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今、彼女が空へ向ける機械は誰にも愛されぬ彼の思い出
40 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:07:12 ID:czYYFPfk





博士「いらっしゃーい」

女「うぅ〜……やっぱりまだ夜は冷えるね〜…」

博士「暖かいミルクコーヒーをご馳走しましょう」コポポ

女「でかした!」アッタカイナリィ…


41 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:07:26 ID:czYYFPfk
女「ところで、こんな夜に一体何を見せてくれるの?」

博士「まぁ、まずは夜空でも眺めようよ」

女「夜空なら私の町でも見れるよ?あ……あれね、レティクル座だよ」

博士「あぁ、知ってるさ。じゃあその下にあるのは?」

女「あれは御使い座。レティクルの神様に仕える天使でしょ?」

博士「そうだよ」

女「ねぇ、博士はレティクルの神様と少女のお話、知ってる?」

博士「ろんもち」


42 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:08:10 ID:czYYFPfk
ある日、孤独な一人の少女が沼に溺れて、その短い生涯に幕を降ろした。

少女には友達など無く、孤独の少女は孤独のまま死んでいった。レティクルの神様だけがそれをただ物憂げに見つめていた。

孤独なはずった少女、それを悼む学徒達、友達だったように泣いていた。


大して仲良くもなかったのに。仲の良かったように。
仮面からペテンの涙を累々と。



而して少女の亡骸は孤独に荼毘されて、魂は煙となって蝶のように舞うはずだった。はずだったのだ。


43 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:08:42 ID:czYYFPfk
少女は願った。
神様、どうか神様、お願いします。

みんなみんな、灰に変えてしまって。
惨めに漂う灰へ。
私が知る全てを、灰にかえてください。


レティクルの神様は天使を遣わせた。
笑う天使の放つ矢は、5100度の火炎。


心の底から泣き叫ぶ少女達を、天使は笑って許さない。


少女の屍は唄うのさ。


浮いて漂え、空に水面に惨めに漂う灰になれ


46 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:17:27 ID:czYYFPfk
博士「そして少女は165日に一度来るレティクルの夜に蘇るようになった。神様はその夜は死者を蘇らせる夜とした。おしまい」

女「……このお話を作った人は一体何を思ってたんだろうね……誰一人として救われないよ」

博士「いや……多分救うとか救わないとかじゃないよ。少女は救われたかったんじゃないんだし」


47 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:17:43 ID:czYYFPfk
女「じゃあ、何?」

博士「仲間が欲しいとか、そんな贅沢は望まなかったんだ。せめて、せめてこの世界を少女は自分と平等にしたかったんだ。神様はそんな少女の願いを叶えただけ」

女「傍迷惑だね」

博士「そうかな……そうかもね。多分、みんなが孤独だったなら、少女は望まなかったろうね」


48 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:18:17 ID:czYYFPfk
博士「さて……お話はおしまい。そろそろ本題に移ろうか。この機械を使って」

女「天使を呼ぶ機械?」

博士「そう。これで……」カチン


博士「ほら、空を見上げて」

女「うわぁ……」


49 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:18:41 ID:czYYFPfk
ほら、ご覧。天使呼ぶ為の機械さ



これで消せる人の悲しみも


空へ……


女「流星、群……」


博士「正確には火球だね。この星には毎日数え切れない程の隕石が落ちてきてるんだ。あ、知ってる?月のクレーター、アレ、隕石の跡って言われてるけどさ、多分違うと思うんだ。で詳しい原理は端折るけどこの機械で隕石の方向を大きく変えたんだ」


50 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:19:34 ID:czYYFPfk
女「綺麗……御使い座の方角から沢山落ちてきてる……天使の羽だね……願い事を叶える神様の御使い」

博士「そうか……この地方の言い伝えじゃ天使の羽って言うんだっけ。この機械で、僕は人を救うんだ。誰にも信じられなくとも、誰も救いを求めてなくとも。僕は自分で救うんだ」

女「救えるわ。天使の羽が降り注いでいるんだもの。私が、お願いするもの」



今、二人が空へ向ける機械は
誰にも愛されぬ彼の悲しみ


51 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:20:08 ID:czYYFPfk
彼女だけが一人男を信じた




女「ねぇ、さっきのお話……きっと少女は一人じゃなかったと思うな」

博士「……どうして?」

女「レティクルの神様は多分、少女を愛してたんだよ。」


きっと、二人だけには降ってくるのだろう


博士「……そう、かもね……」



天使、翼が……


52 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:21:07 ID:czYYFPfk
研究員「やはり……ダメですね。ベースが死体では動いても精々が三十分……」

主任「ステーシー計画は無理か……生きた材料を使うとするか」

研究員B「極刑囚を使う認可は既に下りていますが……」

主任「恩赦を餌に奴らを使うと?生きた人間から作り出すのに一体幾ら費用がかかると思うのだね。それに改造後の事後処理も面倒だ。死刑囚がまともに働くとは思えんよ」


53 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:21:46 ID:czYYFPfk
研究員「しかしトリフィド条約は改正されました……」

