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意地悪なメイド ver2.5
71 :【読切短編:落花狼藉(中)】 [sage] :2008/08/11(月) 03:53:33.56 ID:7Fmn6Aw0
昔から自分がおかしいと思うことは多々あった。
例えば置かれた環境であったり、抱く好奇心であったり、すべてを覆す悪運であったり。
とにもかくにも自覚はあったがどうしようもなかった。
寧ろどうにかできるものじゃなかったので、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
郷に入らばだの、住めば都だのという言葉があるように、人間慣れというものは恐ろしい。
結局のところ、私にとって日常というものは壊れたものであり、心地の良いものだった。
だからもし神様が目の前に現れて、私の『病気』を治してくれるというのなら……

私は神を[ピーーー]ことさえ厭わないだろう。


『意地悪なメイド外伝』
  短編読切「落花狼藉(中)」


「あー、だぁから、未然に防げなかったのは申し訳ないっすけどこれでも精一杯……ちょ、ちょちょ、足元みすぎですって!」

電話越しに面白がる声が聞こえてくる。

「あら、私があや様の脚フェチだといつお気づきに?」

電話する隣で面白がる声も聞こえてくる。

「足フェチ!? い、いつの間にそんな語彙まで! って、違います違います! そりゃ主任は人形しか愛せない変態とは思ってますが……」
「まぁ、私があや様の等身大愛玩人形を作っていることをなぜご存じなのですか?」
「愛玩人形!? って違います主任! すみません、口が滑ったんです! 決して主任のことをかるんじているわけでは」

ブツッ。
電波と同時に私の大事なライフラインの何かが断ち切られるような音がする。
うふふ……どうやらワタクシ、今月は赤貧生活を強いられそうです。

「あや様、お顔がすぐれませんが?」
「その言い方だと私の顔がダメみたいじゃん……電話くらいゆっくりさせてよ、宮ぁ」
「大丈夫です、あや様の魅力は私だけが知っていればよいのですから」
「ダメなのは否定なし!?」


72 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:54:00.74 ID:7Fmn6Aw0
ぽやぽやな何かを振りまきつつ、私の大事な何かを刈り取るこいつは友人の宮。
もはや友人と書いて天敵と読むレベルなのだけれどこのかわいい娘子さんには色々とお世話になってる部分もあるので縁は切れず、と。

「ですが元々学園内で携帯を使うことは良しとされていませんよ?」
「そりゃそうだけどさ、他の奴だって使ってるのいっぱい居るじゃん」
「他はどうでもいいんです。あや様だから注意するんです」
「宮……」
「だってあや様の声を独占するなんて許せませんから」
「何だか最近どんどんストレートになってない?」

若干身震い。この身の危険を感じるわけなのですよ。
貞操観念が意味を失いつつある昨今、大事にしなさいという友人の遠まわしな忠告なのだと思っておこうと思います。

「それよりあや様」
「あ、そんなあっさり話題変えられる程度のお誘いでしたか」
「残念ですか?」
「まさか」
「でしたら取り急ぎお伝えすることが。手遅れですが」
「え?」
「宇都木先生がこちらをご覧になってますよ。そのお手に持たれている携帯もろともですが」
「……宮、誰か来ないか見ててって言ったじゃん?」
「はい、ですから見ていましたよ?」
「……」

前門の笑顔、後門の笑顔。
前者が悪意のないような悪意の塊の笑顔で、後者が怒りをうちに納める笑顔なのでした。
私に合掌。たぶん没収なんだろうなぁ……ただでさえ極貧なのに。うぅ。


73 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:54:21.13 ID:7Fmn6Aw0

事件は昼間に起こったのだという。
いわく、突然人が“割れた”のだそうな。
実際現場に居合わせなかったけれど、その様はおぞましくも非現実的なほど美しい様相だったらしい。
きっと口に出さないだけで何人かの人間は思ったろう。まるでバラの華のようだと。


「で、お釈迦様は国家権力が回収、現在この一帯は厳重なまでの警備網が敷かれてる、と」

学院の帰りに一般市民を装い界隈をうろうろ。
制服のままだとただでさえ宇都木先生を筆頭に先生方が私に対して警戒中なので問題を起こすと即退学につながる。
そんな理由もあってちゃんと私服装備なのだけど、さすがにこの季節に長そでのジャージというのは結構つらい。暑いっす。

