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妹「お兄ちゃん……中に……!」
204 :“兄”に敬称を付けると違和感が凄い [] :2010/03/15(月) 09:19:22.28 ID:Xu/XV/yXO
〜しばらく後悪の組織事業部一階オフィス〜

本来、悪巧みとは楽しいモノだ。女幹部は原点に立ち返り、悪者としての初心を取り戻していた

今の彼女はまったくの自由だった。誰の意思にも影響されず、思うが侭に悪事を企てることが出来る

しかし、歓喜に胸を躍らせる一方で、愛する部下の一人を失ったという体験が、心に深い影を落としてもいた

嘆かわしい事に、兄など居なくても問題なく職場は回る。その事実がより一層の悲しみをもたらすのだ

もっとも、そんな心情を他人に見せたりはしないのだが、ただ一人、同僚Aだけは女幹部の胸の内を察していた

そしてナイス☆ガイは、女幹部が代表や本部への報告をでっち上げている間、彼女に代わって職場の指揮を取る

同僚D「本当に兄さんは怪人襲撃事件と無関係なんですか?」

同僚Dは声を潜めて同僚Aに聞く。彼女は怪人の肛門が蹂躙された事件、その現場を目の当たりにした張本人である

同僚A「だ〜から、言っただろ?兄は夢を叶える為に、本場オーストリアへ修行に旅立ったって……」

同僚D「この前はベルギーって言ってませんでしたっけ?」

同僚A「いや、オーストリアだ」

ナイス☆ガイは手を焼いていた。兄の退職は本人の希望による物だと説明しても、同僚Dは納得してくれない

顔の似た女が怪人を暴行した翌日、兄は姿を消した。事件の目撃者が、その二つを結びつけて考えない訳も無いのだが


205 :そして世界平和へ [] :2010/03/15(月) 09:26:06.16 ID:qOJKBVBB0
同僚A「――だって、お前さんが見た犯人は女だったんだろ?」

同僚D「ええ、それは間違いないんですけどね。私の女センサーがビンビンに反応しましたから」

同僚Dは人間の性別を的確に判別する能力を持っている。何故か―――理由はお察し下さい

兄と犯人の性別の不一致、それが彼女の疑念を疑念の域に押し留める、唯一かつ絶対の防壁だった

同僚Aはそれを盾に抗戦を図る。突破されれば敗北は必至だが、生半可な理屈ではこの矛盾を解決できない

そしてそれは、この先危惧される本部の追及を防ぐ為の、最後にして最強の盾ともなり得るシロモノだった

同僚A「だったら、男の兄が犯人な筈ないだろ。アイツは今頃、熟練の職人のもt……」

同僚D「でも私、兄さん見ましたよ?」

同僚A「……何時の事だ?」

同僚D「昨日の夜、幹部Aの家に盗聴器仕掛けに行った帰りだったかな。○×駅の近くででタバコ吸ってましたけど」

同僚A「それはキミ……人違いじゃないのかな?だってアイツはオーストラリアで……」

同僚D「う〜ん、急いでたんでよく確認しなかったけど、あれは兄さんだったと思うんですよね」

兄の身体が無い事を条件として成立する、最強の盾は脆くも崩壊した。それを調べれば謎は全て解けてしまうのだ

以上により、『兄=最強の矛』の解が導き出されるものとする。そんな事態はさしものナイ☆スガイも想定していなかった

最強の盾と最強の矛を戦わせてはいけない、争いなど無い平和な世界が欲しい、同僚Aはそう思った


206 :球根は食用にも [] :2010/03/15(月) 09:33:09.37 ID:qOJKBVBB0
〜女幹部個室〜

女幹部「――幹部Aと幹部Cは、街で通常の作戦を行いながら、敵の襲来を待ち構えているらしい。
そんな所に網を張ったって物資を浪費するだけで、獲物なんか掛かる訳ないのにな。まったく御苦労なことだ」

