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妹「お兄ちゃん……中に……!」
- 38 :お兄様がみてる []
:2010/03/14(日) 16:24:01.10 ID:vckn6hKp0
〜その晩悪の組織事業部1階オフィス〜
悪の女幹部「お早うお前ら」
22時、さわやかな夜の挨拶が、弛みきった室内にこだまする
兄の直属の上司である悪の女幹部が、今日も戦士のような無垢な笑顔で、立て付けの悪い扉をくぐり抜けてきた
12人が働くには窮屈すぎる部屋に並ぶのは、規格の揃わない事務机と端末、
色褪せ錆びの浮いた椅子に躓かぬように、床を這うケーブル類に足を取られないように歩くのがここでのたしなみ
もちろん、『情報工作組オフィス』などといった、オサレな呼び方をする者など存在していようはずもない
女幹部「よしよし、全員揃ってるな……ん?」
席に着いてフロアを見渡した女幹部は、隅のデスクで俯く兄に目を留める
女幹部「おい兄、ちょっと来い」
兄「はい……」
沈痛な面持ちの兄は、足取りも重く女幹部の元へ進み出た。内より発する負のオーラが凄まじい
女幹部「しばらくは変身して生活しろって言ったろ?どうした?」
兄「いえ、それが……」
女幹部「何か事情が有るのか?聞いてやるから私の部屋まで来い」
言い澱む兄、周囲の視線に気付いた女幹部は席を立った
- 39 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 16:28:50.81 ID:vckn6hKp0
〜女幹部個室〜
女幹部「――で、何があった?」
兄を招き入れて鍵を掛けると、女幹部は振り返って尋ねた。この兄が理由も無く命令に背くとは思えない
意外にも兄への上司の覚えは悪くなかった。期待以上の結果は出さないが、余計な真似をして失敗する事も無い
良くも悪くも忠実な兄は、ある意味計算できる扱いやすい部下なのだった
兄「その、兄スーツの試作品が壊れまして……申し訳ありませんg……」
女幹部「私に謝るな。それで、壊れたって、どう壊れたんだ?」
女幹部は椅子に凭れて脚を組んだ。そしてく顔を傾けて目で催促する
兄「……首から上が無くなりました」
女幹部の前に直立した兄は諦観の中、ありのままの結果だけを報告する
世の中には隠そうとするだけ無駄という様な、どうしようもない失態も確実に存在するのだ。つまりは、とどのつまりは今回の様な
物事を自在に諦められるのは彼の取り柄である。その対象は森羅万象、性質を選ばない
その彩りの無い生活が崩れる時が来るまで、多くの物を諦め続けることだろう
女幹部「マズイな……」
兄の返答に女幹部の顔付きは険しくなった。預かり物の試作品である。少々厄介な展開になるかも知れない
- 40 :ホーリー悪の組織 [] :2010/03/14(日) 16:34:21.77 ID:vckn6hKp0
女幹部「それはともかく、早く変身しな。体が定着しない内に解除したら、どんな影響が出るか判らないんだよ?」
兄「はい……」
女幹部の指示に兄は後頭部に手を回して覚醒機のスイッチを押す。そして体が変形を始めた
少なからず憧れていた怪人としての肉体……
しかしそれは初めてつけたグローブの様な違和感が兄にはあった
発注する資材の桁を間違えた者が、その責任を問われて生体改造の実験台になる……
時々耳にする話だが痛ましい事だと思う。しかし素直にその境遇を受け入れるには
怪人としての生活を楽しむことが出来る 前向きで健全な明るい心が少なからず必要だ
戦う為の力は事務員には要らない
悲しいことだが彼らは本部の戦闘部門でしか見ることは出来ない
そうならない為にはいい上司が不可欠だろう
- 41 :いけないお兄さん [] :2010/03/14(日) 16:38:42.31 ID:vckn6hKp0
