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意地悪なメイド4
620 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/01(金) 01:09:45.33 ID:8wUx0dKZ0
第30話 「不穏の足音」

そして、PX。
いつも通りに集まった面子は、雰囲気の変わった俺達の話題ばかりだ。

「雨降って地、固まるか」

「何なにー? いきなり急接近じゃんか。恐ろしいねぇ、このロリコンやろう!」

「あうあう、そ、そうなの? 男くん」

「ちげーよ! おい、イドも何か言え!」

「ろりこんなのですか」

「違うっつってんだろ!?」

結局、戻ってみればこの馬鹿騒ぎ。
こいつらに落ち着きというものはないのだろうか。

「それで。あーん、はなくなっちゃってるんだ。残念だねぇ」」

「そうね、今日は自分で食べているのみたいね」

「おいおい、イド。こいつらお前が一人じゃ飯も食えない奴だとかいってるぞー。何かいってやれ」

「それはどっちかっつーと昨日までのあんただろーが」

「い、今の委員長さんの台詞は、男くん、むけの、ような」

「ぐ、ぐぬぬ……何だこの包囲網」

「でも、拍子抜けするくらいあっさりと仲直りしたのね」

「そ、そだね。なんだか、すごい、仲良しさん?」

「やっぱり雨ふってってやつね! いやー、かなわないわね、本当!」

「ま、男はロリコンだから実力行使で手篭……ぐぶ!?」

あ、友のやつ、珍しくいじめられてる。
こいつ自分がいじられるの苦手なくせに珍しく身体張りやがって。


621 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/01(金) 01:10:21.53 ID:8wUx0dKZ0
「イドー。こういう下世話な話題ばっかしてる奴らはほっといて俺達は飯でも食おうぜー」

「はい」

おー、言うね言うね。
くくく、まさかの援護射撃にやつらも豆鉄砲くらったような顔になってやがるぜ。

「おい、男」

と、そんな和気藹々の空気に突き刺さるような絶対零度の声。
そんなもんを遠慮なく発せられる人を、俺は一人しか知らない。

「あ、はい。メイドちょ……げふん。教官殿」

「何か聞こえたが?」

「気のせいであります!」

あぶねぇあぶねぇ。元の世界に戻って出会ったこともあってついついいつもの呼び方が出そうになる。
これで何度痛い目にあったことか。精神的にも肉体的にも。

「全くお前という奴は……召集令が出ている。この後、司令のもとへ出頭するように」

「了解であります!」

「よろしい。では食事を続けるように」

ふぃー。あっぶね。
しかし、こうやってうまくいった以上、報告は当然必要だな。
そう、イドと仲直りできた今、次の希望へ向けて動かなけりゃいけないんだ。

「……仲直り、ですか」

「そう。仲直り。これも一人じゃできねぇんだぞ?」

なんてな。
ぽんぽんと頭を撫でてやれば、うつむいて恥ずかしそうにする姿。
娘みたいな感じでいじらしいじゃないか。うんうん、やっぱお前は普通に女の子してなきゃな。


その後、そんな俺に対して何故か女集がえらい突っかかってきやがるが、それはまた別の話だった。


622 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/01(金) 01:10:52.06 ID:8wUx0dKZ0
「もう一人の貴方が『元の世界』にいた?」

「ああ。って、それがどうかしたのか?」

場所は変わって司令室。という名の研究所兼、こいつの私室。
相変わらず整頓は行き届いているものの、膨大な資料が結局雑多な印象を与えている。
そんな息苦しい空間の中、話は進んでいく。

「いえ。無意味に干渉などはされていないのですよね?」

「あれだけ釘を刺されてたんだ。当然、接触はしてねぇよ」

まぁ、メイドとは会ってきたけど。
……それくらいはいいよな。だ、大丈夫だよな?

「貴方の考えくらいは読めますよ。無論、全く問題ないとは言いませんが、許容範囲でしょう」

そうこいつは結論づける。
その程度は『元の世界』の確立分岐とやらに含まれていてもおかしくないとか言い出したがよくわからん。

「それにしても、もう一人が居た、ですか」

「そうなんだよ。今までは一体化してたみたいなのに今回は急にだ」

何でだ? と視線で問えば、知りませんの一言。

「私だって余裕があればこの命題に注力したいくらいですがね。今はそれよりも優先すべき事態があります」

そうだった。
本来なら、俺が元の世界に戻った時、居場所がないんじゃないか、とか何で記憶が断片的によみがえったのか、とか。
聞きたいことは山ほどある。
けど、今はそのときじゃない。こいつだって、この世界が救えたときは協力はしてくれるだろう。
興味本位かもしれないが、それで十分だ。何たって、俺の妹様は世界一だから。