主任「その通り。我々は十字架を背負わねばならない。だから雄志を募る、と言う手段もあるのだ。この世にごまんといる反機械思想の人間……それを使えば、どうとでもなろうに」

研究員C「主任……!それはあまりにも……!」

研究員B「おい、おい、お前そんなものを気にするのか?通常人の意識とはもう既に違うだろ。俺達は、まともを隔てた壁の、こっち側だ」


54 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:22:17 ID:czYYFPfk
研究員「神の御業ですね……」

研究員B「いや、悪魔の所業だろコレは」

主任「……人智を越えた技術だから神の域だとか、人道を外れた行為だから悪魔の法だとか、そんな程度の話か。話にならん」

主任「神が人以上のものなわけがない」


主任「機械を作り出した人類が、神の作った身体を淘汰するのだからな」


55 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:22:52 ID:czYYFPfk
傭兵「ハッハッハハァ!!去にさらせぇ!」


ゴガン


機械「$?@ー8\\&%……」ギギギ


ドズン…


手にした手斧を、斜め三十度で機械の頭部へと。
切るのではなく、叩く。そこへの一撃の脆さは、傭兵の長い経験上確約された常套手段。


モブG「すげぇ……やっぱり一撃だ」


モブT「傭兵さん!後ろ!」


傭兵「破ァ!!」


56 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:23:10 ID:czYYFPfk
振り向き、トマホークをブン投げて、しかしそれは外れ。


傭兵「そらぁ……外すわなぁ」


機械「gi」



機械の武器は四つ。片手に破砕用の斧に、もう一つは腕そのものが機関銃。そして機動力、感じない恐怖心。


傭兵の武器は三つ。ソード・オフ・トレンチガンと卓越した身体能力と麻痺した恐怖心。


57 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:23:43 ID:czYYFPfk
機械「TRO.G」カチャ


パララララララ


傭兵「う ぉ、あ、ゃば!」

機械「SPW1%8M」

傭兵「あんまよぉ、調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!!」ダッ


58 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:24:07 ID:czYYFPfk
機械「!?」

傭兵「トロいんだよ」ガチャリ

傭兵「鉄くず!」


ズドン


傭兵「ふぅ〜……今日は……三体か…」

モブG「マジで……すげぇ……人間じゃねぇ」

傭兵「いや、人間だよ俺。人間でも人間越えることは出来るだけ」


59 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:25:07 ID:czYYFPfk
傭兵「ただいま〜」

女友「あ、おかえりー。今日は何体?」

傭兵「三体。ちょろいわ」

女友「相変わらずよく働くよね」

傭兵「これで食ってるからなぁ。趣味と実益兼ねてるし」

女友「……傭兵さんがここに来てからもうどれくらい経つのかな?」


60 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:25:28 ID:czYYFPfk
傭兵「1ヶ月そこら?」

女友「よくたった一人で町を守ってるよね」

傭兵「俺が優秀だからな。全く、俺ほど効率のいい個体はそうそういねぇぞ。俺は素晴らしい。人類はもっとセックスをして俺みたいなのを大量生産すべきだ」

女友「つまり子孫を残したいと」

傭兵「はい。と言うわけで今晩どう?」


61 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:25:52 ID:czYYFPfk
女友「いや」

傭兵「どストレートに断られると悲しいなぁ」

女「あ、こんにちわ」

女友「うい」

傭兵「おぉ!女ちゃんか。俺の子供生まない?」


62 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:26:34 ID:czYYFPfk
女「ねぇ女友ちゃん、今日晩御飯一緒にどう?」

女友「いぃ〜ねぇ。ゴチになります」

傭兵「すみません、俺が悪かったです」

女「傭兵さん、次はないです」

傭兵「……はい」


63 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:26:55 ID:czYYFPfk
傭兵「で、君ら何で俺に付いて来る?」

女友「暇なので」

女「女友ちゃんについてきました」

傭兵「俺一眠りしたいんだけどなぁ」

女友「まぁまぁ。せっかくだから傭兵さんのお話でも聞かせてよ」

女「あ〜、ちょっと聞きたいかも」


64 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:27:16 ID:czYYFPfk
傭兵「俺の話て……そうだなぁ……じゃあ、俺……さ、ババアが苦手なんよ」

女「いきなり過ぎて話が見えない」

傭兵「もし、君らがババアになったとしよう。いや、いずれ、なる。なるだけに時間はあまりにも惨い。で、今は俺は君らを好きだがババアとなったらもうダメだ」

女友「何だろう……すごいムカつく」


65 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:28:11 ID:czYYFPfk
女「何でそんなに嫌いなの?」

傭兵「嫌いじゃない。苦手なんだ。て言うのも俺にこの生き方を仕込んだのは他ならぬババアだからな」

女「え?じゃあ傭兵さんの師匠みたいな人?」

傭兵「あぁまぁそうなるな。残念なことに」

女友「傭兵さんの師匠……めちゃくちゃ強いの?」

傭兵「俺を見ろ。その俺の師匠だ。強かなババアだよ。見た目はどこにでもいるババアだが中身は史上稀に見るババアだ」


66 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:28:37 ID:czYYFPfk
女友「めちゃくちゃババアババア言うね……実はババア愛してるとか?」

