■戻る■ 下へ
女帝「反乱軍ですって!?」
31 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:04:53.08 ID:mV9SIlrw0
かつて、この帝国は世界中から恐れられた大帝国であった。

ところがおよそ700年前、当時の皇帝は帝国の解体を決意した。
領土や権力の膨らみすぎを懸念しての判断と伝えられている。

皇帝は三人の優秀な部下にそれぞれ領土を託し、国として独立させ、
帝国はいわば三国にとっての象徴として落ち着くことになった。

この三国こそが、帝国を囲む三強国、
『ナイト共和国』『メイジ共和国』『サバンナ共和国』である。


32 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:05:48.47 ID:mV9SIlrw0
ある日、帝国の町で祭りが行われた。
女帝も執事と大臣たちと町を訪れ、祭りを楽しんでいた。

大臣「女帝様、楽しんでおられますかな?」

女帝「うん、とっても!」

執事「さっきからいくら祭りだからって食べすぎですよ……。
   太っても知りませんよ?」

女帝「いいじゃない、私痩せてるし」

執事「特に胸は発展途上中ですしね」

女帝「うるさい」


33 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:08:59.67 ID:mV9SIlrw0
農民「あ、お城の皆さん、こんなところにいたっすか!」

女帝「あら農民、どうしたの?」

農民「あっちで町長が、めったにやらないスーパー町長ダンスを披露するそうっすよ!」

女帝「なにそれ、見たい!」

執事「行きましょうか」

大臣「………」

女帝「大臣はいかないの?」

大臣「私はけっこうです」

大臣(ずっと前、あれを見てトラウマになったからな……)


34 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:13:41.18 ID:mV9SIlrw0
町長「ふぉっふぉっ……では始めましょうかな。
   スゥゥゥパァァァ町長ダンスッ!」

町長「ほあーっ!!!」

スーパー町長ダンスは凄まじかった。

女帝「どうなってるの、これは……」

執事「関節がありえない方向に曲がってますが……目の錯覚ですよね?」

農民「こりゃ、すげえっす……」

八百屋「ひどくひん曲がったきゅうりみたいだ」

町民「これが幻のスーパー町長ダンスか!」
  (幻になるわけだ……)

木こり「人間技じゃない……」

少女「ママーッ! 町長さんがすごいことになってるよーっ!」

町医者「まさに人体の神秘……! 医学の常識を超越している……」

老婆「おやおや、町長もまだまだ元気だねぇ」


35 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:16:41.75 ID:mV9SIlrw0
そして最後は女帝の挨拶で締めくくる。

女帝「え、えぇと……」カチンコチン

執事(さすがに緊張してるな……)

「頑張ってーっ!」 「しっかりー!」 「ゆっくりでいいですよーっ!」

女帝「……こほん」

女帝「今日はとても楽しかったわ。町長のダンスは怖かったけど……。
   いっぱい食べて、踊って、笑って……」

女帝「私はまだまだ君主として未熟かもしれないけれど……」

女帝「これからも頑張るので、よろしくお願いしますっ!」ペコッ

「応援してます!」 「こちらこそ!」 「いつでも町に遊びに来て下さい!」

執事(君主の挨拶っぽくはないけど……ま、いっか)パチパチ

大臣「さてと、夜も更けたことだし城に戻るとしようか」

執事「そうですね」


36 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:18:28.40 ID:mV9SIlrw0
帝国城 寝室──

女帝「執事」

執事「はい?」

女帝「前に私、帝国っぽいことをしたいっていったけど、もうやらないわ」

執事「おや、どうしてです?」

女帝「あんなにいい人たちに向けて圧政をするなんて、とんでもないもの。
   私は暴君じゃなく、みんなに慕われる君主を目指すわ」

執事「女帝様がそう感じられたなら、きっとそれは正しいのでしょう。
   少なくとも私は全力であなたを応援しますよ」

女帝「ありがとう」

執事「では、おやすみなさいませ」

女帝「おやすみなさい」


39 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:23:57.59 ID:mV9SIlrw0
帝国から独立した三国、ナイト共和国、メイジ共和国、サバンナ共和国。

