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猫「吾が輩は猫である」
- 561 名前:VIPがお送りします [sage]
投稿日:2010/06/27(日) 21:44:14.19 ID:V0dQfDOgP
――翌日、男自室
女「……」
男「むにゃ……ぐぅ」
女「……」
男「……すぅ」
女「……」つんっ
男「む……んぅ」
女「……」つんつんっ
男「猫……さん……?」
女(……猫?)
男「……ぐぅ」
女「起きなさい、男くん」
男「むにゃ……」
女「男くん。今直ぐに起きないと、接吻するわよ?」
男「……すぅ」
女「――」
男「……む? 女さん?」
女「あら。お早う――と謂っても、もう日も随分と高いのだけれど」
- 562 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 21:47:21.29 ID:V0dQfDOgP
男「ふぁ〜あ。昨晩は随分と夜更かしをしましたので」
女「そう」
男「然し女さん、何故私の部屋に?」
女「そうね。余りに部屋の中が静かだから、若しかしたら息絶えて居るのかと思って」
男「はぁ」
女「――と謂うのは冗談なのだけれど。
男くん、貴方にお礼を謂おうと思ってね」
男「礼……?」
女「お父様と仲直り――は、まぁ此れからなのでしょうけれど。
その切っ掛けを作ってくれたのは、男くん。貴方だから」
男「……む」
女「どうしたの? そんなに浮かない顔をして。
普段より数段、?の上がらない顔に為って居るわよ」
男「……其れはどうも」
- 564 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/27(日) 21:48:48.83 ID:L+uj2RAc0
目覚めの接吻だとおおおおおお
けしからん!
- 565 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 21:55:34.95 ID:V0dQfDOgP
女「それで? 何故そんな死んだ魚の様な眼をして居るのかしら?」
男「いえ。……今思うと、私は何と謂う事を先生に謂って仕舞ったのでしょう。
あの様な口を利いて、先生は屹度大層お怒りですよね。
思い起こす事すら恐ろしいです……はぁ」
女「いいわ。一言一句、わたしが再現をしてあげる」
男「へっ?」
女「“何時まで逃げ続けるおつもりなのですか”」
男「うっ」
女「“はぁ。之だから頭でっかちの頑固者は苦手なのですよ”」
男「ううっ」
女「“私は実は幼い女児が好きなのです”」
男「勝手に捏造をしないで頂けますかッ!?」
女「――“私には譲れない物が在ります”」
男「……あ」
女「“先生に頼まれずとも女さんを仕合わせにして見せます”」
男「いえ。其れは、其のっ」
- 566 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 21:57:27.53 ID:V0dQfDOgP
>>562
女「どうしたの? そんなに浮かない顔をして。
普段より数段、?の上がらない顔に為って居るわよ」
“?”は“うだつ”の漢字の文字化けです。
- 567 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:02:21.80 ID:V0dQfDOgP
女「其れは其の?」
男「ええと、何と謂いますか……。
あの時の私は些か興奮をして居りましてですね」
女「あら、そう」
男「其れに、まさか女さんがあの様な処に隠れて居らっしゃるとは露にも思わず」
女「ふうん」
男「大変勝手な事を謂いました。申し訳御座いませんでしたっ。
――おろ? 女さん?」
女「何よ」
男「怒って居らっしゃら無いのですか……?」
女「今回は特別に赦して上げる。
但し。次からは木賃とわたしの同意を得てから、其の様な事は謂いなさい」
男「……はぁ」
女「さて、散歩に行くわよ。早く準備を済ませなさい」
- 568 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:06:43.94 ID:K/eY1aTEP
ああ、木賃とは読み通り「きちんと」なのか
なんで安宿が出てくるのかと一瞬考えちまった
- 569 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:09:20.24 ID:V0dQfDOgP