女幹部「――うん、やっぱりそっちの方が可愛いな」
女幹部は変身を終えた兄を眺めて勝手な感想を述べる
兄「いえ、でも……」
女幹部「似合ってるんだし、良いだろ」
兄「あまり見ないで下さい」
恥じらう兄に女幹部は下卑た笑みを浮かべ、何事か思いついた様に口を開く
女幹部「兄 おっぱい見せろ!!」
兄「えっ?」
女幹部「おっぱいだよ 早く!!」
兄「は はい……」
上司の命に二つ返事で答えることは義務である。しかし、男子としての譲れない一線が兄を逡巡させる
兄「お……女幹部さん やっぱりやめましょう こんなこと……ね」
女幹部「ダメだ!! だったら壊した試作品直して使える様にしてくれよ 試・作・品!! 試・作・品!!」
女幹部のパワハラ兼セクハラに言われるままシャツをたくし上げた兄の胸には乳
兄はその身を“次世代怪人・ガール男”として改造されているのだった
- 42 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 16:42:56.55 ID:vckn6hKp0
女幹部「いや、冗談だ。本当に見せなくて良いから」
兄「そうですか」
女幹部の言葉を受けた兄は身なりを整えた。就業時間内の上司の命令だから従っただけ、他に理由は無い
仕事だと思えば大抵の事は我慢できるのだ。兄は平穏を求める。波風の立たない日常を望む
女幹部「しかしお前、もうちょっと抵抗しないとつまらんぞ。嫌がる女子を無理やり、ってのが悪の美学だろうが」
呆れた様な目で流し見る女幹部は、溜息混じりに兄の反応へ注文をつけた
兄「そうですか」
兄は興味なさげに喉元を掻いて視線を逸らす。事実、女幹部の特殊な嗜好などには何の関心も無い
女幹部「……もう良い、下がれ。研究所には私の方から連絡しておく」
兄「変身は解いて構いませんか?職場の連中に、この姿を見られたくないんですが」
女幹部「ま、好いだろう。―――確か一週間は経ってた筈だな……」
改造手術の後は体を順応させる為に、一定期間怪人化して過ごす必要がある。その目安は一週間前後だという
兄「ええ、では解除します」
後頭部のスイッチを押す兄。10秒足らずで身体は元のヒトの形に戻った
- 43 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 16:44:00.88 ID:CSo0yNcNP
わっふるわっふる
- 44 :卒の異名を持ち人心を自在に操る高貴なる女幹部 [] :2010/03/14(日) 16:47:42.13 ID:vckn6hKp0
〜悪の組織事業部一階オフィス〜
兄「女幹部さんと二人っきりだと疲れる……」
オフィスへ戻った兄はデスクに突っ伏して溜息、女幹部には逆らえない
兄に限った話ではない、女幹部に面と向かって異を唱えられる者は組織全体でも少ないのだ
それは女幹部自身が意図的に作り上げた仮構のイメージに起因する
彼女は知略と謀略を頼りにのし上がった、情報戦の専門家である(情報工作検定2級所持)
火のない所に煙を立て、埃をまぶして袋叩き。表から裏から悪意を撃ち込み、自らの手を汚す事も厭わない
宿敵だった『色彩戦隊色レンジャー』を社会的、精神的に追い詰めて解散させたのは女幹部の部署である
その功績を買われて幹部に抜擢された訳だが、陰湿かつ執拗なその手口は、組織の悪者共をも震え上がらせるものだった
そして必要以上の脅威を伴って伝わった名声を、新興勢力である彼女が部署の権利確保の為に利用したのは当然と云える
表に出ることなく色レンジャーを倒した部署、その印象を操作するのは難しくなかった。何しろ誰も実像を知らないのだ
“敵に回すと恐ろしいが、味方に付けると頼りない”口々に囁かれたその風説を、本部の誰もが信じ込んだ
力を持たない女幹部は自ら毒をまとい、自身を不可侵の腫れ物に仕立て上げることで、手っ取り早く外部からの影響を阻んだのである
