■戻る■ 下へ
記者「スクープの匂い・・・!」◆
246 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 16:39:59.33 ID:bv16bzVY0
村は静寂。謎の霧は晴れ、肌寒い秋の空風。
茜の陽は浅く地に差し、丘の低い草影が大きく伸びる。
整然と立ち尽くす葡萄の園の柱は眠り、遠方に点々と建つ民家の夜灯りが唯一暖かく灯る。

記者「・・・青の国・・・」

その女、背にも腕にも籠を持たず、片手に筆。
もう片手には小さな帳面。

肩に下げた小さな箱は、真実を撮らえる己の目。
瞳は紫空に興味を持たず、不気味に影を伸ばす濃紺の城壁に向けられている。

記者「・・・青の国・・・いや、まさか、城壁で囲まれているとは思いませんでしたね」
記者「忍び込むには最悪の条件ですが、まぁなんとか掻い潜ってゆくしかないでしょう・・・」
記者「・・・もし中に人がいるのだとすれば・・・」
記者「・・・いえ、とにかくいかに見つからないよう忍び込めるかが肝要ですかね」

記者「・・・死ぬかもしれない、か」
記者「・・・ふふ、上等すよ、本望です」
記者「伊達に華の一生をカメラに注いじゃいません」

記者「・・・ただ、私ゃ」
記者「私が狙ったネタは、必ず掴んでみせますよ」

記者「・・・どれ、記念に一枚・・・」
記者「・・・はい、笑ってー」

カシャッ


247 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 16:50:33.81 ID:bv16bzVY0
足音はせず、山猫が走るが如く音は殺され、屈めた背丈は傍らに立つ高い葦の陰に隠れた。
薄い紺の闇の中で双眸はきっ、と剥かれ、前方に構える高い城壁を虎の様に睨む。

城壁は高かった。
青色の壁は夜闇の中で濃紺となり、その重苦しい色合いと高さがが見るものに重圧感を与えてくる。

記者「(・・・この向こうに、青の国が・・・)」

だが、
この己の3つの目を邪魔する者は、いかなる存在だろうと許さない。
隠蔽、捏造、秘匿は、唯一己の敵であるからだ。


記者「ほっ・・・!」

一跳びは草虫のように高く、軽々とその身を城壁の上まで運んだ。
見事な着地に足音は要らなかった。

記者「(・・・城壁の上に、監視はいない・・・と)」
記者「(入ったら二度と戻れない・・・というからには、入ったら“何者か”からの攻撃でも受けるのでしょうかね?)」
記者「(・・・)」
記者「(・・・念のために、一度・・・ここから中の様子を伺ってみましょうか)」

記者「・・・(ソッ」
記者「・・・!」


249 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 16:57:13.33 ID:bv16bzVY0
ガヤガヤ ガヤガヤ・・・

記者「・・・!」
記者「(嘘・・・!?)」

女は城壁から乗り出した体を素早く引き、壁の裏に背を隠した。

記者「(・・・何故、人があんなに・・・?)」
記者「(・・・青の国は、完全に外界との交わりを絶った謎の場所のはず・・・)」
記者「(領土の面積的にも・・・あの中で自給自足ができるはずがない!)」

記者「・・・(ソッ」

ガヤガヤ ガヤガヤ・・・

記者「(・・・でも、この賑やかな町並みは・・・一体・・・)」
記者「(ちゃんと通りもある・・・外灯も・・・青い明かりが付いている)」
記者「(家はかなり高級そうな・・・屋根から壁まで真っ青ですが、しっかりとしていますね)」

記者「(・・・人が住んでいる?)」
記者「(何十年も?何百年も?外とは繋がっていないのに?)」
記者「(・・・謎ですね)」

記者「(いえ、ですが)」
記者「(・・・その謎、私がこのカメラで撮えてみせますよ)」


250 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 17:08:23.23 ID:bv16bzVY0
トン、トン

シュタッ

記者「(・・・ふぅ、屋根から屋根へ・・・人に見つから無いように移るのは難しいですね)」
記者「(まるでスパイでもやってる気分です・・・が)」
記者「(同じようなものか)」

記者「(・・・よし、こっちの通りには人がいない・・・)」
記者「(これなら撮影できそう・・・ですね、うん)」
記者「(・・・はい、チーズ)」
カシャッ
記者「(まずは俯瞰からの街道を1枚、と・・・)」

記者「(・・・しかし、綺麗な町並みですね・・・もっと荒れた、古代都市のようなものを想像していたんですが)」
記者「(まーともかくこれで盗賊のアジト、って線は消えましたね)」

