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侍「言葉が通じなくとも」
- 506 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga]
投稿日:2011/08/03(水) 22:55:28.46 ID:zybZD67AO
―妖怪、物の怪、魔物
人に仇為す存在達の中には、人間が生み出した者がいる
人が憎悪怨恨から人間を辞めて魔物となったもの
人が呪術的に魔物にされたもの
そして、人間の心が生み出したもの
恐怖、憤怒、悲哀、絶望……
心に強大な闇が生まれた時、それは形を為し魔物となる―
- 507 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 23:11:39.54 ID:zybZD67AO
最初の犠牲者、成人男性
彼はある村娘に恋をしていた
幼い頃から想いを募らせ、今日こそ伝えようと意気込んでは寸前で躊躇う日々が続いた
そんなある日、彼は村娘から結婚する事となったと告げられる
不思議と、哀しさは感じなかった
何故なら、哀しさは既に彼の胸を引き裂いて出て行ってしまっていたから
- 508 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 23:31:11.52 ID:zybZD67AO
警備員二人が殺された夜
二人は集会所の入口を見張っていた
消耗の激しい深夜の警備である
交代は頻繁に行われ、当番の時間はさほど長くはなかった
が、当番が回ってくるたびに夜は深くなり、闇への恐怖が肥大化していった
二人はとにかく話をした
家族の事、仕事の事……
いい狩場が見つかったから今度行こう、などと最大限明るく振る舞った
- 509 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/03(水) 23:36:35.72 ID:zybZD67AO
ここまでくれば事件の真相は見えましたね
明日こそ小天村編終わらせます
おやすみなさい
>>502
私も貴方のスレ読んでます
楽しませてもらっていますよ
- 510 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage] 投稿日:2011/08/03(水) 23:44:19.60 ID:zybZD67AO
冷静に考えてみたら、このオチは意外でもなんでもなかった
無念
- 511 名前:NIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage] 投稿日:2011/08/03(水) 23:53:21.17 ID:J+ljHK4q0
>>510
それが心に響くんだから
文学ってすげえよな
- 517 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/05(金) 22:40:58.55 ID:Nsag97pAO
見張りの二人は会話を弾ませる
だが、心は全く躍らない
気を紛らわせようとすればする程、感覚は研ぎ澄まされ鋭敏になっていく
――今にも犯人が襲いかかってくる画が浮かぶ――
その妄想に、表面上の明るさで蓋をした
もう、お互い何を話しているのか判らなかった
- 518 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/05(金) 23:13:44.78 ID:Nsag97pAO
気がつけば二人は「気配」に囲まれていた
宵闇から二人を眺める目、目、目……
隙あらば足を引きずり込まんと伸びてくる手
疑心暗鬼に取り憑かれ、自分の影にすら悪意を感じる
と、耳元で何かが囁く
「後ろにいるのは誰だ?」
二人は殺人犯の存在を信じた
同時に、二人は最期を迎えた
- 519 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/05(金) 23:39:50.41 ID:Nsag97pAO
では、幼い子供は何故死ななければならなかったのか
……
子供と母親は血が繋がっていない
父親の再婚相手、つまり継母である
子供の実母は産後の肥立ちが悪く、病気を患い亡くなった
妻の早逝に、父親は酷く落ち込んだ
その反動からか、妻の忘れ形見である子供を溺愛するようになった
自分の事が疎かになる程に
- 520 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 00:03:38.58 ID:0514IdQAO
やがて、父親は家に籠もりきりになった
訪ねていってもまともに応対もせず、話しかけても上の空
そんな父親を心配する反面、村人達は鬼気迫るものを感じ近寄らなくなっていった
そんなある日
日に日にやつれていく父親のもとに、ひとりの女がやってくる
後の再婚相手、母親である
- 523 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 21:53:28.32 ID:0514IdQAO
〜〜
オギャア オギャア
母親「おしめなら私が替えますから、貴方は身体をお風呂に入って下さい!」
父親「うるさい! 勝手にひとの家に上がりこんで、俺の子供に何をする気だ!」
母親「おしめを替えるだけです!」
オギャア オギャア
母親「ほら、お父さんが臭いってお子さんも泣いてますよ?」
父親「なッ、この」
母親「ほら、湯浴みの準備ならできてますから」グイグイ
父親「く……」
- 524 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 22:00:43.63 ID:0514IdQAO
……
父親「ほーら、ベロベロバー!」
アー、ウー
父親「ベロベロベロー、バー!」
アー、キャッキャッ
母親「ご飯、できましたよ」
父親「……」
母親「冷めない内に食べて下さいね」
父親「……」
母親「また、夕方来ますから」
父親「……」
