかりして!」
汀の体を揺らすが、彼女の口や鼻から、
飲み込んだ水がダラダラと流れ出すだけで、
目を覚ます気配はなかった。
- 689 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:57:32.47 ID:NmcSo/nB0
視線を移動させると、イカダのような形になった小白の上に、
ソフィーが大の字になって荒く息をついていた。
彼女は小白に向かって叫んだ。
「小白ちゃんこっち! 汀ちゃんの意識がないの!」
イカダの先っぽに小さく猫の顔と、
側面に腕と足がくっついている。
小白は器用に尻尾を回して方向を変えると、
スィーッ、と理緒たちに近づいてきた。
「汀ちゃんしっかり!」
反応のない汀に呼びかけながら、
理緒は何とか小白の上に彼女を持ち上げた。
グラグラと猫ボートが揺れ、
ソフィーが水を吐き出しながら悲鳴を上げる。
- 690 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:58:13.55 ID:NmcSo/nB0
「高畑先生、聞こえますか! 高畑先生!」
パニックになっているソフィーをよそに、
ヘッドセットのスイッチを入れて、理緒は大声を上げた。
『どうした? 状況を説明してくれ』
「海の中にいます! どうして前と場所が違うんですか!」
『前と同じ問題を出題する学者がどこにいるんだい?
汀の様子はどうだ?』
「意識がないみたいです!
ソフィーさんも、泳げないみたいで動けないです!」
『……チッ』
圭介が小さく舌打ちをする。
『周りをよく観察するんだ。汀はじきに起きる。
それまで耐えられるか?』
- 691 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:58:46.98 ID:NmcSo/nB0
「やってみます……!」
頷いて、理緒は周りを見回した。
少し離れた場所に、小島があった。
人二人が寝れるくらいの、小さな浮き島だ。
小白の尻尾を引っ張ってそこまで牽引すると、
理緒はソフィーに声をかけた。
「大丈夫ですか? しっかりしてください」
「私水は駄目……駄目なの……!」
震えながら、ソフィーは浮き島に這って進むと、
その場にうずくまった。
理緒は意識がない汀を浮き島に移動させると、
荒く息をつきながら自分も浮き島に登った。
- 692 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:59:22.20 ID:NmcSo/nB0
ポタポタと海水を垂らしながら、彼女は周りを見回した。
そしてその視線が一点を凝視して止まる。
百メートルほど前方の海面に、巨大な穴が空いていた。
穴、としか彼女には形容できなかった。
正確にはダムの排水溝のような光景が広がっていた。
穴の直径は、五メートル前後。
今彼女達がいる浮島よりも、少し狭いくらいだ。
そこに向かって水が流れている。
浮島も流されていた。
近づけば近づくほど、引き込む力は強くなってくる。
- 693 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 19:59:58.55 ID:NmcSo/nB0
小白が吸い込まれていることに気づいたのか、
ポンッ、と音を立てて元の小さな猫に戻り、
汀に駆け寄って、その頬をペロペロと舐めた。
「何……あれ……」
呆然として、流されている浮島の中、理緒は呟いた。
次の瞬間だった。
浮島がバラッ、と音を立てて崩れた。
それぞれが一抱えほどの立体パズルの形に分割され、
流されていく。
『どうした!』
圭介の声に、パズルピースの一つに掴まりがら、
理緒は悲鳴を返した。
- 694 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 20:00:32.95 ID:NmcSo/nB0
「私達のいた島が、パズルになって崩れました!
このままじゃ、穴に引き込まれます!」
『そこに引き込まれるな。おそらくトラップの一種だ』
「分かっています……でも!」
ソフィーが完全にパニックになって、
パズルピースを掻き分けて浮き沈みしている。
小白がまた膨らみ、汀の体を支えた。
彼女達と浮島の破片が流れていく。
理緒は、ソフィーの方に手を伸ばした。
そこで、ソフィーが泣きながら叫んだ。
「結局こうよ! 結局、誰も助けてくれない!
私はずっと独りなんだ!
こんなところで……こんなところに来ても……!」
- 695 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 20:01:04.69 ID:NmcSo/nB0
『落ち着けソフィー。ダイブ中だ。正気を保て』
「うるさいうるさいうるさい!」
圭介に怒鳴り返し、近くのパズルピースに掴まりながら、
彼女は血走った目で理緒を見た。
「おかしい? おかしいでしょ!
この私が、水に入っただけで何も出来なくなるなんて
……笑いなさいよ! どうせあんたも……」
そこまで叫んだソフィーの口元に、
近づいた理緒が、そっと手を触れた。
「笑わないですよ。誰にだって怖いものはあります」
荒く息をついているソフィーに、理緒は続けた。
「この場を逃れましょう。協力しようとは言いません。
でも、お互い『生き残る努力』をしましょう」
- 696 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 20:01:41.25 ID:NmcSo/nB0
「努力……?」
「はい、努力です」
頷いて、理緒は言った。
「ソフィーさんに足りないのは、努力をしようとする気持ちです。
人と仲良くしようとする努力、人を信じようとする努力、
諦めない心を持つ努力。
人のことを言えたものではありませんが、私も同じです。
だから、私は生き残るために努力をします」
パズルピースを手に取り、彼女は近くの一つに嵌めた。
浮島の輪郭が一箇所だけ再生する。
ソフィーは、水の中でもがきながら、
浮島の巨大立体パズルを完成させようとしている理緒を見て、
口をつぐんだ。
- 697 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 20:02:15.35 ID:NmcSo/nB0
そして理緒が中々パズルを嵌められないのを見て、
ついに声を上げた。
「……右のピースを、左十字の方向のピースに、下から嵌めて。
それから下のピースを、
二メートル先のピースとさっきのピースとくっつけて」
理緒が少しきょとんとした後、笑顔になり
「はい!」
と頷く。
ソフィーの指示は的確で、短時間だった。
特に無理もなく理緒が、バラバラになった浮島を元に戻していく。
時間にして、一分もかからなかっただろうか。
驚異的なスピードで、直径五メートルほどの浮島を再構築させると、
ソフィーはその縁に掴まりながら、理緒の手を引こうとした。
- 698 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 20:02:46.14 ID:NmcSo/nB0
「早く、こっちに来て!」
「……分かってます……分かってますけど……」
引き込む力が強すぎて、理緒の片足が、
穴の淵に入ってしまっていた。
もう完全に浮島は直っている。
しかし最後のピースを嵌めこんだ理緒の位置が悪かった。
丁度、穴の正面に来てしまっていたのだ。
「片平理緒!」
ソフィーが叫ぶ。
理緒の体の半分が、穴に飲み込まれる。
そして彼女を覆うように、浮島が穴を塞ぎ始めた。
- 699 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/10/22(月) 20:03:21.01 ID:NmcSo/nB0
穴の底は何も見えない。
暗黒の空間だ。
ソフィーが青くなって、浮島に這い上がろうとし……。
そこで、理緒の手を、
浮島に打ち上げられていた汀が掴み、引っ張った。
間一髪で理緒が浮島に引き上げられ、
浮島は、穴を塞ぐ形でスポンッ、とそこに嵌った。
海水の流出が収まり、流れが穏やかになる。
「汀ちゃん……?」
理緒が海水まみれに鳴りながら、呆然と呟く。
汀は、熱にうかされた顔で、耳までを赤くしながら、
理緒を完全に浮島に引き上げ、しりもちをついて頭を抑えた。
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