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少年「そうだ!天使を見つけに行こう!」僧侶「私もお伴します」
- 74 名前:深夜にお送りします []
投稿日:2013/07/15(月) 22:07:18 ID:Wy8FxzW6
――リリリリリリ……
虫の音がそこかしこで合奏している
ここは、はるか昔に存在した王家の森である
その森に30年ほど前から流布している噂があった
【この森に、亡国の莫大な隠し財宝がある】
というものだった。このありふれた噂、いまだに真偽を確認したものは出ていない
毎年「俺こそが!」という冒険者が挑戦するが、あるものは半ばで死に、あるものは無様に逃げ帰ってくるという
そしてまた一人、この噂に挑戦するものがいた
戦士「へえ…古い森って聞く割には、なかなか手入れが行き届いてるじゃないか」
年季の入った佇まいの男が、森の入口に立っていた
背中にはバカでかい剣と荷物を下げている
- 75 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 22:16:34 ID:Wy8FxzW6
戦士「30年もの間存在しているのに、真偽不明……いいじゃないか。それでこそ冒険って感じだ」
そう言って森に入っていく。自信を伺わせる足取りだった
戦士「ふーん…流石に中までは手入れされてないか」
「だけど先人たちのおかげか、足元が踏みならされてるから歩きやすいな」
そうは言っても行く手を遮る枝までは処理されておらず、手にしたナイフで切り落としていく
戦士「だれも達成してないけど、それほど危険な森なのだろうか……」
森に入って二時間。鬱蒼と生い茂る木々が行く手を邪魔するだけで、特に変わった様子は見られなかった
雰囲気も至って静かで、毎年死人が出てる場所とは思えなかった
戦士「もしかして、宝を守護するガーディアンがいるのか?」
「もしそうなら厄介だなぁ」
―ガーディアン
重要な場所を守護する存在
ゴーレムだったり、魔術で生み出された怪物だったり、あるいは儀式で長命を約束された人間の事を指す
- 76 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 22:24:46 ID:Wy8FxzW6
戦士「ガーディアン……会ったことはないけど、聞いた話によるとかなり面倒そうなんだよな」
「この装備で突破できるだろうか…」
森の深さが分からなかったので、その殆どを食料と水にあて、
残りは対森用の道具ばかりだった
ブツブツ独り言を呟きながら進むこと更に二時間
開けた場所へ出た
先人が行ったのだろうか?野営の跡が残っていた
戦士「お、これはありがたい。ここで休ませてもらおうか」
かまどを作り、火を焚いていく
ゆっくり進む予定だったので、今日の行軍はここで終わるつもりだった
- 77 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 22:33:04 ID:Wy8FxzW6
少し早めの夕食を取っていく
食事に舌鼓をうっていると、背後から悲鳴が聞こえてきた
――わああああぁぁぁぁぁーーーー!
戦士「女の声?」
驚いて後ろを振り向く
そこには見事に逆さ吊りになった女性がいた
戦士「あんた、何してんの?」
モグモグと咀嚼しながら聞く
「テメー!こら、下ろしやがれっ!」
喚く女をよそに、戦士の目は女の手に吸い寄せられていった
戦士「ああ…盗っ人か」
女の手には彼が所有する食料の三分の一があった
女盗賊「コラァッ!てめ、聞いてんのか!」
戦士「そんなこといいからそれ返せ」
- 78 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 22:45:17 ID:Wy8FxzW6
「へっ、誰が返すかよバーロー!これはアタシのもんだ!」
戦士「状況わかってんのか?……ほれ」
焚き火から薪を一つ抜き取って、燃え盛る火を彼女の顔に近づける
女盗賊「お、おい!やめろバカ!」
「わ、分かった!ほら、返すよ!」
戦士(何だコイツ、弱いな〜…)
戦士「プライドってもんがないのかよ…いきなりヘタれるな…」
盗まれた物を取り返し、離れた場所に置いていく
戦士「おら。これからは相手を見て盗みに入るんだな」
縄を切られ、トンボを切って見事に着地する
頭に血が回ったのか、少しふらついている
女盗賊「…………」
戦士「どうした?ほら、もう行けっ」
女盗賊「……バーッカ!死ねっ!覚えてろ!」
捨て台詞に罵詈雑言を浴びせ、煙幕玉を使い逃げていった
