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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
283 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/06(水) 13:40:53 ID:WqiSnDUQ

……………
………



その夜、俺達はそのまま王都を離れ北へ進んだ。

明日になり俺達の離脱が明るみとなれば、おそらく直接西へ向かうルートを中心に正規軍が捜索派遣されるだろうと考えたからだ。

深夜を超え、明け方を超えてなお足を止めずに、出来るだけ王都から離れる。

大した荷物があるわけでは無いが、馬車を持たない故に全て背に負っての行軍。

女性陣をはじめ、一同の疲労はピークに近づいていた。


284 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/06(水) 14:11:50 ID:WqiSnDUQ

傭兵長「隊長殿…アンタもし追っ手が来たら、それが罪無き人間でも斬れるのか」

それは昨夜からずっと俺が考えていた事だった。

竜や魔物を相手にするのとはわけが違う。

逆賊となった今…己の正義を信ずる人間と敵対し、斬り伏せる必要もあるかもしれない。

男「…お前達は、どうなんだ」

傭兵長「我らは戦を飯の種とする傭兵、金さえ積まれりゃ…まあオンナ子供は斬りたくはないが」

男「…そんな貴様らが金勘定無しに従ってくれているんだ。俺にその覚悟ができんでどうする」

傭兵長「本心なら大したもんだ。…しかし心配はしないで頂こう。我らは己の信念の下、竜を討とうとするアンタに惚れたんだ。汚れ役は引き受けよう」

彼の申し出はとても有難かった。

それでも自分で言ったように覚悟を決めなければいけない時は、いつか来るはずだ。

そしてその『いつか』は…


隊員「後方より接近する影あり!騎馬兵と思われます…!」


…もうすぐに、迫っているのかもしれなかった。


285 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/06(水) 14:26:33 ID:WqiSnDUQ

男「数は…!?向こうはもう、こちらに気づいているのか!?」

隊員「数は三人!真っ直ぐにこちらへ向かっています!」

傭兵長「三人とはチェイサーにしては少なすぎる。偵察かもしれませんな…ここは確実に潰さねば。隊長殿、号令を…!」

例え、自らの腕で剣を振るわなくとも。

男「…弓兵っ」

この隊の総員は、俺の手足に同じだろう。

男「掃射準備…!」

俺のこの号令が人の命を奪う、それは紛れもない俺の業だ。

女「男さん…」

幼馴染「………」

時魔女「男…」

…それでも、俺は退くわけにはいかない。

男「………放てっ!」

23名の内、10名の弓兵が矢を射る。

怒りでも憎しみでもなく、ただ我々の信ずる正義をのせて。


286 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/06(水) 19:53:08 ID:sl2TX8JY

しかし矢の第一波は的を捉え損ねたらしい。

敵騎馬兵は既に馬の蹄の音が聞こえる程に接近している。

そして現在、隊には魔導士は女と時魔女を除けばいない。

男(女達にまで人を殺めさせたくはない…接近戦になるか)

弓兵「次を放ちます…!」

傭兵長「…待て、様子がおかしい」

見れば三人の騎馬兵は右腕を横に伸ばして掌を向け、首を垂れている。

あれは諸国間の協定による『交戦の意思無し』を表した姿勢だ。

しかも近付いてみると、チェイサーにしては馬が提げる荷物がやけに大きい。

男「総員、交戦姿勢のまま待機しておけ…向こうの出方を見るぞ」

やがて眼前にまで達した騎馬兵は、すぐに馬上から降りて自らの剣を鞘のまま地に置いた。


287 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/06(水) 19:55:06 ID:sl2TX8JY

騎馬兵「…男殿とお見受けいたす」

男「しらばっくれても無駄だろう…お前達は、チェイサーではないのか」

当然だが、三名とも月の兵装に身を包んでいる。

少なくとも討伐隊で見た顔ぶれではない。

騎馬兵「その任務を請けた者には違いございませぬ。…しかし、我々は貴殿との交戦は望まない」

男「それは、何故だ」

語る騎馬兵の瞳は濡れている。

騎馬兵「貴方がたこそが真の月の誇りだと知るが故…」

自らの誇りと自由にならない境遇の狭間で、彼等の魂は燻っているのだろう。

騎馬兵「…貴殿部隊に、我らの誇りを託しとうございます」

そして彼等は自らの手綱を差し出した。

騎馬兵がその愛馬を託すなど、並の想いで出来る事では無いだろう。

男「…貴様らの誇り、この双肩に預かり受けよう。いつか…必ず返させてくれ」

騎馬兵「ありがたき…幸……せ…」


288 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/06(水) 20:28:47 ID:sl2TX8JY

