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少女「水溜まりの校庭でつかまえて」
105 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:21:39.65 ID:fJ2jl6pYO
僕「……変な夢」

太陽がまぶしい通学路の途中、僕は一人言を呟いた。

昨日彼女に聞いた通りの、夢の内容。

見えたシーンは細かく違ったが……頭の中で記憶が整理された証拠なんだろうか。

難しい事はよくわからないけど……一つだけ覚えている事がある。

僕(雪が降るまで、一緒に……)

この言葉が、僕の頭にずっと引っ掛かっていた。


107 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:29:30.24 ID:BDomscUS0
このシリーズ好きだわ


108 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:29:34.35 ID:fJ2jl6pYO
雪が降ったらなんだと言うんだろう。

雪がダメなら、雨でも十分ダメなんじゃないのか?

僕(それに……雪なんて殆ど見たことないよ)

僕は、生まれてから一度も雪が積もった景色を見た事がなかった。

この地域では、雪はほとんど降る事がない。

もし降ったとしても少量の粉雪程度で……その粉雪ですら、毎年降るか降らないか微妙な所なんだ。

僕(だから、そんな事気にしないでいいのに)

僕は、泣いていた女の子に語りかけるように心の中で呟いた。

そして何より、学校に着くと……そんな呟きさえ忘れてしまうくらいの事件が僕を待っていた。


109 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:36:24.95 ID:fJ2jl6pYO
僕「おは……」

「おお〜っ! 幽霊に取りつかれた僕くんが来たぞ!」

教室に入って一番に聞こえたのは、例のガキ大将のバカみたいにデカイ声だった。

声の大きさもそうだが、話の内容に僕は戸惑ってしまう。

「なあなあ、昨日校庭で誰と話していたんだよ! なあ!」

容赦なく、大きな声が僕を追い詰める。

僕「え……な、なにが?」

話が全く見えてこない。

「昨日誰かと話してたろ! 俺、見ちゃったんだってば!」


110 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:41:23.53 ID:fJ2jl6pYO
「学校の近くを通ったらさ、お前が一人で校庭にいるじゃん! で、ちょっと近付くと……何か誰かと話してたろ!」

僕「……」

校庭の真ん中辺りなので、たしかに僕の姿を目視するのは簡単だろう。

「俺、門の近くからこっそり聞いてたんだけどさ! 明らかに女の子の声がするんだもん!」

僕「……」


111 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:45:04.30 ID:fJ2jl6pYO
水溜まりの中に、二階教室のベランダを捉えるためには……覗き込む角度をちょっと変える必要があった。

そこにちょうどいい位置となると……確かに、正面の門にやや寄る形となる。

僕(すぐ後ろに、いたのか)

「なあ、あれってやっぱり七不思議の幽霊か!」

「え〜僕くん幽霊と話してるの」

「やだ、怖い……」

「とりつかれそう〜……」

「なあ、どうなんだよ! 言わないとこれから幽霊って呼ぶぞ!」


112 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:49:49.34 ID:fJ2jl6pYO
僕(知らないよ、そんなの……)

周りからは、よくわからない声がずっと鳴っている。

窓の向こう、ベランダにいる彼女も……これを見ているんだろうか。

ずっとそこにいるって言ってたから、多分全て見て聞いているんだろう。

僕には彼女の姿は見えないけれど、以前話した時みたいに……無邪気な笑顔で僕を見ていない事だけはわかる。

僕(友達が欲しい……それだけじゃないのかよ)

こいつらに彼女の気持ちなんて、絶対にわかりっこないんだろうな。


113 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 22:55:58.20 ID:fJ2jl6pYO
僕は何も言い返せないまま、席に座った。

何を言えばいいのかわからない、そして何より……ベランダの向こうから痛々しいくらいの視線を、僕は感じた。

彼女はじっとこちらを見ているんだろう。

その表情は泣きそうなんだろうか、いや、泣く事には飽きたって言ってたから……。

何も言えなかった僕を、恨めしそうに見ているんだろうか。

それとも霊をバカにしたクラスメイトたちを睨み付けているんだろうか……。

僕(ああ、あの女の子がいれば、彼女に話してもらう事ができるのに)

机に突っ伏した僕は、真っ白な頭の中でそんな事だけを考えていた。


114 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:01:26.19 ID:fJ2jl6pYO
女「……ねえ、僕ちゃん。僕ちゃん」

