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意地悪なメイド4
- 26 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga]
投稿日:2010/08/06(金) 00:51:50.33 ID:BqPSSHg0
冥「たっだいまー!」
メ「はいはい。お帰りなさい」
男「元気はつらつだな」
冥「えへへー」
メ「ああもう、脱ぎ散らかすのはやめなさい。誰が片付けると思ってるんですか」
冥「ぱぱ?」
メ「……ぐ、私だって時々やるんすからね!?」
男「そこは自信持って自分だって言おうぜ」
冥「あははー。あ、そういえば命の彼女さんがさっき来てたよー」
メ「どの彼女さんですか」
冥「えーと、三週間前くらいの子かな?」
メ「ああ、あのおさげの子っすね。何て?」
冥「私フラれたんでしょうかー? って泣いてたー」
男「……あー。うーん、こう、子供の情事に首を突っ込むはよくないと思うけど、どうするか」
メ「放置してると親の問題になりかねないのでキチンと対応してきてください」
男「はぁ。わーった。ちょっといってくるわ」
冥「ぱぱー。ふぁいとー!」
男「おうおう。ありがとな」
メ「……ふむ。全く、あの馬鹿息子はどこで何やってんでしょうね」
男:主様ことseason1のあの人。現在は立派に学者さん。家族を養うくらいには食い扶持稼いでます。
メ:主様のメイドといえばこの人。現在兼業主婦。勿論他の業務は主様に意地悪するという名の甘えること。二児の母。
冥:双子の女の子のほう。まっすぐ、純粋に育った子。ただ少し姉に似ている部分があり、時々その片鱗を見せる瞬間が……。
命:双子の男の子のほう。超絶イケメン。更に主様譲りのジゴロっぷり。が、それを悪用する程度には悪い子。数多の彼女を作りながら謎の失踪中。果たしてその行き先は……。
命「だるい。あつい。つかれた。しんどい。かえりたい」
委員長「……そうね」
命「くそ! 言いたいこと言えって言ったのそっちじゃねぇかよ! なんかあるだろ!」
委員長「一言で返すなら、無意味よ。そのどれに対しても。歩かなければしぬだけだもの」
命「ぐ……ああもう! 俺はなんでこんなとこについてきちまったんだよ……」
委員長「悪い女に引っかかったことがなかったのね。かわいそうに」
命「ああ、はいはい。次から絶対引っかかってやらねぇからな!」
委員長「ええ、そうしなさい。でもそのためにも歩くわよ」
命「……くそ!」
委員長:season1とは打って変わってハードボイルドに。現在世界を股にかけて何やら暗躍中。血と硝煙の匂いを漂わせながら女としても艶やかに。ちなみに40越えてるはずなのにボディーラインが崩れてないとか何とか。若い子でも食ってるんでしょうか。
命:食われた子。失踪という形で現在委員長に同行中。その色香に騙されて一晩をともにしてからが彼の転機。現在はとある深い森の中にて委員長と共にゆくが……。
- 28 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/08/06(金) 00:56:54.50 ID:BqPSSHg0
【本編:いじメイ season3】
更に数年後のお話。ネクストジェネレーション。
子供達の代に移り、双子や彼の周りの子供達、更には妹子の日常などが描かれる予定。
基本的にはまだそこまでかかれていないのでこれから骨子が出来ていく予定。
【外伝:season3.5 委員長退魔夜行】
season2より男達から距離を取っていた彼女が現れたのは彼の息子の前だった。
偶然か運命か。導きよって出会った二人が紡ぐ物語。
厨二病全開だったりオカルトぽかったりととにかく本編とかなり毛色が違う予定。
現状として深い森にてサバイバル生活中の二人。
知識も経験も豊富な委員長と、ただただ振り回される命。
