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農夫と皇女と紅き瞳の七竜
- 561 名前: ◆M7hSLIKnTI []
投稿日:2013/12/06(金) 19:52:11 ID:uh2tP9rA
………
…
…翌日、明け方
騎士長「総員、整列!」
まだ薄暗い早朝、全兵がこの地の中央に整列する。
男「…時は、来てしまったようだ」
先刻、外輪山の尾根に配していた見張り兵から、翼竜接近の知らせが入った。
飛来する速度は遅く、まだ数分以上の猶予はあるだろうとの事だった。
男「決して、勝ちの見えた戦ではない。だが…我々は勝たねばならん」
知らせを受けて十体のグリフォン部隊が迎撃に向かったが、恐らくそこでとどめを刺す事は難しいだろう。
男「ここへ達した翼竜がどうするのか…どのように滅竜達が蘇るのかも、解らない。…だが、臆するな」
真竜の巫女はいつもと同じ、中央の円形祭壇で祈りを捧げていた。
もうすぐ真竜を覚醒させ、そして真竜が力を使い果たした後は巫女も消滅する。
真竜の命を受け入れ、その生命力によって千年を生きた彼女。
望みこそしても、悲しむ想いなど無い…そう言っていた。
- 562 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 19:53:03 ID:uh2tP9rA
男「今までも、命を賭さない戦いなどなかった筈だ」
例え今を生き延びようとも、敗れれば待つのはいずれ訪れる死。
男「もはや、死ぬなとは言わん。総員…死力を尽くせ、これが最後の戦いだ」
天蓋の無いこの地に、緩い風が吹き抜ける。
一体のグリフォンが帰還したのだ。
騎士「…翼竜は身体周囲に即死魔法の魔法陣を張り続けており、攻撃できませんっ…!」
騎士長「最期の力を使い切るつもりか…」
やはり、避けられない。
おそらく滅竜は紅き瞳を手にしてしまうだろう。
- 563 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 19:53:56 ID:uh2tP9rA
男「……総員、聞け!」
真竜はそうなった滅竜を倒せるのか…それはもう、考えても仕方が無い。
男「翼竜に矢と魔法が届くようになり次第、一斉に放つんだ!翼竜が死んだ後、滅竜と白眼の七竜が蘇るだろう…恐らくは滅竜よりも七竜の覚醒が早いと聞いている」
滅竜達の封印が解け始めると同時に、真竜は覚醒される手筈になっている。
目覚めたばかりの真竜が白眼の七竜の攻撃に晒されないよう、それを防がなければならない。
男「盾兵、槍兵を中心に三十名が真竜の守護にあたれ!残戦力は状況に応じて七竜に立ち向かえ!上空のグリフォン隊と地上部隊で交互に攻め、撹乱する!」
迎撃部隊のグリフォン全てが帰還してきた。
やはり攻撃は不可能だったようだ。
騎士「翼竜!外輪山に差し掛かります!」
男「…残念ながら、それ以上の作戦はたたん。己の命を自ら賭けるんだ。各自の判断に任せる!」
- 564 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 19:54:41 ID:uh2tP9rA
そしてついに翼竜は外輪山の尾根を越え、姿を現した。
長い首と尾をだらりと垂れ、破れ引き裂けた翼を力無く羽ばたかせながら、やがてその高度を落としてゆく。
男「…なんて、ザマだ」
真っ直ぐに岩の滅竜を目指すその屍のような姿に、複雑な想いがこみ上げた。
男「弓兵隊…構えろ!」
ここからでも判る、噴き出し滴る血と黒い霧。
半分開いた顎からは犬のように舌が垂れている。
男「弓兵…放てっ!魔法隊…雷撃魔法、詠唱…!」
矢が一斉に放たれる。
届く高度ぎりぎりではあるが、今の翼竜はそれを避ける動作すら見せない。
翼の孔が数と面積を増していき、飛び方は更にぎこちないものとなってゆく。
- 565 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 19:55:15 ID:uh2tP9rA
魔法兵長「詠唱、完了します!」
男「発動位置に入り次第、放つんだ!」
雷撃に限らず、魔法は発動する場所に狙いを定めて詠唱を行う。
つまり通常なら飛翔する魔物、ましてや翼竜相手にはその狙いが定まるものではないのだ。
しかし今の愚鈍に、しかも真っ直ぐに飛ぶ竜になら充分に対応できる。
