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意地悪なメイド ver2.5
257 :【意地悪なメイド オルタネイティヴ】 [sage] :2008/09/20(土) 23:38:51.45 ID:7x8x/e20
第十五話 「総合戦闘技術試験」

俺達が訓練を行っているのは一つの目標があるからだ。
敵を倒すためなのは軍人である以上当然。だけど、俺たちはただ生身で戦えればいいってもんじゃない。
そう、敵は自分たちよりも文字通りの意味で強大な存在だからだ。
BETA。そう呼ばれる存在のほとんどが10m以上、大きいものならば60mを越えるものも存在する。
そんな存在に対抗すべく人類が作り上げた兵器。それが“戦術機”と呼ばれる人型駆動兵器だ。

この戦術機、正式名称「戦術歩行戦闘機」の開発までの経緯は大まかにはこうだ。
BRTAとの戦争がはじまってすぐに、人類側は今までの戦術を根本から覆されることになった。
それまで航空機による制空権争いが主体だったことに対し、“光線属腫”と呼ばれるBETAが出現。
奴らが放つレーザーは大気や気象条件で威力の減衰が期待できない程の高出力を持ち、捕捉されると逃げられず、戦術機の装甲でも数秒しかもたない。
また、味方への誤射は絶対にしないという恐ろしいまでの対空能力によって一切の航空戦力を封じられる事態となった。
そこで開発が行われたのがこの戦術機である。
今では機体の世代も更新され、様々なバリエーションが存在する人類の主力兵器となったわけだ。

そしてこの人型兵器を操る人間を、“衛士”と呼ぶ。
そう、この訓練校は衛士を育てる場所。そして総合戦闘技術試験とはその衛士になるための最終試験なのだ。

この試験は年に二回行われる。
その規模は六日近くにわたるもので大がかりだ。
何より重要視されるのがチームワークと応用力。
個人の能力の高さを生かせる状況を作り出し、困難を乗り越えていく。
これから俺たちが挑む試験はそういった厳しいもの。

……のはず、なんだが。


258 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/20(土) 23:39:17.72 ID:7x8x/e20
ざざぁん。

南の島。といえば聞こえがいいが、ここが俺たちの運命を決める場所だ。
無人島をまるまる使用した大がかりな試験が始まろうとしていた。

「というわけで、皆さんにはこの命令書通りの任務を遂行していただきます」
「はっ、命令書、受領いたしました」
「では適当に頑張ってください」

……そう言ってくるのは馬鹿妹なんだが。
なんだが……なぜ水着なんだろう。
そういえば俺の記憶が告げる。確か前の世界でもこんな様子だったような気がする、と。
ものすごいリラックスした様子でビーチチェアーに座る馬鹿妹に脱力しそうになる。
というか気のせいじゃなきゃ、何となく顔が赤いような。
照れてるのか? じゃあやらなきゃいいのに。

「何か?」
「はっ! 何もありません!」
「……私だって、こんな」

ぼそっとつぶやく声が聞こえてくる。
ああ、そっか。こうやって部隊の油断なり怒りを誘うのが役目なんだろう。
……じゃあ別に他の人間に任せりゃいいのに。
変にまじめなところがこういうときに裏目にでる。そういうやつだった。
何となく俺だけ納得してしまう。
だけどこんなことならイドの奴もつれてきてやればいいのに。とひそかに思う俺であった。


「男、準備だ」
「了解、いいんちょ。さて、やりますか」

俺は前の世界でこの試験をクリアしてる。
それこそ多数の難関に引っかかりつつ、だ。
だからこそ俺はクリア自体はできる自信はある。
そして今必要なのは最速クリアという称号。


259 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/20(土) 23:39:34.72 ID:7x8x/e20
『最速、ですか?』
『ああ、これをダメ押しにする。俺は絶対にこの試験を最速で突破できる自信がある』
『経験をしてきた、から?』
『そうだ。だから、今の試験内容を変えずにいてくれればそれができる。絶対だ』
『……わかりました。プログラム自体は変えません。ただし漏えいの可能性を考えると……いえ。そうですね』

