■戻る■ 下へ
少女「それは儚く消える雪のように」 2
- 1 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga]
投稿日:2012/03/20(火) 00:47:00.69 ID:WAbTKaZT0
オリジナルのロボット系小説です。
2スレ目になります。
前スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1329739172/
前Wiki:http://ss.vip2ch.com/jmp/1329739172
新規の方も大歓迎です。
4話の続きからとなりますので、1スレ目からお読み頂いた方が
お楽しみいただけるかもしれません。
これまでお世話になっていた方々も、引き続き
お付き合いいただければ幸いです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1332172020(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
- 2 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 00:52:28.67 ID:WAbTKaZT0
意識などしていなかった。
「笑ってなんかいないさ……」
絆は、聞こえるか聞こえないかの声でそう呟いた。
「本当、笑えない冗談だよ……」
こみ上げてくるものを押し殺し、
彼はまた料理にナイフとフォークを立てた。
カチャ、カチャと音を立てて食事を再開した絆に、
優が泣き顔を向ける。
「……戦闘で死んだの? 命……」
「ああ。俺を庇って、死星獣の攻撃を受けて死んだ」
絆の隣で、霧が完全に動きを止めた。
- 3 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 00:53:23.06 ID:WAbTKaZT0
彼女を貫かんばかりに睨みつけて、
優が引き絞るように言った。
「何してたの、あなた……」
「…………ごめんなさい」
「謝られたって分かんないよ。どうして絆が怪我をして、
命が死ななきゃならないの? あなた優秀なんでしょ?
私達よりも強いんでしょ? どうして守れなかったの?
何であなただけ無傷なの!」
優に怒鳴られて、ますます霧が萎縮する。
絆が、そこで静かに優に言った。
「霧はよくやった。俺のことを助けてくれたんだ。
こいつを責めることは許さない」
「でも……!」
- 4 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 00:56:11.58 ID:WAbTKaZT0
「命は役目を全うしたんだ。
立派なことじゃないか。褒めてやろうよ……な?」
やるせない気持ちになった。
絆の言葉が尻すぼみになって消えるのを聞いて、
優は口をつぐんだ。
彼女は俯いたまま小さく震えている霧を見て、
歯を噛むと乱暴にフォークとナイフをテーブルに置いた。
「……いらない。食べてる気分じゃない」
そこでやっと、文が顔を上げた。
そして彼女は涙でズルズルの顔で、
絆に向かって緩慢に手を動かした。
『雪ちゃんは……どうしたんですか?』
- 5 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 00:56:51.39 ID:WAbTKaZT0
「まだ安定しなくて、あと五日は病院を出れない。
でもまだ大丈夫だ。安心しろ」
『戦闘には出れなかったんですか?
どうして命ちゃんが死ななきゃいけなかったんですか?』
……絆の方が、その答えを知りたかった。
どうして命が死ななきゃいけなかった。
どうして、俺は何も出来なかった?
