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意地悪なメイド4.5
382 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/04/28(木) 00:44:59.01 ID:4Iqm2lQAO
そこは薄暗い部屋。

「いい格好ね、命」

「……」

後ろ手に縛られ、傷のない箇所を探す方が困難なほど傷めつけられた姿。
それを見下ろすのは着崩した着物に身を包む艶姿。
見下す者と見上げる事すら出来ない者。
それは最初から変わらぬ二人の立ち位置。


「相変わらずの無様な姿で安心したわ。あれから数ヶ月でここに辿り着いた事は誉めてあげるわ」

「けれどね。あなたに才能なんてないわ。覚えておきなさい。あなたは本質的に無力で無様で無為なの」

「何かを起こす力もなく誰かに誘われるままの動機。矛盾だらけで何一つ貫き通せない信念。誰も守り得ない無力」

「知らないとでも思っているなら教えてあげるけれど、私があなたを肴にしているの一番の理由はあなたがここに辿り着くまでに吐いたリソース」

「憎い相手から施しを受けた事はまだいいわ。ただ無様なのはそれを自分の力だと勝手に思い込んで私に臨もうとした事よ」

「いい加減悟りなさい。あなたには何一つ成す力はないの。目覚めなさい、あなたの生きるべき道に」

「あなたにしかない、あなただけのやり方。人も人外も関係なく惹きつける体質。それを生き方にしなさい」

「あなたは自身を育てる必要も鍛える事も、ましてや学ばなくてもいいの」

「あなたはあなたが力を求める相手の思い通りに人形をしていなさい。それが最もあなたを高みへ連れて行くわ」

「……お喋りが過ぎたわね。さぁ、あなたの身の振り方がわかった今、やるべき事は何かしら?」

差し出されるのは救いの手などではない。
突きつけられる脚の指先。
そこにひたりと、力なくも震えながら、真っ赤な舌が触れる。
何度も何度も微かに動くそれは、隷奴が主に捧げる無様な愛撫。
切れた口内の血を絡めた舌で必死に救いを乞う姿は、何より彼女を悦ばせる。

「くす。……素敵よ、命。また、愛してあげる」

あれから数ヶ月。
二人の逢瀬は再び従属の誓いから始まった。


401 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 00:37:08.46 ID:4XP15O8AO
「随分回復したわね。喋れる?」

言葉こそ安否の確認だが声音に気遣いはない。
生きている事が不思議なくらいに痛めつけられて数日。命は確かに喋れる程度には回復していた。

「ああ。喋れる度にまだ血の味がするけどな」

壁に体重を預け座して対面するのがやっとの姿。
力ないその姿に正面の委員長は嘲笑う。

「そう。それなら結構。早速仕事の話よ」

「……」

動けない、と言うは容易い。けれど言えばそれより容易すく自身の命が途切れるだろう。
そんな予感をさせる圧を感じ取り、今は黙る。

「最初に必要なのはあなたが今のあなたを捨てる事。その上でこちら側に属する事かしら」

「具体的に何をすればいい」

「そうね。名前も立場も捨てて、私のモノとしてなればいいわ。前のような口約束ではなく、正式な契約として」

「余計わからねぇよ」

口に溜まった唾を飲み下す事すらままならず言葉と共にに吐き出す。
赤色の混じったそれを愉快気に見つめ、委員長は契約の内容を告げる。

「まずはこの羊皮紙にサインを。名前だけでいいわ。但し自身の血液で」

「悪魔でも召還すんのかよ」

オカルトじみたその行為に不安を覚えつつも目の前に放られた紙に目を落とす。
署名欄らしき部分に未だに残る傷跡から自らの血をインクとし、名を落とす。

「……貴方、本当にバカなのね」

「あ?」

その様子を眺めながら彼女は嘲笑う。

「内容も確かめず盲目的。可愛くはあるけれど無様でしかないわ」

「何だよ。お前がサインしろって言うから」

「今後貴方が踏み入れる世界は名前も血も、髪の毛一本ですら命に関わるわ。悟りなさい。貴方は今一度命を落としたのだと」

告げながら持ち上げた羊皮紙を着崩した着物の胸元にしまい、たった一言、

「『駄狗。息をするな』」

「……、……!!」

命じられ、呼吸が奪われる。


404 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 00:55:13.66 ID:4XP15O8AO
「こういう事よ。契約というのは」

