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女帝「反乱軍ですって!?」
1 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 20:49:06.20 ID:mV9SIlrw0
ある朝、帝国のトップである女帝は大臣の報告を聞いていた。

大臣「……以上が、現在の我が国の収支報告となります。
   財政的にはなんら問題ありません」

女帝「うん、ありがとう」

執事「女帝様」

女帝「なに?」

執事「しきりにうんうん頷いてましたけど、ホントに理解できてます?」

女帝「も、もちろん!」

執事「じゃあ、私に説明してみて下さい」

女帝「ごめんなさい」


3 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 20:52:40.27 ID:mV9SIlrw0
すると突然、部屋に兵士が飛び込んできた。

兵士「女帝様、大変ですっ!」

女帝「ど、どうしたの!?」

兵士「反乱軍が城に攻め込んできましたっ!」

女帝「反乱軍ですって!?」

執事「………」

執事「お前たちは、いったいなにをやっていたんだ!」

兵士「も、申し訳ありません! なにしろ敵は強く……!
   まもなく敵はこの部屋にやってくるでしょう!」

女帝「くっ……なんてことなの……」


4 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 20:55:04.23 ID:mV9SIlrw0
兵士に続き、鎌を持った農民が飛び込んできた。

農民「もう、この帝国の圧政には耐えられないっす!
   反乱っす! 革命っす! 俺が国を変えてやるっす!」

女帝「帝国に逆らうなんていい度胸じゃない!」

女帝も剣を抜いた。

大臣「すいません、私は執務に戻ってよろしいでしょうか?」

女帝「あ、どうぞ」

農民「俺の鎌で、成敗してくれるっす! 喰らえっ!」ブオンッ

執事「女帝様っ!」

女帝「きゃああっ!」


5 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 20:56:22.01 ID:mTl/uzEqP
農民の一人称はおらだろ


6 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 20:59:25.63 ID:mV9SIlrw0
鎌は女帝の前で空を切った。

女帝「う、うぐぐ……この栄光ある帝国が滅びてしまうとは……。
   む、無双……」

執事「無念ですよ」ボソッ

女帝「む、無念……」ドサッ

執事「ああ……女帝様ぁっ!」

農民は鎌を天に掲げ、誇らしげに宣言した。

農民「女帝は滅びたっす! これからは俺たち農民がこの国の支配者っす!
   農民の、農民による、農民のための国にするっす!」

こうして女帝の死とともに帝国は崩壊し、新たな時代が始まろうとしていた。


8 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:04:00.31 ID:mV9SIlrw0
農民「えぇと、こんなもんでいいっすかね?」

執事「悪いな、忙しいのに」

農民「いえいえ、俺も面白かったっすから」

女帝「迫真の演技だったわ」

農民「女帝様、ちゃんと大臣様や執事さんのいうことを聞くんすよ。
   お二人を困らせちゃダメっすよ」ナデナデ

女帝「うんっ!」

農民「じゃあ、これ」

女帝「チョコレート!?」

農民「町で買ってきたんすよ。あとで食べて下さいっす」

女帝「ありがとう!」


9 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:08:37.75 ID:mV9SIlrw0
兵士「では、私もこれで……」

執事「ああ、ありがとう」

農民に続き、兵士も出て行った。

執事「………」

執事「女帝様」

女帝「なに?」

執事「昨日、今朝はちょっとしたイベントがあると聞いていましたが、
   なんなんですか、今の茶番は」
  (私もついノッてしまったが)

女帝「ひどい、茶番だなんて……!」

執事「すいません。私の乏しい語彙力では、
   今のやり取りを表現する他の単語が浮かびませんでした」


10 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:12:31.04 ID:mV9SIlrw0
女帝「私もたまには帝国っぽいことがしたくなってね。
   だから昨日のうちに、農民と兵士に頼んでおいたの」

執事「今のが帝国っぽいこと、ですか……?」

女帝「帝国といったら、圧政と反乱でしょ」

執事(えぇ〜……)

執事「どこからそんな知識を得たんですか?」

女帝「本で読んだの」

執事(きっと、なんかの小説だな……)


11 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:16:07.08 ID:mV9SIlrw0
執事「でも圧政というわりに、農民のあの口調は許容するんですね。
   なになにっす、っていうやつ。他の国じゃ絶対許されませんよ」

女帝「たしかにちょっと無礼だったかもしれないけど……。
   撫でてくれたし、チョコくれたし、許してあげる」

執事(安い君主だなぁ)

執事「しかし、一国の君主が下々の者からもらったものを
   毒味もなしに食べてはいけません。私が毒味しましょう」サッ

女帝「あ」

執事は女帝からチョコレートを奪い取った。

執事「では、一口」モグッ

女帝(え……これってまさか……間接キス!?)


