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兄妹SS  「輝く日常」 
300 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:22:43.28 ID:u3b+2lCf0
上野と別れたあと公園へと一目散で駆けつける。
真ん中の電灯の下に親父が立っていた。


「遅かったじゃねえか」
「どういうつもりだ!こんな時間に呼びだして!」
語気を荒げて言う。しかし親父は昔と同じ口調で続ける。
「本当は来なくてよかったんだがな、
  いや正確には来てほしくなかったというべきか。」
「は?自分で呼びだしといてなんだよ!!」

「いや、彼には私が呼びだせと言ったんだ。君をね」

後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえた。
ここ3日ほど聞いていなかったが毎日顔を合わせていたんだ。
すぐに声の主が誰だか分かった。
俺は後ろを向いてつぶやいた。

「……長谷川さん。」







301 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:25:39.15 ID:u3b+2lCf0
長谷川さんは今まで俺の知っているどの顔も見せずそこに立っていた。
憎しみを必死に隠して無理に笑顔を浮かべているという感じだ。

「そうだ。俺が呼んだんだ。お前の親父をつかってな。」
「どういう事だ。」
もうこの人に敬語を使うのは俺の中で選択肢としてなくなっていた。
長谷川さん…いや、長谷川はクククとヒクついきながら言った。
「なーに、お前は社長に俺の事についていろいろ言われてたみたいじゃねえか。
 それが全部事実だっただけだ。」
「で、でもあれは昔の話だったんじゃねえのかよ!?」
「は?ばーか。
 あの会社に就職したのは裏で動きやすくする為表の顔が必要だったからだ。
 へたすりゃ何十億の儲けがでるぼろい商売だ。
 2、3年刑務所に入る以上の価値がある。やめられるわけねえだろうが」

「――――ッ!こ、この野郎ぉ」
俺は今までの長谷川の上司としての顔が完全に無くなった長谷川を見て、
絶望感と怒りで頭がおかしくなりそうだった。
そんな俺をにやにやしながら見ながら長谷川は淡々と言った。
「は!俺はお前らに優しく指導してやってる間も
 ずっと仕事なんてしてなかったんだよ。そうさ!
 そこにいるお前の親父と一緒に着々と次の取引の準備をしてたんだよ!!」
――――――ッ!?
はっとして後ろを振り向く。親父が下を向いて立っていた。
俺は信じられず、おやじに言った。
「お、おい」
「………」
親父は何も答えず下を向いたままだ。
長谷川が後ろで続ける。


303 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:29:46.18 ID:u3b+2lCf0
「そうさ!俺とお前の親父は共犯者だ!
 前からずっとドラッグの横流しで食ってた。
 でもある時お前の親父がヘマしゃーがってな。
 サツに捕まりそうになった。だから俺は当然そいつに制裁を下した。」
「それが、リストラってわけか…」
「ああそうさ!辞めさせてやったよ。俺のノルマを全部押しつけてな!
 くくっ、意外とあっさり辞めやがったよそこのゴミは。で
 もせっかく今までのドラッグの横流し経路をこいつのせいでつぶしたくなかった。
 だから俺が居場所を与えてやったってわけだ。」
「居場所?」
「そうだ。そいつは会社員だってお前らに言ってねえか?ホントは違う!
 ヤクの購入ルートを割り出し、取引が安全かどうかを調べるって作業をしてたんだよ!
 ははっまぁ給料は普通の会社員以上のものを与えてやってたから生活に不便はなかっただろうけどな」
「ど、どういう事だ。」
頭が混乱してきた俺に長谷川はさらにたたみかけるように喋る。
「頭悪いなおめー、お前の親父は毎日毎日死ぬか生きるかの作業をしてたんだよ!
 今回もヤクを運ぶルートが安全かどうか確かめるために
 こいつにヤクを持たせて歩かせてたんだ。お前ら家族には出張と言ってたらしいがな。
 …まぁそのルートは失敗だったな。こいつと一緒に行った仲間は国境警備隊に銃殺された。
 こいつは命からがら逃げかえって来たってわけだ。くくく…」

「お、おやじ…てめえ!ほんとなのかよ!!」
俺はすでに信じられないような出来事を聞かされて混乱の絶頂にあった。
なんとかどちらかの確証が欲しくて親父に問い詰める



304 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:35:12.00 ID:u3b+2lCf0
「……」
「おい!なんとか言いやがれ!」
「………事実だ。俺は犯罪者だ。」
「―――――――――ッ!!」
なんと言っていいか、わからなかった。
俺の中で何とかギリギリ保てていた理性が音をたてて崩れていった。
「この馬鹿野郎!」
「ッグ!」
生まれて初めて力いっぱい親父を殴った。
何故か親父は抵抗せず俺に殴られた。
その場に倒れた親父を見るのがなんだか辛くなって長谷川と再び対峙する。