――街中
女「随分と冴え無い顔をしているじゃあ無い。
ひょっとして、男くんはわたしと散歩をするのが嫌なのかしら?」
男「申し訳在りませんが、私は生まれて此の方この様な顔なのですよ」
女「あら、そうなの。其れは随分と気の毒な話ね」
男「御慰め痛み入ります」
*
女「木々の緑も随分と深く為って来たわね」
男「そうですね。此れから本格的に暑くなります。
……と謂っても、既に茹だる様な暑さですが」
女「夏と謂えば、そうだったわ。
今年の明神の祭りには、朝顔柄の藍染めの浴衣を着て行こうかしら」
男「……あ」
女「見たい?」
男「……ごくりっ」
女「あら。見たくは無いのね。残念だわ。
非道いじゃあない。わたしに良く似合って居る、と謂ってくれたのに。
あれは其の場限りの口三味線だったのかしら」
男「み、見たいですッ! 是非とも見せて下さい女さんの浴衣を召された御姿ッ!!」
女「あら。じやあ、精々首を長くして楽しみにして居なさい」
男「はぁ」
- 570 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:16:29.43 ID:V0dQfDOgP
女友「おお、此れは奇遇だ! 男さんと女さんじゃあ無いか!」
男「おや、女友さん。店先で打ち水ですか、御苦労様です」
女友「ああ、男さん。今日も随分と暑いからなぁ」
女「ふうん。貴方達、何時の間に其の様に親しげに名を呼び合う仲に為ったのかしら?」
女友「ああ、そうだ。御二人とも、此処で少し待っていてくれ!」
男「はぁ」
女「……」
男「あの。女さん?」
女「何かしら?」
男「其の。如何して其の様に不機嫌なお顔を為さって居るのでしょう……?」
女「あら。気の所為よ、男くん」
男「はぁ」
- 571 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:21:27.67 ID:V0dQfDOgP
女友「二人とも、お待たせしたな!」
男「おろ? 其れは?」
女「……」
女友「氷菓子だ。男さんには先日、丁度同じものを奢って頂いたからな。
そのお返し、と謂う訳だ。御二人で食べてくれ」
男「あ、有難う御座います」
女「成程ね。女友に、氷菓子を、奢った。
けれど今一つ解せないわね、男くん。わたしに説明をしてくれないかしら。
わたしの記憶違いで無ければ確か、あの時氷菓子を買ってくるよう頼んだのは
女友では無くて、わたしだった筈よね?」
男「こっ、此れには谷よりも深い理由が在りまして……」
女「あらそう。じやあ其の理由は後でゆっくりと訊かせて貰おうじゃあない」
男「……はい」
女「女友、氷菓子をどうも有難う。男くん、行きましょう」
男「はぁ」
- 573 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:28:51.48 ID:V0dQfDOgP
――公園、夕暮れ
女「こう暑いと矢張り美味しいわね」
男「あの、女さん」
女「何かしら、男くん?」
男「未だ怒って居らっしゃるのですか……?」
女「あら。わたしはそんなに狭量な女では無いわ」
男「はぁ」
女「まぁ。どうせ男くんの事だから、
女友と男友の為に一役買っただけなのでしょう。
わたしにだつて、其れ位は解るわ」
男「……」
女「わたしやお父様の事だってそう。
貴方は何時もそうやって他人の面倒事に巻き込まれる、御節介な人なのね」
- 574 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:40:18.05 ID:V0dQfDOgP
女「……食べないの? 氷菓子」
男「食べたいのならどうぞ」
女「止めておくわ。此処で男くんに食い意地の張った女だと思われるのは、
恐らく得策ではないから」
男「はぁ」
女「……」
男「……」
女「……然し、どうなのかしらね」
男「何がです?」
女「わたしとお父様は確かに此れから、少しずつ不和を解消出来るかも知れない」
男「ええ。きっと」
女「――でも、亡くなったお母様は、其れを赦してくれるのかしら」
男「女さん……」
女「お母様があの様な事に為って仕舞ったのは、
確かにお父様の所為かも知れない。けれどわたしにもやはり責は有った。
家族だったのだもの。関係が無い筈は無い。
――或いはお母様を救える唯一の人間は、わたしだったかも知れないのに。
なのに、わたしは何も出来なかった。
あまつさえ、わたしはわたしを独り置いて行ってしまったお母様を恨みまでした。
