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少年「そうだ!天使を見つけに行こう!」僧侶「私もお伴します」
1 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 18:31:59 ID:zFGoU.lM


ピィーーー……ヒョロロー……


少年「………」

ここは町と炭鉱場を一望できる丘
少年はそこに寝そべっていた


少年「なんか……面白いことないかなぁ…」

少年「平和もいいけど、退屈すぎるんだよなぁ」



――サワサワサワ………


風がゆったりと、草木を撫でる






2 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 18:34:29 ID:zFGoU.lM



―――今より昔に魔王を討つため


―――勇者を補佐した天使の伝説


少年「ん……?」


―――それはただの伝説だった


少年「……嘘、でしょ…」


―――それはただのお伽話だった


少年「天使……さま…」


―――だが、これからはかつての話になる





3 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 18:35:03 ID:zFGoU.lM



少年冒険者と天使の伝説





4 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 18:50:37 ID:zFGoU.lM

少年「なんで誰も信じてくれないんだ…」

―ガチャガチャ

少年「嘘なんて言ってないのに!」

―ガチャン!

怒りに任せて荷物に八つ当たりをした


少年は怒っていた。丘で見た光景を誰にも信じてもらえなかったからだ

少年「なにが、『光線目玉怪獣の次は天使か!夢見がちなのも大概にしろよ』…だ!」
   「父さんなんか酔って白昼夢を見たくせにっっ」

少年は昔からよく不思議なものを見かけた
それを正直に話すと決まって「想像力が豊かだな」と言われるのだ


彼にしてみれば嘘など言っていないので、その反応は常に心を苛立たせた

少年「こう、なったらっ、僕がっ、見つけて、ギャフンとっ、言わせてやるッ」

ドスンッ

まとまった荷物をベッドから下ろし、今度は自分の服装を整えていく


5 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 18:57:26 ID:zFGoU.lM
つまり少年は、彼を嘘つき呼ばわりした連中を見返すために、一人で天使を探しに行くというのだ
今はその身支度をしている最中である

少年「あれ?確かこの辺りに去年買ってもらった剣が……あっ、あった」

買ってもらったきり結局使うことのなかったショートソードを、クローゼットの奥から取り出した


剣を腰……では無く、荷物リュックに挿し、荷物を背負う
吊るした鍋がカラカラと音を立てた



少年「よし……準備は出来た」


少年は、この炭鉱の町が好きだった
臭くうるさいけども、町に住む人は気のいい人ばかりで優しかった

お気に入りのあの丘も好きだった
情緒の欠片もない混沌とした場所だったが、そこで感じる風や音がたまらなく好きなのだ

少年「……迷うな。もう、決めたんだ…」

まだ一歩も出ていないのに溢れ出す郷愁の念に、決意が鈍り出した

パチンッ!

自分で頬を張り、意気を取り戻す


6 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 19:48:49 ID:zFGoU.lM
少年「……行ってきます…」