「……っかし、本当に一日にして話題の現場って感じだねぇ」

夕方を過ぎてもまだこのあたりには人があふれていた。
昨日までの閑散とした雰囲気が嘘のように人々が賑わっている。
いわく、現代人は刺激が足りてないのだそうな。これはうちの上司が言ってた。
だから猟奇的な物事、非現実への憧れは恐怖心と同じだけ生まれるのだとか。実際、これらは表裏の関係にあるのだとも。
つまり、今このあたりを歩く人間のほとんどがそういった野次馬根性で歩いてる。
私はどうなのかと聞かれると返事に困るけど、純粋な野次馬根性じゃないだけで似たようなものだったり。
では、他にどんなのがいるかと言えば……。

「あ」
「……ぁ」

数時間前に顔を合わせたばかりなので人違いなんてことはないはず。
気まずそうに踵を返すのは、安達くんのグループの一人。
この情報社会、こんな大きな事件が誰かの耳にはいらないはずがない。それも同じ街に住む間柄。
だから気になったのだろう。次は自分なんじゃないかって。
背中が語る、そんな気持ちを読み取りながらそちらに足を向ける。
おそらくではあるけれど、今危ないのは彼だろうから。


74 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:54:36.38 ID:7Fmn6Aw0
数分の追走劇。
終わりはあっさり訪れる。

何本目かの角を曲がったところで、いきなり目の前が真っ暗になる。
気づいた瞬間、目の前に火花が散っていた。
次に感じるのは鼻の奥に感じる熱い感じと鉄くささ。

「……はぁ、はぁ。何のつもりだ!」
「っ、たいなぁ……こっちのセリフだよ」
「てめぇが追い回すからだろ! 犯すぞ、ごるぁ!!」

あー、それは困ります、いろいろと。
私の血で汚れた角材を片手に凄まれる。さすがにこのあたりをよくご存じで。
気がつけば表通りからずいぶん離れた場所に連れてこられてる。

「お前も、あいつの仲間なんだな?」
「違います、っていって信じてもらえますか?」
「……もちろん、答えはノーだ。調べはついてんだよ」
「調べったって……あー、そうなんだ。やっぱり」
「ごちゃごちゃうるっせぇんだよ!!」

再び振りかぶられる角材。
残念ながら私はさっきの一撃ですっかり尻もちをついてるので動けません。アーメン。
敬虔な使徒でもない私は、このままどこへ行くのだろうか。案外危ないと思っていてもどうでもいいことを考えてしまうようで。
そんな中、やけに世界が遅く展開していき、次の瞬間目の前が真っ赤に染まる。


パン。


そんな軽い音がする。
そして裂いた。咲いた。
真赤な花が。


75 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:54:52.94 ID:7Fmn6Aw0
びちゃり、と何かが私の頬をはじめ、体中にかかる。
ぼとぼとと崩れ落ちながら、モノになり下がったそれはやがて自らの作った血溜まりの中へ沈む。

「……いや、何ていうか……衝撃的だね。前衛的?」

そんなことをつぶやきつつ、辺りに視線を飛ばすが何も代わった様子はない。

「逃げられた? 助けておいてそれはないよね。これじゃお礼も文句も言えやしないじゃない」

溜息をひとつ。
予備の方の携帯から上司に電話を入れる。
どうやらどこかでスイッチを入れちゃったようで、今事件は加速してる。
一言で表すなら、そう。……厄介だ。






「お疲れのご様子ですね」
「まーね」

あの後、処理を済ませて一目を忍び、家へ帰り着いたのが朝がた。
どうせ起きられないのがわかってるからそのまま貫徹したはいいけど、こういう日に限って抜き打ちテストの応酬。
その提案が宇都木先生ってんだから、いよいよをもってあいつは私の命(タマ)を取りに来てるんじゃなかろうかと思ってしまう。


