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意地悪なメイド4
- 683 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga]
投稿日:2011/07/20(水) 00:26:14.01 ID:o68JS18q0
第31話(中) 『初陣/出撃』
全員の集結を確認し、教官は静かに告げる。
「国連軍の軍事的支援を、仙台臨時政府が正式に受け入れた」
それは決まっていた筋書き。殿下の保護、身の安全という餌と既成事実を利用し取り入ってきたのだ。
確かに女さんの親父さんが言うように、これで事態の解決には向かうのだろう。
望んでいたはずの事だし、それ自体はいい。けど、これを推し進めているのはオルタネイティブXの推進派だ。
国連のお墨付きという後ろ盾をもとに、今後俺達の行く先に暗雲が立ち込めないとはいえない。
何より、こんな風に遺恨ばかりを残すやり方を何故選ぶのか。こんな事をしているから、人類は――。
知らず握った拳が音を立てる。
けれど一兵卒である俺に出来ることは何もなく、ただ事態だけが進んでいく。
目の前ではこの基地から進軍する大隊の進路、及びルートなどの説明が進む。
当然のようだが、俺達訓練兵について触れられることはなく、話は終盤に差し掛かる。
基地の防衛に周り、事態の推移を見守る。それが役目だろう。
だったら俺に出来ることはこの馬鹿げた騒動がただ一刻でも早く終わることを祈るだけだ。
「尚、第3戦術機甲大隊の出撃予定時刻は1940。これに合わせ我が隊も出撃、後方警備任務にあたる」
「「「「―――!!」」」」
予想外の言葉に、全員が息を呑む。
任務の重要度や戦力バランス、様々な要因を加味した結果だと教官は告げるが、そんな余地があるのだろうか。
疑問は尽きず、こういった事をしでかす可能性のある肉親の顔を思い浮かべる。
「お前達が担当する作戦区域はこの――」
告げられる区画は帝都とは正反対の方向。そこにあるのは確か将軍家の離城で、要は別荘みたいなもんだ。
なるほど、訓練兵への割り当てとしては妥当だろう。
あのあたりはBETAの支配地域だったはずで廃墟だし、そんな辺鄙な場所に正規部隊の配備は有り得ない。
思い浮かべていた我が妹の意地の悪い笑顔をかき消し、可能性の一つが潰れたことに安堵する。
「尚、当任務には横浜基地駐留の帝国近衛軍第19独立警備招待も随伴する」
「……」
それは侍従長さん達の部隊だ。それを分かっていて黙っているのは委員長なりの矜持か、けじめか。
逆にそういった感情に走らず、冷静に現地での帝国軍との接触の際に有り得る可能性をあげられる程度には冷静なようだ。
正式な作戦とはいえ、現地にて駐留する帝国軍の人間からすれば俺達は国連軍。つまりは今回介入した敵に近い存在。
何も思わぬはずがないし、挑発や最悪の可能性として攻撃されることだってあるだろう。
それだけこの世界において国連軍、引いては米軍に対しての感情というものは悪いといえる。
ふと、視線の端にかかる女さんの複雑な表情。それもそうだろう。
世論がそうなっていると分かっていながら、今回国連軍を引き入れる仕事を担当しているのは他でもない、彼女の肉親なのだ。
今回の件、誰一人だって無関係じゃないんだ。
友の親父さんが暗躍し、その想い人がクーデターの決起を促す。
その結果、いいんちょと妹ちゃんの親族が殺され、親戚である将軍の安全も脅かされている。
だから女さんの親が国連を引き込んで、事態がより複雑な方向へ進んでしまう。
それぞれの立場や事情が分かるだけに、居心地は良くない。
今まで育んだ俺達の絆。それがこんな風に縺れ、拗れていくなんて。
「最後に、本任務は実戦が想定されている以上、私が戦術気で直接指揮を執る。コールナンバーは00だ」
そんな本格的に実戦を想定した配置までするのか。驚きと緊張、不安がより増していく。
けれど逆に言えば実戦経験のある人が指揮を執ってくれるのはありがたい。
ここで教官をする前はメイド長さんも前線で戦っていたって聞くし。
「お前達の小隊は委員長を隊長とし運用する。各自30分以内に火器管制装置の調整を済ませ、ハンガー前に集合。以上だ、解散」
それを合図に俺達は動く。今は、やる事がある。それに打ち込んでいられるのは、ありがたかった。