12 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:19:29.30 ID:mV9SIlrw0
執事「うん、もう一口」モグッ

女帝「え?」

執事「これはなかなか……」パクパク

女帝「ちょっ……」

執事「ちょうどいい甘さでデリシャスです」モグモグ

女帝「あ、あぁ……」

執事「すいません、ほとんど食べちゃって。
   こんなちっぽけなのをお渡しするのはかえって失礼なんで、全部食べますね」モグッ

女帝「………」


13 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:22:03.50 ID:mV9SIlrw0
女帝「なんで、全部食べるのぉ!」

執事「あ、すいません。つい……」

女帝「な、なんでぇ……」ポロッ

執事(えぇ〜……)
  「す、すいません。あとで新しいの買ってきますから……」

女帝「新しいのじゃダメなの!」

女帝「農民がくれて、執事がかじったやつが欲しかったのに!」

執事(よく分からないが、こだわりがあるのか……)

執事「ならば、圧政者らしく私を死刑にして下さい」

女帝「え!?」


14 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:24:12.45 ID:mV9SIlrw0
執事「女帝様が今お持ちのその剣で、私の首を叩き斬って下さい」

女帝「く、首を……」

執事「首がイヤなら、手でも足でもかまいません。
   少し時間はかかりますが、血が流れて死ぬでしょう。
   女帝様のチョコレートを食べた罪、この命で償います」

執事「さぁ」

女帝「うっ……」

執事「さぁ!」

女帝「で、できないよ……そんなこと……」

女帝は剣を床に落とした。

女帝「ご、ごめんなさい……」

執事「分かればいいんです」


15 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:29:32.21 ID:mV9SIlrw0
執事「しかし、いくら帝国っぽいことがしたくとも、
   我が帝国はとても小さいですからね」

執事「領内にあるのはこの城と、さっきの農民が暮らしている町だけです」

執事「帝国どころか、国と呼べるかも怪しい規模です」

女帝「………」

執事「しかも、この帝国は三つの強国に囲まれております」

執事「北には強大な騎士団を抱えるナイト共和国、
   東には、魔法の研究が栄えているメイジ共和国、
   西には屈強な猛獣を兵として扱うサバンナ共和国」

執事「いずれもこの帝国より大きい都市を、いくつも持つ大国です」


16 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:30:22.66 ID:mV9SIlrw0
執事「元々は三国ともにこの帝国から独立した国家で、
   今でも三国を束ねているのは帝国ということになっていますが、
   そんなしきたりはもはや形骸化してますしね」

執事「帝国っぽいことといえば他国侵略ですが、
   どの国に戦争を仕掛けても一瞬で勝負はつくでしょう」

執事「なにせ、我が帝国の兵力はさっきの兵士含め10名足らずですから」

女帝「んもう、そんなこと分かってるわよ……!」

女帝「しょうがないじゃない、私がこの国を作ったわけじゃないんだし。
   でもせっかくだから、帝国っぽいことをしたかっただけよ」


17 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:30:26.14 ID:HM41mKmW0
何がわかればいいんだ


18 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:35:41.13 ID:mV9SIlrw0
女帝「………」ショボーン

執事(まずいな、落ち込まれてしまった)

執事「……仕方ありませんね」

執事「じゃあ、町に重税の取り立てにでもいきますか?」

女帝「うん、そうする!」

執事「では食事を取ったら、町に取り立てに向かいましょう」

女帝「楽しみだわ。帝国領民に私の恐ろしさを骨の髄まで味わわせてやらなきゃ!」

女帝「あ、あとチョコレートも買ってね」

執事「はいはい(町でチョコレートを買う君主をだれが恐れるというのか)」


19 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:38:42.84 ID:mV9SIlrw0
女帝と執事は、帝国領内の町を訪れた。

町民「お、女帝様と執事さん!」

町民「これから仕事なんですが、見学していきませんか?」

女帝「ダメダメ、今日の私は暴君モードなの。
   残念だけど、あなたたちと馴れ合うつもりはないわ」

執事(暴君モード……初耳だな)

町民「はぁ、そうなんですか」

女帝「だから今日は重税を取り立てに来たの」サッ

女帝「ちょーだい」

町民「………」

町民「くそぉっ……このお金だけは……!
   持っていかれたら家族は食えなくなってしまうんです!
   でも仕方ありません……持っていって下さい」チャリン

女帝は小銭を手に入れた。

女帝「どうもありがとう!」
執事(どうもありがとう、女帝様に付き合ってくれて)


20 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:42:04.82 ID:mV9SIlrw0
町民「じゃあ、私はこれで」

