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意地悪なメイド4.5
- 597 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga]
投稿日:2011/06/28(火) 01:15:07.45 ID:/l7CpuE60
第27話 「イド/私」
「うまくいったようですね」
そんな言葉に振り返れば、物々しい機器の類が並んだ部屋。
見慣れた世界。
「ああ、ちゃんと必要なものは三日後に……」
言いかけた視線の先、ふらりと倒れるイドの姿が見える。
「お、おい! 大丈夫か!」
「前回まで数十秒だったものが今回は数時間、なるほど。さすがと言ったところでしょうか」
「何ぶつぶつやってんだよ! 前もそうだったけど、何でイドがこんな風になってんだ!」
「それで、向こうの私はどのような段取りを?」
「おい!!」
俺の言葉をモノともせず、さっさと自身の用件を推し進めていくこいつに腹が立つ。
確かに世界を救う重要なキーを手に入れてきたんだ。そっちが気になるのはわかるけど……!
「……。そちらのソファに寝かせてください」
諦めたように嘆息しながら、備え付けのそれを指す。
決して寝心地は良くないだろうが、背に腹は変えられない。
抱き上げた小さな身体は驚くほどぐったりしており、顔色蒼白。
まさか息をしてないなんてことは……。
「何で。何で実験のたびにこいつがこんなにボロボロになってんだよ」
「……。まだ理論の回収が終わっていない段階ですが。ええ、そろそろ彼女の力を話す必要があるでしょうね」
「イドの、力?」
「はい。彼女の力はこのオルタネイティヴW完遂に必要不可欠なんです」
そんな重圧がこの小さな肩にかかっているってのか。
いまだ浅い呼吸を繰り返すその姿を見るだけしか出来ない無力さをかみ締めながら、妹の話を聞く。
「そもそも、オルタネイティヴ計画とはBETAとのコミュニケーションを模索するというものでした」
オルタネイティブ計画。その発端は太陽系外から飛来したと思われる惑星間航行技術すら持つ知的生命体との和解、交渉にあった。
それほどの科学力を有する生命体にコミュニケーションをとり、その意思、真意を確かめようとすることは当然の帰結だった。
しかし、作戦は失敗。彼ら――便宜上そう呼ぶ――がそもそも言語を有するのか、それすらもわからぬままに調査は暗礁に乗り上げた。
それを受けて、オルタネイティヴ計画は2へと移行。彼らを捕獲し、その生態を研究・解明することで直接のコミュニケーションを図ろうとするものだった。
この研究のために捕獲されたBETAに対してありとあらゆる方法、思いつく限りの研究がなされた。
だが、結果として分かったことは有り得ないという結果。
彼らは月や火星などでも観測されるほどの適応能力を有しながら、種としての同定するための特徴すら発見できず、
各個体には消化器官や生殖器にあたるものも確認できなかった。
そんなデタラメな数種類の生物が高度な科学技術を持って地球圏に飛来した。
その恐々たる事実のみが明かされたのだ。
そう、天文学的な予算とサンプル確保のために払われた膨大な犠牲によって得られたのは……
- 598 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:15:43.36 ID:/l7CpuE60
「彼らが炭素生命体であるという事実のみ、でした」
そこで一区切りをいれ、不味そうに自身で用意した珈琲を煽る。
顔をしかめたのは味のせいか。それとも自身が口にする人類の危機を思ってか。
「それから計画は第三段階へ移行。我々が向かった先は科学すら越えたものに縋ることでした」
視線の先、少しずつ穏やかになる寝息を立てるイドがいる。
未だ渋面を保ったままのその様子に、俺の中で不安だけが膨らんでいく。
オルタネイティブ3の発端は、彼らが社会を形成し、群生し集団での活動をする以上、そこには思考や意思がある。
