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新ジャンル「泣き虫クール」
296 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 00:53:54.66 ID:nAfiXlRI0
何か良さげな設定だから便乗してみて良い?


297 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 00:55:22.75 ID:4ac9qbeG0
どうぞどうぞ


299 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 01:05:24.45 ID:nAfiXlRI0
うちの高校は私立かつ自由な校風を売りにしている事もあるのか、個性派が揃っている。
そのおかげか、こいつの泣き癖もチャーミングポイント(?)として受け入れられ、いじめ等に巻き込まれる事は無かった。
しかし泣き虫な事には変わり無く、フォローに回るのは日常茶飯事を通り越して生活サイクルにまで食い込んでいる。
それでも最近は、自分で何とかしようという意志が見られ、必死に泣くのを堪えてる所を度々目撃するが、

女「・・・ううっ」
男「お前な、セカチュー読んで泣くなよ」

正直、3点リーダ分程しか持たない。
男「ってかそうなる事は分かりきってるんだから読むなよ」
女「男友と女友が・・・ひっく、良い話だからって」
女友「ほら?こう、感動を分かち合おうと?」
男友「泣けるものは泣ける人にこそ読んでもらいたいと」
男「お前ら・・・確信犯だろうが、そこに直れ」

まぁ、こいつにとってこの環境はさほど悪くはないだろう。
やや不安定ながら穏やかな毎日が過ごせるのなら、俺も努力を惜しむつもりはない。


302 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 01:22:40.13 ID:nAfiXlRI0
こいつ・・・女が泣き虫なのは無論理由がある。
女は感情が敏感で、ちょっとした事にも大げさに驚いたり、感動したりする。
無論それらの感情は最終的に顔から汗をかく事で収束し、俺が事後処理に走るという黄金パターンを確立させている。
泣き虫時代ピークの小学生の時なんて、泣きすぎて涙腺が腫れ、病院送りなんて事もあった。
その際に医師に見てもらった所、「涙腺が弱い」と一言。
女は涙が出るまでの感情の沸点が低い上に、すぐ感情が高ぶる事が原因だそうだ。

男友「お前さー、少し女に過保護すぎやしないか?」
男「そんな事分かってるさ。あいつのためにならん事は分かってるから、なるべくほっとくようにしてる」
男友「それでも最終的にはお前がフォローに回る形になるじゃんか、疲れないか?」
正直、そんな感情は十年間世話してきた俺には皆無だった。
自分が世話する事が当然と受け入れてしまってる自分と、
自分は俺に助けられると思っている女の関係は、正直まずい。
共依存みたいな事にならんうちに何とかしなければとは思っている。
男「そうだな・・・お前らがセカチューなんて読まそうとしなけりゃ少しは楽かもな。
第一、映画はいろいろ凄かったが原作の方は文が薄いともっぱr
男友「それ以上言うな、いろいろと敵を回すぞ」
男「ん?そうか」
男友「お前は歯に布着せない発言が多いんだよ、女もその辺り苦労してるんじゃないか?」
男「うーん、苦労させてる自覚は無いんだがな・・・」
男友「(自覚が無い時点で重症だよ、まったく)」


303 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 01:35:50.87 ID:nAfiXlRI0
私は、もっぱら泣き虫だ。
映画を見ては泣き、本を見ては泣き、何もしなくても一人で勝手に泣く。
そしていっつも男君に助けてもらう。
男君はそのたびにキツイ事を言うけど、最後はやっぱり私の傍にいてくれる。
でも、それじゃあ駄目だって分かってる。
男君に寄りかかりっぱなしじゃ駄目。
自分をしっかりもって、対等な立場で横に、一緒にいたい。
そう思い始めたのはいつからだったかはもう忘れた。
気付いたらそう思ってて、泣きっぱなしの自分を何とかしようと考え始めた。
必死に我慢するけど、我慢できるのは一瞬だけ。
結局は男君に迷惑かけて、自己嫌悪して、また泣いちゃう。
こんな自分は・・・やだ。

