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アブソル「ほろびのうたを歌おうか」
- 269 :1 []
:2009/05/07(木) 22:57:52.73 ID:9TeNb9N40
危ない、寝てた。
ごめん、すぐ再開する
- 275 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:00:10.88 ID:MRpzAZMVO
眠かったら無理しなくていいよ
- 276 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:02:04.30 ID:tuQ5nREDO
おかえり!皆も言ってるが無理はすんなよ!
- 277 :1 [] :2009/05/07(木) 23:04:12.43 ID:9TeNb9N40
咄嗟に木の陰へ身を隠すと、人間達はずかずかと水辺の中心までやってきた。
「しかし、本当にアブソルが生息してるんですかね」
「いまだ一匹も見当たりませんけど」
きょろきょろと辺りを見渡す人間の後ろに、気配を感じた。
この気配は、同族だろう。
「!博士!アブソルが…!」
「しかも色違いですよ!」
「凄い!!」
人間の前に姿を見せた同族は、私と同じ姿をしてはいるが色が違う。
赤い毛並みの相手は、ざわざわと背筋を張り詰めて、人間を威嚇していた。
- 278 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:08:41.40 ID:QDvj5gMk0
>>1
朝まで書いてたもんなー
ずっと見てるぜ!
- 279 :1 [] :2009/05/07(木) 23:09:49.97 ID:9TeNb9N40
ありがとうございます。
頑張る。大丈夫。
白衣を着た一人が、赤いモンスターボールを取り出した。
赤い色の同族を、捕まえる気なんだろう。
「オーキド博士、今月の研究対象はアブソルで決まりですね」
「アブソルというだけで珍しいのに…まさかこんなに早く色違いに遭遇出来るとは…」
モンスターボールを見た赤いアブソルは、咄嗟に影へ隠れようとしていた。
「逃がすか!!」
赤いアブソルが影へ入り込むより前に、モンスターボールの光が相手の体を包みこむ。
「やった!捕まえたぞ!!」
私は、“野生のポケモン”を捕まえる姿をこの目の前ではじめて見たと思った。
同族に仲間意識などないが、捕らえられる姿を見るのも、あまり良い気がしない。
- 280 :1 [] :2009/05/07(木) 23:14:36.85 ID:9TeNb9N40
「博士、明日にでも調査員をもっと多く導入しましょう」
「あぁ、そうだな」
赤いアブソルが入ったモンスターボールを大切そうに抱えて、人間達は口ぐちに何かを言っている。
もっと色の違うポケモンがいるかもしれない。
実は、赤いアブソルはそこまで珍しくないのかもしれない。
「どちらにしても、アブソルについてはまだまだ謎が多いポケモンだ。捕らえるにしても慎重にな」
オーキドがそう言うと、白衣の人間達はそろって返事をした。
人間は、何かガラスの入れ物に水辺の水を一つ組み上げてしまった。
足元に咲く花々も毟っていった。
「アブソルの食糧かもしれない」
そう言って、静かな水辺を汚い手で触り始めた。
- 281 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:19:25.62 ID:C8GsUdz5O
何だかオーキドのイメージが
とてつもなく悪くなった
- 282 :1 [] :2009/05/07(木) 23:21:07.88 ID:9TeNb9N40
来る日も来る日も、水辺にはサトシではなく、オーキド達がやってきた。
水に汚い温度計を突っ込み、花を毟りとり、現れた同族…に限らず、どんなポケモンでも残らず捕えていく。
この日も、オーキド達は水辺へやってきた。
また同じ事を、今日もするのだろう。
「ん?」
花を毟っていた一人の人間が、何かに気付いたように腰を折り曲げた。
「博士、ポロックの食べ残しです」
人間の指先に、紫色の菓子のかけらが握られている。
「アブソルの餌ですかね?」
「どこかのトレーナーがここで手持ちのポケモンに餌をあげてたんじゃないか?」
「野生のアブソルが食べていたとしたら、どこで手に入れたんだろう」
「アブソルは人間の街を荒らす習性があるからな、どこからか持ち出してきたのかもしれない」
一応持って帰ろうと言ったオーキドの指示で、その菓子のかけらはビニールの袋へと入れられた。
- 283 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:24:45.76 ID:2DfIXFP/O
博士は笑顔で僕に諭す。
オーキド「科学の進歩のためには尊い犠牲も必要なんだ。」
