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意地悪なメイド4
- 581 名前:【いじメイ オルタネイティブ】 []
投稿日:2011/06/23(木) 00:27:34.52 ID:ttc7hzys0
前回までのあらすじ。
原因不明の世界移動。これによって主様こと、男は平行世界へと飛ばされた。
そこで待っていたのはBETAと呼ばれる地球外生命体と、人類の生存を賭けた戦争だった。
一度、いや数度の人類の敗北を“経験”し、それを“引き継いだ”状態の彼。
それが現状の男の状態。
彼を利用する本来の肉親。妹嬢。
彼女は彼を理解し、重要なポジションから彼を時に利用し、時にサポートする。
次などないかもしれない。そんな不安の中、経験を元に必死に世界を変えようとする男。
肉体、精神、経験。どれもが引き継いだ状態であり、世界の出来事すら知る彼によって、徐々に世界は変わりつつあった。
前倒しにされる衛士への登用。それにより戦術機と呼ばれる人型の汎用兵器、いわばロボットの操者となる。
めきめきとその実力をチームに見せ、さらに自身の理論を他者へフィードバックすることで人類全体のレベルアップを図る。
同時に、世界を変える根本的な作戦。オルタネイティブW。
そのコアとなる「00ユニット」の完成が望まれる。
その理論の完成は、本来ならばありえなかったものだったが、男の本来の世界では解があると記憶の隅から声がする。
無茶苦茶な話だが、それを信じた妹嬢により元の世界へと干渉を始める男。
果たして、試みはうまくいくのか。
そして、人類はBETAの脅威に勝てるのか……。
「絶対に、勝つんだ。もう、オルタネイティブXは……人類の敗北は見たくねぇ」
これは、あいとゆうきのおとぎばなし。その、リフレイン。
第26話 「再開/再会」
気がつけば平和な町並み。
そこにある、日常。当たり前のように並ぶ町並み。
空気が、匂いが、違う。
帰ってきた。そう、思える。
空を見上げ、傾いた太陽の位置から今が16時を過ぎたあたりだと予測をつける。
「……まるっきり、帰ってこれた訳じゃねぇか」
そんな一学生とはかけ離れた当たり前。それが今の彼をかたどるもの。
故に、ここが故郷だと感じる反面、どこか懐かしさが先行する。
ここは、今は自分のなじみの場所ではないのだ。
「いけね。あんまり時間もないんだっけか」
確か、こちらの世界に滞在できる時間は少ないはず。
この時期ならば、妹に連絡することはそう難しいはずではない。
二年と三年の間。あの頃は彼女とは顔見知り以上、敵対未満だったはずだ。
だから、今頃はうちにおしかけて三人で、何てことがよくあった。
「急がないとな」
駆け足で斜面を下り、我が家を目指す。
どことなく、感覚としては帰宅とは違った趣に、寂しさを感じながら。
- 582 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/23(木) 00:28:08.03 ID:ttc7hzys0
「で、来たはいいが……」
ここにきて連絡手段がないことに気づく。
何たる無様。アホか、俺は。
携帯に類するような機器はないし、公衆電話からかけようにもあいつの番号なんざ暗記していない。
かと言って当然のようにあがりこみ、万が一、こちらの自分にでも鉢合わせようものなら……。
「極力干渉はするな、か。あいつが言うんだ。深い意味があってのことだろう」
とにかく、まだあいつが到着していないことを祈り、周辺で待機するしかない。
時間が本格的に差し迫れば別の手段を考える。これでいこう。
15分、きっかりそれだけを使うと決め、彼はふっと気配を殺す。
そうしてみれば意外なほど、この街は静かだ。
そんな中、響くのは我が家からのうるさい声。
「――!!」
「〜〜!!」
その声の片割れ。懐かしく、甘い響き。
あんな馬鹿相手でも、会えなかった時間が主観で何年もあり、胸が締め付けられる。
が、今はその気持ちを抑える。
