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猫「吾が輩は猫である」
23 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 02:33:21.62 ID:ypZpfZTlP
――台所

トントントントン……

男「随分と手際が良いのですね」
男友「もう、長い事此処の台所に立って居るからね」
男「成程」

男友「男ちゃんは御国では御料理はしていたの?」
男「いえ……妹が居たのですが、家の事は概ね彼女が」
男友「あら、そう♪ 男ちゃんの妹さんなんて、随分と可愛らしいのでしょうね」

男「……その“男ちゃん”と謂う呼び方、何とか為らないでしょうか?」
男友「あらぁ。嫌なの? 随分と恥ずかしがり屋さんじゃない」

男「そう言う訳では……」

カタン。

男「……あ」

女「あら。男二人で台所に立つだなんて、見ていて余り心地の良いものでは無いわね」

男友「あらぁ、御嬢様! 御機嫌麗し――くは無いようね、何時も通り」


24 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 02:41:09.89 ID:ypZpfZTlP
女「――なに? 今日も焼き魚?」
男友「鰺は今が旬だから、美味しいわよぅ!」

女「……そう。まぁ良いわ。出来たら呼びに来て頂戴」
男友「もちろんよぅ♪」

たったったっ……ぱたん。

男「……」
男友「あらぁ? どうしたの男ちゃん?」
男「あ、いえ。……何でもないです」

男友「いやぁねぇ! 見蕩れてるんじゃ無いわよぅ!」
男「いや、そうではなく」
男友「ふぅん?」

男「――って。味噌汁煮立ってます!」
男友「あらぁ、大変!」


25 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 03:02:58.82 ID:ypZpfZTlP
――男、自室

猫「――で? 三人で食卓を囲む事は無かったのか?」
男「彼女は自室で食べるそうです」
猫「……ふん」

男「『貴方達と御飯なんて食べられないわ』……だそうです」
猫「まぁ。その方がお主も気楽で良いだろう」
男「其れはそうなのですが」

猫「――して。話を聞く限り、隣人は変わり者だが
 中々面白い奴の様では無いでは無いか」
男「其れはそうなのですが」

猫「っくく。自身の貞操の心配か?」
男「何をそう愉快そうに」

猫「まぁ。これでお主の下宿生活も退屈をせずに済みそうではないか」
男「確かに退屈だけはせずに済みそうですがね」


26 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 03:10:29.28 ID:ypZpfZTlP
男「で。猫さんの分の魚を残しておいたのですが、召上らないのですか?」
猫「ん。腹は空いて居ないから大丈夫だ」

男「そうですか」

猫「折角の心遣いなのに、済まないな」
男「いえ。勝手な御節介です故」

猫「……折角だ。街を案内しよう。其れとも今日はもう疲れたか?」
男「あ、いえ。大丈夫です。お願いします」

猫「そうか」

男「それに、私独りで街へ出ては、
また迷子に成ってしまうのが目に見えて居ります故」
猫「っくく。其れもそうだな」


27 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 03:22:51.74 ID:ypZpfZTlP
――夜、港

猫「お主は海のある国から来たらしいな」
男「え。誰から訊いたんですか?」
猫「隣の部屋の会話くらい聞き取れるさ」
男「そうですか」

猫「して。海が恋しかろうと謂う事で、此処に連れて来たのだが」
男「おろ。そんな心遣いを」
猫「まぁ、お主の故郷の海とは大分様子も違うだろうが」
男「其れはそうですが」

猫「……この港も此処数年で随分と様子が変わった」
男「そうなのですか」

猫「異国から遣って来る大きな船。
 煉瓦で整備された道を歩く異国の人間。
 夜は瓦斯灯で照らされ、風情も何も在った物では無い」

男「之は之で洒落た雰囲気だと思いますが」
猫「……そうか」


28 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 03:26:08.78 ID:ypZpfZTlP
流石に眠たいので撤退しまつ。万が一残ってたら書くよ。うん。

オヤスミナサイ。


31 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 09:29:06.07 ID:fJbA00Th0
これはいいスレ発見した保守