ひとつ頷いて。

『プログラムだけで最速を叩き出すことは容易ではないでしょう。残りの期間も考慮すれば。わかりました、それが可能になれば私はあなたを全力で支援します』
『うし! 約束だからな!』
『はい、やくそ……ひゃう!?』
『ゆ〜びきりげーんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます! 指切った! っしゃ! やるぞぉ!! って、どうした?』
『な、何でもありません! 今日はさっさと下がりなさい!』
『何で急に怒ってんだよ? ちょ、おい!?』


今思い出しても不思議だけど、まぁいい。
とにかくここでひとつ、流れを変える。
歴史を俺が動かすんだ!



今回の指令は任務中、戦術機を破棄せざるを得ない状況になり、無事に戦闘区域から脱出するのが目標だ。
それに付随して受領した島の地図に記された目標の破壊による後方撹乱が第二優先項目とされている。
これが厄介なことに三か所に分かれており、チームを分けて行動せざるをえない。
なぜならばこの試験には時間制限が設けられており、それをクリアしなければ合格とはなされないからだ。
とはいえ……そんなことは当然のこと。必要なのは最速の二文字。
だから俺は行動を開始する。


260 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/20(土) 23:39:50.28 ID:7x8x/e20
編成は友、いいんちょ組。女さん、妹ちゃん組。……そして俺だ。
前の世界では俺、妹ちゃん、いいんちょ組。そして友、女さん組だったが今回は三つに分けた。
記憶通りにいけば確実性が出るだろうが、そうはいかない。
なぜなら三つのポイントを攻略することになるのだが、ツーマン・セル以上で行動するのが当たり前だ。
こうなると前回のような分担では時間が大いに食われる。
これではだめだ。だから俺は無理に自分の能力の高さを盾に一人での行動を認めさせた。
無論、本来は認められていない。確実にクリアを目指す俺以外の人間からすれば論外の方法だからだ。
けど、ダメなんだ。本当に無理矢理といっていいほどの言動で俺は今回の編成に持ち込んだ。
やり方としては、前の世界で俺たちのチームで解除した場所で、なおかつ残りの二人がほとんど問題なくクリアできた場所以外を選ぶことだった。
つまり、二人でいかせて問題なくクリアできるポイントを任せ、一度経験のある俺が問題の出そうなポイントをつぶす。
そういうやり方だ。だが、

「わかった、だったら俺がせめて一番楽なポイント。手前の場所を俺があたる」

こうしなければこいつらも納得しなかった。
故に俺はメンバーをクリアしたことがある人間を片方ずつに分けることでどちらにあたってもクリアが可能な確率を上げた。
これが俺にできる最速への切符だ。

「じゃあ、いこう。70時間後に、予定のポイントで」
「「「「了解」」」」

こうして試験は始まった。




道中はほぼ問題なく進めた。
トラップや道のりは記憶を頼りに進む。
この記憶自体がいつのものかはっきりしないので、そこまで頼りになるわけではないが、そこは鍛えた身体能力がカバーしてくれる。
積んだ経験は決して無駄ではない。そう思える道中だった。



「これ、か」

二日目の昼に到達した目標ポイント。
そこでは最低限の行動で済ます。
色々と持って行きたくなるような物も多く置かれているが、必要はない。
確か、これらはなくても俺たちは苦難を乗り越えていったんだ。
だから大丈夫。
活かせる場面を思い描きつつも、今はそれによる不安要素が増えることのほうが怖かった俺は爆破作業を終え、再び歩き出す。
目指すは集合ポイントだ。


261 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/20(土) 23:40:07.73 ID:7x8x/e20
「っと。……さすがに一番は俺か」