- 684 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/20(水) 00:27:06.97 ID:o68JS18q0
山間を進む戦術機。教科書の見本のような陣形を組み、進むのは彼等の小隊。
当然のように作戦区域に敵影はなく、順調にプラン通りの経路を踏破していく。
その間に、当然のように誰もが喋ることはなかった。時折状況を伝える教官の指示への返答があるくらいだ。
実戦の緊張か。自身の死の可能性を思ってか。それとも、誰かを殺めてしまう可能性が現実味を帯び始めているからか。
さらに言えば複雑なそれぞれの立場と、関係。お互いそこを気にして下手に声がかけられないのだろう。
作戦中とはいえ、この空気はよくないだろう。そんな判断のもと、男は軽口をたたく。
「なぁ、俺達の向かう先って確か温泉の名所なんだってな。せっかくだから作戦が終わったらひとっ風呂浴びようぜ」
これに反応する声はない。教官にも届いているはずだが、お目こぼしか叱咤の声は飛んでこない。
「何なら俺は全員一緒でもいいぜ。あ、友、お前はハブだからな」
「04より02。作戦中なんだから、静かにしときなよ」
「おお、友。やっと反応が返ってきたか」
こういう場合は妹ちゃんが噛み付いてきそうなものだけど。
そんな風に思う男の考えをよそに、教官からの通信が入る。
調子にのりすぎたか、と慌てる男をよそにその一言は最悪のシナリオへの幕開けを告げる。
「先ほど、帝都で戦闘が始まった」
曰く、帝都を包囲する歩兵部隊の一部が近衛軍部隊に向け発砲したとか。
首謀者である大尉からも戦闘停止の声明が発表されたが混乱は収拾できていない。
とうとうやっちまいやがった、馬鹿野郎が。これで帝都は戦火に包まれるだろう。
それに胸を痛めるのは俺達も同じだが、何より思うところがあるのはいいんちょ姉妹だ。
何より、俺達が何を思おうがこの場所にいる以上、目の前の任務にあたるしかない。
甘かったんだ。国連が介入したことで戦力バランスが偏ればすぐに片付くだろうなんて思っていたことは。
もはや賽は投げられた。たった一人の兵士のせいで。
「くそ……」
声にならない声で呟く。
それでも音声を拾っているはずの回線から返すものは誰一人いなかった。
―― to be continued...
- 691 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/22(金) 00:04:56.34 ID:BWD/1jbm0
第31話(後) 『初陣/護衛』
「はぁ、はぁ」
ただ操縦するだけならこんなに疲れたりなんてしないだろう。
燃料切れまで動いたって大丈夫だって自信はある。
――これが実戦じゃなければ。
けたたましい駆動音をあげ、コックピット内は激しく揺れる。
人型の、それも大型の兵器が走り、跳躍するということは操り手に多大な負担をかける。
だからこそ、この世界における兵器がいかに発展しているかという事実を垣間見ることができる。
少なくとも衛士はその負担を和らげ、長時間の運用が可能なように訓練され、装備を与えられる。
この衛士強化装備がその最たるものだ。
高度な伸縮性を持ちながら、衝撃に対して瞬時に硬化する性質をもった特殊柔軟素材。
そして各種装置を収納したハードプロテクター類で構成されている。
また耐Gスーツ機能、耐衝撃性能に優れ、防刃性から耐熱耐寒、抗化学物質だけでない。
バイタルモニターから体温・湿度調節機能、カウンターショック等といった生命維持機能をも備えている。
その他、パイロットの生命を優先される様々な機能を備えて、初めて戦術機はまともに動かせるのだ。
だが、もし。それらを装備せぬままに搭乗すればどうなるだろう。
耐G、耐衝撃、それらを受けるストレス。あらゆる要素を持って、人体への悪影響は免れない。
数十分もてば驚異的であるといえるその環境下、
「……っ」
この人は何故、耐えられるのか。
「私の事は構う必要はありません。行って下さいませ」
自分よりも、俺を気遣えるのか。
「分かり、ました」
歯を食いしばり、ただ懸命に目の前の任務にあたる。
だって、そうじゃなきゃ、この人を。
日本帝国国務全権代行である、政威大将軍殿下――朱鷺之宮殿下の御身が危険に晒されてしまうのだから!
