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猫「・・・ばーちゃん?」
- 1 名前:VIPがお送りします []
投稿日:2011/09/17(土) 22:50:31.43 ID:FnJfF4EN0
我輩は猫であった、名前はナツメと云う。
- 2 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 22:51:48.46 ID:FnJfF4EN0
特に何をするわけでもなく広い住処であるじと一緒に生活していた。
ただただ明日が来るのを待つために今日を過ごすの繰り返し。
時たま、ここにはあるじ以外に2種類のニンゲンが来る。
片方は私を居ないものと扱って、あるじと話をしたり、ガチャガチャと不愉快な音がでる作業をしては帰っていく
「オバアチャンアサワチャントタベマシタカ ヤスンデテクダサイネ アライモノスマセマス」
おそらくは私のことを恐れているが、それをあるじに悟られまいとしているのだろう。
- 3 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 22:53:12.29 ID:FnJfF4EN0
そして、もう一方は私を見ると何かと接触しようとしてくる煩わしい奴である。
「ヤッパリモッテイクノカ ゼンゼンテカラワタベテクレンナ」
献上品を持ってきては私の目の前に差し出し、体をまさぐろうとしてくる。
「アー マタニゲラレタ」
さらにこいつは何日間か滞在して帰っていくことが多かった。
- 4 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 22:55:03.17 ID:FnJfF4EN0
あるじは目が効かなくなってきており、何かにけつまづいてよろけることが多くなっていた。
一方、私は物心ついたときから左の耳で音を捉えたことがなかった。
しかしそんなことは何の問題も無く、お互いに補い合う・・・とまではいかないが
この住処のなかで過ごす分には不自由を感じたことは無かった。
- 6 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 22:57:01.34 ID:FnJfF4EN0
特に何をするわけでもないとは言ったが、内実私は待っていた。
月齢があと一周もすれば尾が裂け、変化の法が身につくはずで、
そうなればあるじを支えたり抱えたりできるようになる。
今まで膝の上を貸してくれたあるじに、今度は膝を貸すこともできよう。
何より、あるじ以外は私に気付くことができなくなる。
あのニンゲン達は、私を居ないものと扱う必要もなくなるし、
下品な手つきでまさぐろうとすることもかなわない。それらがまた楽しみでもあった。
- 7 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 22:58:54.59 ID:FnJfF4EN0
−−またあやつがやって来た。
今回も何日か泊っていくつもりらしく、荷物をぶら下げてしきりにあるじを呼んでいる。
私はあまりこやつのことが好きではない。
献上品は多少楽しみではあるのだが、警戒を怠れば襲いかかってくる。
私を抱え上げたかと思えば、今度はその大きな手でもみくちゃにする。
- 8 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:00:43.32 ID:FnJfF4EN0
そしてなによりこやつが居ると、あるじが私にかまってくれなくなる。
「モウイイヨバーチャン オハギミッツモクッタシ モウハイラナイッテ」
あるじをせかせかと働かせ、あるじと私の住処に我が物顔で居座るのだ。
「モウスワッテヤスンデテヨ オミヤゲニシロッテ オレマダカエラナイカラ」
まともに狩りもできない半端者に、なぜあるじがここまでかしずくのかいまだに理解できない。
「イイッテバ オレモウジブンデカセグトシナンダシ アイツニオイシイモノデモカッテヤリナヨ」
まあ、狩りに関してはあるじもからきしなのであるが・・・
- 9 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:02:34.35 ID:FnJfF4EN0
−−ようやくあやつが立ち退くようだ。
いそいそと荷造りをし・・・それを見るあるじの顔が少し翳る。
やはり私はあやつのことを好きにはなれん。
「ソンナカオスンナヨバーチャン マタクルカラソレマデゲンキニシテテ」
あやつが来る度、何度となく繰り返されてきた光景だ。
「マタデンワモスルシ ヘルパーサンニモイットクカラ」
あるじはあやつの使っていた寝床を片付けず、しばらくそのままにする。
何の意味があるのかは分からないが、いつもそうしていた。
だから今回もまた、私はその寝床に寝転んで思いっきり伸びをしたり、毛づくろいをしたりする。
床と違って寝心地が良いし、なによりあるじと似た匂いがして安心するからだ。
- 10 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:04:23.55 ID:FnJfF4EN0
−−
男「はい、もしもし・・・うん、変わりなかったよ。」
「・・・・・」
男「でも、俺が居る間はなんか無理して張り切ってるんじゃないかってちょっと心配だったわ。」
「・・・・・」
男「あー・・・あっちは相変わらずだ。もう威嚇とかはされなくなったけど・・・」
「・・・・・」
男「たまには自分で顔見に行ったら?ていうか自分の顔も見せに行け。同時にできる」
「・・・・・」
