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( ^ω^)ブーン系小説シベリア図書館のようです★13
612 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ [sage] :2010/05/30(日) 22:18:42 発信元:59.135.38.142
まとめ
http://sogomatome.blog104.fc2.com/blog-entry-246.html

投下予告とかしておきながら三日も間が空いてすみません
今回で本当に最終回です
お付き合いよろしくお願いします


616 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 1/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:21:02 発信元:59.135.38.146
・・・・

/ ,' 3 「……」

ζ(゚ー゚*ζ「こちらにおられたのですか、王様」

/ ,' 3 「おぉ、シェエラザードか」

ζ(゚ー゚*ζ「こんな時間にどちらに行かれたのかと、皆で探していたのですよ?」

/ ,' 3 「ふふ……今宵は満月だったからな。少しばかり散歩でもと、思っていたところよ」

ζ(゚ー゚*ζ「左様でしたか…」

/ ,' 3 「うむ。どうだ、お前も。一緒に少し歩かぬか」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね。ちょうど私も、王様にお話したいことがございましたし……」

/ ,' 3 「ほぅ。話したいこととは何じゃ?」

ζ(゚ー゚*ζ「それはまた歩きながら追々に。夜は長いのですから、焦ることはございません」

/ ,' 3 「それもそうだな……なれば、お前の言う通りにしようか」


617 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 2/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:24:02 発信元:59.135.38.145
/ ,' 3 「我らが婚姻を果たしてから、もう二年になるのか」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

/ ,' 3 「誠、月日の経つのは早いものよな」

ζ(゚ー゚*ζ「左様でございますね」

/ ,' 3 「お前は、二年前と変わらず美しいままであるな。まるであの

     天に輝く月のように、人の在り方を無視しているようにも見える」

ζ(゚ー゚*ζ「そのようなことはございません。月が日ごとに細くなるように、

      私も目には見えねど、日々変わってゆくのでしょう」

/ ,' 3 「それでも余は、か細い月をも美しいと思うように、お前を美しいと思う」

ζ(^ー^*ζ「ふふ……王は二年前とうって変わり、口がお上手になられたようですね」

/ ,' 3 「馬鹿者。余はお前に対して嘘をつくほど、愚か者ではないわ」

ζ(^ー^*ζ「はい、存じ上げておりますとも」


619 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 3/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:27:30 発信元:59.135.38.142
ζ(゚ー゚*ζ「月と言えば、夢の娘らの国に住まう文士様は、異国の言葉を訳す際、

      『愛している』を、『今夜は月が綺麗ですね』と訳したそうで」

/ ,' 3 「ほぅ、それはなかなか趣深いな。才人とはかくなる者のことを言うのであろうな」

ζ(゚ー゚*ζ「私があの月ならば、王様は何でございましょうか」

/ ,' 3 「さて、何であるかな。自身のことなぞ、まるで見当もつかぬ」

ζ(゚ー゚*ζ「王はきっと、あの月と星とを包み込む、夜の帳なのではないでしょうか」

/ ,' 3 「ほぅ。その心は?」

ζ(゚ー゚*ζ「あの闇の帳がなければ、月も星も輝くことは叶いませぬ。我ら臣民にとっての王は、

      闇夜において星々をかき抱く、黒紗そのものに相違ございません」

/ ,' 3 「お前も、人のことは言えぬくらい、口が上手くなったな」

ζ(゚ー゚*ζ「ですが、これなるは私の本心にございます。どのように言葉を変えても、国と民のために心身を尽くす、王の姿は変わりませぬ」

/ ,' 3 「吟遊詩人でもあるまいに、人を快くする術ばかり心得てお前はどうするつもりだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「王がお相手であるなら、私という詩人をどうしていただいても構いませぬ」

/ ,' 3 「ふっ……なれば今宵は黒紗の王が、月の姫君たるお前を導いてくれよう」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。私は王の行くところ、どこまでもついてゆきまする」


621 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 22:29:54 発信元:124.146.174.48
夏目漱石は凄いわ


