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意地悪なメイド ver2.5
- 171 :パー速民がお送りします [sage]
:2008/09/01(月) 08:52:24.19 ID:ZR05bN.0
「信じらんない……まさかこんなすごい人だったとは」
いや、正確には人たち、と言えばいいのだろうか。
とはいえ片方には面識はない。
だがあれだけの事を顔色変えずにやってる“二人”なのだからきっと深い縁があるに違いない。
「宮に並んであっさり私と関わるんだから、それなりだとは思ってたけど、ちょっとこれは、何ていうか……」
予想GUY。いや本当に。
そうこうしている間に決着もつきそうだった。
私も確認できた訳じゃないけれど、その瞬間は存在したし、認識できた。
二人の美女が、裕子さんのお姉さんに銃を向けている瞬間。
しかし、残念なことに、それで決着じゃなかった。
私が気付いたとき、彼女のものよりもっと深く、真っ直ぐな、歪みが隣から見えた。
「っ、引きなさい!」
「!? ……っ!!」
閉じていた瞼を開いたのは、そんな言葉が聞こえたから。
気付けばそこにはコンクリートや鉄骨、果てはそこらに転がっていたゴミまでもが集まって出来た壁。
いや、壁と表現するにはあまりに無骨なそれは、まるで彼女を守るように展開していた。
「……え、あ」
咄嗟に言葉がでない。
“まるで彼女を守った”ようなこの存在に。
だって、ここは敵しかいないはずなのに。
誰ひとり信用してはいけなはずなのに。
否。
手の中に握っていたそれは、いつかの別れの時に送られたモノ。
ガラクタでしかなく、いつ捨てようか考えているうちに捨てられずにいたモノ。
おぼろげに浮かぶ送り主の泣いた顔。
笑っていられたころの記憶。
浮かんでは消えて、やがてタールのように黒く重たい感情が支配していた。
けれど結局、どんなに自分がそうだと自身に言い聞かせても、こうして底を覗けばあっさり見える。
「……ゆう、こ」
ああ、結局。あの子は本当に私を……。
- 172 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/01(月) 08:52:38.42 ID:ZR05bN.0
「姉さんから離れて!!」
「裕子さん!?」
再び凝縮する力場。
それはどこまでも収縮していき、辺りのモノを手当たり次第に飲み込み、凝固する。
「こちらが疎ならばあちらは密……ですか」
物陰に隠れた二人の声が小さく聞こえる。
おそらく大きく距離をとっているのだろう。
「姉さん! 早く逃げて!!」
実際それは正解に思える。姉が視界の範囲だったのに対し、裕子のソレは自らを起点にあちこちで起こされている。
彼女の周りが、手当たり次第に歪んでいき、固まっていく。この中に踏み込むのは勇気ではなく蛮勇である。
もはや建物の重要なパーツまでもが飲み込まれていき、この階層自体の維持が難しいことは想像に難くない。
「裕子さん、落ち着いてください! このままじゃここが崩れます! そうなったら、あなたもお姉さんも無事にここを出られませんよ!!」
実は無事に出られないのは彼女ら姉妹だけでなく私もだったりするので説得には必死になろうというもの。
だけれど彼女に何があったのか、私の声は聞こえない。
「あああああ! 姉さん!!! ねえさああああああん!!!」
次々と飲み込んでは崩れ、また凝固する石片達。
この階層が倒壊するのは時間の問題に見えるのは明らか。
「あやさん! 大丈夫ですか!」
「えっと! 全然!!」
先ほどよりは近い位置で聞こえる彼女の声。
よかった、見捨てられてなかった。
「正直、一歩でもここから先にすすむと巻き込まれそうっす! 何とかならないっすか!」
「……なるかもしれません。そのまま声だけ出していてください!」
「うぃっす! にゃあああああああああああ!!」
……とりあえず思いついた声ってのがこれってのはどうなんだ、私。
- 173 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/01(月) 08:53:01.34 ID:ZR05bN.0
意識は遠い。しかしあたりから絶え間なく続く音が、振動が、私をつなぎ止める。
胸元に強く握ったそれは誰かが過去にくれた小さなお守り。こんなガラクタを私はずっと……。
ふらつく足を運び、先を目指す。あの子に、いわなくちゃいけないから。
辺りの音が不意に止んだ気がする。見上げれば、目の前には驚いた顔の妹。
そして彼女に突きつけられる銃口。危ない。そう思った。
瞬間、体が飛び出していた。
「にゃあああああああああ!!」
そろそろ声が枯れそう。そう思った矢先、それは飛び込んできた。
「お待たせしました。なるほど、自衛を行う本能は残っているのですね」
「いや、助かりました。じゃあさっさと逃げ……」
「ここまで踏み込めば逆に安全ですね。では終わらせましょう」
「え……?」
チャキリ、と音がしたと思えば構えられる銃器。
ちょっと待って! その娘は一応そういう対象にしちゃ……いやダメじゃないけどタイム!