翼竜が向かう前方の僅か上空に、暗雲が渦を巻いた。
躱す事もせず進む竜を襲う、青白い稲妻。
一層の勢いをもって噴出する、滅竜の生命力たる黒い霧。
翼の動きが止まり、バランスが失われる。
幼馴染「…堕とすよ!」
風を切る鋭い音と共に竜を目掛けた矢は、その翼下で大きく炸裂した。
呻くような咆哮と共に、竜が堕ちる。
- 566 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 19:57:12 ID:uh2tP9rA
轟音と共に地に叩きつけられた翼竜は、暫く微動だにしなかった。
しかしやがて翼を地面に引き摺りながら、後ろ足の力だけで這い始める。
首を持ち上げる事もできず腹を地に着けたまま、蚯蚓のように這う姿は余りにも痛々しい。
もはや滅竜の生命力をもってしても、まともに動く事は叶わないのだろう。
即死魔法の効果範囲も既に消え失せており、進む速度は人間が歩くよりも遅い。
俺は竜の眼前に立ち、その瞳を見た。
男「…もういい」
紅き右瞳、金色の左瞳。
その眼差しは悲しく、早く殺してくれと懇願しているようにさえ映る。
墜落の際に千切れた翼は地に伏せられたまま、黒い霧に縫われるという気配は無い。
もう滅竜にとって、この翼竜の役目は終わろうとしているのだ。
男「もう…動くな、翼竜…」
傷だらけの竜が、ゆっくりと迫る。
- 567 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 19:58:38 ID:uh2tP9rA
剣を抜く。
急所たる眉間、そこに護る鱗は剥がれ落ちている。
刃に闘気を充填する必要さえ無いだろう。
男「仇敵よ…さらばだ」
渾身の力をもって、そこを貫く。
竜が、動きを止める。
すぐに筋肉が弛緩してゆくのが判った。
それまでも弱々しかった呼吸が、止んでゆく。
男「もう…断末魔さえ…あげられないのか」
これが、あれほどに果たしたかった仇討ちだというのか。
俺は、幼馴染は…こんな事を望んでいたんじゃない。
血に濡れた剣を抜き、俺は瞼を閉じゆく竜から目を逸らした。
- 568 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 20:05:48 ID:uh2tP9rA
ずん…と、地響きが鳴った。
周囲の空気が重いものに変わったかに感じられる。
地震のように大地が震え、まだ暗い上空の雲が渦を巻いてゆく。
男「…総員、戦闘準備」
岩がひび割れる音が、鈍く轟いた。
滅竜の、七竜の身体を覆っていた岩石が少しずつ崩れ始める。
- 569 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 20:06:22 ID:uh2tP9rA
男「例え命を落とそうとも、この世界が続くなら勇士の名は碑に刻まれよう…!」
祭壇に立つ巫女が両腕を横に広げ、天を仰いだ。
その周囲の宝玉、最後のひとつが紅色を失う。
代わりに天から射ち堕ろされる、金色の光。
それは巫女を包み込み、結晶のような形に乱反射している。
そして彼女はずっと閉じたままだった瞼を開いた。
その瞳、左は金色。
右は竜のものと同じ、真紅。
- 570 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 20:07:01 ID:uh2tP9rA
光の結晶は次第に姿を変え、巨大な竜のシルエットとなってゆく。
未だ半身を岩に包まれた滅竜よりも僅かに大きいと思われる巨体、金色の鱗を身に纏いし神の竜。
その雄々しさは兵を奮い立たせるに足るものだ。
男「怖れるな…!吠えろ!恐怖を払え!我々が護ろうとするは、この世界だ!命を賭すなら、今をおいてあるものかっ!」
総員「おおおおぉぉぉっ!!!」
全戦力の雄叫びと、七竜から崩れ落ちる岩の破壊音。
大気を震わせたのは、いずれだったろうか。
少なくともその後に響き渡ったのは、最初に蘇りし多頭竜ハイドラの咆哮だった。
- 571 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 20:07:36 ID:uh2tP9rA
男「総員、各自散開!…健闘を祈るっ!」
この世界が続くならば、きっと新たな神話として語られるであろう。
最後の戦いの火蓋は切って落とされた。
.
