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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
- 375 名前: ◆M7hSLIKnTI []
投稿日:2013/11/09(土) 20:39:01 ID:vBYxDnHs
…その夜
男「…実際のところ、噛み砕いて教えてくれないか。何故、この隊との合流を望んだ?」
小さな焚火に鍋をかけ、いつもより少しだけ豪華な食事を囲む。
今夜は俺と傭兵長、そして騎士長の三人で顔を突き合わせていた。
騎士長「…私は祖父の代から白夜王に使える騎士の一族だ。王が死ぬ前に言った…次の主君は自分で決めろと」
男「…世継の王を主君とはしないのか?」
騎士長「白夜にグリフォンの騎士は百に迫るほどもいる。新王には皇太子の頃から直属の騎士があったのだよ」
傭兵長「なるほど、それでお役御免というわけか」
男「傭兵長、言い方が悪過ぎるぞ」
思わず焦って器から肉のスープを溢しそうになる。
やはりこいつらには、ゴロツキの呼び名の方が相応しいのではないだろうか。
- 376 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/09(土) 20:40:18 ID:vBYxDnHs
騎士長「はははっ…いや、言われる通りだ。しかし私はまだ、亡き先代に忠義を誓っているつもりでもある」
男「仇敵を討つまで…か」
騎士長「そういう事だ。次の主君はその後に決める…いや、あては無くも無いのだが」
傭兵長「ほう…天下に五人しかいないドラゴンキラー殿が仕えるを望む御仁とは、どのような方なのですかな」
傭兵長の問いに騎士長は少し思案して、ふう…と小さく溜息をついた。
騎士長「それは…またの機会に話そう。今はまだ公言するにも時期尚早だ」
傭兵長「ほう…それは口にするのも躊躇われる程に、止ん事無き御方という事で?」
男「…傭兵長、あまり詮索をするな」
傭兵長「はっはっ…そうですな。自ら望んでゴロツキなどに交わろうとする騎士殿というものに興味が尽きぬもので、失礼をした」
だめだ…今までそうまでも思わなかったが、とにかくこいつらはやはり品が無い。
いや、今まで思わなかったという事は、俺もそうなのかもしれないが。
- 377 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/09(土) 20:41:59 ID:vBYxDnHs
ここまでー
よし、今度は釣りだ
てーい!(開き直り)
- 378 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/09(土) 20:43:16 ID:SzI4dWRw
てーい
- 379 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/09(土) 20:53:35 ID:B.m0zic6
てーい
- 380 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/09(土) 21:09:59 ID:U1DbpXKQ
てーい
- 381 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/09(土) 22:05:36 ID:h.g4p3xA
ここは敢えて。。。とーう!
乙です!幼馴染の新たな恋話に繋がるかな?
- 382 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/10(日) 17:31:57 ID:H0xt12JE
………
…
女「…明日にも関所を越えるのですか?」
テントの中、自らの敷布に座った女が尋ねる。
男「ああ、明日…といっても夜間の事になるだろうが」
俺は剣にクローブ油を塗りながら、彼女の方を向く事無く答えた。
星の国の技術を結集したこの剣はやはり優れたものだ。
ここまでの戦いでも刃こぼれのひとつも見られない。
女「ついに翼竜の巣へ向かうのですね…」
