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妹「お兄ちゃん……中に……!」
- 140 :「何だと」の可能性は無限大 []
:2010/03/14(日) 23:46:57.47 ID:vckn6hKp0
〜悪の組織事業部女幹部個室〜
同僚A「まだ、本部に戻ろうという気持ちは変わりませんか?」
女幹部「何だ急に?」
大方の予定が決まった打ち合わせは、横道に逸れてまっしぐら。その雑談の折に同僚Aが、いつになく真面目な調子で訊く
同僚A「正直なところ俺は、無理をしてまで本部復帰に拘らなくても良いと思うんです」
女幹部「そんな事は判っている、今はまだその時期じゃない。だが……」
同僚A「いいえ、違います。もっと……もっと積極的に、本部を離れて事業部に残る努力をすべきではありませんか?」
女幹部「……何が言いたい?」
もって回った言動の後に続くものが、耳に快い言葉である筈もない。女幹部の目付きは少々険しくなった
同僚A「では、申し上げましょう。本部に戻っても未来はありませんよ。今までが出来過ぎだったんです。
ウチの部署は丁度良い時期に出来て、たまたま上手い事やった、それだけです。
例え戻ることが出来たとしても、他の幹部共に好い様に使われるだけ、その先はありません」
女幹部「何……だと……」
同僚A「いえね。そりゃ我々下の者にとって、女幹部さんの判断は絶対ですよ。
ただまあ、お追従を並べるばかりが部下の務めでもないと思いますんで、
少々意見させてもらいます。いや、女幹部さんには感謝してるし、敬意も払ってますよ――」
同僚Aは続ける。能力の限界を思い知らせるかの様な物言いに、気色ばまんとする女幹部を制して
- 141 :セリフが一行に収まらなくなってきた [] :2010/03/14(日) 23:51:14.80 ID:vckn6hKp0
同僚A「貴女に拾ってもらわなかったら、俺はただの戦闘員だった。いや、今でも身分は戦闘員ですが――」
彼は戦闘員だ。同僚Aのみならず、BもCも皆戦闘員だ。女幹部は本部で唯一、部下に怪人を持たない幹部である
兄という例外も居るが、ただ身体を改造されているだけで、正式に怪人として扱われているている訳ではない
責任者の女幹部こそ『バット(蝙蝠)女』の名を持った怪人だが、その彼女にしても、再改造を受けなければ現場に立てない体だった
つまるところ情報工作組とは、使い物にならない怪人の下に、うだつの上がらない戦闘員を寄せ集めた、博打じみた実験に過ぎないのだ
千に一つか、万に一つか、(略)たとえ那由他の彼方でも、成果があれば儲けモノ。設立時の編成だけを見ても、期待の程が窺える
その成功は、女幹部の果断な指揮と、部下達の奮闘で勝ち取ったものだが、その上に時宜を得て、幸運も味方したことも事実である
そして同僚Aは、そういった類の要素が恒常的に期待できるものではないと承知している。ナイス☆ガイの目は現実しか映さない
同僚A「――女幹部さんの下で働いてて楽しかったし、それなりの仕事は出来たんじゃないかと思ってます。まあ、この“それなり”って奴が
結構重要でね。どんな時でも100%上手くいくなんて事はあり得ませんし、やはりどこかで満足する、落とし処ってのも必要になる訳ですよ。
だから、このまま事業部でそれなりの待遇を受けられるなら、それはそれで、まあ悪くないんじゃないかと、ね」
女幹部「今のこの待遇は、あくまでも暫定的なものだ。いつまでも続くと思うな。何にせよ、立場は自分で築かねばならんのだからな」
女幹部は限界の中に充実を見出す、所謂戦う女だ。理不尽な運命にも、膝を屈することなく闘いを挑もうとする
勇猛にして誇り高い悪者は、自らの可能性を疑うことを知らない。負傷により怪人としての将来が断たれた過去も、一つの転機に過ぎなかった
そうして得た新たな戦場で残した、誰に恥じる事のない戦果も、女幹部の自信を形作る礎となっているのだった
- 142 :脇役が雑談してるうちに100話超えてましたよ奥さん [] :2010/03/14(日) 23:55:37.58 ID:vckn6hKp0
同僚A「まあ、突き詰めれば自分次第なんですけどね。ただ、こっちの方が余計なしがらみも無くて都合が良いってのはありますよ。
