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意地悪なメイド4.5
- 33 名前:NIPPERがお送りします [sage]
投稿日:2011/01/20(木) 01:16:13.17 ID:ocvsUFLAO
委員長「あんた、最近名前出ないから息子扱いされてないわよ」
命「っせぇ。どっちにせよあんな野郎の息子扱いされるよりはるかにいいさ」
委員長「素直じゃないわね」
命「親が悪いからな」
委員長「そこは同感ね。だからっていつまでも子供みたいに拗ねるのは可愛いだけよ」
命「けっ、雌狐が」
委員長「その雌狐に抱かれて、喚いて、命乞いしたのはどこの誰だったかしら」
命「……ふん」
委員長「全く。可愛い子。安心なさい、貴方は死ぬまで愛してあげるわ」
命「人形愛だろ」
委員長「否定はしないわ」
命「……けっ」
委員長「ふふ」
妹(こ、こいつらのがよっぽど中二してるじゃんかよ……)
※こいつらの関係は上記URLからどうぞ
- 116 名前:NIPPERがお送りします [] 投稿日:2011/02/22(火) 00:18:48.86 ID:6/7tgecX0
ぐ、の音に続く絶叫にも似た咆哮。
人では決して出せぬその音は本能的に危険だと頭の中で警鐘が鳴り響く。
怖い。そう素直に感じるのはきっと自分が捕食される側だと悟ったからか。
腕の中で毛を逆立て、唸る声も先ほどまでの攻撃的な色合いではなく怯えのそれ。
「厄介ね、これ」
何事にも動じないと思っていた彼女ですら警戒の色を灯した瞳でそちらを見る。
「ふじゅる……じゅ、ぶ……ぐる、ぐ、ぁぁぁあああ!」
巨大な肉塊。そう呼ぶしかないだろう姿でそれは吼える。
かろうじて四肢とわかるパーツと、頭と尾。そして顔であろう部分があるだけ。
口と思われる場所からぎらつく牙を見せ、粘膜質の液体を垂らす姿は獣のようではある。
歪に積み上げられた積み木のように立っていることすら不安定な状態。
そんな生命としての異物が命達の退路を阻む形で飛び出してきたのだった。
ぼたりぼたりと涎とそれ以外の何かを滴らせる肉塊。
背後に空間の歪みを置き、いつでも飛び掛らんばかりの姿勢でこちらをねめつける。
「命。生きたいわよね」
「当然だろうが」
悪い夢としか思えないそれを相手に散弾銃を構えながら、委員長は命に一瞥をくれる。
「その子も生かしたい?」
「今更何だよ。逃げろって言うんなら全力で逃げるぞ」
「そう。じゃあ前に向かって逃げなさい。少なくとも後ろはダメよ」
「前、ってお前……」
見やればそこには命の機器たる原因がそこにいる。
背後に開きかけているであろう退路は確かに生存に繋がっているかもしれない。
だがそこをそれほど簡単に通れるものなのか。
「無理だろ」
結論など考えるまでもない。
「無理を通せば道理が引っ込むものよ」
けれど応える声は涼やかな一言。
「……確かにあんたなら通せそうだけどな」
ならば他に方法などないのだろう。
自分達は囮として使われるだけかもしれない。
何度だってこの女の言葉をそのまま信じて痛い目をみたか。
考えるまでもないはずだ。
けれど、同時に必ず外まで連れ出すとも約束した。
ならば……その言葉を信じてみる以外にない。
何より、もはや時間がないことが視界の端で確認できる。
目の前の獣が跳躍のために溜めの姿勢に入ったのだ。
- 117 名前:NIPPERがお送りします [] 投稿日:2011/02/22(火) 00:19:41.45 ID:6/7tgecX0
「……っ!!」
少女を抱えてがむしゃらに走る。
一直線とまではいかなくてもほぼまっすぐに歪みを目指して走る。
かすかに聞こえる声は人のもの。ならばこの先にあるものは安寧に近いものであるはず。
そこへ向かって走る。もっと早く走れればと思いながらも。
「じゅああ!!」
