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猫「吾が輩は猫である」
250 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 15:59:52.17 ID:eQ2jf1JfP
――帰り道、夕暮れ

かららららっ……。

女「荷物を運ぶのが楽になって良かったじゃあない」
男「こんな高価な物、本当に頂いて良いのですか?」
女「それくらい別段大したことは無いわ」
男「はぁ」

女「……」
男「……」

女「――嗚呼、そういえば」
男「何か?」

女「昨日謂ったわよね。自転車の練習をしておきなさいと」
男「そう謂えばそんな話もしましたね」

女「丁度良かったわ。わたしの自転車で練習をされて、
 仕舞いに壊されてしまっては厭だもの」
男「御心配せずとも勝手に女さんの自転車を使う様な事はしませんが」


251 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 16:07:20.66 ID:eQ2jf1JfP
女「それに。何時までもそうやって押して居るだけでは、
 態々自転車を買った意味が無いのだから、
 確りと練習をしておくことね」

男「はぁ。精々頑張ります」

女「……」
男「……」

女「――ねぇ、男くん」
男「はい?」

女「そう謂えばわたしは、
 こんな綺麗な夕暮れの中を誰かと帰路に着くと謂うのは、本当に久しぶりだわ」
男「女さん……?」

女「――昔、今となっては本当に昔の事だけれど。
 お父様とお母様と三人で、この道を歩いたのを覚えて居るわ」

男「……丁度こんな、少しだけ胸を打つ程綺麗な洛陽の中を?」
女「そうね。丁度こんな、何もかもを透かしてしまいそうな洛陽の中を」


252 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 16:13:04.19 ID:xe6ookAB0
いいよいいよ


254 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 16:18:19.28 ID:eQ2jf1JfP
かららららっ……。

女「右手にお父様の手を、左手にお母様の手を繋いで。
 濃くなった影がすうっと長くなって……」

男「女さん……」

女「――如何してかしらね。あの頃は、あんなにも仕合わせだったのに。
 何時からかわたしは、わたしを残して去ったお母様を恨み、
 その原因を擦り付けて、お父様をも恨んでしまった」

男「いえ。きっと……仕方の無い事だったのです。
 そして多分それは……其れだけお母様の事を、そして先生――お父様の事を
 大切に思っていたからなのではないかと、私はそう思います」

女「……そう」
男「……ええ」

女「――もう、あんな昔の事は忘れてしまっていた筈なのに」
男「……」

女「不思議だわ。如何してかしらね……。
 如何して――涙が止まらないのかしら……」


255 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 16:27:25.71 ID:eQ2jf1JfP
――屋敷、門

女「――御免なさい」
男「何がですか?」

女「いえ……わたしとした事が、たかが落日に涙してしまうなんて」
男「いえ。きっと必要な事だったのですよ。
 偶には泣かなくては涙が貯まって仕方が無いです」

女「――」
男「女さんは滅多に涙を流したりはしなさそうですしね」
女「……貴方ねえ」
男「おろ。これは失敬」

女「……くすりっ」
男「これは。笑われてしまった」

女「何だか少し疲れてしまったみたい。先に部屋に戻るわね」
男「ええ。ゆるりとされると良いでしょう」

女「――嗚呼、そうだ」
男「なにか?」

女「自転車――確りと練習しておきなさいよ?」にこり


256 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 16:32:25.18 ID:eQ2jf1JfP
ふぅ。此処までが昨日書く予定だったところであります。
なので夕方の部はこれにて。
夕飯やらお風呂やらを終えたら夜の部を書きに来ます。

>>237 ご明察。


259 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 16:49:38.38 ID:rdTKCx8y0
幸せって昔は「仕合せ」と言っていたのか


260 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 17:13:50.62 ID:ALh0XBFd0
どのくらいの時代設定なんだ?何となくはわかるんだが詳しく決まってるなら知りたい


261 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 17:33:49.26 ID:Iry1vBGxO
>>260
明治後期〜大正ぐらいじゃないかな?