76 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:55:05.06 ID:7Fmn6Aw0
「このままではファンクラブの方々に申し訳ありません」
「会員って確かあんただけじゃないの?」
「いえ、私のファンクラブです」
「あんたのかい! って、何で私が疲れてるのと宮のファンが関係してくるわけ?」
「あや様が元気がないと私の元気が出ません。なので笑顔もついつい曇りがちになり、あや様が恨まれてしまう結果に……」
「なるほどね。無駄な恨みは買わないに越したことぁない。ここは一つ元気になってもらえるようにもうひとがんばるかな」
「ですがあや様が元気だと私が嬉しくて、ファンの子達に一切構わなくなりますので恨みがあや様に向かいますね」
「どっちにせよ、私恨まれる運命!?」
「障害が多いほど恋路は燃え上がると聞きましたので」
「それは相思相愛の場合ね。ところでさ……裕子さんはまだお休みだっけ?」
「いえ、古城様はあや様がお休みの日に来られてますよ? 新入生さんも同じ日に一度授業を受けにいらっしゃっただけですし」
「え、来てたの、あの子?」
「はい。残念ながらあや様は学校をお休みされていましたのですれ違いになってしまいましたが」
「そかぁ、残念だな。あの子は私の数少ない友達の一人だから仲良くしときたかったんだけど」
「安心してください。私がいますので」
「うん、宮は一生の友達だかんね。そこは心配してない」
「いいえ、違います」
「違うの!?」
「友達以上の存在ですので」
「……あー、うん。とりあえず親友としておこうか」
「もう、あや様ったら、つれないです」

そんなかわいい顔ですねられても困るんですよ。一応道徳的にどうなの、ってな話になってくるので。
さて、それよりあっちは来てたということは……。なるほど。
確証はないけど、一応聞いておかないといけないことは増えたかな。

「あやくん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「はい、何でしょう。宇都木先生」

ちょうどいい具合に要件もできたみたいだし。
……藪はあんまりつつきたくない主義なんだけどなぁ。


77 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:55:22.21 ID:7Fmn6Aw0

ぴんぽーん。

無機質な電子音の後、やはり沈黙がある。

ぴんぽーん。

けど、居るのはわかってるので出てきていただかないと困る。
手元の資料をもう一度見返して空白の時間を有意義に。
一度きりの人生。ご利用は計画的に。

「古城さん。私、安達さんから伝言を預かっております」

だっていうのに何で自分から虎穴に入るかな、私ってば。

「……本当?」
「ええ」

とびきりの作り笑顔でこんにちわ。
そこには初めてあった時より、幾分顔色のよくなった彼女がいた。




「珈琲でいい?」
「いえ、本当おかまいなく」

部屋にあがらせてもらうのは二回目だけど、もう一度あの苦い液体をいただく気にはなれない。
コーヒー豆をこさえた職人様に申し訳ない気分になるのでお断りしたいんだけど……。

コトリ、と可愛らしい音と食器で劇薬登場。
手、つけなきゃダメだよね?

「……同じインスタント?」
「?」
「あ、いえ。こちらの事情ですのでお気になさらず。とりあえず話は変わるんですが、昨日は何をなされてました?」
「……。学校、行っていましたが。ご存じないですか?」
「それこそご存じないですか? 私、休んでいたんですよ?」
「……失礼。昨日は体調が思わしくありませんでしたので、少々記憶があいまいでして」
「はい、あなたのご友人からお話を伺いましたら執拗に接触を避けるような節が見受けられたほどだそうですので」
「それは、ただ……風邪のように他人に移すとまずいかと思いまして」
「感染型なんですか? それは怖い。なのにあげてお部屋にあげていただいたということは移されてしまうので……」


78 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:55:34.92 ID:7Fmn6Aw0
ガタン!!

「安達と、どういう関係なの!?」

短気はよくないと思いますよー?

「落ち着いてください。お体に触りますし。風邪なんでしょう?」
「うるさいわね! さっさと答えなさいよ!!」

どうやら、使っちゃいけない手を使ってしまった様子で。
確認も取れたし、目的も果たせた。
ここで撤退して応援を呼んでからというのも手だけれど……。
このままだとまた犠牲者を増やしてしまいそうなのでさっさと実行するしかなさそうなわけで。

「では、まずこちらの質問に答えていただけます?」

ポケットの中の感触を確かめる。

「質問?」
「まず、髪質が前よりも少々変わられたような気がするのですが、気のせいですか?」
「そ、それは、シャンプーとか、変えたから」
「次に少々服のサイズも変わったような」
「勘違いでしょ! 全く変わってないわ!」
「そうですか、では……」
「いい加減になさいよ! じゃないとあんたも!!」
「裕子さんはどこですか?」
「!?」

