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意地悪なメイド ver2.5
- 881 名前:【いじメイ おるた】 [sage;saga]
投稿日:2010/07/20(火) 00:51:53.36 ID:eFWF7HU0
第25話 「夢路/錯綜する世界」
『ふっふっふ。このメイドとネズミの国で遊べるなんて至福のすぎて財布の紐も緩むってもんでしょう』
『堅く絞っとくな』
『な、何とぉー!? でもいいや。一日フリーパスはいただいたわけですし』
『お前何ごともなく行きそうだからな、払わずとも』
『理解のある主様って嫌いじゃないですよ?』
『そうかそうか。なら俺からもお前を嫌いじゃなくするために、もう少し遠慮とかおぼ』
『あ、ジェットコースター乗りますよ。悲鳴あげたほうが昼飯おごりで』
『お前人の話きけよ! あと今更だけど極度の乗り物酔いのくせしやがって?!』
『はっはっは! さぁかかってきんしゃーい!』
『待て! マジで待て! エアリアルリバースとかやめろ! 追い出されるから!?』
どこだ、ここ。
「……」
朝、か。
いつも通り、目の前には起こしにきてくれたのかイドの姿。
それがなければまだ目覚めには遠かっただろう。
「おはよ、イド。……はぁ」
「……」
がばり、と起き上がれば見慣れた部屋。
なのに、ここのところずっとメイドの夢ばかり。
なんだかなぁ。ここにきてホームシックって訳じゃないだろうけど。
この世界を救うという目標があるのに、大丈夫なんだろうか。
昨日あんなやりとりをしたせいで余計にまいってんのかな。
- 882 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:52:32.58 ID:eFWF7HU0
「……」
む。なんかイドがいつもよりじーっと見てるような。
「……なんでもありません」
「そっか」
「ばいばい」
それだけ言うとお世話は終わりと出て行く。
……一応鏡を確認してイタズラの痕跡がないかをチェック。
よし、大丈夫だな。
しっかし本当にあいつの夢ばっかりだ。
あいつ、元の世界で元気にしてればいいけど。
少し早く目覚めた俺は、模擬戦に向けてハンガーへ向かう。
と、そこに見慣れた後姿。
「……馬鹿妹」
「あら。昨日のこと、思い出されました?」
俺のぱっとしない顔を見て第一声がこれだ。
ここだけ聞けば間違いなく誤解を招きそうだが。天然め。
「ふぁぁ……。いけませんね、私としたことが」
「寝てないのか? 昨日」
「最後に寝た日なんて覚えていませんよ。それよりイドが深刻な顔をしてましたが、何かありました?」
「へ? イドが?」
そういえばなんか見つめられてたけど。
深刻な顔って、いったい。
- 883 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:53:02.27 ID:eFWF7HU0
「……疑いたくはありませんが、イド相手というのは……言いにくいですがほとんど犯罪ですよ?」
「違ぇよ! お、お前な……た、多分夢とか見たからで!」
「夢? ……まさか夢の中で慰みものに」
「そこから離れろっての! きっと最近『元の世界』の夢ばっか見るからで……」
不意に馬鹿妹の目が細まる。
「……いつぐらいから?」
「総戦技演習が終わってからぐらいだけど、正確には覚えてない、かな」
「……。そうですね。あなたは『世界』間を移動する特別な存在ですし。調べてみましょうか」
「そんなことできるのか?」
「ええ」
「うぅむ」
- 884 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:53:33.77 ID:eFWF7HU0
なんかすごいなこいつ、やっぱ何でもありすぎるだろ。
それに何というか上機嫌っぽい。
徹夜明けでテンションが高いのか気持ちの切り替えが早いのか。
どっちにせよ、ギスギスしなくて良かった。
「お嬢さ……っ、男も一緒か」
と、そこに凛とした声。
メイド長さんだ。
「おはようございます」
敬礼を送り、返される。
「楽にしてください」
馬鹿妹の言葉に二人とも姿勢を崩す。
「――妹嬢司令がこんな油くさい場所に起こしになるなんて。何事です」
「ふふ、公私の使い分けも楽ではありませんね」
「……。ふぅ、最近私のあずかり知らぬ場所で何か行っておられるようですが」
「あ、それについては実は……」
「今日の模擬訓練の隊編成はどうなっているのですか?」
「は? な、何ですいきなり……」
「俺、聞かないほうがいいならはずしましょうか?」
「いいですよ。どうせすぐに分かることです。それで?」
「……編成については男、妹組と残りの三人で行う予定ですが」
「ふふ。なるほどなるほど」
- 885 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:53:56.43 ID:eFWF7HU0
こちらを見て口の端を吊り上げる馬鹿妹。
いやこいつ、本当機嫌良すぎじゃないだろうか。
「では、私に指揮車両を一台回してもらえます?」
「な! 今から、ですか? 勝利条件も全滅に変更にされて、かなりごたついて……」
「別に口出しなどはしませんよ。モニターしたいことがあるだけですし」
「……ここ数日ハンガーが慌しかったのは……何かされましたね?」
「何も……ね、男さん?」
な、流し目でそんなこと言われても!