そんな訳で女幹部と愉快な仲間達は、組織の中で嫌悪の対象としての地位を確かなモノにしているのだった
- 45 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 16:49:27.06 ID:vckn6hKp0
×卒の
○高卒の
- 46 :額には米 [] :2010/03/14(日) 16:53:05.73 ID:vckn6hKp0
同僚A「ほゎたぁあ!」
倒れたまま一向に生き返る気配の無い兄、その両頬を向かいの同僚Aがつねり上げ、たてたてよこよこまるかいてちょん
兄「うぐ……この技は『ブルドック』!?貴様、子供拳法の使い手か!」
同僚A「知っているのかテリーマン!?」
兄「ああ、俺も少しは腕に覚えがある。その昔、幼き頃、俺が一人で編み出した技は―――」
同僚A「ところでお前、また女幹部さんに呼び出されてたけど、何やったんだ?」
この同僚Aは女幹部の部下として兄と並ぶ最古参であり、部署内では実質的なbQの座にあった
無神経で融通の利かない兄とは違い、細やかな気配りの出来るナイス☆ガイである
兄「ん〜、ちょっとな……」
悩みを内に抱え込む兄は、比較的話すことの多いこの男にも、自分の体の事を打ち明けてはいなかった
同僚A「まあ、別に好いけどな。忙しくもねーし」
作業に目を戻した同僚A、それを生暖かい目で見守る兄。昇進も何も無い無気力な職場、だがそれがいい
兄が女幹部の下で働く期間は数年に及ぶ。そこまで長続きするとは自分でも思っていなかった
しかし、それは自然な成り行きである。不精の神に祝福され、妥協の女神に愛された自堕落の申し子は変化を望まない
故に、一旦従うべき現実さえ規定すれば、その状況に身を任せるは苦にならないのだ
自宅警備員の職を辞して悪の組織に入ったという事実、その前提さえ在れば些かの抵抗もなく日常は流れてゆくのだった
女幹部「おい兄、行くぞ」
オフィスの入り口に手を掛け、身を乗り出した女幹部が兄を呼ぶ。落ち込んだりもしたけれど、兄は元気です
- 47 :VIPがお送りします [sage] :2010/03/14(日) 16:53:12.25 ID:CSo0yNcNP
ネットのネガキャンがお仕事か
- 49 :傀儡兄 [] :2010/03/14(日) 16:57:10.99 ID:vckn6hKp0
〜兄妹宅〜
父「そういえば、今日の分の爆発は済んだのか?」
台所で風呂上りの牛乳を飲み干した妹に居間の父が尋ねた。あまり夜遅くに爆発されても困るのだ
妹「うん、今日はもう大丈夫」
答えた妹は冷蔵庫を閉める。小規模ではあるが、夕方に一度済ませているので心配は要らないだろう
父「そうか」
満足な回答を得た父は逸早くテレビに興味を戻していた。それを見た妹は居間を抜けて階段へ向かう
子供に干渉することの少ない親の姿勢は、今の妹にとっては都合の良いものだ
妹「……」
自室へ戻って布団を敷いた妹は今日の出来事を振り返る
実に有意義な一日だった。兄に危険のない事を確認できたのは大きい。いや、それどころか―――
妹「そっか……私、お兄ちゃんの弱味を知っちゃったんだ……」
その事に思い至った妹の口元が歪んだ。妹は小娘ではない、もっとおぞましい何かだ
- 50 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 17:01:24.13 ID:vckn6hKp0
〜悪の組織事業部前道路〜
地響きを立てて道路が割れ、通路が出現する。地下駐車場より夜の街に向けて、乗用車・発進
運転するのは兄、後部座席には女幹部、行き先は悪の組織本部である
兄「――で、行ってどうするんですか?」
女幹部「わからん。とにかく現物を持って来い、と」
兄「そうですか」
実用化試験中の兄スーツを損壊させた兄は、本部の研究所から呼び出しを受けていた
