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女帝「反乱軍ですって!?」
- 91 名前:VIPがお送りします []
投稿日:2012/03/01(木) 00:22:46.85 ID:TisiIFe/0
執事(それにしても、あの大会議は参加するだけで神経がすり減った)
執事(せっかくだから、兵士や大臣にも一言声をかけてから眠るとしよう)
まず、執事は兵士のもとに向かった。
執事「今日はお疲れだったね」
兵士「えぇ、生きた心地がしませんでしたよ。
はっきりいって、今日自分は死ぬと思っていましたし」
執事「私もだよ」
兵士「しかし、最後に女帝様が彼らに自分の意見をいってくれたので、
帝国の人間としてはスッキリしましたよ」
執事「ああ。私でさえ、女帝様が口を開くことはないと思っていたからな」
兵士「では、自分はもう少し城内の警備があるので……」
執事「頼むよ。ではおやすみ」
- 92 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 00:25:03.65 ID:TisiIFe/0
次は大臣がいる部屋に向かった。
部屋のドアはわずかに開いており、まだ明かりがついていた。
執事(よかった、まだ起きていたか)スタスタ
すると、部屋の中から大臣の独り言が聞こえた。
大臣「ふぅ……忙しい一日だった」
大臣「これで、また五年間は平和が保たれるというわけか」
執事「!?」
執事(今の独り言、どういうことだ……!?)
一瞬迷ったが、やはり執事は自分の好奇心を抑えることができなかった。
部屋のドアを開く。
ギィ……
大臣「!」
執事「大臣……盗み聞きをするつもりはなかったのですが、聞いてしまいました」
執事「今のは……いったいどういう意味ですか?」
- 93 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 00:28:22.42 ID:TisiIFe/0
大臣「しまったな。大きな行事の後で、気が緩んでいたらしい」
執事「………」
大臣「……まぁ、いいだろう。いずれは君にも話すつもりだった。
そこへかけたまえ」
執事「……失礼します」ガタッ
大臣はゆっくりと息を吐いた。
大臣「さてと」
大臣「君も気になっていたのだろうね」
大臣「なぜ、不可避だったはずの戦争が、回避されたのか……」
執事「当然ですよ。だれもが今日、戦争が始まると思っていたでしょう。
今まで起こりそうで起こらなかった戦争が、今日こそ始まってしまう、と……」
- 94 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 00:32:22.30 ID:TisiIFe/0
大臣「君はなぜだと思うね?」
執事「自分なりに考えてはみましたが、答えは出ませんでした。
会議は子供の喧嘩のような有様で、あとはもうゴーサインを待つだけ
という状態でしたし」
大臣「だが、戦争は起こらなかった」
大臣「女帝様が戦争をするな、と訴えたことによって……」
執事「えぇ、女帝様は本当によく勇気を振り絞られたと思います。
三国首脳があの言葉で心を打たれて戦争をやめた、というのは
さすがにないでしょうが……」
大臣「あるんだよ」
執事「え?」
大臣「戦争を回避できたのは、会議の最後に女帝様が不戦を訴えたからに他ならない」
大臣「紛れもなく、女帝様のお力によるものなのだ」
- 95 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 00:34:26.33 ID:TisiIFe/0
執事「おっしゃる意味が……」
執事「たしかに私は強国のトップたちに向けて、
堂々と自分の意見を述べた女帝様のお姿に感動すら覚えました」
執事「しかし、発言自体は……こういっては失礼かもしれませんが、
勃発寸前の戦争を止めるほどの説得力があったとは思えません」
大臣「君のいうことは正しいのかもしれない。だが……説得力など関係ないんだ」
大臣「女帝様が、三国首脳に向けて命令とも取れる言葉を発した。
この行為にこそ意味があるんだ」
執事「どういうことです?」
執事「大臣の言葉からは、三国の首脳は女帝様にいわれるがままに動いた、
というように聞こえるんですが」
大臣「その通りだ」
大臣「女帝様に命じられた以上、彼らが戦争を起こすことはできない。
この命令の効力は……だいたい五年ぐらいといったところか」
- 101 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 01:00:38.73 ID:TisiIFe/0
執事「バ、バカな……! そんなことが……」
執事「つまり、三国の首脳は女帝様のご命令には絶対服従ということなんですか!?」
大臣「少しちがうな」
大臣「あの命令は首脳に同席していた騎士団長ら軍司令官にも有効だった」
大臣「もっとはっきりいってしまうと──」
大臣「ナイト共和国、メイジ共和国、サバンナ共和国の全国民は、
この帝国の皇帝に命じられたら絶対に逆らえないんだ」
大臣「700年前から……ずっとな」
執事「なっ……!(なんて力だ、まるで神じゃないか)」
大臣「この力は、700年前の皇帝が三国の独立を承認するのと引き換えに、
得た能力とされている。神から授かったという説もある。
以来、歴代皇帝は例外なくこの力を備えているという」
大臣「おぞましい能力だよ」
大臣「当時の皇帝は大きくなりすぎた帝国を危惧して、帝国を解体したんじゃない。
優秀な三人の部下に国を与え、競わせ、そして強くなった三国を
自分の手足のように操りたかったがために、独立させたのだ」
- 102 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 01:00:58.13 ID:/HDQZSn60
念能力か?
