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今頃魔王ってのもないようです
55 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 01:57:53.93 ID:ySQGmT6e0
× × × 

(現代へもどる……)


老勇者(老人)「…………」


魔子「(あれだけ啖呵吐けたじいさまがこれか……)」

魔子「(俺のために家族と絶縁までして)」

魔子「(勇子はあの夫婦に『老勇者はもう死んだ』と教えられてるしな)」

魔子「(勇子もあの夫婦にいいように使われているようだ)」


57 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:01:09.47 ID:ySQGmT6e0

魔子「……」

魔子「ま、今はせいぜい休んでくれ」

魔子「魔王の子孫に末期を看取られる心境は察するが、まぁ我慢してくれ」

魔子「ほら、スープもう一口……」


ガタタタタタタッ!!



魔子「!?」




59 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:03:39.11 ID:ySQGmT6e0

× × × 

魔子「なんだなんだ、台所からだったぞ!」

魔子「……」

 台所 は 少し あらされている ようだ!

魔子「……勇者と魔王の子孫の家に盗みに入るとはいい度胸じゃないか」


60 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:08:41.83 ID:ySQGmT6e0

魔子「オラァ! 出て来いや!!」

ビクっ!

ガタバタガタバタタタタ!

魔子「!?」

 食器棚 の 収納スペース が すこし ひらいている!

魔子「そこか!?」


??「にゃ、にゃあ!」


魔子「!?」




61 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:10:00.06 ID:ySQGmT6e0

??「にゃ、にゃぁ……」

魔子「……なんだ、猫か」

??「にゃあにゃあ!」

魔子「よし、猫缶をやろう。さぁ出てこい」

??「く……」

魔子「今『く』って言ったぞ」

??「…………」

??「……い、言ってにゃー」


魔子「さっさと出て来んかこそ泥がぁあ!!」

??「ひ、ひゃあああああああ!」


魔子 は 食器棚 の 奥から ?? を ひきずり だした!



63 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:20:59.95 ID:ySQGmT6e0

× × ×

魔法使い・♀(??)「信じてください〜、怪しいものじゃないんです〜」

魔子「人の家に玄関から入らないヤツはなぁ、すべからく怪しい者なんだよ」

魔法使い「どうしても急ぎの用があったんですよ……」

魔子「あのなぁ、確かに昔は勇者が棚を漁ったりした時代はあったがな、あれだって本当は
合法じゃなくてだなぁ(クドクド)」

魔法使い「はい……はい……ごめんなさぁい……」


64 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:21:40.94 ID:ySQGmT6e0

(十分後)

魔子「それで、なんで盗みになんか入った? 貧乏なのか。腹減ってるのか」

魔法使い「ひ、人を乞食みたいに……」

魔子「乞食は人の家に勝手に入らんわ」

魔法使い「乞食でも泥棒でもありません! 私、こういうものです!」

魔法使い は 胸を つきだした!

