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意地悪なメイド2
- 747 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage]
:2008/07/03(木) 01:59:01.61 ID:8CneroAO
第八話 「チームU」
翌日からも、俺達の訓練は続いた。
午前中は単純に兵器などの知識だけかと思っていたがそうではなかった。
歴史や経済学など、関係が浅からず遠くない知識もしっかり叩き込まれる。
実際の動きなどは、ほとんどが午後から実践を交えて行われる。
皆がそれを一つ一つ覚えていく中、俺は知識こそ新しく吸収するものの、いざ実践に入れば……
「よ、っと」
体が勝手に動き、ほぼ完璧にこなしてくれた。
やはり頭痛はつきまとうが、倒れるほどの事はなくなっていた。
皆も最初こそ、俺に対する遠慮はあったが、最近では動きについて教えを乞われるまでに親しくなった。
俺も自分なりの解釈を交えてながらアドバイスをしていく。
なんとなくではあるが、距離が少しずつ埋まっているように思い始めていた。
心地よさすら感じる程に。
……たった一人を除いて。
その日も、きっかけは彼女だった。
- 748 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/03(木) 02:18:20.70 ID:8CneroAO
「……っ!」
「シィ……!」
前髪の数本を巻き込んで銀光が眼前を掠める。
模造品の刃のはずが、凶器にしか思えぬ鈍い光を放つ。
この学び校には体育館もある。と言っても体を育むというよりは戦いを学ぶ場所だ。
今日は夜間のカリキュラムにナイフを使った近接戦を想定した模擬戦をさせられていた。
二人一組で組み手を行ってゆき、優秀な成績を修めた者同士が再び組を作る。その繰り返しで出来上がったのは俺と妹ちゃんの組だ。
体を動かすという点では友や委員長が優れた成績を残しやすいが、こういった小手先の応酬では妹ちゃんが頭一つ抜きん出ている。
だが、俺もそれに食らいつく事が出来ていた。
それが今の俺達という組み合わせを作る要因になっていたのだから。
「せぁ!!」
「くっ……」
とはいえ体格差があっても、これは殴り合いではない。
重量にモノを言わせたところで懐に潜られ一突きされれば終わりだ。
つまり現状、俺の方が潜るべき懐の深さやリーチの長さが災いし、不利な状況にあった。
必死に銀色の軌跡に食らいつき、弾き、捌く。
加速する応酬は際限なく、俺の頭痛のひどさも比例していく。
「ぐ……ぉぉ!!」
それでも昔のように簡単に意識を手放したりしない。
あるいはそうする事で、目先の勝利は得られるかもしれない。
しかし、それは何かが違うように感じる。そして目の前の彼女を傷つけてしまうような錯覚。
だから自分なりの、自分の戦い方を意識して……
- 749 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/03(木) 02:36:25.88 ID:8CneroAO
カラン……
体育館の板張りの床に、やけに軽い音が響き、俺の模造刃が転がる。
「そこまで!」
凛とした声がこだまし、張り詰めていた何かがほどけていく。
勝負はついた。悔しいが俺の……
「……ッッざけんなぁ!?」
途端、空間を震わす大音声。
それは心よりの怒りを含んだ声。
出どころは勿論、
「妹、ちゃん?」
怒りに肩を震わせる彼女だった。
「何で……何でだよ!」
「何のことさ!」
詰め寄られ、拳を打ちつけられる。
「はァ?! ざけんな! なんで手ェ抜きやがったんだよ!」
「手なんか抜いてない!」
実際、そのつもりだ。
確かに、少しは……
「何で途中でこっちに気ぃ遣ってんだよ!」
「別にそんな……」
「お前、強いからって俺を見下して……何様なんだよ!」
さすがにここまで言われれば、腹が立つ。
何で訳も分からずここまで言われなければならないのか。
「何をムキになってんだよ、たかが模擬戦だろ!」
「……っ! てめぇ!?」
今度こそ、全力で殴られた。加減なしに。
- 750 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/03(木) 02:50:13.17 ID:8CneroAO
「っ……てぇな!」
「あんた、わかってないの? 今のが実戦なら、死んでるんだよ」
「……っ、そりゃ、そうだけど」
「模擬戦だから? 私が女だから気を遣った? 舐めるのも大概にして」
今までのように感情的な言い方ではない。
