■戻る■ 下へ
市松人形「私……呪われてますから」
- 434 名前: ◆j9t2MtZrb2 []
投稿日:2013/03/28(木) 08:43:49.68 ID:GTJxri1i0
▼病院/集中治療室
―― ピッ ピッ ピッ ピッ
男「…………」
―― ピッ ピッ ピッ ピッ
「先生、あの急患の彼はどうでしょうか?」
「最善は尽くした。・……だが傷が深く、出血も多い」
「…………」
「……今夜が峠だ」
- 435 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 08:45:16.79 ID:GTJxri1i0
▼深夜/崩れかけたビルの中
――グスッ。
――グスッ グスッ。
市「私のせいだ……」グスッ
市「私が連れてかれるから……私が何もできないから……」
市「私が……、私の呪いのせいで……」グスッ
市「やっぱり私なんかが、男さんの近くにいちゃいけなかったんだ……」
市「男さん……ごめんなさい。ごめんなさい」ボロボロ
市「男さん……男さぁん……」ボロボロ
- 436 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 08:48:26.74 ID:GTJxri1i0
市は膝を抱え、何度も自らを責め、男に謝り続けていた。
誰もいない冷たい静寂に包まれ、誰にも聞こえない市の泣き声が響く。
市「お願いします……神様……」
市「神様、男さんを助けてください……」
市「お願いします……」
市が小さく呟いた時、白金色の光が市から溢れ出した。
光は大きくなり徐々に市を飲み込み――
――そして市は消えた。
- 437 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 08:52:13.39 ID:GTJxri1i0
▼深夜/病院/集中治療室
市『あれ……ここは……?』
男「……」 ピッ ピッ ピッ ピッ
市『お、男さん……!』
市『ごめんなさい……私のせいで……』
市『男さん、ごめんなさい……』
市が男の頬を指で優しくなぞると、包むように透けていく。
人工呼吸器と包帯の痛々しさを除けば普段と男の変わらない寝顔がそこにある。
しかし男が目を覚ます気配は微塵も感じられなかった。
男の鼓動の有無を表す無機質な電子音が鳴り響いている。
この部屋の静寂もまた、冷たいものだった。
- 439 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 08:55:15.08 ID:GTJxri1i0
市『男さん、前に約束しましたよね……』
市『呪いなんかに負けないって……』
市『なのに……なのに……』グスッ
市『起きてください……お願いですから……』ボロボロ
市『イヤだよ……。グスッ、こんなのイヤだよっ……!』
市『一緒にいたいよ! 離れたくないよ!』
市『死なないで、男さん……グスッ、死んじゃヤダよぉ!』ボロボロ
市『男さん、お願いですから……目を開けてよ……』ボロボロ
- 440 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 08:58:40.68 ID:GTJxri1i0
市は男の体に顔を伏せ、泣き叫んだ。
しかし、院内に響き渡るような市の泣き声は、誰の耳にも届かない。
無情にも市の言葉は、どの人間にも聞こえない。
幾つもの市の涙が頬を伝って滴り落ちる。
その雫でさえも市の体と同じく絶対的不干渉な存在であり、男の体を透過し、地面にすら跡を残さず消えていく――
――そのはずだった。
市の体が再び白金色に輝き始める。
そして男に、光り輝く市の涙が零れ落ちると、男の体もそれに呼応するかのように光が伝わっていく。
やがて市と男は眩いの光に包まれた。
市は男の手を覆うように握り、男の寝顔に自分の額を寄せ、泣きながら祈り続けた。
- 441 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:02:07.87 ID:GTJxri1i0
市『神様、お願いします……』
市『私はどうなってもかまいません』
市『どうか……どうか男さんを助けてください……』
市『お願いします……!』
男と市を覆う光は輝きを増していき、やがて無数の光の粒となって大きく弾けた。
それと同時に市の姿は消えていた。
飛散した小さな光の粒たちがゆらゆらと粉雪のように降り注ぎ、男の体の中に溶け込んでいく。
- 443 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:04:25.32 ID:GTJxri1i0
――オトコサン……。
男「……ん、……んン」パチッ
男「…………あれ、……ここは?」
「!? せ、先生!男さんが、男さんが!」ダダダッ
男「…………市?」
- 444 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:08:13.69 ID:GTJxri1i0
▼朝/病院の外
男「先生、お世話になりました」
「いやいや。私は大したことはできてないよ」
「あの傷が翌日には塞がってる上に痕も無くなってるなんて……」
「私はまるで夢も見ているかのようだ」
「もしくは、これは奇跡だな」
男「奇跡、ですか……」
「具合が悪くなったらいつでも来なさい」
男「はい、わかりました。それでは」ペコッ
- 445 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:10:59.16 ID:GTJxri1i0
▼倒壊しかけたビルの中
男「……」
人形「 」
男「……」ヒョイッ
男(よかった。壊れてないし傷もないな。少し汚れちゃったけど……)
男(あとは……)
男 スタスタ
- 446 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:12:19.89 ID:GTJxri1i0
――グスッ。
男「……」
――グスッ、グスッ。
男「……市」
市「!?」
男「おまたせ」ニコッ
市「……男……さん」グスッ
男「心配かけてゴメンな。無事退院できたよ。さぁ、帰ろう」