同僚Aを自室に迎えた女幹部は、幹部Bから仕入れた本部の情報を、さも愉快そうに披露していた

一時は沈んでいた彼女のそんな姿を見る度に、ナイス☆ガイの胸は堪えられない至福で満たされる。が、それはそれ

同僚A「いえ、獲物は掛かるかも知れません。実は、兄らしき人物の目撃情報がありまして」

女幹部「なに?」

同僚A「同僚Dの証言です。昨夜、本部からさほど遠くない○×駅近辺で兄を見かけた、と」

女幹部「また同僚Dか。アイツはどれだけ目撃すれば気が済むんだ。悪者より家政婦の方が向いてるんじゃないのか?」

寝耳に水と、上機嫌に水を差された女幹部は、上は大水下は大火事といった口調を、ナイス☆ガイを越えた先に向ける

同僚A「尚悪い事に、同僚Dは例の事件と兄との関連性を疑っています。どうです?直に話をなさいますか?」

女幹部「いや、それ以上の疑いは持たせたくない、余計な事はしない方が好いだろう。だが、話を広められると困るな」

同僚A「それは分かっていますが、何分あの子は、厄介事に首を突っ込まずにはいられない性分と言いますか、
まるで好奇心を抑えられないネコみたいなタチでして、口止めしても効果が有るかどうかの保証は出来かねます」

攻めて良し受けて良し。同僚Dは人知レズ揺レル一輪の百合の様に、御しがたい厄介な気質を持っているのだ

他者に従うことを知らない、知ってはならない事も確かめずにはおけない。ナイス☆ガイの苦悩の元凶はそれである


208 :言いたい事も言えないこんな世の中じゃ [] :2010/03/15(月) 09:42:05.97 ID:qOJKBVBB0
女幹部「――それはともかく、その件は裏付を取る必要があるな」

同僚A「はい、見間違いの可能性もありますが、本当に兄が居たのだとしたら……」

女幹部「マズイな。幹部Bの部下共には、犯人の風貌が知れ渡っている。捕らえられるのは時間の問題だ」

同僚A「しかし仮にそれが兄だったとして、何故逃げ出さずこの地に留まっているのでしょうか」

女幹部「そうだな、捕まらない自信があるのか、何処かへ行けない理由があるのか、あるいは――」

女幹部が思い至ったのは最悪の可能性、兄の行動の根底にあるのが原因や理由ではなく、もっと積極的な目的である場合だった

女幹部「――アイツが怪人を狙っているとしたら、まだまだ犠牲者は増えるぞ」

兄には目下、二件の怪人暴行の嫌疑が掛けられている。その容疑者が本部の近くで目撃されたという情報、
もしそれが事実だとすれば狙いは想像に難くない。予想される危険を避けるためには、コトは一刻を争そう

女幹部「――だが、仮定に基づいた予想など、いくら立てても意味は無い。まずは事実関係の確認が最優先だ」

同僚A「ですが、あまり大っぴらな調査は出来ませんし、俺は現場の管理で手一杯です。女幹部さんにしても似た様なモノでしょう?」

女幹部「だったら同僚Dに任せれば良い。疑いを持っているなら満足するまで調べさせろ。首を突っ込んだからには、
首だけとは言わず手首まで捻じ込んでやれ。なに、猫ってのは頭さえ入れば、どんな所も通り抜けられるそうじゃないか」

これは迅速に処理しなければならない案件ではあるが、同僚Aも女幹部も、そんな手間の掛かる作業が出来る身ではない

だからといって、秘密を知る人間を増やす事もできない。ならば、既に勘付きかけている者を巻き込んでしまえ、という寸法である

同僚Dは手に負えない生物だが、探究心を上手く誘導できれば使い道はある。毒を喰らわば皿まで、ポイズン・キッスで突き抜けろ!