記者「(・・・となるとここは)」
記者「(魔族の隠れ家?禁薬の製造所?国の秘密機関・・・?)」
記者「(ともかくここまで壮大な、豪華な町並み・・・ただのネタじゃないですねぇ、ふふふ)」

記者「(・・・さて、とにかくもっと多く撮らなければ)」
記者「(これが世紀の発見として認められるためには、より多くの写真が必要ですからね)」


251 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 17:14:46.04 ID:bv16bzVY0
トン、トン

記者「(! っと・・・人がいる時には移動はできませんね)」シュタッ

記者「(・・・それにしても)」
記者「(青青青青・・・うーん、気が遠のくほど青尽くめの街・・・)」
記者「(もっと白や灰色があっても良いと思うんですけどねぇ、私から見ても悪趣味ってわかりますよ)」

記者「(・・・一応、ここから見える街全体の風景を・・・一枚)」
記者「(はい、チーズ)」
カシャッ

記者「(・・・うん、2枚目はこれで良し、と)」
記者「(・・・)」

記者「(そろそろ・・・この街に住む人の写真も、一枚・・・いや、それは最後にするべきか?)」
記者「(人を撮ればまず私の存在がバレる・・・)」

記者「(もしもこの“青の国”全体が、何らかの秘密組織のアジトだとしたら!)」
記者「(人を撮った瞬間に、まずバレますねぇ・・・うーん)」

記者「(・・・撮りたい)」


253 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 17:30:34.51 ID:bv16bzVY0
??「・・・」

記者「(・・・孤立した人影を発見!)」
記者「(・・・隠し撮りするべきか・・・?どうする?)」
記者「(フラッシュを焚けば隠し撮りにならない・・・でも普通に撮ってもシャッター音と紙の送り音でバレる)」
記者「(・・・ならいっそのこと)」
記者「(堂々と、インタビューでもしてみるか・・・?)」
記者「(・・・や、さすがにそれはないですね・・・いやでも)」
記者「(・・・インタビューさえできれば)」
記者「(青の国の謎を、簡単に解明できるかも・・・?)」
記者「(・・・取材する価値は、充分にある)」
記者「(・・・やるか)」

トンッ
??「・・・?」
記者「すみませーん」
??「・・・!」
記者「(ありゃ、気付かれたか?)」

??「あらあら、今夜はとても素敵な夜ですわね」
記者「・・・へ?」
??「今夜はどちらへお出かけですの?」
記者「え?ええと・・・その」
??「今夜はどちらへお出かけですの?」

記者「・・・(ゾクッ」
記者「(気持ち悪い・・・!)」
記者「(よくわからないけど・・・退散!)」シュタッ タン、タン

??「あらあら、今夜はとても素敵な夜ですわね」


260 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:02:13.78 ID:bv16bzVY0
??「あら、伯爵様だわ」
??「あら本当、伯爵様だわ」

??「おはようご婦人方、今宵は素晴らしい夜ですね」

??「ええ、素晴らしい夜ですわ」
??「ええ、とても素晴らしい夜ですわ」


記者「(・・・おかしい)」
記者「(一通りこの青の国を回ってみたけれど・・・この街の住人の一部は何か・・・おかしい)」
記者「(さっき会ったあの婦人もおかしかった・・・なんというか、恐ろしいというか)」

記者「(まるで・・・そう、人形のような・・・)」

記者「(・・・まさかここは、人形の住む国・・・?だったり?)」
記者「(だとしたら大発見ですね・・・ふふふ、スクープです)」

記者「(・・・思ったより屋根の上は人に見つかりにくい場所みたいですね・・・)」
記者「(おそらくここの人々が皆唾の広い高そうな帽子を被っているから・・・でしょうかね、死角も生まれやすいのでしょう)」
記者「(・・・見つかりにくいのならそれはいい事、撮影続行ですね!)」


261 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:07:06.05 ID:bv16bzVY0
カシャッ

??「・・・?」

サッ
記者「(はっ、はっ・・・ふぅ、ギリギリセーフ)」
記者「(・・・ここに住む婦人は皆、写真を撮られても・・・姿さえ見られてなければ大丈夫のようですね)」
記者「(でもさっきは姿を出して、面と向かって遭遇しても・・・何も無かった)」

記者「(これはもしかして、あの婦人は無害・・・?ということ?)」

記者「(・・・)」
記者「(・・・いや、でも不審な行動はなるべく避けた方が良い)」
記者「(こっそり、屋根の上を・・・静かに移動しましょう)」
記者「(とにかくある程度の警戒を払っていれば安全という事はわかりましたから・・・)」