- 572 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/06(金) 20:09:57 ID:uh2tP9rA
ここまで
ラストバトル、気合いれていきます
見てる方いたら、どうかオラにてーいを分けてくれ…!
- 574 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/12/06(金) 21:45:45 ID:7ZlRhtus
てーい
- 578 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2013/12/06(金) 22:19:04 ID:3q0Uz0LI
てーい
- 582 名前:深夜にお送りします [sage sage] 投稿日:2013/12/07(土) 06:42:28 ID:atqwXaHM
てーい
- 586 名前: ◆M7hSLIKnTI [sage] 投稿日:2013/12/07(土) 09:01:25 ID:9aUH6Vp2
(支援とか期待とか書いてくれてもいいんだけどな…)
×…火蓋は切って落とされた
◯…火蓋は切られた
失礼、幕と違って火蓋は落とされちゃダメらしい
- 588 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:30:42 ID:I.MoTj66
ハイドラの動きはまだ鈍い。
五本の首の内、白い瞳を持つものは中央のひとつだけ。
おそらくそこを落とせば致命傷となるに違いないが、それぞれ自由に動く首が周囲を睨み前方には隙が無い。
騎士長「おおおぉぉっ!」
しかし素早く後方に回り込んでいた騎士長の駆るグリフォンが、首の付け根を狙って降下する。
その槍は深々と突きたち、青い血が噴き出した。
どうやら紅き瞳のそれよりも、白眼の鱗は脆いらしい。
一番左の首をくねらせ悶えるハイドラ、しかしカウンターの如く右の首が背後に向き騎士長を襲う。
幼馴染「そうくると思ってたよ!」
既に構えていた三本の矢が射られる。
それは別々の軌道を描きながら、騎士長に迫る首の目と頭部に突き刺さった。
騎士長のグリフォンが大きく羽ばたき、一時離脱する。
- 589 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:32:42 ID:I.MoTj66
続けて歩みを止めていたハイドラの周囲に、冷気が集まってゆく。
魔法兵長「凍てつくがいいっ!」
魔法隊の内の十数名による完全詠唱の凍結魔法が、竜の脚部ごと周囲を氷に包んだ。
時魔女「時間加速っ!」
女「いきます…!」
時魔女が付与した力に補助され、女は僅か数秒で詠唱を終える。
女「吹き飛びなさいっ!」
火薬を炸裂させたのかと見まごう程の爆発に包まれる、ハイドラの首。
爆裂魔法と呼ばれる術だが、使いこなす者は少なく見るのは初めてだった。
その威力は凄まじく、右の二本の首が弾け飛び夥しい血が噴出する。
- 590 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:33:30 ID:I.MoTj66
男「いいぞ…!やはり紅眼の竜よりは劣る!」
俺はハイドラの側面に回り、その動きを封じる氷を駆け上った。
闘気の充填は温存しなければならない、この白眼の鱗なら切り裂きは出来ずとも刃を突きたてる事は叶うだろう。
男「喰らえ…っ!!」
全力をもって剣を突く。
重い手応えと共に刀身が竜に沈む。
大きな弦楽器を掻き鳴らすような、苦しみの咆哮をあげるハイドラ。
男「おおおぉぉっ!!!」
体表を支点に体内を刃で切り裂く。
返り血に顔を背けながら、俺は剣を抜き距離をとった。
- 591 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:34:37 ID:I.MoTj66
心臓には届かずとも、ダメージは大きく累積しているはずだ。
