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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
448 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 08:28:24 ID:MyrA0inI
昨夜は寝落ち失礼
危うくこの流れに釣りロマンを誤爆するとこだったぜ


449 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 11:15:26 ID:MyrA0inI

男「傭兵長…」

まただ、あの時と同じ。

俺は自らの不甲斐なさ故に副官を失った、しかし。

男「翼竜っ…!」

まだ剣の充填は生きている。

副官の死を無為にしないためにも、俺はこの剣を振るわなければならない。

男(仕留める…必ず!)

羽ばたこうとする翼竜に駆け、俺はその胸を渾身の力で突いた。

刃は鱗を貫き、その刀身の全てを竜に抉り込んでいる。

男「おおおおぉぉぉっ!!」

トリガーを解放し、そのまま竜の体内であの光の刃を放つ。

翼竜が大きく咆哮をあげた。

その背中の鱗が幾らか吹き飛び、そこから斬撃の青白い閃光が洩れている。

竜の身体はその内側から切り裂かれたはずだ。


450 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 11:16:16 ID:MyrA0inI

剣を抜き、俺は後ろのめりに倒れ込んだ。

翼竜は目の前で、翼を広げたまま悶え苦しんでいる。

男「く…なぜ…死なんっ!?」

手応えはあった、あれで生きていられるわけがない。

なのに何故、翼竜はまだ力を失わないのか。

その傷口から赤い血と共に黒い霧のようなものが吹き出している。

そして翼竜はぎこちなくも翼を羽ばたかせ、その身体を浮かせた。

グリフォン隊が再び攻撃を仕掛けようとする。

しかしその時、翼竜とグリフォン隊との間に火柱が立ち昇り、それを阻害した。

一体のグリフォンがそれに呑まれ、墜落してゆく。

幼馴染「まだ魔法が使えるの…!?」

ぐらつきながらも飛び去る翼竜。

それを見ながら、誰もなす術が無かった。


451 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 11:16:49 ID:MyrA0inI

だが翼竜は遥かな空に消える事は無かった。

太陽が昇り視認できるようになった台地の崖、そこに口を開けた大きな洞窟へと逃げ込んでゆく。

まさか目の前だったとは、あれが翼竜の巣に違いない。

騎士長「追いましょうぞ!洞窟の中では翼竜も身動きがとれぬはず…!」

魔法を使う相手に洞窟で戦いを挑めば危険も伴うだろう。

しかし翼竜の飛翔能力は殺せる。

これは最後のチャンスだ。

男「女…!肩を貸してくれ…追うぞ!」

女「はいっ!」


452 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 11:17:22 ID:MyrA0inI

洞窟へと足を踏み込む。

入口付近に竜の姿は無い、更に奥か。

時魔女「すごい大きい洞窟…ランタンの灯りが天井まで届かない」

しかし少し進んで違和感を覚える。

男「…何故だ、所々が人工的に加工されている」

女「………」

階段状になったところ、側壁が石積みの様相を呈している部分。

古代の遺跡に竜が住み着いたと考えるべきか…それとも。


453 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 11:17:54 ID:MyrA0inI

女「……嫌な、予感がします」

男「…どういう事だ?」

女「拒絶魔法…即死魔法、いずれも…」

女は酷く不安そうな顔をしている。

その先を言うのを躊躇い、それでも迷いを払うように小さく頭を横に振って。

女「…私の兄が、得意とした魔法なのです……」

何故、あの砂漠での翼竜の瞳は紫色に染まっていたのか。

紅いはずの竜の右瞳、その紅を紫に染めるために必要な色は。

女「…あの翼竜は」

俺を見つめる彼女の瞳のような、美しい青色…


454 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 11:18:31 ID:MyrA0inI

???「動くな…!」

その時、不意に視界が照らされ何者かの声が洞窟に響き渡った。

声は頭上から聞こえている。

そして辺りを照らす松明の灯りもまた、上からのものだ。

翼竜が巣とする洞窟で、人間の声を聞く事になるとは。

男「何者だ…?」

???「ようこそ…男殿。いや、反逆のドラゴンキラーと呼ぶべきか…?」

松明の灯りが逆光となり、その姿がはっきりと判らない。

しかし聞き覚えのある声だと思った。

女「あれは…!」

先に女が気付く、それはその声と姿を俺より長く見ていたからだろう。

女「大臣…貴方なの…!?」

月の大臣「逆賊の妻などと、辛い役回りをさせましたな…皇女。もう暫くの辛抱でございますぞ」


455 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 11:19:08 ID:MyrA0inI
ここまでー


