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医師「・・・また夢だ・・・」
- 1 :1 ◆1pwI6k86kA []
:2009/12/05(土) 19:58:02.65 ID:bgsIMEJl0
女「は?」
医師「あ、いや、おそらくなんだがね」
女「何がですか」
医師「ん・・・そこからか」
女「そこからも何も、なーんにも話してないでしょう」ゴソゴソ
医師「ああ、そうだったね」
パサッ
医師「む?」
女「それ、今日掛った義手希望の男の子の招待状ですから」
医師「ああ、サインね・・・どこ宛てだったかな・・・」
女「隣町の着床師さんへのですよ、最近ボケました?」
医師「・・・厳しいなぁ」サラサラ
- 2 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:02:35.48 ID:bgsIMEJl0
コトッ
女「コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」
医師「紅・・・コーヒーで」
女「はい、どうぞ」
医師「ああ、ありがとう」
医師「・・・んー、苦い」
女「は」
医師「・・・私好みの味だ」
女「そう思って濃くしました」
医師「ありがとう、君は本当に気が効いて助かるよ」
女「そう思います」
医師「ははは・・・」
ゴクゴク
女「・・・で、なんですか?さっきの」
医師「うん?ああ、夢の話か」
女「経緯から話していただけると助かりますね」サラサラ
医師「ああ、すまない」
医師「・・・まぁなんだね、つまらないとは思うが聞いてくれ、先週からの事なんだが・・・」
- 3 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:06:11.54 ID:bgsIMEJl0
女「あ、こっちの書類にもサインお願いします」
医師「・・・先週・・・」
女「先生、先に仕事を」
医師「・・・はい、わかりましたよ・・・」
サラサラ
医師「・・・書きながら話してもいいかな?」
女「お好きにどうぞ」
医師「・・・君が聞いたんじゃないか」
女「何か」
医師「・・・何でもないですよ」
医師「・・・先週からね、どうってことないといえばそうだが、寝るときに毎度だね」
医師「良い夢ばかりを見るんだ」
女「・・・つまんねー」ズズズ・・・
医師「そりゃないでしょう君、それにそのコーヒーはわたs」
女「今年一番つまらない話ですねそれ」
医師「・・・」
- 4 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:08:15.00 ID:bgsIMEJl0
医師「・・・」
女「拗ねないでくださいよ先生、ほら仕事ありますよ」
医師「・・・」
女「・・・先生、ごめんなさいって」
医師「・・・」
女「機嫌直してくださいよ、ごめんなさい」
医師「・・・」
女「・・・」
ササササ・・・・
コポポポポ・・・
女「甘ーい紅茶淹れますから、話聞きますから」
医師「・・・本当に?」
女「ええ」
医師「・・・うむ、じゃあ続きを話すとだね・・・」
- 6 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:11:21.16 ID:bgsIMEJl0
ズズズ・・・
女「・・・ふーん、過去の良い思い出ばかりが夢に、ねぇ・・・」
医師「ああ、そうだ、全てが全て、実際にあったことなんだよ」
女「素晴らしい夢じゃないですか、まるで走馬灯みたいで」
医師「ははは、この歳じゃ洒落にならないよ」ズズズ・・・
女「・・・それで?続きがあるんでしょう?」
医師「お、鋭いねえ」
女「先生の話は毎回奥の部屋がありますので」
医師「その観察眼は高評価だよ・・・うむ、実はだね、この夢は・・・」
医師「病かもしれないんだ」
- 7 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:14:42.39 ID:bgsIMEJl0
女「は?病?」
医師「うむ・・・ってこれ、ちょっと甘すぎではないかな・・・」
女「そんな病聞いたことないですね・・・少なくとも私らの専門外でしょう」
医師「・・・そうなるね」
医師「いや、言い方が悪かったかもね・・・厳密には病ではないんだ」
女「わけがわかりません」
医師「うむ、ちょっと変な言い方をしてしまったね、すまない」
医師「病ではなく、“攻撃”に近いかもしれない」
女「・・・菌から体への攻撃・・・ってニュアンス?」
医師「とも、少し違うんだなあ」
女「・・・?」
医師「君は、“メア”という生き物を知っているかな」
- 9 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:19:28.77 ID:bgsIMEJl0
女「メア・・・いいえ」
医師「だろうね、珍しい生き物だからなぁ・・・その道の人しか知らないだろう」
女「なんなんですか、そのメアって」
医師「うむ、・・・そうだな・・・」
ガラッ
ガサガサ・・・
女「何かお探しで?」
医師「うーむ、確かここらへんに一冊くらいあったと・・・お、見つけた見つけた」
医師「・・・げほっ、ごほっ」