ただコクピットの中で震えているだけで。
駈の言葉に、何を言い返すことも出来なかった。
ただ、俺は。
従っていただけだった。
「…………」
- 6 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 00:57:28.98 ID:WAbTKaZT0
しばらく沈黙してから、絆は手を止めて、
料理に視線を落としてから言った。
「さぁな…………俺もよく分からん」
正直な、絆の今の気持ちだった。
それを察してか、それとも別のことを考えてか、
文が動かしかけていた手を止める。
絆はナイフとフォークを置いて、
手を止めているバーリェ達を見回した。
そして手を上げてウェイターを呼ぶ。
「……帰ろうか。何だか俺も、もういいや」
- 7 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 00:58:22.16 ID:WAbTKaZT0
*
すっかりラボも広くなった気がする。
一番手がかかる雪は今、入院中でいない。
ラボの家事を担当していた命は死んだ。
騒がしかった愛も、もう相当前にいなくなっている。
霧はいまだに優、文とは馴染むことが出来ないようで、
絆の部屋で一人で眠っていた。
戦闘を終えて一人だけ無傷で帰ってきたことに対する、
優の反応が全てだ。
霧が悪いのではない。
……悪いのではないのだが、そのような「理屈」で
片付けられない感情論が存在していることも、
絆は理解していた。
- 8 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 00:59:55.13 ID:WAbTKaZT0
優と文は、帰ってから薬を飲み、
すぐに寝室に入っていってしまった。
泣いたことで、だいぶ体力を消耗したらしい。
そうでなくてもバーリェは、力がない。
精神的負担がモロに体に出る顕著な例だった。
霧にも薬を飲ませて、絆の部屋に連れて行く。
しかし霧は、ベッドに腰掛けたまま、
俯いてじっとしていた。
横になろうとしない。
……正確に言うと、バーリェの薬の中に
入っている睡眠誘発剤には即効性はない。
効くまでに若干のタイムラグがあるのだ。
- 9 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:00:54.26 ID:WAbTKaZT0
「どうした? 寝ないのか?」
絆に聞かれ、霧はしばらく言い淀んだ後、
意を決したように彼に言った。
「マスター……お話があります」
「ん? 何だ?」
椅子に腰掛けて、彼女と同じ目線になる。
霧は自分の胸を手でさして、続けた。
「私のことについてです。マスターが、おそらく
ご存知ないことを、お話しようと思うんです」
「……俺が知らないこと? お前が、死星獣と
雪のハーフだってことか?」
さらりと口に出すと、霧は途端に苦しそうな顔になった。
- 10 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:01:36.22 ID:WAbTKaZT0
絆から視線をそらして、彼女は呟くように言った。
「……それもあります。ご存知だったんですね……」
「戦闘でお前のエネルギーを発射したが、
あれにはブラックホール粒子が含まれていた。
本部は隠そうとしていることだ。
だが俺でもそれくらいは分かる」
「…………」
「……で、それがどうかしたのか?」
問いかけられて、霧は
「え……」
と言って顔を上げた。
- 11 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:02:30.25 ID:WAbTKaZT0
「お前の中に死星獣と同じ血……かどうかは
分からないが、それが流れているとして、
だからどうした?
そんなことで、お前を俺が嫌いになると思うのか」
「マスター……でも、私はバーリェではありません。
正確には死星獣でもありません……全く別の個体です。
私は、化け物なんです」
そう言って霧は、唇を噛んでしばらく押し黙った。
そして息を吐いて、続ける。
「笑えますよね……自分の半分と同じモノを、
殺すために創られたなんて。
何が『優秀』だって、何が『効率的』だって、
そんな感じですよね……」
自嘲的に小さく笑い、霧は呟いた。
「蓋を開けてみれば、私はただの化け物でした……」
- 12 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:03:41.87 ID:WAbTKaZT0
「…………」
絆は少し沈黙した後、霧に向かって言った。
「霧、俺は思うんだ」
「…………」
「化け物っていうのは、そいつの『定義』で
決まるんじゃない。そいつの『力』で決まるんじゃない。
そいつが何をしたか、何を成したか、それによって
化け物かそうでないかが決まるんじゃないかって、そう思う」
「何を……したか?」
「ああ」
頷いて絆は続けた。
- 13 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:04:22.82 ID:WAbTKaZT0
「力を持っているからって化け物か
どうかが決まるんじゃないよ。問題なのは、
その力を何のために使ったかじゃないか?