本部の連中は、女幹部さんの事を良く思ってませんしね。あんな野蛮人共に振り回されるのは、貴女としても本意じゃないでしょう」
同僚Aは、女幹部のような悪者のエリートとは違う。他人の求めるところを知り、それに応じて身の振り方を考える
どの様な環境下でも無難に生き抜く自信はあるが、無用な軋轢は避けて通るのが気配りの達人というモノなのだ
女幹部「振り回されるのには慣れている。我々は所詮、裏方の人間だからな。主役になどなれん、そんな事は判っているさ。
それに……ああ、お前は正しい。きっと私の考えも解った上で言ってくれているのだろう。だがな……いや、何でも無い。忘れてくれ」
理性の導くまま行動する同僚Aの言葉に、女幹部は求めずして満たされる。しかし、その意志なき充足を幸福と呼ぶことは出来ない
女幹部の口元に悲しげな笑みが宿ったのは、いつの頃からであろう。順調である筈の未来の展望を、制御できぬと自覚した時ではなかったか
事業部で過ごした半年間の日々は、彼女が望む悪者であるために適していたかと云えば、そうではなかった
自信というものは、そこらの道端に自生してはいない。根を張るべき実績の中に育つものであって、その面で不足がある
絶えず自分を証明し続けなければならない女幹部にとって、その機会のない生活は、自身の根源を脅かす危険を孕んでいるのだった
同僚A「結局、何処に行っても、他人の都合で仕事するってのは変わりませんか」
同僚Aは目を伏せる。彼としてはその働き方に不満は無いが、そこで自分の感情で物を言わない辺りがナイス☆ガイだ
彼は自分自身が何者であっても良かった。そういった意味では、女幹部よりも確かな自己を持った人種と云える
強くなければ生きられない女幹部は、力を発揮する場所としての職場と、それを構成する部下を愛さずにはいられない
その想いを感じつつも同僚Aは、己の求められる役割を全うし、期待に応えようとする以上の意思を持たない
女幹部の支えになるという、最優先の目的を果たす以外に拘る事の少ない、割り切った姿勢で仕事に臨むナイス☆ガイなのだ
- 143 :VIPがお送りします [] :2010/03/14(日) 23:58:03.66 ID:vckn6hKp0
女幹部「与えられる物など高が知れている。重要になるのは、その中で何を為し、誰にどう思わせるかだ。
この先、事業部に乗り換えるとしても、本部を裏切ったという評判はいつまでも付いて回ることになる。
その手の評価ってのは他人に委ねるしかないものさ。我々が自らの印象に足を取られるなんて馬鹿げた話だろう?」
同僚A「ウチもある意味、信用商売ってことですか。今だって正式な所属は本部ですしね。まあ、それが一番の問題な訳ですが」
女幹部「その事実よりも重要な事は現段階では無い。これから何が起こるか判らん以上、予想の先を論じても無駄だ。
憶測に基づく議論ほど当てにならないものは無いのだからな。―――と、いう事で、この話はもう終わりにしよう」
同僚A「ええ、では今日はこの辺でお開きにしましょうか」
時計に目を落とした女幹部の意を汲んだ同僚Aは椅子を立つ。休日には体を休めることも考えた方が良い
女幹部「そうだな。それと、現場のことはお前に任せる。何かあったら報告しろ」
同僚A「承知いたしました。では、失礼します」
女幹部「ああ、今日はご苦労だった」
同僚Aが退出したのを見届けた女幹部は、背凭れに体を預けて一息吐く。目的の定められない今、打ち込める仕事の存在は有難い
一年前の戦いもそうだった。錆びの浮いた自信を鍛え上げるには、敵を打ち倒すという純粋な作業が相応しい
そして天命を待つ前には人事を尽くす必要がある。ここまでの権限を同僚Aに預けたのは初めてだが、あの男なら心配は要らないだろう
女幹部は現場にばかり目を向けてもいられない。事態を総合的に判断するには、内と外に視点を持つことが望まれるのだ
女幹部「……ん?」
電子音が響き、女幹部は鞄に目を向ける。16時過ぎ、こんな時間に掛かってくる電話は、相手が誰であろうと碌な用件ではなかろう
- 144 :VIPがお送りします [] :2010/03/15(月) 00:15:23.93 ID:Xu/XV/yXO
携帯に移行