209 :「なみなみならぬ」って響きがえっちい [] :2010/03/15(月) 09:50:50.06 ID:qOJKBVBB0 BE:1879564695-2BP(1234)
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〜翌日街〜

同僚Dは女幹部の事業部移籍が決まった後、本人の強い希望で転属してきた変わり種である

元々は本部の戦闘部門B班に所属する戦闘員で、女幹部とはその頃からの縁であった

悪の組織には数少ない同性の、女幹部に寄せる思慕は並々ならぬモノがあり―――理由はお察しください

その彼女から仰せつかった極秘業務に対して、やはり並々ならぬ熱意を燃やしていた

秘密を共有してくれるのは、心を許しくれたからに相違ない。ええ、間違いないですとも

例え女幹部にソノ気が無いとしても、ここで掴んだネタを元に、あわよくば下克j〈検閲削除〉

さて、同僚Dが与った任は、先ごろ本部付近で姿が確認された、兄の所在探索である

しかし、広い世界で、何処かに潜伏している一個人を探し出すことは、これまた並々ならぬ難題であった

兄の居場所が分かれば任務完了。標的が見付からずとも、危険な地域に居ないと判れば良し

そうは言っても、存在が無いことを証明するのは、在ることを突き止めるより遥かに難しい

だが、女幹部の憂いの元は全力で排除しなければならない。愛と勇気と×××を胸に、同僚Dは捜索に当たる

同僚D「オーケェーイ、我が命に代えても」

これを成し遂げたら、女幹部は一層の信頼を寄せてくれる筈、その先に待つモノは(禁則事項です、以後の文章は閲覧できません)


211 :悪の紳士ハード [] :2010/03/15(月) 09:56:51.82 ID:qOJKBVBB0
〜悪の組織本部幹部B個室〜

幹部Bは薄暗い自室で、呼びつけた怪人や戦闘員達から、暫定的な調査報告を受けていた

世間でしきりに噂される、新ヒーローの実態を探った彼等。だがそれは巧妙に仕組まれた罠だった

幹部B「――どの説を洗っても、具体的な動きは一切無し、か」

何も考えられない……!ただでさえ混乱していた捜査は、何者かの工作で更に引っ掻き回されたんですものね

正体さえ判れば……でも、今は耐えるしかない……。未だに尻尾を出さない敵に、幹部Bは焦りを……感じすぎる……!

怪人「生幹部B様の生御意見を拝聴してもよろしいでしょうか」

幹部B「少し黙っていろ!」

じれったさに怪人を怒鳴りつける。おっと、部下に当たってしまったか。歯痒い思いがいつまでも治まらないだろう?

いつか必ず犯人を突き止めて血祭りに上げる、その為にも……。行き場の無い怒りが……熱くなっていく……!

幹部B「お前等、真面目に調べる気はあるのか!?」

よかったじゃないですか、怠慢のせいにできて。解決の糸口を掴めないまま、いたずらに時間は過ぎていく

配下の怪人が暴行されたことを、他の部署に悟られたら……。独自の方策を採ったからには、失敗は許されない……!

いけない……こんな根も葉もない話に踊らされるなんて……くやしい、でも―――――感じちゃう……!(憤りを)


212 :休憩がてら、話の流れを整理しよう [] :2010/03/15(月) 10:02:21.59 ID:qOJKBVBB0


何故か第二部に突入
    ↓
取って付けたようなバトル展開
    ↓
唐突な新キャラ投入
    ↓
不自然なお色気描写←今ここ
    ↓
更にバイオレンスな路線へ?
    ↓
  ???


立った、立った、フラグが立った! 急転直下!まばたきするヒマは無いぜ……?