「……!!」

酸素を求め陸で溺れる哀れな姿。
その頬に優しく手を添え、

「このまま死ぬのもいいんじゃないかしら。よく言うでしょ、バカは死んでも治らない」

見せ物を嘲笑うその顔は邪悪そのもの。
かつて共に時を過ごした中でも見せなかった表情。
絶望と生命の危機に、ただひたすらに助けを瞳から訴える。
それに気付いているのか、あるいは元よりそのつもりだったのか。

「ん」

長い口づけを交わす。唇が僅かに震えた。

「ぶはっ! はぁ、はぁ!」

僅かな後、唇が離れた瞬間から命は呼吸を取り戻す。
文字通り溺れかけた命はもはや座することすら叶わず床に臥す。

「ふふ。私が意地悪な相手でなくて良かったわね」

「ひゅー……はぁ、ひゅー……」

もはや言い返す言葉さえなく、ただ見上げるのみの命。

「改めてようこそ。こちら側へ」

その様子に満足する委員長。

ただ、一つ彼女に誤算があったとすれば。

「……かま、わない」

「何がかしら」

途切れる呼吸の合間から、拾われた言葉。

「あんた、なら……ころ、さ……ごほっ! た、って」

「……くす。そう、貴方はただのバカでは無かったわね。ええ、そうだったわ」

そう。あの日、あの森で交わした口約束。
しかしそれは未だに命を縛り、従属させる。

「だから今回は正式に魂だけでなく身体も私にくれた。それだけなのよね」

頷きこそしないが、それが命の言い分。在り方。

「くす。あはははは!」

その誤算にただ委員長は告げる。

「自分では何も決められない、救いようのない、可愛い私の狗。命尽きるまで飼ってあげる」

命。齢十八。
こうして彼の命の行方は大きく定められたのだった。


417 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/11(水) 00:52:51.77 ID:JVhzrJwAO
命「動けるようになったら早速使われるのか」

委員長「ええ。しばらくは屋敷内で使うつもりだけれど」

命「ここ、お前の屋敷なのか」

委員長「まさか。ただ多少他の人間より待遇がいいだけね。ペットを飼えるくらいには」

命「……。だからって首輪かよ」

委員長「似合うわよ」

命「くそ。っかし、広いな」

委員長「そうね。かなりの規模かしら。少なくとも全部を回れば一日かかるわね」

命「マジかよ」

委員長「ええ。さぁ、そろそろね」

命「そういや俺はどこに連れてかれてるんだ」

委員長「そうね。分かりやすく言うなら一番偉い人のところ、かしら」

命「ふぅん」

委員長「畏まる必要はないわ」

命「元から畏まるつもりはないけどな」

委員長「結構。入るわよ」

命「おう」


418 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/11(水) 01:08:22.73 ID:JVhzrJwAO
長「待っておったよ」

割烹着「相変わらず無礼な入室ですね。困ります」

委員長「もっと困らせるにはどうしたらいいかしら」

割烹着「もう。あら、そちらが?」

命「……」

委員長「いいでしょ。あげないわよ」

割烹着「要りませんよぉ。可愛げはありますけどまだまだ手ばかりかかりそうですし」

委員長「それを楽しむのも飼い主の特権よ」

長「はは、相変わらずよな。今回もご苦労。首尾は上々とは聞いたが」

委員長「そうね。前回みたいにイレギュラーな要素がない分、スマートに終わったわ。つまらないくらいに」

割烹着「んもー、仕事なんだから当然じゃないですか。前回みたいに好き勝手やられると後始末も大変なんですよ」

委員長「前にも聞いたわ。だから今回はつまらないと言ったのよ」

割烹着「性格悪いですねー」

命「あのよ」

割烹着「おや? なんですか。ここのわんちゃんは勝手に吠えるんですか」

命「ちっ。……あのよ」

委員長「何かしら」

命「これが一番偉い奴なのか?」

長「ふむ? いかにもだが」

命「このちんまい娘がトップかよ。大丈夫か、おい」

割烹着「失礼な。長様は可愛いだけのお飾りなんですからこれでいいんです!」

長「お前のがよっぽど失礼だよ」

委員長「くす。……嘘ばっかり」

命「あン?」

割烹着「失礼じゃないです。言うなれば長様に威厳がないのがいけないんじゃないですか」

長「身体的特徴で人をけなすのは良くないなぁ」

割烹着「可愛いは罪!」

長「この従者は……」

委員長「お楽しみ中悪いけれど、この子を飼うのだけ許可してもらっていいかしら」

長「ああ、構わんよ。但しうちの側としての役割以上は使わないように」

割烹着「前回はその辺の関係で“あちらさん”がうるさかったんですからね。がっぽりふんだくってやりましたけど」

委員長「ええ、心得てるわ。それじゃあ」

長「ああ」

割烹着「次の仕事までごゆっくり〜」

命「……」


419 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/11(水) 01:15:26.55 ID:JVhzrJwAO
すたすた

