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( ^ω^)ブーン系小説シベリア図書館のようです★7
504 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 1/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:18:02 発信元:59.135.38.142
ζ(゚ー゚*ζ「失礼致します」

/ ,' 3 「……」

ζ(゚ー゚*ζ「昨夜は大変失礼いたしました。本来ならば手打ちにされても仕方なきところ、王の寛大な処置に感謝の言葉もございません」

/ ,' 3 「形式ばった挨拶なぞ良い。それにあそこまで余を痛罵しておきながら、感謝も何もあるまいに」

ζ(゚ー゚*ζ「誠に申し訳ございません。ですが、王の寛大さに感激したことは、偽りではございませぬ」

/ ,' 3 「たわけが、おべっかなぞ聞きたくもないわ」

ζ(゚ー゚*ζ「お怒りも当然のことと存じます。私めへ罰を与えるなら、甘んじて受け止めましょう」

/ ,' 3 「昨日までより嫌に殊勝だな。何やら気味が悪いわ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。私の申したいことは、全て申しましたゆえ」

/ ,' 3 「申したいこととな?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうでございます。王が優しき王へ戻ろうとしている今、私の存在などもはや微々たるもの」

ζ(゚ー゚*ζ「ゆえに私は、どのような懲罰も恐ろしくはないのでございます」

/ ,' 3 「またぞろその話か。口では感謝を示しながら、心の内ではやはり罰せられると思っておるではないか」

ζ(゚ー゚*ζ「言われてみれば。これは失言にございました」

/ ,' 3 「心配せずとも、そちを罰するような真似はせぬ。その代わり、今宵はまず余の質問に答えてもらおう」


505 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 2/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:20:32 発信元:59.135.38.148
ζ(゚ー゚*ζ「質問、でございますか? 私に答えられることならば、何なりとお尋ねください」


/ ,' 3 「うむ。余が尋ねたかったのは、昨夜の貴様の言動についてだ」

ζ(゚ー゚*ζ「私めが、何かおかしなことを申しましたでしょうか?」

/ ,' 3 「おかしいと言うなら全てがおかしいが、余が気になったのは刃を向けた時の貴様の言葉」

/ ,' 3 「貴様は、死した後アッラーの元へは行かず、天の星になるとかなんとか言うておったな」

/ ,' 3 「そしてまた、己も己の語る娘の内の一人である、とも」

/ ,' 3 「余にはその言葉の示すところが分からぬ。一体貴様は何を思ってアッラーを

    否定し、実在せぬ夢の娘と己を重ね合わせるのか、嘘偽りなく答えてみよ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい……と言いたいところなのですが、実を申しますと、私も未だその答えを見つけていないのです」

/ ,' 3 「何?」


508 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 3/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:22:30 発信元:59.135.38.143
/ ,' 3 「どういうことだ? よもや、命が助かりたいがために口から出任せを喋ったのか」

ζ(゚ー゚*ζ「そうではございません。その問の答えは、私が全ての娘の物語を語った先にあるのです」

/ ,' 3 「では、なぜあの時お前はそのようなことを口走った?」

ζ(゚ー゚*ζ「さて、それはなぜでしょうか。予感めいたものなのか、もしくは夢の娘が私にそう言わせたのか」

ζ(゚ー゚*ζ「ともあれ今の私に出来ることは、娘の楽しげな話を語り、王の耳を楽しませることだけでございます」

ζ(゚ー゚*ζ「それが叶わなければ、私が王の御前に立つ意味もなくなりましょう」

/ ,' 3 「さても、不可思議な話よ。まるで余は悪霊に翻弄させられておるようだ」

ζ(゚ー゚*ζ「私は悪霊でございますか。それは考えたことのない発想でございました」


510 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 4/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:24:55 発信元:59.135.38.147
ζ(゚ー゚*ζ「ならば私は、私が悪霊になどとり憑かれていないという証明をしてご覧に入れましょう」

/ ,' 3 「どのようにそれを証明すると申すか。そちは呪い師でも何でもあるまいに」

ζ(゚ー゚*ζ「では王様、私の手をお取り下さいませ」

/ ,' 3 「む……こうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、ようございます。王様、私の手は、温かいでしょうか、それとも冷たいでしょうか?」