女「ふ、ふえぇ」
女友「ほらほらもういいでしょ?朔太郎の中で思われてる亜紀ちゃんは幸せだって」
女「うう・・・そっちも泣けるけど、そうじゃなくて・・・」
女友「あー、結局また男に世話かけたって?別にいいんじゃない?あいつもまんざらじゃなさそうだし」
女「それでも、やっぱり駄目だよぉ、迷惑かけ・・うえぇ」
女友「はいはいその悲しみループコンボから抜け出さんかい」
女「うん・・・・・・・・・ふぅ、ありがと、女友ちゃん」
女友「しっかし女の方から『泣けそうだけど我慢できそうな本って無い』って聞かれた時は驚いたわ。よっぽど本気なんだね、泣き虫卒業計画」
女「うん、男君に迷惑かけてばっかだから、このままじゃいけないって」
女友「で、結果が号泣。一応フランダースの犬よりはレベル下げたつもりだったんだけどねー。
でもね、別にまるっきり成長してないわけじゃないわ。女は気付いてないけど、泣き止むまでの時間が短くなってるよ」
女「え・・・本当?」
女友「ええ、一歩前進よ。次は泣くまでの沸点を上げる事ね、頑張れ!」
女「う、うん、頑張る!頑張るよ、私」
女友「・・・あーあ、嬉し泣きでだらだら流しちゃってるわ」
女「え、ふええ!?」


304 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 01:43:46.50 ID:4ac9qbeG0
>>302
女は自立しようとしてるけど、男は今のままの過保護な感じが心のどこかで心地いいと感じてる……な感じか

「泣き虫クール」だから、クーデレのあっけらかんとした感じは避けるつもりなんだけど……


305 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 01:46:32.74 ID:nAfiXlRI0
>>304
その辺りは気をつけてるんだけど・・・やっぱクール系で長編は辛いかもOTL
ありきたりENDに着陸させるだけで限界っぽい。
あと序盤書いて思ったが女にクール度が全く無いので修正かける。

ってか読んでる人あんまいないけど、続けていいものなのか?
このままdatコースっぽいんだが。


306 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 01:48:37.83 ID:4ac9qbeG0
>>305
ま、ゆっくりやりましょ


309 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 01:55:08.92 ID:nAfiXlRI0
男「女、帰るぞ」
女「うん」
女の家は俺の家から近いので自然と帰り道は一緒になる。
別に男と女が二人だから何があるというわけじゃないが、一応会話はする。
といっても普通に話しているはずなのにいつの間にか女が普通の表情のまま涙流してたりするので油断ならない。
しかし、ここ最近はその回数も減ってるような、減ってないような・・・。
男「・・・・だからあの教師は人気ねぇのな」
女「その言い方もストレートすぎかも」
男「いやだって、ステレオタイプに硬い頭ってもはや教師としては致命的だろ」
女「あれも一種の教師としてのステータスだよ。周りの事に影響されず我を持つ。これも大事な事」
男「うーん・・・・」
こいつは一見そういうタイプに見えなくもない。
見た目からすれば冷静沈着っぽさはあるんだが、一回泣きが入ると弱気かつネガティブになる傾向がある。
そのギャップが受けが良いのか、容姿も中の上あたりなので、うちのクラスではそこそこ人気だったりする。
男「・・・あ、雨か」
気付けば空にはどんよりねずみ色の雲が覆っていた。
この様子だと一度振り出せば一気に雨脚が増すだろう。
男「女、傘持ってるか?」
女「いや、今日は置き傘を忘れた」
男「走るぞ、多分やばい」
女「どのくらい?」
男「・・・ナントカ還元水くらいだ」
女「それはまずい、急ごう」
意味が通じたのか?冗談のつもりだったが。
そのジョークが神様の気に食わなかったのか、小雨はあっという間に豪雨となった。


人がいてくれて良かった・・・何とか完結させるのでお付き合い願います。


310 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 02:01:59.80 ID:OcVliwx1O
もっとクール度に上昇補正かかるよう期待