僕のアブソルは笑いながら実験室へと運ばれて行った。
僕は止める事が出来なかった。
- 284 :1 [] :2009/05/07(木) 23:26:09.34 ID:9TeNb9N40
確かに私は、人間の街“だった所”から、食糧を調達して生活していた。
だけど、その菓子は違う。サトシがくれた物だ。
足跡のない水辺は、人間達の汚い足跡でいっぱいになった。
その夜、月に浮かぶ水辺を見ながら、一つ決意をかためた。
オーキドの街を、潰してしまおう。
もうこれ以上、この水辺を荒らされる訳にはいかない。
翌日、やはり“調査”にきたオーキド達が引き返す後をそろそろと付けていった。
水辺からさほど遠くない街の建物に、オーキド達は入っていく。
「マサラタウン…」
小さなその街にかけられた看板。
家が数件しかないその街の真ん中に、やたら大きな建物がある。
きっとここで、オーキド達は研究をしているんだろうと思った。
- 286 :1 [] :2009/05/07(木) 23:31:11.07 ID:9TeNb9N40
消していた気配を戻して、全身で殺気を立てながらマサラタウンへ降りた。
小さな街で、ほとんど人がいない。
早く誰かに見つけて欲しい、と思った時、一人の人間が現れた。
「…あ、」
恰幅の良い人間は、私を見て瞬時にかたまる。
手に何やら菓子を持っていたが、それを地面へと落としていた。
「か、かがくのちからってすげぇ…!」
ぶるぶる震えだした人間は、慌てて走り出して逃げ出す。
やはり、人間は愚かで、簡単な生き物だ。
やがて、大声で叫びながら逃げる人間を呼びとめる少年がいた。
「どうしたんだよ?」
「か、かがく…かが…」
「んだよ、このピザ。話も出来ないのか?」
少年に見おぼえがあった。
シゲルだ。
- 287 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:32:16.45 ID:WmlTaBkQ0
かがくの ちからって すげー
- 288 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:32:28.32 ID:J5owHTaVO
かがくのちからってすげえ
- 289 :1 [] :2009/05/07(木) 23:34:41.76 ID:9TeNb9N40
シゲルは、恰幅の良い人間がぶるぶると指さした私へ視線を流した。
「アブソルじゃん…」
私の事など覚えていないだろう。
覚えていたとしても、あの時の私と、今シゲルの目に映る“アブソル”が同一だとは気付いていないようだ。
「大変だ!母さんに知らせなきゃ…!」
やがてシゲルも、ばたばたと走り出してどこかの家へ駆け込んだ。
もうこれで、このマサラタウンも終わりだろう。
一仕事終えた私は、数日しない内に人気がなくなろうであろう街へ背を向けて、水辺へ戻ろうとした。
- 291 :1 [] :2009/05/07(木) 23:38:43.93 ID:9TeNb9N40
背中を向けた私の耳に、聞きなれた声が聞こえてくる。
「アブソルが出たって本当!?」
シゲルが入っていった家から、シゲルではない人間が出てきた。
サトシだ。
「どこに出たの!?シゲル、どこで見かけたの!?」
やがて同じ家から顔を出したシゲル。
サトシに向かって、私の背中を指さした。
「あそこだよ…!ほら、まだいるじゃん!」
背中を向けたまま、視線だけサトシを見た。
大分遠くにいて、サトシの表情は分からないけど、間違いなくサトシだ。
頭の上にピカチュウを乗せて、怯えた表情でこちらを見ていた。
- 292 :1 [] :2009/05/07(木) 23:42:33.25 ID:9TeNb9N40
サトシの街だったのか…
ぼんやりとそんな事を考えた。
悪い事をしたかもしれない。
そう、一瞬思ったが、それよりもサトシの視線が気になった。
私を見る目が、怯えている。
今まで一度だって、私を見てそんな視線を寄こしてこなかったのに。
…結局、サトシも一緒か。
生まれついた属性の、冷たい考えが頭を過る。
- 294 :1 [] :2009/05/07(木) 23:47:39.71 ID:9TeNb9N40
もうこれで、サトシともお別れだな。
サトシの本質を見抜いてしまったようで、そうどこかで気持ちが冷めていた。
自分の住んでいる街に、何か大きな災害が起きるかもしれない。
そう思えば誰だって怯える事は当たり前かもしれないけど。
水辺に戻ってから、久しぶりの静かなこの場所を堪能した。
正直、サトシと目が合った時、気付かれたと思った。
私に気付くと思った。
だけど、サトシは気付かなかった。
私の嫌いな人間と、同じ視線を投げてきた。
黒い毛並みに覆われた胸が、もやもやしてきた。
何故もやもやしているのか分からない。
サトシに気付かれなかったからか?それとも、サトシの街を潰してしまったからか?
