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意地悪なメイド2
665 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/06/26(木) 15:04:44.60 ID:sL/hFXQ0
第三話 「日常の残滓」

結局、俺の表向きの立場としてはバカ妹のお墨付きの訓練生だそうだ。
何の訓練生なのかと問えば、

「ここは極東における拠点であり、明日を担う兵達の養成所でもあります」
「つまり、俺にドンパチやれと?」
「ええ。ですが期待していませんから、安心してください。あなたの役目は……」

実験体。つまりモルモットであることが、俺がここで生きる条件らしい。
これが裏の、言うなれば本来の立場なのだ。



さて、さらっと流したがいまさらになって気づく。
あいつが言うにはこの平和な日本において兵役が存在するらしい。となればどこの国を相手取っているのか。
瓦礫と砂塵に埋もれた町並みを思う。あんなことをやってのけた国……
自然と頭には第三次世界大戦という単語が思い浮かぶ。戦争をしているのか、この世界の、俺の国は。
悩んでいても仕方ない。割り当てられた部屋に向かい、迷いながらもなんとか進んでいく。
俺の首にぶらさがったIDカードがなきゃ、きっと出られやしない迷路のようなその場所。
ため息が出る。RPGのダンジョンを思い浮かべるが、なるほど、用途としてはそうなんだろう。
簡単に進入させられないからこそのつくり。なんとも厳重なことだ。

「ここか」

先ほど実の妹から告げられた番号を思い出し、扉の隣にあるリーダーにカードをかませる。
ピ、という小気味のいい電子音が鳴り、扉がスライドし、部屋の調度品に目が行く前に……
そこにいる女の子に気がついた。

「……」
「なっ!?」

そして何よりまずいのは、その子はどう見ても半裸状態というやつで、服を脱ぎかけている。
いや、もしかすると着替えはじめなのか? どちらにせよ、かなり、まずい。

「……」
「あ、いや、その……」

しどろもどろになりつつも、ここは俺の部屋なんじゃ? とか、君は誰? という言葉より先に、

「……えっち」
「失礼しました!!!!!!!」

相手の身もふたもないお叱りに反応し、俺は頭を下げてすぐに扉を閉めた。


666 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 15:06:52.01 ID:sL/hFXQ0
「えっと、まず確認するよ」

こくり、と頷く女の子。

「ここは俺の部屋で間違いないよね?」

これまたこくりと返事が返ってくる。

「よし。じゃあ次だ。なぜ君はその……人の部屋で着替えをしてたのかな?」
「ん」
「ん? ……って、ああ」

彼女が指差す先にあったのは花瓶。そして濡れた彼女の服。
一応先に弁明しておくが、彼女は俺の制服を羽織っているのでギリギリセーフなばずだ。多分。

「あれの中身を零したから着替えようとした、と」

こくりと頷かれる。どうやらこの子はクール属性なのだろうと判断する。
菫色の長い髪の毛を、ツーサイドアップで結わえた髪型が女の子らしくてかわいらしい。
……って俺は何を考えてるんだ。状況確認が先だ。

「でも、着替えを持ってないことに気づいて再び着ようとしてたところに俺がきた、でいいんだね?」
「はい」

透き通った声が小さくも、俺の反応を返してくれる。
良かった、さすがにファーストインプレッションが最悪すぎて嫌われて口も聞きたくない状態なのかと思ってた。
ただのクール系なのか、もしくは大人しい無口系なんだろう。何たって事故だ。
事故なら仕方ない。それにしても色素の薄い肌だったなぁ、滑らかそうですべすべで、でも女の子らしい丸みが……

「あの」
「ひゃい!?」

まさか俺の思考回路がまずい方向へ行き始めたのを察して釘を刺してきたのだろうか。
だったとしたら色々とまずい! まずすぎるぞ、俺! 決して俺はロリコンな訳ではなく……


667 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 15:07:13.07 ID:sL/hFXQ0
「これ、どうぞ」
「ん?」

見ればそこにあるのは歴史の本。所謂教科書だ。

「長官が、あなたには必要だろう、と」
「……ああ、そうだな」

そうだった。俺はこの世界では異邦人。郷に入らば、とまではいかないが常識程度は身につけなければまずい。
一応、あいつとの約束に俺が異邦人であることはシークレットにしとおけと言いつけられている。
わざわざ破る意味もないし、バレたらバレたで面倒なことは目に見えている。
ここは素直に従おう。……って、ちょっと待て。

