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新ジャンル「一服」
60 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:20:40.52 ID:VENuyHrA0
例の喫茶店へ、約束のキッカリ五分前に到着した。
待たせるのは性に合わないしな。
すると女は既に窓から遠い奥まった一席に座っていた、前と同じ席だ。

男「いつから待ってた?」

挨拶もそこそこに第一声。いや、挨拶の後だから第二声か。
そんな下らない事は頭の隅に追いやって女の対面に腰掛ける。

女「電話掛けた時からだよー」

男「そうか、それは済まなかった……って一時間も居座ってたのかよ!」

女「大丈夫だよー」

いや、大丈夫とかじゃなくて。

女「ここ私の家だし」

男「え?」


62 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:23:46.40 ID:Vbewrn9s0
女「ちゅうもーく」
男「はい」
女「えー、結局我々は二人して本来の目的を忘れ一服を楽しみ」
女「帰路の途中で思い出し、慌てて買いに戻ったわけですが」
男「手痛いミスですね」
女「そのタイムロスのお陰で、おでんと肉まんで得た温度を全て空中に解き放ち」
女「温度差による冷えに震えながらやっとマイホームに到着しました」
男「ここお前の部屋じゃないけどな」
女「         」
男「ごめんなさい」

女「そこで、わたくしはこの体を温めるための秘策を思いつきました」
男/女「おおー」
男「しかしてそれは!」
女「もう一度コンビニ 男「お前もう帰ってくれ」
女「ごめんなさい」

男「もう寝ようぜ。夜更かしは美容の敵だろ?」
女「あら、知ったような口を」
男「知らないけどさ」
女「まぁ待て、とりあえず食後の一服と宵を楽しむ一服と寝る前の一服と」
男「おやすみー」
女「      」
男「ごめんなさい」


63 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:26:57.36 ID:VENuyHrA0
女「だからー、ここ私の家なんだよー」

それは初耳だ。
聞いてない。

男「本当か?」

女「嘘言ってどーするのさ?」

まぁそれもそうだが……。
にしても、そうと知ると何だがそわそわと体中に違和感が。
他意はない、と思うんだが。
何故か、少し居心地が悪いような。
言ってしまえば女友達の家で食事を頂いている訳で……。


64 名前:子猫編 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:33:32.27 ID:BFtcteLq0
女「ね?ね?ヒドイでしょ!?」
マ「あ〜、確かにね。小さな命に責任をもてない人が居るのは悲しい事だね」
男「………」

お店の中にコンロに入れる火の音とコーヒーを淹れる丸底ビーカーを二つ重ねたようなヤツが吹く蒸気の音が聞こえる。
……あれって、なんていったっけ?

マ「あ〜、あれ?あれって、『サイフォン』っていうんだよ」
男「ぁ、……そうなんですか」
マ「大気圧と状態変化を利用した大した発明品だと思うけど、これがもう既に紀元前3世紀には出来てたって言うから不思議だよね〜」
男「は、はぁ」
マ「まぁ、その頃にはまったく、コーヒー豆の育て方も焙煎の仕方もわかってなかったと思うから、水時計とかに利用されてただけらしいけど」
男「……」
女「マスター、空気読みなさいよ。男くんが引いてるじゃない」
マ「まぁまぁ、こういうときでないと僕が博識なところがわからないじゃないか。活躍できるときには活躍させたままにさせてよ〜。ただでさえ、女ちゃんにはマスターっぽくないって言われてるんだから」
女「男くん。マスターの話を聞くコツは9割を流す事よ」
マ「ははは、参ったなぁ」
男「……」
マ「それはそうと、男……くんだっけ?」
男「あ、はい」
マ「どうして、今日はここに来たんだい?」
男「……それは」
マ「あ〜、素直にコーヒーを飲みに来ただけなら、何も言わなくていいよ。うちは大歓迎だから」
男「………」
女「……マスター、また空気読めてないわよ」

女のコツの言ってることはわかってるんだけど、
それを習得するのには、もうちょっと時間が必要だなぁと
俺は、誰にも聞こえないようにため息をついた。


65 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:35:22.40 ID:VENuyHrA0
その後課題を渡して、すぐに帰ろうと思った物の外は相変わらずの日差し。
無理もない、昼過ぎなんて一番暑い時間帯な訳で。