262 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 17:37:34.77 ID:gwUsOe6EO
最高にレトロな時代じゃあないか! ガス灯とか若干外国からきたのが混じってる時代が最高


263 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 17:45:11.17 ID:NmKRv7wkO
男がただの気弱じゃなくて書生らしい喋りをするのがいいなぁ…

少し朝ドラにでてた劇団ひとり思い出した


265 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 18:16:30.13 ID:BlUj7zoXO
世界感が中々に面白いな
>>1さんゆっくりでいいから頑張ってくれぃ


267 名前:VIPがお送りします [age] 投稿日:2010/06/25(金) 18:59:27.27 ID:hxRVTaoiO
すごく面白い!大変だろうが是非最後までお願いします


270 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 20:00:23.58 ID:/96+NGtX0
良い雰囲気ですね
続き楽しみに待ってます


272 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 20:16:23.25 ID:TiICUOvTO
男の「おろ。」がかわいいな


273 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 20:19:38.60 ID:hIidKtMyO
好きだなこれ
のんびり待ってますよー


274 名前:VIPがお送りします [修正] 投稿日:2010/06/25(金) 20:20:27.37 ID:tIVn8T0O0
>>261
調べたら神田の伊勢丹は関東大震災で潰れてるらしい
市電が通っていたからおそらく明治後期から大正初期じゃないかと思われ


276 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 20:38:16.70 ID:eQ2jf1JfP
どうもこんばんは。保守ありがとう。

時代は大正初期を何となく想定して書いてます。
だからきっと色々と矛盾は有るはず。「本郷に港はねぇよ!」とか。

あと、漢字遣いなのですが、正直言って適当です。
一応辞書は引いてるけれど、勝手に当て字した物も多いです。
そういえば「仕合わせ」は昔も突っ込まれた気がするのだけれど、
個人的にこっちの方が好きだから使っているだけと言うだけなので。

少し書き貯めしてから開始します。少々お待ちを。


278 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 20:57:56.45 ID:eQ2jf1JfP
――夜、男自室

ガラッ。

猫「……ほおう」
男「なんですか出し抜けに」

猫「いやいや。如何なる事やらと案じていたのだが、
 如何やら上手く行った様ではないか」

男「……果たして、あれで良かったのでしょうか?」
猫「どう謂う事だ?」

男「いえ。女さんは頭では御両親を許したいとお考えなのだと、そう思いました。
 故にあの様な謂い方をしたのですが、
 何だか解った様な口を利いてしまったのではないか、と……」

猫「やれやれ。お主は心配性だな」
男「人の心に触れると謂うのは、とても難しい事です故」

猫「っくく。謂うようになったではないか」


279 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:00:26.50 ID:GONcBkut0
ここの男の「故」は「ので」とルビをふると俺好み


280 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:01:59.55 ID:eQ2jf1JfP
男「時に猫さん」
猫「なんだ?」

男「お借りした本を返そうと思ったのですが、
 男友さんの姿が見えないのです。
 どちらにいらっしゃるか御存知では無いでしょうか?」

猫「嗚呼。其れなら放って置くと良い。
 本は部屋に戻しておけば、それでよかろう」
男「どう謂う事です?」

猫「お主も事情を察する事くらい出来るだろう?
 詰まりはそう謂うことだ」
男「はぁ」

猫「まぁ、お主は今一つ人間臭い処が無い故解らぬやも知れぬがな」
男「まさか猫にこの様な事を謂われる日が来るとは」


281 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:08:53.06 ID:eQ2jf1JfP
猫「して、男よ」
男「はい」

猫「“あの娘が両親を赦したいと考えている”。そう言ったな」
男「私の所感故、誤って居るのやも知れませんが……」

猫「まぁ、其れならば、お主がそう確信を持てた時で良い」
男「何か助言を頂けるのですか?」

猫「ふむ。“願いを叶える”等と嘯いておいて、之まで碌に仕事をしなかった物でな」
男「はぁ」

猫「然しまぁ、吾輩の出る幕が無いと謂うのならば、
 其れは其れで結構な話しなのだがな。
 “猫の手を借りて惚れた女を助けた”等、少々格好が付かないでは無いか」
男「それは、まぁ」

猫「然し、まぁ憶えて置くと良い」
男「何をです?」

猫「“姿灯”。この街で昔語られた事のある話だ。
 季節も良かったようだな。実にお主は運が良い」
男「……スガタビ?」


283 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:13:49.82 ID:eQ2jf1JfP
――屋敷、庭

カパーンッ!

