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新ジャンル「常識的に考えて」
91 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 15:49:15.72 ID:KgUBnGFH0



その後、落ち着いた彼女と普通に遊んだ。
至極普通に。

カラオケに行って、ゲーセンに行って、公園でのんびりして、ハトにエサをやって、軽くゴハンを食べた。

ハトと戯れながら「えへへっ、ヒッチコックー!」と小さく笑った彼女が印象的だった。


そうして、辺りが暗くなってきた頃。
そろそろ帰ろうかという空気になっていた。


92 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 15:53:11.13 ID:KgUBnGFH0



「あ…センパイ、これ、可愛いですね」

俺の隣を歩いていた彼女が、目に留めたのは路上のアクセ売り。


「よぉ、らっしゃい。安くしとくぜ」

彼女が興味を持ったのが分かったのか、ドレッド頭の兄ちゃんがすかさず彼女に声をかける。
…っつーか、この人恐ぇよ。なんで路上でモノを売ってる人は大体DQNか黒人なんだ。


「…あ…」

ドレッド兄ちゃんに声をかけられた彼女は、軽く体を震わせると俺の後ろに隠れてしまった。
…なんだ? 意外とシャイなのか? 俺と会った時はそんな素振りなかったんだけどな。


93 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 15:58:13.92 ID:KgUBnGFH0

「おおう。恥ずかしがり屋なカノジョ↑だな?」

彼女の様子に兄ちゃんがニヤニヤしながら今度は俺に話を振ってきた。
発音がちょっとムカつく。

だが、それ以前にその誤解は非常に困る。


「あの、えっと、俺ら、そんな関係じゃ無いんで」


俺が思わずそう返した時、後ろに居た彼女がそっと俺の服を引っ張った。
…なんだか、無駄にドキドキする。


「あーん? なんだよー、若いって羨ましいなマジ。いや、オレ、照れちまうぜー!」

なんでアンタが照れてんだ。


94 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:01:13.07 ID:KgUBnGFH0


「アレだろ、ホラ、友達以上彼女未満って奴だろ? くぁーっ、アツいねお二人さんよぅ!」

なんだこのドレッド。
全自動でテンションが上がっていく仕様のようだ。

さすがニート以上フリーター未満は言う事が違う。


「…えっと、どれが可愛いって思ったの?」

俺はとりあえずDQNをスルーして後ろの彼女にそっと聞いてみた。


95 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:05:43.36 ID:KgUBnGFH0

「…えと…アレ、です」

小声で答える彼女がそっと一つの商品を指さした。
それはシンプルなデザインのペンダントだった。

…彼女によく似合うかも知れない。


「あの、これ、いくらですか?」

「おおっ!? なんだよ、兄ちゃん粋だな。カノジョ↑未満にプレゼントかっ? この羨ましいねぇっ!」

このDQN、人の話聞けよ。


「…いくらですか。」

俺は機械のように同じ発音を繰り返す。


「んーっ! そうだな。二万と言いたいトコだが、その恋路を祝して二千円でいいぜ!」

…元から二千円じゃねぇの?


96 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:08:42.32 ID:KgUBnGFH0

「じゃ、これ」

俺はDQNに金を渡す。


「あのっ、センパイ、あたしそんなつもりじゃ!」

俺が金を出した時、彼女が慌てて俺を制止しようとしたが、それはスルーする事にした。
…今日はデートらしい事を何ひとつしていない。
最後ぐらいはちょっと見栄を張ろう。


「あいよっ、まいどありっ! お二人さん、幸せになっ!!」

DQNのウザい気味の笑顔はちょっと中毒性がありそうだった。


97 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:14:07.78 ID:KgUBnGFH0

「ん。じゃこれ」

DQNの手厚い送迎から逃げ出すと、俺は彼女に袋に入ったペンダントを差し出す。


「…えっと…その、いいんですか? もらっちゃって」

彼女は俯き気味で、その表情があまり見えない。


「いいよ。今日はデート?らしい事、なんにも出来なかったし」

「…でも…あの…」

俺が差し出した袋を見つめたまま、彼女は躊躇しているようだった。
…さっきも思ったが、意外と引っ込み思案なのか?