帰るのは、あっちの世界を救ってからでも、遅くはない。
重く、血を飲み下すように決意し、再び周囲に気を配る。
「……兄さん?」
瞬間、後ろから声をかけられた。
おいおい。一応これでも本物の軍隊で主観で言えば数年以上鍛えたはず。
それをあっさり無視してくるあたり、こいつがいかに化け物だったのか今なら分かる。
「あ、ああ。久しぶり」
「あの、久方ぶりと申されましても昨日もお会いしたばかりで……」
そんな調子で語り始めた妹嬢が、一瞬にして表情を殺す。
「何者ですか、貴方」
「返答次第では、あまりよい結果を得られない事にご留意ください」
首元に当てられた刃物。そういやもっと化け物な人がこいつには付き添ってたっけ。
「待て、待ってくれ。話がしたいんだ。出来ればここじゃない、誰にも邪魔されない場所で」
「……」
信用はしていないだろうその表情が、解答を保留する。
だから、畳み掛ける。
「信じてくれ! 少なくとも、俺は俺だ。偽者だとか、悪意があるとかそういうんじゃない。なぁ、頼むよ」
真っ直ぐ目を見つめ、言葉を紡ぐ。
やがて、俺の首元から凶器が外れ、彼女が背を向けた。
「付いてきてください。なるべく人払いをしたほうがよろしいのですよね」
「……ああ、頼む」
こうして、俺は目的の人物と接触することができた。
- 583 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/23(木) 00:29:24.14 ID:ttc7hzys0
「……これ、は。いえ、そんな。しかし……」
これを渡せば分かる。そう言われてあちらの妹嬢に預かった物を手渡した。
渡せば分かる、とだけは言われているがもしそうじゃなかったらどうすればいいのだろうか。
いまさらながらそんな疑問を抱いている自分のダメさに呆れながら、返答を待つ。
「っ! 兄さん! ……なの、ですよね?」
「ああ」
「とにかく早急に事実のみを述べてください。お願いします」
「おう。けどかなり無茶苦茶な話だから、信じられないかもしれないけど……」
「前置きは結構です。いいから話を始めてください、坊ちゃん」
「う……」
何も聞いてないふりをしながら大事なところだけツッコミが飛んでくる。
あっちでもこっちでも、やっぱりこの人は苦手だ。
そんな彼女と、困惑気味の妹に見つめられながら、俺はここまでの出来事を語った。
「って、感じで。……やっぱ信じられない、よな?」
語ること十数分。色々と抜け落ちてる部分はあるが、概要は話した。
何より新理論の数式が、「00ユニット」の完成が必要であることは伝えられたはずだ。
「因果律量子論……」
そんな呟きが漏れたのは意外にもメイド長さんからだった。
「やはり、お嬢様の理論は間違っておられませんでしたか」
どことなく、うちの馬鹿妹よりも嬉しそうな表情がした気がしたのは気のせいか。
ただ、そんな雰囲気を打ち消すように無表情な妹嬢。彼女はしばらく無言のままとなったが、やがて口を開く。
「分かりました。新理論の数式、並びに補足となりえる数式の準備は行いましょう」
「あ、ありがとう! 助かる!!」
その言葉は何よりの収穫だ。これで向こうの世界がまた勝利へ一歩近づいたのだ。
「それで、兄さん……いえ。男さん、後どれくらい、こちらに?」
「たぶん、一時間くらいじゃないかな。ちょっとうろ覚えだけど」
「でしょうね。複数の世界に同時に干渉するなど、何が起こるか未知数ですし……」
どことなく他人行儀な彼女に違和感を覚えながら、話を続ける。
「しかし、確かにどことなく今の貧弱な坊ちゃんとは違い、たくましくなられて」
先ほどの拘束時も、体つきがなどと感心しているメイド長さんはさておくとして。
「……同情しますよ」
そう呟いた妹の表情は寂しげで、
「本来はこちらの人間のはずなのに、今やお客様。あちらに戻るにはこちらに思いを持ちすぎてはいけない、ですか」
それ以上の言葉は噤んでくれたが、実際にそれは俺も感じている部分だ。