前回の記憶と同じ場所にたどり着く。
前は俺がみんなに迷惑をかけてかなりギリギリの時間配分になってしまった。
その代わり、俺は妹ちゃんとたくさんの話をして、わかりあえたし、いいんちょの決意も確かめられた。
だから悪いことばっかりじゃなかった。そう思う。けれど、今は違う。
今必要なのは彼女たちとの心の交流じゃない。未来を救うための可能性だ。

そう自分の中で結論づける。
でも、なぜかそこに寂しさも感じてしまう。
俺は彼女たちのことを、前の世界で……。


ガサッ


「早いのね」
「ああ、とはいってもついたのはほんの少し前さ。それに一番楽なポイントをもらったからには、一番乗りは当然だと思うしな」
「そんなことないよぉ、一人で大変じゃなかった? だいじょうぶ?」
「もちろん。そっちは?」
「首尾よく進んだおかげで順調だったわ」
「えへへ、がんばりました!」
「そっか。さすがだな。あとは妹ちゃんと友か。……がんばれ」

あの二人はどちらもそつなくこなすタイプだから大丈夫だと信じられる。
られるんだけど……。俺の中に不安が渦巻く。
大丈夫、だよな?



だが、不安は的中する。
集合時間を6時間過ぎても彼女たちはあらわれなかった。


262 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/21(日) 21:11:51.96 ID:xmxOHpgo
伏線らしきものにwwktk


280 :【意地悪なメイド オルタネイティヴ】 [sage] :2008/09/27(土) 16:51:41.29 ID:tZBGKqM0
第十六話 「試」


「行こう。これ以上は待てない」
「で、でもまだ全然時間は残ってるし……」
「女の言う通りね。確実性を期すために、ここは待つべきよ」
「だけど、それじゃあ!」

六時間。一日の内の四分の一に相当する時間がもうすぐ過ぎようとしている。
ここまでの経過時間自体は歴代を振り返ってみても最速のものだった。
このロスタイムを加えてもだ。
だがこれ以上は待てない。待てば、きっと遅れを取り返せなくなる。

「大丈夫、あいつらはきっと先行してるだって!」
「……それ、本気で言ってるの?」
「ぐっ」

そんなわけがないことはわかっている。
先行する理由があるはずがない。何かしらのトラブルがあったに決まっている。

「だけど、それだから待機したところで事態は好転しないだろ!」
「ええ。少なくともこれ以上最悪の事態に陥りはしないでしょうね」

淡々と切り返す口調は明らかな失望の色。
俺がこの訓練で最速に対する尋常ならざる執着については前から口にしていたことだ。
だがそれは俺があくまで高い実力を持つから目指す、ただの目標にしか周りには捉えられていない。
俺がそこにこの世界の未来の変革を望んでいるだなんて誰が分かろうか。
つまり、俺はこの場で、記録のためなら……ひいては自身のプライドのためなら仲間すら切り捨てる人間だと思われているのだ。

「っく……。くそ!」
「ひゃうっ」

手近な木を殴りつける。
手の甲に鈍い痛みが広がり、熱を感じる。
痛みはやがて俺がいかに馬鹿をやってるかを教えてくれる。

「……。だったら、こうしよう。あいつらをこっちから迎えにいくんだ」
「迎えに? でも入れ違いになる可能性だって否めないわよ」
「それでも、だ。俺だって気は焦ってるけど、あいつらを信頼してるのは本当だ」

少しほっとした雰囲気。
俺だってこのチームでいられることは今では誇り以外の何者でもない。
だから、そこだけははっきりさせておきたかった。


281 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/27(土) 16:52:01.53 ID:tZBGKqM0
「だからあいつらがここにもし入れ違いで到着したとしても、きっと待っててくれる。そうだろ?」
「そうね」
「私もそう思う」
「だったらもしもの可能性をつぶすために向かおう。何事もなければどちらにせよ俺たちは時間が余ってる以上、問題ないはずだ」
「ええ、じゃあ私たちはそちらに向かいましょうか」
「うん!」