男「…西の台地が巣だとは限らないがな。可能性は高いと思うけど」
- 383 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/10(日) 17:32:57 ID:H0xt12JE
白夜の騎士団が駆るグリフォンの背に着けられた、単座の鞍。
その後方、獅子の腰まわりに当たるところには、馬に着けるものを大きくしたような左右一対の皮の荷袋が装備されている。
その荷袋の内布は非常に厚く大きな生地で出来ており、平常は余分な大きさの部分は折り畳んで荷袋の底敷きとなっているそうだ。
しかしそれを左右共に広げてベルトで結ぶと、グリフォンが提げて飛ぶ事のできる大きな布のバスケットとなる。
大人の男性で四人から五人も乗る事が可能で、その重量の負担を受けても一度に20分程度は飛行出来るそうだ。
男「まさか空から関所を越える事になるとはな。船酔いのようにならなければいいが…」
女「そんな経験ができるとは、思っていませんでした」
男「ああ、本当は昼間に乗せて貰えば眺めも素晴らしいんだろうけどな」
空から地上を見下ろすなど滅多にある機会ではない、女も楽しみにしていたりするのだろうか。
しかし彼女の方を見ると、その横顔は憂いを秘めている風に映る。
男「…どうした?」
女「もうすぐに、翼竜と戦う事になるかもしれないのですね…」
言葉を紡ぐ口調も重く、視線は燭台に揺れる蝋燭の炎にぼんやりと向けられていて。
男(…何故、そんな悲しげな顔をするんだ)
翼竜は彼女にとっても兄の仇敵、ついにそれを討てるかもしれないというのに…何故。
- 384 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/10(日) 17:35:20 ID:H0xt12JE
それとは正反対に、俺はすぐには寝付けないのではないかというほど気が昂ぶっている。
もはや両親の仇を討ちたいという想いだけではない。
ヴリトラとの連戦となった砂漠での敗北、その借りを返す。
それを成さければ、いつかあの世で砂漠に散った兵達に再会する時、顔向けが出来まい。
男「必ずあの竜を地に伏せてやる。この十数年間、それだけを心に誓って過ごしてきたんだ」
女「……でも」
男「理由は解らないが、白夜が翼竜に襲われた。…生かしておけば、これからもあの竜は幾多の悲しみを齎し続ける」
俺は剣に残った余分な油を拭き取り、曇りが無い事を確認して鞘に収めた。
これで今夜の内に準備しておく事は無いはずだ。
あとは明日、日中に魔物が襲来すれば交戦は止むを得ないが、総員共に出来るだけ休息をとり鋭気を養う。
日没と共に関所越えを開始し、翌日…つまり今夜から数えて明後日の夜明けと共に翼竜を探し始める予定だ。
そして遭遇次第、決戦を挑む。
- 385 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/10(日) 17:35:58 ID:H0xt12JE
砂漠での戦いに比べれば兵数は少なく、魔法隊も持たない。
その代わり空からの攻撃が可能な騎士団が加わり、砂漠での邂逅の際のような隊が疲弊した状態でも無い。
現在の持てる力を振り絞った、まさに総力戦となるだろう。
男「時魔女の力と騎士団の機動力があれば、翼竜を地に堕とす事はきっと叶うはずだ」
地上に降り立った翼竜が、どれほどの戦闘能力を持つかは知れない。
だが、それは関係ない。
どんな力を持っていようとも、畏れるものか。
男「この剣が届くところまで翼竜が堕ちれば、あとは何としても仕留めるさ。…例え…」
女「…言わないで下さいっ!」
不意に言葉を遮られる。
そして彼女は俺の心の昂揚に対し、真逆の事を言った。
女「…怖いのです、翼竜と戦うのが」
- 386 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/10(日) 17:37:02 ID:H0xt12JE
男「な…何を言うんだ、あの竜はお前にとっても…」
何故ここまで来て怖気づくのか、俺には理解出来なかった。
しかし彼女が怯えていたのは、戦闘の恐怖そのものに対してではなかったらしい。