「……何を自慢げにされているかは知りませんが、次までに課題を与えておきますから必ずクリアしてくださいね」

「課題?」

「ええ。前回の実験は出力でごまかしている部分が大きく、その結果が……ああ、そこは置いておきましょう」

む。こいつ俺が理解放棄するのを見越しやがった。

「貴方に必要なのは、『元の世界』の貴方との共通の強い認識を持っていただくことですね」

「何だそりゃ」

「要は向こうの貴方が大事だと思っていることを強く思ってくだされば結構です。『元の世界』に帰りたい、なんてものでなくね」

「それは、つまり」

「ああ、今結論を出していただかなくて結構です。後二日ですか、その間にこちらも装置の改造などがありますので」

「……。了解、よろしく頼む」

大事な課題をもらって、俺は次の実験に備えるべく部屋に引き返す。
次の実験、何が何でも成功させてやる。


623 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/01(金) 01:11:19.99 ID:8wUx0dKZ0
翌朝。
委員長と女さんに囲まれての朝飯。

「あ、れ? 男くん?」

「おう。俺だぞ。って何だよ、不思議そうな目でこっち見て」

「イドちゃん、居ないみたいだから」

「ああ、別々に食ってるだけだよ。たまにゃそういう日もあるわな」

ま、本当はあいつの朝のおつとめに付き合えないだけなんだけど。
やっぱり朝から脳みそ部屋で飯を食う元気は俺にはないので。

「で、いいんちょ姉妹はどうしたよ」

「ん、えと……えへへ」

「ふふ」

「んだよ、気持ち悪いな。さっさと吐け、吐いちまえ」

「じつ、は。昨日ね、ペアでの模擬戦、勝っちゃって」

「朝から特訓だそうよ。貴方の居ない間に私達も十分レベルアップに励んでいるわ」

「そうかそうか、だったら俺も負けて……」

と、そんな俺の耳に入るニュースの声。

『――火山活動の活発化に伴い――昨夜未明、帝国陸軍―――不法帰還者の救出――――無事、終了しており――』

……天元山のことか。
それは、あの土地に住まう人たちが不法に土地に帰還していた事件だ。
本来は俺達がその救助――という名目の強制手的な退去――をするはずだった。
でも、自分の生まれた土地にいたいと言う人たちに、委員長は同意して、話はややこしい方向へ向かうことになる。
結局、火山は本格的に活動して、そのせいで俺と委員長は訓練用とはいえ戦術機を無駄にし、営倉入り。
数日を無駄にしちまうことになるんだ。
だから、俺はあらかじめ妹に頼んで手を回してもらってたんだが……。

『――内務省からは放置も已む無しとの声がありましたが、帝国側からの『国民の生命』は財産――――救助が行われ――』

そっか。あの土地にいた婆さんをはじめ、いろんな人は助かって……。

「……馬鹿みたい」

そんな俺に、冷たい声が飛ぶ。

「ニヤニヤして。まさかとは思うけれど、貴方はこれが真実だなんて思っていないわよね」

「……」

言い返したい気持ちも、こいつの言い分を理解している部分も、俺はあるんだ。
けど、違う。ここで言い争っても仕方ない。それは前の世界を知る俺だからこその視点だ。
それをこいつに押し付けるわけにはいかない。

「……悪かった。けど、俺もお前も帝国の人間じゃない。国連軍の兵士だ。住民の願いも大事だが、まずはこの戦いに……」

「貴方もそんな言い方するのね。……人を救えない力なんて、そんなものは何の意味もないわよ」

「だからそういう精神論だとかきれいごとは」

「綺麗事? その程度の志もなく力を振るえと貴方は言うの?」

「だから志は必要だけど……」

「そんなものは無意味よ」

「っ、無意味なもんかよ! じゃあ何か、民間人の言い分を優先した結果、作戦が失敗しようが人類が滅亡しようがかまわないって言うのかよ!!」

つい、売り言葉に買い言葉とばかりに食ってかかっちまう。
けど、その言葉に反応したのはいいんちょじゃなくて。


624 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/01(金) 01:11:47.13 ID:8wUx0dKZ0
ガシャン。