あああああ、ほら、教官が! メイド長さんがめちゃくちゃにらんでますってば!
「じょ、上位命令には逆らえないのであります!」
「……はぁ」
これ以上問い詰められると俺としては板ばさみ。
ストレスで俺の寿命がマッハなんだが。状態である。
「小隊集合!」
と、そこへ駆け寄る俺達の分隊。
た、助かった。
「では後はお任せします」
「あ、お嬢さ、……司令! 司令!! ……男」
「ひ!?」
「……ふぅ。では、これより模擬戦についての説明にはいる!」
今のやりとりにきょとんとなるメンバーの顔。
全く、何でこうなるんだ……。
- 886 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:54:34.79 ID:eFWF7HU0
「と、いう訳です。お分かりになりました?」
「そんな、いきなり新OSなんていわれても……」
困惑気味の妹ちゃん。気持ちは分かる。
今まで習ってきたことが通じるかどうか分からないものをいきなりだなんて。
しかも初めての模擬戦。ただでさえデリケートなこんなときに。そんな心境だろう。
「あなたも男の才能は認めているでしょう?」
それでも馬鹿妹はこともなげに話を続ける。
「今は彼にしか実践できない特殊な機動が、このOSによって誰でも再現可能になる、といえばどうですか?」
「え?」
「ゆくゆくはこのデータが全ての戦術機に活かされる事になる。いわばあなたは全人類の代表として選ばれたのです」
「……」
「これを栄誉と思ってもらえないようでは軍人としては……いえ。何でもありません」
「っけ、嫌味な言い方しやがって。ああ、やってやる、やってやるさ!」
ああ。そういえばこの子、熱血系だった。
あっさり乗っかってくる。
「ふふ、その意気です。普通にやれば間違いなく勝てるはずですから楽しむくらいの余裕でどうぞ。では、全員搭乗!」
「はっ!」
更に煽って駆けていく後姿。
うぅむ、俺ではああも簡単に納得させられたかどうか。
「……覚えておいてくださいね。人を使う、というのは案外簡単なんですよ?」
「怖ぇな、お前」
自分の身内が怖いとはいかに。
けど、そうだな。普通にやれば勝てる。
そして……悪いが、俺は“勝ち方”まで知ってるんだ。
委員長、悪いけど勝たせてもらうからな。
- 887 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:55:00.00 ID:eFWF7HU0
「っ! な、なんだこれ!? 操縦系に遊びがなさすぎる……!」
搭乗してすぐ。妹ちゃんが悲鳴をあげる。
「泣き言か! 即応性が上がった分、機動はお墨付きなんだぞ! 乗りこなせないなら降りろ!」
「……にゃろ、言いたい放題!」
「だったらいくぞ! レーダーに感、2時の方向!」
「04了解、合わせる!」
「よし。02、専攻して2機の頭を抑える!」
「了解!」
こうして始まった模擬戦。
前回の戦闘では先攻する委員長と友に気を取られ、俺達は後ろに構える女さんに……
「――狙撃がくる! 乱数回避!!」
「っ!?」
うまい具合に誘い込まれ、狙い撃たれた。
そして崩れた俺達を挟撃。完璧な流れでしとめられる。
けれど、俺はそれを知ってる。
そしてそれを潜り抜けられるだけの力が、新OSがある!