――はず、という半ばヤケクソな前提を元にして立てられたプランであった。
そう、オルタネイティブ3とは当時一部の超科学アカデミーを母体に開発された人口ESP発現体を用いた作戦。
BETAの思考をリーディングするというものだったのだ。
「え? じゃあ、心を読もうとしたのか。それってすごいことじゃねぇか。テレパシーとかそういうんだろ?」
「そこまで万能なものは存在しませんよ。漠然とした『画』であったり、『色』であったり。とにかくそんなレベルです」
元来、ソビエトの方面ではそれらの研究が進んでおり、同時にわが国でも一部の研究機関がそれに積極的にかかわっていた。
くだらない話ですが、とは言いながらも妹嬢が話すその口ぶりは、どこかその内情を知っているというもの。
……こいつも、もしかして。
そんな横道にそれた話を戻したのは、衝撃的な言葉。
「元来、発現性の高い個体を優先的に掛け合わせ、より遺伝子的にESP能力に特化した存在を生み出す。ええ、言葉の上では正しいでしょう」
そう話しながら、ますますその顔に浮かぶ苦悩の色は濃くなっていく。
「ですが、我々には時間も、倫理に訴えて足踏みをしている余裕もなかった」
「……おい、それって、まさか」
「ええ。彼女は……イドはそうやって生み出された命のひとつです」
頭を殴られたような衝撃だった。
「彼女は母親に抱かれたこともない。人口子宮の中で育った子供です」
そんな人体実験みたいな、人を人とも思わぬ所業が許されるのか。
反発しかける俺を、彼女は諌めるように視線を飛ばす。
それは、分かりきっていること。倫理も、正論も、人類の滅亡の前には何の意味もない。
俺は、そうした考えから切り捨てたものだって、あるんだ。
浮かぶのは天元山の噴火のこと。
直接助けることのできなかった人たちがいる。
それによって俺たちが足踏みをするわけにはいかないから、と。
だから、俺はこの話を聞いて、憤ることはあっても誰も責められやしないんだ。
- 599 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:16:12.45 ID:/l7CpuE60
「イドは計画末期に開発された『第六世代』と呼ばれる完成系に近い個体群ですが、その中でも特に優秀な発現性を誇りました」
平均を軽く凌駕し、ほぼ鮮明な『画』として捉えられたという。
だからこそ、俺の心の中に描かれた様々なことを彼女は知っていったのだろう。
――たとえば、『あいつ』の意地悪なんかを。
「ただこのリーディング能力には制限がありました。要約すれば読み取る対象には一定以内の距離内でしか発揮できないというものです」
それは、つまり。
「彼女のような大勢の発現体がハイヴ――やつらの巣の、その中枢に連れられました」
「じゃあ、イドも戦場に!?」
「いえ……幸か不幸か、彼女が実戦配備される前に計画は第四段階へ移行しました」
でなければ、生還率数%とのうちに入れていた保障はなかっただろうと淡々とこいつは語る。
「じゃあ、計画は失敗だったのか?」
「いえ。成功はしました。BETAにも思考があることが証明されました。ただ……」
唯一分かった事実は、やつらがこちらを、人間を生命体と認識していないということ。
そして、奴等にとって平和だとか和解といった概念は存在しないであろうということ。
どちらかが滅ぶまで、この戦いは終わらないという事実。それが結果として得られたものだ。
そしてここからだ。計画が第四段階――オルタネイティヴWへ移行した今、どうしてイドが必要不可欠なのか。
その答えをすぐにでも俺は知りたい。
この計画の要は「00ユニット」の完成にある。
彼女はそう切り出す。そして……
「それが全てです。以上」
「……は?」
「彼女の力については説明するつもりでしたが計画の全容を話すとは一言も申していませんが」
「おいおいおいおい!? 何だよそれ、いまさら出し惜しみかよ!」
「ここまでの情報もほとんどが極秘扱いなんですよ。進行中の計画の一端に触れられただけでも感謝してください」
んなこと納得できるか!?