咄嗟にテーブルを蹴りあげる。
次の瞬間、テーブルが二つに割れ、四つにちぎれ、八つに砕け……。

「っち、やっぱ視界が射程っすか! 厄介な!!」

携帯とは別のポケットから小麦粉の詰まった袋を一気に引き裂いてぶちまける。
とたんに広がる白い粉塵。

「げほ! がはっ! あ、あんたやっぱりあいつの……!」
「これで確定ですね。ですがまだ取引といきましょう。彼女さえ無事に帰していただけるならば……あなたのこれからの安全を保障します」
「っく」
「場所はあの廃ビルで。彼女を無事なまま連れてきていただければそれでかまいません」
「こんなことをしたあんたを信用しろと……!?」
「するかしないかは自由ですが、彼らから預かったビデオがあります。これ、適当にダビングしてばらまいてもいいですか?」
「あ、あんた……!!」
「では午前0時に」

ガシャン。
窓を割って、ドアを思いきり開け放つ。
確率は二分の一。さぁどっちに反応してくれるかな?
もしこのまま見つかれば私はおだぶつなわけだけど……たぶん、大丈夫だ。
だって誰も助けにきてくれないし。


79 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:55:48.91 ID:7Fmn6Aw0

結果として安全は確保できた。

「……っく、逃げ脚の早い。もう表の通りにも裏通りにもいないなんて」

でも、それはチキンな戦法なので実際危機は去ってない。

「……。はぁ」

ガタガタと奥のタンスをあける彼女。そこには瓜二つの顔の少女。
少し顔色の悪いその子は、おそらく数日前に出会った裕子さん。

「ほら、いくわよ」
「んぐ、ふむぅぅ!!」
「うるさいわね、ころしたりしないわよ。おとなしくして。今から猿轡はずすけど……騒いだら、わかってるよね」
「!? ……」

こくこくとうなずく裕子さん。怖いだろうなぁ。

「ぷはっ。……なぜ? 何故なの、姉さん」
「知らないわよ。ったく、昨日のうちに関係者は全部消したと思ったのに」
「……そうじゃ、なくて……そ、それより安達さんたちは」
「ええ、みんなバラバラにしてあげたわ。後はあんたをそうするだけだったのに……全く、本当に厄介ね」

そりゃこっちのセリフです。

「いい。今夜で一応の決着はつくわ。それまであんたは生かしてあげる」
「……」
「それまでの間に、ぬくぬくと生きてきた自分を恥じるといいわ」
「そ、そんなこと言われたって」
「あんたはいいわよ。ただ蝶よ花よと育てられて。同じ父親、同じ母親から生まれたのに、何で私だけ……!」
「それはあの家のしきたりで……」
「うるさい!」

パンッ!

「きゃう!?」
「……あんな家。……そうだ、これが終わったらあの場所を消してやろう」
「そんな!?」
「ふふふ、いいわ。すごく楽しみ……あは、あはははは!」
「……姉さん」


80 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:56:01.29 ID:7Fmn6Aw0
どうやら資料は正しかった様子で。
古城家、か。ずいぶん古めかしいお名前だと思って調べれば見事ビンゴ。
まだ都が京におかれていた頃から続く陰陽師を始めとする家系の一部。
有名どころから様々な分家まであるけど、その中でもそれなりの有力な一族。
その中に古城の名前があった。
現代では大した能力もなく、むしろ何の特異性もないままに一生を終える人が多い。
今では血縁者間での魂の共有、交換という対内的な呪法や一部の魔術用の道具がある程度のはずだった。
しかし古城家は例外の一つだったそうで、時折強い力を有する人間が生まれたそうだ。
それは現代の世界では危険すぎるため、本来の家柄とは離れた場所で暮らすそうだけど……。

なんてことをベッドの下で思い返す私。
数センチメートル先にいる人間凶器はそれほどまでに厄介なのです。
本当怖い。見つかったらしんじゃうかくれんぼ。
神様、おられるのならどうか私の気配が某国エリート潜入班員なみになりますように。