「あ、あのさ。俺がこれを必要なのは、ちょっとお勉強ができない子で……」
「大丈夫です。私は長官の計画の関係者です」
「ああ、なるほど」

それでこの子が俺の部屋の整えてくれたんだろう。
それにしてはその……片付いてないというか、むしろ荒れてるというか。

「伝言も言付かってます」
「何て?」
「その内容、明日の朝までに叩き込んでおかないと、生活は保障しない。だそうです」
「……くそ、あいつ絶対それいうときニヤニヤしてたに違いない」
「では」

すくっと立ち上がって、さっさと出て行こうとする女の子。
さすがに俺の一張羅を持っていかれると困るのでそれをとめる。
それに……

「あのさ!」

きょとん、とした顔でこちらを見る彼女。

「名前、聞いてないよな。俺、男。聞いてるだろうけど……君のも、良かったら教えてほしいんだ」
「……私ですか」

少し彼女は思案した後、

「イドです。では」

そう名乗ってぺこりと頭を下げた。

「了解。イド、今度服届けにいくから、そのときは上着返してくれよ」

それに対して一度浅く頷き、今度こそ彼女は部屋を出て行った。


668 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 15:07:30.09 ID:sL/hFXQ0
歴史。積み重ねられた現在の堆積物。過去という姿。

「……冗談、だろ」

ページをめくるたびに、驚きと絶望が俺を飲み込む。
『並列世界』の史実は、そのほとんどが俺の居た世界と変わらないが、1944年以降で異変が起きる。
まずは東亜戦争の結末が、日本の敗戦なのはわかる。だが、それでおしまいだ。
原爆も落とされず、日本は無条件降伏をしていない。何より、日本は日本国ではなく、日本帝国のままなのだ。
その名でわかるように、この国の政治体制は国家元首として「皇帝」と呼ばれる存在を置いている。
そして皇帝より任命された「政威大将軍」が政務と軍の指揮権を委譲されるという形で統治している。
その下に、内閣総理大臣が位置しており、政策を補佐しているという形態だ。

「何だよ、これ」

日本の首都は京都のままで、ここ数年で経済的に発展してきた東京に遷都したと書かれている。
そしてアメリカ軍の駐留もとある時点まで行われていたそうだ。
それらの直接的な原因となっているのが、

「BETA」

そう呼ばれる存在だった。地球外生命体、そうだという以外が一切不明だという。
どこから現れたのか、何が目的なのか一切が判明しないままに人類は攻撃を受けた。
その圧倒的物量と高度な科学技術、生物が生きる上で過酷な環境にも適応する能力を備えており、人類は苦戦を強いられている。
ハイヴと呼ばれる彼らの巣のようなものが、地球各地に打ち込まれ、そこを拠点に奴等の侵攻は始まった。
数年前に日本にも侵攻を開始。九州・四国・中国・近畿がわずか一週間で壊滅。犠牲者は3600万人(日本人口の30%)にも上った。
地球上の総人口が10億まで減っていることをかんがみれば、いかに恐ろしい敵なのかわかる。


脳裏に思い描かれる廃墟と化した街並み。
あれを行ったのは同じ人類ではない。理解すら及ばぬ地球外生命体。
怖気が走ると同時に身を焦がすほどの怒りがこみ上げる。
教科書を一読しただけでだいたいの歴史は頭に入った。
自分でも驚くほどスラスラと。きっとこの怒りが原動力なんだろう。
俺は明日からのスケジュールを思い出し、備え付けられたベッドに横になる。
目を閉じ、明日からに備えて気持ちを落ち着けさせる……。


669 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 15:07:45.56 ID:sL/hFXQ0
眠れない。
精神が高ぶっているんだろう。
俺は軽く反動を付けて、ベッドから跳ね起きる。
少し散歩でもすれば気持ちも軽くなるだろう。
そんな軽い気持ちで扉を開けた瞬間、横合いから出てきた人影とぶつかる。

「うわっ!?」
「きゃっ……」

どうやら向こうは、この部屋から人が出てくるとは思ってなかったんだろう。
思い切りしりもちをつかせてしまう。

「ご、ごめん。大丈……」

手を差し伸べ、固まる。

「……おかしいわね。ここに誰かがいるなんて聞いていないけれど」

そこに、見知った彼女(ひと)がいた。


670 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 15:10:02.70 ID:sL/hFXQ0
という感じで原作の流れと設定を少しずつ踏襲しつつ、
オリジナル部分がちらほら見えてきます。
まぁ知らない人にはどっちにせよ関係ないかもだけどww

ではまぁ、ここから先もお楽しみいただけるよう、一日一話を心がけてガンバって行きます。
ちなみに一つ画策してる企画として今度やる気のない女店主さんのとこに顔出ししてみようかと思ってたり!
さすがに向こうの流れを悪くするのもあれだから様子見してるけど、何つーかこう……俺のとこにはない甘さや華やかさで溢れてるんですがwwww
ま、これも企画の一部ってことでいずれ!


