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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
600 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:31:01 ID:o2kgVY82

男「怯むな…サーペントは湖から出られまい!砂の無いヴリトラも恐るるに足らん!」

しかし状況は決して良くは無い。

サーペントは水流のブレスを吐くと聞いたし、如何に砂漠でなくともヴリトラも手緩い相手ではない筈だ。

湖を泳ぎ始めたサーペントは一度水中に潜る。

おそらく浮上した時には溜め込んだ水をブレスに変えて放つだろう。

むしろ手を出せないのは我々の方だ。

翼竜の速度には遥かに及ばないが、空を舞うサラマンダーも脅威となるだろう。

それでも兵の士気を下げるわけにはいかない。

男「サラマンダーが迫る前にオロチを仕留める!矢を射れ…!補給を急ぐんだ!」

再び、矢の弾幕が上がる。

微弱なダメージかもしれないが、動きを止める事はできる。


601 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:31:36 ID:o2kgVY82

俺は温存している剣のトリガーを握るべきか悩んだ。

おそらく白眼の竜が纏う鱗なら、あの放出する光の刃で切れる。

だがそれは本来、ワイバーンを仕留めるために残しておくべき手段だ。

いかに紅眼の翼竜に劣ろうとも、飛翔する速度は変わらないかもしれない。

魔法や矢では捉え切れない可能性が高いだろう。

サラマンダーは既に空に舞い上がり、悪い事にこちらではなく真竜を目指している。

オロチに手間どっている場合ではない。

矢は途切れず大蛇の動きを封じているが、仕留めるに至るにはまだ時間を要すると思われた。


???「与一流弓術、追影炸矢複式…!」


突如、オロチを幾つもの炸裂弾が襲う。


602 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:32:18 ID:o2kgVY82

長いオロチの体躯、その内でバランスを崩すであろう複数の位置を狙った炸裂の矢。

大蛇の巨体がまさに浮き、弾き飛ばされる。

幼馴染「複合弓術…しかも五連複式!こんな事、できるのは一人しか…!」

???「久しいのお…愛弟子よ」

独特のチェインメイル、腰に差されたカタナと呼ばれる細身の剣。

外輪山の尾根に姿を現した騎馬部隊。

幼馴染「お師匠様…!」

それはサムライと畏怖される、旭日の魔弓隊の姿だった。

男「あの崖のような山肌を、馬で登ったってのか…!」

幼師匠「ふん…我が国の山岳に比すれば、丘のようなものぞ。どれ、この老いぼれも祭りに加えて貰おう!旭日の魔弓隊二十五名、参る…!」

魔弓隊が外輪山を駆け下りる。

馬上から射られる全てが炸裂の矢。

手足を持たないオロチは体勢を立て直す事すら出来ず、その閃光に呑まれてゆく。


603 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:32:53 ID:o2kgVY82

旭日の攻撃に目を奪われた俺に、高い位置からサラマンダーの咆哮が届いた。

そうだ、驚愕している場合ではない。

まだ新たに目覚めた、三体の竜がいる。

男「真竜…守らなければ!」

既にサラマンダーは顎を開き、火炎を吐出する体勢をとっている。

そしてそこまでの距離は、まだ矢や魔法が届くほどに近くない。

ごうっ…という風の音が鳴る。

女「間に合いません…!巫女様が!」

しかしそれは、サラマンダーのブレスによるものでは無かった。


604 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:33:35 ID:o2kgVY82

あまりに大粒な雨のように、風を切り火竜に落ちる影。

見る間に切り刻まれてゆく、その翼。

獲物を捕らえる隼の急降下に似た、その攻撃の主は…


???「遅くなったな…許せ、騎士長」


…その全てが数十体にも及ぶグリフォンの騎士。

騎士長「新王陛下…!」

それは新王自身が率いた、白夜騎士団の本隊だった。

白夜新王「グリフォン騎士団、四十騎…月影軍に加勢致す…!」

十体ずつ程度に分かれたグリフォンの編隊が、別々の角度から再び竜に迫る。

編隊長A「レッド小隊、攻撃開始!」

編隊長B「ホワイト小隊、攻撃する!」

編隊長C「ロゼ小隊、交戦!」

翼竜に比べて愚鈍な飛行能力しか持たないサラマンダーに、その攻撃を躱す術は無い。

