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男「いらっしゃいませ、ギルドへようこそ」
- 119 :1 ◆1pwI6k86kA []
:2009/09/13(日) 18:28:12.11 ID:/akrsd8o0
男「・・・」
ヒュォオオ・・・
男「おか・・・しいな、さっきまでは山道も拓けてたのに」
男「・・・いきなり、高山道の前に・・・樹海が・・・」
男「・・・そうか、ここはかなり高い地点だと思ってたけど・・・まだまだってことか」
男「・・・こんなんで俺が諦めると思うなよ」
ザッザッザッ・・・
男「(俺がギルド員になるまで・・・どれほどの苦労をしたと思ってるんだ)」
男「(俺が今まで積み上げてきたものは・・・その苦労は、こんなもんじゃない)」
男「(こんなもんじゃ俺は・・・まだまだ意志も体も、折れやしない)」
ザッザッザッ・・・
- 120 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:32:56.83 ID:/akrsd8o0
男「(・・・臭い・・・普通の山とは違う、変な臭いがする・・・)」
男「(どこか焦げくさくて、腐ったようでもあって・・・けど汚くはなさそうな・・・)」
男「(斜面も急だし・・・というか、もう地面は全て・・・木の根で覆われてるから、足場が悪い)」
男「(何度も何度も足首を挫いてしまいそうになる・・・その内、痛めてしまうかもな)」
ザッザッザッザッ・・・
男「(・・・苔の緑が周囲を覆っている・・・視界の先は常に緑・・・)」
男「(・・・山か・・・そうだな、ここにはもう人なんていない・・・俺だけだ)」
男「(そう思うと、とても気が楽だ・・・こんなに必死になって歩く姿を、誰にも見られずに済む)」
男「(いっそここに住んでしまうのも悪くは無いかな?はは・・・)」
男「・・・」
ザッザッザッ・・・
男「それにしても・・・」
男「さっきから全く、息苦しくない・・・どんどん登っているはずなのに・・・」
ザッザッザッ・・・
男「(・・・酸素が薄くなっていない・・・のか?)」
- 121 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:37:07.68 ID:/akrsd8o0
ザッ・・ザッザッザッザッザッ・・・
男「はっ・・・はっ・・・」
男「(すごい、走ってもあまり苦しくない・・・)」
男「(常に肺が、新鮮な空気で満たされているみたいだ)」
男「はっ、は・・・すごい、このペースなら・・・全然早く、山を登れそうだ・・・!」
ガツッ
男「う、?」
ド
バキッ
男「痛ってッ・・・!」
男「(根っこに躓いた・・・くそ、やっぱり走るのは危険か)」
男「(・・・焦る必要も、急ぐ必要もない・・・そうだ、自分のペースで歩けばいいんだ)」
男「(ここには誰もいないんだ、何も無い・・・何を焦る必要があるって言うんだ)」
ザッザッザッ・・・
男「・・・」
男「どこへ着くんだろう、俺は・・・」
ザッザッザッ・・・
- 122 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:40:46.90 ID:/akrsd8o0
男「・・・」
ザッ・・・グッ・・・
男「・・・急斜面・・・というより」
男「(もうすでに・・・密集した木の間を進むというか・・・それを登るというか・・・)」
男「(ほとんど、木のぼりのような状態になってきたな・・・)」
グッ・・・グッ・・・
男「(く・・・まるでロッククライミングだ・・・)」
ずるっ
男「(! しまっ・・・)」
ベキベキベキ・・・ドサッ
男「ぐあっ」
男「痛・・・つぅ・・・・」
男「・・・落ちた・・・くっそ、苔のせいで・・・」
男「・・・ここは駄目だ、ルートを変えよう・・・この木はとてもじゃないが、登れそうにない」
男「(登れるところを登って、進んで・・・それで頂上を目指そう)」
- 123 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:43:56.13 ID:/akrsd8o0
ザッザッ・・・
男「(低い段差を見つけて・・・それをどんどん登って行こう)」
男「(無理して高いところを超える必要は無い・・・それで怪我でもしたら大変だ)」