/ ,' 3 「このような温暖な気候の夜に、手が冷たくなるはずがなかろう」

ζ(゚ー゚*ζ「そうでございますね。では、悪霊に憑かれた者が、果たしてこのように温かい手をしているものでしょうか?」

/ ,' 3 「それは……まず、なかろうな」

ζ(^ー^*ζ「左様でございましょう。王様の手も、どれ程冷たいふりをなさっても、温かでございますよ」

/ ,' 3 「……ふん」


511 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 5/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:28:49 発信元:59.135.38.144
【素直HOT】

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、私の夢の娘にも、このような温かな手をした娘がおりました」

/ ,' 3 「そのようなもの、取り立てて騒ぐようなことでもあるまい。血の通った人ならば大抵温かな手をしておるわ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。それは比喩的な意味ではなく、読んで字の如く人より体温が高いのでございます」

/ ,' 3 「何じゃ、その娘は体でも壊しておるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それも違います。その娘の体温は、病の時に発する熱とも違い、長く触れていると火膨れを起こすほどの高さなのです」

/ ,' 3 「ぬぅ……そのような娘がおるとするなら、それこそまさに悪霊ではないか」

ζ(゚ー゚*ζ「しかし、その娘は、冷たく冷えた殿方を己の温かさで温めようとしておりました」

ζ(゚ー゚*ζ「これは、一見負の価値しか見出だせないような事柄であっても、

      使い方次第では人のためになるということを示しているとは思いませんか?」

/ ,' 3 「ふむ。そう思うと何やら余まで、暑くなってきたような気がするな」

ζ(゚ー゚*ζ「では次は、正真正銘の幽鬼のお話でもしましょうか」

/ ,' 3 「何?」

ζ(゚ー゚*ζ「と言いましても、恐ろしげなところなぞ何一つない霊ではございますが…」


513 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 6/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:32:23 発信元:59.135.38.150
【元気な憑依霊】

ζ(゚ー゚*ζ「その霊は、殿方に憑き纏いたる娘の幽霊なのでございます」

/ ,' 3 「そのような娘がおるとは、にわかには信じがたいな」

ζ(゚ー゚*ζ「おりますとも。それも、死してなお有り余る生気を迸らせる、気のよい娘の霊でございました」

/ ,' 3 「馬鹿な。死者が生者と、同じように振る舞えるはずがあるまい」

ζ(゚ー゚*ζ「それは、我々の常識の範疇。あちらでは、死霊が生者と遊ぶことさえ可能なのです」

/ ,' 3 「ぬぅ……」

ζ(゚ー゚*ζ「娘はまるで死者ということを感じさせず、殿方と共に日々を楽しく過ごしておりました」

ζ(゚ー゚*ζ「死者の娘でさえ思いを成就させてしまうあちらの世界は、素敵な場所だとは思いませぬか?」

/ ,' 3 「それは、どこか恐ろしげでもあるな。余は例え愛した娘であっても、死した後まで一緒でありたいとは思わぬ」

ζ(゚ー゚*ζ「私は、死した後であっても、王の傍らに立ち娘らの話を語らいたく思いますが」

/ ,' 3 「ふん、そのようなことをすれば、それこそそちは悪霊ではないか」

ζ(゚ー゚*ζ「ですが、志半ばで散るも人の世の常。なればこそ、死した後に残した者を案ずるも、人の努めではないでしょうか」

ζ(゚ー゚*ζ「無論それは、王自身がそれを望めばの話でございますが」

/ ,' 3 「余からすればそれは、余計なお節介に他ならぬわ」


515 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 7/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:35:36 発信元:59.135.38.143
/ ,' 3 「さっきから聞いていれば、そちの語り口は余への当てつけにも聞こえるわ」

/ ,' 3 「もしや、昨日の妃と娘とのことへ、暗に釘を刺しておる訳ではあるまいな」

ζ(゚ー゚*ζ「そのようなはずがありませぬ。それに、私が悪霊のようだと言ったのは、王が最初でございますわ」

/ ,' 3 「ぬ……それは、そうだったかも知れぬが」

ζ(゚ー゚*ζ「もしも私のお話が気にかかったのなら、それは王自身がお妃様と娘らのことを気にかけているからに相違ございません」

ζ(^ー^*ζ「王はやはり、私の確信した通り、優しき王でございました。私は嬉しゅうございます」

/ ,' 3 「そのようなことを言っておきながら、腹の中では余が本当に墓を作るなどとは思っていないのだろう。違うか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。私は王の御心と、この温かな手を信じておりますゆえ」