命「なぁ」

委員長「何かしら」

命「……。マジであれなのか」

委員長「要領を得ないわね」

命「マジであの狐目とガキみたいな奴が偉いのかって事だよ」

委員長「そうね。長は見た目こそ幼いけれどあれでかなりの年齢よ。狐みたいな方は参謀役ね」

命「ふぅん……まぁ長とかいう奴はまだしも狐目はいい身体してたな」

委員長「手を出すなら命がけね。見てる側は楽しいからどんどんやりなさい」

命「その内な。で、挨拶が済んだんだ。仕事に入るんだよな」

委員長「挨拶はまだしばらくあるわよ。そう焦らないでいいわ」

命「……」

委員長「後、そうね」

命「何だよ」

委員長「次からの挨拶は基本的に黙っていた方が身のためかもしれないわね」

命「俺は俺のやりたいようにやる」

委員長「そう。好きになさい。私は手出ししないから」

命「元よりそのつもりだって」

委員長「……くす。それじゃあ次よ」


420 名前:NIPPERがお送りします [sage saga] 投稿日:2011/05/11(水) 10:41:21.71 ID:EuXu+7izo
「俺は俺のやりたいようにやる」キリッ

    i〜〜〜〜i
  /レ´⌒⌒`ヽi  だっておwwwwwwww
  i'|{_ノl|_|i_トil_|i  そwれwでww命乞いwwwwww下僕wwwwwww
 i'|{ (@  @)\
 |,  リ。゚  ワ_丿|゚。) バン
丿〜/)|r| /) バン
(__つ ̄ _つ))   ←ママン



422 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/12(木) 00:49:42.96 ID:G4VQ0cgAO
委員長「そこが可愛いのに」

メ「いやいや、この真性本当どっか頭沸いてるでしょ」

委員長「そうかしら」

メ「自分で何一つ為せないのに態度だけは一人前。危険には誰より敏感で得意なのは命乞い。顔はいいけど中身は子供。何がいいのか」

委員長「顔が好みかしら」

メ「後はうちの子だから?」

委員長「そうね」

メ「八つ当たりだし逆恨み入ってないすか?」

委員長「私から何か仕向けた覚えはないわよ」

メ「自滅に追い込むくせに」

委員長「尻尾を振ってきたのはあの子よ」

メ「まぁ今後どうなろうとしったこっちゃないですが」

委員長「……。憐れな姿が見たいから程ほどに手を差し伸べてもらいたいわね」

メ「あのバカは何の恥もなく掴みやがるから嫌っす」

委員長「それを自分が為したように感じてまた強がる様が見たいわ」

メ「歪んどる」

委員長「自覚はあるわよ」

メ「……ま、私が無視しても主様と妹子が勝手に何かしますよ」

委員長「楽しみにしてるわ」

メ「いやー。我が身内ながら笑うしかねぇわ、本当」


428 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/13(金) 00:33:55.17 ID:8+2dsXoAO
委員長「今ので一通り紹介は終わりよ」

命「……」

委員長「あら。最初の威勢はどうしたの? 少し身体を壊したくらいで情けないわよ」

命「……、……」

委員長「引きずられるのが嫌なのかしら。仕方ないでしょう。自分で立てもしない子を連れなきゃいけないのだから」

委員長「それとも捨て置けばいいのかしら。確実に焼却炉行きでしょうけれど」

委員長「……くす。私ばかり喋ってしまっているわね。いけないわ。上機嫌になってしまうの」

命「……、ね」

委員長「ふふ、悪態をつくくらいには元気なのかしら。だったら躾ないと」

ドゴッ……!

命「ひ、ぐっ?!」

委員長「声もまだ出るじゃない。いいわよ、もっと鳴いて」

命「ひ、ぁ……!」

委員長「安心なさい。あいつらと同じように顔だけは傷なんてつけないわ。だから同じ場所だけ踏んであげる」

ゴスッ!!