白夜新王「この戦こそ、余が国を率いるに相応しいかの試練!先王の無念をこの槍に預かった…白夜の誇りを受けよ!」


605 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:34:24 ID:o2kgVY82

男「なんて事だ…!ははっ…月影の隊士よ、負けていられるか!ヴリトラを討つ、いくぞ…!」

月影兵「おおぉっ!!」

岩を破ったヴリトラの元へ走る。

しかしその脇の湖、サーペントが浮上し首をもたげた。

その腹にはブレスに変えるための水をたっぷりと飲み込んでいる事だろう。

たかが水と侮る事はできない。

火のように熱く無くとも、毒霧のように致死性は無くとも、高圧のそれをまともに受ければ衝撃は凄まじい。

サーペントの嘴が開く。

男「走れ!ヴリトラの周囲まで行けば水流のブレスは届くまい!」

時魔女「…あっ!」

その時、荒野の窪みに足をとられた時魔女がよろめいた。

女「時魔女さんっ!」

遅れる彼女の元へ駆け寄る、女。

あの日、砂漠で副官を失った時と同じ。

俺の脳裏に悪夢が甦る。


606 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:35:10 ID:o2kgVY82

次の瞬間、炸裂の矢とも魔法による爆発とも違う破壊音が轟いた。

吐出するつもりだった水を撒き散らしながら、サーペントが再度水に沈む。

???「…新兵器の威力は如何かしら」

その側頭部を捉えた一撃は、未知の兵器によるもの。

時魔女「…来て…くれたの…!」

おそらくその兵器の開発者であろう女性は、外輪山の頂に据えた砲身の脇にいた。

彼女は星の国、技術開発局長の肩書きを持つ才女。

星の副隊長「いい子にしてましたか、隊長…?」

時魔女「あ、当たり前じゃん!ボクがいなきゃダメって位、役に立ってんだからっ!」

彼女の横には二基目、三基目の兵器を組み上げる兵の姿が見える。


607 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 19:35:53 ID:o2kgVY82

月影兵「サーペント、再浮上します!」

星の副隊長「あはん…今ので終わりじゃツマンナイと思ってたの」

彼女が照準を覗きこむ。

鉄の筒で出来ているであろう長い砲身、その横に備えられたシートに座った彼女はきっと妖しく笑んでいる。

星の副隊長「ロックオン、距離・風向補正完了、白眼の海竜…スコープで見るとなかなかセクシーな横顔よ」

時魔女「うわ…副隊長、機械に触ると性格変わるんだよね…」

星の副隊長「新型カノン、名は…そうね…『ドラゴンスレイヤー』でいいかしら?…さあ、可愛がってアゲるッ!!」


608 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 21:55:38 ID:5duczdw.

そして俺はヴリトラの眼前に達した。

白眼の者にではないが、渇竜には借りがある。

男「…悪いな、紅眼の代わりに返させて貰うぞ!ヴリトラ!」

時魔女「魔力コンバート、時間加速モード!座標ロックオン!女ちゃん…いくよっ!」

女「はいっ!」

女は素早く詠唱を済ませ、ヴリトラの頭上に雷雲を呼んだ。

迸る稲妻、雷撃を受けた竜は身体を反らし、その視界に隙が生まれる。

俺は死角から駆け寄り、腹部に剣を突きたてた。

だが、この巨大な竜を一突きで倒せるはずはない。

すぐに剣を抜き、二撃目、三撃目を突く。

長い身体のどこかにある心臓を探して、何度もそれを繰り返した。

槍兵らもそれに続き、ヴリトラは痛みに悶えている。

しかし、次の瞬間。

女「危ない…男さんっ!」


609 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 21:57:35 ID:5duczdw.

竜は力を蓄えるように、その身体を縮めた。

男「尾に気をつけろ!」

言い終わるより早く襲う、鞭のようにしなる尾の打撃。

槍兵「うわああぁぁっ!!」

数名の槍兵が払い飛ばされ、犠牲となってしまう。

時魔女「男…!時間停止を…!?」

男「だめだ!翼竜まで温存しろ…!」

本来ならヴリトラに対して直接攻撃を行うには、まだ早い。

だが少しでも早く片付けねば、人間にとって最も厄介な竜が目を覚ます事となる。

俺は退かず、再度剣を構えてヴリトラの腹部を抉った。

苦しみの咆哮をあげる白眼の渇竜。

しかしまだその心臓は見つからない。


610 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 21:58:34 ID:5duczdw.

