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魔女「果ても無き世界の果てならば」
781 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:27:44 ID:cuS1vHJs
更新します



782 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:29:37 ID:cuS1vHJs


魔法使い「絶対に呑まれてたまるか……。 確かに世界は、悲しみに溢れてる。 でも、きっと……」

魔法使い「勇者が、みんなが護ろうとしている世界が滅びるべきなんて間違ってるッッ!!」


 冷え切った身体に暖かい物が触れる。

 それはまるで手を引いてくれているようだ。


783 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:30:35 ID:cuS1vHJs
 『大丈夫』

 『世界は美しい』

 『ありがとう』

 『護りたい』

 これは、世界の根底……誰かを愛する優しい気持ちの集合体だ。

 暖かい。

 優しい声。

 力強い声。

「戻ってこい」

 意識が緩やかに微睡んでいく。

 極寒の闇の中に、優しい光が灯る。

 それは、徐々に明るく、力強くこの世界を照らしていく。

勇者「戻ってこい、魔法使い」


784 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:31:37 ID:cuS1vHJs

 光が全てを包み込む。

 余りの明るさに思わず目を瞑る。

勇者「……大丈……夫か?」

魔法使い「勇……者?」


 目を開けると、そこには勇者がたっていた。


僧侶「大丈夫ですか?」

 僧侶も居る。


戦士「無事……なようだな」


戦士も居る。


勇者「さぁ……最、後の仕……上げだ……」


 勇者、君はボロボロじゃないか……。


785 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:34:06 ID:cuS1vHJs
 空には全てを呑み込むような極黒の塊が浮いていた。

 ソレは、聞くだけで心臓を鷲掴みにされたような恐ろしい声で叫ぶ。


魔王「なに故……もがき生きるのか……我こそは全てを滅ぼすもの……全ての命をわが生贄とし絶望で世界を覆いつくしてやろう……滅びこそわが喜び……死にゆくものこそ美しい……」


 絶望が形を為し、全てを終わらせようと胎動を始めた。

 今にも空を、大地を喰らい尽くそうと無尽蔵に触手を伸ばし、顎を広げている。

魔王「さあわが腕の中で息絶えるがよい」

勇者「勝手に言ってろよ」

 魔王の言葉を遮る力強い声。

 既にその身体は動く事さえ奇跡だというのに。

 勇者は臆さずに、凛として言い放った。


786 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:35:14 ID:cuS1vHJs

少女「もう止めろ勇者、死んじゃうだろ」


 勇者は不敵に笑う。

勇者「俺は死なねーって、みんなが居るしな」

戦士「どうするつもりだ?」

勇者「魔法使い、ゴーレムと戦った時の奴、できるか?」


 なる程。

魔法使い「任せてくれ」


 できるできないじゃあないよ。

 やるしかないんだろう?


魔法使い「柄にもなく、燃えちゃうね」


787 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:36:42 ID:cuS1vHJs
 勇者と手を繋ぐ。

 空いた方の手は戦士の手を握る。

 勇者は空いた手を僧侶と繋ぐ。

勇者「細かい事は相変わらず苦手だからさ、俺は全力でやるだけだ」

魔法使い「任せてくれ、必ず決めてみせる」

僧侶「魔法使いちゃんは魔力の操作に集中してください。 私は最後の一滴まで魔力を絞り出します」

戦士「何があっても俺が気を保つ、勇者は御雷の精霊との交渉に集中してろ」

勇者「ありがとうな」

 手を強く握りしめられる。

 僕も、強く握り返す。

魔王「滅べ。 我に刃向かう愚かなる人間よ」

勇者「いっくぞぉぉぉぉぉォオオッラアァアアアッッ!!」


788 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:37:52 ID:cuS1vHJs
 不思議な事に、不安や恐れは微塵もなかった。