市「うぅ〜。グスッ」ボロボロ
男「そんなに泣くなよ」
市「だって……だって!」ダッ
- 448 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:14:08.44 ID:GTJxri1i0
市は俺の胸に飛び込んでくると、透き通った手を腰から背中へと回して、大きな声で泣き始めた。
市「うぇ〜〜ん! 男さぁん! 男さぁぁん〜!」ボロボロ
男「市……」
触れられないとわかっていても、俺は市を抱き返していた。
- 449 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:16:34.11 ID:GTJxri1i0
男「落ち着いたか?」
市「……はい」グスッ
市「すみません。お見苦しい姿をお見せしまして……」
男「……なぁ、市」
市「はい、なんでしょうか?」
男「俺さ、倒れた後のこと、何となく覚えてんだ」
- 450 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:19:23.12 ID:GTJxri1i0
男「ずっと真っ暗な中にいたんだ」
男「立ってるのか、座ってるのか、寝てるのかもわからなくて」
男「時間の感覚もわからなくて、すごく不安だった」
男「そしたら突然目の前が明るくなって、体中が暖かくなって」
男「市が必死に俺のことを呼ぶ声が聞こえてきた」
男「……それでわかったんだ」
男「市がそばにいてくれてるんだって。俺が助かるように祈ってくれるんだって」
男「そう思ったらもう、何も不安なんてなかったよ」
- 451 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:23:44.78 ID:GTJxri1i0
市「……私、助けも呼べなくて、何も出来なくて」
市「男さんが運ばれてからも、ここでずっと泣いてたんです」
市「そしたらいつの間にか男さんの所にいて」
市「でも私、何もできないから、ずっと神様にお願いしてました」
市「男さんを助けてください、って」
市「男さんが助かったのは、もしかしたら神様が私の願いを叶えてくれたのかもしれませんね」ニコッ
男「……そうかもしれない。いや、もしかしたら根本的に違うのかもしれない」
市「?」
- 452 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:25:50.08 ID:GTJxri1i0
男「お前は本当は呪いの人形なんかじゃなくて」
男「願いを叶えるマジナイの人形なのかもな」ニコッ
市「そう、なんですかね。えへへ///」
男「アホだけど」
市「ア、アホじゃありませんよ!」
- 453 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:28:28.20 ID:GTJxri1i0
男「それにしても、本当によかったよ」
市「何がですか?」
男「こうやってまた、お前と話せることがすごく嬉しくて」ニコッ
市「そ、そう……ですか///」ゴニョゴニョ
男「……市、真面目に聞いてほしいんだけどさ」
市「何でしょうか?」
男「俺……お前に言いたいことがあるんだ」
市「男さん、それって、まさか……!?」
- 454 名前:VIPがお送りします [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:28:44.83 ID:MdOcArzo0
まさかこんな時間になるとは・・・
- 455 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:32:49.74 ID:GTJxri1i0
男「今回のことで俺、本当の意味で気づいたんだ」
市「あわわわわわ!」アセアセ
男「お前がどれだけ大切か、って」
市「はわわ! はわわわ!」アセアセ
男「俺、お前のことが――」
市「お、男さん! ちょっと待ってください! タイムです!」
男「……なんだよ。今、大事なとこなんだけど」
市「あのですね、そのですね。何と言うか……私、心の準備がまだ――」
男「市! 俺は、お前が好きだ!」
市「はぅ!?///」ドキ
- 456 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:34:48.57 ID:GTJxri1i0
男「お前とずっと一緒にいたい!」
男「呪いなんかにも、もう絶対負けない!」
男「お前に触れられないのが悔しいけど……」
男「ずっとずっと俺の傍にいて欲しいんだ!」
男「持ち主とか人形とかじゃなくて、恋人として!///」
市「……//////」
男「……//////」
- 457 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:36:01.54 ID:GTJxri1i0
男「……市は俺のことどう思ってるんだ?///」
市「私ですか!?///」
男 コクリ
市「あの……その……私にとって男さんは……その……」
市「もも、持ち主というか、ご主人様というか……」
男 ジトーッ
市「わっ、私は! そのっ、私も、おおお男さんのこと……、その……」
市「………………………好きですよ/////」ボソッ
男「よかった。大好きだよ、市」ニコッ
市「うっ……うわー!男さんのバカー!助平ー!不埒物ー!/////」 ピュー
男「おい、どこ行くんだよ!」
- 458 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:38:04.67 ID:GTJxri1i0
男「おーい、市! 待てって!」
市 クルッ
男「?」
市「男さーん! 私も大好きですよー! 早くおウチに帰りましょー!」ノシ ブンブン
男「………」キョトン
男「………ぷっ。あははははっ」
市「男さん、何笑ってるんですか! 早く早くー!」
男「わかったよ! 今行く!」ダッ
- 459 名前:VIPがお送りします [sage] 投稿日:2013/03/28(木) 09:38:53.60 ID:9adJoVlp0
次からはSS速報でやろう、な!
