■戻る■ 下へ
少女「治療完了、目を覚ますよ」 セカンド −オリジナル小説
343 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:09:48.71 ID:GZXfwDir0


赤十字病院の会議室に集められた医師達が、全員暗い表情で何かを考え込んでいる。

それを見回し、ジュリアが口を開いた。

「海外からのマインドスイーパーの協力をとりつけることができました。
この機会に、赤十字病院協同で大規模な治療を開始します」

「これでやっと一安心か……」

老人の一人がそう呟くと、医師達と反対側の席の老人達が、
口々に安堵の呟きを発して顔を見合わせた。

「しかしシステム復旧の目処が立っていない以上、安易に治療を行うのは危険です! 
まだテロリストの排除にも成功していないんですよ!」

大河内が声を荒げて口を開く。

彼と反対側の席で、圭介が睨み殺さんばかりの視線を、大河内に向けていた。


344 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:10:37.92 ID:GZXfwDir0
ジュリアが冷静な目で大河内を見て、口を開く。

「対スカイフィッシュ変種用のマインドスイープ部隊も編成済みです。
常時アクセス可能な環境を構築し、
テロリストの侵入が確認でき次第送り込みます」

「くっ……」

歯噛みした大河内に、元老院の一人が静かに言った。

「大河内君。システムの起動はまだ早すぎたんだ。
マインドスイープの完全な機械化は、理論的には可能だが、
時代がまだそれに追いついていないのかもしれない」

「何をおっしゃいますか! システム化は十二分に可能なはずだ!」

「冷静になりたまえ」

大声を上げた大河内の声を打ち消し、老人は続けた。


345 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:11:57.46 ID:GZXfwDir0
「君の報告書には目を通させてもらった。
ナンバーIシステムの起動、運用に際して、正体不明の致命的なエラーが
三千九十八箇所も発生していたそうではないか。
そんな不確定な代物に、赤十字病院の名を冠して
治療を任せるわけにはいかんな……凍結だ」

「エラーはプログラムにはつきものです。
それに、ナンバーIシステムは学習プログラムを組み込んであります。
一度エラーを起こした問題は即急に解決して……」

「聞こえなかったか。ナンバーIシステムは凍結だと言ったのだ」

老人がゆっくりと繰り返す。

安堵の色を浮かべる医者もいたが、殆どが暗い顔をしていた。

大河内が言葉を飲み込んで、腕組みをして俯く。

そこで圭介が口を開いた。


346 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:12:37.69 ID:GZXfwDir0
「つきましては政治的、医療的に今後重要なポストとなりえる
患者を優先的に治療しようと思うのですが、宜しいでしょうか」

元老院の老人達は表情を変えなかったが、医者達は違った。

色をなして、顔色を変えて圭介を見た者もいる。

圭介は薄ら笑いのような微妙な表情を浮かべながら、それを見回して続けた。

「何、私の保有しているマインドスイーパーの弾には、限りがあるもので」

「しかし現在、高畑汀、片平理緒という二人の特A級スイーパーは、
システムへの干渉とテロリストとの交戦で行動不能になっていると聞く。
どうするつもりだね?」

老人に聞かれ、圭介は横目でそれをみてから手元の資料に視線を落とした。

「フランソワーズを使わせていただきます」

「ほう……フランソワーズ・アンヌ=ソフィーか。
フランス赤十字が首を縦に振るとは思えんが」


347 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:13:32.27 ID:GZXfwDir0
「振ります。いついかなる場合でも、
マインドスイープには『本人』の意思許諾が必要になるはずです。
今回の協力は、本人の強固な意思による、自主的な要望です」

「解せんな……」

別の老人が押し殺した声を発する。

「だが……君がフランソワーズ君を使って治したい患者とは一体誰だね?」

「話が早くて助かります」

そう言ってから、圭介は資料をテーブルの上に放った。

「患者の名前は白坂純一。重度の自殺病を発症し、現在七日目。
放っておけばあと一両日中に死に至ります」

「しかし……」

そこで黙って聞いていた医師の一人が口を開いた。


348 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:14:21.92 ID:GZXfwDir0
「他にも重篤な患者は多数いる。
高畑医師、あなたが今仰った患者は、私達が知らない一般外来の患者だ。
ここは赤十字病院に急患で運び込まれた患者を優先すべきではないのか?」

