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意地悪なメイド2
- 694 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage]
:2008/06/28(土) 21:09:00.13 ID:UNtKi.AO
第五話 「非/日常U」
メイド長……いや、教官は言葉通りに予定を進めていく。
まずこの学び舎では午前を教室での軍事関連の基礎的な学習に、午後はグラウンドでの実習となっている。
但し早朝、夕刻に一度ずつ体力作りを兼ねたトレーニングを行う必要がある。
また夜には夜で戦術シミュレーションなどの特集カリキュラムが入っている場合などもあり、実質的に一日を無駄にすることはないらしい。
勿論それは昨日渡されたデータを見て覚えただけなので、実際どれくらいキツいのかはこれから体験していくのだろう。
さて、話を戻すが今は午前。机にかじりついての授業時間だ。
この部屋自体が自分の通っていた校舎そのものであるが、俺が居た場所の空気とは180°違う。
居眠りに励むものや早弁を勤しむ奴なんかもってのほか。
教官の一言一句逃さぬようなピリピリとした雰囲気が充満している。
静謐な空気の中、ただ教官の声だけが響いていく。
今の時間は銃器についての説明がされている。
俺という途中参加者への配慮のない説明だがそれ自体はわかりやすい。
性質や基本的な事項に始まり有効な状況、整備の方法などを徹底的に叩き込まれる。
元より学ぶのは嫌いじゃない。ただ教科が命のやり取りに関わるとなると真剣にならざるを得ない。
昼食時に食堂に案内されて開口一言溜め息が出る。
食らいつくだけで精一杯だったのがよく分かった。
「大丈夫?」
「ああ、うん……」
声をかけてくれるのはいいんちょだ。
教官から言いつけられたことと、彼女の生来の気質から面倒を見てもらってる。
いつもなら多少鬱陶しいそれも、今にしてみればこんなにもありがたいと感じていた。
- 695 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/28(土) 21:21:02.48 ID:UNtKi.AO
「お姉ちゃん、早くしないと時間なくなるよ!」
催促の声をあげる妹ちゃんには悪いが、今置いていかれると困る。
精神的にはきついとはいえ、何か腹に入れておきたい。
昼からがより肉体面でハードな事は想像がつくだけに。
その為にもいいんちょには最低限、ここの利用方法くらいは聞いておきたい。
それを彼女も承知しているのだろう。
「先にみんなと食べ始めなさい。私は男に説明だけしておかないと」
「助かる」
「いいわ。そういう役目だもの」
口数こそ少なく返す返すが俺の感謝の気持ちは絶大だ。
きっとその何分の一も伝わっていないのが歯がゆい。
「い、一緒にいこ? 妹ちゃん?」
「そうだよ。急がないと定食が売り切れちゃうし」
「う〜……」
渋々といった感じで友達に連れられ妹ちゃんは手慣れた様子で中に入り……
「べー!」
すぐに振り返って俺に舌を出してきたのだった。
「気を悪くしないでね。少し甘えが抜けないのよ」
「いや、俺が迷惑かけてるのも事実だし……」
「別に迷惑でもないわ」
「そっか。……サンキュ」
「別にお礼をされるほどの事でも」
そんなやり取りをしながら、俺はこの食堂の使い方を教わる。
そのせいか、二人が口に出来たのはあまり美味しくない掛け蕎麦だった。
だけど……
「ずずず……。ん……うまい」
「そうかしら?」
「うん。なんとなくだけど」
「……そう」
俺にとってのお気に入りのメニューになりそうだった。
- 696 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/28(土) 22:18:31.17 ID:UNtKi.AO
午後に異変は起こった。
グラウンドと言っても、俺が知っているような場所とは大分違う。
勿論第一グラウンドと呼ばれる場所はよく知るあの運動場みたいなものだ。
けれど、それに付随……いや増殖するように沢山の小運動場がそこにある。
用途ごとに使う場所が違うのだろう。俺達はその中の第四演出場と呼ばれる場所にいた。
これだけ聞いてもピンと来ないが、実際に目にしてやることがはっきり分かる。
ここは射撃の練習場だ。
「ではこれよりお前達は銃器の整備から組み立て、そして担いだ上で第一グラウンドを10週し、あの的への狙撃をしてもらう」
「……」
一同が固唾を飲むなか、教官は凛とした声で説明をしていく。
「そこまでの結果を順位で評価する。その順位に応じて有効のトレーニング内容が個人単位で変化するので心するように」
「……」
「質問は?」
「……」
「では始め!」
その一言を受け、班員達はそれぞれ動きだす。
俺はと言えば、本当なら質問に質問を繰り返すべきだったのに、雰囲気に呑まれ流されてしまった。
右も左もわからないままで、俺は彼女達と走り出す。
ここまでならただの足手まといという部分がバレるだけ。
仕方なく特殊な訓練とやらの言い訳を考えていた俺は、しかしそうもいかなくなった。
- 697 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/28(土) 23:46:47.18 ID:7hLFbTUo
ヘタレのようで実は、語られてない実家での訓練が身に染み付いてたりしない?