/ ,' 3 「いつまで人の手を握っておる。さっさと離さぬか」

ζ(゚ー゚*ζ「申し訳ありませぬ。それでは、切りも良いようですので、今宵はこの辺でおいとまさせていただきます」

/ ,' 3 「ぬ、そうか……」

ζ(゚ー゚*ζ「それでは王様、お休みなさいませ」

/ ,' 3 「……」


516 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 8/17 [sage] :2010/04/20(火) 22:39:34 発信元:59.135.38.143
―――翌、昼間

/ ,' 3 「……」

(´・ω・`)「王様、お呼びでしょうか」

/ ,' 3 「うむ……ちと、な」

(´・ω・`)「何やら考え深げなご様子ですが、もしや私の娘が昨晩王様に粗相を致したのでは……」

/ ,' 3 「いや、違う。今日は貴様に尋ねたいことがあって呼んだのだ」

(´・ω・`)「は。尋ねたいことでございますか? 執務の方は滞りなく進んでおりますが」

/ ,' 3 「そうではない。貴様は余の質問に、忌憚なき意見を述べればよいのだ」

(;´・ω・`)「は、はい」

/ ,' 3 「では、尋ねるが……余は、余のしたことは、間違っていたか?」

(;´・ω・`)「は……?」

/ ,' 3 「間抜けた顔を晒すでない。貴様は何度『は』と言えば気が済むのだ」

(;´・ω・`)「し、しかし、あまりにも唐突な質問でしたので……王のしたこととは、例のあのことでございますよね……?」

/ ,' 3 「そうだ。あの件に関しては事の全てを知っているのは貴様と余しかおらぬのだ。貴様に是非を尋ねるのは当然であろうが」

(;´・ω・`)「それはそうでございますが……」


522 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 9/17 [sage さるくらいましたごめん] :2010/04/20(火) 23:00:41 発信元:59.135.38.145
/ ,' 3 「して、貴様はどう思う。余が妃を殺し腹いせに娘をも殺したこと、是と言うか非と言うか」

(;´・ω・`)「し、失礼ながら、私には少々荷の重い問題かと……」

/ ,' 3 「貴様も片棒を担いでいるのだ。まさか、知らぬ存ぜぬで通しきれるはずがあるまい」

(;´-ω-`)「……さすれば、お答え申し上げまする」

(´・ω・`)「お妃様が亡くなられた後、砂漠の果てへ亡骸を捨てましたのは私の仕事」

(´・ω・`)「そして、毎夜ごとに王様へ献上する娘を探しだすのも私の仕事」

(´・ω・`)「そのいずれもが、正直に言って私には大変な痛苦でございました。

     我が娘が名乗りを上げなければ、それは今も続いていましょう」

(´・ω・`)「その私の苦痛を思えば、いかに王様と言えどあの行為を是とする訳には、やはりいかないでしょう」

/ ,' 3 「……」

(;´・ω・`)(しまった。今少し言葉を選ぶべきだったか……?)

/ ,' 3 「…ふん、貴様らしい自分本意な意見だな。だが、分かった。貴様の言で決心がついた」

(;´・ω・`)「と、申しますと?」

/ ,' 3 「これより、妃と娘らのために墓を作る。早急に取りかかるのだ」

(;´・ω・`)「なっ…!?」


524 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 10/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:04:14 発信元:59.135.38.141
(;´・ω・`)「正気でございますか!? そんなことをすれば、国民に王の凶行を知らしめることになるのですぞ!?」