男「・・・ここが良いかな」
男「(この根っこを階段のようにして使っていけば・・・なんとか、幹からあっちの高台まで跳べそうだ)」
男「(・・・)」
ザッザッザッ・・・
男「・・・無音だ」
男「(木々は多いけど、動物は・・・?ここにはいないのか・・・?)」
男「(ここまで草木の生い茂った場所でなら、何か虫の一匹でもいてもおかしくはないんだけど・・・)」
ザッザッザッ・・・
- 124 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:49:25.65 ID:/akrsd8o0
男「・・・」
ザッザッザッ・・・
男「・・・足が痛い・・・」
男「なんだか・・・クラクラする、喉が痛い・・・腹も、減った・・・」
ザッ・・・ザッ・・・
男「(もう随分と歩いた・・・けど見える風景は同じ)」
男「(どんなに歩いても・・・どこまで頑張って歩いても・・・見えるものは同じ、歩くだけ、繰り返し・・・)」
男「(これが・・・何の意味がある?)」
男「(こうして歩いて・・・登って・・・道を探して・・・どこへ行こうってんだ、俺は)」
男「(俺は何を求めているんだ・・・どこへ行きたいんだ・・・何のために・・・)」
ザッ・・・ザッ・・・
男「く・・・先が見えないものほど、辛いものは無いなぁ・・・」
男「だんだん、心が折れそうに・・・なってきた」
男「・・・くそ」
男「・・・このまま・・・引き返せるかよ・・・」
ザッ・・・ザッ・・・
- 125 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:52:45.46 ID:/akrsd8o0
男「(俺は全てを捨てたんだぞ・・・)」
男「(全てを自分から望んで捨てた・・・帰ってどうするんだ)」
男「(帰っても・・・ここで引き返しても、また・・・捨てたくなるだけだ)」
男「(そんな・・・捨てる程度の価値しかないものしか得られない場所なんて・・・)」
男「(願い下げだ・・・!)」
ザッザッザッ・・・
男「(ギルドに帰ればこき使われて・・・何にも必要とされないで・・・)」
男「(ただ相手の都合のいいように使われ、笑顔で頷いて・・・そんな事しか残って無い!)」
男「(そうだ俺には地獄しか残って無い!残ってないんだ!)」
ザッザッザッ・・・
男「うおおおお・・・!」
ザッ・・・ザッ・・・
- 126 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:55:55.64 ID:/akrsd8o0
男「・・・う・・・」
ドサッ・・・
男「・・・苔が・・・やわらかい・・・」
男「・・・苔って・・・食えるかな・・・ふわふわしてて・・・美味そう」
男「・・・食って・・・みるか、ここにはこれしかない・・・」
ブツッ
パク
男「・・・(モシャモシャ」
男「・・・土臭ぇ・・・(ペッ」
男「・・・空腹だ・・・何もない・・・寒い・・・」
男「何か食べたい・・・食べないと、これ以上高くには登れない・・・」
男「何か・・・何か・・・」
男「・・・無いか・・・」
- 127 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 18:58:28.45 ID:/akrsd8o0
ズッ・・・ズッ・・・
男「這うしか・・・もう、できない・・・」
男「うう・・・苦しい・・・息苦しい・・・」
男「なんでこんなに・・・呼吸が・・・」
男「・・・酸素か・・・?」
男「・・・そうか、活性酸素・・・」
男「(・・・もう駄目だ)」
男「(俺はもうここまでだ・・・止まろう・・・進めない・・・)」
男「(・・・死ぬしかない・・・)」
ザッ
術師「・・・」
男「・・・・・・え・・・?」
- 128 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:02:25.08 ID:/akrsd8o0
男「な・・・なぜあなたがここに・・・」
術師「空腹か」
男「・・・!は、はい・・・」
術師「・・・」
男「・・・」
術師「お前は随分と身勝手な奴だ」
男「え」
術師「勝手に街から飛び出し、山に登り、野垂れ死にそうなところを助けられ」
術師「助けた私に、また今助けられている」
男「・・・別にそんな」
術師「食事を恵んでもらえるとでも思ったのだろう」