- 295 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:50:06.50 ID:wlthOfjn0
潰すって程の事してなくね?
- 296 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:52:33.20 ID:J5owHTaVO
>>295
わざわいポケモンだからじゃね?
- 297 :1 [] :2009/05/07(木) 23:52:59.14 ID:9TeNb9N40
きっと、頭に過る事は全て正解だ。
人間の街を潰して生活する。
それは私達からすれば当たり前の事。
それなのに、私は少しだけ後悔していた。
サトシの街へ顔を出した事を、後悔していたのだ。
悲しい、という気持ちは持ち合わせていないと思っていたのに、悲しい、と思った。
人間の街へ降りて後悔した事なんかないのに。
水辺を荒らす人間も始末出来て、きっと食糧も手に入る。こんなに嬉しい事はないはずなのに。
「…結局、あれだけ嫌っていた人間に、慣れてしまったんだな」
目をつぶれば、サトシの顔しか浮かんでこない。
この時初めて、この場所で過ごしたサトシとの時間が楽しかったと気付いた。
- 298 :VIPがお送りします [] :2009/05/07(木) 23:57:32.57 ID:aV8R1ith0
そろそろ結か。災い転じて福となるって言葉もあるし大丈夫だろ
- 301 :1 [] :2009/05/08(金) 00:00:36.89 ID:MHIHQbPB0
その夜、どうしても気になってしまい、再びマサラタウンへ行ってみた。
草むらに身を隠しながら見れば、何やら外に人が集まっている。
その中に、オーキドの姿も、シゲルの姿も。そして、ピカチュウを連れたサトシの姿もあった。
人々の会話に耳を傾けていると、サトシの声が聞こえてきた。
「アブソルはただ、俺に会いに来てくれただけかもしれないから!」
「そうじゃないとどうして断言出来る!サトシ、お前の甘っちょろい考えで、みんなに何かあったらどうするんだよ!」
「わざわいポケモンなのよ、アブソルは!絶対に何か悪い事を運んできたに違いないわ」
「母さんまで…もしそうだとしても、アブソルが悪い事をした訳じゃないだろ!」
大声で叫ぶサトシの隣で、ピカチュウも頷いている。
「アブソルは、悪い事が起きるかもしれないから避難しないといけないって、教えてくれるポケモンだよ!」
「どうしてみんな、アブソルを嫌うんだよ」
人間思いの、良いポケモンじゃないか、と言ったサトシは、また悲しそうな表情になってしまった。
- 305 :1 [] :2009/05/08(金) 00:05:45.54 ID:MHIHQbPB0
「…俺、確かめてくる!」
「アブソルに会って、本当に災害警告なのか確かめてくるから!」
ピカチュウを抱えたサトシが、こちらに向かって走り出してきた。
私はこの時、サトシは私に気付いてくれていた事を知って、少しだけ嬉しくなった。
そんな場合ではない事もよく分かる。
サトシを取り囲んでいた人間達の表情を見れば、全員俯いて動かないから。
それでも私は嬉しいと感じた。
ざくざくと生い茂る木をかきわけて走ってきたサトシの前に、ふらりと姿を見せてみた。
「…アブソル…」
久しぶりに見るサトシに、当然ではあるが笑顔は浮かんでいない。
今にも泣きだしそうな、そんな表情でこちらを見ている。
- 308 :1 [] :2009/05/08(金) 00:11:26.68 ID:MHIHQbPB0
私に会うと、サトシは悲しそうな表情ばかりになると思った。
サトシのこの顔は、あまり好きではない。
「ねぇ、きみだろ?今日マサラタウンに降りてきたのは」
「……」
「何か悪い事が起きるの?それとも、俺に会いにきてくれたの?」
どちらも正解ではなかったので、じっと黙った。
何気なくピカチュウを見れば、私の爪で切り裂いた傷も完治している。
その姿にほっとした。