女「もう失いたくないのです!…あの竜に、大切な人を奪われるのは…もう嫌…です…」
男「……女…」
女「…貴方はきっと、私を隊列の後方に置くでしょう…?もし貴方が死んだら…私だけが遺されたら…私は、どうしたら…」
消えてしまいそうな声で、彼女は訴えかける。
だからと言って魔導士である彼女を隊列の前方に置くわけにもいかない、それは彼女自身も解っているだろう。
零れてこそいないものの彼女の青い瞳は涙を湛えていて、俺は言葉を詰まらせた。
女「それでも…貴方を止める事など、できないから…だから、せめて言わないで欲しいのです」
男「…解ったよ」
心にだけ誓おう、俺は必ず翼竜を仕留める。
そう…例え、この命に代えても。
- 387 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/10(日) 21:03:01 ID:gaT2ccnM
それは違うよ……
- 388 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/10(日) 22:06:01 ID:AAUpi6K6
それから後、女は無口だった。
蝋燭の灯りを消し、それぞれの寝床で横になる。
サイクロプス討伐の行軍の頃に比べれば季節も変わり、標高も高い所にいる為かなり寒い。
テントを二人で共にしても、毛布は一人用のものしかない。
例え背中合わせにでも一つの毛布の下で寄り添って眠る事は、王都を捨てたあの日からできていなかった。
男「…女、まだ起きてるか」
女「……はい」
ヴリトラとの戦いにおいても、死は眼前にまで迫った筈だ。
男「死なない…と、約束できなくて…すまない」
口先だけでそんな約束をしても何の意味も無い事は、彼女だって解っているだろう。
- 389 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/10(日) 22:09:27 ID:AAUpi6K6
明日の夜はグリフォンによる移動を行う事になる。
慎重に…でも要所と定めた部分は速やかにパスしなければ。
果たして部隊の全てが安全に関所の向こうへ渡る為に、どの位の時間を要する事になるのか。
そして侵入した先がどのような地形条件なのか、それらは何も解らない。
女「……男さん…そっちに行っても、いい…?」
だから…だったのか。
もしかしたら、二人で過ごすのは今夜が最後になるかもしれない…彼女はそう思ったから、こんな申し出をしたのだろう。
男「…毛布、小さいから風邪ひいちまうぞ」
女「二枚をずらして重ねれば、平気です…」
言いながら、もう彼女は自らの毛布を握って俺の隣に跪いている。
男「…いいよ、おいで」
- 390 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/10(日) 22:10:07 ID:AAUpi6K6
久しぶりに女の髪の香りが鼻をくすぐる。
そして女は背合わせではなく俺の側を向いて横になると、初めて自ら俺に口づけをした。
今までの数度よりも長く唇を併せ、その後はやはり俺の胸に顔を埋めて表情を誤魔化して。
数分して、ようやく顔を上げた彼女に『どうせ暗いから見えないのに』と言うと『ああするのが好きなんです』と、頬を膨らませて答えた。
男「…女、俺は…まだ言ってなかったな」
女「何をです…?」
男「俺を慕ってくれているんだろう?…俺もだ、お前を愛してる」
今度のはどうなんだろう、表情を隠しているのか…否か。
とにかく彼女は再度、俺の胸に顔を埋めた。
そしてその夜、俺達は初めて互いに向き合いながら、彼女を抱き寄せたまま眠りについたんだ。
- 391 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/10(日) 22:11:28 ID:AAUpi6K6
歯が浮いてどっかいった
おやすみなさい
- 392 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/11(月) 07:37:01 ID:31PtmnnQ
抱かないのかよ!
