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意地悪なメイド4
643 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/07(木) 01:08:16.25 ID:FbHDxlyg0
第31話 「錯綜/情報」


突っ込んだ勢いをそのままに、中央作戦室で見かけた妹に声をかけようとして、

「長官どの。もはや一国の猶予もないのですぞ」

「ですから、これは日本帝国の国内問題。我々国連が帝国政府に要請もなしに干渉するこではありません」

「何を悠長な……この機を逃しては公開する事になりますぞ」

口調こそ丁重だが、確固たる意思を感じさせる物言いに俺は口をつぐむ。
後姿とその声で分かる。あそこにいるのは女さんの親父さんだ。

「日本政府の出動要請が出ていないのですよ。国連はいつから加盟国の主権を蔑ろに出来る権限をお持ちに?」

「博士、国連は対BETA極東防衛の要である日本が不安定な状況に陥ることを望んではいないのです」

「事務次官。お言葉ですが此度の騒乱は、帝国軍のみで対処可能な規模であると判断します。国連の介入する必要性は……」

「予防的措置です。クーデターの後、新政権がこの基地を、人類の切り札足りえる計画の接収に乗り出したらどうされるおつもりですか」

どくん、と。心臓が跳ねる思い。
クーデター、その単語はつい最近、それも俺にとって近しい人間から感じ取ったものじゃないか。
まさか、それが本当に……。
けれど同時に、オルタネイティヴXの発動ではない事にうすうす感づき、どこかほっとしている自分がいた。

「その際は国連の名に於いて、全力で応戦するまで。そうなれば当然、米軍への支援も要請するでしょう」

「で、あればこの機会に米軍の受け入れを」

「今はそのときではありませんわ。何より、このタイミングで米軍太平洋艦隊が相模湾沖に展開しているなんて」

出来すぎではありませんこと。と、妹は言外にけん制をする。
そうか、親父さんは事務次官として、米軍をこの基地に誘致する気なのか。
いや、親父さん本人の意思ではないにしろ、その後ろにいるのは米軍ってわけか。
これはこれできな臭い話になってるみたいだけど……。

結局、長官と妹、そして女さんの親父さんの話は平行線。
あくまで国連としての正論として増援部隊の受け入れを提案する親父さん。
対して基地側としての持論として基地を支配下に置かれるわけにはいかないとする。
だから安保理の正式な決議を待ってからの受け入れを主張し、結果として受け入れの拒否を示す。
そんな平行線をたどる議論も、やがて執着を迎える。

「……私は人類の未来を優先すべきだと考えます。たとえそれが特定の集団の利益につながるとしても」

「それは理解しています。だからこそ、筋を通していただきたい。国連軍が正義であることを世界に示すために」

「それでは遅いのです。後手に回ってばかりです。私も一人の日本人として、オルタネイティヴWの完遂を願っている」

だからこそ、現在国連上層部にて展開する時期オルタネイティヴ予備計画――すなわちオルタネイティヴXを阻止したい。
このままその主導権を握る一派によって現在の計画に見切りをつけられる可能性がある。
そんな結末を迎えたくないがために、日本主導のオルタネイティヴWを完遂させたいのだと親父さんは言う。
その発言は、彼の立場を鑑みれば非常にまずいものだろう。しかし、その確固たる意思を持って、彼はここにきているのだ。


644 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/07(木) 01:09:02.09 ID:FbHDxlyg0
「事務次官、そのような発言をこの場でされては」

「いいじゃないですか、長官。では私も一人の日本人としての意見をさせていただきます」

「な、博士!」

彼のそのような気概に応えるように、妹もうわべを取り繕うことなく発言する。

「結局、米国は極東の防衛線が崩壊して本土が戦場になるのを避けたいだけなのでしょう」

「…………」

その言葉に、長官は押し黙る。それは責任を回避したいとか、そういうことではない。
同意見であるからこそ、いや、それ以上に思うところがあるからこそ、何もいえないのだ。

