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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
80 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/23(水) 19:42:04 ID:Ces6stes

……………
………



『兄上…どうしてみんな母上の弔いに来てくれないの?』

『…女、僕達はこれから強くならなくちゃいけない。そうしなければここには居られなくなってしまう』

『でも、兄上…私は強くなんかなれないよ』

『大丈夫だ、僕達は宮廷魔導士だった母上の子。絶対に優れた魔導士になれる力を持っているはずだ』

『…母上の…力…』

『大人達が皆、僕達を軽んじるなら…この国にとって無くてはならない存在になるしかない』

『うん…がんばる』

『そうだ、母上を蔑ろにした奴らを僕達で見返してやるんだ…』


81 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/23(水) 19:42:57 ID:Ces6stes

『兄上、お気をつけて…』

『ああ…だがもしもの事があったら、お前だけでも強く生きるのだぞ』

『そのような事を言わないで、私を独りにしないで下さい』

『女、お前はもうこの国で私に次ぐほどの魔導士となった。何も恐れる事は無いさ』

『私は兄上を失う事が怖いのです。だから…必ず戻って下さい』

『…ああ、きっと帰るよ。ドラゴンキラーの称号を得てな』


82 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/23(水) 19:43:43 ID:Ces6stes

『王はいつまであの卑しい情婦の娘を城に置くつもりなのかしらね』

『しっ…姉様、聞こえるわよ。他の情婦の子もいるわけだし、気にしても仕方が無いじゃないの』

『他の腹違い達は皆、私たち正当な王族には従順だわ。あの女だけよ…魔導士として優秀だか知らないけれど、目が生意気なのよ』

『どうせ最後は政略結婚に利用されるだけよ。その時に私たちが使われるよりマシだと思えばいいわ』

『それはそうね…休戦協定中の落日の国への人柱にでもされたら堪ったものじゃないし。…アレがそうなればお笑い種だわ』

『そうそう…そんな行く末を待つしかないんだから、哀れなものよねえ…』


83 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/23(水) 19:45:11 ID:Ces6stes

『女よ、そなたはサラマンダー討伐から凱旋する男殿の妻となるのだ』

『そんな、知りもしない殿方の妻などと!』

『男殿は我が国が求め続けたドラゴンキラー。王族の端くれにでも取り込まねば、他所の国に引き抜かれかねん』

『…なぜそこまで、ドラゴンキラーを欲するのですか』

『どの国の領土でも無い砂漠地域に巣食う竜、ヴリトラ…それを討伐すれば我が月の国は実質、砂漠を支配できる。あの大量の資源が眠ると言われる砂漠をだ』

『………』

『そこへ大義名分をもって兵を送るには、ドラゴンキラーの率いる部隊でなくてはならぬ。男殿は我が国に欠かす事のできん存在なのだ…女よ、解ってくれような』

『…せめて、僅かでもその方を知るための時間を頂けませんか』

『時間を得てどうする、まさか断るつもりでおるのか?…そなたは優秀な魔導士、ドラゴンキラー殿の妻として付き従うには申し分ない。…そなたしかおらぬのだ』

『しかし…お父上、男殿の方が私との縁を望まぬ可能性もあります』

『男殿が戻るその晩には祝賀の席を設ける。そなたはその後、部屋を訪ねるのだ』

『お父上!それは…!』

『何…美酒に酔った男が、一人部屋を訪れたそなたを受け入れぬはずがあるまい』

『そんな…』

『あくまでも男に身を委ねた後で素姓を明かすのだ。皇女の純潔を奪ったとあっては、婚姻を断るなどできまいて…』


84 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/23(水) 19:45:50 ID:Ces6stes