その目的も明らかにされないまま、奥へ奥へと進む中、命は一つの出会いを果たすことになり……。
現在稼動中の外伝系。さくさく仕上げていきたいところ。
今晩も寝るまで少し書いてみます。
- 30 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/06(金) 01:13:59.37 ID:hvq3LEAO
きっかり5分ほどえづいてから視線を逸らしつつ爺に話を聞くことになる。
「で、ここどこ」
「うむ。それについてまずはいくつか説明が必要じゃし、何より聞いておかねばならぬことがある」
「俺は婿養子でも大丈夫だぜ」
「聞いとらんわ?!」
「聞いとけよ、爺。もしかしたらあの娘の夫になるかもだしさ」
「誰が貴様なんぞに! あと爺言うな!」
「おお、そうだな。人を見た目で呼んじゃいけないよな。ハゲ」
「思いっきり見た目じゃわいそれー!!」
「わかったわかった。ちゃんと呼ぶから。ハゲ猫耳爺。……うぷっ」
「更に失礼なうえに勝手にえづいてるあたり最悪だなお前!」
「お前じゃねぇ。命だ」
「む、それはすまん。命じゃな。ちなみにわしだって名前くらいあるぞ。名は……」
「いいから話進めろよハゲ爺」
「お前ー!?」
なんだかこの爺相手だと話が進まない気がしてきたんだが。
- 31 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/06(金) 01:23:30.01 ID:hvq3LEAO
結局かなり時間を食ったが要はこうだ。
ここは爺達の共同生活場みたいなもんで周りにも住人がいるそうだ。
で、本来俺みたいな部外者は一切寄せ付けないらしいが、あの娘がここまで連れてきたとか。
「やっぱ惚れたか」
「……ばかもん」
まぁ確か少し意識が途切れる前に助けた記憶があるから、義理みたいなもんだろう。
「それより命よ。何故この森にきた」
「知らね」
「……隠すと為にならんぞ」
「マジで知らねぇんだよ。連れてこられただけだし」
「む。……しかし本来この森は人など入ってくるはずがない」
「けど入ってんだから仕方ないだろ」
「では知らずにこんな場所まで来たと?」
「ああ。荷物持ちみたいな感じでな」
「ふむ……まるっきり嘘というわけではなさそうじゃな」
「わかるのか?」
「お主からは嫌な臭いがせんからな。後は勘じゃ」
「……俺、臭うか?」
「ああ、人間くさいの」
「お前らだって人間だろ」
当たり前のことに当たり前に返す。しかし自嘲気味に爺は笑い、答える。
「違うのぉ。わしらは人ではない」
「は? んじゃなんだってんだよ」
「獣と人の……その中間じゃ」
それは爺の……その生き方そのものに疲れた笑みだった。
- 38 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/10(火) 17:55:23.54 ID:FMjC00Eo
時は流れ、いいんちょは命を監禁中という
- 40 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/08/11(水) 08:19:41.32 ID:0v.FtSE0
委員長「別に監禁はしてないわよ。ただちょっとこっちに興味を持たせたくらいで」
命「その割にはとんでもないとこ連れてったじゃねぇか」
委員長「強制はしてないわよ。帰りたいならいつでも帰っていいわよ」
命「一人で帰れるような場所じゃねぇよ!」
委員長「じゃあ一人で帰れる場所なら今すぐ帰る?」
命「……いや、まぁ。それは……その」
委員長「ふふ。いい子ね。しばらくは私のところに居なさいな」
命「あー……くそ、なんで俺はこんなやつと一緒にいるんだろ」
心の束縛ばっちりな委員長でした。
- 82 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/18(水) 03:02:49.80 ID:RnBMmIAO
説明は簡潔だった。