騎馬兵の話によれば、砂漠開発部隊の編成が始まった当初から士官を含む多くの兵が、砂漠への派兵を強行する月王に懐疑的になっているとの事だ。

そしてそれと正反対に、翼竜を討つという大義に従って動こうとする我々を敵視する者は少ないという。

現在も、そしてこれからも秘密裏にこの部隊への参入呼び掛けは続けられてゆくらしい。

彼等は我が隊の全員と固い握手を交わし、我々を見送った。

馬の提げた大きな荷袋には、全員には足りないまでも数基のテントや幾つものシュラフ、毛布などが詰められていた。

毛布には全て、個人名が記されている。

これは軍から配給された兵達の私物なのだろう。

そして俺に手綱を託された一頭の荷袋の奥底には。

男「…傭兵長、この北回りのルートは貴様が進言したが、誰かに伝えていたのか」

傭兵長「察しが良いですな。…隊に参入は出来ぬまでも、涙を浮かべて悔やしがっていた者がおりましたのでね」

男「討伐隊だった者か」

傭兵長「如何にも…心当たりが?」

男「少々、そいつらに恨みがあってな。なに…飲み負けたというだけだが」

俺は荷袋から取り出したバーボンのボトルを開け、ひと口だけ呷った。


289 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 20:32:38 ID:sl2TX8JY
もうこの重いシーンやだ
はやく男と女をイチャイチャさせてえ


291 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 21:05:56 ID:oecjPk1s
これはこれで熱い展開だよ


292 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/06(水) 21:08:36 ID:hKEt/kK6
それでもよし


293 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/07(木) 07:17:36 ID:Nnr.jfiw
バネを溜めるのです


294 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/07(木) 09:12:22 ID:CUO7IhD.
そんなときはあっちを書いて息抜きするんだ