313 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 02:09:13.74 ID:nAfiXlRI0
台風でも来たのか、石原良純が今日は晴天ですと言ったのか、これ以上と無い豪雨が俺達を容赦無く濡らした。
俺達は必死の鞄で頭上を覆うも焼け石に水、すでに全身ずぶ濡れとなっていた。
男「ったく!朝の天気予報じゃきいてなかったぞ!」
女「梅雨に加えて季節の変わり目は天気が崩れやすいからね」
女は無表情で言うも、僅かながら寒そうな感情が漏れ出している。
そりゃ半袖の中これだけ雨に打たれてたら体温も下がりっぱなしだろう。
それは俺も同じだったが、
俺「っと」
自宅は目の前なので、それからは開放される。
ちなみに、女の家はあと300メートル程先。
男「上がってけ」
女「え?」
男「この雨じゃキツイだろ?もう少し収まるまで中で暖まってけ」
女「え、でも・・・男の家?」
男「そりゃそうだろ。別に何度も来た事あるだろ」
ここ最近はあまり家に上がる事は無かったが、一時期は調味料の場所まで把握する程に家にいた事だってあった。
・・・まぁ中学あたりまでだったが。
女「いいよ。家まであと少しだしすぐ着くから」
表情を変えずクールに言・・・ってるつもりなんだろうが、体はぶるぶる震えてるし、顔から血の気は失せている。
争うだけ時間と女の体力の無駄だったので、女の手を引っつかんだ。
女「!」
男「いいからこい。風邪をこじらせる」
女「だから家にはすぐ」
男「こうやって争って俺まで風邪にする気か?」
女「その言い方は、なんか、ずるい」
そう言うものの、抵抗する意思が無くなっていた。
男「最初から遠慮なんかするな。俺らの間でそんなのは必要ないだろ」
女「・・・ありがとう」
一度折れたら早いもので、すぐに女は暖かい家に飛び込み、最短距離で居間にたどり着き、コタツに足を突っ込んだ。
・・・やっぱり、寒かったんじゃないか。


317 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 02:31:42.87 ID:nAfiXlRI0
コタツの温度を最大にして、俺にお茶を要求して、二人共落ち着いた所で。
「ふう」
と気持ちよさそうに溜息つきやがった。
散々遠慮しといて入った途端お茶を出せとのたまう女に文句の一つも言ってやりたいが、コタツでぬくぬくしながら顔までぬくぬくしてる女を見てたらそんな気分も飛んでった。
さっき男友に散々今の環境じゃ駄目だと言っておきながら、女が喜んだり安らいでる所を見たいと思う自分は意思が弱いのだろうか?
男「うちに来るのも久しぶりだな。昔は散々来てたのに」
女「・・・やっぱ高校生になると事情が違ってくるよ」
男「そういうものか」
女「そういうものよ」
やはり幼馴染とはいえ、女も年頃の女の子。
親もいない家に引っ張り込む事はいけなかっただろうか。
そんな俺の表情から読み取ったのか、女はやや眉を寄せる。
女「別に男に非は無いよ。下心があるならともかく、純粋な好意なら問題は無い」
男「あのな・・・」
俺を聖人君子だと思ってるのか?親父さんに男は狼だと教わらなかったのか?
俺だって女がこんな格好で二人っきりのシチュだったら・・・って!
男「お前服透けてるぞ!」
女「え・・・・」
女は言われて気付いたようで、自分の服を見る。
普通、夏用の薄着で豪雨にあえば、ぴったり張り付いた服の下から下着がまる見
女「・・・・・」
まずい、うなじがピクリと反応した。
昔から、こいつが泣く時には予兆として俺のうなじに反応がある。
経験則か第6感かは知らないが、外した事は一度も無い・・・・ので早急に対処する。
女「う・・・」
男「母さんの着替え持ってくる!背丈同じだから多分大丈夫だろ!」
なるべく女の方を見ないよう足早に部屋を出る。
正直、このシチュであの格好の女を直視し続けたら、俺でも・・・
男「って、んな事言ってる場合じゃない、着替え着替え・・・」