魔子「お、おい! お色気は効かないぞ!」

魔法使い「ちがいます! 名刺です名刺!」

魔子「名刺? ……あ、なにか服の間にはさんであるな」

 ぺら……

魔子「『三代目 勇者ご一行 魔法使い』……」



65 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:23:57.87 ID:ySQGmT6e0


魔子「……なんだ、勇者パーティーの子孫なのかお前」


魔法使い「そうです!」

魔子「こそ泥に転職したのか?」

魔法使い「そんな職ありません!」

魔子「じゃあなんで盗みになんて入ったんだ」

魔法使い「…………」

魔子「おいどうなんだ」

魔法使い「……のためです」

魔子「は? 聞こえんぞ」

魔法使い「だから、……のためです」

魔子「はぁ? おい、お前もう少し大きな声で――」


魔法使い「だから! 『世界を救う』ためだって言ってるんです!!」




66 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:27:59.08 ID:ySQGmT6e0


魔子「……ますます はぁ?」


魔法使い「わかりますよ、どうせ世界はもう平和になったとか、そう言うんでしょう」

魔子「いや違うよ。世界平和のためとこそ泥が結びつかないんだよ」

魔法使い「だからこそ泥じゃ――あぁもうっ いいですか? 最初から順を追って説明しますよ?」

魔子「最初からそうしてくれ」


魔法使い「いいですか? まずはですね……私はドムドーラ出身の魔法使いっていいます」


魔子「ドムドーラ? すぐそこじゃないか。ラダトームから橋を渡ってすぐだ」



68 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:28:59.01 ID:ySQGmT6e0


*この話は『ドラクエ3』の『下の世界』及び『ドラクエ1の世界』にほぼ準じて進行します。



69 :VIPがお送りします [] :2009/08/07(金) 02:33:11.90 ID:jEryETWNO
つまり温泉シーンに期待してよいということだね
よろしい、脱ごう


70 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:38:00.33 ID:ySQGmT6e0

魔法使い「そうです。最近あの辺りはおかしなことがたっくさん起こるようになったんです」

魔子「(……言ってる本人が既にちょっとおかしいからな)」

魔法使い「なんですかっ、言いたい事があるなら言ってくださいよ!」

魔子「いや、べつに……」

魔法使い「とにかく、そこで私は暮らしていたんです。魔法使いの名家の跡取り令嬢として!」

魔子「……それで」

魔法使い「最初のおかしな事は『井戸が枯れた』事でした。何十年も枯れた事がない井戸だった
のに、急に水がでなくなったんです」



72 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:46:47.36 ID:ySQGmT6e0

魔子「それぐらいよくある事なんじゃないか?」

魔法使い「それだじゃないんです。村の周りだけ魔物が急に増え始めたり、キャラバンが忽然と
消えたり……」

魔法使い「突然空が真っ暗になったりしたんです……まるで空に蓋がされたみたいに」

魔子「……」

魔子「(そういえば最近夜みたいに暗い曇り天気が続いてたな)」

魔子「(魚が釣れなくなったもの最近だな……)」

魔法使い「なによりおばあちゃんが倒れちゃったんです。いつもうるさいくらいに元気な
おばあちゃんだったのに……」

魔子「おばあちゃんって……つまり『勇者一行の魔法使い』か?」

魔法使い「そうです」

魔法使い「おばあちゃんは勇者様一行のトラブルメーカ……ムードメーカーだったんです」

魔子「(ほとんど言ってるぞ)」

魔法使い「街でも煙たがられるくらい元気だったのに、急にしぼんじゃうみたいに元気が
なくなって」

魔法使い「あっという間にベッドから起き上がれない体になっちゃったんです」


73 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:52:29.79 ID:ySQGmT6e0

魔子「(……ん? そりゃじいさまと同じじゃないのか)」

魔法使い「どんどんやつれていって、ほとんど喋れなくなって……夜になるといつも悪夢
にうなされるようになりました」

魔法使い「その頃にはもうほとんど口がきけなくなってて……かわいそうに、しゃべってるの
は眠ってる時のうわごとだけでした」

魔法使い「私、一生懸命おばあちゃんを元気にしようとしました。偉い僧侶さんを連れてきたり、
夜はずっとつきっきりで手を握ったり……」

魔法使い「だけど、全然だめで……」

魔子「……」


魔法使い「でもついこの間、急に意識がはっきりしたんです……!」





74 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 02:55:12.85 ID:ySQGmT6e0