このまま一体ずつを相手にするなら勝機は充分にあると思われた、その時だった。
別の方向から、空気を震わせる咆哮が届く。
騎士長「…久しい顔が見えたな!」
幼馴染「クエレブレ…!」
その先には二体目の竜が首をもたげていた。
今のところ、竜が蘇る順序は対の竜が倒された通り。
クエレブレが動き始める前にハイドラを葬る事が出来ていれば言う事は無いが、それは叶わなかった。
もし本当に順番に蘇るとしたら、紅眼のハイドラが倒されたのは八年前。
クエレブレが五年前である事を思えばこの後少しの間をもってオロチが動き始めるだろう。
その場合サーペントとサラマンダー、更にヴリトラとワイバーンは殆ど間を空けずに蘇る可能性がある。
少なくとも今の二体は速やかに倒さねばならない。
- 592 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:35:41 ID:I.MoTj66
騎士長「魔法隊!火炎魔法詠唱を…!」
咄嗟に騎士長が命令を下した。
彼の事だ、何らかの意図があっての事に違いあるまい。
幼馴染「大丈夫…!ここは洞窟じゃない、クエレブレの毒霧のブレスは炎で蒸発させればいい!」
まだ旭日の部隊としては駆け出しの頃、彼女はこの竜の対となる存在と戦った経験がある。
クエレブレは大洞窟に潜んでいた。
故に吐出する毒霧がそこに充満し、幾度にも渡って討伐隊が全滅してきたという。
幼馴染「あの時は旭日の魔弓隊が洞窟後方から竜を追い立てて白夜側へ出させた…そこからはグリフォンの総攻撃で圧倒したわ!」
竜が顎を大きく開け、周囲の空気を吸い込む。
男「来るぞ…!」
放射される紫色のブレス、吸い込めば命は無い。
魔法兵長「焼き払え!」
詠唱途中ではあるが、火炎魔法が放たれる。
立ち昇る火柱はその毒霧の拡散を防ぐには充分なものだった。
- 593 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:36:55 ID:I.MoTj66
騎士長「洞窟の中では空気を薄くする火炎魔法は満足に使えなかった…!だが今は違うぞ!」
グリフォンの編隊がクエレブレを包囲する。
男「よし…!クエレブレは彼らに任せろ!ハイドラにとどめを刺すんだ!」
残るグリフォン隊がハイドラ周辺から離脱するのを待って、弓兵隊が一斉掃射を開始する。
その脚部を封じていた氷塊は既に砕け、ハイドラは自由を取り戻していた。
男「手を休めるな!矢が途切れれば竜の歩みを許す事になる!」
その動きがままならない内に、魔法攻撃で潰すのが最善だ。
しかし魔法隊はクエレブレにも割かれ、先ほどよりも数や威力は劣る。
女の爆裂魔法に期待したいが、あの術は消耗も大きいだろう。
連戦に備えるためにも、多用はできない。
男「少しづつでもダメージを与え続けろ!あと二本…いや、一本でも首を潰せば俺がとどめを刺してやる!」
あまり時間はかけられない、気持ちばかりが焦る。
- 594 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:37:47 ID:I.MoTj66
弓兵「矢が不足し始めています!」
補給が追いついていない、弾幕が途切れ始めていた。
男「仕方がない…!女、もう一度…」
止むを得ず、女に再度の魔法攻撃を指示しようとした…その時。
幼馴染「…オロチが!」
白眼のオロチを覆っていた岩が、割れる。
男「まずい…これ以上、分散させなくてはならんのか…!」
ハイドラに向かう数少ない魔法隊が足止めとしての火炎魔法を放つ。
竜の前に立つ火柱、しかしその歩みを止めるには些か弱い。
オロチが動き始め、恐るべき速度で地を這い迫る。
- 595 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:38:47 ID:I.MoTj66
明らかな危機に絶望が脳裏に過った、その刹那の事だった。
???「月の魔法隊が放つ火柱が、その程度とはな…!」
周囲の気温が灼熱に変わる。
時魔女「え…!?」
吹き付ける熱風。