『あー、…そういう事か』

『それは気持ちだけでいいんだ』

『俺からも王に礼を言っておくから。その…なんだ、夜伽はした事にしてさ』

『君が魅力的じゃないわけでなく、単に突然過ぎて…』

『…俺は舞踏会の色ボケした貴族のように、知り合ったばかりの女を抱くような趣味は無い』

『一応、形式上という事で王の厚意は受けよう。よろしく頼む…女』

『俺みたいな田舎農夫の妻になるようなつもり、無かっただろうに』

『ははっ…言うじゃないか。いいな、そういう方が付き合いやすい』

『うん…泣き止んでからで、構わないよ』

『仕方ない…ただし戦場では俺の命をきいてもらうぞ』

『女、足は大丈夫か』

『その呼び方、だよ。いつまでも馴染まない』

『最初の夜、君が切った啖呵は何も間違ってなんかいない』

『俺には、君が必要だ』


85 名前:深夜にお送りします [sage] 投稿日:2013/10/23(水) 23:29:59 ID:ybQprA06
イケメン


86 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 07:25:40 ID:s2pvoESU

……………
………


…サイクロプスの谷付近


石灰岩で形作られたカルスト台地の渓谷。

木もあまり生えていないこの谷が、港町を襲うサイクロプスの住処だという。

月の副隊長「…せり出した崖の先の見通しがききませぬな」

男「ああ…地形の深さからして、そろそろ警戒しておかねばならんだろう」

サラマンダー討伐での行軍においても、偶然一体のサイクロプスに遭遇した。

その際は不意に現れた巨人に先制攻撃を受け、先頭を務めていた兵一人が犠牲になってしまったという経験がある。

正々堂々と対面しての勝負など人間同士だから叶う話、魔物に通用する理屈ではない。

見通しのきかない地形は、そんな危険を孕んでいる。


87 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 07:26:15 ID:s2pvoESU

時魔女「じゃあ、ボクが偵察に行くよ」

男「待て、一人じゃ…」

制止しようとした俺を気にもとめず、時魔女は自らの胸に左手を当てて風変わりな詠唱を始める。

時魔女「コンバート開始、空間跳躍モード…」

普通の魔導士が詠唱する古代言語もさっぱり解らないが、時魔法のそれもまた不可解な響きだ。

時魔女「位置確認、座標ロックオン…よーし、行ってきます」

そう言うが早いか、時魔女の姿が目の前から消える。

そして次の瞬間、彼女の姿は既に視界を塞ぐ原因である崖の上にあった。

見晴らしが良いであろうそこは、まともに声が届くほど近くはない。

時魔女はこちらを向いて両手で頭上に大きな○印を作り、安全をアピールする。

どうやらまだすぐにサイクロプスが潜んでいる事は無さそうだ。

男「時魔女…!上だ!」

サイクロプスは…だが。

月の副隊長「いかん、時魔女殿は気づいておられんようですぞ!」

こちらを向いた彼女の背後上空、切り立った崖の更に上に潜んでいたハーピー三羽が時魔女に迫っている。


88 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 07:27:35 ID:s2pvoESU

男「くそっ!下しか見なかったな…!」

月の副隊長「弓兵!」

弓兵「無理です…!届きません!」

俺は大きく手招きをする動作で、彼女を呼び戻そうとした。

しかし彼女はまだ胸に手を当ててはいない、時魔法の準備時間を考えればとても間に合うはずが無い…しかし、その時。

女「…私が」

そう進言すると、女はその細い右腕を崖の上に向けて、すっ…と延ばした。

女「凍りつきなさい」

一瞬の事だった。ハーピー達が羽の動きを止めたかと思うと、キラキラと氷のつぶてを散らしながら墜落してゆく。

この距離で三羽同時に…しかも。

男「お前…今、詠唱してなかったよな」

女「あの程度なら、無詠唱で充分です」

男「お前…本当に凄いんだな」

女「…これなら男さんを支えられますか?」

充分過ぎるだろう、ちょっと妻が怖くなった。


89 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 09:13:03 ID:s2pvoESU

星の副隊長「何をやってるんですか隊長…いきなり月の方々のお手を煩わせて」

星の国の副隊長…というよりも、さながら時魔女の世話係とも思える女性は、呆れたように自らの上官を窘めた。

なるほど、なかなかに綺麗な女性だ。ウチの副隊長が昨夜の宴席でわざわざ二人掛けの小テーブルを用意させたのも頷ける。

時魔女「いやー、格好つけて偵察したつもりがね…ごめんごめん」

男「まあ何事も無くて良かった。…女、よくやってくれた」

女「勿体無きお言葉です、討伐隊隊々長ドラゴンキラー殿」

男「よせよ、からかうな」


90 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 09:13:38 ID:s2pvoESU

時魔女は崖の上から見えたこの先の様子を説明した。

暫くの区間に変わった様子は無いが、視界の果て辺りには不自然に折れた木が見えたと言う。

おそらくサイクロプスが潜むのは、その辺りと思われる。

時魔女「よっし、じゃあ…星の国、全兵に告ぐ!これより我が隊は月の国討伐隊の指揮下に入る!」

星の兵「はっ!」

時魔女「…男隊長、指令をどーぞ」

やれやれ…解ってはいたが、他国の兵の命まで預からねばならんとは。

自国と他国で命の重さが違うわけではないが、より肩に負う荷は重くなったような気がする。


91 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 09:19:06 ID:s2pvoESU

男「…では全戦力に命じよう。先陣は月の盾兵隊、その後方に両国の槍兵を配置する。両国弓兵隊はその次に控え、サイクロプスの姿を視認次第、距離をもったまま目標周囲に散開せよ」

