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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
25 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/19(土) 20:24:33 ID:pM78Uj06

……………
………


『逃げろ、男!幼馴染ちゃんを連れて…!母さんを護れ!』

『来るぞ!…くそっ、こっちだ!この竜め!』

『父さん!おじさん!』

『よし…いいぞ!俺達に気付いた!』

『父様!やだ…父様も逃げようよっ!』

『くそっ…幼馴染!行こう!』

『父様っ…!』

『早く行け!男っ!』

『男君…!娘を頼むぞ!』


26 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/19(土) 20:25:17 ID:pM78Uj06



『男ちゃんと幼馴染ちゃん…可哀想にねぇ…』

『彼らの父親二人のおかげで被害はこの程度ですんだというのに』

『でもよりによって男ちゃんのお母さんまで亡くなるなんてなあ…』

『崩れる瓦礫から二人を庇っての事だったそうじゃないか』

『幼馴染ちゃんの家には元々お母さんがいなかったから…二人とも天涯孤独だなんて、神様も酷な仕打ちを…』

『生き残った我々で、あの子達を育てていくんだ。そうするしかないし、そうすべきだろう』


27 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/19(土) 20:25:52 ID:pM78Uj06



『くそっ!父さんに…母さんを護れって言われたのに…!』

『男…仕方がなかったよ…』

『忘れるもんか…あの竜の姿…』

『うん…』

『幼馴染…俺、強くなるよ。絶対にこの手で仇を討つ』

『…私も、負けない』

『村一番の剣士だった父さんの息子として、俺は誰よりも強くなるんだ』

『私だって、父さんの弓が残ってる』

『いつか必ず…俺達で』

『うん、絶対に…!』


28 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/19(土) 20:26:36 ID:pM78Uj06

……………
………


あの竜には翼があった。

サラマンダー討伐の命を受け、その姿を聞かされた時は仇の竜かと考えた。

けど、記憶の中の憎き竜は火を吐きはしなかった。

ましてあの竜はサラマンダーのような愚鈍な飛び方ではなく、その羽ばたきは瞬く間に山を超えてゆくほどだった。

遭遇した時、サラマンダーが仇の竜でない事は確信できた。

もっともその前から情報を推察するに、違うだろうと予想してはいたのだが。


29 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/19(土) 20:27:36 ID:pM78Uj06

この世界には七竜と呼ばれる強大な竜がいた。

ここ月の国の山岳に巣食っていた、火竜サラマンダー。

旭日の国の森に潜む、蛇竜オロチ。

落日の国の谷を徘徊する、多頭竜ハイドラ。

白夜の国の大洞窟を占拠する、洞窟竜クエレブレ。

月の国と星の国の間に横たわる大海を縄張りとする、海竜サーペント。

旭日の国と落日の国の間に広がる砂漠を根城とする、渇竜ヴリトラ。

そして未だはっきりとした住処が判らない、翼竜ワイバーン。

それ以外にも竜は存在するが、その力も大きさも七竜に遠く及ばない。

そして七竜には共通して、左目の色は様々だが右の瞳は紅を呈しているという特徴がある。


30 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/19(土) 20:28:59 ID:pM78Uj06

サラマンダーやオロチ、そしてハイドラはそれぞれの国の辺境に住むが、周辺の村を襲撃しては家畜を食い荒らし、それに伴って人間への被害も後を絶たなかった。

旭日の国と白夜の国を最短距離で結ぶ洞窟に潜むクエレブレをはじめ、サーペントやヴリトラはそれぞれ交通の要となる地点を障害していた。

故に各国で討伐が試みられ、ついに八年前落日の国でハイドラが倒されたのを皮切りに、五年前にクエレブレ、昨年にはオロチがそれぞれの国で倒される。

そして今年、星の国でサーペントが倒された後、ようやくこの月の国でもサラマンダーを討伐した。

あとはどの国の領地にも属さない砂漠に住むヴリトラと、情報の少ないワイバーンだけ。

しかし情報が少ないからといってワイバーンの被害が少ないというわけではない。

むしろその飛翔能力ゆえに神出鬼没で、最も甚大な被害をもたらしている主なのだ。

詳しい居場所の掴めないこの竜だが、最も面積の広大なここ月の国の果てに巣食っている可能性が高いという。

世界中で発生するワイバーンの被害を地図上に表せば、その中心が月の国西部の未開の台地になるからだ。

そしておそらく探し求める仇の竜は、翼を持つサラマンダーが違った今このワイバーンしかあり得なかった。


31 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/20(日) 15:44:04 ID:XrDTOfew
……………
………