 在るとすれば、満ち足りた幸福感。

 僕……私はこの人たちに出会えて幸せだった。

 人って、こんなにも暖かいんだったね。

 頭上に広がっている鈍色の分厚い雲に穴が空き、光が漏れだしていく。

 光が漏れていく。

 雲の合間から紫電が疾走る。

魔王「憎いぃぃ……憎いぃぃぁあああああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」


 天と地を結ぶ神聖なる御雷の柱が、魔王を包み込んだ。


 魔王の声が虚空へと消えていく。


 これで、僕達の長いようで短かった旅は終わりを迎えた。


789 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:41:09 ID:cuS1vHJs

魔法使い「……」

勇者「終わった……みたいだな」


 僕達は、空を見上げていた。



 世界を包んでいた、絶望の象徴だった鈍色の分厚い雲。

 それが晴れていく。

 陽光は、世界の果て隅々にまで優しく降り注いだ。

戦士「美しいな……」

僧侶「まるで勇者様の髪みたい、綺麗で、何処までも透き通るような蒼ですね……」


 あぁ、世界は美しいね。

 この空の下。

 人は、喜んだり、悲しんだり、憎んだり、愛したりして生きていくんだと思うと、世界を堪らなく愛おしく感じるよ。


790 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:41:58 ID:cuS1vHJs

少女「僧侶の手前……我慢しようと思ったのだが、我慢できそうもないな」

勇者「ん? ってうわっ!?」

 仰向けで空を見上げている勇者に少女は飛び込んだ。


少女「勇者……ありがとう……ありがと……う、うわぁぁああんっ!!」

 少女は勇者の胸板に顔を押し付けて幼子のように声を上げて泣いている。

勇者「お、おい!?」


少女「出会ってくれてありがとう……手を差し……伸べ……れてありがと……ぐすっ……にい……ひっく……あり……とう」

 嗚咽混じりの感謝は最後には聞き取れないくらいに少女は泣きじゃくる。

勇者「うん……うん」

 勇者は最初こそ戸惑っていたものの、優しく少女の頭を撫でながら彼女に相槌をうっていた。


791 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:42:53 ID:cuS1vHJs

僧侶「……」

 その光景を少し悲しそうな顔で僧侶は眺める。


 やれやれ。

魔法使い「そういえば」

僧侶「?」

 僧侶の前に立ち、触れるか触れないか程度に唇を重ねた。

 生意気なことにこの乳袋は背が高い。 ので、めいいっぱい背伸びをしなくてはならないのが非常に不愉快だ。

僧侶「え? え?」

魔法使い「約束したでしょ?」


 昔ママが言ってた気がする。

 大切な人が出来たらキスをしなさいって。 それが人なんだって。


792 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:44:18 ID:cuS1vHJs

 大切な人……うん。 みんな大切な仲間だし。

 戦士は背伸びした所で届かないし、大人の男の人にキスするのはやっぱり怖いから。

 勇者は……まぁ、うん。

 こういった事に疎い僕でもそれはまずいって事くらいは分かる。

僧侶「優しいですね……魔法使いちゃんは。 私に気を使ってくれたんですよね」

魔法使い「さて、どうだろうね?」

 そんなやり取りをしている内に少女が正気に戻ったらしい。


 表情は普段通りだけど目も耳も真っ赤になっている。

魔法使い「これは珍しい事もあったもんだ。 鉄面皮の君がまるで乙女だよ?」

少女「……るさいな、まったく。 私とした事が、油断したよ。 今にも顔から火が出そうだ」

 少女は下をそっぽを向いてしまった。

少女「でも、これですっきりした。 思い残す事は何も無いな」

 え?


793 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:45:41 ID:cuS1vHJs


少女「みんな、世界を頼んだよ? 僧侶は勇者を頼む」


魔法使い「どういう事?」

 終わったんじゃないの?