ただでさえ、不安を煽られるような話を続けられたんだ。
ここで希望の答えを、理論の中身を教えてくれたっていいじゃないか。
「貴方は他人の心情よりも、自身の興味が優先なのですね。案外科学者向きではないでしょうか」
そんな憤りに冷や水をかぶせるように、こいつは言い放つ。
視線の先にはイド。
だが、関係ない。俺にとってはイドはイドだし、それ以上でもそれ以下でもない。
確かにまるで心を読んだかのような反応はあったし、実際に心の中を絵にしてくれたこともあった。
ただ、それだけのことだ。
「貴方が私に対して交渉を持ちかけた時。その発言の全てが絵空事ではないと、確証を与えてくれたのは彼女です」
それは……そうだったのか。
いきなり押しかけて、人類を救うだの、それが俺には出来るだの言い放ったっけ。
「私はあの時、貴方を信じたのではありません。イドの言うことを信じたのです」
あの時、こいつは確かに信じるに足る理由があるとは言った。
それが何かとまでは教えてくれなかったが、それがイドだったんだ。
俺がこうしていられるのも、世界の希望に携われているのも、イドのおかげ。
だが、俺はそれに対してどう向き合っているんだろうか。
確かにあいつはあいつだと言い切れる自信はある。けど、本当にそれはイドの望むものか?
無理矢理持たされた力を、その中身を知られるようなこと……。
あくまで当事者の一人として、妹は俺に対して情報をくれたに過ぎない。
決してイドが知られることを望んだわけじゃないんだ。
悩みの答えは見つからぬまま、彼女は話を続ける。
- 600 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:16:51.28 ID:/l7CpuE60
「計画についての全容はさておきましょう。今はイドの話です」
そんな前置きを持って、話は進む。
「彼女の力は一度捉えたイメージを保つことに優れています。けれど、そのイメージを保ち続けるには膨大な精神力を要します」
それは、俺がこの世界へ帰るための命綱。
「だから二人を一緒に生活させて、精神的な繋がりを強くしていたのです」
それで急に同棲生活か。理屈はわかったが、毎度のことながら急すぎるんだよ、やり方が。
「結果として、数十秒が数時間になった。劇的な変化です」
「けど、こいつの負担が軽くなってない。いや、大変になってるんだろ」
「だから何ですか?」
強い視線が俺を捉える。
「これは結果のみが求められるのです。イドに楽をさせて結果が出なければ何の意味もないんですよ」
- 601 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:17:33.16 ID:/l7CpuE60
その通りだとは思う。
ただでさえ、俺達には時間がないんだ。けど、だからって。
「床を見てください」
床? 視線を落とせば一面に散らばるへたくそな絵。
「これ、全て貴方ですよ」
「俺?」
「これが彼女にとって一番効率のいいやり方なのでしょう。可愛いものです。EFP能力に秀でていても絵の才能はないようで」
た、確かに絵については非常にコメントしづらいが。
「私をはじめ、普通は貴方がこの世界から消えた主観から観測できなくなっています。実験中は、彼女のバックアップがあって初めて成り立つのです」
それはつまり俺を見失わずに、機器の調整や細かい判断を下すこと。
もしもこいつが俺を忘れてしまえば俺は帰ってこられないのだ。
「けれどイドはそのバックアップすらなく、貴方を捉え続けているのです。分かりますか? それがどれほどの力を消耗するか」
……そうだったのか。ありがとう……ありがとうな、イド。
「だからこそ、……っ」
「え?」
珍しく、妹のあわてた声と視線に振り向けば、
「……」
「い、イド」
いつから聞いてたんだ、お前。
そう言葉にし、近づこうとする。
それに合わせるかのように、彼女は一歩、一歩と後退していく。
「お、おい。待ってくれ、俺は……」
「……」
「あ! おい!」
脱兎のごとく、とは言ったものか。
急に走り出したイドにどうしていいか分からず立ち尽くす。
そんな俺に、
「レポートは後日でかまいません」
結果を求めたはずのこいつからそんな言葉が出る。
「で、でも」
「生まれはどうあれ、彼女も女の子なんですよ。理論の回収までまだ時間はあるのでしょう? ならば明日は休みにします」
「じゃ、じゃあ」
「時間は自由に使って良し。以上、解散」
早く追いかけなさい。
そう、言葉にせずとも背中を押す視線に、俺は走り出す。
イド、待ってくれ。俺はお前にちゃんと、伝えたいことがあるんだ!
走り出す足は迷わない。
どんな答えになろうとも。伝えたい気持ちを胸に。
――to be continued...