そんなわたし達が此れからまた親子としてやつて行こうと謂うのは、
矢張り幾分か虫がいい話なのでは無いかしらね」
- 576 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:56:30.29 ID:V0dQfDOgP
男「女さん……」
女「御免なさい。大丈夫よ。少し不安になっただけだから」
男「けれど先生も仰って居ました。“最早自分を赦してはくれぬだらう”と」
女「そうね。……其の通りだと思うわ」
男「――けれど女さん。貴女のお母様は果たして、
貴女や先生を憎み、世を儚んで行って仕舞われたのでしょうか。
記憶の中の貴女のお母様は、優しい人だつたのでは無いですか?」
女「そうよ。お母様は優しい人だつた。
少し困った様に笑うお母様の顔が、わたしは本当に大好きだった。
けれど……」
男「屹度――お母様も貴女や先生に謝りたいのではないかと、私は思います。
夫を支える事が出来ず、愛する娘を独り遺して仕舞った御自身を……」
女「そんなのっ。もう解らないじゃあ無い。
確かめ様の無い、……只の、都合の良い推測だわ」
男「……女さん。
もうすぐ日が沈みます。先生も御一緒に連れて、行きましょうか」
女「何処に行くと謂うのよ」
男「まぁ、良いから付いてきて下さい。
これが私からの――最後の御節介です故」にこり
- 577 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/27(日) 22:58:59.51 ID:V0dQfDOgP
ちとここからは纏めて投下したいので、少し書いて来ます。
- 578 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/27(日) 22:59:24.25 ID:L+uj2RAc0
いってらっしゃい支援らっしゃい
- 588 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:26:16.05 ID:za1FXqcOP
――宵、草木の茂る小山
ざっざっざっ……
男「御二人とも、足下に気を付けて下さい」
女父「男くん、一体何処に行こうと謂うのかね」
女「……」
“――遠く、遠く昔に語られた此の街の伝承”
男「未だ本番の夏には少し在りますが、居てくれると良いのですが……」
女父「何を謂って居るんだ?」
女「さあ。わたしにもさっぱり」
“――初夏の宵。良く晴れた空に満月が浮かんで居らぬといけない”
- 589 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:30:31.44 ID:za1FXqcOP
男「恐らく、此の辺りで間違いは無いと思うのですが……」
女父「然し思えば自分はこの小山に登つた事は無かつたな」
女「ええ、わたしもです」
“――場所は解るか? 悪いが先に行って居てくれ。後から吾輩も行くがな”
男「――っと。足下が泥かるんで居ますので、滑らぬようにして下さい」
女「泥かるむ? 暫くは雨など降らなかったのに」
女父「ふむ」
“――吾輩にも、其処で確かめねばならぬ事が在る故”
男(猫さん……)
女父「と、危ない。大丈夫か、女」
女「ええ、有難う御座います」
“――木々の間を分け、拙い獣道を抜けた其の先。
唯一あの小山で木々が無く、月明りが差し込む其の場所は在る”
ザッ。
男「此処か……」
- 591 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:35:30.88 ID:za1FXqcOP
女父「此れは……泉か?」
女「蒼い月の光で照らされて……。まるで鏡みたい……」
女父「如何やら湧水が出て居る様だな。
先刻から土が泥かるんでいたのは此れの所為で在ったか」
女「男くん」
男「はい」
女「わたし達を此処に連れて来たのは、この景色を見せる為なの?」
女父「うむ。確かに美しい場所ではあるが」
男「……居てくれないのでしょうか」
女「居る? 先刻から何を謂って居るの?」
女父「男くん? 一体君は何を企んで……」
ふわり。
男「――あ」
女「此れは、一体……?」
“――頼りの無い、儚い灯故。
お主ら人間には目が慣れる迄見え辛いやも知れぬな ”
女父「此れは……」
女「――蛍。何時の間にこんなに沢山集まって……」
- 592 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:41:47.81 ID:za1FXqcOP
