■戻る■ 下へ
新ジャンル「囚人二人」
322 :VIPがお送りします [] :2008/10/19(日) 23:48:51.58 ID:LdzWVoMM0
女「ねえ」
男「どうした?」
女「わたしの前にここにいた人ってさ」
男「ああ」
女「なにをしてここに来たの?」
男「……訊いてどうする?」
女「どうもしない。あんたと仲良くしてたくらいだしさ、
  きっと極悪人ってわけでもないんだろうなって。
  そう思うと、ちょっと興味が沸いた」
男「そうか。話してもいいんだが……死んだ人間の
  うわさばなしってのも気が引けるな」
女「なによ。その人の怨霊を呼び寄せでもしちゃうの?」
男「いや、そういうわけでもねえが」


323 :VIPがお送りします [] :2008/10/19(日) 23:52:58.60 ID:LdzWVoMM0
>>322
男「おまえがそう思ってるなら、つまらねえ話になるぜ?」
女「どういうこと?」
男「極悪人だった、って言ってんだよ」
女「え……?」
男「金のために顔見知りだろうがそうでなかろうが
  殺しまくった、弩級の犯罪者さ。死刑になろうが
  同情する奴なんていやしねえ、むしろ喜んだ人間のほうが
  多かったろう物欲の権化」
女「そんな……やめてよ、そんなシュミの悪い冗談」
男「冗談だとしたら、たしかに趣味が悪いな。
  だがよ、いざ死ぬとなれば欲なんてのは意味がねえ。
  奴も後悔してたさ。なんてことをしてしまったんだろう、
  殺してしまった人たち、その家族、友人に申し訳ないってな。
  そして、だからこそ……死をもって罪をつぐなうと決めた」
女「…………」
男「俺は、よ。もしかしたらおまえほど、人間ってモンに
  絶望してねえのかもしれねえ。ガキだって言いたくなるのも、
  まあわからねえでもねえってもんだ。はっは」
女「……そっ、か」


324 :VIPがお送りします [] :2008/10/19(日) 23:55:48.96 ID:LdzWVoMM0
>>323

女「でも、わたしが人間に絶望してるみたいな言いかたしないでよ」
男「お? ああ、すまねえな。俺の中でおまえは薄幸の美女だからよ、
  人の世をはかなんで――」
女「あーもう。そんなシュミの悪い冗談はやめろって言ってるでしょ」
男「わり」
女「……わたしも、男に会うまではそうだったけどさ……」
男「んー? 声が小さくてよく聞こえねえぞ」
女「なんでもないわよ。ばか」
男「馬鹿とは失礼な」
女「うっさい」


327 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 00:05:26.47 ID:5hUYJ3hl0
>>1きたー


328 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 00:17:01.04 ID:gQL+rG290
どうか、片方死ぬ終わり方だけはしないで欲しい・・


329 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 00:21:28.87 ID:QyPCQbkC0
女「ねえ、男」
男「ん?」
女「『おむかえ』が来るのって、いつかなあ」
男「なにをいきなり言い出すやら」
女「ここにいれば、いつかは来るもんだし。
  覚悟のひとつも決めておきたいじゃない」
男「怖い、のか? そりゃしかたねえさ。罪には、
  相応の罰。そうでなきゃ、社会ってのは動かねえ」
女「……怖くないわけじゃない。でも、わたしの命なんて
  かる〜いもんだし?」
男「おまえなあ。そういう言いかたはやめろと――」
女「怖いのは……死ぬことじゃない」
男「……え?」
女「ひとりになっちゃうのが、なにより怖い。
  男が『連れて』いかれちゃったらさ、わたしまた
  ひとりになっちゃう。だれにも必要とされなかった、
  あのころに戻っちゃう。
  それが……怖いの」


330 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 00:22:52.34 ID:QyPCQbkC0
>>329