こうして俺たちはあいつらが向かった破壊対象のポイントを目指すことになった。
本来なら数刻とはいえここにいた痕跡を残さずにいるべきなのだが、あえて俺たちはそれを消さなかった。
これが俺たちなりのメッセージになるはずだからだ。







しばらく道なり、といっても道らしい道もない場所を進み、ポイントを目指す。
刻一刻と失われていく時間に焦りを募らせつつも俺たちは歩を進める。
前回の記憶ではこちらから向かった記憶はないが、確かこっちには……。

「ずいぶん深い渓谷ね。この下なのね?」
「みたいだな。だがこれを直接登ってくるはずないし……」
「そうだよね、こんなのさすがに」


そこはかなりの傾斜と高さを備える渓谷。
人間が登れないわけではないが、何かトラブルが起これば確実にここだろう。
とはいえ、冷静に行動していればそんなルートを使う必要もなく、安全に引き返して改めて道なりにいくべきだ。
そのはずだけど……。いや、待てよ。
俺の中に眠る記憶が何かを告げる。それはいつか見たことがある風景。
いつか彼女たち三人でここを目指したときに、妹ちゃんは何と言っていたか。


282 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/27(土) 16:53:17.44 ID:tZBGKqM0
『登った方が早いじゃん』
『冗談だろ、安全な道をいくべきだろ』
『冗談はそっちでしょ!? あんたのせいでどれだけ遅れをとってると思ってんのよ!』
『妹、やめなさい』
『やめないよ! 時間を少しでも稼ぐならここを登っていけば完全に遅れを取り戻せるし!』
『だけど……』
『そうよ、遅れを取り戻したいなら尚更やめておきなさい。彼がここを登攀しきれると思う?』
『それ、は』
『俺もそんな自信はない』
『くっ、何を偉そうに……わかったわよ。その代り急ぐわよ!』
『ええ、それは賛成ね』
『了解』



そんな会話をいつかの記憶が伝えてくれる。
あの時は、冷静に判断できるいいんちょがいてくれた。
けど、今は押されると弱い友と一緒にいるだけ。それはつまり……。


「あいつら!」
「ちょっと、何をする気。あなたが焦るのはわかるけれど……」
「こいつらはここを登ろうとしたにきまってる。だから何かトラブルがあるとすればこの中腹だ!」
「そうなの?」
「ああ、いくぞ!」
「待ちなさい、勝手な行動は……はぁ。もう!」
「ま、まってよぉ!」


焦りは確かにあった。けれど今回は時間がとかそういうことじゃない。
友はああ見えてサバイバル能力をはじめとして何でもそつなくこなせる人物だ。
それがついていてこの遅れ、そしてこの環境。何かあったとすればそれはただごとじゃない。
だから俺は焦る。きっとかなりの事態になってる。
俺たちは一応、無線を持たされ何か有事の際はギブアップをすることが許されている。
だけど彼女はどんな状況でもそれを使うことをよしとしないだろう。
そういう娘だから、焦る。我慢して、耐えて何とかしようとするだろうから。

(妹ちゃん……!)


283 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/27(土) 16:53:30.79 ID:tZBGKqM0
強い傾斜をザイルとハーケンを使い、慎重に下りていく。
何だかんだでいいんちょのフォローと女さんの支援で何事もなくあたりを捜索できる。
三分の一を降りたあたりまできたあたりで、さすがにこんな無茶はしていなかったのかと思い始める。
また空回りだ。こうして時間を無駄に食いつぶしていくのか、俺は。余裕を出していたツケがここで回ってきたのではないか。
色々な不安が胸中を渦巻き、全員が無言になっていく。そんなとき、

「あ、男くん! あれ!」
「!?」

比較的足場たりえる場所が確保できる場所に人影を見つける。

「友! 妹ちゃん!」
「あ、男……! よかった!」

そこではずいぶんと焦燥している友の姿。

「何があったんだ!?」
「彼女が、ここを登っている最中に足を滑らせて……」
「何ですって」

追いついたいいんちょが声を荒げる。
それはそうだろう。大事な妹なのだから。
しかしそれにしても、いつもなら俺の顔みるなり嫌みの一つも言う彼女がおとなしい。
その頭には応急手当の後として、包帯が巻かれ一部がじわりと赤く染みている。