98 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:16:53.73 ID:SGCzj6AI0
うぐあああああ

俺の古傷をえぐるような小説はやまいもおおお


99 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:20:32.32 ID:KgUBnGFH0

「もらってくれると嬉しいんだけどな。どうせ俺、アクセサリーあげる人なんて居ないしさ」

「…そう、なんですか?」


そこで彼女は初めて俺を見上げた。
…気持ち頬が赤い気がする。


「や。俺、モテないし。
 正直に言っちまうと今までデートってのもしたことなくてさ。
 どうすればいいのか今日ずっと迷ってたよ」


なんだか無駄に饒舌な俺。
いままで彼女にずっと気圧されていた反動なのか。
少しおとなしい彼女が新鮮だったからなのか。
それは分からないけど、妙に素直な気持ちでいた。


「…えへっ、あたしもです。」

彼女は俺の情けない話にまた、小さく笑った。
少しだけ恥ずかしそうに。


100 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:26:44.67 ID:KgUBnGFH0

「じゃあ、いただくことにします。大切に、しますねっ」

俺が差し出した袋を、宝物のように両手で抱え込む彼女。
そんなに大切なモノのように扱われると、なんだか気恥ずかしくなってくる。


「や、でも安物だし、壊れちゃうかもしれないし。てきとーでいいよ?」

袋からペンダントを取り出して、それを眺めていた彼女に向かって声をかける。


「値段なんてかんけーないです。こういうのは誰からもらったが重要なんですからっ」


101 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:30:01.83 ID:KgUBnGFH0


彼女はまた嬉しそうに小さく笑う。
…彼女のその笑顔を見る度に、ある事を自覚していく俺が居た。


「あの…さ」

少し前を歩く彼女に声をかける。

「はい? なんですか?」

柔らかく振り向く彼女。
黄色のワンピースの裾がフワッと舞った。


102 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:30:24.70 ID:dRi4ZZyWO
あんま新しくないだろ、常識的に考えて・・・


103 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:33:20.38 ID:KgUBnGFH0


「…宿題、できたよ」


決意を込めて。
勇気を持って。


俺の言葉に彼女の雰囲気も変わる。
その姿は凛としていて、妙に闇に映えた。


「…よーやく、分かりましたか?」


その笑顔。
俺はその笑顔に。


104 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:36:55.33 ID:KgUBnGFH0

一世一代の大勝負。
正に舞台・ザ・清水。

小学生の頃、初恋のアヤちゃんに告白した時の返事は「息すんな」だったけど。



でも、もう一度だけ勇気を出せ。

俺は、このコともっと一緒に居たいと思ってるんだろう?

だったら、その気持ちを吐き出すだけでいい。


がんばれ。おれ。




「俺は」


106 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:38:43.68 ID:KgUBnGFH0

「君が好きだ」









…時が止まった。
何も音が聞こえない。
風の流れも感じられなかった。

一瞬が何時間にも感じられた。
精神と時の部屋かと思うほどに。


107 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:43:00.39 ID:KgUBnGFH0



「……えへへ…っ…」

その沈黙を破ったのは彼女のはにかみ。


「…センパイ?」

俺が聞いた中でも一番甘やかな彼女の響き。


108 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:44:04.95 ID:KgUBnGFH0

「嬉しいんですけど…」

けど!?





「宿題は、何であたしがセンパイをデートに誘ったか、じゃなかったですか?」

あ。


109 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:48:21.78 ID:KgUBnGFH0

「…もしこれがテストだったら三角ですよ? センパイ」

そうやって小さく笑う彼女。
俺はもう顔から血が出そうだった。

先走りとかカウパーってレベルじゃねーぞ。



…ん? でもちょっと待て。

「…三角?」


110 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:52:31.39 ID:JWTogZdrO
ヤバい…萌え死にそうだ…