623 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 4/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:32:02 発信元:59.135.38.141
【ドゥウンヤザード】

/ ,' 3 「とはいえ我らに、目的地なぞないのだがな」

ζ(゚ー゚*ζ「なにがしか語りながら、ゆるりと歩を進めればよろしいかと。私は、それで満足でございますよ」

/ ,' 3 「うむ……そういえば、ドゥウンヤザードめは近頃見ないが、どうしておるのだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、王様はご存知なかったのですか?」

/ ,' 3 「む? 何のことじゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「あの子は最近、王宮の衛兵をなさっていた方と、懇意の仲になっているようです」

/ ,' 3 「あのお転婆者がか?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。そのせいか、最近あの子は王宮女官になりたいなどと申すようになりまして……」

/ ,' 3 「なるほど。椰子の木の元に座る者は椰子の実が見えぬとは、まさにこのことか」

ζ(゚ー゚*ζ「もしかしたら、ドゥウンヤザードが王の身の回りのお世話をする日も、来るやもしれませぬ」

/ ,' 3 「果たしてあの者に、宮仕えが務まるかの」

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、どうでしょう。ただあの子には、一度決めたらてこでも動かない、強い意思がございますから」

/ ,' 3 「うむ。姉であるお前がそう言うのならば、心配はあるまいな」

ζ(゚ー゚*ζ「むしろ私が心配なのは、お父様の方なのですが……」


626 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 5/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:35:52 発信元:59.135.38.148
【アルマハード】

/ ,' 3 「父というと、あの大臣か。あやつに何の心配があるのだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「お父様が心配という訳ではないのですが、私とドゥウンヤザードが

      二人とも王宮にいるようでは、何かと心労も溜まるのではと……」

/ ,' 3 「ふむ。それは一理あるかもしれん。お前はともかく、ドゥウンヤザードは問題の塊のような娘だからな」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。私はそこを心配しているのです」

/ ,' 3 「だが、あの大臣とてただの間抜けではないぞ。娘が王宮女官に

     向かぬとあれば、全力を持って、止める努力はするであろうよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね。お父様も、ドゥウンヤザードが王宮の人々に迷惑をかけるのは、耐えられないでしょうから」

/ ,' 3 「何を言っておる。大臣がドゥウンヤザードを止めるは、ドゥウンヤザード自身のためを思ってこそだぞ?」

ζ(゚ー゚*ζ「……えっ?」

/ ,' 3 「そうに決まっておるではないか。お前は、余が凶刃を振るうと勘違いして、夜伽に闖入したあやつを忘れたか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば……左様なこともございました」

/ ,' 3 「そうであろう。結果は伴わなくとも、あやつの心根には、常にお前たちを思う親の気持ちが流れておるのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……それは、今まで気付きませんでした……」


629 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 6/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:39:54 発信元:59.135.38.146
ζ(゚ー゚*ζ「王様、誠にありがとうございます。王様のお言葉によって、私はお父様の愛情に気づくことが出来ました」

/ ,' 3 「左様か。……しかし、ドゥウンヤザードが願望を口にしただけで

     ここまで想像するのは、余計な心配といえば余計な心配だったかもしれぬな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね。思えば私どもは、少し節介を焼き過ぎたかもしれませぬ」

/ ,' 3 「まぁ、全ては先の見えぬ未来のことよな。ドゥウンヤザードも、どのような道に転ぶかは分かるまい」

ζ(゚ー゚*ζ「……未来のこと、ですか」

/ ,' 3 「うむ。いかにお前といえど、未来のことは分かるまいて」

ζ(゚ー゚*ζ「けれど、王様。先の分からぬ未来のこととはいえ、一つだけ確かなものもございます」

/ ,' 3 「むぅ。それは、何じゃ?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、それは、いかなる物者にも、終わる時が来るということにございます」

/ ,' 3 「終わりの時か……だが、なぜ今、それを思ったのだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは恐らく、あの夢の娘らのことが頭をよぎったからでございましょう」