「なんで俺を呼んだ。要件をいえ。」
「は?なんだその態度。それが上司に対する態度かよ?ひゃはは。」
「お前はもう上司でもなんでもねぇ!ただの犯罪者だ!」
激昂しながらそうはっきりと言った俺の言葉に
長谷川のこめかみがぴくぴくと動くのが分かった。
「ほぅ…」
「そうだ!お前はもうただの犯罪者だ!早く捕まりやがれこのカス野郎――ッグ!」
そう言った時だった。
俺の目の前にいきなり詰め寄ってきた長谷川は俺の顔をその拳で殴打した。
俺は派手にふっとんだ。
長谷川は俺よりも体が小さい。その体のどこにこんな力があったのか分らない。
そう思うほど長谷川のパンチは強烈だった。
口の中に血の味がする。口の中を切ったか鼻血が出たかしたらしい。


306 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:38:37.71 ID:u3b+2lCf0
「ぎゃあぎゃあうるせえんだよ!クソガキが!
 てめーの親父には恨みがあるからな。
 会社の名義と偽って俺名義マンションをお前に貸し与えて
 てめーを会社でイジリ倒し、辞めさせ、
 マンションの家賃をぶん取って酒代にでもしてやるつもりだったのによぉ!!
 お前は人一倍仕事ができるときゃーがる。
 いっつもイライラしっぱなしだったぜ!
 だからプロジェクトの直前で疲れているだろうお前に、
 さらに俺の仕事をさせる為に一芝居買って出たってわけだ!
 ひゃはっお前が倒れたって聞いた時は心底喜んだぜ。早く死ねってなぁ!!」

「げぼっグハ!」
倒れたおれの腹を蹴り続けながら長谷川は続ける。

「死ななくて残念でしょうがなかったが、
 当然プロジェクトは失敗!
 お前は責任者として会社を辞めさせられれば俺はもう万々歳だった。
 …が、社長のあのジジイに救急車の件を知られていたのは誤算だった。
 社長がお前と話しているとき俺は扉の向こうに一人でいたんだ。
 全部聴き終えたときの俺の落胆具合ったらねぇぜ。 
 お前はリストラされないどころか昇進しそうにさえなってた。
 それから一週間で仕事に区切りをつけて辞めてやったさ!
 こうしてお前をぶちのめす事を夢見ながらな!!」

「グゥ…お、俺が何をした。」
 何とかギリギリの状態から声をだした。


309 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:43:06.89 ID:u3b+2lCf0
「はっ!お前自身に最初はそこまで恨みはなかったさ。
 でもあのクソ野郎の息子だからな。
 とりあえず会社を辞めされられればそれで満足するつもりだった。
 でもお前はまじめすぎた。
 目障りなぐらい2年でめきめき成長し、頭角を現してきた。
 正直そこの馬鹿の息子だからな。そんな風になるなんて想像もしてなかった。
 正直驚いたさ。そっからだ!
 お前が俺に信頼しているみたいな感じで話しかけてくる度、虫唾が走り始めたのはな!
 恨むならお前の才能と親父を恨むんだなガキ!!」

「ッッぐああ!」



310 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:43:32.69 ID:u3b+2lCf0
そう言終わった長谷川は俺の右足を猛烈な勢いで曲げて言った。
普段経験した事のない痛みに俺はもう何も考えられなくなっていた。
「ぐ、おおお、あああああああああ」

「ふん、苦しめ苦しめ!
 お前の親父はたすけちゃくれねぇぞ!?
 ははっ手を出したらお前の妹…名前は忘れたがそいつをブチ殺すと言ってあるからなぁ!」

「―――――ッ!?」
俺は目を見開いて長谷川の方を見る。

「ははっなーに驚いてんだ!!
 お前に妹が、つまりあいつに娘がいる事ぐらいとっく調べはついてた!」

そう言いながら足をどんどん捻じ曲げていく。


ボキッ

「―――――――!!ぐ、ぐあああああ!!」

長谷川がおれの足から手を話した。
あらぬ方向へ曲がったまま俺の右足は、動かなくなっていた。


311 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:47:34.08 ID:u3b+2lCf0
ガチャ

痛みに悶絶している俺の頭上で、長谷川が何かを用意したらしい。
かすかに体を持ち上げて長谷川の方向を向いた瞬間。

「…う!」
俺の目の前に拳銃の銃口が光っていた。

「けっ!意識を失わないとはたいしたガキだな。
 まっ!これで永遠に目が覚める事はねえがな…は!!」
トリガーを引き上げながら長谷川が残酷な笑みを浮かべる。
「弾は2発しか持ってきてないから的確に狙わなきゃな。
 くくく…まぁ楽しかったぜ?いろいろとよぉ!?
 ……じゃあな!クソガキ!!」
殺される。ただただその意識だけが俺のすべてを支配していた。
全身から汗が噴き出していた。
動こうにも動けない。死刑囚にでもなった気分だ。
長谷川が人差し指に力を込めていく。

ドン!!

