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猫「・・・ばーちゃん?」
43 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:33:15.03 ID:FnJfF4EN0

−−

駅から出ると雨が降っていたが、傘など持っていない。

持っていたとしても差さないで走るのは変わらなかっただろう。

男(もう畑は作ってないハズだし、家から出る理由が無い)

嫌な予感がする。

男(別の目的で出かけることがあっても、あの時間には戻ってるハズ)

母のことを「現実を受け入れられてないのはお前だ」と罵ったことがあるが、

いざ何かが起きた時の心構えなど、俺にも出来てはいなかったのだ。

何かが起きるのはまだ先のことだと楽観していた自分が情けない。


45 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:34:30.92 ID:FnJfF4EN0

男(風呂に入っていて電話に気付かなかったとか−)

男(気付いたがリダイヤルの使い方が分からないとか−)

色々な推理が浮かんでは消える。もっとも可能性が高そうな1つだけは敢えて避けて・・・

しかし、最後にはどれも「そんなはずが無いだろう」と思い至ってしまう。

顔なじみとすれ違っても挨拶を交わしている余裕などない。

実家へ駆け込み玄関を開け、どの部屋に居ても聞こえるように叫ぶ。

男「ばーちゃん!!」


48 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:36:32.65 ID:FnJfF4EN0

いつの間にか、また眠ってしまっていたようだ。

あやつがあるじを呼ぶときに出す声、とびきり大きな今回のそれに私は覚醒させられた。

あるじの返事を待たずに、あやつは住処にあがりこんできた。

直感的に、あるじを起こしに来たのだな。と思った。

(早くあるじを起こしてくれ。私に恩返しをさせてくれ−)

あやつは2〜3の部屋を行き来したのち、昨日私が開けた戸に気付くとそちらへ駆けて行く。

(さあ、はやくあるじを起こすのだ−)

「バーチャン」

そして、あるじの横に屈むとあるじの体を揺さぶった。

「バーチャン バーチャン」

あるじは目覚めない。

「・・・・・・・」

それきり、こやつは黙り込んであるじを起こすのを止めた。


50 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:37:59.32 ID:FnJfF4EN0

まるで尻側から頭へ向けて毛を撫でられたような感覚が全身にまとわりつく。

(なぜやめるのだ?早く起こさなければ手遅れになる−)

本当は私にもわかっていたのだ。その感覚は四肢を束縛し、私は凍りついたように硬直した。

(手遅れになる?何が?)

知っていたのは私だけだ。私が認めずにいればそれが成り立たないと思いたかっただけだ。

(あるじが昼寝から目覚めないということは−)

そうなのだ、あるじは初めから昼寝などしていなかったのだ。

(あるじはもう、亡くなっていたのだ・・・−)

「ヒック・・・ヒック・・・バー・・チャン・・・」


52 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:39:34.87 ID:FnJfF4EN0

それから数日、黒ずくめのニンゲン達が大勢で勝手に上がりこんできたり、

数人で寄りあって話をしていたり、あるじが管理していたものを勝手に運び出したりと、

住処の中がいつもよりやかましい日が続いた。

終始いやなにおいのする煙がたちこめており、私はずっと屋根裏で香箱を組んでいた。

あのニンゲンは初めはあるじの亡骸の近くに居たが、その後は来てはいないようだ。

私のことを探そうとするニンゲンは一人もいなかった。

もっとも、あるじ以外に姿を見せる気などなかったし、私にはそれができた。

だから下に降りていても良かったのだが、あのにおいが体に染み付くのが嫌だった。


53 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:40:14.75 ID:HJSRG9/T0
ばっちゃのねこ、か


54 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:41:01.88 ID:FnJfF4EN0

そして更に幾日かが過ぎ、住処の中には誰もいなくなった。

もとより訪ねてくる者はあるじに会いに来ていたわけで、

あるじが亡くなった今、ここには誰も立ち寄る理由がないのだ。

私もあるじがいなければここに居る理由も意味も価値さえもない。

子供が居ればそれを育てるという生き方もあっただろう。

それが叶わないからこそ、あるじへの恩返しに自身の価値を見出していたのだから。


55 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:42:49.40 ID:FnJfF4EN0

「ナツメ ナツメー オーイ ナツー」

意外な来客であった。久方ぶりに敷居を跨いだあやつは、あるじではなく、私を呼んでいる。

私はたぶん、寂しかったのだと思う。あるじに似た匂いを懐かしく思い。

こやつの前まで来て隠れ蓑を解いた。

「アア ヨカッタ マダイタンダナ」

かごのようなものをもっていたが、中には何も入っていない。

そして、いつものような荷物は持っていない。


60 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:45:25.59 ID:FnJfF4EN0

(泊まっていくつもりはないのだな。では、すぐまた私は孤独になるのだろうな−)

「アノサ オレノコトキライカモシレナイケドサ バーチャンノカワリワデキナイケド ウチニコイ」

(油断した!−)

私の背中をがっしりと掴んだかと思うと、すぐさま体の下に手を差し入れて持ち上げた。

逃げようにも四肢は地から放されており、飛び退くために蹴る場所は無い。

かごの中に入れられた私は、湧き上がる不安に押しつぶされそうになりながら、

せめて現在の状況だけは見失うまいと、かごの目を通して周囲に目を配るのみだった。


61 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:46:21.63 ID:acK7Ki850
うちの23年の猫もこうならん物か