- 692 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/22(金) 00:05:48.18 ID:BWD/1jbm0
時は少し遡る。
現地へ到着した俺達は当然のように待機を強いられ、時間のみが過ぎていく。
帝都では殺し合いが始まったっていうのに、静かすぎるその地は焦燥感だけが募る。
「ねぇ、男」
「いいんちょ?」
それは意外なところからの声。
二人一組で待機する俺のもとへ入ってきたのは委員長からの通信だ。
「知ってる? この離城に留まって戦った部隊がいるという話」
「そうなのか」
初耳だ。けれど将軍家と縁がある委員長なら知っていてもおかしくない。
「でも何で」
「さぁね。けれど補給路も断たれた状態で数ヶ月、彼等は戦ったそうよ。幸い、小規模な戦闘が数度あった程度なこともあってね」
にしたって、数ヶ月単位の話だ。
そこまでして護らなきゃいけないものかよ、この離城は。
「BETAの本州侵攻の際、京都で宮城警護を担当していた人たちだから、かもしれないけれど」
「そっか。もう二度と城の陥落なんて見たくなかったのかもな」
けど、多少の疑問は残る。
この目の前の空白に考えるには悪くない議題かもしれないな。
「……ごめんなさい。余談だったわね」
せっかく盛り上がりかけた気持ちをくじいて来る委員長。
けど、こいつはこいつなりに話したいことがあるはずだ。
余談なんてとんでもない。こいつの中じゃ、そんな忠誠心を見せる部隊の話が出るって事は……。
「なっ、男! 貴方何を……」
甲高く、小さな警報音。秘匿通信回線を使用した合図だ。
本来作戦中にこんな私的な使い方をすれば営倉入りも覚悟しなきゃならないけど……。
「お前、どう思うんだよ、今回のクーデター」
「どう、って。何が言いたいのかしら」
「……。はぁ、単刀直入に言うよ。お前の気持ちとしては、分かるんじゃないのか、クーデター側の奴等の気持ち」
一瞬、躊躇を見せる委員長。
けれど、何かを決めたのかその瞳は俺を真っ直ぐに捉える。
「分かるわ。正直に言えばね」
凛とした声はいつもの委員長のもの。
そして、返す言葉は俺への問いかけ。
「貴方はどうなの」
「俺は……。俺はわからないでもない。でも、人類の勝利があってこそだ、と思ってる。人類同士で、こんなこと。ばかげてる」
こいつの言う、それぞれが持つ重んじるものってのも分からないわけじゃない。
日本人として、その誇りを失ってはいけないし、人としての尊厳だって当然だ。
けど、こいつは……侍従長さん達も含めて、俺以外の人間は『あの結末』を見ていないんだ。
人類が敗北し、オルタネイティヴXが発動してしまうあの瞬間を。
けれどそれを説明することはかなわないし、理解なんてもってのほかだ。
だから、食い違う。こいつらの言い分と、俺の根底にあるものは。
「そうね。けれど、BETAとの戦争が始り20年以上もの時間が過ぎて、けれど事態は好転しない」
慢性的な食料不足に強制疎開、強制収用。徴兵年齢は下げられ今や男女の区別なく前線へ赴かねばならない。
それらの苦難を強いられているのは他の誰でもない。当たり前のように生きている民間人なのだ。
今後は状況は厳しくなる一方で解決の策など見えずにいる。
そんな世界でもどこかの誰かのために命をいとわず助けられる。そんな精神が『この世界』の日本人にはある。
多くの命と土地がBETAに奪われても国民が恐慌に走らずに居られたのは、将軍家をはじめとする心の礎があったからだ。
だからこそ、その立脚点たる“愛国心”の存在。それを美しくも、厄介だと思う。
- 693 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/22(金) 00:06:43.05 ID:BWD/1jbm0