爺を始め、こんな半分人間で半分獣な生き物がここには暮らしてるんだとか。
どちらかと言えば人に近い爺はまだ会話が成立するが若い世代になるほど獣に近くなってるらしい。
つまり、会話なんて成立しない。より分かりやすい考え方としては捕食者と被捕食者だ。
ただ俺を連れてきたのはここの娘。餌にしろ取って置きになるから今のところは手を出されないで済んでるらしい。
「そうでなきゃ、お前さんみたいな珍しい肉、すぐに骨すら残らず食い散らかされる」
そんな台詞に言い返せなかったのは爺だってそんな目で俺を見てたからだ。
老いても、腐っても肉食の獣ってことだ。
「でもよ、なんでそんな化物が存在する訳? やっぱりあれか、人工的に造られた生物兵器とか」
「そんなところじゃよ」
「……おい爺。今のはボケたんだからちゃんとつっこめよ」
「笑えんが冗談でもないということじゃよ」
「マジかよ」
そんな三流SF小説みたいな展開があってたまるか。
そう思ったところで目の前には現物。これ以上ない証拠がそこにある。
- 83 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/18(水) 03:11:25.88 ID:RnBMmIAO
「じゃあよ。そんな御大層な連中がなんでこんな場所に?」
「逃げ出したんじゃよ。創造主からの」
創造主ときたか。ますます三流だ。
これで次に聞き慣れない単語が出れば無視だな。
「わしらは元々……ああいや、昔話はええか。なぁ、命よ」
「なんだよ」
そんな空気を察してか爺が話を変える。
先程までの獣の目ではなく、人間の瞳で。
「わしらは遠からず滅びるじゃろう。次の世代に子供を遺す機能が年々弱くなっとる」
「爺が不能なのは仕方ねぇだろ」
「種として、じゃよ。何より異種族間交配にも近いまぐわい。無事に子を授かることすら稀になっとる」
半分は人間でも半分は獣。そして獣の種類は一つではないらしい。
つまり人と人の間に子は成せても猫と犬では出来ぬように。
人と犬の組み合わせと人と猫の組み合わせを掛け合わせて無事に子孫は遺せないことが多い。
「絶対数に限りもあるからの。……そして何より」
子を成すことの意味を、ただ本能的に行うようになってきた、と。
快楽などなくただ盛りがついた頃にまぐわい、終わりだ。
種を遺すことにそれほど執着しなくなっているのが現状。
- 84 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/18(水) 03:19:25.38 ID:RnBMmIAO
「そこでお主に頼みがあってな」
「ああ、なんとなく分かるさ」
こいつらが滅びゆく種族だってんなら。
ただ子を遺せず消えてゆくってんなら。
「静かにこの地で消え行く我らを心に刻み、いつの日にか誰かへと語り継……」
「俺が若い女を全員はらませてやる」
数秒の沈黙があった。
爺がこっちを見て固まってやがる。
何を今更。つまりは種族を残したいんだろ?
で、若い雄連中が不能でヤバいってんなら仕方ない。
獣姦ってのは好みじゃないが、半分は人だ。ならなんとかなるだろ。
「な、ななな……お、お主という男は……」
爺がわなわなと震えてやがる。大丈夫だろうか。老人特有のアレか。言いにくいアレか。
かわいそうに。早くしんでいいぞ。雄だし。爺だし。
あ、それとも感動してんのか? この集落? まぁよく分かんねぇけどこいつらの救世主が現れたことに。
いや、参ったね。そんなに喜んでもらえるとは。よしよし、後は任せて逝っていいぞ、爺。
「よし、爺。最後の任務だ。あの可愛かった娘を連れてきてくれ。出来るだけ発情させて」
「ぶぁっかもぉぉおおおん!」
爺の絶叫が洞窟に響いた。
- 85 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/18(水) 07:28:38.95 ID:WIxlwvgo
あれ? エロゲルート?
(∩゜∀`∩)キャ━━ッ!!