213 :忘れ去られていた第三勢力 [] :2010/03/15(月) 10:10:16.89 ID:qOJKBVBB0
幹部B「――これで考えられる全ての可能性は消えた。しかし事件は現実に起こって、
犯人は影も形も見えない。そいつはどんな化け物なんだ?幽霊か?妖怪か?宇宙人か?」

打った手は悉く外れた。幹部Bの推理は、考察や想像を飛び越えて妄想の域まで入り込もうとしていた

怪人2「……今、望まれるものは発想の転換ではないでしょうか」

幹部B「何か考えがあるなら言ってみろ」

おずおずと口を開いた怪人2。その確信のこもった様な発言に悪の紳士は耳を傾ける

怪人2「はい、これまで我々は、敵が大規模な組織であることを想定して事件を追ってきました。
それは『怪人を倒せる存在』という前提があるので、当然といえば当然なのですが。
しかし、事件の性質だけに目を向けると、個人的な動機でも起こり得るモノだと言えませんか?」

幹部B「続けろ」

怪人2「何がしかの目的を持って、怪人に怪我を負わせるだけなら、必要な力さえあれば可能。
さらに、その力を有する個人は何者かを考えると、犯人像はかなり絞られてきます。つまり―――
我々が廃業に追い込んだ元ヒーロー、もしくは組織に不満を抱いた怪人の犯行だと考えられないでしょうか」

幹部B「いや、怪人の可能性は0だ。データベースを精査しても……」
組織の怪人は漏れなく人事記録に記載されている。それは人事に問い合わせれば容易く参照できるのだ

怪人2「いえ、その思い込みを捨てて下さい。いかに組織のデータといっても、妄信は危険です。
例えば、届出の無い怪人が製作されていた、といったケースも在り得ない話ではないのですから」

幹部B「……そうか。あのチンピラ科学者共なら、その位の事はヤルかも知れんな」

怪人の管理は徹底されていても、製造元には大いに不安がある。悪の技術研究所は、本部も扱いに苦労している部署なのだ


214 :本部が強くて何が悪い [] :2010/03/15(月) 10:17:57.47 ID:qOJKBVBB0
〜翌日悪の組織事業部〜
22時前、出勤してきた女幹部が目にしたものは、見た事も無い悪者達の群れだった

事業部一階は筋肉モリモリマッチョマンの変態で埋め尽くされ、息もしたくない程暑苦しい
建物を間違えたかと思った。面食らった女幹部は、そのまま代表室に向かい、経緯を聞こうとしていた

代表「――どうなさいました?」

突然の来訪にも代表は動じない、もはや女幹部に脅威の目を向けることは無くなっていた

半年間観察し、また実際に接してみれば人となりも分かる。頭は悪くない様だが、警戒する程ではない

“敵に回すと恐ろしいが、味方に付けると頼りない”という風評以上のものは無い、そう評価は落ち着いた

しかし、それが女幹部に仕向けられた結論だと、代表には考え及びもしていなかった

見くびってくれるなら重畳。侮られることは、信用を得る為の近道にもなると女幹部は知っているのだ

女幹部「質問したいのは私の方です。何ですか、あの筋肉モリモ(ryは?一体何が始まるんです?」

代表「ああ、彼等は臨時に雇い入れた悪者です。本部と抗争するに当たっては、そういった戦力も必要になると思いましてね」

女幹部「……お言葉ですが代表、貴方は大変な考え違いをなさっています。
暴力で本部に対抗しようとお思いだとしたら、怪人というものの力を解っていない――」

確かに対決姿勢を煽ったのは自分だが、それがこの様な愚策に結び付くとは……。このままだと幹部Bの思う壺だ

女幹部「――数ばかりの兵隊など幾ら居ても、ただのカカシですな。怪人なら、瞬きする間に皆殺しに出来る。忘れないことだ」

女幹部は代表の判断に呆れかえっていた。わざわざ相手の土俵で勝負すること程、愚かな選択は無いというのに


215 :代表コマンドー外伝 すごいよ!!女幹部さん [] :2010/03/15(月) 10:25:12.85 ID:qOJKBVBB0
代表「女幹部君、君は私を脅しているのかね?」

女幹部「事実を言っているだけです」

そう答えてはみたものの、本部に対する代表の理解を改めさせるには、そういった方法もアリかも知れない

女幹部「――好いでしょう。この機会に、怪人という生物の力を御覧に入れます。
あの筋肉モ(ry達を全員どこか広い場所、そうですね……B-341の空き倉庫に集めて下さい」