……ふわり。
女父「女、あれは――」
女「そんなっ、まさかっ。――お母様っ!!」
*
猫「如何やら迷わずに辿りつけた様だな」
男「……猫さん」
猫「“姿灯”。空に雲ひとつ無い初夏の満月の宵にだけ起きると謂う言い伝え。
泉に集まった幾百の蛍の灯が生者の想いに応じて――死者の姿に映ると謂う」
男「あの御二人には……」
猫「ああ。お主と吾輩には蛍の群れにしか見えぬが、
屹度見えて居るのだらうさ。母君の姿がな」
男「……そうですか」
猫「ふむ。然し中々浮世離れした光景ではないか」
男「蒼い月明りが照らす中で、数え切れない程の淡い緑の灯が点滅して……。
確かに此れはこの世のものとは思えないです……」
猫「嗚呼。此処にならば、
或いは亡くした者の心が降りてきても不思議には思えぬな」
男「ええ……。本当に……」
- 594 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:45:38.37 ID:za1FXqcOP
女「お母様……本当に御免なさい。わたしはっ」
女父「いや、謝らねばならぬのは自分の方だ。
本当に済まなかった。幾千と謝っても赦されるとは思つて居らぬが……」
女母の灯「――」ふるふる
女「わたし、何も出来なかった。お母様が苦しんで居るのも知らずに……。
其ればかりか、わたしはお母様を恨みすらした。
どうか……わたしを赦して……」
女母の灯「――」にこり
女「如何して――如何してそんなに優しいお顔で笑うの……」
“――本当に謝らなければいけないのは私の方よ、女。
貴女を遺してしまって、本当に御免なさい。
恨まれても然るべきことを私はしてしまった。どうか私を赦して頂戴……”
女「そんな……っ!!」
- 595 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:49:37.25 ID:za1FXqcOP
女父「自分は夫として、本当に失格だった……。
お前や女を大切にしてやることが出来なかった」
女母の灯「――」ふるふる
女父「然し、決めたのだ。自分は此れまで失った時間を取り戻す為に
尽力をする――もう逃げないと。
だからどうか、赦して欲しい――見て居て欲しい。
お前を追い込んだ此の自分が、
此れから女と時間を過ごして行くのを……どうか……」
“――旦那さま。貴方が苦しんで居られる時に、私は何の支えにも為れなかった。
どうか、女の事を宜しくお願い致します。
其れが出来損いの家内であった私の、最後の願いなのですから……”
女父「済まない……本当に……」
“――女、どうか仕合わせに為って頂戴。
私が謂える台詞では到底無いけれど、私が望むのは只其れだけだから……”
女「ええ、屹度――。……あれは少し頼りない男なのですが」くすり
“――旦那さま。私は本当に貴方の事を――御慕いして居りました。
今の奥様を、どうか仕合わせにして差し上げて下さい……”
女父「其の様な……っ」
……ふわり。
“――さようなら”
- 596 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:55:30.00 ID:za1FXqcOP
男「……猫さん」
猫「ん? 何だ?」
男「宜しければ、教えて下さい。
猫さんが此処で確かめたかった事とは、一体何なのですか?」
猫「――旦那様に会えるのではないかと思っていたのだがな。
然しどうやら駄目だったようだ」
男「然し、生者の想いに応じて蛍の灯が死者の姿を映すのならば――」
猫「やはり、旦那様は既に亡くなっていたのだらうか?」
男「……先生が御存知でした。数拾年前に、新たに越した先での事だつたそうです」
猫「……そうか」
男「申し訳ありません。本当は昨夜謂うつもりだったのですが……」
猫「気にするな。良いのだ。
ああ、そうだ――お主の布団はとても寝心地が良かったぞ。
旦那様と、あの様にして眠った夜を思い起こされるようだった」
男「猫さん……」
- 598 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 00:59:34.77 ID:za1FXqcOP
男「然し、妙では無いですか。
如何して猫さんには御主人の御姿が見えないのでしょう……」
猫「それは、まあ簡単な事よの」
男「……?」
猫「姿灯が映すのは生者の想い、生者の心。
吾輩は――生者では無い故な。旦那様に御姿が見えぬのも道理であろう」
男「え……?」
猫「お主には吾輩は生きて居るように見えるのだらう?