295 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:10:41 ID:YGo/EYxs

それからは女性陣がそれぞれの馬の背に乗り、少しペースを上げて北への進路を歩んだ。

午後の四時を回る頃、街道から少し外れた森に入り、立木の薄いところを選って野営地とする。

男「暗くなれば灯りは控えねばならん。各自日没までに食事を摂り、その後は三交代で見張りを行う」

傭兵長「承知、森の中故に魔物が出るやもしれませぬしな」

男「食糧は限られている。少ないメシで我慢を強いるが…皆、堪えてくれ」

テントは四人用が三基、三つの班に分けるにしても休むニ班の全員が収まるわけではない。

ただシュラフを併用すれば頭数には足りる。

男「装備が落ち着くまで、雨が降らなければいいがな」

幼馴染「そればっかりは神様の気分次第ね」


296 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:11:46 ID:YGo/EYxs

テントの内のひとつを俺と女、幼馴染と時魔女の四人が使う事にした。

隊員「羨ましいですな。カラダがもたなければ一人お預かりしますぜ?」

男「馬鹿を言え…貴様は魔法と矢、動きを封じられての拷問のどれで殺されたいのだ?」

隊員「はっはっ…おっかない話だ。全部、隊長殿にお任せしますよ」

隊員達は皆、口も育ちも悪いが気のいい奴等だと思う。

幼馴染「失礼しちゃうわ」

女性陣はその軽口に少し不満気ではあるが。

時魔女「もっとイケメンじゃなきゃ相手しないもんねー」

幼馴染「ねー」

男「お前らの軽口もなかなかのもんだぞ」

幼馴染「バッカじゃない、アンタにも言ってんのよ。乙女を危険人物みたいに言わないで」

おっと、矛先が変わりそうだ。

今は男独りで分が悪い、余計な事は言わないようにしよう。


297 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:12:48 ID:YGo/EYxs

少しの野菜と干し肉を鍋の中に焚いた火で炙って、簡素な食事とする。

僅かな量をできるだけ味わって食べるように、ちびちびと摘まんでは話をして気を紛らわせた。

男「しかし幼馴染はどうやって兵に話を回したんだ?」

幼馴染「討伐隊は皆お酒が好きだったみたいだから。城下の酒場で様子を見てたら、案の定…見た顔が次々とね」

男「そいつらに、時魔女が同行してる事は…?」

幼馴染「ぬかりないよ、口止めはしてる」

時魔女の同行を知っているのは討伐隊の者だけ、その中に俺たちを裏切る者がいるとは考え難い。


298 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:13:37 ID:YGo/EYxs

そしてたまたま彼女の名前が出たところで、時魔女は次の話を切り出した。

時魔女「…あの…ごめんなさい、黙ってたんだけど。ボク、副隊長とは時空魔法で連絡がとれるんだ」

時魔女は懐から手帳ほどの大きさの革ケースに納められた金属板を取り出した。

ブロンズのような色をした艶の無い板に、彼女の胸にあるものと似た結晶があしらわれている。

男「連絡…?」

時魔女「うん、副隊長が造った特殊なパッドとインクでね。お互いの手元にあるパッド同士が座標登録されてて、書いた文字を交換できるの」

男「今までずっと、連絡をとってたのか?」

時魔女「うん…港で副隊長と別れてからは。ごめん…本当、なんかスパイみたいな事してる気がして、言い出せなかった」

なるほど、時魔女の単独行動が許される理由が少し解った気がする。

おそらく定時連絡という形で、文書を交換しているのだろう。


299 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:14:49 ID:YGo/EYxs

男「何も謝ることは無いさ、情報を利用して戦争を仕掛けようってんじゃないんだろ?」

時魔女「うん…でも月の国が砂漠へ派兵を検討してるって事は、やっぱり星の軍の一員として黙っておけなかった」

彼女の口調は重い。

でも今の俺は、それを咎めるべき月の国の軍人ではないのだ。

それに砂漠を占拠せんとする月の振舞いに対して、他国が相応の準備を施すのは当り前の事。

あの副隊長は聡明な女性だと思えたし、ましてや星の国は五大国の中でも穏健派として通っている。

事態が悪い方に転がるような事はあるまい。

…ふと、月の副隊長の事を思い出す。

港でこちらから王都へ送った伝言で負傷した副隊長を星の国へ送るとは伝えたけれど、この事態となって彼に帰る場所があればいいが。

いかにも頑固で己の正義を貫かんとする彼の事だ、きっと月軍の現状には憤慨するに違いない。

それとも愛しの星の副官殿に毎日構って貰って、鼻の下を伸ばしているのだろうか。

その様子を想像して思わず口元で笑んでしまった…が、どうやらその笑みがマズかったらしい。


300 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:15:26 ID:YGo/EYxs

女「…何が可笑しいのです」

突然、今までずっと沈黙を保ってきた女が言葉を発した。

しかも大層に機嫌の悪い声で。

女「幼馴染さん、時魔女さん…およそ話と食事は終わりましたでしょうか」

幼馴染&時魔女「う、うん…」

あれ、おかしい。

女が喋らないのは、夜通しの行軍の疲れがきているからなのだろうと思っていたのに。

これは違うっぽい、そして俺の予感が正しければ…

女「…じゃあ、昨夜の話を煮詰めましょうか」

…うん、正しいみたいだ。

幼馴染「じゃあ、ちょっと席を外すね!」

時魔女「ごゆっくりー」


301 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:16:58 ID:YGo/EYxs

それから三十分に渡り、こんこんと説教を受ける。

『本当に置いて行く気だったのか』

『寂しくて死ねというのか』

『そもそも黙ったままとは、どういう了見だ』

『剣を払われた時、手が痛かった』

『お詫びの抱擁も口づけも無い』

概ね内容はこんなところ、終わりの二つを除けば返す言葉も無い。


302 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 15:17:41 ID:YGo/EYxs

男「悪かったって…俺だって置いて行きたくは無かったけどよ」

女「そうしたくも無いのに『仕方ない』と思えるのが、一番腹立たしいのです!」

男「ごめん…」

ちなみに彼女が剣を振るう際、その切っ先に一切の迷いを感じなかったのは『本気だったから』だそうだ。

幼馴染から『絶対に当らない』と言われ、時魔女からは『万一斬れても時間逆行で治す』と言われていたらしい。

女「首を落とすくらいの覚悟で斬りつけましたので」

男「時間逆行って、生きてる奴にしか使えないんじゃなかったっけ」

女「………そういえば、そうですね」

…怖えよ、嫁。


303 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/07(木) 19:38:49 ID:4MH/fj1I