女「!?」
医師「・・・ああ、これはただのホコリ」
女「・・・このタイミングでそういうのはいかがなものかと」
医師「ははは」
パラパラ・・・
女「・・・?これ、魔族手帳ですよね」
医師「そうそう、医者なら一冊持っておくべきだよ、それぞれが持ってる毒も載ってるからね」
女「へー」ズズズ・・・
医師「ただ最近の版だと字が小さくてだねぇ・・・お、あったあった」
パラッ
- 10 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:25:38.17 ID:bgsIMEJl0
“AA 夢想寄生メア ――夜魔”
女「・・・魔族?」
医師「そ」
女「・・・絵柄が載ってないですね、魔族手帳なのに」
医師「実体が無い魔族と言われているからね」
女「・・・どう討伐するんですか、そんなもの」
医師「ははは、討伐できないから絵柄も載ってないし、こんなに懸賞金をかけられているのさ」
医師「・・・私も友人からしか聞いていないんだけどね、この魔族は憑依性の魔族らしいんだ」
女「憑依」
医師「そう、人や生き物に取り憑いて寄生する、寄生生物に近いものだね」
医師「カソウ、ウィッチ・・・菌だけに限らず、草や動物などにもそういった寄生生物は存在する」
医師「多くは血を啜ったり、養分を吸い取ったり・・・物質的なエネルギーを吸収するものが多い」
女「キノコとかもそうなんですかね」
医師「かもね、・・・だけどね、このメアって奴はなんとだね」
医師「生き物の夢に寄生するんだ」
- 12 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:30:39.13 ID:bgsIMEJl0
女「・・・夢に」
医師「そうそう」
カチャ
医師「ごちそうさま、美味しかったよ」
女「あ、はい・・・おかわりは?」
医師「うーん、結構」
医師「・・・夢を見る生き物っていうのはね、とても少ない」
女「んー・・・でしょうね、ダニやムカデが夢を見るとは思えないです」
医師「・・・もうちょっと何か良い喩えはなかったのかな」
女「とっさに思いついたのがそれらだったので」ズズズ・・・
医師「・・・まあいいんだけどさ」
医師「・・・夢を見るのは賢い証・・・このメアってやつは、知能が高い生き物に寄生する」
医師「つまりは高度な魔族だったり・・・人間だったり」
女「ふーん・・・で、取り憑かれるとどうなるんですか」
医師「そう、そこが問題なんだ」
医師「なんと取り憑かれて数日、数十日は、対象は良い夢を見続ける」
女「・・・」
医師「ここまでだったらものすごくありがたい生き物なんだけどね」
女「ですよね、ここまでだったら私先生を殴ってます」
医師「ははは」
- 13 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:34:41.78 ID:bgsIMEJl0
医師「メアが憑依対象に見せる初期の夢はどれも昔の、それも良い思い出の夢なんだ」
医師「昔、同じように憑依された人もいくらかポツポツといてね、その資料が残っている」
医師「・・・自分が初等学校に入学した思い出、母や父に褒められた思い出、美味しい食べ物を食べた思い出・・・」
女「・・・」
医師「憑かれた人はそれらを夢で見ていくらしい、私なんかもそうだ、当てはまっている」
女「・・・それで」
医師「うん、この夢を見られている頃はなかなか懐かしい気分に浸れたりして良いんだけどね、後期になると困るんだ」
医師「なんと、嫌ぁーな思い出ばかりが毎晩、夢に出てくる」
- 14 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:39:53.92 ID:bgsIMEJl0
女「うわぁー」
医師「良い夢のあとはずっとこの症状が毎晩続く」
女「最悪ー・・・」
医師「ははは」
医師「そうだね、資料にあるのは・・・トラウマな出来事、恥ずかしかった出来事、自分の失敗、怪我、悲しみ・・・」
医師「マイナスな思い出を毎晩毎晩、寝るたびに見なければいけない」
女「・・・あー・・・それ私・・・耐えられないかも」
医師「ははは、だろうね、とても耐えられることではない」
医師「人は誰しも、生きていればかならずいくつもの汚点を、その人生に垂らしていく」
医師「それは避けられないことだ、誰にでも失敗はある・・・そんな言葉があるように、誰でも嫌なことは星の数ほどある」
医師「たとえ誰かが“私は幸せです”と言ってもだね、変な言い方だけどそれは、自分の嫌な過去をある程度忘れているからなんだ」
女「・・・」
医師「嫌な事を振り切って生きているから、過去と決別しながら生きているから、人は幸せだと感じる事ができる」
医師「だがこの生き物は、人の人生からそんなポジティブさを奪ってしまう」
女「・・・」
医師「人のね、一番素晴らしい部分を削り取ってしまうんだ」
- 15 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:46:53.67 ID:bgsIMEJl0
女「・・・一生?」
医師「そう、一生」
女「・・・これを退治したりは」
医師「方法はまだ見つかっていないねえ」
女「・・・先生、それってかなりマズイことなのでは」