「……。ここはもう使えないわね。あなた、お金は?」
「そちらにお財布と、通帳が……」
「そ、じゃあさっさと下ろしにいくわよ。どうせ足はつくけど、表向きには大丈夫だろうしね」
「……」

あけっぱなしの玄関から瓜二つの顔をした姉妹は出ていく。
どうやら通じたか通じてないかはわからないけれど、ひとまず安心できそう。
さて、時間はまだたっぷりあるからいまから応援をお願いできそうなツテをあたりますか。


81 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:56:13.81 ID:7Fmn6Aw0

妹と私。生まれた時間も、環境も、親も、変わらないはずなのに。

『この子は……ダメだ。うちには置けない』

たったそれだけの言葉で私はずっと本来の生活から遠ざけられていた。
俗に言うような裕福な子じゃなかった。『裕子』になれなかった。
どこにでもあるような、だけどどこまでも余所余所しい家族と共に十数年間を過ごした。
ゴワゴワとしたセーターを直接着るような気持ち悪さを常にまとって生きていた。
それだけでも零れ落ちた側として悔しいのに……。

『ひゅう。いい女じゃん、どしたの?』
『攫った。で、適当に脅してあるから何してもいいぜ?』
『ってことは随分調教済んでんの? やった、俺一回使ってみたい玩具あったんだよねぇ』
『お、やらけぇ。本当に使い込んでんの? すげぇ上物じゃん、どうやったらこんなの手にはいんのさ』
『さぁ? 何か家に帰りたくないとか言うから一晩遊んであげたんだけど』
『かーっ、本物のジゴロがここにいますよー、と。おら! 休んでんじゃねぇよ!』

女としての純潔も、幸せも、尊厳も何もかもを失った。
ただ飼われて、それを告白する家族すらいなくて。
すべてがどうでもよくなって。でも……。

『なぁ、もう飽きたし……俺、こういうの使ってみたかったんだよね』
『げ、マジで? お前それは』
『いいよ、やれば』
『けどさ!』
『何。死んだら埋めりゃいいよ。どうもこいつ、探してくれる人間もいなさそうだしね』

閃く銀。ぎらぎらと光ったそれが、きっと私をバラバラにするんだとわかった。
怖かった。悲しかった。悔しかった。

こんな醜い一生のまま終わってしまうのが。
こんな醜い一生を過ごしてきたと思うのが。
こんな醜い一生ですら惜しんでしまうのが。

だから、ただお前がそうなればいいと思った。
ひとつがふたつに。ふたつがよっつに。
それは幼いころから、変わらないものが好きだった私の単純な好物。
こうやって別れるという事象がただ好きだったから。

『……望むか? それを』

だから、私は……欲しいと思っただけ。
私は何も、悪くない。


82 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:56:26.67 ID:7Fmn6Aw0
午前零時十五分前。
つまり二十三時四十五分。
約束の時間までほとんどないわけで。

Q.何故私はそんな時間だというのにここに一人なのでしょうか?
A.あてにしてたツテが誰ひとり来てくれなかったから。

わぁ、何て簡単な答えなんでしょうか。ガッデム、マジやべぇって。
上司は上司で「がんばって。壊れない程度に」ときたもんだ。
はてさて本当にどうしたものか。

見上げるビルは初めて見たころよりも重苦しい空気がつつんでいる。
でもまぁ、これも運命なのだとあきらめなきゃいけない。
というより、こうなってもたぶんしなないと思うし。というか思いたいし。
そんなわけでいざいってみよう。虎穴にはいらずんば虎児を得ず。
本当、何だか今の状況を的確に表してる気がして仕方ないよ。うう……。
嘆いてても仕方ないのでいざ突撃。
……誰か骨くらい拾ってくれないかなぁ。




「あら? あれは……止めてください」
「どうされました? お嬢様」
「いえ、その……。少し気になることがありますので、付き合ってくださいますか?」
「お嬢様がお望みなら」
「では、おねがいします」


83 :パー速民がお送りします [sage] :2008/08/11(月) 03:57:19.02 ID:7Fmn6Aw0
というわけで結局三つに分けてしまいました。すみませぬ。
最初からいってますが厨二病系が苦手な人は読み飛ばしてくださいね、いやマジでww


さておき安易なエロスなわけではないと信じたい今回の流れ。
……違うよね? よね?wwww



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