ζ(゚ー゚*ζ「よろしければ、またいつもの娘の話をしても、ようございますか?」

/ ,' 3 「おぉ、構わぬとも。是非ともその話、余に聞かせてくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。では……」


632 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 7/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:42:58 発信元:59.135.38.145
【最終ジャンル「だいすき」】

ζ(゚ー゚*ζ「王様は、私がこれまで幾つの娘の話をしたか、覚えていらっしゃいますか?」

/ ,' 3 「いや。長く聞いているという感覚はあるが、具体的な数字までは覚えておらぬ」

ζ(゚ー゚*ζ「私が王様にお話しましたる年月は、二年と少し。その数はちょうど千を数えまする」

/ ,' 3 「そんなにもなるか。それは思いもよらなんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「今宵のお話でちょうど千と一つ目。そしてこれが、娘らの最後のお話になりまする」

/ ,' 3 「最後か……」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。そして最後を締めくくるのは、娘らの世界の終焉のお話が相応しいかと」

/ ,' 3 「終焉とは、また重たい話であるな。それはいかような話であるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。人々は娘たちの国から姿を消し、残されたのはただ一組の、乙女と青年だけでございました」

ζ(゚ー゚*ζ「これはその、乙女と青年のお話でございます」


634 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 8/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:46:11 発信元:59.135.38.150
ζ(゚ー゚*ζ「二人は互いに、その国に取り残された者同士でございました」

/ ,' 3 「ほぅ? なぜその二人は、他の者と同様に逃げなかったのだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「他の国に、二人の居場所はございません。故に敢えて、滅びゆくと知りながら二人はそこへ残ったのです」

/ ,' 3 「……そうか、分かった。話を続けよ」

ζ(゚ー゚*ζ「その二人は、どうせ誰一人いないのだからと、街中を自由に闊歩いたします」

/ ,' 3 「そこだけ聞くと、何か楽しげにも聞こえるな」

ζ(゚ー゚*ζ「しかしそれは、一抹の寂しさを伴う旅であったのでしょう」

ζ(゚ー゚*ζ「何故なら、そこより先に道はなく、後へ引き返すこともならない終末の時なのですから」

/ ,' 3 「……ふむ」

ζ(゚ー゚*ζ「そして二人がたどり着いたのは、潮の香の強く漂う海辺でございました」

/ ,' 3 「海か……そこもまた娘らと同様、余の想像の及ぶ範疇ではないな」

ζ(゚ー゚*ζ「そこで二人は、この最後の時がどのような物であったか、語り合うのです」

/ ,' 3 「……」


637 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 9/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:49:21 発信元:59.135.38.143
ζ(゚ー゚*ζ「青年は、この国の民は皆、どこかへ行ってしまっただけで、また会うことが出来るのだと言いました」

/ ,' 3 「……」

ζ(゚ー゚*ζ「乙女は、もし再び会うことが叶わなければ、自分こそが青年を迎えにゆくと言いました」

/ ,' 3 「……」

ζ(゚ー゚*ζ「そして二人は、固い抱擁を結びあいます。まるで、次の世でも分かたれることなく、また出会えることを祈るように」

/ ,' 3 「……不思議な話じゃな。寂寥としてもの侘しいのに、暗いところがない」

ζ(゚ー゚*ζ「それはきっと、いずこかの世界で二人の願いが叶ったからに、違いありません」

/ ,' 3 「叶ったのか。その二人はもう一度、出会うことが出来たのか」

ζ(゚ー゚*ζ「私は、そう信じております」

/ ,' 3 「……なるほど。なれば余も、そうであったと信じることにしよう」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」


639 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 10/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:52:11 発信元:59.135.38.145
ζ(゚ー゚*ζ「そして、この二人の姿があったればこそ、私は、あの夢の娘らが何であったのかという、その真実を知ることが出来ました」

/ ,' 3 「何? そちは、夢の娘の正体が、分かったと申すか」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。娘らは、あの夜の帳の中に輝く星でございました」

/ ,' 3 「星とな?……よく意味が分からぬな。もう少し詳しく説明してくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「難しく考えることはございません。娘らの世界とは、星々の煌めく夜の世界。そして、