眩い閃光と共に立ち昇ったのは、ハイドラの体躯を覆い尽くす程の炎の壁だった。
女「何て…威力…!あれが同じ火炎魔法なの…!?」
男「あの隊の装束は…!」
濃緑の大地に沈む夕陽のシルエットを模した国旗、それと同じ配色のローブに身を包む一団。
???「元よりハイドラは我々が討つべき竜!月の革命軍の手を借りては名折れというものよ…!」
それは落日の魔導隊の兵装に違いない。
時魔女「大魔導士!…落日のドラゴンキラー!」
大魔導士「落日の魔導隊、五十名!…暴れさせて貰うぞ!総員、翼竜を討ち損じた王都での屈辱!存分に晴らすがいい!」
- 596 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:39:52 ID:I.MoTj66
ハイドラを包む炎が消えない内に、今度はその内側で鋭く尖った氷の結晶が生まれる。
更に間髪を開けずその頭上に雷雲が現れ、稲妻が竜を捉えた。
女「信じられない…無詠唱の連続魔法…!」
男「落日の大魔導士殿…ハイドラは任せた!」
大魔導士「偉そうを言うな小童!貴殿は蛇と戯れるが似合いだ!」
オロチに向き直る。
砂を泳ぐ際のヴリトラと遜色ない速度で地上を這う蛇。
クエレブレに気をとられた魔法隊の数名を弾き飛ばして、こちらに迫っている。
男「真竜に向かわれるよりはましだ…俺達が相手になってやる!」
視界の端、真竜はその翼を広げ力を蓄えているようだった。
巫女はその前脚に寄り添い、滅竜を見据えている。
- 597 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:40:52 ID:I.MoTj66
幼馴染「炸矢…複式っ!」
オロチ目掛けて三本の矢が射られた。
その全てが竜の頭部に届いては炸裂し、土煙が包む。
しかしオロチはその煙幕を突き抜け、なおも変わらぬ速度で突き進んだ。
男「回避しろ!幼馴染!」
対オロチを担う全兵が、その両側を目指し二手に分かれて駆ける。
果たして竜が追うのはどちらになるか。
白き瞳がぐるりと動き、俺の姿を捉えた。
男「…こっちか、いいだろう!槍兵!俺がオロチの気を引く…!胴を攻めろ!」
槍兵「はっ…!」
- 598 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:50:19 ID:kaEeTq02
まさに蛇が獲物に飛びかかるように、顎を開いたオロチは俺を目掛けて首を伸ばす。
確かにスピードは砂を泳ぐヴリトラほどもある、しかしここは砂漠ではない。
男「喰えるものなら喰ってみやがれ!」
俺にとっても砂上よりは、よほど走りやすい。
横に跳ぶようにその牙を躱す。
俺を捉え損なった、そのがら空きの背後からは。
幼馴染「炸矢…!いくらでもおかわりさせてあげる!」
オロチの巨体が浮く程の炸裂、怒りを覚えた大蛇が今度は矢の主に向き直った。
その死角から槍兵の攻撃が胴に突きたてられる。
痛みに身を捩り、大きく顎を開けた…その口の中。
女「…丁度良い位置です、私もご馳走して差し上げましょう!」
幼馴染の矢を凌ぐ、大規模な爆発が巻き起こった。
- 599 名前: ◆M7hSLIKnTI [] 投稿日:2013/12/07(土) 16:51:16 ID:kaEeTq02
大魔導士「ほう…!その魔法を使う者がいるとはな!」
感嘆の声を投げる落日のドラゴンキラー。
既にハイドラは四本の首を失い、残る白き瞳を持つ首も地を擦る状態だった。
クエレブレもまた膝を折り、陥落は目前の様子だ。
ひとまず今、蘇っている竜の制圧は目前と思われた…しかし。
男「気を抜くな!オロチが再び動くぞ!」
先程よりも鈍い動作で、オロチは鎌首を擡げる。
そして、その背後。
幼馴染「う…わ…!」
時魔女「こりゃキツイわ…」
遠吠えのような複数の咆哮。
サーペントとサラマンダーが岩を破り、ヴリトラを包む岩石もまた大きくひび割れていた。
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