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意地悪なメイド4
- 972 名前:【いじメイ オルタ】 [sage;saga]
投稿日:2010/07/27(火) 22:25:50.27 ID:1OZzGEg0
ぐにゃり、と世界が歪む。
目の前にはいくつもの情景が浮かび、そのどれもがいつかどこかで見たもの。
そして気が付けばいつもの部屋で……。
『そろり、そろり。抜き足、差し足、脚線美』
それを言うなら忍び足だろうが。つうかバレてるぞ。
この馬鹿メイドが! と飛び起きて脅かしてやろう。
そんな風に思い、しかし……。
ぐにゃり、と世界が再び歪んだ。
第27話 「帰還/未完」
……。
「あ、れ」
ここ、は。えっと。
思考が始まるその前。
どさり、という音に気づいてみればイドが倒れていた。
「な!?」
な、なんで急に倒れるんだ!
「おい、馬鹿妹!」
「え? ……あ。男さん、ですね」
「何ぼーっとしてんだよ! 見てみろ、イドが!」
「ああ……そうですね。無理をさせすぎましたか。しかし、理論的にはわかっていますが、こうも気分が悪いものとは」
「何ぶつぶつ言ってんだよ! それより!」
「ええ、大丈夫です。それより突っ立っていないでイドをそこに寝かせてあげてください」
「あ、おう」
馬鹿妹が支えていたその身体を抱き上げる。
と、驚くほどの軽さだ。これ、本当に人ひとりの重さか?!
そんな彼女の手からするり、と落ちるものがある。
そういえば実験の前に何か描いていたような……。
何やらぐちゃぐちゃだが人物らしきものが。
- 973 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:26:22.75 ID:1OZzGEg0
「部屋で休ませてあげてくださいな」
「あ、ああ」
こいつ、無理をしてたっていったい何をやってたんだ。
疑問はつきないが、とにかくそこにあったソファーに寝かせる。
今はまず報告だ。
結論から言えば、俺の世界渡航は半分成功であり、半分失敗だった。
一応、俺は向こうにはいけた。けど、それはいつも見ている『夢』のほうが現実味があった。
これについては馬鹿妹から理由と今後の対策が話された。
この渡航装置は恐ろしいことに、とんでもない電力を消費するらしい。
そのため制限時間を設けて今回の実験を行った結果が、曖昧なものだったといえる。
今後はその制限をなくすために装置の改良と電力消費の際限の向上を図るとか何とか。
しかし問題はもっと別の部分で発生することとなる。
「それで、なんですが。これからイドと一緒に暮らしていただきます」
「ああ、イドと一緒に暮らせばいいんだな。……って何でだよ!?」
ここまでの真面目な会話の流れのせいで思わず頷いたが何言ってんだよこいつ!
俺もイドも年頃の男女な訳で、まかり間違う可能性がないわけでもなきにしもあらずんば!?
「しかし00ユニットの根幹の回収が終了するまではあなたをこの世界に留める楔が必要ですから」
「それがイドなのか!?」
「ええ。それにイド相手なら欲情されることはありませんよね? そうですよね?」
あ、なんか笑顔がすっげー怖い。
「当然だろ!? それにこれは実験のため、世界のためなんだ! 意味のあることなんだ!」
「そうですそうです。だから勿論、最悪の場合は責任さえ取っていただければかまいませんよ、ええ」
「最悪の場合ってなんだよ! 責任取るってなんなんだ!?」
「言いましょうか?」
「結構です」
なんか人の口から言われたら絶対的な終わりになりそうなので勘弁していただきたい。
はっ! だが待てよ、何も俺から断る必要はない!
相手の了承だってきっと得てないはずだ。馬鹿妹の勝手な暴走に決まってる。
だからイドの意見を聞けば問題なく解決……
- 974 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:26:57.47 ID:1OZzGEg0
「イドは二つ返事で了承しましたよ」
包囲網完成である。
うああああああ! って、それはあれか。俺が男と認識されてないんじゃないのか!?
