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悪魔「俺を召喚したのはお前か?」女「そ、そうです・・・」
31 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 12:50:33 ID:fh1RHC4U
〜〜〜一週間後、女宅にて〜〜〜

女「あーあ、今日も全然進みませんでした〜」

悪「見ていたところお前自身なにを目指しているのか分かっていないみたいだったが?」

女「そうなんですよね〜。私のやりたいことが経済学にあるのは分かってるんですけど、具体的に経済学でなにをしたいのかが自分でも突き詰めれてなくて…」

女「ちょっと急がないといけないですね。悪魔さんをずっとこうやって拘束するわけにもいかないですし。」

悪「まあ、そう気にするな。俺自身は結構お前との生活気に入ってるんだぞ。」

女「…え?あの、それって…」

悪「今までに契約したことのないタイプの人間だからな。悪魔として興味深い。」

女「…」

悪「? どうした? 不満そうな顔して? 俺何か悪いこと言ったか?」

女「別に何でもないですー」

悪「そうか、ならいいが。」


32 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 12:53:10 ID:fh1RHC4U
女「ところで興味深いってどんなところがですか?」

悪「そうだな、ほとんどの人間は召喚したとき俺たちにかなり具体化した状態で願いを言うんだ。」

悪「なぜなら、具体性のないぼんやりとした願いを悪魔を呼び出すに至るまでの執念で抱き続けるなんて基本は不可能だからな。」

悪「だが、お前はそうではなかった。しかし、その願いを叶えること自体に対する執念は嘘ではないらしい。その辺が俺の好奇心をそそるんだよ。」

女「…」

悪「…でな、ここで一つ相談なのだが、俺を呼び出した理由をそろそろ全部ちゃんと話してくれないか?」

女「えと、どういうことですか?」

悪「だからさっきも言った通り、具体性のない願いを悪魔を召喚するほど強く持ち続けるなんて基本は不可能なんだ。だが、お前はそれしている。そして、俺は願いを叶えるものとしてその理由を知りたい。」


33 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 12:54:55 ID:fh1RHC4U
悪「正直言うと気持ちが悪いんだ。その辺の理由が不透明なまま願いを叶えるというのは。」

女「別にそんな特別な理由なんてないですよ。きっとただ単に私の研究者としての名誉欲が人よりも強いだけですよ。」

悪「いや、お前はどう見てもそういうタイプじゃない。それくらいは俺にも分かる」

女「じゃあ、私にも分からないですね。」

女「それにそんなこと契約に関係ないじゃないですか? 私にも一応プライベートはあるんです。必要でないなら聞かないでください。」

悪「…分かった。まあ、言いたくないなら無理には聞かないさ」

女「…」

しばらくは書き溜めがあるから早いかも


34 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 12:55:49 ID:fh1RHC4U
悪「…さ、気を取り直して晩飯にしようぜ。今日はシチューの予定なんだが、それでいいか?」

女「いいですねー、美味しそうです。」

女「それにしても悪いですね。毎日朝晩とご飯を作らせてしまって。」

悪「まあ、仕方ないとはいえ居候の身だしな。」

悪「それにお前の料理の腕前は初日の晩で分かったしな…」

女「そ、それは言わないでください…」


35 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 12:56:36 ID:fh1RHC4U
・・・

悪「さてと、じゃあ俺はバイトに行ってくるわ」

女「今日も工事現場ですか?」

悪「ああ、今日も朝帰りになると思うから先に寝ててくれ」

女「分かりました。頑張ってきてくださいね。」

悪「ああ。じゃあ、行ってくる。」

バタン

女「…」

女「特別な理由か…」

女「私の場合、間違いなく『アレ』ですよね…」

女「やっぱり、いつかは話した方がいいのでしょうか…」

・・・


37 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:00:00 ID:fh1RHC4U
〜〜〜工事現場〜〜〜

