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式子内親王「寒い〜。絶対布団から出ないからねっ」
99 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 01:39:10.54 ID:1IBD/bxU0
神無月十四日の一

審判の日が来てしまった。
朝早く目が覚めたので男に内緒でお風呂の準備をする。
正直気が重くてしょうがないのです。
外になんか出かけたくない。
きっとわたしは過去人間として
未来人の中で笑いものになるのでしょう。
余りにも気が重くて腹が立ったので、
男の枕をそっと抜いてやった。首が痛くなると良いのに。

そんな悪戯はさておき、あれでもいまは家主です。
好意を持って外に連れ出してくれるというのだから
恥をかかせるわけにもいきません。
湯浴みを済ませなければ。
今日は布団をかぶっているわけにも行かないのです。

ああ! 雷とかふらないでしょうか!!


100 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 01:39:27.79 ID:8fwD1fzl0
式子内親王いとをかし


101 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 01:43:12.34 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「こ、こうかな?」
男「おう、いんじゃね?」

式子内親王「どっかおかしくない?」
男「平気だよ」

式子内親王「ちゃんと見なさいよっ」
男「見たってば。シャツもいい感じだし、いんじゃね?」
式子内親王「むぅむぅ」

男「なんだ? 布団がないと不安なのか?」
式子内親王「そんなことないわよっ。
 わたしは皇族なんだからねっ! 臆病で惰弱な
 態度とは無縁の世界の王者よ。ヘラクレスオオカブトよっ」
男「んじゃいくか」

式子内親王「ちょっと、まっ! あ、あのっ」
男「なんだよ」

式子内親王「顔を隠す扇がないよ……?」
男「未来ではそういうのは使わないんでーっス」

式子内親王「ううう。何で皇族たる私が下賎の
 女のような恥辱をっ」

男「ほら。いくぞー」



103 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 01:47:49.70 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「街だ……」

男「お前、初めて空中から現れたときは
 夜中だったもんな〜。昼間の街は初めてじゃね?」

式子内親王「うん」

男「緊張してるな」
式子内親王「う、うるさいっ。多少は仕方ないのっ」

男「まぁな」

式子内親王「な、なんか。目立ってない?
 あたし、じろじろ見られてないっ!?」
男「あー」

式子内親王「や、やっぱり何か変かな!?
 未来人のコスプレしてるのがばれたかなっ」
男「せめて変装って云えよ」

式子内親王「隠しきれない皇族のオーラが
 高貴な波動となって私に注目の熱い視線を
 注がせてるのかなっ」
男「あー」

式子内親王「ど、どうしよっか!? おうちに戻ろうかっ。
 そ、そ、それとも戦りますかっ。おめおめと
 虜囚の憂き目はみないんだからねっ」



104 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 01:52:09.06 ID:1IBD/bxU0
男「おちつけ」ぽかっ
式子内親王「むうっ」

男「別にとって食われりゃしないよ」
式子内親王「判らないわよっ。850年もたてばっ」

男「つまりな。お前の髪の毛が長くてだな」
式子内親王「へ?」

男「この時代には、そんな腰まであるような
 ロングのストレートの立派な黒髪ってのは少ないんだよ」
式子内親王「へ? あ。そういえば、見ないわね……」

男「だから見てるんだよ」
式子内親王「髪は女の命よ」
男「そうな」

式子内親王「いいの? 隠さなくて?」
男「別に、珍しいだけで悪い事してるわけじゃないんだよ。
 それに……。あんまりその髪が綺麗ですごいから
 みんな見とれてるだけだ」

式子内親王「……綺麗かな」
男「ああ、綺麗だぞ。ちょっと見ないくらいな」

式子内親王「そか……。ま、まぁねっ! わたし皇族だからねっ」
男「やれやれ」



105 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 01:56:35.05 ID:1IBD/bxU0
男「とりあえずここだ」
式子内親王「ここは?」

男「あー。服を買うところだ」
式子内親王「ふむふむ」

男「ないしんのーの今着てる服は俺のなので」
式子内親王「そうよ?」

男「ここでもうちょっと女向きのに変える」
式子内親王「十二単とか?」
男「ねーよっ」

式子内親王「ううう。よく判らないから任せるわ」
男「俺だって男だから判らねぇよ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「じゃぁどうすんのよっ! 役立たずっ!」
男「とにかく入るぞっ」

店員「いらっしゃいませ〜」

式子内親王「う、うかがい、まし、ました」
男「そういうのは云わなくていいの」



106 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:02:19.71 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「(小声)じゃ、ど、どうすんのよっ」
男「(小声)任せろ」
式子内親王「(小声)う、うんっ」