星魔女「ウチの弓兵はクロスボウ使いだから、射程は長いよ?」

男「…クロスボウなら大弓よりも有効射程は短いんじゃないのか?」

星魔女「ちょっと機械仕掛になっててね…圧縮空気を使うんだけど。とにかく大弓より30%位は飛距離が出るの。少し精度は落ちるけどね」

やはり星の国は機械を発達させたというだけの事はある。

精度が低くとも的の大きい巨人相手なら、射程の長さは有利に働くだろう。

男「では星の弓兵は月の弓兵の後ろ、標的距離については各自の判断で有効な配置をとってくれ」

時魔女「私と女ちゃんは魔法隊と一緒でいいよね?」

男「ああ…俺は盾兵に続くから、魔法隊はその後ろに控えてくれ。…では進軍を開始する、進みながら見通しの良い内に各自陣形を整えろ」


92 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 10:04:05 ID:s2pvoESU

谷間が広く平原のようになったエリアで、布陣を整える。

その先、また少し谷が狭まり見通しに劣る地形に近づいた頃、先頭の盾兵が声をあげた。

盾兵「サイクロプス視認!11時方向、距離およそ300ヤード!まだこちらに気づいていません!」

男「時魔女、サイクロプスに時間停止は使えるか」

時魔女「もちろん。でも大きいから30秒停止を5回くらいで限度かな」

男「よし…おそらく標的は複数体いるだろう、最も近い個体を時魔法で止めて火炎魔法で攻撃。後方の個体は弓で足止めするんだ」

あまり身を隠せる物は無い谷間だ、最接近するよりは早く気づかれるだろう。

近付き過ぎて狭い谷あいに入るよりは、広いエリアで戦うべきとも思われる。

あと150ヤードというところか、弓や魔法の射程には充分に入ったところで、俺は時魔女に目配せをした。

時魔女「コンバート開始、時間停止モード…目標ロックオン、いつでもどーぞ」

男「魔法隊、詠唱準備!時魔女…巨人を止めろ!」


93 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 10:04:37 ID:s2pvoESU

時魔女「いくよっ、時間停止!」

ゆっくりと歩んでいたサイクロプスが、動きを止める。

ほどなく詠唱を終えた魔法隊が火炎魔法を放つと、巨人は火に包まれた。

狭い谷の向こう、異変を察知した他の個体が地を震わせて姿を表す。

その数、現在4体。

男「弓兵、撹乱を狙え!もしサイクロプスの瞳を射抜き、一撃の下に倒した者には、あとでとっておきのバーボンをくれてやる!」

弓兵「そいつぁいい!総隊長、ちゃんと覚えてて下さいよ!?」

男「倒してから言え!…放てっ!」

矢の弾幕が上がる。

巨人はそれを逃れようとばらばらの方向に動き始めた。

火に包まれた最初の一体が、そのままで動き出すが、熱さに悶えて前進する事は叶わないようだ。

女「可哀想に、冷ましてあげましょう…」

刹那、その個体の瞳を氷の矢が貫いた。


94 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 10:07:18 ID:s2pvoESU

巨体が膝をつき、ゆっくりと大地に崩れおちる。

男「…凍結魔法にそんな使い方があるとはな」

女「私にもバーボンを頂戴できますか?」

時魔女「魔力ロード完了、次…いくよっ」

いい調子だ。

七竜を狙うわけでもないこの前哨戦で、悪戯に兵を失うわけにはいかない。

このまま完全勝利を狙う…そう考えた時だった。

盾兵「隊長!さらに追加個体!」

男「くそっ、何体だ!?」

盾兵「それが…!多過ぎて、判りませんっ!」

谷間の向こう、そして気づかなかった鍾乳洞の入り口から、少なくとも20体以上のサイクロプスが現れる。

まずい、こんなにいるという情報は無かった。

月と星、双方あわせて60余名の兵で挑む規模など超えている。


95 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 10:22:35 ID:s2pvoESU

男「いかん!後退しろ!こう多くては広いところで相手をするのは不利だ!弓で威嚇しながら退けっ!」

動きの鈍そうに思える巨人だが、その歩みの幅は大きい。

重装の盾兵が遅れ、追いつかれている。

男「盾兵!回避しろっ!」

巨人が引き抜いた木そのままのような、巨大な棍棒を振り上げる。

男(間に合わない!畜生…大事な兵を!)