/ ,' 3 「承知の上だ。それとも貴様は、この期に及んでまだ自身の身が心配か?」

(;´・ω・`)「私はどうなっても構いませぬ。ですが、この国の象徴たる王の権威が崩壊すれば、たちまちに国は滅びまするぞ!」

/ ,' 3 「何のための、誰の墓であるかは明かさねば良かろうが。それにこれは元々、貴様の娘の出した案であるぞ」

(;´゚ω゚`)「は、はぁ!?」

/ ,' 3 「やはり知らなんだか。あの娘、余へ向かって妃と娘らをないがしろにするなと言うてきた」

/ ,' 3 「その為に、墓を作って皆を弔え、と。その行為はいずれ余自身をも救うだろう、と」

/ ,' 3 「その言葉にほだされた訳ではないが、預言者めいた娘の台詞には少々感じ入るところもあったのでな」

/ ,' 3 「貴様がもし余のしでかした行為を非としたならば、その台詞に乗ってみるも一興かと思うただけよ」

(;´・ω・`)「なんと……たった三晩でそのような心変わりをなされるとは……」

/ ,' 3 「貴様の娘は、つくづくおかしな娘よの。そしてそれに興味を抱く余もまた、大した好き者だったという訳だ」


526 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 11/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:08:50 発信元:59.135.38.141
(´・ω・`)「なれば、取り急ぎ人足を集め仕事に取りかかりましょう。王命とあらば、ゆるりとする暇もありますまい」

/ ,' 3 「うむ、頼んだぞ。大臣よ」

(´・ω・`)「ははっ。畏まりましてございます」

―――

(;´・ω・`)「ああ、忙しい忙しい」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、お父様。そのようにお急ぎになられて、一体どうしたのですか?」

(´・ω・`)「おぉ、娘よ! お前はよくやってくれた」

ζ(゚ー゚*ζ「私が、何か致しましたでしょうか」

(´・ω・`)「たった今、王からの勅命で、お妃様と娘らへ墓を作るようお達しがあったのだ」

ζ(゚ヮ゚*ζ「まぁ! それは真にございますか?」

(´・ω・`)「おぉ、真であるとも。聞けばこの案はお前が提案したとのこと。全てはお前の影働きの成果であろう」

(´・ω・`)「この難事、よくぞこなしてくれた。父としてお前を誇りに思うぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「私は、王の傍らで語らうただけでございます。真に称賛されるべきは、優しき気性を取り戻して下すった王にございましょう」

(´-ω-`)「謙遜なぞしなくてもよい。いずれにせよ、お前がいなければ王があそこまで決心することはなかったのだから」


528 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 12/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:12:33 発信元:59.135.38.149
ζ(^ヮ^*ζ「あぁ、それにしてもなんと素晴らしいこと! 叶うならば今すぐ王へ謁見して、感謝を述べたいほど」

ζ(゚ー゚*ζ「お父様、せめて一言交わすだけでも構いませんので、王のお顔を拝見することは出来ませんでしょうか」

(´-ω-`)「む……まぁ、その程度であれば良かろう。仮にもお前は、影の功労者な訳だからな」

ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます、お父様」

(´・ω・`)「ただし、いつもの夜伽と違い、執務の最中であるということを努々忘れるでないぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。それでは行って参ります」

(´・ω・`)「……あのようにはしゃぐ娘の姿、初めて見たな」

―――

ζ(゚ー゚*ζ「失礼致します」

/ ,' 3 「誰だ、余はただいま執政の最中である。用向きがあるなら戸の外から要件を述べよ」

ζ(゚ー゚*ζ「王様、私でございます。大臣が娘にございます」

/ ,' 3 「何だ、そちか。このような明るい時間に、まさか夜伽でもあるまいに、一体いかなる用で来た?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。先ほど我が父と少し話を致しまして、王がお妃様と娘らの為にお墓を

      作るようご命令なされたと聞きましたので、ここに参じた次第にございます」

/ ,' 3 「あのおしゃべりめが……なぜ秘匿に事を進めることが出来ぬのだ」


530 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 13/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:18:38 発信元:59.135.38.144
ζ(゚ー゚*ζ「娘である私に口を滑らせたのは、私にも関係のある話だったからでございましょう。どうかお父様を叱らないで下さいまし」

/ ,' 3 「あやつのおしゃべり癖は昔からよう知っておる。大臣としてはいかがなものかとは思うが、叱りなぞせぬから安心せい」

ζ(゚ー゚*ζ「左様でございましたか……。あぁ、それにしても私は感激致しております。王様がまさか、ここまで早く墓碑作りに取りかかって下さるとは」

/ ,' 3 「まるで余を、血も涙もない者とでも思っていたかのような口振りだな」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、私は信じておりました。王は必ずや寛大な心を持って、改心して下さると」