- 146 :究極の妹 [] :2010/03/15(月) 00:23:37.91 ID:Xu/XV/yXO
〜兄妹宅兄部屋〜
兄「――これが俺の正体だ。もう、ヒトの体には戻れない」
妹「ふ〜ん、そうなんだ」
16時30分過ぎ、妹とともに帰宅した兄は、自室にて自分が怪人であることを打ち明けた
それは悲愴な覚悟のもとに行われた一大告白だったが、反応はまったりとしていて、それでいて少しもしつこくない
知ってしまったら、それはただの事実になる。未知なる物を追いかける妹の好奇心は、ただの事実にはてんで興味を示さないのだ
妹は超人的に飽きっぽい。どんなに不安に思っていても、疑問に思っていても、問題が解消すれば、それはたちどころに消え失せてしまう
その点についてKIK(国際妹機関)日本支局長の伊蒙友江氏は、『妹行動学論集成』(明妹書房 2036)の中で
〈妹が一つの状態を長時間維持できないのは、精神的抑圧によって突発的な爆発が起きるのを避けるための、
本能的応動の結果であり、(略)この様な行動は妹に限らず、爆発性動物一般に広くみられる傾向である。〉と論じている
兄「はぁ〜。やってもーた」
深い溜息。兄は兄で、それどころではなかった。今回自分のやらかしてしまった事は、あまりに重大なのである
妹「あ、やっぱ怪人蹴っ飛ばしちゃマズかったんだ」
兄「マズいに決まってんだろ。ったく、お前なんか放っといて帰れば良かったよ」
あろうことか怪人の尻を開通させてしまったのだ。もし事が発覚したら、人体改造の実験台として売られる程度では済まないだろう
悲観すること風の如く、不安要素は林の如く、後悔すること火の如く、取り返しの付かないこと山の如し
- 147 :VIPがお送りします [] :2010/03/15(月) 00:29:12.22 ID:Xu/XV/yXO
妹「……大変だね。うん、今日はありがと。じゃ」
ひどく落胆する兄を捨て置いて妹は自室へ戻る。責任の一端は自分にあるのだと解っている、だから掛けられる言葉は無い
それでも妹は感謝していたし、嬉しく思ってもいた。あの時、兄の姿を見て“兄きた!これで勝つる!”そんな言葉が浮かんだ
貧弱一般人にすぎない兄を見て、助かった気になったのは何故か。その理由は記憶の奥底に在った
ずっと忘れていた事を思い出した。それはもう何年前になるのかも分からない、妹が幼女だった頃の話だ
冷たい雨の中で一人泣いていた。迷子になって、暗くなって、怖くなって、どうして良いか分からなくて
寒くて、寂しくて、もう家に帰れないんじゃないかと思うとまた怖くなって
泣き疲れ、座り込んで震えていた妹を探し出したのは、当時まだ小さかった兄だった
その笑顔を確かめた時、寂しさと、切なさと、心細さと、糸井重里、その全てが安心に吹き飛ばされた。そんな気がした
たったそれだけの思い出、きっと兄も憶えてはいないだろう。だけどあの時の兄は、とてつもなく頼もしく見えた
もう原風景の兄は戻らない、過ぎ去った可能性を想うと悲しくなる。こんな事を考えるのは間違っているのかも知れない
でも残念でならない。兄が駄目人間になってしまった事は、ただの事実にすぎないのだから
- 149 :アンタは早く息子と戦え [] :2010/03/15(月) 00:34:33.23 ID:Xu/XV/yXO
〜翌日悪の組織事業部一階オフィス〜
同僚A「――以前調べたことがあるとはいえ、業界全体の調査は難しかったでしょう。しかし、同僚Cは“間に合う”と即答してくれました」
兄「それで、俺は何をするんだ?」
22時過ぎ、同僚Aは出勤した兄に資料を渡し、業務の内容を説明していた。他の者は各々受け持った仕事に出ている
同僚A「ああ、色レンジャーの元メンバーで、消息不明の奴が居てな。ソイツ等が事件に関わってないか探ってくれ」
兄「そうか」
可能性を潰すだけの仕事、同僚達に出遅れて参加した兄が、優先度の低い作業を割り当てられるのは仕方がない
だが、それはさしたる問題ではない。今兄の頭にあるのは、如何にして捜査を撹乱し、組織の目を妹から遠ざけるかだけなのである
仕事に対してこの様なヨコシマな考えを抱いたことは、これまで一度たりとも無かったが、今回ばかりは話が別だ