女「ゆっくりして行きなよー」

迷いぬいた果て、結局しばらくお邪魔することにした。

女「で、何飲むー?」

男「いや、良いよ」

女「何飲むー?」

男「……」

女「…………」

男「……じゃぁ紅茶で」

女「お母さーん、紅茶お願いー」

何かもう、やめて下さい。


66 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:42:48.81 ID:VENuyHrA0
店長(女母)「はい、紅茶。あと女はミルクティーで良いわよね?」

男「あ、どうも」

女「うんー、ミルクティーで大丈夫ー」

随分とテキパキしたお母さんだ、女と違って。

母「似てないなーと思った?」

わずかに笑顔で心中を探り当てられた。

男「い、いやそんなことは!」

母「ふふ。本当、誰に似たのかしらねぇ?」

遠いところを眺めるような目、ここには居ない人の事を思い出しているんだろうか。
その笑顔は女に似ているのに、どこか似ていないような、そんな気がした。
きっと大人と子供の違いだと一人納得する。

母「どうしたの?」

男「いや、やっぱり女さんと似てるなと思って」

母「そりゃ親子だものw」

それはそうだ。


67 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:45:48.18 ID:Vbewrn9s0
女「むむむむ」
男「どうした」
女「17:32発の各駅停車、14分後の快速」
男「いつも通りなら7駅先で待ち合わせになるな」
女「私は32分に乗ろうと思う」
男「はー……また何で」
女「7駅先での待ち合わせの間に一服が出来るから」
男「快速来るまでの14分間で十分じゃないのか?」
女「電車から抜け出しての一服がいいんじゃない」
男「そこは分からんな」


男「お、いたいた、快速出るぞ、早く乗れ」
女「私は各停で行く」
男「何がしたい」
女「各停が出るまで一服出来るじゃない」
男「何ていうか、凄いな」
女「誉めても何も出ないよ」
男「そう来るかー」
女「快速出るよ、乗らないの?」
男「各停のが空いてるし、俺もそっち乗るわ」
女「ふーん……」

男「随分遅いな、まだ各停出ないのか」
女「事故でもあったのかしらね」

アナウンス「えー、先ほど発車しました快速列車の○○行きは、故障により緊急停車しております。点検が終わり次第発車いたしますが、
       その間各駅停車○○行きの出発を遅らせております。ご利用の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが──」
男「コーヒー買って来る」
女「いってらっしゃい」


68 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:45:53.69 ID:VENuyHrA0
サーセン
少しばかり仮眠取りたいと思います


69 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:46:32.87 ID:Vbewrn9s0
>>68
おやすみ。良いスレをありがとう。


70 名前:子猫編 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:50:25.16 ID:BFtcteLq0
ズゥ〜……   コクッ……

2人のホットミルクを飲む音と、ブレンドコーヒーを飲む音がお店に響く。

マ「それでどうしたんだい?」
男「あ〜、それは」
女「さっきの猫の話の続きしていい?」
マ「ん?」
女「さっき話した子猫が校舎の隅で震えてるの。一応、スポーツ部からタオルとかちょっぱって、保護はしたけど、やっぱり、しっかりとした屋根があるところのほうがいいじゃない?」
マ「……その、『ちょっぱって』っていうところは、ツッコミどころかい?」
女「それで、マスターに預かって欲しいんだけど」
マ「……」
女「……」
男「……」


女「……で、どうなの?」
マ「あ〜、率直に言っていい?」
女「うん」
マ「無理」
女「ど、どうして!?」
マ「そんなの簡単な理由でしょ」
女「え?」
マ「うちはちゃんと営業許可証を貰ってる、衛生的に大丈夫なお店だよ?そこに猫を入れられたら、また、監査がはいって、営業許可を取り直さなきゃいけない」
女「そ、そのくらい!」
マ「うちの店、見てご覧よ。今、あなたたちしかいないでしょ?それも理由のひとつ」
女「……」
マ「うちは、固定客を狙ってるお店だからね。リピーターは多くても、新規客が少ない。それで、今の状態で営業してるのに、さらに、税金なり、許可取るお金なりは出せないよ」
女「そんな」
マ「……力になれなくてごめんね」


71 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:51:08.78 ID:BFtcteLq0
>>68
乙。また来るの待ってるわ


72 名前: ◆ftDY.hjzxY [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:51:16.10 ID:VENuyHrA0
あっと次からは多分携帯からになるんでトリ付けときますね

>>69
ありがとう
お世辞でも嬉しいw


73 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 06:57:53.91 ID:QQdanqWX0
みんなで良スレは作るものだってばっちゃが言ってた!