「そしてBETAに背後区し、本州奪還に国連軍の力を借りざるを得なかったことが、政府を変えたのよ」
「国連の力を借りなければ、日本は、国は滅んでたろ」
「……そうね」
ただ彼女はそういった善悪ではない、とも言う。本州奪還に伴い国連との関係強化は基本政策となった。
結果として手段が目的を凌駕し始め、本当に護るべきものを蔑ろにしているように彼女は思うのだ。
政府は将軍家を傀儡に貶め、己の都合や利益のみを考えるモノが現れ始め、今のように国を蝕んでいる。
「そして、私達も……」
「お前が、何だって」
「……。ごめんなさい、今のは忘れて。ただ、私も今の国の在り方は良く思っていないわ」
分かりきっていたはずの答え。彼女の心情が、友女大尉たちクーデター側に近いなんて事は。
それはこの国の人間なら誰しもがそうなのだろうか。俺は『この世界』の人間じゃないから、そんな思いにいたれないのか。
「でも、さ。俺達が巻けたら、人類が全滅したら全部終わりだってことは、わかってるんだよな」
「ええ」
「その結果、更に国は疲弊してるし他国は下らない駆け引きを起こす。これが本当に殿下の望むことなのか」
あいつらは、生き物としての根本が違うのに。
俺達は同じ生き物で、あいつらの『1』に人類の『1』としてあたらなきゃいけないのに、なんでこんなくだらないこと……。
「そんなんじゃ、勝てるわけないだろ……日本人とか、米国人とか関係なく、今は人類とBETAの戦いで……」
「……」
「そんな答えが、『この世界』の甘えなんだよ。国を正すってのは立派なのかもしれないさ。でもそれは、世界にとって本当に……」
「もう、いいわ」
「本当に正しいことなのかよ! 日本を護りたいのは分かる、けどそれ以上に護らなきゃいけないのは世界じゃないのかよ!!」
「わかっているわよ。だから、もうやめて。私だって……何が正しいか分からないのよ」
「……。すまん」
本当はただ、彼女の話を聞いて自分の中の疑問を解決に向かわせたかっただけなのに。
途中から説得になってた。こんなんじゃ、お互い何も得られるはずなんかない。
けど、それでも……
「でも、これだけは言わせてくれ。お前がどう思おうと、世界に対してどんな答えを出しても」
「……」
「俺は人類の勝利を優先する。そして、日本も救う……それだけだ」
それが今の俺の考えだ。
押し付けがましくとも、こいつが国連軍であり、俺の隣に並ぶのなら。これは言わなきゃいけない。
沈黙が場を支配する。
互いに思うことはあっても、これ以上の言葉はない。
もはや平行線でしかないのだから。
「……つき合わせて悪かった。回戦、切るぞ」
「男」
「何だ?」
「貴方は……強いのね」
……違う。
「俺は強くなんてない。お前は今、クーデータの奴等に自分を重ねてるだけなんだ。それじゃ潰れちまうぞ」
「私は、ううん。違うわ。本当につらいのは、あの子……あの方のはずだもの。せめて心くらいは、あの子を」
「お、おい。何の話を」
「ごめんなさい。切るわ」
「待て! 待てよ、言いかけてやめるなんて……」
- 694 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/22(金) 00:08:01.22 ID:BWD/1jbm0
再び短く高い警報音。
切られた、ってことか。
「……はぁ。違うよ、いいんちょ。俺は強くなんてない」
強いて言うなら、割り切りなんだ。『前の世界』で終わりを見た俺だから。
そんなものを見たからこそ、こういった結論になるんだ。
けど、お前達は違う。『日本』って国に対する想いが、違うんだ。
俺からすれば国を意識することなんてオリンピックだの、そういったお祭り騒ぎのときだけだ。