記者「(・・・本格的に、情報収集といきましょうか)」

「・・・しかし、これ以上は・・・」

記者「(・・・ん?誰かの声が・・・)」

「・・・仕方あるまい、脱走者は捕らえ、抹殺する・・・それがここの決まりだ」
「・・・しかしもう、奴は・・・」

記者「(・・・おやおや、どうやら)」
記者「(楽しそうな事を話していますねぇ)」


262 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:13:16.88 ID:bv16bzVY0
記者「(・・・声はこの館の中・・・からか)」
記者「(・・・さて、メモをとりつつ盗み聞き・・・っと、ふふふ)」

「・・・どこまで遠くに逃げようと、決まりは決まりだ」
「・・・」
「いくらかかっても、何人使っても、あの者は抹殺するのだ」
「・・・所在がつかめません」
「掴め、それがお前の仕事だろう?」
「・・・」
「あの者は私が直々に拾ってやった、“貴族の子”なのだ」
「・・・はい」
「私の素顔を、秘術を知っている、この国の仕組みも、全てな」
「・・・はい」
「もう何年も経つ・・・が、奴をこれ以上生かさせるわけにかいかんのだ、全てが露見される前に・・・」
「・・・」
「殺せ」
「・・・はっ、侯爵様」

記者「(・・・穏やかでない話、ってことはわかるんですけどね・・・)」
記者「(しかし、何の話なのでしょうかね?要人暗殺計画ですかね?)」

カタン

記者「(あ)」
「!!」


263 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:23:29.23 ID:bv16bzVY0
「誰だ!」

記者「(!!)」ババッ

ガララッ

「・・・・」
「どうした、伯爵よ」
「・・・いえ」

「何でもありません」
「・・・ふ、あまり神経を削りすぎるな・・・神経は使うべく所で使え」
「はっ」


記者「(・・・屋根の真上にいて正解だった)」
記者「(・・・ふー、危ない危ない・・・普通、あんな小さな音で反応するもんですかねぇ?)」

「・・・さて、話を戻そうか」
「はっ」
「先程も言ったように、奴をこれ以上野放しにしておくのは危険である」
「何故か?この国の秘密を知っているからだ」

記者「(おお、どうやら・・・私の知りたい事を核心に、ズバズバと近づいていきますねぇ・・・)」

「情報の漏洩だけは避けなければならない・・・」
「・・・表の、ネズミもまた同じ」
記者「!」


265 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:30:44.40 ID:bv16bzVY0
パリンッ

記者「ほっ と」
シュタッ

貴族「誰だ!」ババッ
記者「あ、どーも私・・・っと、身分を言っちゃあ駄目ですね」タン、タン
貴族「止まれ!聞いていたな!?」
記者「さー何の事でしょうかねぇ?あはは」

ザザッ
記者「! っとと・・・」
貴族「・・・女のネズミか・・・」
記者「やだなぁ、私ゃただの新聞記者ですよ」
貴族「記者・・・?ふん、外界の者か」
記者「今日はですね、長年謎とされているここ、“青の国”の全貌を取材しにですね」
貴族「取材?断わる、ここは外界との関わりを一切持たない場所だ」
記者「関わりを持たないのに、何故この国へ来た人々は失踪するんでしょうねぇ?」
貴族「ふん、当然・・・忍び込み、関ろうとしたからだ」
記者「・・・なるほど、ごもっともで」

記者「関わった人たちは皆、殺される・・・と、なるほどなるほど・・・(サラサラ」
貴族「お前も例外ではないぞ」
記者「はい?(サラサラ」
貴族「この国へ来た者は・・・何より、この国を少しでも知ってしまった者は・・・全てだ」
記者「・・・随分、神経質な情報封鎖なんですねぇ・・・一体何をそんなに、隠したがるんですか?」
貴族「これから死ぬ者には関係ない」
記者「・・・へぇ」


266 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:34:55.57 ID:bv16bzVY0
記者「・・・ま、私もこういう状況にゃ慣れてますからね」
貴族「?」
記者「例えば、こう(サッ」
貴族「!」
記者「はい、笑って!」カシャッ

貴族「! ・・・何をした!?」
記者「やだなぁ、そんなに慌てなくていいじゃないすか、ただのカメラですよ」
ジィー・・・ カショ
記者「・・・ま、見つかったり危なくなったりしたら即退散・・・基本ですね」
貴族「逃げられると思うな、この国には100人の騎士が・・・」
記者「知りませんねぇ私ゃそんなこと」
バッ