- 96 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 01:41:04.68 ID:r676c6AO
結局、数日の世話になることとなった。
食事は爺が少量の干物と水を分けてくれた分で凌いだし、体力も横になってたおかげで結構回復した。
ずっと寝てる割には体も固くならず済んでるし、そろそろ歩き回ってもいいかなと思う。
実際初日にあの娘に逃げられて以来、爺以外と話をしてない。せっかくだし見学くらいしてもバチはあたらないだろう。
そう考え、爺にその話をする。
「ってな訳でここら辺を見回って大丈夫か?」
「はて。お主が今更見回りたいなど……まぁよいか。で、まさか目的はアレではなかろうな?」
アレってのは勿論救済計画の話だ。
俺の下半身が村を救うんだからいいじゃねぇか。と言うと間違いなく歩き回れない。
「いんや、純粋な興味だよ」
「そうか。ならば好きにせい」
よし。まずは地形を把握して爺に見つからずにナンパを……
「但し一度でも妙な真似をすればわしはもうお前さんの面倒はみんからな」
「……わかってるよ」
くそ! いきなり出鼻をくじかれたか。
まぁせめてどんな娘がいるかくらい確認しとくかね。
「全く。ただでさえお前さんは不穏な動きを……」
爺が何か言ってるが無視無視。さ、今日もさっさと休んで明日からに備えるか。
- 97 名前:GEPPERがお送りします [sage] 投稿日:2010/08/23(月) 02:17:28.14 ID:r676c6AO
静寂の中に僅かな葉擦れの音。湿った土の匂いと微かな獣臭がその場にあった。
そして本来ないはずのいくつかの景観は明らかな人工物。
多少の偽装を施された罠はほとんどがそこに何者かが存在する事を報せるものだ。
それらの囲みの中央。大樹に出来た自然の窪みの中に彼女は居た。
「……」
まるで死体のように身じろぎ一つせず、銃を抱えた姿。
眠り姫の言葉も決して似合わない訳ではないが恐らく抜き身の刀と言った方がしっくりくるであろう彼女が目を覚ましたのはしばらく後のこと。
「……ん、……は、ぁ」
呼吸により取り入れた酸素を身体の中に染み渡らせるようなイメージ。
末端から順番に動きを確認しつつ、全体に充分な熱が宿るのを待つ。
腕が動きを確保した頃、ようやく思考も働き始める。
コートの内より煙草のようにくるまれた劇薬に火を灯しながら彼女は動き出す。
「ふふ、さすがと言えばいいのかしら。縁の築き方だけは親譲りね」
呟き装備を整えた彼女が向かう先。そこに在る彼らを目指して。
「さぁ。始めましょうか」
狩りの時間が始まった。
- 130 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/08/31(火) 01:16:18.92 ID:NTMtF7w0
そこは少し大きめの洞窟みたいな場所だった。よくわからないが岩壁の隙間に時々発光してる苔みたいなものがある。
そのおかげでそこを歩き回ること自体は不自由しなかった。
「ただなぁ……」
恐らく住居部分となっている場所には容易に近づけなかった。
洞窟は大きな一本の道がどこまでかはわからないけど続いていて、その横道に入る部分が個人の住居になっているようだった。
けれど、そのどこからも視線を感じるし生臭く嫌な湿気が漂っている。
恐らくそこに無理矢理向かえば入れなくはないだろうが、肌にピリピリと感じるの視線がそれを拒んでいるのが分かる。
怖い、と素直に思う。
(こりゃ、思ったより大仕事かもしれないな)
何せ抱くとすれば野性の女で、獣だ。
体臭を始めとする匂いの問題にはじまりコミュニケーション方法、更に攻撃をどうやりすごすか。
考え始めればキリはないが、ヤると決めた以上、退く気はなかった。
「っと、ここがいきどまりか」
どんどんと進んだ先は、今まで以上にぽっかりと開けた広間のような空間。
ただ問題があるとすれば轟々と足元を流れる川だろう。こんなところに飲み込まれれば恐らく生きて這い上がるのは不可能だ。
「……さって、それじゃあ引き返すか」
何となく自分の家、もとい爺の住処へ向かって歩いてみるが合ってるかは正直不安だ。
間違えて他人の家に入り込んでジ・エンドなんてのはごめんこうむりたい。
自身のそんな結末を一瞬でも想像しネガティブになりかけているところに、ふと周りと違う視線を感じる。
「ん? どうした?」
見ればここにくるきっかけとなった少女だ。
フードを目深に被ったままなのは相変わらずだが、こうしてゆっくり見るとやはり可愛い。