- 103 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 01:07:07.05 ID:ycyaRFBh0
色気か
恐ろしいものよ
- 104 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 01:21:50.78 ID:TisiIFe/0
大臣「命令の効力は五年……」
大臣「大会議は帝国と三国が一堂に会する場などではない。
皇帝が三国首脳に、新たな命令を下すための行事に過ぎない」
大臣「だが、700年前の皇帝の思惑とは裏腹に、歴代皇帝は穏健な方ばかりで、
これまで帝国皇帝によって大きな戦争が引き起こされることはなかった。
むろん、私がお仕えした先帝も穏やかな方だった」
- 105 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 01:24:01.20 ID:TisiIFe/0
執事「ちょっと待って下さい」
執事「ならばなぜ、大臣は女帝様にこのことをお教えしなかったのですか!?」
執事「大臣が女帝様に“大会議で戦争をやめろといって下さい”といえば、
簡単に戦争は回避できたじゃありませんか!」
執事「あなたは悩み苦しむ女帝様を、見て見ぬふりをしていたのですか!?」
- 111 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:00:07.88 ID:TisiIFe/0
大臣「その通りだ」
執事「!」
大臣「皇帝に自身の力について教えるのは成人してから、という決まりになっている。
それに……」
大臣「私が今のように助言をして、女帝様が戦争を止めたとしよう」
大臣「だが、それはいったいだれの命令だ?」
執事「!」
- 112 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2012/03/01(木) 02:05:49.23 ID:JT0/aXrO0
誰も皇帝に命令はできないか
- 113 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:12:26.29 ID:TisiIFe/0
大臣「あの力は巨大すぎる。まさに神から授けられた力だ。
だからこそ、臣下が立ち入るなど絶対あってはならない。
絶対不可侵の領域なのだよ」
大臣「たとえ女帝様がどんなに平和を望んでいたとしても──」
大臣「我々が助言をし、女帝様に命令させるなど、絶対にあってはならないのだ」
- 114 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:19:47.25 ID:TisiIFe/0
大臣「命令を下すのは、女帝様自身でなければならず──
そしてその命令は、女帝様の心から出でたものでなければならないのだ」
執事「たとえこの国が滅んでもですか? 大勢の人が死ぬことになってもですか?」
大臣「そうだ」
大臣「逆に、女帝様が三国を率いて世界中を侵略する、という決心をされたとしても」
大臣「私は止めないだろう」
- 115 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:26:07.16 ID:TisiIFe/0
執事「そ、そこまでの覚悟を……」
大臣「むろん、あの三国はこの力のことを知らない」
大臣「この力のことを知るのは、歴代皇帝とごく一部の側近のみ。
歴代の側近は内政はともかく、この力に関しては一切助言をしてこなかった」
大臣「だから、先帝夫妻が不運な事故で亡くなられた時、
私は平和が終わる時が来たのかもしれないと覚悟をしたよ」
- 116 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:34:15.53 ID:TisiIFe/0
大臣「女帝様はまだ成人ではないので、この力についてお話しすることはできない」
大臣「しかも、参加した君ならば分かるだろうが、あの大会議で意見をいうのは
並大抵の胆力ではできないことだからな」
大臣「だが、女帝様はあの場で“戦争をするな”といってくれた」
大臣「だからこうして、我々は昨日と変わらぬ平和な夜を享受することができる」
- 117 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:41:12.88 ID:TisiIFe/0
大臣「そして私は、女帝様が会議の最後に自分の口で意見をいえたのは、
きっと君のおかげなのだろうと思っている」
執事「私の……ですか?」
大臣「ナイト共和国の連中が女帝様を侮辱した時、君は彼らに抗議をしてみせた」
執事「あれがですか? ただ殴られただけですけど……」
- 118 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:48:10.79 ID:TisiIFe/0
大臣「いや……あの行為がなかったら、女帝様は終始黙ったままだったにちがいない。
そうなれば、今頃この帝国は火の海になっていただろう」
執事「………」
大臣「疑問を解くはずが、かえって混乱させてしまったようだ」
大臣「さて、ずいぶん話が長くなってしまった。そろそろ眠るとしよう」
- 119 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 02:54:07.34 ID:TisiIFe/0
執事「あの……私は女帝様の身の回りのお世話や教育のため、
この城に雇われましたが……」
執事「もしかして、私の役割ってメチャクチャ重要なのでは?」
大臣「ああ、世界の運命を左右するくらいにな」
- 120 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:00:10.45 ID:TisiIFe/0
大臣「君がその気になれば、女帝様を傀儡にして、三国に侵略戦争をやらせて、
世界を征服することすら可能かもしれない」
大臣「だが、私は君ならば信頼できると思って話したまでだ」
(独り言を聞かれてしまった、というのもあるが)
大臣「あとは君次第だ。おやすみ」
執事「は、はい……」