456 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 11:20:47 ID:vIppUP0I
なんて所で切るんだ乙乙


457 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 12:13:08 ID:Dnfertvo
ここで切るか


459 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 13:45:10 ID:MyrA0inI

石積みの壁の上にはどう見ても人工的な広い祭壇がある。

大臣と十数名の兵は、そこから俺達を見下ろしていた。

男「何故…あんたがここにいる」

月の大臣「ふん…それはこちらが訊く事だ。どうやって関所を掻い潜った…」

男「…さあな、答える義理は無い」

祭壇へと上がる道は無い。

そこへ上がるには別の入り口があるのだろう。

洞窟は更に奥へと続いている、この先の暗がりに翼竜はいるのか。

月の大臣「自分の立場が解っていないようだな」

大臣が手を上げる。

隊員「ぐっ……!」

男「おい…!?」

俺の隣にいた隊員が身を屈する。

その胸には深々と矢がたっていた。


460 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 13:46:38 ID:MyrA0inI

暗がりで判らなかったが、大臣の横に列ぶ兵は弓を構えていたのだ。

男「…どういうつもりだ!」

月の大臣「武器を捨てろ、話はそれからだ」

男「……くっ…」

俺達が武器を地面に置くのを確認して、大臣は語り始めた。

月の大臣「…我々はここに何人たりとも近付けるわけにはいかなかった。ここは我が国の最重要軍事機密である施設だからだ」

男「軍事機密…だと。まさか、翼竜を…」

月の大臣「そのまさか…だ。我々は翼竜を制御する事に成功した。ある優秀な魔導士の命と引き換えにな…」

女「まさか…兄上…」

月の大臣「はっはっ…察しが良い。その通り…女兄殿の事だ。奴は魔物の意志を支配する術を習得し、竜に喰われる事でそれを発動させた」


461 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 13:47:10 ID:MyrA0inI

時魔女「魔物を支配するって…それは落日の国が開発した禁呪のはずだよ!」

月の大臣「おや…まさか貴女は星の国の時魔女殿か。その隣にいるのは白夜の騎士、なんと…旭日の兵までいるではないか」

表情は窺えなくとも、大臣が卑屈に笑っている事は判る。

この場に他国の彼らがいる事を、政治的に利用しようと考えているのだろう。

月の大臣「なるほど、関所はグリフォンで越えたか…これは白夜による重大な侵犯行為に違いない」

騎士長「ふざけるな!貴様らが操る翼竜に我が王都は襲撃を受けたのだぞ!」

月の大臣「ふん、何を訳の解らない事を。そのような事があったとしても、それは翼竜が無制御下で行った事だ。…我々の知るところではない」

再び大臣が手を上げる。

男「よせっ!」

白夜の騎士「うぐっ……!!」

また一人、今度は白夜の甲冑を身につけた隊員が地に伏せた。

月の大臣「何も貴様らを生かしておく必要は無い。白夜の甲冑を着た、騎士の死体…それで充分なのだからな」


462 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 13:48:00 ID:MyrA0inI

女「やめなさい…!」

月の大臣「皇女、もう良いのですぞ。そのままその下賤の者から離れ、待っておりなされ」

女「ふざけないで!私は男さんの妻…この方達は私の仲間です!」

月の大臣「なんと嘆かわしい…本当にそのような者に情を移しておられるとは」

女が小さな声で詠唱を始める。

しかし事も無げに大臣は「無駄だ」と言い放った。

月の大臣「この祭壇上はあらゆる魔法を拒絶する。それと、さっき貴様らが通ってきた間にも同じ祭壇は複数存在し、そこにも兵を配してある。…逃げようなどとは思わぬ事だ」

状況は絶望的だった。

どうせ大臣は我々を全員殺すつもりなのだろう。

女にしても生かしておくか解ったものではない。

死人に口無し、そう考えたのだろう大臣は饒舌に真相を語った。


463 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/19(火) 13:48:36 ID:MyrA0inI