というより艶かしい。身体のラインが。うん、間違いなくCはあるな。
「ちょうどよかった。悪いけど爺のとこへ案内してくれるか? 帰り道あってるかわかんなくてさ」
気さくに声をあげながらも近づかない。
ここまでで学んだが、彼女は俺を警戒しているが興味も持ってくれてる。
それならば無理に近づくことはないのだろう。
こっちへ歩み寄ってくれるのを待つばかりだ。
「……」
お互い沈黙の時間が続き、やがて動きが生じる。
ヒタリ、と彼女がこちらに一歩近づいたのだ。
- 131 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/08/31(火) 01:22:37.85 ID:NTMtF7w0
(お、ここにきて初めての好感触か)
となれば焦る必要はない。ここは素直に彼女の動きを待とう。
そう決めれば後はただ見つめるのみ。
自分に敵意がないことを最大限に思いながら、出方を伺う。
一歩、また一歩と近づいてくる少女。
フードがついたその服はぼろぼろで、一張羅なのか色もくすんでいる。
元は黄色だったろうに泥と汗と……恐らく血液でそれは黒に近い橙色になっていた。
少しずつ獣のような、人間の汗臭さのような独特の匂いがしてくる。
けれど、他の連中……まぁ会った訳じゃないがそいつらみたいに臭いと断じるほどじゃない。
そういえば爺がこいつには水浴びをさせてるとか言ってたっけ。
だったらやっぱり最初に抱くならこいつだよな、とそんな考えに至る。
と、そこまで順調だった足取りがピタっと止まる。
「あ、違う、違うぞ。これはその、なんだ。今すぐどうこうするつもりじゃないから、気にするな!」
言い訳を始めるが時既に遅し。
脱兎のごとく地上への道に繋がるほうへ駆けていく少女。
「あー……失敗したなぁ、くそ」
ボリボリと頭をかきながら今後はプラトニックにいくか、と呟く命。
どかり、とその場に座り込み天井を見上げれば思いのほか高い。
こんな景色、あそこに居た頃には見なかったなと、そんな考えをするうちにうつらうつらと眠気が襲う。
どうやら思った以上にここまでの行程が身体に疲れを与えていたらしい。
「このまま食われないだろうな」
冗談にしては笑えない台詞をつぶやき、彼の意識はゆっくりと眠りの中に沈んでいった。
- 132 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/08/31(火) 01:28:00.37 ID:NTMtF7w0
ここしばらく、夢を見ていた気がする。
それはただひたすら森を眺めるだけというもの。
日によって場所こそ違うが、ただ目の前を眺めるという夢。
そして今日も気が付けばそこは森だった。
今日もまた眺めている。今回の視線の先は……眼下の洞窟。
入り口なのだろう、ぽっかりと開いているがよくよく確認しなければわからない。
巧妙にカモフラージュされたそれは天然の隠れ家なのだろう。
それをただ見据えている。
自分の身体のはずなのに、しかし動かそうにも意識が追いつかない。
まるで脊髄が抜かれているような。頭の中だけに電気信号が飛ぶ感覚。
不思議とそれが当たり前にも感じ、ならばいいか、とただそこを眺めるのみ。
と、そんな視界の端に映るのはフードを目深に被った人影。
人とは思えない速度で森の中へと消えて往き、やがて静寂だけが戻る。
(……あれ。今のって)
何か頭の隅に引っかかるものを残して、再び彼の意識は深く沈んでいった。
- 133 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/08/31(火) 01:36:27.55 ID:NTMtF7w0
「起きたか?」
そんな声に隣を見れば爺の姿。
「ああ、起きた。けど最悪の寝覚めだ」
「そうかそうか。そりゃ何よりじゃ」
最近、爺もこういう冗談を言うようになった。腹の立つことに。
見回せばそこはいつもの塒(ねぐら)。
「くそ、爺に運ばれるなんざ、俺も落ちたもんだ」
「ほっほ、あのまま放置してれば食われても文句いえなんだからな」
「マジかよ」
冗談が冗談でなかったことを知って喜べばいいのか恐れるべきか。
どちらにせよ、命の恩人に礼を言わないわけにはいかない。爺だけど。老いぼれ相手だけど。
「すまん、助かった」
「ふむ。珍しく殊勝じゃの。では言いたくなかったがええことを教えてやる」
「なんだ?」
「お前さんを運んだのはあの娘じゃよ。この集落から飛び出したかと思ったら何故か多くの食料を持ってきての」
は? あの娘が? 俺を?