671 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 15:12:35.03 ID:IumjdpMo
オルタはよくエグイエグイ言われるから怖くてプレイできないヘタレが通りますよ、と


672 :NGシーン「見ない方がいい」 [] :2008/06/26(木) 21:29:49.78 ID:01GXe2DO
眠れない。
精神が高ぶっているんだろう。
俺は軽く反動を付けて、ベッドから跳ね起きる。
少し散歩でもすれば気持ちも軽くなるだろう。
そんな軽い気持ちで扉を開けた瞬間、横合いから出てきた人影とぶつかる。

「うわっ!?」
「うほっ……?」

どうやら向こうは、この部屋から人が出てくるとは思ってなかったんだろう。
思い切りしりもちをついてしまう。

「ご、ごめんなさい。大丈……」

手を差し伸べられ、固まる。

「ん?……おかしいな、ここに誰かがいるとは聞いていなかったが、まあいいそんな事より。」

「や ら な い か」

「アッーーーー!」

そこには見覚えのある良い男がいた。






正直すまんかった


675 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 23:26:43.40 ID:TzgqGYSO
乙でした!
これって元ネタはエロゲなの?
本編とはまた違うっぽいけど


676 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 23:43:00.64 ID:caCDVoAO
>>675
原作エロゲ

でもグロで18禁なんじゃねえの?って程グロい所もある


677 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/26(木) 23:58:36.63 ID:3wUndsAO
勿論原作というかオマージュです。大部分の設定は勝手に借りてる感じ。
なのでageとかに告げ口は御法度です。……本当ダメですよ?ww


原作(PC版)はグロだグロだと言われるけど、耐性がないと確かにつらいかも。
けどつらいからこそ乗り越えた先にある熱さがヤバい!
と思うのですよ。


まぁこれはあの作品世界に、もしこいつらがいたとしたらこんな感じかなって話なんで原作とは違うかもです。
もし本当に心からのマヴラブファンの人がいたら、見るに耐えないかもだけど……
俺なりにやってくつもりなのでスルーとかでお願いしますっ




んでNGシーンは面白いからどんどんよろしくww
さて、もう数話進んだらプロローグだぜ!


684 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/06/28(土) 04:24:10.37 ID:Jd8gfwY0
第四話 「非/日常」


「いいん、ちょ?」
「……何者なの、あなた?」
「あ、いや……」
「私の名前、それもその呼び方をするのは特に親しい間柄の人間だけのはずなのだけれど」
「……」

咄嗟に出た言葉が裏目に出た。
向こうでの当たり前は、こちらではそうじゃないんだ。
幸い眠気のこなかった頭はまだ回転してくれる。

「その、だな。俺は明日から君たちと同じ班に配属されることになった、“男”って言うんだ」
「この時期に配属?」
「ああ、俺は少し前まで他の場所で訓練を受けてたんだが……」
「冗談。今やこの国で訓練生を育てる機関はここだけよ」

しくじった。まだこの世界に慣れきっていない人間が言い訳なんかできるはず……

「それはお前の考え方が狭いだけだろ? 俺は特殊な訓練を行ってきたんだ」
「……」
「信じる、信じないはそっちの自由だけどな」
「……で、その新人さんがここに今日から入っている、と」
「そういうことだ」
「それで、今日からここに入る新人さんはこんな時間に何をしてるのかしら」
「いや、な。眠れなくて散歩でもしようかと……」
「一応この施設内ではこの時間は出歩けないことになってるの。おとなしくしていてくれる?」
「あ、ああ」

とりあえず当面の危機は乗り越えられたらしい。
胸をなでおろしつう、ではなぜいいんちょが出歩いてるのか、と質問しかけるがすんでで止める。
やぶへびになってこれ以上事態をややこしくしても仕方ない。

「それじゃ、寝させてもらうよ。おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」

スライドしていくドアの向こうに彼女を見送って大きくため息。
しかし、自分はそんなに口がうまい方だとは思えないので、先ほどのやり取りが信じられない。
あのいいんちょを誤魔化せるなんて、俺もなかなか口先がうまくなったものだと思う。

「って、それどころじゃないな」

俺は急いでバカ妹に内線で連絡を入れる。
ああやってついた嘘を真実にしておかなければ色々とまずい。



こうして俺は、彼女のいる班へと入ることが決まった。
まるで、決められた運命のように。


685 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/28(土) 04:31:04.42 ID:Jd8gfwY0
翌日。恐ろしく早い起床時間にもめげず、俺は朝の支度を始める。
昨晩、あのまま散歩なんかして睡眠時間を削っていたら色々まずかっただろう。
偶然とはいえいいんちょには感謝しておこうと思う。