>>1もみんなもGJ!


74 名前:子猫編 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:02:51.61 ID:BFtcteLq0
女「……ダメ?」
マ「無理」
女「ぁ〜、そっかぁ……マスターだけが頼りだったのに」
男「……」


男「………」
マ「……何か、言いたそうな顔してるね」
男「え?」
マ「君からは何も無いのかな?さっきは全部、女ちゃんに言われたわけだけど」
男「ぁ……」
マ「まだ、君の話を聞いてないからね」
男「……」
マ「女ちゃんの話を聞く限り、女ちゃんがその子猫を発見するまでは男くん一人でその子たちを守っていたわけだろ?」
男「……」
マ「その子たちが、やっと活路を見出せるかもしれないのに、君がそんなに早く諦めちゃっていいのかな」
男「……」
マ「……ほら、そこで項垂れちゃってる女ちゃんのためにも、男見せなきゃ」
男「……」


女「……ぅ〜、……ぅ〜ん」


男「あの、ちょっと頼みたい事があるんですけど」


75 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:05:57.89 ID:Vbewrn9s0
男「一本くれ」
女「……はぁ!?」
男「いいから。いいから」
女「体に悪いよ?」
男「お前に言われると思わなかったんだが」
女「はい」
男「火貸してくれ」
女「ほい」

シュボ

男「ぶへぁあぁぁあああ」
女「何があった」
男「別にー」
女「ふーん」
男「そこは突っ込んで来い」
女「絶対に突っ込まない」

男「ぶはー。うまくはないが、気は紛れるな」
女「その内気を紛らわすはずが吸わないと落ち着かなくなるからね」
男「あなおそろしやー」
女「どうせ職場で揉め事でもあったんでしょ」
男「聴いてくれよおおおおお」
女「はいはい、好きなだけ愚痴るがよいよ」
男「ああ思い出しただけでまた腹が立ってきたあっ」
女「コーヒー淹れて来るわ。要点まとめておきな」


76 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:15:48.92 ID:Vbewrn9s0
さ、好き勝手書いた俺もぼちぼち仮眠取るかな。
2時間半後にまた会おう。


77 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:16:48.13 ID:QQdanqWX0
女「コーヒー!」
男「はいはい」

女「砂糖!」
男「はいはい」

女「一緒にいろ!」
男「喜んで!」


78 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:17:46.27 ID:QQdanqWX0
>>76
乙!


79 名前:VIPがお送りします。 [sage] 投稿日:2007/11/03(土) 07:18:41.82 ID:Q89owpVk0
>>76
素晴らしかったぜ!乙!


80 名前:子猫編 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:19:10.16 ID:BFtcteLq0
マ「なんだい?」
男「さっき、言ってましたよね?うちの店は、固定客を狙ってるお店で、新規客が少ないって」
マ「ああ、そうだよ。この落ち着いたふいんき(なry)。いつ、お客さんが見えても、変わらない味、変わらない匂い、おなじみの顔を」
男「ということは、マスター。この店に来るお客さん、全員が全員、マスターに親しいはずですよね?」
マ「そりゃぁ、それが売りだもん。その方針は変えられないよ」

男「それなら、一人くらいは子猫をかってくれるお宅のお客さんぐらい、わかりますよね?」

女「え?」

マ「………」
男「……」
女「……」
マ「……やっぱり、それ聞かれちゃったかぁ」
女「ど、どういうこと?マスター、そういう人知ってるの」
マ「当たり前だよ。それくらい把握してないと、この商売は成り立たないもの」
女「んじゃ、どうしてさっき教えてくれなかったのよ!!」
マ「普段のお返し」
女「にゃ、にゃにお〜!」
マ「……実際、男くんと話してみたかったってのもあるしね。そうでもしなけりゃ、僕と女ちゃんが喋るだけ喋って、男くん帰したことになってたよ?」
女「あ」
男「俺は別に構わないでs」
マ「今回は、女ちゃんが空気読んでなかったみたいだね」
女「あぅ……」
マ「それに、ちゃんと男くんが子猫の事を思ってくれてるってわかったし、そういうことなら、……是非とも引き受けましょう」