店員「どうされましたー? お見立てしましょうかぁ?」

男「あー。うん」
式子内親王 びくびく

男「こいつ、帰国子女なんです。服がないから適当に見繕って
 くれません? えーっと、予算は、これ、こんなもんで。
 ものとしては上下一式に、下着は四セットくらいと、
 シャツかワンピか二枚くらいで。
 ――で、いいよな?」

式子内親王 びくっ。こくこく。

店員「判りましたぁ。あの、日本語のほうは……」

男「あー。文法とか単語とか怪しいけど、大体はー」

式子内親王「(小声)何いってるのよ。あんた達のほうが
 大和言葉が乱れきってるでしょっ!!」
男「(小声)だーっ。今はあわせておけよっ」

店員「判りました〜。あらあら、美人なお嬢様ですね!
 こちらへどうぞー。採寸だけ先にしますね〜」


108 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:06:46.60 ID:1IBD/bxU0
神無月十四日の二

正直かなりいっぱいいっぱいでした。
斎院になるための修行の日々がなければ
心を砕かれてしまっいましたよ。まったくもう。

あの店員のうるさいこと!
もちろんそういう女房(※1)はあの頃もいたわけだけど、
耳元でかしましいこと、この上ありません。
何度口の中に冬瓜を突っ込んでやろうかと思ったか!

結局、黒と白の服を選んでもらいました。
とにもかくにも露出の少ないものをという
希望を出した末にぐるぐる回り道をしての洗濯です。

この時代の服はどれも布地が少なすぎ軽量すぎます。
そしてなにより、肌の露出が多すぎます。
それはそれで時代の特徴だと思うので尊重しますが
皇族の私が慎みのないような装束を着るわけにもいかないのです。

男に奇異の目で見られなければ良いけど。


※女房:女性の使用人。和風宮廷メイド。


109 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:12:13.18 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「むぅ」
男「どうした」
式子内親王「疲れた」

男「そっか。……そこ、座るか」
式子内親王「うん」

男「なんか飲むか?」
式子内親王「いらない」
男「固くなるなよ。少しは慣れたか?」
式子内親王「少しはね」

男「服はどうだ?」
式子内親王「やっぱり十二単に比べると軽くて頼りないわね」
男「ふむ」

式子内親王「でも、この服は好きかな。だって脚も黒くて
 露出が全然ないし! 軽くて頼りないのは一緒だけど
 布地は多いしね。それになにより、歩きやすいわね。
 それだけは認めなくっちゃ」

男「女も出歩く時代だからな」



110 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:16:17.56 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「おとこっ」
男「なに?」

式子内親王「えーっと。それで、どうなのよっ」
男「何が?」

式子内親王「この衣装よっ」
男「あー。うん、いい値段だったな」

式子内親王「えっと、ありがとね。
 いつもお世話になって服まで買ってもらって
 この服も気に入っていて嬉しいです。はい。
 私もあなたに奉仕されて感謝しています
 ってそういうことじゃなくてッ!」
男「ふむ?」

式子内親王「どっか変なところはない? ってことよ」
男「ないよ」
式子内親王「む、むぅ」

男「だいたい買ったばっかりで変だったら不良品だろ」

式子内親王「馬鹿じゃないっむーっ」ぽかっ

男「う、ううっ」
式子内親王「そうじゃなくっ」

男「うー?」



111 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:21:23.98 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「もういいわ。んで、次は何?」

男「いや。服も買ったし、昼飯食って、散歩したし。
 海も見えたしな、遠くにだけど」

式子内親王「ええ。そうねっ。あれは綺麗だった♪」

男「海は見たことあるのか」
式子内親王「まぁね、沢山じゃないけど」

男「夜ご飯なんだけど、どうする? 何か希望があるか?
 食べてみたいものとか。ネットばっかりやってるから
 いろいろ知ってるんだろう?」

式子内親王「ホットドッグは中々美味だったわね」
男「そうかそうか」
式子内親王「でもやっぱりご飯が食べたくなっちゃうところが
 日本民族なのよね。〆にはそれって云うか」

男「夜はご飯にするか?」
式子内親王「男のシチューライスがいい」
男「いいのか? なんか外食奢るぞ?」
式子内親王「ううん。それがいい」

男「そっか、んじゃ。帰るかっ」
式子内親王「うんっ!」

男「……あーっと。服さ。似合ってるぞ?」



112 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:27:07.95 ID:1IBD/bxU0
神無月十四日の三

夜は家に帰ってシチューを食べました。

男の作るこの料理にはいわく云いがたい
摩訶不思議な成分が含まれていて恥ずかしながら
皇族のわたしとしてもその魅力には抗し難いのです。

本日のシチューには牡蠣が入っていました。
有明のですよ。
未来でも中々のご馳走なのだと、男が言っていました。
一緒に買い物に行ったので、梨もかってきたのです。

未来の食生活はワンダフルです。
びば! 未来!
びば! シチューライス! フォーエバー!