「戦略の転換、つまり次期計画の要であるG弾を米国本土意外でバンバン使ってBETAを殲滅。残った地球に君臨したいだけ」

そんなやり方が彼らの思い描く計画なのでしょう。と、珍しく感情をこめて吐き捨てる。
G弾。それは核兵器よりも恐ろしい戦略兵器。威力は当然お墨付きだが、その後に残る環境、人体への影響は核兵器以上だ。
だからこそ、米軍のそんな戦略を許せるわけがない。許してはいけない。
俺は前の世界で、その光景を見てきたんだから……。

「国連が米国の意向を受け入れない組織になれば……彼らは単独でもそれをやるでしょう」

「ご安心ください、事務次官。そのような結末も、彼らの独断専行も許しませんわ」

「随分な自信、ですな。大した成果もあげられていないというのに」

「虚勢と取るかどうかはお任せしますわ」

「その判断は私のするところではありませんな。……仕方ありません。一旦退散するとしましょう」

そうして親父さんは去っていく。
残った長官と妹は現状についてのやり取りの最中だ。
何となく、いつも俺の前で見せる姿とは違う大人の姿に、戸惑う。

「全く、厄介なことになったな。安保理としてはこのような横暴は認めにくいとは思うが、機嫌を損ねたくないというほうが大きいだろう」

「ではすぐにでも正式な決議がされると?」

「おそらくな。この状況を楯にすれば安保理も認めざるを得まい」

「所詮日本政府の意向が全人類の利益と同じ天秤の上には乗りえない。なるほど、あのお国の狙いは確かなようです」

「事務次官もそうと知りながらも、彼なりの信念に基づいて行動されているのだろう。だが所詮政治屋だ。現場が見えていない」

「手厳しいですのね」

「……ふっ。君からそのような言葉をいただく日が来るとはね」

そんな二人の大人の会話をただ俺は聞いていることしかできない。
おそらく、俺があそこに入るには情報も、経験も、何もかもが不足しているから。

「私は発令室に戻る……博士、あとは宜しく」

「はい」

そうして二人が別れた今。
妹に接触するにはこの時しかないだろう。
俺は彼女に近づき、声をかけようとし、

「こんなところで何をしている。男」

「うわぁああっ!?」

真後ろから声をかけられ大声をあげてしまうのだった。


645 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/07(木) 01:09:50.03 ID:FbHDxlyg0
渋い大人の声は、聞き覚えのあるもの。
振り返ればそこには友の親父さんがいた。

「あなた達……こんな場所で何をされているのですか」

それに気づいた妹がこちらに近づいてくる。

「あ、いや。えっと……って、友の親父さんがどうしてこんなところに」

「貴方もですよ。……ああ、そうでした。私の部屋よりセキュリティレベルが低いんでしたね、ここ」

「私が入れるくらいですからな。はっはっは」

おい。それでいいのか軍事施設。

「いけませんなぁ、博士。先ほどのお話もそうだ。あのような機密情報をああもおおっぴらに……スパイに聞かれたらどうするおつもりですか」

「大丈夫ですよ。ここにはスパイなど、貴方くらいしか居ないですので」

「何、私はスパイではありませんので。ご安心を」

でも確か親父さんって帝国の情報省の人間で……あれ、つまりスパイじゃん。

「……で、あれば問題ないのでしょう」

「ふむ。確かに」

あ、こいつ親父さんの相手が面倒になったな?

「それで、どこから聞いていらしたのですか」

「それは言うわけにはいきませんな。しいて言うならば全部、でしょうか」

「い、言ってるし……」

何だこのおっさん。やっぱり読めねぇ。

「警報、聞こえなかったのですか? 貴方の向かう場所はここではありませんよ」

「悪い。俺、てっきりオルタネイティヴXかと思って、あわててここに」

「安心してください。大体察しておられるでしょうが、日本国内で面倒が起きているだけですので」

「さすがですな。帝国軍が必死に情報封鎖を行っている最中だというのに。どこまでご存知なのです?」

「大元の栓を抜いた方に言われることではありませんよ」

「ふむ。では決起の目的、部隊、その裏にいる人物。どこまでご存知なのでしょうかね」

「楽しそうですね。八方美人も度が過ぎれば消されますよ」

「はっはっは。肝に銘じておきましょう」

「それで。私から聞かなくても情報をしゃべってくださるのでしょう?」

その言葉に頷きも、否定もせず、親父さんは独り言のようにしゃべりだす。
現在、帝都守備隊を中核としクーデターが発生。部隊は首相官邸、帝国議事堂、各省庁などの主要機関を制圧。
各政党本部、新聞社や放送局も占拠し帝都の機能ほとんどを掌握しているという。