医師「ははは、そうだね」
医師「・・・確か、最近探した資料に・・・」ガサガサ
医師「・・・・あった、これだ」
ピラッ
女「これは・・・」
医師「良い夢を見るようになったからね、調べてみた統計の結果なんだが・・・」
女「・・・患者A、3日」
女「患者B、3日」
女「患者C、4日・・・なんですかこれ、1日とかもありますけど」
医師「それはね、メアに取り憑かれたと思われる患者さんが、悪夢を見始めてから」
医師「“自殺するまでの日数”・・・の、統計だよ」
女「・・・」
医師「人には自己嫌悪ってもんがある」
医師「毎晩毎晩見せられる嫌な思い出は、その嫌悪感を呼び起こす・・・自分を嫌いにさせるんだ」
女「・・・この1日・・・っていう患者さんは・・・」
医師「もう一発だね、一撃っていうところかな」
女「・・・」
医師「メアに取り憑かれた患者さんは例外なく自殺による最後を遂げている・・・最長は十日だったかな?」
- 17 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:53:53.05 ID:bgsIMEJl0
女「・・・そんな、先生死んじゃうんですか?」
医師「ははは、もう人生かれこれ六十年・・・汚点なんて数えきれないくらいあるよ」
医師「いやぁ、そりゃもう、古傷をフォークで・・・なんてもんじゃないだろうなぁ」
女「・・・」
医師「・・・ははは」
医師「君がそんな悪夢にうなされた後のような表情をしてどうするんだ」
医師「まだ私がメアに取り憑かれていると決まったわけじゃない」
女「・・・でも、話を聞く限りでは・・・」
医師「そうだねぇ、可能性は高いだろうなぁ・・・」
医師「一応今日この後にでも、隣町の着床師さんに掛ろうと思っているよ」
女「・・・私も一緒に行きます」
医師「君は良いよ、明日も仕事があるんだ、ゆっくり休みなさい」
女「・・・行きますから」
医師「・・・むぅ、はは、同伴してくれるならそれはそれで・・・嬉しいけどね」
医師「・・・大丈夫、安心なさい、君の次の就職先は探しておくからね」
女「・・・」
医師「さささ、今日はもう上がろうか、書類の整理は片付いた・・・おっと、紹介状持ってかないとな・・・」
女「(・・・先生・・・)」
- 18 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 20:58:20.43 ID:bgsIMEJl0
ヒュゥゥウウウ・・・
医師「ぉおおお、寒い・・・」
女「・・・冬、真っ盛りですからね」
医師「もう一か月ほどで新年だねぇ・・・早いもんだ、今年の一月が昨日のようだよ」
女「年寄りみたいなセリフですね」
医師「ははは、年寄りだからね、仕方ないね」
「いらっしゃーい、焼きたてのスパイスピザだよー!」
女「・・・」
医師「おや、ピザの露店かぁ、良いね、久々に買っていこうかな」
女「私はフルーツとベジタブルを一切れずつ」
医師「・・・」
女「ありがとうございます」
医師「・・・まぁいいけどね・・・すみませーん」
「あいよぉ!」
- 19 :VIPがお送りします [] :2009/12/05(土) 21:00:07.49 ID:LumTjbE8O
やはりお前か
とりあえず支援
- 20 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 21:03:43.77 ID:bgsIMEJl0
女「はふはふ・・・ほふっ」
医師「チーズ、口元についてるよー」
女「・・・(はむっ」
医師「ははは」
医師「(モグモグ)・・・うぅーん、いいねぇ、しばらくこんなもの食べてなかったよ」
女「・・・私も、最近はダイエット気味だったので」
医師「あ、それじゃあ悪い事をしてしまったかな」
女「いいえ、先生との思い出のひとつとして残しておきたいので」
医師「・・・それ、嬉しいんだけどちょっとまだ言うには早いんじゃないかな」
女「・・・(モグモグ」
医師「・・・さて、馬車を探さないとね・・・歩きは辛い・・・」
女「歩きで良いでしょう」
医師「・・・労ってほしいなぁ、私のことも」
女「知りません、さあ、健康のためですよ」タッタッタッタ・・・
医師「お、おいおい・・・そんな早いとピザをこぼしてしまう」タッタッタッ・・・
- 22 :1 ◆1pwI6k86kA [] :2009/12/05(土) 21:08:38.70 ID:bgsIMEJl0
ヒュゥゥウ・・・・
モグモグ・・・
医師「・・・うーん、ピザが冷えそうだ」
女「ちびちび食べてるからですよ」
医師「仕方ないだろう、生地が固くて・・・(モグモグ」
女「歯が悪いんで?」
医師「ふむ・・・(モグモグ」
ゴクン
医師「いくら健康に気を使っていてもね、歯や咀嚼力ばかりはどうしようもない」
女「・・・そうなんですか・・・嫌だな」
医師「君はまだ若い、今からでも気を使うのは遅くないぞ?」
女「・・・」
医師「まあ、私は気を遣っていても一週間ほどでそんな習慣を忘れてしまったけどね、ははは」
女「案外先生って意志、弱いんですね」
医師「ははは、だね、まるで君のダイエット・・・」
ゲシッ
医師「いたっ」
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