果たして、結果は……。
- 888 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:55:28.07 ID:eFWF7HU0
「――以上、市街地模擬戦闘演習を終了する」
「――敬礼!」
「午後は、この演習データを使ってシミュレーター講習だ。解散!」
つい口元が緩む。
そう、俺達は勝った。それも想像以上の成果で、だ。
本来チームワークの悪さで足を引っ張りあうはずの俺達。
けれど妹ちゃんは新OSへの適応でいっぱいだったんだろう。
いがみあう暇もなかったからか、純粋に二人の能力が生かせた。
結果としての大勝。
こちらに損害なし。そして敵機の完全撃破。
これ以上の成果なんて望むべくもない。
「ねぇ、男」
「おう、委員長。おつかれ」
「説明してもらいましょうか」
「ん?」
「勝敗の結果はいいわ。あなた達の能力が高いのは知っているもの。けれど」
「あの機動は何さ!」
友もそこに噛んでくる。
「明らかに前までの機動と、その……あぅ」
女さんまで俺達の動きの変わりように困惑している。
- 889 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:56:09.97 ID:eFWF7HU0
「ふふ、すごかったみたいですね」
「博士! ……今朝、こちらにこられた時から何か怪しいとは思っていましたけれど……」
委員長が犯人を見つけたといわんばかりの顔で、こちらに近寄るその姿を見る。
その視線に何ら動じることない涼しげな態度の馬鹿妹だ。
「この二人の機体には新OS。つまり全く新しい概念に基づく制御システムを搭載していました」
「新、OS?」
友が鸚鵡返しに聞き返す。
「彼がどうしても、ということで暇つぶしがてら製作に携わらせていただきました」
ひ、暇つぶし……いやそういってたけどさ。
「あの機動こそ、そこの男さんの目指していたモノなんですよ」
「「「なっ……!?」」」
三人。いや、よく見たら後ろにいる妹ちゃんも若干驚いてるか。
「あんな動きを目指してたなんて……」
「発想が違いすぎるよ。今のOSだって様々な戦術機のノウハウを蓄積してきたものなのに」
「そこまで驚いていただけたのならば結構。そうですね。せっかくですから貴方達の期待にも乗せましょう」
おお!? と皆の歓声があがる。
「今から貴方達5人は次世代OSの開発テストチームに抜擢されました。今後もデータ収集のために協力くださいね」
「「「「はい!!」」」」
後ろでメイド長さんがまた勝手に、なんてため息をついてるけど……。
でも、そうだ。これでまた一つ未来を変えられた。その実感を得られるのだった。
- 890 名前:パー速民がお送りします [sage;saga] 投稿日:2010/07/20(火) 00:56:34.60 ID:eFWF7HU0
「イド、聞いてくれよ! 模擬戦、うまくいったんだぜ!」
薄暗い部屋。脳髄だけがうくシリンダーが淡く発光するその場所。
いつも通り部屋の中央でたたずむ彼女の元へ、俺は報告に向かっていた。
一通りどれだけうまくいったかを説明して、彼女からも労いの言葉がくる。
と、そこで今朝、馬鹿妹から言われていたことを思い出す。深刻な顔がどうとか……
「あ、そういえばイド。今朝のことなんだけど」
ピク、と反応は見せる。が、特に応えてくれる様子はない。
また無視なのか? そう思った途端、どこかへと歩き出す。
「おい、待ってくれよ」
その後姿を追えば、司令室。つまりは馬鹿妹の部屋だ。
「おいおい、いったいどこまでいくっていうんだよ」
本人不在なのか、広い部屋はデスク以外が見通せない程度に暗い。
そんな中、暗闇のほうへと進むイド。
「うぅむ。珍しいな。あいつがいないなんて」
そんな独り言にも返って来る言葉なんて、
「博士なら司令所に行きましたよ」
「うわ!?」
「!?」
思わぬ方向からの返事に、二人して驚く。
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