111 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:53:04.73 ID:KgUBnGFH0

「…はい、三角ですっ」

そう言い、近寄ってくると不意に俺の手を取る彼女。
その小さな白い手は暖かかった。


「あと、えと、その」

俺はドギマギして何も言い出せずに。
小柄な彼女は俺の胸ぐらいまでしかなくて。


その俺の胸にそっと重りがかかる。
彼女のつむじはやっぱり綺麗な形をしていた。


「…これから、末永く、よろしくお願いします」


112 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:55:31.15 ID:KgUBnGFH0


彼女の言葉は俺の骨を揺らすように、全身に響いて。
血管が普段の3倍の量で仕事をしていた。


「う…ぁ…」

「…センパイ?」


間近で俺を見上げる彼女。
その彼女の綺麗な瞳を夜の街が照らしていた。


「…や、なんか恥ずかしすぎて呼吸困難になりそうだった」

「…えへへっ、恥ずかしいこと言ってごめんなさいです」


そうやって小さく笑う彼女の顔は真っ赤で。
きっとたぶん恐らく、俺の顔も真っ赤で。


113 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:56:54.61 ID:KgUBnGFH0


「…でもさ、なんかズルくね?」

ある事に気付いた。

「はい? なんですか?」


「なんか俺だけ言わされた感がある」

そうなのだ。
俺は彼女の口からハッキリと聞いていない。
ヘタをすれば、あやつられたぐらいの勢いで。


114 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:58:22.11 ID:0F9qdedY0
夢オチ、Bad End等は許さないよ♪


115 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 16:59:11.53 ID:gJ7EBPqNO
どうでもいいけどドレッドDQNかっけえ


116 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 17:00:00.14 ID:KgUBnGFH0

「あれ? そーでしたっけ?」

彼女は誤魔化すように笑って。


「まーまー、いいじゃないですか。ほらっ、早く帰りましょ?」

俺の手を引く。
だが俺はガンとして動かなかった。


「イヤだ。言ってくれるまで帰らないもん」

「いやいや、もんって…」

呆れたような彼女の笑顔。


「もー…、センパイは意外と子供っぽい所があるんですね? これも新発見です」


117 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 17:03:20.48 ID:KgUBnGFH0

彼女は俺の新しい部分を発見する度、そういって嬉しそうに笑う。
その笑顔を見るのも嬉しい事ではあったが、それよりも俺には急務があった。


「ほら、早く。言ってくれ。さぁ、言うんだ!」

俺、調子乗ってね?wwwwwサーセンwwwww



「ううー…」

顔を真っ赤にして困る彼女。
…やっぱり可愛いんだぜ?


119 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 17:06:07.40 ID:KgUBnGFH0

「じゃあー…言います…けど。」

「…けど?」

「…その…顔見られたくないんで…抱き付いても、いいですか?」


彼女は言葉よりも早く俺の胸に抱き付いていた。
…積極的なのか消極的なのか分からないが、俺が嬉しいのは確かだ。

その体は俺の胸にすっぽりと収まってしまうぐらい小さくて。
ムヤミヤタラと保護欲をかきたてられた。


120 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 17:08:48.34 ID:KgUBnGFH0


「…言います、よ?」

俺の胸に向かって話しかける彼女。
吐息が熱い。
それ以前に俺の体が熱いんだろうか。


「…その…あたし、は…センパイ、が」

それは小さな声だったけど。
俺は全身を使ってその声を聞いていた。

「…好き………です」



俺はすかさず脳内S級フォルダにその音声を100万回保存した。


121 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 17:10:53.95 ID:KgUBnGFH0


「うー…」

再び顔を上げた彼女は何だか泣きそうな顔をしていた。


「…どーしたよ?」

「…センパイに凌辱されました」

いやいや、凌辱て。


「…嬉しかった。ありがとう」

素直に礼を述べる俺。



122 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 17:14:02.13 ID:KgUBnGFH0

「…うぁー…もー…。センパイ、言わなくても、気付いてたんでしょ?」

彼女の恨みがましい声を聞くのも初めてだ。


「いや、そうかなって思ったけどさ。やっぱり本人の口から聞きたくて」

だってさ。やっぱり言われたいもんじゃん?


「むー…センパイはイジワルですね」

そうやって唇を尖らす彼女。…アヒル?


「…キライになった?」


123 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/07/11(水) 17:19:33.58 ID:KgUBnGFH0

「…いえ」


そっと俺の手を握る彼女。
この小さな手を、俺はこれから何度握り返すんだろう。
それはまだ分からない。


「…なんだかあたし、イジワルなセンパイも好きみたいです。常識的じゃないですけどっ」


それはまだ分からないけど。


人生初デートの日。

それは人生初めての恋人が出来た日。










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