- 602 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/06/28(火) 01:27:18.37 ID:3AycFLdAO
男「という訳でこのチビ兎の正体がハレて明るみに出た訳だ」
メ「原作知ってる人にゃなんら隠せてないっすがね」
イ「……」
男「知らない人もいたからな! 気にするなよ!」
イ「……」コクコク
メ「へ、今更カマトトぶったところで無駄無駄! 出番も貰えずひたすら埋もれていくがいい!」
イ「……」ササッ
男「お。俺を盾にするか。まぁでもこのバカに懐くよりは絶対いいな」
メ「私だってごめんですよ! 第一、こんなキャラが今更何の……」
イ「『主様から離れやがれチビっ子め』」ボソ
男「へ?」
メ「!?」
男「……あー、と」
メ「な、何見てやがるんすか! おらそこ、何妄言吐いてやがるってんですよ、うきゃー!?!!?」
イ「……真っ赤」
男「それは内面か外見か?」
イ「……どっちも」
男「だな」
メ「みぎゃぁぁああああ?!」
イドちゃん、解禁
- 603 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/06/28(火) 06:30:43.29 ID:NLnlZ23Mo
原作知らなかったからwwktkだぁたよ
- 604 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/29(水) 00:40:52.55 ID:PaHOWAIu0
第28話 「イド/貴方」
追いかけて追いかけて。
「待てよ、おい、イド! 待てってば!」
ひょこひょこと逃げる背中を追う。俺とあいつの体力、体格の差なら捕まえるのはすぐだろう。
そう踏んでいたが、この兎めはなかなかに賢しかった。
「な!? お、おま、エレベーターとは卑怯な!?」
このエリアは元々セキュリティが高く設定されている区画であり、地下だ。
であればそのエレベーターにて距離を離されれば……
「くそ、次のが来るの遅ぇんだよ、これ……!」
あっさりと差をつけられる結果となった。
「イド! どこだ、イド!」
基地内上層部。思い当たる場所を片っ端からあたっていく。
食堂に差し掛かった時も、そこにあいつがいるような気がしたからだ。
けれど、代わりに出会うったのは、
「どうしたの? えらく慌ててさ」
「友か。なぁ、イド見なかったか?」
「何? 喧嘩でもした? ダメじゃんか、大事にしてあげなきゃ」
にやにやとした笑いが返ってくるが無視。
そこに引き寄せられるように集まるいつもの面子たち。
「な、なにかあったのかな? イドちゃんがよにげさん?」
「差し出がましいようだけれど、よくないわよ。そういうの」
「どういうのだよ!? ていうかお前ら勘違いしすぎだ! 別に何でもないっての!」
いいんちょや女さんもからかい半分でそんな事を言ってくる。
割と本気で探してるってのに、こいつらときたら……。
「どーせあんたが嫌がるあの子に無理矢理何かしたんでしょ」
「……。な、訳ねぇだろ」
「変な間! 怪しい!!」
妹ちゃんのからかいも、遠からずあたっているのではないか。
そう、一瞬だけ感じてしまう。
あいつが本当は知られたくないままにしたかった過去を俺は知ってしまった。
それはあいつにとって、逃げ出すほどにいやな事だったのかもしれない。
あいつを傷つけたかもしれないんだ。
- 605 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/29(水) 00:41:28.94 ID:PaHOWAIu0
「それで? 彼女を探しているのよね。皆、見てない?」
どことなく雰囲気を察してくれたのか、いいんちょが皆に声をかけてくれる。
こういうとき、こいつの聡明さが救いだ。
「みてない、かも」
「同じく」
「僕もだね」
「そっか。ありがとな」
皆のことも避けているのだろうか。
ここにいないとなるとほとんどお手上げ状態なんだが。
「にしても、彼女が居ないと結構寂しいもんだね」
「そ、そだね。何だかんだで、いろいろ、その。おもしろかった、し」
「そうね。だから早く見つけてあげなさいよ、旦那さん」
「だぁから! そういうんじゃないっつーのに!!」
けど、良かった。
こいつらが、そんな風に思っててくれたんだ。
人以上に人の心が分かるあいつの周りに、こいつらが居てよかった。
それだけは、確かに感じられることだ。
- 606 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/29(水) 00:42:29.77 ID:PaHOWAIu0
結局、それからしばらく探し回ってもあいつを見つけることはできなかった。
無駄かもしれないが、安心しろ、とか怒ってないぞ、とか。
とにかく何でもいいから安心させるようなことを考えまくってみる。
そうすれば俺の思考を読み取って案外ひょっこり……。
「あ。距離に制限とかあんだっけ。……何やってんだ俺」
でも一度捉えた対象はトレースしやすいって言ってたっけ。
無駄じゃないかもしれないんだ。続けてみよう。
色々、話とかしたいんだよ。
たとえばさ……お前、メイドのこと、知ってるんだろ?