七年前、女の兄は討伐隊を装いこの台地に赴いた。

そして竜に喰われ、その意志を内面から支配したという。

それを彼が了承したのは、妹である女を護るためだった。

彼がその命に従わなければ、その時まだ15歳だった女を落日の国へ政略結婚に送る…そう脅したというのだ。

翼竜を支配する理由は、もちろん強力な兵器として利用するため。

しかし優秀な魔導士であった女兄の力をもってしても、その制御は難しいものだった。

しかも時間を追うごとにその支配力は薄れていき、今ではこの巣穴で翼竜が眠る内に兄の意識を呼び出すしか命令を伝える方法は無いという。

翼竜はおよそその命令に従うが、予測範囲を超えた行動をとる事もある。

次第に兵器としての利用価値は薄れていき、他国を攻める際の実用には至らないまま既に捨て置かれた存在となっているらしい。

しかしこの事が明るみになるのは月の国にとって都合が悪い。

特に翼竜を実用化できなかった代わりの戦略として、砂漠開発による国力増強を狙う今だから尚更の事だった。

他国につけいる隙を与えたくなかったのだ。


464 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 14:02:50 ID:MyrA0inI

月の大臣「疑問は解けたか?…冥土の土産くらいにしかならんだろうがな」

男「…この人で無しめ、自分の国が強くなるためなら何をしてもいいのか!?」

月の大臣「その通りだ、解り切った事を訊くな。よし、やれ…ただし皇女だけは殺すな」

月の兵「はっ…!」

月の大臣「オンナ共は上手く手足を射るのだぞ。くっくっ…死体とまぐわってもつまらん」

頭上の兵が弓を絞る。

逃げる術も、反撃の術もない。

月の大臣「まずは用済みのドラゴンキラー殿を黙らせろ」

俺を目掛けて、矢が放たれる。

女「男さんっ…!」

咄嗟にそこへ、割り込んだ者は。

男「女…!」

俺を庇い、女が矢に倒れる。

彼女の背中、白いローブに鮮血が滲んでいた。


465 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 14:03:46 ID:MyrA0inI
ここまでー
ここらへんのシーン、どこで切ってもだめだった
早くイチャイチャさせてーなあ…


467 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 18:29:23 ID:x57IHI.E
またこんな所で( ゚Д゚)


468 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/19(火) 19:04:16 ID:DstHqCto
釣りでイチャイチャしてるだろ!


469 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/19(火) 20:42:04 ID:jpHjLvIo
万一だけど今夜、大誤爆や変な投下があったら無視して下さい
無いと思うけど、念のため
ちょっとじゃなく酒が入ってるので


470 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/20(水) 01:27:26 ID:28WzOiaU
お前ともどもてーい!してやるから安心しろ


471 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/20(水) 08:15:01 ID:P94OTAb.
むしろ誤爆を楽しみにしてたが無かったな・・・
しかしよくこれと釣りロマンを同時更新とかできるよな