      その世界の終わりとは、無数に在ったその星々が、消えてなくなるその時を指すのです」

/ ,' 3 「星の消える時……」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。娘らは、千と一つで満ち、語り終えれば流れて消える流れ星でございました」

ζ(゚ー゚*ζ「その星が流れ流れて、たどり着いた先が、私の夢の中だったのです」


644 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 11/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:55:18 発信元:59.135.38.145
/ ,' 3 「娘らが、あの天の星であると申すか……」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。星々のさざめきは、私にこう語りかけてきます」

ζ(゚ー゚*ζ「この世は素晴らしい、この世は生きるに足る場所である、と」

ζ(゚ー゚*ζ「光輝く時も暗がりに落ち窪んだ時も、人はかくも素晴らしいものである、と」

ζ(゚ー゚*ζ「互いに互いをかき抱きあうその二人の姿で、私は娘らの本分を、本当の意味で理解したのです」

/ ,' 3 「ふむ……今宵のお前の話の、なんと難解なことであるか……」

ζ(゚ー゚*ζ「申し訳ございません。ですが、夢の娘と私が一心同体ならば、私も夢の娘の一人と申しても過言ではないはずです」

ζ(゚ー゚*ζ「娘らは、実に多くの人々と共にあり、多くの人々を勇気づけて参りました」

ζ(゚ー゚*ζ「私も、夢の娘に救われた一人でございます」

/ ,' 3 「……救われた、か」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。思えば夢の娘に出会う前の私は、実に孤独でありました」


646 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 12/19 [sage] :2010/05/30(日) 22:58:48 発信元:59.135.38.146
【シェエラザード】

ζ(゚ー゚*ζ「母を知らず、父と妹の世話を毎日のようにしてきた私は、人知れず泣いたことも一度や二度ではございません」

ζ(゚ー゚*ζ「もしかしたら、自分を理解してくれる者はついぞ現れないのではと、無用な悩みを持ったこともございました」

ζ(゚ー゚*ζ「けれど、夢の中で華やかな娘になれる時は、そのくすんだ心が晴れるのです」

ζ(゚ー゚*ζ「私にとって、娘らは希望であり、そういった意味でも、娘らは私にとって、輝ける星であったのでしょう」

/ ,' 3 「まさしく、娘はお前にとっての希望の星だったということか」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

/ ,' 3 「なればそれは、余にとっても同じことだな」

ζ(゚ー゚*ζ「と、申しますと?」

/ ,' 3 「余もそちと似たような孤独を抱え、娘らにそれを救われたからよ」

ζ(゚ー゚*ζ「王様が、孤独であったと?」

/ ,' 3 「左様じゃ。そちと言葉を交わす前の余は、誠、荒んでおった」


648 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 13/19 [sage] :2010/05/30(日) 23:02:13 発信元:59.135.38.141
【シャハリヤール】

/ ,' 3 「お前をめとる前に、余に妃のおったのは既に知っておるな?」

ζ(゚ー゚*ζ「勿論、存じ上げてございますが」

/ ,' 3 「政略結婚がため、属領の貴族より選んだのがその妃であったが、余も半分は本当に惚れておったようだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

/ ,' 3 「妃の不貞を知り、まず余が感じたは嫉妬であったよ。余ではなく、他の若いツバメになびいた妃が許せなかった」

/ ,' 3 「それより先はお前も知っての通り、妃を切って捨て、ぼう漠とした怒りを娘らの命であがなう毎日であった」

/ ,' 3 「お前に出会わねば、余の狂気は鎮まるところを知らなかったであろう」

ζ(゚ー゚*ζ「王様も、堪えがたき孤独に堪えていらっしゃったのですね」

/ ,' 3 「しかし、余には今や、お前という出来た妃がおる。もう一人ではない」

ζ(゚ー゚*ζ「……はい」


649 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 14/19 [sage] :2010/05/30(日) 23:05:52 発信元:59.135.38.145
/ ,' 3 「思えば、人の世の理とは、いつも奇なるものよな」