代表「何をなさるおつもりですか?」

女幹部「彼等が必要な力を持っているか試してみましょう」

恐怖心を抱かせることは避けたかったが仕方ない。甘い認識を手っ取り早く叩き潰すには、多少の荒療治も良いだろう

――そして十数分後、悪の組織事業部の地下三階に、筋(ryの大勢押し込められた、漢臭い空間が出来上がった

数十人が入ってもまだ余裕のあるその場所は、50m四方程の部屋。元は道路に落とす軍手を貯蔵する倉庫の一つだったが、

不況で軍手落としの需要が減った為、多量の在庫を抱える必要もなくなり、現在は空きスペースとなっていた

悪者1「ヘイヘイ。女だ。悪かねえ」

悪者2「ん?何する気だ?」

悪者3「俺たちに何か見せてえんだろ」

悪者4「ストリップかな」

何の事情も知らされずに呼び集められた悪者達は、呑気に談笑している。その前に拡声器を持った女幹部は進み出た


216 :ストローと石鹸水 [] :2010/03/15(月) 10:30:30.21 ID:qOJKBVBB0
女幹部「あーあー、私は女幹部という者だ。君達は怪人と戦うために雇われた。しかし、知ってると思うが敵は強大だ。
そこで、君達の覚悟を見せてもらう為に、今から怪人を相手に面接試験を行う。何か質問があっても、黙っているように」

女幹部の宣言に、場内は一度静まり返った後にざわめき始めた。どの顔を見ても意欲で輝いている

彼等にしても、ここで上手くいけば業界最大手の悪の組織に就職できる。その千載一遇の機会を逃す気はない

女幹部「――さて」

拡声器を置いた女幹部は、胸元のボタンを外して手を差し入れ、覚醒機のボタンを押す。そして身体が変形を始めた

女幹部「よし、まずはお前からだな。私の前に一秒以上立っていられたら合格だ。えい!」

悪者1「え?」

女幹部に指名された次の瞬間、悪者1に与えられのは、実に配慮の行き届いた心優しい一撃だった

爪で引き裂かない様に、骨を砕かない様に、臓器を潰さない様に、命を奪わない様に

空中に漂うシャボン玉を壊さず掬う様に、女幹部は最大限の力加減をもって平手で肩をハタいた

悪者達・代表「「「!?」」」

部屋の中央付近から放物線を描いて、悪者は飛んだ、壁まで飛んだ。壁まで飛んで、血の滲みになった

女幹部「1人目、不合格」

怖気づいて腰の引けた悪者達へ、悠然と歩を進める女幹部。“まてまて逃げるな。シャボン玉飛ばそ”


217 :世紀末女幹部の完全金属上着 [] :2010/03/15(月) 10:36:10.06 ID:qOJKBVBB0
いいぞベイベー!逃げる奴は皆不合格だ!逃げない奴はよく訓練された不合格だ! ホント面接は地獄だぜ フハハハァー!

女幹部「――8人目、お前は既に死んでいる。―――どうですか?これが怪人です。お分かりいただけましたか?」

最後の一人、逃げ遅れた悪者を壁に張り付けた女幹部は、コンクリートにへたり込んで怯える代表を振り返って微笑んだ

惨劇の終わった倉庫には静寂が訪れる。女幹部が視線を送った遠くの壁には、八つの血痕が北斗七星の形に並んでいた

代表「……まさかここまでとは……人がゴミのようだ……」
               ・ ・ ・
女幹部「簡単さ、動きがのろいからな。私は既に第一線を退いた身ですが、能力の一端はお見せできたと思います」