女「…おはようございます」

俺が部屋で目を覚ますと、女は部屋のクローゼットに手を延べながらこちらを向いた。

女「ベッド、狭かったでしょう。よく休めましたか?」

男「ああ…おはよう。大丈夫、全然狭くなんかなかったよ」

女はクローゼットから俺の衣類の内、謁見に適するものを選んではソファの背もたれに掛けてゆく。

男「すまない、自分でやるよ」

女「これは妻の役目です。男様は他の身支度を整えていて下さいませ」

…どうも気恥ずかしい。

俺はぼりぼりと頭を掻きながら、部屋に備え付けられた洗面台へと向かった。


32 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/20(日) 15:45:42 ID:XrDTOfew

月王「よく参った、男よ。昨夜はお前の話のおかげで過去に無い美酒に酔う事ができた、感謝しておるぞ」

男「…恐れいります」

月王「今日お前を呼んだのは二つの話があっての事だ。…女は一緒ではないのだな」

男「謁見を命ぜられたのは手前だけでありますれば」

月王「ふむ…して男よ、皇女を妻取ってはくれるものか?それによってはもう、我らは身内…そのような堅苦しい話し方は要らぬ」

そこを問うなら、せめて昨夜の宴席で問うべきではないかと思う。

そうでないという事は、やはり断る事は許されなかったのだろう。

男「…私などの妻にするには勿体なき姫君ではございますが、それを断る術も理由も持ちませぬ故」

月王「そうか!それはめでたい!…ならば皇女も同席すればよかったものを、今はどうしておる?」

男「部屋で待っているよう申しつけはしたのですが、この謁見の間の扉の前で待つ…と」

月王「なんと、ではそこにおるのではないか。おい、番兵…すぐに中に入るよう申せ」


33 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/20(日) 15:47:39 ID:XrDTOfew

番兵に招かれ、女はこの部屋に入ってくる。

女「おはようございます、お父上」

月王「よく参った皇女…いや、もはや我が娘であるより先に男殿の妻。女…と名で呼ぶべきであろうな」

「はい、よき妻となれるよう精進いたします」

女は俺がするように王に跪くではなく、姿勢良く直立して王に相対している。

その様に改めて彼女が末位に近かろうとも、やはり王族の者なのだと実感した。

月王「男殿はこの国にとって欠かす事のできぬ最高の剣士、その妻となれた事はそなたにとって誇るべき誉れと心する事だ」

女「もとより、承知しております」

月王「うむ…では大臣、あれを」

大臣「こちらに」

月王「男、そして女よ。これを受け取るがいい」


34 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/20(日) 16:04:21 ID:XrDTOfew

月王「昨日、男殿が持ち帰った竜の瞳を一晩かけて切り出し、職人に作らせたのだ。ドラゴンキラーたるそなたには相応しかろう」

王が手渡したのは真紅に輝く小さな石があしらわれた、一対の指輪だった。

月王「竜の瞳を切り出すのは骨が折れたと職人が申しておったそうだ。金剛石の刃をいくつも駄目にして作った至高の品だ、そなたらの婚儀の証として受け取ってくれ」

男「…ありがたき幸せ」

俺は二つの指輪を受け取ると一度立ち上がり、女の方を向き直って再度膝まづいた。

男「…女、左手を」

女は俯いた様子で、躊躇いながらその左手を差し出す。

やはり少なからず俺の妻となる事に抵抗があるのだろうか…そう思いながらも彼女の手をとった。

「…改めて、よろしく頼む」

薬指に小さい方の指輪を通す時、彼女の手が少し震えている事に気付く。

視線を上に遣り、窺った彼女の顔は…

男(…なんだ、そういう事か)

先の躊躇い、そしてぎこちない手の延べ方の理由はすぐに察せられた。

彼女の顔は茹で上がったロブスターのように真っ赤だったから。

思わず吹き出しそうになるも、王の眼前である事を踏まえて何とか堪える。


35 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/10/20(日) 21:13:17 ID:XrDTOfew

月王「さあ、もうひとつの話だ。話の方向性は察しがつこう?」

男「新たな討伐任務…でございますか」

月王「その通りじゃ、請けてくれような?」

男「…喜んで」

心がたぎった。

早く、俺に次の竜討伐の命を。

憎きワイバーンを倒すために、兵を伴わせると言ってくれ…俺は口には出さずにそう願う。

しかし王が告げたのは、違う任務の命令だった。

月王「この国の北東部にある港町へ赴き、付近より繰り返し町を襲っているサイクロプスを討伐して貰いたい」

男「………」

期待とは違う展開に、少し言葉に詰まってしまう。

月王「どうした、不服か?」

男「…滅相もない事でございます」


36 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/20(日) 22:26:30 ID:XrDTOfew