男「ふぅ。薪はこんな物で良いですかね」

ザッ。

男「……ん?」
女「あら。随分と殊勝な事ね」
男「ああ、女さん」

女「そう謂えば、男友くんを見ないわね」
男「それならば、独りにして置くのが良いそうです」
女「?」
男「あぁ、いえ。何でもありません」

女「一緒に入る?」
男「へ?」

女「御風呂よ」
男「……え?」
女「冗談よ。何を鼻の下を伸ばしているのよ、助兵衛」


285 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:19:59.37 ID:eQ2jf1JfP
女「あぁ、そう謂えば」
男「はぁ。まだ何か?」

女「……何か不満でも?」
男「いえ。滅相も御座いません」

女「今直ぐ行けばまだ商店が開いて居る時間だろうから、
 氷菓子を買ってきて頂戴」
男「へ?」

女「御風呂は焚き続けなくていいわ。
 こんなに暑いのだもの、どうせ長湯はしないから」
男「はぁ」

女「折角なら、自転車に乗って行けば良いじゃない」
男「ですから、私は未だ自転車に乗れません故」

女「良い練習の機会じゃあ無い」
男「夜道で練習は危ないでしょう!?」

女「はぁ。一々面倒臭い人ね。
 “お駄賃を上げるから、御使いをして来なさい”。そう謂っているのよ」


286 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:20:47.71 ID:hIidKtMyO
>>279
俺好みの男だなんて・・・
このおホモさんめっ!


287 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:29:30.26 ID:eQ2jf1JfP
男「はぁ。結局徒歩で商店まで来てしまいましたが。
 ――まぁ、女さんも元気になったようで良かったですが」

がらららっ。

男「ええと、御免下さい」

「はい! 少々お待ちを〜っ!」

男「おや。この声は……」

女友「ああ、男さんじゃあないか!」
男「今晩和、女友さん。
 知りませんでした、此処が女友さんの伯父様の商店だったのですね」

女友「ああ、そうなんだ。それで、何か買いに来てくれたのか?」
男「ええ、我が儘な淑女にお使いを命じられまして」

女友「我が儘な……? 女さんの事か?」
男「其れは私の口からは謂えません」


288 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:37:14.13 ID:eQ2jf1JfP
男「そう謂えば女友さん」
女友「ん? なんだ?」

男「男友さんを見掛けませんでしたか?」
女友「男友? 夕刻にライオンへ牛乳の配達に行った時に見たけれど、
 それきりだな。男友がどうかしたのか?」

男「先刻から姿を見掛けません故、少々心配になりまして。
 まぁ、消息筋に拠れば放っておくのが良いそうなのですが」
女友「消息筋?」
男「ああ、いえ。何でもありません」

女友「そうだなぁ……嗚呼、あそこかも知れない」
男「あそこ?」

女友「アイツは此方に来てから何か考え事があると、神田明神に行くんだ。
 そう謂えばライオンで見掛けたアイツは、
 何処と無く元気が無かったかも知れないな」
男「はぁ」

女友「そうだ、男さん。
 わたしももう店を閉めるから、良かったら一緒に行ってみないか?」


290 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:43:31.89 ID:eQ2jf1JfP
――神田明神、境内

りーん……りーん……。

男「然し、良かったのでしょうか」
女友「何がだ?」

男「いえ。恐らく放っておけというのは、
 “独りで考え事をしたい時も有る”という意味だと思うのですが」
 女友「男さんは先刻から可笑しな事を謂う。
 だって、其れは男友本人から直接謂われたのでは無いのだろう?」

男「其れはそうなのですが」

女友「……この桜の木は、春になると淡い桃色の花が美しく盛んに咲くんだ」
男「ほう」

女友「ほら。わたしと男友は北の雪国で育ったから、冬が辛く長かったんだ。
 だから、わたしは毎年桜が咲くのを心待ちにしていたんだ。
 きっと男友にとってもそうだったのだろう。
 桜はわたし達にとって、特別な花なんだよ」


292 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:45:03.58 ID:eQ2jf1JfP
男「おや。あの石段に腰掛けて居るのは……」
女友「やれやれ。矢張り此処に居たか」

