■戻る■ 下へ
貴族「おやおや、可哀想に・・・」
28 :VIPがお送りします [] :2010/05/02(日) 23:32:34.44 ID:yTAiblgm0
貴族「やあやあどうも、こんばんは、良い夜ですね?」
「公爵様!おお、今夜は実に神秘的で美しいものをお召しで!」


少女「・・・」モグモグ

ゴクン

少女「(・・・私をむすめ、って呼ぶあの男の人・・・一体何者なんだろう)」
少女「(ううん、そんなことよりも・・・ここは一体、どこなんだろう?)」

少女「(青の国の・・・何か三大、えっと・・・その財閥?)」
少女「(財閥って何なのかな・・・すごいんだろうな、こんなに沢山の御馳走を用意できるんだもの)」

少女「(・・・お母さん、寝ている私の両腕と脚を縛って、青の国の入り口に捨てた、私のお母さん)」
少女「(裕福な場所だと知っていたから、私をここへ置いていったの・・・?)」

――ティニア、ご飯よ

――今日はデザートに、ベリーのジュースを作ってみたの、ふふ

――私はいいのよ、ティニアが美味しそうに食べてくれるだけでいいから

少女「・・・」ズキン


29 :VIPがお送りします [] :2010/05/02(日) 23:35:17.70 ID:n4zvqxex0
実際には侯爵より伯爵のほうが位は上だよね


30 :VIPがお送りします [] :2010/05/02(日) 23:37:18.96 ID:yTAiblgm0
少女「お母さん・・・会いたいよぉ・・・」グスッ

少女「(お母さん、わかったよ・・・どうして私をこの“青の国”に捨てたのか・・・わかったよ)」
少女「(・・・お母さん、確かにここのご飯は美味しいよ、でも・・・)」

少女「(私、お母さんと一緒じゃないと・・・やだ!)」

タタタッ・・・

少女「(帰る・・・こんなところ嫌だ!お母さんと一緒じゃなきゃ嫌だっ!)」
ドンッ

「いたっ、こらあなた、会場で走らないでくださいます!?」

少女「(私がいなきゃ、お母さん・・・きっと葡萄の収穫だって、世話だって・・・一人じゃできないもの!)」
少女「(それに私だって、優しいお母さんがいつもそばにいてくれなきゃ・・・!どんなに貧しい生活でも、お母さんがいなきゃ・・・!)」


ドンッ!

少女「いたっ・・・!ご、ごめんなさ、」
伯爵「どこへ行くのですか?」
少女「!」


31 :VIPがお送りします [] :2010/05/02(日) 23:41:19.82 ID:yTAiblgm0
少女「・・・えっと、さっきの人?ですか・・・?」
伯爵「申し遅れましたね、私の名は伯爵です、公爵様にはお世話になっております、以後お見知りおきを」
少女「そ、そうなんですか」

少女「・・・外の空気を吸いたいのです」
伯爵「温度が保たれているとはいえ、ここの空気は人の熱気でむせかえるようですからね」
少女「・・・だから」
伯爵「ええ」

少女「だから、そのぉ・・・あなたの後ろの扉を、通りたいんです・・・」
伯爵「なりません」
少女「・・・どうして」
伯爵「頼まれたのですよ、公爵様にね」

少女「(・・・!)・・・なんて?」
伯爵「あなたが逃げ出さないように、見張れと」
少女「!」


32 :VIPがお送りします [] :2010/05/02(日) 23:45:29.31 ID:yTAiblgm0
少女「逃げ出すつもりじゃ・・・ないもん」
伯爵「そうでしょうか?息を切らして走ってまで、外の空気を吸いたいのですか?」
少女「・・・」
伯爵「おや、子供相手には意地悪でしたかね?すみませんね」

伯爵「・・・ふ、しかし、そういうことですよ」
伯爵「貴女は背丈よりもやや頭が回るようですが・・・あまり大人を舐めるものではない」
少女「本気だもん」
伯爵「ふ、そんなに逃げたいのですか?もったいない」
少女「・・・」

伯爵「こんな機会はめったにないというのに、全く・・・あの、公爵様の娘として人生をやり直せるのですよ?」
少女「・・・」
伯爵「貴女はすぐ近くの外界から来たようですが・・・それならば青の国、知らないわけがないでしょう?」

伯爵「青の国ではより力のある財閥に身を置き、その上でより高い爵位を手に入れることこそ肝要・・・」
少女「・・・知らない」
伯爵「女性は爵位を手に入れられはしませんが、それと相応である位は・・・」
少女「知らないって言ってるでしょっ!」