だからといって、そのまま全てを忘れるなんて出来ない。
俺にとって、あっちも本当の世界だから。
そんな意思が視線から伝わってしまったのか、彼女はため息をひとつつき、助言を与える。
「ならば、強い意志を持ち、事に当たってください。望むものを勝ち取るために、全力を尽くしてください」
それは、世界の残酷さを彼女なりに伝えたかったのだろう。
時間をも、世界の断りをも越えた……いや、外れてしまったからこその不遇さ。
だからこそ、強く意思を持てと。必ず帰ると近い、行動しろと。
彼女はそう伝えたのだ。
- 584 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/23(木) 00:32:44.23 ID:ttc7hzys0
「では三日後には資料をまとめておきましょう。媒体は……そうですね、紙ベースにしましょう。世界間で端末に差異がある可能性は大いにありますので」
「分かった。よろしく頼む」
そうして、俺は新たな希望の種を得ることに成功した。
芽吹きはまだ先。けれど、必ず実る。実らせてみせる。
そう密かに誓った俺に、彼女はもうひとつ、プレゼントを残した。
「……では、男さん。今から私は兄さんを呼び出しますので、少しの間ですがお邪魔虫の相手をお願いできますか?」
「うー、寒。お、主様?」
「よお。久しぶり」
「あ? 何言ってんだこいつ、数分前に出てったくせに。頭の螺子どっかいってんですか」
家の前。待ってるだけでいいと言われたが本当に出てきやがった。
目の前にこいつがいる。それだけで、不意に涙が出そうになった。
「……主様?」
「ん? なんだよ」
「いや、えっと。……なんか、んー……何だ」
「知るかよ」
苦笑しながら、いつもやってたように軽くデコピンを食らわせる。
「あだぁ!? な、なななな、何すんすか!!」
「あ? たかがデコピンくらいでギャーギャーさわぐなよ」
「たかがデコピンはこんなベシ! とかベキ! みたいな音しねぇし! くそ、反撃のぉぉ……セカンドブリットぉ!」
「セカンドはダメフラグだぞ?」
「な、きいてない!? って、かたっ! 何すかこの腹筋6パック! ビリー隊長も真っ青じゃないっすか!!」
「お前が貧弱すぎるだけだっての、ばーか」
「何すか何すか主様のくせにぃ! むきー!!」
ははは。ダメだ。
これ以上いたら、俺、戻れない。
「……なぁ、メイド」
「はい?」
「ちょっと出かけてくるわ。必ず戻る」
「いや、さっきもそう言って出てったような……まぁいいけど」
「んじゃ、な」
それ以上はダメだった。声すら出せない。
出せば、こいつへの想いがあふれそうだったから。
そうして後にしたその場、あとは記憶になんて残ってない。
ぶらぶらと町を見て、空を見上げ、そうして世界が歪むのを待った。
誰もいなくなったその道。
家の前だというのに、彼女は何か、どうしようもなく長い道のりへ彼を送り出したような感覚があった。
「主様……早く帰ってきてくださいよ?」
それは誰に聞こえるでもなく、その場に残り、消えていった。
- 597 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:15:07.45 ID:/l7CpuE60
第27話 「イド/私」
「うまくいったようですね」
そんな言葉に振り返れば、物々しい機器の類が並んだ部屋。
見慣れた世界。
「ああ、ちゃんと必要なものは三日後に……」
言いかけた視線の先、ふらりと倒れるイドの姿が見える。
「お、おい! 大丈夫か!」
「前回まで数十秒だったものが今回は数時間、なるほど。さすがと言ったところでしょうか」
「何ぶつぶつやってんだよ! 前もそうだったけど、何でイドがこんな風になってんだ!」
「それで、向こうの私はどのような段取りを?」
「おい!!」
俺の言葉をモノともせず、さっさと自身の用件を推し進めていくこいつに腹が立つ。
確かに世界を救う重要なキーを手に入れてきたんだ。そっちが気になるのはわかるけど……!