「荷物は運び込んでありますので。ちゃんと連れて帰って休ませてやってくださいね」
「もう手配済みかよ! くっそおおおおおお!!?」
「ではおやすみなさい。……ちゃんと休んでくださいよ? これ以上疲れることは」
「しねぇよ! ああもう! おやすみ!!!」
ひっじょおおお、に不安だが……うん。……えぇー。
こうして二人の同棲生活がスタートしてしまったわけで。……えぇー……。
帰り道、誰にも気づかれないようにいつも以上の気配遮断能力を発揮しつつ。部屋に到着。
が、ベッドが運ばれているわけでもなく、仕方ないのでいつもの場所をイドに譲る。
のだが何故か掴まれた裾を離してくれず。
「煩悩よ静まれ煩悩よ静まれ。相手は子供相手は子供」
なんかもはやお経のように呟きながら添い寝をするハメになるのだった。
- 975 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:27:22.41 ID:1OZzGEg0
『おかしい』
『いやー、いい天気ですな。快晴快晴。ふはは』
『納得いかん』
『ほれ主様、見てください。犬もはしゃいでますよ。ああ、畜生ですら可愛く思える日和っぷり』
『なんでじゃあああ!? なんで俺があてたはずの温泉旅行がファーストフードに化けてんだ!!』
『いやー。だって困ってる人がいたら渡さなきゃでしょ。ええ、そうでしょう』
『嘘をつけテンバイヤー! 貴様、新作ゲームを買い揃えている事実を俺が知らんとでも思ったか!?』
『ば、馬鹿な……何故ばれたし』
『俺んとこ宛てに届く荷物ばっかなんだから分かるに決まってんだろ!?』
『……ほれ、畜生。うまいですよ、このバーガー』
『話を聞けえええええええええ?!』
『おお、よく食うよく食う。うまいかー男ー』
『勝手に犬に人の名前をつけるな! あとそれ俺の分だろが!』
『男が食ってんだから同じでしょう。うまいかー男ー』
『ばうわう!』
『く、返せ犬っころ!』
『ぐるるる!』
『がっ!? 馬鹿な、本来の役割的にこいつが天誅食らうとこだろ!?』
『主様。動物は、大切に』
『てんめえええええええ!?』
『……はぁ、はい。どうぞ』
『え?』
『半分くらい食わせてやりますよ。哀れすぎるんで』
『あ、おう……。って、なんで感謝の情が生まれるだこれ! 悪いのこいつじゃねーか!』
『はむはむ』
『って、俺にも食わせろおおおおおおおおお!!?』
- 976 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:27:49.49 ID:1OZzGEg0
……。
ゆさゆさ。
……。
ああ、この感じ。
いつものようにイドが起こしてく、
「のああああああああ?!」
全面アップでイドの顔がそこにあった。
「あああぁ……ぁ? あ、お……おはよう、イド」
「おはようございます」
「って、あの、これな! 違うからな! お前が袖離さなくて、だから仕方なく添い寝しただけで」
「……」
なんか喋ってくれぇぇええ!?
「あ、そうだ! 元の世界の夢みたぞ! そうだそうだ。犬っころとか出てさ。よく懐いてたな、うん」
って、そういやこいつ、俺が向こうの世界から帰ってこれるように一緒にいるんだっけ。
ちょっと無神経すぎたか?
「……」
ぽん。と肩を叩かれる。
そして僅かなため息と哀れみの瞳。
「……がんばってください」
「……お、おう?」
なんとなーく、これ。同情されてない?
「もうすぐ、起床ラッパです」
「そ、そうだな。昨日はよく眠れたか?」
「……はい」
「そ、そっか。うん。じゃあなんだ……これからもよろしく頼むわ」
「はい」
というわけでマジで同棲生活が始まったわけで。
- 977 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:28:59.36 ID:1OZzGEg0
PXでの朝食。
早速いじられにいじられる。
勘の鋭い友なんかは早速妙なかんぐりをして結果として飯をたかられそうになるし。
そんな中、わざわざ俺の分まで飯をもらってきてくれるイド。
この時点で何か嫌な予感はしていたが……。
「あ〜ん」
「「「「!!!!?」」」」
やってくれやがりましたよ、このウサギ娘。
ええ、ええ。全員が見てますよ、こっち。ズギャーン! とか効果音してそうな顔でこっち見てるし。
すっごい青筋浮かんでません? ええ、あの、俺のせいじゃないですよね?
「あ〜ん」
けど、そのイタズラとも、気遣いとも取れる行動が。
何故かあいつの姿とダブって……。
「食べて……あげたら?」
あのー、いいんちょさん?
何故声が震えてらっしゃるのでしょう?
「あは、あはは……あ〜ん。……あ〜ん、って」
女さん?
何故今日に限ってフォークを持っていらっしゃるので?
「……うっわ。うーわー」
妹ちゃん?
そのゴミを見るような目と逆手に構えたお箸の握り方はお行儀よくないですよ?
「なるほど、さっき色々あったって言い訳してたっけ。そっかそっかぁ」
友さん?
何を油にニトログリセリンを投下してくれやがりますか?
「……違いますか?」
「い、いや違うも何も。それは自分で食べていいんだから? 俺に気遣いはいいんだぞ、イド?」
「……違ったのかな」
「違った、って何だ?」
「……しなくていいですか?」
- 978 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:30:03.53 ID:1OZzGEg0
「え、えっと……」
いや決して嬉しくないとか、嫌でもなくて。
というか男としてちょっぴり嬉しいわけで?
「……あ〜ん」
や、やりやがったああああああああ!?
「「「「…………」」」」
見てる見てる見てる。すっごい見てるよ!? みんながさ!
「……どうぞ」
「あああああああもう! ええええい、ままよおおおおおおお!!」
ぱくっ。
ズギャーン!!!
あ、みんなの背後に炎やら雷やら見える。
何だろーなー。あははー、うふふー。
「まだあります」
「え?」
「どうぞ」
「……毒をくらわばあああああ!!」
ぱくっ。
ズギャーン!!
「まだあります」
ぱくっ。
ズギャーン!!