男「あ、ありがとうございます」

こうして、子猫の家が決まったのだった。


81 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:23:59.21 ID:BFtcteLq0
>>76
乙。んじゃ、2時間半一応頑張りますか


82 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:24:40.94 ID:TlG7FdanO
女「男ー、私にも1本ちょうだい」
男「またかよ!今日だけで5本目じゃないか」
女「今度1カートン買ってあげるからさ、このとーり!」
男「…ふぅ、しょうがないな…ほれ」
女「ありがと!あとできれば火を貸していただければ…」
男「まったく…ん?」
女「どうしたの?」
男「すまん、マッチ切れてた」
女「えー、なんでライター持ってないのよ」
男「マッチでつけたほうがうまいんだよ」
女「ああ…今すぐニコチンを摂取しないと体が…」
男「我慢しろよ、ないものはしょうがな…」
女「…!火ならあるじゃない!」男「いやだからマッチ切れ……」
女「何言ってんのよ、今くわえてるでしょ」
男「…なるほど」

男「………」
女「………」

女「これって間接キスだよね」
男「…そうなのか?」


83 名前:子猫編 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:46:55.64 ID:BFtcteLq0
別の日。

女「えへへ〜、子猫ちゃ〜ん。新しいおうち決まってよかったねぇ」
ニャーン

まぁ、マスターが引き受けてくれてから、すぐに飼い主が見つかるわけもなく、数日間はここで預かる事になった。
食べ物に関しては、マスターの全面バックアップの下、ダンボールは新しくなり、タオルが毛布に変わり、
その数日間はその子猫にとって、スイートルーム並みの居心地の良さだったんじゃないかと思う。
ちなみに、温めた牛乳だけでは子猫がお腹を壊す事もあるなんて、初めて知った。
猫肌に温めたミルクに水をたして、薄めさせ、それに柔らかく潰したお粥を入れて、ミルク粥を作って、
それを子猫に与えるのがいいなんて、初めて知った。
改めて、何者なんだろう、あのマスター・・・。

女「ん〜、お腹いっぱいになったかな?」
ニャーン
女「よ〜しよしぃ」

女は相変わらず、猫をそれこそ、ねこっかわいがりしてる。
目に入れても、痛くないわが子のようだ。

……なんとなく、将来良い母親になる、んじゃないかなぁ?と思ったり思わなかったり。

女「男くん?」
男「ん?」
女「……あ、いや、なんでもない」
男「ん」

女は、マスターが探してきた新しい飼い主が現れても、そのお宅を訪問するらしい。
どれほど、可愛いんだか、呆れるやら感心するやら。


84 名前:子猫編 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:50:49.58 ID:BFtcteLq0
今日は、あの日のように雨ではなく、カッチリとサッパリと晴れて、
お日様が高くのぼってる。

俺には、似合わない天気なんだと思うが、
それでも、このチビたちを送り出せる門出としては、これ以上にないってくらいの天気だ。


男「っと、そろそろ、授業だ」
女「よーしよし、また来るからね〜。……えっと、次の教科、誰だっけ?」
男「あ〜……、確か、あの文系の嫌味なヤツ」
女「うわ、やる気無くすぅ……」
男「……」
女「………」


こういうときに、『サボっちゃおうか?』と軽々しく言ってはならない。
言ってしまった方に、鉄拳制裁が降るのが俺たちのお約束だ。

女「……出ますか」
男「……ああ」


この青空では、どこでサボるか、探すテンションじゃなくなってしまう。
そんな太陽を恨みながら、俺たちは教室に戻った。


にゃーん

          
子猫編  ━完結━


85 名前:VIPがお送りします。 [sage] 投稿日:2007/11/03(土) 07:52:31.78 ID:Q89owpVk0
>>84
長編乙!ぬこかわいいよぬこ



86 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2007/11/03(土) 07:56:12.64 ID:BFtcteLq0
さて、>>1には無断で新しいキャラを出してしまったから、どう自重しながら物語を作ろうかと思ってたら、

意外と、文師文師で微妙に設定違うのに気づいた



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