命「……〜〜〜ッ!!?」

委員長「ふふ。怯えた目で誘うなんてずるいわ。部屋に帰ったらうんと可愛がってあげる」

命「……、ぁ……」

委員長「可愛い子」


429 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/13(金) 00:45:59.61 ID:8+2dsXoAO
命「……」

委員長「食べないのかしら。それなら早く書類整理に戻りなさい」

命「食うよ! ……くそ」

委員長「ふふ。大分傷は癒えたみたいね。ひと月はかかりすぎだけれど」

命「まだ飯すらまともに食えねぇっての。ああくそ、喋るだけで痛みやがる」

委員長「たかだか臓物を痛めつけられただけじゃない」

命「骨も折れたって。まだくっついてるか怪しいのに書類を山ほど回しやがって……リハビリにしたってだな」

委員長「リハビリ? したいならさせるわよ。貴方が死にたくないなんて泣くから退屈な仕事を渡しているだけ」

命「なっ、あれは……!」

委員長「怪我さえ治れば良かったその場しのぎの演技よね。ふふ、わかっているわよ。安心なさい」

命「な、おま……、っ。くそ!」

委員長「くす。可愛いわね、本当。けれど確かに怠惰に飼うだけもつまらないわね。明日からリハビリよ」

命「断ってもやるんだろ」

委員長「ええ。貴方にそんな権利はないもの」

命「ああもう……好きにしてくれ」

委員長(くす。未だに立場すら理解出来ず、流される中で自分の意志すらなく、ただ愉しく生きたいとただ願うのみ)

委員長(嗚呼、あの人の顔で、もっと虐げられて。それが私の……)

命「何だよ。じっと見て」

委員長「きなさい。気分がいいわ。遊んであげる」

命「なっ……訳わからん」

委員長「くすくす」


432 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/16(月) 01:00:56.77 ID:B8QGyP8AO
命「が、っ……! 痛っ……」

委員長「情けないわね。たかだか寝込みじゃない。わざわざ音まで出してあげたのに」

命「いきなり、何しやがんだ……!」

委員長「リハビリの一環かしら。次は蹴られる前に起きるようにしなさい」

命「ふざけんな! さっきだってリハビリとかぬかして延々筋トレなんかさせやがる!」

委員長「なまった身体にはちょうどいいでしょう?」

命「それだけならまだしも、してる最中に蹴りいれるわ、回数が少ないから今晩は飯抜きだ、好き勝手やりやがって」

委員長「張り合いと緊張感が出るでしょう?」

命「ただのイジメだろ、このサディストめ……」

委員長「それだけ悪態がつければ充分ね。ああ、それと」

命「あ? ……ぬぁ!?」

ヒュン

委員長「あら、いい反応ね」

命「ま、またいきなり……」

委員長「次も頑張ってかわしなさい。痛い思いをしたくないなら、ね」

命「……くそっ」


442 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/05/19(木) 00:12:29.32 ID:5/5SFpZAO
委員長「あら」

命「っぶね! く、毎回毎回蹴られてたまるかよ!」

委員長「いい反応になってきたわね。ひと月でこれなら少しは誉めてあげてもいいかしら」

命「嬉しくねぇよ」

委員長「ふふ」

委員長(飼いころしてあげたいけれどこちらに来た以上、前までのようには楽しめないわね)

命「んだよ」

委員長「何でもないわ」

委員長(あまり気は進まないけれど……もう少し手を加えようかしら。勝手に消えられてもつまらないもの)

委員長「命」

命「何でもないんじゃないのかよ」

委員長「もうすぐ私の顔馴染みがここを訪ねてくるわ」

命「顔馴染み?」

委員長「ええ。彼女は私を慕ってくれるのだけれど少々過激な子なの」

命「過激、ね。経験上何となくヤバいのだけはわかってきた」

委員長「そうね。その子とは私がすぐにここを出てばかりなせいであまり出会わないけれど今回はそうもいかなくて」

命「……で、それが何なんだよ」

委員長「その子に酷い事されないように頑張りなさい、という話よ」

命「頑張るって、何を」

委員長「少なくとも今あなたのしているリハビリは無駄ではないわね」

命「オーライ。自分の身は自分で何とかしろって事か」

委員長「そうね。何とかできるなら話は早いわね」

命「……どうせヤバいのは分かってる。その、だから……」

委員長「私が入れ込むと余計に状況は悲惨になるわね」

命「マジかよ」

委員長「くす。それなりに足掻きなさい。見ていてあげるから」

命「……悪趣味め」

委員長「今更でしょう」



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