時魔女「だめ!そろそろ離れて…!」

ヴリトラが首を回す。

その白き瞳が俺を捉える。

この状況で、砂漠での俺は闘気を失い動けなかった。

男「来いよ…!今度は切り裂いてやる!」

女「無茶をしないで!男さんっ!逃げて…!」

無茶は承知だった。

それでも早くこの竜を仕留めなければならない。

例えヴリトラの牙と刺し違えてでも、その眉間を貫いてやる。

死にさえしなければ、時魔女の能力で救われるはずだ。

もし死んだら、それまでの命だっただけ。

ヴリトラがその顎を開き、俺を襲う。


611 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 22:05:37 ID:5duczdw.

???「無鉄砲さは健在のようですな、隊長…!」

その竜の眼前に、一人の戦士が舞った。

その者は斬撃を繰り出し、竜の左眼を抉る。

血を噴きながら、渇竜が退く。

馬鹿な、背丈の五倍はある高さだった。

何故そんな跳躍ができる。

それを可能にする、その左足は。


???「出過ぎましたな…お許し願おう」


機械仕掛けの義足、ニヤリと笑う三十路越えの男。

???「待たせましたな…良い休暇でありました」

男「…よく戻ってくれた、我が副官よ…!」

月の副隊長「さあ…私も借りを返さねばなりませぬ!参りましょうぞ!」


612 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 22:06:36 ID:5duczdw.

砂の無い大地故に動きの鈍い渇竜。

まして副隊長の一撃で左側の視界は失われている。

この副官と共にであれば、それを翻弄する事など容易い。

男「こっちだ!渇竜!」

身体の側面に深く刃をたてる。

怒りに任せ、俺に向くヴリトラ。

その背後頭上から、副隊長が飛びかかり脳天を突く。

急所は外れたが竜は仰け反って苦しみ、その腹部を露わにした。

男(鱗の連なりが中央の一部だけ違う…!)

ここが心臓の在り処だ、俺はそう直感する。

男「女!凍結魔法を詠唱しろっ!」

女「わ、解りました…!」


613 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 22:07:38 ID:5duczdw.

上段突きの構え、全力を振り絞る。

男「死ね…!」

剣を突きたてた、その傷口から夥しい血が噴き出した。

刃の先に脈動が感じられる、間違い無く心臓に達している。

そのまま刃先を捻じり込み、更に体内を抉ってゆく。

がくん…と、竜の身体が力を失った。

女「…凍結魔法!いけます!」

鎌首が俺に向かって倒れ込んでくるのをぎりぎりで躱し、素早く距離を空ける。

男「いけっ!とどめだ!」

女「はいっ…!!」

凍る空気、甲高い音に震う鼓膜。

竜の傷口から溢れる青い血が、一瞬にして固体に変わった。

渇竜の心臓が氷塊に閉ざされ、その動きを止める。

竜の命が閉ざされてゆく。


614 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 22:10:01 ID:5duczdw.
今日はここまで
もっと盛り上げたいのに、全然だめだ…


615 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/07(土) 22:13:10 ID:3HV/D4qM
経過時間でラスボス強化とか燃えるじゃないですかwwww

支援


616 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/07(土) 22:14:30 ID:Pc14/Q1o
十分盛り上がってるじゃない
手に汗握ってるぜ


617 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/12/07(土) 22:15:15 ID:J.T6427Y
乙。こーゆー展開を待っていた。


618 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/07(土) 22:16:04 ID:VSy03iXk
十分熱い展開が続いてるじゃまいか

物足りないと言うことは、まだてーいが足りてないらしいな( ゚∀゚)ノ≡てーい)`Д゚)・;'


619 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/07(土) 22:18:41 ID:VV/rTsMs
もうさぁ……ここで全員集合とか熱すぎる展開でしょう
これぞ王道
支援てーい!