男「……」
女友「ん? どうした男さん。行かないのか?」
男「嗚呼……いえ。女友さん」
女友「なんだろう?」

男「この氷菓子を差し上げますから、男友さんとお二人で召上って下さい」
女友「いいのか? と謂うより、男さんは行かないのか?」

男「我が儘な淑女には、今回は我慢して頂きます。
 其れにこのまま家に持って帰っても溶けてしまいそうですし。
 それに何だか今は、此処に――御二人の特別な場所に、
 私は居るべきでは無いと思うのですよ」

女友「そうか、……うん、解った。
 何だか済まないな。わたしが誘ったばかりに」

男「いえ、いいんです。帰って自転車の練習でもすることにします」


293 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:47:25.71 ID:eQ2jf1JfP
書き貯めも切れたしお風呂入って展開考えてくる。1時間で戻ります。


294 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 21:50:03.71 ID:1t+IzcVk0
ああ追いついた。

なんて雰囲気だ俺は大好きだだから支援


296 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 22:23:02.66 ID:di/+GrM40
凄い良い雰囲気だなぁ。
これは面白い。


298 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 22:50:32.89 ID:7WHCU5aQO
×映画
〇活動写真


299 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 22:51:54.11 ID:LTP1QhNp0
すごいいい雰囲気、これは面白い


301 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 23:00:18.86 ID:7+t5QsFJO
こういう話し方とかどこで調べるんだろう?


302 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:08:55.07 ID:eQ2jf1JfP
――境内、宵

りーん……りーん……。

女友「よう」
男友「アンタ……どうして此処に?」

女友「男さんが商店にいらっしゃってな。先程まで一緒だったのだが、
 お家に戻られた。どうやら気を遣ってくれたようだ」
男友「……そう」

女友「あぁ、其れから、之だ」
男友「……其れは?」

女友「氷菓子だ。男さんは帰って皆で食べる心算だったのだろう。
 三つあるけれど、折角だし全部食べてしまおう」
男友「ふふっ、男ちゃんらしいわね」

女友「嗚呼、良かった。漸く笑ってくれたな」にこり


303 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:14:32.42 ID:eQ2jf1JfP
男友「……ん。美味しいわ」
女友「なんたってウチの商品だからな!」
男友「ええ、……そうね」

女友「何だ。“無い胸を張るな”等と軽口を叩かないのだな」
男友「まあ。まさかアタシに神前でそんな卑猥な言葉を謂わせるつもり?」
女友「っく。あははっ。漸く普段の調子に戻って来たじゃあ無いか」

男友「アンタが強引だからよ」
女友「わたしは馬鹿だからな。力業しか使えないのだ」
男友「……全く」くすりっ

ふわり。

女友「ん。夜風が気持ち良いな」
男友「――悪かったわね」
女友「ん? 何がだ?」

男友「男ちゃんにもそうだけれど。アンタにも心配掛けたみたいで」
女友「ああ、そんな事か。わたしは少しも気にしては居ないよ。
 それに、きっと男さんだって同じだろうさ」


305 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 23:23:30.88 ID:NmKRv7wkO
男友がイイキャラ


306 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:23:42.70 ID:eQ2jf1JfP
女友「なぁ、男友」
男友「なぁに?」

女友「今から謂うのはわたしの独語だから、別に返事はしてくれなくて良い。
 只訊いてくれれば、それでいいから」
男友「……?」

女友「昔々、雪の深い国に生まれた女の子が居りました」
男友「……」

女友「その女の子はその国でも稀代の美少女と呼ばれ――」
男友「異議アリッ!」
女友「何だよ。人様の独語の邪魔をするなよ」
男友「……アンタねぇ」

女友「山間の小さな町で、その女の子はすくすくと育ちました」
男友「……」

女友「女の子の隣の御宅には、少々――いや。大分変わった男の子が済んで居りました」
男友「まぁ、悔しいけれど其れは認めるわ」

女友「男の子はかなり変わって居た故、周りの子供からは良くからかわれて居ました。
 遣り返せば良いのに。男の子は泣き虫なので、
 仕方無く女の子は男の子を助けてあげていました」
男友「アンタ、“仕方無く”ってねぇ」


307 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 23:26:08.22 ID:aOQtSks80
いいねぇ
昭和の香りがする


308 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:34:45.63 ID:eQ2jf1JfP
女友「まぁ、女の子と男の子は色々と在って大きくなり、
 男の子はなにやら作家になる為に東京に行くと謂い出しました」
男友「――」