少女「最後の仕事をしなくちゃね。 私は私の責任を果たさなくちゃ」


 生温かい風が通り抜けた。

 嫌な予感がして、振り向く。


魔法使い「本当にしぶとい奴だね。 感嘆に値するよ」


 魔王が居た場には、小さな魂の断片が幾つも集まりだしていた。


794 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:46:42 ID:cuS1vHJs

魔王片「あ゛あ゛あ゛あ゛」



少女「勇者の力じゃあ滅ぼし切れなかったみたいだ……思った以上にこの世界には悲しみが多いらしいね」

 世界を雲で覆い尽くし、各地で魔物を蔓延らせたのは、少しでも悲しみを殖やす為か。

魔法使い「抜け目ない奴だ」

少女「だから、せめて封印するんだ。 この先世界に災いを齎さないように」


 少女には魔力なんて無い筈……もしかして。

魔法使い「少女、君もしかして」

少女「やっぱり君は鋭いね。 嫌になるよ」


 呆れ顔のような、泣き顔のような顔で少女は笑う。

少女「あぁ、魔力の変わりに魂その物を代償に魔王には眠って貰うよ、永遠にね」


795 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:49:20 ID:cuS1vHJs

 駄目だ……、最後の最後でこんな終わり方。

勇者「そんなんさせねえよ……俺が叩き斬って終わりに……ぐぁっ!!」

 勇者は無理矢理力を使った所為でも限界だった。

 そこに魔王の力の残滓を浴び、動く事すら出来ない。

 僧侶と戦士も同じ様に重症だ。

僧侶「少……女さん、認めませんよ……こんな終わ……り方」


戦士「くそ、動け……動け」


少女「そんな心配してくれるなんて嬉しくなっちゃうよ。 やっぱり世界を終わらせる訳にはいかない。 魔王にはここで終わって貰わなきゃ」


 させない。

少女「〜〜〜〜」

 させないっ。

魔法使い「君の役目、僕が引き受ける」

 させないっ!!


796 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:50:19 ID:cuS1vHJs

 少女の術式に割り込む。

 彼女の封印術は、僧侶探索の時に聞いた結界の術式とほぼ同じだった。


 聞いた時は理解するのがやっとだというのに、今は手に取るようにわかる。


少女「私の術式に介入……もしかして……」


 周囲に流れる魔力の流れの機微が無意識に流れ込む。

 今なら何だってできてしまいそうだ。

少女「やめろっ!! 君はさっき深遠に触れたのだろう。 アレに触れて、複雑な術式なんて、人では無くなってしまうぞ」


 なる程ね。


797 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:51:29 ID:cuS1vHJs
魔法使い「魔女にでもなるとでも?」

少女「人の身から魔女になるって事は、終わる事の無い呪いを受けるような物なんだぞ!?」


 そんなに恐ろしい物なんだ。


 でもまぁ、別に良いか。

魔法使い「僕の事なら気にしないで良い。 僕が人間を止める事で、君が助かる、勇者と結ばれる、何を迷う必要があるんだい?」

少女「この馬鹿ッッ!!」

 背中が灼けるように痛い。

魔法使い「〜〜〜〜」

 きっと辛いんだろうな。

 でも、きっと後悔はしないさ。

魔法使い「〜〜〜〜」

 背中の痛みが収まると同時に、封印術は発動した。


798 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 01:52:33 ID:cuS1vHJs

今回の更新は以上になります。
おっぱい


799 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 03:04:40 ID:oHRZQO3s
乙!
おっぱい


800 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 08:06:03 ID:Mrt0YALI
乙!おっぱい!泣けるじゃないか…


801 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 12:03:04 ID:td8LAU9Q
おつ
たまに忘れるがこれ只の過去編なんだよな
すげーわ


802 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 12:54:52 ID:U8DUTQP6
熱いな……熱いよ……
魔法使い……


803 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 16:51:26 ID:cuS1vHJs
更新します



804 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 16:52:59 ID:cuS1vHJs


『我を封じるか……小娘……』


『ならばせめて貴様には呪いをくれてやる』


『永劫に苦しめ……貴様には死すらも生温い……』


『光ある限り闇もまた在る……いつの日か再び闇から何者かが現れよう……だがその時貴様は一人……仲間は年老いて生きてはいまい……くはは』



『あは……あはは……あははははははッッ!!』


805 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 16:54:33 ID:cuS1vHJs

――――――――――――――――――――――




少女「おい、生きているか大馬鹿者」


魔法使い「あ、あぁ、うん。 生きている……のか?」


 どうやら無事、魔王を封じることができたらしい。


僧侶「魔法使いちゃん……その瞳は……」

 全身を蝕む這うような痛み。

 コレが呪い?