- 698 :パー速民がお送りします [sage] :2008/06/28(土) 23:57:32.68 ID:UNtKi.AO
――ズキン
頭蓋に痛みが走る。
次いで皮膚の裏側を静電気が駆けるようなむずがゆさが全身を覆う。
視界は明瞭に、しかし意識に被膜があるような薄ぼんやりとした感覚。
端的に言えば気分が悪く、しかし五感だけは鋭敏に。
それは使っていない部分。
それは使ってはいけない部分。
爛れた引き出しに手を掛け、一気に引き抜かれる。
中身は俺の知らないはずの経験。
だから、頭で理解するまでもなく……
「……っ、ぁぁあ?!」
俺はグラウンドに備えられた簡易弾薬庫に足を向ける。
誰より早く中へ入り迷うことなく一つの銃を手に取る。
ここにある銃器は訓練の為にどれも必ずどこかに欠陥を入れられてある。
それを素早く解体(バラ)し、総点検。
違和感を覚える部分を徹底的に排除。終わればすぐに組み上げに入る。
周りの驚きの視線すら感じられるほどに思考はクリアに。
白く、白く、白く。
強烈な光を瞼の裏に感じながら、その先を見ようと必死に足掻く。
足掻けば足掻くほどに俺の手先は狂いなく動き、やがて……
「おい、男!!」
完全な整備を終えた瞬間に、俺の意識は途絶えた。
- 699 :NGシーン? [sage] :2008/06/29(日) 17:49:51.57 ID:Ac0QVXQo
――ズキン
頭蓋に痛みが走る。
次いで皮膚の裏側を静電気が駆けるようなむずがゆさが全身を覆う。
視界は明瞭に、しかし意識に被膜があるような薄ぼんやりとした感覚。
端的に言えば気分が悪く、しかし五感だけは鋭敏に。
それは使っていない部分。
それは使ってはいけない部分。
爛れた引き出しに手を掛け、一気に引き抜かれる。
中身は俺の知らないはずの経験。
だから、頭で理解するまでもなく……
「……っ、ぁぁあ?!」
俺はグラウンドに備えられた簡易弾薬庫に足を向ける。
誰より早く中へ入り迷うことなく一つの銃を手に取る。
ここにある銃器は訓練の為にどれも必ずどこかに欠陥を入れられてある。
それを素早く解体(バラ)し、総点検。
違和感を覚える部分を徹底的に排除。終わればすぐに組み上げに入る。
周りの驚きの視線すら感じられるほどに思考はクリアに。
白く、白く、白く。
強烈な光を瞼の裏に感じながら、その先を見ようと必死に足掻く。
足掻けば足掻くほどに俺の手先は狂いなく動き、やがて……
「ギガフォーミュラー!!」
俺はたったいま完成させた自動車型のマシンの上に乗っかるとグラウンドを疾走し始めた。
- 700 :NGシーン? [sage] :2008/06/29(日) 17:51:58.31 ID:Ac0QVXQo
うん、作中ではギガフォーミュラーはこんな使い方されていないはずなんだけどね・・・
- 719 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/07/02(水) 12:37:19.22 ID:TrSk7sAO
第六話 「幻影(おもかげ)」
ゆらゆらとたゆたう。羊水の中にいるような暖かさ。意識だけが遠い海で泳いでいる。
目は開いているのに何も見えない。匂いもなければ聞こえもしない。だからわかる。
――ああ、夢か。
だったらもう少し楽しいものがいい。あんなひどい冗談はこりごりだ。
そろそろ目を覚まそう。そこはいつものベッドの上で、あいつが悪戯しようとそこにいる。そんな元の世界に……
――主様。
そこで誰かの声を聞いた気がした。
「ん、んん……」
目を開ければ、ふと視界に捉える後ろ姿。
「メ、イド……?」
呼ばれて振り返った顔は、あのふてぶてしくも可愛いと思える……
「……目が、覚めましたか?」
あいつではなく、イドがそこにいた。
重ねたイメージは霧散していく。元より体格が違いすぎる。
だというのに、俺は何故……
- 720 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/02(水) 12:55:20.59 ID:TrSk7sAO
「今、何時だ?」
「一六時半を過ぎたあたりです」
胸にさげた懐中時計に目をやり応えるイド。
なんとなく、髪留めのイメージと相まって不思議の国のアリスに出てくる兎を連想する。
「……何か?」
「いや。……あれから三時間以上か」
自分の体に何があったかは分からない。
だがその過程において何をしたかははっきりと覚えている。
「俺、銃なんて解体も組み立ても出来ないのに……」
だが、事実俺はやってのけた。しかも恐らくあの中では最速で。
