■戻る■ 下へ
アブソル「ほろびのうたを歌おうか」
1 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:16:24.90 ID:lWdz+E4/0
災いポケモンなんて呼ばれているもんだから、ちょっと人前に顔を出せばみんなが私を怖がる。

化け物でも見るかのような目つきをする人間達。
「アブソルが出た。この街ももう終わりだ」
そう口ぐちに叫んで、にぎやかだった街は一気に閑散とする。

所詮都市伝説なのに、人間とは、なんと馬鹿馬鹿しいのであろうか。
だから私は、人間を信用していない。


2 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:16:55.25 ID:ST8j8eYU0
特性
防音


3 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:17:24.04 ID:lWdz+E4/0

そんな私の目の前に、ある日一人の少年が現れた。
私お気に入りの草むらで、喉の渇きを潤している最中だった。

「アブソルだ…」

少年は、私が見た事のないタイプの人間だった。
私を見る目が、怯えていない。
あいさつ代わりに、フォウ、と軽く威嚇の意味を込めた鳴き声を出すと、少年はきゅう、と眉間を寄せて、口元に笑みを浮かべた。


4 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:19:33.46 ID:mDO2gup00
虐待に移行しなさい


5 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:20:07.16 ID:lWdz+E4/0
少年の傍らで、ピカチュウが私を威嚇していた。
頬の電気袋を光らせて、戦闘準備は万端。主人を傷つける恐れのある、要注意ポケモンとみなしたのだろう。
相手がやる気であれば、こちらも容赦はしない。

私は人間が嫌いなので、人間に仕えているポケモンも好きではない。
そんな単純思考で、このピカチュウを敵だと判断するまでに、そう時間はかからなかった。


8 :VIPがお送りします [sage] :2009/05/07(木) 01:23:07.52 ID:fPDLk9smO
にげてー


9 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:24:19.28 ID:lWdz+E4/0
赤い頬袋に電気を溜めているピカチュウ。
ピカチュウの周りを渦巻くように、黒い霧を噴射した。

「待って、ピカチュウ。アブソルと戦う気はない」

黒い霧の中、ピカピカと光る電気を遮るように、少年はピカチュウを制した。

「このアブソルは無害だよ」
「ピカ、ピカチュウ」

捕まえなくていいのか?と、ピカチュウは暗に少年に問いかけているようだった。
頬袋の電気をピリピリを抑えながら、少年はピカチュウの頭を撫でてこう言った。

「アブソルは、そっとしておいてやりたいんだ」

驚かせてごめんね、と言って、そのまま少年は私の元から立ち去っていった。


10 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:28:06.54 ID:lWdz+E4/0
その夜、私は再び街へ降りた。
特に災害を感じた訳ではないが、ここ最近、私が気に入って使っている水辺を荒らす人間がいたからだ。

人間排除は簡単だ。その人間が住む街に、少し私が顔を出せばいい。
数日とかからず、その街から人間は消えていなくなる。
人間が消えた街から、食糧をたっぷりと頂いて、再び私は平穏な生活を送る。
そんな毎日の繰り返しだった


11 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:30:05.32 ID:UUDB3ha+0
アブソルなんて
すっかりエロいポケモンにされちゃった子じゃないか


12 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:30:53.23 ID:lWdz+E4/0
街へ降りた途端、人間達は私を化け物を見た瞳で見つめた。

「わ、わざわいポケモンが来た…!」
「大変だ!村長に知らせなくては…」

青年二人組だったろうか。私を見つけた彼等は、文字通り裸足で逃げ出した。
それから数日して、街から人が消えた。
今回も同じ。私の策略に人間がはまったのだ。

何とも、人間は愚かだと思う。


13 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:34:22.20 ID:lWdz+E4/0

再び静けさを取り戻した、私お気に入りの水辺は、何とも綺麗だった。
水辺に白い毛並みを映しながらそう思う。

(いっそ、人間なんか滅びてしまえばいいのに)

わざわいポケモン、なんて呼ばれているくせに。
ほろびのうた…そんな、全てを無にする歌も歌えるけれど、そんな願いはかなわない。

所詮我々ポケモンは、人間の道具だ。

街では、コンテストだバトルだといって、ポケモンが食い物にされ、見世物になっている。
私は絶対に、人間のおもちゃにされるのは嫌だ。


14 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:38:56.84 ID:lWdz+E4/0

水辺でまどろんでいると、誰かの足音が聞こえた。
この足音は、ポケモンの足音ではない。つまり、人間の足音だ。

毛並みを逆立てて気配に集中すると、見たことのある黄色いポケモンを連れた人間が顔を出した。
…ピカチュウを連れた、あの少年だ。

少年は、困ったような笑顔で私に近づいてきた。
全身の毛並みを逆立てて威嚇する私に、少年はもっと困った表情を浮かべた。

「…お腹すいてない?」

フォウ、と威嚇を続ける私をなだめるように、そろり、そろりと近づいてくる少年。

「何色のポロックが好きか分からなかったから…」
「一応、一通りのポロックは持ってきたんだけど」


15 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:43:16.40 ID:lWdz+E4/0
距離を置いたまま、少年は私に菓子を差し出してきた。

「どれでも好きなの、食べていいよ」

色とりどりの菓子を置いて、そう言った少年。
少年の隣で、ピカチュウは黄色い菓子を食べたそうに眺めていたが、「ピカチュウにはまた後で」と言ってピカチュウを静止していた。

人からもらう菓子なんかに興味はないが、それでも、とても良い匂いがしてきた。
人間が去った街で、この類の菓子を物色した事があるが、どれもこれも美味しいとは感じなかった。

だけど、今目の前に置かれている菓子は、とても美味しそうな匂いがする。


…一瞬躊躇ったが、あくまでも全身の毛並みで威嚇を続けながら、その菓子を一つ口に入れてみた。


16 :VIPがお送りします [sage] :2009/05/07(木) 01:45:09.44 ID:lUp7zGBSO
我慢するピカチュウかわいい


17 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:46:00.67 ID:lWdz+E4/0
見てる人いる?