然し、恐らくあの娘にも、その父にも、男友にも。吾輩の姿は見えぬだらうさ。
吾輩の姿が見え、吾輩の声が聞ける人間は本当に少なかった。
故に壱百人の願いを訊くには、永い時を要したのだ」
男「そんな……っ」
猫「若しかすると、吾輩にも旦那様の姿が見えるのでは無いかと期待したのだが。
……伝承とは酷な迄に正しい物よの」
男「――猫さん」
猫「なんだ?」
男「私は確かに私の願いを叶えて頂きました。
故に、此度は私が猫さんの願いを――御自身に契った言霊を叶えます」
猫「可笑しな事を謂う。お主に何が出来ると謂うのだ」
男「なに。只の――道案内ですよ」
- 602 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:07:40.61 ID:za1FXqcOP
――街中、夜半の路
猫「おい、あの二人をあそこに置いて来て仕舞って良かったのかっ」
男「寧ろ、私が居ない方が良いでしょう。私は只の案内人に過ぎないのですから」
猫「其れはそうやも知れぬが……」
ザッ。
男「先生が御存知だつたのですよ。猫さんの御主人が眠られる処を」
猫「まさか……この街の此の寺に居られたのか……」
男「流石の猫さんも、亡くなった方の事までは解らぬようですね」
猫「どうして……」
男「行きましょうか、猫さん」
猫「……ああ。然し、まさかお主に道案内をされるとはな」
男「ええ。本当に、不思議な縁です」
- 603 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:12:49.73 ID:qDxLSC3i0
なんか男が急にカッコヨクなった。w
- 604 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:15:33.35 ID:c9rKOIMt0
男はやっぱりいい男だな
- 605 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:16:03.20 ID:za1FXqcOP
――お寺、夜半
男「さて。この中から猫さんの御主人の眠られる処を捜さねば」
猫「いや――」
男「はい?」
猫「解る……。何故かは知らぬが。
旦那様が吾輩を、呼んでいらっしゃるような……そんな気がするのだ」
男「猫さん……」
猫「――嗚呼。この声を、間違い様が無い。
幾千の夜、幾千の夢の中で訊いた、この御声を……」
男「……っ」
猫「――なぁ、男よ」
男「何でしょうか、猫さん」
猫「吾輩はお主に逢えて、本当に良かった」
男「其れは私とて同じです、猫さん」
猫「――では、行くよ」
男「……ええ」
猫「然らばだ――我が友よ」
- 606 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/28(月) 01:17:45.33 ID:hgG+gracO
ぬこさーーーーーーん(;´д`)
- 607 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:20:51.62 ID:za1FXqcOP
――追想
――あの夜、空にはぽっかりと満月が浮かび、
その蒼い光が猫さんの後姿を照らして居りました。
数多く在った墓石の中の、或る一つに迷い無く駆け寄られた猫さんは、
夜の中に、溶けて行かれました。
然し、その瞬間、私にははっきりと見えたのです。
猫さんを抱き締め、其の身体を撫でて居らっしゃった一人の紳士の姿が。
此れは後に訊いた話しなのですが、
その紳士が此の街を離れねばならなかった時、
猫さんは遠くへ、行つた事の無い街へ御散歩に行きでもしたのか、
御家に帰つて来なくなつたそうです。
御主人は猫さんを遺して他の街へと。
そして御主人を捜して居た猫さんは
何時か、何処かでその御命を果てたそうです。
其れを呪縛霊と呼べば良いのか、寡聞にして私は存じませんが、
そうなった後でも猫さんは何処かに居るやも知れぬ
御主人を捜し続けていたのだと――其れだけが私の知る処なのです。
- 608 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2010/06/28(月) 01:26:05.86 ID:hgG+gracO
マジ泣いた…
凄く面白い、いい話ありがとう。
- 609 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:28:20.15 ID:qDxLSC3i0
終わり?
- 610 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:29:14.64 ID:IqBhLd8U0
感動した!
是非小説化してクrウェ
- 611 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:31:04.93 ID:za1FXqcOP
――幾日後。街中、自転車二人乗り
かららららっ……。
女「ほら。早くしないと、船の到着に遅れて仕舞うじゃあない」
男「そう仰るのならば、御自分の自転車で行かれれば良いでしょう」
女「なにかしら。男くんは私に口応えをするつもりなのかしら?」
男「くっ。滅相も御座いません」
女「解れば良いのよ、解れば」
男「それにしても」
女「なにかしら?」
男「あのお家にも、また人が増えますね」
女「まぁ、そうね」
男「上手く遣って行けるのでしょうかね。
女さんは口も態度も悪いですから。
お義母様に意地悪をしないか、心配で――痛い痛いっ!」
- 612 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2010/06/28(月) 01:34:40.73 ID:za1FXqcOP
女「……お父様にも仕合わせに為って頂かなければいけないのだから。
わたしに出来る事なら何でもするわ。
だって其れがお母様の願いなのだから」
男「ふふ。そうですか」
“――っくく。相変わらず尻に敷かれて居るようだな”
男「――え?」
女「どうしたのかしら? 急に振り向いては危ないじゃあない」
男「あ……いえ……」
――猫さん、如何やら私はとんでも無い女性に惚れてしまつたようですよ。
女「何か謂つた?」
男「――月が綺麗ですね、と」
女「月? 月なんて出て居ないじゃあない」
男「――愛していると、そう謂つたのですよ」
女「なっ。何を急にっ――!」
男「さて、急がないと船の到着に間に合いませんよ〜」
かららららららっ……。
猫「吾が輩は猫である」お仕舞い。
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