ザワザワ・・・

少女「こんなとこ、豪華でもっ・・・!知りたくもないし、居たくもないの!」


33 :VIPがお送りします [] :2010/05/02(日) 23:52:28.34 ID:yTAiblgm0
伯爵「・・・」
少女「私には・・・帰らなきゃいけない家があるんだもん・・・!」
伯爵「ほう、家」
少女「・・・笑っていいよ、ボロボロの家だもの」
伯爵「はははははっ」
少女「・・・いいもん、それでも私はそこに帰りたいの!」
伯爵「・・・」

ジャリッ・・・

少女「(・・・何?砂が擦れるような音・・・)」
ジャリッ・・・
伯爵「面倒な子供ですね、できれば“赤”なんて見たくはないのですが――」

ジャキンッ

少女「え?」

門の前に立ちふさがる男の袖の中から先程までは見えなかった半透明の青く美しい刀身が伸びる。

伯爵「一度腕を貫かれれば、力に服従することの大切さを覚えるでしょう」ヒュッ
少女「!ひっ・・・!」


34 :VIPがお送りします [sage] :2010/05/02(日) 23:58:30.94 ID:6qxOj/j00
んー?前にも何か書いてた人か?
まあどうでもいいか


35 :VIPがお送りします [] :2010/05/02(日) 23:59:35.87 ID:yTAiblgm0
細い、青の剣であった。

伯爵の飾られた袖の内側から、抜き身のそれがすぅっと伸びてきた。

少女「(殺される・・・!)」

よく村に来ていた奇術師がそんな芸当を披露しにやってきたので、同じ類のマジックなのかと少女は考えた。自分はよくわからないトリックにより殺される、と。

少女「(・・・え!?)」

だが刃が自分の肌の寸前まで来た時、眼前に迫る恐怖に意識を向けられないほどの“トリック”を、少女は見た。


ガシッ・・・

貴族「・・・伯爵、この子を傷つけてはならない」
伯爵「・・・!す、すみません、侯爵様・・・!」

少女「(うそ・・・)」

突き刺すはずの腕、その直前で剣は、侯爵の手によって掴まれていた。
だが少女は安堵できなかった。逆に、さらなる恐怖すら覚えた。

袖の内側から伸びた抜き身の青い剣は、伯爵の手首そのものから生えていたのだから。


36 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:07:06.62 ID:MrT5ghdx0
ギリギリ・・・

貴族「二度と彼女を傷つけるようなマネはするな・・・!良いな!?」
伯爵「は・・・はっ!侯爵様!」

少女「・・・」

貴族「ふぅ・・・やれやれ、申し訳ありませんねお嬢さん、彼は短気なもので・・・次からは粗相しないように強く言っておきましたから」
少女「・・・バケモノ」

貴族「?」
少女「バケモノよ・・・!あ、あの人、手首から・・・!」
伯爵「・・・」

少女「う、うそ、ありえない・・・人の体の中に剣を入れていたの?そんな事・・・」
侯爵「・・・やれやれ困った」
伯爵「違います、今の剣は・・・」
少女「体の中にまで青いものを入れるなんて!どうかしてる・・・!」

伯爵「・・・ふう、全く、慣れていない者は困りますね」


37 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:13:26.08 ID:MrT5ghdx0
貴族「・・・お嬢さん」
少女「!」

貴族「どうか彼を軽蔑しないであげてください」
伯爵「・・・」

貴族「誰もが彼のように、体の中にまで青いものを持っているわけではありません・・・彼の手にあった青い剣は、特別なものなのですから」
少女「・・・とくべつ?」
貴族「ええ、そうとも、護身用とでも言いましょうか、ははは・・・」

伯爵「(・・・喋らない気だな?この力のことは・・・)」
伯爵「(可哀そうに・・・)」


少女「・・・!あ、手を・・・!」
貴族「ん?ああ、私の傷ですか・・・はは、大丈夫ですよ、手袋をしていたのでね」
少女「・・・」
貴族「それより、勝手にこの館から出ようとしましたね?いけませんよ、そんなことは」
少女「ご、ごめんなさ・・・」
貴族「・・・」

バシッ


38 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:17:57.32 ID:MrT5ghdx0
少女「いた・・・」
貴族「・・・」
伯爵「(・・・私には“傷つけるな”と言ったくせに、自分は殴るところがまた)」


貴族「私の目の届かないところにいては、なりません」
少女「・・・」
貴族「でないとお嬢さん・・・貴女を守れないでしょう?」
少女「!」

ギュッ

貴族「永久に私が守りましょう・・・お嬢さん」
女「・・・」

女「(・・・あったかい)」


39 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:24:27.08 ID:MrT5ghdx0
少女「・・・月が、青っぽく見える・・・」

少女「(・・・館の中が青だらけだったから・・・それで、目がおかしくなっちゃったのかな・・・うう)」ゴシゴシ


貴族「さあお嬢さん、お待たせしました」
少女「! 侯爵、・・・さん」
貴族「ははは、私は侯爵で構いません・・・あ、しかし貴女は私の娘だ、お父さまでも構いませんよ」
少女「侯爵」
貴族「ははは、まるで必然であるかのような即決ですね」
少女「・・・」