「……。そちらのソファに寝かせてください」
諦めたように嘆息しながら、備え付けのそれを指す。
決して寝心地は良くないだろうが、背に腹は変えられない。
抱き上げた小さな身体は驚くほどぐったりしており、顔色蒼白。
まさか息をしてないなんてことは……。
「何で。何で実験のたびにこいつがこんなにボロボロになってんだよ」
「……。まだ理論の回収が終わっていない段階ですが。ええ、そろそろ彼女の力を話す必要があるでしょうね」
「イドの、力?」
「はい。彼女の力はこのオルタネイティヴW完遂に必要不可欠なんです」
そんな重圧がこの小さな肩にかかっているってのか。
いまだ浅い呼吸を繰り返すその姿を見るだけしか出来ない無力さをかみ締めながら、妹の話を聞く。
「そもそも、オルタネイティヴ計画とはBETAとのコミュニケーションを模索するというものでした」
オルタネイティブ計画。その発端は太陽系外から飛来したと思われる惑星間航行技術すら持つ知的生命体との和解、交渉にあった。
それほどの科学力を有する生命体にコミュニケーションをとり、その意思、真意を確かめようとすることは当然の帰結だった。
しかし、作戦は失敗。彼ら――便宜上そう呼ぶ――がそもそも言語を有するのか、それすらもわからぬままに調査は暗礁に乗り上げた。
それを受けて、オルタネイティヴ計画は2へと移行。彼らを捕獲し、その生態を研究・解明することで直接のコミュニケーションを図ろうとするものだった。
この研究のために捕獲されたBETAに対してありとあらゆる方法、思いつく限りの研究がなされた。
だが、結果として分かったことは有り得ないという結果。
彼らは月や火星などでも観測されるほどの適応能力を有しながら、種としての同定するための特徴すら発見できず、
各個体には消化器官や生殖器にあたるものも確認できなかった。
そんなデタラメな数種類の生物が高度な科学技術を持って地球圏に飛来した。
その恐々たる事実のみが明かされたのだ。
そう、天文学的な予算とサンプル確保のために払われた膨大な犠牲によって得られたのは……
- 598 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:15:43.36 ID:/l7CpuE60
「彼らが炭素生命体であるという事実のみ、でした」
そこで一区切りをいれ、不味そうに自身で用意した珈琲を煽る。
顔をしかめたのは味のせいか。それとも自身が口にする人類の危機を思ってか。
「それから計画は第三段階へ移行。我々が向かった先は科学すら越えたものに縋ることでした」
視線の先、少しずつ穏やかになる寝息を立てるイドがいる。
未だ渋面を保ったままのその様子に、俺の中で不安だけが膨らんでいく。
オルタネイティブ3の発端は、彼らが社会を形成し、群生し集団での活動をする以上、そこには思考や意思がある。
――はず、という半ばヤケクソな前提を元にして立てられたプランであった。
そう、オルタネイティブ3とは当時一部の超科学アカデミーを母体に開発された人口ESP発現体を用いた作戦。
BETAの思考をリーディングするというものだったのだ。
「え? じゃあ、心を読もうとしたのか。それってすごいことじゃねぇか。テレパシーとかそういうんだろ?」
「そこまで万能なものは存在しませんよ。漠然とした『画』であったり、『色』であったり。とにかくそんなレベルです」
元来、ソビエトの方面ではそれらの研究が進んでおり、同時にわが国でも一部の研究機関がそれに積極的にかかわっていた。
くだらない話ですが、とは言いながらも妹嬢が話すその口ぶりは、どこかその内情を知っているというもの。
……こいつも、もしかして。
そんな横道にそれた話を戻したのは、衝撃的な言葉。
「元来、発現性の高い個体を優先的に掛け合わせ、より遺伝子的にESP能力に特化した存在を生み出す。ええ、言葉の上では正しいでしょう」
そう話しながら、ますますその顔に浮かぶ苦悩の色は濃くなっていく。
「ですが、我々には時間も、倫理に訴えて足踏みをしている余裕もなかった」
「……おい、それって、まさか」