覚悟をかため、そっと家を抜け出す
今は深夜。誰も起きては居ない

少年「丘。丘に行こう」

最後の見納めに、思い出深い丘へ訪れる事にした



――丘

深夜のため何も見えず、虫の鳴き声すら聞こえなかった

少年「…あ、そうだ。コンパス…」

コンパスを取り出し、じっと見つめた
天使がどの方角へ飛び去ったか正確に知るためだ

少年「北西か」

少年「そういえば父さんが言ってたっけ、「旅をするなら冒険者になれ」って」
  「鉄の都に冒険者ギルドがあるって言ってたな………丁度同じ方角だ」


とりあえずの目標を見定め、北西へ歩き出した少年

無茶で無謀で無鉄砲な旅路
彼は無事でいられるのだろうか


7 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 20:02:32 ID:zFGoU.lM

所変わって東の地
ここは海に面し、極東の国との貿易の街である

そこに見慣れない異国の寺院が建っていた
寺院は極東の国の教会…のようなもので、交易記念で建てられた経緯を持つ


僧正「僧侶よ、僧侶をここへ」

柔和な顔つきに白いヒゲを蓄えた老僧侶が声をかけた

僧侶「はい。なんでございましょう」

返事をしたのは長身痩躯の男だった
痩せた鳥を思わせる外見だったが、表情は優しく、目には温かい光が灯っている

僧正「僧侶、お主今年でいくつになる?」

僧侶「40と3になります」

僧正「ふむ……」

僧侶「……僧正さま、いかが致しました?」


8 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 20:17:37 ID:zFGoU.lM

僧正「お主はこの寺が出来てからずっと努めていたな?」

僧侶「は。不肖僧侶、長らく研鑽を積み申しても、今だ悟りを開けぬまま…」

僧正「よい。確か五つの時より入門していたな」

僧侶「はい」

僧正「うむ。それで本題に入ろう。この寺院が建てられてからここ近年、ようやく落ち着きを取り戻してきた」
   「そこで、お主にはこの地を離れ見聞を広めてきて欲しいのだ」

僧侶「はい。…………なんですと?」

僧正「驚くのも無理もない……急に決まったことなのだ。御上のお達しでな」
   「わが寺院も世情を知り、その知識を活かして発展を促していかねばならぬのだ」

僧侶は驚きを隠せなかった

僧正「そこで長く仕え、武芸の腕も立ち、教理に深く精通している人物……」
  「お主に白羽の矢がたったのだ」

僧侶「あ、あ、わた、私が……ですか?」

僧正「うむ。お主になら任せても問題はないとの判断を下したのだ」


9 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 20:30:41 ID:zFGoU.lM

僧侶「……弟子僧侶。不肖の身ながら、謹んでお受けいたします…」

僧正「お主ならそう言ってくれると思っておった」

では、と僧正が続ける

僧正「今より二日後の明朝を出発とする。路銀、その他の物資はこちらで用意する」
  「お主は簡単に身辺の整理を行うと良い」

僧正「ただ、この大陸にはここにしか我々の寺院は存在しない。支援は望めぬと思うてくれ」

僧侶「心得ております」

僧正「うむ。では以上だ。我が宗派の品位を貶さぬよう振る舞うのだぞ」

僧侶「は。では、失礼致します…」


10 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/07/09(火) 20:39:30 ID:OwVVxe2g
確かに教会から使者を出すなら
普通はベテランのおっさんだよな


11 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 20:41:24 ID:zFGoU.lM


僧侶(ううむ。これは大変な事になったぞ…責任重大だ……)

先ほどの話を噛み締めるように反芻していた


僧侶(しかし、天子さまも思い切ったことをなさる。ただの思いつきで無ければ良いのだが…)

様々なことに思いを巡らせながら今後の行路について検討していく

僧侶(……やはり大陸を旅するのであれば冒険者資格を取るべきか…)
   (となると、ここから一番近いギルドは……鉄の都)

