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意地悪なメイド4
- 827 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga]
投稿日:2011/08/30(火) 00:40:30.11 ID:37DaY0dA0
第37話 「決着/落ちるモノ、進むモノ」
『男、『殿下をお守りしろ! 下がれッ!!』
何が起こっているのか理解が及ばぬまま、しかし侍従長さんにより庇われ下がるよう命じられる。
それでも訓練をしてきた今、目の前のことに頭が追いつく前に身体が動く。
コックピットから出た場所で立つだけの委員長。当然、機体を動かせば彼女の身が危ない。
倒れそうになる身体を抱え、中へと引き込む。
『ハンター2ッ!? なぜ撃った!? ハンター2!!』
イヤフォンを通して聞こえる指揮官の叫び。
何故だ? 何故なんだ。時間はまだ残っているはずなのに! もう少しで全てが終わっていたのに!!
「何故……何故なの……」
委員長の呆然とした呟きも、動き出した戦場では誰にも届くことはない。
視線を見やれば、もはやそこに女友大尉の姿はない。……交渉が完全に決裂したのだ。
『応答せよハンター2ッ!? 少尉、攻撃をすぐに中止するんだ!!』
「やめてっ!! お願い、もうやめてっ!!!」
少佐の言葉も、いいんちょの悲痛な叫びも何ひとつこの状況を好転させるには至らない。
彼女の身をスムーズにコックピットへの引き上げさせられただけでも俺にしては上出来な部類だ。
もはやこれ以上はない。そう、全ては手遅れなのだ。
「男、行かせて!」
「バカ言うな! ――ッッ!!」
一瞬で眼前に肉薄する不知火――女友大尉。
行動が2手、3手も相手のほうが早い。直接殿下の身柄を確保しにきたか!
「何をしている男ッ、さがらんか!!」
叱責と共に割り込むのは赤のカラーリングに包まれた武御雷――侍従長さん。
庇われたとわかった以上、すぐに機体を後方へと跳躍させる。
「――まだ、まだ今なら間に合うかもしれないのっ! お願い、行かせて!!」
「っ、お前も分かってるんだろ、もう無理だ! すぐに簡易ジャケットを……!」
「けれど!!」
「俺はお前を死なせないんだ!! 生きて殿下に会わせるんだよ!!!」
「ぐ……!!」
そうだ。その身体はお前一人のものじゃない。
お前の心を、命を案じ、信頼し、身体を預けてくれた人が居るんだ!!
だから……今は耐えてくれ。
なんでこんな事になったかなんてわかりやしない。俺だって今すぐ誤解を解いて、全てを収めたい。
だが……それはもう、だめなんだ!!
『全機に告ぐ、作戦を第2シーケンスに移行ッ! 兵装使用自由!!』
『男、来るぞ!!』
隊長の苦渋の決断と、侍従長さんの必死な声がほぼ同時に響き、戦火の火蓋は落とされたのだった。
「うおおおおおおおおおおっっ!!!」
この理不尽な、争う必要なんてないはずの戦いが――!!!
- 828 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/08/30(火) 00:41:26.63 ID:37DaY0dA0
乱れ舞う銃撃音。それは破壊の質量を伴い、場を駆け巡る。
俺達の訓練機、米軍のF-22、そして決起軍の不知火、撃震が入り乱れ、戦場と化す。
だがその動きの中心は俺。いや、正確には俺の機体に乗った“殿下の御身”か。
だとすれば作戦はうまくいっている。こうして勘違いが続いたままならば、本物の殿下は逃げ切れるのだから。
飛び交う通信は米軍機によりカバーされる俺達訓練兵の小隊の動きが中心だ。
そこに近衛部隊のフォローも合わさり、一時的に渡り合っているようにも見える。
だが、これは実戦だ。死ぬときはあっさり、死ぬ。
みんな……無事でいてくれ。俺達は戦わなくたっていい。無様に逃げればいいんだ。
うちの妹が携わった新OSの力なら、逃げ回るくらいならできる。それが可能なくらい、お前たちは実力があるんだ!
だから、頼む……誰も、俺の傍からいなくならないでくれ!!
「男、状況は!?」
「岩山方面に敵戦力が集中しているらしい! このまま交代しつつ、囮になる!」
傍らのいいんちょに応えながら、レーダーに映り続ける影に俺は恐怖していた。
女友大尉が引き離せない。不知火の挙動もそうだが、練度が違う。
だが、それが功を奏した。
『プランを第3フェーズに移行、全機散開ッ! 平面機動挟撃(フラットシザース)!』
殿下の安全を確保した今、動きを変える!