「おい、まさか」
「うん。ボクもすぐに無線を使おうとしたんだけど」


『もし、無線を使ったら、一生許さないから……少し休憩するだけなんだから。いいわね』


そんな風に手当中に言い残して意識が混濁した状態になってしまったらしい。
こいつはその言葉を律儀に守り、しかしどうしていいか分からずにただ彼女の看病を続けていたらしい。

「でもよかった、みんなが来てくれて。ねぇ、やっぱりこれは無線を使うしかないよね」
「いや、でもそれは……」

無線を使う。それは即リタイアを意味する。
つまり、おれたちはまた半年の間を訓練に戻らなければならない。
衛士にすらなれず、ただのんびりとした日々に戻らなければならないのだ。
それだけは……。だけど目の前の妹ちゃんの衰弱した表情を見ていると、それすらも仕方ないのかと思える。

「使いましょう」

決断するのはいいんちょだ。


284 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/27(土) 16:53:49.07 ID:tZBGKqM0
「やはり全員がまとまって一つ一つクリアしていくべきだった。今回は作戦のミスよ」

それは暗に俺のやり方がまずかったという言葉。
だが責任は自分が負うというのだろう。
彼女だってリタイアなんて望む結末じゃない。
辛いはずだ。だけど自分の肉親を引き換えにできるものじゃない。
だったら、俺もうなずくしかない。

「わか……った」

頷くのを見て、彼女は自らの無線機を取り出し、手にかけ……。

パシッ!

「え?」

しばしの静寂、そしてガシャリという音が聞こえる。
谷底に落ちた無線機が壊れた音だろう。

「だ……め……」

それは虚ろな瞳で、しかし強い意志を感じさせる妹ちゃんの声。

「妹ちゃん! 何を!」
「だ、め。絶対、合格……」
「それは次の機会でもいいでしょう。それよりも今はあなたの容態が心配なのよ」
「それ、でも……ダメ。……男」
「な、何だ」
「あんた、は。人一倍すごいん、だから……私みたいなハンデ、あっても大丈夫、でしょ」
「それは……」
「い、い? あんたは、合格したいん、でしょ。だったら、おねがい……私を、つれてって」
「……」

友や女さんは成り行きを見守り、ただ無言だ。
いいんちょも俺の答えを待ってくれている。
それは、きっと。


285 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/27(土) 16:54:08.01 ID:tZBGKqM0
「わかった」

このまま諦められないのはみんな同じ。
だから、行くんだと。彼女をつれて。
それができるのかと問われているのだと思ったから、おれは答えた。
できる、と。やってみせると。

「そう……じゃあ、頼んだ、わよ」

再びぐったりと体から力が抜ける妹ちゃん。

「今の言葉、本気なのね」
「……ああ。絶対、やるぞ。最速タイムはもうダメかもしれない。けど、それでもだ」

俺は決めた。
最速でなくてもいい。
必ずこのチームで、今回の試験を乗り切ろうと。



再び渓谷を引き返し、今度はこのまま脱出ポイントを目指す。
妹ちゃんは俺がおぶっていくことになった。正直、この状態で目指すというのは無茶だともいえた。
だが負傷した味方を連れていくことだってあるのだ。これくらいどうということはないし、採点を甘くしてもらえる要素にはつながらない。
俺たちはこの島の北側にある岬を目指して行動していくことになる。

途中のトラップや、問題もハンデを負ったところで俺というカンニングペーパー代わりがいる以上、それほどの脅威にはなりえない。
前回の試験では悩んでとられた時間も、おれの強引な説得と結果によって時間をみるみる取り戻せていく。

後残る試練は、いくつかあるが、既に種の割れた手品のようなもの。
不安は少なかった。
ただ一つ、妹ちゃんの容態を除いては。



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