詫びの印として一度、柔らかく口づけを交わした。

相変わらず彼女はその後少しの間、俺の胸に顔を埋めて表情を見えなくする。

だけど今日はそれも短めに。

俺は無言のまま彼女をそっと胸から引き離すと、立ち上がった。

いい加減に幼馴染達をテントに入れてやらないと、昨夜からの不眠の行軍で疲れ果てているはずだ。

女はまだ少し頬を赤らめたまま、俺を見上げて小さく微笑んだ。

ひとまず機嫌は直してくれたらしい。

俺は幼馴染達を呼びに、テントの外へ歩み出た。

男「おーい」

幼馴染&時魔女「…あっ」

テントのすぐ側面、二人は屈んだ姿勢でこちらを向いた。

男「お前らっ…!」

…こいつら、聞き耳立ててやがったな。


304 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/07(木) 19:40:02 ID:KCL/dOWA
この二人も男が好きなのかな?


305 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/07(木) 19:45:40 ID:mNZkMl4Y
女さんかわいい


306 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/07(木) 22:18:01 ID:glC8EJzQ

……………
………


…五日後の夕刻
…月の国、北西の山麓


丘陵の向こうから、旅人の姿をした二人の男が歩んで来る。

少し後ろを振り返り、誰もついて来ていないかを気にしながら。

男「…ご苦労だった、村の様子はどうだった?」

隊員「月の兵の姿はありません。酒場で聞き込んでも、我々部隊の噂は入っていないようです」

二人は旅人を装わせた隊員達だ。

様子見に向かわせたのは、他ならぬ俺と幼馴染の故郷の村。

王都から消えた俺を捜索するなら、早い段階で手を回す可能性がある場所だ。

逆にそれが為されていないという事は、あまり本腰を入れた捜索は行われていないのかもしれないと考える事もできる。

渇竜ヴリトラに一矢を報い、紛いなりにも砂漠進出の口実を得た今、俺の存在価値はもうさほどありはしないのだろう。


307 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/07(木) 22:19:50 ID:glC8EJzQ

砂漠開発の助力という任務を放棄し、二十余名の兵を連れて逃げたとはいえ、その目的は王の暗殺や国家の転覆ではない。

現にこの五日間、あの騎馬兵達を除いてチェイサーに遭遇する事も無かった。

禁足地への侵入に対してはどれほどの妨害があるかは知れないが、今すぐは追っ手の影に怯える必要は少なそうだ。

男「さすがに食糧も底を尽いてきている、装備を整えるためにも村に入るべきだろうな」

傭兵長「我々の足跡を知る者を作れば危険は増しますが…やむを得んでしょう」

男「まあ住民の数も少ない小さな村だ。しかも全て顔見知り…伏せておいてくれという願いは通じよう」

幼馴染「やった、五年以上ぶりの帰省ができるんだね!お隣の赤ちゃん、大きくなったんだろうなあ…」

傭兵長と真剣な協議をしているというのに、幼馴染は随分とマイペースな事を言っている。

昔からこんな奴だったというのは、誰よりも俺がよく知っている事だけど。

それに俺だって故郷への帰還が嬉しくないわけじゃない。

…友人に女を紹介するのが、少々気恥ずかしいと思うだけだ。


308 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/07(木) 22:20:43 ID:glC8EJzQ

……………
………


…故郷の村周囲の農地


男友「おい…!嘘だろ、お前…帰ってきたのか!」

男「久しぶりだな、元気だったか」

男友「馬鹿やろ、身体悪くしてる余裕なんか無えよ。お前の畑まで世話してんだぞ」

村に入る前から友人に捕まった。

いや、捕まったとは言葉が悪すぎるか…昔から親友として付き合ってきた仲だ。

俺が管理していた農地は殆どこいつが引き継いでくれている。

男「すまん、面倒をかけるな」

男友「よせよ…慈善でやってんじゃない。お前の畑で穫れる作物も、俺の収入源になるんだ」

男「ああ、今年もいい出来だ。…お前に任せて良かった」


309 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/07(木) 22:21:51 ID:glC8EJzQ