男「いや、行くのは嫌じゃないよ・・・ただ、前よりも弱ってるんだな〜ってわかっちゃうトコもあって
そういうトコに気が付くのが辛いんだわ。」
「・・・・・」
男「うるせーよ。俺だってそういう気分になる時くらいあるっての。」
「・・・・・」
男「あっ!・・・・ちょtt!」
−−
男「ったく・・・自分の母親だろうに、現実を受け入れられてないのはオマエだろーが」
- 11 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:06:39.52 ID:FnJfF4EN0
−−
ようやくこの日が来た。
夜が明ければ私は物の怪の仲間入りを果たす。
あるじに何をしてあげよう?獲物を上手く仕留める方法を伝えよう。
気配を消して待ち構えてもらって、私がそこへ追い込むのがいい。
あるじに何をしてあげよう?私が編み出した水の飲み方を伝えよう。
手を水に浸してから引き上げ、その手を舐めれば屈まなくて済む。
あるじに何をしてあげよう?あるじの知らない住処の回りを案内しよう。
同族に有ったら誇れるあるじを紹介し、みんなに広めるのだ。
- 13 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:08:16.69 ID:FnJfF4EN0
あるじは喜んでくれるだろうか?良い匂いのする壁を教えたら・・・
あるじは褒めてくれるだろうか?暑すぎず寒すぎない昼寝場所を教えたら・・・
だんだんと意識が深く深く沈んでいく・・・
劇的な転換を期待していたわけではなかったが、
これがそうなら毎日繰り返してきた昼寝と変わりないではないか
ああ・・そうか・・・何のことはない・・・それと同じくらい・・・当たり前のことなのだ
『これ』は・・・
- 14 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:08:36.51 ID:acK7Ki850
むう
地味に面白いぞ
- 15 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:09:54.97 ID:FnJfF4EN0
−−
気が付いた時にはお天道様はもう真上に来ていた。
よくよく自分の体を見てみると、今の私の証である2本の尾が見て取れた。
できるようになったこと、そしてそれらのやり方は自然と理解できていた。
結果、どうなるかまではわからないから実際に試してみるしかないだろう。
まずはあるじと同じニンゲンになってみよう
- 16 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:11:08.27 ID:FnJfF4EN0
なんと見晴らしの良いことだろう。
まるで住処の周りの塀に登っているかのようだ。地面までが遠い。
(足2本で直立しても苦しくない−)
そして脇腹のあたりがムズムズしたので舐めようかと思ったが、思いとどまった。
(そうだ、手を使えばいい。この手は体のあちこちに届くのだ−)
- 18 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:12:40.37 ID:FnJfF4EN0
さあ、あるじに恩返しをしに帰ろう。
子供を成すこともできない私をこれまで大事にしてくれたあるじにむくいるのだ。
命の輪を継ぎ、継がせるという雌としての幸せを叶えることができぬ私に
あるじは別の幸せを、数え切れぬほどたくさんの楽しみを与えてくれた。
できることなら子を産み、育て、一人前になった姿をあるじに見てほしかった。
だが、もうそんなことはどうでもよい。
- 21 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:15:38.94 ID:FnJfF4EN0
住処に向けて駆け出すが、すぐに足が止まる。
(痛い−)
ニンゲンの足というものはこんなにも脆弱なものなのか。
砂利のような石の粒を踏んだだけで、思わず痛みに歩を止めてしまう。
道の脇に生い茂る草を描き分けて、地の柔らかいところを行くことにしたが、
今度は腕や腹、太ももの辺りがチクチクする。
次第にそれはヒリヒリとした痛みに変わってきた。
今一度自分の体を見ると小さな小さな傷が無数にできていた。
毛皮を持たぬということ、すなわち、肌を持つということを理解した。
少々面倒ではあるが安全な塀の上を伝って戻ることにした。
しかし、それもできないという事はすぐにわかった。
塀の上に手を掛け登ろうとしたが、この手には自らの体を引き上げる力が備わっていない。
体が大きくなっている分、自分自身の重さが増したせいもあるのだろう。
- 22 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:17:13.11 ID:FnJfF4EN0
一旦人化を解き、四ツ足で戻ることにした。
歩幅に関してならニンゲンの姿の方が大きいのだが、
歩を進めるごとに慎重に次の足場を探すような有様では日が暮れてしまう。
慣れた足取りでいつものように側溝の底を通り、
茶色の塀の上を渡り、もう誰も遊ばなくなった広場の草むらを抜けた。
住み慣れた私とあるじの住処が近付くにつれ、だんだんと嬉しさがこみ上げてくる。
(あるじに何をしてあげよう?−)
(あるじは喜んでくれるだろうか?−)
(あるじは褒めてくれるだろうか?−)
- 23 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:18:23.80 ID:acK7Ki850
ばーちゃんいきてるよな! な!