盾兵「うわああぁぁぁ!…あ……あ?」

危機一髪のタイミングで、その巨人の瞳が貫かれた。


96 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 10:23:07 ID:s2pvoESU

後ろのめりに倒れる巨体、その矢の主は。

男「誰だ…!?」

一人、崖の上に弓を構えた者の姿が見える。

この隊の兵では無い、あんなところに配してはいないはずだ。

???「バーボンを頂けるんだったかしら?」

独特のチェインメイルに身を包んだ弓使いは、逆光を背負いながら言った。

男「旭日の国の甲冑…!まさか…!?」

???「久しぶりね…でも話す間は無さそうよ」

男「幼馴染…!」


98 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 19:15:26 ID:/gsuce/o

幼馴染「与一流弓術、追影…!」

彼女は崖の上から矢を放つ。

その矢は真っ直ぐにサイクロプスを目掛けた後、その手前で軌道を変えて顔前から瞳を貫いた。

男「矢が曲がるだと…!?」

幼馴染「不思議がってる場合じゃない!しっかりしなさい、男っ!」

言いながら幼馴染は連続で矢を射っている。

突然に懐かしい顔を見た事と、その主が放つ矢の不可解な軌跡に思わず思考が停止してしまった。

だが、ここは彼女の言う通り窮地を脱するのが先だ。

俺は弓兵の矢を受け、動きの鈍くなりかけた個体から討つつもりで剣を抜こうとした。

そこへ駆け寄る時魔女。

時魔女「男!これ使って…!」

彼女は俺に、一振りの風変わりな剣を差し出す。


99 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 19:16:45 ID:/gsuce/o

男「これは…?」

時魔女「試作品だけど、普通の剣として使っても充分強いはず!」

受け取り鞘から抜くと、まずその軽さに驚いた。

柄の付け根には何か指を掛けるように細工され、可動する部分がある。

時魔女「今なら兵達が離れてるから、特殊効果も使えるかも…!男、トリガー握って!」

男「トリガーって…この指のところのか!?」

時魔女「そう!引いて、言うまで離さないで!」

彼女の言う通り、トリガーを人差し指で引いた。

すると刀身の中央に刻まれた模様が柄に近い方から青白く光り、次第に先の方へと伸びてゆく。

同時に剣から発せられる、妙な響きを伴った声。

《充填率30%…50%…70%》


100 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 19:17:15 ID:/gsuce/o

時魔女「うそ…!?チャージがとんでもなく早い…!やっぱり男なら使いこなせるのかも!」

男「どういう事だよ…!?おい、サイクロプス来るぞ!」

もう一番近い巨人個体までは20ヤードと離れていない。

《100%…充填完了、加圧開始…110%…120%…》

時魔女「男!サイクロプスの群れに向かって薙ぎ払いながら、トリガーを放して!」

訳が解らない、でも時魔女にも考えがあっての事だろう。

言われるままに剣を両手に構え直し、横に薙ぎ払いつつトリガーを解放する。

男「こう…かっ!?」


101 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 19:18:34 ID:/gsuce/o

目が眩むほどの青白い閃光、刀身全体が光ったかと思うと、その光が横一閃の帯となり前方十時から二時方向範囲に放出された。