646 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/07(木) 01:10:37.52 ID:FbHDxlyg0
「そのようですね。それで、陰陽どちらの将軍はご無事で?」

……将軍? ってのは、確かこの国の一番偉い人なんだっけ。

「帝都城は近衛軍の精鋭が固めていますが、帝都守備隊の全てを向こうに回しては時間の問題でしょうな」

そしてそれは陰と陽の二つがあって、片方……陰についてはいいんちょ達が絡んでたはずだ。
あいつ、こんな情報聞かされたら心配しちまうだろうな。

「本当に楽しそう。事が思う通りに運んではしゃいでおられるのですね」

「買いかぶりすぎですよ。脚本を用意したのは国連上層部オルタネイティヴX推進派とCIAといったところ。私などとてもとても」

だが、否定はしなかった。
この人は今回のことに、どこかでかんでるんだ。

「国連と帝国を相手に大立ち回り。楽しむのは結構ですが、早々に退場されないでください。利用価値の高い駒は残したいので」

「はっはっは。私などをそう評価していただけますか。いやはや、冥利に尽きますな。ではこちらからも質問を」

「そちらが勝手にお話されただけでしょうに」

「先ほど、事務次官どのに随分を勇ましい事をおっしゃられていたようで。計画が順調なようですな」

そうして親父さんがここにきて始めて俺を見る。
俺のことが……バレてるのか。

「彼のおかげ、といったところですかな」

「程ほどにしてくださいね。駒が消されるのは我慢なりませんが、消す事にためらいはありませんので」

「おお怖い怖い。ですが、商売柄、目体遂行のためならば手段を選んでいられないでしょう。お互いに」

言葉の途中から雰囲気が変わる。

「たとえそれが、陰陽の縁者であろうが、実の息子であろうが……必要ならば犠牲は厭いません」

それって、まさか……。

「そして都合の悪いものは……始末するだけ、でしょう」

「お、親父さん!!」

「何だね」

「今のって、どういう意味ですか」

うすうすは感づいてる。でも、否定してほしかった。
だから、俺は聞いてしまう。思い至った考えが間違いであったと。

「いけないな。聞けば必ず答えが返ってくるとでも思っているのかね」

「犠牲って、どういう意味ですか!」

「安心したまえ。犠牲は無駄にするような真似はしないさ。最大の効果を発揮するそのときを見極めるまではね」

「だから!!」

「それは私もであり、博士もだろう」

「え……」

俺は視線を妹に向ける。
だが、彼女から否定の様子はなく、ただ真っ直ぐに俺に視線を返すだけだ。

「そうですね。博士」

「……」

「陰陽家縁の者に、政治屋としては国連事務次官の娘。更には元陸軍中将の縁者であり、情報省外務二課課長である私の息子」

――それって、俺の周りの、あいつらのことなのか。
いいんちょ、妹ちゃん、女さん、友。みんながみんな、何か重要なポジションの人間と縁がある。


647 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/07(木) 01:11:09.40 ID:FbHDxlyg0
「君はこれだけの豪華メンバーが偶然ここに集まったとでも思っているのかい」

……確かに。前の世界でその事実を知ったときも作為を感じた。
つまり、俺達は見えない力に踊らされているってのか。まだ。

「さて。お喋りが過ぎたようだ。私はそろそろお暇するとしよう」

そうして置き土産の謎の人形を手渡され、それにツッコミをいれようとする隙にまた逃げられる。
だけど、俺の心にはそれ以上のもやもやがあって。

「――さ、急ぎますよ」

「あ、ちょ。待ってくれよ!」

その場をさっさと移動し始める妹の背を追う。

「さっきの親父さんが言ってたこどだけど……」

「オルタネイティヴXとは関係ないから安心なさい」

「違う! そこじゃなくて、犠牲にするとか何とか」

「受け取った情報の取捨選択は自身で行ってください。先ほども言われていましたが、聞けば答えが得られるなどという考えは甘えです」

「でも!」

「一々立ち止まる癖はもうやめてください。人類を救うのでしょう? 偉そうなことを言ったからには行動で示してください」

「っ……」

そりゃ、そうだけどよ……!
でもあいつらの事とか、今回のクーデターのこととか、ぜんぜん情報がなくてどうしたらいいか分からないんだよ!