体の芯から出すようなしっかりとした声。
「何でも出来るあんたにとっちゃ、こんなのお遊びの延長かもしれない」
けどね、と彼女は俺をねめつける。
「私達は本気なんだ。あんたがどこの国にいたかは知らない。けど温床育ちなのはわかるんだ」
「温、床……」
「私があんたを気に入らなかったのはその危機感のなさだよ。あんたはBETAをわかってない」
「……」
「実際に私達はあれの脅威にさらされてここにきてる。だから覚悟が違う」
だから、と彼女はきびすを返す。
「あんたみたいな何でも出来る“だけ”の奴は……心底気に入らないんだ」
「ま、待っ……」
「教官、気分が悪いんで先にあがりますよ」
「……ああ」
普段なら絶対許さないような身勝手。しかしここまで成り行きを見守っていた彼女はそれを認めた。
何も言えず、ただ自分の落としたナイフを見つめる俺に目もくれず教官は解散を告げる。
誰もが俺を見て、しかし声をかけずに去っていく。
ただ一人残った俺は、先の事を思い出す。
そう、確かに勝ちを確信しながら意識を手放さなかったこと。そして何より彼女を気遣っていたこと。
「……くそ!」
確かに俺は、相手の本気を正面から受け止めていなかったんだ。
- 787 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/07/06(日) 02:02:47.79 ID:zdtV7kAO
第九話 「チームV」
自身の愚かさを嘆く間もなく翌日になればまたひたすら身体をいじめぬく日々が始まる。
ただ、起こったことがなくなる訳じゃない。
早朝のトレーニング。少しずつ増えていた挨拶や会話がぷつりと途切れる。
イジメだとか、そういうことじゃない。
異質なのだと事実を突きつけられているだけだ。
『覚悟が違う』
たった一言に集約する俺達の間に在る溝。
深く食い込んだそれは、昨日から少しずつ広がることは間違いなかった。
チームと言ってもやはり仮初めだったのだろう。
もとより異質であるのは事実なのだ。気負う必要なんてどこにある。
最低限、相互扶助を忘れず行えばいい。
そう、きっとそれだけの関係……
――ズキン
走り込みを続けているくらいなら気にならないはずの頭痛が、ひどく重たい。
そして何故か頬が殴られたように熱い。
目の前を走る小さな背中が、遠く感じる。それがもどかしい。
何故か彼女とこんな風にあってしまう事実が、俺を苛む。
――イタイ
瞼を落とす。しかしそれを貫き光が俺を満たす。
真っ白に染まる景色。
一秒前にあった土色と青空は消えて……
「その、だな。……悪かった」
ふてくされて、しかし謝罪の言葉をくれた妹ちゃんが見えた。
- 788 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/06(日) 02:15:54.45 ID:zdtV7kAO
「いいさ、別に」
俺の口が勝手に動く。
「んだこら。素直に謝ってやってんのになんで偉そうなんだよ」
「そんなつもりはねぇけど……素直ねぇ」
誰か知らない俺が笑う。
「あァ?! 何笑ってやがんだ!」
「だって、妹ちゃん真っ赤だし。今日はいくら怒られても怖くないな」
「だ、誰が真っ赤だ! 嘘つくんじゃねぇよ!?」
「だったら鏡でも見るか?」
「見るか!!」
そんな、言葉の上では喧嘩をする二人が羨ましく感じる。
きっと彼女とうまく付き合っていけばこうなるんだろうと思える姿。
「……とにかくだ。さすがに殴るのはやりすぎた」
「正直かんなりいたかったぞ」
「しゃあねぇだろ! お前があんまりにも平和ボケしてっからイライラすんだよ!」
「ぬ……」
「だいたいだな、俺らが戦うのは地球に巣くう害虫だ。逆にいや、奴らからしたら私らはただの餌みてぇなもんだ」
スッと切り替わる彼女の表情。
「私は力がないから、姉さんを守ってやるにはこんな道しかなかった。けど……」
何かを堪えるような雰囲気がある。
「けど、あの時の私にもっと力があったら、お姉ちゃん達を二人とも助けられたんだ!」
「……」
「だから私はあんたみたいな奴は許せない! 非力なのは仕方ない! けど、だからってへらへらするな!」
何故かはわからないがズキンと胸が痛む。
「私達はチームなんだ。だから力を出し合わなきゃいけない! 出し惜しみするな! やれることをしろ!」
「……そう、だな」
相変わらず身体や口は勝手に動くが、今の言葉は俺の言葉でもあった。
- 789 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/06(日) 02:26:55.38 ID:zdtV7kAO