472 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 11:52:18 ID:5rCufxKI

男「女っ!…くそっ、しっかりしてくれ!」

女「…男さん、逃げ…て…」

何故だ、どうして傭兵長も女も俺を庇って倒れなければならない。

俺に、翼竜を討つという想いを果たさせるためか。

でもそれは大切な人を失ってまで果たす価値があるのだろうか。

『殺すな』と命じられた女を射ってしまった事に怯んだか、矢を射る手は暫し止まっている。

男「…死ぬな…女…!頼むから…!」

女「……早く…男…さん…」

急所は僅かに外れている、まだ女に息はある。

すぐにでもこの窮地を脱せば時間逆行で女を救えるかもしれない。

そのためには時魔女を護らなければ、女にこれ以上の深手を負わせないよう努めなければ。

男「時魔女!祭壇の真下…矢の死角へ逃げろ!」

時魔女「うん…!」

男「幼馴染お前もそこへ…女を頼む」

幼馴染「男…どうするつもりなの!?」


473 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 11:52:51 ID:5rCufxKI

翼竜への剣撃の余韻でまだ足はおぼつかない、この状態では矢から逃れる事はできまい。

それでもいい、俺はここから動かない。

男「残りの者は洞窟の奥へ…!松明の灯りの外へ身を隠すんだ!」

大臣が必ず俺達を呼び止めるつもりだったなら、更に奥には兵を配置してはいないはずだ。

ここからは翼竜の息遣いなどは聞こえない。

松明の灯りから逃れる程度奥へ進んだところで、まだ遭遇はしないと思われた。

月の大臣「馬鹿め、しょせん時間稼ぎにしかならぬものを…竜と我らの挟み撃ちにあいたいか!」

動き始める隊員に向かって次々と矢が射られる。

しかし残る全員が無事とはいかなくとも、全滅もあるまい。

時魔女達は祭壇の真下に達し、僅かな壁の窪みに身を隠している。

幼馴染が女から矢を抜き、時魔女は既に魔力の変換を開始しているようだ。

俺は足元の剣を拾った。

男(騎士長、幼馴染…翼竜を討つ事は任せるぞ)

命を賭すべきは復讐ではない、そう俺は気付いたんだ。


474 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 11:54:10 ID:5rCufxKI


《充填開始…5%…10%…15%…》


まだ体力は戻りきっていないらしく、充填の速度は遅い。

それでも砂漠での再充填時に比べれば、一度目との間が幾分か開いているだけにマシなペースだ。


《25%…30%…》


隊員達は数名が矢に倒れたが、残りの者は一旦暗闇に脱する事が叶ったようだった。

故に、祭壇上の兵の注視は残る俺に向く事となる。


《40%…45%…》


月の大臣「貴様っ!何をしようとしている!」

俺はできるだけ身を縮め、的を小さくするよう体勢をとった。

剣を頭上に渡し、少しでも頭部を庇いながら。


475 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 11:54:41 ID:5rCufxKI


《50%…55%…》


矢が雨のように注ぐ。

肩にたち、太腿にたち、激痛が俺を襲う。

怯むものか、剣の充填が達した時にそれを薙ぐ力さえ残っていればいい。

祭壇を切り崩し、奴らをここに引きずり降ろす事さえ出来れば、あとは闇に潜む隊員が何とかしてくれる。


《60%…65%…》


頭上の剣に矢が当り、鋭い金属音がたつ。

続いて左の肩口に強い衝撃と熱いような感触を覚えた。

口から血が吹く、肺に達したか。

幼馴染「男…!」

男「来る…な…!」


476 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 11:55:20 ID:5rCufxKI

《70%…72%…74%…》

充填のペースが落ちる、負傷により闘気が落ちたのだろう。

男(くそ…間に合わんのか…!)

同時に二本の矢が左足にたち、体勢が崩れる。


《…75%…………闘気低下…充填中止…》


そして剣から発せられる無情な宣告。

それと同時に、俺は地面に倒れ込んだ。

身を潜めた隊員達が闇から駆け寄ってくるのが見えた。

男(いけない…それでは全滅してしまう!)