だけどそんなことを言う前に容赦なく引き金は引かれ、銃声が響く。
「……がふ!」
崩れ落ちる華奢な体。
「ね……さ、ん?」
「げふっ! ごほっ!!」
「ねえさ……いやあああああああああああ!! なぜ!? ねえさん、なぜなの! ねぇ、姉さん、いや、いやああああああああ!!」
倒れたのは姉の方。
飛び込んできた彼女の体が盾となり、妹を守った。
たったそれだけ。それがあり得ないことだと裕子は叫ぶ。
「何故逃げないんですか!? 私なんかを庇って、姉さんは私なんて嫌いだったのでしょう! ねぇ何故なんですか!!?」
「ゆ……こ……」
「は、はい」
「……ありが、と。助けて、くれて。あと、私のこと……覚え、て」
「でも私は姉さんを助けられなかった! 今だって迷惑をかけて! 姉さんを犠牲にして!!」
「……あんたなんて、大嫌……」
「……姉さん?」
「……」
「姉さん!? 姉さん!!」
「……」
「いや! いやぁぁぁあ!! 姉さん!! 姉さん!!!!」
- 174 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/01(月) 08:54:57.62 ID:ZR05bN.0
泣きじゃくる妹。
生涯最後の言葉が嫌いと言った姉。
二人の間にどんな感情が渦巻くのか、もう確かめる術はない。
「また暴走を……」
「いえ、大丈夫かと」
「何故?」
再び動き出そうとする二人を止める。
「だって、裕子さんの力の根源はたぶん」
互いの力は相反にして全。
故に片方が欠ければ存在を許されないはずだから。
それに、彼女がそれを欲したのは、姉の境遇を知って力を欲したから。
だから力になっていたい、依存する存在がいなければ、きっと。
「姉さん……うう、姉さん!!」
「なるほど。確かに。……さて。どうしましょうか」
「後始末は大丈夫です、あてがあるんで。ただ申し訳ないっすけど、このことは今後内密に」
「……そうですね。いいでしょう。私も追及されると色々と面倒ですので」
「だったらおあいこですね。いや、良かった良かった」
何もよくはないのだけれど、とりあえずこれにて彼女らを発端にした一連の事柄は収束したのだろう。
「ですが、私達、恨まれるでしょうね」
「まぁ、姉の仇ですしね」
「……転校、考えておきます」
「そですね、それがいいかと。残念ながら」
二人して苦笑する。
異常な現場でこうして笑いあえるあたり、本当にどうかしてしまってるんだろう。私たちは。
こうして、夜は更けていく。
- 175 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/01(月) 08:56:19.83 ID:ZR05bN.0
「後遺症で記憶障害?」
「ああ、そうらしいよ。無理しすぎたんだね」
「へぇ、じゃあ学園には?」
「少なくとも君が在学中に復帰してくることはないと思うよ」
「そっすか。一応、友人に近い方なんで残念といえば残念」
「そうかい? その割にはサッパリした反応だけど」
「もっと深刻になったほうがいい?」
「ううん。無理なことはしなくていいよ」
「ですよねー」
出された紅茶に手をつける。
相変わらず安っぽい味。
回りを大量の人形に囲まれ、照明もほとんどないそんな部屋。
それが私の雇い主の事務所だったりする。
「それで、今回の事件は全部かい?」
「だね。私が見た部分は全部」
「そうか。……しかし、また新しい特異点とつながったね、君も」
「そういうやつなんで。それよりもうちょっと情報の補完をば」
「そうだね。どこから話そうか……。まず、彼女の姉の死因だけど、脳出血だったよ」
「え? いやまぁ確かに撃ちどころはそれほど悪くなかったと思ってましたけど」
「それ日本語としておかしいからね? いいけど。彼女の死の原因は恐らく脳の回線が焼き切れただけだよ」
「ああ、そういえば言ってましたっけ、あの人も。鉱物に干渉なんてどうのこうの」
「そういうことだよ。自分の力を万能と思っていたみたいだけれど、彼女はもともとスペックが高くないから」
「嫌な言い方だ」
「オブラートにつつんでも味は変わらないだろう?」
「でも少しはマシだよ」
「……覚えておくよ。で、彼女はオーバーロードの末にあの傷が響いて、という形だね」
「なるほど。でもそうなると、後遺症で記憶障害が残っただけという裕子さんはどうなるんで?」
「彼女の方が本来スペックが高かったんだよ。発現しなかっただけで」
「……って、じゃあまさか彼女のお家、そういう特殊な環境のくせにそれを見抜けなかったんですか?」
「みたいだね。本当、古城の家はいつからここまで失墜したんだか」
「何だかその言い方だと相当知ってるみたいですね」
「数代前の当主には色々と世話になったからね」
「……。本当、報われないですね、お姉さん」