/ ,' 3 「改心なぞしておらん。ただ、いかに余が国の音頭を取る要と言っても、妃や娘らの霊に祟られてはいかんともし難いからな」

ζ(^ー^*ζ「そのようなことをおっしゃらずに。私にはまるで、この扉越しに王の照れたお顔が見えるようですわ」

/ ,' 3 「なっ……ぶ、無礼者! 少しはわきまえた発言をせぬか!!」

ζ(゚ー゚*ζ「申し訳ありませぬ。でしたら、非礼を詫びる変わりにまた一つ、お話をさせて頂きたいのですが、いかがでしょう」

/ ,' 3 「何じゃ、またそちの夢の話か? こんな昼間に夢を語るとは、酔狂にも程があるぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「では、また今宵、出直した方がよろしいですね」

/ ,' 3 「……いや、良い。よくよく考えれば、昼間語るも夜語るも同じこと。ならば部屋へ入り、足を伸ばしながら寛いで語るが良い」

ζ(゚ー゚*ζ「そのお心遣い、感謝致します。ですが、この話だけはこのままの方が、雰囲気が出て良いかもしれません」

/ ,' 3 「なにやら、また奇っ怪な話が聞けそうな趣だな」

ζ(゚ー゚*ζ「奇っ怪という程のことはありませぬが、少々特殊な状況下にある男女のお話ではあるやもしれませぬ」


532 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 14/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:21:21 発信元:59.135.38.150
【壁越し】

/ ,' 3 「何じゃ、それは。あまり余に気を持たせるでない」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。その男女の間には、ちょうど今の私と王様のように、二人を分かち隔てる壁がございました」

/ ,' 3 「むぅ、それは何故だ。その二人は何かしでかして、閉じ込められてでもいるのか」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。その二人には友がおらず、常に一人きりで個室に籠っていたのでございます」

/ ,' 3 「それは随分と女々しい話だな。片方は男児であろうに、情けない」

ζ(゚ー゚*ζ「皆が皆、王のように猛々しい訳ではございませぬ。それに、個室で泣いている

      娘にその殿方が気付き、二人は次第に交流を持つようになっていったのです」

/ ,' 3 「ほう……」

ζ(゚ー゚*ζ「とはいえ、互いにはぐれ者の身ゆえ、話も弾もうはずがございません」

/ ,' 3 「さもありなん、といったところだな。まるでありありと情景が浮かぶようだ」

ζ(゚ー゚*ζ「しかし、それはそれで二人は救われていたのでしょう。同じような

      境遇の者が二人いれば、言葉は交わさずとも心の内は汲み取れるものです」

/ ,' 3 「弱い者同士が、傷を舐めあって何になろう」

ζ(゚ー゚*ζ「そうは仰いますが、孤独の内に傷ついた者を救えるのは、同じ孤独を味わったことのある者だけではないでしょうか」


533 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 15/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:24:32 発信元:59.135.38.142
ζ(゚ー゚*ζ「それに、私にはこのお二方の孤独が他人事のように思えないのです」

/ ,' 3 「来たぞ、余への説教が。貴様は遠い異国の地の話をすると見せかけて、すぐ余に何がしか含みを持たせようとするからな」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、これはとんだご無礼を。王がこの話を不快に思うようなら、お止め致しますが」

/ ,' 3 「良い、今のはただの戯れ言だ。三日も続けて聞いていると、貴様がどのように余へ向けて説教するかが、逆に楽しみに思えてくるわ」

ζ(゚ー゚*ζ「説教などではありませぬ。ただ、娘らの話を言葉にすると、時たまこの世の真実のようなものを見つけることがあるだけなのです」

/ ,' 3 「ふふん、この世の真実と来たか。では、その二人から見えた真実とは如何様

    なものか。そして貴様が他人事とは思えぬという孤独とは何か、話してみせよ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。それは、人としての根元の孤独、己は己以外の者にはなれぬという孤独でございます」

/ ,' 3 「それは、一体どういったものなのだ。説明してみせよ」

ζ(゚ー゚*ζ「それは、王は王にしかなれず、また私も私にしかなれないという孤独のことでございます」

/ ,' 3 「それは、言うまでもない至極当然のことではないのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「当然であるがゆえに不可避で、また当然であるがゆえに真実なのです」