男「・・・」
術師「・・・お前は食事を求めるか?」
男「・・・はい」
術師「・・・そうか」
- 129 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 19:04:03.60 ID:85xcrP+VO
イイヨイイヨー
- 130 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:06:00.43 ID:/akrsd8o0
術師「・・・」スッ
男「!そ、それは」
術師「リンゴだ」
術師「・・・時期が良い、この甘い果実を食せば・・・あとかなりは歩けるだろう」
男「・・・お、お願いです・・・それを・・・」
術師「・・・良いだろう、くれてやる」
術師「ただし」
ポイッ
男「!」
術師「ここからさらに高くにまで、リンゴを投げ置いた」
男「な、なんてことを・・・!」
術師「なんてことを?何を言っている」
術師「ここからさらに山を登ればいいだけの事」
男「・・・そうですけど、いくらなんでもあんな高いところにまで投げなくても・・・!」
術師「代償無しに果実を得られると思うな」
男「・・・」
術師「食いたければ・・・求め、歩け」
男「・・・」
術師「それが私から、お前に送る・・・“理由”だ」
- 131 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 19:06:11.54 ID:0SBqdH+W0
パー速のスレってどうなったんだっけ?
- 132 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 19:07:09.19 ID:qPQWRhov0
もらった木の実は?
- 133 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:09:47.64 ID:/akrsd8o0
男「うっ・・うう・・・!」
ザッザッ・・・ザッ・・・
術師「山を登るのだろう?頂上へと往くのだろう?」
男「そ、そうだ・・・登るんだ・・・!」
術師「リンゴはただの経過、中継地点に過ぎない」
男「わ、わかって・・・!」
術師「お前は何を求めている?リンゴか?頂上か?」
男「・・・!」
ザッザッ・・・
男「・・・はっ・・・はっ・・・リンゴ・・・見つけた・・・!」
術師「お前がその果実を・・・掴む価値のあるものだと思うならば、掴め」
男「・・・」
術師「それを頬張り、糧とするがいいだろう」
男「・・・」
術師「だがそれを食した時点で」
術師「お前の中からひとつの“理由”が消えたとするならば・・・それは、残念な事だな」
男「・・・」
- 134 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:13:19.60 ID:/akrsd8o0
男「・・・」
男「(食っちゃいけない・・・なんて)」
男「(ことは・・・ない!)」
シャリッ・・・
男「・・・」
術師「・・・美味いか?」
シャリッ、シャリ・・・シャリシャリ・・・
男「・・・甘い」
術師「その通り、果実は甘い」
男「・・・力がみなぎってくる」
術師「そうだ、食は力を与える」
術師「お前は飢え死にから逃れることができた」
男「・・・感謝、します・・・」
術師「礼は必要ない」
術師「・・・その力を得て、お前はどうする?」
男「・・・」
術師「リンゴを、道を引き返すための糧とするか・・・この先へ進むための糧とするか・・・」
男「・・・」
- 135 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:16:18.06 ID:/akrsd8o0
ザッ・・・
術師「・・・それでいいのだな?」
男「・・・はい、僕の進む道は、こっちなので・・・」
術師「死ぬことも有りうるだろう」
男「・・・本望です」
術師「本当に、登るのだな?」
男「はい・・・リンゴを取る為に登ったわけじゃないんです、僕は・・・」
術師「進むためにか?」
男「その糧とするため」
術師「良いだろう、進め」
男「・・・はい」
ザッザッザッ・・・
術師「・・・」
術師「(私は、リンゴを下の方へ投げても良かったのだがな)」
- 136 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:19:10.51 ID:/akrsd8o0