自分を守る為には行動を起こすしかない。不意打ちとはいえ、絶対的強者の怪人を打ち破った経験は、兄の意識に変化をもたらしていた
ただの草食動物てしかなかった兄に、悪者としての自覚が芽生え、抑え込まれていた利己性が目覚めはじめているのだ
かえ
某地上最強の生物曰く“勝利は、たかだか一時間余りで蚊トンボを獅子に変化る”。正にソレがアレしたところのナニである
女幹部「おい、兄は来てるか?」
兄「はい?」
女幹部がドアを開けて顔を出した。久方ぶりに聞く上司の声は、兄の浮ついた気分を現実に引き戻すのだった
- 150 :兄の髪型は一昔前のエロゲ主人公風 [] :2010/03/15(月) 00:40:45.95 ID:Xu/XV/yXO
〜女幹部個室〜
呼び出された女幹部の個室、兄は机の前に直立不動。この場所に来る度に、魂は萎縮して小動物になる
決して愉快な事の起こらない部屋。そして何より、冷淡に見据える女幹部の視線は、兄を堪らなく不安にさせる
“この人に見放されたら居場所は無い”常にそう思っていた。だからどこまでも誠実で、従順であろうとしてきたのだ
女幹部「一つ聞きたい事があってな」
兄「はい、何でしょうか」
兄を立たせて5秒程、女幹部が口を開いた。耐え切れない沈黙を耐えていた兄にとって、それは救いの言葉にも思われた
女幹部「お前は昨日、何をしていた?」
兄「は……昨日ですか。いえ……そんな昔の事は覚えてませんが……」
心臓が跳ねるのを感じた。昨日兄がしでかした事といえば―――。絶対にそれを知られる訳にはいかない、そんな人間の前に彼は居るのだ
女幹部「そうか……実は昨日の夕方、幹部Bの動きを追っていた同僚Dから連絡が入ってな。見張っていた怪人が何者かに襲われたらしい」
兄「そう……なんですか……」
見 ら れ て い た 、失態を悟った時、不安は恐怖に変わる。顔を引きつらせた兄の背筋に、重い物が下りてきた
女幹部「それで、目撃したその犯人というのが、顔の上半分に前髪の掛かった――
そうだな、丁度お前の様な容貌の女だったそうだ。怪人を蹴り倒すほどの力だ、並の人間ではあるまい。
だが、それが怪人だったとしたら?もう一度聞くぞ、お前は昨日、何処で何をしていた?答えろ、怪人・ガール男」
顔を傾けて問う女幹部。その前で縮こまる兄は、罪を突き付けられた卑小な咎人に過ぎなかった
- 151 :VIPがお送りします [] :2010/03/15(月) 00:43:44.78 ID:lhQWgwg10
私怨
それにしても長いな
- 152 :何かを説明しようとすると、語尾がことごとく「ない」になる。ふしぎ! [] :2010/03/15(月) 00:47:50.89 ID:Xu/XV/yXO
後悔と絶望に支配された体が、自分の物ではない様に感じる。動悸と眩暈に、兄の脚は体を支える事も覚束なくなった
兄「それは……言えません」
諦観の中から絞り出したのはまるで意味の無い答え。真実はいつも一つ、疑われた時点で詰んでいる、弁解も釈明も無益だ
女幹部「やはりお前だったか……」
そしてそれは疑念を確信に変える。女幹部は嘆息とも失望ともつかない思いを吐息に込めた
兄「……」
女幹部「しかし、何故だ?お前が怪人を襲う目的は何だ?」
女幹部は部下を効率よく活用する為に、一人ひとりの気質を把握しようと心掛けている
この兄は事情も無しに、そんな大それた事の出来る男ではない。凶行に及んだのには何か訳が在る筈だ
兄「それも……言えません」
根っからの嘘吐きさんの兄は知っている、露見する嘘に価値は無い。追及が進めば、妹のことは隠し遂せない
さりとて真相を打ち明けられもしない。取れる行動といえば、無駄な抵抗にもならない幼稚な黙秘以外に無いのだ
- 153 :至高の女幹部 [] :2010/03/15(月) 00:55:25.26 ID:Xu/XV/yXO
女幹部「――お前も、私に本当の事を話してはくれないのだな」
兄「……」
淋しげに言う女幹部に、兄は言葉を返せずにいた。何よりも大切なものを裏切ったと理解しているからだ
女幹部は口を噤んだままの兄を、相変わらずの視線で眺めていたが、やがて根負けした様に瞼を下ろす
女幹部「分かった、もう下がれ」
兄「……失礼します」
女幹部「それと、明日から来なくて良いぞ」
兄「え……」