33 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 09:48:52.85 ID:7WXpqU/aO
いいスレだな

感動的だな


34 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 10:10:14.08 ID:AMC7hESS0
のすたるじっく保守


38 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 12:14:35.36 ID:Xum3D1CFO
英吉利ってのが読めなかったけど
凄く面白い


43 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 14:29:28.91 ID:eWxMuZzF0
続きは まだない


47 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 17:09:23.28 ID:ypZpfZTlP
保守有難う。今から少し書き貯め作ってはじめる。
>>38 英吉利(イギリス)


50 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 17:29:10.14 ID:ypZpfZTlP
――街中

男「時に猫さん」
猫「なんだ?」

男「先刻も訊きましたが、何故猫さんは私にこう御親切をして下さるのでしょうか」
猫「……」
男「何か見返りを望んでいらっしゃるのならば、
 誠に申し訳ありませんが、私には持ち合わせが在りません故。
 ならばいっそ御嬢様の願いを叶えて差し上げた方が良いのでは無いでしょうか」

猫「見返り……か」
男「はい」

猫「確かに吾輩はお主の願いを叶えた暁には、
 ある見返りを得る事になって居る。
 然し、それは吾輩が吾輩と――或いは言霊と約束を交わした物に過ぎない。
 お主に迷惑を掛ける事も無いであろう。安心して良い」
男「猫さんが猫さん自身と御約束を?」

猫「約束――或いは誓いと謂っても良いやも知れぬな。
 幾千の夜を越えても遂には忘れる事の出来なかった」
男「猫さんは何か万事を見透かしたような物言いをなさる」

猫「万事を、か。――そうだと良かったのだがな」
男「……?」

猫「さぁ。いよいよ夜も更けて来た。帰るとしよう」


51 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 17:36:27.39 ID:ypZpfZTlP
――御屋敷、庭

男「これは。立派な紫陽花だ。ねぇ、猫さん――あれ? 猫さん?」

男友「あらぁ男ちゃん! 何処行っていたのよぅ!」
男「嗚呼、男友さん。少し街の方へ……。
 其れより猫さんを見ませんでしたか?」

男友「猫? 見ていないわよぅ?」
男「そうですか。先刻まで一緒だったのですが、何処かへ行ってしまいました」

男友「男ちゃん、猫を飼っているの?」
男「いえ。『飼う』と謂う表現は些か語弊があるやも知れませんが」
男友「まぁ、どちらにせよ御嬢様には内緒にしておいた方が無難ね」

男「ええ。心得ております。
 私とて猫鍋は食べたくありません故」

男友「其れより、丁度良かった。手伝って欲しい事が在るのよぅ」
男「何か?」

男友「御嬢様の湯浴みの為に御風呂を沸かさないとねっ♪」


52 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 17:40:42.12 ID:ypZpfZTlP
カパーンッ!

男「……ふぅ。この位で良いでしょうか」
男友「そうね。充分だと思うわ」

男友「其れよりも、薪割りは随分と手慣れた物じゃあない」
男「ええ。国で良くしていました故」
男友「あら、そう。斧を振り上げた時の上腕弐頭筋の盛り上がり具合が素敵よ♪」

男「……」ゾクリっ

男友「さぁ、御嬢様が湯浴みをしたいと謂う前に沸かし終えないとね」
男「ええ。そうですね」

男友「御嬢様はお湯加減にもとても厳しいから、
 今日はアタシが薪をくべるのを見ていて頂戴」
男「はい。解りました」


54 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 17:48:23.54 ID:ypZpfZTlP
ザッ。

男友「あら、御嬢様」
男「どうも」

女「湯浴みの準備は調っているのかしら?」
男友「ええ。丁度良い湯加減に仕上がっていると思うわ」
女「そう。ならば結構よ」
男友「ごゆるりと」

ザッザッザッ……ぴたり。

女「……嗚呼、そうだわ」
男友「何か御用かしら?」

女「其処のうだつの上がらない書生さん」
男「……私ですか?」

女「まさかとは思うけれど、わたしの入浴を覗く様な事があったら
 警察に突き出して、弐度と此の家の門を潜る事は無いと覚えておきなさい」
男「……態々謂われずともその様な事はしません」