彼女達をまだどこか遠い世界の住人に見ていた。
自分に何ができるか朧気に理解しながら放棄していた。
俺はどちらの彼女に怒られて当然だ。
“力があるのに、覚悟がない”
それは彼女にとっては何より許せなかったんだろう。
非力でも、覚悟だけは決めていた彼女からすれば妬ましく感じるしかない。
彼女が何より欲しいものを見せつけながら、俺はそれを溝に捨てるようなことをしたんだ。
悔しかったろう、憎かったろう。
今だから理解できる。謝れる。
それを自覚した瞬間、急激に消えていく景色と頭痛。
そして彼女の姿。
最後に見た幻は、言い過ぎたと謝ってくれ、俺はそれに……
ザッザッザッ……
土を足の裏で噛む感触にびくりとする。
浮翌遊していた意識が身体と地面に胴体着陸した気分だ。
「……今のは?」
もはや断片すらも拾えなくなった映像や記録達。
それらを振り払い、目線を先に戻せばそこにある小さな背中。
跳ぶ前に見た景色が、戻った先にあったのだ。
少しペースをあげ、彼女に並ぶ。
当然のように嫌な顔をされたが俺は負けじと声をかける。
「朝が終わったら、自販機前で待ってる。逃げるなよ」
「なっ……?! 誰が逃げ……!!」
そしてそのまま追い越す。
今日は強引な待ち合わせ時間までは追いつかれないでいてやろうとペースを早めた。
- 790 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/06(日) 02:52:55.77 ID:zdtV7kAO
トレーニングを早々に切り上げ、背を壁に預けながら彼女を待った。
正直なところ、昨日の今日だ。来てもらえないと思っていた。けど……
「おい。呼び出しに応じたんだ。何か奢れよ」
「……安いのなら」
「みんな対した額じゃねーだろ」
妹ちゃんは来てくれた。
適当なジュースを買い渡し、二人して静かに火照った身体を冷ます。
そんな状況に先に痺れを切らしたのは彼女だった。
「で、何だよ。私はさっさと飯食いにいきたいんだ、用がないなら……」
「ごめん」
「……何がだよ」
彼女から発せられる空気が剣呑なものになる。
もし、あの光景がただ俺が見た都合がいい景色であったり解釈が独りよがりだったなら彼女の怒りを買うだろう。
そうなれば本当に修復不可能な関係になるかもしれない。
そんな微かな恐怖を後目に、しかし俺は自分の思ったままを謝る。
立場こそ言えないが、自分が現実を認識出来ていないこと。
女性が相手だからだと気遣いなどをしたこと。
ひいては力の出し惜しみをしたこと。
それらを自分なりに考えた言葉で彼女に聞いてもらう。
そういった謝罪の意味の説明。そして最後に……
「だから、俺と勝負してくれ。頼む」
もう一度、やり直したい。そう願った。
時は巻き戻らないかもしれない。わかっている。だけど、今なら彼女に応えられる。自信がある。
そして、その言葉に彼女は……
- 793 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/07/07(月) 03:48:14.36 ID:8X9dwMo0
第十話 「チームW」
ガラリ。教室のドアを開けた瞬間、全員がギョッとする。
数分ではあったが遅刻をした人間への叱責を行おうとした教官ですら、だ。
しかしそこはさすが鉄面皮なクールビューティー。
「貴様ら、何故遅れた」
すぐに気を取り直して失態の理由を問う。
もちろん俺たちの答えは最初から決まってる。
「「すみませんでした!!」」
「……。理由を問われたくないようなことだったのか?」
「「すみませんでした!!」」
「……はぁ。もういい、遅れてきた貴様らが聞く講義などない」
びしり、と外を指す。
「午後の実習が始まるまで、走り込みだ。いけ!」
「「はい!!」」
俺はすぐにきびすを返す。続く妹ちゃんも同様に。
返事こそはっきりさせていたものの、お互いに疲労困憊だったが。
でも互いの表情に気まずさや、険悪さはない。
これから始まる罰に対して非常に明るい表情を伴っていた。
「何があったのかな……?」
「さぁ?」
不思議そうな顔の友と女。彼らにしてみれば当然の疑問だった。
朝のトレーニング時にはまだまだ余力を残していた二人が満身創痍で出てきたのだ。
それも男のほうは兎も角、妹のほうが明からにぼろぼろだった。
そのくせ二人して晴れやか、とまではいかないもののさっきまでの雰囲気は軟化している。
いったい昨日の今日で何があったというのだろう。
どこか納得のいかない二人とは対照的に、委員長だけがくすりと笑みを漏らす。
窓の外、張り合って走りこむ二人を視界に収めつつ。
「……まるで少年漫画ね。まったく」
悪態のようなその言葉に若干のやわらかさを込めながら。