男友「ところで、噂は聞き及んでるぜ」

一瞬、ぎくりとする。

しかし彼が聞いた噂は、独立部隊の事では無かったらしい。

男友「お前が竜退治の戦士、ドラゴンキラー様とはねえ…俺も鼻が高いってもんだ」

男「ああ…お陰さんでな、こうして部隊も引き連れてるよ」

男友「これ全部お前の部下か、偉くなったもんだなあ…。あっ、幼馴染ちゃんじゃねえか!」

幼馴染「久しぶりね!私は男の部下ってわけじゃないけど」

俺はこの時、順序を間違えたと思った。

彼に幼馴染を見つけられるより先に、女を紹介すべきだったんだ。

男友「解ってるって、とうとう男も観念したかー。五年ぶりに再会すりゃ、ハッキリしないお前らも流石に良い仲になったんだろ?」

男「ちょ…おい!…それが…よ」

男友「はぁ?お前らまだ恋仲になってねえの?何やってんだよ、幼馴染ちゃんが旅立った後、暫く落ち込んでたくせに…」

ああ…もう、何でそんな余計な事を。

幼馴染は隣でニヤニヤしながら「そうだったんだー」と状況を楽しんでいる。

左後頭部がチリチリと痛い気がするのは、たぶんひどく睨まれているからに違いない。


310 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/11/07(木) 22:22:51 ID:glC8EJzQ

………


…村長の家


男「…協力頂けますか」

村長「…何を水臭い事を、断るはずが無かろう」

木の香りが満ちた天井の高い部屋、パイプを咥え紫煙を燻らせながら村長である老人は答える。

村長「テントなら林業の泊り込み用の物が幾つもある、必要なだけ用意させよう。毛布も各家から集めれば揃おうよ」

俺は彼に現在までの経緯を話し、必需品や馬車の提供を願った。

先の通りそれは快諾され、食糧や衣類なども揃う限り持たせてくれるという。

村長「お前がサラマンダーを討った後、報酬の金貨を村に送ってくれた…それがどれほど有難かったか。テントなど百でも二百でも新しく作れてしまうわい」

男「感謝します、村長…」

村長「…すっかり男らしくなりおって、しかし立派なだけでは寂しいのお」

村長は椅子から立ち上がると歩み寄り、小さな子供に接するように俺の頬に掌をあてた。


311 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/11/07(木) 22:24:41 ID:glC8EJzQ

いつの間に軍人としての振舞いや、城での言葉遣いが染み付いてしまったのだろう。

ほんの半年前に村を出た日の俺は彼を『村長』などとは呼ばなかった。

両親を失った俺をずっと育ててくれた彼を、俺は親しみを込めて呼んでいたはずだ。


男「うん…ありがとう、じっちゃん…ただい…ま…」


在りし日の自分を取り戻すと同時に、己の内に溜め込んでいた様々な想いが溢れ出す。

兵の命を預かる重責、討伐隊々長として背負う期待、逆賊となって着た罪。

強く装う自分を見せたいが故に、女にもその全ては晒せない己の弱さ。

年老いた彼だけはそんな俺の全てを知っている、見てきてくれた存在だから。

村長「よく…来てくれた…よく戻った…。おうおう…いい大人になっても、変わらんのう…」

彼の皺だらけの手で頭を撫でられて、妻さえも迎えた大人の男が涙を零すなど。

この姿、隊員達にはとても見せられたものじゃない。

きっと今、隣の家で幼馴染も同じように涙を見せているのだろう。

今夜は懐かしいあのベッドで眠ろう。

天窓に降る星を数えて、大時計の振り子が刻む音を確かめながら。


312 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/08(金) 00:02:39 ID:H.XSgyvs
おう、やっと追いついた
以前酒場か休憩所でマイナー竜の名前聞いてた人だよね?

あと、もう無いと思うけど
× 討伐隊々長
○討伐隊隊長
ですな、単語が別れてるので


313 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/08(金) 00:16:18 ID:fuIfutG2
細けえこたぁ


314 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/08(金) 00:35:51 ID:SEhAb5aE
いいんだよ


315 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/08(金) 01:20:20 ID:1vgPeBiQ
そんな事より


316 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/11/08(金) 01:38:18 ID:fuIfutG2
続きはよ


317 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/11/08(金) 03:55:12 ID:v7Ge3a5o
>>312
イエス、知りたかったのはマイナーじゃなく認知度の高いメジャーな竜の方だけど
各単語の隊の字、気をつけるさんくす

>>313-316
連携わろたさんくす



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