代表「よく分かりました……」

女幹部は変身を解いて元に戻った。人間の姿の彼女と受け答えする中にも、代表は声の震えを止められない

目の前で繰り広げられた一方的な殺戮(死んでないけど)を通して、怪人の恐ろしさは骨身に染み渡った

そんな戦力を多数擁する本部と、武力で張り合う事は不可能、自身も怪人である女幹部はそれを教授したのだ

そして代表は同時に、今まで意識しなかった彼女の力も思い知らされた。限界を見切った筈の人間は大変な怪物だった

“敵に回すと恐ろしいが、味方に付けると頼りない”その言葉が今は、別の響きをもって呼び起こされる

女幹部「ですから、本部との諍いは私共に任せて、貴方は事業部の経営だけに神経を遣っていて下さい」

代表「……そうする事にしましょう」

もう女幹部には逆らえない。彼女は図らずも、予定とは違った形で、代表の魂を征服してしまったのだった


218 :狂戦士兄 [] :2010/03/15(月) 10:42:55.36 ID:qOJKBVBB0
〜数日後赤宅〜
赤「またお前か……」

疲れた身体で帰り、食事の支度を始めた赤の前に現れたのは、悪者風の衣服に身を包んだ、例によって兄だった

兄「また来るって言っただろ。この前は約束を取り付けるだけで、具体的な話は出来なかったからな」

赤「具体的な話も何も、お前の計画は無理だ。分かったらさっさと帰れ」

兄「まあそう言うな戦友。いいから早く鍵を開けてくれ、色レンジャー赤さんよ」

赤「その名で俺を呼ぶな……クソ」

色レンジャーは5人揃って初めて悪の組織と渡り合えていた。その中の一人だけで挑んでも、結果は見えている

そう諭して、家へ上がらせずに追い返そうとしたが、作戦は敢え無く失敗である。赤は強く出られる立場に無いのだ

赤「―――来るにしたって、事前に連絡ぐらいしてくれ。俺にだって都合がある。これから飯なんだよ」

赤は電気釜をセットし、鍋にイモを放り込んで、出汁の鍋と共に火にかけた。そして冷蔵庫を開けて食材を探る

兄「こう見えても俺は追われる身なんでね。行動を他人に知らせたくないのさ」

赤「追われてるんだったら、こんな所をほっつき歩いてないで、外国でも何処でも好きに逃げろ。そして二度と帰ってくるな」

ネギ、玉ネギ、生姜、小松菜、豚肉、魚、卵、豆腐などを取り出して、鍋の火加減を気にしながら調理に入る

兄「逃げ出した先に楽園なんてありゃしないのさ。辿り着いた先、そこにあるのはやっぱり戦場だけだ」

出汁を少々、別の鍋に移して―――。兄が何だか格好良い台詞を言っている間に、夕食の準備は着々と進む


219 :兄△ [] :2010/03/15(月) 10:47:37.03 ID:qOJKBVBB0
兄「――元ヒーロー様ともなれば、料理くらいは朝飯前、いや夕飯前か」

一人前の和食を手際よく作り、一人で食べ始めた赤。その一部始終を眺めていた兄が、感心した風に言う

赤「お前の分は無いぞ」

兄「いや、今日はいい」

赤「“今日”は?」

赤は顔を上げて聞き返す。兄の言葉の端に、何かよからぬコトを企てていそうな兆しを察したからだ

兄「ああ、明日からは二人前頼む。どうせ作るんだから、一人分も二人分も同じだろ?」

赤「……お前、ウチに泊まる気か?」

兄「もう荷物も送ったから、明日の朝には届くかな。部屋も空いてるし、別に良いだろ?」

赤「勘弁して下さい」

兄「まあまあ、二人のこれからについて、じっくり話し合おうじゃないか。掃除、洗濯ぐらいならやってやるぞ」

逃亡犯が、いつまでも実家で暮らすことは出来ない。そこで兄は、赤のアパートへ転がり込むことに決めた

面倒な手続きも足が付く恐れもなく、何処かへ移住しようと思うなら、安直な選択肢は誰か他人の家である

出来るだけ自分と接点の少ない相手が望ましいが、その点、数日前まで会った事もなかった赤は理想的と云える

法律も赤の心情もクソ喰らえだ。俺が嫌だと言っている。「兄がここに住む」理由がそれだけじゃ不十分なんだろうか?



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