- 460 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:39:38.65 ID:GTJxri1i0
▼卒業式の前日/朝/男宅
男「明日でこの制服ともお別れか」
市「うぅ〜。最後に一度でいいから、私も学校行きたい〜」
男「無茶言うなって。良い子でお留守番してなさい」
市「ふぁ〜い……」
男「それでよし」
市「……」ジーッ
男「な、なんだよ」
市「いや……その……」
男「だからなんだっての」バシバシ
市「言います! 言いますから私(人形)を叩かないで!」
- 461 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:41:30.80 ID:GTJxri1i0
市「あのですね……。男さん、昔に比べて表情が豊かになったな〜って思って」
男「ん? そうか?」
市「はい! 最初はこ〜んな感じで何でも睨んでトゲトゲしかったですけど」
市「最近は笑顔が多くて。それがなんだか嬉しくて……えへへ///」
男「…………お前のおかげだよ」ボソッ
市「えっ? 何ですか?」
男「――うるさいっ!/// お前なんかこうだ!///」バサバサ
市「やめてー! 髪の毛ボサボサにしないでー!」
- 462 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:44:30.95 ID:GTJxri1i0
男「それじゃ。行ってきます」
市「はーい!行ってらっしゃーい!」ノシ ブンブン
―― ガチャッ、パタン。
市「制服姿の男さんを見送れるのも、もうあと少しなんですね」
市「大人になられましたよね。初めて会った時なんて、ふふ」クスクス
市「……あれっ」
市「私、手が……消えかけてる……」
- 463 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:46:13.86 ID:GTJxri1i0
▼学校/教室
担任「……明日はついにお前らの卒業式だな」
クラスメイト 「「「 ………… 」」」
担任「長いようで短かった3年間、それぞれ思うことはあるだろう」
担任「お前たちに最後に言っておきたいことがある」
担任「俺は、お前たちのクラスを担任できてよかったと本当に思ってる」
担任「俺はこれからも、どんな時でもお前らの味方だ」
担任「いつでも応援してる、見守ってるのを忘れないでほしい」
女友「な〜に最後だけカッコつけちゃってんだか、アイツ」
女「でも先生、学園祭とか本当に楽しんでたよね」
委員長「先生……」グスッ
男「……」
担任「明日は高校生活最後の大舞台だ! 気合入れて行けよ!」
クラスメイト 「「「 ハイッ! 」」」
- 464 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:46:56.11 ID:GTJxri1i0
▼放課後/学校/下駄箱
女「男くん」
男「ん、女か」
女「……もう卒業なんだね」
男「そうだな。早かったよな」
女「うん。早かった」
女「特に、男くんと仲良くなってからは早かったよ。本当に」
男「俺もだ」ニコッ
女「///」ドキッ
- 465 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:48:43.93 ID:GTJxri1i0
女「…………」
男「…………」
女「……あ、あのね男くん」
男「何?」
女「私……私ね……」
女「………………」
男「?」
- 466 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:50:19.02 ID:GTJxri1i0
女「…・………」
女「……え〜っと、その、高校卒業しても、私と友達でいてよね!」
男「あぁ、当たり前だろ。これからもよろしくな」
女「うん!///」
男「それじゃ、また明日な」
女「うん。バイバイ///」
- 467 名前: ◆j9t2MtZrb2 [] 投稿日:2013/03/28(木) 09:51:38.85 ID:GTJxri1i0
女「…………行っちゃった。」
女「好きだよ、男くん……」
女友「よっ。お疲れさん」
女「なっ、女友! いつからいたの!?」
女友「最初からいたよ」
委員長「女さん。抜け駆けは……ズルイです……」
女「委員長ちゃんまで!?」
女友「いや〜、見事なヘタレっぷりだったな!」
女「う……うるさいな! これからなの!///」
委員長「私も……負けませんよ!」
女友「やれやれ……」
次へ 戻る 上へ