「本当にね。でもそれが彼女の運命だったんだ。仕方ないさ」
「仕方ない、っすか。じゃあ私も仕方なく……か」
「後味の悪い仕事だったね」
「ですよ。でも、まぁやんなきゃいけなかったんだからいいっすけど」
「じゃあそんな君には言わないほうがいいかな」
「気になる言い方しといて卑怯な」
「じゃあヒント。ひとつめ。古城家、実は最近本家が潰れた」
「え?」
「これはかなり極秘の情報だから、君だけじゃ調べられなかったと思うね」
「ぐっ。そうっすけど」
「そしてこれは数年前だったりする。そして、裕子さんは一人暮らしだったそうだね」
「……」
「もう一つ。実は安達という男、囲っていた女は一人じゃない、とさ」
「ぁ……」
- 176 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/01(月) 08:56:50.23 ID:ZR05bN.0
『……そうじゃ、なくて……そ、それより安達さんたちは』
「じゃあ、まさか」
「最後に。君が見た最初の華(したい)。あれを思い返してごらん」
「……割じゃ、なかった。まるで、中から骨が突き破って棘みたいに……」
「さて。そろそろ開店時間だ。助手の君はちゃんとお仕事をこなしてきてね」
「……。いってきます」
事実なんて保管するものじゃない。
全部を知って、いいことなんて……。
- 177 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/01(月) 08:57:09.96 ID:ZR05bN.0
「おはようございます、あや様」
「あ、はよーっす」
「今日は遅刻ギリギリですが間に合われてしまいましたね」
「何その間に合ったらだめみたいな言い方」
「いえ、これで遅刻されていたら前期の内申点がギリギリでアウトになるはずでしたので」
「なぬ?!」
「それをオーバーしてからお教えしようと思っていたので……一生の不覚です」
「寧ろ最高にありがとう、事前に教えてくれて。そっか、計算してたはずだけど最近いろいろと立て込んでて忘れてたわ」
「一緒に卒業しましょうね、あや様」
「今さら感!」
がらっ
「あら? あれは……」
「あ……ども」
「おはようございます。お二人とも、お久しぶりで」
「ええ、お久しぶりです」
「……おひさっす」
「あら? あや様、何ですかその奥歯にモノの詰まった言い方は」
「あんたは時々本当に怖いな、宮」
「ふふ、もう忘れられてしまいましたか? あまり出席ができませんから」
「そそ。えっと名前は確か……」
ガラッ!
ざわっ……
「……!!」
「男子ちゃんは何で先にいくんだこんちくしょー、みたいな感じで怒ってらっしゃいます」
「知りませんよ。私たち、ただの同時期に入学しただけの人なんですから。ねぇ?」
「ねー?」
「……っっ!!」
突然乱入してきた女生徒二人に教室が鎮まる。
何というか、また波乱の予感。
「……?」
「あ、ども」
こうして、私は彼(女?)と出会ったのでした。
そしてまた騒動に巻き込まれていくのだけれど、それはまた別の話で……。
- 251 :パー速民がお送りします [sage] :2008/09/20(土) 04:05:42.84 ID:7x8x/e20
あ「どもどもー。お久しプリンセス! みんなのアイドルあやちゃんどぇーす!」
宮「お久プリンですか? おいしそうですね。いただいてもよろしいでしょうか」
あ「ふふ、ナチュラルにお尻触ってくるそのセクハラっぷりも魅力なんだろうね、宮の」
宮「あら、嬉しいです」
あ「ごめん、嘘だから揉まないで。……ええと、いきなり冒頭からピン黒い(ピンク+黒)シーンで申し訳ありません」
宮「いいえ、どういたしまして」
あ「これはご丁寧に……って、ちゃう! 思わず関西弁に!?」
宮「浪花節ですね」
あ「多分違う。えっと、よくよく考えたら久しぶりでも何でもなく最新ので出てますね。……でもお久しぶり!」
宮「鰤は好きですよ、煮てもよし、焼いてもよし」
あ「何でも食べ物に結びつけるのはやめようよ」
宮「あら、私ったらはしたない」
あ「うん、すごくね。食いしん坊キャラの意味じゃなくてセクハラの材料にするためだけだもん、毎回」
宮「これも愛のなせる業ですね」
あ「嬉しそうにいわれてもすごい困るわけで。ってもう残り時間少ない!?」
宮「私たち、何のために呼ばれたのでしょうね」
あ「それはせっかく興味を持ってくれた人が出てきたから前回の解説を……ってええ!? 本当にもう終わり?! ちょ、ま……」
宮「ではまた次回にお会いしましょう。あでぃお〜す」
あ「にゃああああああああああ!?」
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