少女「(侯爵と呼ばれているこの男の人・・・私を怒ったり、優しくしたり・・・)」
少女「(・・・誰?この人は一体誰なの?)」

少女「(私は逃げなきゃ・・・お母さんのところへ行かなきゃいけないのに、どうして・・・)」

少女「(この男の人といると、安心できちゃうの・・・!?)」

貴族「さあお嬢さん、手をつないで帰りましょうか」
少女「え?」
貴族「手です、さあ」
少女「・・・はい」

ギュッ


40 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:29:56.87 ID:MrT5ghdx0
貴族「月が青く、良い空ですねえ、雲もなく濃紺が星の青白さを際立たせて、実に美しい」
少女「・・・」
貴族「・・・不安な顔をしていますね?」
少女「・・・」

少女「・・・私、お母さんに捨てられた」
貴族「・・・」

少女「お母さんの家は貧しかったの、だから私はここに・・・この国に」
少女「起きたら両手と両足が縛られてて・・・」

少女「いつもは“絶対に入っちゃいけない”って、お母さんから言われてたこの場所に、寝転がっていて・・・」
貴族「・・・」

少女「・・・その時見えたの」
少女「お母さんの後ろ姿が、遠くの方に去って行くのが・・・!」

少女「お母さん、何度叫んでも振り向いてくれなかった!」
貴族「・・・ひどい母ですね」
少女「違うの!お母さんはひどい人なんかじゃないの!」

少女「何か・・・理由があって、捨てたんだもん・・・私を・・・」
貴族「・・・」


41 :VIPがお送りします [sage] :2010/05/03(月) 00:31:00.47 ID:qB/1Xv+LP
ケータイ小説サイトでやれ


42 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:38:04.90 ID:MrT5ghdx0
貴族「・・・そうだ、すっかり忘れていた!」
少女「ぐすっ・・・えっ・・・?」

貴族「さあお嬢さん、こちらを向いて」クイッ
少女「な、なに」

貴族「・・・黒い髪、黒い瞳、・・・うん、美しい」
少女「・・・」
貴族「このような美しいお嬢さんを捨てるとは・・・生活に苦しみ、出した結果がこれとは・・・外界の親とは、実に・・・罪深いものです」

貴族「パーティの前にも言いましたね?名前を変えましょう」
少女「! や、嫌だ!これはお母さんからもらった名前なの!」
貴族「・・・あなたの母は、名前と一緒に貴女を捨てたのですよ?」
少女「ぅ・・・!」

貴族「・・・前髪が邪魔ですね・・・どれ」ヒタッ
少女「!? や、おでこ触らないで・・・」

貴族「“貴女は欲の風雨の中に居り、野心の雨からは逃れられない”」
少女「え?」
貴族「・・・ふふ、大丈夫ですよ・・・母がいなくとも、貴女は私が守るのですから」

貴族「例えここが全く知らない、不安な場所だとしても・・・私が貴女を守り続ける」
少女「・・・」


43 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:46:27.60 ID:MrT5ghdx0
――侯爵の屋敷の一室


メイド「この一室がお嬢様の部屋となります、お好きに使っていただいて構いません」
少女「・・・」
メイド「あ、ベッドでしたらあちらに・・・」
少女「・・・見える」

メイド「・・・ふふふふ、ではごゆっくりお休みなさいませ」

キィィ・・・パタン

少女「・・・」
少女「つか、れた」ボフッ

少女「(・・・!やわらかい・・・羽毛だ、羽毛のベッド!)」モフモフ
少女「(・・・気持ちいい、はじめて・・・)」

少女「(不安しかない、怖いことしかない場所だけど・・・でもそれでも、このベッドなら・・・すぐに眠れちゃいそうだ)」

少女「・・・青の国、かぁ」
少女「(侯爵は優しい・・・怖いところもあるけど、あの人は優しい・・・うん、そうだ)」

少女「(お母さんからもらった名前は少し変えられてしまったけど・・・でも)」
少女「(ここは、安全な場所みたい・・・良かった)」

少女「・・・」スゥスゥ


44 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:47:57.62 ID:MrT5ghdx0
寝る


46 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:54:17.85 ID:/dYpnmwcO
読んでるよ〜


47 :VIPがお送りします [sage] :2010/05/03(月) 00:54:31.88 ID:4V6dzvVYP
お疲れ


48 :VIPがお送りします [] :2010/05/03(月) 00:57:41.53 ID:aEPZrbds0
俺「あ、侯爵じゃん」
侯爵「はわわっ、旦那様じゃないですかぁ!?」










言わせたかっただけです



戻る 上へ