一発の銃声が俺に向けて放たれた。

が、それは別の人物の肩を貫通した。



親父だった。


315 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:52:24.35 ID:u3b+2lCf0
「お、おや…じ…?」

「チィ!!…おらぁ!どけ!このカス野郎がぁ!」
長谷川が親父の後頭部を思いっきり殴る。
親父は横にこけたがすぐに立ち上がり言う。
「おい…約束が違うぞ。」
「はぁあ?何の事だぁ!?ひゃはっ!!」
「お前はここに息子を連れてきて憂さを晴らしたら
 もう妹をどうこうしようとはしないと言ったはずだ!!!」
今まで何もしゃべっていないのに
よくこんな大きな声がすぐに出せるなというレベルの
凄まじくドスの聞いた声で親父は長谷川に言った。
長谷川は平然とした様子で
「は?だから今から憂さを晴らすんじゃねえか!
 このガキをブチ殺して憂さ晴らし完了だ。それを邪魔するってのか!?あ?」



317 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:53:24.12 ID:u3b+2lCf0
長谷川はそう言って親父の襟元をつかんだ。するとその瞬間
親父は長谷川を思いっきり殴った。
「ぐぉ!」
長谷川の体が吹っ飛ぶ。

「おらぁ!!何すんだテメー!!!」
長谷川が親父の額に銃を向ける。
「お前から先に殺してやろうかぁ!?」
すると親父は落ち着き払った声で俺にも話しかけるような感じでしゃべり始めた。
「もう俺はもう後悔してんだ。こいつには許してもらうつもりはない。
 それだけの事をやってきた。だから…それはいい。
 でもな、後悔した以上!…もうこれ以上迷惑はかけたくねえんだよ。」

「…ガキを目の前で殺されそうになって助けねえ親が!!どこにいるんだ!!!!!!」
最後は絶叫するように言って長谷川の前に立ちはだかる。


319 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:56:35.96 ID:u3b+2lCf0
「くくくくく…ひゃっはははははぁ!!!!」
長谷川はひとりで爆笑している。
「今更親気取りか!笑わせる!!
 まぁお前はもう用済みだしな。どのみちここでバラすつもりだった。
 もう1発しかねぇからな…拳銃で殺すのはお前にしてやるよ。
 そこのガキは…後でゆっくりと、くくく…殴り殺してやるぜぇぇ!!」

「ふん、そんな事をしている時間はないようだが?」
「あ?」
「聞こえてくるだろ?パトカーの音が」
「―――――――ッ!、チィッ!!」
確かに耳をすませば公園の外の方からパトカーのサイレンが鳴っていた。
どんどん大きくなってきている。
「こんだけ大騒ぎしてりゃあな、
 近所の住民が通報でもしたんだろうよ。
 ここで俺とこいつを殺せばお前のブタ箱行きはほぼ確定だ。」

長谷川は本当に気付かなかったらしい。
銃口を親父から外し、うろうろしながら動揺が顔に出ている。
が、しかし…すぐに表情をもとに戻し止まる。


320 名前:VIPがお送りします。 [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:58:20.89 ID:xiRyYZ1w0
俺は親父を信じていたぜ・・・・・


321 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 20:59:44.62 ID:u3b+2lCf0
「ふ、ふん!!あと5分は来ねえだろ!
 そのうちにお前だけでも殺してここから逃げれば大丈夫だ!
 裏に仲間の車が停めてある。」

そう言ってひゃははと笑った。
再び親父に銃口をむける。

「―――――。」
不意に親父が俺の方を向いて話しかけてきた。
昔の、優しい親父の声だった。
「俺はお前に許してもらうつもりはない。
 ただ妹の誤解はといておいた。あいつは全部知っている。」
「!?」
「あいつを…幸せにしてやれ。こんな親父で…悪かったな。」

「ひゃっはっはぁ!!!さっさとしなくちゃな
 …じゃあなぁ!!、カス野郎!!!」

ドン!


「―――――――――――ッ!!!」

俺の目の前で親父の額にに穴が開いた。即死だった。

「あ、ああ」目の前で親父が倒れた。

「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


322 名前:1 ◆nvHRXDRbXY [] 投稿日:2008/04/29(火) 21:03:01.15 ID:u3b+2lCf0
もう我を忘れていた。長谷川が大笑いをしながら近づいてくる。

「ひゃっはあああ!死んだ!死んだぞ!!
 あとはお前が死ねばいいんだ!ガキが!!!」
そう言って俺の頭を何度も足蹴にする。
「ほらっ!また脳出血とか起こして死んじまえ!!」

「あああああああああ」
それしか言えずに何度も頭を蹴られる。
死ぬほどの痛みが俺を襲っていたがその時は不思議と感覚がなくなっていた。
しばらくして俺が動かなくなったのを確認した長谷川は
「くくく…最高だ。」と言いながら背を向けた。
その瞬間―――――。
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ぐっ!なに!?」
俺は左足で長谷川の左足を思いっきりはじいた。
長谷川が倒れた所で馬乗りになり、長谷川の顔を殴打し続ける。

「おおおおおおおおおおおおおおお」
「ちょ!ぐ!ま、まてゴフッ!や、やめッグ!」
「お前がああああ!!
 お前さえいなければあああああああああああああああああ」
そんな事を言ってたような気がする。
長谷川が気絶したあともしばらく殴り続けた俺は
ようやく長谷川が気絶したのに気づき、


そのまま…意識を失った。



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