「……私に、あなた方に合わせる道理はないわけでして」

「口が過ぎるぞ!」

ドン、とテーブルを叩いて別の医師が怒鳴り声を上げる。

「……先程も言った通り、協力者である
フランス赤十字のA級マインドスイーパー、
フランソワーズの自由意志を尊重した結果です」

圭介がゆっくりとそう言うと、
せせら笑うようにテーブルを叩いた医師が言った。

「どうせお前の誘導だろう!」

「静粛に」

そこでジュリアが手を叩いて場の注目を集めた。


349 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:15:09.63 ID:GZXfwDir0
「世界医師連盟の承諾も、既に取り付けてあります。
高畑医師のチームに、まず私達は協力することになります」

「何だと!」

医師達が色めきだった。

明らかに敵意を向けている者もいる。

「モグリ医者風情が、我々よりも優先されるというのか!」

医師の一人が大声を上げると、それに同調する声が次々に上がった。

圭介はそれに興味が無さそうに小さく欠伸をすると、
鞄からiPadを取り出した。

そして電源をつけて、表示されたカルテに目を通す。

「失礼。最近は紙のカルテですと偽装される恐れがありましてね。
世界医師連盟から、今回の患者に関しての資料は
全てデータで送られてきています」


350 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:15:46.33 ID:GZXfwDir0
周囲のざわめきを完璧に無視して、圭介は続けた。

「白坂純一、四十五歳。重度の不眠症を患っている患者です。
投薬により眠りを深くし、
いわゆる『夢』を見ないように調整されているそうです」

「統合失調症の治療薬を投薬されているのか?」

元老院の老人がそう問いかけると、圭介は頷いてカルテを読み上げた。

「強度のジプレキサなどが投薬されていますね。
抗鬱剤に加え、ハルシオンなども試されているようです。
レム睡眠状態を抑えるためだと思われます」

「一応聞いておこう。この非常事態に、何故その患者なのだね?」

落ち着いた声の老人に聞かれ、圭介は一拍おいてからiPadをテーブルに置いた。

「この患者は、対マインドスイーパー用の精神防壁構築訓練を受けている、
『初期治療』の生き残りです」


351 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:16:29.53 ID:GZXfwDir0
彼がそう言うと、驚きのざわめきが広がった。

戸惑った声で老人がそれに返す。

「何だと……? ということは、赤十字病院の『実験』の……?」

「そうなりますね」

興味が無さそうに言って、圭介はカルテにまた視線を戻した。

「外部に漏れると困る話だとは思いますが……
恐れながら、元老院のご老人方や日本赤十字病院の方々は、
これから慎重に発言された方が良い。
私は世界医師連盟の依頼で動いています」

そう言って圭介はiPadを操作した。

そして全員に見えるように、画面を表に向ける。

通話中のアイコンが点滅していた。


352 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:16:58.67 ID:GZXfwDir0
それを見て、場の全ての空気が止まった。

今までの会話は全て、
どこの誰かと分からない人に対して流されていたことになる。

いや。

分からない人ではない。

医師も、元老院の老人達も、全員が察した。

「……申し遅れましたが、世界医師連盟の会長、
ゴダック・アルバート氏と通話が繋がっております」

圭介は薄ら笑いを浮かべてそう言ってから、iPadの画面を見えるように、
スタンドでテーブルの上に立てかけた。

「さて……話し合いを続けましょうか」


353 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:18:29.18 ID:GZXfwDir0


★Karte.18 大きくなる薬、小さくなる薬★



「高畑汀と片平理緒はまだ意識が戻らないの?」

不安げにそう問いかけられ、圭介は松葉杖を鳴らしてから答えた。

「汀はさっき目が覚めた。しかしダイブできるかどうかは危ういな……
夢傷(むしょう=夢の中で傷ついた場所が、痣になったり皮膚が裂けたりすること)が
体中に開いてる。精神の傷つきようがかなり強い」

「片平理緒は?」

「集中治療室に移動させた。もう、意識は戻らないかもしれないな」

淡々とそう言った圭介を睨みつけ、ソフィーは押し殺した声を投げつけた。

「あなたは人間じゃない……高畑汀と片平理緒が可哀想だわ!」


354 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:19:03.61 ID:GZXfwDir0
「可哀想? 何がだ?」

圭介は壁に寄りかかって息をつき、鼻を鳴らした。

「俺は自由意志を尊重しているだけだ。君達マインドスイーパーには、
何一つとして強制したことはない」

「よく言うわ、詭弁よ! 私達が子供であることをいいことに、
あなたは自分にされたことと同じことを返しているだけよ!」

ソフィーに刺すように言われ、圭介は口をつぐんだ。

そしてポツリと、小さな声でそれに返す。

「ああ……そうかもしれないな」

「…………」

言葉を飲み込んだソフィーに資料を投げて渡し、
圭介は軽く咳をしてから言った。


355 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:19:30.24 ID:GZXfwDir0
「とりあえず、汀に会わせよう。
同じ現役マインドスイーパーの君の方が、
あいつがダイブ可能かどうか判断できそうだ。
どうも……俺にはよく分からない」