319 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 02:46:41.59 ID:nAfiXlRI0
女「うう・・・」
また、泣きそうになってる。
でも今回はしょうがない、男にこんな姿を見られたのだ。泣くなという方が無理がある。
やはり是が非でも遠慮してさっさと家に帰れば良かった。
結局は、男の世話になって、服まで用意してもらう始末だ・・・お茶は、まぁ置いといて。
女「ふぅ」
今回はすぐに落ち着いた。女友の言う通り、少しは成長しているみたいだ。
それでも、男には迷惑をかける。だからもっと頑張らなければ。
男に寄りかからず一人で立って、一緒に歩くために。
私のせいで男が傍に『いなくてはいけない』ではなく、私が男の隣に『いたい』。
結果的に差は無いかもしれないが、私的には大きく違う。
男に迷惑をかけたくない。男を困らせるのが嫌・・・そんなまどろっこしい言葉はいらない。
私は、単に男が好きなのだ。
だから愛想を尽かされたくない、ただそれだけのための自立。
最初は今のまま一緒にいてくれる環境に甘える事を選ぼうと思ったが、それではいけないと自分でこちらの道を選んだ。
そうしないと、何時までたっても私は・・・・
私「ふぅ・・・」
憂鬱な溜息を吐くと、後ろから僅かに襖の開いた音が聞こえ、男の母親の着替えらしきものが置かれた。
女「・・・・」
それを見て、今の私を見て思った。
男は、私をどう思ってるのだろうか、泣いてばかりの私を嫌々ながらあやしてるのか。
男は今の私を格好を見て何も思わなかったのだろうか、私なんて恋愛対象に入ってないのだろうか?
そんな不安がよぎったその時・・・・『それ』が突然きた

          頭が  揺れ る

                 電気が え 
        
恐怖 が 頂点ま で跳ね上 が って―――プツンと何かが切れた。


320 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 03:03:04.41 ID:nAfiXlRI0
女に丁度良い服を見つけるのに時間がかかってしまった。
母さん、まともな服くらい買っとけよ・・・何で息子が箪笥開けて数秒で絶望しなきゃならんのさ。
それでも何とか奮闘し、かろうじて常識レベルの服を発掘し、女の元に届けた。
とりあえず女が着替える間に茶菓子でも用意するか。
多分雨の暫く止みそうにないし、長期戦になる・・・・
男「うわっ!」
そんな予定を轟音がすっ飛ばした。
男「・・・かなり近いし音もでかい。どこかしらに落ちたのか?落雷なんて十何年ぶりかもな」
にしてもよっぽど天気が悪い。この調子じゃいつまでたっても女を帰せ・・
男「っ!馬鹿やろう!」
何が久々のだ天気悪いだそれ以前に気付く事があっただろうが!
雷は、女の最大のトラウマだって事に!

あいつの涙腺の弱い原因も雷にある。
俺と会う少し前、まだ小学校に入る前に女は落雷を見たらしい。
まだ幼い頃、それを直視した時の怖さは十分に後遺症を残すものだった。
それからしばらく天気の悪い日は外に出たがらなくなり、すっかり心を閉ざしてしまった。
感情なんて泣く事しか知らないとばかりに、何かのたびに泣き、今の落ち着いた状態になるまで両親は苦労したらしい。
俺もその事情を知ってたからなのか、自覚してるのに過保護になっている。
でもそれは、女が可哀相だからという同情心からきてるのか?
男「んな事考えてる場合か!」
思考から現実に意識を引っ張り、着替え中かもしれん女のいる居間の襖を乱暴に開けた
男「女っ!」