- 79 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 22:58:43 ID:Wy8FxzW6
戦士「エホッ、ゲホッ!クソッあのアマ!」
思わぬことで煙を吸い込み、戦士は激しくむせた
戦士「……余計な体力使っちまった…」
どっと脱力感が襲ってきた
疲れたのだろう。そう思いさっさと眠ることにした
――――
女盗賊「ちくしょー!なんなんだあの男!」
「こうなったらとことん邪魔してやる!」
不穏なことを口走る女盗賊
その時丁度戦士に悪寒が走ったとか走らなかったとか…
ともかく、二人の出会いはおよそ、そんな感じだった
- 80 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 23:14:09 ID:Wy8FxzW6
その日から、幾度と無く何者かの襲撃を受けることになった
しかし、ありとあらゆる方法で来られても、その全てを返り討ちにしてきた
そして―――
戦士「なぁ……疲れるからもうやめようや…。俺の負けでいいからさ」
女盗賊「よくない!全っ然よくない!」
初日から三日目の夜。二十四回目の襲撃が失敗に終わり、女盗賊はいつもの様に捕まっていた
女盗賊「そんな言葉だけの宣言で、アタシが満足すると思ってるの!?」
戦士(なんとなくわかる…)
戦士「なんでそんなに俺に突っかかってくるんだ?俺が何かしたか?」
女盗賊「…………ら」
戦士「あぁ?」
女盗賊「アタシが初めて盗みを失敗したから…」
「この、天才大盗賊のアタシがっ!事もあろうにあんたみたいな奴相手にっ、盗みをっ、しくじったからッ!」
キーー…ン
大音声で叫び、戦士の鼓膜が悲鳴を上げる
戦士(何だコイツ……なんだ、コイツ…)
- 81 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 23:24:33 ID:Wy8FxzW6
女盗賊「どう贔屓目に見ても天才のアタシがしくじるなんてありえないのよ!」
キッと睨みつける
女盗賊「あんたどんな手品使ってるのよ、インチキ!」
戦士「インチキって、お前なぁ…」
女盗賊「ねぇ、あんたどんな秘密を持ってんのよ。誰にも言わないから教えてよ…」
戦士「秘密…」(こいつマジかよ…)
女盗賊「言っとくけど、アタシはしつこいわよ?秘密をしゃべるまで付きまとってやるんだから」
戦士(うーん。追い払いたい。実に追い払いたい。しかし、いいのだろうか…?)
(一冒険者としてこんな危険分子を野に解き放ってしまって…)
戦士は深く考える
戦士(幸い?この女は俺の秘密とやらを暴くまでは付きまとうようだ。ならそれを逆手に取ってしまえば?)
(野に放って被害が拡大するよりは、俺の監視下で制御するほうがいいのかもしれないな…)
考えがまとまり、今度はどうやって言いくるめようか考えた
- 82 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/15(月) 23:47:27 ID:Wy8FxzW6
戦士「あー、オホン!」
女盗賊「なによ。喋る気になったの?」
戦士「あんた、俺の秘密を知りたいのか?」
女盗賊「さっきからそう言ってるでしょ。これはアタシの沽券に関わるんだ」
戦士「秘密は教えてはやれん。だが、俺のもとにいれば…技術が盗めるかもしれんぞ」
戦士(ど、どうだ?食いつくか…)
女盗賊「はぁぁぁ?本気で言ってんの?」
戦士「知りたくないなら別にいいんだぜ。そもそも俺にそんな義理なんてないしな」
んー…、としばし考えこむ女盗賊
戦士「俺は天才を止める程の技術を持ってるんだぜ?特すると思うんだがなぁ…」
女盗賊「わかった。あんたとパーティーを組んで、あんたがどんな手品を使ってるか、私自身が暴いてあげるわ」
「アタシも盗賊としてのプライドは持ってるもの、引き下がれないわ」
戦士(よく言うぜ)
戦士「よし、奇妙な感じだがこれで成立したな。一応チームリーダーは俺だ」
「文句は?」
女盗賊「別にー。アタシとしてはちゃっちゃと暴いて、パッパと盗んでおさらばしたいとこなの」
- 83 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 00:01:58 ID:M9rjISXg
戦士「……い、一応言っておくが、チームリーダーのいうことには従ってもらうぞ」
女盗賊「チッ。へーい、りょーかい」
女盗賊(アタシの観察眼を持ってすれば、早くて一週間で全てを盗める!)
(せいぜいそれまで、天狗で居ることね!)
戦士(単純で助かった。こいつを長くここに留めておけば、どれほど平和なことか…)
(絶対に解き放つわけにはいかんのだ!)