「私は貴方のお守りをしていられるほど暇ではありません。利害関係の一致する間は互いにうまく利用しましょう。それだけです」

くそ! そういう奴だって、わかってるはずなのに!
俺はすぐにこうやって甘えて……!

「現状として何が起こっているかはお分かりですね」

「軍事クーデターだろ。こんなの俺の記憶にはなかったんだよ」

「それはすばらしい。未来を変えている証拠ですよ。ええ、いい傾向です」

そんなことを言ってのけて、こいつは立ち止まることなく進んでいく。
どうしたらこんなに強くなれるんだ。

「ですから、今回の件も頼みましたよ」

「頼みましたよって……何のことだよ」

そう聞き返したところで答えはない。
自分で考えろ、ってことかよ。

今まで自分が関われていなかった世界の事情に少しずつ触れていく。
そのことが俺の脚を鈍らせているのか。それとも覚悟が足りないだけなのか。
結局答えは自分で考えるしかなく、目先のことさえわからないまま、俺はブリーフィングルームへ到着したのだった。

―― to be continued...


650 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/08(金) 00:10:03.47 ID:4fx+I2WM0
第31話 「生命/声明」

ブリーフィングルームは既に教官をはじめ、隊のみんながいた。
博士は到着後、すぐに俺の原隊復帰を告げる。

「ほら、貴女も目を通しておきなさい」

「はっ……な、博士! これは!?」

「何かしら」

「訓練隊には過ぎた情報では……このような詳細なブリーフィングを……!?」

「彼方達はただの訓練隊ではありませんでしょうに。私の直轄部隊として詳細な内容くらいは把握してなさい」

そんな言葉にいやでも緊張感が出てくる。これが夢でも何でもなく現実なんだと。
ほぼ同時刻に太平洋方面第11軍司令部より入電が入ったとの報告が女性仕官より告げられる。
在日国連軍の対応が決定し、相模湾沖の米軍が正式にこの基地へと受け入れられることになったのだ。
やはり筋書きが出来ていたということか。長官と博士のやり取り、そして女さんの親父さん。
三人のやり取りを思い出す。

「後は貴女に任せますよ。私は受け入れの準備がありますので」

妹嬢はそのまま通信にて打ち合わせに入っていく。
後を引き継いだ教官より具体的な指示が届く。


国防省は陥落、帝都城の周辺で近衛軍とクーデター隊の戦闘が始まったとの情報も。
仙台臨時政府より将軍と帝都奪回のための討伐部隊を集結中だという。
だが実質帝都軍は日本海沿岸に展開中で部隊を集めようなどない。
つまり、帝国軍が単独で帝都機能の奪回など難しいだろう。
それともまさか、沿岸に展開する絶対防衛線を放棄するなてことは……。

「首謀者は帝都防衛第一師団・第一戦術機甲連部隊所属、女友大尉と判明した」

続く情報。その中に引っかかる言葉があった。

その名前は先ほど聞いた名前であり、記憶のどこかで見た姿だ。
それは友と、彼女が仲睦まじく並ぶ姿。
だが、この世界ではどうなのだろう。

続く情報で、そんな夢想は砕ける。

「――国賊として、内閣府の人間とそこに連なる人間を処刑したとの情報が入っている。委員長、残念だが」

そこにはいいんちょの一族も含まれる。
教官から告げられる言葉はただただ事実として伝えられる。

「そう、ですか」

「お姉ちゃん……」

「……妹。任務中よ」

「っ……」

強いな。そう告げることすら許されない中、新たな動きがある。
首謀者より声明の発表が始まるのだ。


651 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/08(金) 00:10:46.59 ID:4fx+I2WM0
「親愛なる国民の皆様、私は帝国本土防衛軍帝都守備連帯所属、友女大尉であります」