113 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:34:47.21 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「ごちそうさまっ!」
男「お粗末さまでした」

式子内親王「やっぱりシチューは神の食べ物ね」
男「そうかなぁ」

式子内親王「そうよそうよ。あなたもVipのみんなも
 シチューに対する評価が低いと云わざるを得ないわね」

男「スレ立てたのかよ」

式子内親王「もう学習したのよ。美少女斎院はこの程度の
 技術はあっというまに習得できるわけ」
男「なんかダメ人間化がすすんでるような」

式子内親王「いいのいいの。ああ、美味しかったぁ」
男「うわ。食ってすぐごろごろし始めたっ」

式子内親王「心地よいのよ」
男「っていうか、せっかく買ってやったのに
 帰ったら速攻で脱いで布団装着かよ」

式子内親王「これが落ち着くんだもの」
男「なんだかなぁ」

式子内親王「暖かいし重いし隠れられるし最強よ」
男「こいつ変な皇族だ」



114 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:40:01.52 ID:1IBD/bxU0
男「あーそうだ」
式子内親王「なに?」

男「これやるよ」ぽいっ
式子内親王「?」

男「香水だよ」
式子内親王「香水? 香を水に移したものだったよね」
男「うん」

ふわっ

式子内親王「あ。これ……」
男「うん」
式子内親王「伽羅だ」
男「そう」

式子内親王「あ、あなたっ。こ、こ、これどうしたのよっ!
 はや、はやっ」
男「え? え?」

式子内親王「どこから盗んできたのよ、こんな高価なものっ!
 正倉院の宝物庫からでも盗んできたの!? まさか殺し
 までしたんじゃないでしょうねっ!!」

男「違うっての!」


115 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:44:31.52 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「そ、そっか。この時代じゃそこまで高価で
 貴重な宝物でもないわけね?」

男「まぁそうだな」

式子内親王「でも……。うん、ありがとうね。
 懐かしい。沈香なんてかっこいい贈り物だよっ」
男「お、素直に感謝された」

式子内親王「失礼なっ。わたし皇族なのよっ!
 しかるべき時に謝意を示す言葉くらい覚えてるわっ」
男「気に入ってくれりゃいいよ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「ちょっと、つけてみよかな」
男「うん、いんじゃね?」

式子内親王「う、うん。じゃ……」
男「……」

式子内親王「……こうかな」
男「ちょこっとで良いらしいぜ?」

式子内親王「ん。判った」



116 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:49:30.62 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「どうかな? 甘くて落ち着く匂いだよねっ!」
男「えーと」

式子内親王「わっかんないかなぁ」
男「面目ない」

式子内親王「んー。もっとこっちこっち」
男「いや、良いから」
式子内親王「いいから、じゃないよ。確認しなきゃっ。
 ほら、ここのね、首筋にね。いま髪かきあげるからね?」

ふわり。

男「っ!」
式子内親王「判った?」
男「お、おう」

式子内親王「すごいよね。有難うねっ!」
男「おう」

式子内親王「?」
男「なんでもない」

式子内親王「いやいや。見直しましたよ、男を!
 こんなさりげない必殺プレゼントを持っているとは
 まるで殺人ウィルスのように危険だよねっ」
男「どんなだよっ!」



117 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:52:06.46 ID:BOFUlfHa0
ちょww式子内親王ってwwwww
あ〜百人一首やりて〜〜〜


118 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 02:55:50.77 ID:ylfHJMSaO
このスレは宮内庁が監視しています。


120 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:19:56.74 ID:1IBD/bxU0

うわ。猿ーでした! 面目ない。

俺、もしかして読者置いてけぼり? 趣味全開かっ?
いわゆるひとつのダメSSか? あいごー。

不人気SSスレで申し訳ないっ。

素直に腹筋スレを立てるべきだったかとか思いながらも
最早ここまで来たら趣味全開じゃないと一歩も進めんぜよ。
もうちょいがんばるぽ orz



121 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:24:58.73 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「これはさすがに何かお返しをしないとね」
男「いや、いーから」