女に肩を揺すられ、僕は顔を起こした。

女「よかった、泣いてはいないんだ」

見ると、周りには女の他にも……数人の友達が僕の机に集まっていた。

彼らは僕を助けてくれるグループらしい。

僕はちょっとだけ安心をした。

たった数分、一人ぼっちになっただけでも僕の心は折れてしまいそうだった。

十七年も一人でいた……ベランダにいる彼女の事が、また気になってしまう。


115 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:06:49.75 ID:fJ2jl6pYO
僕「……ちょっと、暑い」

そう言って、僕は窓を開けベランダに出ていった。

冬の空気が僕の頭を冷やしてくれる。

ストーブの機械が音をたて、ゴウゴウと揺れ動いている。

ガスのような匂いがする。

僕はその匂いと冷たい風に包まれながら……手すりに両腕をのせた。

隣にいる彼女は、今どういう格好でここにいるんだろう。

僕に彼女の姿を見ることはできない。


116 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:10:37.04 ID:fJ2jl6pYO
僕「……怒った? ごめんね」

僕は誰もいないベランダで会話を始めた。

確かに、この姿だけを見られたら変に思われるかもしれない。

でも、隣には彼女がいて僕の話を聞いている。

何も変な事はない。

僕「ひどいよね、人を幽霊扱いしてさ」

僕「僕は、君の事は何も知らない。あいつらだってそうだよ、君がどんなに可愛くていい子かだって……」


117 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:15:57.70 ID:fJ2jl6pYO
僕「それがわかれば、絶対あんな事言わないはずなのにね」

当然……声は返ってこない。

僕「……ねえ、みんなの前でお話していい? 君は水溜まりの中にいて、こんなにも可愛く笑うんだって」

僕「……」

僕「ダメかな?」

返事はないとわかっているのに、つい疑問形を使ってしまう。

……でも、聞かないでも答えはわかっている。

多分、彼女は嫌だと答えているだろう。

確証なんてないけれど……。


119 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:20:08.17 ID:fJ2jl6pYO
僕「……そろそろ授業だから戻るよ。また雨が降ったら」

そう言って、窓を開けようとした瞬間……ギッと枠の金属が嫌な音をたてた。

僕「……」

開かない。

鍵は閉まっていないのに。

それとも立て付けが悪くなったんだろうか、何か強い力に押さえ付けられているように……教室への窓は開かなくなっている。

僕「……気持ちはわかるけどさ」


120 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:28:13.88 ID:fJ2jl6pYO
僕は後ろを向かずに話し続けた。

僕「僕は教室に戻らないと……また昼休みになったら来るからさ」

僕「だから、お願い。こんな事しないでよ……」

……スッと押さえ付けられていた力が消え、僕は教室に入る事ができた。

僕は鍵を閉めないまま、机に戻ろうとしたが……。

カチャリ。

後ろでは、誰かが鍵を閉めた音が確かに聞こえた。

あの鍵は、次に僕が開けるまで……絶対に開かないだろう。


ストーブで暖められた部屋なんかよりも……。

彼女と一緒に過ごす、少し寒いくらいの空間の方が幸せだと感じたのは、僕も彼女も同じらしかった。

僕たちは窓一枚を隔てて、また別の空間で過ごし始めた。


121 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:40:36.44 ID:fJ2jl6pYO
……それから何日かは、ベランダで一人言を呟く日が続いた。

雨が降らなかったのが一番の理由だ。


女「ねえ僕ちゃん、コンビニ寄ってこうよ」

僕「ま、また? もうこれで五日間連続だよ?」

女「いいの! 今日はピザまんの日だよ!」

僕「……た、たまには駄菓子屋さんでいいじゃん」

女「私、甘い味とかって苦手だもん。駄菓子屋さんは今度にしようよ」

僕「……いつも今度今度って、結局一回も行かないじゃん」

女「いいの! 本当にいつか行ってあげるから、今日はピザまん食べよ!」

僕「ちぇ〜……」


122 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/12/23(木) 23:47:12.93 ID:fJ2jl6pYO
雨が降らない、会話ができない、会う事ができない。

今月は、最後に会った日以来雨が降っていない。

ベランダで話しても、会話は僕の一方通行。

そして、女と一緒に中華まんを食べる日々。

僕は冬の中で、少しづつ彼女の事を忘れていた。

あと三日もすれば、学校は冬休みに入ってしまう。

一応、週間天気予報はチェックしていたが雨のマークは見当たらなかった。


女「早く行こうよ〜」

僕「ま、待ってってば」

そして、冬休みが始まると僕は彼女に会う事すら考えなくなっていた。



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