「それをここに置いていくや、急にまたここを飛び出してな。すぐに帰ったと思えばお前さんを担いでおったよ。見てみぃ」
ふと隣を見れば木の実や山菜、なのだろうか。あとは虫が何匹かと野鼠が置いてある。
「あの娘からの贈り物じゃ。どうする? 調理するならワシがやらんでもないが」
「……。くそ爺。お前に礼を言わされた側からすれば当然の要求だが、これを頼む」
「全く、口が悪いのだけは何とかならんか」
ため息をつきながらも爺はそれらを持ってどこかへ向かおうとする。
何となく、あの娘とはうまくいっていないように思っていたが、案外悪くないんじゃないかと思えてくる。
なんのかんので爺にも世話になってることだ。ここは一つ、致し方ないが改めて礼くらい口に出して言ってやるか。
「なぁ、爺」
そう、背中に声をかけた瞬間。洞窟全体に響き渡るように銃声が鳴った。
- 137 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/09/01(水) 01:16:50.74 ID:f2cBRrI0
緊張に強張る身体。十分に非日常的な現状。それすらも凌駕する非日常の音。
銃声なんて映画くらいでしか聞いたことのない効果音じみたそれは、しかし実際にこの場まで届いている。
「お、おい。……これって」
慌てて爺に視線を送れば、思わず後ずさるほどの殺気。
それほどまでに獣じみた気配が、あの好々爺から発せられている。
その事実が物語るのは、
「俺のせい、なのか?」
問えば返るはずもない。もしそうなのだとしても、そうでないとしても。
恐らく目の前の獣がその気になれば俺なんてひ弱な生き物は一瞬にして息の根を止められるだろう。
「……違うんじゃろ」
それでも。のどの奥から搾り出すような声は、俺を庇ってくれる。
「違う、けど。何か思い当たるんだろ! 言えよ、俺が悪いって!」
「身に覚えのない罪まで裁こうとは思わんよ。……なぁ、命よ」
老いた獅子は寂しそうに背中を向ける。
「わしらは、もう終わりなのじゃろう。だから、せめてもの頼みを聞いてくれんか」
「誰が聞くか! それより何とかしろよ! 俺に出来ることとかあるんだろ、命令とかしろよ、脅せよ!」
「カカ、脅せときたか。悪くないの。ではこうしよう……今からお前はここを出るな。出ればわしはお前を獲物とする」
ぞくり、と背中が粟立つ。一片の混じりけのない、言葉。
だからこそそれは必殺の宣言となり、心にしみ込む。
「だがここから出ぬなら、それまではまだわしの家族。その命、もう少しだけ面倒を見てやるわい」
けれど振り返った顔は、初めてあったときと同じで……。
- 138 名前:GEPPERがお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/09/01(水) 01:38:32.43 ID:f2cBRrI0
「おい、爺……」
「命。頼む。わしらがおったと、それだけは覚えておいてくれんか。法螺吹きのようにふれまわってくれんか」
それは爺の最初の頼み。
「一人でもいい。誰かが知っておってくれると。そう思えば……わしは少し、救われる」
だから、と。言いかけてやめる。
「すまん。言い過ぎたの、背負わせた。……さ、まだ死にたくはないじゃろ。じっとしとれよ」
そういい残した背中を、命は追うことが出来なかった。
そして数分か、数十分か、数時間か。
ただただ時間が流れていき、漂ってくるのは硝煙と血の匂い。
どこか懐かしいその香りに混じり、死臭を漂わせ、
「迎えに来たわよ、命」
麝香の香りの死神がきた。
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