女「だれにも必要とされないくせに、生きていてほしいって
  思ってくれる人もいないくせに、わたしなんで生きてるん
  だろうって思いながら抜け殻みたいに生きるのが、怖い。
  なによりも。死ぬよりも……」
男「……そう、か」
女「だから、おむかえが来るなら男よりわたしが先に。
  そう、思ってる」
男「そう言われてもな。刑の執行の期日は俺が決めるわけじゃ
  ねえ。判決を受けた順でもねえ、お上のだれかの気まぐれだ」
女「わかってる。でも、それでも」
男「それに、その言い方はこっちの都合を完全に無視してる」
女「……どういう意味?」
男「わかってるくせによ」
女「はっきり言ってほしいだけ」
男「やだよ。もしかしたら壁に書いてあるかもしれねえぜ」
女「何も書いてないの、知ってるくせに」
男「ぐー」
女「寝たふりすんな!」


334 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 01:13:40.51 ID:QyPCQbkC0
男「よう。ひとりになるのがいやだってんならよ」
女「んー?」
男「アレだ。三国志は知ってるか?」
女「ちょっとだけなら」
男「桃園の誓いってやつだ。我ら生まれた日は違えど」
女「願わくば、同年同月同日に死なん」
男「そう。ソレ」
女「どちらかが連れていかれたら――」
男「着てるものを格子かなんかに引っかけりゃ、
  首くらい吊れるだろ」
女「死にかたも同じ、か。いいかもね、それ」
男「だろ。はっは」


335 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 01:16:15.79 ID:9dtkJW1aO
なんか泣けてきた


336 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 01:21:51.65 ID:QyPCQbkC0
>>334

女「……あ!」
男「どうした?」
女「それ、やっぱダメ」
男「なんで?」
女「だってそれ、義兄弟の契りじゃない」
男「なにがいけねえんだよ」
女「……ダメなのっ」
男「じゃあどうしろてんだ」
女「……その、ええと」
男「夫婦の契り、か?」
女「! まあ……そうなる、かな」
男「はっは。俺、おまえの顔も知らねえんだぜ?」
女「三国志の時代なら、フツーのことだったはずでしょ」
男「政略結婚か? ま、それもそうだ」
女「でも、政略結婚なんかじゃない」
男「いいだろ。じゃあ、いくぜ?
  我ら生まれた日は違えど――」
女「願わくば、同年同月同日に死なん」
男「酒もねえ花もねえ、シケた契りだがよ」
女「うん。十分だよ……ありがとう」


337 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 01:33:54.24 ID:f+YEC8sR0
こやつめ ハハハ!


340 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 02:07:30.50 ID:QyPCQbkC0
男「よう。おまえってさ、判決もらうときに
  情状酌量とか、あったか?」
女「……なかったよ」
男「なんでだよ? 事情が事情だし、ちょっとくらい
  あってもいいような気がするんだが」
女「命じられてやったっていう証拠がなかったから。
  もちろん、わたしを拾った人……わたしに人を
  殺させた人は、わたしをかばうことなんてなかった」
男「……そうか。きたねえよな、世の中……そういう
  奴らがのさばる一方で、おまえみたいな犠牲者がいる」
女「そういう、男は?」
男「ある程度は認められた。けど、それをもってしても……
  俺は、殺しすぎた」
女「そっか……」
男「とすれば、もしかしたら……おまえには、まだ目は
  残ってるかもな」
女「……え?」
男「いや。なんでもねえよ。どっちにしろ、ここからじゃ
  なにもできやしねえ……忘れてくれ」


342 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 02:45:13.35 ID:QyPCQbkC0
男「よう。ちょっと聞いてくれや」
女「んー?」
男「メシと一緒によ。こんな紙がついてきやがった」
女「見えないよ。なんて書いてあんの?」
男「食いたいものを書け、なんでもいいから……だってよ」
女「…………!」
男「いやー。とうとう来ちまったか。おそらくは明日……だな」
女「な……なんでそんなに落ち着いてられるの……?」
男「さあ、なんでだろうな。隣にいい女がいるからかもしんね」
女「そんなっ……やだよわたし、男が――!」
男「いいからおまえは落ち着け。騒ぐと看守にかぎつけられる」
女「だけど……だけどっ!」


343 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 02:45:58.85 ID:QyPCQbkC0
>>342