最初こそ、三国は帝国を中心にまとまり、理想的な関係を築いていた。

しかし、力をつけた三国はいつしか傲慢になっていった。

そして今や、三国にとって、帝国などあってないような存在と化していた。

唯一の幸運といえば、帝国には確かな平和があることであるが、
この平和も決して盤石なものではなかった。


40 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:25:01.90 ID:mV9SIlrw0
ある朝、執事は新聞を読んでいた。

執事「またか……」

大臣「どうしたのかね?」

執事「サバンナ共和国とメイジ共和国の国境で小競り合いがあったんですよ。
   この間もナイト共和国の騎士団がわざと他二国との国境線に槍を投げつけるなんて
   事件がありましたし……」

執事「このままじゃ……」

大臣「まちがいなく戦争だろうな」


41 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:26:38.57 ID:Fbnrdf2a0
戦争を起こさせる騎士やりーねー


42 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:28:55.61 ID:mV9SIlrw0
執事「しかも、来月はこの帝国に三国首脳が集まる、五年に一度の大会議です。
   なにもこんな時に……」

大臣「いや、むしろこの時期だからだろう」

大臣「三国はいずれも他の二国を疎んじている。
   どの国も来月の大会議で大義名分を作り、戦争を仕掛けたいのだろう。
   だからこうやってチマチマ火種を用意しておるのだ」

執事「たしかに……大会議が近づくと三国はいつも険悪になりますしね」

執事「しかし、あの三国に戦争なんてやられたら……」

大臣「この帝国も巻き込まれ、滅亡するだろうな」

執事「……ですよね」


43 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:31:59.81 ID:mV9SIlrw0
女帝の部屋を訪れる執事。

執事「女帝様、来月はこの城に三国首脳が集まり、五年に一度の大会議があります。
   初めてのことで大変でしょうが、頑張って下さいね」

執事「たしか、前回の会議は父君である先代皇帝が出られたんですよね。
   まだ私が城に務めるようになる前のことですが……」

女帝「うん……」

執事「あ、いや……」
  (しまった、亡くなられた両親のことを思い出させてしまったか?)

女帝「戦争……起こるの?」

執事「え?」

女帝「いくら私でも分かるよ。
   今度の大会議を、三つの国が戦争のきっかけにしたいことくらい」

女帝「あの三国の仲の悪さは、今まで戦争がなかったのが不思議なくらいだもの」

執事「女帝様……」


44 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:33:29.55 ID:rdiQK5DN0
女帝は何歳くらいなんだっけ?


45 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:35:05.44 ID:mV9SIlrw0
女帝「執事、教えて!」

女帝「戦争を止める方法はないの!?」

執事「なにをいってるんですか……戦争なんか起きませんよ。
   これまでも起きそうで、ずっと起こらなかったじゃないですか」

執事「今回もきっと大丈夫──」

女帝「はぐらかさないで!」

執事「!」

執事「……ないです」

執事「700年前ならいざ知らず、今の帝国にはなんの力もありません。
   戦争を止めるだけの権力も、武力も……」

女帝「………」


46 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:38:15.79 ID:6gggPxMl0
3国のどれかに嫁いで統一するしかない


47 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:38:53.13 ID:mV9SIlrw0
執事「おそらく会議では、各国首脳が軍事力を自慢し合ったり、
   領土を始めとした諸問題にケチをつけあったりするにちがいありません」

執事「みるみるうちに会議はヒートアップします」

執事「やがて、どこかの国がいうでしょう。“戦争しかない”と」
   他の二国ももちろん受けて立つでしょう」

執事「そしてこの三国の象徴たる帝国から、首脳たちは号令を発します。
   他の二国を滅ぼせ、と」

執事「こうなったらもう、神ですら戦いを止めることはできません。
   拮抗した実力を持つ三国による、戦争の幕開けです」

女帝「そうなったら……どうなるの……?」

執事「何千、何万と人が死ぬでしょうね。
   数十年、下手すれば百年以上決着はつかないかもしれません。
   あちこちに地獄絵図が広がるでしょう」


48 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:41:17.05 ID:mV9SIlrw0
女帝「町の人たちは……」

執事「………」

女帝「教えて……」

執事「この帝国もまちがいなく戦火に巻き込まれるはずです。
   下手すると、最初の戦場がここになるかもしれません。
   そうなれば……」

女帝「そうなれば……?」

執事「………」

女帝「みんな、殺されちゃうの……?」

執事「……はい」


49 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:42:02.03 ID:mV9SIlrw0
女帝「どうしてなのっ!?」