静かな声は確固たる意思を持つ。
凛とした声は、まるで刀のよう。

「皆様もご存知の通り、我が帝国は今や、人類の存亡をかけた侵略者との戦いの最前線となっています」

「殿下と国民の皆様を、ひいては人類社会を守護すべく前線にて我が輩は日夜生命を賭して戦っています」

「それが政府と我々軍人に課せられた崇高な責務であり、全うすべき唯一無二の氏名であるといえましょう」

「しかしながら、政府及び帝国軍はその責務を十分に果たしてきたと言えるでしょうか」

彼女は帝国軍の実情を話し、責め立てる。先日の天元山での出来事もそうだ。
あの時、救助という名目のもと、就寝中に麻酔銃で襲撃するという非人道的な行為が行われていた事実。
更には罪人のごとく仮設住宅に押し込められ物資すら満足に届けられていないのだ。
それがあくまで氷山の一角に過ぎず、殿下のご尊名において遂行された多くの作戦が政府や軍にとっての効率や安全のみを重視したものだという。

「しかも国政に恣にする奸臣どもは、その事実を殿下にお伝えしていないのです」

「殿下の御心と国民は分断され、遠からず日本は滅びてしまうと断言せざるを得ません」

「超党派勉強会である『戦略研究会』に集った我々憂国の烈士は本日、この国の道行きを正すために決起致しました」

戦略研究会。それは確か、友の親父さんが喋ってた話だったか。

『帝国軍の一部に不穏な動きがあるようでして』

『実は最近、戦略研究会なる勉強会が結束されましてね』

『事が起こればこの国に軍事的・政治的な空白ができますよ』

あれはこの事だったのか!

「我々は殿下や国民の皆様に仇成すものではありません。我々が討つべきは日本を蝕む国賊を滅すのみ」

「現在、厳戒令を発令中につき、国民の皆様が特に帝都の皆様にはご不便とご迷惑をおかけしますが、今しばらくご辛抱ください」

「ラジオ、テレビの電源は必ずお点けになり、急患の方が出た場合などは――」

諸悪の根源みたいな言い方をされている人間の中にはいいんちょ姉妹の親族もいたという。
後ろから背中しか伺えない二人の表情を、ただ想像するしかない。


652 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/07/08(金) 00:11:13.93 ID:4fx+I2WM0
「――諸外国政府、在日国連軍、及び米軍第7艦隊に告ぐ」

「我々は事態を完全に掌握しており、混乱は収束に向かいつつある」

「これは帝都の内政問題であり――」

「もういいです。切ってください。……何を言うかと思えば、がっかりですね」

実際にガッカリといった様子を見せる妹嬢。
後は通信を請け負っている女性仕官と、教官のみ、毅然としている。
俺達といえば、黙りこくりただひたすらにうちに渦巻く感情を隠せずにいる。
そんな状態を見抜いてか、教官から言葉が降りてくる。

日本人として思うところはあるだろうが、使命を忘れるな、と。
人類の存亡を賭けた戦いに国家の垣根を越えて奉仕せよと。

「全員入隊宣誓斉唱!!」

雷鳴のように轟いたその命令に、一瞬詰まってしまう。

「どうした! 入隊宣誓斉唱っ!!」

が、再びの一喝で俺達は宣誓斉唱を行う。
引き締められた気持ちをかみ締める。

「現在当基地では第一戦術甲大隊、第五航空支援大隊を即応部隊として待機させ、残りは基地の防衛に当たる予定だ」

「……」

「加えて先ほど決定された米軍の受け入れ……おそらく、訓練部隊の出る幕などないだろう」

「……」

「とはいえ、出撃の可能性はゼロではない。今頃、貴様らの機体も実戦装備に換装されているはずだ」

そう。可能性はゼロじゃない。
初めての戦闘。……それが同じ人類相手だなんて。

「貴様らが無駄飯食らいでないことを証明してみせろ。以上だ、各自即応体勢で待機せよ!」

「敬礼!」

親族が死んだってのに。
いいんちょの気丈な振る舞いに、俺は言葉が出ずにいた。



―― to be continued...



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