悪「こんばんは。お疲れ様です。」

作業員「おう、悪魔のあんちゃんか。お疲れ!」

悪「今日も頑張りましょうね。」

作「おうよ!」

悪「ふんっ」カツーン

作「おりゃ」カツーン

悪「ふんっ」カツーン

作「おりゃ」カツーン

作「ところでよ、あんちゃん。今日なんかあったんか?妙に元気がなさそうだが。」カツーン

悪「…まあ、ちょっと」カツーン


38 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:00:55 ID:fh1RHC4U
作「また彼女さん絡みでなんかあったんかい?たしか、あんちゃんがここで働きだしたのも彼女が原因だって言ってたよな?」カツーン

悪「彼女じゃないですって。ただの同居人ですよ。でも確かに今回も彼女が原因ではあるんですけどね。」カツーン

作「どうしたんだい?」カツーン

悪「実は彼女ちょっと隠し事をしてるみたいで。そのことを聞いてみたら怒られてしまったんです。」カツーン

作「ほう」カツーン

悪「たとえ同居人でも他人のプライベートに首を突っ込むべきではなかったですね。」カツーン

作「…いや、時には他人の心の中に入り込んでいかないといけない場合もある。」カツーン

悪「そうですか?」カツーン


39 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:01:52 ID:fh1RHC4U
作「ああ、あんちゃんみたいに他人と距離を置いてるような奴は特にな」カツーン

悪「いや、俺は別に他人と距離なんて…」カツーン

作「いんや、明らかに目に見える形で拒絶してないからそう見えないだけで俺には分かる。」カツーン

作「あんちゃんはいつも相手が一歩近づいてきたらさりげなく一歩引いて近寄らせないようにしてる。」カツーン

作「心の底から人間を嫌ったり、怖がったりしてるやつの特徴だ。」カツーン

悪「…」カツーン

作「俺も昔そうだったからな。わかっちまうんだよ。」カツーン

悪「え…?」ピタ


40 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:03:38 ID:fh1RHC4U
作「ある日いきなり妻に男と逃げられてな。なんとなく、怪しい雰囲気は漂わせてたんだが、その時の俺には問い詰める勇気がなかった。」

作「それである日帰ったらいないときた。流石にあんときはショックだったよ。」

作「それで人間ってやつが信じられなくなってな。酒浸りの毎日を送ってた。」

作「でもまあ、ある日そんなんじゃあダメだって思えてなあ。なんとか立ち直って今こうしてるって訳だ。」

作「それでもなあ、あんちゃん、今でも時々あのとき踏み込んでればなあって思っちまう。後悔しちまう。」

作「だからな、あんちゃん、今日はもう上がれ。帰って彼女さんと話してこい」

悪「え、いや、それじゃ…」

作「いいから、あんちゃんがここんところ毎日出てくれてるおかげで予定より進んでるし、風邪ってことにして帰っちまえ。親方には俺から言っておく」

悪「…ありがとうございます」

作「おう」


41 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:05:40 ID:fh1RHC4U
・・・

女「さてと、悪魔さんが帰ってくる前に早く済ませてしまいましょう。朝帰りとは言っていましたが念のため。」

女「まあ、どうせ気休め程度のものなんですけどね」

女 (ガサゴソ)(ジャー)(パキッパキッ)

バタン

悪「ただいま。先輩が今日はもういいって早めに上がらせて…」

女「あ!」ポト サッ

悪(あれはっ・・・)

悪(どうする…見なかったにもできる。だが、それじゃあ今までと一緒だ。)

悪(今回だけは逃げない!)


42 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:07:20 ID:fh1RHC4U
悪「これが理由か…」

女「…なんのことですか? ちょっと今日は寝つきが悪いから睡眠薬を飲もうと思っただけですよ?」

悪「…とぼけるな。悪いが俺は薬学にもしっかりと精通しているんだ。お前がさっき落とした薬は…」

悪「心臓病の薬だ…」

女「あ〜あ、ばれちゃいました。はは。最後までなんとか黙っておくつもりだったんだけどなあ…」

悪「…どうして黙ってた?」

女「いや、だって格好悪いじゃないですか?『死期を悟った女が最後に生きた証としてなにかを残すために悪魔と契約した』なんて思われたら。安っぽいドラマみたいじゃないですか?」