月王「早くワイバーンを討伐したい…そうじゃな?」

昨夜の宴でサラマンダーが仇の竜ではなかった事、そしてワイバーンこそがそうに違いないという事は話していた。

故に今の微妙な間に含まれた真意を、王は悟ったようだ。

男「…私は王より命を頂戴すれば、それを遂行するまで。己の誇りに背くもので無い限り、喜んで死地にも赴きましょう」

咄嗟に出た取り繕う台詞は、一部を隣の女性の言葉に借りたもの。

月王「よい…その気持ちもよく解る。しかしこの任務は憎きワイバーンを討つ事に繋がる布石と考えて欲しい」

男「………?」

月王「…昨夜の宴の席で、そなた自身も申しておったな。現実にあの翼竜を討つ事の困難さを」

王は長い髭を触りながら、語り始めた。

月王「そなたの話においても、また各地よりの情報を元としても…あの翼竜の飛ぶ速さはサラマンダーの比ではない」

男「…その通りでございます」

月王「そのままでは矢もまともに当たらず、ましてや剣や槍が届くとも思えぬ。魔法もいかに略式詠唱を用いようとも狙いの定めようがあるまい」

それらは王の言った通り、昨夜の俺自身が言った事だ。

仇の竜を討つ事に気は急いても、現実的な討伐に向けた作戦や勝算の目処はついていない。


37 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/20(日) 23:28:16 ID:XrDTOfew

月王「やはりあの竜を討つなら、その速さをどうにかしなくてはならぬ。いかに男殿と言えど、何の見通しも無く挑めば勝機は薄い…違うか?」

男「…返す言葉もございません」

月王「しかしこの普通の方法では攻撃がままならない…という条件、ワイバーンだけに限った話ではないと思わぬか?」

たくわえた長い顎鬚に隠れその口元の表情は窺えないものの、おそらく王はそう言いながらニヤリと口の端を上げただろう。

俺は少し考えを巡らせ、導かれた答えを口にした。

男「海竜サーペント…でございますか」

月王「その通りじゃ。いかに雷撃の魔法を海に落としたところで、それだけでとどめを刺す事はできまい」

確かにそうだ。

では星の国のドラゴンキラーは、どうやってサーペントを海の藻屑としたのか。

月王「…実はその星の国のドラゴンキラーを、呼び寄せておる。今回の作戦はその者と男殿を引き合わせ、共同の戦線を張るための味利きと考えて欲しい」


38 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/21(月) 00:02:15 ID:aIy4nT2g

……………
………


…北東の港町へ続く街道

男「…よし、少し休もう。予定のペースよりは幾分かリードしている。星の国のドラゴンキラー殿は船で港町へおいでだ。そう到着が早まる事はあるまい」

副隊長「はっ」

街道の脇、草原に陣取った隊員はそれぞれ肩の荷物を降ろして休息をとる。

このペースで歩けば目指す港町へは、あと二日とかからないだろう。

男「女、足は大丈夫か」

女「平気です。ただ…私だけ何も荷物を持ちもせず、それが申し訳なくて」

初日は靴擦れに悩まされ、途中からは荷馬車の隅に腰掛けていた彼女も、三日目から再び自分の足で歩き始めた。

慣れない徒歩の旅に違いないだろうに、華奢な見た目に似合わず中々に芯が強い。

俺は彼女を連れて木陰に歩み、並んで腰を降ろした。


39 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/21(月) 00:11:33 ID:aIy4nT2g

男「…無理はするなよ」

女「自分から同行を申し出たのです、弱音など」

男「…足を出してみろ」

俺は隣に座る彼女の足を引ったくり、カリガの紐を緩めようとした。

女は俺の手を抑え、くぐもった声で「自分でやります」と言ってからぎこちなく紐を解いてゆく。

男「ずいぶん赤くなってるじゃないか」

女「そ、そんな事はありません!」

少し腫れた足を見て俺が言った言葉に対し、女は頬を手で抑え反対を向いた。

俺は最初その理由が解らなかったが、どうやら彼女が俺の言葉の意味を取り違えたらしい事に気づき、思わず笑ってしまう。

男「ははっ、違う違う。赤くなってるのは、お前の足の事だ」

女「え…!?」

驚き振り返る、女。

その頬が染まっているのは勘違いを恥じたせいか、その前からだっただろうか。


40 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/21(月) 00:49:28 ID:aIy4nT2g

男「そういえば王の前で指輪を君の指に通した時にも、見事なほど頬を染めてたな。あれも笑いそうになったよ」

女「…仕方が無いじゃないですか。あのような経験、あるはずがありません」

彼女は拗ねたように俯き、上目遣いに俺を見て零す。

その顔はまだあどけなさを残し、気丈に振る舞ういつもよりも可愛らしく俺の目に映る。

これが仮にも俺の妻だとは、改めて勿体ない事だ。

俺は荷物からまだ使っていない綺麗な拭き布を取り出し、水筒の水を染ませて絞り彼女の足に当てた。

女「あの、それも自分で」

男「いいから…それともこうされる事は、自分の誇りに背いてしまうのか?」

女「…意地の悪い事を」

気まずそうにしながらも、彼女はそれ以上の抵抗を諦めたようだ。


41 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/21(月) 01:02:09 ID:aIy4nT2g