傭兵「ババア愛していませんよ。色々ツッコミ所満載だが俺に戦いを仕込んでいるときからババアは既にイイ年だった」

女「老化に全力で戦ってたんですね〜……」

傭兵「例えばそこらのババアを見て、あぁ、昔は美人だったんだろうなってわかるババアいるだろ。それだ、あのババアは昔から強い。むしろババアに拍車がかかって強くなってやがる」


67 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:29:03 ID:czYYFPfk
女友「…………人間……?」

傭兵「いや、人間じゃない。ババアだ。ババアは色々と厄介なことに、強い」

女「傭兵さん、ちょっと落ち着いて」

傭兵「世の中、分かってるのはババアは分け隔てなく強いって事だ……」

女友「ダメだ……思い出に浸るようにトラウマっぽいのが…」

女「きてるね。結構」


68 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:29:20 ID:czYYFPfk
モブL「傭兵さん」

傭兵「あ、はいはい。何かあったの?」

モブL「いやさ、前々から言ってた……っと、女ちゃんこんにちわ」

女「??こんにちわ?」

モブL「ちょっと、こっちで話そう……」

傭兵「う〜い。じゃお兄さんはお仕事なので、君たち早よ帰りなよ」


69 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:29:36 ID:czYYFPfk
女友「……なんかモブLさん歯切れが悪かったね……」

女「ううん……モブLさんだけじゃないよ、最近町の人みんなが、ソワソワしてる…と言うか、殺気立ってる…」

女友「そう……?」

女「え……?何かそんな雰囲気しない?」

女友「いや……でもそう言われればそんな気がしないでもないか……嫌な感じだね」


70 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:29:58 ID:czYYFPfk
『……ガピ…キー……実験の飛躍は人類への勝利のガピ……らず大いに進化へと貢献するでしょう』

傭兵「よう大将。調子はどうだい?」

博士「結構。完成も目に見えてきた」

傭兵「さよけ。しかしよくもまぁこんなドデカイもん一人で造ったよ。どんくらい時間かかった?」

博士「…………15年かな。ところで君、ここに何しに?別にこんな話をするために僕に会いに来た訳じゃないだろう」

傭兵「頭のイイ奴は話が早い。話が早いと助かる。率直に言えばコレ、このデカブツ。町の人がえらく気にしててな」


71 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:30:41 ID:czYYFPfk
博士「あぁ、だろうね。無理に理解してもらうつもりもないし」

傭兵「ってもこっちも仕事だ。別にこの町の傭兵やってなきゃ俺だって気にしない」

博士「……壊すのかい?」

傭兵「特別俺はこれに思い入れがあるわけでもなし」

博士「それを僕がのうのうと見てるだけだと思うか?」


72 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:31:43 ID:czYYFPfk
傭兵「そうだな……多分、アンタは引かんだろう。そしてそれを実現させるだけの力をアンタは持っている」

博士「すごいね、傭兵さん。気づいてたのかい」

傭兵「あぁ。とんだ狸だよ先生、アンタは」

『国連の…………トリフィド条約 ヴヴ正……議長に……非難…………ヴガ』


73 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:33:16 ID:czYYFPfk
博士「1ヶ月位前に……実験あったの、知ってる?」

傭兵「もちろん。仕事柄色々耳にする……失敗するわな、そら。死人が歩くわけがない。たとえ逆立ちしたってな、そこは覆らねー」

博士「これで人類は有史以来、何度目かの大いなる間違いをするわけだ」

傭兵「なぁ先生、逆に質問するぜ。トリフィドって、知ってるか?」


74 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:36:05 ID:czYYFPfk
博士「歩く食用植物。トリフィド条約はそんな生命を無碍にしないようにちなんで名付けられた条約だ」

傭兵「その通りだが……さて、この際アンタは何なのか……ゲロってもらおうかな」

博士「話を戻そうか。それを知った上でこの機械を壊そうものなら」


博士「お互い、大戦争になるぞ」


傭兵「なるだろうね。怖い怖い」


75 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:36:45 ID:czYYFPfk
女「傭兵さーんッ!」

博士「!?」

傭兵「驚いた……何でここがわかった?」

女「ハァ……ハァ…………んく、っは、モブL……さんに、ゲホッ聞いたの……!それより町がッ!町に機械が……!」

傭兵「ッ!?ちぃっ!!」バッ

女「傭兵さん!」


76 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/12(日) 23:36:58 ID:czYYFPfk
傭兵「君はここに残れ!!町に戻るより先生と一緒にいた方が安全だ!!」

女「っでも……!」

博士「君が行っても死体になるだけだ。ここで待ってろ。安全は僕が保証する」

傭兵「頼んだぜ先生」

女「傭兵さん……気を付けて……」



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