こうして、複雑な思いを抱いたチグハグなコンビが誕生した
人が増えたことにより、これ以上の捜索は危険と判断し、撤退を決めた
当然それに文句を言う女盗賊だったが、切々と説明したら根負けして納得した
- 84 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 00:08:47 ID:M9rjISXg
女盗賊「それで?何処に行くのよ」
戦士「ん?花の街に行こうと思う。この辺りで一番大きい街だし」
「最近になって冒険者ギルドが出来たって言うから、一度寄っておきたいんだ」
女盗賊「あの?もう復興したの?」
戦士「そうだ。あそこは貴族御用達の街だからな」
「貴族にとっちゃ花ってのはかかせないものだ。愛されてる証拠だよ」
女盗賊「フーン」
戦士「乗り気じゃねぇな。もっと「花はアタシにこそ相応しいッ!」ってくるもんだと思ってたが」
女盗賊「……別に。興味ないだけだし」
「それに、アタシはそんなんじゃねーから」
戦士「ああ、さいですか…」
一路花の街へ向け、歩き出す
- 85 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 00:09:22 ID:M9rjISXg
ここまで
続きは本日18時くらいから
- 87 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 18:14:16 ID:M9rjISXg
のんびり行きます
- 88 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 18:34:11 ID:M9rjISXg
――花の街
数々の花を最高品質で取り扱い、王侯貴族に愛されている街
花といえばこの街をあげるほど知名度は高い
しかし、今より三年前にとある大事件が発生する
謎の一団に突如街は襲われ、壊滅的被害を受けたのだ
当初は組織的な盗賊団の可能性を疑われていたが、後に魔術師の関与が発覚してからは一転、
それ以上のテロの可能性が浮上した
その街に住む市民以上に嘆いたのはお得意先の貴族達だった
花を愛してやまない貴族達は、莫大な復興費を負担し
あっという間にもとの花の街を取り戻したのだ
また、その教訓から警備を増強し、加えて冒険者ギルドに加盟することに決めた
そして現在
あの有名な花の街に冒険者ギルドが出来たと聞いて、野の無頼どもが続々と集結しているのである
戦士「とまあ、これが今までの流れだな。理解したか?」
女盗賊「ご丁寧にどうも」
退屈な道中を説明に費やし、暇をつぶす
もっとも、あまり興味は無さそうだったが
- 89 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 18:36:19 ID:M9rjISXg
戦士「これは、また…以前よりも大分派手になったな…」
女盗賊「…なに?ここの住人って頭湧いてんの?」
戦士「お前は悪口言わんと生きていけないのか?」
女盗賊「性分なんだよ、ほっとけ」
二人は花の街の入り口に立っていた
イカツイ城門がありとあらゆる花で彩られ、なんとも言えない香りをはなっている
右を見ても花。左を向いても花。下も上も花だらけ
戦士「…復興してからタガでも外れたのか?」
女盗賊「別に花は嫌いじゃない。だけど、こうまで目に入ると…ウザったいわ」
戦士「まあ言うな。復興する前は見る影もないほど無残だったんだぞ」
花に溢れた大通りを突き進んでいく
門番に聞いたところによると、大通りを進んでいけばすぐ分かるとのことだった
- 90 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 19:11:23 ID:M9rjISXg
戦士「ここ、だよな?」
女盗賊「一応、書いてあるね。『冒険者ギルド』って」
二人が目にしたものは他の建物同様、花で埋め尽くされたギルドだった
戦士「なんだか場違いな印象を受けるなぁ。本当にギルドか?」
そう言いつつも店内へ入っていく
中は他のギルドとは違い酒場ではなく、カフェの様な優雅な造りになっていた
入口から見えるメニューにザッと目を通すと、酒のたぐいはなく、殆どが紅茶だった
女盗賊「あれだね、徹底してるね」
戦士「ここまで来ると尊敬できるな」
周りを見ると彼らと同様に圧倒されたのか、酒がないとうるさい冒険者たちが大人しくしている
- 91 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/16(火) 19:25:34 ID:M9rjISXg
女盗賊「クエスト受けんの?」
戦士「そのつもりだ。……あの森を俺は諦めたつもりはないぜ」
「資金を集めて、また準備してから再挑戦だ」
女盗賊「それはいいけど、面倒なのは無しよ」
戦士「……いい機会だから言っておくか」
「俺は神秘専門の冒険者だ」
女盗賊「ハッ!?マジ?今時!?」
戦士「それに人助けも好きだ。よっく覚えておけよ、盗っ人」
女盗賊「盗っ人はやめろ!」
女盗賊(え〜、こいつマジかよ…今時ガチの冒険者、いや探求者なんて珍しいを通り越して貴重だよ…)
手頃なクエストを物色している時、デカデカと何かが貼りだされていった
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