そこには、予想通りで、予想したくなかった女がいた。


323 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 03:28:20.53 ID:nAfiXlRI0
男「女っ!」
女「あっ、っひいああ、うああああ!!」
女はこれでもかと涙を流し、すました顔が最大限の恐怖に歪んでいる。
完全に泣くのを通り越して完全にパニック状態になっている。
泣くべき原因が最大級の敵のため、その勢いはすさまじく、今までの比ではない。
女「ひっ、がっ、は・・やあ、いやああ!!!」
もはや喉に激痛が走るにも関わらず、座り込んだまま何かを振り払うかのように両手を振り回す女。
箪笥にぶつけようが、コタツにぶつけようがその勢いは止まらない。
男「女っ!落ち着け!」
とにかく俺には女の両手を押さえながら呼びかける事しかできなかった。
男「大丈夫だから!もう雷はこないから!」
女「ひっ!や、いやが・・・がはっ!」
男「落ち着け!」
自分のボキャブラリーの無さに怒りたくなった。
ただ俺は女が苦しんでる中、手をとり『落ち着け』としか言えない存在と可していた。
十何年一緒にいて、結局俺はこいつのトラウマ一つにすら対抗できない自分が情けなく、ふがいなかった。
男「女っ!」
それでも俺は呼びかける事を止めない。
それしかできないのなら、それが唯一できる事なら、ただひたすらにやり通すだけだ!
それが女のためになるならいくらでもやってやる!
女「嫌っ!ヤダあああ!」
暴れる女をただひたすら体で受け止める。
時間がたってパニックも抜けかけたのか、少しずつ叫びが言葉になりつつあった。
女「やだ・・・いやだ・・・わた、し・お・・嫌」
男「大丈夫、もう雷は無いから」
正直、もう一度雷がなろうものなら再び錯乱しかねない。
この数分だけで、俺は神様に一生分祈った。
男「大丈夫、雷はこない、もう来ないから・・・」
女「い・・や・・だめ・・・わく・・」
かたことながら女の言葉が分かり始めた。


324 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 03:47:34.99 ID:nAfiXlRI0
女「男・・・」
目線が合ってない瞳でこちらを見つめるも、賢明に揺さぶっても俺に焦点が合う事はなかった。
男「俺はここだ!ここにいる!」
女「男に・・・迷・・・けたくない」
男「え?」
今なんて言った?
女「私は・・・男に迷惑かけたくない、嫌われたくない・・」
男「・・・おん」
何か言いかけた。しかしそれは、再び轟音にかき消された。
女「いやああああああああああ!!」
その音に負けない女の叫びが、轟音の元を嫌でも理解させた。
男「女っ!」
必死に揺さぶり語り掛ける中、俺は心の中で神様を十字架に吊り上げ槍で何度も突き刺した。
畜生っ、散々祈ってこれかよ!神様は人の不幸をあざ笑うのかよ!
不条理とも思える怒りをぶつけながらも、女は叫ぶ。
しかし、先程とは違い、その叫びは言葉となっていた。
女「やだ!いやだ!男に、迷惑かけたくない!泣いてばっかで困らせたくない!」
男「な・・・」
女「こんなので!泣きたくないのに泣いちゃって!迷惑かけて男に嫌いになってほしくない!!」
頭が真っ白になった。
今、こいつは落雷の恐怖より、俺に嫌われる事を恐れてるとでもいうのか?
俺なんかの存在が、幼児体験のトラウマより勝るのか?
女「わた、私っ!努力、したのに、頑張っても、泣いちゃって、結局男に面倒みてもらって」
それは恐怖から逃れるための叫びではなく、自虐に満ちた懺悔のように聞こえた。
女「私の、せいでっ、男に迷惑かけて、手間かけさせてるのにっ・・私は!」
そんな女の叫びをよそに、俺は昔はしてたのに今は喧嘩してなかったなと思い出す。
それは、互いに遠慮して言いたい事を言ってなかった事・・・だからこれは、女が俺に対して言いたい事だ。
女「私はっ・・・・男にどう思われてるか聞けなくて・・・助けてもらってる事に甘えて・・泣くのをやめれなくて!」
女の涙は枯れる事を知らない。
体中から搾り出すようにして眼から流れる水は、俺のせいか。


325 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 03:53:47.50 ID:u2LtqydCO
泣いてしまった(´;ω:)


326 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 03:57:59.95 ID:nAfiXlRI0
女「ずるいって、分かってるのに・・・私は」
最後の力を振り絞って言ったその言葉を最後に、女はさっきのが嘘のように静まった。
もう両手を押さえる必要は無い。
男「・・・・・・・・・・・・・・」
もう、分かった。
雷はきっかけに過ぎない。
結局の所、俺への思いと罪悪感か。
馬鹿だな、そんなの直に言ってくれればいいのに。
そしてもっと馬鹿なのは、それに気付かず何も言わなかったこの俺だ。
拳を握る。
全力で自分をぶんなぐった。
女「!?」
男「ってえ・・・・」
喧嘩馴れしてないとはいえ、全力だ。そうとう痛い。
でもおかげで、スッキリした。
女はそうとう驚いた顔をしていた。
つまりそれくらい回りを自覚できる状態にまで戻ったのか。
それは都合が良い。
「女の言いたい事は分かった。次は俺が言いたい事を言う番だ」
女「え・・・」
男「ったく、お前もな、そんなに不満や不安があるなら言え。普段隠せずに泣くくせに、こんなにいろいろ溜め込んでたのか」
言いたい事は、山ほどある。
男「いいか、お前がどう泣こうと俺はお前を助けるぞ。昔からの腐れ縁だからじゃない。
同情心からでもない。嫌嫌でもない。俺は、俺の意思でお前を助ける」
ハッキリと言ってやった。今まで言葉にしなかったが、十年も前から変わらない決意を始めて口にした。