63 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:48:25.88 ID:FnJfF4EN0

かごの回りの空間は目まぐるしく変わり、

知らない風景、知らない音、知らないにおいが、入れ替わり立ち替わり私の不安を煽った。

「ツイタゾ キョウカラココガ オマエノイエダ」

かごの揺れが収まったかと思うと、ごく軽い浮遊感を感じる。

どうやらかごごと地におろされたようだ。

「スグニワナレナイダロウケド オレニデキルコトナラ ナンデモシテヤルカラ」

目の前の網が取り払われた。外に出ろということらしい。

だが、来たことも見たことも無い場所でそんな軽はずみなことができるはずもない。

周りに何が潜んでいるかもわからないし、即座に身を隠せる場所があるのかどうかもわからない。

少なくともこの中に居れば、目の前だけを警戒していればいい。


64 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:49:53.09 ID:FnJfF4EN0

男「ほら、こっちおいで、新しいトレーとトイレ気に入っ・・・いでっ!」

男「痛ってえー・・・血い出てる・・・ざっくりやられたな。」

男「まあ、仕方ないか・・・ホレ、餌ここに置いとくからな。」

男「んー・・・見られてると食いづらいかねえ。」

男「焦っても仕方がないよな。今日はもう寝よう。」


66 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:51:36.96 ID:FnJfF4EN0

明かりが消えた。あやつはすでに寝息を立てている。

遠くの方で小さな音がしている。もっと遠くの方では時々奇抜な音がする。

それらの正体は分からないが、少なくともこの周辺で私に敵意をもつ者はいないようだ。

とりあえず大量に盛られた献上品をたいらげて、周囲の様子を探ることにした。


67 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:52:50.06 ID:FnJfF4EN0

あやつの寝床はいくつかの柱で支えられており、少し高いところにあった。

寝床の下は何か置いてあるようだが、逃げ込んで身を守るだけの隙間は十分にある。

(何かあったらここに籠ることにしよう−)

次はあやつの目的だ。何を考えているのかは分からぬが、とりあえず夢を覗いてみよう。

(事と次第によっては悪夢に塗り替えてやる。私にはそれができる−)

寝床に上がり、枕元に座りこんで意識を重ね合わせていく・・・

(あれは・・・あるじと私・・・もう一人は誰だ?)


68 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:54:08.55 ID:FnJfF4EN0

−−

夢を見た。

幼い俺とばーちゃんが猫に餌をやっている。

子供「あ!食べたよ!おばーちゃん!」

ばーちゃんの顔はよく見えないし、何も喋ってくれない。

でも、にっこり笑って俺と猫を見ているような気がした。

子供「元気になるかな?なるといいなー」


69 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:55:15.20 ID:FnJfF4EN0

そうだ、夏休みにばーちゃんの家に行って、

川遊びの帰りに弱った猫を拾ったんだっけ。

泣きじゃくりながらばーちゃんに「助けて!」って頼んだんだよな。

餌を食べている猫は次第に大きくなり、それにあわせて俺の姿も成長していった。

大人になった俺が振り返ると、いつの間にかばーちゃんは居なくなっていた。

「ばーちゃん!」


71 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:56:27.95 ID:FnJfF4EN0

男「夢か・・・俺、泣いてるのか」

窓からは朝日が差し込んでいる。俺の顔は涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた。

男「ん?」

布団の中で、何かふわふわした手触りの良いものに触れた。

男「何だ?」 ニギッ

「しゃー!」 フニン

聴きなれない声がした方を見ようと頭を右に倒すと、二の腕あたりに柔らかいものが当たる。

男(女の子?誰?ていうかいつから?そもそもなんで裸?それとコレなに?)

寝起きで霞んでいた眼が、だんだんと意識と同調しはじめ、ピントが完全に合う。

男(どこかで見たような・・・)「あっ!」 ギュウ!

「ふぎー!!!」 ガブリ!

男「うぎゃああああぁあ!」


72 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:56:48.65 ID:gJUynxSX0
○○○○。゜(゜´Д`゜)゜。


73 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:58:13.41 ID:FnJfF4EN0

目の前に裸の女の子(?)が居てこちらをじっと見ている。

俺はティッシュを何枚か重ねてじっと鼻に押し当てている。

鼻の中ではなく、鼻の頭から出ている血を押さえるためだ。

ふさふさした毛に覆われ、ツンと尖った耳、

黄色い右目と、青い左目。

男(人のような姿をしているが、間違い無い。この子はナツメだ。)

真っ白なカギシッポも生えている。それも2本。

男(え!?2本??)

その子は一度視線を外すと、大きなあくびをする。

伸びをし、耳を掻きながらこちらに向き直って言った。



猫「・・・ばーちゃん?」


74 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/17(土) 23:59:15.31 ID:ijOQeTrW0
スレタイきた


75 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:00:06.39 ID:HwaJp5Di0
おおおおおお…


77 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:01:15.01 ID:iuDXAJ+q0
とりあえずここまでで一旦〆。
序章みたいなもんです。


78 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:02:10.01 ID:icKnNMv20
パンツ脱いだのに・・・


80 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:02:46.61 ID:iuDXAJ+q0
あ、ID変わってるのか。
何か不明な箇所とかあったら補足したいと思います。


82 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:03:21.92 ID:/EGwdB8oO
つ、続きはいつですか


86 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:04:53.86 ID:iuDXAJ+q0
>>82
書き切ってあるので、すぐにでも行けるけど
ぬこ視点ばっかなので補足しないとわからんところが無いか不安


87 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:05:25.47 ID:icKnNMv20
パンツはいていいか教えて


88 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:05:54.79 ID:x29dR72G0
大丈夫だからいってみよーぅ
てか続き気になる


89 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:06:20.94 ID:iuDXAJ+q0
>>87
はいておいて構わん


90 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:07:24.51 ID:iuDXAJ+q0
okじゃあ投下再開する。
それと、以降は地の文が無くなります。


92 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2011/09/18(日) 00:08:38.38 ID:icKnNMv20
>>89
おけ 被ったから続きよろしく



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