地図を広げ、最初の行き先を決めていった

僧侶「冒険者のメッカ、鉄の都……か」


12 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 20:42:54 ID:zFGoU.lM



――二日後

予定通り僧侶は寺院を離れ旅立っていった
前日はプレッシャーもあってか眠り込むまで経を読んでおり、やや眠たげだった

しかしそれを気力で補い、無事出立したのである



まずは西へ一直線。目指すは冒険者の街、鉄の都





13 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 21:00:37 ID:zFGoU.lM

冒険者の聖地、鉄の都


ここは冒険者ギルドの総本部が存在し、また多くの冒険者がクエストを求めて訪れている
そのため都は非常に活気に溢れ、人の出入りが激しい

『天凱の塔』を発見した、かの有名な赤髪の冒険者の出身地で有名でもある


しかし冒険者というのは血の気の多い連中である。もちろん全てがそういう訳ではないのだが…

つまり、他の街と比べ治安が少しばかり悪いのだ


それでも都で大きな騒ぎは起きたことはない
それらを取り締まる屈強な者達を雇っているからだ


冒険者は冒険者で抑える。それがこの都のルールの一つなのだ


14 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 21:12:10 ID:zFGoU.lM

僧侶「ううむ。なんと活力に溢れた街だ。祖国でもこうまでの街はあるまい」

人でごった返した大通りを、するすると避けながら歩いていた

僧侶「あれが冒険者ギルドか」

人混みの先に見える一際大きい建物。あれが冒険者ギルドであった



冒険者になるのにはいくつかの試験を受けなければならない
身体検査、体力測定、技術検査、筆記試験、面接

これらを合格したものに、ギルドから発行される資格を得ることが出来る
試験を実施する理由は、冒険者の特典を悪用されないように、という理由だ


冒険者の特典とは
ギルドが存在する市町で物品、宿泊費が割引される
保護指定動植物の採取の限定的許可
兵局(依頼に応じて品物を輸送し、これを守る専門業)行為の許可

などが上げられる


15 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 21:21:03 ID:zFGoU.lM

試験は3500Gかかる
試験…と言ってもそれ程難しくはなく、その人物の人間性を見極めるために行うのである

試験は一日で全て終了し、結果は二日後に発表される流れになっている


以下が各試験の詳細になる

身体検査――健康面を見る
体力測定――クエストを行うに足る体力か見る
技術測定――いざという時の身を守る術を持っているか見る
筆記試験――常識・倫理観を見る
面接  ――資格を与えるに足る人物か見る


結果が発表されるまでの間は、ギルドから宿を提供され、そこで寝泊まりすることになっている


16 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 21:34:36 ID:zFGoU.lM

また、体力・技術に自信のないものはギルドが開講する冒険者学校に通うことも出来る
500Gで受けることが出来、その人にあった武器や道具の扱い方をしっかりレクチャーしてくれる
その間の衣食住はギルド側で賄われるという安心設定だ


僧侶(そのようなものもあるのか…随分太っ腹なのだな…)

既に試験を終えた僧侶はあてがわれた部屋で、冒険者ギルドのパンフレットを見ていた

僧侶(結果発表まで時間が余る。せっかくだからこの街を歩いてみようか)


旅の疲れがありその日はゆっくり休むことにし、翌日から街の散策を行うことにした


17 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 21:45:44 ID:zFGoU.lM
結果発表当日

結果は合格だった
特に体力、技術、面接の評価が高かった


僧侶「これで晴れて私も冒険者か……ちょっと前までは想像も出来なかった」

担当官「合格おめでとう。貴方の今後の活躍に期待していますよ」
     「ところで今後の方針なんかは…?」

僧侶「いえ、決まっておりません」

担当官「そうですか。冒険者としてのセオリーはまずパーティーを組むこと。これですね」

僧侶「パーティー…ですか」

担当官「はい。パーティー、仲間を集めるのです」
    「仲間がいたほうが生存率もクエストの達成率も上がりますからね」

担当官「もちろん一人で行く一匹狼もいますが…」
     「パーティーを組むのであれば、クエスト発注所に冒険者がたむろしているので、声をかけてみては?」
 
ああ、と担当官が一言加える

担当官「これはクエスト受注のさいに聞かれますが、受注時にパーティーか個人かで受注登録が選べます」
    「気をつけてくださいね」


18 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 22:01:03 ID:zFGoU.lM
僧侶(パーティーか…とりあえず覗いてみようか)


冒険者ギルド・クエスト発注所
ここではクエストの発注・受注が行える場所だ
基本的に酒場と合わさった形態をとっている。冒険者は酒飲みが多いのだ


僧侶(む…酒の匂いが……部屋に充満している)

部屋の所々から笑い声が高らかに響いてくる。昼前だというのに出来上がっているのだろうか

僧侶が部屋を見回すと、部屋の隅の方で小さくなっている少年を見つけた

僧侶(…?この場に似つかわしくない子だな。彼も冒険者なのだろうか…)

「お、異国のお坊様。お坊様も冒険者に?」

僧侶「ええ。見聞を広めるために必要と思ったので…」

「へぇ、真面目なんですなぁ。おれっちは一攫千金を狙って!…俗ですかね?」

僧侶「いえ、夢を持つことは良いことだと思いますよ」

「ところでお坊様。なにを見ていたんで?」

僧侶はそっと隅の少年を指した


19 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 22:15:15 ID:zFGoU.lM
僧侶「あの子もここにいるという事は冒険者なんでしょうか。ちょっと気になりまして」