- 794 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/07(月) 03:48:38.18 ID:8X9dwMo0
昼前になって委員長が俺たちに合流していた。
飯も取らずにご苦労なことだ。そう悪態のひとつでもつこうとしたが、結局出てこない。
彼女たちも必死なのだと、そう思えるようになったから。
そして、俺たちが目指すものを改めて確認したとき、今俺たちがやっていることがとても大切だと思えた。
だから茶化さない。手を抜かない。俺はいつか誰かを守らなきゃいけないから。
「はぁ、はぁ……おね、ぇちゃ……ぜぇ、ぜぇ」
「追いついたか、どうした。もうちょっとがんばれば周回遅れを取り戻せるぞ」
「い、いわれ、なくても……」
「あなたも随分とがんばるのね」
「べつに、よゆ……げほ!!」
「根性だけなら本当すげーよな。ま、その調子でがんばってくれ」
「ええ、遠慮せずに走って」
「そうさせてもらうわ」
「ま、待……」
その声を背に受けながら俺はペースをあげていく。
昼からの実習まであと少し、ラストスパートだった。
「何、なのよ、あいつ……」
「さぁ、特殊訓練生なんでしょ?」
「……に、したって……」
「それより、案外あっさり許したのね」
「……」
「彼、昨日の一件で真剣になってくれたみたいね。あなたの力よ」
「んな、こと」
「あるわ。ありがとう」
「……」
ぷい、とそっぽを向く妹を可愛く思う。
この子は不器用だが何に対しても真剣だ。それが彼にも通じたのだろう。
これから自分達はいいチームになれる。
普段から確証のない委員長であったが、このときばかりはその予感を素直に受け入れていた。
- 795 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/07(月) 03:48:56.20 ID:8X9dwMo0
一日が終わり、食堂へ向かう。
昨日の今日だけにぎくしゃくするかと思っていたが、自然とみんなで食事を取れた。
それもきっと、妹ちゃんが今までよりも少し俺に対する態度を変えてくれたからだろう。
一方的な拒絶ではない、そんな話し方が友や女さんの警戒心を解いてくれる。
食事は俺がここへ来て、一番の盛り上がりになった。
「へぇ、女さんは狙撃が得意なんだ」
「う、うん。って言っても、あがり症だから、その……」
「スナイパーとしちゃ、いちいち頼りないんだよなぁ」
「うぅ、そういう妹ちゃんだって接近戦以外はそんなにすごくないじゃん」
「あァ?!」
「ひぃ!」
「まぁま、喧嘩はダメだよー?」
「そういや、友は何が得意なんだ?」
「ん? 僕は基本的に身体を使ったこと全般かなぁ、得意っていうより好きなだけだけど」
「そかそか。で、委員長はオールラウンダーなわけか」
「あら? 自分を棚に上げてそんなこと言うのね。いやみかしら」
「んなつもりはねーよ……でも指揮とかはばっちり取るよな」
「まぁ、そうね。それよりあなたはどうなの?」
「あー、俺はまぁ、何が得意ってわけじゃないけどさ」
「ないというより、全部得意なんだろ。あーさすがっすねー、特殊訓練生さまはー」
「んだよ、その言い方。ひがむなって」
「ひがねねーよ、ばか!!」
「ふふ、妹ちゃんってば」
「うがー! おめぇらも笑うんじゃねぇー!」
本当に楽しい食事になった。
まだまだみんなのことを知らない。けど知りたい。
今までとは違う。俺から彼女たちへ歩み寄りたい。
そういった態度はきっと人間、自然に感じ取るものなのだろう。
彼女たちも俺への態度のぎこちなさが消えていく。
もう一度、今度こそ本当に……俺たちはチームになれたんだ。
この食堂での風景を見て、俺はそう考えられるようになった。
- 796 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/07(月) 03:49:12.76 ID:8X9dwMo0
闇が支配するその部屋で、少女は見上げる。
地下深く。その部屋は誰しもが入れる訳ではない。
この基地内でもほんの一握りの人間しか与えられていない権限。
それを行使しなければこの部屋にはたどり着けないのだ。
そんな重要な区画の中にあったのは……
――ゴポリ
「……」
プシュ……
ドアのスライドする音と共にこちらに来るのはおそらく彼女だろう。
この基地内の全てを動かす権限を持ち、今や極東の地を任されるだけの地位にあるその人。
「ここにいらしたのですか」
「……はい」
振り返れば軍服の上に白衣を羽織るという格好の妹嬢。
伊達や酔狂でそんな格好をしているわけではないのは自分がよくわかっている。
