■戻る■ 下へ
農夫と皇女と紅き瞳の七竜
- 671 名前: ◆M7hSLIKnTI []
投稿日:2013/12/10(火) 19:41:46 ID:w.v1Ew..
第四部、はじまりー
短い最終部です
- 672 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:42:26 ID:w.v1Ew..
……………
………
…
小隊長『…と、ついに真竜の二度目のブレスが滅竜を捉えたわけよぉ』
新米兵『ちょっと小隊長…飲み過ぎですって、その話ならもう百回くらい聞きましたし、今夜だけでも三回目ですよ』
小隊長『あー?そうかぁ?』
新米兵『しっかりして下さいよ…明日は総司令殿に会うんですから』
小隊長『いいんだ、いーんだよぉ…総司令殿もどーせ毎晩飲んでらぁ』
新米兵『もう…頼みますよ、ほんと…僕は総司令殿には会った事無いんですから』
小隊長『大丈夫、だいじょーぶって…おいバーボンがもう空いてるぞぉ』
- 673 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:43:15 ID:w.v1Ew..
………
…
新米兵(…大丈夫って言ってたくせに、結局二日酔いで来られないって…なんて体たらくだよ)
新米兵(ああ…やだなぁ、総司令ともあろう方が、怖くないわけがない)
新米兵(…そもそも、なんでこんな片田舎に駐留してるんだろ。都にデンと構えてりゃ、苦労もしないのに)
新米兵(小さな村だから、すぐに会えそうだけど…それっぽい建物…大きな建物自体が無いぞ)
新米兵(うわぁ…麦畑が黄金色だ、広いなぁ)
新米兵(誰かいたら、訊いてみるかなあ…でも誰も…)
新米兵(あ、女の人がいる。この畑の人かな?)
- 674 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:44:21 ID:w.v1Ew..
新米兵「…あ、ちょっとすまない。訊いてもいいかね?」
農女「はい」
新米兵(うわ…綺麗なヒトだなあ、こんな田舎にも美人っているもんだ)
新米兵「この村に連合軍の総司令殿がいるはずなんだが、もちろん知っているのだろうな。案内してくれないか」
農女「…わかりました、おいで下さい」
新米兵(ついでにこのヒトの部屋にも案内してくれないかな…うへへ)
- 675 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:45:23 ID:w.v1Ew..
新米兵(しかし、珍しいよな…左の瞳は綺麗な青色なのに、右の瞳は紫がかってる)
新米兵(なんか神秘的で、余計に色っぽいな…)
新米兵(そういえば、小隊長のしつこい話に出てくる姫様も、真竜の力を引き継いだ時は右瞳だけが紅くなったんだっけ)
新米兵(…その後…えーと、滅竜に二度目のブレス攻撃をした後って…どうなったんだったかな)
新米兵(…何回も聞いたはずなんだけどな、いつも右から左だったから)
新米兵(…えーと、あれ?)
新米兵(………あ、そうだ…確か)
新米兵(そうそう、続きは…)
- 676 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:46:51 ID:w.v1Ew..
……………
………
…
男(……滅竜が…真竜が、消えていく)
不思議な感覚で、俺はその様を見ていた。
何故、俺の意識は消えないのだろう。
あの凄まじいブレスをまともに受けたはずなのに。
もう既に死んでいて、魂だけの存在になっているという事なのか。
それならば何故、俺はこうも疲れているんだ。
無理やりに剣を充填して、竜の瞳を割った…それは解っている。
しかし、疲労というのは死んでまで残るものなのか。
それに今、何故俺は宙に浮いている…真紅のブレスは止んでいるのに、どうして視界が紅いんだ。
…違う、これは…紅い球体に包まれて…ゆっくり降りている。
もうすぐ地面だ、一体どういう…
- 677 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:47:46 ID:w.v1Ew..
不意に、視界の紅色が消える。
地面に着くと同時に、俺を包んでいた球体が弾けたのだ。
幼馴染「男…!生きてる…!?」
時魔女「嘘…!?なんで…よかった、でも早く!女ちゃんが…!」
声を掛けられた事にひどく驚いた。
しかも『生きてる』とは、どういう事だ。
まさか本当に俺は生きているのか、でもそう考えればこの疲労に納得もいく。
時魔女は確かに今、女の名を口にした。
明らかに何か危機的な状況を示唆する言いぶりで、俺を呼んだ。
駆け寄りたいのは山々だ、だが…もう…身体を起こしてすら…
- 678 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:48:43 ID:w.v1Ew..