悪「…そんなに悪いのか?」

女「はい、お医者さんにはもってあと3か月って言われました。『もうどうしようもない状態だから残りの時間は好きにしなさい』って匙を投げられちゃったくらいです。」

女「せめてもの気休めとして薬は飲み続けてたんですが、それでばれちゃいましたね。はは…」


43 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:08:52 ID:fh1RHC4U
女「…」

悪「…」

女「…」ポロ、ポロ

女「ぐす、ごめんなさい。ばれたら、ぐす、色々と緊張が緩んじゃったみたいです。今まで、ぐす、誰にも、ひく、言って…なかったので…」

悪「…」ポン

〜〜〜数十分後〜〜〜

女「ありがとうございます。だいぶ落ち着きました。」

悪「気にするな。」

悪「しかし悪かったな。隠してたことをこんな形で暴いてしまって。」

女「ううん、気にしないで下さい。どうせきっと遅かれ早かれいつかはばれてたことですから。それに逆にすっきりもしました」

悪「そうか」


44 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:15:08 ID:fh1RHC4U
女「あの、この際だからもっとお話ししませんか?」

女「どうせここまで知られたなら悪魔さんにもっと私のことを知ってもらいたいですし、その………私ももっと悪魔さんのことを知りたいです。」

悪「そうだな。そういうのもいいな。」

女「じゃあ、言い出しっぺの私から話しますね。」

女「実はですね、こう見えて私いいところのお嬢様だったんですよ。」

悪(あーだからこんなに色々ととろいのか・・・)

女「今何か考えてませんでしたか?」

悪「いや、なにも」

女「…まあ、いいです」

女「父が事業をしていて、本当に冗談みたいな豪邸にも住んでたんですよ。」

女「でも、その事業がある日完璧に傾いてしまったんです。」

女「最初はちょっとしたミスってレベルだったんですけど、そこをどんどんライバル会社に付け込まれちゃって、それで完璧に倒産しました。」

女「それで父と母は蒸発して、私だけが残ったんです。」

悪「…」


45 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:20:23 ID:fh1RHC4U
女「別に私はそのライバル会社の人たちを恨んでるわけじゃないんです。」

女「競争相手を倒そうとするのは会社として当然の動き方ですし、両親も同じことを言ってましたから。」

女「前にお蕎麦屋さんで聞かれて誤魔化しましたけど、実は私が経済学を勉強しようって思ったのはこれが理由なんです。」

女「私はあの件のことを恨んでるわけじゃないですし、別段苦労もしませんでした。引き取ってくれた叔父さん夫婦がいい人たちだったので。」

女「ただ、そうじゃない人たちだって世の中にはいくらでもいるんです。」

女「私はそういう人たちを少しでも減らせるような、少しでも今より幸福が多いような世界を作れないかなって思って経済学を勉強しだしたんです。」

女「まあ、残念ながら、それを実現できるほどの頭は私にはありませんでしたけど…」

悪「大丈夫だ。そのために俺がいる。」

女「…そうですね」


46 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:28:25 ID:fh1RHC4U
女「ごめんなさい、暗い話になってしまって。」

悪「大丈夫だ。前にも言っただろ、人のダメなところをすべて受け入れて肯定するのが悪魔だって。」

女「…はい」

女「私が悪魔さんに隠してたのはこれくらいですね。あの、今度は悪魔さんの話を聞かせて下さいよ。」

女「ほら、悪魔さんたちがどういう風に生まれるのかとか気になりますし。」

悪「そうだな。まあ、期待しているところ裏切って悪いが俺は生まれつき悪魔だったわけじゃないんだ。」

悪「俺は元々人間だったんだよ。」

女「え?!えと、どういうことですか?」

悪「まあ、最初から全部話そう。」


47 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:36:21 ID:fh1RHC4U
悪「俺は人間だったころは俗にいう天才って奴でな。どんなことでも理解できたし、解き明かすことができた。」