野卑な男はちょっと顔をしかめた

「あのガキンチョですかい。その通り、あいつも冒険者ですぜ。ぺーぺーですが」
「あいつは……奇妙なガキなんでさ…」

僧侶「奇妙?」

「パーティーを組みたいらしんですがね、誰にも相手にされずにもう三日もここにいるんでさ」

グビリと酒を呑む。近くにいる僧侶は、一層酒の匂いが増したと感じた

「普通冒険者っつーのは始めは『利』で考えるんでさ。魔法使いや戦士なんかはクエスト達成に直接関わるんで、
 引っ張りだこ。達成出来れば報酬を得られるし、難度が高ければ名声も得られる」

話のあとを継いだのはヒョロッとした話し好きの男だった

「つまり、そういうのを通して仲間意識を育てるんス。これが『利』、パーティーを組む際のメリットスね」
「だが、シロートだからか誰見向きもしないような募集要項をおったてやがったんス」

僧侶「それが奇妙なというわけですか。私も素人でして、そこを教えていただけませんか?」

話し好きの男は喜び、一口酒を仰いで続けた


「かつて魔王を討伐した勇者の伝説をご存知スか?」


20 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 22:29:06 ID:zFGoU.lM
僧侶「ええ。ですが少ししか…」

「じゃあそこから……」



今から約400〜500年前に起きた人魔大戦
その戦いを人間の勝利に導いた偉大な勇者
敵の本拠地に軍を率いて乗り込み、自らの手で魔王の首級をあげたという
その際、勇者を守護する存在があった。それは天界から使わされた『天使』だった
勇者を影に日向に守護し、魔王の元まで導き、補佐したという
それから魔の物が力を取り戻すたびに、天使が現れ力を貸す伝説が生まれたという



「これが勇者の伝説と天使の伝説ス」

僧侶「はあ…」

「あのガキンチョはその天使を探す、っつーのが目的らしいんスね」

そう言って鼻で笑う

「大昔の伝説、お伽話の存在を一緒に探してくれっつーんスから、誰も寄り付かないのも当然、ってわけスね」


僧侶(伝説の天使の探索……か。話だけでも聞いてみるべきだろうか)


21 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 22:40:56 ID:zFGoU.lM
話を聞き、興味の湧いた僧侶
教えてくれた男達に酒を一杯ごちそうし、その場を後にした


―――


少年(この街に来てもう六日か……)

少年の意気はそろそろ折れようとしていた
路銀は残り少なく、宿泊している宿で働き、なんとか賄っている状態だ

少年(やっぱり、あれは見間違いだったのかな…僕の頭がおかしいのかな……)

しみったれた顔はさらに人を遠ざける。もはや八方塞がりだった

少年(いや、まだまだ。せめて後一日、後一日粘ろう)





「あの、もし…」

コンコンコンと、少年のいるテーブルを叩く手が見えた


僧侶「パーティーを募集しているのですか?少し……お話を伺えないでしょうか」

眼の前に立っていたのは見慣れないふわりとした服を着た、長身痩躯のハゲ男だった


22 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/07/09(火) 22:50:25 ID:zFGoU.lM

――――


僧侶「天使を…見た…?」

少年は必死に当時の情景を説明した
恐らく今を逃したら、これが最後のチャンスになるだろうと思ったからだ

少年「そうです。夢でも幻でもありませんっ」
  「ヒューン!って西の空に消えていったんですっ」


僧侶(う……ム。嘘を言っているわけでも無いようだし、当時の状況を鮮明に覚えても居る……)

少年は気丈な面持ちでいたが、不安で居ることが手に取るように伝わってきた

僧侶(……悩めるものに手を差し伸べる。これも我が宗派の役目、か)
  (もし天使を拝めたのであれば、それはそれで寺院へのみやげ話が潤うだけだ)


僧侶「……私も、伝説の天使を見てみたいですね。私も、お供いたします」

少年「えッ!?」
  「ほ、本当ですか!?」

僧侶「はい。私の名は僧侶と申します。どうぞよろしくお願いします」

少年の前で深々と頭を下げた



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