女友「女の子は何だかとても不安な気持ちになります。
 自分でもよく解らない、もやもやとした気持ちです。
 或いは其れは永く自分が守って来た子の独り立ちを
 むずかる親の気持ちかとも考えましたが、愈々答えは出ませんでした。
 
 ――そして、見送りの日です。

 北国に漸く咲いた桜の花びらが舞う中、
 小さくなる男の子の背中を見ながら女の子は決心をしました」

女友「このまま別れてはいけない。この気持ちがはっきりとするまで、
 わたしは男友の傍にいよう、と」

男友「アンタ……」

女友「まぁ、何だ。白か黒か解らない物って、
 苦手なんだよわたしは――では無くて。その女の子は」


309 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/25(金) 23:42:03.47 ID:yBmGFFHUO
独語…ああ、昔は「獨逸」だったか


310 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:44:09.59 ID:hIidKtMyO
女友かわいいな・・・


311 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:45:44.24 ID:eQ2jf1JfP
女友「まぁ、つまりだ。
 その女の子は特に勉学に励むとか、そう謂う理由では無くて、
 ごく控え目に見ても極めて不純な理由で両親に頼み込んで、
 東京の女学校に行く事になったんだ。笑っちゃうだろう?」

男友「……全く。女友らしいわ」

女友「まぁ、そう謂うなよ。死活問題だったんだよ、その女の子にとっては。
 ええっと、其れで何が謂いたかったんだっけ……あぁ。
 要は、こんな適当な理由で女学校に通っている人間も居るんだから、
 お前も余り考え込むなと、そう謂いたかったんだ!」

男友「……っく」
女友「……男友?」

男友「っくくく。あはははっ。嫌だもぅ、可笑しいったらありゃしないわ!
 そんな風に人を元気付ける女は、この世広しと謂えども、アンタだけよねぇ。
 っくく。傑作だわぁ」

女友「なっ――! お前っ、人が折角っ!
 ……ぷくっ。あはははっ!」


312 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:48:41.21 ID:eQ2jf1JfP
>>309 ああ、解り辛いかなぁと思ったけれど、
 「ドイツ語」ではなくて「独り言」の方なんだ。


313 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/25(金) 23:57:05.52 ID:eQ2jf1JfP
男友「はぁ、はぁ。お腹が痛いわよ、もう」
女友「……そんなに笑わなくたって良いだろう」

男友「――アタシねぇ。大学辞めようかと思って」
女友「うん、そうか」
男友「あら、驚かないのね」

女友「まぁな。何年一緒に居ると思っているんだ」
男友「……嗚呼、そうだったわね。アンタとアタシは腐れ縁と謂う奴だったわ」
女友「それで、さ。男友っ」

男友「何よ。もう笑わせないでよぅ?」
女友「そのっ……。わたしが東京に来た理由なのだけれど」

男友「?」

女友「漸く解ったんだ。如何やら之が――“愛しい”という気持ちらしい」
男友「……え?」

*

男友「ねぇ、女友?」
女友「なんだ?」

男友「来年の桜も――綺麗に咲くと良いわねぇ」
女友「ああ! そうだなっ!」ぱっ


316 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/26(土) 00:04:36.21 ID:Song16K/P
――其の頃。

女「何か謂い残した事は?」
男「……ありません」

女「そう。
 あら――そんなに怯えなくても大丈夫よ。弐、参日もすれば普通に歩けるようになるわ」
男「お、女さん……?
 その御手に持った鈍器を下ろしては頂けないのでしょうか……?」

女「知って居るでしょう? 須く罪は罰を以って赦されるべきものなのよ」
男「ちょ……まっ……!!」

女「残念だわ。自転車の練習も暫くお預けね」
男「――っ!! 嗚呼あぁぁぁぁっ!!」

*

猫「……やれやれ。だから放って置けと謂ったであろうに」


317 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/26(土) 00:11:42.59 ID:Song16K/P
区切りなので30分書き貯めて来ます。
読んでくれてる人、ありがとう。

無駄にラブコメっぽくなったのは反省している。


318 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/26(土) 00:13:23.42 ID:xB0+TlcAP
>>316
IDすげぇ
そして女さん怖ぇ



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