水気をまとった咆哮と共に丸太ほどの肉の獣の腕が飛んでくる。
獣の右へと駆け抜ける命に対応するように左手による大薙ぎの一撃。
恐らくもらえばもれなく再起不能になることは容易に想像できる。
だから目一杯、姿勢を低く転倒寸前までの前傾姿勢でつっこむ。
唐突に響く音は彼のすぐそばから。
下へと降りぬかれ、あわや命と獣の少女の体が潰れた肉片へと変わろうという時。
轟音と共に肉の獣の腕が上へと跳ね上げられる。
「面倒な硬さね」
ほぼ同速度かそれ以上で滑り込んだ女の一撃。
至近距離からの散弾銃のセミオートによる連射は肉を削ぎながら勢いを上へと変える。
決して致命傷には至らぬであろうそれは、しかし一人と一匹を救うには十分だった。
「このまま走るわよ」
「……っっ」
応、とすら返せぬまま片腕は少女を抱き、もう片方の手は倒れかけた自身を引く手として。
スライディングからの連射をこなし、なおかつそのままの勢いで立った彼女。
委員長のすばやい身のこなしによって体勢を建て直しながら命たち三人は歪みへと体をねじ込む。
背後、圧倒的な質量を感じさせる薙ぎの一撃を感じるも、結局届いたのはその風圧のみ。
多少の痺れにも似た痛みを感じながら、一瞬の暗転のあと、彼は数人の人影に囲まれ、森の中にいた。
- 140 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/04(金) 01:57:37.69 ID:7rzz0gtAO
命「委員長が48人とかどこのクローン兵団だよ」
委員長「あら。初登場に活躍したキャラクターのクローンは弱くなってやられ役になるものよ」
命「メタな発言しやがって……」
委員長「それに私が48人もいたらすぐに壊滅するわよ」
命「解散じゃないのか」
委員長「ええ、壊滅。最後に残った一人以外みんな消えるでしょうね」
命「一人バトルロワイアルだな」
委員長「そうね。だって私は私が一番嫌いだもの」
命「自分が好きな人間なんているかよ」
委員長「自分が嫌いでも自分を許せるのが人間。でも私は自分が許せないのよ」
命「なんだそりゃ。じゃあ自殺願望でもあるのかよ」
委員長「ええ……すぐにでも」
命「嘘つけよ。殺しても死なないくせに」
委員長「[ピーーー]ないもの。私は」
命「めちゃくちゃ矛盾してるな。頭大丈夫か」
委員長「ええ。極めて健康よ。心配してくれるのかしら」
命「誰がするか。あんたなんか」
委員長「……ふふ」
- 174 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/12(土) 00:49:56.42 ID:AoOXyM8AO
【それっぽいアクションシーン】
命「くそ。漫画か映画かよ」
委員長「囲まれたわね」
命「どうすんだよ。詰みじゃねぇか」
委員長「そうでもないわよ。確かさっきの階にいい足があったわ」
命「あのクソでかいバイクか。……動くのかよ」
委員長「考えるだけ時間が無駄でしょ。行くわよ」
命「くそっ、まだかよ!」
委員長「慌てないの。いい男のする事じゃないわよ」
命「ヘタレで構わねぇよ。っつ、もう保たないぞ!」
委員長「ん。ほら、君。素直に言う事を聞いてくれたら後でイイコトしてあげるわよ」
グォ……ン!
委員長「あら、いい子ね。ひねた子の相手ばかりだから素直な子は好きになりそうよ」
命「バイク相手に何やってんだよ! いいから出してくれ!」
委員長「妬いてるの? くす、可愛いわね」
命「うっせぇ!」
委員長「ほら、乗りなさい」
命「っ、乗ったぞ!」
委員長「そう。それにしても私が運転なのね。普通は逆じゃないかしら」
命「俺はバイクの免許なんて持ってねぇんだよ!」
委員長「奇遇ね。私もよ」
命「……は?」
委員長「飛ばすわよ。捕まりなさい」
命「なっ、ちょ……のわぁぁぁああ?!」
ブォォ……ン!! ガシャーン!!!