俺、最近あっちの世界にいくまでは“あいつ”のことなんて意識から飛んでてさ。
だからお前がしてくれた“あいつみたいなこと”ってのは、俺から引き出せないはずなんだよ。
「……なら、お前はどこから“あいつ”のことを」
もしお前が俺の記憶の、忘れちまってる部分まで引き出せるなら教えてほしい。
あっちの世界のこと。前の、失敗しちまった世界のこと。
そして“あいつ”のことを。
何出だろうな。イド、お前のことを考えると一緒にメイドのことまで浮かぶんだ。
お前と、あいつが重なるのは何でなんだ。
俺があいつのイメージをお前に押し付けてるのか?
『主様にはわからない!!』
それはいつかの失敗した世界で、脳髄の入ったシリンダーにしがみつきながらイドが放った言葉。
この基地を捨てなくちゃいけなくなって、それで全てを放棄しないといけないそのときに。
あいつは何よりも、それを護りたいと意地になって。
そうして俺にそう言ったんだ。あいつしかそう呼ばないはずの、俺の呼び方を。
今の世界になってから、そんな言葉を言われたことはない。
もしかしたら、そんな思い過ごしなのかもしれない。
けど、それでも。これが偶然じゃないとしたら……。
頼むよ、イド。
俺、お前と、話がしたいよ。
- 607 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/29(水) 00:43:33.89 ID:PaHOWAIu0
ゆさゆさ。
……ん……
ゆさゆさ。
……ん……んん!?
がばっ
「イド!?」
「……!」
跳ね起きた俺に、驚きの顔を見せるのは間違いなくイドだ。
「戻ってきて、くれたのか?」
「……」
「そっか、ありがとう」
「……ごめんなさい」
「いいよ。俺こそ、色々ごめん」
「いえ。……届いていました」
「そっか。じゃあ、俺が今何考えてるか分かるか?」
おかえり。
「……はい」
「うん。それでさ、隠し事はできないから正直に言えば、色々話したいことはある。けど今はいい」
「……ごめんなさい」
「いいよ。さっきも言ったけど、ごめんな……俺……」
「……わかっています」
「そっか。……ありがと」
「どういたしまして」
まだどこか戸惑いながら、けど、しっかりと。
こいつが帰ってきてくれたことに、俺は感謝した。
「しかし、腹減ったな」
「もうお昼です」
「何!? え、だって俺、うぇ!?」
よ、良かったぁ。特殊実験の、そのまた休暇だからいいようなものの。
鬼教官の顔を思い出して若干身震いする。
やっぱ分かりにくいだけで実験とかで疲れてんのかなぁ……
「そうです」
「ぬぉ!? って、そうか」
うん、そうだったよな。お前には伝わるんだった。
「俺もお前ほどじゃないにしろ疲れてたんだな……よし、お互い回復……したよな?」
「はい」
「なら、そっこーで飯だ飯。たらふく食うぞー」
「はい」
- 608 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/29(水) 00:44:26.59 ID:PaHOWAIu0
そうしてやってきたPXは誰も居ない。それもそうか。
昼も過ぎたこんな時間に訓練もせずうろついている奴がいればよっぽどのお偉いさんかそれこそ俺みたいな奴だけだろう。
「うっし、んじゃあイドはそこで待ってろ。今日は俺が取ってきてやるからな」
「あ……」
「そこで何で悲しそうな顔になる。いいだろ、今日は特別なんだよ」
「どうして、優しくするんですか」
「普段俺が優しくないみたいな発言だがあえてスルーしとこう。ま、人間ってのは単純なんだ」
侘びとか感謝とか、とにかく俺みたいな単純なやつはこういう返し方しか知らない。
それは特別なことで長続きしないけど、でも今だからこそしたいって思うことなんだ。
「よく、分かりません」
「それでいいよ。人間なんてわかんないもんだ。ただ仕方ないなぁと思って付き合ってやってくれな」