女幹部「ま、向こうには多少の恩も売ってあるし、何とかなるだろ」
兄「そうですか」
沈黙、しかし不快な空気ではない。黒の世界をライトが拓く。さして遠くもない目的地へ法定速度で車は走る
改造手術を施されてから、悪の技術研究所は兄にとって馴染みの深い場所になった
術後の経過を観察して記録を取るため、週に数回そこへ足を運んでいる
その為にしばしば職場を空けざるを得ないのだったが、同僚達は別に嫌な顔をしない
女幹部の指示だから、というのもあるが、一番の理由は仕事が少ないことだ
半年前に本部から移籍して以降、兄の属する情報工作組は事業部内で役割を定められずにいた
- 51 :グレイトフル女幹部 [] :2010/03/14(日) 17:05:20.88 ID:vckn6hKp0
〜悪の組織本部〜
事業部から車で1時間ほどの距離に本部は在った。主な施設は地下にある為、外見は5階建てのただのビルである
若干問題のある立地、周りには林、山、畑。夜も明かりが絶えない建造物は、家もまばらな郊外の景観にそぐわない
女幹部「情報工作部署責任者、女幹部だ。研究所に用がある」
受付にそう告げると、女幹部は返答を待たずに広間へ靴音を響かせた。研究所の場所は尋ねるまでも無い
兄「――しかし、ここで仕事してた頃は大変でしたね」
女幹部「そうだな……」
エレベーターで二人きり、兄がふと零した言葉に、女幹部はそう遠くない過去を思い出す
今想う戦いの日々、次から次へ投げ掛けた指示。しのぎを削ったあの情報戦、今なお続くここは最前線
策士としての揺るぎない誇り。知略、謀略、奸計を謀り、そして手にした幹部の肩書き。明日への糧に、生き抜く為に
兄「また、本部に戻ってくる日が来るんでしょうか……」
女幹部「そうだな……」
女幹部は力ない笑みを返した。過去は過去、自らの力だけではどうにもならない現実もあるのだ
- 52 :地震キタ━(゚∀゚)━!!!!! [] :2010/03/14(日) 17:10:36.01 ID:vckn6hKp0
悪の組織本部の戦闘部門と情報工作組、その二つは光と影の関係にあった
光であるところの戦闘部門が表立って作戦を展開し、女幹部率いる情報工作組が影から影へ暗躍する
そうして正義のヒーロー『色彩戦隊色レンジャー』と渡り合っていた
“光あるところに影あり”という言葉があるが、見方を変えれば“影あるところに光あり”とも言える
光は独立して存在できるが、影は光無しに影として存在できない。光が無ければ、それはただの闇である
もう一つ影の成立条件として必要なのは光を遮る障害物だ。戦闘部門にとっての障害物とは正義の味方に他ならない
戦闘部門とヒーロー、その争いの間に生ずる影こそが情報工作組の仕事場だった
そして女幹部は、権謀術数の限りを尽くして『色彩戦隊色レンジャー』を廃業に追い込んだ
しかし、作戦の成功は、かえって女幹部達の立場を危うくさせるものだった
ヒーローを倒すためだけに設立された部署は、打ち倒すべき敵と同時に、その存在意義をも失ってしまったのだ
目的を失くした部署、宙に浮いた戦力、無駄な物だ。しかし、一度出来上がった体制を解体するのも不合理
そこで幹部会は新たな敵が現れるまで、情報工作組の体制を維持したまま事業部に出向させる決定をした
それは忌み嫌われ、疎ましく思う者も多い女幹部への、厄介払いの意味も含めた措置である
かくして現在、彼女と部下は事業部で、他部署の浮いた仕事、雑多な事務等をこなして過ごしているのだった
- 54 :兄はうろたえない [] :2010/03/14(日) 17:14:40.67 ID:vckn6hKp0
〜悪の組織本部悪の技術研究所〜
悪の組織悪の技術研究所の一室、剥き出しのコンクリート、低い天井、薬品の臭い、全てが兄の気分を沈ませる
点滅する蛍光灯は几帳面な兄の神経に障るが、目の前の無愛想なオッサンはそれを気にも留めない