地面に倒れ込んだ俺は、情けなくも騎士長に抱えられて女の元へと運ばれた。
元の真竜の巫女と並んで寝かされた女は、目を閉じて動かない。
男「…女……」
俺だけが生き残り、女を失ったというのか。
そんな、最も望まない結末を見るくらいなら、いっそ俺も死んだ方がましだった。
男「女…嘘だろ…おい、女…」
真っ直ぐに下ろされた彼女の手を握る。
俺の掌の中、冷たい指輪の感触が伝わった。
…そうだ。
俺は結局、一度もこの指輪を正しく身に着けていない。
せめて、今…彼女を弔うためにも。
俺は右手だけを女の掌から放し、自分の胸元のペンダントを引き千切った。
そして、そのトップに提げていた対の指輪を…
- 679 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:49:48 ID:w.v1Ew..
男「これ…は…?」
指輪の台座、その石に色が無い。
あの、サラマンダーの瞳を切り出した紅い宝玉の欠片が、まるで金剛石のような透明な輝きに変わっている。
男(…まさか……)
あとの片手で握っていた、女の掌を放す。
その薬指に通された彼女の指輪、その石もまた透明になっている。
咄嗟に女の胸の間に耳を当てた。
微かに伝わる、定間隔の愛しい心音。
男「生きてる…!」
- 680 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:50:50 ID:w.v1Ew..
時魔女「本当に!?…ちょ、男!キスして、キス!」
幼馴染「そうだよ!王子様のキスで目が覚めるかも!」
…そうか。
きっと俺を包んでいた紅い球体は、同じ紅き瞳の力から守ってくれた結界。
女は真紅のブレスによって片瞳分の生命力を全て使い、死ぬはずだった。
しかし彼女もまた、片瞳分の他に小さな欠片を持っていたから。
幼馴染「騎士長様、無理矢理キスさせてやって下さい!」
男「馬鹿言え、生きてりゃその内…」
時魔女「大丈夫!今の男はヘロヘロで抵抗出来ないから!」
騎士長「承知した」
冗談かと思っていたのに、騎士長は本当に俺を押さえつけ始める。
確かに力が入らず、何の抵抗もできない。
女の眼前まで顔を運ばれた、その時。
女「……あ…れ…?私…生きて…?」
男「…女!」
- 681 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:52:20 ID:w.v1Ew..
目を開けた女、その右瞳はほのかに紫に染まっている。
女「男さん…!貴方も…生きてるんですか…!」
彼女の表情を最初に支配したのは、驚きの感情。
そしてすぐに喜びを経て、安堵の泣き顔に変わる。
それを見られたく無かったのか、女は俺の首に腕を回すと、半ば無理矢理に口づけた。
幼馴染&時魔女「……!!」
その腕が震えているのは、きっと嗚咽を堪えているからなのだろう。
少しして唇を離した彼女は、周囲にニヤついた面々がいる事に改めて気付く事になる。
そしていつものように、頬を真っ赤に染めて俺の胸に顔を埋めた。
その時、不意に女の温もりとは違う暖かさが背中を覆う。
外輪山の高さを超え、このクレーターの中央を照らす朝日だ。
騎士長「…終わったのだな」
幼馴染「そう…ですね」
時魔女「……チッ、寂しいぜ」
- 682 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:53:25 ID:w.v1Ew..
巫女は俺がグリフォンの背に乗って間も無い頃、息をひきとったという。
女に真竜の力を託し巫女としての役割を終えた彼女は、ようやく涙を零したそうだ。
穏やかに微笑んで、最後に『やっと、あの人を許して差しあげられる』と言い残して。
そのままの表情で、彼女は眠った。
幼馴染「…落ち着いたら、埋葬してあげないとね」
時魔女「翼竜と一緒にしてあげるのが、いいと思うんだ」
男「ああ…この場所でな」
- 683 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:54:34 ID:w.v1Ew..
月の副隊長「…隊長殿、よくぞ…滅竜を討たれましたな…」
俺の元を訪れた副官は似合わない涙に目を潤ませて、座り込んだままの俺の前に膝をついた。
月の副隊長「元よりの軍人ではない隊長殿が、あの時強い心を失った…それは仕方の無い事」
男「…情け無いところを見せたな」
月の副隊長「何を言うのです…貴方は我々が誇るべき、素晴らしい指揮官でありました」
彼がその右手を延べる。
力無く、それを握り返す。
男「だが、すまない…最高の副官は二人いる事にさせてくれ」
月の副隊長「ほう、妬けますな。その強者とは、一体…?」
男「俺を…命を救ってくれた者がいる」
俺は青い空を見上げて、でもそこに彼の者の姿を想う事はしなかった。
あいつはこんな青空の背景が似合うような人間ではない。
男「…なに、ただのゴロツキではあるのだが」
- 684 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:55:55 ID:w.v1Ew..