- 25 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:19:19.25 ID:FnJfF4EN0
住処に上がり込むとすぐにニンゲンの姿を取り、あるじを探す。
ここには小石も落ちていなければ、固い草も生えてはいない。
あるじは出迎えてくれなかったが、今の私は手を使える。
戸を掻いて訴えなくとも自分で開けることができるのだ。
3つ目の戸を開け中を見渡すとあるじがうずくまっていた。
すぐさまあるじに駆け寄り、顔を近づけ小さく鳴いて呼んでみる。
- 28 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:21:10.66 ID:FnJfF4EN0
(なんだこれは?−)
自分の発した鳴き声に自分で驚く。
ニンゲンの姿で発した声はとても太くそして重く、まるでこだまするかのように頭の中に残った。
自分の声に驚いていると、あるじは私の顔に手を当てゆっくりと撫でながら口を開いた。
「お前は温かいね。お前が来てからもうそんなに経ったんか。」
ニンゲンの姿を模していても、あるじにはそれが私だということが分かっているようだった。
「けれど・・・すまないね。もう少しこうしていたいけれど・・・」
顔を撫でていたあるじの手が止まった。
「今日はなんだか冷えるねぇ・・・」
あるじの手が力なく床に落とされた。
- 29 名前: 忍法帖【Lv=5,xxxP】 [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:22:12.63 ID:rJz4SaM+0
こういうSS考えれる奴すげーよなぁ
- 30 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:22:34.92 ID:acK7Ki850
ばーちゃぁぁぁぁぁん!!!!
- 32 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:22:59.93 ID:FnJfF4EN0
(そうだ、あるじはきっと眠かったのだ−)
(あるじは昼寝を始めたのだ−)
なぜか目頭が熱くなり、えづくような感覚が喉元に広がってゆく。
寝入ったあるじを起こしてしまわぬよう、ゆっくりとあるじの横に寝転んで
抱きかかえながら一緒に眠りについた。
- 33 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:23:04.43 ID:FIwiiWu80
何この文章力おもしろい
- 34 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:24:26.26 ID:FnJfF4EN0
RRRRRRRRR・・・!RRRRRRRR・・・!
突然、規則正しくもけたたましい音が鳴り響き、私は眼を覚ました。
「それ」は向かいの壁側に据えてある台の上に乗っている。
私はこの音が嫌いだった。いつもならすぐにあるじが止めてくれるのだが、
私には止めかたが分からない。あるじが起きてしまわぬよう早く鳴りやむように願う他なかった。
(あるじを寝かせてやってくれ−)
永遠に鳴り続けるかと思われたが、飽きたのだろうか?その音は何の前触れもなく止んだ。
あるじの体は冷たかった。
- 36 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:28:04.36 ID:FnJfF4EN0
(お腹が空いた−)
もう日は暮れてしまっていた。きっとあるじも空腹を感じているに違いない。
あるじが寝ている間に、私が用意しておこう。起きたらすぐに食べられるように。
天井の方からカリカリと音がしている。2〜3匹は居るようだ。
(このままでは屋根裏には入れまい。今一度人化を解こう−)
体を起そうとして違和感を感じる。まるで肌が下に引っ付いているかのようだ。
それでも体を起こすとなにやら痒いような感覚が走る。
寝ている時、体の下になっていた箇所は下と同じ編んだ草の模様が付いていた。
- 40 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:29:30.96 ID:gJUynxSX0
ばあちゃん(T_T)
- 41 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:30:01.68 ID:FnJfF4EN0
自分の分の食事を済ませ、あるじの分を運んできた。
多少弱らせてはあるが、まだ逃げるのをあきらめてはいないようだ。
これを使って狩りの練習をしてもらうのもいい。
いつまでも獲物を怖がっていては狩りも上達しない。
私がそばで見ていれば取り逃すことも無い。
弱って動きが鈍くなっている分、動くのを見てからでも簡単に抑え込める。
あるじはまだ寝ていた。
目の前で獲物を放してみたがやはり起きる様子はない。
逃げようとするたびに押さえつけ、もう一度あるじの前で放す。
何度も繰り返しているうち、ついにネズミは動かなくなった。
あるじはまだ寝ている。
なぜか涙がこぼれた。
- 42 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:31:16.63 ID:FnJfF4EN0
(早く起こさなければ−)
ここでこのまま寝続けていればあるじはもっと冷たくなってしまうのではないか
私は卓の上に乗ることを禁じられていたことを思い出した。
私の行動のほぼすべてに対し、あるじは寛容であったが、
卓の上に乗ることと、住処の中で爪を研ぐことだけは許されていなかった。
だが、あるじの気を引きたいときはわざとその禁忌を犯してきた。
あるじの近くで壁に爪を立て、わざとらしくばりばりと音をだしてみる。
あるじが咎めにくる様子はない・・・
(気づいていないのだろうか−)
今度は卓の上に乗り、あるじに聞こえるように鳴いてみる。
どうしてだろう、声がかすれて鳴くことができなかった・・・
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