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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
- 253 名前:深夜にお送りします []
投稿日:2013/11/05(火) 11:24:37 ID:5X26iL1Y
………
…
夜の城内はやけに静かだった。
多くの兵が鎮圧のために出払っているのかもしれない。
部屋を訪ねた夜警の兵が俺を先導して、一気に城門まで駆け降りる。
夜警兵「反乱兵は城下東の旧城塞跡に立て籠もっているとの情報です!」
旧城塞までの道程には狭い森が横たわっている。
まだ王都へ来て日の浅い俺は、それを抜けるルートを知らない。
城門にはかがり火こそ焚かれているが、見張りの兵はいなかった。
男(…見張りさえ出払うとは、まだ反乱兵の総数も掴めまいに)
もしまだ沈黙を保ったままの反乱を内心に企てる者が城内に残っていたら、王の
首を狙うにこれほどの機会はあるまい。
でも砂漠への侵攻を快く思わないのは俺も同じ。
王が女の父親であろうとも、その娘を都合の良い物のように扱う王の身を案ずる
気にはなれなかった。
- 254 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 11:26:07 ID:5X26iL1Y
男(しかし…おかしい、いくらなんでも兵の姿が少な過ぎる)
森を抜ける旧道へ駆け込んだ際、そこで松明を持った兵に出会い「やはり旧城塞
に立て籠もっているようだ」との情報は得た。
でもこの一大事だというのに、他にすれ違う兵すらいない。
そして森の旧道はさらにその荒れ具合を増してゆく。
旧城塞はあくまで跡地ではあるが、今でも見張り台としては使われているはずだ。
そこへ続く道が、これほど草と落葉に覆われているものだろうか。
男「…おい、本当に」
夜警兵「……………」
静か過ぎた城内、それは本当に兵が出払っていたからなのだろうか。
クーデターなど起こっていない、普段通りの平和な夜ならば当然の状態ではないか。
もし城門の身張りとこの夜警の兵が共謀して、何らかの理由で俺を誘い出しただ
けだったとしたら…?
急いで部屋を出たから、俺は甲冑はおろか剣を提げるためのベルトすら身に着け
ていない。
故に左手で直接に鞘を握っていた剣の柄を、俺はそっと握った。
- 255 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 11:27:33 ID:5X26iL1Y
不意に視界が開ける、まだ旧城塞には達していないはずだ。
辿り着いたそこは森の中にあってここだけ木立の無い、隠れた小さな草原だった。
幾つかの控えめなかがり火が焚かれており、その周囲にはぼんやりと照らされた人影が見える。
その数は二十名以上、いずれが纏っているのも、月の国の兵装。
城塞への突入を待つ鎮圧部隊にしては、数が少なすぎる。
男(…やられたな、女の名を出されて我を失うとは…俺も甘いな)
おそらく女が人質となっている事そのものが、狂言に違いない…そう考えた。
かがり火の中央に立っていた兵が、口を開く。
反乱兵「砂漠開発部隊の警備隊長…男だな?」
男「いかにも…貴様ら、何の目的で俺を誘い出した」
反乱兵「…ふん、自らの手でヴリトラを仕留めたわけでもあるまいに、砂漠の覇権を握ろうなど許されると思うか」
言葉の意味を思えば、反乱の理由そのものは夜警の兵が告げた通りのようだ。
その気持ちも解らなくもない…兵にしても自国が平和であるに越した事は無いはずだ。
砂漠へ侵攻し、余計な争いの火種をつくる事に異を唱える者がいるのも当然だろう。
- 256 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 11:28:07 ID:5X26iL1Y
男「俺とて望んでその任につくのではない、しかし…」
反乱兵「国に妻を人質とされては仕方が無い…とでも言う気か?」
男「…なぜ、貴様がそこまで知っている」
上半身をローブに身を包んだ一人の反乱兵が前に出てくる。
先から話していた者は、親指でその兵を指して言った。
反乱兵「さあな…訊いてみたらどうだ」
歩み出た反乱兵がローブを脱ぐ。
右手に円月型の剣を持ち、どこか悲しげな青い瞳で俺を見るその姿は…
男「………女…!」
…見間違うはずも無い我が妻、女その者だった。
- 257 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 12:48:21 ID:5X26iL1Y
甲高い金属音が響く。
決して上手い太刀筋では無いものの、その剣撃に迷いは見られない。
男「女っ!どういう事だ…!」
俺はただその刃を自らの剣で受け流し、女に声を掛け続けた。
男(操られているとでも言うのか…!?くそっ…)
女「……………」
仕方が無い、少々手に響くかもしれないがやむを得ん。