時魔女は星の副官に抱きついて、子供のように泣いている。
まだ二十歳にも満たない彼女だ。
数ヶ月もの間、この異国の地で慣れ親しんだ者もいない環境に耐えてきた。
まして命すら危機に晒しながらの事、辛く無かったわけがない。
ただ、少しでもその寂しさを紛らわせてくれる存在があったとしたら。
それは今、白夜新王に労いの言葉を掛けられている騎士長…ではなく、その程近いところで彼を見ている女性だったに違いない。
彼女は先刻、再会を果たした恩師に肩を抱かれて涙を零していた。
その後には共に修練に励んだのであろう門下生の仲間と、顔をぐしゃぐしゃにして抱き合っていた。
だからきっと瞼が腫れている、そしてそんな顔を見せたくない相手がいるのだろう。
彼女は水に濡らした拭き布を目に当てて冷やしている。
まだ戦いが終わって一時間と経たない。
たったそれだけの間で、騎士長と幼馴染の距離感が微妙に以前と違う事は察せられた。
…僅かに、ほんの少しだけ、でも確かに。
五年前と同じ、ぐっ…と締め付けるような痛みが俺の胸を責めた。
- 685 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:56:45 ID:w.v1Ew..
男「…なんとも壮観な事だな」
騎士長「まさかこのような日が来るとは」
時魔女「ドラゴンキラー集結!なんかキメのポーズでも考える?」
大魔導士「なんだ…儂と旭日の老いぼれ以外は小童に小娘…優男、拍子抜けするな」
幼師匠「なに、落日の…儂から見ればお主も小童よ。ほっほっ…!」
五人の戦士が集う。
中には争いの歴史を持つ国もある、それがこうして共闘する事など誰が予想できたろうか。
まだ芽生えたばかりではあるが、この絆こそが真竜が人間に託した希望となり得るのかもしれない。
大魔導士「全てのドラゴンキラーが揃ったのだ、勝利して当たり前というものよ」
時魔女「滅竜を倒したのは真竜だけどね」
騎士長「違いない。だが落日や旭日が力を貸してくれなければ、勝利は無かった」
男「そうだな…でも、ドラゴンキラーと呼ぶに相応しい者は、もう一人いるんだ」
幼師匠「…ほう、どのような者かな?小童か小娘か、優男か老いぼれか…」
その者は身体を失ってなお、あの巨大な竜に抗った。
男「強いて言えば優男が近い…でも騎士ではなく、偉大な魔導士だ」
- 686 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/10(火) 19:58:25 ID:w.v1Ew..
後に『竜の聖戦』と呼ばれるようになるこの戦い。
最後の一日だけを数えて、戦死者は月影軍二十四名、落日軍八名、白夜軍十四名、旭日軍十名の計五十六名に上った。
外輪山上からの砲撃に徹した星の軍に犠牲は無かったが、瞳を集めようとする翼竜に襲撃された際に最も大きな被害を被ったのは星の国。
どの国が最も栄光や損害を大きく分けたという事も無いと言える。
それ故にどこか一国が崩壊した月の国の所有権を主張する事も出来ないのは不幸中の幸いだった。
落日、白夜、旭日の三カ国はそれぞれの王の命を受けての派兵だったが、他国間との摩擦を恐れて通告はしなかったらしい。
星の国については、星と月それぞれの副隊長が中心となって組織された非公式の派兵だったらしく、漏洩を恐れて時魔女に伝える事も出来なかったそうだ。
それでもその派兵があったからこそ他国に対して面目を保つ事ができたと思えば、副隊長らに処分が科されるとは考え難い。
第一、世界の危機を救った英雄達に処分など科そうものなら、自国の世論が黙っていまい。
とにかく幸いにも各国間には摩擦などが生じる事は無く、以前と変わらない国交が続く事となった。
いや…少しだけ、変わった事がある。
落日も共同の通信網に参加した事と、月の国が無くなったため事実上の終戦となった事だ。
人間の世界は一歩だけ、真竜が望んだ成熟したものに近づいていた。
- 688 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/10(火) 20:16:04 ID:6aYGfGt6
いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおううううううううううううううううううううううう
生きてたあああああああああああああああああああああああああああああああああ
次へ 戻る 上へ