光は一帯のサイクロプスを捉え、瞬く間に消える。

そして巨人達は。

月の副隊長「なんと…!」

時魔女「すごい…本当に使えた…!」

目の前の一体の胴が、ずるり…と横にずれる。

巨人は、光を受けた部位で切断されていたのだ。

今の一撃でサイクロプスの大半が倒れ、残るは7体ほど。

それも一体ずつ確実に、幼馴染の矢と女の魔法によって倒されていく。

その様を見ながら俺はぐらりと揺れ、地に片膝を衝いた。

先の一閃によるものなのだろう、突然すさまじい疲労に襲われたのだ。


102 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 19:32:00 ID:/gsuce/o

男「くっ…倒れた巨人にも油断するな!槍兵隊は制圧された範囲から順に一体ずつとどめを刺して回るんだ!」

声を上げるだけで頭がくらくらとする。

肉体的な疲労というより、気力が失われたような倦怠感が強い。

男(この剣は何なんだ…凄まじい威力だが、これじゃ後が続かない)

月の副隊長「隊長、お見事でありました!あとは私にお任せを…!」

男「ああ…すまん、指揮を…頼む…」

大地が斜めに見える、俺は倒れようとしているのだろう。

時魔女「男…!ごめん、無理をさせて…!」

時魔女が小さな身体で俺を支える。

全身に力が入らず、それに甘えるしかない。

サイクロプスの最後の一体が倒れてゆくのが見えた、とりあえずもう心配は無さそうだ。

そう思うと同時に、俺は意識を手放した。


103 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 19:54:31 ID:/gsuce/o

……………
………


『旭日の国へ行くって、お前…あてはあるのかよ』

『あては無いけど、どうしても行きたいの。無双の弓使いと呼ばれる人を探して、弟子入りするつもり』

『お前、冷静になれよ。オンナ独りでそんな当てずっぽうな事、させられないって』

『…大丈夫だよ、剣術だって男に習って一人前程度にはできるつもり。男もそう言ってくれたじゃない?』

『そうだけど…』

『お願い、男…解って。私はどうしても仇の竜を討ちたい。弓の力でそれを成すには、ただ闇雲に矢を射る訓練をするばかりじゃ駄目なの』

『なら魔法も覚えたらどうだ。お前、そこそこ魔力の適性もあるって…』

『うん、だからこそ…旭日の国の弓使いは、その魔力を矢に付与する技を使うって言うわ。私はそれを習得したい』


104 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/10/24(木) 19:55:57 ID:/gsuce/o
………


『…ありがとうね、港まで送ってもらって』

『本当に気をつけて行けよ。…どうしても入門できなかったら、帰って来い』

『うん、解ってる…竜を討つのは男と一緒にって、思ってるから』

『ああ…誓ったからな』

『男…私ね、男の事…好きだったよ』

『幼馴染…』

『…でも、もういいの。私を心配して引き止めてくれた男を、振り切って行くんだもの。一切の心残りなんか、連れて行かない』

『ああ…それがいいよ』

『だから、言うだけ言っておきたかった。でも気にしないで、私は貴方への恋心も捨てて行くから』

『上等だ、行って来いよ。…船、出るみたいだぞ』

『うん、行ってきます。…さよなら…男』

『…捨てたんだろ、泣くなよ』



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