「「―――!?」」

「…………」

「と、ともくん? だいじょうぶ?」

「友?」

「……っ!」

「ともさん!」

「何だよ、あいつ。床くらい掃除していけよ……」

「男。これは私が片付けるわ。貴方は彼を追ってあげて」

「え?」

「悪かったわ。貴方にこんなこと言うつもりじゃなかった。結果的に周りに不快な思いをさせただけね」

「ふ、ふかいなんて、私、そんな」

何となく、熱が引いていく。
こいつも悪気はないんだろう。譲れない部分があるだけで、俺もいいんちょも向かう場所は同じなんだ。
だから、こうやって気遣ってくれた以上、俺は俺の気遣いを見せなきゃいけない。

「だったら野郎の俺が行くより、お前が行くほうがいいだろ。慰めてやってくれよ」

「……他意がないのを信じるわよ、その発言。分かったわ、それじゃあここ、お願いね」

「ああ、任せとけ」

そうして朝の場は解散となった。
結局、気まずい空気が完全に払拭されることはなかったけれど。







そんな食堂からの帰り道。
たまたま目の前を通り過ぎる友。
何となく早足で歩いていくその姿は、まだいつものあいつより硬い印象があった。

「あいつ、まだ何か引きずってんのか? 意外と根に持つやつだな」

メンタルが弱いのはまずいぞ、と勝手に思いながらあいつが向かった先に俺も行こうとして、

「あれ? これって今あいつが落としてったもんかな」

一枚の封筒を見つける。
しかし、何か変だ。……これ、切手とか検閲の印とかしてないよな。
ああ、これから出すのか、と勝手に納得しながらあいつの部屋に向かうことにする。

道中、何となしに見てみれば達筆ながら柔らかい字体がそこには並んでいる。

「『友女』さんか。ふうん、何だよあいつ、隅に置けねぇな」

どうやら奴さん、いつの間にやら文通する相手などをこさえてやがったらしい。
これはひとつ、最近からかわれた仕返しに多少検閲してやらねばなるまい。
等と一人で勝手に結論付けながら、友の部屋へと向かう。
この手紙が、次の騒動の引き金だと、俺はこのときまだ知らずにいた――。


―― to be continued...


633 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/05(火) 00:13:51.89 ID:c5O1P4MS0
第31話 「手紙/予兆」

「……おいおい、冗談だろ」

友の部屋につき、誰もいないのをいいことに意地悪程度の気持ちで封筒を開けたまでは良かった。
いや、決して人としてはよくないのだろうが、事態は思わぬ方向に転がっていく。

「何だよ、これ」

そもそも前提が間違っていた。これが出される手紙だからと勝手に思っていたから気にしなかった。
けれど中から現れた字は達筆ながらどこか女性を思わせる柔らかさのもの。
あいつの字は何度か見たことはあるが、こうじゃなかった。
だからこそ、差出人の名前を見て気づくべきだった。
この検閲印がないという、手紙の異質さに。

「お前は、関与なんかしてないよな」

それは願いにも似た考え。決して有り得ないと頭のどこかで分かっていること。
俺達の所属する国連軍だって一枚岩じゃないことくらい分かってる。分かってるけど。
こんな裏切りみたいなことに、お前が関わっていてほしくないんだよ。

確か、お前の親父さんが言ってたっけ。
反オルタネイティヴ勢力や米国がどうの、って。

今こうやって少しずつ事態が良い方向に転がり始めていた矢先、こんな出来事。
もしこれが陰謀や工作の予兆なら見過ごせや……しない。
それがあいつを売ることにつながっても。

だから、そんなことにお前が関係ないって。おれ自身が納得するために。
俺はその手紙の中身を読んだんだ。……絶望を知ると、どこかで分かっていながら。




「これ……いや、でも」

俺はこれでも理系か文系かで言えば、理系だったりする。
けれど、得意ならどちらというだけで、文系も嫌いじゃない。
だから、その難解な言い回しの中に含まれる意味を理解してしまう。

細かな内容、詳しい何かまでは読み取れなかったが。
そこにあったのは【クーデター】の決起が近い。そんな内容が記されていた。


634 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/05(火) 00:14:27.34 ID:c5O1P4MS0
「友。探し物か?」

「え? あ、えっと……哨戒だよ」

俺は封筒を手に、読み終えたそのままの足で廊下を適当にふらついた。
結果として、これを探していたであろう友の姿を捉える。
後は、流れだ。

「うそつけよ。これだろ? 俺、さっき拾ったんだ」

「……そう。ありがとう」

「いいよ、別に。大事なもんなら落とすんじゃないぞ」

「……」

「ん? 何だよ」

分かってる。こいつは馬鹿なふりやノリがいい事はよくあるけど、本質は聡い。

「見たんだね」

「何をだよ」

「……見たんだ」

「中身は知らねぇよ。外だけ見た。検閲印押してねぇからまだ出してないんだろうなとは勝手に……」

「ねぇ、男。友達だと思ってるから、これだけは言うよ」

「……」

「このまま、忘れて。知らないふりでいて。……僕は」

君を殺したくない。
そう、はっきりと俺に告げた。

「……」

「それだけ。うそつきなのはいいけど、嘘が下手だよ」

それじゃ、と言い残して去っていく姿。
いつも飄々としているあいつらしくない、その辛そうな背中に、けれど俺が思うのはひとつ。
オルタネイティヴW完遂までにお前が何か、不穏な動きに加担するなら。
俺もお前を……。