まず手始めに、赤い菓子を口に入れると甘い香りが全身を擽った。
つまり、美味しかった。

続けて食べた青い菓子も、なかなか渋みがあって美味しいと感じた。

気付けば、手元に並べられた菓子を残さず食べていた。

菓子を食べる私を見て、少年は嬉しそうに、それでいて寂しそうにしていたと思う。


18 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:46:33.92 ID:r7Ea910+O
アブソルもふもふ


19 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:47:48.09 ID:UUDB3ha+0
構わん。続けろ。
SSスレなんて10人いたらレスするのが1人の割合だろ


22 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:47:56.57 ID:nb++DaOKO
>>17
はい!はい!!
アブソルだいすきです!!


24 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:49:03.82 ID:lWdz+E4/0
初めて会った時もそうだった。
少年は、私を見る目が寂しそうだ。

人間の、怯えた視線には慣れているが、こんなにも慈しむような視線は初めてで、少し戸惑った。

ピカチュウを見たら、やはり私に警戒心をむき出しにしてはいるが、それよりも主人の寂しそうな視線を心配そうに眺めている。

私は、なぜこの少年が私をこんな瞳で見るのか、少しだけ気になった。


25 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 01:53:58.29 ID:lWdz+E4/0
良かった。
アブソル萌えをどこでどう発散していいか分からなくてスレ立てしてみました。
レスもらえてやる気が湧いてきたので頑張ります。


少年に問いかけたい思いが生まれたが、隣にいるピカチュウが邪魔だと思った。
ピカチュウは、少年にぴたりと寄り添って動かない。

きっとこの黄色いポケモンは、自然の怖さや、私の境遇になど立ち会った事がないんだろう。
人間の愚かさも、人間の弱さも、全く知らないんだろうと思った。

一通り菓子を食べ終えてから、やはり挨拶代わりにピカチュウを威嚇した。
黒く渦巻く霧を見て、ピカチュウは戸惑いながら主人である少年を見ている。

人間の指図がないと何も出来ないのか…と思ったら、何とも弱いポケモンだと思った。
私は、菓子で満足した腹の底で、このピカチュウを思い切り見下した。


26 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 02:00:46.79 ID:lWdz+E4/0

「お前みたいな、人間のおもちゃにされているポケモンに用はない」
「今すぐここから立ち去れ」
「そして二度と姿を見せるな」

きっと人間からしたら、フォウ、と鳴く鳴き声にしか聞こえないだろう。
だけど、ピカチュウには私の言葉は届いているはずだ。

赤い瞳をギラギラと光らせて、威嚇しながらピカチュウへ伝えた私の言葉。
ピカチュウは、相変わらず戸惑った表情で主人を見ている。情けない腰ぎんちゃくだ。

少年は、鳴き声を出した私の声をじっと聞いて、その場から動かない。
言葉が通じないので仕方ないと思い、ツン、と少年から視線を反らしてみせた。

お前には興味がない。
早くいなくなれ。

そう、暗に体で示してみせたのだ。


27 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 02:04:38.65 ID:lWdz+E4/0
そんな私を見て、少年はただ一言、「また来る」と言った。

腰に付けたいくつかのモンスターボールを手にとって、こうも言った。

「きみを捕まえるのは簡単だけど、捕まえる気はないよ」
「ただ、きみともう少し仲良くなりたいんだ」

次は、もっともっとポロックを持ってくるね、と言って、少年はピカチュウを連れて去って行った。

何とも不思議な少年だと思った。
まぁ、そうは言っても口だけだろうと思っていたが、それから少年は、毎日のようにこの水辺に現れたのだ。


28 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 02:04:44.66 ID:r7Ea910+O
クロバットマリルリクチートもふもふチュッチュ


29 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 02:08:39.71 ID:lWdz+E4/0
時間は決まって、太陽がてっぺんに登っている時。
相変わらず水辺でまどろんでいる私に、少年は言葉なく近づいてくる。
そして黙って、色とりどりの菓子をおいていく。

水辺の憩いの時間を邪魔されたくなくて、常に毛並みを逆立てて威嚇はしていたが、少年は無理に私に近づこうとはしない。

私が、紫色の菓子にやたら食いついていると判断したのか、それ以降紫色の菓子をやたら持ってくるようになっていた。

少年は、何もしない。
何も聞かないし、何も話さない。

ただ夢中に菓子を食べている私をじっと眺めて、嬉しそうに笑っているだけだ。


30 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 02:11:33.21 ID:DkBa5G4yO
ポケモンのうんちを調べればもっといろんなことがわかると思う


31 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 02:12:42.35 ID:lWdz+E4/0
少年の顔も見なれた頃になると、私は太陽が昇る時間を気にし始めた。
あともう少し太陽が上に登れば、少年が菓子を持ってここに来る。

別に楽しみにしていた訳ではないが、ただで菓子がもらえる現状はありがたいと思っていた。
少年のおかげ…ではないが、最近人間の街を潰して食糧を確保しなくとも、菓子で腹を満たすことが出来ていたから。

少年は何も話さない。
人間が嫌いな私にはちょうどいい。

だから毎日、私は紫色の菓子を持ってここへ来る少年を、ひたすらに待つ生活を送っていた。



次へ 戻る 上へ