- 525 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 22:21:34.60 ID:0514IdQAO
……
「ちょっとアンタ」
母親「はい、何ですか?」
「あの男の所に出入りするのは、もう止めな」
母親「……何故ですか?」
「あの男、奥さんを亡くしてから様子がおかしいだろ? 村中で気がふれたって評判さ」
「そんな奴に良くしてやっても、みんな訝しむだけさ。アンタまで頭がおかしいとか言い出す奴もいるし……」
母親「……」
- 526 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 22:33:36.16 ID:0514IdQAO
…………
父親「おー、よしよし」
アー、ダー
母親「……」
父親「ふいっ、ふいっ」
アー、ウー
母親「……」
父親「……」
父親「毎日毎日、じっとして……何のつもりだ」
母親「あ、やっと話しかけてくれましたね」
父親「……」
- 527 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 22:38:28.55 ID:0514IdQAO
…………
「まだあいつの所に行ってるのかい」
母親「ええ」
「アンタが貧乏くじ引く事はないんだよ、悪い事は言わないから」
母親「大丈夫」
「……は?」
母親「昨日ね、あの人から話しかけてくれたの」
「ちょっと……何を」
母親「大丈夫、大丈夫だから……」
- 528 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 22:43:32.34 ID:0514IdQAO
…………
母親「おはようございます」ガチャ
父親「……」…ギュ
母親「あれ、靴なんて履いて……買い物ですか?」バタン
父親「……畑に行ってくる」スタスタ
母親「……畑に?」
ガチャ
父親「子供を頼む」
母親「え……」
バタン
- 529 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 22:47:40.81 ID:0514IdQAO
………………
母親「あんよは上手、あんよは上手」
ア……ウーウ
母親「ほら、がんばれーがんばれー」
父親「……」
母親「おいっちにーさんしー」
- 530 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/06(土) 23:49:03.75 ID:0514IdQAO
……………………
来る日も来る日も、母親は父親の所へ通い続けた
最初は無反応だったり、癇癪を起こしていた父親だったが、一年が過ぎた頃には無愛想極まりない返事をするようになっていた
父親は、自分の閉ざしていた心が少しずつ開かれるのを感じていた
母親も、その変化をつぶさに感じ取っていた
人と言葉を交わす事、家の外に出る事
人を信じる、ということをする事
それは、最愛のひとを亡くした哀しみから立ち上がろうと苦しみ、もがいて、一歩ずつ進んでいるように見えた
- 531 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 00:12:47.94 ID:aemYEj+AO
いつしか、二人は互いを意識するようになっていた
しかし、父親は彼女が「自分達の境遇に同情して世話を焼いている」と思い、素直に好意を受け入れられなかった
また、父親は今も亡くなった妻を愛していた
母親も彼が未だに妻を愛している事を知っていた
また、「滅入っている男に取り入る女」と思われるかと思うと、もう一歩が踏み出せなかった
- 532 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 00:18:13.10 ID:aemYEj+AO
…………………………
――ドカッッ
母親「な、何!?」
「お前か! ウチの娘を誑かす不届き者はッ!」グイッ
父親「ぐッ!?」
母親「お父さん! 違うの! 私は……」
「お前は黙っていろ! 話があるのはこの男だ!」
- 533 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 00:28:03.63 ID:aemYEj+AO
父親は言い訳できなかった
妻への想いがあるのに、一年以上も彼女の好意に甘えていた自分がいた
どうしようも無く腑抜けていた自分に、立ち直るきっかけをくれた彼女への想いがあった
そして、その好意を「彼女が勝手にやった」などとは絶対に言えなかった
「歯を食いしばれ……!」
父親「……ッ」
母親「聞いて! お父さん! 私は……彼を愛しているの!」
- 534 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 00:44:49.39 ID:aemYEj+AO
父親「!」
「な……お前、本当にこの男を?」
母親「本当よ! 私達は愛しあっているの!」
母親の口から放たれる「嘘と真」
真実を述べても嘘になる
父親「聞いての通りです! 僕と娘さんは愛し合っています!」
「そ……うなの、か」
何故なら、二人はこの修羅場に紛れて想いを述べただけだから
それは、とても臆病な愛の告白
他の誰が信じようが、二人にとってその告白は、その場しのぎの嘘に変わってしまう
二人は夫婦となった
だが、互いに心を隠したまま、愛を伝えぬまま時だけが過ぎていった
- 535 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 01:05:38.70 ID:aemYEj+AO
子供は哀しかった
二人が結婚して正式な家族になったというのに、以前よりもギクシャクしていたからだ
取り繕った会話
温もりのない食卓
笑顔のない家庭
まだ、二人が結婚していなかった頃
そこには家庭の暖かさがあった
無愛想に振る舞いながらも愛情溢れる父親と、明るく振る舞いながらも静かに見守る母親
子供は、そんな二人が好きだった
そこには、確かに愛があった
- 536 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 01:15:48.23 ID:aemYEj+AO