ザッザッザッ・・・
男「はっ・・・ふっ・・・辛い道だ・・・」
男「(・・・あれ、いつのまにかあの人の姿が消えてる・・・)」
男「(・・・いつの間にか傍にいたり、居なくなっていたり・・・不思議な人だ)」
男「(もしかしたら本当に、神のような力を持っている人なのかもしれないな)」
ザッザッザッ・・・
男「く・・・根っこが・・・高・・・」
男「(あれさえ掴めば・・・ここを登れるのに・・・)」
男「(少し・・・少しだけ無理を・・・無茶をすれば・・・届くかもしれない)」
男「(少しだけ・・・力を・・・!)」
グッ
男「・・・よし・・・へへっ・・・」
- 137 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:23:26.36 ID:/akrsd8o0
男「どっこい・・・しょっ・・・っと!」
男「よ・・・よーし・・・なんとかここも登れ・・・」
術師「おめでとう」
男「ってうわぁあああ?」
ツルッ
男「あ、あ!?」
ガシッ
男「あ、危ない・・・落ちるかと思った・・・!」
術師「あと2日か・・・早ければ1日歩けば、頂上だ」
男「ほ、本当ですか・・・」
術師「ああ」
男「・・・・・・やった・・・」
術師「・・・」
術師「(頂上・・・そこに、何を求める)」
術師「(望むものがいつでも、努力の先にあるとは限らないぞ)」
男「・・・あの、あまりいきなり現れないでくれませんか、怖いので」
術師「? わかった」
- 138 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 19:27:23.87 ID:/akrsd8o0
上司「おーい、こっちの書類整理頼んだ、こっちの管理も頼む」
「はい、わかりました」
「上司さん、傭兵の団体の方々がAの討伐を受注したいようですが・・・」
上司「カードの確認と人数、それら全て照会して不都合が無ければ受理しとけ」
「はーい」
「・・・上司さん」
上司「ん?」
「最近は忙しさに拍車がかかってますね」
上司「あのバカが抜けたからな」
「代わりの人物を早めに雇っておくべきです」
上司「かもな」
「かもなって」
上司「もう少し様子を見る」
「・・・」
上司「ま、本当に忙しくなったら切るつもりだ」
「・・・わかりました」
- 142 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 19:53:31.17 ID:7ZFVjIW9O
フォッシル
- 144 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:06:18.23 ID:/akrsd8o0
術師「本当に覚悟があるのだな」
男「・・・ええ」
術師「頂上は・・・いや、そこに近いここも、神聖な所だ」
男「・・・」
術師「踏み入り荒らすことは私が許さない」
男「そんなことは決してしませんよ」
術師「誓えるか?」
男「はい」
術師「・・・そうか」
術師「以前に言った、頂上には神が棲んでいる」
男「・・・」
術師「神は、この私ですら近づけぬほどの瘴気を纏っている、非常に危険だ」
男「ああ・・・毒の神がどうたら、とか・・・言ってましたからね」
術師「そうだ」
男「なぜその、神様は頂上に棲んでいるんですか?」
術師「愚問、この山こそ神の家、そのものであるからだ」
男「・・・神様の家って・・・」
術師「頂上へ出ても、決して神には近付くな」
男「・・・ふーん・・・神様・・・ですか・・・」
男「(神様なんて本当にいるのかな・・・こんな山に)」
男「(まぁ・・・いそうっちゃいそうだけどさ・・・)」
- 145 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:12:48.26 ID:/akrsd8o0
男「・・・あなたは、何故ここに住んでいるんですか?」
術師「?」
男「ここ、何も無いのに」
術師「・・・」
術師「そう見えるか」
男「ええ、そう見えます、あるのは木々と斜面だけです」
術師「・・・」
術師「私は仙界の祈祷師、この山の・・・そうだな、管理人とでも言うべきか」
男「管理人さん・・・なんですか?」
術師「ここを保有する権利を持っているわけではない」