だがそれ自体は些末……でもないが、何かしらの理由は付けられる気がする。だが。
「俺は何故、あれがあそこにあったなんて分かった」
そう、少なくとも設置された場所は初参加の俺が分かるはずがない。
だというのに俺は“一番にたどり着いた”。こればかりはおかしい。
あの時はまるで、知らないはずのことを知っているように動いていた。
一体何故……
不可解な自分の行動に首をひねっているとひんやりとした感触が額に。
驚きと共に確認すれば、イドの小さな手が俺の具合を測るように添えられている。
「熱、もう下がりましたね」
「熱まであったのか」
「微熱でしたが。とりあえずは大丈夫ですね」
「そっか、看病してくれたんだ。ありがとう」
「いえ。では……」
スッと身をひき、出口へ向かう。その途中、一度こちらへ振り返り、
「それ、洗濯しておきました」
「それ? ……ああ」
ベッドの脇にはきちんと畳まれた制服があった。あの日貸したものだ。
「一張羅なんだ。助かるよ」
「いえ。では……」
「改めてありがとうな」
その言葉に一礼し、出ていくイド。扉が閉まるのに合わせるように何かを呟いた。
……気がする。だってそれはあいつ以外有り得ないはずの呼び方……
――お大事に、主様。
- 722 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/02(水) 13:21:14.62 ID:TrSk7sAO
「簡潔に聞きます。……あなた、本当に何者ですか?」
「俺が聞きたいくらいだっての」
その後、もうしばらく静養させてもらい、いざみんなと合流しようかと思った矢先、バカ妹に呼び出された。
内容はさっきからこれの繰り返し。
さすがに訓練で初っぱなからやらかしたのがまずかったらしい。
自分の意志でやった訳ではないのにひたすら弁明を求められるのはひどい話だ。
「もう一度聞きます。あなたの仰る前の世界の学生は必須科目に銃器の取り扱いがあったのですか?」
「んな訳あるか」
「ならあなたが個人的に徴兵されていたか、銃器に興味があったと?」
「趣味に走ったり愛国心見せる暇は同居人のせいでなかったよ」
「では百歩譲ってあなたに天武の才があったとします。……何故弾薬庫の位置を把握していたので?」
「……」
「確かにうちは規模が大きく、また確認もされやすいでしょうが……それでもセキュリティには絶対の自信があります」
トントンと指で苛立たし気に机を叩く。
「特にああいった兵器に類するものは毎度場所の変更を行って、特定させないようにしているはずです」
「そうなのか」
「ええ。無論、訓練生は事前に聞かされますが……あなたは今日が初めてですよね?」
当然そこに帰結する訳だ。俺だってこいつの立場ならこう考える。
どこぞの組織の間諜ではないのかと。
「私は危惧しているんです。あなたがどこかの組織の間諜ではないかと」
「だろうな。……まぁ好きにしてくれ」
俺は拷問なり何なりを覚悟する。
ここで終わりならそれでいい。どうせこんな世界、未練は……
- 725 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/02(水) 13:41:00.55 ID:TrSk7sAO
――ズキン
また、痛みが襲う。
瞬間的に見たことのないはずの光景が次々と浮かび、消えていく。
それが何かは分からないし、記憶に残らなかった。
だけど……
俺の手は固く、固く握りしめられ、内に沸く感情は怒りだった。
……俺はまだ、[ピーーー]ない。
「好きにしろ、と言われた割には随分な目をなされますね」
「……死にたくはないからな」
「結構。人間である限り、当然です。……私が聞きたいのはただ一つ」
ふぅ、と溜め息をつきながら、
「あなたが賊“程度”ではない事を信じてよろしいですか、という話です」
「……?」
「ですから、私があなたに興味があるのはこの世界の人間ではないというその一点のみです」
「ああ」
それに関しては間違いないと声を大にして言える。
「……その言葉に嘘偽りはありませんね?」
「誓って」
「……」
「……」
無言の時間が数秒続き、
「分かりました、では戻っていただいて結構」
「……いいのか?」
「ええ。但し言い訳は自分で考えてくださいね?」
「了解」
覚えたての敬礼を返し、俺は部屋を後にする。
どういう心境かは分からないが、死ななくて済み、尚且つ取り立てて制限がつく訳ではないならいい。
とりあえずは目先の問題として言い訳を考える。……知らず、頭痛は引いていた。
「間違いないですか?」
「はい」
隣の部屋から出てくるイド。彼女が言うならば間違いない。