この人は軍人であり、そしてこれを羽織るべき役職にある人なのだ。
コツコツとヒールを鳴らしながら彼女が隣に並ぶ。
共にソレを見上げ、沈黙が訪れる。
横顔をのぞけば、淡く発光をするソレの青白い光を受ける彼女。
整った顔立ちからは何を考えているのか分からない。
分からないから、イドは目を瞑り――
「大丈夫です」
彼女の手を握る。
「……そう、ありがとう」
そうつぶやいて、妹嬢は微笑む。
そして改めてソレを見上げ、口の端を強く結ぶ。
「そうね、大丈夫。私たち人類は負けない。……負けないの」
言い聞かせるような言葉は、小さな光のように闇の中に溶けていった。
――ゴポリ
- 797 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/07/07(月) 03:49:56.22 ID:8X9dwMo0
第零話 「始動/死胴」
重厚な金属音が響く。それは力強いはずの駆動音。
しかし、それもここではあまりに貧弱に思える。
ここにはもうやつらがいないとわかっていても、次の瞬間に出てこないとは限らない。
それほどまでにここにいる兵士たちの間に残る奴らへの恐怖感はひどいものだった。
「こちらα4、目標地点まで後400mだ」
「了解、αチーム、そのまま潜行してください」
「了解」
できることなら今すぐにでも引き返したい。
そんな弱音を吐くわけにはいかず、ひたすら歩を進めていく。
こんな役目、自分達で終わりにしなければならないのだ。
暗く、しかし視界を確保できないほどではない、ありえない構造物。
ハイヴと呼ばれるそれの中を進む小隊はじわりじわりと、しかし確実にそこへ迫っていた。
やがて、開けた場所にたどり着き、隊員達は凍りつく。
「なんだよ……これ……」
「α1、応答せよ。何があった。α1!」
眼前に広がる光景。それはあまりに非現実的すぎて……
「ひでぇ……何だよ、何だよこりゃあよおおおお!!!」
その日、世界各地で存在するハイヴと呼ばれるBETA達の巣で、歴史的な発見がなされる。
それはいつの日か世界を救う鍵となる。そして時は流れ、その地に建てられる基地。
これがやがて極東の地における、最後の前線基地になることも。
このときはまだ、誰も知らなかった。
- 808 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/07/08(火) 00:22:10.73 ID:nszl/XQ0
第零話 「始動/死胴」
重厚な金属音が響く。それは力強いはずの駆動音。
しかし、それもここではあまりに貧弱に思える。
ここにはもうやつらがほぼ居ないとわかっていても、次の瞬間には柱の影から、穴の中から出てくるのではないか。
そんな潜在的な恐怖が、心を蝕む。
実際、先ほどCPから入った連絡に、他のチームが戦闘に入ったというものもあった。
このα隊を任されるリーダーは毒づく。
(G弾を投入しても、破壊しきれず、全滅すらさせられねぇなんて……)
「……ダー、αリーダー」
「あ、ああ。すまん。こちらαリーダー。異常はない」
「集中力を欠かないでください。この地に与えたG弾の影響も記録していただかなければなりません」
「そういわれても、投入される前なんてこっちはしらねぇよ」
「こちらα4、前方に空洞が見えます、リーダー」
「CPよりαチームへ、そのまま潜行してください」
「了解」
できることなら今すぐにでも引き返したい。
そんな弱音を吐くわけにはいかず、ひたすら歩を進めていく。
きっと引き返したところで、第二の自分や、第三の自分になるやつが送られるだけ。
だったらこんな役目、ここで終わりにしてやらなければならない。
暗く、しかし視界を確保できないほどではない。
床から光を放つような、ありえない構造物。
ハイヴと呼ばれるそれの中を進む中隊はじわりじわりと、しかし確実に進む。
そして、ソレを見つける。見つけてしまう。
「なんだ、あれ……柱……?」
「こちらαリーダー。何か柱状のモノが天井に向かって伸びたものが無数に存在している」
「中尉、見てください! 最大望遠で! こ、これ!!」
「あわてるな、αリーダー、最大望遠で確認……な、んだ、これは」
「こちらCP。αリーダー、メンタリティが極度の緊張状態に達しています。報告を」
「あ、ああ……」
「CPよりαチームへ! 現状の報告を! 繰り返す、報告を!」
「何てこった……くそったれ!!」
「人間だ……」
「何!? 生存者がいたのか! 報告を!」
――人間の、脳だ!!
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