男「なあ、頼みがあるんだけどよ」
女「え……?」
男「想像は自由とか言ってきたが……一目でいい。そっち、
  のぞいていいか?」
女「え、う……今は――」
男「今しか、もうねえんだ」
女「……わかった。いいよ……」
男「おっしゃ。じゃあ、のぞくぜ?
  お。おお。おお〜〜〜」
女「……なによ、その反応」
男「へへ。思った通り、大層な美人だ……けどよ、そんなに
  泣いてちゃ台なしってもんだぜ?」
女「うっさい……だから今はイヤだって言ったのに……!」
男「笑ってくれよ。この眼に焼きつける」
女「……うん」
男「はっは。最高だ。もう思い残すこともねえ……ってか」


344 :VIPがお送りします [sage] :2008/10/20(月) 02:49:56.68 ID:dzbhRL8SO
女が食いたいです


345 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 02:54:47.69 ID:5hUYJ3hl0
ハッピーエンドを、なんとかorz


346 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 03:00:35.77 ID:f+YEC8sR0
辛いな


347 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 03:02:03.84 ID:9dtkJW1aO
うあー


348 :VIPがお送りします [sage] :2008/10/20(月) 03:14:19.62 ID:ZCClzShPO
一発とはいわないからせめてキスの一つでも…………………無理か。


353 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 03:34:31.96 ID:RSKBIV0OO
何が新ジャンルだよ馬鹿ヤロー
と最初は思ってたけど、ここまで読んだ今ならわかるwww
いいぞもっとやれ


354 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 03:51:39.48 ID:gzK3ozVfO
鬱でもハッピーでもいいから先が気になる!


355 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:08:56.05 ID:QyPCQbkC0
男「お。空が明るくなってきやがった」
女「……うん」
男「夜が明けきったころに看守が来るはずだが……さて」
女「…………っ」
男「よっ、と」

 男のかけ声とともに、ごきん、と鈍い音がする。

女(え……? 今の音は――)
男「うお!? なんだ、間に合ったってのか!」
女「え!? 一体どういう――」
男「はっは! 詳しく話してる暇はねえが、つまり――
  しばらくは、死ぬなってコトさ!」
女「えっ――男? ねえ、男ー?
  返事がないっ……何がどうなって――」


357 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:21:12.17 ID:f+YEC8sR0
急展開!?


358 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:22:45.58 ID:QyPCQbkC0
>>355

女(結局返事がないまま朝になっちゃった……)
看守「おい、時間だ。出ろ……
   なに!? いない!?」
女(!? まさか――)
看守「窓の格子が一本折れてる! まさか、脱獄か!?」
女「――――!!」


359 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:27:53.76 ID:QyPCQbkC0
>>358

女(そういえば……あいつ、言ってた)

男『世の中なにが起こせるかわかんねえ、ってな』

女(考えてみれば、壁に穴開けようって奴だもんね……
  格子に同じような細工をしようとしたって、何も
  不思議じゃない。でも、コンクリートの壁と
  鋼鉄の格子じゃ、勝手が全然違うはず……)
看守「格子の根元がぼろぼろに錆びてる。なんでだ、
   錆止めの塗装がしてあるってのに!」
女(それは、何も不思議じゃない。フォークの先で
  毎日しつこくつつけば、塗装くらいならはがせる。
  でも、錆びるまでが早すぎる……
  錆びるために必要なのは……塩分? でもここは
  潮のかおりもしないし、海からは遠そう。
  あるとしたら、食事の汁物? ごはんが足りない
  足りないってぼやいてたのは、そのせい?
  あとは……まさか、血とか……?
  ともあれ、さっきの『間に合った』ってのは、
  刑の執行より手で折れるくらいまで格子が錆びる
  ほうが早かったってこと)


361 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:35:37.55 ID:RSKBIV0OO
これはハッピーエンドへシナリオ変更の>>1の良心かw


363 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:38:00.85 ID:9dtkJW1aO
急展開だ
しかし女はどうなるんだ…


364 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:41:30.81 ID:QyPCQbkC0
>>359

看守「とにかく、探せ! 急ぐんだ!」
女(おそらくは探しても無駄。
  男が出ていってから、数時間は経ってる。わたしで
  さえ、ここに連れられてくる間の道順は覚えてる。
  男が覚えてないはずがない……
  たぶん、もうこの刑務所の中にはいない。
  問題は……たぶん、警察が動く。このあたり一帯を、
  包囲することになるはず。
  そこを突破できれば、男は逃げ切れる)

女(でも、納得できない。
  男は仲間を大事にする性格のはず。約束を破るなんて、
  考えられない。根拠はないけど、わたしはそう
  信じてる。なのに……
  夫婦の契り、どこに行っちゃったの……?)