635 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/05(火) 00:15:23.79 ID:c5O1P4MS0
結局、一晩悩んだ末に俺はこの件を妹に伝えられなかった。
あいつは今、装置の改造にかかりきりだろう。不確定な情報を持ち込むべきじゃない。
それによって本当に達成しなきゃいけない目標がダメになっちゃいけないんだ。
そう言い聞かせ、けれどどこか、友を庇っているだけじゃないのかとも考える俺がいる。
ぐちゃぐちゃとした考えのまま、眠りについた俺を起こしてくれたのはいつも通りイドだった。

「おはようございます」

「ん、ああ。おはよ……って、早いな。まさかもう装置が?」

「……いえ。調整に手間取っているとのことで、明日実行に移すとのことです」

「ん、了解。それじゃあ俺は原隊に復帰するかね。このまま訛ってばかりもいられないし」

「私は下にいきます」

「そっか。ごめんな、思い出作りもしてやりたいんだけど」

でもこのまま操縦感覚を鈍らしたままはまずい。
それにあいつらがどこまで新OS……俺の発案した改良型の性能についてきているか確かめたいんだ。
だから、ごめん。

「……いえ。下の部屋であやとりの研究をしてきます」

「お! そりゃいいな! ばっちりうまくなっとけよ!」

「はい……思い出作りです」

ただまぁ残念ってわけじゃないが、あの脳みそ部屋で一人で研究か。
何ともシュールな思い出になりそうだが。

「んじゃ、頑張ってこいな。研究」

「はい。……ばいばい」


636 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/05(火) 00:16:07.78 ID:c5O1P4MS0
そうしてイドと別れてすぐ。
入れ違いで委員長が入ってくる。

「おはよう。早いのね」

「そっちこそ。点呼前にうろつくとは中々のもんだ」

「違うわよ。総員起こしがかかったの」

総員起こし? 総合演習か何かか?

「事情は分からないけれどね。各自、準即対応体勢にて自室待機の命令よ」

貴方は特別任務中だと聞いていたから迷ったけれど、と付け加えられる言葉。
一体何だってんだろう。こんな時間から。

「それで。特殊任務は順調なの?」

「ああ、そうだな。でも明日まで待機になったからな。今日はみんなと演習に参加だ」

「そんなこと勝手に決められるものなの? 教官に申請してきたら」

「それもそうか。ま、今日はがっちり揉んでやるからな。楽しみにしとけ」

「くす。貴方の開発した新OS、自分で味わってみるのもいいかもしれな……」

そんな冗談めかしたやり取りを破ったのは、けたたましい警報音にアナウンス。

「防衛基準体勢2発令。全戦闘部隊は完全武装にて待機せよ。繰り返す、防衛体勢発令。全戦闘員は……」

いきなり防衛基準体勢2!?
それを俺が聞いたのは、『前の世界』では……。

フラッシュバックする記憶。
敗北を告げる声。

「オルタネイティヴXが発令したんじゃ……」

そんな不安が俺の胸中に過ぎる。
冗談じゃない。色々と未来が変わりはじめてるとはいえ、こんな結末……!

「……とこ、……こ! 男!!!」

「あ、え? 委員長……」

「急ぐわよ! アナウンス、聞こえないの!」

「……っ、わかってる!」

けど。こんなの……。
知らないままなんかじゃ、俺は!


「すまん! 俺、博士のとこにいかなきゃいけないんだ!」

「――わかったわ。教官には私から伝えておくわ!」

「頼んだ!!」

事情は知らないまでも俺の真剣さが伝わったのか素直に通してくれる委員長。
聞かないまま、信頼をくれる彼女に俺が返せるのは全力で事態を把握することだけだ。
だから、走って、走って。地下の妹の部屋を目指す。
だが、そこに彼女の姿はない。

「くっ……だとしたら!!」

中央作戦室しかない。
そう、こんな命令が飛ぶってことは、あそこくらいしか。
敗北の瞬間が来ていないことを確認するために、俺はそこに飛び込むのだった。

―― to be continued...



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