術師「私はただここで、生命の大河を見つめ・・・その流れがあらぬ方向に逸れないよう、手を加えているだけ」
男「・・・へぇ・・・なんだか楽しそうですね、庭師みたいで」
術師「庭師か・・・なるためには少なくとも、この山を全てくまなく駆けまわれる程で無ければな」
男「・・・はは、僕には無理そうです」
術師「そうだ、やめておけ」
術師「人は、身の丈に合った事をすればいい」
男「・・・」
術師「よくも悪くもな」
- 147 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:19:33.16 ID:/akrsd8o0
男「・・・僕は」
術師「?」
男「この山に来る前まで・・・それまでは、普通に街で仕事を・・・していたんです」
術師「・・・」
男「誇れる仕事と人は言います・・・大きな商社に勤めてる身でしたから」
男「・・・けど僕、働いている僕自身には、そんな実感は全然沸いてこなくて」
男「・・・辛くなって・・・もう、自分が今、何をしているのか・・・誇りってなんだったのかも、忘れてしまって」
男「あはは、本当は誇りなんてなかったのかも、ただ言われてただけだし・・・」
男「・・・生きてる意味とか、10年くらい前・・・子供の時以来ですよ、考えたりするの」
術師「生きる意味」
男「・・・バカみたいですよね・・・本当にバカですよ・・・」
術師「・・・」
男「・・・拗ねただけなんですよね、ここに来たのって・・・」
男「・・・はは、こんな歳にもなって俺・・・何してんだろ」
- 148 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:22:04.50 ID:7ZFVjIW9O
パソコン使えないので携帯から
- 150 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:27:38.33 ID:7ZFVjIW9O
術師「・・・迷う事は誰にもある」
男「・・・」
術師「時に、道を違える事もある」
男「・・・」
術師「“逸れてしまった”」
術師「・・・そう思うのなら引き返すのもひとつ」
術師「“それでも進む”」
術師「・・・新たに道を探そうとすることも、必要な手段のひとつだ」
術師「・・・どちらかは自分で選べ」
男「・・・」
術師「進みたい方向へ行け、行くも退くも良い、どこへでも往ける」
術師「・・・リンゴを喰い、高みを目指すか」
術師「甘さに目を醒まし、引き返して己をやり直すか」
術師「好きにしろ」
男「・・・はい」
術師「山に、決まった道は無い・・・返すことも、道だ」
- 151 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:32:39.87 ID:7ZFVjIW9O
男「・・・」
術師「しばらくそこで、座って考えると良い」
術師「山に時間は無い」
術師「・・・答を出せたらば・・・立ち、歩くのだ」
スッ・・・
男「・・・あなたはどこへ?」
術師「・・・どこだろうな」
術師「お前が来るべき所に、私はいるだろう」
男「・・・どっちです?」
術師「勘違いするな、私のいる場所がお前のいるべき場所ではない」
術師「お前の行く先はお前が決める」
男「・・・俺が・・・」
術師「そうだ、自分が正しいと思った道へ、後悔しないと・・・信じた道へ」
術師「・・・私はそこで待っている」
男「・・・」
術師「では、さらばだ」
- 152 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:36:00.22 ID:7ZFVjIW9O
男「・・・」
男「(本音は・・・わからない)」
男「(どちらに進むことが、俺にとっての最善なのか・・・)」
男「(失ったものから逃げることか・・・失ったものを取り戻すことか)」
男「・・・わからない」
男「(失ったものは・・・俺の、ギルドでの仕事は・・・働きは・・・名誉や誇りらしきものは)」
男「(・・・俺に必要なものだったのか・・・?)」
男「(それを亡くした俺には・・・何が・・・)」
男「・・・」
- 153 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 20:42:39.90 ID:7ZFVjIW9O
ザッ
男「・・・歩こう」