俺は斬りかかる女の剣を躱し、その刀身の元を上から叩きつけるように斬り落とした。
闘気の充填無しで鋼の刀身を切断するのは不可能だが、女の力ではそれを握ったままで耐えることは出来ない。
剣が地に落ち、女が無力化したと考えた俺は、他の兵の動きに目を光らせた。
しかし誰も動かない。
ただ俺達の方を見ているだけで、武器を手に取る様子すらない。
俺は失念していたのか、それとも操られている女にはその力が無いとでも錯覚したのだろうか。
女は数歩退がり、呟くように言った。
女「…凍りなさい」
- 258 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 12:57:26 ID:5X26iL1Y
俺は動きを奪われた、両足と地面が氷塊に結ばれている。
男「くっ…操られていても魔法が使えるとはな」
万事休す、この場を切り抜けようと思えばもはや剣の特殊効果で薙ぎ払う位しか手は無い。
充填する時間を与えられるかは解らないが、反乱兵も女も区別無く光の刃で薙ぎ払えば一撃で終わる。
女「誰が操られていると言ったのです」
男「…何だと、お前…」
女「私は正気です」
愕然とした、本当に彼女が正気なのだとしたら、いつから俺は騙されていたのか。
心が通じていると…愛しいと感じた女は全て偽物だったというのか。
男「…殺せよ、今なら抵抗はできない」
項垂れた俺に、女が歩み寄る。
何故だ、それじゃ俺の剣の間合いに入ってしまう。
…そうか、解っているんだ。
例え騙されていたとしても、俺が彼女を斬る事など出来ないと。
そして彼女は、その魔力を宿らせたであろう右手を俺に翳した。
- 259 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 14:36:33 ID:5X26iL1Y
鋭い音と共に、頬に焼けるような痛みが走る。
翳された女の手が放ったのは、炎でも雷撃でも無かった。
男「………ってぇ…何のつもりだ…うっ!」
もう一度、今度は反対の頬を彼女の平手が打つ。
周囲で見ていた反乱兵達が、噛み殺したような笑いを漏らしている。
いたぶって殺すつもりにしても、あまりに回りくどい。
不思議と兵達の失笑も、下卑たものとは思えなかった。
女「どの口が言ったのです」
男「………?」
女「あなたにとって私が必要な存在だと…そう言ったのはあなたじゃなかったんですかっ!」
- 260 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 14:37:34 ID:5X26iL1Y
彼女は怒鳴りつけながら更に俺を叩く。
今度は頬を打つのではなく、それは駄々を捏ねた子供がするように、俺の胸を両手で何度も打った。
女「私にっ!何も話さずに…!砂漠へ発つつもりだったのですか…!このっ!馬鹿男っ!」
男「………女…」
周りの兵達は堪えきれないという様子で、けらけらと笑う。
俺は…騙されたのか、二重に。
女「許しません!そんな勝手な事…!絶対にさせないっ!」
男「…だからって、こんな…兵まで巻き込んで」
いつ彼女が事に気付いたのかは知れないが、小さな復讐劇にしてはあまりにも手が込んでいる。
兵達にしても、こんな茶番に付き合うほど暇では無いはずだ。
- 261 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/05(火) 15:47:04 ID:o256bGOo
???「本当の事、知りたい?」
そして並ぶ兵の中から現れた黒幕が、ついに真相を語り始める。
男「…お前」
幼馴染「女さんがこの事を知ったのは、ほんの30分前よ。この計画を企てたのは、私…そして」
時魔女「…ボクだよ。お風呂から出た女ちゃんを、巧みな話術で誘拐してみました」
なるほど…空間跳躍の力を使えば、城への侵入など容易い事だったろう。
男「この大勢の兵は…」
幼馴染「同志…とでも言おうかな?」
やはり集った兵にも思惑はあるようだ。是非、納得のいく理由を聞かせ願いたい…が。
男「もし長い話になるなら、まずはこの氷をどうにかしてくれ。…足が霜焼けてしまう」
幼馴染「どうする?女さん…」
女「じゃあ、燃やします」
男「え、ちょ…!」
拒否する間も与えられず、女は俺の足元に火炎魔法を放つ。
自由は戻ったが、服の裾が焦げてしまった。
- 262 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 15:47:36 ID:o256bGOo
幼馴染「さて…兵士さん達の事は、直接話して貰った方がいいわ」
兵の内、最初に言葉を交わした者が前に歩み出る。
傭兵長「私は傭兵長と申します。…男隊長、まずは無礼をお許し願いたい」
男「企みの主は幼馴染達なんだろう、お前らを許すも何も無いさ」
傭兵長「かたじけない。…では」
そう言うと傭兵長は俺の前に片膝を衝き、残りの兵はその後ろに手早く整列した。