327 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 04:05:10.85 ID:nAfiXlRI0
男「そりゃあただ泣いてるだけだったら愛想尽かしてたかもしれない。だけど、お前は頑張ってたじゃないか。
涙腺弱いの分かってて負けずに涙溜め込んだり、耐性をつけようと自分からセカチュー読もうとしたり、
帰り道での会話でも泣く回数が減ってたじゃないか」
あ、相当驚いた顔してる。
男「俺が気付かないと思ったか?誰よりも一番お前を見てる俺が、それに気付かないとでも思ったか?
残念ながら俺は目ざといんだよ。だからそれら一つ一つがお前の努力した結果だって知ってる。
お前は今の状態を良しとせずに、楽な方に流され泣く事より頑張って泣く事を選んだんだろ。
だったら俺はその背中を押してやる。一人で立てるまで何時までも支えてやる」
ああ、もう我ながらややこしい。普段みたいに一言で済ませりゃいいのに。
これでも俺は『歯に布を着せぬ』言い方か?男友。

男「俺はずっと前から、お前が好きだったんだよ。じゃなかったら、一緒にいるか馬鹿野郎」

ああ、やっぱり俺は素直じゃない。
何年も前から思っていた言葉を伝える時ですらぶっきらぼうになっちまう。
正直、シチュエーションによっては、顔を真っ赤にして学校の屋上からダイブするくらいの発言だった。
でも伝えてしまった。言ってしまったら、あとは返事を待つだけだ。
女「私・・・・迷惑じゃ、ない?」
恐る恐る、触れたかったけど触れたくない女にとって最大の疑問を俺は即答した
男「当たり前だ、好きな奴が頑張ってるのを応援しなくて何が男だ」
一度アクセルをいれたらブレーキ知らずなのか、恥かしい言葉のオンパレードだ。
これ聞かれてたら俺は明日から樹海に行く。
男「お前は泣き虫だった。だけど今は違う。嫌な事に立ち向かう勇敢な泣き虫だ」
だから一緒に頑張ろう、と続けようとしたが、女が俺に飛び込んできて何も言えなくなった。
女「・・・・・頑張る、頑張るよ、私」
男「・・・言ってる傍から泣く奴があるか、馬鹿」
でもそれはそれで良いと思った。
それは泣く事の中で唯一のポジティブな涙だったから。


328 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/06/15(金) 04:16:54.49 ID:nAfiXlRI0
まぁ結局、俺達の関係は、世間一般で言う彼氏彼女という形になった。
クラスでは何故か前から当然だと思われてたらしい。意外だ。
付き合ってるからと言っても、やる事は今までと大差な無い。
ただ変わったのは・・・いや、これからも変わっていくのは女の泣き虫の耐性だ。
最近では日常生活のふとした事はウル目レベルまで抑えれるようになった。
調子に乗ってフランダースの犬のDVDを見せたら号泣された。
男友や女友にいつもに増して冷やかされたり遊ばれたりするようになった。
ついこの間とあまり変わらないそれが、俺達には光り輝いて見える。

男「・・・で、女が俺の分のティッシュを使い切る程泣いた理由は?」
男友「電車男を読ませたら」
女友「最初は笑ってたのに後半に入ったら一変して」
女「あ・・・男か、これはすごい本だよ」
男「真顔で号泣するな、そして二人はそこに座れ!」


まぁこれが、俺達にとっての、穏やかな毎日なんだろうな。
少なくともそのために努力した俺達はそう思う。

                       泣き虫クール 終



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