367 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:49:44.00 ID:9dtkJW1aO
女かわいいいいいあ


368 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:50:03.14 ID:RSKBIV0OO
女救出作戦開始
総員持ち場にて待機指示をまて


369 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 04:58:33.46 ID:QyPCQbkC0
>>364

男『しばらくは、死ぬなってコトさ!』

女(意味がわからない。でも、あいつがそう言うなら……!)


374 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:19:11.78 ID:QyPCQbkC0
>>369

女(あれから、数日。男が捕まったっていう話は聞かない……)

看守「おい。手紙が届いてるぞ。父親からだそうだ」
女「! わかった。おつとめごくろうさま」
女(どういうこと? わたしに父親なんていないのに……
  
  すごい当たりさわりのない文章。まあ、手紙のたぐいは
  全部チェックされるから、あんまりやばい表現がないのは
  当然だけど。にしても、だれがこんなのを……
  あれ? 最後のこの文)

『つらいことがあっても、笑い飛ばすようにな。
 はっは、と』

女「――――! まさか」


375 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:19:16.19 ID:9dtkJW1aO
支援


376 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:26:08.11 ID:QyPCQbkC0
>>374

女(あれ、男からの手紙だよね……
  あれから一ヶ月経ったけど、なんの音沙汰もない。
  どうしてるんだろう。捕まってないかな……)
看守「おい。出ろ」
女「え……?」
看守「そんな顔をするな。おむかえじゃない」
女「どういうこと?」
看守「詳しく話すと長くなる。とにかく、ここを出るんだ」


377 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:27:55.89 ID:QyPCQbkC0
>>376

女(詳しく説明してもらったけど、まだ状況が把握しきれない。
  わたしに人を殺させた、あいつ。あの男がやってきたことが、
  明るみに出た。拾った女の子たちを使って邪魔者を消し、
  のしあがっていったことが……
  わたしと同じように利用されてきた女の子が、何人か保護
  されたらしい)

所長「――ということだ。
   本当なら一事不再理といってな。一度確定した判決が
   くつがえることはないんだが、事が事だけに世論が動いた」
女「……そうだったんですか……」
所長「刑事訴訟法第435条により、再審を待つことになる。
   それまでは勾留させてもらうが、おそらくは情状酌量の
   余地と心神の耗弱状態だったことが認められ、
   大幅に減刑されるだろう」
女「…………」

男『おまえには、まだ目は残ってるかもな』

女(あれは、多分このことだったんだろう……)


379 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:30:13.32 ID:QyPCQbkC0
>>377

 春が近づき、潮のかおりをたっぷりと含んだ風から
身を切るような厳しさがなくなりはじめた、ある夜。
女はひとり、波止場に立ちつくしていた。
 小さな雲がまばらに浮かぶ夜空に皓々と輝く月が、
あたりを淡く照らし出す。水面に浮かぶもうひとつの
月は、女の心と同じようにゆらゆらとゆらめいている。

女「いい月だなあ……それに、あったかくなってきたね。
  ねえ、いるんでしょ?」

 虚空に声を投げかける。それが夜風に溶けて消え行ったころ。

「ああ……いい月だ。男と女の逢瀬を覗き見てるってのは、
 なんとも趣味が悪いがな」

 声が届く。ふり返ると、そこに。


380 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:31:02.72 ID:QyPCQbkC0
>>379

男「よう。奇遇だねえ……こんなところで会うとはよ」
女「これ」

 女は答え、一枚の紙切れをポケットから引っ張り出す。
勾留されている間に、受け取った最後の手紙。

男「お。気づいたか? さすがだねえ。行の最後の文字を
  つなげて……」
女「『よる、よこはまこうで、まつ』」
男「ご名答」
女「日時までは指定してなかったのにさ。ホント、ばかだよね」
男「どういう意味だこいつめ」
女「毎晩ここにいたんでしょ」
男「るっせ」


381 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:31:58.37 ID:QyPCQbkC0
>>380