式子内親王「むー。なによ。
 わたしの好意がいやだというの?」
男「ないしんのーの好意は
 たいてい迷惑な結果を生むからなー」

式子内親王「失礼な男ね。なにが欲しいの? 地位? 金?」
男「お前持ってるのかよ」

式子内親王「……えー」
男「だから気にするなって」

式子内親王「そういうわけには行かないわ。
 これでもわたしは皇族なのよっ」
男「まったく無駄にプライドが高いんだから」

式子内親王「とは云ってもねぇ。あっちの時代なら
 金子でも衣冠でも授けてあげられるんだけど……」

男「だからいいっての」

式子内親王「む!」
男「?」

式子内親王「む。来たっ。これよっ!!」


122 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:25:00.27 ID:l/j724Hy0
まだ前半しか読んでないが
すげえ面白い・・・

興奮しながら期待age


123 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:30:14.04 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「閃きましたっ。私の財産! それはこの
 美貌と才気、そして鍛え抜かれた知性」
男「どうかなぁ」

式子内親王「そして恋愛マエストロとしての高名!」
男「あー」

式子内親王「わたし自らが恋愛相談に乗ってあげるわっ」
男「いらね」

式子内親王「うりうり。どうなの? 気になる娘の
 一人でも二人でも三人でもいないの?
 私に相談すればどんな悩みでも一発撃沈よ?」

男「恋愛経験皆無じゃねぇか、お前」

式子内親王「気になるスイートハニーがいないなら
 将来の彼女のために時代を超えたアドバイスを送るわよ?
 男だって年頃もいいとこなんだから。むしろそろそろ
 結婚してて当たり前でしょ?」
男「850年前と一緒にすんなよ」

式子内親王「男は素材は悪くないんだから、
 もうちょっと磨くところを磨けばイイ線いくよ?」

男「……」


124 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:34:59.62 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「ふふふふ。さくっと白状しちゃって
 この恋愛☆天使まじぇすてぃっく内親王に
 どかんと白紙委任しちゃいなさいっ」
男「怖っ」

式子内親王「なになに? 大体年齢は12歳くらいで
 つるんとした幼女が良いの? おうけーおうけー。
 平安じゃむしろ当たり前だからっ!」

男「うっさい」

式子内親王「……っ。そんなこといわないでさっ。
 そんなに怖い顔しないで。内親王に相談してみなさいよ。
 インド人だってびっくりよ」
男「余計なお世話」

式子内親王「余計なお世話ってことないでしょっ。
 せっかく私が恩返ししようとしてるのにっ」
男「それが余計なお世話なんだよ。誰も頼んで無いだろっ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「あ、あのねっ」
男「うるさいっ。この話題終了っ」

式子内親王「……」
男「いまから寝ます。準備しなさい」



126 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:39:37.47 ID:1IBD/bxU0
――。
――――。

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「寝ちゃった?」
男「……まだ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「あのね、さっきのはね」
男「だいたいさ」
式子内親王「うん……」
男「俺がそんなにがっついて見えるのかよ」

式子内親王「……」
男「……」

式子内親王「そんなの判かんないよ。
 ……男の人と付き合ったことないんだもの」

男「恋愛のプロフェッショナル、迷える子羊の導き手じゃ
 なかったのかよ。ないしんのー」

式子内親王「うー」



127 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:43:02.02 ID:l/j724Hy0
追いついた
支援

今の展開でもすごく面白いけど、現在進行形で書いているなら
登場人物に三番目の人をくわえると、話がダレないよ


128 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:44:15.26 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「じゃさ。じゃさっ」
男「暗い中で騒ぐなって」

式子内親王「後朝の歌はどうなのよ?」
男「きぬ、ぎぬの、うた?」

式子内親王「そうよ。重要でしょ。男の器量が問われるわよ」
男「なんだそれ。そんなの知らないぞ」

式子内親王「なにって。あるでしょ? 後朝の朝に」
男「きぬぎぬのあさ、ってなんだよ」

式子内親王「それは、そのぅっ。ほら、あれよ。
 男の人が……。その、好きな女の人のトコにね。
 夜にね。その……尋ねていってね……。んっと」

男「ああ。夜のデートか」
式子内親王「そうそう! 夜のデートよっ!」

男「夜這いだろ、つまり。えろえろか」
式子内親王「っ! なんであなたはそういうことに
 剛速球なのよっ。馬鹿っ。あほあほっ!」

男「蹴るなよ。暴れ動物っ」
式子内親王「ふーっ。ふーっ」

男「で、何の話なんだ?」


129 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:49:14.28 ID:/uuZnOazO
まあまあ可愛いな
遊んで欲しくてすりよってくる子猫と同レベルぐらい