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
- 184 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/14(月) 01:03:29.42 ID:VavCpZvAO
命「……っ、……!」
委員長「今日は随分と甘えるわね。人肌恋しい時間かしら」
命「ち……がっ、……!」
委員長「聞こえてるのね。ヘルメットなしとはいえよく聞き取れてるわ。いい子ね」
命「……っ!」
委員長「くす。そうよね、きつく抱いてくれてるものね。そんなに求められたら私まで欲しくなるわ……誘い上手ね」
……チュン!!
命「!!」
委員長「いいところを邪魔してくれるわ。そう思わない?」
命(なんでこいつはこんな命がけの高速運転でふざけられるんだよ! 撃たれてんだぞ!?)
委員長「命」
命「……ん、……だよ!」
委員長「生きて帰れたら思い切り抱いてあげるわ。だから私を信じなさい」
命「たり、ま……だ!」
委員長「いい返事ね。この子も交えてバイクプレイかしら。燃えるわね」
ヒュン!
命「っ! (耳元! 掠めてったぞ!?)」
委員長「全く。無粋なんだから」
ガチャ
命「!?!!? (片手で何やってんだよこいつ!!)」
委員長「蠅掃除の始まり始まり」
ガガガガ!
命(ああもう! どうにでもなれ!!!)
ヴォォ……ン!!
- 185 名前:NIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2011/03/14(月) 01:12:56.98 ID:VavCpZvAO
命「……生きてる」
委員長「ええ。生きてるわね」
命「最後のあれ、知っててやったのか?」
委員長「ジャンプのことかしら」
命「下のあの高さに道が続いてなかったらどうする気だったんだよ」
委員長「その時は二人とも……いいえ、三人ともスクラップだったわね」
命「……。……」
委員長「何? 面白い顔ね。いつからそんな芸を覚えたのかしら」
命「……っ! ああ、もう。……で、どうすんだよ。これから」
委員長「あら。決まってるでしょ」
命「あ? なんだよ、逃げるのに必死だったから知らなかったけど次の目的地は決まってたのか」
委員長「それはまだ未定ね。あちらからも連絡がないもの。プランも練り直してる頃ね」
命「んじゃあ何が決まってん……んむっ!?」
委員長「ん……、ハぁ。約束通りに三人で、よ」
命「……馬鹿だろ、お前」
委員長「あら、そう言いながら脱がすあなたは何なのかしらね」
命「生きてる実感くらい、いいだろ」
委員長「ええ。ちょうだい。私の中に」
ヴォ……ン
委員長「くす。ええ、アナタも私にいっぱい触れて。私を覚えて」
命「こっち見ろよ」
委員長「振り向かせてみなさいな」
命「無機物に負けられっかよ」
委員長「期待してるわ」
- 194 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/03/16(水) 01:41:51.67 ID:PgVkAQVAO
委員長「こんな話は知ってるかしら」
命「なんだ。急に」
委員長「この建物の持ち主さんね、エレベーターに乗れないの」
命「ふぅん。閉所恐怖症か何かか」
委員長「似たようなものね。曰わくある経験をしたからだそうなの」
命「閉じ込められた、とかか」
委員長「違うわね。そう……それは今みたいな夜中」
彼はいつも通りに仕事を終え、この14階建てのマンションの最上階へ向かうエレベーターに一人で乗った。
最上階に作った自分用の部屋に向かう為だ。決して絶景とまではいかなくとも夜景を眺めながらの一杯は彼の一日のご褒美。
今夜の肴のレシピを考えながら、彼はエレベーターに乗り込むと最上階のスイッチを押した。
と、動き出して少し経った時、8階のボタンのスイッチが点いた。
委員長「彼は『ああ、誰か乗ってくるんだなぁ』と彼はぼんやり考えていたんだけど、急に慌てて2階、3階とスイッチを押したの」
命「……んん?」
幸いにして動き出してすぐだったことから彼は3階にてエレベーターから降りられた。
ドアをこじ開けるように外へ飛び出すと転げ落ちるように近くのコンビニへ移動する。