お前は、俺を守ってくれた。俺はお前に感謝してる。
少なくとも……この世界中の皆が、お前のことを化け物だと
言ったとしても、俺一人だけは、お前のことを化け物ではないと
言ってやることが出来る」
「…………」
「それじゃ、いけないのかな」
絆の声は、どこか寂しそうな、廃退的な響きを含んでいた。
霧は顔を上げて絆を見ると、小さな声で聞いた。
「マスターにとって、私は化け物ではないのですか?」
「ああ。他の子と同じだよ」
絆は、軽く微笑むと手を伸ばし、霧の頭を撫でた。
- 14 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:06:34.31 ID:WAbTKaZT0
「……言ったろ? 俺はお前のことは、
大好きだって。嘘はないよ。
俺が口に出すことに、嘘はない」
繰り返して、絆は続けた。
「だから安心して、お前は『生きて』いればいいんだ……」
「…………」
霧がしゃっくりを上げて涙を零す。
両手で顔を覆った彼女の頭を撫でてやりながら、
絆は息をついた。
しばらくして霧が泣き止み、彼女は、
薬が効いてきたのか目をとろんとさせながら、
緩慢にベッドに横になった。
そして絆が毛布をかけてやろうとした手をそっと止める。
「どうした?」
- 15 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:07:21.32 ID:WAbTKaZT0
「もう……一つだけ……」
霧は眠気と戦っているのか、
ゆっくりとした口調で続けた。
「AAD七○一型……陽月王は、危険です
……私以外を、使わない方がいいです……」
「危険? どういうことだ?」
「あ……れは…………ブラックボック
……ス…………ひ、と…………」
霧が目を閉じて首を垂れた。
眠りに落ちてしまたのだ。
言葉の途中で話を切られ、
絆は首を傾げながら霧に毛布をかけた。
……陽月王が、危険?
- 16 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:08:48.70 ID:WAbTKaZT0
確かにブラックボックスは多いが、
操縦しているのはバーリェと自分だ。
危険なのは、日に日に凶悪さを増している
死星獣の方ではないのか?
そう考えて、針のようになって飛んできた、
あの死星獣のコアを思い出す。
……怖気がした。
小さく震え出した手を無理矢理に
ズボンのポケットに突っ込んで、絆は立ち上がった。
そして霧が眠っていることを確認して、
部屋の扉を閉めて、松葉杖を鳴らしながら階段を降りる。
優と文が、同じベッドで抱き合うようにして
眠っていることを確認する。
次はこの子達の番だ。
- 17 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:09:45.11 ID:WAbTKaZT0
そしてその次は。
その更に次は。
俺は、いつまでこの子達を殺せばいい?
黙って今に入り、ソファーに腰を下ろす。
テレビのリモコンのスイッチを入れると、
今まさに、夜中だというのに軍が少し離れた
スラム地区に攻撃をかけているところだった。
『アルカンスト地方に対して、
軍の攻撃が展開された模様です。
現場から十キロ離れた首都バルカントにて
中継をお送りしています』
……おおっぴらな放送で、人殺しの現場を中継している。
気分が悪くなり、絆はすぐにテレビの電源を切った。
- 18 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:10:41.44 ID:WAbTKaZT0
リモコンを隣のソファーに放り投げ、
だらしなく横になる。
足が痛い。
奥歯が痛い。
それ以前に、心が痛かった。
……絃はこれに耐え切れなくなったのかもな。
いまや世界中の反逆者となった元同僚のことを、
何となく思う。
彼がとった行動に賛同はできないが、理解は出来た。
そして理解が出来てしまう自分の、
本能的な悪意に、同時に唖然としたりもする。
絃のように思い切ることが出来たら、どれだけ楽だろうか。
- 19 名前:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY [saga] 投稿日:2012/03/20(火) 01:11:27.59 ID:WAbTKaZT0
いや……思い切っても。
ひょっとしたら、楽な未来なんて
どこにもないのかもしれない。
だとしたら……俺は。
俺は、どうすればいい。
何を考え、何を成して、
そして何とどう戦っていけばいい。
考えても、誰も答えてくれるわけではなかった。
そこで、突然テレビの電源が勝手についた。
衛星電波を高感度で受信するテレビだ。
――電波ジャック。
次へ 戻る 上へ