〜〜
父親「……俺はいつだってそうだ。失って初めて大切なものに気づく」
母親「私も……あなたを知れば知る程わからなくなって、一番近くにいるのに一番遠かった」
光が溶けると、悪鬼と化していた父親の身体は、もとに戻っていた
母親「でも……」
父親「……」
母親「もし、私達の為にあの子が死んだというなら……」
ギュッ
父親「言うな……!」
父親「……言わないでくれッ」ポロポロ
母親「――――ッ」ポロポロ
- 537 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 02:10:20.90 ID:aemYEj+AO
恐怖「オオオオオォォォ――――……ン」
大気に光が溶けると共に、恐怖もまた、虚空へと消えていった
中年男性「や……やったのか?」
短髪男「そうとも! 俺達があの魔物を倒したんだ!」
「いや、それは違う」
壮年男性「……団長?」
団長「あの魔物は我々が生み出したもの。魔物は……常に我々の心にいる。それを忘れてはならん」
- 538 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 02:55:32.74 ID:aemYEj+AO
いい文が浮かばないので寝ます
明日こそ…明日こそまとめるぞ
おやすみなさい
- 539 名前: [sage] 投稿日:2011/08/07(日) 03:01:44.74 ID:O6ZlcV/AO
泣きそうでござる
おつです。
- 541 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 15:52:53.53 ID:aemYEj+AO
……
司祭「では、最後の別れを……」
少年「うう……にいちゃん……」
自警団「お前達の事は……忘れない」
母親「……ごめんね」
父親「……うっ、グスッ」
魔物達が消え、三日間の惨劇は幕を閉じた
村人達は各々の家に戻る前に、今回の事件の犠牲者の葬儀を行う事にした
長老「送り火をつけるぞ、ほら、離れて……」
母親「嫌っ、駄目できない!」バッ
長老「こ、これ」
おばさん「長老、もう少しこのままで……」
長老「…………わかったよ」
- 542 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 16:19:46.77 ID:aemYEj+AO
パチ……パチ…………
橙色に輝く大火を後目に、少女と侍は村を後にする
死者を送る炎は煌々と燃え、立ち上る煙は天へと消えてゆく
少女『ねぇ、お兄さん』
侍『……』
少女『どんなに悲しくて、どんなに理不尽な事があっても……私達は、乗り越えていかなきゃいけないのかな』
侍『……』
侍に問いかけながらも、その言葉は少女自身に投げ掛けられていた
少女は心が強い
どんな理不尽や苦境で傷付いても、それを自身の財産にできる強さを持っている
だからこそ、時に他人にもその強さを求め過ぎているのではないか、と思うのだ
- 543 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 16:26:57.56 ID:aemYEj+AO
小天村を襲った奇妙で悲しい事件
それは村人達の心の闇を浮き彫りにし、消えない傷痕を残した
――ポン
少女「―っ!」
侍「大丈夫」
少女の頭を撫で、侍がもう一度
侍「大丈夫だ」
と、言った
橙色の灯りに煌めくその瞳は、小さな村の未来を見つめていた
- 544 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 16:47:51.82 ID:aemYEj+AO
―流通網から外れた辺境の地に、小さな小さな村がある
村の名は小天
村は決して豊かではなかったが、村人達は慎ましくも健やかに暮らしていた
そんな小さな村が、ある時悲劇に見舞われた
伝承によると、「人の心に棲む魔物」が現れ、次々と村人を襲ったという
四人の尊い命を失いながらも、村人達は三日目に魔物の退治に成功する
だが、村人達は暗雲たる気持ちで一杯だった―
- 545 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 16:51:09.79 ID:aemYEj+AO
「お、おい! あれを見ろ!」
「え!? 送り火が……」
「まだ燃えている……!」
母親「あなた……!」
父親「ああ……あの火はきっと……」
- 546 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 17:02:44.43 ID:aemYEj+AO
=小天の贈り火=
小天という村には、決して消えない火がある
村人達はその火を、死者からの贈り火だという
そして、村人達は口々に言う
「あの火から声が聞こえるんだ」
「君は独りじゃない」
「生きろ、精いっぱい生きろ」
「恐れるな、心を強く持て」
「僕の……私の分まで幸せになって」
小天村には、今日も心の闇を照らす火が煌々と輝いている
- 547 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [saga] 投稿日:2011/08/07(日) 17:05:44.45 ID:aemYEj+AO
――――大丈夫、大丈夫だから
少女『え――』バッ
侍『―?』
少女『ううん、何でもない!』タタタッ
- 548 名前:NIPPERがお送りします(新潟・東北) [] 投稿日:2011/08/07(日) 17:10:13.65 ID:aemYEj+AO
小天村終わり
長々と停滞してすみませんでした
夜から次の話に入ります
ようやく500かあ
- 549 名前:NIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage] 投稿日:2011/08/07(日) 17:28:40.92 ID:O6ZlcV/AO
惜しみない賞賛を
おつです。
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