少女「君は……そうか、君はもう人でなないんだな。 その夕闇のように深い紫の瞳……君は、魔女になってしまったんだね」

 そうか、僕は魔女になったのか……。

勇者「……ごめん、俺が力不足なばっかりに……」

魔法使い「謝ることはないよ。 これは僕が選んだ道だ。 後悔も反省も微塵もないさ」


806 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 16:55:26 ID:cuS1vHJs

 そう、何の後悔もない。

 この胸にある喪失感だって気のせいさ。

少女「背を、見せてくれないか?」

 少女が言った。


魔法使い「流石にみんなの前で脱ぐ訳には行かないからね。 場所を移してもらうよ?」


807 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 16:57:03 ID:cuS1vHJs
 灼け付くような痛み。

 背には一面紋様が刻まれているらしい。

少女「この背の紋様は魔女の証だ。 さらに君の場合は魔王の呪いの刻印までもが刻み込まれている」

魔法使い「ふーん」

 興味はあまり無いや。

少女「残酷な事を言っても良いかい?」

 少女はひりひりと痛む背に指を這わせながら呟く。

少女「君にかけられた呪いは、対象の時を奪う物なんだ。 君の身体が時を刻む事はもう、二度と無いだろう……」

 そっか。

 少女は跪いて僕を見上げる。


808 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 16:57:56 ID:cuS1vHJs
少女「私を恨んでくれ、君の未来を奪い、永劫に続く苦しみを与えてしまったんだ。 殺されたって文句は――」

 やれやれ、恨んでないというのに律儀な事だ。

魔法使い「気にしないでくれ、この身ならば僕は思う存分魔術の研究をできる。 本来僕はそうして生きるつもりだったんだ、お礼を言いたいくらいだよ」
 うん、問題なんて無い。