『了解!』
『今、だぁぁぁああ!!』
メイド長の通信が飛び、友と妹ちゃんによる反転、攻勢がかけられる。だが……
『はずした!?』
『嘘だろ!』
各々が完璧だとふんだタイミングは当然のように避けられ、あっさりと反撃の銃口が妹ちゃんを捉える。
『……ひっ!?』
銃撃。打ち込まれる弾丸が装甲を食い破り、動力炉へと到達する。
避けられない破壊の力は機体を内側から押し広げ、爆散していく。
『よくやった。お前達がうまくおびき寄せたおかげだ』
しかし、破壊されたのは妹ちゃんの機体ではなく、決起軍のもの。
二人へと気を向けた瞬間にメイド長教官が落としてくれたのだ。
『お前達はまず、新OSの特性を生かし、とにかく動き回って逃げ回ることを考えろ』
『――了解』
『……了解』
『次が来る! 気を抜くなよ!!』
訓練兵部隊も、実戦の中でよく動いていく。
メイド長教官や米軍のフォローもあり、逃げ回り、敵をかく乱するだけの力は発揮しているのだ。
だが、それだけで覆せるほどの戦力差では、勿論……ない。
『抜けた! ハンター3、ひよっこどものほうにいったぞ!!』
「正面、よ、4機……」
後方に位置し支援射撃を担っている女さんのもとへ、4機の不知火が向かう。
明らかにこの雰囲気に呑まれ、一人完全に浮ついた動きを見せる機体を見逃すほど、相手は甘くない。
「ひっ、い、いや……こわ、いよぉ……」
涙と鼻水、その他もろもろをぶちまけ、それでもただ震えることしかできない。
引き金にかけた指が、動かない。だって……
「う、撃ったら……しんじゃうんだよぉ!?」
悲痛な叫びも、戦場の中では空しく響くだけ。
もはや有効射程距離まであと少し踏み込まれるだけで、彼女の命は儚く散っていくだろう。
だが、そうはならない。彼女を、護る動きがあるから。
- 829 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/08/30(火) 00:42:01.18 ID:37DaY0dA0
鋭い機動はF-22特有のそれ。
細かい切り替えしと短距離での加速力を生かし、巧みに背後を取り女機の元へ向かう不知火を一機、屠り去る。
『戦場でホーっとしない! 目の前に敵が着たら撃つのよ、いい!?』
それは、先の休息で得た大事な心の支え。米国に所属する女性衛士。
「ユーニ少尉!!」
『さ、早くあがって合流を! これ以上さがっちゃダメよ!』
「は、はい!」
彼女の叱責と、激励。同時に受け取り、彼女はかろうじて動き出す。
すぐに部隊の後方へと向かう最中、先程のことに礼すらいえなかったことを思い出す。
「あ、あの、ユーニ少……え……?」
後方では激しい爆砕の音と、円状する鋭いフォームの戦術機。
紛れもなく、先程まで存在していたはずの……
「少尉の、マーカー……消え……」
それが示すものは、人の命の儚さ。
そして戦場という場での命の軽さ。
「あ……あ……ユーニ少尉……!?」
『おい、ひよっこ! しっかりしろ!!』
「ユーニ少尉ぃぃぃいい!!」
叫ぶ声もまた、あまりに儚く……すぐさま銃声と硝煙の中に消えていく。
「く、っそ!!!」
先程から振り切ることのできない執拗な追撃に、合流すら危ういことを予感する。
じわじわと被弾を繰り返す中、積み重なる損傷はもはや隠し切れないものとなってきている。
「ぐぅっ!」
俺以上に苦しそうな声を出すいいんちょ。当然だ、こいつは今、強化装備も、満足な固定ハーネスもつけてやれていない。
移動だけでもしんどいのに、実戦機動だ。これ以上の負担は殿下のときのように……。
「男、集中して!」
「――ッ!?」
「私のことを気にしてる暇はないでしょ!」
ああ。そうだ……すまん、お前に、甘える!!
「悪い、そうさせてもらうぞ!!」
お前を気遣ってやれる余裕は、全くない。ぴたりとつけている側面の不知火に目を向け、
「しまっ!?」
既に驚異的な立体駆動を駆使し、前方に回り込まれていることに気づいたときには不可避の一撃が下されようとしている。
- 830 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/08/30(火) 00:42:52.93 ID:37DaY0dA0
『ぬォォオオオ!!』
ズガガガ!!!
そこに割り込むF-22は隊長機のマーカー……指揮官のもの。
「少佐っ!? ――っ、うぁああああ!!」
「きゃあ!?」
激しい振動は、強引にコースを変えたことで地面への接触を失敗したもの。
横転に通ずるその危険な挙動を、無理矢理脚部バーニアと、右腕を犠牲にするつもりで動かし何とか姿勢の制御を元に戻す。
『訓練兵にしてはいい動きだ。このまま後退しろ!』
間に合った。部隊と合流できたのだ。
『02、ついてこい! 遅れるな!!』
「りょ、了解!!」
メイド長さんの声に従い、突破のルートへの合流を果たす。
だが、当然それを眼前にしながら見逃してくれるほど、敵の大将は温くない。
『傲慢なる米国人よ――これ以上、私達の邪魔を……するなッ!!』
『侍従長中尉に言われたように私は君達を侮っていたようだ……しかし、私も合衆国に忠誠を誓った軍人、ここは通さん!!』
『殿下が御座す限り国は変わる……我が逝くは血塗られた外道、引き返すことあたわぬ。なれば――!!』
圧倒的スペックの差。それは本来、覆すことなど出来ないほど。
『うおおおおおおおッッ!!』
戦力比7対1という数字は、決して埋められるもの。
その操り手が熟練の衛士同士であれば尚更である。
『なっ、機動で……ドッグファイトでF-22Aを!? ばかなっ!!』
だが、そんな常識すらも覆す圧倒的操縦練度……いや、乗り手の魂か。
二人を別つ最大の差がそうであるならば、この結果は当然であったのかもしれない。
『――せめて、殿下の御心を蔑ろにする輩を、その一片までも残さず、取り除くのみ!!』
もはや生きることすら望まず、修羅と化した一人の女は完全なる一太刀にして、F-22Aの胴を分かつ。
あまりに鋭く、そして圧倒的に速い一撃。
『――すぐ参る。……先に逝くがいい』
それは最後に告げたその言葉を後に、機体が爆発を起こすほどのもの。
修羅の歩みを、外道だと知りながら駆け抜けるその歩みを……誰が止められるというのか。
感傷など、もはや必要ない。すぐさまその場を離れ、追うは殿下の御身。
その道に今、障害はなかった。
―― to be continued...
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