女帝「なんであんなに大きく豊かな国同士が戦わなきゃいけないの……?
   仲良くすればいいじゃない!」

女帝「なんで町の人々が殺されなきゃならないの……?
   悪いことなんて一つもしてないのに……」

女帝「元々あの三国は、この帝国から独立したんでしょう……?
   なのに、なんで私はなにもできないのっ!?」

女帝「どうしてなのっ!?」

女帝「教えてっ!」

女帝「教えてよ……執事」

執事「……すいません」


50 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:44:24.74 ID:mV9SIlrw0
女帝「こっちこそ、ごめんなさい……」

執事「いえ、あなたの疑問はごもっともです。
   にもかかわらず、なにも答えられない私が悪いんです」

女帝「………」

女帝「じゃあ、私は自分にできることをする」

執事「え?」

女帝「今のうちに、町のみんなを避難させてくる!」ダッ

執事「えぇっ!?」


51 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:47:08.57 ID:mV9SIlrw0
帝国領内の町──

農民「ふんふ〜ん」

女帝「あっ、農民!」

農民「おや、どうしたんっすか、怖い顔して。もっとスマイルっすよ!」

女帝「来月、この国で大会議があるの、知ってるでしょ?」

農民「もちろんっす。この帝国を囲む三国がやってくるっすよね?」

女帝「多分分かってるとは思うんだけど……。
   きっと会議をきっかけにして、あの三国は大きな戦争を起こすの……。
   そしたらこの帝国も巻き込まれてしまうわ、だから避難してっ!」

農民「………」

農民「……女帝様はどうするっすか?」


52 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:51:02.03 ID:mV9SIlrw0
女帝「私が逃げるわけには……」

農民「ハハ、じゃあ俺だけが逃げるわけにはいかないっすね。
   これでも俺、この国も女帝様も大好きなんすよ。
   だから、逃げませんっす」

農民「俺は最後の最後まで、畑を耕すつもりっすよ」

女帝「こ、これは命令なのよっ!」

農民「聞けない命令もあるっすよ。じゃあ、農作業があるんでこれで……」スタスタ

女帝「あっ……」


55 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:58:21.79 ID:mV9SIlrw0
他の人間も同様だった。

町民「逃げるのは無理ですね……。自分の命も大切だけど、この国も好きですから
   もちろん女帝様のこともね」



八百屋「俺はこの国が滅ぶ時まで、八百屋であり続けますよ。
    ところでいい人参があるんで、持っていって下さい」



町長「ふぉっふぉっ……この国と町がなくなる時は、ワシもなくなる時ですじゃ。
   生まれも育ちもこの町ですからな……」


56 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:58:58.00 ID:mV9SIlrw0
町医者「戦争になれば、多くの怪我人が出るでしょうな。
    ならば私はここにいなくてはなりません」



老婆「私は最後までここに残りますよ……ごめんなさいね」



木こり「この国の森にはいい木がいっぱいあるんですよ。
    見捨てるわけにはいきません」



少女「だいじょーぶ、あたしが女帝さまを守ってあげるから!」


57 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 23:01:27.48 ID:mV9SIlrw0
帝国城──

女帝「なんでよぉっ!」

女帝「なんでみんな、逃げてくれないの……!」

執事「それだけこの国とあなたが愛されているということですよ」

女帝「………」

女帝「……だったら」

女帝「私が正真正銘、だれもが認める暴君になれば、
   みんな避難してくれるかもしれないってことだよね?」

女帝「私がメチャクチャすれば、みんな帝国に愛想を尽かして
   逃げてくれるかもしれないよね?」

執事「……そうかもしれませんね」


58 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 23:04:17.67 ID:mV9SIlrw0
執事「しかし、私はそんなあなたはとても見たくありません」

女帝「!」

執事「どうしてもやるとおっしゃるのであれば、
   前にいったように私を極刑にしてからおやり下さい」

女帝「そ、そんなこと……」

執事「あなたにはできませんよね?」

女帝「………」

執事「この土壇場で皆を裏切って、どうするんですか……!」

女帝「ごめんなさい……!」

女帝「でも……私、どうしていいのか……!」

執事「いくら悩んでも答えが出るものではありません。
   とにかく、今夜はおやすみ下さい」

女帝「うん、分かった……」



次へ 戻る 上へ