愛想が無いのは兄も同じこと。従って、この二人の遣り取りは至極淡白なものになる。その方が互いに気が楽なのだ
悪の研究員「……そうか」
兄から事情を聞いた悪の研究所悪の研究員は、渡された試作品を無造作に部屋の隅に放った
兄「そちらは、もう良いんですか?」
研究員「ああ、改良型が完成したんでな。ソイツは用済みだ」
研究員は棚を探り、何やら取り出して兄に投げ渡す。兄の受け取ったそれは新たな兄スーツだった
兄「しかし、もうコレは必要ないのでは?」
首を捻る兄。兄スーツは怪人化した体を隠して日常生活を営む為の製品である
怪人化手術の順応期間が終わった今、改良型を貰っても役に立たない
研究員「作っちまったモンは仕方ないだろ。持って帰れ」
兄「はあ……」
組織の科学は世界一。兄の体を基準に兄スーツは作られているのだ
- 55 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 17:18:11.09 ID:vckn6hKp0
〜悪の組織本部一階待合室〜
女幹部「終わったか。で、どうだった?」
待合室に現れた兄を確かめた女幹部は本を閉じて立ち上がる
兄「ええ、特に問題は無かった様です。それで、コレ渡されたんですが」
兄スーツ(新)の処遇をどうしたものか。人から頂ける物を受け取らないのは失礼に当たる
ところが、頂戴した物に使い道が無いのだから始末に負えない。精々ロッカーの肥やしが良い処だろう
女幹部「……お前が貰ったんだろ?取り敢えず持っておけ」
兄「はい……申しわk……」
女幹部「私に謝るな。さ、帰るぞ」
女幹部は兄の憂いなど意に介さずに、脇を抜けて部屋を出る。仕方なく兄はそれに続いた
- 56 :休憩がてら、よくわかる悪の組織相関図 [] :2010/03/14(日) 17:21:00.44 ID:vckn6hKp0
悪の ヽ 丶 \
組織 \ ヽ ヽ ヽ
/ / ヽ \ ヽ ヽ
/ | ヽ \ \ ヽ ゝ (戦闘員)
ノ 丿 \ 省 \ ヾ
ノ | | 丶 \ \ (戦闘員)
/ \ \/| (戦闘員)
ノ | | \ 略 | ↑
/\ \ | ( ↑
/ \ / | ) (
/ \  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ( )
/_ \ ) ( 悪の技術研究所
 ̄ | な 本 事| ̄ ノ⌒ ̄⌒γ⌒ ̄⌒ゝ / /
| い 部 業| ノ 怪 人 . ゝ / /
| で の 部| 丿 ゞ _/ ∠
| ね 事 に| 丿/|/|/|/|\|\|\|\|\ゝ .\ /
| ! を 移| │ V
――| と 忘 っ|――――――――――┼―――――――――――――――――
/ い れ てヽ 巛巛巛巛巛巛巛巛 人巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛 世界征服
う も
気
持
ち
- 57 :VIPがお送りします [sage] :2010/03/14(日) 17:25:07.20 ID:LjNEqBPk0
なんという循環型社会
- 58 :愛などいらぬ幹部B [] :2010/03/14(日) 17:29:26.59 ID:vckn6hKp0
〜翌日悪の組織本部三階悪の幹部B個室〜
午前11時、悪の組織本部三階の一番奥に位置する幹部個室で、悪の幹部Bは部下の怪人から調査報告を受けていた
部B「幹部Aと幹部Cが同盟を組んだか……」
怪人「はい、よく分かりませんが、かなり確かな情報のようです」
怪人は顔を上げて幹部Bを盗み見る。やや不機嫌そうな声とは裏腹に、その表情は落ち着きを保っている様に見受けられた
幹部B「まあ良い。何にせよ敵に回るなら受けて立つだけだ」
闘争を常とする悪の組織本部に平和は無い。正義の味方を打ち負かした現在、幹部たちは勢力争いに精を出しているのである