537 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 16/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:29:23 発信元:59.135.38.150
ζ(゚ー゚*ζ「人の心というものは、人が人である限り決して交わることはありませぬ」

/ ,' 3 「嫌にはっきりと断定するな。確かに人の本心がどこにあるかなぞ、分からぬものではあるが」

ζ(゚ー゚*ζ「それでも人は、このお二方のように、人と手を取り合わずにはいられない生き物なのです」

ζ(゚ー゚*ζ「亡くなった娘らへ墓を作るという行為も、それに似ているのではないでしょうか」

/ ,' 3 「……」

ζ(゚ー゚*ζ「王がおっしゃられたように、最初の動機は己のためでよいと思うのです」

ζ(゚ー゚*ζ「私の話しましたこの男女も、始まりは孤独な己を癒すために、互いに声を掛けていたに過ぎないのですから」

ζ(゚ー゚*ζ「しかし、この二人は徐々に涙する互いを慈しみ、壁を乗り越えようとするようになっていったのです」

ζ(゚ー゚*ζ「墓碑を作るという行為もそれと同じ。死者の心が我々生者と交わらぬ以上、最初は王の言う通り災いを

      避けるために作ったものでも、じきに亡くなられた方への弔意を示すものへと成り変わるはずでございます」

ζ(゚ー゚*ζ「私が以前申しました王自身を救うという言葉は、そういう意味なのです」

ζ(゚ー゚*ζ「殺めたる命は戻っては来ませぬが、ならばせめて、その方を一生涯忘れぬよう、いつまでも己の心にとどめておかねばならない」

ζ(゚ー゚*ζ「それが、生者が死者へ対して出来るせめてもの誠意なのではないかと、私は思います」

/ ,' 3 「やはり最終的には、余に対する説教になったではないか」

ζ(゚ー゚*ζ「そのようなつもりはなかったのですが……もしも機嫌を損ねましたのなら、どうかお許し下さいまし」


538 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 17/17 [sage] :2010/04/20(火) 23:32:31 発信元:59.135.38.150
/ ,' 3 「謝る必要はない。余とて別段怒ってはおらぬ」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。そのお言葉で、私も救われた思いでございます」

/ ,' 3 「余としたことが、政務もそっちのけで聞き入ってしまったわ」

ζ(゚ー゚*ζ「私も、長々と失礼致しました。続きはまた、今宵王のお部屋でお話しましょう」

/ ,' 3 「うむ。では、余も貴様の話を楽しみに待つことにしよう」

ζ(゚ー゚*ζ「え…? 王様。今、なんと?」

/ ,' 3 「改めて聞き直すでない。貴様の話には期待していると言っただけだ」

ζ(^ー^*ζ「初めて私の話を、楽しみだと言って下さいましたね。私は嬉しゅうございます」

/ ,' 3 「単なる言葉の綾だ。真に受けるでない」

ζ(゚ー゚*ζ「申し訳ありませんが、その言葉は聞き入れられませぬ。私も、王にお話するのが楽しみで仕方ありませぬゆえ」

/ ,' 3 「一時は殺されかけたというのに、そちはずいぶん豪胆な娘だな」

ζ(^ー^*ζ「うふふ……それでは、また今宵、娘ら共々お会いしに来ます」

/ ,' 3 「……うむ」


541 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ [sage] :2010/04/20(火) 23:44:28 発信元:59.135.38.145
今回投下分終了です。支援感謝

途中さるくらったのに間を置かず投下しようとしたせいで、えらく遅くなってすんませんでした

・関連新ジャンル一覧

・素直HOT http://www18.atwiki.jp/takaharu/m/pages/3335.html?guid=on

・元気な憑依霊 http://hebiya.blog40.fc2.com/?mode=m&no=1821

・壁越し http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/kabe.html

ちなみに、関連新ジャンル一覧は自分が見やすいところから参考にしてるだけなんで
ググれば他にもまとめてあるサイトがあるかもしれません

それではまた、近いうちに


544 :いやあ名無しって [] :2010/04/20(火) 23:48:47 発信元:61.126.208.181
夜にぴったりだすね!乙!



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