背中に不意をついた声が刺さった。束の間、緊張から解放されたかに思われた精神は、再び極北の海に放り込まれた
女幹部「聞こえなかったか?貴様は首だ。出ていけ、と言ったんだ」
兄「はい……お世話になりました……」
一瞥も与えることなく下された宣告を、消え入りそうな声で受け入れる兄。その決定は結論だった
咎めを受けずに済む道理など無い。女幹部の望みに応えられない者が、ここに居ることは許されない
自分の存在価値は失われた、いや、そんなものは初めから無かった。このまま消えてしまえれば好い、兄はそう思った
- 154 :ドリル女幹部 [] :2010/03/15(月) 01:00:11.88 ID:Xu/XV/yXO
同僚A「何故、アイツがクビにならなきゃいけないんですか!?」
23時前、同僚Aは不信感を隠そうとしなかった。軽佻浮薄を身上とするこの男が、ここまで感情を顕わにするのは珍しい
幽鬼の如く肩を落とした兄が戻ってきたのが十分前。何を言っても反応を示さず、いずこともなく去っていったのが五分前
事情を伺おうと女幹部の部屋を訪れたのが二分前。そして“兄はクビだ”と聞かされたのは10秒前のことだった
事も無げに、たった五文字で同僚の解雇を告げられた彼は黙っていられなかった。どうあっても納得できる筈は無い
数年前に総員3名の新部署が発足して以来、共に女幹部を支え、苦楽を分かち合ってきた兄は、かけがえのない戦友だった
それがこの様な形で職場を去らなければならないとは。そんな仕打ちを見過ごせるナイス☆ガイではないのだ
とはいえ、女幹部は厳しいながらも部下を大切に扱っていたし、気まぐれで首を切る様な横暴をはたらく人間ではない
それを知るナイス☆ガイは、ひとまず冷静になり、説明を求めることが出来る程度の理性を持ち合わせていた
女幹部「兄は死んだ!もういない!だけど、私の背中に、この胸に!ひとつになって生き続k……
- 155 :ミスった [] :2010/03/15(月) 01:02:15.94 ID:Xu/XV/yXO
同僚A「何故、アイツがクビにならなきゃいけないんですか!?」
23時前、同僚Aは不信感を隠そうとしなかった。軽佻浮薄を身上とするこの男が、ここまで感情を顕わにするのは珍しい
幽鬼の如く肩を落とした兄が戻ってきたのが十分前。何を言っても反応を示さず、いずこともなく去っていったのが五分前
事情を伺おうと女幹部の部屋を訪れたのが二分前。そして“兄はクビだ”と聞かされたのは10秒前のことだった
事も無げに、たった五文字で同僚の解雇を告げられた彼は黙っていられなかった。どうあっても納得できる筈は無い
数年前に総員3名の新部署が発足して以来、共に女幹部を支え、苦楽を分かち合ってきた兄は、かけがえのない戦友だった
それがこの様な形で職場を去らなければならないとは。そんな仕打ちを見過ごせるナイス☆ガイではないのだ
とはいえ、女幹部は厳しいながらも部下を大切に扱っていたし、気まぐれで首を切る様な横暴をはたらく人間ではない
それを知るナイス☆ガイは、ひとまず冷静になり、説明を求めることが出来る程度の理性を持ち合わせていた
女幹部「兄は死んだ!もういない!だけど、私の背中に、この胸に!ひとつになって生き続k……」
同僚A「いえ、説明になってません。それに死んだ訳じゃないでしょう」
女幹部「ともかく、これは決った事だ。アイツの事はもう忘れろ」
同僚A「いえね。確かに、人事について口を挟む権限なんて俺にはありませんよ。でも、昨日女幹部さんは仰いました
“現場のことは任せる”と。兄だって現場の人間です。だったら、何があったか教えてもらうぐらいの権利はあるんじゃないでしょうか」
女幹部「そうだな……お前になら話しても良いか」
簡単には引き下がらぬ構えの同僚A。その剣幕に圧された訳でもないが、いずれは伝える予定だった事である
- 156 :VIPがお送りします [] :2010/03/15(月) 01:03:58.76 ID:nEuvJp/g0
続きが気になるが寝ないといけない
誰か保守頼んだ
- 157 :VIPがお送りします [sage] :2010/03/15(月) 01:06:58.67 ID:iPn+Gsgg0
おk
スレあんまり消費してないから頻繁に保守しても大丈夫?