130 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:50:14.57 ID:1IBD/bxU0
式子内親王「えっと、だから、ちょっと特別な
 『夜のデート』を終えた朝が後朝の朝なのよ。
 で、その朝に男が女に送る和歌が、後朝の歌よっ」
男「ふむ」

式子内親王「これの出来が男のランクを表すわけよっ。
 腕の中に抱きしめた愛しい女性っ!
 ついに溶け合った二人の体温っ。
 紫雲たなびく桃源の野に遊んだ二人を引き裂く朝の光っ。
 夜の帳で交わしたとろける蜜のような睦言。
 その余韻醒めやらぬ前の追撃安価よ!!」

男「最後の行で台無しだぞ、お前」

式子内親王「それがつまり、後朝の歌なの」
男「判った判った」

式子内親王「判った? んじゃ作って」
男「へ?」

式子内親王「作・る・のっ。じゃなきゃ採点できないでしょっ」
男「何でそんなもん作るんだよっ」

式子内親王「男は和歌作る経験がないから、
 後朝の歌で苦労するでしょ?
 今のうちに作っておけば安心じゃない」



131 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:54:34.97 ID:1IBD/bxU0
男「あんな。そもそもそんな習慣は現代にはないの」
式子内親王「……そんなの」
男「?」

式子内親王「そんなの、知ってるわよっ。馬鹿っ。
 でもしょうがないでしょっ。今のわたしには
 他に出来そうな恩返しがないんだからっ」
男「……」

式子内親王「こんなことしか出来ないんだから
 あなたも付き合うくらいはしなさいよっ」
男「ったく。はぁ〜」

式子内親王「……」
男「だいたいさ、それって好きな女を抱いて
 嬉しい気持ちを歌うんだろ?」

式子内親王「そうね。もう一度会いたい、とか。
 夢のような時間でした、とか。
 そういうのがメインテーマね」

男「百歩ゆずって、いまは無いような習慣の和歌を
 作るってのはいいよ。でもさ、好きな相手もいないのに
 そういうの作るって違くねぇか?」



132 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 03:59:32.36 ID:1IBD/bxU0

式子内親王「君待つと閨へもいらぬ真木の戸に
 いたくなふけそ山の端の月――」

式子内親王「ううう」

式子内親王「自分の心臓の音がばれちゃいそう」
男「……そだな」

式子内親王「こんなに緊張したのは宮入り以来よ」
男「俺も同じだ」

式子内親王「覚悟完了?」
男「うん」

式子内親王「判ったの?」
男「判った」

式子内親王「本当に判ったのっ?」

男「俺も内親王の事、好きだ。後朝の歌、作らせてくれ」

式子内親王「内親王じゃない。式子って呼ぶことっ」
男「了解」



133 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 04:04:01.46 ID:CgPDG62HO
俺が2番目に好きな歌を詠んだ人


134 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 04:05:34.16 ID:1IBD/bxU0
ごそごそ、ごそ。

式子内親王「んぅ。ふふふっ。男のお布団侵入!」
男「うわ、ひゃっこい。」

式子内親王「ごめんね。体温低いのよ。わたし」
男「まぁなぁ。最初っからだもんな」

式子内親王「うん。自分でもちょっと困る。
 えっと……だから。あのさ」

男「なんだ?」ぎゅっ

式子内親王「あ……」
男「どした?」

式子内親王「ううん。こうされたかっただけ」
男「そっか」

式子内親王「男……。背中、なでなでしてる」
男「うん。してるよ」

式子内親王「手つきがやらしい」

男「あんなっ。こういうのは仕方ないだろっ」
式子内親王「ふふふふ」



135 :VIPがお送りします [] :2008/10/10(金) 04:09:41.16 ID:1IBD/bxU0
男「えっとさ。……今更云うのもあれだけど」
式子内親王「なに?」

男「いいのか? お前。ほらさ、曲がりなりにも
 斎院っていうのとか、それに……皇族なんだろ」
式子内親王「うん」
男「……」

式子内親王「でも良い。やめる」
男「そんなあっさりと」

式子内親王「男のものになりたいの。
 神様のものだった身体も、父様のものだった名前も、
 皆のものだったこの心も。
 全部、
 ぜんぶ男のものになりたい」
男「――」

式子内親王「男に抱きしめられて、男を抱きしめて。
 押し広げられて、持ち上げられて、波にさらわれて
 風に打ち上げられて、月まで、星まで届きたい」

男「……。うん」

式子内親王「大好き」
男「大好きだ」




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