魔法使い「おばあちゃん、はっきりした口調で言ってました――」

魔法使い「『世界が再び闇に覆われようとしている』」

魔法使い「『上と下の境が曖昧になって、どちらかが壊れようとしている』」


魔法使い「『どうかオーブを見つけて』」


魔法使い「『新たな魔王に見つかる前に、早く……!』」



75 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:04:33.07 ID:ySQGmT6e0

魔法使い「もうおわかりですよね」

魔法使い「魔王の支配が、再び訪れようとしているんです!」

魔法使い「きっと魔王の子孫が、新たにこの世界を手に入れようと企んでるに違いありません!」

魔子「……え?」

魔法使い「ここはかつての勇者さんの家ですよね。いえ、調べはついてます。つまりあなた
は、勇者の子孫! そうでしょう!」

魔子「いや、ちょっと待て俺は――」

魔法使い「あなたは勇者の子孫として『オーブ』を受け継いでいるはずです。どうかそれを
私にゆずってください。……いえ、それだけではありません。あなたには勇者の血族として、
この世界を守る義務があるのです」

魔子「ちょっと待てと――」

魔法使い「お願いです! どうか私と一緒に来てください……!」

魔法使い「私と一緒に世界を……おばあちゃんを救ってください!」


魔子「ちょっと待てって!」



76 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:11:36.83 ID:ySQGmT6e0

魔法使い「なんなんですかあなたは! 勇者のくせに煮え切らないですね!」

魔子「待て、まずその前提条件が間違っているというんだ」

魔法使い「? ……もしかして勇者の子孫じゃないんですか?」

魔子「あぁそうだ」

魔法使い「あぁそうだって……じゃあ勇者の子孫はどこにいるですか!?」

魔子「ついさっき世界放浪の旅に出て行った。そしてもう二度と戻ってこないつもりらしい」

魔法使い「は……?」

魔子「それから魔王の子孫がなんか企んでるって話だが、それも間違ってる」

魔法使い「間違ってるって……どうしてそんな事わかるですか?」

魔子「俺が魔王の子孫だからだ」

魔法使い「…………」


魔法使い「……はぁぁぁぁ?」



77 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:17:53.65 ID:ySQGmT6e0

魔子「見ろ。フードで隠してたが角が生えてるし、目も赤い。そして歯もこの通りだ」

魔子「イー」

魔法使い「…………」

魔法使い「…………っ」


魔法使い「こっこの魔物ぉ! よくもおばあちゃんをぉ!」


魔子「おい待て、お前のばあさまの事なんて知らん」

魔法使い「そ、そんな嘘が通用するかぁ!」

魔子「嘘じゃないし、通用してもらわなきゃ困るんだよ」

魔法使い「……はっ、じゃぁ何であなたは元勇者の家に」

魔法使い「さてはこんなにも老いた勇者さんを抹殺しに――」

魔法使い「許せません!!」

魔子「違うと言っとろうに! 勝手に妄想するな!  杖をしまえ!!」

魔法使い「問答無用です!!」



83 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:31:32.11 ID:ySQGmT6e0
× × ×

(数分後……)