その辺の相場が分からん
- 158 :同僚Aの玉は二つある [] :2010/03/15(月) 01:11:05.22 ID:Xu/XV/yXO
同僚A「――兄が怪人襲撃事件の犯人……!?しかも、アイツも怪人って、何ですかそれは?」
女幹部の与えた、たった2つの情報は、魚群を散らす鮫の如く同僚Aの頭を大いにかき乱した
何が何だか分からない。見えていた景色が不完全だと知らされた時、それを直ちに信じられる単純な人間ばかりではない
女幹部「色々あってな。奴は改造を受けた。登録名は『ガール男』……いや、登録はされてなかったな。しかし、お前も知らなかったのか」
謎の多い兄には、未だ明かされない秘密があるのではないか―――狼狽える同僚Aを見て、女幹部はそんな事を感じていた
同僚A「しかしですよ。アイツが怪人だったとして、本部の人間を襲った理由は何処にあるんですか!?」
女幹部「それは答えてくれなかった。結局、私も兄に信用されていなかったという事だな」
瞳に憂愁、心に花弁、唇に微笑み、背中に人生を。この表情が浮かぶ時、女幹部は己の無力さを嘆いているのだ
自信に満ち溢れていた彼女のそんな姿を目にする度に、ナイス☆ガイの胸は押し潰されんばかりに苦しくなる。が、それはそれ
同僚A「まあ、動機は置いておくとして、兄を辞めさせて何が解決するのですか。貴女はただ責任を投げ出しただけじゃないですか!」
声なき絶叫は虚空を裂く。控えめに語気を強めるナイス☆ガイは、近隣の迷惑を考えられる程度の落ち着きは保っていた
女幹部「責任―――なんと聞こえのいい言葉か―――!!そんなものを云々できる話ではない。
それとも兄を本部に差し出すのが“責任”だとでも言うのか?もしそうだというのなら―――虫酸が走る!!!」
感情論に感情で応じること程、非生産的なものは無い。それでも女幹部には、口に出さずにはおけない気持ちもあるのだ
- 161 :女幹部100% [] :2010/03/15(月) 01:17:47.69 ID:Xu/XV/yXO
同僚A「それにしたって、他に方法は無かったんですか?まだ本部に知れた訳じゃないでしょうに」
女幹部「元本部勤務の私の経験からみて、今のお前に足りないものがある、
危機感だ。お前もしかして、自分には関係のない事件とでも思ってるんじゃないかね」
未だに心が理解に追い付かない様子の同僚Aを諭す女幹部。彼女自身もまた、それを確かめる様に
女幹部「本部を侮るな。奴等は必ず犯人を突き止める。そうなった場合、兄を庇い切るだけの力が私には無いんだ。
そして、これは兄一人で終わらせられる次元の問題ではない、おそらく制裁は部署全てに及ぶ事になるだろう」
怪人襲撃事件に始まる一連の騒動は、諸々の事情と相俟って、悪の組織本部全体をも動かすものとなった
大山を鳴動させた罪が、鼠一匹に贖える筈もない。その責任を負うには、下っ端一人の命はあまりに安すぎるのだ
そして元から評判のよろしくない女幹部の部署である。不利益をもたらす要素は、その欠片さえも存在してはならない
女幹部「――理解しろ、私はアイツを捨てたのではない、逃がしたんだ。私だって……そんな事を望んではいなかったさ!」
悲痛な思いに顔を歪ませる女幹部は、兄が遠くへ逃げてくれることを願っていた。組織の目も届かない、出来るだけ遠い所へ
死人に口無し――ではないが、兄の身柄さえ無ければ、事の次第が解明されて全てを失うという、最悪の結果は免れる望みもある
「しかし……!」
尚も反駁を試みた同僚Aは息を飲んだ。それ以上の言葉は継げない、女幹部の目に光る涙は非情さとは無縁のものだった
翌朝、荷物の全て持ち去られた兄のロッカーが発見され、多村と村田は病院内で静かに息を引き取った
クビになった!第一部完!
- 162 :VIPがお送りします [] :2010/03/15(月) 01:21:42.32 ID:Xu/XV/yXO
支援ありがとう。そしてごめんなさい。
今日はここで落ちます。
スレが残ってたら明日続きを書きましょう。
- 163 :VIPがお送りします [sage] :2010/03/15(月) 01:23:07.57 ID:iPn+Gsgg0
乙!
- 164 :VIPがお送りします [] :2010/03/15(月) 01:25:20.07 ID:2qDzCj8a0
お疲れ、おもしろかった
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