「分からない……?」

「ああ。俺にはどうも、君たちのことはよく分からなくてな」

自嘲気味にそう言って、
圭介は松葉杖をついて病室の外に向けて歩き出した。


356 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:20:22.88 ID:GZXfwDir0


汀は、腕中にいくつも点滴を刺され、
鼻にカテーテルを深く差し込まれた状態で、ぼんやりと宙を見ていた。

しばらくして、病室のドアが開いて圭介が入ってきたのを見て、
言葉を発しようとして失敗する。

鼻から入ったカテーテルが喉に到達しており、
喋ることができなくなっているのだ。

「また吐くぞ。落ち着け」

圭介に言われて、汀は息をついた。

体中に膏薬が貼り付けてあり、包帯には血が滲んでいる。

交通事故に遭った後のような無残な姿になっている汀を見て、
ソフィーが息を飲んだ。


357 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:21:02.77 ID:GZXfwDir0
「酷い……」

そう呟いて、彼女はキッ、と圭介を睨んだ。

「ダイブできるわけないじゃない! 
彼女は重病人よ、夢傷に冒されすぎてる!」

「見ただけでよく分かるな。さすが天才は違う」

「からかわないで! どういう神経してるの!」

ソフィーが無事な右手を伸ばして、
視線を向けようとしない圭介の服の袖を掴みあげた。

「あなたこの子の保護者でしょう! 
私は、彼女にダイブを強制するようなら、
医師連盟にありのままを報告するわよ!」

汀が、そこで軽くえづいて指を伸ばした。


358 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:21:30.54 ID:GZXfwDir0
圭介がiPadを操作してあてがうと、
汀は表示されたキーボードを指で操作し始めた。

程なくして彼女の意思を表示する書き込みが出来上がる。

『ダイブできるよ。次の患者は?』

「何を言ってるの!」

ソフィーがヒステリックに叫んで、
汀に覆いかぶさるようにして大声を上げた。

「拒否権を行使しなさい! このままじゃ、あなたは殺される!」

『私はダイブできる。精神世界なら、普通に動ける』

「そういう問題じゃ……」

『邪魔をしないで』

表示された言葉を見て、ソフィーは口をつぐんだ。


359 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:22:09.05 ID:GZXfwDir0
そして圭介の服から手を離し、疲れたように椅子に腰を下ろす。

「……邪魔をしているわけじゃないわ。気に障ったなら、謝る」

『心配してくれてありがとう。でも動けるから、大丈夫』

時間をかけて文字を入力し、汀は圭介の方を見た。

『痛み止めをちょうだい』

「これ以上は投与できない。眠れなくなるぞ」

『いいよ』

「駄目だ」

端的に汀の言葉を打ち消し、圭介はため息を付いて頭をガシガシと掻いた。


360 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/11/30(金) 19:22:55.85 ID:GZXfwDir0


お疲れ様でした、次回の更新に続かせていただきます。

ご意見やご感想などがございましたら、
お気軽にお書き込みください。

それでは、今回は失礼させていただきます。


361 名前:NIPPERがお送りします(長屋) [sage] 投稿日:2012/11/30(金) 19:37:35.55 ID:vAY7XZffo
お疲れ様です。

待ってて正解でした。


362 名前:NIPPERがお送りします(長屋) [] 投稿日:2012/11/30(金) 22:14:26.11 ID:jpG6LboX0


相変わらずのクオリティーだなあ
SSと呼ぶはもったいない気がする




363 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2012/11/30(金) 23:18:03.50 ID:boMPi5UDO
お疲れ様です。
汀ちゃんがボロボロになっていく…


364 名前:NIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage] 投稿日:2012/12/01(土) 09:37:20.64 ID:2KxvR9YAO
乙乙!待ってました。

相変わらずのテンションとクオリティ。相変わらずの高畑節。こいつのマイペースはとどまる所を知らないな。



どうか体調にだけは気をつけて。続きが楽しみだけど、やな予感しかしなくて怖い怖い怖い。



367 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/12/05(水) 19:06:23.54 ID:BzAlnxIH0
こんばんは。

小出しになってしまい申し訳ありません。

続きが書けましたので、投稿させて頂きます。

お楽しみいただけましたら幸いです。



次へ 戻る 上へ