620 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/12/07(土) 22:54:22 ID:I2gB5aOk
唯一の不満があるとすれば、初めましてのキャラが多いことだな
知り合いとかが多ければ集まった時の感動がてーいなんだが

そんな不満をいう俺にてーいをくれ


621 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/12/07(土) 23:07:55 ID:5duczdw.
>>620
めっちゃ鋭いツッコミさんくす
まさにそれが悩みの種、全ては地の文を男視点にしたのが元凶
旭日や落日、白夜といった男が登場しないシーンを描けなかったんだ

他のレスも本当嬉しい
出来るだけ盛り上げてくよ


622 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/12/08(日) 08:50:22 ID:ijcqTwwU
噂の英雄が世界の危機に集うとか十分熱いぜ
たぶん、これが知り合いとかだったら今俺はこんなにウルウルしてない
各々のドラマに想像の余地があるからこそ、世界の広さが伝わってくる


623 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:53:23 ID:bjVnSqmo

地に伏せたヴリトラの傍、少しの間だけ息を整える。

既にハイドラとクエレブレは討たれ、オロチも旭日と落日の両面攻撃によりその動きを止めていた。

鈍く首をもたげるサーペントに、更に二発同時の砲撃が浴びせられる。

サラマンダーはその翼を完全に奪われ、地にうずくまって十騎余りのグリフォンに包囲されているようだ。

残る数十騎のグリフォンは真竜の周辺上空を旋回し、護っている。

男「さあ…奴が蘇るぞ」

対の紅眼が死んだのがほんの先刻だったからなのか、幸いにも復活が遅れていた翼竜。

だがついにその身体を覆う岩が大きく剥がれ落ち、あの禍々しい六枚の翼がゆっくりと広げられてゆく。


624 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:53:56 ID:bjVnSqmo

最初の羽ばたきは遅く、しかし大きなものだった。

竜の周囲の大地から、円形に土煙が広がる。

身体を宙に浮かせ、その大顎をいっぱいに開き、自身の復活を誇示するように咆哮をあげる竜。

しかし、その次の瞬間には。

時魔女「消え…た…!?」

幼馴染「…上よ!」

翼竜は瞬く間に天空へ昇っていたのだ。

女「やはり、速い…」

男「我々も真竜の元へ…!急げ!」

上空で背面の宙返りを見せた後、その身を捻り急降下を始める翼竜。

男「くそ…!どうする気だ!」

あまりの速度にどこを狙っているかの判別がつかない。

見る間に大地に迫る、翼竜がその顎に捉えたのは。


625 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:54:32 ID:bjVnSqmo

時魔女「…紅眼の翼竜が!」

己の対の存在、紅き瞳の翼竜の亡骸。

その身体を引き裂き、頭を千切り、ずたずたにしてゆく。

時魔女「喰ってるの…!?」

男「…違う」

駆けつけても間に合うまい。

白眼の翼竜が抉り出そうとしているのは、七つの紅き瞳だ。

突如、紅眼の亡骸から大量の黒い霧が噴出する。

それと同時に白眼の翼竜は飛び退き、再び上空へと舞った。

亡骸の上に竜巻のように渦巻いた霧は、その中に幾つかの紅い光を抱いている。

男「消える…!」


626 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:55:22 ID:bjVnSqmo

文字通り空に霧散する滅竜の霧。

そこには既に紅き瞳の影は無かった、…そして。

女「真竜…!」

金色の真竜は更に大きく翼を広げ、首を前に伸ばして顎を開いた。

対面する滅竜が岩を破り、凄まじい咆哮をあげる。

ついに対峙する、二柱の神竜。

白銀の鱗を明け方の青白い光に輝かせて、その全貌を明らかにした滅竜の大きさは七竜の数倍はあるだろう。

幼馴染「真竜は飛ぶつもりなの…?」

男「いや、あれは…おそらく反動に耐えるための姿勢だ」

目一杯に広げられた翼で空気を受けて、自らの攻撃を支えるつもりに違いない。


627 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:55:57 ID:bjVnSqmo

つまり、滅竜を討つための真竜の最大にして最後の攻撃は。

女「紅い光が…!」

真竜の顎の前に、瞳の色と同じ紅い光の球体が現れる。

稲妻のような閃光を纏いながら、次第に大きくなってゆくその紅き瞳の力の集合体。

それをブレスに変えて放つのだ。

辿り着いた真竜の元、巫女はその両腕を滅竜に目掛けて延べている。

巫女「まだ…滅竜の覚醒は完全ではないはず」