女「…その指輪、男様は指に通しては下さらないのですか」

足を冷やされながら、彼女は俺の胸元を見て言った。

男「ん…?ああ…俺が指に通して持っていたら、すぐに傷まみれになって変形してしまうよ」

俺が首から提げたペンダントのトップは、彼女の指に光るものと一対のあの指輪。

俺はまだその指輪を、一度も正しい方法で身につけてはいない。

男「それと…俺は両親の仇を討つまでは、ずっと喪に服してるつもりなんだ。それもあってね…ひとまずは君との婚姻も、形式上のものとさせて貰いたい」

女「ではその翼竜を倒せば、私は男様の妻として認めて頂けるとあいう事なのですね」

男「変な言い方をしないでくれよ。君を認めるという話じゃない…ただの俺の中の拘りだ」

本音を言ったつもりだが、彼女は不服ありげに小さく溜息を落とした。

女「…同じです、私はまだ男様の妻になれてはいないのですね」

別に心からなりたい訳でも無いだろうに、そう思ったが言うと余計に機嫌を損ねそうだ。

俺は沈黙をもって返事に代える事にする。


42 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/21(月) 01:20:08 ID:aIy4nT2g

今、この束の間の休息をとる丘はなだらかだが、標高はかなり高いようだ。

木陰に入れば風は涼やかで、旅に疲れた身体を優しく冷ましてくれる。

草原は風が描く波模様に揺れ、その葉が擦れあう音も耳に心地良い。

このまま小一時間でも目を閉じて眠りに落ちれば、随分と癒される事だろう。

少し離れて休む兵達の中には、座ったままうつらうつらとしている者もいるようだった。

男「…眠いな」

女「眠っても構いませんよ」

男「そうもいかんだろう、俺が規範とならなければ」

ああ…故郷の田畑を耕していた時は、こんな日には仕事も半分に木陰で昼寝をしても誰も文句は言わなかった。

自ら望んで竜討伐の任を請けたとはいえ、それが懐かしく思えるのは仕方がない。

女「あとどのくらい休まれるのですか?」

男「三十分くらい…かな」

女「なら、ひと寝入りできるじゃありませんか」


43 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/10/21(月) 01:28:17 ID:pH3qDYyQ
((o(´∀`)o))ワクワク


44 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/21(月) 01:42:13 ID:aIy4nT2g

女「必要とあらば…ですが」

男「…なんだ?」

女はこちらを見ず、黙ったままで自らの膝をぽんぽんと叩いた。

男「………ああ、なるほど。ありがたいが、それこそ兵に示しがつかないよ」

ふう…と、女はまた溜息ひとつ。そして少し離れた隣の木陰に憩う副隊長に問いかける。

女「副隊長殿、男隊長は暫しの昼寝を所望されております。これは隊の規範を乱す事になり得るでしょうか」

男「ちょ…女っ」

女「…また、それを労う為に妻が膝を貸す事は?」

少しの間、副隊長はぽかんとしているようだったが、やがていかにも可笑しそうにからからと笑って答えた。

副隊長「…よろしいのではないですか?その方が兵も心置きなく休めましょう」

女「…との事です、男様」

そう言う彼女の目はどこか、してやったりという風に笑っているように思える。

男「参ったね…どうも」

女「…先ほど少々意地悪な事を言われましたので」

断る事は叶いそうもない。俺は照れ臭くも、その柔らかな膝に頭を預ける事にした。


45 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/21(月) 01:57:54 ID:aIy4nT2g

たぶん、彼女なりに俺に歩み寄ろうとしてくれているのだろう。

互いにあまりに突然の縁だった、ぎこちないのも無理は無い。

男「…女、ひとついいか」

ただ、とりあえず今…彼女に望む事は。

女「何でしょうか、男様」

男「それ、やめてくれ」

本当に俺は、ついこの間までただの農夫だったんだ。

女「それ…とは?」

男「その呼び方、だよ。いつまでも馴染まない」

王族を妻とし、そんなくすぐったくなるような呼び名が似合う男じゃない。

女「では…旦那様」

男「呼び捨て希望、無理なら『さん』付け。できるだけ話し方も砕いて、気を遣わないで」

女「…努力します」

そう言って彼女は、俺の頬をそっと触れた。

それが冷たくて心地よかったという事は、たぶん俺の顔は火照っているのだろう。


46 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/10/21(月) 02:00:25 ID:aIy4nT2g
今夜はここまでです
まだノリの軽いキャラが出ないので、すっげえ書きにくい
いつまでもこんな重い感じじゃないつもりなので、見守ってやってください


47 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/10/21(月) 02:34:42 ID:ZcgtGyCk
楽しんでるよ~

乙です



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