魔法使い「――――はぁ、そんな事情があったんですか……?」

魔子「あったんだよ。そんな事情が。危なく頭がちりちりになるところだったぞ」

魔法使い「じゃぁ魔子さんは別に世界を征服しようとかは……」

魔子「この年になって世界征服とか恥ずかしいわ」

魔法使い「老勇者さんと一緒に生活してるのは……」

魔子「このじいさんに育てられたんだよ俺は。義理の親子。今は恩返しで俺がじいさんを
養ってる。力及ばず、だが……」

魔法使い「…………」

魔法使い「…………あぁぁぁぁ――」

魔法使い「私は……また早とちりで大変な間違いを……」

魔法使い「こんなにも、こんなにも善良な魔子さんを疑うなんて私はなんてグズで処女な
んでしょうか――!?」

魔子「……」


84 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:40:39.36 ID:ySQGmT6e0

魔法使い「私……本当はおちこぼれなんです。街で一番ダメな魔法使いで、メラもうまく
使えなくて……ほんとうにダメダメで……」

魔子「まぁそう自分を責めるな。疑われるのには慣れてる」

魔法使い「そんな……」

魔子「しかたがない。石を投げつけられたり罵られたりは生まれつきのものだと思っている。
不細工が不条理にさげすまれるのと同じだ。どうしようもない」

魔法使い「それは……」

魔法使い「ごめんなさい……本当に。お察しします。とんだご無礼を働いてしまいました」

魔子「……」


86 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:48:23.11 ID:ySQGmT6e0

魔子「それで、あんたどうするんだ。俺はオーブなんて知らないし、知ってるかもしれない
ヤツはもうここにはいないぞ」

魔法使い「……」

魔法使い「すぐにでも追いかけたいですが、この先は私一人では辛いですね」

魔法使い「あの、やっぱりお願いできないでしょうか」

魔子「何を」

魔法使い「ですから、一緒にオーブを探して欲しいんです」

魔子「ちょっと待て。それは無茶だ。俺がいなくなったらこのじいさまの面倒は誰がみるんだ」

魔法使い「それは……」


87 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:49:33.45 ID:ySQGmT6e0

魔子「それに、あんたまるで俺が世界を救うのが当然ってばかりに話してるが、なんで俺が
世界を救わなくちゃいけないんだ」

魔法使い「だ、だってさっき言ってたじゃないですか。老勇者さんに育てられたって」

魔法使い「確かに魔王の子孫かもしれませんけど、結局は勇者に育てられたんでしょう?
だったらあなたには勇者として、世界を守る義務があるはずです!」

魔子「義務義務ってなんだ? そんな義務は知らない。聞いこともない」

魔法使い「あるんですよ! そういう……恩を感じてないんですか? 老勇者さんに育てられた事に」

魔子「だから介護してるだろうがっ」

魔法使い「そんなの……!」


魔子「おいちょっと待て! 俺の話を聞け!」



88 :VIPがお送りします [] :2009/08/07(金) 03:50:53.72 ID:6qxniZlAO
ドラクエ…だ…と…


89 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 03:59:05.35 ID:ySQGmT6e0

魔子「俺は確かにじいさまに育てられた。恩も感じてる。だから介護してる」


魔子「だけどそれ以外は知らん! 世界がどうなろうか知ったことか!」


魔子「結局困ってるのは人間だろうが! 世界なんて話を持ち出しやがって、卑怯だぞ」

魔子「人間が俺にしてきた仕打ち! さっき話したのなんて序の口だ、もっとえげつない事もされたんだ!」

魔子「誰が好きこのんで、自分の体に油まいて焼き殺そうとした連中を助けるんだ?」

魔子「ムシがいいんだよお前らは! 人間の事は人間で解決しろよ! 俺を巻き込むんじゃない!!」


魔法使い「ま、待ってください! 確かにあなたにひどい仕打ちをした人はいるでしょうけど……」


魔子「他人事みたいな顔してるんじゃない、お前も『人間』だろ!」

魔法使い「!」

魔子「……」


魔子「……とにかく帰れよ。俺はここで静かに暮らしたいんだ」



90 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 04:06:34.95 ID:ySQGmT6e0

× × ×
(夜……)


魔子「(あーあ。結局泣いて帰ってしまったぞあの魔法使い……)」

魔子「(馬鹿なことをしたものだ。余計な事をべらべらと口にして)」


老勇者「…………」


魔子「じいさま、アンタだったらあの魔法使いに協力しろと言うか?」

老勇者「…………」

魔子「……まぁ、今頃考えたって仕方がない話だ」


92 :1 ◆kmZtCE0ADw [] :2009/08/07(金) 04:07:40.18 ID:ySQGmT6e0

魔子「さ、じいさま寝よう。明日は早くに起きて釣りにでも出かけないと、朝飯も食べれな――」

 魔子は ふと 老勇者 を みた !
 老勇者は 窓 の 外 を 一心に みつめている!

魔子「じいさま、何見て……?」

魔子「(ん? 遠くの空が明るいぞ……?)」

魔子「祭りでもやってるのか?」


魔子「まぁ、いいか……さ、寝よう寝よう」





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