結局その晩はコンビニで立ち読みなどをして朝まで過ごした。
委員長「それから彼はエレベーターに乗れなくなった、という事なの」
命「ああ? なんだそりゃ。なんかおかしいか?」
委員長「ゆっくり考えてみるといいわ。どうせ今から向かうんだから」
命「よくわからんがロクな事がないのだけは分かった」
委員長「ふふ……そうね」
命「む、ぅ。しかし一体マジで何なんだろう。……何も変なとこは……」
- 199 名前:NIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage] 投稿日:2011/03/22(火) 01:05:32.96 ID:zCd3ADWAO
命「このマンションか」
委員長「ええ。時間もいい具合ね。早速件のエレベーターに乗るわよ」
命「あいよ」
委員長「操作は任せるわ」
命「確か乗り込んで最上階の14階をのボタン押す、と。……だよな?」
委員長「ええ。後は通常通りよ」
命「ふぅん。お、動いたな」
委員長「……」
命「で、確かランプが点灯すんだろ? 8階の。誰か乗り込んでくるって事だよな。何が変なんだよ」
委員長「少し違うわね」
命「あ? 違うって何がだよ」
委員長「私は8階のランプとは言ってないわ。8階の“ボタン”のランプが点いた、と聞いてきたのよ」
命「……!! お、おい、それって」
委員長「そういうこと。中に誰か居ないのを確認して乗り込んだはずの室内に誰か居た事になるの」
命「嘘だろ……」
委員長「嘘かどうか調べるのが仕事よ。機器の不具合を疑ったけれどメーカーの回答は白。昼間に調べたけれど再現性はなしだったわ」
命「でも今は点いてないぞ」
委員長「そうね。だから今夜は何度かこれを繰り返すわ。数回試してダメならあなた一人で試行してもらうから」
命「じょ、冗談じゃねぇぞ!」
委員長「勿論本気よ。賃金も出すわ。それとも怖い?」
命「……っ。ああ、やるよ! やりゃあいいんだろ!」
委員長「ええ、よろしくね。ちょっとした肝試しだと思って楽しみなさいな」
命「楽しめるかよ、くそ……」
- 204 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/03/23(水) 01:09:58.68 ID:ZBTYJvLt0
「無事、だったのか」
呟きは自身への問いかけ。
一瞬の出来事を終え、気がつけば森の中。
見知らぬ顔に囲まれながらも敵意がないことを感じ取り、一息つく。
みぃ、と子猫のようなむずがるような声は腕の中から。
「お前もここまでよくおとなしくしてくれてたな。偉いぞ」
改めて獣の芳香漂う彼女を抱き寄せ、生きることを実感する。
守れた。彼女だけは。それが今の彼の誇りであり、矜持。
「っと、おい。どうした」
そんな彼の生きるべき目的である獣の娘は何故か彼の腕を振りほどこうと力をこめる。
基礎の部分で能力が違うため、あっさりと腕を振りほどかれると彼女は先ほどの場所まで駆ける。
そう、あの地獄の入り口へと。
「――――ォォォ……ン」
か細く。虚空へと吸い込まれるように鳴いた声はまるで泣き声で。
「……一体何だってんだよ」
「巣への未練かしらね。獣らしく」
後ろからかけられる涼しげな声。
あれだけの地獄を潜り抜けてこの振る舞い。いや、彼女にとってこんなもの地獄でもないのだろう。
いつも通りの凛とした立ち振る舞いを頭で思い描きながら振り返り彼女の名前を呼ぶ。
「その言い方はやめろよ。それより助かったよ、委員……」
けれどその名前を最後まで呼ぶのはかなわない。
「無理をされないでください。深手です」
「仕事には忠実なのね。あの家からすれば私なんて早く消えてほしいでしょうに」
「そのような言い方はおやめください。さぁ、こちらへ」
「結構よ。私に触れていいのは私だけなんだから」
そんな言い合いをただただ絶句して見ているしかない。
命の前に立つ彼女の腹部より下は赤黒く染まり、じっとりと濡れている。
「何? そんなに見つめて。ああ、貴方は私の一部みたいなものだから触れていいのよ。でも今は我慢してちょうだいね」
「あ、当たり前だろ! お前、なんだよその傷!!」
やっとのことで搾り出した言葉。
けれどそんなもの彼女が気にするはずもない。