男「進む、決めた、俺は進む」
男「頂上を目指しに行く」
男「そして・・・その後はよくわからないけど」
男「・・・座っていたら・・・動けないからな・・・」
ザッザッ・・・ザッザッ・・・
男「(頂上にあるものなんてたかが知れてる)」
男「(小さな草、岩、土・・・ただの広場のようなものだ)」
男「(そこに答なんて・・・生きる意味なんて・・・複雑な回答は、用意されてはいないだろう)」
男「(けど、見てみたい)」
男「(・・・見て・・・俺は)」
男「(・・・頂上で・・・何をするわけでも無いけれど)」
男「(何かを・・・探したい)」
- 154 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 20:47:26.37 ID:wsX4lHSA0
この作者久しぶりに見たな
支援支援
- 155 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 20:48:19.75 ID:7ZFVjIW9O
ザッザッ・・・・ザッザッ・・・
男「・・・く・・・まただ、頭が痛くなる・・・」
男「(木々の太い枝と、幹と、根が作る道・・・まるで迷宮のような道)」
男「(ここを登る方法は沢山ある・・・根を跨ぐか、枝を登るか・・・)」
男「(でも行き着く先は同じ・・・上、そして頂)」
男「(・・・悩んで、道を選んで・・・それでも同じ場所へ着く)」
男「・・・」
男「(同じ場所へ・・・今の俺とは、違うことか)」
男「(山を登って、麓に降りられる筈がない)」
ザッザッ・・・ザッザッ・・・
- 157 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 20:57:48.67 ID:7ZFVjIW9O
男「はぁ、はぁ、は・・・」
男「(随分登り方にも慣れてきた・・・とは思うけど、やっぱりまだ疲れるな・・・)」
男「(足場の悪さ、道の複雑さ、森の少しの歪みが・・・全身を疲労させる)」
男「(少し風が吹いただけでも、体が凍て付いてしまいそうになる)」
男「・・・ああ・・・辛いな・・・」
ザッザッ・・・・ザッザッ・・・
男「(・・・暗くなってきた・・・暮れれば、闇に包まれる・・・そうなれば、もう歩けない)」
男「(・・・)」
男「(・・・そろそろ・・・一夜を明かす準備をしておくべきかな・・・)」
- 158 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 21:03:41.76 ID:7ZFVjIW9O
ヒュォオオォォ・・・
男「・・・!(ブルッ」
男「(さ、寒い寒い・・・!死んじまう!)」
男「(木と寄り添って・・・風の当たらない場所にいるはずなのに・・・!)」
男「(・・・うう)」
男「(外は・・・暗いな・・・また夜か・・・)」
男「(・・・もう何日も、まともな食事を摂ってない・・・風呂も入ってない)」
男「(髭は伸び放題、服もボロボロ・・・)」
男「(・・・ははは、端から見たら・・・魔獣みたいな感じなのかな・・・俺)」
ヒュォオオォォ・・・
男「(・・・)」
男「(・・・寝よう・・・)」
男「(明日には・・・死んでませんように・・・)」
- 160 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/09/13(日) 21:17:02.34 ID:7ZFVjIW9O
シャンシャン、シャンッ
満月に照らされた森の中、やや空の開けた広場に、祈祷師はいた。
手に持った枝を振るい、音を立て、踊っている。
彼の舞いを見る者は一人としておらず、ただ周囲には立ち並ぶ木々と、時々立ち止まり通り過ぎる風だけが唯一の人であった。
術師「供物はここにあらず・・・供物はここにあらず・・・」
シャンシャン、シャン
木の仮面が月を見た。
傘もかからず美しい、白い月。
術師「・・・月よ、風よ」
術師「今夜は少し寒い・・・ほんの少しでいい、温めてやっては・・・くれないか」
彼が少し、枝を振るうと、
月は薄い雲にぼやけた。
- 161 :VIPがお送りします [] :2009/09/13(日) 21:22:54.55 ID:kIEl7H5DO
ゴクリ…
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