悪「そんなだから周りもこぞって俺に勉強させたし、俺自身も知識欲や好奇心はあった方だからひたすらに勉強したよ。」

悪「それで勉強して、勉強して、勉強して、そうしているうちに俺はこの世のすべてを知り尽くしていた。」

悪「知らないことはなくなってたし、あっても持ってる知識の応用ですぐに解き明かすことができた。」

悪「でもな、当然だがそのすべてってのには目を瞑りたくなるような醜いものも含まれてるんだ。」

悪「特にきつかったのはやっぱり人間のそれを完全に知ってしまった時だな。」

悪「賞賛をしながら嫉妬をする。侮蔑の念を抱きながら友達面をして一緒にいる。相手のためと言いながら自分の評判を気にする。言い出したらきりがない。」

悪「それが分かってからは周りの人間をまともに見れなくなったよ。ありていに言ってしまえば怖くなったんだ、人間が。」

悪「そうして人間に絶望して、人間でありたくない、人といたくないって思いながら過ごしているうちに気が付いたら悪魔になってた。」

悪「それで、今に至るって感じだな。」

女「…」


48 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:40:29 ID:fh1RHC4U
悪「まあ、でも今は気楽に悪魔として生きてるから。そんな顔するなよ。」

女「やっぱり人間に戻りたいとはもう思わないんですか?」

悪「そうだな。俺を含めて悪魔といっても全員変な能力を持っていること以外はほぼ人間と変わらないし。魔界も悪魔にとってはこの人間の世界と別段変わらないしな。」

悪「それにやっぱり、悪魔には俺の能力が利かないのは俺にとって大きいんだ。さっき言った負の側面を見なくて済むからな。」

悪「まあ、それでも悪魔の仕事には時々嫌気がさすことがあるけどな。」

悪「やっぱり同意の上とはいえ魂をもらうってのは罪悪感もあるし、やっぱり悪魔を呼び出すほどの執念をもった願いってのは人の負の側面を見させられることが多いんだよ。」

悪「聞こえのいい願いを言っててもその裏に物欲や名誉欲、自己顕示欲が透けて見えるなんてことはごまんとある。」

悪「そして時には『あいつを社会的に陥れて復讐したいから知恵を貸してほしい』なんてストレートなものもある。」

悪「俺が悪魔になった経緯と合わせて、そういうのはやっぱり・・・つらいな。」

女「ごめんなさい…そうとは知らずに、私…」

悪「気にするな。それが悪魔なんだから。」


49 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 13:44:36 ID:fh1RHC4U
女「あの、悪魔さんと話していて私の願いが決まりました。いえ、決まったというよりも思い出したって言った方がいいですね。」

悪「なんだ?」

女「私に、可能な限り誰も不幸にならなない、みんなが幸福でいられる経済モデルを教えて下さい。」

女「これぐらい具体的なら大丈夫ですか?」

悪「ああ。しかしな、実をいうとだ、あの悪魔が相手の願いを100%完全にかなえなきゃいけないというのは嘘だ。」

女「ほえ?・・・・嘘お?!」

悪「ああ、本当は俺の解釈で適当に叶えても問題はない。騙してすまなかった。」

女「…それにしても、なんでそんな嘘ついたですか?」

悪「賭けてみたくなったんだ。お前は今までに見たことのないタイプの人間だったからな。」

悪「ふと、もしかしたら、こいつならもう一度俺に人間を信じさせてくれるかもしれないって思えてな。近くで観察してみたくなったんだ。」

女「…私なんかに賭けたら、後悔するかもしれないですよ?」

悪「ああ、かもな。だが、それでもいい。そもそもが賭けなんだからな。」

女「…そうですか」

悪「ああ」

昼飯行ってきやす


50 名前:深夜にお送りします [] 投稿日:2012/02/17(金) 14:09:32 ID:fh1RHC4U
女「ん。じゃあ、もう遅いし寝ましょう。明日はやることがありますし。」

悪「? 研究やあのおっさんの手伝いか?」

女「いいえ、それよりもっと大切なことです。」

女「まあ、明日になれば分かりますよ。」

悪「まあ、いいか。おやすみ。」

女「おやすみなさい。」



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