傭兵長「我ら月の国に雇われし傭兵15名および正規兵8名…貴殿の独立部隊への合流を願いたく、月の呪縛を逃れて参りました」
男「…貴様ら、何をしようとしているか解っているのか」
なるほどよく見ればどの顔にも見覚えがある…こいつら皆、討伐隊あがりか。
傭兵長「なに…総員共に家族も無ければ、故郷に未練もありませぬ」
男「逆賊となるんだぞ、それでもいいのか」
傭兵長「我ら戦士なれば、死に場所くらいは手前で選びとうございます。濁雲に陰る月の袂で生き恥を晒すなど御免被る」
にたり…と傭兵長は笑んだ。
こいつらを前に、もう俺だけが心根を隠すなど許されまい。
俺は今、震えるほどに嬉しいのだから。
- 263 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 23:10:14 ID:L7GZLwEI
だからと言って大の男がここで泣くわけにもいかない。
こういう連中と接するには、それなりの流儀があるというものだ。
男「なるほど…逆賊の名を冠するには相応しい悪たれ共が集まっているようだな」
傭兵長「滅相もない、これだけのゴロツキに囲まれて痴話喧嘩を演じる度胸など、誰も持ち合わせてはおりません」
全く、こきやがる。
随分とみっともないところを見せたものだ。
姿勢だけは丁寧に跪いているくせに、後ろの兵は笑いを噛み殺せていない。
男「ふん…そんな口の利き方も慣れたものではあるまいに、似合いもせん猫を被るな…裂けた口が覗いているぞ」
傭兵長「はっはっ…目が利きますな、やはりアンタは俺達が仕えるに相応しい…悪たれの頭領になるべき御仁だ」
- 264 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/05(火) 23:12:29 ID:L7GZLwEI
男「いいだろう、貴様らの覚悟は受け取った。…総員、立てっ!」
ざんっ…と、大地が鳴った。
憎々しくも雄々しい新たなる我が隊の面子が、俺の命令を待っている。
甲冑も外套も身に着けない頼りない俺を、挑発的な眼差しで睨みながら。
男「我が隊はこれより西の台地を目指す。そこに竜の姿があるかは知れぬ、だがいつか我々はこの手で翼竜を討つ…!」
全兵「「「Sir,Yes,Sir!」」」
男「命を預けろとは言わん!各自、己の肝っ玉は手前で大事に握っておけ。…いいか!」
全兵「「「Sir,Yes,Sir!」」」
男「よし、気に入った。俺が責任をもって死に場所へ連れて行ってやる!…棺桶に名を彫っておけ」
これが新しい出発点だ。
甲冑も荷物も肩書きも、置いてきたものに未練は無い。
今宵、俺は23名の兵と一人の姫君を城から奪い、逆賊の長となる。
- 265 名前:1 [sage] 投稿日:2013/11/05(火) 23:15:19 ID:L7GZLwEI
ここまで
だめだ、この話疲れる
てーい書いてこよ
- 267 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 00:17:45 ID:smnsUwqk
面白いよ。乙。
てーい読んでこよ
- 274 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 06:55:02 ID:O4qk9yxg
おっ!
新ジャンル「幼馴染てーい」を読みたいが場所わからん。。。教えてくだされ
- 275 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 07:29:21 ID:43Jd10To
>>274
(この>>1かも知れないし違うかも知れないから、こっそり教える…釣りロマン)
- 277 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/06(水) 09:30:08 ID:2Eg4CsyQ
自殺勧告の人だったか
- 280 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 12:48:31 ID:WqiSnDUQ
>>1「ワシじゃよ」
もはや隠してる事にもならんわ
これでもうエタれないぞ…
- 281 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 13:31:44 ID:ngRQxRj6
てーいとか言うからww
ていうか隠してたのかよww
- 282 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 13:40:15 ID:WqiSnDUQ
隠してたってわけでもないけど
書き溜めが完結するまではエタるのを恐れて酉つけないつもりだった
てーいを言わせたのは…誰かのレスで言われた通り、病気かもしれん
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