しかし彼らが暗闇を脱したのは、止むを得ない理由があっての事だったのだ。

絶望という名の理由が。

隊員「竜が…!翼竜が出ます!」

隊員達の背後から咆哮が響く。

その闇に浮かぶ紫の瞳を見ながら、俺は意識を手放していった。


477 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 12:20:06 ID:5rCufxKI

……………
………



『憐れなものだ…竜に喰われ、竜として生きるとは』

『しかし我らの命令は絶対、そこは心得ておろうな…翼竜…いや、碧眼の魔道士よ』

『くっくっ…そう睨むな。我らに盾突けば貴様の妹の身がどうなるか』

『そうだ、それでよい…。では、そうだな…まずは忌まわしい落日の国を荒らして来るのだ』

『くれぐれも餌の家畜を食いにきたかのように、今はまだ軍事施設などは襲うな』



『どうした、なぜ命令外の事をしたのだ』

『そうか…竜を支配する力が弱まっているのだな』

『この役立たずめ…まだ軍事利用の一度も出来ておらぬというのに』

『せいぜい飼い慣らす事だな、貴様が用無しになる時は妹も我が国に居られなくなると思え!』


478 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 12:21:08 ID:5rCufxKI

『ふん…とうとう竜が眠る間にしか意識を現せなくなったか』

『まあいい、貴様の妹も国のために嫁がせたのだからな』

『なにも落日の国に売ったわけではない、我が国のドラゴンキラーに与えたまでだ』

『まあ農夫の出…下賎の者ではあるがな。くっくっ…そう怒るな、妾の娘には似合いであろう』

『さあ、また砂漠へ赴くのだ。そのドラゴンキラーがヴリトラを討てるかは怪しい…砂漠を手中とするためにも、確実にあの竜は潰さねばならん』

『くれぐれも貴様が手を出すのはドラゴンキラーが敗れた時だけだ。本来ならその者自身が渇竜を討つのが望ましいのだからな…』



『大臣…翼竜に命令は』

『もう無駄だ。あの者の意識など既にありはしない…あれはもうただのゴミだ』

『既に砂漠開発の手筈は整っている。もうあんな危険な竜に用は無い』

『そうだな…もしまだ少しでも制御が効くなら、再度砂漠へ飛ばしそこで砂漠開発部隊の守護を命じたドラゴンキラーに討たせるとしよう』

『砂漠で二頭の竜を葬ったとあれば、なお他国に口出しをされる心配は無くなろうからな』

『仮にも妹の夫だ、身内に討たれるなら本望であろうよ』


479 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 12:33:20 ID:5rCufxKI

『なんと…ドラゴンキラーが裏切り、台地を目指しているだと…!』

『くそ…翼竜はどこへ行っているのだ。全く命令が届かん…』

『関所を越えることはできまいが…万一ここに達されたら必ず息の根を止めるのだ』

『何処をふらついているとも知れん翼竜などあてにするな。もともとこの洞窟は翼竜の巣穴、本能だけでも勝手に帰ってくる』

『うまく皇女を捕らえられたら、自らの兄に喰わせるのも一興というものよ…くっくっ…』



『良いタイミングで戻ったと思えば随分と傷ついていたな…』

『翼竜は巣穴の奥へ逃げ込んだ模様です』

『ふん、頼りにならん…既にあの魔導士の意識など塵も残っておらんようだな』

『まあ…翼竜に野性が戻ったとしても、この祭壇に居る限り奴に手出しができん事は解っている…危険は無かろう』

『…魔導士が再び意識を支配でもせぬ限りはな』

『間も無くドラゴンキラーの一団がここに来る、途中の祭壇の兵には手を出すなと伝えておけ』

『さあ来い…逆賊め。この祭壇から狙いうたれ、手も足も出ぬままに死ぬが良いわ』


480 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 15:29:55 ID:5rCufxKI

……………
………



男(何だ…ここは…やけに眩しい)

男(…白い世界…俺は死んだのか?)

男(今朝の夢の続き…にしては雰囲気が違うが)

???『…男殿』

男《誰だ…!?》

???『翼竜に喰われた魔導士…女兄と言えば解るか』

男《女兄…?じゃあ…やはりここはあの世か》

女兄『いや、心配するな…貴方は死んではいない。もうじきに目が覚めるだろう』

男《…そうか》


481 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/20(水) 15:30:28 ID:5rCufxKI

女兄『すまない…今の私には翼竜を制御できるのは、ほんの一時にすぎないんだ。本当ならもっと早く手助けがしたかったが…』

男《つまり、あんたが翼竜を操って俺達を救ったという事か》

女兄『救ったなどとおこがましい事を言うつもりは無い…ただ女が矢に射られるのを見て、黙っていられなかっただけだ』

男《砂漠でも翼竜の瞳は紫に染まっていた。あの時、俺達を殺さなかったのはあんたの意志だったんだな》

女兄『…詳しくは後で話そう。洞窟の最奥、竜の主祭壇の壁を破壊してくれ…そこに道がある』

男《…あんたはそこにいるのか?》

女兄『私は翼竜の中にいる。…だがその道の先にある場所にだけは意識のみの存在として姿を現す事ができる』

男《…解った、必ず行こう》

女兄『さあ、目を覚まして…女を安心させてやってくれ』

男《女…あいつは無事なんだな?》

女兄『ああ、そのはずだ』

男(白い世界が…薄れて…)



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