ぱくっ。
ズギャーン!!
ぱくっ。
ズギャーン!!
- 979 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:31:54.63 ID:1OZzGEg0
…………
………
……
…
昼の整備訓練でやたらとトルクレンチやらソケットレンチやらが飛んでくる。
そりゃーもう、飛んで来ましたとも、ええ。若干の死を覚悟した時、不意に教官の声がかかる。
「男。博士から命令が出ているはずだが、何故ここにいる?」
「え? 命令ですか?」
聞いてないぞ、俺。
「ああ、直接連絡がいくようにすると博士は仰っていたが……」
直接? ということはつまりイドからか。
でもそんなことあいつ、一言も言ってなかったような。
まさか、忘れてた……とか?
「まあいい。直ちに博士のもとに向かえ。と、その額はどうした?」
「それは男が工具の扱いをミスしただけです」
「何ぃぃぃいい!?」
「概ね間違いないです」
「大違いだろおおおおおお!?」
「ふむ。トラブルの原因はお前にあるようだな」
「そ、そんな!? メイド長さん、そりゃないっすよ!」
「メイド長……だと?」
「あ」
しまった。向こうでは親しくそう呼ばせてもらっていたから、つい。
そうなのだ。こっちではあくまで教官なのでこんな親しげな呼び方許されるはずもなく。
「男、何度も言わせるな。私はお前のお友達でもなければ仲良しお姉さんでもない。上官への侮辱行為は……」
「し、失礼します!」
「……全く。本来ならば一喝いれるところだが。……早く行け」
「りょ、了解!」
脱兎。うん、そんな言葉が浮かぶような姿で俺はその場を後にするのだった。
- 980 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:32:22.42 ID:1OZzGEg0
で、そんな逃げ兎の俺を廊下にて発見するウサギ娘。
向こうから珍しく早歩き……あ、あれ走ってるのか。
とにもかくにも急いで目の前に来たかと思えばいきなり袖を引っ張る。
「ああ、わかった、わかってるよ。馬鹿妹のとこへいくんだろ? さっき聞いたよ」
「……!」
おお、びっくりしてるびっくりしてる。
「ははは、にしても珍しいな。お前が連絡を忘れるなんてさ」
「……」
「ん? あ、このデコか? ……気にすんな」
わしわし、とウサギ娘の頭をなで、俺はその身体を抱きかかえる。
「うっし、飛ばすぞ。つかまれよー」
「……!」
じたばたもがく荷物を連れて、俺は一直線に馬鹿妹のいるであろう、あの実験室へ向かうのだった。
「遅い! 全く、恐れをなして逃げ出したのかと思いましたよ?」
「恐れをなして逃げ出すような何かがあるのか?」
「……。さぁ、今日も実験を始めましょうか」
「うおおおおおおおおい!? ごまかすの下手すぎだろおおおお?!」
「大丈夫ですよ。……ええ、大丈夫です」
こ、こいつ。俺の目を見て喋りやがれっての……。
「しんだりしませんよ。昨日のことで分かっておられるでしょう?」
「信じるからな?」
「ええ。多少まだ問題が残っていますが、それは今回の実験から解決策を導き出します」
- 981 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:33:50.30 ID:1OZzGEg0
そう言われたなら信じるしかない。
俺は昨日と同じように装置の真ん中へ。
「電力、足りないですね。イド、4番を」
「はい」
「……これでもまだ安定しないですって? 仕方ないですね。5番を」
「はい」
「ん……これ以上はまずいですね。今回はこれでいきましょう。イド、お願い」
「はい」
「では男さん。気を楽にして。そして元の世界を思い浮かべてください。いきます」
そして、世界が、歪んだ。
- 982 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/27(火) 22:34:31.75 ID:1OZzGEg0
ガチャ。
「……へ?」
「え?」
扉を開ければトイレ。ええ、イッツ・ア・トイレ。
あ、あれ?
……あー。おー。メイド?
「……な、な」
おお? メイド、だよな?
……メイドだ!!
「よ、よぉ」
「あ、あうぁうう」
本物のメイドだよ! はは、何涙目なってんだよ、おい!
俺だよ、俺! 男だ!
マジもんのメイドが今目の前で喋って、動いて……はは!
「は、ははは」
メイド……メイド、メイド!
ああ、お前がそんな面してどーすんだよ。
困った顔すんのは俺の役目だろ? 何固まって、涙目なってさ。
しょっちゅう夢では会ってんのにさ。くそ、ああ、そうだよ、嬉しいんだよ!
『メイド、あのさ、俺……!』
「……あのー、メイド、さん? これは、事故でして。ほら、鍵ね? 鍵。しないと、ほら」
――!?
え? あ。え?
『お、おい! メイ』
「そうしないと、ほら……こう、出会いがしらというか、おなか痛くて確認しないようなやつが急に、その」
――?!
『うおあ!?』
「入ってきちゃ……ヴ!?」
「あ、ああああ、主様のへんたあああああああああああい!!!」
……そして世界が、歪んだ。
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