その中でもとりわけ血の気が多いのが幹部B、退かぬ、媚びぬ、顧みぬ。口で説明するくらいなら牙を剥く悪の紳士であった
怪人「ですが、あの二人を同時に相手にするのは考えた方がよろしいかと」
本部には力の拮抗する幹部が三名、うち二人を向こうに回すのは賢明とは言えない。無駄だと知りつつも怪人は幹部Bを諌める
幹部B「別に今すぐ戦争を始めようってワケじゃないんだ。ま、どうとでも出来るさ」
怪人「そうですか……」
不敵な言葉に引き下がる怪人。幹部Bは何を考えているのか考えていないのか解らないが、それでも信じる価値はあると思う
あらゆる物を踏み台にし、如何なる手段も厭わない幹部Bは清々しいまでに悪だった。それは幹部AやCには無い資質である
そんな訳で、脳の筋肉が他の幹部より柔軟な悪の紳士は、一部の部下達から半ば妄信的ともいえる支持を得ているのだった
- 59 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 17:33:15.02 ID:vckn6hKp0
怪人「――それと、女幹部が昨夜本部を訪れた模様です」
幹部B「女幹部が?何の用だ?」
怪人の報告は続く。頬杖をついて聞いていた幹部Bは、その中に出た意外な名前に視線を上げた
怪人「はい、目的は判りませんが、悪の技術研究所に向ったそうです」
幹部B「研究所、ふむ……」
少し状況を整理する幹部B。悪の技術研究所は本部の中にあって、幹部たちの意思も及ばない独立した部署である
世界征服という大きな目標を前に、ある種の行き詰まりを感じる悪の組織で、今現在最も精力的に活動しているのは彼らだった
その活動資金を賄っているのは悪の組織事業部、事業部に勤務する女幹部が研究所を訪れたのには、どういう意味があるのか
幹部B「――面白いな」
怪人「?」
しばらく考え込んでいた幹部Bが、何かを思いついた様子で呟くが、怪人にはその言葉の意図が読み取れない
幹部B「いや、面白いよ。女幹部が研究所に何らかのパイプを持ってるとして、アイツを取り込めばそれが丸ごと手に入るって訳だろ?」
研究所との関係が何であれ、女幹部を味方に引き入れれば情勢は動く。そして幹部Bにはそれが出来る自信があるのだ
- 60 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 17:37:32.70 ID:vckn6hKp0
怪人「ですが女幹部は……」
怪人は幹部Bの考え通りに運ぶとは思わない。本部中から疎まれた挙句、事業部に飛ばされた女幹部が何の役に立つのか
幹部B「アイツは使えるよ。AやCは女幹部の使い方を知らずに、感情で反発してるだけだ」
怪人「幹部B様は違うと?」
訝しむ怪人。そもそも幹部B自身からして、女幹部を排除しようとした幹部Aや幹部Cに同調していた筈なのである
幹部B「俺はアイツの価値を知ってる。ただ、あの頃のアイツは劇的すぎた。あの辺りで勢いを殺いでおく必要があったんだ」
怪人「はあ……」
口元を歪ませる幹部Bは元々、女幹部とは上司と部下の関係にあった。それだけに実像を知っているという自負がある
女幹部の抜擢を後押ししてやった経緯もある。もっとも、その後に彼女を追放するため、他の幹部に力を貸したのは事実だが、
その件に関して悪の紳士の姿勢は一貫している。女幹部が力を伸ばして良いのは自分の支配が及ぶ範囲であり、
それ以上立場を強められると都合が悪いのだ。何もわざわざ脅威を増やすために女幹部を育てた訳ではない
幹部B「そろそろ頭も冷めた頃だろう。折を見て誘いをかけてやるさ。損得の計算も出来ないほどアイツは阿呆じゃないよ」
怪人「まあ、そういう事でしたらご随意に」
怪人にしても女幹部は元同僚、知らない仲ではない。幹部Bの言う通りであるなら従ってみるのも好いだろう
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