- 205 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/03/23(水) 01:11:16.56 ID:ZBTYJvLt0
「かすり傷よ」
「そんな訳あるかよ!! おい、見せてみろ!!」
「あ……っ。乱暴ね」
弱々しく抵抗する彼女の手を撥ね退け、服をまくればそこには傷はない。
「ほら、言ったでしょ。大丈夫よ」
「……背中か」
すばやく回り込み、そちらに移れば、
「……っっ」
言葉さえ出ない。何度も見たはずのその柔肌は朱く抉れている。
もはや常人ならば立っていることすら不思議なほどの出血を伴うその傷にもはや出来ることはひとつだ。
「あんたら、こいつを助けてくれるんだよな」
「そのつもりだ」
「なら俺から頼む。こいつの一部だって言葉、聞いただろ。だから今すぐ、治療してくれ」
「命、勝手は許さな……ん、くっ」
「ほら見たことかよ。俺らを庇ったんだろ、最後に。だったらこれくらいさせてくれよ……」
ふらりと倒れこむその体を抱きとめ、搾り出すような声で懇願する。
そんな彼の態度に不思議そうに微笑み、彼女は息を吐きつつ答える。
「貴方、私が憎いはずじゃなかったの? おかしな子ね」
「ああ、ムカつくよ。何でもかんでも勝手にしやがって。俺のことなんて眼中になくて」
「そうね。気にしたことなんてなかったもの」
「そのくせ、微妙に気をかけやがって。俺のことを利用するだけなのか、そうじゃないかはっきりしねぇ」
「……ええ」
「訳わかんねぇんだよ、あんた。だから、その理由とか、全部知るまで俺は……」
「くす。そこから先は止めておきなさい。わかったわ、言う通りにしてあげる」
命の肩を借りる形で、委員長は今一度その足で立つ。
「治療できる施設だと、最寄のポイントは?」
「ここからすぐです。こちらへ」
「……ええ、少しお世話になるわ」
そうして彼女は数人の男たちに囲まれ移動を開始する。
それをただ見届けることなど当然許されない命と獣の少女。
委員長とは違う意味合いでの囲まれ方で彼らは進むことになる。
命もそれに従う形で歩き出すが、一人虚空を見つめたまま動かぬ少女。
「おい、行くぞ。あの場所にはもう帰れないんだ。俺のせいだと恨んでくれていい。だから今は……」
意味など通じないとわかっていても、そう釈明しながら彼女の手をとるしかない。
しかし巌のようにその場に固まった彼女が動く気配がない。
「……おいって」
少し強引に肩をつかみ、こちらを振り向かせる。
そこにあったのは、
「お前、泣いて……?」
呆然としながらも涙々と雫を落とす少女の姿だった。
- 206 名前:NIPPERがお送りします(関西地方) [sage;saga] 投稿日:2011/03/23(水) 01:12:21.41 ID:ZBTYJvLt0
結局、数分かけてなんとか動きだした彼女を連れてついた場所は少し大きめの倉庫のような場所。
木々に紛れる形でひっそりと建つその場所は意外なほどに清潔で生活に不自由しないような印象がある。
その予想通りともいえるように食事だけでなく簡単な湯浴みの施設やベッドまで備え付けられている。
治療のためにベッド部屋がまるまる占領されている状態で、命が出来ることは少しでも疲れを癒すこと。
そう判断し、備え付けられたシャワー施設を借りれるか確認を取ったところ、委員長から話が通っておりすぐに許可が下りる。
獣の少女を連れ、さっさとシャワー室へと移動し、ここしばらく溜まった汚れを落とす。
「……」
小さなシャワー室で二人きり。相手は半分が獣だとは言え、年頃の少女と変わらぬ肢体。
本来の彼ならば何らかの悪戯心なり、情欲を催す場面だった。
しかし、抜け殻のような少女の様子や、この子を護ろうという気持ちからそんな気分になれず結局はただただその身体を清めるしかない。
半時間ほどかけ、久しぶりにさっぱりとした気分になったはずが、どうにも気持ちは晴れないまま。
少女の様子と、委員長の容態。どちらも彼の心を悩ます種となる。
それでも今すべきことである体力の回復を思い、一室を借り受け少女を抱き寄せながら瞳を閉じる。
どうかこの次に目覚める時は、すべてが終わっていることを祈って。
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