/ ,' 3 「娘らはお前の夢へ現れ、お前は余の元へ現れた」

/ ,' 3 「これはいかなる偶然が、そうさせたのであろうか」

ζ(゚ー゚*ζ「きっとこれは、偶然ではありませぬ」

ζ(゚ー゚*ζ「王を夜の帳と例えるなら、私という星の帰る場所も、またそこにしかあり得ませぬゆえに」

/ ,' 3 「先ほどの比喩か。なるほど、余が夜の帳であるなら、お前を掴んで手放さぬはずだ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

/ ,' 3 「……しかし、お前と娘らを一心同体とするなら、余はお前という星がどれか、判別できる自信がない」

ζ(゚ー゚*ζ「ご安心下さい、王様」

ζ(゚ー゚*ζ「たとえどれほど時が移ろい、姿形が変わろうとも、あなたの愛した娘が、私です」

/ ,' 3 「……左様か。何やらそこまで言われると、面映ゆいな」

ζ(^ー^*ζ「ふふ……ですからどうかご心配なさらず、千の娘に私が紛れましても、私を探し出して下さいまし」

/ ,' 3 「うむ、約束しよう」

/ ,' 3 「たとえこの身が滅び、魂がアッラーの元へ旅立とうとも、余はお前を必ず見つけ出し、共に歩むことを誓う」

ζ(゚ー゚*ζ「私も、王の側を片時も離れませぬ。生ある時も死したる後も、添い遂げることを誓います」


652 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:11:04 発信元:110.67.99.25
この人たちも新ジャンルだというのか


654 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 15/19 [sage] :2010/05/30(日) 23:12:55 発信元:59.135.38.146
【新ジャンル1001夜】

ζ(゚ー゚*ζ「……何だか、今宵は楽しい夜でございますね。王様がたくさん口を開いて下さって、私は嬉しいです」

/ ,' 3 「うむ。何やら、らしくないことまで口走ってしまった気もするが、まぁ良いわ」

/ ,' 3 「これも全ては、夢の娘らの持つ功徳のおかげかの」

ζ(゚ー゚*ζ「けれど、そのお話も、今宵で終わりにございます」

ζ(゚ー゚*ζ「娘らの話はこれにて幕としましょう。これからは、宵闇の中と共に、日の光の当たる場所でも、三人でお話しとうございます」

/ ,' 3 「三人? それは、余とお前と、ドゥウンヤザードの三人か?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。王と、私と、そして私のお腹の中に、もう一人……」

/ ,' 3 「!!」

ζ(゚ー゚*ζ「私が王にお話したかったこととは、そのことでございました」

/ ,' 3 「お前、それは、つまり……」

ζ(゚ー゚*ζ「……この頃、月のものが止まり、お医者様の診断を受けたところ、私のお腹に王様の子が宿っていると……」

/ ,' 3 「おぉ……そうか、そうであったか!」

ζ(゚ー゚*ζ「こればかりは私の口から伝えたいと、お父様にも皆にも、口止めしていたのです。誠に申し訳ございません」

/ ,' 3 「気にするでない。こんなにめでたいことは他にないのだからな!」


657 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 16/19 [sage] :2010/05/30(日) 23:16:19 発信元:59.135.38.149
/ ,' 3 「そうか…余とお前にも、ついに子が出来たか……!!」

ζ(^ー^*ζ「……はい」

/ ,' 3 「なればすぐに引き返し、子の名前を考えよう。いや、それよりお産の準備が先か……」

ζ(゚ー゚*ζ「それはさすがに気が早うございますよ。まだ私のお腹の子は、生まれてくる準備が整っておりませぬ」

/ ,' 3 「む……お、おぉ……それもそうだな」

ζ(゚ー゚*ζ「お急ぎにならずとも、この子はきっと、無事に生まれてくるはずです」

/ ,' 3 「やけに自信があるな。その自信は一体、どこから来るのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「だってこの子は、星の娘の加護を受けた子でございますから」