女帝「お仕事頑張ってね」
執事「今度来た時は見学させてもらうんで」

女帝「見て見て、さっそく税を取り立てたわ!」

執事「さすがです、おみごと!
   すぐにも、領民が激怒して反乱を起こしますよ、きっと」

女帝「うん、私には才能があるのかも!」

執事(ダメだ、この方には暴君の素質がまるでない……)

執事(いや、なくていいのか)

執事(知らず知らずのうちに、私も女帝様のペースに飲まれてるな……)


21 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:44:01.56 ID:mV9SIlrw0
八百屋「おお、これはこれは女帝陛下に執事さん」

八百屋「いい野菜が入ってるんで、ぜひ持っていって下さいよ」

女帝「八百屋さん、今日の私はいつもの私じゃないの。
   重税を取り立てる泣く子も黙る暴君なのよ」

八百屋「な、なるほど……」

八百屋「……じゃあ、年貢としてこの大根持っていって下さい!」

女帝「やった!」

女帝は大根を手に入れた。

執事「……よかったですね」
  (ようするに、もらえればなんでもいいんだな)

女帝「うん、城に戻ったら執事の大好物、ふろふき大根作ってあげる」

執事「ホントですかっ!?」
  (ありがとう八百屋! ナイス八百屋!)


23 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:49:15.46 ID:mV9SIlrw0
その後も二人は容赦なく税を徴収し続けた。



老婆「じゃあ、このお人形をあげましょうかね」

女帝「わっ、可愛い!」
執事(高そうだけどいいのかな……)



農民「さっきはどうもっす! 芋がいっぱいあるので、どうぞっす!」

女帝「うん、これはいい芋だわ」
執事「いい晩ご飯になりますね」



町長「ふぉっふぉっ、じゃあこの町を全て差し上げましょう」

女帝「えっ、いいの!? さすがにそれはまずいんじゃ……」
執事(あなたが国で一番偉いでしょうに……)


24 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:50:20.97 ID:mV9SIlrw0
町医者「では、包帯をあげましょう」

女帝「執事が怪我したら巻いてあげるから、なるべく早く怪我してね」
執事「かしこまりました(絶対イヤだ)」



木こり「斧を持ってかれたら仕事ができないんで……。
    切り株くらいしかあげるものがないなぁ……」

女帝「じゃあ執事、お願いね」
執事(これ持って帰るの!?)



少女「あたしの絵本あげます!」

女帝「ぜひ読ませてもらうね」
執事(もう税でもなんでもないな。というか、切り株重すぎ……!)ヨロッ

女帝と執事の鬼のような徴税に逆らえる領民は、誰一人としていなかった。


25 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:53:04.84 ID:uVDKI2dq0
これは暴動おこるでぇー(棒)


27 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:55:40.47 ID:mV9SIlrw0
帝国城──

女帝「だいぶ税が徴収できたわね」

執事「そうですね……」ドスン

執事「ところで、この切り株はどうするつもりですか?
   すんごく重かったんですけど」ハァハァ

女帝「う〜ん、そうねぇ……。じゃあ森に戻してきてくれる?」

執事「え……?」

女帝「やっぱり切り株は森にあった方がいいかなぁ〜なんて」

執事「え……?」ギロッ

女帝「ご、ごめんなさい。椅子にするから、椅子にするから」

執事「助かりました。あやうく私が反乱軍になるところでしたよ」


28 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:56:54.42 ID:mV9SIlrw0
切り株を運ばせたお詫びとして、女帝はふろふき大根を作った。

女帝「はい、どうぞ」

女帝「たっぷりあるからね」

執事「いただきますっ!」

執事「うまい……うまい……!」モシャモシャ

女帝「もっと味わって食べてよ」

執事「す、すいません。でも、手が止まらないんです!」モシャモシャ

執事「うますぎるっ!」モシャモシャ

女帝「ふふ、ありがとう」

執事(切り株を運んで疲れ切った体に、大根の味が染みわたる……!)


29 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 21:59:58.00 ID:ZPzOOAmg0
この感じだと兵士は最初の奴一人だけだな


30 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2012/02/29(水) 22:01:42.73 ID:mV9SIlrw0
帝国城 寝室──

執事「どうでしたか、今日は?」

女帝「うん、とても楽しかった」

執事「そうですか。それはなによりです」

女帝「いつかまた、やってもいい?」

執事「かまいませんが……切り株とかをもらうのは止めて下さいね。
   私は明日、両腕を動かせないでしょう」

女帝「分かったわ」

執事「では、おやすみなさいませ」

女帝「おやすみなさい」

帝国の長い一日が終わりを告げた。



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