「ではフェイズを移行します。協力してください」
こくんと頷く彼女。
早く、何とかしなければ……
残された時間は決して多くない。
- 727 :【意地悪なメイド オルタネイティブ】 [sage] :2008/07/02(水) 15:32:20.15 ID:TrSk7sAO
第七話 「チーム」
夕闇がグラウンドを覆っていた。
戻ってみると、みんなは基礎体力を鍛える為の走り込みの最中だった。
最後尾は妹ちゃん。必死の様子で姉である委員長に食らいついてく。
一方委員長はマイペースなのだろう、苦しそうな様子はない。
さらに前には友が余裕の表情で走り続け、前を走る女さんに追いつき追い越していく。
……なるほど、ペース的に考えて女さんは周回遅れなのだろう。
限界なのかふらふらと歩いているのか走っているのか分からない状態だ。
と、俺を見つけたのか教官が歩いてくる。
「もういいのか?」
「はい」
「ならばお前もすぐに参加しろ。順位では最下位だからな。30周だ。終わるまであがるな」
「はい!」
俺もすぐにみんなに加わり走り始める。
ここでもまた頭痛が始まるが、耐えられないほどじゃなかった。
慢性的に襲う痛みに意識を取られないようにしながら、走り込む。
まだ元気の余っている俺は次々にみんなを追い抜かしていく。
横を抜けるたびに怪訝な視線を受けるが、気にならない。
というより気にしていられない。
頭痛に負けないようにひたすら、足を動かし続け……
「おい! 男!」
「え、あ、はい」
「……。何周走るつもりだ、もう上がれ」
急に呼び止められたから何かと思えばどうやらノルマは終えていたらしい。
それにしては……
「でもまだ、終わってない人も……」
女さんは言わずもがな、委員長達もまだ走っていた。
「簡単な理屈だ。今回上位だった人間ほど周回を重ねさせている」
「なるほど」
だから俺は結構早く終わったのかと納得する。
「じゃあ俺、みんなに飲み物でも用意してきます」
「……。いいだろう」
そして俺は迷いなく走り出した。
- 728 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/02(水) 15:43:02.68 ID:TrSk7sAO
「……」
メイド長……教官は彼に疑惑を抱かずにはいられなかった。
あの銃器の扱いに始まり、今のランニングもそうだ。彼のペースは尋常なものでなかった。
確かに周回のノルマに関して言えば本当だが、差は二周ずつしか変わらない。
つまり最大で四十でしかないのだ。
それを途中参加で最初に終えている。
それも納得できるほどに走り方を心得ているそれだったのだ。
そして何より、彼は迷いなく最短の道のりで食堂で向かっていった。
一位の人間が飲み物を取りに行くという習慣を知っていた。
ここに慣れた人間しか知らないルートとルール。それを今日から参加したはずの人間が……。
「友、あがりました!」
男に刺激されたのだろう。途中よりペースを崩していた友があがってくる。
息を今でこそ整えているが本人は非常に不本意だろう。
今まで基礎トレーニングではこいつが一位であり続けただけに。
「……教官?」
「何でもない。しっかりとクールダウンしておけ」
「はい!」
次々にあがってくる教え子に目をやりながら、教官は胸に立ち込める暗雲に眉をひそめる。
しかし、彼女が……長官が自分に託したのだ。
疑問など挟まずにいなければならない。
遠くから早くも帰ってくる男を見つめる目には、既に迷いはなかった。
- 729 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/02(水) 15:56:11.85 ID:TrSk7sAO
今日は夜間に教習はないらしい。
つまり一日のトレーニングが全て終わったことになる。
せっかくなので早く自由な時間を取る為に、トレーニング後に全員で食堂へ向かう。
……形の上では。
正直、俺はみんなから離れた位置にしかいられなかった。
話しかけづらい空気が確かにそこにあった。
友や女さんは一言二言、会話を交わしたけれどそれだけ。みんなが警戒心をもたれているのがわかる。
妹ちゃんに至っては露骨に嫌悪感を向けられている。
そんな状況で話しかけていけるほど、真剣が図太い人間じゃなかった。
そんな中、ずっと妹ちゃんに捕まっていた委員長がこちらに歩調を合わせてくれる。
「あなたの話、本当だったのね」
「俺の……?」
何か話したかと記憶を探り初める前に、彼女は答えを示す。
「本当に特殊な訓練を受けていたのね」
「あ、ああ」