女「あら、そう」


55 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 17:56:35.01 ID:ypZpfZTlP
男友「ふぅ〜ん」

男「何をそう意味深な笑みを浮かべているのですか」
男友「あ、いえね。あんな愉しそうな御嬢様は久しぶりに見たものだから」

男「あの様子の何処が愉しそうに見えたのですか?」

男友「あら。まぁ、男ちゃんは今日来たばかりだから、
 只無愛想なだけに見えても仕方の無い事かも知れないわね」

男「いえ。例え生涯を此処で過ごす様な事が在ったとしても、
 私にはあの態度を『愉しそう』だと謂えるようになる自信はありません」
男友「あら。拗ねちゃって、可愛いわねぇ♪」なでり

男「無暗に太腿を触らないで下さいッ!」
男友「あら、つれないわねぇ」


56 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 18:07:22.83 ID:ypZpfZTlP
――男自室

男「おろ。猫さんお戻りでしたか」
猫「ああ。先に部屋で休ませて貰っていた。
 お主も今日は彼是と疲れたろう、もう休むと良い」
男「そうですね。今日は流石に疲れました。
 布団を敷くので少し其処を退いて頂いていいですか?」

*

男「では灯りを消しますよ」
猫「ああ」

男「……」
猫「明日からは学校か?」

男「はい。……と謂っても明日は手続きやらが主になると思いますが。
 男友さんが御案内をして下さるようです」
猫「そうか」


57 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 18:16:40.13 ID:ypZpfZTlP
男「……猫さん、もう眠ってしまいましたか?」

猫「何だ? と謂うよりも猫は本来夜行性なのだ」
男「そうですか。其れにしては静かだったもので」

猫「……少し、考え事をな」
男「そうですか」
猫「……うむ」

男「実は私も少し考え事をしていたのですが」
猫「ほう、何をだ」

男「“言霊”についてです」
猫「……」

男「言葉には何か私たちのおよそ知り得ない力が宿る……。
 其れを言霊と呼ぶとして、では猫さんは御自身とどのような誓いを
 なされたのだろうか。
 そんな事を考えていました」

猫「それは……」

男「いえ。私は其れを訊こうとは思っていません。
 猫さんが話しても良いと思われた時に、話していただけるのならば、
 私は猫さんの友人として其れを嬉しく思います」

猫「友人、か……」
男「はい」


58 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 18:30:02.48 ID:5hoxc+9+O
面白いぞねこさん。


59 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/23(水) 18:32:40.07 ID:ypZpfZTlP
男「ですから、私の為に。そして猫さん御自身の為に必要なのだと謂うのならば、
 私は何か猫さんにお願いをする事に吝かではありません」
猫「そうか。其れは助かる」

男「しかし、残念ながら、私は私の願いを上手く見つける事が出来ないのです」
猫「何でも良い。道案内以外ならばな」

男「しかし、こうして新天地での生活が始まりました。
 きっと何か猫の手も借りたい様な事態も発生するでしょう」
猫「其れは何となしに失礼な物言いではないか? ……まぁ良いが」

男「ですから、今暫くの猶予を頂ければ、其れはとても私にとって有難いことなのですが」
猫「っくく。願いを決めるのに猶予が欲しいと申すか」

男「ええ。猫さんには御時間を取らせてしまい、申し訳無いのですが」
猫「いや、良いだろう。願いが決まったのなら、何時でも謂うが良いさ。
 なに、吾輩もそう急いでいる訳ではない。ゆるりとやろうではないか」

男「そう言って頂けると、とても助かります」
猫「なに。御互い様さ」

男「嗚呼。謂いたい事を謂ったら、安心をして急に眠くなってしまいました」
猫「ならば眠ると良い」

男「はい……。御休みなさい、猫さん」
猫「あぁ。御休み」


60 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 18:46:17.28 ID:5hoxc+9+O
ねこさんの風貌キボンヌ


61 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/23(水) 18:46:18.99 ID:AMC7hESS0
これからが本番っぽいな
ワクテカ



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