だから、そんな風に志とか、愛国心みたいなものが軽いんだ。
……そういう意味ではお前のほうがずっと強いんじゃないかって、俺は……。
結局、俺の中にある燻った思いは、より深みにはまるだけ。
こんなとき、もっとあいつらと腹を割って話したいと思う。
仲間として。大事な、友人として。
その後、仮眠の時間を取り、交代の時間まで一時的に身体を休めることとなる。
次の休憩役の女さんに引き継ぐ前に、俺はまだ前進に残る気だるさを解消するため、少し風にあたることにした。
「悪いな、すぐ戻るから」
『う、うん。少しくらいなら、だいじょぶ、だよ』
「いいよ、すぐ戻るから。それじゃ、後で」
そうして出てから強化装備の温度調節ですんだ話だと気づく。
まだ寝ぼけているのかと自嘲しながら、離城のほうへ少しだけ歩いてみる。
このあたりは温泉街で有名だったっけ。
『元の世界』ではみんなで温泉とかもいったっけか。……あの馬鹿がえらい騒ぎを起こしまくってくれたもんだが。
「……ばーか」
わずかにもれた笑みをそのまま言葉にする。
思い出が、そのままこぼれるように。
「それにしても、ここを護ったんだよな。近衛軍は」
- 695 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/22(金) 00:08:33.22 ID:BWD/1jbm0
立脚点こそないが、こうして国という象徴を見ることに何も感じないわけじゃない。
学ぶべき点だってあるんだ、ともう少しだけ近づいたその時、
――ペキ
「―――!!!?」
主観的にその場に伏せる。と、同時に強化装備から拳銃を取り出し、油断なく構える。
明らかな他者の存在を知らせる音。初弾の装填を確認し、見つかっている前提のもと、気を張り詰めさせる。
(俺は……人を撃つのか)
迷いはある。けれど、こんな場所で……死ねない!
暗視機能を操作し、敵の居場所を確認する。同時に、情報のリンクを機体、委員長側へと送信し……。
(民間人、か?)
明らかに軍の関係者とは異なる単純な移動。
安堵しながら、声に出して状況を委員長側へと伝える。
避難民か、はたまた不法帰還民か。とにかく避難をさせないと。
一応の可能性を考慮し、銃を構えながらその人物達の前に出る。
「――止まれ」
「な、銃を向けるとは何事ですか! 無礼者、控えなさい!」
そんな言葉を初老の女性からぶつけられて一瞬、たじろく。
けれどそんな事でいちいち困っていられるほど、俺も軍人をやめてない。
「ここは既に作戦区域となっており、現在民間人は速やかな退去を――」
「ふむ。その黒の強化装備、国連の者か」
「ええ、長様。どうやら面倒な連中に見つかってしまったかと」
それに連なって出てくるのは少女と狐目の割烹着姿。
「あの、繰り返しますが当区域は……」
「まずはその銃をおろしなさい! この方に銃を向けるとは何事ですか!」
げんなりしながら状況を委員長側へ送信する。
とりあえず狙撃状態での待機は必要なさそうだし。
「さて。御仁、悪いが保護を頼まれてくれないかね」
しかしよく分からない連中だ。
最初から保護はするつもりだけど、何でこうも偉そうなのか。
「ええ、最初からそのつもりですよ。ですからおとなしく……」
「ほう、気風のいい返事だ。では頼まれてくれるかな、この方を」
そうして、今まで奥に控えていた人物が目の前に現れる。
「……え?」
そこに居たのは、
「日本帝国国務全権代行である、政威大将軍殿下――朱鷺之殿下の御前ぞ、控えなさい!!」
「……」
ほんわりとした笑顔と、柔らかな空気をまとったやんごとなきお方であった。
―― to be continued...
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