- 393 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/11(月) 12:31:59 ID:wZ6m/ZOw
………
…
傭兵長「総員、整列!」
翌日の日没前、野営地の中央で傭兵長の号令が響く。
月の部隊23名と白夜の騎士8名、幼馴染や時魔女をあわせて30余りという小規模だが精鋭が集った我が隊の面子が俺に正対した。
男「…これより関所を越え、西の台地へと向かう。多くは無い兵数だが、諸君らは一騎当千の強者であると俺は信じる」
七体のグリフォンが既に人員の搭乗準備を整えて待機している。
残り一体のグリフォンとそれを駆る騎士一名は、この野営地に残してゆく備品や馬を管理しながら待機させる事とした。
万一、関所近辺で何か大きな動きがあった場合の伝令役も兼ねての役目だ。
- 394 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/11(月) 12:32:32 ID:wZ6m/ZOw
男「西の台地の地形はおろか、どのような魔物が存在するかも不明だ。翼竜が潜むとすれば、それもいつ遭遇する事になるかも知れん」
多くの装備品を持っていくつもりは無い。
関所を越え地に降りても暗闇の中だ、恐らく野営を張る事はできまい。
男「しかし、今まで翼竜が夜間にどこかを襲撃したという例は無い。その頭上を飛ぶような事が無ければ、今夜の内に戦う事にはならないだろう…」
複数人が搭乗し負荷をかければ、グリフォンの一度に飛べる時間は20分程度。
夜間の内に幾度かの休息を経て、できるだけ関所から離れた安全性の高い場所を探して、夜明けまで待機する事となる。
もっともそのような場所があるかどうかも解らないのだが。
男「決戦は明日の朝以降となろう。だが決して気を抜くな、これより先は常に翼竜の顎が眼前にあると思え!」
あの速さを誇る竜に出会えば、そこで悠長に作戦命令を伝える事などできない。
俺は傭兵長と騎士長と共に決めた戦闘における体制を、部隊の各員に今この時点で命じてゆく。
- 395 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/11(月) 12:33:04 ID:wZ6m/ZOw
遭遇した時点でグリフォン隊が翼竜を包囲、遠巻きに威嚇しつつ可能な限り動きを阻害する。
射程高度に翼竜を降ろす事が叶えば、弓兵と幼馴染による矢の掃射と女の魔法攻撃を開始し、その翼を弱体化。
翼へのダメージが蓄積し、動きが鈍ったところを時間停止で縛り、グリフォン隊による直接攻撃で翼を完全に潰す。
おそらく翼竜の鱗も堅い、しかし蝙蝠のそれのような鱗をもたない翼を騎士団の槍で裂く事は叶うはずだ。
そして翼竜を地に落とせば、地上部隊で包囲攻撃をしつつ俺が剣で止めを刺す。
ヴリトラ戦のような失敗はしない、何としてもこの手でその心臓を裂いてみせる。
男「…基本的な作戦は以上だ。しかし想定外の事態も在り得る、その際は諸君ら各自の判断に任せる事となろう」
描いた通りに進まない可能性はあるが、それでも翼竜を相手とするに相応しい手勢は揃っている。
勝算は相応にあるはずだ。
- 396 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/11(月) 12:33:39 ID:wZ6m/ZOw
男「…成したところで誰が讃える事も無い戦いかもしれん。しかし、我々が翼竜を討つのは賞賛や褒賞を求めての事では無い」
俺の両親、幼馴染の父親、女の兄、そして白夜王の仇を討つ事。
男「諸君らの武勇は全てこの俺が見届けよう。その勇姿は生き残った者の胸に刻まれ、語られるだろう」
そして今まで翼竜が齎してきた悲しみに報い、もう二度と繰り返させない事。
男「讃えられる事は無くとも、いつか人々が伝えよう…翼竜を討ちし、勇猛なる隊があったと」
そのために俺達は、竜を堕とす。
男「その名は、月影の師団…我々の名だ。決して忘れるな、あの世で同じ名の元に集おう。…騎士長、グリフォンは」
騎士長「…いつでも」
男「では、征こう」
俺は傭兵長に目を遣った。
彼が強く頷く、そして。
傭兵長「総員、グリフォン搭乗!臆するな…!目指すは我らが望んだ死に場所ぞ!」
月影は今宵、地上に在らず。
それは紺碧の空に舞う。
- 397 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/11(月) 12:35:18 ID:wZ6m/ZOw
第二部、おわり
次の三部で終わるか、ちょい残るか
- 398 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/11(月) 12:46:47 ID:1yURNDjc
支援
他のドラゴンの話も見たいが…
- 399 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/11(月) 12:54:22 ID:wZ6m/ZOw
支援さんくす
本編でそれを書くととんでもない長さになりそうだからこういう構成にした
完結後、余力があれば過去のサイドストーリーとして書きます
- 400 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/11(月) 14:25:00 ID:IgAjvBgA
ぜひ書いてください
お願いします
- 402 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/11(月) 23:14:32 ID:.w1bJV5Q
あざす
ひとまず本編完結を目指してがんばりゃす
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