女「あれから、再審してもらった」
男「知ってる」
女「わたしに人を殺させた、あの男。その悪事を暴いたのって、
  あんたでしょ?」
男「さあなあ」
女「あんた以外に知ってる人なんてほとんどいないはずだしね。
  まったく、警察から逃亡しながらそれだけのことを
  やってのけるなんてね」
男「凶悪かつ危険この上ない無差別連続殺人犯ってのは、
  ダテじゃねえさ。似たようなもんだった」
女「……ごめんね。二度とやりたくなかったはずなのに」
男「……いや。今度のは、人を救うためにやったことだ。
  全然、違う」
女「うん……ありがとう」
男「はっは」


382 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:34:01.80 ID:QyPCQbkC0
>>381

女「結局、心神耗弱と酌量減軽が認められて。執行猶予って
  ことになった」
男「それも知ってる。世論がうるさかったからな」
女「それも、あんたの差し金?」
男「そいつは過大評価ってもんさ。
  言ったろ、俺はまだ人間ってもんに絶望してねえんだ」
女「楽観的だよね。もし猶予がつかなかったら、数年は
  出てこられなかったのに」
男「はっは。ま、日本の司法は女に甘えからよ、こうなる
  んじゃねえかって思ってた」
女「それにしたってさ」
男「……まあ、どうなろうが俺は、おまえがここに来るまで
  待ってるつもりだった」


383 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:35:32.40 ID:QyPCQbkC0
>>382

男「ここで問題なのはよ。おまえは晴れてシャバに帰ってきた
  わけだが」
女「あんたはまだ脱獄者、ってことだよね」
男「そういうことだ。で……もう目的は果たしたからな。
  あそこに……独房に、戻ろうかと思ってる」
女「そんな……冗談でしょ?」
男「罪はつぐなわねえとさ。
  だれかが俺を必要としてくれない限りは、
  生きてる意味もねえしな」


384 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:39:12.29 ID:QyPCQbkC0
>>383

女「……あんた。怒るよ……?」
男「けど……おまえが引き止めてくれるなら――」
女「怒るよって言ってるの。答え、知ってるくせにさ」
男「いや、わかってる。きたねえ正当化をやってるってことは。
  でも……俺は――」
女「わたしには、頼れる人が男しかいない。男がいないと、
  わたし――」
男「……へへ。きたねえよな。俺……
  よう。おまえ、英語はできるか?」
女「……へ? いや、全然。なんで?」
男「ほら、あの船」
女「え?」
男「貨物船だ。アメリカ行きのな」
女「……まさか、あんた」
男「密航しようと思ってる。この国じゃあ俺は生きてけねえ。
  おまえも一生日陰者だ。だから……
  戸籍もなにもねえ、自由の国アメリカで。
  もう一度、やりなおそうと思うんだ」
女「…………」
男「……来るか?」


385 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:41:32.72 ID:QyPCQbkC0
>>384

女「『来るか?』だってさ。すっごいマジメな顔して」
男「本気で言ってる」
女「知ってるよ。なんでそんなこと聞くわけ?」
男「え……?」
女「答え、知ってるくせにさ」
男「……ああ。そうだな。いや悪かった。
  おっしゃあ! んじゃあ、行くぜ!」
女「うん!」
 
 そして、二人はアメリカへと旅立つ。
 この元囚人二人がこれからどんな道を歩んでいくのかは
まだわからないが――
 それはまた、別の話。


394 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:51:17.75 ID:QyPCQbkC0
>>385の直後にばいばいさるさん食らった。危なかった

なんかもう超のつきそうな超展開だが、>>231が鬱エンド
(かつ、死後に結ばれエンド)をやってしまったので、
路線変更してみた

辻褄を合わせるために伏線張りまくったせいで回収部分が
長くなってしまったが、勘弁してくれ


395 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:55:35.07 ID:7cIC80x7O
乙だぁ

すばらしかった


397 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 05:56:40.82 ID:TFseGZ/5O
じゃあ二人とも救われないエンドを俺がだな…


399 :VIPがお送りします [] :2008/10/20(月) 06:06:36.58 ID:QyPCQbkC0
書くのが遅いせいで長い時間つきあわせてしまって
すまんかった。保守ってくれたみんな、ありがとうさんよ

>>397に期待しつつ俺はROMになる
みんなおつかれさん ノシ



次へ 戻る 上へ