「ええ。彼女は……イドはそうやって生み出された命のひとつです」
頭を殴られたような衝撃だった。
「彼女は母親に抱かれたこともない。人口子宮の中で育った子供です」
そんな人体実験みたいな、人を人とも思わぬ所業が許されるのか。
反発しかける俺を、彼女は諌めるように視線を飛ばす。
それは、分かりきっていること。倫理も、正論も、人類の滅亡の前には何の意味もない。
俺は、そうした考えから切り捨てたものだって、あるんだ。
浮かぶのは天元山の噴火のこと。
直接助けることのできなかった人たちがいる。
それによって俺たちが足踏みをするわけにはいかないから、と。
だから、俺はこの話を聞いて、憤ることはあっても誰も責められやしないんだ。
- 599 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:16:12.45 ID:/l7CpuE60
「イドは計画末期に開発された『第六世代』と呼ばれる完成系に近い個体群ですが、その中でも特に優秀な発現性を誇りました」
平均を軽く凌駕し、ほぼ鮮明な『画』として捉えられたという。
だからこそ、俺の心の中に描かれた様々なことを彼女は知っていったのだろう。
――たとえば、『あいつ』の意地悪なんかを。
「ただこのリーディング能力には制限がありました。要約すれば読み取る対象には一定以内の距離内でしか発揮できないというものです」
それは、つまり。
「彼女のような大勢の発現体がハイヴ――やつらの巣の、その中枢に連れられました」
「じゃあ、イドも戦場に!?」
「いえ……幸か不幸か、彼女が実戦配備される前に計画は第四段階へ移行しました」
でなければ、生還率数%とのうちに入れていた保障はなかっただろうと淡々とこいつは語る。
「じゃあ、計画は失敗だったのか?」
「いえ。成功はしました。BETAにも思考があることが証明されました。ただ……」
唯一分かった事実は、やつらがこちらを、人間を生命体と認識していないということ。
そして、奴等にとって平和だとか和解といった概念は存在しないであろうということ。
どちらかが滅ぶまで、この戦いは終わらないという事実。それが結果として得られたものだ。
そしてここからだ。計画が第四段階――オルタネイティヴWへ移行した今、どうしてイドが必要不可欠なのか。
その答えをすぐにでも俺は知りたい。
この計画の要は「00ユニット」の完成にある。
彼女はそう切り出す。そして……
「それが全てです。以上」
「……は?」
「彼女の力については説明するつもりでしたが計画の全容を話すとは一言も申していませんが」
「おいおいおいおい!? 何だよそれ、いまさら出し惜しみかよ!」
「ここまでの情報もほとんどが極秘扱いなんですよ。進行中の計画の一端に触れられただけでも感謝してください」
んなこと納得できるか!?
ただでさえ、不安を煽られるような話を続けられたんだ。
ここで希望の答えを、理論の中身を教えてくれたっていいじゃないか。
「貴方は他人の心情よりも、自身の興味が優先なのですね。案外科学者向きではないでしょうか」
そんな憤りに冷や水をかぶせるように、こいつは言い放つ。
視線の先にはイド。
だが、関係ない。俺にとってはイドはイドだし、それ以上でもそれ以下でもない。
確かにまるで心を読んだかのような反応はあったし、実際に心の中を絵にしてくれたこともあった。
ただ、それだけのことだ。
「貴方が私に対して交渉を持ちかけた時。その発言の全てが絵空事ではないと、確証を与えてくれたのは彼女です」
それは……そうだったのか。
いきなり押しかけて、人類を救うだの、それが俺には出来るだの言い放ったっけ。
「私はあの時、貴方を信じたのではありません。イドの言うことを信じたのです」
あの時、こいつは確かに信じるに足る理由があるとは言った。
それが何かとまでは教えてくれなかったが、それがイドだったんだ。
俺がこうしていられるのも、世界の希望に携われているのも、イドのおかげ。
だが、俺はそれに対してどう向き合っているんだろうか。
確かにあいつはあいつだと言い切れる自信はある。けど、本当にそれはイドの望むものか?