夜の空気を思い出す。初めて出会ったあの日、確かそんな話をしていたはずだ。
「でも何故、あなたほどの人間がわざわざこんなところに?」
どこか皮肉を含んだ言い方になる。
理由が分からないので単純に聞き返してしまう。
「いやだって、俺みたいな素人はちゃんと学ばないと……」
「はァ?!」
「っ?!」
突然前方からとんでもない声があがる。
妹ちゃんだ。
「素人?! あれが!?」
「い、妹ちゃん、おおお落ち着いてっ!」
何故か妹ちゃん以上に慌てる女さんの宥める声も虚しく、彼女はますますヒートアップする。
「完全に現場でやってるような手際と体力を見せつけて素人だァ?! 喧嘩売ってんのか!?」
「べ、別にそんなつもりじゃ……」
「でも確かに普通じゃないよ。どう見たって熟練した動きだったよ」
みんな聞いていたのか、友も会話に加わる。
- 730 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/02(水) 16:51:55.06 ID:TrSk7sAO
「そうね、何を謙遜してるのか知らないけれど、あなたはこの中でトップの実力があるわ」
「そんな事……」
ない、とは言えない雰囲気だった。
思い出す。バカ妹は言っていた。
言い訳は自分で考えろ、と。
……自分でもかなり大きな違和感があるのだ。周りがおかしいと思わないはずがない。
ならば、と俺は前もって考えていた言い訳を始める。
「いや、やっぱ初日から張り切り過ぎたかな」
おどけた風を装い、周りを見回す。
「実は俺、こう見えてみんなより年上でさ。五年前から訓練やってたのさ」
頭の中に描いたシナリオを思い出しながら、話を続ける。
「ただここじゃなくて海外でやっててね」
確かに外交の関係で色々複雑な面はあるが突っ込まれない限り大丈夫だ。
最悪バカ妹に話をつければいい。
「で、いざ実戦の段階で昼のあれさ」
胸の辺りに手を置いて、ギュッと拳を握る。
「俺も知らない間に患ってたんだよ。これは緊張状態になると勝手になってさ」
ここまできたら後は言い切るだけ。
「だからずっと養生させてもらってたんだけどね……そうは言ってられないらしくて、お呼びがかかったのさ」
……ここまでの反応を伺うが、みんな一様に怪訝な顔だ。
当然だろう、俺が数分で考えた説明なんだから。
「あなたの立場は分かったわ。でも何故今更訓練校に?」
「俺もブランクが長いからね。ちょっと弛んだ気を引き締める為に初心に戻るつもりでさ」
「ふぅん……」
さすがに苦しいか。
だがどんなに問い詰めようにも海外が絡むと彼女らはあまり追求出来ない。
この日本ではあまり海外の情報が入らないのは、昨日にリサーチしてある。
細かいところは後々すりあわせていけばいい。
みんなの渋々納得した顔に俺は一息ついた。
- 731 :パー速民がお送りします [sage] :2008/07/02(水) 17:18:57.82 ID:TrSk7sAO
「まぁ、そういう訳で変なとこで足引っ張ったりするかもだけど、よろしく」
……。これだけ警戒されていてさすがによろしくもないか。
さりげなく握手を求めようかと思って出した手を引っ込めようとして……
「それなら私からもよろしくしてもらうわ」
その手を委員長が取る。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! こんな怪しい奴っ……!」
「でも実力は確かよ。ならばそれを教えてもらうのは大事」
「それは、そうだけど……」
「私達の目的は何? お互いの腹をさぐり合うこと? 違うでしょ」
「ん……」
「私達は勝たなければいけないの。人類の為に。だから……」
改めて握られた手に力が入る。
「だから、私はあなたを受け入れる」
その手にある力が、暖かさが俺を包む。
知らず俺も力が入り、気持ちも高まる。
「ああ、俺が出来ることなら」
それに続くように手を重ねる友。
「うーん、走り込みで負けたのは初めてだからね。次は負けないよ?」
「望むところだ」
「じゃ、じゃあ私も……」
「うん、よろしく」
「〜〜……っ! よ、よろし……あぅ」
こういうのが照れくさいのか、女さんは真っ赤になりながらも手を重ねてくれる。
「……妹?」
「はぁ……私は納得した訳じゃないし、よろしくもしないから」
「うん。怪しいと思ったら遠慮なく俺を撃ってくれ」
「……その言葉、忘れんじゃないわよ?」
こうして全員の手が重なる。
ギクシャクした感じは拭い去れてないけれど、俺達はこうして一つのチームになった。
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