確かに滅竜は封印は解けても、大きく動き始めてはいない。

巫女「弟竜を消し去るための、兄竜の命をのせた一撃…これで終わらなければ、人間の世が消える」

真竜の翼がゆっくりと前方に羽ばたく、紅い力が一段と大きくなり唸り声のような音をたてている。

巫女「…ようやく、私の使命が終わります。受けなさい…滅竜!」

金色の翼が後ろへ羽ばたき前方への推進力を得る、それと同時に眩い光のブレスが放たれた。


巫女「真紅のブレス…!!!」


紅き瞳の力が波動となって滅竜を襲う。


628 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:56:33 ID:bjVnSqmo

まだ動きを取り戻さない白銀の竜が波動に呑まれ、目を開けていられない程の閃光が辺りを包んだ。

僅かに遅れて凄まじい爆風が吹き抜け、俺は後方の地面に倒れ込む。

数秒、衝撃と目の眩みに視界を失った後、身体を起こした俺の目に映ったのは。


男(翼竜が、まだ飛んでいる…!)


ゆっくりと翼を地に着け、その身体を横たえてゆく金色の真竜。

片翼が吹き飛び、相当のダメージを受けつつもその脚で立ったままの滅
竜。


時魔女「だめ…だ…!」

幼馴染「倒せ…なかった…」


滅竜が、生きている。

絶望だけが、残されている。

未来が、閉ざされてゆく。

.


629 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:57:40 ID:bjVnSqmo

《…成る程、凄まじい力だ…》

空気全体が震うような、それでいて頭の中に直接届いているかのような声が響く。

男「滅竜の…声なのか…」

《白き瞳の力だけなら、ひとたまりもなかったであろう…》

まだ完全に復活できてはいない。

加えて真紅のブレスによる大きなダメージを受けて、鈍くぎこちない動作で滅竜が首をもたげる。

《…だが、我は生き残ったぞ…真竜…》

前を向いた、その右瞳は。

巫女「…やはり…奪われ…てい…た…」

消えようとする金色の真竜のものと同じ、紅き色を湛えている。


630 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:58:23 ID:bjVnSqmo

男「…総員!」

止まっているわけには、ひれ伏すわけにはいかない。

もう守るべき真竜も倒れた。

一切の兵も、矢も、魔力も温存する必要は無い。

男「…総攻撃だ!我々で滅竜を倒す!」

総員「おおおおぉぉぉっ!!」

一斉に矢が上がる。

グリフォンが編隊すら組まずに滅竜に突撃してゆく。

まだ満足に動けない標的、僅かでも希望があるなら今だけだ。


631 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:59:18 ID:bjVnSqmo

時魔女「翼竜が!」

しかしその滅竜を守るように、白眼の翼竜が立ちはだかる。

不意をつかれたグリフォンが数体弾かれ、顎が一体を捉えている。

男「時魔女!時間停止の準備を!」

時魔女「もう始めてる!…でも、速すぎてロックオンが…!」

その時、騎士長のグリフォンが俺達の傍に舞い降りた。

騎士長「幼馴染殿!複座に乗ってくれ!」

幼馴染「…はい!」

グリフォンの背、もう一つの鞍は後ろ向きに取り付けられている。

幼馴染は矢のストックが充分にある事を確認して、そこへ乗り込んだ。

騎士長「男殿!翼竜は我々で撹乱する、その剣で滅竜を討ってくれ!」

男「解った…!」

騎士長のグリフォンが再び空へと舞い上がる。


632 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/09(月) 12:59:57 ID:bjVnSqmo
………


騎士長「あまり気を遣っては飛べん…!落ちられぬよう注意してくれ!」

幼馴染「ご心配なく、馬上での訓練も積んでいます!」

騎士長「…幼馴染殿、何をこのような時にと言われるかもしれん。だが、どんな形であれ仇の翼竜が倒された今…願わせて欲しい」

幼馴染「………」

騎士長「このグリフォン、名をスレイプニルと言う」

幼馴染「…それが?」

騎士長「本来、グリフォンの名は主人である騎士と、その主たる君主のみが知るものだ。普段はその名を口に出す事は無い」

幼馴染「……では、何故…私に」

騎士長「私には今、主君が無い…私が本当の騎士としてこの戦いに挑むためには、仕えるべき主が必要なのだ」

幼馴染「…騎士長様……私は…私も、仕えた旭日を仇討ちのために捨てた身」

騎士長「………」

幼馴染「サムライも騎士に同じ、仕えるべき主を必要とするもの。…騎士長様、貴方は私にその背中を預けて下さった」

騎士長「…変わった話ではあるが」

幼馴染「互いを主君とする…騎士とサムライが背を預けあうなら、そのような絆の形があっても良いのでは…?」



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