/ ,' 3 「むぅ……確かにそう思えば、難産であろうはずがないな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうでございますとも」

/ ,' 3 「なれば、まず余がすべきことはなんであろう。父として出来ることがあるなら、何でも言うてくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「でしたらまずは、私と、私のお腹の子に、こう言っては下さいませんでしょうか」

/ ,' 3 「おう、承知した。それで、余は何を言えばいいのだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、それは……」



660 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 17/19 [sage] :2010/05/30(日) 23:18:12 発信元:59.135.38.147







――――― 『今宵は、月が綺麗ですね、と』









664 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 18/19 [sage] :2010/05/30(日) 23:21:41 発信元:59.135.38.146





それより後、シャハリヤール王の治世は

王が息子に位を譲るまで長く続く

その国において、口舌を武器とする美しき妃の話は

半ば伝説と化したが

それは、今の文献には残されていない

夢の娘の話も

それが真実であったのか、それとも妃の創作であったのか

今となっては判断することすら難しい




667 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ 19/19 [sage] :2010/05/30(日) 23:24:27 発信元:59.135.38.142

月が隠され、日はまた昇り

星は地に落ち、蒼天が開ける

されどこれは夜のお話

闇夜に光る星々の

千と一つの物語

その廻り合いは、終わらない






/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ
(完)


669 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:25:40 発信元:210.153.86.14
おつううう!


671 :いやあ名無しって [] :2010/05/30(日) 23:27:19 発信元:121.2.98.95
乙!! 盛大に乙!!
ほんと、長い間お疲れ様でした。はじめから読み返す!


672 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:28:29 発信元:123.220.48.76
圧倒的乙だし!


673 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:28:51 発信元:219.111.65.91
乙ぅ!! すっごく綺麗に終わったな!
楽しい物話をありがとう!!


674 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:30:50 発信元:124.146.174.16
ここの名物作品が完結か・・・・圧倒的乙


675 :/ ,' 3 新ジャンル千夜一夜のようですζ(゚ー゚*ζ [sage] :2010/05/30(日) 23:31:32 発信元:59.135.38.141
支援等ありがとうございました

本来なら三日前に投下してるはずだったのですが、推敲してる間に寝てしまったり
祭りの速度に乗れず投下し損なったりでもうね……

前スレのシベリア連載に関する議論も、自分のせいかとドキドキしながらこっそりROMってました。長引かせてごめんなさい

千夜一夜とスレッドの1001を掛けた物語でしたが、言葉足らずで分かりにくかったと思います

とはいえ、書ききれて本当に良かった……シベリアの皆さん今までありがとうございました



676 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:32:20 発信元:210.153.86.161
……先生っ!
こんな素晴らしいデレを嫁に迎えるにはどうしたら良いですかっ!


678 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:36:11 発信元:124.146.174.11
>>676
おっさん達の夢を見るんだ


683 :いやあ名無しって [sage] :2010/05/30(日) 23:44:01 発信元:59.135.38.141
ああああ関連新ジャンル一覧貼るの忘れてたああああ

最終ジャンル「だいすき」…http://blog.m.livedoor.jp/siam_junkie/c.cgi?sss=9b8d99f65bdb622e36bf051338370410&id=50844529

最後の最後でポカしちまった…
この話、新ジャンルの中でも一、二を争うくらい好きなんで
皆さんも是非一度読んでみて下さいな



1001 :1001 [] :Over 1000 Thread
   i・'"'',━' '・"'"''` ━''`'・" ''"・'`',"、''・''"`;, '         。    ο
ο,.┃ SiberiaRailway.     ,.        ;: 終着駅についても旅はまだ続く…
  ┃     ο     。    ゚  ο ┃     ο      ο  。
  ┃o     Сибирь        ;: o   ,.:-一;:、    ,.
  ┃ ο      。   ο   ,.       i:  。 ミ;;:;,. _,.;:゙ミ 'ο     。    ゚
  ┠──────────────‐; ,  r( ´・ω・)  o
  ┃←1001 o   ゚      。  1→ ;;   ツィー=ニ彡'          ο
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