朝市で支給された訓練服に袖を通しつつ、気を入れなおす。
今日から俺は訓練生なんだ。特にいいんちょには啖呵を切ったんだ。
多少は無茶をしてでもいいところを見せようと思う。

「っしゃ、いってくるぞ、メ……」

振り返り、誰もいない空間が俺の目に入る。

「……大丈夫。いいんちょがいたんだ、お前だってそのうちひょっこり出てくるよな」

言い聞かせるように、俺はつぶやく。
それに答えてくれる人間はもちろん、どこにもいなかったけれど。


686 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/28(土) 04:41:08.54 ID:Jd8gfwY0
バカ妹やいいんちょに出会えた手前、他の人物がきてくれればうれしいと思っていた。
それが俺の心を落ち着けてくれるのは間違いがないからだ。
とはいえ、これはひどいんじゃないだろうか。
神様というのがいるならば、俺はそいつの顔面に一発はかまさないと気がすまない。

「君が新人か」
「はい」
「……。まぁ、長官の推薦なのだ。活躍に期待する」
「よろしくお願いします!」

俺の目の前にいるのは野戦服に身を包んだメイド長さんだった。
確かに幼少期はこの人に色々と教わったので、彼女とのこういう関係は違和感がない。
だがその分、俺は知っている。彼女がモノを教える場合、非常にスパルタであるということを。
少しでも手を抜くことも、気を抜くことも許さなかった彼女である。
俺は彼女に見えないように心の中で泣いた。

「男。今日からお前が学ぶ教室はここになる」
「ここ、ですか」
「ああ。早速、班員達に紹介する。入れ」
「はい!」

ガラリ、と扉を開けた先、まず目に入るのはいいんちょの顔。
俺の来訪を知っていたであろう彼女の顔に変化はない。
その隣、見覚えのある顔はいいんちょの妹さんだったはずだ。
だが俺の知ってるような天真爛漫な笑顔はそこにはなく、何といえばいいのか……
そう、まるでやさぐれという言葉がそのまま服を着たような表情になっている。
その後ろにいるのは見覚えのある顔。友がいた。
ニコニコとした表情は俺の見慣れたそれと同じで、少し安心する。
最後にわざわざ端のほうで小さくなっているのは……女さんか。
俺を見る表情はおそるおそるといった様子で、警戒心が見える。
普段の彼女を知る俺としてはそれが人見知りからくるんだろうと思える。
少し悲しいが、これから仲良くしていきたい。

「新人、名前を」
「はい! “男”といいます。今日より皆さんの班の一員となります、よろし……」
「っけ、使えんのかよ、こんなとっぽい兄ちゃんが」
「なっ!?」

驚きとともに視線を送る先は、そんな発言をした人物。
妹ちゃんだ。


687 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/28(土) 04:48:52.04 ID:Jd8gfwY0
「お姉ちゃんが言ってたとおり、本当に見所ない感じだね」
「……妹、黙りなさい」
「何よー、班長であるお姉ちゃんが苦労する前に、あいつをさっさと別んとこ移してもらうだけじゃん」
「あ、あわわ」
「妹ちゃん、そんな言い方は……」
「っさいわね、外野は黙ってなさいよ!」
「あぅ」
「ご、ごめん」

何だか話はおかしな方向へ転がり始めた。
どうやら妹ちゃんは俺が気に食わないらしい。
まぁ確かに自分でもそんなに頼りがいがあるようには見えないとは思う。
でも頭ごなしにこれはひどいんじゃないだろうか。
一言ぐらい文句を言ってやろうと、口を開きかけたところで、

「黙りなさい」
「……っ」

背筋が凍るような冷たい声で、メイド長さんが命令する。
それは教室にいた全員が沈黙に逃げるのに十分な迫力だった。

「彼は長官の推薦であり、あの方の指名でこの班への配属が決まったのだ。文句は言わせない」
「……」
「では、男は一番前の席へ。軽いミーティング後、早速カリキュラムに移る。以上だ」

文句はあるのはわかっている。
その上で言わせない。そんな事を言葉だけで強要させられるあたり、さすがだと思う。
だが、こんなギスギスした状態で放り込まれても……。
と言えないのもまた悲しいことだったりする。

俺はそれぞれの班員から向けられる、様々な視線に晒されつつ、日常をはじめることになるのだった。



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