無理矢理持たされた力を、その中身を知られるようなこと……。
あくまで当事者の一人として、妹は俺に対して情報をくれたに過ぎない。
決してイドが知られることを望んだわけじゃないんだ。
悩みの答えは見つからぬまま、彼女は話を続ける。
- 600 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:16:51.28 ID:/l7CpuE60
「計画についての全容はさておきましょう。今はイドの話です」
そんな前置きを持って、話は進む。
「彼女の力は一度捉えたイメージを保つことに優れています。けれど、そのイメージを保ち続けるには膨大な精神力を要します」
それは、俺がこの世界へ帰るための命綱。
「だから二人を一緒に生活させて、精神的な繋がりを強くしていたのです」
それで急に同棲生活か。理屈はわかったが、毎度のことながら急すぎるんだよ、やり方が。
「結果として、数十秒が数時間になった。劇的な変化です」
「けど、こいつの負担が軽くなってない。いや、大変になってるんだろ」
「だから何ですか?」
強い視線が俺を捉える。
「これは結果のみが求められるのです。イドに楽をさせて結果が出なければ何の意味もないんですよ」
- 601 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/06/28(火) 01:17:33.16 ID:/l7CpuE60
その通りだとは思う。
ただでさえ、俺達には時間がないんだ。けど、だからって。
「床を見てください」
床? 視線を落とせば一面に散らばるへたくそな絵。
「これ、全て貴方ですよ」
「俺?」
「これが彼女にとって一番効率のいいやり方なのでしょう。可愛いものです。EFP能力に秀でていても絵の才能はないようで」
た、確かに絵については非常にコメントしづらいが。
「私をはじめ、普通は貴方がこの世界から消えた主観から観測できなくなっています。実験中は、彼女のバックアップがあって初めて成り立つのです」
それはつまり俺を見失わずに、機器の調整や細かい判断を下すこと。
もしもこいつが俺を忘れてしまえば俺は帰ってこられないのだ。
「けれどイドはそのバックアップすらなく、貴方を捉え続けているのです。分かりますか? それがどれほどの力を消耗するか」
……そうだったのか。ありがとう……ありがとうな、イド。
「だからこそ、……っ」
「え?」
珍しく、妹のあわてた声と視線に振り向けば、
「……」
「い、イド」
いつから聞いてたんだ、お前。
そう言葉にし、近づこうとする。
それに合わせるかのように、彼女は一歩、一歩と後退していく。
「お、おい。待ってくれ、俺は……」
「……」
「あ! おい!」
脱兎のごとく、とは言ったものか。
急に走り出したイドにどうしていいか分からず立ち尽くす。
そんな俺に、
「レポートは後日でかまいません」
結果を求めたはずのこいつからそんな言葉が出る。
「で、でも」
「生まれはどうあれ、彼女も女の子なんですよ。理論の回収までまだ時間はあるのでしょう? ならば明日は休みにします」
「じゃ、じゃあ」
「時間は自由に使って良し。以上、解散」
早く追いかけなさい。
そう、言葉にせずとも背中を押す視線に、俺は走り出す。
イド、待ってくれ。俺はお前にちゃんと、伝えたいことがあるんだ!
走り出す足は迷わない。
どんな答えになろうとも。伝えたい気持ちを胸に。
――to be continued...
- 602 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/06/28(火) 01:27:18.37 ID:3AycFLdAO
男「という訳でこのチビ兎の正体がハレて明るみに出た訳だ」
メ「原作知ってる人にゃなんら隠せてないっすがね」
イ「……」
男「知らない人もいたからな! 気にするなよ!」
イ「……」コクコク
メ「へ、今更カマトトぶったところで無駄無駄! 出番も貰えずひたすら埋もれていくがいい!」
イ「……」ササッ
男「お。俺を盾にするか。まぁでもこのバカに懐くよりは絶対いいな」
メ「私だってごめんですよ! 第一、こんなキャラが今更何の……」
イ「『主様から離れやがれチビっ子め』」ボソ
男「へ?」
メ「!?」
男「……あー、と」
メ「な、何見てやがるんすか! おらそこ、何妄言吐いてやがるってんですよ、うきゃー!?!!?」
イ「……真っ赤」
男「それは内面か外見か?」
イ「……どっちも」
男「だな」
メ「みぎゃぁぁああああ?!」
イドちゃん、解禁
- 603 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/06/28(火) 06:30:43.29 ID:NLnlZ23Mo
原作知らなかったからwwktkだぁたよ
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