少女「強いな……君は」

魔法使い「おかげさまでね」

少女「うん、戻ろうかみんなの元へ」


809 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 16:58:57 ID:cuS1vHJs

勇者「これから皆はどうするんだ?」

 廃城の広間でこれからの事を話し合う。

戦士「さぁな、元より流浪の身だ。 また旅にでも出るさ。 今度はゆっくりと世界を見て回ろうと思っている」

 戦士は手にした杯を眺めながら答えた。

僧侶「私は、一度神殿へ帰ります。 それが私の生きる場所ですから」

勇者「そうか……」

戦士「お前はどうするつもりだ? 国に帰れば……いや、この世界のどこに行こうと英雄として迎え入れられるだろう?」


勇者「俺か? ここに住むよ。 英雄なんて柄じゃあないし、この辺で土でもいじりながら暮らすつもりだ」

少女「魔法使い……君は?」


魔法使い「んー、僕は……」


810 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:00:15 ID:cuS1vHJs

僧侶「私と一緒に来ませんか?」

 僧侶は垂れた大きな目で僕を見る。

魔法使い「遠慮しておこう。 信心もないしね。 何より君と居るといつか襲われそうだし」


 神様には祈るつもりもない。

戦士「ならば俺と世界を見て回るか? お前は……なんだが娘を思い出してな、正直放っておけないんだ」

 戦士はたぶん気を使ってくれたんだろう。


魔法使い「いや、それも遠慮しておこう。 君の娘にも失礼だし、僕のパ、お父さんにも悪いし」


 パパって言いそうになっちゃったよ、危ない危ない。


811 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:01:19 ID:cuS1vHJs

勇者「じゃあ、俺と土いじりだな」

魔法使い「ソレが一番嫌だ。 労働は嫌いだし、なにより君と少女の愛の巣にいたら頭が悪くなりそうだ。 眠る度に隣の部屋の嬌声に悩まされるのも嫌だしね」

勇者「ば……おま、なっ!?」

少女「週三くらいで我慢するぞ?」


勇者「ば……おま、なっ、なっ、なぁ!?」


僧侶「不潔です」

戦士「ふ……若いな」


812 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:02:55 ID:cuS1vHJs

 僕は弱虫だから、君達とは一緒に居れそうもないよ。


 みんなの最期を見届けた後一人生き続けるなんて僕には耐えられそうに無いからね。


魔法使い「僕は……そうだな、魔王を封じた所に小屋でもたてて世界を眺め続けようかな」



 私が生き続ける理由はそこに在るしね。


813 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:04:17 ID:cuS1vHJs
 
少女「そういえば、私達魔女は新しい同胞に徒名を贈るのが習わしだ。 そうだな……君はひんにゅ」

魔法使い「〜〜」

少女「甘いっ! いくら魔女になろうと私に魔力操作は勝てまい、ふっふっふ」

 ごんっ。

 うん、良い音だ。

少女「杖でぶったな!? 卑怯だぞ貧乳の魔女!!」

 コイツまだ言うか。

魔法使い「たいして変わらないだろおっ!?」

少女「お前よりはあるもんな、私は普通だ」

僧侶「どちらも可愛らしくて良いじゃないですか、大きくても肩は凝るし良い事なんて……」
魔法使い「うるさい乳袋っ!」


少女「その無駄乳をもいでやろうかっ!?」

 あーもう、楽しいなあ。


814 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:06:29 ID:cuS1vHJs

少女「で? 君は結局どういった徒名なら満足してくれるんだい?」


魔法使い「小屋建てて暮らすつもりだから小屋の魔女とかで良いよもう」

 適当? 気にしないさ。


少女「威厳も何も無いじゃないか!?」

僧侶「そうですよ! やっぱり私の「ふわふわの魔女」が可愛らしくて最高ですっ!!」

魔法使い「馬鹿丸出しじゃないかそんな徒名!!」

戦士「ならばやはり俺の「金髪之杖鬼」が……」

魔法使い「どう聞いてもそれは豪傑の戦場での二つ名でしょ!?」

勇者「じゃあ俺の「栗鼠の魔女」とか……ほら、魔法使いって栗鼠っぽいし」

魔法使い「初耳だよ!?」

少女「なら私の「破弦の魔女」なら良いじゃないか!」

魔法使い「格好付けすぎててムズムズする、却下」


815 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:07:32 ID:cuS1vHJs

少女「じゃあせめて、小屋じゃなくて、塔を建ててくれないか? 今の君ならちょちょいのさっと魔法で造れるだろう!?」

魔法使い「まぁ、ソレくらいなら妥協しても良いかな?」


少女「じゃあ、君の徒名は今この時より「塔の魔女」だ」

 塔の魔女、か。 うん、まぁ悪くないかな。

塔の魔女「うん、じゃあ塔でも建てて偏屈魔女として生きるとするよ」


――――――――――――――――――――


816 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:10:59 ID:cuS1vHJs

 そうして、僕は塔の魔女になった。

 塔での生活は割と快適だ。
 最上部に部屋を作って、安楽椅子をこさえた。


 ある日。
 今日は、勇者と少女が訪ねてきた。

 どうやら勇者達も家が完成したようだ。

 「次は子供?」と訪ねると「任せておけ」と少女は言っていた。 恥じらいを持つべきだ。


 ある日。
 今日は、本をたくさん用意した。

 これだけの量が有れば当分は退屈しなくて良い。


 ある日。
 今日は、勇者の住む辺りに小さな市が開かれると言うので見に行ってみた。

 少女のお腹が大きい。

 からかうと、少女に「宝物だ」と満面の笑みで返されたので、とりあえず勇者を叩いた。 そんなに強く叩いていないのに大袈裟に痛がらないで欲しい。

 月日は止まる事なく、流れ続けた――。


817 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 17:14:52 ID:cuS1vHJs
今回の更新は以上になります。
思ったより長くなってしまいましたが、もう少しだけお付き合い下されば幸いです。


819 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 19:33:05 ID:wO2WichU
もうすぐ・・・終わりか・・・
寂しいな


820 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 19:39:11 ID:moNU2.cI
魔法使いは不老になっただけであって、不死ではないってこと?


821 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/06/20(木) 20:46:44 ID:cuS1vHJs
>>820

魔女の状態をざっくり説明すると、先という物がない状態、強制的な現状維持です。

なので老いや死は存在せず、風邪も引きません。

髪を伸ばす事も、短くする事もできません。

因みに

魔女としての能力

魔法が凄い。

魔王の呪い

不老不死っぽい何か

となっています。ただの魔女は何か特別な魔法やら何やらを使わなければ普通に生きて普通に死にます。


ほかにも詳しく聞きたい事が有れば物語の終了後にお答えします。

また更新します。


822 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 22:46:45 ID:zPn3mWfA
面白かったー


823 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/06/20(木) 23:49:01 ID:Mrt0YALI
少し魔女の心のなかを考えたら泣きそうになった

乙!愉しかったけど…寂しいよ



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