貴族「!待て!」
記者「待てといわれて待ってるようじゃ、こんな危ない所にはしないんですよー!」
タタタタタタタタタタタタ・・・

貴族「くそ・・・追え!全員奴を追え!」


267 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:40:29.97 ID:bv16bzVY0
騎士「・・・」
騎士「・・・」
ダダダダダダダダ・・・

記者「おおっと、街中を随分と大勢で・・・」
記者「でもそんな重い甲冑で、屋根の上まで登れますかねぇ?人選ミスですね」
記者「・・・ま、ともかくこんな壮観、撮らなきゃ損ってことで・・・記念に一枚」
記者「はい、笑ってー」
カシャッ

記者「・・・よしよし、大漁大漁っと・・・」
貴族「待て!・・・くそ、逃がすか!」
記者「おやおや、随分必死で・・・そんなにここは、秘匿しておきたい場所なんですか?」
貴族「黙れ!!」
記者「あはは、インタビューにはちゃんと答えてくださいよぉ」

記者「どれもう一枚・・・」
カシャッ

貴族「!・・・コケにするなぁ!」
記者「あはは、してませんよー」

記者「(写真はもうこれくらいでいいか・・・あとは、無事にここを出られれば・・・)」


269 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:45:43.98 ID:bv16bzVY0
侯爵「・・・」
騎士「侵入者は逃走中です、脚が尋常でないほど早く・・・我々では追いつけません」
侯爵「・・・使えないやつらめ」
騎士「・・・申し訳ございません」
侯爵「ふむ、伯爵でも追いつけないか?」
騎士「僅差まで近づけはするのですが・・・」
侯爵「・・・ふん」

侯爵「まあ、良い」
侯爵「話を聞かれていたとしても大したことでは無いからな」
騎士「・・・しかし」
侯爵「もちろん奴は見つけ次第抹殺しなければなるまい、この国を見てしまったのだから」
騎士「・・・はっ」

侯爵「・・・ともあれ」
侯爵「我々の日常が壊れさえしなければ、それで良いのだ」
騎士「・・・はあ」
侯爵「単に上辺だけ、町並みだけを知っていても、特に何も変わりはしない」
騎士「・・・」
侯爵「わが“国”はこの世で最も栄えし国となる、多少の漏洩など、すぐ凍てつかせ、修復すれば良い」


270 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:51:25.24 ID:bv16bzVY0
記者「ほっ、ほっ、ほっ・・・っと」
シュタッ

記者「・・・ふう、何とか城壁の上まで戻ってこれた・・・良かった」
貴族「逃がすか・・・!」
記者「あはは、逃げますよ」
貴族「逃がさん!絶対に!わが国に踏み入った者は、決して逃がさん!」
記者「・・・今は逃げていますがね、私ゃ逃げも隠れもしませんよ」

記者「私はこの世界の裏を暴く、一面取りの記者!」
記者「逃げはしません・・・いつかまた、ここの真相を全てカメラに収めにやってきますよ!」
貴族「ええ、来るな!」
記者「逃げますよ、そしてまた来ますよ」

記者「ではまたー」
ピョン

貴族「! 待て・・・!」
記者「それではまた、いつか取材に来ますのでー」
貴族「待てぇえええ!!」
記者「あ、はい・・・最後に一枚ですね?」

記者「はい笑ってー」

カシャッ


271 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 18:53:43.01 ID:bv16bzVY0
厨二大好き



274 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 19:09:26.10 ID:h+PRQoKnO
沢山かいてりゃ

どうしようもない駄作だって生まれるさ


276 :VIPがお送りします [] :2009/02/08(日) 19:19:25.39 ID:E052OTEu0
これが駄作と


277 :VIPがお送りします [sage] :2009/02/08(日) 19:30:08.47 ID://09Q00fO
いいと思うけどな


278 :◆1pwI6k86kA [] :2009/02/08(日) 19:31:02.63 ID:h+PRQoKnO
言い訳だけど仕方ない

数撃ちゃ当たる戦法でやらにゃ


279 :VIPがお送りします [] :2009/02/08(日) 19:31:29.57 ID:f9HW6Nmh0
俺もいいと思う
今のところ>>1の話全部好きだ


291 :VIPがお送りします [sage] :2009/02/08(日) 20:34:36.48 ID:SmPUysD+O

黒い男「サムライ、か……なかなかクールな格好であるな」



次へ 戻る 上へ