「……やっぱり、よく分かりません」
「とにかくお前は待ってること。俺がそうしたいんだ」
「………はい」
納得はしてないだろうこいつの元に、二人分の合成竜田揚げ定食を運んでやる。
くじら風味だそうだが結局あのモサモサ感じゃどれも変わらないんだろうけど。
「食えるだけマシ、ってとこか。ほれ、いただきます、だ」
「いただきます……」
そう言ってわざわざ竜田揚げをほぐした後、俺のほうに差し出してくる。
「……それは、その。うん、誰もいないけどやめとこうか」
「嫌、ですか」
「嫌とかじゃなくて、ただその、地味な意地悪にしか思えないというか」
「……」
たださ、それはお前の役目じゃないんだ。
お前があいつとどういう関係か知らないけど、お前がそうある必要はないんだ。
あと俺の精神衛生上、できればやってほしくないし。
- 609 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/29(水) 00:52:41.22 ID:PaHOWAIu0
それに、たぶんさ。
それをされて嬉しいというか、いやマゾじゃないんで嫌なんだけど。
でも、きっと。
それはあいつじゃなきゃ、ダメなんだ。
俺の好きなのは、メイドだから。
だから、お前のそれを受け取ることも出来ないし、資格もないよ。
「さ、俺はいいからさっさと食っちまおうぜ。さめないうちにさ」
そうして始まる食事。
何となく、気まずい。
別にそういう意味で断ったつもりはなかったんだけど、どうにも尾を引いてるというか……。
ええい、今日は外も暖かそうだし、いっちょ二人きりなのを利用して、
「デート?」
「ぶほ!?」
むせる! むせちゃう!!
「く。俺はそこまで考えてねぇよ! 意訳はいいけど飛躍しすぎだぞ!? ま、まぁだいたいそうだけど」
「……」
ああもう、無言で頬を赤らめるな!
「とはいえ、この辺で出来ることなんてたかが知れてるしなぁ。あ、そうだ」
俺はたまたまその辺で見つけた紐を一本ちょうだいする。
たぶん、献立表とかをつるしてるやつだが……ま、おばちゃんには後で謝っておけばいいか。
「ほれ、いくぞ。あやとりだ」
「……」
こくり、と頷き二人連れ立って屋上へと出かけるのだった。
―― to be conteinued...
- 610 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/06/29(水) 01:39:00.82 ID:763AJGWAO
メ「まさかの夜の連続テレビ小説。謎の頑張り!」
男「テレビでも小説でもないし謎って言ってやるなよ」
メ「だってだって。あ、もしかして失業フラグ?」
男「リアルにやめてやってください」
メ「ま、可愛すぎる私に対して主様が劣情を催してしまうのは必然ですが、そんな台詞やら文章書いた仕返しみたいなもんです」
男「劣情言うな」
メ「しかしロリコーン伯爵たる主様には兎娘とイチャイチャな次の話が待ってる訳ですね。嫌だわけがらわしいっ」
男「お前ね……」
キュ
男「ん?」
イ「……」
男「どした?」
イ「ものすごく、嬉しい気持ちがいっぱいになってます」
メ「な、ちょ、ば!?」
イ「……羨ましいです」
男「ははは。羨ましがってやってくれ。それが一番効くから」
メ「そういう桃色っぽいキャラに私を持ってくのやめてくださいよ!? いやー?!」
イ「真っ赤です」
男「真っ赤だなぁ」
- 611 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/06/29(水) 22:54:40.17 ID:tNQTu5NSO
オルタの元ネタ分からないの、自分だけじゃないことに安心した
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