「答えてよ、アブソル」
縋るようなサトシの声に、どちらも違う、と。間をおいて答えた。
「どっちも違う?じゃあ何?」
「…オーキドが、邪魔だっただけだ」
「博士が?博士が何かしたの?」
「私の水辺を荒らした」
だから、降りてきたんだとサトシに伝えると、サトシはいっそう顔をくしゃくしゃにして、今にも泣きだしそうな表情を作った。
- 313 :1 [] :2009/05/08(金) 00:18:21.44 ID:MHIHQbPB0
「水辺を荒らされたくないんだったら、そう言ってくれたら良かったのに…」
「言った所でどうなるんだ」
「…何とかなったかもしれないじゃないか」
心のどこかで、サトシを見下していた。
つまり、街へ降りてきて迷惑だったんだろう?降りてくるな、とはっきり言えばいいのに。
言い淀むサトシを赤い視線で見つめていると、ピカチュウがサトシの頭によじ登って、黄色い腕でその髪の毛を撫でていた。
「二度と人間の前に姿を現わさなければいいんだろう?」
「ちがう、」
「本当に災害が起きない限り、人の前に姿を現すなと」
「ちがう!」
何が違うのかさっぱり分からなかったが、サトシは俯いたままだ。
- 315 :VIPがお送りします [] :2009/05/08(金) 00:23:25.05 ID:pJhS4f92O
やべぇなんかアブソルとサトシと>>1に吸い込まれてる
- 316 :1 [] :2009/05/08(金) 00:25:15.28 ID:MHIHQbPB0
「きみは、傷つかなかった?」
「……」
「自分の姿を見て、怯える人間を見て、傷つかなかった?」
「……」
「きみの能力は、凄く良い能力だよ。人を助ける力がある」
「……」
「だけど…こんな事したら、きみはどんどん人間から嫌われて、きみも傷つくだけじゃないか…」
きみは凄く良いポケモンなのに、悲しい。と言ったサトシの俯いた顔から、涙が流れていた。
なぜ泣いている?と問いかけたら、悔しいから泣いているんだ、とサトシは答えた。
「一瞬でも、きみを見て…マサラタウンに何かあると思った時、きみに対して酷い目を向けてしまった」
だから、そんな事言ったって、やっぱり俺もみんなと同じただの人間なんだと思って、恥ずかしくて悔しかったらしい。
サトシの言う事がよく分からない。
人間の感情は複雑らしいとよく聞くが、まさにその通りだろう。
- 319 :1 [] :2009/05/08(金) 00:33:34.54 ID:MHIHQbPB0
「一度手放したはずなのに、またあの時きみに偶然会えて…俺は嬉しかったんだ」
「これっきりにしよう、これっきりにしようって思いながら、いつもきみにポロックをあげに行ってしまった」
「ピカチュウに何度も止められたけど、でも会いに行ってしまった」
「やっぱり俺は、ポケモンマスターにはなれないんだよ」
ポケモンの気持ちも考えない、自分勝手な人間だとサトシは自らを罵っていた。
だから私から、「もう会いにこないでくれ」と伝えた。
「水辺さえ荒らさなければそれでいい。オーキドにも伝えてくれ」
サトシに嫌悪感を覚えた訳ではない。
ただ、私といると、いつもサトシは悲しそうだから。見ているのが嫌になった。
- 320 :1 [] :2009/05/08(金) 00:34:54.61 ID:MHIHQbPB0
その夜は、全く眠れなかった。
水辺に浮かぶ自分の顔を見て、少しだけ腹が減ったと思った。
そういえば、ここ最近何も食べていない。
元々そこまで食事を取らなくても平気な体らしいが、こうも食事をしないとさすがにマズイ。
マサラタウンで食糧を確保し損ねたので、また明日でも違う街へ降りなければ。
『きみは、傷つかなかった?』
サトシの言葉が耳から離れなくてうるさい。
傷つくわけがないだろう。だって、私達はみんな、そうして生きているのだから。
何度も何度もそう言い聞かせて、目を瞑った。
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