- 121 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:06:41.18 ID:TisiIFe/0
翌日、女帝はいつものように目を覚まし、いつものように執事に挨拶をした。
女帝「おはよう、執事」
執事「……お、おはようございますっ! 女帝様!」
女帝「ど、どうしたの!?」
執事「え!?」
- 122 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:12:01.98 ID:TisiIFe/0
女帝「汗をものすごくかいてるし、言葉が震えてるけど」
執事「ハ、ハハ……私はいつも通りですよ、いつも通り!」
女帝「………」
この日、女帝と執事は町を散策するなどして過ごしたが、
執事はいつものように振る舞うことができなかった。
- 123 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:18:27.41 ID:TisiIFe/0
夜になり、自分の寝室に向かう執事。
執事(ダメだ……。女帝様の近くにいるだけで、大臣の話が頭にチラついて
緊張してしまう……)
執事(とはいっても、女帝様が背負われている過酷な運命や、
この帝国や三国の命運の一端を私が握っているということを考えると、
どうしても恐ろしくなってしまう……)
- 124 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:24:12.50 ID:TisiIFe/0
すると──
執事(なんだ? 私の寝室のドアに手紙が挟んである)
執事(この字は……女帝様だ!)ピラッ
執事(いつの間に……)
- 125 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:30:18.02 ID:TisiIFe/0
執事へ
直接いうのがどうしても恥ずかしかったので、手紙にしました。
昨日、会議前に他の国からバカにされた時、本当は泣きそうになっていました。
とても怖くて、悔しかったんです。
でも、執事がすぐに彼らに怒ってくれたから、泣かずに済みました。
本当にありがとう。
- 126 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:35:49.80 ID:TisiIFe/0
あと私のせいで騎士団の人に殴られてしまって、本当にごめんなさい。
今日の執事は少し様子が変だったけど、殴られたところがまだ痛かったんですか?
調子が悪かったら、遠慮せず言って下さい。
私、いっぱいふろふき大根作るから。
私は執事が大好きです。
おやすみなさい。
- 127 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 03:43:34.68 ID:viVagume0
女帝・・・
- 129 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 04:04:22.26 ID:TisiIFe/0
執事(……私はなにをやっていたんだ)
執事(女帝様に余計な心配をかけてしまって……)
執事(私は三国を操る力を持つ女帝様に仕えているんではなく、
心優しい君主である女帝様に仕えているんだ)
執事(女帝様がどんな力を持っていようと、関係ない。
私にできることは──)
執事(いつものように、女帝様のおそばにいることだ)
- 130 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 04:08:22.93 ID:W5QRQTgl0
ふろふきだいこんはずるいわ⋯
- 131 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 04:11:57.36 ID:TisiIFe/0
翌日──
女帝(やっぱり手紙なんかやめとけばよかったかな……)
執事「おはようございます、女帝様」
女帝「お、おはよう」
執事「ハハハ、なんだか昨日と逆ですね」
執事「手紙、拝見いたしました。ご心配をおかけして申し訳ありません。
私はもう大丈夫です。昨日は少し風邪をひいておりまして」
- 132 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 04:18:40.07 ID:TisiIFe/0
女帝「そうだったんだ……よかった」
執事「ただし、ふろふき大根を食べないと、再発しそうなんですが……」
女帝「分かったわ。今夜作ってあげるから」
執事「ありがとうございます」
大臣(ふふふ、女帝様と執事は、なかなかいい主従関係なのかもしれんな。
帝国の未来に幸多からんことを……)
- 133 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 04:24:41.99 ID:Sdg2CVXS0
こんな時間に…
泣けた
- 134 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 04:26:10.18 ID:TisiIFe/0
世界有数の規模と軍事力を誇る、だれもが恐れる三強国。
そして、この三国に囲まれている小さな帝国がある。
帝国を名乗るにはあまりにも小さい、人々から忘れ去られた国家。
- 135 名前: 忍法帖【Lv=2,xxxP】 [] 投稿日:2012/03/01(木) 04:29:10.16 ID:TisiIFe/0
帝国には平和があるが、平和と呼ぶにはあまりにも危うい、
いつ壊れてもおかしくない平和だ。
しかし、女帝や執事のような君主と側近がある限り、
この地の平和は守られていくことだろう……。
おわり
- 139 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 05:30:02.87 ID:U5V19NW+0
乙
かなり面白くて見入ってしまった
- 145 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/03/01(木) 08:16:40.09 ID:QW9QJ19q0
乙です
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